JP5431233B2 - アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車足回り部品などとして使用されるアルミニウム合金鍛造材およびその製造方法に関する。
アッパーアームやロアアームなどの自動車足回り部品として使用されるアルミニウム合金鍛造材は、従来からさまざまなものが開発されている。
例えば、特許文献1には、Mg:0.5〜1.25質量%、Si:0.4〜1.4質量%、Cu:0.01〜0.7質量%、Fe:0.05〜0.4質量%、Mn:0.001〜1.0質量%、Cr:0.01〜0.35質量%、Ti:0.005〜0.1質量%を各々含み、かつZr:0.15質量%未満に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材から構成される自動車足回り部品であって、最大応力発生部位における幅方向断面組織において、最大応力が発生する断面部位の組織で観察される晶出物密度が平均面積率で1.5%以下であり、鍛造の際に生じるパーティングラインを含む断面部位の組織で観察される各粒界析出物同士の間隔が平均間隔で0.7μm以上である自動車足回り部品が記載されている。
また、この特許文献1には、最大応力が発生する断面部位の組織で観察される分散粒子のサイズが平均直径で1200Å以下であるとともに、これら分散粒子の密度が平均面積率で4%以上であり、これらリブの断面組織において観察される再結晶粒の占める面積割合が平均面積率で10%以下であり、更に、これらリブの断面組織に隣接する前記ウエブの幅方向の断面組織において観察される再結晶粒の占める面積割合が平均面積率で20%以下とすることが記載されている。
さらに、この特許文献1には、前記した所定の組成を有するアルミニウム合金溶湯を平均冷却速度が100℃/s以上で鋳造し、この鋳造した鋳塊を460〜570℃の温度範囲に10〜1500℃/hrの昇温速度で加熱して、この温度範囲に2hr以上保持する均質化熱処理を施した後に40℃/hr以上の冷却速度で室温まで冷却し、更に熱間鍛造開始温度まで再加熱して熱間金型鍛造するとともに、鍛造終了温度を350℃以上とし、この熱間鍛造後に、530〜570℃の温度範囲に20分〜8hr保持する溶体化処理を施し、その後、平均冷却速度が200〜300℃/sの範囲で焼き入れ処理を行ない、更に、人工時効硬化処理する自動車足回り部品の製造方法が記載されている。
この特許文献1に記載の発明によれば、軽量化形状とした鍛造材自動車足回り部品であっても、高強度化、高靱性化および高耐食性化させることができると記載されている。
特開2008−163445号公報
自動車足回り部品等に用いられるアルミニウム合金は、FeやSi、Tiなどの不純物により金属間化合物が晶出し、種々の特性に悪影響を及ぼすことが知られている。Feの含有量が多くなると、Al−Fe−Si系金属間化合物が晶出物として晶出し易くなる。この晶出物の晶出形状は、針状となり易く、固くて脆いという特性を有するため、耐破壊靭性と疲労特性に悪影響を及ぼす。
前記した特許文献1に記載の発明は、Feの含有量が0.4質量%以下に制限されており、Feの含有量が0.4質量%を超えると晶出物(Al−Fe−Si系金属間化合物)が粗大化するという問題があった。これに対し本発明者らは晶出物が粗大化して平均晶出物サイズが8μmを超えるようになると、耐破壊靭性と疲労特性が低下する傾向が強くなることを見出した。
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、Feの含有量が0.4質量%を超えるような場合であっても、Feの含有量が0.4質量%以下のアルミニウム合金鍛造材と同等の耐破壊靭性と疲労特性を有するアルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明に係るアルミニウム合金鍛造材は、Si:0.4質量%以上1.5質量%以下、Fe:0.4質量%超え1.0質量%以下、Cu:0.40質量%以下、Mg:0.8質量%以上1.3質量%以下、Ti:0.01質量%以上0.1質量%以下で含有し、かつZn:0.05質量%以下に規制し、さらにMn:0.01質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.4質量%以下、およびZr:0.05質量%以上0.2質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、残部が不可避的不純物およびAlからなり、平均結晶粒径が50μm以下、晶出物面積率が3%以下、平均晶出物サイズが8μm以下であることを特徴としている。
本発明に係るアルミニウム合金鍛造材においては、Si、Cu、Mgをこのような範囲で含有することにより、例えば自動車足回り部品として必要な強度を得ることができ、Tiをこのような範囲で含有することにより、鋳造組織を微細化し、またMn、Cr、Zrをこのような範囲で含有することにより、溶体化時の再結晶を抑制させ、微細結晶とすることができる。そのため、疲労特性を確保することができる。そして、水素量をこのような範囲とすることにより、ピンホールや膨れなどを抑制し、破壊靱性や疲労特性だけでなく強度や伸び等の諸特性を確保することができる。そして、本発明においては、Feをこのように多く含有させ、後記するように鍛造前に特定の条件の加熱工程を実施することで、Feを含有する晶出物の減少、微細化、および丸形状化を図るとともに結晶粒の微細化を図り、平均結晶粒径と、晶出物面積率と、平均晶出物サイズとを特定の値以下に制御することによって耐食性、耐破壊靱性、疲労特性を確保している。
