JP5837026B2 - 自動車用アルミニウム合金鍛造材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
再結晶組織は強度が大きく低下しているため、再結晶粒の存在している領域をこのように規定することで製品自体の強度を維持することができる。
このようにすると、製造条件がより適切になるので、より高強度化された自動車用アルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
本発明に係る自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法は、押出工程で<111>集合組織の面積比率を所定値以上とし、その後の製造工程でかかる金属組織を減少させないようにすることで、0.2%耐力が380MPa以上に高強度化された自動車用アルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
本実施形態に係る自動車用アルミニウム合金鍛造材1(以下、単に「鍛造材1」という。)は、押出加工と鍛造を行って製造される。かかる鍛造材1は、自動車の足回り部品に適用可能であり、図1に示すような平面視略I字型の形状や、図2に示すような平面視略L字型の形状とすることが多いが、形状はこれらに限定されず、適宜設定することができる。また、用途も自動車に限定されるものではなく、例えば、電車、自動二輪、航空機などの輸送機の足回り部品に適用可能である。更には、適用する物品も足回り部品に限定されず、足回り部品以外の構造材(構造品)に適用することも可能である。
はじめに、合金組成について説明する。
Siは、人工時効処理により、MgとともにMg2Si(β’相)として析出し、最終製品使用時の高強度(0.2%耐力)を付与するために必須の元素である。Siの含有量が0.7質量%未満であると人工時効処理で十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。一方、Siの含有量が1.5質量%を超えると、鋳造時及び溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出及び析出する。焼入れ時に固溶しないSiはMg2Si(β’相)となれないことから高強度化に寄与しないばかりか、かえって耐食性や靱性を低下させる。従って、Siの含有量は0.7〜1.5質量%とする。
Feは、不純物として含有される。Feは、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2、(Fe,Mn)Al6又はAl−Fe−Si−(Mn,Cr,Zr)系晶析出物を生成する。これらの晶析出物は、破壊靱性及び疲労特性などを低下させる。特に、Feの含有量が0.5質量%を超えると、これらの晶析出物が増加し、自動車の足回り部品などに要求される強度(例えば、伸び)及び破壊靭性を得ることができない。なお、破壊靱性は伸びと相関があり、疲労強度は引張強さと相関があるので、靭性と疲労強度を向上させることは伸びと引張強さの向上につながる。
従って、Feの含有量は0.5質量%以下に規制する。Feの含有量は、より好ましくは0.3質量%以下である。
Cuは、固溶強化にて強度の向上に寄与する他、人工時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果を有する。Cuの含有量が0.1質量%未満では、これらの効果が期待できず、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。また、これらの効果を安定的に得るためには好ましくはCuの含有量を0.3質量%以上とする。一方、Cuの含有量が0.6質量%を超えると、鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、耐食性や耐久性を低下させる。さらには、高強度となりすぎるため、伸びが大きく低下してしまう。
従って、Cuの含有量は0.1〜0.6質量%とする。
Mgは、人工時効処理により、SiとともにMg2Si(β’相)として析出し、最終製品使用時の高強度(0.2%耐力)を付与するために必須の元素である。Mgの含有量が0.6質量%未満であると時効硬化量が低下し、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。一方、Mgの含有量が1.2質量%を超えると、強度(0.2%耐力)が高くなりすぎ、鍛造性を阻害する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に多量のMg2Siが析出し易く、焼入遅れが発生し易くなるため高強度が得難くなる。また、Mg2Si系の粗大な晶出物を形成しやすくなるため、伸びも低下しやすくなる。
従って、Mgの含有量は0.6〜1.2質量%とする。
Tiは、微細なAl3TiやTiB2といった形で結晶粒の核となることで、結晶粒を微細化させて強度を向上させる。Tiの含有量が0.01質量%未満では微細化効果が十分に得られず、十分な強度(例えば、引張強さ)が得られない。一方、Tiの含有量が0.1質量%を超えると粗大なAl3Ti等の晶出物を形成するため、強度(例えば、伸び)を十分に得ることができない。
