JP2022137762A - アルミニウム合金鍛造材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】アルミニウム新地金の使用量を削減してCO2排出量を低減しつつ、高強度、高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造する方法を提供する。【解決手段】アルミニウムスクラップ、アルミニウム新地金、並びにSi、Fe、Cu、Ti、Mn、Cr、Zn及びMgからなる群より選択される少なくとも1個の添加元素を含む混合物からアルミニウム合金鍛造材を製造する方法であって、混合物が、Si:0.7~1.5質量%、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.20~0.7質量%、Ti:0.15質量%以下、Mn:0.20~0.80質量%、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.30質量%以下及びMg:0.050~1.2質量%を有し残部がAl及び不可避不純物からなり、混合物中のアルミニウムスクラップの含有量は、40質量%以上75質量%以下であり、混合物の加熱溶解工程、鍛造工程、鍛造工程後の材料の時効処理工程からなる。【選択図】図1
Description
本発明は、アルミニウム合金鍛造材の製造方法に関する。
近年、自動車分野においては、軽量化に加えて、操縦安定性及び乗り心地の向上等のために、アッパーアーム及びロアーアームのような足回り部品へのアルミニウム合金鍛造材の適用が拡大している。自動車の足回り部品に適用されるアルミニウム合金鍛造材としては、軽量、高強度且つ高耐食性であるAl-Mg-Si系のアルミニウム合金を挙げることができる。
例えば、特許文献1は、Mg:0.70~1.50質量%、Si:0.80~1.30質量%、Cu:0.30~0.90質量%、Fe:0.10~0.40質量%、Ti:0.005~0.15質量%を含み、更に、Mn:0.10~0.60質量%、Cr:0.10~0.45質量%、Zr:0.05~0.30質量%のうち一種または二種以上を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造材であって、最大応力が発生する部位でのQ相の長軸が50~500nmであることを特徴とするアルミニウム合金鍛造材を記載する。
特許文献2は、Si:0.7~1.5質量%、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.20~0.7質量%、Mn:0.20~0.7質量%、Mg:0.05~1.2質量%、Cr:0.04~0.25質量%、Zn:0.30質量%以下、Ti:0.15質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金材からアルミニウム合金熱間鍛造品を製造する方法であって、前記アルミニウム合金材を、加熱温度が540℃以上555℃以下となり、加熱時間が2時間以上となる条件で、加熱する材料加熱工程と、加熱された状態の前記アルミニウム合金材を、第1の方向から鍛造する第1熱間鍛造工程と、前記第1熱間鍛造工程後の前記アルミニウム合金材を、前記第1の方向とは異なる第2の方向から鍛造する第2熱間鍛造工程と、前記第2熱間鍛造工程後の前記アルミニウム合金材を、前記第2熱間鍛造工程後100秒以内に、焼入れ開始温度450℃以上となる条件で焼入れをする焼入れ工程と、前記焼入れ工程後の前記アルミニウム合金材を、時効処理温度が180℃以上200℃以下となり、時効処理時間が1時間以上となる条件で、時効処理を行う時効処理工程と、を少なくとも含むことを特徴とするアルミニウム合金熱間鍛造品の製造方法を記載する。
軽量、高強度且つ高耐食性が要求される自動車の足回り部品には、Al-Mg-Si系のアルミニウム合金からなるアルミニウム合金鍛造材が使用されることが多い。アルミニウム合金鍛造材の材料に含まれる不純物元素は、機械的特性だけでなく耐食性にも大きな影響を与え得る。このため、軽量、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材は、通常は、ボーキサイトの精錬によって製造されるアルミニウム新地金から製造される。しかしながら、ボーキサイトの精錬には膨大な電力を必要とする。また、その電力は、通常は火力発電によって供給される。このため、軽量、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材の製造に伴い、多量のCO2が排出されるという課題が存在した。
それ故、本発明は、アルミニウム新地金の使用量を削減してCO2排出量を低減しつつ、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造する手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、所定量のアルミニウムスクラップをアルミニウム新地金とともに材料として用い、材料混合物に添加元素を添加して材料混合物の元素組成を所定範囲に調整した上で、加熱溶解及び鍛造を行い、さらに所定の条件で時効処理を行うことにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造できることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) アルミニウムスクラップ、アルミニウム新地金、並びにSi、Fe、Cu、Ti、Mn、Cr、Zn及びMgからなる群より選択される少なくとも1個の添加元素を含む混合物からアルミニウム合金鍛造材を製造する方法であって、
