JP6119881B1 - カプロン酸エチルの産生能が高い酵母、及び当該酵母を利用した発酵物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
項1. カプロン酸エチルを高産生できるサッカロマイセス・セレビシエであって、
表1に示す条件1で清酒の三段小仕込試験に供した際に、留添15日に上槽して得られる清酒中のカプロン酸エチル濃度が4mg/L以上になる、サッカロマイセス・セレビシエ。
項4. FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異体を有する、項1〜3のいずれかに記載のサッカロマイセス・セレビシエ。
項5. hec2株(NITE P−02179)である、項1〜4のいずれかに記載のサッカロマイセス・セレビシエ。
項6. 酢酸イソアミルの産生能が高いサッカロマイセス・セレビシエに、に対して変異処理を施した後に、セルレニン耐性株を選択する工程を含む、カプロン酸エチル高産生酵母の育種方法。
項7. 項1〜5のいずれかに記載のサッカロマイセス・セレビシエを用いて発酵物を製造する工程を含む、発酵物の製造方法。
項8. 前記発酵物が清酒である、項7に記載の発酵物の製造方法。
項9. 精米歩合が40〜90%の米を使用する、項8に記載の発酵物の製造方法。
項10. 項1〜5のいずれかに記載のサッカロマイセス・セレビシエを用いて得られた清酒であって、カプロン酸エチル濃度が6mg/l以上である、清酒。
項11. 原料となる米の精米歩合が70〜90%である、項10に記載の清酒。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母は、カプロン酸エチルを高産生できるサッカロマイセス・セレビシエであって、後述する条件1に示す清酒の三段小仕込試験に供した際に、留添15日に上槽して得られる清酒中のカプロン酸エチル濃度が4mg/L以上になるサッカロマイセス・セレビシエである。以下、本発明のカプロン酸エチル高産生酵母について詳述する。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の種類については、サッカロマイセス・セレビシエに属することを限度として特に制限されないが、例えば、清酒、ビール、焼酎、ワイン、ウイスキー、醤油、味噌等の製造に使用される醸造酵母、製パンに使用されるパン酵母等されるパン酵母等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは醸造酵母、更に好ましくは清酒酵母が挙げられる。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母は、カプロン酸エチルの産生能が高いという特徴がある。具体的には、本発明のカプロン酸エチル高産生酵母は、下記条件1に示す清酒の三段小仕込試験に供した際に得られる清酒中のカプロン酸エチル濃度が4mg/L以上にできる特性を有している。
また、本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の好適な例として、下記条件2に示す清酒の一段小仕込試験に供した際に、菌体中のカプロン酸含量が0.01mg/g−dry cells以上、好ましくは0.01〜0.08mg/g−dry cells、更に好ましくは0.06〜0.08mg/g−dry cellsとなる特性を有しているものが挙げられる。
また、本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の好適な一特性として、セルレニン耐性を備えるもの、具体的には5.0μg/mlのセルレニンを含むSD培地で生育可能な特性を備えているものが挙げられる。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の一態様として、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異体を有するものが挙げられる。FAS2とは脂肪酸合成酵素(FAS、fatty acid synthase)のサブユニットの1つであり、酵母のFAS2遺伝子は配列番号1に示す塩基配列からなることが知られている。即ち、本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の一態様では、配列番号1に示す塩基配列において3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異遺伝子を有し、これによって配列番号2に示すアミノ酸配列(FAS2の野生型のアミノ酸配列)における1250番目のグリシンがセリンに変異したFAS2を産生する。このようなFAS2遺伝子の変異体を有することによって、カプロン酸エチルの前駆体であるカプロン酸の生成量が増大し、より一層効率的にカプロン酸エチルの産生能の向上を図ることが可能になると考えられる。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の一態様として、FAS2遺伝子の発現量が高いことが挙げられる。具体的には、前記条件2に示す清酒の一段小仕込試験に供した際に、FAS2 mRNA量が、清酒酵母きょうかい1801号の場合に比して、1.5倍以上、好ましくは1.5〜2.0倍、更に好ましくは1.7〜2.0倍になるものが挙げられる。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母の育種方法については、前述するカプロン酸エチル産生能を有するものを取得できることを限度として、特に制限されないが、好適な一例として、酢酸イソアミルの産生能が高い酵母(以下、酢酸イソアミル高産生酵母を表記することもある)に対して変異処理を施し、セルレニン耐性株を選択する方法が挙げられる。以下、当該育種方法について、詳述する。
