JP5506159B2 - 清酒酵母とワイン酵母の交雑により得られる新規ワイン酵母及びその作出法 - Google Patents

清酒酵母とワイン酵母の交雑により得られる新規ワイン酵母及びその作出法 Download PDF

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本発明は、優れたアルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株を作出する方法、該作出方法により得られる新規ワイン酵母菌株、及び、その菌株を用いたアルコール飲料の製造方法に関する。また、本発明は、新規で優良な所定の酵母菌株を効率よく作出する方法や、該作出方法により得られる新規で優良な所定の酵母菌株や、該酵母菌株を用いたアルコール飲料の製造方法を提供することにある。
アルコール飲料の醸造には、そのアルコール飲料の種類に応じてそれに適した特有の酵母菌株が使用されている。ワイン酵母として使用されている酵母は、主として味覚特性においてワイン醸造に適した菌株が選抜され、現在に至っている。一方、清酒醸造に適した株として選抜されてきた清酒酵母は、比較的高濃度のアルコールを生成することで知られている。清酒酵母の高いアルコール生成能をワイン酵母に付与することができれば、より高濃度のブドウ果汁の醸造が可能となり、生産されるワインの幅も広がることが期待されている。
清酒酵母の高いアルコール生成能は、そのアルコール耐性という性質と密接な関係があると考えられている。しかし、非特許文献1に示されるように、酵母のアルコール耐性には多くの遺伝子が関わっているため、遺伝子工学的に清酒酵母のアルコール耐性に関わる遺伝子群をワイン酵母に導入することでアルコール耐性を向上させるという試みは、多大な労力を要することが予想され、さらにその労力を費やしたとしても実現する可能性は乏しく、現実的とは言えない。
また清酒酵母は、すぐれたエステル生成能を持つことでも知られているが、酵母のエステル生成は前駆体である高級アルコール類の生成とも関連する複数の遺伝子が関与する形質であり、清酒酵母のエステル生成能をワイン酵母に導入する手段もまた求められているのである。
近年では、優良なワイン酵母を造成するために、人為的な手段による育種、すなわち、突然変異、接合による交雑、プロトプラスト融合、形質転換等の方法による育種が行なわれている。一般的に、別の酵母の持つ有用な形質をワイン酵母に導入する場合、接合による交雑、プロトプラスト融合、形質転換等の方法による育種が採られるが、この中で最も確実な方法は、接合による交雑育種である。これまでに行なわれてきた接合による交雑育種としては、野生キラー酵母と高温発酵性ワイン酵母との交雑育種(非特許文献2)や、硫化水素非生成酵母と凝集能を持ったワイン酵母との交雑育種(非特許文献3)が挙げられる。しかしながら、接合による交雑法においては、交雑により得られた菌体が交雑株であることを判別するために、親株がそれぞれ明らかに異なる形質を有していることが求められるという問題があった。従って、それぞれの親株が明らかに異なる形質を保有していない場合は、交雑株を判別又は検出することが困難であった。
また、接合能を有する酵母菌株を得る方法としては、例えば特許文献1のように、胞子形成を経て得る方法が一般的である。胞子形成を経た菌株同士を接合させて交雑すると、非特許文献4に示されているように多様な醸造特性を示す株が得られる反面、目的の形質を持ちかつ劣悪な形質を持たない交雑株を選抜するために、多数の交雑株の中から優良な株を選抜する必要がある。
また、胞子形成を経ずに接合能を有する株を実用酵母から取得し、育種に利用することも試みられている(特許文献2)。このような手法自体は、非特許文献5に示されているように、古くから知られている。しかしながら、この方法では、親株として用いた実用酵母との遺伝的な差異はあまり生じないため、接合能を持った株に多様な醸造特性を期待することはできない。
特開2000−245458号公報 ワイン酵母の交雑育種方法 特開2004−16028号公報 実用酵母の栄養要求性変異株を利用した交配育種 X. L. Hu et. Al., "Genetic dissection of ethanol tolerance in the budding yeast Saccharomyces cerevisiae." Genetics 175: 1479-1487 (2007) S. Hara et. Al., "The breeding of cryophilic killer wine yeasts." Agric. Biol. Chem. 45: 1327-1334 (1981) R. Romano et. Al., "Improvement of a wine Saccharomyces cerevisiae Strain by a breeding program." Appl. Environment. Microbiol. 50: 1064-1067 (1985) 加藤 拓ら、清酒酵母きょうかい7号の一倍体の取得と醸造特性の解析、日本農芸化学会2007年度大会講演要旨集: 187 N. Nakazawa et. al., "A method for direct selection of mating-component clones from mating-incompetent industrial strains of Saccharomyces cereviae." J. Ferment. Bioeng., 78: 6-11 (1994)
