JP5710132B2 - カプロン酸エチル生成促進酵母株、その製造方法、および、それを用いた発酵産物の製造方法 - Google Patents

カプロン酸エチル生成促進酵母株、その製造方法、および、それを用いた発酵産物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、カプロン酸エチル生成促進酵母株、その製造方法、および、それを用いた発酵産物の製造方法に関する。
カプロン酸エチルは、吟醸香の主成分であり、清酒の品質における極めて重要な成分である。このため、清酒の製造において、前記カプロン酸エチルの生成量を増加させることは、重要な課題となっている。
前記カプロン酸エチルは、前駆体であるカプロン酸のエステル化によって生成され、前駆体であるカプロン酸は、酵母の脂肪酸合成酵素(FAS:fatty acid synthase)によって生成される。そこで、前記FASの阻害物質である抗生物質セルレニンに対して耐性を示す酵母株を使用することによって、前駆体であるカプロン酸の生成量を増加させ、これに伴ってカプロン酸エチルの生成量を増加させる方法が試みられている(特許文献1)。また、カプロン酸エチル高生産酵母株として、FASのサブユニットであるFAS1またはFAS2の遺伝子に変異を導入した株についても報告されている(特許文献2および特許文献3)。
しかしながら、カプロン酸エチルの生成量をさらに増加できる、酵母株の提供が望まれている。また、このような問題は、清酒の製造には限られず、その他の酵母を用いた発酵産物についても、同様である。
特許第2632654号公報 特開2007−68411号公報 特開2002−27989号公報
そこで、本発明は、カプロン酸エチル生成能に優れる酵母株、その製造方法、ならびにそれを用いた発酵産物の製造方法の提供を目的とする。
前記目的を達成するために、本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株は、カプロン酸エチルの生成を促進するカプロン酸エチル生成促進酵母株であって、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株であることを特徴とする。
本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株のスクリーニング方法は、前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株のスクリーニング方法であって、候補酵母株から、セルレニン濃度4〜10μg/mLの条件下でセルレニン耐性を示す酵母株を選択する工程を有することを特徴とする。
本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株の製造方法は、前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株の製造方法であって、前記本発明のスクリーニング方法により、候補酵母株から、セルレニン濃度4〜10μg/mLの条件下でセルレニン耐性を示す酵母株を選択する工程を有することを特徴とする。
本発明の発酵産物の製造方法は、酵母により発酵産物を製造する方法であって、前記酵母として、前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株を使用することを特徴とする。
本発明によれば、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株を使用することによって、従来よりも、カプロン酸エチルの生成量を増加することが可能である。このため、例えば、より吟醸香に優れる清酒の製造が可能となる。また、本発明の製造方法によれば、前記範囲のセルレニン濃度で、セルレニン耐性の酵母株を選択することで、効率良く、前記ホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株を得ることができる。
図1は、実施例1における、各培養液のOD660測定結果を示すグラフである。 図2は、実施例1における、仕込み液の炭酸ガス減少量およびエタノール含有率の測定結果を示すグラフである。 図3は、実施例1における、異なるセルレニン濃度で菌体を培養したプレートの写真である。
<カプロン酸エチル生成促進酵母株>
本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株は、前述のように、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株であることを特徴とする。
以下、本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株、すなわち、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株を「ホモ接合型変異株」、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したヘテロ接合型のFAS2変異を有する酵母株を「ヘテロ接合型変異株」、FAS2遺伝子の3748位がGであるホモ接合型の野生型FAS2を有する酵母株を「ホモ接合型野生株」ともいう。