本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法は、前記したアルミニウム合金鍛造材を製造するための製造方法であって、加熱温度710〜810℃かつ鋳造速度200〜330mm/分で、Si:0.4質量%以上1.5質量%以下、Fe:0.4質量%超え1.0質量%以下、Cu:0.40質量%以下、Mg:0.8質量%以上1.3質量%以下、Ti:0.01質量%以上0.1質量%以下で含有し、かつZn:0.05質量%以下に規制し、さらにMn:0.01質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.4質量%以下、およびZr:0.05質量%以上0.2質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、残部が不可避的不純物およびAlからなるアルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を420〜560℃で2.5〜8時間均質化熱処理する均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理した鋳塊を470〜545℃で0.5時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した鋳塊を鍛造終了温度330℃以上、圧下率50〜95%で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、前記鍛造材を480〜580℃で0を超え24時間以内で溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した鍛造材を75℃以下で焼入れする焼入工程と、前記焼入れした鍛造材を160〜250℃で0.5〜20時間人工時効処理する人工時効処理工程とを含むことを特徴としている。
本発明においては、前記した組成のアルミニウム合金の鋳塊を用いて鍛造を行う前に特定の条件の加熱工程を実施することで鋳塊を十分に加熱し、Feを含有する晶出物の減少、微細化、および丸形状化を図るとともに結晶粒の微細化を図り、平均結晶粒径と、晶出物面積率と、平均晶出物サイズとを特定の値以下に制御し、これにより耐食性、耐破壊靱性、疲労特性を確保することとしている。また、鍛造後の溶体化処理、焼入れ、人工時効処理により、例えば自動車足回り部品として必要な強度を確保している。
本発明に係るアルミニウム合金鍛造材は、Feの含有量が0.4質量%を超えているが、晶出物や結晶粒の粗大化を抑制し、かつ晶出物面積率も抑制したため、Feの含有量が0.4質量%以下のアルミニウム合金鍛造材と同等の耐破壊靭性と疲労特性を有している。また、Feを1.0質量%まで含有させることができるので、市中屑のリサイクル地金の配合率を増加することや、純度の低い新地金を使用することができる。
本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法は、Feの含有量が0.4質量%を超えているが晶出物や結晶粒の粗大化が抑制され、かつ晶出物面積率も抑制されたアルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
そのため、かかる製造方法によって製造されたアルミニウム合金鍛造材に、Feの含有量が0.4質量%以下のアルミニウム合金鍛造材と同等の耐破壊靭性と疲労特性を有するようにすることができる。また、市中屑のリサイクル地金の配合率を増加させることや、純度の低い新地金を使用することもできる。
また、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法は、Feを多く含んでいるのでひけ割れが生じ難い。そのため、鋳造速度を速くすることができる。
平均結晶粒径の測定方法を説明する模式図である。 (a)は、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の一例を説明する平面図であり、(b)は、(a)のA−A線断面図である。 本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法のフローを説明するフローチャートである。
以下、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材およびその製造方法について詳細に説明する。
まず、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材について説明する。
本発明に係るアルミニウム合金鍛造材は、Si:0.4質量%以上1.5質量%以下、Fe:0.4質量%超え1.0質量%以下、Cu:0.40質量%以下、Mg:0.8質量%以上1.3質量%以下、Ti:0.01質量%以上0.1質量%以下で含有し、かつZn:0.05質量%以下に規制し、さらにMn:0.01質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.4質量%以下、およびZr:0.05質量%以上0.2質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、残部が不可避的不純物およびAlからなり、平均結晶粒径が50μm以下、晶出物面積率が3%以下、平均晶出物サイズが8μm以下である。
以下、各構成要件について分説する。
(Si:0.4質量%以上1.5質量%以下)
Siは、Mgとともに人工時効処理により、主として針状のβ”相として結晶粒内に析出し、高強度(耐力)化に寄与する必須の元素である。Siの含有量が少な過ぎると、結晶粒が粗大化し、また人工時効処理で十分な強度(引張強さおよび0.2%耐力)と疲労特性を得ることができない。一方、Siの含有量が多過ぎると、連続鋳造時および溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出および析出して、耐食性と耐破壊靭性を低下させる。また、過剰Siが多くなって、高耐食性と高耐破壊靭性を得ることができない。さらに伸びが低くなるなど、加工性も阻害する。したがって、Siの含有量は0.4質量%以上1.5質量%以下、好ましくは0.6%以上1.0質量%以下とする。
(Fe:0.4質量%超え1.0質量%以下)
Feは、Mn、Crとともに分散粒子(分散相)を生成して再結晶後の粒界移動を妨げ、結晶粒の粗大化を防止するとともに、結晶粒を微細化させる効果がある。
ここで、Feの含有量が0.4質量%以下である従来のアルミニウム合金鍛造材の場合、高温で加熱処理すると分散粒子の固溶も進むため再結晶によって結晶粒が粗大化し易くなる。
