JP5506159B2 - 清酒酵母とワイン酵母の交雑により得られる新規ワイン酵母及びその作出法 - Google Patents
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(1)接合能を付与した親ワイン酵母と、接合能を付与した親清酒酵母とを交雑し、交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する、ワイン酵母菌株の作出方法であって、前記接合能を付与した親ワイン酵母と、前記接合能を付与した親清酒酵母との組合せが、Geisenheim74株と清酒酵母きょうかい14号株(K14株)との組合せ、K1−V1116株(V1116株)とK14株との組合せ、L2226株とK14株との組合せ、WE452株とK14株との組合せ、及び、WE452株と清酒酵母きょうかい11号株(K11株)との組合せから選択されるいずれかの組合せであり、かつ、前記親ワイン酵母と前記親清酒酵母との組合せが、(a)栄養要求性マーカーを付与した親ワイン酵母と、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、(b)呼吸欠損マーカーを付与した親ワイン酵母と、栄養要求性マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、又は、(c)親ワイン酵母と親清酒酵母のそれぞれに異なる栄養要求性マーカーを付与した組合せであり、前記(a)又は(b)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性及び非呼吸欠損の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、前記(c)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、前記高アルコール生成能を有する交雑株が、少なくとも特定の生成条件の下での最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度として18.0%以上を達成し得るアルコール生成能を有する交雑株であり、前記特定の生成条件が、YPD寒天培地上で25℃、3日間、前々培養した交雑株の菌体を、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地に植菌し、25℃で72時間振とう培養することによって前培養し、グルコース濃度を40%(w/v)としたYPD培地に、OD600=1.0となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で16日間、2.5rpmの回転数で回転培養することによって、本培養する生成条件であることを特徴とする、方法に関する。
(2)上記(1)に記載の作出方法によって得られるワイン酵母菌株に関する。
(3)上記(2)に記載のワイン酵母菌株を糖質含有物に接種して醸造することを特徴とするアルコール飲料の製造方法に関する。
本発明者らは、後述の実施例1の表2〜6に記載されているように、様々な酵母を交雑させ、その交雑株の発酵能を測定した結果、ワイン酵母と清酒酵母を交雑することによって、高アルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株を効率よく作出し得ることを見い出した。本発明の新規ワイン酵母菌株の作出方法(本発明のワイン酵母菌株の作出方法)は、この知見に基づいている。
また、他のアルコール生成能が高い株として、後述する実施例4に記載の非薬剤耐性マーカーを用いた交雑において得られた株の発酵試験における最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度が、好ましくは16.2%以上、より好ましくは16.6%以上、さらに好ましくは17.2%以上、さらにより好ましくは17.6%以上、特に好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは18.5%以上、より好ましくは19.0%、さらにより好ましくは19.5%以上、最も好ましくは20%以上の株を挙げることができる。なお、選抜して得られた酵母菌株は、通常のYPD培地等で培養し、継代、維持することができる。また、分離する前述のアルコール生成能が高い株としては、さらにアルコール生成速度が速い株であることが好ましい。
本発明の新規酵母菌株の作出方法(本発明の酵母菌株の作出方法)としては、任意の2種類の酵母に接合能及び異なる薬剤耐性マーカーを付与した後にそれら両酵母を交雑する工程、前記の各薬剤耐性マーカーを指標として交雑株を分離する工程、分離した交雑株から、所定の交雑株、例えばアルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する工程、及び、選抜された交雑株の親株として用いた2種類の非薬剤耐性の野生型酵母にそれぞれ接合能を付与した後に交雑し、交雑株の中から所定の交雑株、例えばアルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する工程のすべてを含んでいる限り特に制限されず、上記アルコール飲料の醸造に有利な性質としては、高アルコール生成能や高エステル生成能や高アルコール生成速度などを例示することができ、中でも高アルコール生成能や高エステル生成能を好適に例示することができる。また、選抜された交雑株の親株として用いた2種類の非薬剤耐性の野生型酵母とは、異なる薬剤耐性マーカーを付与した両酵母の交雑に用いたそれら両酵母において、薬剤耐性マーカーを付与する前の酵母を意味する。
