JP5574221B2 - 醸造酒に含まれる微生物由来のdnaの検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、醸造酒に含まれるDNAであって、標的微生物由来のDNAの検出方法に関する。
酒類は糖質を酵母によって発酵させて製造される。従って、蒸留工程を伴わない醸造酒においては、酵母や麹菌といった製造工程で用いた微生物に由来するDNAが残存している可能性がある。醸造酒から微生物由来のDNAを検出することができれば様々な用途への応用、例えば醸造に使用した微生物を製品から推定すること、が考えられる。
醸造酒中より検出の可能性のある微生物由来のDNAとして、醸造用酵母、麹菌等のDNAが考えられる。発酵後これらの微生物菌体自体はろ過等によって分離されるため、一般には醸造酒中に残存することはない。しかし、これらの微生物は発酵中に一部又は全て死滅するため、醸造酒中にその細胞内容物が残ると考える。この際、微生物由来のDNAも醸造酒中に放出されるものと考えられる。
しかし、醸造酒は原料に由来する様々な成分等(アルコール、糖質、アミノ酸、有機酸、ホップ、ポリフェノール等)を含んでいる。さらに、原料の加熱処理、残存する微生物及び酵素に起因する変質の防止のための製品の加熱処理、又は経時等により、メイラード反応を始めとする成分間反応が起こり、黄色や赤褐色の色素成分(メラノイジン)等が増加する。これらの成分は醸造酒からのDNAの回収を困難にし、またその多くが酵素阻害作用を持っているため、PCRを阻害する。このため、醸造酒中の微生物由来のDNAをPCRにより検出することは困難であった。
食品中に含まれるDNAの抽出については数多くの報告例があるが、醸造酒由来のDNA抽出例としては、ビールの報告(特許文献1)を含め数例である。この報告では、液体加工食品のpHを直接調整した後、キャリアDNAとして精製したファージDNAを添加し、陰イオン交換カラムを用いて、液体加工食品由来のDNAを調製することを特徴としている。この方法によれば、ビール中に含まれる酵母の多コピー配列を検出することが可能となった。しかし、多コピー配列のみでは使用酵母等の識別は不可能である。
また、その他に醸造酒中の原料植物の品種判別法(特許文献2)が報告されている。この報告では、醸造酒に含まれるDNAを酵素法等によって抽出・精製して鋳型とし、植物遺伝子由来のプライマー存在下でPCRを行い、増幅DNAの多型に基づいて、醸造酒の原料植物の種類又は品種を判別することを特徴としている。しかし、本方法は醸造酒の濃縮を伴うために所定の設備が必要となり、しかも、酵母等の微生物由来の菌株判別法については確立されていなかった。
特開2002−65260号公報 特開2007−330230号公報
本発明の課題は、醸造酒に含まれるDNAであって、微生物由来のDNAを簡便に検出する方法を提供することである。さらに本発明の課題は、醸造に使用した微生物の推定や変異株の検出が可能な、DNAの検出方法を提供することである。
本発明者らが検討を重ねた結果、種々のDNAの精製方法の中から、原理の異なる特定の複数の精製方法を組み合わせて用いることにより、醸造酒に含まれるPCR阻害物質の影響を排除しつつ、醸造酒に微量に含まれるDNAを検出できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、以下の(1)〜(4)の工程:
(1) 醸造酒のアルコール沈殿処理を行ってDNAを抽出する工程、
(2) 陰イオン交換膜若しくは樹脂を用いる精製と、シリカベース膜若しくは樹脂を用いる精製とを組み合わせて、工程(1)で抽出されたDNAを精製する工程、
(3) 工程(2)で精製されたDNAからPCR阻害物質を除去する工程、並びに
(4) 工程(3)で得られたDNAを、標的微生物の特異的プライマーを用いるPCRにより増幅する工程、
を含む、醸造酒に含まれるDNAであって、該標的微生物由来のDNAの検出方法、に関するものである。
本発明により、醸造酒中に含まれるDNAであって、標的微生物由来のDNAを検出することができる。これにより、醸造酒の製造に用いられた微生物等のDNA配列の迅速な確認、同定が可能となった。