前記混合物が、混合物の総質量に対して、Si:0.7~1.5質量%、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.20~0.7質量%、Ti:0.15質量%以下、Mn:0.20~0.80質量%、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.30質量%以下及びMg:0.050~1.1質量%を有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
前記混合物中のアルミニウムスクラップの含有量xは、混合物の総質量に対して40質量%以上且つ75質量%以下の範囲であり、
以下の工程:
前記混合物を加熱溶解させる加熱溶解工程、
加熱溶解工程後の混合物を鍛造する、鍛造工程、
鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行う、時効処理工程、
を含む、前記方法。
(2) アルミニウムスクラップが、総質量に対して、Si:0.1~0.5質量%、Mg:1.0~2.0質量%及びMn:0.10~2.0質量%を有するAl-Mg-Mn系合金である、前記実施形態(1)に記載の方法。
(3) アルミニウムスクラップが、アルミニウム缶である、前記実施形態(2)に記載の方法。
(1) アルミニウムスクラップ、アルミニウム新地金、並びにSi、Fe、Cu、Ti、Mn、Cr、Zn及びMgからなる群より選択される少なくとも1個の添加元素を含む混合物からアルミニウム合金鍛造材を製造する方法であって、
前記混合物が、混合物の総質量に対して、Si:0.7~1.5質量%、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.20~0.7質量%、Ti:0.15質量%以下、Mn:0.20~0.80質量%、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.30質量%以下及びMg:0.050~1.1質量%を有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
前記混合物中のアルミニウムスクラップの含有量xは、混合物の総質量に対して40質量%以上且つ75質量%以下の範囲であり、
以下の工程:
前記混合物を加熱溶解させる加熱溶解工程、
加熱溶解工程後の混合物を鍛造する、鍛造工程、
鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行う、時効処理工程、
を含む、前記方法。
(2) アルミニウムスクラップが、総質量に対して、Si:0.1~0.5質量%、Mg:1.0~2.0質量%及びMn:0.10~2.0質量%を有するAl-Mg-Mn系合金である、前記実施形態(1)に記載の方法。
(3) アルミニウムスクラップが、アルミニウム缶である、前記実施形態(2)に記載の方法。
本発明により、アルミニウム新地金の使用量を削減してCO2排出量を低減しつつ、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造する手段を提供することが可能となる。
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1. アルミニウム合金鍛造材の製造方法>
軽量、高強度且つ高耐食性が要求されるアッパーアーム及びロアーアームのような自動車の足回り部品には、Al-Mg-Si系のアルミニウム合金からなるアルミニウム合金鍛造材が使用されることが多い。アルミニウム合金鍛造材の材料に含まれる不純物元素は、機械的特性だけでなく耐食性にも大きな影響を与え得る。このため、軽量、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材は、通常は、ボーキサイトからアルミナを精錬する工程(バイヤー法)及びアルミナから純アルミニウムを精錬する工程(ホール・エルー法)によって製造されるアルミニウム新地金から製造される。しかしながら、ボーキサイトの精錬、特にホール・エルー法の電解精錬には膨大な電力を必要とする。また、その電力は、通常は火力発電によって供給される。このため、アルミニウム新地金からアルミニウム合金鍛造材を製造する場合、多量のCO2が排出されるという課題が存在した。
軽量、高強度且つ高耐食性が要求されるアッパーアーム及びロアーアームのような自動車の足回り部品には、Al-Mg-Si系のアルミニウム合金からなるアルミニウム合金鍛造材が使用されることが多い。アルミニウム合金鍛造材の材料に含まれる不純物元素は、機械的特性だけでなく耐食性にも大きな影響を与え得る。このため、軽量、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材は、通常は、ボーキサイトからアルミナを精錬する工程(バイヤー法)及びアルミナから純アルミニウムを精錬する工程(ホール・エルー法)によって製造されるアルミニウム新地金から製造される。しかしながら、ボーキサイトの精錬、特にホール・エルー法の電解精錬には膨大な電力を必要とする。また、その電力は、通常は火力発電によって供給される。このため、アルミニウム新地金からアルミニウム合金鍛造材を製造する場合、多量のCO2が排出されるという課題が存在した。
本発明者らは、所定量のアルミニウムスクラップをアルミニウム新地金とともに材料として用い、材料混合物に添加元素を添加して材料混合物の元素組成を所定範囲に調整した上で、加熱溶解及び鍛造を行い、さらに所定の条件で時効処理を行うことにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造できることを見出した。それ故、本発明の一態様は、アルミニウム合金鍛造材の製造方法に関する。