従って、Tiの含有量は0.01〜0.1質量%とする。
Mnは、均質化熱処理時及びその後の熱間鍛造時に分散粒子(分散相)となるAl6Mnを生成する。かかる分散粒子は、粒界移動を妨げる効果があるので、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。そのため、結晶粒界や亜結晶粒界の移動を阻止し、結晶粒を微細化したり、亜結晶粒化したりする効果が大きく、破壊靱性や疲労特性などを向上させることができる。一方、Mnの含有量が0.25質量%未満であると、そのような効果が期待できず、再結晶し易くなる。なお、再結晶化が進むと、<111>集合組織以外の集合組織が形成され易くなる。そのため、押出方向(ED)と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。このようになると、集合組織が適切でなくなるために、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。なお、再結晶組織は、例えば、塩化第II銅でエッチングすることで観察できるマクロ組織から求めることができる。<111>集合組織の面積比率については後述する。他方、Mnの含有量が1.0質量%を超えると、粗大なAl6Mn等の粗大な晶出物を形成するので、強度(例えば、伸び)が低下する。
従って、Mnの含有量は0.25〜1.0質量%とする。
Znは、人工時効処理においてMgZn2を微細かつ高密度に析出させて高強度を実現させる。一方、Znの含有量が0.05質量%を超えて含有されると、Mg2Siとして強度に寄与するMg量が減少してしまうため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。また、MgZn2は、Mg2Siを析出させるような人工時効処理条件では粗大となり、強度向上に寄与することができなくなる。
従って、Znの含有量は0.05質量%以下に規制する。
なお、Znは、スクラップ等の原料から、比較的容易に溶湯中に取り込まれる。従って、Znの含有量を0.05質量%以下に抑えるためには、低品位のスクラップの使用量を低減するとよい。
Cr及びZrは、均質化熱処理時及びその後の熱間鍛造時にAl12Mg2Cr、Al−Cr系、Al−Zr系などの分散粒子(分散相)を生成する。これらの分散粒子は、再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるので、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。そのため、結晶粒界や亜結晶粒界の移動を阻止し、結晶粒を微細化したり、亜結晶粒化したりする効果が大きい。中でもZrは数十から数百オングストロームのサイズのAl−Mn系やAl−Cr系の分散粒子よりも更に微細なAl−Zr系の分散粒子を析出させる。そのため、Zrは、結晶粒界や亜結晶粒界の移動を阻止し、結晶粒を微細化したり、亜結晶粒化したりする効果が更に大きく、破壊靱性や疲労特性などを向上させることができる。これらの効果は、Cr及びZrのいずれか一方又は両方をそれぞれ所定の数値範囲で含有することにより得ることができる。Cr及びZrのいずれもが前記した数値範囲の下限値未満となると、これらの効果が期待できない。そのため、再結晶化が進み易くなる。従って、この場合も、押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。他方、Cr及びZrのうちのいずれか一方でも前記した数値範囲の上限値を超えた場合、Al12Mg2Cr、Al−Cr系、Al−Zr系などの粗大な晶出物を形成する。粗大な晶出物は脆性で破壊の起点になり易く、靱性が低下してしまう。そのため、十分な強度(例えば、引張強さ、伸び)が得られ難くなる。
従って、Cr:0.1〜0.4質量%及びZr:0.01〜0.2質量%の群から選択される少なくとも1つを含有することとする。
水素(H2)は、水素ガスの気泡が最終製品の靭性や疲労特性を著しく低下させる。また、高強度化した鍛造材の特性を低下させる。
従って、ランズレー式ガス分析装置で測定したときに100gのAl合金中に含有される水素量は0.25ml以下(「0.25ml/100gAl以下」と表記する。)となるように規制する。
なお、水素は、アルミニウム合金の溶解時に大気より溶湯に取り込まれる。そのため、水素量は、例えば、アルミニウム溶湯へアルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを吹き込み、気泡に水素ガスを拡散させて除去する脱ガス処理を行うことによって制御することができる。
残部は不可避的不純物及びAlである。不可避的不純物としては、例えば、B、C、Na、Ni、Hf、V、Cd、Pbなどが挙げられる。これらの不可避的不純物は、各々が0.05質量%以下、総計で0.15質量%以下であれば本発明の効果を阻害しないので、この程度の含有量であれば許容される。
