JP6100675B2 - 恒温鍛造部品及び恒温鍛造部品の製造方法 - Google Patents
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Description
金型を加熱しない熱間鍛造法では、加工中に急速に素材温度が下がり、成型性が低下するため、欠陥が発生し易く、また、形状自在性に欠け、切削工程などの後加工が必要となり、量産性に欠けると共に、用途が限定されるという問題点があった。
また、従来の恒温鍛造法では、強度や品質を向上させることができるが、大型プレス機を用いて加工速度を極端に遅くして加工する方法であるため、大量生産品や小型部品の製造には不向きであり、航空機の機体や脚などのような大型の少量部品の生産にしか採用されておらず、量産品に適用できないという問題点があった。
特に、自動車、鉄道車両、航空機等の部品製造において、近年の燃費向上、排ガス規制などの環境問題への対応から、車体や機体の重量の軽量化が求められ、一部の部品がアルミニウム合金化されているが、強度、品質確保の面から、軽量合金への転換は進んでおらず、高強度、高靭性で高品質な恒温鍛造部品の実現と、高速加工が可能で量産性に優れた恒温鍛造部品の製造方法の確立が強く望まれていた。
例えば、(特許文献1)には、「アルミニウム若しくはアルミニウム合金製の塊状アルミニウム材を再結晶温度以下に加熱し、この再結晶温度以下に加熱した塊状アルミニウム材をx軸方向,y軸方向及びz軸方向から繰り返し温間鍛造することで塊状アルミニウム材中の結晶粒を超微細結晶粒とすることを特徴とする超微細結晶粒を有するアルミニウム及びアルミニウム合金材の製造方法。」が開示されている。
しかし、(特許文献1)では、x軸,y軸,z軸の各軸方向から繰り返し鍛造を行うが、各鍛造毎に試料を90°回転させ、毎回523Kに再加熱を行う必要があるので、工程が複雑で加工に時間を要し、量産性に欠けるという問題点があった。
また、所望の形状を得るためには、切削や研磨などの様々な後加工を施す必要があり、省資源性に欠けるという問題点があった。
また、各鍛造毎に再加熱を行うことにより、試料の温度が上昇と低下を繰り返し、加熱温度がばらつき易く、結晶粒の均一性に欠けるため、剛性や靭性のばらつきが生じて歩留まりが低下し易く、品質の安定性、量産性に欠けるという問題点があった。
しかし、従来の鋼製部品と同等以上の高品質なアルミニウム合金製部品を安定して供給し、実際の自動車部品等に適用するために、さらなる均質化と強度及び靭性の向上並びに加工の高速化が強く要望されていた。
本発明の請求項1に記載の恒温鍛造部品は、Al−Mg−Si系のアルミニウム合金製の恒温鍛造部品であって、結晶粒の少なくとも一部に形成された扁平状結晶粒と、前記扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は前記結晶粒の粒界領域に点在する平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒で構成された複合組織を有し、引張り強さが360MPa以上で、伸びが14%以上である構成を有している。
この構成により、以下のような作用、効果を有する。
(1)結晶粒の少なくとも一部に形成された扁平状結晶粒と、前記扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は前記結晶粒の粒界領域に点在する平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒で構成された複合組織を有することにより、扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域が主に強度の上昇に寄与し、微細再結晶粒が強度と靭性の向上に寄与すると考えられる。これにより、従来にない高強度かつ高靭性を実現できる高品質な恒温鍛造部品を実現できる。
(2)扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は結晶粒の粒界領域に平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒が点在することにより、変形や応力が集中し易い領域で、破壊の起点となる領域の強度と靭性の両方を兼ね備えた組織を形成することができ、特に、結晶粒界や粒界三重点に沿って形成される微細再結晶粒は、塑性変形することにより破壊の起点となる粒界の応力集中を緩和して、製品の靭性を大きく向上させることができ、高靭性で耐久性、長寿命性に優れた恒温鍛造部品を実現できる。