本態様の方法は、アルミニウムスクラップ、アルミニウム新地金、並びにSi、Fe、Cu、Ti、Mn、Cr、Zn及びMgからなる群より選択される少なくとも1個の添加元素を含む混合物からアルミニウム合金鍛造材を製造することを特徴とする。前記混合物中のアルミニウムスクラップの含有量xは、混合物の総質量に対して、通常は40質量%以上且つ75質量%以下の範囲であり、特に50質量%以上且つ75質量%以下の範囲である。例えば、アルミニウム新地金のみからなるAA6110合金のような従来のアルミニウム合金の場合、1 kgのアルミニウム合金鍛造材を製造するために約10 kgのCO2が排出される。これに対し、50質量%のアルミニウムスクラップの含有量の場合、アルミニウム新地金の含有量が50質量%となるので、1 kgのアルミニウム合金鍛造材を製造するときのCO2排出量は、約5 kgに低減されることになる。また、以下の実施例において示すように、前記範囲の含有量でアルミニウムスクラップを含む材料混合物を用いた場合であっても、本態様の方法を実施することにより、アルミニウム新地金のみからなる材料混合物を用いた場合と実質的に同等の強度及び耐食性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。それ故、前記範囲の含有量でアルミニウムスクラップを含む材料混合物を用いて本態様の方法を実施することにより、CO2排出量を低減しつつ、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
本発明の各態様において、アルミニウムスクラップは、アルミニウムを含有するリサイクル材料を意味する。アルミニウムスクラップは、総質量に対して、Si:0.1~0.5質量%、Mg:1.0~2.0質量%及びMn:0.10~2.0質量%を有するAl-Mg-Mn系合金であることが好ましく、Si:0.1~0.3質量%、Mg:1.3~1.6質量%及びMn:0.10~1.5質量%を有するAl-Mg-Mn系合金であることがより好ましい。アルミニウムスクラップは、アルミニウム缶又はAl-Mg系合金端材(例えば、船舶等に使用される材料の端材)であることが好ましく、アルミニウム缶であることがより好ましい。前記で例示した特徴を有するアルミニウムスクラップを含む材料混合物を用いて本態様の方法を実施することにより、アルミニウム新地金のみからなる材料混合物を用いた場合と比較して、CO2排出量を低減することができる。
本発明の各態様において、アルミニウム新地金は、ボーキサイトの精錬によって製造されるアルミニウム又はアルミニウム合金材料を意味する。アルミニウム新地金としては、例えば、軽量、高強度且つ高耐食性である6000系(Al-Mg-Si系)のアルミニウム合金を挙げることができる。アルミニウム新地金は、AA6110合金、AA6061合金又はAA6082合金等の6000系(Al-Mg-Si系)のアルミニウム合金が好ましい。前記で例示した特徴を有するアルミニウム新地金を含む材料混合物を用いて本態様の方法を実施することにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
本態様の方法において、材料混合物は、混合物の総質量に対して、Si:0.7~1.5質量%、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.20~0.7質量%、Ti:0.15質量%以下、Mn:0.20~0.80質量%、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.30質量%以下及びMg:0.050~1.2質量%を有し、残部はAl及び不可避不純物からなる。材料混合物は、混合物の総質量に対して、Si:0.9~1.3質量%、Fe:0.35質量%以下、Cu:0.4~0.75質量%、Ti:0.15質量%以下、Mn:0.40~0.80質量%、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.15質量%以下及びMg:0.8~1.2質量%を有し、残部はAl及び不可避不純物からなることが好ましい。前記で例示した元素組成は、Crを除いてアルミニウム新地金のみからなるAA6110合金のような従来のアルミニウム合金の元素組成と実質的に同一である。それ故、添加元素によって前記範囲の元素組成に調整された材料混合物を用いて本態様の方法を実施することにより、アルミニウム新地金のみからなる材料混合物を用いた場合と実質的に同等の強度及び耐食性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
本態様の方法において、添加元素は、材料混合物の元素組成を所定の範囲に調整するために材料混合物に添加される元素成分を意味する。添加元素は、通常は、Si、Fe、Cu、Ti、Mn、Cr、Zn及びMgからなる群より選択される少なくとも1個である。前記で説明したように、アルミニウムスクラップは、アルミニウム新地金と比較して、Siの含有量が少なく、Mgの含有量が多い。それ故、前記で例示した添加元素によって前記範囲の元素組成に調整された材料混合物を用いて本態様の方法を実施することにより、アルミニウム新地金のみからなる材料混合物を用いた場合と実質的に同等の強度及び耐食性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
本態様の方法は、加熱溶解工程、鍛造工程及び時効処理工程を含む。以下、本態様の方法の各工程について説明する。
[1-1. 加熱溶解工程]
本工程は、前記で説明した材料混合物を加熱溶解させることを含む。
本工程は、前記で説明した材料混合物を加熱溶解させることを含む。
本工程は、例えば電気炉のような当該技術分野で通常使用される手段を用いて実施することができる。
本工程において、材料混合物の加熱温度及び加熱時間は、当該技術分野においてアルミニウム合金の材料混合物の加熱溶解に用いられる範囲内の温度及び時間であれば、特に限定されない。加熱温度が通常用いられる温度未満の場合、材料混合物中の元素の固溶が不十分となる可能性がある。加熱温度が通常用いられる温度を超える場合、以下において説明する鍛造工程において割れが発生する可能性がある。また、加熱時間が通常用いられる温度未満の場合、材料混合物中の元素の固溶が不十分となる可能性がある。それ故、当該技術分野においてアルミニウム合金の材料混合物の加熱溶解に用いられる条件で本工程を実施することにより、材料混合物中の元素を十分に固溶させることができる。