本発明の課題は、優れたアルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株を効率よく作出する方法や、該作出方法により得られ、優れたアルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株や、該酵母菌株を用いたアルコール飲料の製造方法を提供することにある。また、本発明の課題は、新規で優良な所定の酵母菌株を効率よく作出する方法や、該作出方法により得られる新規で優良な所定の酵母菌株や、該酵母菌株を用いたアルコール飲料の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため、様々な酵母菌株(9株のワイン酵母、5株の清酒酵母、2株の焼酎酵母、2株の上面発酵酵母)を用いて、852株(79組合せ)の交雑株を作製し、それらの交雑株のアルコール生成能を調べたところ、特にワイン酵母と清酒酵母を交雑した場合に、高いアルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株を効率よく作出し得ることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。なお、本発明において高アルコール生成能を有する酵母交雑株とは、後述する本発明の実施例4に記載のブドウ果汁を用いた発酵試験における最も高いアルコール生成濃度が、親株よりも高く、かつ、16%以上とすることができる酵母、又は、後述する本発明の実施例4に記載のブドウ果汁を用いた発酵試験における本培養開始18日経過後の培養液の最終アルコール生成濃度が、その濃度が高い方の親株よりも割合として0.1%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%以上とすることができる酵母を意味する。最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度の高い酵母菌株は必然的にアルコール耐性にも優れている。また、本明細書における「マーカーを付与した酵母」には、便宜上、そのマーカーを持たない所定の酵母に人為的にマーカーを付与した酵母の他、単離して得られた、当初からそのマーカーを持つ酵母も含むものとする。なお、本明細書中の「%」は、特に記載がない限り、「質量%」を意味するものとする。
すなわち本発明は、
(1)接合能を付与した親ワイン酵母と、接合能を付与した親清酒酵母とを交雑し、交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する、ワイン酵母菌株の作出方法であって、前記接合能を付与した親ワイン酵母と、前記接合能を付与した親清酒酵母との組合せが、Geisenheim74株と清酒酵母きょうかい14号株(K14株)との組合せ、K1−V1116株(V1116株)とK14株との組合せ、L2226株とK14株との組合せ、WE452株とK14株との組合せ、及び、WE452株と清酒酵母きょうかい11号株(K11株)との組合せから選択されるいずれかの組合せであり、かつ、前記親ワイン酵母と前記親清酒酵母との組合せが、(a)栄養要求性マーカーを付与した親ワイン酵母と、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、(b)呼吸欠損マーカーを付与した親ワイン酵母と、栄養要求性マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、又は、(c)親ワイン酵母と親清酒酵母のそれぞれに異なる栄養要求性マーカーを付与した組合せであり、前記(a)又は(b)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性及び非呼吸欠損の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、前記(c)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、前記高アルコール生成能を有する交雑株が、少なくとも特定の生成条件の下での最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度として18.0%以上を達成し得るアルコール生成能を有する交雑株であり、前記特定の生成条件が、YPD寒天培地上で25℃、3日間、前々培養した交雑株の菌体を、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地に植菌し、25℃で72時間振とう培養することによって前培養し、グルコース濃度を40%(w/v)としたYPD培地に、OD600=1.0となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で16日間、2.5rpmの回転数で回転培養することによって、本培養する生成条件であることを特徴とする、方法に関する。