本発明のようにFeを多く含有させると、分散粒子の密度が上がるため高い温度で加熱しても再結晶を抑制することができ、また、後記するように、本発明のように鍛造工程を行う前にこの加熱工程で鋳塊を十分に加熱しておくことでFe系晶出物を固溶させて減少させ、さらに微細化および丸形化させることができる。そのため、分散粒子の密度を従来材と同程度とすることが可能となる。なお、加熱工程については後に詳述する。
Feの含有量が少な過ぎると、これらの効果が無い。一方、Feの含有量が多過ぎると、Al−Fe−Si系金属間化合物などの晶出物が粗大化する。粗大化した晶出物は、耐破壊靭性および疲労特性、耐食性などを劣化させる。また耐破壊靱性が低下することで伸びも低下する。したがって、Feの含有量は0.4質量%超え1.0質量%以下、好ましくは0.4質量%超え0.7質量%以下とする。
(Cu:0.40質量%以下)
Cuは、固溶強化にて強度の向上に寄与する他、時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果も有する。しかしながら、Cuの含有量が多過ぎると、Al合金鍛造材の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、Al合金鍛造材の耐食性や耐久性を低下させる。したがって、Cuの含有量は0.40質量%以下とする。好ましくは0.10質量%以上とし、より好ましくは0.2質量%以上0.4質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上0.3質量%以下とする。
(Mg:0.8質量%以上1.3質量%以下)
Mgは、Siとともに人工時効処理により、主として針状のβ”相として結晶粒内に析出し、自動車足回り部品の高強度(耐力)化に寄与する必須の元素である。Mgの含有量が少な過ぎると、人工時効処理時の時効硬化量が低下する。また再結晶が生じやすくなるため、結晶粒粗大化がおこりやすい。Mg2Siになれない単体Siにより耐食性も低下する。一方、Mgの含有量が多過ぎると、晶出物を形成しやすくなり、さらに強度(耐力)が高くなり過ぎるため鍛造性を阻害する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に強度向上に寄与しない多量のMg2Siが析出し、却って、強度、耐破壊靭性、耐食性などを低下させる。したがって、Mg含有量は0.8質量%以上1.3質量%以下、好ましくは0.85質量%以上1.2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上1.2質量%以下とする。
(Ti:0.01質量%以上0.1質量%以下)
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化する効果がある。Tiの含有量が少な過ぎるとこの効果が発揮されない。また、結晶粒が粗大化し、強度が低下する。結果として疲労強度も低下する。しかし、Tiの含有量が多過ぎると、粗大な晶出物を形成し、耐破壊靱性が低下する。粗大な晶出物が破壊の起点となり、疲労特性を低下させる。したがって、Tiの含有量は0.01質量%以上0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.05質量%以下とする。
(Zn:0.05質量%以下に規制)
不純物として混入し易いZnは、自動車足回り部品の特性を阻害するので含有しないのが好ましいが、0.05質量%以下であれば自動車足回り部品の特性を阻害しないため許容される。しかしながら、Znの含有量が0.05質量%を超えると、耐破壊靱性、耐食性、伸びおよび疲労特性の低下が起こる。
なお、Znの0.05質量%以下の規制は、例えば、新地金を使用する場合やリサイクル地金を使用する場合であって、当該リサイクル地金中のZnの含有量が0.05質量%以下である場合は、当該新地金およびリサイクル地金をそのまま使用することができるが、Znの含有量が0.05質量%を超えるリサイクル地金を使用する場合は、Znの含有量が0.05質量%以下の新地金と混合し、Znの含有量を0.05質量%以下にしてから使用することができる。
(Mn:0.01質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.4質量%以下、およびZr:0.05質量%以上0.2質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有)
これらのうち、MnとCrは、均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Fe、Mn、Cr、Si、Alなどがその含有量に応じて選択的に結合したAl−Mn系、Al−Cr系金属間化合物からなる分散粒子(分散相)を生成する。このような分散粒子(分散相)としては、例えばAl−(Fe、Mn、Cr)−Si化合物や(Fe、Mn、Cr)3SiAl12などを挙げることができる。
製造条件にもよるが、MnとCrによるこれらの分散粒子は、微細で高密度かつ均一に分散して再結晶後の粒界移動を妨げる効果がある。そのため、結晶粒の粗大化を防止することにより結晶粒を微細なまま維持させることができる。
MnとCrの含有量が少な過ぎると、これらの効果が期待できず、結晶粒が粗大化して、強度や耐破壊靭性が低下する。一方、これらの元素の過剰な含有は溶解、鋳造時に金属間化合物である粗大な晶出物を生成し易く、破壊の起点となり、耐破壊靭性や疲労特性を低下させる原因となる。なお、耐破壊靱性は伸びと比例関係があり、伸びも低下する。このため、MnおよびCrのうちの少なくとも一方を含有させるとともに、Mnの含有量は0.01質量%以上1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下とし、Crの含有量は0.1質量%以上0.4質量%以下、好ましくは0.10質量%以上0.3質量%以下、より好ましくは0.10質量%以上0.15質量%以下とする。
