JP5807896B2 - 有機酸組成の優れた自然変異株清酒酵母分離法 - Google Patents

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Description

本発明は、清酒酵母の自然変異株分離方法及び当該方法により得られた自然変異株清酒酵母に関する。詳細には、親株の人為的変異操作を行うことなく優良特性を有する自然変異株清酒酵母をスクリーニング・分離する方法、並びに、当該方法により得られる新規優良清酒酵母に関する。
清酒の品質は、製造に用いる清酒酵母の性質(特性)に影響されることが多く、より良い品質の清酒を製造するため、既存の清酒酵母より優れた特性を有する優良酵母をスクリーニングする試みが多く行われている。
しかし、現在使われている協会酵母6号(秋田県、新政)、7号(長野県、真澄)、9号(熊本県、香露)、1001号(茨城県、明利)、12号(宮城県、浦霞)などは、清酒製造場の醪から分離された酵母が主体である。これらの酵母は胞子形成能が脱落しているため、交配による遺伝子の組み換えは起こらず出芽により増殖することから優良形質が保存されると考えられている。このため、既存の協会酵母よりも優れた新しい酵母を育種するには交配育種では難しく、これまでは遺伝子組み換え、紫外線照射やEMSなどの薬品で強制的に変異を生じさせて人為的変異株をつくり、麹エキス寒天培地などを用いて純粋分離培養で単菌分離して選抜育種する方法が行われてきた。
この既存の育種技術は、人為的に変異を起こさせるため目的以外の変異が生じる可能性があり、また、変異株の中から優良酵母を選抜する方法が煩雑であるという問題点がある。つまり、選抜育種は多くの変異株の中からひとつだけを選び出す作業であり、選抜基準が最も重要であるが、これまでの選抜方法は糖類資化性、TTC法、β−アラニン法、セルレニン耐性、アミノ酸アナログなど各種の薬剤を用いた識別培養を実施して親株と異なる株を選抜している。
このように、人為的変異株をつくりその中から優良酵母を選抜するこれまでの方法は、選抜基準が明確でないため多大な労力と時間を要する欠点を持っている。このため、例えば清酒酵母においては、協会酵母の中で醪から分離した株以外の優良酵母はアルコール耐性酵母のK11、セルレニン耐性酵母のK1601、K1701、K1801などごく僅かである。
一方、清酒の品質に影響を与える成分は多数あるが、そのひとつとして有機酸が挙げられる。清酒中には、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、ピログルタミン酸などの有機酸が含まれており、清酒の風味・呈味に影響を与えている。これらの有機酸のうち、乳酸、リンゴ酸、コハク酸の3種類で清酒中の有機酸全体の約75%を占め、清酒酵母は醪において主にリンゴ酸とコハク酸を生産する。
そして、例えばリンゴ酸の生成量の多い清酒酵母の取得方法としては、清酒醪から多酸性酵母として分離する方法(非特許文献1〜3)と、協会酵母をエチルメタンスルホン酸(EMS)処理して人為的に変異を起こさせ、ジメチルコハク酸(非特許文献4)、シクロヘキシミド(非特許文献5)、2−デオキシグルコース(非特許文献6)、α−ケトグルタル酸(非特許文献7)などの化学物質を含む平板培地を用いて耐性株を得る方法などが開示されている。
しかし、上述のようなEMS処理により人為的に変異株を造り、各種化学物質を含む平板培地で耐性株を分離する方法では、有機酸生成経路以外の変異が生じる可能性があるという問題点がある。更に、EMS処理により人為的に造った変異株は親株よりもリンゴ酸が多いがコハク酸も多いという欠点が認められる。他の方法も、目的以外の成分を同時に増やしてしまう等の弊害があるものがほとんどである。
このような背景技術の中で、人為的変異株を作成することなく、簡便かつ効率的に保存菌株の中から有機酸組成の優れた清酒を製造できる自然変異株清酒酵母を取得する方法の開発が清酒製造業界において強く望まれていた。
日本醸造協会誌、96(2)、115−120(2001) 日本醸造協会誌、103(12)、949−953(2008) 日本醸造協会誌、105(1)、39−45(2010) 醗酵工学会誌、70、473−477(1992) 日本醸造協会誌、88、645−647(1993) 日本醸造協会誌、97(3)、228−233(2002) 日本醸造協会誌、98、217−220(2003)