また本発明は、
)上記(1)に記載の作出方法によって得られるワイン酵母菌株に関する。
さらに本発明は、
)上記()に記載のワイン酵母菌株を糖質含有物に接種して醸造することを特徴とするアルコール飲料の製造方法に関する。
本発明のワイン酵母菌株の作出方法によると、高アルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株を効率よく作出することができる。また、この作出方法により得られた酵母菌株は、通常のワイン酵母よりもアルコール生成能が高いため、この菌株を利用してアルコール飲料(特にワイン)を醸造すると、アルコール成分が高く、強くリッチな味わいのアルコール飲料(特にワイン)を製造することができる。
また、本発明の酵母菌株の作出方法によると、その酵母の用途に合わせて、新規で優良な酵母菌株を効率よく作出することができる。また、この作出方法により、例えば通常の酵母よりもアルコール飲料の醸造に有利な性質を有している酵母菌株を作出すれば、その酵母菌株を利用してアルコール飲料を醸造することにより、アルコール飲料の製造効率を改善したり、風味の点でより優れたアルコール飲料を得ることができるなどのアルコール飲料の醸造に有利な効果を享受することができる。
1.本発明の新規ワイン酵母菌株の作出方法
本発明者らは、後述の実施例1の表2〜6に記載されているように、様々な酵母を交雑させ、その交雑株の発酵能を測定した結果、ワイン酵母と清酒酵母を交雑することによって、高アルコール生成能を有する新規で優良なワイン酵母菌株を効率よく作出し得ることを見い出した。本発明の新規ワイン酵母菌株の作出方法(本発明のワイン酵母菌株の作出方法)は、この知見に基づいている。
本発明のワイン酵母菌株の作出方法としては、接合能を付与した親ワイン酵母と、接合能を付与した親清酒酵母を交雑し、交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する方法であれば特に制限されず、ここで、本発明においてワイン酵母とは、ブドウ果汁を発酵してワインとすることができる酵母を意味し、清酒酵母とは、清酒もろみを発酵して清酒とすることができる酵母を意味する。なお、より高いアルコール生成能を有する交雑株をより高効率で得る観点からは、親ワイン酵母や親清酒酵母として、高アルコール生成能を有する株を用いることが好ましい。
本発明における上記親ワイン酵母の入手方法としては特に制限されず、ブドウ果汁に接種して発酵させた場合にワインとすることができるかどうかを指標として天然から分離することもできるし、また、例えば低温発酵性、高温発酵性、各種香味性、硫化水素生成性、泡形成性、メタ亜硫酸耐性等の性質においてワイン醸造に適した特性を有する株を、その特性を指標として天然から分離することもできるし、上記特性を有する既存の株から選択することもできる。前述の6つの性質においてワイン醸造に適した特性を持ち、かつ、アルコール生成能の高い既存のワイン酵母として、サッカロミセス・セレビシエWE452株(独立行政法人酒類総合研究所)、サッカロミセス・セレビシエきょうかい酵母ブドウ酒用3号株(財団法人日本醸造協会)等を好適に例示することができる。
本発明における上記親清酒酵母の入手方法としては特に制限されず、清酒もろみに接種して発酵させた場合に清酒とすることができるかどうかを指標として天然から分離することもできるし、また、清酒醸造に適した特性を有する既存の株から適宜選択することもできる。清酒醸造に適した特性に加えて高アルコール生成能を有する既存の清酒酵母として、サッカロミセス・セレビシエ清酒酵母きょうかい11号株(財団法人日本醸造協会)を好適に例示することができる。
親ワイン酵母や親清酒酵母に接合能を付与する方法としては、胞子形成誘導を介して接合能を付与する方法〔例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 19(John Wiley and Sons, Inc., 1992)に記載された方法〕や、胞子形成誘導を経ずに自然突然変異によって接合能を付与する方法を例示することができる。胞子形成誘導を経ずに自然突然変異によって接合能を付与する方法としては、接合型判定に用いるテスター株と共に培養し、該テスター株と交雑する株を選抜する方法〔例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 19(前出)〕を好適に例示することができる。なお、アルコール生成能の優れた交雑株をより高効率で得る観点から、交雑する両親酵母における接合能付与方法として、胞子形成誘導を介する方法、あるいは、胞子形成を経ずに自然突然変異による方法を好ましく例示することができる。具体的な株の組合せとして、胞子形成誘導を介して接合能を付与した株同士、あるいは、胞子形成誘導を経ずに自然突然変異により接合能を付与した株同士、あるいは、胞子形成誘導を介して接合能を付与した株と胞子形成誘導を経ずに自然突然変異により接合能を付与した株の、いずれの組合せであっても良い。
