<全体構成>
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、本実施の形態に係る作業車輌としてのトラクタ1は、左右1対のフルクローラ式の走行装置2と、走行装置2により支持される機体フレーム4を有する走行機体3と、を備えている。
走行機体3は、キャビン5で覆われてオペレータが搭乗する運転部7と、運転部7の前方に配置されてエンジン14を収納するエンジンルーム6、運転部7の後方に配置されて、油圧で昇降する3点リンク機構8aを有して任意の作業機が連結される昇降リンク機構8を備えている。
エンジン14の動力は、ミッションケースに収納されている図示しないトランスミッションで、左右の走行装置2を駆動する走行動力と、図示しない作業機を駆動する作業動力と、に分けられて、作業動力により、図示しないPTO軸が回転する。走行動力は、左右1対の静油圧式無段変速装置(以下、HST)18へそれぞれ伝達される。左右のHST18は、それぞれ、エンジン14からの動力により作動油を吐出するHSTポンプ18aと、HSTポンプ18aから供給された作動油、即ち供給油により駆動するHSTモータ18bと、を有する。
HST18は、HSTポンプ18aが有する図示しない斜板の角度が変更されることにより、斜板の角度に応じた供給油がHSTモータ18bに供給されて、エンジン14からの走行動力を無段階に変速するように構成されている。また、HSTポンプ18aからHSTモータ18bへの供給油の油路上には、油圧を開放可能な図4に示すHSTバイパス装置30が設けられている。HSTバイパス装置30は、油圧を伝達可能な接続状態と油圧を開放して油圧を伝達しない遮断状態とに切換え可能な断接手段としてのバイパスバルブ30a、及びバイパスバルブ30aの遮断状態と断接手段とを切換えるバイパスソレノイド30bを有する。左右のHST18で変速された走行動力は、それぞれ左右の走行装置2に伝達される。左右の走行装置2は、それぞれ、機体フレーム4の前部に軸支されて走行動力により駆動する駆動輪2aと、機体フレーム4の後部に回転自在に軸支されている従動輪2bと、機体フレーム4の下部に回転自在に軸支されて、走行機体3を支持する複数の転輪2cと、にゴム製で無端帯状のクローラ2dを巻き掛けて構成されている。
左右の走行装置2には、HSTポンプ18aからの油圧により作動して、駆動輪2aの駆動を制動する走行ブレーキ装置としての図4に示す駐車ブレーキ装置29が、それぞれ設けられている。駐車ブレーキ装置29は、HSTポンプ18aから駐車ブレーキ装置29への作動油の油路上に配置されて油圧を伝達可能な接続状態と油圧を開放して油圧を伝達しない遮断状態とに切換え可能な駐車ブレーキバルブ29a、及び駐車ブレーキバルブ29aの遮断状態と断接手段とを切換える駐車ブレーキソレノイド29bを有する。駐車ブレーキ装置29は、駐車ブレーキバルブ29aが接続状態である場合、駆動輪2aを制動しない非制動状態となり、駐車ブレーキバルブ29aが遮断状態である場合、駆動輪2aを制動する制動状態となる。
<運転部の詳細>
次に、図2及び図3を参照して、運転部7の詳細について説明をする。運転部7は、オペレータが着席する運転座席9、運転座席9の前方に配置されているステアリングハンドル10、ステアリングハンドル10の前方に配置されているメインモニタ11、ステアリングハンドル10の右方に配置されているキースイッチ12、駐車ブレーキ装置29を制動操作するブレーキ操作部としての緊急ブレーキペダル15、運転座席9の右方に配置されているサイドパネル13等を有している。
ステアリングハンドル10は、ステアリングハンドル10が直進位置に位置している場合には、左右の駆動輪2aが同速(停止を含む)で駆動されるように、ステアリングハンドル10が左右いずれかの旋回位置に位置している場合には、旋回内側の駆動輪2aが旋回外側の駆動輪2aに比べて低速(停止、逆転を含む)で駆動されるように、左右の駆動輪2aの回転速度を調節する。