FAS2遺伝子は、FASのαサブユニットであるFAS2タンパク質をコードする遺伝子である。FAS2遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株は、前述のように、配列番号1における3748番目のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異株である。配列番号1における3748番目のGがAに変異することによって、配列番号2のアミノ酸配列で表わされるFAS2の1250番目のアミノ酸が、グリシンからセリンに変異する。
本発明者らは、鋭意研究の結果、清酒の製造等で使用されるセルレニン耐性の酵母株が、ヘテロ接合型変異株であることを見出した。前記FAS2遺伝子の前記変異は、優性であるため、ヘテロ接合型変異とホモ接合型変異との間において、セルレニン耐性に差はないと考えるのが、当業者の技術常識である。しかしながら、本発明者らは、後述するように、前記FAS2遺伝子の前記変異がホモ接合型である変異株を取得し、その性質を確認したところ、ホモ接合型野生株に対してはもちろんのこと、ヘテロ接合型変異株よりも、優れたセルレニン耐性およびカプロン酸エチル生成能を示すとの知見を得て、本発明に想到するに到った。また、本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株は、前述のように、ホモ接合型変異株であることから、セルレニン耐性の表現型も安定に維持することが可能である。また、本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株によれば、例えば、異臭物質イソバレルアルデヒドの前駆体であるイソアミルアルコールの含有量を減少することも可能である。
さらに、日本醸造協会誌第91巻87〜91頁にも記載があるように、清酒製造に使用される清酒酵母は、ほとんど胞子を形成しないため、1倍体胞子の接合によりヘテロ領域がホモ化した2倍体ホモ変異株を取得することは困難と考えることが、当該技術分野の技術常識である。そこで、本発明者らは、自らが見出した、前記ホモ接合型変異株が前記ヘテロ接合型変異株よりも優れたセルレニン耐性を示すという知見に基づき、前記ホモ接合型変異型を効率良くスクリーニングする方法に想到するに到った。この方法によれば、出現確率が極めて低いホモ接合型変異株を、効率よくスクリーニングを行うことが可能である。
本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株は、前記ホモ接合型のFAS2変異株であればよく、酵母の種類は、何ら制限されない。前記酵母の種類としては、例えば、実験室酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母、ウィスキー酵母、パン酵母、上面ビール酵母、ラガービール酵母(Saccharomyses carlsbergensis)、蒸留酒酵母および酵母基準株等があげられ、これらの酵母から、例えば、後述するように、ホモ接合型変異株を得ることができる。
本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株の製造方法は、何ら制限されないが、例えば、以下に示す本発明の製造方法があげられる。すなわち、本発明の製造方法は、前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株の製造方法であって、候補酵母株から、セルレニン濃度4〜10μg/mLの条件下でセルレニン耐性を示す酵母株を選択する工程を有することを特徴とする。前記選択工程は、前述のように、本発明のスクリーニング方法である。
本発明者らは、前述のように、ヘテロ接合型変異株は、前記濃度範囲で生育が困難であるのに対し、ホモ接合型変異株は、前記ヘテロ接合型変異株と比較して、前記濃度範囲で生育可能であることを見出した。この知見から、前記濃度範囲での候補酵母株の培養によって、ホモ接合型変異株の効率的な選択が可能となった。本発明の製造方法によれば、非常に高確率に選択を行うことができ、例えば、多数の候補酵母株であっても、前記ホモ接合型変異株を、容易にスクリーニングできる。なお、前述のように、当該技術分野の技術常識とは異なり、ヘテロ接合型変異株とホモ接合型変異株との間で、セルレニンに対する耐性が相違することは、本発明者らが初めて見出した知見である。