親ワイン酵母と親清酒酵母を交雑する方法としては、互いに接合し得る状態で両親酵母を混合して培養する方法を好適に例示することができる。互いに接合し得る状態とは、一方の親酵母がa型の接合型を有し、他方の親酵母がα型の接合型を有することをいう。なお、両親酵母のいずれかについて、胞子形成を経た株(胞子由来の株)を用いる場合であって、さらにその株がホモタリックの性質を持つ場合、その株から得られた胞子に由来する株同士が接合して速やかに接合能を失う場合があるため、胞子由来の株は、交雑の相手の株と直接培養することが好ましい。
親酵母の接合型を判定する方法としては、a型やα型のテスター株との交雑の有無を指標として行う方法(前出の特許文献2記載の方法等)や、接合型特異的に機能するプロモーターに制御された遺伝子の発現の有無等を指標として行うことができる。接合型特異的に機能するプロモーターとして、a型の接合能を持つ株で特異的に機能するSTE6プロモーターや、α型の接合能を持つ株で特異的に機能するMFalpha1プロモーターを好適に例示することができる。そこで、マーカーとして薬剤耐性プラスミドを用いる場合は、そのプラスミドに、前述の接合型特異的に機能するプロモーターと、その下流にPHO5遺伝子等のレポーター遺伝子をさらに配置すると、レポーター遺伝子の発現(例えば、PHO5遺伝子がコードする酸性ホスファターゼ活性)を指標として酵母の接合型を容易に確認することができる点で好ましい。また、ワイン酵母や清酒酵母は銅感受性を持つことが多いため、テスター株との交雑の有無の判定を、例えば、テスター株の栄養要求性と、接合能を付与したい株の銅感受性が相補された株の出現の有無によって、判定することも可能である。
本発明のワイン酵母菌株の作出方法においては、親ワイン酵母と親清酒酵母を交雑した後、交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する。交雑により得られる交雑株と親株とを、より簡便に区別する観点から、親ワイン酵母や親清酒酵母として、互いに異なるマーカーを付与した酵母を用い、それら各マーカーの表現型を指標として交雑株を効率良く分離することが好ましい。上記マーカーの種類としては、ジェネティシン(G418)やブラストサイジンS(BS)やオーレオバシジンA等の抗生物質などの薬剤の耐性に関する薬剤耐性マーカー;アミノ酸、プリン塩基、ピリミジン塩基などの栄養の要求性に関する栄養要求性マーカー;呼吸欠損マーカー;などの非薬剤の耐性に関する非薬剤耐性マーカーなどを例示することができる。なお、上記マーカーは、それぞれの酵母について複数種ずつ併用してもよい。
両親酵母に付与した各マーカーを指標として交雑株を分離する方法としては、例えば、両親酵母の混合培養物から、上記各マーカーの表現型を共に有するか又は相補する株を分離する方法を例示することができ、前述の分離は、各マーカーの性質に応じた適切な培地で培養することにより行うことができる。例えば薬剤耐性マーカーの場合は、その薬剤を含有する培地を用いることができ、栄養要求性マーカーの場合は、その栄養要求性を持つと生育できず、その栄養要求性を持たないと生育できる培地を用いることができ、呼吸欠損マーカーの場合は、呼吸欠損であると生育できず、呼吸欠損でないと生育できる培地を用いることができる。なお、それぞれの酵母について複数種ずつマーカーを併用した場合は、それらのマーカーすべてを交雑株の分離の際の指標とする必要はなく、両親酵母に特徴的なそれぞれ一つずつ以上のマーカーを適宜選択してそれらの表現型を指標として用いることができる。また、分離した株が実際に交雑株であるかどうかは、親株由来のSNPなどのDNAマーカーが混合されていることや、パルスフィールド・ゲル電気泳動によって親株由来の染色体が混合されていることや、DNA含量が親株よりも増加していることなどを調査することによって、確認することができる。
上記マーカーは、目的に応じて適宜使い分けることができる。例えば、薬剤耐性マーカー遺伝子の導入は、比較的簡便で迅速に行うことができる点で好ましいが、マーカー遺伝子が導入された遺伝子組換え酵母株をアルコール飲料の製造に利用した場合、遺伝子組換え食品の規制や、消費者の不安感の点で問題があるため、準備段階での予備交雑試験(例えば特に好ましいワイン酵母と清酒酵母の組合せを調べるための交雑試験)に好適に用いることができる。一方、自然変異による栄養要求性マーカーや呼吸欠損マーカーの付与は、マーカー遺伝子の導入に比べて労力と時間を要するが、遺伝子組換え食品とならないため、これらのマーカーは実用化用の酵母菌株を得るための交雑試験に特に好適に用いることができる。したがって、接合能及び異なる薬剤耐性マーカーを付与したワイン酵母と清酒酵母とを交雑する工程;前記の各薬剤耐性マーカーを指標として交雑株を分離する工程;分離した交雑株から、アルコール生成能の高い交雑株を選抜する工程;及び、選抜された交雑株の非薬剤耐性の野生型親酵母を、それぞれ接合能を付与した親ワイン酵母と、接合能を付与した親清酒酵母として用いる工程;のすべてを含むことを特徴とするワイン酵母菌株の作出方法を好適に例示することができる。即ち、まずそれぞれ異なる薬剤耐性マーカー遺伝子を保持したプラスミドを導入するなどしてそれぞれ異なる薬剤耐性を付与した任意の2種類の酵母株を作製した後、それらを交雑し、その交雑株の中から前述の各薬剤を含有する培地中で生育できる薬剤耐性株を分離し、分離した株を糖質含有物に接種してその糖質含有物を醸造し、その醸造物のアルコール濃度を測定することでアルコール生成能の高い株を選抜する。