[1-2. 鍛造工程]
本工程は、加熱溶解工程後の混合物を鍛造することを含む。
本工程は、加熱溶解工程後の混合物を鍛造することを含む。
本工程は、例えば油圧、水圧又はハンマープレスのような当該技術分野で通常使用される手段を用いて実施することができる。
本工程において、混合物の鍛造温度は、520~560℃の範囲であることが好ましく、540~555℃の範囲であることがより好ましい。また、混合物の鍛造回数は、2回以上であることが好ましく、3回以上であることがより好ましい。本工程は、前記範囲の鍛造温度及び鍛造回数で連続的に実施することが好ましい。鍛造温度が前記下限値未満の場合、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の強度が不十分となる可能性がある。鍛造温度が前記上限値を超える場合、割れが発生する可能性がある。また、鍛造回数が前記下限値未満の場合、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の強度が不十分となる可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、高強度のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
本工程において、前記で説明した条件で混合物の鍛造(熱間鍛造)を実施した直後に、焼入れ(鍛造焼入れ)を実施してもよい。鍛造焼入れを実施することにより、アルミニウム合金鍛造材の強度をさらに向上させることができる。
[1-3. 溶体化処理工程]
本態様の方法は、所望により、鍛造工程後の材料を加熱及び冷却する、溶体化処理工程を含んでもよい。
本態様の方法は、所望により、鍛造工程後の材料を加熱及び冷却する、溶体化処理工程を含んでもよい。
本工程は、例えば電気炉及び冷却水槽のような当該技術分野で通常使用される手段を用いて実施することができる。
本工程において、溶体化処理の加熱温度は、530~560℃の範囲であることが好ましく、540~555℃の範囲であることがより好ましい。溶体化処理の加熱時間は、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましい。また、溶体化処理の焼入れ水温は、25~60℃の範囲であることが好ましく、35~55℃の範囲であることがより好ましい。焼入れ水温が前記上限値を超える場合、材料中の元素の溶体化が不十分となる可能性がある。焼入れ水温が前記下限値未達の場合、焼入れ歪により製品寸法に大きな影響を与える可能性がある。また、加熱時間が前記下限値未満の場合、材料中の元素の溶体化が不十分となる可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、材料中の元素を十分に溶体化させることができる。
[1-4. 時効処理工程]
本工程は、鍛造工程後の材料を時効処理することを含む。
本工程は、鍛造工程後の材料を時効処理することを含む。
本工程は、例えば電気炉のような当該技術分野で通常使用される手段を用いて実施することができる。
本工程において、鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行うことにより、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の強度及び耐食性を向上し得ることが判明した。ここで、xは、材料混合物中のアルミニウムスクラップの含有量(質量%)である。本発明の各態様において、前記のような作用効果を奏する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明の各態様は、以下の作用及び原理に限定されるものではない。アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の導電率は、時効処理時間が長いほど高くなる(図3)。これに対し、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さは、時効処理時間が一定の長さを超えると徐々に低下する(図4)。また、アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、合金に含まれる元素の拡散速度は同一となる。このため、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さ、すなわち強度は、Mg及びSiの化合物である析出物の量によって律速すると仮定することができる。ここで、析出物は、アルミニウムスクラップ(例えばアルミニウム缶)に由来するMnを核生成サイトとして析出する。それ故、アルミニウムスクラップの含有量xに基づき定義される前記条件で時効処理を行うことにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。本工程において、例えば、アルミニウムスクラップの含有量xが50質量%の場合、鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, 4)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行うことが好ましく、185℃の時効処理温度で4~7時間の範囲の時効処理時間、又は200℃の時効処理温度で1~4時間の時効処理時間の条件で時効処理を行うことがより好ましい。例えば、アルミニウムスクラップの含有量xが75質量%の場合、鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, 2)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行うことが好ましく、185℃の時効処理温度で4~7時間の範囲の時効処理時間、又は200℃の時効処理温度で1~2時間の時効処理時間の条件で時効処理を行うことがより好ましい。