メインモニタ11は、図示しないタコメータや燃料計、駐車ブレーキランプ11a等を備えて、運転部7内のオペレータに対して、トラクタ1の各種の情報を表示する。駐車ブレーキランプ11aは、駐車ブレーキ装置29が制動状態である場合に点灯する点灯状態と、駐車ブレーキ装置29が非制動状態である場合に消灯する消灯状態と、に遷移して、オペレータに駐車ブレーキ装置29の状態を報知している。
緊急ブレーキペダル15は、オペレータがHSTを徐々に減速操作してトラクタ1の走行を停止する場合と異なり、非常時等においてトラクタ1の走行を短時間で停止する場合に使用される。緊急ブレーキペダル15は、オペレータの踏込み操作により駐車ブレーキバルブ29aを接続状態から遮断状態に切換えることで、駐車ブレーキ装置29が非制動状態から制動状態となるように制動操作される。
サイドパネル13は、エンジン14を変速操作するエンジンコントロールレバー21と、HST18を変速操作する変速レバーとしての主変速レバー20と、タッチパネル式の液晶表示器19aを有する報知手段としてのサブモニタユニット19と、を有する。
エンジンコントロールレバー21は、オペレータの操作により前後方向に移動し、エンジン14を、作業や走行を行わない場合の回転速度であるアイドル回転速度、即ちローアイドル回転速度から、作業や走行を行う場合の回転速度であるハイアイドル回転速度の間で、変速操作可能に構成されている。
主変速レバー20は、オペレータの操作により前後方向に移動する。主変速レバー20は、中立位置に位置している状態ではHSTポンプ18aからHSTモータ18bへ作動油が吐出されずHSTモータ18bが停止して、中立位置ではない他の位置に位置している状態ではHSTポンプ18aからHSTモータ18bへ作動油が吐出されてHSTモータ18bが駆動するように、オペレータの操作に連動してHSTポンプ18aの斜板の角度が変更され、中立位置からの移動量に応じてHSTモータ18bを変速操作可能に構成されている。主変速レバー20は、具体的には、前後方向にスライド移動可能に構成されており、ステアリングハンドル10が直進位置に位置している場合には、中立位置から後方への移動量が大きいほどトラクタ1が後進する速度が大きくなるようにHSTモータ18bを駆動させ、中立位置から前方への移動量が大きいほどトラクタ1が前進する速度が大きくなるようにHSTモータ18bを駆動させる。
サブモニタユニット19は、サブモニタユニット19上に、液晶表示器19aの操作やトラクタ1の各種設定等を行うための操作ボタン19bを有している。なお、サブモニタユニット19は、本実施形態における画像表示装置を構成する。
<制御構成>
次に、図4を参照して、トラクタ1の制御構成について説明をする。本実施形態のトラクタ1は、マイクロコンピュータからなる制御部25を有している。制御部25は、緊急ブレーキスイッチ15a、エンジンコントロールセンサ33、回転速度検知手段としてのエンジン回転数センサ27、主変速位置センサ26、車速センサ32及びサブモニタユニット19からの入力信号を受けて、トラクタ1の各部を制御するための演算を行い、演算結果に基づいて駐車ブレーキランプ11a、駐車ブレーキソレノイド29b、バイパスソレノイド30b、エンジンECU(Electronic Control Unit)31、メインモニタ11及びサブモニタユニット19を制御する。
緊急ブレーキスイッチ15aは、緊急ブレーキペダル15がオペレータにより踏込み操作されている状態でON状態になり、緊急ブレーキ信号を制御部25に送信する。制御部25は、緊急ブレーキスイッチ15aから緊急ブレーキ信号を受信したことに基づいて、駐車ブレーキソレノイド29bをON状態にする制動信号を駐車ブレーキソレノイド29bに対して送信する制動処理を実行する。制御部25は、駐車ブレーキソレノイド29bがON状態である場合に、駐車ブレーキランプ11aを点灯させる駐車ブレーキランプ信号を駐車ブレーキランプ11aに出力する。制御部25は、駐車ブレーキソレノイド29bがON状態からOFF状態に切換わると、駐車ブレーキランプ信号の出力を停止し、駐車ブレーキランプ11aが消灯する。駐車ブレーキバルブ29aは、駐車ブレーキソレノイド29bがON状態になることにより、遮断状態に切換わる。