押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率はSEM−EBSP(Scanning Electron Microscope - Electron Backscatter Diffraction Pattern(後方散乱電子線回折像))装置で求めることができる。
なお、集合組織とは、その合金の優先する面や方向を示すものであり、強度を支配する一つの因子でもある。本発明者らの検討により、<111>集合組織は主に押出工程において形成される集積方位の一つであり、押出で形成され易い他の集積方位より高強度となることがわかった。つまり、後述するように、特定の条件の押出工程によってこの<111>集合組織を発達させることができ、これにより高強度を得ることができる。そして、鍛造後は、再結晶による結晶粒の粗大化を抑制し、<111>集合組織を減少させないように各処理を行うことで、押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上とすることができる。押出工程や鍛造工程以降の工程に関する説明は後述する。押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率が60%未満であると、集合組織が適切でなくなるため、高強度を実現するのは困難となる。<111>集合組織の面積比率は後記実施例の項目で記載したようにして求めるのが好ましい。
(伸びが10.0%以上)
本実施形態に係る鍛造材1は、<111>集合組織の面積比率を60%以上とすることで本来強度がでない化学組成でも高強度化を図っている。かかる高強度化は、引張強さを400MPa以上、伸びを10.0%以上とすることでより確実に成すことができる。引張強さが400MPa未満であったり、伸びが10.0%未満であったりすると、近年要求される高い水準で高強度化できない場合がある。
従って、引張強さは400MPa以上、伸びは10.0%以上とする。
なお、これらに0.2%耐力を加えて機械的特性と呼ばれている。鍛造材1における0.2%耐力は380MPa以上、より好ましくは400MPa以上である。0.2%耐力をこのようにすれば、鍛造材1をより確実に高強度化させることができる。
なお、本実施形態に係る鍛造材1は、再結晶粒の存在している領域(再結晶深さ)が、鍛造材表面から5mm以内の深さであるのが好ましい。このようにすると、製品強度の低下のみならず、応力腐食割れや疲労で発生した割れの進展を抑えることができ、製品の信頼性を向上することができる。一方、かかる領域が鍛造材表面から5mmを超える深さであると、製品強度の低下のみならず、応力腐食割れや疲労で発生した亀裂が容易に進展するため製品としての信頼性が大きく低下するおそれがある。再結晶深さは後記実施例の項目で記載したようにして求めるのが好ましい。
次に、図3を参照して、本発明に係る自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法(単に製造方法ということもある。)の一実施形態について説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る製造方法は、均質化熱処理工程S1と、第1加熱工程S2と、押出工程S3と、第2加熱工程S4と、鍛造工程S7と、溶体化処理工程S8と、焼入工程S9と、人工時効処理工程S10と、をこの順に含んでなる。以下、これらの工程について説明する。
なお、各工程で用いられる加熱炉等の各種装置・設備は、鍛造材を製造するために用いられる一般的な装置を用いればよい。
鋳造工程では、例えば、鋳造温度700〜780℃で前記した合金組成を有するアルミニウム合金を溶解することにより、前記した鋳塊を鋳造することができる。なお、かかる合金組成については既に詳述しているのでここでの説明は省略する。
鋳造温度が700℃未満であると、鋳型の前で凝固しやすくなるため鋳塊を鋳造できないおそれがある。また、鋳造温度が780℃を超えると、鋳型内での凝固に時間がかかりすぎるため鋳塊を鋳造できないおそれがある。なお、かかる鋳造工程では、鋳塊を鋳造することができればよく、前記した鋳造温度に限定されるものではない。すなわち、鋳造温度を700℃未満としてもよいし、780℃超としてもよい。
均質化熱処理工程S1は、鋳塊を450〜560℃で3〜12時間均質化熱処理し、300℃以下まで0.5℃/分以上で冷却する工程である。均質化熱処理温度が450℃未満であると、均質化熱処理が十分行われないので、Si、Mg等が十分固溶せず、晶出物の微細化も不十分となる。そのため、強度(例えば、引張強さ、伸び)がでないおそれがある。また、均質化熱処理温度が560℃を超えると、分散粒子が粗大化して密度が低下するため再結晶が生じ易くなる。そのため、前記と同様、押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。つまり、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。