本工程において、時効処理時間が前記範囲を超える場合、いわゆる過時効に起因して、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の強度が低下する可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、高強度且つ高耐食性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行うことにより、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の強度及び耐食性を向上し得ることが判明した。ここで、xは、材料混合物中のアルミニウムスクラップの含有量(質量%)である。本発明の各態様において、前記のような作用効果を奏する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明の各態様は、以下の作用及び原理に限定されるものではない。アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の導電率は、時効処理時間が長いほど高くなる(図3)。これに対し、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さは、時効処理時間が一定の長さを超えると徐々に低下する(図4)。また、アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、合金に含まれる元素の拡散速度は同一となる。このため、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さ、すなわち強度は、Mg及びSiの化合物である析出物の量によって律速すると仮定することができる。ここで、析出物は、アルミニウムスクラップ(例えばアルミニウム缶)に由来するMnを核生成サイトとして析出する。それ故、アルミニウムスクラップの含有量xに基づき定義される前記条件で時効処理を行うことにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。本工程において、例えば、アルミニウムスクラップの含有量xが50質量%の場合、鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, 4)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行うことが好ましく、185℃の時効処理温度で4~7時間の範囲の時効処理時間、又は200℃の時効処理温度で1~4時間の時効処理時間の条件で時効処理を行うことがより好ましい。例えば、アルミニウムスクラップの含有量xが75質量%の場合、鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, 2)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行うことが好ましく、185℃の時効処理温度で4~7時間の範囲の時効処理時間、又は200℃の時効処理温度で1~2時間の時効処理時間の条件で時効処理を行うことがより好ましい。本工程において、時効処理時間が前記範囲を超える場合、いわゆる過時効に起因して、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の強度が低下する可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、高強度且つ高耐食性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
<2. アルミニウム合金鍛造材>
前記で説明したように、本発明の一態様の製造方法により、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の製造方法により得られ得る、好ましくは該方法によって得られたアルミニウム合金鍛造材に関する。
前記で説明したように、本発明の一態様の製造方法により、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の製造方法により得られ得る、好ましくは該方法によって得られたアルミニウム合金鍛造材に関する。
本発明の各態様において、アルミニウム合金鍛造材の強度は、限定するものではないが、例えば、アルミニウム合金鍛造材の硬さを指標として評価することができる。アルミニウム合金鍛造材の硬さは、例えば、ビッカース硬さ(HV)として、JIS Z 2244:2009に基づき、ビッカース硬さ試験機を用いて測定することができる。アルミニウム合金鍛造材において、強度と硬さとは、一定の相関関係を有することが知られている。それ故、アルミニウム合金鍛造材の硬さを測定することにより、該鍛造材の強度を評価することができる。
本発明の各態様において、アルミニウム合金鍛造材の耐食性は、限定するものではないが、例えば、アルミニウム合金鍛造材の導電率を指標として評価することができる。アルミニウム合金鍛造材の導電率は、例えば、国際標準軟銅(抵抗率:1.7241×10-8 Ωm)の導電率を100%とした場合の相対的な導電率(%IACS)として、高精度導電率測定器等を用いて測定することができる。アルミニウム合金鍛造材において、耐食性と導電率とは、一定の相関関係を有することが知られている。それ故、アルミニウム合金鍛造材の導電率を測定することにより、該鍛造材の耐食性を評価することができる。
本態様のアルミニウム合金鍛造材は、通常は135 HV以上、例えば140 HV以上、特に140~150 HVの範囲のビッカース硬さを有する。また、本態様のアルミニウム合金鍛造材は、通常は41%IACS以上、例えば41.5%IACS以上、特に41.5~44%IACSの範囲の導電率を有する。これに対し、AA6110合金のような従来のアルミニウム合金によって得られるアルミニウム合金鍛造材は、約140 HVのビッカース硬さ及び約41%IACSの導電率を有する。それ故、本態様のアルミニウム合金鍛造材は、従来のアルミニウム合金によって得られるアルミニウム合金鍛造材と同程度又はそれを超える高強度及び高耐食性を有することができる。