(3)引張り強さが360MPa以上で、伸びが14%以上であることにより、高強度でありながら、高靭性を実現することができ、耐久性、長寿命性に優れる。
(4)引張り強さが360MPa以上で、伸びが14%以上であり、JIS H4040
A6061BE−T6の規格値(引張り強さ265MPa以上、伸び10%以上)を大きく上回っているので、自動車用部品などに好適に用いることができ、部品の軽量化、燃費の向上を図ることができる。
アルミニウムの結晶粒の内、扁平状結晶粒は、変形し易い方向に原子が並んだ結晶粒が鍛造成形により押し潰されて長く伸びて扁平状に変形したものである。また、微細再結晶粒は、恒温鍛造により変形が集中した扁平状結晶粒領域や結晶粒界に、変形の程度や速度に応じて瞬時に形成される。超微細析出物は結晶粒の回復や再結晶化を抑えるが、強変形領域で再結晶した結晶粒の成長を抑制する役割を果たしていると考えられる。
例えば、従来のA6061のアルミニウム合金を冷間鍛造してT8処理したものは、平均粒径が10〜100μmの結晶粒と、平均長さが150〜200nmのMg2Siの微細析出物を含む組織であることが知られている。この鍛造品は、まず冷間鍛造により扁平状の変形結晶粒組織を形成し、これをT8処理して一部又は全部を回復結晶粒にすると共に、析出による強度上昇を図っている。
これに対し、本発明の恒温鍛造部品は、変形組織若しくは回復組織を有する扁平状結晶粒と、微細再結晶粒を瞬時にかつ同時に形成することにより、強度と靭性の両方の向上を図っている。これらの組織形成は動的析出によって形成される超微細析出物が扁平状結晶粒(変形結晶粒又は回復結晶粒)の回復あるいは再結晶を起こり難くさせ、本発明のような微細再結晶粒が形成されると考えられる。また、微細再結晶粒は強度上昇にも寄与していると考えられる。
この構成により、請求項1の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。
(1)結晶粒が、鍛造成形前の溶体化処理時の外形が維持され母相内に、厚さ10μm以下に形成された変形帯を有する粒状結晶粒を含むことにより、鍛造成型により押し潰されて長く伸びた扁平状結晶粒の鍛造比が相対的に高くなる効果を生み出し、強度と靭性を備えた複合組織を形成することができ、従来にない耐久性、長寿命性に優れた恒温鍛造部品を実現できる。
尚、この変形帯の領域では双晶変形が発生している可能性もあるのではないかと推測される。
この構成により、請求項2の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。
(1)微細再結晶粒が、粒状結晶粒の変形帯の領域に点在していることにより、組織全体の強度と靭性を向上させることができ、高品質性、品質の均一性に優れる。
この構成により、請求項1乃至3の内いずれか1項の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。
(1)ビッカース硬さが120以上であることにより、従来のA6061のアルミニウム合金の冷間鍛造+T6処理品の限界値であるビッカース硬さHv=110〜120を超える高強度を実現することができ、低中炭素鋼鍛工品の代替品として軽量化が可能となり、汎用性に優れる。
(2)炭素鋼S35Cの鍛鋼品の強度仕様はビッカース硬さHv=155レベルにあるが、製品部位によってはこの鍛鋼品と同等の硬さが得られるので、強度を向上させるために設計時に肉増しなどを行う必要がほとんどなく、軽量化を図ることができ、設計自在性、加工性に優れる。
これに対して、本発明の恒温鍛造部品は、従来品に比べて硬さの増加にも関わらず、伸びを大きくすることができるので、部品の硬さを増しても脆くなることがなく、耐久性、長寿命性に優れる。
この構成により、以下のような作用、効果を有する。
(1)溶体化されたアルミニウム合金を温度調整された金型内に投入して150℃〜静的再結晶温度で鍛造成型する鍛造成型工程を有することにより、金型内部及び金型内の金属素材の温度を所定の温度に保持して製造条件を略一定に保つことができ、ばらつきの少ない高品質な恒温鍛造部品を製造することができ、品質の信頼性、高品質性に優れる。