Zrは、MnおよびCrと同様に分散粒子(分散相)を生成する。Zrの場合、Tiを含む場合など鋳造の条件によっては、却って鋳塊の結晶粒微細化を阻害する要因となる。特にZrは、Ti−Zrの化合物を生成して、TiB2の結晶粒微細化を阻害し、結晶粒を粗大化させる要因となる。また、疲労特性を低下させる要因ともなる。したがって、本発明では、リサイクル地金を使用することなどにより不純物として含まれるZrを、鋳造時の結晶粒を粗大化させない範囲で添加するのが望ましい。具体的には、Zrの含有量は0.05質量%以上0.2質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.10質量%以下とする。
(水素量:0.25ml/100gAl以下)
水素(H2)は不純物として混入し易く、特に、鍛造材の加工度が小さくなる場合、水素に起因する気泡が鍛造等加工で圧着せず、ブリスターが発生し、破壊の起点となるため、強度、耐破壊靭性や疲労特性を著しく低下させる。特に、高強度化した自動車足回り部品などにおいては、この水素による影響が大きい。したがって、Al100g当たりの水素量は0.25ml以下とするが、できるだけ少ない含有量とすることが好ましいことはいうまでもない。
(残部)
残部は、不可避的不純物およびAlからなる。不可避的不純物としては、C、Ni、Na、Ca、V、Hfが挙げられる。これらは不純物として混入し易く、自動車足回り部品の特性を阻害するので含有しないのが好ましいが、合計で0.10質量%以下であれば許容できる。
また、Bも不純物であるが、Tiと同様、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出や鍛造時の加工性を向上させる効果もある。しかし、300ppmを超えて含有されると、やはり粗大な晶析出物を形成し、前記した加工性を低下させる。したがって、Bの含有量は300ppm以下とするのが好ましい。
(平均結晶粒径:50μm以下)
平均結晶粒径は、機械的性質に影響する。平均結晶粒径が50μmを超えると引張特性、疲労特性が低くなる。平均結晶粒径は、好ましくは45μm以下、より好ましくは40μm以下とする。
平均結晶粒径は、短軸における切片法にて算出することができる。つまり、図1に示すように、鍛造材の表面または切断面を適当な腐食液にてエッチング後、光学顕微鏡にて50倍で撮影し、結晶粒径の長軸と直交する方向に直線を引いて当該直線上の結晶粒数を測定し、測定した結晶粒数で直線の長さを除することにより算出することができる。
(晶出物面積率:3%以下)
晶出物面積率は、添加元素の添加量とそれらの固溶量等によって決まる。晶出物面積率が3%を超えると、衝撃試験における亀裂伝播経路が多くなるため耐破壊靱性と疲労特性が低下する。晶出物面積率は、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下とする。
晶出物面積率は、SEMにて400倍のBEIを撮影し、画像解析することによって算出することができる。
(平均晶出物サイズ:8μm以下)
平均晶出物サイズは、添加量と凝固速度等によって決定される。平均晶出物サイズが8μmを超えると衝撃試験における亀裂の起点となりやすく、耐破壊靱性が低下することになる。したがって、平均晶出物サイズは8μm以下とし、より好ましくは6μm以下とする。
平均晶出物サイズは、SEMにて400倍のBEIを撮影し、解析ソフトにて同面積の円に換算させて平均サイズを算出することで求めることができる。
以上に説明した本発明に係るアルミニウム合金鍛造材は、Feの含有量が0.4質量%以下のアルミニウム合金鍛造材と同等の耐破壊靭性と疲労特性を有することができる。
つまり、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材は、不純物として最も混入し易いFeを、0.4質量%を超えて含有させることができる。そのため、Feの含有量が高くなり易いリサイクル地金の使用や、純度の低い新地金の使用が容易になる。
以上に説明した本発明に係るアルミニウム合金鍛造材は、アッパーアームやロアアームなどの自動車足回り部品として利用することができる。
なお、図2(a)に示す自動車足回り部品1(アッパーアーム)は、ニア・ネット・シェイプ成形により略三角形状に鍛造した例を示している。
具体的に説明すると、自動車足回り部品1は、三角形の各頂点部分に、ボールジョイントなどのジョイント部5a、5b、5cを有しており、これらをアーム部2a、2bで各々繋いだ形状となっている。アーム部2a、2bは、その幅方向の各周縁部(両側端部)に、アーム部の各長手方向にわたって延在するリブを有している。図2を参考にして説明すると、アーム部2aはリブ3a、3bを有し、アーム部2bはリブ3a、3cを有している。また、アーム部2a、2bは、その幅方向の各中央部に、アーム部の各長手方向にわたって延在するウエブを有している。図2を参考にして説明すると、アーム部2aはウエブ4aを有し、アーム部2bはウエブ4bを有している。
各リブ3a、3b、3cは、自動車足回り部品では略共通して比較的幅狭かつ厚い肉厚で形成されている。これに比して、各ウエブ4a、4bは、自動車足回り部品では略共通して、リブ3a、3b、3cよりも比較的広幅かつ薄い肉厚で形成されている。このため、アーム部2aを例示して説明すると、図2(b)に示すように、両縦壁部分がリブ3a、3bに相当し、中央の横壁部分がウエブ4aに相当する略H型の断面形状となる。
次に、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法について説明する。
図3に示すように、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法は、鋳造工程S1と、均質化熱処理工程S2と、加熱工程S3と、鍛造工程S4と、溶体化処理工程S5と、焼入工程S6と、人工時効処理工程S7とを含み、この順で実施することで前記したアルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
なお、本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法には、本発明における所望の効果を阻害しない工程であればこれをさらに含むことは許容される。そのような工程としては、例えば、均質化熱処理工程と加熱工程の間に行う押出工程や、加熱工程と鍛造工程の間に行うフォージングロール工程などが例示できる。