本態様のアルミニウム合金鍛造材は、軽量、高強度且つ高耐食性であることから、適宜押出及び/又は鍛造を実施することにより、自動車の構造部材として使用することができる。自動車の構造部材としては、例えば、アッパーアーム、ロアーアーム及びステアリングナックル・キャリアのような自動車の足回り部品、並びにバンパリーンフォース及びドアインパクトビームのような衝突時のエネルギーを吸収するエネルギー吸収部材を挙げることができる。前記で例示した自動車の構造部材として本態様のアルミニウム合金鍛造材を使用することにより、自動車の軽量化、並びに操縦安定性及び乗り心地の向上を図ることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<I:アルミニウム合金鍛造材の製造>
[I-1:材料組成]
実施例及び比較例のアルミニウム合金鍛造材の材料組成を表1に示す。表中の元素組成及び材料組成は、材料混合物の総質量に対する質量%で示す。
[I-1:材料組成]
実施例及び比較例のアルミニウム合金鍛造材の材料組成を表1に示す。表中の元素組成及び材料組成は、材料混合物の総質量に対する質量%で示す。
[I-2:製造]
実施例及び比較例の材料を表1に示す組成に調整した後、700℃以上の温度で材料混合物を加熱溶解し連続鋳造した。実施例及び比較例の材料に、555℃の条件で鍛造を実施した。その後、実施例及び比較例の材料を、それぞれ下記に示す種々の条件でT6処理に供した。
溶体化処理:555℃、2時間の条件で材料混合物を加熱し、その後水冷した。
時効処理:170~200℃、1~10時間の条件で溶体化処理後の材料を時効処理した。
実施例及び比較例の材料を表1に示す組成に調整した後、700℃以上の温度で材料混合物を加熱溶解し連続鋳造した。実施例及び比較例の材料に、555℃の条件で鍛造を実施した。その後、実施例及び比較例の材料を、それぞれ下記に示す種々の条件でT6処理に供した。
溶体化処理:555℃、2時間の条件で材料混合物を加熱し、その後水冷した。
時効処理:170~200℃、1~10時間の条件で溶体化処理後の材料を時効処理した。
<II:アルミニウム合金鍛造材の性能評価>
[II-1:導電率と硬さとの関係]
実施例及び比較例のアルミニウム合金鍛造材の導電率及びビッカース硬さを測定した。鍛造材の導電率は、高精度導電率測定器を用いて測定した。また、鍛造材のビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009に基づき、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
[II-1:導電率と硬さとの関係]
実施例及び比較例のアルミニウム合金鍛造材の導電率及びビッカース硬さを測定した。鍛造材の導電率は、高精度導電率測定器を用いて測定した。また、鍛造材のビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009に基づき、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
実施例1~3、及び比較例1~5のアルミニウム合金鍛造材の導電率とビッカース硬さとの関係を図1に示す。図中、横軸は、国際標準軟銅(抵抗率:1.7241×10-8 Ωm)の導電率を100%とした場合の相対的な導電率(%IACS)であり、縦軸は、ビッカース硬さ(HV)である。図1に示すように、比較例1~4は、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5と比較して、ほぼ同程度又はそれを超える硬さを有するものの、導電率が低くなった。このため、比較例1~4のアルミニウム合金鍛造材は、高強度であるものの、耐食性が低い可能性がある。これに対し、実施例1~3は、比較例5と比較して、ほぼ同程度又はそれを超える硬さを有し、且つより高い導電率を有した。このため、実施例1~3のアルミニウム合金鍛造材は、高強度且つ高耐食性であると推測される。
[II-2:アルミニウム缶配合率と導電率との関係]
同一の時効処理条件(185℃、5時間)で時効処理した実施例1~3、及び比較例1~5のアルミニウム合金鍛造材において、アルミニウム缶配合率と導電率との関係を図2に示す。図中、横軸は、アルミニウム缶配合率(質量%)であり、縦軸は、導電率(%IACS)である。図2に示すように、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5の導電率(41.2%IACS)を超える導電率を得るためには、75質量%以下のアルミニウム缶配合率(実施例1~3)とする必要があることが明らかとなった。本実施例では、析出硬化量を確保するため、アルミニウム缶を材料混合物に配合した後、AA6110合金と同様の元素組成(Crの組成は除く)となるように元素成分を添加した。このため、実施例1よりアルミニウム缶配合率を低減した場合であっても、導電率はほとんど変化しなかった(結果は示していない)。しかしながら、製造時におけるCO2排出量低減の観点からは、アルミニウム缶配合率が高いことが好ましい。例えば、アルミニウム新地金のみからなるAA6110合金のような従来のアルミニウム合金の場合、1 kgのアルミニウム合金鍛造材を製造するために約10 kgのCO2が排出される。これに対し、50質量%のアルミニウム缶配合率の場合、アルミニウム新地金の配合率が50質量%となるので、1 kgのアルミニウム合金鍛造材を製造するときのCO2排出量は、約5 kgに低減されることになる。それ故、本実施例では、40質量%以上のアルミニウム缶配合率とすることにより、CO2排出量を低減しつつ、高い導電率を有することができる。