このような一連の操作を行うことによって、アルコール生成能の高い交雑株を作出し得る親酵母の有望な組合せを具体的に特定することができる。また、アルコール濃度の測定によるアルコール生成能の高い選抜に加えて、他の指標に関する測定及びそれによる評価、例えば醸造物中の酢酸エチルや酢酸イソアミル等のエステルの生成量を測定することによるエステル生成能の評価や、醸造物の官能を調べることによる官能評価を行うことによって、アルコール生成能の高さに加えて風味にもより優れた交雑株を作出し得る親酵母の有望な組合せを具体的に特定することもできる。次に、選抜された前述の親酵母の有望な特定の組合せについて、それぞれ栄養要求性マーカーと呼吸欠損マーカー、又は、異なる栄養要求性マーカーを付与した酵母株を作製した後、それらを交雑し、その交雑株の中から、両マーカーが相補された株を分離し、分離した株を糖質含有物に接種してその糖質含有物を醸造し、その醸造物のアルコール濃度を測定することで、アルコール生成能が高く、かつ、実用化に適した酵母株を選抜することができる。この選抜株について、さらに、前述のような他の指標に関する測定及びそれによる評価を行うことによって、アルコール生成能の高さに加えて風味にもより優れた実用化用の酵母株を選抜することもできる。以上のような作出方法を用いると、薬剤耐性マーカーの利点と非薬剤耐性マーカー(栄養要求性マーカーや呼吸欠損マーカーなど)の利点を共に享受することができる。具体的には、交雑によりアルコール生成能の高い株が得られる酵母の組合せを、薬剤耐性マーカーを利用して効率良く調べることができ、その酵母の組合せに基づいて、栄養要求性マーカーと呼吸欠損マーカーの組合せ、又は、異なる栄養要求性マーカーの組合せを用いて交雑を行うことにより、遺伝子組換え食品の規制や、消費者の不安感の点で問題がなく、かつ、アルコール生成能の高い新規ワイン酵母菌株を効率良く作出することができる。薬剤耐性マーカーを用いる場合、ジェネティシン耐性マーカーとブラストサイジンS耐性マーカーの組合せを好適に例示することができる。なお、選抜された交雑株の非薬剤耐性の野生型親酵母とは、接合能及び異なる薬剤耐性マーカーを付与したワイン酵母と清酒酵母の交雑に用いたそれら両酵母において、薬剤耐性マーカーを付与する前の酵母を意味する。
また、実用化用のワイン酵母菌株を作出する場合の親株のマーカーの組合せとしては、例えば、呼吸欠損マーカーを付与した親ワイン酵母と、栄養要求性マーカーを付与した親清酒酵母との組合せや、栄養要求性マーカーを付与した親ワイン酵母と、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母との組合せを好適に例示することができ、栄養要求性マーカーを付与した親ワイン酵母と、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母との組合せをより好適に例示することができるが、互いに異なる栄養要求性マーカー(例えば、リシン要求性とウラシル要求性)を付与した親ワイン酵母と親清酒酵母との組合せでもよい。なお、この場合の親酵母への接合能の付与方法としては、栄養要求性マーカーを付与した酵母からは胞子形成を誘導することによって、また呼吸欠損マーカーを付与した酵母からは胞子形成を誘導せずに自然突然変異によって、それぞれ接合能を付与することが好ましい。
前述の薬剤耐性マーカーを付与する方法としては、例えば、薬剤を含む培地で培養することによってその薬剤に対する耐性を誘導する方法や、薬剤耐性マーカー遺伝子を含むプラスミド(以下、「薬剤耐性マーカープラスミド」ともいう。)で酵母を形質転換する方法などを例示することができるが、より簡便で高効率で薬剤耐性を付与し得る点で、薬剤耐性プラスミドで酵母を形質転換する方法を好ましく例示することができる。上記の薬剤耐性マーカープラスミドとして、具体的には、図4に示されるpYT74、pYT75、pKN12、pKN13を好適に例示することができる。これら4種類の薬剤耐性マーカープラスミドはすべて、酵母細胞の中で自律的に複製されるために必要なARS1及びCEN3の配列と、ウラシル要求性を相補するURA3遺伝子を有している。ARS1、CEN3及びURA3の各配列はすべてKobayashiらの論文(Mol. Gen. Genet., 251: 707-715, 1996)に記載のプラスミドpYT37より得ることができる。またこれらの4種類のプラスミドのうち、pYT74とpYT75は、薬剤耐性を宿主に付与する遺伝子として、G418耐性を有しており、pKN12とpKN13は、ブラストサイジンS(BS)耐性を有している。G418耐性遺伝子発現カセットは、Yamanoらの論文(J. Biotechnol., 32: 173-178, 1994)に記載のプラスミドpZNEOより得ることができる。このG418耐性遺伝子発現カセットは、出芽酵母由来PGK1遺伝子のプロモーター及びターミネーターによって制御されている。一方、BS耐性遺伝子発現カセットは、Kobayashiらによる学術論文(Agric. Biol. Chem., 55: 3155-3157, 1991)に記載のDNA塩基配列を参考に、pSV2bsr(フナコシ社製)からPCRによりBS耐性遺伝子BSRを増幅し、出芽酵母由来TDH3遺伝子のプロモーター及びPGK1遺伝子のターミネーターに連結することによって作製することができる。