本発明の製造方法において、前記候補酵母株は、例えば、変異処理、細胞融合、交配等を施した酵母株があげられ、具体例としては、ホモ接合型野生株またはヘテロ接合型変異株に変異処理を施した酵母株があげられる。前記変異処理は、特に制限されず、公知の手法が採用できる。前記公知の手法としては、例えば、エチルメタンスルホン酸、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸、アクリジン系色素等を用いた化学処理、紫外線照射、放射線照射、遺伝子組換え等の方法が挙げられる。
また、本発明の製造方法において、前記候補酵母株は、例えば、前記ヘテロ接合型変異株の培養株であってもよい。ヘテロ接合型変異株を培養すると、例えば、Hiraoka et. al., Genetics, 156, 1531―1548 (2000)およびKotaka et.al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 82, 387―395 (2009)に記載されているように、10−6〜10−4という極めて低い頻度でヘテロ接合の消失(Loss of Heterozygosity:以下、「LOH」という)が生じ、ホモ接合型変異株が発生することが知られている。しかし、LOHが、このような低頻度では、ホモ接合型変異株が現れる確率が低い。しかし、本発明によれば、セルレニン濃度を前記濃度範囲に設定して培養を行い、生育した株について、例えば、さらに、遺伝子シークエンス解析等による判断を行うことで、極めて高確率に、ホモ接合型変異株のスクリーニングが可能となる。
前記セルレニン濃度は、前述のように、4〜10μg/mLであり、好ましくは4〜8μg/mLであり、特に好ましくは6〜8μg/mLである。
前記セルレニン耐性を示す酵母株の選択は、例えば、前記濃度範囲のセルレニンを含有する培地での培養により行うことができ、中でも、寒天培地を使用することが好ましい。培養の条件は、特に制限されないが、例えば、培養温度25〜37℃、培養時間48〜120時間であり、好ましくは、培養温度28〜30℃、培養時間72〜96時間である。
前記寒天培地に対する候補酵母株の播種菌体数は、特に制限されないが、例えば、培地表面積64cmあたり約1×10個が好ましい。また、同じ候補酵母株(約1×10個)を、例えば、10〜10倍に段階的に希釈し、複数の前記寒天培地に同様に播種することが好ましい。
本発明の製造方法は、さらに、選択した前記セルレニン濃度条件下でセルレニン耐性を示す酵母株について、FAS2遺伝子の3748位の塩基のシークエンス解析を行う工程を含むことが好ましい。具体的には、前記濃度範囲のセルレニンを含有する培地で生育した株を、ホモ接合型変異株である可能性が高い酵母株として選択し、これについて、例えば、FAS2遺伝子の3748位の塩基のシークエンス解析を行うことによって、ホモ接合型であることを確認する方法があげられる。
以上のようにして選択した酵母株は、例えば、2回以上、前述と同様の条件で、セルレニンによる選択を繰り返し行ってもよい。また、最終的に得られた酵母株について、FAS2遺伝子の3748位の塩基のシークエンス解析によって、ホモ接合型変異株であることの確認を行うことが好ましい。
<発酵産物>
本発明の製造方法は、酵母により発酵産物を製造する方法であって、前記酵母として、前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株を使用することを特徴とする。
本発明においては、前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株を使用することが特徴であって、その他の条件および工程は、何ら制限されない。本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株を使用することによって、カプロン酸エチルの生成量に優れる発酵産物を得ることができる。
前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株により発酵させる原料は、特に制限されないが、例えば、コメ類、ムギ類等の穀類、芋類、マメ類等の野菜、ブドウ類等の果実等が原料としてあげられる。具体例として、前記コメ類を原料として得られる発酵産物は、食品、化粧品、入浴剤等があげられる。前記食品としては、特に制限されないが、例えば、清酒、焼酎、ビール、ワイン、雑酒等の酒類、酒粕、食酢、パン等があげられる。
前記原料を前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株で発酵させる条件は、特に制限されず、従来の酵母による発酵条件と同様の条件が採用できる。
本発明の発酵産物は、前記本発明の発酵産物の製造方法により得られる。前記本発明のカプロン酸エチル生成促進酵母株により発酵させた発酵産物は、前述のようにカプロン酸エチルの生成量に優れる。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
[実施例1]
(1)ホモ接合型変異株の取得