同一の時効処理条件(185℃、5時間)で時効処理した実施例1~3、及び比較例1~5のアルミニウム合金鍛造材において、アルミニウム缶配合率と導電率との関係を図2に示す。図中、横軸は、アルミニウム缶配合率(質量%)であり、縦軸は、導電率(%IACS)である。図2に示すように、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5の導電率(41.2%IACS)を超える導電率を得るためには、75質量%以下のアルミニウム缶配合率(実施例1~3)とする必要があることが明らかとなった。本実施例では、析出硬化量を確保するため、アルミニウム缶を材料混合物に配合した後、AA6110合金と同様の元素組成(Crの組成は除く)となるように元素成分を添加した。このため、実施例1よりアルミニウム缶配合率を低減した場合であっても、導電率はほとんど変化しなかった(結果は示していない)。しかしながら、製造時におけるCO2排出量低減の観点からは、アルミニウム缶配合率が高いことが好ましい。例えば、アルミニウム新地金のみからなるAA6110合金のような従来のアルミニウム合金の場合、1 kgのアルミニウム合金鍛造材を製造するために約10 kgのCO2が排出される。これに対し、50質量%のアルミニウム缶配合率の場合、アルミニウム新地金の配合率が50質量%となるので、1 kgのアルミニウム合金鍛造材を製造するときのCO2排出量は、約5 kgに低減されることになる。それ故、本実施例では、40質量%以上のアルミニウム缶配合率とすることにより、CO2排出量を低減しつつ、高い導電率を有することができる。
[II-3:時効処理条件と導電率との関係]
実施例2及び3のアルミニウム合金鍛造材において、製造時の時効処理時間と導電率との関係を図3に示す。Aは、実施例2の結果であり、Bは、実施例3の結果である。図中、横軸は、時効処理時間(時間)であり、縦軸は、導電率(%IACS)である。また、図中の点線は、比較例5の導電率(41.2%IACS)を示す。図3に示すように、アルミニウム合金鍛造材の導電率は、製造時の時効処理時間とともに向上した。実施例2のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5の導電率(41.2%IACS)を超える導電率を得るためには、185℃の時効処理温度では4時間以上の時効処理が、200℃の時効処理温度では1時間以上の時効処理が、それぞれ必要となった(図3A)。これに対し、実施例3のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5の導電率(41.2%IACS)を超える導電率を得るためには、185℃及び200℃のいずれの時効処理温度でも、1時間以上の時効処理が必要となった(図3B)。実施例1のアルミニウム合金鍛造材の場合、実施例2とほぼ同定のアルミニウム缶配合率であることから、実施例2とほぼ同様の結果となった(結果は示していない)。
実施例2及び3のアルミニウム合金鍛造材において、製造時の時効処理時間と導電率との関係を図3に示す。Aは、実施例2の結果であり、Bは、実施例3の結果である。図中、横軸は、時効処理時間(時間)であり、縦軸は、導電率(%IACS)である。また、図中の点線は、比較例5の導電率(41.2%IACS)を示す。図3に示すように、アルミニウム合金鍛造材の導電率は、製造時の時効処理時間とともに向上した。実施例2のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5の導電率(41.2%IACS)を超える導電率を得るためには、185℃の時効処理温度では4時間以上の時効処理が、200℃の時効処理温度では1時間以上の時効処理が、それぞれ必要となった(図3A)。これに対し、実施例3のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5の導電率(41.2%IACS)を超える導電率を得るためには、185℃及び200℃のいずれの時効処理温度でも、1時間以上の時効処理が必要となった(図3B)。実施例1のアルミニウム合金鍛造材の場合、実施例2とほぼ同定のアルミニウム缶配合率であることから、実施例2とほぼ同様の結果となった(結果は示していない)。
[II-4:時効処理条件と硬さとの関係]
実施例2及び3のアルミニウム合金鍛造材において、製造時の時効処理時間と硬さとの関係を図4に示す。Aは、実施例2の結果であり、Bは、実施例3の結果である。図中、横軸は、時効処理時間(時間)であり、縦軸は、ビッカース硬さ(HV)である。また、図中の点線は、比較例5のビッカース硬さ(140.5 HV)を示す。図4に示すように、アルミニウム合金鍛造材の硬さは、いわゆる過時効に起因して、製造時の時効処理時間とともに低下した。実施例2のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5のビッカース硬さ(140.5 HV)を超える硬さを得るためには、185℃の時効処理温度では4~7時間の範囲の時効処理が、200℃の時効処理温度では1~4時間の範囲の時効処理が、それぞれ必要となった(図4A)。これに対し、実施例3のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5のビッカース硬さ(140.5 HV)を超える硬さを得るためには、185℃の時効処理温度では4~7時間の範囲の時効処理が、200℃の時効処理温度では1~2時間の範囲の時効処理が、それぞれ必要となった(図4B)。