前述の薬剤耐性マーカープラスミドでの酵母の形質転換方法としては、プロトプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75: 1929 (1978))、金属処理法(J. Bacteriol., 153: 163 (1983))、電気穿孔法(大嶋泰治編著、学会出版センター発行, 1996)等を例示することができるが、簡便性の観点から、電気穿孔法を好適に例示することができる。
前述の栄養要求性マーカーを付与する方法としては、突然変異によって、様々なアミノ酸、プリン塩基、ピリミジン塩基等に対する要求性を持つようになった株を選抜する方法を例示することができる。具体的には、所定の酵母株をα−アミノアジピン酸を含む培地で培養して、α−アミノアジピン酸への耐性株を選抜することによって所定の酵母株にリシン要求性マーカーを付与する方法や、所定の酵母株を5−フルオロオロチン酸を含む培地で培養して、5−フルオロオロチン酸への耐性株を選抜することによって所定の酵母株にウラシル要求性マーカーを付与する方法を例示することができる。なお、上記突然変異としては、通常の突然変異処理によって誘導される突然変異であってもよいが、実用化に用いる菌株は自然突然変異により得られた株であることが好ましい。
前述の呼吸欠損マーカーを付与する方法としては、グリセロールを唯一の炭素源として含む培地で所定の酵母株を培養し、該培地で生育できない株を選抜することによって、所定の酵母株に呼吸欠損マーカーを付与する方法や、低濃度の臭化エチジウムを含む培地で所定の酵母を培養するか又は自然突然変異させて、ミトコンドリアを欠損させることによって、所定の酵母株に呼吸欠損マーカーを付与する方法を例示することができる。
交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する方法は特に制限されず、例えば交雑株のアルコール生成能を測定し、アルコール生成能が高い株を分離する方法を例示することができる。アルコール生成能の測定方法としては、例えば、適度な量のグルコースやフルクトースを含む培地で、溶存酸素を制限した条件下でのアルコール生成量を、キャピラリー・ガスクロマトグラフィーやF−キット・エタノール(J.K.インターナショナル社製)やアルコメイト(理研計器社製)で測定する方法を好適に例示することができる。また、アルコール生成量を直接測定する代わりに、交雑株の培養前後の培地中の糖度をデジタル糖度計(井内盛栄堂社製)等により測定し、培養により減少した糖の量を算出することによって、アルコール生成量を間接的に調べることもできる。前述のアルコール生成能が高い株としては、後述の実施例4に記載の非薬剤耐性マーカーを用いた交雑において得られた株の発酵試験において、2種類の親株のいずれよりも高いアルコール生成能を有する株を好ましく例示することができ、2種類の親株うちアルコール生成能の高い親株と比較して割合として5%以上高いアルコール生成能を有する株をより好ましく例示することができる。
また、他のアルコール生成能が高い株として、後述する実施例4に記載の非薬剤耐性マーカーを用いた交雑において得られた株の発酵試験における最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度が、好ましくは16.2%以上、より好ましくは16.6%以上、さらに好ましくは17.2%以上、さらにより好ましくは17.6%以上、特に好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは18.5%以上、より好ましくは19.0%、さらにより好ましくは19.5%以上、最も好ましくは20%以上の株を挙げることができる。なお、選抜して得られた酵母菌株は、通常のYPD培地等で培養し、継代、維持することができる。また、分離する前述のアルコール生成能が高い株としては、さらにアルコール生成速度が速い株であることが好ましい。
本発明のワイン酵母菌株の作出方法における特に好ましい態様としては、「WE452株(ワイン酵母)に栄養要求性マーカーを付与し、かつ、胞子形成を誘導して接合能を付与した株」と、「サッカロミセス・セレビシエ清酒酵母きょうかい11号株に呼吸欠損マーカーを付与し、かつ、胞子形成を誘導せずに自然突然変異によって接合能を付与した株」とを混合培養した後、栄養要求性と呼吸欠損の二つの性質が相補された交雑株を分離し、得られた交雑株の中からアルコール生成能の高い菌株を選抜する方法を例示することができる。この作出方法により得られ、高アルコール生成能を有し、かつ、アルコール生成能以外の特性においてもワイン酵母として優れた酵母菌株として、KT373株(受託番号FERM P−21447の株)を最も好ましく例示することができる。
2.本発明の新規酵母菌株の作出方法