本発明は、親株の人為的変異操作を行うことなく、呈味の優れた有機酸組成の清酒を醸造する自然変異株清酒酵母をスクリーニング・分離する方法、並びに、当該方法により得られる有機酸組成の優れた清酒を製造できる自然変異株清酒酵母を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、まず、清酒に含まれる有機酸の呈味について20〜21才のパネラーにより合成酒で確認したところ、コハク酸の評価が非常に悪く、クエン酸、リンゴ酸の評価が非常に良いことを確認した。そして、若年層や女性が嗜好的に好む清酒の有機酸組成はリンゴ酸が多くコハク酸の少ない清酒であると判断し、このような清酒を醸造するにはリンゴ酸の生成量が多く且つコハク酸の生成量が少ない新規酵母の取得が必要であると考えるに至った。
そして、窒素源としてアルギニンを単独で含む平板培地(最小栄養平板培地)で酵母が増殖できるかどうか調べたところ、当該培地においてリンゴ酸を多く生成し且つコハク酸生成量が少ない株の増殖力が高いことを見つけた。この知見に基づき、アルギニンを唯一の窒素源として構成する寒天プレート培地で酵母を培養し、生育するコロニーが大きい株を選択することで、コハク酸の生成が少なく且つリンゴ酸の生成が多い自然変異株を分離できることを見出し、本発明に至った。これは、最小栄養平板培地の場合は酵母細胞毎の増殖力に差が生じてコロニーの大きさとして現れたものであり、コロニーの大きさの異なる株を釣菌することにより自然変異株を容易に分離できることを示している。
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)アルギニンを単一の窒素源とする最小栄養平板培地で3〜12日間(好ましくは5〜10日間)人為的な変異処理を行っていない親株清酒酵母を培養し、形成されたコロニーのうち、当該清酒酵母を全てのアミノ酸を含む完全培地で培養したときに形成されるコロニーより大きい株を選択して取得すること、を特徴とするリンゴ酸高生成及びコハク酸低生成の自然変異株清酒酵母を分離する方法。
(2)更に、リンゴ酸生成量が親株より多く且つコハク酸生成量が親株より少ない株を選択して取得すること、を特徴とする(1)に記載の方法。
(3)更に、リンゴ酸生成量/コハク酸生成量比(M/S比)が親株よりも大きい株を選択して(一例としてはM/S比が0.5未満の親株から0.5以上の自然変異株を選択する)取得すること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法により得られた、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属するリンゴ酸高生成及びコハク酸低生成(一例としては清酒中のリンゴ酸が200ppm以上、コハク酸が500ppm未満など)の自然変異株清酒酵母。
(5)清酒酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−4(NITE AP−1011)。
(6)清酒酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−5(NITE AP−1029)。
(7)清酒酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−6(NITE AP−1013)
本発明によれば、親株清酒酵母の人為的変異操作を行うことなく、平板培養の段階で目的とする呈味の優れた有機酸組成の清酒を醸造する変異株を容易に識別して分離できる。これは、薬剤を用いた識別培養等を実施していた従来技術に比べると格段の効率である。さらに、本発明によれば、協会酵母などの保存菌株に僅かに含まれる自然変異株清酒酵母を簡便かつ効率的に識別分離できる。そして、遺伝子組み換え、紫外線照射、薬品処理など全く人工的な変異を加えていない極めて自然であり、且つ、従来技術のような欠点(弊害)のない優良変異株清酒酵母を当業界に提供することができる。
本発明は、親株の人為的変異操作を行うことなく呈味の優れた有機酸組成の清酒を醸造する自然変異株清酒酵母をスクリーニング・分離する方法等に関するものである。以下、清酒酵母Saccharomyces cerevisiaeを例として詳述する。
まず、本発明においては、スクリーニングの親株として協会酵母等をそのまま用いる。酵母は、生存競争のためや増殖力を高めるために置かれた環境の栄養条件によって自然変異を起こすと考えられる。協会酵母は各地の清酒製造場において自然変異株が主に増殖した醪から分離された経緯を考慮すると、実際の醪において自然変異が生じていることも予想される。しかしながら、麹エキス寒天培地、YM培地(酵母エキス、ペプトン、グルコース)などの完全栄養培地を用いるこれまでの分離培養では親株、変異株ともほぼ同じ大きさコロニーになるため保存菌株のなかに変異株が混在していることは見出せなかった。