醸造酒中の酵母遺伝子(rDNA)の検出。酵母のrDNA検出用プライマーを用いてPCR後、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルの写真を図1に示す。試料は以下のとおりである。レーン1−12は市販醸造酒(レーン1−11は清酒、レーン12はワイン)、Nは水(PCR陰性対照)、Pは酵母きょうかい7号株DNA(PCR陽性対照)をそれぞれ示す。 醸造酒中の酵母遺伝子(SCC4)の検出。酵母のSCC4検出用プライマーを用いてPCR後、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルの写真を図2に示す。試料は以下のとおりである。レーン1−12は市販醸造酒(レーン1−6は清酒、レーン7−12はワイン)、Nは水(PCR陰性対照)、Pは酵母きょうかい7号株DNA(PCR陽性対照)をそれぞれ示す。 清酒中の酵母遺伝子(FAS2)の検出。酵母のFAS2検出用プライマーを用いてPCR後、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルの写真を図3に示す。試料は以下のとおりである。レーン1−18は清酒、Nは水(PCR陰性対照)、Pは酵母きょうかい7号株DNA(PCR陽性対照)をそれぞれ示す。 カプロン酸エチル高生産性に関与する酵母遺伝子(FAS2)の3748番目の塩基の識別。酵母のFAS2検出用プライマーを用いてPCR後、得られた増幅産物をシークエンスに供した。その結果、使用された酵母は2倍体であるので、3748番目の塩基には図に示される三通りの場合があることが分かった。図中の矢印は3748番目の塩基をそれぞれ示す。野生型(A)の3748番目の塩基はGを示し、変異型(B、C)の同塩基はG/A(ヘテロザイガスな変異)若しくはA(ホモザイガスな変異)を示す。 醸造酒中の酵母遺伝子(SCC4)の検出。酵母のSCC4検出用プライマーを用いてPCR後、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルの写真を図5に示す。レーン1−8は市販醸造酒、Nは水(PCR陰性対照)、Pは酵母きょうかい7号株DNA(PCR陽性対照)をそれぞれ示す。 酵母遺伝子(gDNA)の検出。電気泳動後のゲルの写真を図6に示す。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、以下の(1)〜(4)の工程を含む、醸造酒に含まれるDNAであって、当該標的微生物由来のDNAの検出方法である。
<工程(1)>
工程(1)は、醸造酒のアルコール沈殿処理を行ってDNAを抽出する工程である。
本発明における醸造酒とは、果実又は穀物原料をアルコール発酵させた後に蒸留工程を経ていない酒類がその一部に含まれる、あるいは全部を占めるものを指す。醸造酒には、以下のものに限定されないが、例えば、日本酒、ビール、発泡酒、ワイン、老酒、リンゴ酒等が含まれる。
醸造酒からDNAを抽出するために、醸造酒のアルコール沈殿処理を行う。具体的には、醸造酒に直接、塩及びアルコールを添加し、遠心分離することで、DNAを抽出する。塩としては、酢酸ナトリウム、塩化リチウム、酢酸アンモニウム等が挙げられ、酢酸ナトリウムが好ましい。アルコールとしては、イソプロパノール、エタノール等が挙げられ、イソプロパノールが好ましい。添加する塩及びアルコールの量や、その他の具体的なアルコール沈殿処理の条件、及び遠心分離の条件としては、公知の条件を適宜採用することができる。
本発明においては、醸造酒の凍結乾燥等の濃縮操作を経ることなく、その後の操作に使用することができるDNAを上記のように簡便に抽出することができる。
<工程(2)>
工程(2)は、陰イオン交換膜若しくは樹脂を用いる精製と、シリカベース膜若しくは樹脂を用いる精製とを組み合わせて、工程(1)で抽出されたDNAを精製する工程である。
陰イオン交換膜又は樹脂、及びシリカベース膜又は樹脂としては、多くのメーカーからDNA精製用製品として市販されているものを使用することができるが、市販品に限定されるわけではない。陰イオン交換膜又は樹脂の具体例としては、陰イオン交換膜又は樹脂を利用したキット、例えば、Invitrogen社のChargeSwitch-pro PCR Clean-up Kit、Qiagen社のGenomic-tipが挙げられる。シリカベース膜又は樹脂の具体例としては、シリカベース膜又は樹脂を利用したキット、例えば、Promega社のWizard PCR Preps DNA Purification System、同じくPromega社のWizard DNA Clean-up Systemが挙げられる。これらの樹脂等によるDNAの精製操作、例えばカラムの平衡化等としては、製品に添付された取扱説明書に従って行えばよいが、適宜アレンジしてもよい。例えば、アルコール沈殿により抽出されたDNAをカラムにアプライし、製品付属の洗浄用緩衝液又はそれに準ずるものにより洗浄後、製品付属の溶出用緩衝液又はpH変更、塩濃度変更によりDNAを溶出する。