本発明の新規酵母菌株の作出方法(本発明の酵母菌株の作出方法)としては、任意の2種類の酵母に接合能及び異なる薬剤耐性マーカーを付与した後にそれら両酵母を交雑する工程、前記の各薬剤耐性マーカーを指標として交雑株を分離する工程、分離した交雑株から、所定の交雑株、例えばアルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する工程、及び、選抜された交雑株の親株として用いた2種類の非薬剤耐性の野生型酵母にそれぞれ接合能を付与した後に交雑し、交雑株の中から所定の交雑株、例えばアルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する工程のすべてを含んでいる限り特に制限されず、上記アルコール飲料の醸造に有利な性質としては、高アルコール生成能や高エステル生成能や高アルコール生成速度などを例示することができ、中でも高アルコール生成能や高エステル生成能を好適に例示することができる。また、選抜された交雑株の親株として用いた2種類の非薬剤耐性の野生型酵母とは、異なる薬剤耐性マーカーを付与した両酵母の交雑に用いたそれら両酵母において、薬剤耐性マーカーを付与する前の酵母を意味する。
さらに、本発明における高エステル生成能を有する酵母とは、非薬剤耐性マーカーを用いた交雑において得られた株の以下のエステル生成能確認試験におけるいずれか1種類のエステル(例えば酢酸エチル又は酢酸イソアミル)の最終生成濃度が、その最終濃度が高い親株よりも割合として5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは100%以上とすることができる酵母を意味する。
(エステル生成能確認試験)
前々培養として、サンプル酵母菌株の菌体をYPD寒天培地上で25℃、1日間培養する。次に、100mL容量の三角フラスコに、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地60mLを入れ、そこに前述の前々培養により得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で72時間振とう培養することによって前培養を行う。次いで、濾過滅菌したブドウ果汁(白ワイン用ストレート果汁(株式会社果香より入手)と濃縮果汁(株式会社東食より入手)を混合し、40brixに調整し、さらに窒素源として酵母エキス(MERCK社製)を2.3g/L、リン酸水素二アンモニウムを1.3g/Lとなるよう添加したもの)200mLを250mL容量の広口メジューム瓶に入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、広口メジューム瓶のフタを緩めた状態にして、MAGNETIC STIRRER F-626N(Fine社製)にて90rpmの回転数で回転させながら20℃で嫌気撹拌培養(本培養)を行う。本培養開始から7日目の培養液について、キャピラリー・ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)を用いて、酢酸エチルや酢酸イソアミル等のエステルの生成量をそれぞれ測定する。
また、本発明における高アルコール生成速度を有する酵母とは、後述する本発明の実施例4に記載のブドウ果汁を用いた発酵試験における本培養開始18日経過後の培養液のアルコール生成濃度が、その濃度が高い方の親株よりも割合として5%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上とすることができる酵母を意味する。
上記の任意の2種類の酵母としては、特に制限されず、表1の分類に記載されているワイン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、上面発酵酵母、下面発酵酵母、ウイスキー酵母、及び、その他の酵母からなる群から選ばれる任意の2種類の酵母を用いることができ、また、これらの酵母は天然酵母、遺伝子組換え酵母、野生型酵母、変異酵母のいずれであってもよい。交雑の組合せとしては、互いに異なる分類の酵母同士の組合せ、例えばワイン酵母と清酒酵母等の組合せであってもよいし、同じ分類の酵母同士の組合せ、例えばワイン酵母とワイン酵母等の組合せであってもよい。上記の任意の2種類の酵母として、後述の表2〜6における酵母の組合せを例示することができる。また、アルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株として、高アルコール生成能を有する交雑株を選抜した場合は、任意の2種類の酵母として、後述の表2〜6において「株数」の欄の背面を灰色で示した酵母の組合せを好ましく例示することができ、中でも、図5に記載された「WE452(胞子)とK11(自然突然変異)」、「WE452(自然突然変異)とS−3(胞子)」、「WE452(胞子)とL2226(胞子)」、「K14(胞子)とS−3(胞子)」、「Geisenheim74(胞子)とDV10(胞子)」の組合せを特に好ましく例示することができ、また、ワイン酵母と清酒酵母の組合せや、ワイン酵母と焼酎酵母の組合せも好ましく例示することができる。ここで、「(胞子)」とは、接合能を付与するために、胞子形成誘導を介した株であることを意味し、「(自然突然変異)」とは、接合能を付与するために、胞子形成誘導を経ずに自然突然変異を利用した株であることを意味する。