ホモ接合型野生株として、協会9号(財団法人日本醸造協会)の酵母を使用した。前記協会9号から特開平08−23954の方法に従い、セルレニン耐性株であるヘテロ接合型変異株を取得した(以下、「GRI−117−Cer」という)。具体的には、協会9号を、YPD培地(2% グルコース、2% ポリペプトンおよび1% 酵母エキス)5mLに植菌し、30℃で1日培養した後、菌体を集菌、洗浄した。この洗浄菌体に、0.2mol/L リン酸緩衝液(pH8.0)5mL、40%ブドウ糖溶液0.25mLおよびエチルメタンサルホネート0.25mLを加え、30℃で1時間、ゆっくり攪拌しながら変異処理を行った。処理後、回収した菌体を滅菌水で洗浄し、セルレニン(最終濃度2μg/mL)を含むYPD寒天培地(YPD培地に寒天2%を加えたもの)に塗沫した。この培地に生育したセルレニン耐性株のFAS2遺伝子のシークエンス解析を行い、ヘテロ接合型であることを確認した。このGRI−117−Cer株をヘテロ接合型変異株として使用した。
前記GRI−117−Cer株を、YPD液体培地(2% グルコース、2% ポリペプトンおよび1% 酵母エキス)を用いて、30℃で3日間、振とう培養した。培養後の菌体を回収し、滅菌水で洗浄した後、滅菌水で再度懸濁した。この懸濁液を、0、2、4、6、8および10μg/mLのセルレニンを含むSD寒天培地に、1×10細胞/プレートになるように塗布し、30℃で静置培養した。前記SD寒天培地の組成は、0.67% Yeast nitrogen base w/o amino acids(Becton, Dickinson and Company社製)、0.079% Complete supplement mixture(MP Biomedicals社製)、2% Glucose、2% Agarとした。下記表1に、培養5日後の各プレート(セルレニン0、2、4、6、8および10μg/mL)での生育度合、各プレートから採取したコロニー数および採取したコロニーのうちホモ接合型変異株の数を示す。なお、生育度合は、「+」で示した。「+」の数が多いほど生育が顕著であることを示し、プレート全面にコロニーが形成されたものを最大の「++++」とした。
Figure 0005710132
前記表1に示すように、セルレニン0μg/mLおよび2μg/mLのプレートは、一面にコロニーが出現していたの対して、セルレニン4、6、8および10μg/mLのプレートに出現したコロニーは、それぞれ、数個から数十個であった。セルレニン0、2μg/mLのプレートに、1×10細胞/プレートになるように再度塗布し、0μg/mLのプレートから16個のコロニー、2μg/mLのプレートから18個のコロニー、4μg/mLのプレートから21個のコロニー、6μg/mLのプレートから24個のコロニー、8μg/mLのプレートから15個のコロニー、10μg/mLのプレートから8個のコロニーを採取し、各コロニーについて、FAS2遺伝子のシークエンス解析を行った。この結果、0μg/mLおよび2μg/mLのプレートから採取した計34個のコロニーは全てへテロ接合型変異株であった。これに対し、4μg/mLのプレートから採取した21個のコロニーのうち8個、6μg/mLのプレートから採取した24個のコロニーのうち13個、8μg/mLのプレートから採取した15個のコロニーのうち8個、及び、10μg/mLのプレートから採取した8個のコロニーのうち、5個のコロニーが、ホモ接合型変異株であることが確認された。得られたホモ接合型変異株を、GRI−117−CHRともいう。このように、本方法によれば、ヘテロ接合型変異株から通常10−6〜10−4という極めて低い頻度でしか出現しないホモ接合型変異株を、数十%の確率、すなわち、通常の1000〜10万倍という非常に高い確率で取得できることがわかった。
(2)培養
前記ホモ接合型変異株、ヘテロ接合型変異株、ホモ接合型野生株を、それぞれ、YPD液体培地(2% グルコース、2% ポリペプトンおよび1% 酵母エキス)を用いて、30℃で50時間、振とう培養を行った。
図1に、各培養液について、経時的にOD660を測定した結果を示す。図1は、各培養液の経時的なOD660の変化を表わすグラフであり、縦軸が、OD660であり、横軸が、培養時間を示す。同図において、ひし形のシンボルが、ホモ接合型野生株(WT)、丸形のシンボルが、ヘテロ接合型変異株(Hetero)、三角のシンボルが、ホモ接合型変異株(Homo)の結果である。同図に示すように、ホモ接合型野生株と比較すると、ヘテロ接合型変異株およびホモ接合型変異株の増殖率は、若干低下したが、ヘテロ接合型変異株およびホモ接合型変異株との間では、大きな差は見られなかった。
(3)セルレニン耐性試験
(3−1) 前記ホモ接合型変異株、ヘテロ接合型変異株およびホモ接合型野生株を、それぞれ、前記YPD液体培地を用いて、30℃で3日間、振とう培養した。培養後の菌体を回収し、滅菌水で洗浄した後、滅菌水で2×10細胞/μLになるように再度懸濁した。この懸濁液を、10倍、10倍、10倍、10倍と段階的に希釈して、0、2、4、6、8および10μg/mLのセルレニンを含む前記SD寒天培地に5μLずつ塗布し、30℃で静置培養した。培養5日後の各プレート(0、2、4、6および8μg/mL)の写真を、図3に示す。図3の各セルレニン濃度のプレートは、左から、前記懸濁液を、10倍、10倍、10倍、10倍希釈した結果である。