鋳造工程S1は、前記した組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を鋳造する工程である。組成については既に詳述しているので説明を省略する。
なお、水素量は、例えばアルゴンガス、窒素ガス、または塩素ガスをSNIFなどの連続脱ガス装置を使用してバブリングすることにより、アルミニウム合金100g中の含有量を0.25ml以下(0.25ml/100gAl以下)に制御することができる。なお、水素量は、0.15ml/100gAl以下に制御するのがより好ましい。
鋳造工程S1は、加熱温度710〜810℃かつ鋳造速度230〜330mm/分で行うのが好ましい。
鋳造工程S1における加熱温度が710℃未満であると溶解時間がかかり、効率よく作業することができない。また、鋳造工程S1における加熱温度が810℃を超えると酸化物であるドロスの発生量が多く、メタルロスが増えるため効率よく鋳塊を得ることができない。
鋳造速度が230mm/分未満であると鋳造時間がかかりすぎ効率的でない。また、鋳造速度が330mm/分を超えると鋳塊中央部に割れが発生する危険が高まる。
なお、加熱温度は710〜750℃とするのが好ましく、鋳造速度は200〜300mm/分とするのが好ましい。
鋳造は、連続鋳造法、半連続鋳造法、ホットトップ鋳造法などの溶解鋳造法により行うことができるが、中でも連続鋳造法により行うのが好ましい。
本発明ではFeを多く含有させることで溶湯の粘性を高くし、凝固収縮によるひけの発生量を抑えている。そのため、連続鋳造におけるひけ割れを生じ難くすることができる。したがって、鋳造工程S1として連続鋳造法を採用した場合、Feの含有量が0.4質量%以下である従来のアルミニウム合金の鋳塊を鋳造するときと比較して鋳造速度を5〜30%程度速くすることができる。
次に行う均質化熱処理工程S2は、前記鋳造工程S1で鋳造した鋳塊を420〜560℃で2.5〜8時間均質化熱処理する工程である。
均質化熱処理工程S2における加熱温度が420℃未満であったり、加熱時間が2.5時間未満であったりすると、晶出物の溶込みが不足し、晶出物の面積率が大きくなるため、製品の高耐破壊靭性化を図ることが難しくなる。一方、均質化熱処理工程S2における加熱温度が560℃を超えたり、加熱時間が8時間を超えたりすると、晶出物は溶け込み易いものの、分散粒子が粗大化するため、これを均一で微細にかつ高密度に分散(以下、微細均一分散という。)させることができない。つまり、結晶粒の微細化効果が損なわれるため、平均結晶粒径が大きくなる。
なお、均質化熱処理工程S2における加熱温度は500〜540℃とするのが好ましく、加熱時間は4〜8時間とするのが好ましい。
次に行う加熱工程S3は、前記均質化熱処理工程S2で均質化熱処理した鋳塊を470〜545℃で0.5時間以上加熱する工程である。
前記したように、本発明のようにFeは、Mn、Crとともに分散粒子(分散相)を生成して再結晶後の粒界移動を妨げる効果がある。そのため、Feを多く添加することで十分な加熱工程S3を行っても、分散粒子の数や密度を従来材と同程度とすることが可能となり、結晶粒の粗大化を防止することができるので、結晶粒を微細なまま維持させることが可能となる。よって、耐破壊靱性、疲労特性を従来材と同程度に維持させることができる。この効果は、本発明のように鍛造工程S4を行う前にこの加熱工程S3で鋳塊を十分に加熱し、Fe系晶出物を固溶させて減少させ、さらに微細化および丸形化させることで具現することができる。
加熱工程S3における加熱温度が470℃未満であったり、加熱時間が0.5時間未満であったりすると、本発明のようにFeを多く含有するアルミニウム合金鍛造材の場合、Fe系晶出物の固溶がすすまないため、耐破壊靱性、疲労特性を従来材と同程度に維持させることができない。一方、加熱温度が545℃を超えると加工時の発熱で共晶溶融が発生する危険があり、空隙の発生で機械的特性が低下するため好ましくない。また、高温の熱処理により分散粒子が粗大化および低密度化して結晶粒微細化効果が得られなくなる。
加熱工程S3における加熱温度は520〜545℃とするのが好ましい。
次に行う鍛造工程S4は、前記加熱工程S3で加熱した鋳塊を鍛造終了温度330℃以上、圧下率50〜95%で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る工程である。
鍛造工程S4における鍛造終了温度が330℃未満となると、残留歪が多くなりすぎるため再結晶が生じやすく、結晶粒が粗大化するおそれがある。また、鍛造工程S4における圧下率が50%未満であると鋳造欠陥の圧着ができないおそれがあり、さらに、結晶粒や晶出物を十分に小さくすることができない。圧下率が95%を超えると加工率が高すぎるため再結晶により結晶粒が粗大化するおそれがある。なお、鍛造終了温度は加熱温度を超えない範囲であればできる限り高い方が好ましい。
鍛造終了温度は370℃以上とするのが好ましく、圧下率は70〜90%とするのが好ましい。
かかる条件の鍛造は、例えばメカニカルプレスや油圧プレスにより行うことができる。所定の形状としては、自動車足回り部品の場合、例えば図2(a)および(b)に示す略三角形状とすることができる。もちろん、この所定の形状は、最終製品の形状であってもよい。
次に行う溶体化処理工程S5は、前記鍛造工程S4で得た鍛造材を480〜580℃で0を超え24時間以内の溶体化処理する工程である。この溶体化処理によって、後記する人工時効処理工程S7時に強度を出すための添加元素の固溶化を進めたり、晶出物の微細化による耐破壊靱性を高めたりすることができる。
溶体化処理工程S5における加熱温度が480℃未満であったり、加熱時間が0時間(すなわち、全く行わない場合)であったりすると、溶体化が不十分であるため耐破壊靱性、強度(引張強さおよび0.2%耐力)、疲労特性を得ることができない。一方、溶体化処理工程S5における加熱温度が580℃を超えたり、加熱時間が24時間を超えたりすると結晶粒が粗大化するため、平均結晶粒径が大きくなり易く、耐破壊靱性、強度(引張強さおよび0.2%耐力)、疲労特性を得ることができない。
なお、溶体化処理工程S5における加熱温度は540〜560℃とするのが好ましく、加熱時間は2.5〜8.0時間とするのが好ましい。