酢酸イソアミル高産生酵母とは、通常の酵母(清酒酵母きょうかい1801号等)に比して酢酸イソアミルの産生能が高い酵母である。酢酸イソアミル高産生酵母として、具体的には、下記条件3に示す清酒の三段小仕込試験に供した際に得られる上清中の酢酸イソアミル濃度が35mg/L以上、好ましくは35〜45mg/L、更に好ましくは40〜45mg/Lにできる特性を有しているものが挙げられる。
酢酸イソアミル高産生酵母を育種により得る方法としては、母株となる酵母に対して、変異処理を行った後に、オーレオバシジンA耐性株を選択する方法が挙げられる。変異処理としては、具体的には、エチルメタンスルホン酸、亜硝酸、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、アクリジン系色素等を用いた化学処理;紫外線、放射線等の光線照射処理等が挙げられる。これらの変異処理の中でも、好ましくはエチルメタンスルホン酸を用いた化学処理が挙げられる。
酢酸イソアミル高産生酵母に対して行われる変異処理の種類については、特に制限されないが、例えば、エチルメタンスルホン酸、亜硝酸、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、アクリジン系色素等を用いた化学処理;紫外線、放射線等の光線照射処理等が挙げられる。これらの変異処理の中でも、好ましくはエチルメタンスルホン酸を用いた化学処理が挙げられる。
変異処理を施した酢酸イソアミル高産生酵母からセルレニン耐性株を選択するには、セルレニンを含有する培地で培養し、生育した株を単離すればよい。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母は、前述する育種法によって得ることができるが、好適な菌株として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センターにhec2株(NITE P−02179)として受託されており、当該受託菌を使用することもできる。
本発明のカプロン酸エチル高産生酵母は、カプロン酸エチルの含有量が高く、豊かな香りがする発酵物の製造に使用することができる。本発明のカプロン酸エチル高産生酵母を使用した発酵物の製造は、目的の発酵物の種類に応じて、原料及び製造条件を適宜設定すればよい。
以下の実施例において香気成分(酢酸イソアミル、カプロン酸エチル等)の測定は、ガスクロマトグラフ/水素イオン化検出器(GC/FID)を用いて、ヘッドスペース法により検出した。具体的には、各香気成分を規定濃度含む標準液5mlに内部標準液を1ml加えて、検量線を作成した。そして、各サンプル5mlに内部標準液を1ml加えて測定し、サンプル中の香気成分量を前記で得られた検量線を使用して求めた。なお、内部標準液として、ヘキサン酸メチルを用いた。また、GC/FIDによる分析条件は以下の通りである。
GC−FID:GC2010 Plus(島津製作所)
カラム :DB−WAX(60m×0.32mm、0.5μm、Agilent)
昇温条件 :40℃、5分→5℃/分→100℃→20℃/分→230℃、5分
注入方法 :ヘッドスペースオートサンプラー(Turbo Matrix HS40, Perkin Elemer)
1.オーレオバシジンA耐性株の取得
サッカロマイセス・セレビシエKm97株を用いて、オーレオバシジンA耐性株の取得を行った。サッカロマイセス・セレビシエKm97株は、きょうかい9号泡なし酵母に対して、変異処理を行わずに、CAO培地において生育できるアルギナーゼ資化性を欠損した株を自然変異によって取得した尿酸非産生化株である。
表6に示す各原料を55℃で4時間撹拌して液化し、これを水で1.5倍に希釈した後に、乳酸を酸度4.0となるよう添加して米糖化液を作成した。得られた米糖化液を10mlずつ試験管に分注し、前記で得られたオーレオバシジンA耐性株475株を1白金耳ずつ植菌して15℃で11日間培養した。次いで、培養液から遠心分離にて上清を回収し、上清に含まれる酢酸イソアミル量をGC/FIDを用いてヘッドスペース法により測定した。その結果、酢酸イソアミルの産生能が高い6株(hia1〜6)を選択した。