エンジンコントロールセンサ33は、エンジンコントロールレバー21の前後方向の位置を検知し、検知したエンジンコントロールレバー21の位置に応じたエンジンコントロール位置信号を制御部25に送信する。制御部25は、エンジンコントロールセンサ33から受信したエンジンコントロール位置信号に基づいて、エンジンECU31に対してエンジン14の回転速度を制御させるエンジン制御信号を送信する。エンジンECU31は、制御部25から受信したエンジン制御信号に応じて、エンジン14に供給される燃料を調節し、エンジン14の回転速度を制御する。エンジン回転数センサ27は、エンジン14の回転速度を検知し、検知したエンジン14の回転速度に応じたエンジン回転速度信号を制御部25に送信する。制御部25は、エンジン回転数センサ27から受信したエンジン回転速度信号に応じて、メインモニタ11のタコメータを制御する。
主変速位置センサ26は、主変速レバー20の前後方向の位置を検知し、検知した主変速レバー20の位置に応じた主変速位置信号を制御部25に送信する。車速センサ32は、左右の駆動輪2aにそれぞれ設けられており、左右の駆動輪2aのそれぞれの回転速度を独立して検知し、検知した左右の駆動輪2aの回転速度に応じた車速信号を個別に制御部25に送信する。
サブモニタユニット19は、制御部25と双方向通信が可能に構成されており、液晶表示器19a及び操作ボタン19bからの入力信号を制御部25に送信する。制御部25は、各種演算結果に応じて、液晶表示器19aに画像を表示させる描画信号をサブモニタユニット19に送信する。例えば、制御部25は、駐車ブレーキ装置29の状態に応じた描画信号をサブモニタユニット19に送信する。サブモニタユニット19は、制御部25からの駐車ブレーキ装置29の状態に応じた描画信号に基づいて、液晶表示器19aの表示領域の一部に駐車ブレーキ装置29の制動状態を表す画像である、解除操作部としての駐車ブレーキアイコン19c、又は駐車ブレーキ装置29の非制動状態を表す画像である駐車ブレーキ解除アイコン19dのいずれかを表示させる。すなわち、サブモニタユニット19は、駐車ブレーキ装置29の制動状態においては、駐車ブレーキアイコン19cを液晶表示器19aに表示させる第1状態としての駐車ブレーキ解除操作受付状態となり、駐車ブレーキ装置29の非制動状態においては、駐車ブレーキ解除アイコン19dを液晶表示器19aに表示させる第2状態としての駐車ブレーキ制動操作受付状態となる。
例えば、駐車ブレーキ制動操作受付状態は、駐車ブレーキ解除アイコン19dとして青地に白い文字で「駐車ブレーキ解除中(タッチで駐車ブレーキ作動)」という文字列からなる画像を表示する状態であり、駐車ブレーキ解除操作受付状態は、駐車ブレーキアイコン19cとして赤地に黄色い文字で「駐車ブレーキ作動中(タッチで駐車ブレーキ解除)」という文字列からなる画像を表示する状態である。このように、サブモニタユニット19は、駐車ブレーキ装置29の状態に応じて、駐車ブレーキ制動操作受付状態と、駐車ブレーキ解除操作受付状態と、に遷移して、報知内容としての駐車ブレーキ装置29の状態を画像で表示することによりオペレータに報知するように構成されている。
サブモニタユニット19は、駐車ブレーキ装置29が非制動状態である場合において、オペレータにより駐車ブレーキ解除アイコン19dを押圧されると、制御部25に対して駐車ブレーキ信号を送信する。制御部25は、サブモニタユニット19からの駐車ブレーキ信号に基づいて、駐車ブレーキソレノイド29bをON状態にする制動信号を駐車ブレーキソレノイド29bに対して送信する制動処理を実行する。また、サブモニタユニット19は、駐車ブレーキ装置29が制動状態である場合において、オペレータにより駐車ブレーキアイコン19cを押圧されると、制御部25に対して駐車ブレーキ解除信号を送信する。制御部25は、サブモニタユニット19からの駐車ブレーキ解除信号に基づいて、駐車ブレーキソレノイド29bをOFF状態にする制動解除信号を駐車ブレーキソレノイド29bに対して送信する制動解除処理を実行する。このように、駐車ブレーキアイコン19cは、駐車ブレーキ装置29を、非制動状態から制動状態に切換える制動操作、及び制動状態から非制動状態に切換える解除操作を可能としている。