実施例2及び3のアルミニウム合金鍛造材において、製造時の時効処理時間と硬さとの関係を図4に示す。Aは、実施例2の結果であり、Bは、実施例3の結果である。図中、横軸は、時効処理時間(時間)であり、縦軸は、ビッカース硬さ(HV)である。また、図中の点線は、比較例5のビッカース硬さ(140.5 HV)を示す。図4に示すように、アルミニウム合金鍛造材の硬さは、いわゆる過時効に起因して、製造時の時効処理時間とともに低下した。実施例2のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5のビッカース硬さ(140.5 HV)を超える硬さを得るためには、185℃の時効処理温度では4~7時間の範囲の時効処理が、200℃の時効処理温度では1~4時間の範囲の時効処理が、それぞれ必要となった(図4A)。これに対し、実施例3のアルミニウム合金鍛造材の場合、従来のアルミニウム合金(AA6110合金)である比較例5のビッカース硬さ(140.5 HV)を超える硬さを得るためには、185℃の時効処理温度では4~7時間の範囲の時効処理が、200℃の時効処理温度では1~2時間の範囲の時効処理が、それぞれ必要となった(図4B)。
[II-5:高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を製造するための時効処理条件]
実施例1~3のアルミニウム合金鍛造材における製造時の時効処理条件と硬さ及び導電率との関係に基づき決定した、高い硬さ及び導電率を得るための時効処理条件を図5に示す。図中、横軸は、時効処理温度(℃)であり、縦軸は、時効処理時間(時間)である。
アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の導電率は、時効処理時間が長いほど高くなる(図3)。これに対し、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さは、時効処理時間が一定の長さを超えると徐々に低下する(図4)。また、アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、合金に含まれる元素の拡散速度は同一となる。このため、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さ、すなわち強度は、Mg及びSiの化合物である析出物の量によって律速すると仮定することができる。ここで、析出物は、アルミニウムスクラップ(アルミニウム缶)に由来するMnを核生成サイトとして析出する。それ故、材料混合物の総質量に対するアルミニウムスクラップの含有量x(質量%)に基づき定義される、以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域(図5中、網掛けの領域)の範囲内の条件で時効処理を行うことにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
実施例1~3のアルミニウム合金鍛造材における製造時の時効処理条件と硬さ及び導電率との関係に基づき決定した、高い硬さ及び導電率を得るための時効処理条件を図5に示す。図中、横軸は、時効処理温度(℃)であり、縦軸は、時効処理時間(時間)である。
アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の導電率は、時効処理時間が長いほど高くなる(図3)。これに対し、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さは、時効処理時間が一定の長さを超えると徐々に低下する(図4)。また、アルミニウム合金鍛造材の時効処理において、時効処理温度が一定の場合、合金に含まれる元素の拡散速度は同一となる。このため、結果として得られるアルミニウム合金鍛造材の硬さ、すなわち強度は、Mg及びSiの化合物である析出物の量によって律速すると仮定することができる。ここで、析出物は、アルミニウムスクラップ(アルミニウム缶)に由来するMnを核生成サイトとして析出する。それ故、材料混合物の総質量に対するアルミニウムスクラップの含有量x(質量%)に基づき定義される、以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域(図5中、網掛けの領域)の範囲内の条件で時効処理を行うことにより、高強度且つ高耐食性のアルミニウム合金鍛造材を得ることができる。
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。
Claims (3)
- アルミニウムスクラップ、アルミニウム新地金、並びにSi、Fe、Cu、Ti、Mn、Cr、Zn及びMgからなる群より選択される少なくとも1個の添加元素を含む混合物からアルミニウム合金鍛造材を製造する方法であって、
前記混合物が、混合物の総質量に対して、Si:0.7~1.5質量%、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.20~0.7質量%、Ti:0.15質量%以下、Mn:0.20~0.80質量%、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.30質量%以下及びMg:0.050~1.2質量%を有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
前記混合物中のアルミニウムスクラップの含有量xは、混合物の総質量に対して40質量%以上且つ75質量%以下の範囲であり、
以下の工程:
前記混合物を加熱溶解させる加熱溶解工程、
加熱溶解工程後の混合物を鍛造する、鍛造工程、
鍛造工程後の材料を、時効温度及び時効時間が以下:
(時効温度, 時効時間)=(185, 4)、(185, 7)、(200, 1)、(200, -2/25x+8)で囲まれる領域の範囲内の条件で時効処理を行う、時効処理工程、
を含む、前記方法。 - アルミニウムスクラップが、総質量に対して、Si:0.1~0.5質量%、Mg:1.0~2.0質量%及びMn:0.10~2.0質量%を有するAl-Mg-Mn系合金である、請求項1に記載の方法。
- アルミニウムスクラップが、アルミニウム缶である、請求項2に記載の方法。
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