次に行う焼入工程S6は、前記溶体化処理工程S5で溶体化処理した鍛造材を75℃以下で焼入れする工程である。焼入れを行うことによって強度を向上させることができる。
焼入工程S6における焼入温度が75℃を超えると十分な焼きが入らず、後記する人工時効処理工程S7で強度を十分に向上させることができない。
なお、焼入温度の下限は、焼入れを行う水の常温程度、すなわち、15℃程度であればよい。
次に行う人工時効処理工程S7は、前記焼入工程S6で焼入れした鍛造材を160〜250℃で0.5〜20時間人工時効処理する工程である。なお、鍛造工程S4からこの人工時効処理工程S7までの処理は、いわゆるT6処理と呼ばれるものである。かかる人工時効処理によって、例えば自動車用足回り部品として必要な強度などを得ることができる。
人工時効処理工程S7における加熱温度が160℃未満であったり、加熱時間が0.5時間未満であったりすると十分な強度、疲労特性および耐食性を得ることができない。一方、人工時効処理工程S7における加熱温度が250℃を超えたり、加熱時間が20時間を超えたりすると、過時効処理となるため却って十分な強度と伸びを得ることができない。また、耐破壊靱性や疲労特性も低下する。
なお、人工時効処理工程S7における加熱温度は170〜250℃とするのが好ましく、加熱時間は3〜12時間とするのが好ましい。
以上に説明した本発明に係るアルミニウム合金鍛造材の製造方法によれば、Feの含有量が0.4質量%を超えているが、Feの含有量が0.4質量%以下のアルミニウム合金鍛造材と同等の耐破壊靭性と疲労特性を有するアルミニウム合金鍛造材を製造することができる。
次に、本発明の要件を満たす実施例と要件を満たさない比較例とにより本発明に係るアルミニウム合金鍛造材およびその製造方法について具体的に説明する。
下記表1、表2の鋳塊番号1〜53に示す組成を有するアルミニウム合金の鋳塊(直径φ82mmの鋳造棒)を半連続鋳造により鋳造した。半連続鋳造の条件は、加熱温度を720℃、鋳造速度を280mm/分とした。
なお、下記表1、表2において、「↓」は、上段のセルに記載された数値または記載が引用されることを示す。
Figure 0005431233
Figure 0005431233
半連続鋳造にて鋳造した鋳塊番号1〜53に係る各鋳塊は、外表面を厚さ3mm面削して、長さ500mmに切断後、各々下記表3に示す各条件で均質化熱処理と、加熱と、メカニカルプレスを用いた熱間金型鍛造と、溶体化処理と、焼入れと、人工時効処理とを行い、それぞれ鍛造材1〜53として製造した。
Figure 0005431233
鍛造材1〜53の平均結晶粒径(μm)、晶出物面積率(%)、平均晶出物サイズ(μm)、機械的特性、耐破壊靭性としてシャルピー衝撃値(J/cm2)、疲労特性として107サイクルにおける回転曲げ疲労強度(MPa)、および耐食性として耐応力腐食割れ性を評価した。なお、機械的特性として、引張強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)および伸び(%)を測定した。
これらの評価は以下のようにして行った。
平均結晶粒径(μm)は、鍛造材の切断面をエッチング後、光学顕微鏡にて50倍で撮影し、結晶粒径の長軸と直交する方向に直線を引いて当該直線上の結晶粒数を測定し、測定した結晶粒数で直線の距離を除することにより算出した(図1参照)。
平均結晶粒径は、50μm以下を合格、50μmを超えるものを不合格とした。
晶出物面積率(%)は、SEMにて400倍のBEIを撮影し、画像解析することによって算出した。
晶出物面積率は、3%以下を合格(○)、3%を超えるものを不合格(×)とした。
平均晶出物サイズ(μm)は、SEMにて400倍のBEIを撮影し、解析ソフトにて同面積の円に換算させて平均サイズを算出することで求めた。
平均晶出物サイズは、8μm以下を合格(○)、8μmを超えるものを不合格(×)とした。
機械的特性は、JIS Z 2201に準じて引張試験片(L方向、4号試験片)を鍛造材の長手方向に沿って任意の箇所から2枚切り出して作製し、JIS Z 2241に準じて引張試験機により測定し、2本の平均値を機械的特性とした。
機械的特性は、引張強さについては320MPa以上を合格、320MPa未満を不合格とし、0.2%耐力については290MPa以上を合格、290MPa未満を不合格とし、伸びについては10%以上を合格、10%未満を不合格とした。
シャルピー衝撃値(J/cm2)は、JIS Z 2202に準じてシャルピー試験片(LT方向)を鍛造材の長手方向に沿って任意の箇所から2本切り出し、長さ55mmの10mm角棒の中央に、深さ2mm、先端R1mmのUノッチを入れて作製した。これをJIS B 7722に準じてシャルピー試験機により測定し、2本の平均値をシャルピー衝撃値とした。
シャルピー衝撃値は20J/cm2以上を合格、20J/cm2未満を不合格とした。
回転曲げ疲労強度は、JIS Z 2274に準じて測定した。回転曲げ疲労強度は、107サイクルにおける強度で評価し、115MPa以上を合格(○)、115MPa未満を不合格(×)とした。
耐応力腐食割れ性は、Cリング状の試験片を作製し、ASTM G47の交互浸漬法の規定に準じて行った。但し、試験条件は、さらに、自動車足回り部品として使用されることを想定し、引張応力が付加されていることを模擬して、Cリング状の試験片のST方向に、前記機械的特性の試験片のL方向の耐力の75%の応力を付加した。この状態で塩水への浸漬と引き上げを30日間繰り返して行い、試験片に応力腐食割れが発生するか否か観察した。
耐応力腐食割れ性は、試験片に応力腐食割れが発生していないものを合格(○)、応力腐食割れが発生していたものを不合格(×)とした。
鍛造材1〜53の平均結晶粒径(μm)、晶出物面積率(%)、平均晶出物サイズ(μm)、機械的特性、シャルピー衝撃値(J/cm2)、回転曲げ疲労強度(MPa)および耐応力腐食割れ性の評価結果を下記表4、表5に示す。
Figure 0005431233
Figure 0005431233
表4、表5に示すように、鍛造材1〜39は、本発明の要件を全て満たしていたので、良好な評価結果を得ることができた。
一方、鍛造材40〜53は、本発明のいずれかの要件を満たしていなかったので、良好な評価結果を得ることができなかった。