また、制御部25は、各種演算結果に応じて、バイパスソレノイド30bをON状態にするバイパスソレノイドON信号及びバイパスソレノイド30bをOFF状態にするバイパスソレノイドOFF信号を送信する。バイパスバルブ30aは、バイパスソレノイド30bがON状態になると遮断状態になり、バイパスソレノイド30bがOFF状態になると接続状態になる。
<緊急停止処理>
次に、図5を参照して、制御部25が実行する緊急停止処理について説明をする。キースイッチがON状態になることにより、緊急停止処理が開始されると(ステップS1)、制御部25は、緊急停止フラグがON状態であるか否かを判定する(ステップS2)。緊急停止フラグは、制御部25の図示しないRAM等の記憶手段に記憶されているフラグであり、オペレータの緊急ブレーキペダル15の踏込み操作による緊急停止が行われた場合にON状態となるフラグであり、キースイッチがOFF状態からON状態に切換えられた直後の状態ではOFF状態となっている。
ステップS2の処理において、制御部25は記憶手段の緊急停止フラグの状態を参照し、緊急停止フラグがOFF状態である場合(ステップS2のNO)、制御部25は、緊急ブレーキスイッチ15aがON状態であるか否かを判定する(ステップS3)。この処理において、制御部25は、オペレータによる緊急ブレーキペダルの操作が行われている状態であるか否かを判定している。
ステップS3の処理において、緊急ブレーキスイッチ15aがON状態である場合(ステップS3のYES)、制御部25は、エンジン14の回転速度を所定値以下の回転速度に抑制するローアイドル信号をエンジンECU31に対して送信する、アイドル処理を開始する(ステップS4)。エンジンECU31は、制御部25からのローアイドル信号を受信すると、エンジンコントロール位置信号によらず、エンジン14の回転速度が所定値以下の回転速度であるローアイドル回転速度になるように、エンジン14に供給される燃料の量を規制する。なお、ローアイドル回転速度は、本実施形態におけるアイドル回転速度を構成する。この処理において、制御部25は、緊急ブレーキペダル15の踏込み操作により、エンジン14の回転速度が高い状態でトラクタ1の急停車を行う場合であっても、緊急ブレーキペダル15の踏込み操作に基づいてエンジン14の回転速度を抑制し、再発進を行う際の急発進や、急発進に伴う動力伝達経路上の各部、即ち、エンジン14、トランスミッション、HST18、走行装置2や、これらを接続する図示しない駆動シャフトや油圧ホース等に掛かる負担の軽減を図っている。なお、ステップS3の処理において、緊急ブレーキスイッチがOFF状態である場合(ステップS3のNO)、制御部25は、処理をステップS1に戻す。
また、制御部25は、ステップS4の処理において、バイパスソレノイド30bに対してバイパスソレノイドON信号を送信し、バイパスバルブ30aを切断状態から遮断状態に切換えて、HSTポンプ18aの斜板の角度によらずHSTポンプ18aの油圧が左右のHSTモータ18bに伝達されないようにする。この処理において、制御部25は、緊急ブレーキペダル15の踏込み操作によりトラクタ1の急停車を行う際に、オペレータが主変速レバー20を中立位置に移動しなくても、エンジン14の動力がHSTモータ18bに伝達されないようにして、HST18に掛かる負担の軽減を図っている。
また、制御部25は、ステップS4の処理において、駐車ブレーキソレノイド29bに対して駐車ブレーキ信号を断続的に送信し、駐車ブレーキバルブ29aの接続状態と遮断状態を短時間で交互に繰返して、駐車ブレーキ装置29の非制動状態と制動状態とを短時間で交互に繰返す断続作動、所謂インチングを開始する。この処理において、制御部25は、緊急ブレーキペダル15の踏込み操作によりトラクタ1の急停車を行う際に、即座に駐車ブレーキ装置29を連続的な制動状態とする場合と比較して、走行装置2の急な制動に伴う駐車ブレーキ装置29や動力伝達経路上の各部に掛かる負担の軽減を図っている。
ステップS4の処理を実行すると、制御部25は、エンジン回転数センサ27からのエンジン回転速度信号に基づいて、エンジン14の回転速度がローアイドル回転速度に達したか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5の処理において、エンジン14の回転速度がローアイドル回転速度に達していない場合(ステップS5のNO)、制御部25は、ステップS5の処理を繰返す。