(2)溶体化されたアルミニウム合金を温度調整された金型内に投入して150℃〜静的再結晶温度で鍛造成型する鍛造成型工程を有することにより、従来の冷間鍛造において、強度上昇のみに着目して加工硬化と析出硬化が別々に行われていたのに対し、本発明は恒温鍛造することにより加工硬化、析出硬化、結晶粒微細化硬化による強度の上昇だけでなく、靭性までも同時に向上させることができ、鍛造成型工程後に、別途、熱処理などを行うことなく、高強度、高靭性で高品質な恒温鍛造部品を製造することができ、しかも製品の最終形状に近い形状に成型することができるので、切削などの後加工が不要で、加工工数を大幅に低減することができると共に、材料歩留まりを向上させることができ、生産性、省資源性に優れる。
鍛造成型工程における加圧力は、製造する部品の形状、寸法等に応じて、適宜、選択することができるが、金型が加熱されていることにより、通常よりも加圧力を低く抑えることができ、加工速度を高速化することができる。また、その結果、金型への負担も軽減することができ、金型の長寿命化を図ることができる。
鍛造成型工程における加工速度は、金属素材の温度や製造する部品の形状、寸法等によっても異なるが、例えば成型する部品が300g以下で、金属素材の温度が120℃〜静的再結晶温度のときの加工速度は30mm/s〜150mm/sが好ましい。
鍛造成型工程における加工速度が30mm/sより遅くなるにつれ、量産性が低下する傾向があり、150mm/sより速くなるにつれ、金属素材の温度が上昇し易くなり、所定の温度を維持することが困難になって、品質にばらつきが発生し易くなる傾向があり、いずれも好ましくない。
本発明の実施の形態1における恒温鍛造部品の製造方法について説明する。
まず、金型加熱工程により、下金型と上金型を加熱する。
下金型と上金型の加熱が開始されると、下金型及び上金型の内部の表面近側部の温度を測定監視し、測定される温度に基づいて金型の内部表面温度を所定の温度に収束させ維持するように、金型加熱工程における加熱温度を調整する。
金型は、製造する部品の形状、寸法等に応じて、80℃〜210℃に温度調整した。
下金型及び上金型の金型内部表面温度が所定の温度に収束したら、鍛造成型工程において、金属素材(Al−Mg−Si系のアルミニウム合金)を金型内に投入し、下金型と上金型で挟持した金属素材を加圧して150℃〜静的再結晶温度で鍛造成型した。鍛造成型工程における金属素材の温度が、150℃よりも低くなると、成型性が低下し易くなり、静的再結晶温度よりも高くなると、組織が再配列して焼き鈍し状態になることがわかったためである。
尚、鍛造成型工程で金型内に金属素材を投入する前に、素材加熱工程において、予め溶体化された金属素材を120℃〜静的再結晶温度に加熱した。
一度溶体化させた金属素材を120℃〜静的再結晶温度に加熱し、温度調整された金型内に投入して150℃〜静的再結晶温度で恒温鍛造することにより、加工硬化、析出硬化、結晶粒微細化硬化による強度の上昇だけでなく、靭性までも同時に向上させることができ、高強度、高靭性で高品質な恒温鍛造部品を製造することができた。
尚、鍛造成型工程における加工速度は、金属素材の温度や製造する部品の形状、寸法等に応じて、適宜、選択することができる。特に、金属素材の温度に基づいて、鍛造成型工程における加工速度を調整することにより、鍛造成型工程での加工速度が速くなり過ぎて金属素材の温度が所定の温度よりも高くなることを防止でき、製造条件の均一性に優れる。
(1)溶体化されたアルミニウム合金を温度調整された金型内に投入して150℃〜静的再結晶温度で鍛造成型する鍛造成型工程を有することにより、金型内部及び金型内の金属素材の温度を所定の温度に保持して製造条件を略一定に保つことができ、ばらつきの少ない高品質な恒温鍛造部品を製造することができ、品質の信頼性、高品質性に優れる。
(2)予め素材加熱工程で加熱された金属素材を温度調整された金型内に投入して鍛造成型する鍛造成型工程を有するので、金属素材が冷えることがなく、加工圧力を低減して高速加工することができ、量産性に優れる。
(3)溶体化されたアルミニウム合金を温度調整された金型内に投入して150℃〜静的再結晶温度で鍛造成型する鍛造成型工程を有することにより、従来の冷間鍛造において、強度上昇のみに着目して加工硬化と析出硬化が別々に行われていたのに対し、本発明は恒温鍛造することにより加工硬化、析出硬化、結晶粒微細化硬化による強度の上昇だけでなく、靭性までも同時に向上させることができ、鍛造成型工程後に、別途、熱処理などを行うことなく、高強度、高靭性で高品質な恒温鍛造部品を製造することができ、しかも製品の最終形状に近い形状に成型することができるので、切削などの後加工が不要で、加工工数を大幅に低減することができると共に、材料歩留まりを向上させることができ、生産性、省資源性に優れる。