工程(2)における、陰イオン交換膜又は樹脂による精製操作とシリカベース膜又は樹脂による精製操作の順序としては特に制限されない。標的微生物のDNAをより確実に検出する観点からは、工程(1)で抽出されたDNAを最初に陰イオン交換膜又は樹脂を用いて精製し、次いで、精製されたDNAを、シリカベース膜又は樹脂を用いてさらに精製することが好ましい。
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で精製されたDNAからPCR阻害物質を除去する工程である。
本工程において、PCR阻害物質を除去するための操作の一例としては、PCR阻害物質を除去する膜又は樹脂を用いて精製DNAを処理する操作が挙げられる。PCR阻害物質を除去する膜又は樹脂としては、多くのメーカーからDNA精製用製品として市販されているものを使用することができるが、市販品に限定されるわけではない。PCR阻害物質を除去する膜又は樹脂の具体例としては、PCR阻害物質を除去する膜又は樹脂を利用したキット、例えば、ZymoResearch社のOneStep PCR Inhibitor Removal Kit、GLサイエンス社のMonoFas genome for Legionella Columnが挙げられる。かかる樹脂等によるPCR阻害物質の除去操作としては、製品に添付された取扱説明書に従って行えばよいが、適宜アレンジしてもよい。例えば、工程(2)で得られた精製されたDNAを、製品添付のPCR阻害物質を除去する膜若しくは樹脂にアプライし、製品添付の取扱説明書に従ってDNAを溶出する。
<工程(4)>
工程(4)は、工程(3)で得られたDNAを、標的微生物の特異的プライマーを用いるPCRにより増幅する工程である。
標的微生物のDNAの検出は、適切な遺伝子をターゲットとしたプライマーを用いるPCRによりDNAを増幅することによって行われる。PCRは通常、2種の特異的プライマーを用いて実施され、次いで、増幅産物を電気泳動後、検出されるバンドを確認し、場合によってはシークエンスにより得られたDNAの配列を確認することにより、標的微生物のDNAの検出を確定する。工程(4)においては、必要に応じてnested PCR又は2nd PCRを行ってもよい。
標的微生物としては、醸造酒に含まれ得る微生物、即ち醸造酒の製造に用いられた微生物の他に、醸造酒に含まれることが好ましくない微生物が挙げられる。具体的な標的微生物の設定は、標的微生物の特異的プライマーを選択することにより行うことができる。標的微生物の具体例としては、例えば、Saccharomyces属の酵母及びAspergillus属のカビからなる群より選択される一種以上の微生物が挙げられる。Saccharomyces属の酵母の具体例としては、Saccharomyces cerevisiaeが挙げられる。Aspergillus属のカビの具体例としては、Aspergillus oryzaeが挙げられる。
標的微生物の特異的プライマーとしては、例えば、配列表の配列番号:1〜配列番号:10に規定の配列からなる群より選択される一種以上の配列が挙げられる。
酵母のDNAを検出する場合、例えば、配列表の配列番号1〜4に記載の配列を有するプライマーを用いることができる。これらの配列は、酵母のrDNA検出(ITS領域)用プライマーである。
酵母のDNAを検出する場合、例えば、配列表の配列番号5〜8に記載の配列を有するプライマーを用いることもできる。これらの配列は、酵母の単コピー配列であるSCC4の検出用プライマーである。かかるプライマーを用いることにより、酵母のDNAを検出することができる。
酵母のDNAを検出する場合、例えば、配列表の配列番号9〜10に記載の配列を有するプライマーを用いることもできる。これらの配列は、酵母のFAS2変異点検出用プライマーである。かかるプライマーを用いることにより、酵母の変異株を判別することができる。
標的微生物の特異的プライマーとしては、標的微生物の単コピー配列でもよく、又は多コピー配列でもよい。醸造に使用した微生物をより確実に検出する観点から、特異的プライマーとして標的微生物の単コピー配列を用いることが好ましい。標的微生物の単コピー配列は、公知の配列データベースから、目的に応じて適宜設定することができる。さらに本発明においては、一塩基多型検出プライマーを用いてもよい。
本発明によれば、従来の方法では増幅させることができなかった、醸造酒に含まれるDNAを増幅させることができる。増幅されたDNAについては、従来より公知の方法、例えば電気泳動を利用した方法や、シークエンサーによる配列決定法等を用いて、微生物の推定や変異株の検出を行うことができる。
本発明を下記実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 市販の醸造酒に含まれるDNAの検出