ステップS5の処理において、エンジン14の回転速度がローアイドル回転速度に達した場合(ステップS5のYES)、即ち制御部25がエンジン14の回転速度がローアイドル回転速度に達したことを検知した場合、制御部25は、駐車ブレーキソレノイド29bに対して駐車ブレーキ信号を連続的に送信し、駐車ブレーキバルブ29aを遮断状態にして、駐車ブレーキ装置29を連続的な制動状態にする(ステップS6)。この処理において、制御部25は、緊急ブレーキペダル15の踏込み操作により、エンジン14の回転速度が高い状態でトラクタ1の急停車を行う場合であっても、再発進を行う際の急発進や、急発進に伴う動力伝達経路上の各部に掛かる負担の、より確実な軽減を図っている。
ステップS6の処理を実行すると、制御部25は、左右の車速センサ32からのそれぞれの車速信号に基づいてトラクタ1の走行速度を算出し、算出した走行速度が0より大きいか否かを判定する(ステップS7)。この処理において、制御部25は、トラクタ1が走行中及び停止中のいずれであるかを判定している。ステップS7の処理において、トラクタ1の走行速度が0より大きい場合(ステップS7のNO)、制御部25は、ステップS7の処理を繰返す。
ステップS7の処理において、トラクタ1の走行速度が0に達した場合(ステップS7のYES)、即ち制御部25がトラクタ1の停止を検知した場合、制御部25は、緊急停止フラグをON状態にする(ステップS8)。この処理において、制御部25は、記憶手段に記憶されている緊急停止フラグの状態をOFF状態からON状態に切換えて、トラクタ1が、オペレータにより緊急停止された状態であることを記憶手段に記憶させている。
ステップS2の処理において緊急停止フラグがON状態である場合(ステップS2のYES)、又はステップS8の処理が実行された場合、制御部25は、緊急ブレーキスイッチ15aがON状態であるか否かを判定する(ステップS9)。この処理において、制御部25は、オペレータによる緊急停止が行われた後、緊急ブレーキペダルの踏込み操作が解除されているか否かを判定している。
ステップS9の処理において、緊急ブレーキスイッチ15aがON状態である場合(ステップS9のYES)、制御部25は処理をステップS1に戻し、緊急停止フラグのON状態を維持する。即ち、オペレータによるトラクタ1の緊急停止が行われた後、緊急ブレーキペダルの踏込み操作が継続して行われている状態では、ステップS1〜ステップS9の処理が繰返されて、エンジン14に対するアイドル処理、バイパスソレノイド30bのON状態、駐車ブレーキ装置の制動状態が維持されるように構成されている。
ステップS9の処理において、緊急ブレーキスイッチ15aがOFF状態である場合(ステップS9のNO)、制御部25は、主変速レバー20が中立位置に位置しているか否かを判定する(ステップS10)。ステップS10の処理において、主変速レバー20が中立位置以外の他の位置に位置している場合(ステップS10のNO)、制御部25は処理をステップS1に戻し、緊急停止フラグのON状態を維持する。即ち、主変速レバー20が中立位置以外の他の位置に位置している状態でオペレータによるトラクタ1の緊急停止が行われた後、主変速レバー20が継続して中立位置以外の他の位置に位置している状態では、ステップS1〜ステップS10の処理が繰返されて、エンジン14に対するアイドル処理、バイパスバルブ30aのON状態、駐車ブレーキ装置の制動状態が維持されるように構成されている。ステップS10の処理において、制御部25は、主変速レバー20が中立位置以外の他の位置に位置している状態で駐車ブレーキ装置29が非制動状態になることによる急発進の防止を図っている。