前々培養として、サンプル酵母菌株の菌体をYPD寒天培地上で25℃、1日間培養する。次に、100mL容量の三角フラスコに、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地60mLを入れ、そこに前述の前々培養により得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で72時間振とう培養することによって前培養を行う。次いで、濾過滅菌したブドウ果汁(白ワイン用ストレート果汁(株式会社果香より入手)と濃縮果汁(株式会社東食より入手)を混合し、40brixに調整し、さらに窒素源として酵母エキス(MERCK社製)を2.3g/L、リン酸水素二アンモニウムを1.3g/Lとなるよう添加したもの)200mLを250mL容量の広口メジューム瓶に入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×107cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、広口メジューム瓶のフタを緩めた状態にして、MAGNETIC STIRRER F-626N(Fine社製)にて90rpmの回転数で回転させながら20℃で嫌気撹拌培養(本培養)を行う。本培養開始から7日目の培養液について、キャピラリー・ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)を用いて、酢酸エチルや酢酸イソアミル等のエステルの生成量をそれぞれ測定する。
本発明の新規酵母菌株(本発明の酵母菌株)としては、前述の本発明のワイン酵母菌株の作出方法や前述の本発明の酵母菌株の作出方法(以下、両作出方法を合わせて「本発明の作出方法」ともいう。)によって得られる酵母菌株や該酵母菌株を培養して得られる酵母菌株であれば特に制限されないが、アルコール飲料の醸造に有利な性質(高アルコール生成能や高エステル生成能やアルコール生成速度など)を有する酵母菌株や該酵母菌株を培養して得られる酵母菌株を好ましく例示することができ、高アルコール生成能、高エステル生成能、アルコール生成速度から選ばれる2つ以上の性質を有している酵母菌株や該酵母菌株を培養して得られる酵母菌株をより好ましく例示することができる。
本発明のアルコール飲料の製造方法としては、本発明の酵母菌株、好ましくはワイン酵母菌株を糖質含有物に接種して醸造(培養)する方法である限り特に制限されず、ここで「糖質含有物」としては、ブドウ果汁、キウイ果汁、リンゴ果汁、ブルーベリー果汁、アンズ果汁等の果汁や、米、麦、粟、トウモロコシ等の穀類や、サツマイモ等の芋類を例示することができる。上記アルコール飲料としては特に制限されず、ワイン等の果実酒;焼酎;清酒;ビール;ウィスキー;ブランデー;などを例示することができるが、果実酒を好適に例示することができ、中でもワインを特に好適に例示することができる。
本発明の酵母菌株を果汁に直接接種してもよいが、この酵母菌株のスラントから通常のYPD寒天培地で培養した後、得られた菌体を果汁培地に接種し培養して(前培養)、本培養用の種培養液を作製してもよい。この前培養の培養条件としては、25℃で2日間静置培養することを好ましく例示することができる。前述の種培養液を、予め調製した本培養用の果汁液に接種して培養することによって、本培養(本醸造)を行うことができる。本培養用の果汁液は、市販の濃縮果汁とストレート果汁を用いて濃度を調整するなどして調製することができる。本醸造の条件としては、4〜35℃、好ましくは15〜25℃で、8〜14日間培養することを好ましく例示することができる。また、本醸造の途中に補糖を行ってもよい。補糖はグルコースを使用することができ、補糖後の培養液の糖濃度が約20%になるように調整することが好ましい。
(共通実験条件)
酵母の培養は、他に記載のない限り、Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 13,Yeast(前出)に記載のYPD培地(非選択的条件)もしくはSD培地(選択的条件)によって行なった。呼吸欠損株を識別する培地としては、YPDG培地とYPG培地(METHODS IN YEAST GENETICS, A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual, 1997 Edition)を用いた。交雑株を選択的に培養する培地としては、SD培地の糖源を2%グルコースから2%グリセロールに変更したSG培地を用いた。また、酵母の接合、胞子形成誘導、ランダム胞子法もすべて、Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 13,Yeast(前出)に記載の方法で行なった。