第1加熱工程S2は、均質化熱処理した鋳塊を450〜540℃で加熱する工程である。この加熱処理は加工性の向上と再結晶を抑制する目的で行われる。加熱温度が450℃未満であると、再結晶が生じ易くなるので、前記と同様、押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。つまり、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。一方、加熱温度が540℃を超えると、バーニングが生じて空隙ができやすくなるので、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。
押出工程S3は、加熱した鋳塊を押出温度450〜540℃、押出比6〜25、押出速度1〜15m/分で押出加工する工程である。かかる条件で押出工程S3を行うことにより、<111>集合組織を発達させることができ、これによって高強度を得ることが可能となるため、本実施形態に係る製造方法において最も重要な工程といえる。なお、前記した押出比は、(加工前の断面積/加工後の断面積)の比で算出することができ、押出加工前後の成形品の断面形状の変化率を意味している。すなわち、押出加工の加工方向とは直角方向における押出加工前後の成形品の断面積を測定し、押出加工前の断面積を押出加工後の断面積で除したときの比率である。本実施形態では、この工程で発達させた<111>集合組織を低減させないよう、これ以降の工程、特に、鍛造後の加工度を比較的緩やかな条件で行うようにすることが肝要である。
第2加熱工程S4は、押出加工された成形品を500〜560℃で0.75時間以上加熱する工程である。この加熱処理は鍛造時の変形抵抗を下げるのと、再結晶を抑制する目的で行われる。加熱温度が500℃未満であると再結晶を生じ易くなる。従って、この場合も押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。一方、加熱温度が560℃を超えると、低融点の金属間化合物が溶融するバーニングが生じ易くなるので、バーニングした部分が空隙となって強度が低下する。また、加熱温度が560℃を超えると、均質化熱処理で形成された分散粒子が粗大化して密度が低下するため再結晶が生じ易くなる。そのため、前記と同様、押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。そして、加熱時間が0.75時間未満であると、加熱時間が不十分であるため素材内部まで温度が十分上がらず再結晶し易くなる。そのため、この場合も押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。
鍛造工程S7は、加熱した成形品を鍛造開始温度450〜560℃、鍛造終了温度420℃以上、最大の相当塑性ひずみが3以下で所定の形状の鍛造材を得る工程である。鍛造開始温度が450℃未満である場合は、鍛造終了温度も420℃未満となる。鍛造開始温度と鍛造終了温度が当該下限値未満となると再結晶を生じ易くなる。そのため、再結晶化が進み、この場合も押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。鍛造開始温度が560℃を超えると、低融点の金属間化合物が溶融するバーニングが生じ易くなる上、結晶粒界が脆化するため鍛造で大きな割れが生じ易くなる。そして、最大の相当塑性ひずみが3を超えた場合も再結晶を生じ易くなる。そのため、再結晶化が進み、この場合も押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。なお、最大の相当塑性ひずみとは、加工における相当塑性ひずみは場所によって値が異なることが多いが、本発明においてはその中でも最も高い部位の値をいう。この最大の相当塑性ひずみεは、一軸方向に圧縮する前の試験材の寸法をL0とし、一軸方向に圧縮した後の試験材の寸法をLとした場合、ε=|ln(L/L0)|で算出できる(なお、「ln」は自然対数を表す)。最大の相当塑性ひずみを3以下にすると、例えば、0.2%耐力を380MPa以上とすることができる。特に、この最大の相当塑性ひずみを1.5以下にすると、より高強度化することができ、例えば、0.2%耐力を400MPa以上とすることができる。
溶体化処理工程S8は、鍛造材を480〜560℃で2〜8時間溶体化処理する工程である。溶体化処理温度が480℃未満であったり、溶体化処理時間が2時間未満であったりすると、溶体化処理が十分に行われないので、十分な強度(例えば、引張強さ、伸び)が得られない。また、溶体化処理温度が560℃を超えた場合も再結晶を生じ易くなる。そのため、この場合も押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られ難くなる。更に、溶体化処理時間が8時間を超えた場合も再結晶を生じ易くなる。そのため、再結晶化が進み、前記同様、この場合も押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を60%以上に維持し難くなる。その結果、集合組織が適切でなくなるため、十分な強度(例えば、引張強さ)が得られない。