<清酒及びワインからのDNAの抽出>
市販の清酒及びワインを試料とした。50mLの遠沈管に試料を20mL分注し、これに2mLの3M酢酸ナトリウム(pH5.2)、20mLのイソプロパノールを加え、転倒混和後、遠心(20℃、9000×g、20分間)した。得られた沈殿に20mLの70%エタノールを加え、遠心(20℃、9000×g、5分間)した。上清を捨て、風乾した後、100μLのTE緩衝液(pH8.0)に溶解させた。得られた粗DNA溶液を遠心(4℃、21900×g、30分間)、上清のみ回収した。
この粗DNA溶液を陰イオン交換樹脂を利用したキット、具体的にはInvitrogen社のChargeSwitch-pro PCR Clean-up Kitを用いてDNAの精製を行った。即ち、上述の粗抽出液に等量のPurification Bufferを加え、混合した。これを適量ずつカラムに添加し、遠心(20℃、10000×g、1分間)した。試料を全て添加するまで、操作を繰り返した。500μLのWash Bufferをカラムに添加し、遠心(20℃、10000×g、1分間)した。200μLのElution Bufferをカラムに添加し、室温で1分間静置した後、遠心(20℃、10000×g、1分間)した。
次に、得られたこのDNA溶液(約200μL)をシリカベース樹脂を利用したキット、具体的にはPromega社のWizard PCR Preps DNA Purification Systemを用いてDNAの精製を行った。即ち、200μLのDNA溶液に100μLのDirect Purification Bufferと1mLの樹脂を加えて、混合後、1分間室温に静置した。この操作を2回繰り返し、計3回行った。得られたこの懸濁液を、シリンジを用いてカラムにつめた。2mLの80%のイソプロパノールで洗浄後、カラムを遠心(20℃、10000×g、2分間)した。あらかじめ65℃で加温しておいた超純水若しくはTE緩衝液(pH8.0)を200μL添加し、遠心(20℃、5000×g、20秒間)した。
最後に、得られたこのDNA溶液からフミン酸、ポリフェノール等のPCR阻害物質を除去する樹脂を利用したキット、具体的にはZymoResearch社のOneStep PCR Inhibitor Removal Kitを用いて、かかる阻害物質を除去した。カラムを軽く振り、中の担体を懸濁後、カラムの下部をねじ切り、添付のチューブに装着した後、遠心(20℃、8000×g、3分間)した。遠心後のカラムに200μLの上記のDNA溶液を添加し、遠心(20℃、8000×g、1分間)した。得られた溶液に1μLのグリコーゲン(20mg/mL)、20μLの3M酢酸ナトリウム(pH5.2)、600μLのエタノールを添加して軽く混和後、遠心(20℃、21900×g、20分間)した。得られた沈殿に500μLの70%エタノールを加え、遠心(20℃、21900×g、5分間)した。上清を捨て、風乾した後、PCRグレード水に溶解した。このものを醸造酒DNA画分とした。
<酵母DNAの検出>
上記の醸造酒DNA画分の適量をKAPA BIOSYSTEMS社のKAPA 2G Robust Hot Start PCR Kitに、最終濃度0.25μMのプライマーと共に添加した。検出に用いたプライマーは酵母Saccharomyces cerevisiaeのrDNAに対する以下のものであり、DNA配列はSc−ITS2−F(配列表の配列番号1)及びITS2−R(配列表の配列番号2)である。反応溶液の最終量は20μLとした。1st PCRはAppliedBiosystems社のApplied Biosystems VeritiTM96-wellサーマルサイクラー0.2mLを用い、反応条件は反応液を94℃で30秒保持した後、以後94℃20秒、58℃20秒、72℃30秒を1サイクルとして45サイクルの反復を行い、72℃で1分間保持後、4℃とした。
次に、1st PCR後の増幅産物をnested PCRに供した。検出に用いたプライマーは酵母のrDNAに対する以下のものであり、DNA配列はITS2−nestF(配列表の配列番号3)及びITS2−nestR:(配列表の配列番号4)である。反応は1st PCRと同様の条件で行い、増幅産物についてはその5μLをTAE緩衝液で調製した3%アガロースゲルにアプライし、TAE緩衝液中35分間100Vで電気泳動を行った。泳動終了後、ゲルのエチジウムブロマイドによる染色の後、カメラにより紫外線照射下撮影を行った。結果を図1に示す。図1より、醸造酒の各試料に関して、酵母きょうかい7号株と同じ位置にバンドが見られることが分かった。この結果から、本発明の方法により、醸造酒中の酵母DNAの検出が可能であることが示された。