実施例で用いた酵母菌株の情報を表1に記載する。
(1)実用酵母菌株のアルコール生成能や発酵能の測定
高いアルコール生成能を有する酵母交雑株を作出するための親株の組合せの選抜をまず行った。具体的には、図1に記載された14種類の実用酵母菌株についてブドウ果汁でのアルコール発酵能を以下の方法で調べた。
前々培養として、前述のそれぞれの酵母の菌体を、YPD寒天培地上で25℃、3日間培養した。次いで、直径18mm、高さ165mmの試験管に、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地15mLを入れ、そこに前々培養後の菌体を一白金耳分植菌し、25℃で48時間振とう培養することによって前培養を行った。次に、直径25mm、高さ200mmの試験管に、濾過滅菌したブドウ果汁〔白ワイン用ストレート果汁と濃縮果汁を混合して37brixに調整した果汁に、さらに窒素源として1.3g/Lのリン酸水素二アンモニウム及び2.6g/Lのファームテック酵母エキス(Merck社製)を添加したもの〕30mLを入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×107cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で14日間、ローテーターRT−550(タイテック社製)にて2.5rpmの回転数で回転培養することによって、発酵試験(本培養)を行った。本培養後の培養液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器社製)にて測定した。その結果を図1に示す。図1から分かるように、清酒酵母は全般的に高いアルコール生成能を示したが、ワイン酵母は株によってばらつきが大きく、焼酎酵母には特に高いアルコール生成能を示す株を見い出すことはできなかった。
まず前培養として、図2に記載された酵母菌株を含む8種類の実用酵母菌株を、それぞれYPD培地で25℃、1日間、振とう培養した。次いで、100mL容三角フラスコ中に、40%グルコース含有YPD培地(以下、単に「YPD40培地」という。)を60mL入れ、そこに初期OD600=0.16となるように前培養後の菌体を植菌し、25℃で7日間の静置培養を行った。静置培養の後、ビールアナライザー(京都電子工業社製)で外観発酵エキスを測定した。その結果の一部を図2に示す。Geisenheim74が比較的良好な発酵能を示したので、この株と同等の発酵能を示す株を「発酵良」、この株より割合として10%以上発酵能が優れる株を「発酵優」とした。図2の結果において、「発酵良」又は「発酵優」と認められた株について、後述するように交雑株の取得を試みた。
実用株間交雑株取得のスキームを図3に示す。図3から分かるように、2種類の親株(親株Aと親株B)に対して、それぞれ別の薬剤耐性マーカープラスミドを導入し、さらに、両親株に接合能を付与した後、混合培養して接合させ、前述の両方の薬剤耐性を有していることを指標として、交雑株の取得を行った。親株に薬剤耐性を付与するプラスミドとして、pYT74、pYT75、pKN12、pKN13を用いた。これらのプラスミドの模式図を図4に示す。これら4種類のプラスミドはすべて、酵母細胞の中で自律的に複製されるために必要なARS1及びCEN3の配列と、ウラシル要求性を相補するURA3遺伝子を持つが、それらの配列はすべてKobayashiらの論文(Mol. Gen. Genet., 251: 707-715, 1996)に記載のプラスミドpYT37より得た。またこれらの4種類のプラスミドのうち、pYT74とpYT75は、薬剤耐性を宿主に付与する遺伝子として、G418耐性を有しており、pKN12とpKN13は、ブラストサイジンS(BS)耐性を有している。G418耐性遺伝子発現カセットは、Yamanoらの論文(J. Biotechnol., 32: 173-178, 1994)に記載のプラスミドpZNEOより得た。この発現カセットは、出芽酵母由来PGK1遺伝子のプロモーター及びターミネーターによって制御されている。一方、BS耐性遺伝子発現カセットは、Kobayashiらによる学術論文(Agric. Biol. Chem., 55: 3155-3157, 1991)に記載のDNA塩基配列を参考に、pSV2bsr(フナコシ社製)からPCRによりBS耐性遺伝子BSRを増幅し、出芽酵母由来TDH3遺伝子のプロモーター及びPGK1遺伝子のターミネーターに連結することによって作製した。また、酵母の接合型を判定する接合型判定用カセットは、大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻・原島俊教授より分譲を受けた。このカセットは、中沢が記載しているプラスミドpNN63及びpNN64に含まれるカセットと同一のものである(清酒酵母の研究・90年代の研究、清酒酵母・麹研究会編、財団法人日本醸造協会発行: p95-99, 2003)。pNN63に含まれるSTE6プロモーターに制御されたPHO5遺伝子はa型接合能を持つ株のみで発現されるのに対し、pNN64に含まれるMFalpha1プロモーターに制御されたPHO5遺伝子はα型接合能を持つ株のみで発現される。この性質の違いを利用して、生物分子遺伝学実験法(大嶋泰治編著、学会出版センター発行, 1996)に記載の方法に従って、PHO5遺伝子がコードする酸性ホスファターゼ活性を検出することにより、酵母の接合型の判定を行った。