焼入工程S9は、溶体化処理した鍛造材を70℃以下で焼入れする工程である。焼入温度が70℃を超えると、焼入が十分に行われないので、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。
人工時効処理工程S10は、焼入した鍛造材を140〜200℃で3〜12時間人工時効処理する工程である。人工時効処理温度が140℃未満であったり、人工時効処理時間が3時間未満であったりすると、人工時効処理が十分行われず、亜時効となり、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。また、人工時効処理温度が200℃を超えたり、人工時効処理時間が12時間を超えたりすると、過時効となり、軟化してしまうので、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。
プリフォーム工程S5は、鍛造工程S7による仕上げ鍛造を行う前に予備成形(プリフォーム)する工程である。プリフォーム時の温度は、鍛造工程S7で成形品の鍛造を開始する温度(鍛造開始温度)である450〜560℃などとすることができる。
再加熱工程S6は、プリフォームして温度の下がってしまった成形品を鍛造工程S7による仕上げ鍛造を行うのに適した温度に再加熱する工程である。従って、再加熱温度は、鍛造工程S7の鍛造開始温度と同様、450〜560℃とするのが好ましい。ただし、プリフォーム工程S5を行った成形品の温度低下が小さい場合、具体的には、プリフォーム工程S5を行った成形品の温度が450℃よりも低くならない場合、当該再加熱工程S6は実施しなくてもよい。
〔1〕合金組成の検討
まず、鋳造温度700℃で表1のNo.1〜32に示した合金組成となるようにアルミニウム合金を溶解し、鋳塊を鋳造した。なお、表1中において下線が付されている数値は本発明の要件を満たしていないことを意味している。また、表1中の「H2」は、ランズレー式ガス分析装置で測定したときに100gのAl合金中に含有される水素量(ml/100gAl)を示している。不可避的不純物として含まれる元素はいずれも0.05質量%以下であり、その総計は0.15質量%以下である。
次いで、かかる鋳塊を480℃で5時間均質化熱処理し、300℃以下まで1℃/分で冷却して均質化熱処理を行った。
次いで、この均質化熱処理した鋳塊を500℃に加熱し、更に、当該加熱した鋳塊を押出温度490℃、押出比12、押出速度4m/分で押出加工した。これに続けて、押出加工された成形品を520℃で1.5時間加熱し、更に、当該加熱した成形品を鍛造開始温度510℃、鍛造終了温度420℃、最大の相当塑性ひずみが1.5という条件でI型形状の鍛造材を得た。
そして、この鍛造材を540℃で4時間溶体化処理し、次いで当該溶体化処理した鍛造材を50℃で焼入れした。最後に、当該焼入した鍛造材を175℃で8時間人工時効処理し、完成品としてのNo.1〜32に係るそれぞれの鍛造材を製造した(以下、このようにして製造された鍛造材を説明の便宜上、単に「鍛造材No.1」などという。)。
ここで、EBSPとは試験片表面に電子線を入射させたときに発生する反射電子から得られた菊池パターン(菊池線)のことであり、このパターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定した。なお、菊池パターンとは、結晶に当たった電子線が散乱して回折された際に、白黒一対の平行線や帯状もしくはアレイ状に電子線回折像の背後に現れるパターンのことをいう。
機械的特性は、I型形状の鍛造材の長手方向(図5の押出方向)より採取し作製したJIS Z 2201にある4号試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。この際、5個の試験片の測定値の平均値として求めた。
本発明においては、引張強さは400MPa以上を合格、400MPa未満を不合格とした。また、0.2%耐力は、380MPa以上を合格、380MPa未満を不合格とした。そして、伸びは、10.0%以上を合格、10.0%未満を不合格とした。
組織の観察は、次のようにして行った。図5(a)に示すI型形状の鍛造材に対し、押出方向に平行、且つ、形成されているパーティングライン(PL)を垂直に跨ぎ、その断面積が最小となる断面を含むように小片を切出し(図5(a)、(b)参照。なお、図5(b)は、図5(a)のA部拡大図である。)、この小片の断面における鍛造高さの中心を観察面Cとし、組織の観察を行った。L型形状の鍛造材の場合にも、上記と同様な位置で小片を切出し、観察するとよい(図6参照)。
なお、組織の観察を行うにあたっては、観察する切断面を#1000までの耐水ペーパーにて研磨した後に電解研磨にて鏡面仕上げとし、その後、観察を行った。
組織の観察は、前記したSEM−EBSP装置を用いて、×400の視野で撮像し、撮像された画像から画像解析することで押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率を求めた。本発明においては、押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率は60%以上を合格、60%未満を不合格とした。なお、表2においては、単に、「<111>集合組織(%)」と記載した(表5も同様の記載とした)。