ステップS10の処理において、主変速レバー20が中立位置に位置している場合(ステップS10のYES)、制御部25は、緊急停止フラグがON状態になった以後、サブモニタユニット19からの駐車ブレーキ解除信号を受信したか否かを判定する(ステップS11)。ステップS11の処理において、緊急停止フラグがON状態になってから、サブモニタユニット19からの駐車ブレーキ解除信号を受信していない場合(ステップS11のNO)、制御部25は処理をステップS1に戻し、緊急停止フラグのON状態を維持する。即ち、オペレータによるトラクタ1の緊急停止が行われてから、駐車ブレーキ切換えアイコンの押圧が行われていない状態では、ステップS1〜ステップS11の処理が繰返されて、エンジン14に対するアイドル処理、バイパスバルブ30aのON状態、駐車ブレーキ装置の制動状態が維持されるように構成されている。
ステップS11の処理において、緊急停止フラグがON状態になってから、サブモニタユニット19からの駐車ブレーキ解除信号を受信している場合(ステップS11のYES)、制御部25は、バイパスソレノイド30bにバイパスソレノイドOFF信号を送信すると共に、駐車ブレーキソレノイド29bに駐車ブレーキ解除信号を送信し、緊急停止フラグをOFF状態にする(ステップS12)。ステップS9及びステップS11の処理において、制御部25は、オペレータによる駐車ブレーキ装置29を非制動状態にする意思の有無を確認している。
ステップS12の処理を実行すると、制御部25は、主変速レバー20が中立位置以外に位置しているか否かを判定する(ステップS13)。この処理において、主変速レバー20が中立位置に位置している状態を維持している場合(ステップS13のYES)、制御部25は、ステップS13の処理を繰返す。この処理において、制御部25は、オペレータによるトラクタ1の緊急停止が行われてから、主変速レバー20が中立位置に移動した後で中立位置から他の位置に移動したか否かを判定し、オペレータによる再発進の意思の有無を確認している。
ステップS13の処理において、主変速レバー20が中立位置以外に位置している場合(ステップS13のNO)、制御部25は、エンジンECU31に対してローアイドル解除信号を送信する(ステップS14)。エンジンECU31は、制御部25からローアイドル解除信号を受信すると、エンジン14の回転速度がエンジンコントロールレバー21の位置に応じた回転速度となるように、エンジン14へ供給する燃料の量を調節する。この処理において、制御部25は、エンジン14の回転速度をアイドル処理が開始された直前の回転速度、即ちオペレータによるトラクタ1の緊急停止が行われる前の走行中の回転速度に戻すことにより、オペレータがエンジン14の回転速度を調節する手間を省き、緊急停止後に作業を再開する際の作業性の向上を図っている。
<まとめ>
本実施の形態は、以上のような構成からなるので、トラクタ1が走行中に緊急ブレーキペダル15による制動操作があった場合、主変速レバー20が中立位置に位置するまでエンジン14からの動力が走行装置2に伝達されない遮断状態が維持されるので、緊急ブレーキペダル15の制動操作に連動して主変速レバー20を中立位置に移動させる機構を要することなくオペレータが意図しないトラクタ1の発進を抑制し、安全性の向上を図ることができる。
また、トラクタ1が走行中に緊急ブレーキペダル15による制動操作があった場合、サブモニタユニット19によりバイパスバルブ30aが遮断状態であることを報知すると共に、駐車ブレーキアイコン19cによる解除操作が行われるまで、エンジン14からの動力が走行装置2に伝達されない遮断状態が維持されるので、トラクタ1を発進させる場合の手順をオペレータが理解しやすく、緊急ブレーキペダル15による制動操作があった後でトラクタ1を発進させる場合における作業性の向上を図ることができる。
また、サブモニタユニット19による報知内容を液晶表示器19a上に画像で表示すると共に、駐車ブレーキアイコン19cがサブモニタユニット19の液晶表示器19a上に表示されているため、トラクタ1を発進させる場合の手順をオペレータが理解しやすく、緊急ブレーキペダル15による制動操作があった後でトラクタ1を発進させる場合における作業性の向上を図ることができる。
<変形例>