実施例2 醸造酒を試料とする酵母の単コピー配列の検出
各種の醸造酒(清酒又はワイン)について、上記の実施例1と同様の方法で得られた醸造酒DNA画分の適量を、KAPA BIOSYSTEMS社のKAPA 2G Robust Hot Start PCR Kitに、最終濃度0.25μMのプライマーと共に添加した。今回検出に用いたプライマーは酵母のSCC4に対する以下のものであり、DNA配列はSCC4−F(配列表の配列番号5)及びSCC4−R(配列表の配列番号6)である。反応溶液の最終量は20μLとした。PCRはAppliedBiosystems社のApplied Biosystems VeritiTM 96-wellサーマルサイクラー0.2mLを用い反応条件は反応液を94℃で30秒保持した後、以後94℃20秒、52℃20秒、72℃30秒を1サイクルとして45サイクルの反復を行い、72℃で1分間保持後、4℃とした。
次に、1st PCR後の増幅産物をnested PCRに供した。検出に用いたプライマーは酵母Saccharomyces cerevisiaeのSCC4に対する以下のものであり、DNA配列はSCC4−nestF(配列表の配列番号7)及びSCC4−nestR:(配列表の配列番号8)である。反応は1st PCRと同様の条件で行い、増幅産物については5μLをTAE緩衝液で調製した3%アガロースゲルにアプライし、TAE緩衝液中35分間100Vで電気泳動を行った。泳動終了後、ゲルのエチジウムブロマイドによる染色の後、カメラにより紫外線照射下撮影を行った。結果を図2に示す。図2より、醸造酒の各試料に関して、酵母きょうかい7号株と同じ位置にバンドが見られることが分かった。以上、本法により醸造酒中の酵母の単コピー配列の検出が可能であることが示された。
実施例3 清酒を試料とする変異酵母使用の識別例
清酒中より検出の可能性のある酵母Saccharomyces cerevisiaeの遺伝子として、変異型FAS2がある。FAS2遺伝子の3748番目の塩基がG(野生型)からA(変異型)に置換した変異酵母は、カプロン酸エチル高生産性を示すことが知られており、主に吟醸酒等に用いられている(Akada et al., Detection of a point mutation in FAS2 gene of sake yeast strains by allele-specific PCR amplification., J.Biosci.Bioeng., 92, 189-192, 2001.)。
清酒の18サンプルについて、上記の実施例1と同様の方法で醸造酒DNA画分を調製した。得られた醸造酒DNA画分の適量を、KAPA BIOSYSTEMS社のKAPA 2G Robust Hot Start PCR Kitに、最終濃度0.25μMのプライマーと共に添加した。今回検出に用いたプライマーは酵母のFAS2に対する以下のものであり、DNA配列はFAS2−200F(配列表の配列番号9)及びFAS2−200R(配列表の配列番号10)である。反応溶液の最終量は20μLとした。PCRはAppliedBiosystems社のApplied Biosystems VeritiTM96-wellサーマルサイクラー0.2mLを用い反応条件は反応液を94℃で30秒保持した後、以後94℃20秒、58℃20秒、72℃30秒を1サイクルとして45サイクルの反復を行い、72℃で1分間保持後、4℃とした。
次に、1st PCR後の増幅産物を2nd PCRに供した。検出に用いたプライマーは1st PCRで用いたプライマーと同じものとした。反応は1st PCRと同様の条件で行い、増幅産物については5μLをTAE緩衝液で調製した3%アガロースゲルにアプライし、TAE緩衝液中35分間100Vで電気泳動を行った。泳動終了後、ゲルのエチジウムブロマイドによる染色の後、カメラにより紫外線照射下撮影を行った。結果を図3に示す。
また、得られた増幅産物を精製後、シークエンスに供して3748番目の塩基の識別を行った。その結果、図4に示すように、(B)変異型がヘテロザイガスな変異であり、(C)変異型がホモザイガスな変異であることが分かった。本発明の方法を用いて、醸造に使用した酵母が変異株であるかどうかを検出し、識別することができることが示された。
比較例1〜4 市販の醸造酒に含まれるDNAの検出
実施例1におけるアルコール沈殿処理により得られた各粗DNA溶液について、次のような操作による精製を行った。
(1)各粗DNA溶液についてPCRにてDNAの増幅を行った態様(比較例1、図5(A))
(2)陰イオン交換樹脂及びシリカベース樹脂を用いて精製処理を行わずに、各粗DNA溶液についてPCR阻害物質を除去する工程を経た後、PCRにてDNAの増幅を行った態様(比較例2、図5(B))