再結晶深さは、以下の条件で測定した。I型形状の鍛造材に対し、形成されているパーティングライン(PL)を垂直に跨ぎ、その断面積が最小となる位置で切断した(図5(a)、(c)参照。なお、図5(c)は、図5(a)のB部拡大図である。)。L型形状の鍛造材の場合は、図6に示すように、円柱状のジョイント部近辺が前記した切断条件に合致するので、その位置で切断するとよい。
このようにして得られた切断面を#600から#1000までの耐水ペーパーにて研磨した後、塩化第II銅水溶液でエッチングした。その後、硝酸に浸け、水洗いし、エアーブロー乾燥した後、再結晶部位(表層の白くなっている部位(図5(c)及び図6中の網掛け部参照。))における、鍛造材表面からの最大深さtを測定して再結晶深さt(mm)とした。
次に、良好な結果が得られた鍛造材No.3の合金組成を採用し、表3、4のNo.33〜67に示す各条件で鍛造材を製造した(以下、このようにして製造された鍛造材を説明の便宜上、単に「鍛造材No.33」などという。)。なお、表3、4中において下線が付されている数値は本発明の要件を満たしていないことを意味している。また、表3、4中において斜線でマス目を埋めている箇所は、鋳造できなかったり、鍛造で大きな割れが生じたりしたため、その後の工程を中止したことを示している。
Claims (4)
- Si:0.7〜1.5質量%、
Cu:0.1〜0.6質量%、
Mg:0.6〜1.2質量%、
Ti:0.01〜0.1質量%、
Mn:0.25〜1.0質量%を含有し、且つ
Fe:0.5質量%以下、
Zn:0.05質量%以下に規制し、さらに、
Cr:0.1〜0.4質量%及びZr:0.01〜0.2質量%の群から選択される少なくとも1つを含有し、
水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、残部が不可避的不純物及びAlからなるとともに、
押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率が60%以上、
引張強さが400MPa以上、
0.2%耐力が380MPa以上、
伸びが10.0%以上である
ことを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材。 - 再結晶粒の存在している領域が、鍛造材表面から5mm以内の深さであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材。
- 押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率が60%以上、
引張強さが400MPa以上、
0.2%耐力が380MPa以上、
伸びが10.0%以上である自動車用アルミニウム合金鍛造材を製造するための製造方法であって、
Si:0.7〜1.5質量%、
Cu:0.1〜0.6質量%、
Mg:0.6〜1.2質量%、
Ti:0.01〜0.1質量%、
Mn:0.25〜1.0質量%を含有し、且つ
Fe:0.5質量%以下、
Zn:0.05質量%以下に規制し、さらに、
Cr:0.1〜0.4質量%及びZr:0.01〜0.2質量%の群から選択される少なくとも1つを含有し、
水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、残部が不可避的不純物及びAlからなる合金組成を有するアルミニウム合金を溶解して鋳造した鋳塊を450〜560℃で3〜12時間均質化熱処理し、300℃以下まで0.5℃/分以上で冷却する均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理した鋳塊を450〜540℃で加熱する第1加熱工程と、
前記加熱した鋳塊を押出温度450〜540℃、押出比6〜25、押出速度1〜15m/分で押出加工する押出工程と、
前記押出加工された成形品を500〜560℃で0.75時間以上加熱する第2加熱工程と、
前記加熱した成形品を鍛造開始温度450〜560℃、鍛造終了温度420℃以上、最大の相当塑性ひずみが3以下で所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、
前記鍛造材を480〜560℃で2〜8時間溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した鍛造材を70℃以下で焼入れする焼入工程と、
前記焼入した鍛造材を140〜200℃で3〜12時間人工時効処理する人工時効処理工程と、
をこの順に含むことを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。 - 前記鍛造工程における最大の相当塑性ひずみを1.5以下とすることを特徴とする請求項3に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。
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