(1)結晶粒の少なくとも一部に形成された扁平状結晶粒と、前記扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は前記結晶粒の粒界領域に点在する平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒で構成された複合組織を有することにより、扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域が主に強度の上昇に寄与し、微細再結晶粒が強度と靭性の向上に寄与すると考えられる。これにより、従来にない高強度かつ高靭性を実現できる高品質な恒温鍛造部品を実現できる。
(2)扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は結晶粒の粒界領域に平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒が点在することにより、変形や応力が集中し易い領域で、破壊の起点となる領域の強度と靭性の両方を兼ね備えた組織を形成することができ、特に、結晶粒界や粒界三重点に沿って形成される微細再結晶粒は、塑性変形することにより破壊の起点となる粒界の応力集中を緩和して、製品の靭性を大きく向上させることができ、高靭性で耐久性、長寿命性に優れた恒温鍛造部品を実現できる。
(3)引張り強さが360MPa以上で、伸びが14%以上であることにより、高強度でありながら、高靭性を実現することができ、耐久性、長寿命性に優れる。
(4)引張り強さが360MPa以上で、伸びが14%以上であり、JIS H4040
A6061BE−T6の規格値(引張り強さ265MPa以上、伸び10%以上)を大きく上回っているので、自動車用部品などに好適に用いることができ、部品の軽量化、燃費の向上を図ることができる。
(5)結晶粒が、鍛造成形前の溶体化処理時の外形が維持され母相内に、厚さ10μm以下に形成された変形帯を有する粒状結晶粒を含むことにより、鍛造成型により押し潰されて長く伸びた扁平状結晶粒の鍛造比が相対的に高くなる効果を生み出し、強度と靭性を備えた複合組織を形成することができ、従来にない耐久性、長寿命性に優れた恒温鍛造部品を実現できる。
(6)微細再結晶粒が、粒状結晶粒の変形帯の領域に点在していることにより、組織全体の強度と靭性を向上させることができ、高品質性、品質の均一性に優れる。
(7)ビッカース硬さが120以上であることにより、従来のA6061のアルミニウム合金の冷間鍛造+T6処理品の限界値であるビッカース硬さHv=110〜120を超える高強度を実現することができ、低中炭素鋼鍛工品の代替品として軽量化が可能となり、汎用性に優れる。
(8)炭素鋼S35Cの鍛鋼品の強度仕様はビッカース硬さHv=155レベルにあるが、製品部位によってはこの鍛鋼品と同等の硬さが得られるので、強度を向上させるために設計時に肉増しなどを行う必要がほとんどなく、軽量化を図ることができ、設計自在性、加工性に優れる。
実施の形態1で説明した恒温鍛造部品の製造方法により、恒温鍛造部品の製造を行った。
(実施例1)
金属素材としては、アルミニウム合金(A6061−T6材)を溶体化処理(540℃で2時間加熱後水冷)したものを温度調整された金型内に投入し、金属素材の温度を170℃として、相当歪み0.5、加工速度30mm/sで鍛造成型工程を行った。
(実施例2)
鍛造成型工程における金属素材の温度を220℃とした以外は、実施例1と同様にして成型した
(比較例1)
鍛造成型工程における金属素材の温度を20℃とした以外は、実施例1と同様にして成型した
(比較例2)
鍛造成型工程における金属素材の温度を120℃とした以外は、実施例1と同様にして成型した
(実施例3)
相当歪みを1.0とした以外は、実施例1と同様にして成型した
(実施例4)
相当歪みを1.0とした以外は、実施例2と同様にして成型した
(比較例3)
鍛造成型工程における金属素材の温度を20℃とし、相当歪みを1.0とした以外は、実施例1と同様にして成型した
(比較例4)
鍛造成型工程における金属素材の温度を70℃とし、相当歪みを1.0とした以外は、実施例1と同様にして成型した
(比較例5)
鍛造成型工程における金属素材の温度を120℃とし、相当歪みを1.0とした以外は、実施例1と同様にして成型した。