具体的には、鍛造材40は、Siの含有量が上限を超えたため、粗大な単体Si粒子が晶出および析出し、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
鍛造材41は、Siの含有量が下限未満であったため、結晶粒が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
鍛造材42は、Feの含有量が上限を超えたため、Al−Fe−Si系金属間化合物などの晶出物が粗大化し、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
鍛造材43は、Feの含有量が下限未満であったため、結晶粒の粗大化を防止する効果を得ることができず、結晶粒を微細なまま保つことができなかった。そのため、平均結晶粒径が不合格となり、また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
鍛造材44は、Cuの含有量が上限を超えたため、Al合金鍛造材の応力腐食割れや粒界腐食の感受性が著しく高くなった。そのため、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
鍛造材45は、Mgの含有量が上限を超えたため、晶出物が形成されやすくなった結果、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
鍛造材46は、Mgの含有量が下限未満であったため、再結晶が生じやすくなり、結晶粒の粗大化が起こった結果、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
鍛造材47は、Tiの含有量が上限を超えたため、粗大な晶出物が形成された結果、平均晶出物サイズが不合格となった。また、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
鍛造材48は、Tiの含有量が下限未満であったため、結晶粒が粗大化した結果、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
鍛造材49は、Znの含有量が上限を超えたため、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
鍛造材50は、Mnの含有量が上限を超えたため、粗大な晶出物が生成された結果、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
鍛造材51は、Crの含有量が上限を超えたため、粗大な晶出物が生成された結果、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
鍛造材52は、Zrの含有量が上限を超えたため、結晶粒が粗大化した結果、平均結晶粒径が不合格となった。また、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
なお、鍛造材53は化学成分および組成が本発明の要件を満たす場合であっても、水素量が0.25ml/100gAlを超えたため鋳塊内部に気泡が発生し、強度、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が低下した。
次に、良好な評価結果を得ることのできた鋳塊番号5の組成を採用して、製造条件の検討を行った。この場合水素量は0.10ml/100gAlであった。
製造条件を下記表6、表7に示す。
なお、下記表6、表7において、「↓」は、上段のセルに記載された数値が引用されることを示す。
Figure 0005431233
Figure 0005431233
製造番号1〜38の平均結晶粒径(μm)、晶出物面積率(%)、平均晶出物サイズ(μm)、機械的特性、シャルピー衝撃値(J/cm2)、回転曲げ疲労強度(MPa)および耐応力腐食割れ性を前記と同様にして評価した。
評価結果を下記表8、表9に示す。
Figure 0005431233
Figure 0005431233
表8、表9に示すように、製造番号1〜19は、本発明の要件を全て満たしていたので、良好な評価結果を得ることができた。
一方、製造番号20〜38は、本発明のいずれかの要件を満たしていなかったので、良好な評価結果を得ることができなかった。
具体的には、製造番号20は、鋳造工程における鋳造速度が速かったため鋳造割れした。そのため、平均結晶粒径等を測定することができなかった。
製造番号21は、均質化熱処理工程における加熱温度が上限を超えていたため、分散粒子が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号22は、均質化熱処理工程における加熱温度が下限未満であったため、晶出物の溶込みが不足し、晶出物が大きくなった。そのため、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号23は、均質化熱処理工程における加熱時間が上限を超えていたため、分散粒子が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号24は、均質化熱処理工程における加熱時間が下限未満であったため、晶出物の溶込みが不足し、晶出物が大きくなった。そのため、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号25は、加熱工程における加熱温度が上限を超えていたため、分散粒子が粗大化および低密度化して結晶粒微細化効果が得られなかった結果、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、伸び、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号26は、加熱工程における加熱温度が下限未満であったため、Fe系晶出物の固溶がすすまず、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号27は、加熱工程における加熱時間が下限未満であったため、Fe系晶出物の固溶がすすまず、晶出物面積率、平均晶出物サイズが不合格となった。