(3)各粗DNA溶液について陰イオン交換樹脂を用いて精製処理を行った後、PCR阻害物質を除去する工程を経た試料についてPCRにてDNAの増幅を行った態様(比較例3、図5(C))
(4)各粗DNA溶液についてシリカベース樹脂を用いて精製処理を行った後、PCR阻害物質を除去する工程を経た試料についてPCRにてDNAの増幅を行った態様(比較例4、図5(D))
上記の(1)〜(4)の各態様において、具体的な精製処理、DNAの増幅工程及び電気泳動の条件は実施例1と同じ条件とした。電気泳動の結果を図5の(A)〜(D)に示す。その結果、上記の(1)及び(2)の態様において、DNAの増幅が確認できなかった(図5の(A)及び(B))。また、上記の(3)及び(4)の態様においては、増幅できたDNAと増幅できなかったDNAとが生じ、安定した検出結果を得ることができなかった(図5の(C)及び(D))。
試験例1 粗DNA溶液中のPCR阻害物質の存否確認
以下の実験により、粗DNA溶液中にPCR阻害物質が存在しているかどうかについて確認した。
試料としては、上記の実施例でPCR陽性対照として使用した酵母きょうかい7号株gDNA(図6のレーン1)、きょうかい7号酵母のgDNAと実施例1の粗DNA溶液との混合物(レーン2)、きょうかい7号酵母のgDNAと実施例1の醸造酒DNA画分との混合物(レーン3)、きょうかい7号酵母のgDNAとTE緩衝液との混合物(レーン4)及びPCR陰性対照としての水(レーン5)を用いた。これらの試料について、実施例1と同様の方法でPCR増幅産物を得て、電気泳動に供した。電気泳動の結果を図6に示す。
図6から、粗DNA溶液にはPCR阻害物質が存在していること、及び粗DNA溶液の調製時に使用したTE緩衝液中のEDTAは、PCRには影響しなかったことが分かった。
本発明によれば、醸造酒を試料として製造工程で使用された酵母菌株の判別が可能となるので、製造工程への野生酵母等の混入の判定、製品からの使用酵母菌株の推定に有用であり、工程管理や情報収集等の目的で、酒造会社や酒販店等が産業的に利用することができる。また本発明によれば、特許菌株等の知的財産保護や遺伝子組換え酵母使用の検査等が可能となるので、法令違反や表示の偽装の発見や防止の目的で、検査機関等が産業的に利用することができる。
配列表の配列番号1は、酵母のrDNA検出(ITS領域)用プライマーである。
配列表の配列番号2は、酵母のrDNA検出(ITS領域)用プライマーである。
配列表の配列番号3は、酵母のrDNA検出(ITS領域)用プライマーである。
配列表の配列番号4は、酵母のrDNA検出(ITS領域)用プライマーである。
配列表の配列番号5は、酵母のSCC4検出用プライマーである。
配列表の配列番号6は、酵母のSCC4検出用プライマーである。
配列表の配列番号7は、酵母のSCC4検出用プライマーである。
配列表の配列番号8は、酵母のSCC4検出用プライマーである。
配列表の配列番号9は、酵母のFAS2変異点検出用プライマーである。
配列表の配列番号10は、酵母のFAS2変異点検出用プライマーである。

Claims (5)

  1. 以下の(1)〜(4)の工程:
    (1) 醸造酒のアルコール沈殿処理を行ってDNAを抽出する工程、
    (2) 陰イオン交換膜若しくは樹脂を用いる精製と、シリカベース膜若しくは樹脂を用いる精製とを組み合わせて、工程(1)で抽出されたDNAを精製する工程、
    (3) 工程(2)で精製されたDNAからPCR阻害物質を除去する工程、並びに
    (4) 工程(3)で得られたDNAを、標的微生物の特異的プライマーを用いるPCRにより増幅する工程、
    を含む、醸造酒に含まれるDNAであって、該標的微生物由来のDNAの検出方法。
  2. 醸造酒が清酒、ビール又はワインである、請求項1に記載の方法。
  3. 標的微生物がSaccharomyces属の酵母及びAspergillus属のカビからなる群より選択される一種以上の微生物である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 特異的プライマーが配列表の配列番号:1〜配列番号:10に規定の配列からなる群より選択される一種以上の配列である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 特異的プライマーが標的微生物の単コピー配列に対するプライマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
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