(3−2) 前記ホモ接合型変異株、ヘテロ接合型変異株およびホモ接合型野生株を、それぞれ、前記YPD液体培地を用いて、30℃で3日間、振とう培養した。培養後の菌体を回収し、滅菌水で洗浄した後、滅菌水で再度懸濁した。この懸濁液を、0、2、4、6、8および10μg/mLのセルレニンを含む前記SD寒天培地に1×10細胞/プレートになるように塗布し、30℃で静置培養した。培養5日後の各プレート(0、2、4、6、8および10μg/mL)での生育度合を、下記表2に示す。なお、生育度合は、「+」で示した。「+」の数が多いほど生育が顕著であることを示し、プレート全面にコロニーが形成されたものを最大の「++++」とした。
Figure 0005710132
これらの結果から、ヘテロ接合型変異株とホモ接合型変異株は、セルレニン耐性濃度が異なり、ホモ接合型変異株は、ヘテロ接合型変異株よりも高いセルレニン耐性能を持っていることがわかった。
(4)形質安定性試験
前記(3)と同様にして、前記ホモ接合型変異株、ヘテロ接合型変異株およびホモ接合型野生株について、培養菌体の懸濁液を準備し、4μg/mLのセルレニンを含むSD寒天培地に、1×10細胞/プレートになるように塗布し、30℃で静置培養した。培養5日後の各プレートでの生育度合を、前記(3)と同様にして評価した。そして、前記各プレートで生育したコロニーを、再度、前記YPD液体培地を用いて、30℃で3日間、振とう培養し、集菌、洗浄後、4μg/mLのセルレニンを含むSD寒天培地に、1×10細胞/プレートになるように塗布し、30℃で静置培養するという工程を繰り返し行った。これによって、継代による形質の安定性を確認した。下記表3に、継代回数と生育度合を示す。
Figure 0005710132
前記表3に示すように、ホモ接合型変異株は、セルレニン耐性の表現系が安定に保持されたのに対し、ヘテロ接合型変異株は、6回の継代でセルレニン耐性の表現系を失った。このように、ホモ接合型変異株の形質は非常に安定であることが確認できた。
(5)仕込み試験
前記ホモ接合型変異株、ヘテロ接合型変異株、ホモ接合型野生株を、それぞれ、下記組成となるように仕込み、15℃で18日間インキュベートした。そして、各仕込み液について、経時的な炭酸ガス減少量の変化を確認し、アルコメイト(理研計器社製)によって、経時的なアルコール含有率の変化を確認した。また、仕込みを18日間行った後の仕込み液を、12000×gで15分間遠心分離して、その上清をヘッドスペースガスクロマトグラフィーに供し、酢酸エチル、n−プロパノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルなどの香気成分の含有量を確認した。
仕込み液組成
α化米(精米歩合70%) 200g
乾燥麹 40g
水 365g
乳酸 50μL
図2(A)に、各仕込み液について、経時的に炭酸ガス減少量を測定した結果を示す。図2(A)において、縦軸が、炭酸ガス減少量(g)であり、横軸が、仕込み時間(日)を示す。図2(B)に、各仕込み液について、経時的にエタノール含有率を測定した結果を示す。図2(B)において、縦軸が、前記仕込み液におけるエタノールの含有率(%(v/v))であり、横軸が、仕込み時間(日)を示す。図2(A)および(B)において、ひし形のシンボルが、ホモ接合型野生株(WT)、丸形のシンボルが、ヘテロ接合型変異株(Hetero)、三角のシンボルが、ホモ接合型変異株(Homo)の結果である。
図2(A)および図2(B)に示すように、炭酸ガスの減少量およびエタノールの含有率には、大きな違いは見られなかった。
下記表4に、各香気成分の含有量を示す。下記表4に示すように、カプロン酸エチルの含有量は、ホモ接合型野生株(GRI−117)と比較して、ヘテロ接合型変異株(GRI−117−Cer)が5倍であるのに対し、ホモ接合型変異株(GRI−117−CHR)は、さらに6.5倍(ヘテロ接合型変異株の1.3倍)もの含有量を示した。このように、ホモ接合型変異株によれば、カプロン酸エチルの生成を一層促進できることがわかった。カプロン酸エチル/カプロン酸の比は、いずれの仕込み液も同程度であったことから、香りのバランスを崩さず、高香気な清酒を醸造できたといえる。また、ホモ接合型変異株によれば、吟醸香であるカプロン酸エチルの含有量を増加させるとともに、イソアミルアルコールの含有量を減少することができた。イソアミルアルコールは、異臭物質であるイソバレルアルデヒドの前駆体であることが知られており、吟醸酒の中でも官能評価点の高い物は、イソアミルアルコールの含有量が少ない傾向にあることが、福岡県工業技術センター研究報告No.19(2009)に記載されている。
Figure 0005710132
[実施例2]
(1)ホモ接合型変異株の取得