本発明では、保存菌株中の自然変異株酵母を単離するため、まず選択培地として、炭素源としてグルコース等を1〜3%、単一の窒素源としてアルギニンを500〜2000ppm、Difco社製品のイーストナイトロゲンベース等の微量栄養素を0.1〜0.5%、寒天を1〜2%で構成する最小栄養平板培地を用いる。アルギニンと微量栄養素はフィルター等で無菌ろ過し、グルコース等と寒天は120℃、15分程度の加圧殺菌をして、両者を混合して寒天平板培地をつくる。
そして、協会酵母等を麹エキス培地で30℃、2〜4日間程度培養して酵母を増やした後、無菌水で希釈し10個/ml程度の酵母密度としたものを用意し、この希釈酵母液を寒天平板培地に植菌し、全面に均一に塗布する。30℃で3〜12日間(好ましくは5〜10日間)培養し、コロニーの大きさの違いが明瞭になった段階で、コロニーが大きいものを約10〜20コロニーを釣菌する。
選抜方法としては、人為的な変異処理を行っていない(そのままの状態の)上述の親株清酒酵母を、3〜12日間上述の選択培地で培養し、形成されたコロニーのうち当該酵母を全てのアミノ酸を含む完全培地で培養したときに形成されるコロニーより大きいもの(一例としては、コロニーの直径が5mm以上、好ましくは8mm以上のもの)を選択して取得する。このとき、なるべく大きいコロニーを選択するのが好ましい。目的のコロニーは、殺菌した竹串で釣菌し、麹エキス培地3mlなどに植菌して拡大培養することで大量に得られる。
さらに本発明においては、上述の方法により選択したいくつかの株について有機酸組成を分析し、リンゴ酸生成量が親株より多く且つコハク酸生成量が親株より少ない株、及び/又は、リンゴ酸生成量/コハク酸生成量比(M/S比)が親株よりも大きい株をさらに選択して取得することにより、より好適な自然変異株清酒酵母を分離することができる。
この選抜方法は、選択培地(最小栄養平板培地)で取得した菌株を麹エキス培地などに植菌して拡大培養し、その培養液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析などの定法によりコハク酸及びリンゴ酸の含有量を計測し、親株のそれと比較する方法が例示される。また、取得した菌株を用いて清酒を製造し、清酒中のデータを親株のものと比較して選抜しても良い。なお、この選抜は親株との比較で行うものであるが、協会酵母を親株とした場合の一例として、コハク酸は清酒中で500ppm未満(例えば、400〜499ppm)を選抜基準とすることができ、リンゴ酸は清酒中で総量として200ppm以上(例えば200〜500ppm)を選抜基準とすることができる。また、M/S比については、0.5未満の親株から0.5以上の自然変異株を選択することが例示される。
本発明では、上述のような手法で目的とする優良清酒酵母を取得することができる。一例として挙げると、協会酵母K601、K701、K1501を親株として、それぞれ優良自然変異株を取得するのに成功し、K601の中から取得した株をIYAPU−4、K701の中から取得した株をIYAPU−5、K1501の中から取得した株をIYAPU−6と命名し、独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、IYAPU−4及びIYAPU−6は2010年(平成22年)12月3日付けでそれぞれNITE AP−1011、NITE AP−1013として、IYAPU−5は2011年(平成23年)1月11日付けでNITE AP−1029として受領された。
本発明により得られる優良清酒酵母の主な菌学的性質は、親株を人為的に変異処理するものではないため、選択培地に用いた窒素源のアミノ酸の資化性、リンゴ酸及びコハク酸の生成量を除き親株と同一である。したがって、例えば協会酵母を親株とした場合には、本発明によって得られる自然変異株酵母は、胞子形成しない点やその炭素源資化性、発酵性など基本的には親株協会酵母の性質がそのまま保存されている。
協会酵母を親株として、本発明により取得した自然変異株の主な菌学的性質を例示すると、以下の通りである。なお、炭素源資化性と発酵性は酵母用真菌同定キット(アピCオキサノグラム)を使い19種類の糖類について調べた。
(a)YM液体培地で生育させたときの菌の形態
(1)栄養細胞の大きさ:長径10ミクロン程度。
(2)栄養細胞の形状:球形からやや卵形。
(3)増殖の形式:出芽。
(b)胞子形成の有無
胞子形成しない。
(c)生理学的・化学分類学的性質
(1)最適生育条件(pH、温度):5〜6。
(2)生育の範囲(pH、温度):3〜6。
(3)硝酸塩の資化:なし。
(4)脂肪の分解:なし。
(5)尿素の分解:なし。
(6)ジアゾニウムブルーBの呈色反応:不明。
(7)ゼラチンの液化:なし。
(8)カロチノイドの生成:なし。
(9)顕著な有機酸の生成:コハク酸生成が少ない。
(10)デンプン様物質の生成:特にみあたらない。
(11)ビタミンの要求性:特にない。