その結果を表1及び図1乃至4に示す。
特に、実施例1〜4の引張強さは360MPaを超え、伸びも14%を超えており、比較例1〜5の特性を大きく改善することができた。
また、表1並びに図3に示したように、比較例1〜5のビッカース硬さが、従来のA6061のアルミニウム合金の冷間鍛造+T6処理品の限界値であるビッカース硬さHv=110〜120と同等以下であるのに対し、実施例1〜4のビッカース硬さは、これを上回る結果となった。
尚、図4に示したように、比較例1〜5と実施例1〜4のビッカース硬さと伸びとの関係を見ると、実施例1〜4は、比較例1〜5に比べ、硬さが増加しているにも関わらず、伸びが大きくなっており、部品の硬さを増しても脆くなることがなく、耐久性、長寿命性に優れるものと言える。
これらの結果から、鍛造成型工程における金属素材の温度を150℃〜静的再結晶温度とすることにより、加工硬化、析出硬化、結晶粒微細化硬化による強度の上昇だけでなく、靭性までも同時に向上させることができ、高強度、高靭性で高品質な恒温鍛造部品を製造できることがわかった。
図5より、実施例3の恒温鍛造部品の組織中には、鍛造成形により押し潰されて長く伸びた扁平状結晶粒が存在していることがわかった。
また、図6より、実施例3の恒温鍛造部品の組織中には、破線で囲まれたa1,a2のように、鍛造成形前の溶体化処理時の外形が鍛造後にも維持された粒状結晶粒も見られるが、その母相内にはb1,b2で指し示したような厚さ10μm以下の変形帯が形成されたものが存在していることがわかった。
さらに、図7より、結晶粒を拡大してみると、破線で囲まれたa3の結晶粒の母相内やc1〜c3のような扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は変形帯の領域に平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒が点在していることがわかった。
また、図8より、結晶粒の粒界領域を拡大してみると、a4の結晶粒のように、破線で囲まれたd1,d2の粒界領域にも、平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒が点在していることがわかった。
このように、実施例3の恒温鍛造部品の組織は、基本的には強変形結晶粒又は回復結晶粒(変形組織若しくは回復組織の領域を有する扁平状結晶粒や変形帯を有する粒状結晶粒)、及び微細結晶粒から構成されている。強変形結晶粒や回復結晶粒は主に強度の向上に寄与し、微細結晶粒は強度の向上のみならず靭性の向上にも寄与している。
これらの結果は、組織観察の結果からも明らかなように、強度を受け持つ変形結晶粒又は回復結晶粒と、強度及び靭性を受け持つ微細結晶粒を形成せしめたことによるものと考えられる。
尚、実施例1乃至4ではJIS規格のA6061を用いたが、A6063やその他の6000系などのAl−Mg−Si系のアルミニウム合金であれば、同様の組織を形成することができ、強度及び靭性を向上させることができるものと思われる。
Claims (5)
- Al−Mg−Si系のアルミニウム合金製の恒温鍛造部品であって、
結晶粒の少なくとも一部に形成された扁平状結晶粒と、前記扁平状結晶粒の変形組織若しくは回復組織の領域又は前記結晶粒の粒界領域に点在する平均粒径が10nm〜1000nmの微細再結晶粒で構成された複合組織を有し、
引張り強さが360MPa以上で、伸びが14%以上であることを特徴とする恒温鍛造部品。 - 前記結晶粒が、鍛造成形前の溶体化処理時の外形が鍛造後にも維持され母相内に厚さ10μm以下に形成された変形帯を有する粒状結晶粒を含むことを特徴とする請求項1に記載の恒温鍛造部品。
- 前記微細再結晶粒が、前記粒状結晶粒の前記変形帯の領域に点在していることを特徴とする請求項2に記載の恒温鍛造部品。
- ビッカース硬さが120以上であることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の恒温鍛造部品。
- 請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の恒温鍛造部品の製造方法であって、
溶体化された前記アルミニウム合金を温度調整された金型内に投入して150℃〜静的再結晶温度で鍛造成型する鍛造成型工程を備えたことを特徴とする恒温鍛造部品の製造方法。
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