また、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号28は、鍛造工程における鍛造終了温度が下限未満であったため、再結晶が生じて結晶粒が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号29は、鍛造工程における圧下率が上限を超えていたため、再結晶により結晶粒が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号30は、鍛造工程における圧下率が下限未満であったため、50μmまで結晶粒を小さくしたり、晶出物を細かくしたりすることができなかった。そのため、平均結晶粒径および平均晶出物サイズが不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号31は、溶体化処理工程における加熱温度が上限を超えていたため、結晶粒が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号32は、溶体化処理工程における加熱温度が下限未満であったため、溶体化が不十分であるため、晶出物面積率が不合格となり、また、引張強さ、0.2%耐力、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号33は、溶体化処理工程における加熱時間が上限を超えていたため、結晶粒が粗大化し、平均結晶粒径が不合格となった。また、引張強さ、0.2%耐力が不合格となった。
製造番号34は、焼入工程における焼入温度が上限を超えていたため、十分な焼きが入らず、強度を十分に向上させることができなかった。そのため、引張強さ、0.2%耐力、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号35は、人工時効処理工程における加熱温度が上限を超えていたため過時効処理となりすぎ、引張強さ、0.2%耐力、伸びが低下して、不合格となった。また、シャルピー衝撃値、回転曲げ疲労強度が不合格となった。
製造番号36は、人工時効処理工程における加熱温度が下限未満であったため、引張強さ、0.2%耐力が十分に向上せず、不合格となった。また、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
製造番号37は、人工時効処理工程における加熱時間が上限を超えていたため過時効処理となりすぎ、引張強さ、0.2%耐力、伸びが低下して、不合格となった。また、シャルピー衝撃値が不合格となった。
製造番号38は、人工時効処理工程における加熱時間が下限未満であったため、0.2%耐力が十分に向上せず、不合格となった。また、回転曲げ疲労強度、耐応力腐食割れ性が不合格となった。
1 自動車足回り部品
2a、2b アーム部
3a、3b、3c リブ
4a、4b ウエブ
5a、5b、5c ジョイント部
S1 鋳造工程
S2 均質化熱処理工程
S3 加熱工程
S4 鍛造工程
S5 溶体化処理工程
S6 焼入工程
S7 人工時効処理工程

Claims (2)

  1. Si:0.4質量%以上1.5質量%以下、
    Fe:0.4質量%超え1.0質量%以下、
    Cu:0.40質量%以下、
    Mg:0.8質量%以上1.3質量%以下、
    Ti:0.01質量%以上0.1質量%以下で含有し、かつ
    Zn:0.05質量%以下に規制し、さらに
    Mn:0.01質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.4質量%以下、およびZr:0.05質量%以上0.2質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、
    水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、
    残部が不可避的不純物およびAlからなり、
    平均結晶粒径が50μm以下、
    晶出物面積率が3%以下、
    平均晶出物サイズが8μm以下
    であることを特徴とするアルミニウム合金鍛造材。
  2. 請求項1に記載のアルミニウム合金鍛造材を製造するための製造方法であって、
    加熱温度710〜810℃かつ鋳造速度230〜330mm/分で、
    Si:0.4質量%以上1.5質量%以下、
    Fe:0.4質量%超え1.0質量%以下、
    Cu:0.40質量%以下、
    Mg:0.8質量%以上1.3質量%以下、
    Ti:0.01質量%以上0.1質量%以下で含有し、かつ
    Zn:0.05質量%以下に規制し、さらに
    Mn:0.01質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.4質量%以下、およびZr:0.05質量%以上0.2質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、
    水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、
    残部が不可避的不純物およびAlからなるアルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
    前記鋳塊を420〜560℃で2.5〜8時間均質化熱処理する均質化熱処理工程と、
    前記均質化熱処理した鋳塊を470〜545℃で0.5時間以上加熱する加熱工程と、
    前記加熱した鋳塊を鍛造終了温度330℃以上、圧下率50〜95%で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、
    前記鍛造材を480〜580℃で0を超え24時間以内で溶体化処理する溶体化処理工程と、
    前記溶体化処理した鍛造材を75℃以下で焼入れする焼入工程と、
    前記焼入れした鍛造材を160〜250℃で0.5〜20時間人工時効処理する人工時効処理工程と、
    を含むことを特徴とするアルミニウム合金鍛造材の製造方法。
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