(12)炭素源資化性:グルコース、マルトース、シュークロースを資化する。
(13)炭素源発酵性:グルコース、シュークロースを発酵する。
本発明の最小栄養平板培地による自然変異株清酒酵母の分離法は、特殊な培養設備や試薬などを必要とせず、容易に実施することが可能である。そして、分離した自然変異株清酒酵母は、親株清酒酵母と全く同様に用いることができ、清酒製造に必要な親株由来の形質も維持しているため非常に好適である。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
(合成酒による有機酸の呈味の確認)
まず、清酒の呈味に影響する有機酸の種類について合成酒を造り官能評価試験を行った。清酒の味はグルコース濃度と酸度のバランスで決まることから、グルコース濃度3%、酸度1.5と条件を同一とした。合成酒の仕込配合は表1に示したが、各有機酸は酸度が1.5となるように有機酸使用量を変えて合成酒を造った。官能評価パネラーは63人とし、5点採点法(5点:悪い、3点:普通、1点:良い)で行った。
Figure 0005807896
結果を表2に示した。この結果から、コハク酸含有合成酒は最も評価が悪く、逆にクエン酸含有合成酒とリンゴ酸含有合成酒の評価が高いことが明らかとなった。前述のように清酒酵母はクエン酸の生成量が少なく、コハク酸とリンゴ酸の生成量が多い。このことから、リンゴ酸の生成量が多く且つコハク酸の生成量が少ない酵母を開発すれば、呈味が優れた清酒が製造できると推察された。
Figure 0005807896
(単一アミノ酸を窒素源とする培地による酵母の有機酸生成)
次に、単一アミノ酸を唯一の窒素源とする最小培地で協会酵母(K901)を培養し、有機酸生成に及ぼす影響を確認するため以下の試験を実施した。
グルコース2%、窒素源を単一のアミノ酸1000ppm、微量栄養素としてDifco社製品のイーストナイトロゲンベース(アミノ酸、硫酸アンモニウムなし)0.17%、で構成する最小培地を用いて協会酵母K901を植菌し、30℃、3日間培養し、培養液の有機酸組成を有機酸分析計で調べた。
結果を表3に示した。この結果から、アルギニンを唯一の窒素減とする培地で培養すると、リンゴ酸を多く生産し、コハク酸の生成量が少ないことが明らかとなった。この知見から、アルギニン資化量の多い酵母を育種すれば、清酒醸造におけるリンゴ酸生成量が多く且つコハク酸生成量の少ない酵母が分離できると推察された。
Figure 0005807896
(保存酵母に含まれる自然変異株の分離)
保存菌株からアルギニン資化能の高い(アルギニン資化量の多い)自然変異株を分離・取得するため、以下の試験を実施した。
最小栄養培地の調整は、Difco社のイーストナイトロゲンベース(アミノ酸、硫酸アンモニウムなし)170mg、アルギニン100mgをとり蒸留水20mlに加熱熱溶解し0.45μフィルターで無菌ろ過したA液、寒天2g、グルコース2gをとり蒸留水80mlに溶解しオートクレーブ殺菌したB液を用意し、B液が熱い内にA液を混合し、無菌シャーレ1枚に約20ml流し込み最小栄養培地プレートを5枚作成した。本培地はアルギニン濃度1000ppm、グルコース濃度2%となる。
麹エキス培地で培養保存されている協会酵母K601、K701、K901、K1501をそれぞれ100μlとり、無菌水を用いて10倍に希釈して約1000個/mlの濃度とし、希釈液100μlを最小栄養培地プレートに均一に塗布して植菌する。30℃で3〜12日間培養しコロニーが適当な大きさに達した時に培養終了とした。この条件で約50〜100個の大小のコロニーが形成された。釣菌は殺菌した竹串で行い、コロニーが大きいもの、及び小さいもの10個づつ釣菌し、麹エキス培地3mlに植菌した。これを30℃で3日間拡大培養した。培養液を約1mlとり、0.45μフイルターで除菌し、培養液の分析を行った。アルコール分はアルコメイト(理研計器社製)で測定し、有機酸組成はHPLC有機酸分析システム(島津製作所社製)で測定した。
協会酵母K601での結果を表4に示す。親株はコハク酸を222ppm生産したが、これよりもコハク酸生成量が少ない変異株が15株も多く分離できた。表中でARLと表記した株はコロニーの大きい株、ARSはコロニーの小さい株を示す。リンゴ酸とコハク酸の比(M/S比)はARL株の方が大きいことが確認された。
Figure 0005807896
(小仕込試験による優良自然変異株の選択)