なお、本実施の形態において、制御部25は、緊急停止処理におけるステップS4の処理において、駐車ブレーキソレノイド29bに対して駐車ブレーキ信号を断続的に送信し、インチングを開始するように構成されているが、これに限定されない。例えば、制御部25は、時間を計測可能なタイマを有して構成されて、ステップS5の処理において、エンジン14の回転速度がローアイドル回転速度に達したことを検知するまで、駐車ブレーキバルブ29aの接続状態を維持するように構成されていてもよい。
また、例えば、制御部25は、緊急停止処理のステップS3の処理において、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態を検知してから、エンジン14がローアイドル回転数に達しているか否かによらず、一定時間、例えば予め定められた0.1秒から1秒までのいずれかの時間の経過後に駐車ブレーキ装置29を連続的な制動状態にする等、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態の検知から駐車ブレーキ装置29を遅延させて制動状態にするように構成されていてもよいし、一定時間経過後にインチングを開始するように構成されていてもよい。また、制御部25は、緊急停止処理でのインチングにおける駐車ブレーキバルブ29aの接続状態と遮断状態との切換えを、一定時間おきに実行するように構成されているものに限定されない。制御部25は、緊急停止処理でのインチングにおける駐車ブレーキバルブ29aの接続状態である時間と遮断状態である時間を変化させるように構成されていてもよく、例えば、インチング中に徐々に接続状態である時間が短くなるように変化させたり、徐々に遮断状態である時間が長くなるように変化させたりするように構成されていてもよい。また、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態を検知してからの時間に基づいて駐車ブレーキ装置29を制御する場合、制御部25は、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態を検知した時点でのトラクタ1の車速に応じて駐車ブレーキ装置29を制動状態にするまでの時間を変化させる等、車速に応じた制御を実行するように構成されていてもよい。
また、例えば、トラクタ1は、駐車ブレーキバルブ29aがアクチュエータにより作動する可変バルブとして構成されて、制御部25が、緊急停止処理のステップS3の処理において、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態を検知してから、時間経過に伴って徐々に可変バルブを閉じることにより駐車ブレーキ装置29の制動力を時間経過に伴って徐々に増大させる制動力徐変制御を所定時間だけ行い、その後、駐車ブレーキ装置29を連続作動、即ち可変バルブを最大に開放して連続的に駐車ブレーキ装置29を作動させる状態にするように構成されていてもよい。このように構成された場合、急停車を行う際にまず駐車ブレーキ装置29の制動力を徐々に増大させて、エンジン14の回転速度が低下してから駐車ブレーキ装置29の連続作動により走行装置2を制動するので、動力伝達経路上の各部や駐車ブレーキ装置29に掛かる負担の軽減を図ることができる。また、この場合、制御部25は、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態を検知した時点から、エンジン14がローアイドル回転数に達しているか否かによらず可変バルブを制御するように構成されていてもよいし、緊急ブレーキスイッチ15aのON状態を検知した時点でのトラクタ1の車速に応じて可変バルブが開放する速度を変化させる等、車速に応じた制御を実行するように構成されていてもよい。
また、本実施の形態において、制御部25は、緊急停止処理におけるステップS3の処理において、緊急ブレーキスイッチ15aがON状態であるか否かのみの判定結果に基づいてステップS4の処理を実行するように構成されているが、これに限定されない。例えば、制御部25は、ステップS3の処理において緊急ブレーキスイッチ15aの状態と共に車速センサ32からの車速信号を参照して車速が0である場合には緊急ブレーキスイッチ15aの状態によらず処理をS1に戻すように構成されていてもよいし、ステップS3の処理において緊急ブレーキスイッチ15aの状態と共にエンジン回転数センサ27からのエンジン回転速度信号を参照してエンジン14の回転速度がローアイドル回転速度である場合にはステップS5の処理を省略するように構成されていてもよい。