100mL容三角フラスコに10mLの胞子形成用培地(酢酸カリウム 1.0%、Difco Yeast Extract 0.1%、グルコース 0.05%)を入れ、そこに酵母菌体を植菌し、一週間以上25℃で振とう培養を行なった後、培養液を遠心することによって集菌し、得られた菌体を5mLの滅菌水に懸濁し、0.25mLの2mg/mL Zymolyase 100T(生化学工業社製)及び0.01mLのβ-メルカプトエタノールを加え、30℃で一晩振とうした。得られた培養液を遠心して集菌し、その菌体を1mLの1.5% Nonidet P-40(ナカライテスク社製)に懸濁した後、遠心して集菌し、次いで、再び1mLの1.5% Nonidet P-40(ナカライテスク社製)に懸濁し、水浴式超音波発生装置で10分間の処理を行なった後、60℃で10分間処理を行なうことによって胞子以外の細胞を破砕した。この破砕液から再度集菌し、次いで、それを再び1mLの1.5% Nonidet P-40(ナカライテスク社製)に懸濁し、水浴式超音波発生装置で10分間の超音波処理を行なった後、遠心して集菌し、その菌体を滅菌水に懸濁し、胞子懸濁液とした。
上記実施例1(2)で得られた交雑株を、上記実施例1(1)記載の方法で静置培養し、発酵能の評価を行なった。発酵能の評価は、デジタル糖度計(井内盛栄堂社製)を用い、糖度の減少を指標として行った。その結果を表2〜6に示す。なお、表中の「親株における接合能の付与方法」の項目におけるNは胞子形成誘導を経ずに接合能を付与したことを表し、Sは胞子形成誘導を経て接合能を付与したことを表し、「×」の左側の記号が親株1の、右側の記号が親株2の接合能の付与方法を表す。また、残存糖度がGeisenheim74より低い株を「発酵良」と評価し、残存糖度がGeisenheim74の0.9倍より低い株を「発酵優」と評価した。また、「発酵優」に該当する株は、「発酵良」としてもカウントした。さらに、発酵優の株が1株以上取得できた交雑組合せについては、「株数」の欄の背面を灰色で示している。
上記実施例1(3)の一次評価において良好な発酵能を示した交雑株について、ブドウ果汁での発酵能を以下に述べる方法で調べた。
前々培養として、交雑株の菌体を、YPD寒天培地上で25℃、3日間培養した。次に、直径18mm、高さ165mmの試験管にグルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地5mLを入れ、そこに前々培養して得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で48時間振とう培養することによって前培養を行った。
実施例1の実験により、高アルコール生成能を有する酵母交雑株を作出するために特に優れた交雑親の組合せが判明した。しかし、実施例1の実験系で得られる交雑株は薬剤耐性マーカープラスミドが導入された組換え酵母であるため、市販用のアルコール飲料の製造に用いるには、遺伝子組換え食品の規制や、消費者の不安感の点で全く問題がないとはいえない。そこで、市販用のアルコール飲料の製造にも適した実用化用の高アルコール生成能酵母交雑株を作出するために、遺伝子組換えではない以下の作出方法を実施した。
まず始めに、酵母の接合能判定に用いるテスター株の取得を行った。具体的には、実験室酵母、サッカロミセス・セレビシエATCC200875 (MATa,leu2) 及びATCC200883 (MATα,trp1,lys2,ura3) を常法によって接合後、胞子形成を誘導し、さらにランダム胞子法によって胞子由来株を得た。得られた株を2mMの硫酸銅を含むSD培地に塗布して培養することによって、それらの株の中から硫酸銅耐性、a型もしくはα型の接合能、及び、栄養要求性(リシン要求性(lys2)またはウラシル要求性(ura3))を持った2株を選抜した。選抜したこれら2株をそれぞれMT1(MATα,ura3)、MT2(MATa,lys2)と命名し、以下の実験においてテスター株として利用した。なお、酵母の株名の後の括弧内の記載は遺伝子型を示す。
交雑用の親ワイン酵母株として、まず、栄養要求性(リシン要求性)マーカーを付与したワイン酵母株の取得を行った。具体的には、ワイン酵母として知られているWE452株(独立行政法人酒類総合研究所)を、30mg/Lのリシン及び2g/Lのα‐アミノアジピン酸を含むSD培地で培養し、それらの株の中から、自然変異によるリシン要求性株、すなわち、前述のSD培地で生育可能なα‐アミノアジピン酸への耐性株を得、KY2070株と命名した。次いで、KY2070株から、定法に従って胞子形成を誘導し、ランダム胞子法により胞子を得ることによって、接合能を付与した。