アルギニンを唯一の窒素源とする最小栄養培地を用いて協会酵母K601、K701、K1501からそれぞれ親株よりも優れた自然変異株の分離を行った。実施例3で示した方法で釣菌して選抜した自然変異株を用いて小仕込試験を実施し、製成酒の有機酸組成を調べ、さらに官能試験により最終的に実用的な優良自然変異株を選抜した。小仕込試験は、表5に示した仕込配合のように総米100gの3段仕込みとした。酒母の代わりに麹エキス25mlで酵母を培養し遠心分離で酵母を集菌して仕込みに用いた(酒母省略仕込み)。 麹の代わりに酵素剤グルク吟(天野エンザイム社製品)を1仕込に50mg使用した。醪経過は最高温度10℃で30日間の醪日数として上槽した。
Figure 0005807896
選抜基準としては、製成酒のコハク酸が親株よりも少ないこと、リンゴ酸とコハク酸の比(M/S比)が親株よりも高いこと、i−ブタノールが親株と同等か少ないこと、等を指標とした。その結果、K601からIYAPU−4を、K701からIYAPU−5を、K1501からIYAPU−6を最終的に選択した。選択株と親株との差異について表6に一般成分と官能評価、表7に有機酸組成、表8に香気成分を示した。
Figure 0005807896
Figure 0005807896
Figure 0005807896
選択された3株は全てARL株であり、アルギニンを唯一の窒素源とする最小培地で増殖が良かったコロニーから選択され、本発明が実用的であることが実証された。アルコール生成量は3株とも親株と同等かそれ以上であった。官能評価は4人のパネラーで3点法により実施したが、3株とも選択した自然変異株の方が優れていた。製成酒のコハク酸は表7から明らかであるが、選択した3株とも親株より低減し500ppm以下となった。リンゴ酸は親株と同等かそれ以上になり、その比(M/S比)は親株より向上した。このコハク酸の低減とM/S比の向上が官能評価に影響したものと判断している。フーゼルアルコールは表8に示したように親株と選択株の間には大きな差異は認められなかった。
本発明を要約すれば、以下の通りである。
本発明は、簡便かつ効率的に、保存菌株の中に混在する呈味の優れた有機酸組成の清酒を醸造する自然変異株清酒酵母を単離する方法、及び、当該方法により得られた良好な風味・呈味を有する清酒の製造に用いる新規自然変異株清酒酵母を提供することを目的とする。
そして、単一の窒素源としてアルギニンを加えた最小栄養培地の平板プレートを用いて清酒酵母を8〜12日間培養し、形成されたコロニーのうち、当該清酒酵母を全てのアミノ酸を含む完全培地で培養したときに形成されるコロニーより大きいものを選択して取得する。このようにして取得した優良酵母を使用して製造した清酒は、香りや呈味に優れたものとなり、エグ味が少なく、まろやかで且つフルーティーな風味である。これは、遺伝子組み換え、紫外線照射、薬品処理など全く人為的な変異を加えていない変異株であるため極めて自然であり、当業界の要望に応えるものである。
本発明において寄託手続が進められている微生物の受領番号を下記に示す。
(1)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−4(NITE AP−1011)。
(2)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−5(NITE AP−1029)。
(3)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−6(NITE AP−1013)。

Claims (6)

  1. アルギニンを単一の窒素源とする最小栄養平板培地で3〜12日間清酒酵母を培養し、形成されたコロニーのうち、当該清酒酵母を全てのアミノ酸を含む完全培地で培養したときに形成されるコロニーより大きい株を選択して取得すること、を特徴とするリンゴ酸高生成及びコハク酸低生成の自然変異株清酒酵母を分離する方法。
  2. 更に、リンゴ酸生成量が親株より多く且つコハク酸生成量が親株より少ない株を選択して取得すること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 更に、リンゴ酸生成量/コハク酸生成量比が親株よりも大きい株を選択して取得すること、を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 清酒酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−4(NITE P−1011)。
  5. 清酒酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−5(NITE P−1029)。
  6. 清酒酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)IYAPU−6(NITE P−1013)。
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