また、本実施の形態において、走行ブレーキ装置は、駆動輪2aを制動する駐車ブレーキ装置29により構成されているが、これに限定されない。走行ブレーキ装置は、例えば、HSTモータ18bから駆動輪2aへ動力を伝達する軸等、他の部位を制動する駐車ブレーキ装置29により構成されていてもよいし、駐車ブレーキ装置29とは別に設けられて、トラクタ1を減速する際に使用されるブレーキ装置により構成されていてもよい。
また、本実施の形態において、報知手段はサブモニタユニット19から構成されているが、これに限定されない。報知手段は、第1状態と、第1状態とは異なる第2状態と、に遷移して、駐車ブレーキ装置29の状態を報知するものであればよく、例えば、メインモニタ11の駐車ブレーキランプ11aであってもよいし、報知内容を画像で表示する液晶表示器を有するメインモニタ11であってもよいし、他の部位に配置されたランプや液晶表示器であってもよいし、駐車ブレーキ装置29の状態を報知するスピーカであってもよいし、ステアリングハンドル10や運転座席9を駐車ブレーキ装置29の状態に応じて振動させる振動装置であってもよい。
また、本実施の形態において、解除操作部は、サブモニタユニット19上に画像で表示される駐車ブレーキアイコン19cにより構成されているが、これに限定されない。解除操作部は、オペレータにより駐車ブレーキ装置29の解除操作が可能なものであればよく、例えば、サブモニタユニット19上に設けられている操作ボタン19bであってもよいし、サブモニタユニット19の近傍に設けられている操作ボタンであってもよいし、手動で駐車ブレーキを操作するレバーであってもよいし、タッチパネル式の液晶表示器を有するメインモニタ11上に画像で表示されるアイコンであってもよいし、メインモニタ11上又は近傍に設けられている操作ボタンであってもよいし、緊急停止後における駐車ブレーキ装置29の制動状態で緊急ブレーキペダル15を再度踏込み操作することにより駐車ブレーキ装置29を非制動状態に切換えるように構成されていてもよい。
また、本実施の形態において、エンジン14の回転速度は、エンジンコントロールレバー21により、ローアイドル回転速度からハイアイドル回転速度の間で、変速操作可能に構成されているが、これに限定されない。例えば、エンジン14の回転速度は、変速ペダルの踏込み操作量に応じて変速操作可能に構成されていてもよいし、ボタンの操作によりローアイドル回転速度とハイアイドル回転速度との2段階に切換え可能に構成されていてもよい。
また、本実施の形態において、制御部25は、緊急停止処理のステップS9〜ステップS11において、緊急ブレーキスイッチ15aがON状態であるか否か、主変速レバー20が中立位置に位置しているか否か、緊急停止フラグがON状態になった以後にサブモニタユニット19からの駐車ブレーキ解除信号を受信したか否か、の順に判定を行うように構成されているが、これに限定されない。制御部25は、ステップS9〜ステップS11の処理を他のいずれの順に判定するように構成されていてもよい。
また、エンジンECU31により制御されるエンジン14のアイドル回転速度は、予め定められた一定の値であるものに限定されない。アイドル回転速度は、一定の幅がある値であってもよいし、エンジン14の温度や、エンジン14を始動してからの時間、その他各種設定等により制御部25やエンジンECU31により変更される値であってもよい。
また、本実施の形態において、作業車輌として、フルクローラ式の走行装置2を備えるトラクタ1について説明をしたが、これに限定されない。作業車輌は、走行装置2として他の装置を備えていてもよい。例えば、作業車輌は、走行装置2として、4輪のタイヤを備えていてもよいし、2輪のタイヤと一対のクローラを有するハーフクローラ式の走行装置を備えていてもよいし、4つのクローラを有する4クローラ式の走行装置を備えていてもよい。また、本発明は、稲の刈取り及び脱穀を行うコンバイン等、トラクタ以外の他の作業車輌にも適用可能である。