ヘテロ接合型変異株として、協会1801号(K−1801)株(日本醸造協会)を使用した。
前記実施例1と同様にして、前記YPD液体培地により前記ヘテロ接合型変異株を培養し、さらに、回収した菌体を、0、2、4、6、8および10μg/mLのセルレニンを含む前記SD寒天培地に1×10細胞/プレートになるように塗布し、30度で静置培養した。その結果、培養5日後において、セルレニン0μg/mLおよび2μg/mLのプレートは、一面にコロニーが出現していた。これに対して、セルレニン4、6、8および10μg/mLのプレートに出現したコロニーは、それぞれ、数個から数十個であった。そして、前記実施例1と同様に、セルレニン4、6、8および10μg/mLのプレートからホモ接合型変異株が取得できた。具体的には、6μg/mLのプレートからは、81のコロニーを採取した結果、18個のコロニーが、ホモ接合型変異株であることが確認された。得られたホモ接合型変異株を、K−1801−CHRとして、以下の実施例に用いた。
(2)仕込み試験
前記ヘテロ接合型変異株(K−1801)、実施例2の前記(1)で取得した5種類のホモ接合型変異株(K−1801−CHR−1、K−1801−CHR−2、K−1801−CHR−3、K−1801−CHR−4、K−1801−CHR−5)を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、16日間の仕込みを行い、日本酒度、ならびに、エタノール、グルコースおよびカプロン酸エチル等の各種香気成分の含有量を確認した。グルコースの測定は、ADAMS(登録商標)Glucose(商品名、アークレイ社製)を使用した。日本酒度の測定は、国税庁所定分析法注解(日本醸造協会)に基づいて分析を行った。また、香気成分は、それぞれ、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより分析した。これらの結果を、下記表5に示す。
Figure 0005710132
前記表5に示すように、エタノール含有率に、大きな違いは見られなかった。これに対して、カプロン酸エチルの含有量については、ホモ接合型変異株が、ヘテロ接合型変異株に対して、1.65〜2.6倍を示した。このように、ホモ接合型変異株によれば、カプロン酸エチルの生成を一層促進できることがわかった。また、ホモ接合型変異株は、吟醸香であるカプロン酸エチルの含有量を増加させるとともに、イソアミルアルコールの含有量を減少することができた。
(3)官能試験
前記(2)で得られた、16日間の仕込みを行った仕込み液について、専門パネラー5名によるブラインドでの官能試験を行い、吟醸酒としての評価を行った。この結果を、下記表6に示す。評価点は、1から5の5段階評価とし、1が最も吟醸酒として好評であることを示す。下記表6に示すように、ホモ接合型変異株を使用することで、官能評価に優れた清酒を醸造することができた。
Figure 0005710132
以上のように、本発明によれば、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株を使用することによって、従来よりも、カプロン酸エチルの生成量を増加することが可能である。このため、例えば、より吟醸香に優れる清酒の製造が可能となる。また、本発明によれば、前記範囲のセルレニン濃度で、セルレニン耐性の酵母株を選択することで、効率良く、前記ホモ接合型のFAS2変異を有する酵母株を得ることができる。

Claims (3)

  1. プロン酸エチル生成促進酵母株のスクリーニング方法であって、
    候補酵母株であるFAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したヘテロ接合型のFAS2変異を有する酵母株を、セルレニン濃度〜10μg/mLの条件下で培養し、セルレニン耐性を示す酵母株を、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有するカプロン酸エチル生成促進酵母株として選択する工程を有することを特徴とするカプロン酸エチル生成促進酵母株のスクリーニング方法。
  2. さらに、前記選択工程で選択された酵母株について、FAS2遺伝子の3748位の塩基のタイピングを行う工程を含む、請求項記載のカプロン酸エチル生成促進酵母株のスクリーニング方法。
  3. プロン酸エチル生成促進酵母株の製造方法であって、
    請求項1または2記載のスクリーニング方法によって、候補酵母株から、セルレニン濃度〜10μg/mLの条件下でセルレニン耐性を示す酵母株を、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異を有するカプロン酸エチル生成促進酵母株として選択する工程を有することを特徴とするカプロン酸エチル生成促進酵母株の製造方法。
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