また、KY2070株の交雑パートナーとして、まず、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母株の取得を行った。具体的には、清酒酵母きょうかい11号株(独立行政法人酒類総合研究所)を、YPDG培地や、グリセロールを唯一の糖源とするYPG培地で培養し、それらの株の中から、自然変異による呼吸欠損株、すなわち、YPDG培地で小さなコロニーを形成しかつグリセロールを唯一の糖源とするYPG培地で生育できない株を得、KY1792株と命名した。
前述のKY2070株の胞子(リシン要求性マーカー及び接合能を有する親ワイン酵母株)と、前述のKY2074株(呼吸欠損マーカー及び接合能を有する親清酒酵母株)の交雑を行った。具体的には、まず、YPD培地を分注した96ウェルプレートにおいて、KY2070株由来の胞子とKY2074株との混合培養を25℃で24時間行なった。混合培養後の培地を、SG培地(リシンを含まない)に塗布し、それらの株の中から、前述の両株の接合株、すなわち、リシン非要求性かつグリセロールを単独の糖源として生育可能な交雑株を選抜した。選抜した交雑株について、Tamaiら記載の方法でパルスフィールドゲル電気泳動を行なって(Y. Tamai, et. Al., 1998, Yeast 14: 923-933)、核型を調べ、選抜したこれらの株が両親の染色体を併せ持つことを確認した。このようにして、ワイン酵母株(KY2070株)と清酒酵母株(KY2074株)との交雑株(以下、単に「交雑株」という。)を多数得た。
前述の交雑株について後述するように小スケールの発酵試験を実施し、交雑株から高アルコール生成能を有する株の選抜を行った。具体的には、以下のような方法で行った。
実施例2で得られた、アルコール生成能の高い選抜酵母株(KT373株)の発酵能を調べるために、発酵試験を行った。具体的には、以下のような方法で行った。
実施例2で得られた、アルコール生成能の高い選抜酵母株(KT373株)の発酵能をより詳細に調べるために、KT373株、及び、その親株である清酒酵母きょうかい11号株(K11株)、WE452株について、以下の方法で発酵試験を行った。
アルコール生成能の高いKT373株を用いて醸造して得られるワインの香りが、その親株である清酒酵母きょうかい11号株及びWE452株と比較してどのようであるかを客観的に調べるため、それら3種類の酵母について、以下の方法でエステル生成能確認試験を行った。
Claims (3)
- 接合能を付与した親ワイン酵母と、接合能を付与した親清酒酵母とを交雑し、交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する、ワイン酵母菌株の作出方法であって、
前記接合能を付与した親ワイン酵母と、前記接合能を付与した親清酒酵母との組合せが、Geisenheim74株と清酒酵母きょうかい14号株(K14株)との組合せ、K1−V1116株(V1116株)とK14株との組合せ、L2226株とK14株との組合せ、WE452株とK14株との組合せ、及び、WE452株と清酒酵母きょうかい11号株(K11株)との組合せから選択されるいずれかの組合せであり、かつ、
前記親ワイン酵母と前記親清酒酵母との組合せが、(a)栄養要求性マーカーを付与した親ワイン酵母と、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、(b)呼吸欠損マーカーを付与した親ワイン酵母と、栄養要求性マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、又は、(c)親ワイン酵母と親清酒酵母のそれぞれに異なる栄養要求性マーカーを付与した組合せであり、
前記(a)又は(b)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性及び非呼吸欠損の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、
前記(c)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、
前記高アルコール生成能を有する交雑株が、少なくとも特定の生成条件の下での最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度として18.0%以上を達成し得るアルコール生成能を有する交雑株であり、前記特定の生成条件が、YPD寒天培地上で25℃、3日間、前々培養した交雑株の菌体を、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地に植菌し、25℃で72時間振とう培養することによって前培養し、グルコース濃度を40%(w/v)としたYPD培地に、OD600=1.0となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で16日間、2.5rpmの回転数で回転培養することによって、本培養する生成条件であることを特徴とする、方法。 - 請求項1に記載の作出方法によって得られるワイン酵母菌株。
- 請求項2に記載のワイン酵母菌株を糖質含有物に接種して醸造することを特徴とするアルコール飲料の製造方法。
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