先ず、YPD培地を用いてhia1株を30℃で1日振盪培養を行った後、50mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で洗浄し、同バッファーに懸濁した。次いで、得られたhia1株懸濁液にエチルメタンスルホン酸を4重量%となるように添加し、30℃で1時間振盪することにより変異処理を行った。その後、5重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液で中和してから、変異処理後の酵母を滅菌水に懸濁し、これを5.0μg/mlのセルレニンを含むSD培地に塗布し、30℃で培養し、44個のコロニーを分離した。
前記と同様の方法で米糖化液を作成した。得られた米糖化液を10mlずつ試験管に分注し、前記で得られたセルレニン耐性株44株を1白金ずつ植菌して15℃で11日間培養した。次いで、培養液から遠心分離にて上清を回耳収し、臭覚により香気の評価を行った。その結果、フルーティーな香気が高い7株(hec1〜7)を選択した。
次世代DNAシーケンサーを使用して、カプロン酸エチル高産生酵母hec2株のFAS遺伝子の塩基配列の解析を行った。
前記実施例2において、hec2株は、FAS2遺伝子の3748位のGがAに変異したホモ接合型のFAS2変異遺伝子を有していることが明らかとなった。一方、hia1株は野生型のFAS2遺伝子を有している。そこで、hec2株が有するカプロン酸エチル高産生能が、当該FAS2変異遺伝子のみに依拠しているか否かを確かめるために、以下の試験を行った。
hec2株の遺伝子発現特性を解析するために以下の試験を行った。hec2株を前記条件2に示す清酒の一段小仕込試験に供し、上槽後に遠心分離して酵母を回収した。回収した酵母から、RNasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて菌体内の総RNAを抽出し、TFC1をリファレンス遺伝子としてRT−PCRによりFAS1、FAS2、EEB1、EHT1、ATF1、ATF2、及びIAH1の遺伝子の発現量を解析した。また、比較のため、hia1株(野生型)、Km97株、及びK1801株についても、同様に遺伝子発現の解析を行った。
hec2株におけるアルコールアセチルトランスフェラーゼ活性(AAT活性)を測定するために以下の試験を行った。グルコース濃度10%のSD培地を用いて、30℃で24時間静置培養した。培養後の酵母菌体を回収し、BufferA(25mMイミダゾールHCl pH7.5、0.1MNaCl、20%グリセロール、1mM DTT,46mMイソアミルアルコール、0.1%トリトンX―100)で洗浄後、酵母菌体をBufferA 3mlに溶解し、菌体液1ml当たりガラスビーズ0.8gを加えて酵母を破砕(30秒ON/OFF 10分)した。上清を回収後、ガラスビーズをBufferA 0.6mlで洗浄し、上清をまとめた。遠心分離後(15,000g×10分)、上清を回収し、無細胞抽出液を得た。なお、以上の無細胞抽出液の調製は、4℃の温度条件下で行った。
hec2株を用いて、精米歩合70%の白米を使用して純米酒の実生産を行った。具体的には、表7に示す条件で仕込を行い、上槽後、炭ろ過、火入れ、貯蔵(4カ月)、滓下げ・ろ過、瓶詰め・火入れを順次実施することにより、純米酒を得た。なお、留添4日目〜14日目まで経時的に醪をサンプリングし、上清に含まれる香気成分(カプロン酸エチル、酢酸イソアミル)をGC/FIDを用いてヘッドスペース法により測定した。また、得られた純米酒中の香気成分(カプロン酸エチル、酢酸イソアミル)についても、GC/FIDを用いてヘッドスペース法により測定した。また、比較のために、市販されている8種の清酒[市販品A(純米酒、精米歩合70%)、市販品B(純米酒、精米歩合70%)、市販品C(純米酒、精米歩合70%)、市販品D(純米酒、精米歩合65%)、市販品E(純米酒、精米歩合65%)、市販品F(大吟醸、精米歩合50%)、市販品G(大吟醸、精米歩合50%)、及び市販品H(純米大吟醸、精米歩合39%)]についても、香気成分(カプロン酸エチル、酢酸イソアミル)の測定を行った。
Claims (5)
- カプロン酸エチルを高産生できるサッカロマイセス・セレビシエであって、hec2株(NITE P−02179)である、サッカロマイセス・セレビシエ。
- カプロン酸エチル高産生酵母の育種方法であって、
前記カプロン酸エチル高産生酵母が、表1に示す条件1で清酒の三段小仕込試験に供した際に、留添15日に上槽して得られる清酒中のカプロン酸エチル濃度が4mg/L以上になり、且つ表2に示す条件2で清酒の一段仕込試験に供した際に、ATF1 mRNA量が、清酒きょうかい1801株号よりも1.5倍以上高い、サッカロマイセス・セレビシエであり、
酢酸イソアミルの産生能が高いサッカロマイセス・セレビシエに対して変異処理を施した後に、セルレニン耐性株を選択する工程を含む、カプロン酸エチル高産生酵母の育種方法。
- 請求項1に記載のサッカロマイセス・セレビシエを用いて発酵物を製造する工程を含む、発酵物の製造方法。
- 前記発酵物が清酒である、請求項3に記載の発酵物の製造方法。
- 精米歩合が40〜90%の米を使用する、請求項4に記載の発酵物の製造方法。
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