本発明の酵母菌株の作出方法における接合能の付与方法、薬剤耐性マーカーの付与方法、両酵母の交雑方法、各薬剤耐性マーカーを指標とする交雑株の分離方法、非薬剤耐性の野生型酵母の交雑方法、その交雑株の分離方法、及び、それらの好ましい態様は、前述の本発明のワイン酵母菌株の作出方法と同様である。
上記のアルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する方法としては、その性質により左右されるため特に制限されないが、その性質の程度を測定し、その程度が高い菌株を選抜する方法を例示することができる。前記性質が高アルコール生成能である場合のその測定方法は前述したとおりであり、また、前記性質が高エステル生成能である場合は、後述の実施例5に記載されているように、所定の酵母菌株の培養液中のエステル成分の濃度をキャピラリー・ガスクロマトグラフィー等で測定する方法を例示することができる。
本発明の酵母菌株の作出方法における特に好ましい態様としては、任意の2種類の酵母に接合能及び異なる薬剤耐性マーカーを付与した後にそれら両酵母を交雑する工程、前記の各薬剤耐性マーカーを指標として交雑株を分離する工程、分離した交雑株から、アルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する工程、選抜された交雑株の親株として用いた2種類の非薬剤耐性の野生型酵母の一方に栄養要求性マーカーを、他方に呼吸欠損マーカーあるいは別の栄養要求性マーカーを付与し、かつ、両方に接合能を付与した後にそれら両酵母を交雑した後、非栄養要求性及び非呼吸欠損の表現型をマーカーとして交雑株を分離する工程、及び、交雑株の中からアルコール飲料の醸造に有利な性質を有する交雑株を選抜する工程のすべてを含む作出方法を挙げることができ、より好ましい態様として、前述の異なる薬剤耐性マーカーの組合せとして、ジェネティシン耐性マーカーとブラストサイジンS耐性マーカーとの組合せを用いる態様や、前述の非薬剤耐性の野生型酵母への接合能付与方法として、栄養要求性マーカーを付与した酵母からは胞子形成を誘導することによって、また呼吸欠損マーカーを付与した酵母からは胞子形成を誘導せずに自然突然変異によって、それぞれ接合能を付与する態様を挙げることができる。
3.本発明の新規酵母菌株
本発明の新規酵母菌株(本発明の酵母菌株)としては、前述の本発明のワイン酵母菌株の作出方法や前述の本発明の酵母菌株の作出方法(以下、両作出方法を合わせて「本発明の作出方法」ともいう。)によって得られる酵母菌株や該酵母菌株を培養して得られる酵母菌株であれば特に制限されないが、アルコール飲料の醸造に有利な性質(高アルコール生成能や高エステル生成能やアルコール生成速度など)を有する酵母菌株や該酵母菌株を培養して得られる酵母菌株を好ましく例示することができ、高アルコール生成能、高エステル生成能、アルコール生成速度から選ばれる2つ以上の性質を有している酵母菌株や該酵母菌株を培養して得られる酵母菌株をより好ましく例示することができる。
また、高アルコール生成能を有する酵母菌株としては、後述の実施例4に記載の発酵試験において、2種類の親株のいずれよりも高いアルコール生成能を有する株を好ましく例示することができ、2種類の親株うちアルコール生成能の高い親株と比較して割合として5%以上高いアルコール生成能を有する株をより好ましく例示することができる。また、他のアルコール生成能が高い株として、後述の実施例4に記載の発酵試験における最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度が、好ましくは16.2%以上、より好ましくは16.6%以上、さらに好ましくは17.2%以上、さらにより好ましくは17.6%以上、特に好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは18.5%以上、より好ましくは19.0%、さらにより好ましくは19.5%以上、最も好ましくは20%以上の株を挙げることができる。本発明の好ましい酵母菌株の具体例として、KT373株(受託番号FERM P−21447の株)を特に好ましく例示することができる。KT373株は、高アルコール生成能及び高エステル生成能を有しており、かつ、それ以外の特性においてもワイン酵母として優れた酵母菌株である点で特に好ましく例示することができる。
4.本発明のアルコール飲料の製造方法
本発明のアルコール飲料の製造方法としては、本発明の酵母菌株、好ましくはワイン酵母菌株を糖質含有物に接種して醸造(培養)する方法である限り特に制限されず、ここで「糖質含有物」としては、ブドウ果汁、キウイ果汁、リンゴ果汁、ブルーベリー果汁、アンズ果汁等の果汁や、米、麦、粟、トウモロコシ等の穀類や、サツマイモ等の芋類を例示することができる。上記アルコール飲料としては特に制限されず、ワイン等の果実酒;焼酎;清酒;ビール;ウィスキー;ブランデー;などを例示することができるが、果実酒を好適に例示することができ、中でもワインを特に好適に例示することができる。
以下、ワイン等の果実酒を例に、その製造方法をより具体的に説明する。
本発明の酵母菌株を果汁に直接接種してもよいが、この酵母菌株のスラントから通常のYPD寒天培地で培養した後、得られた菌体を果汁培地に接種し培養して(前培養)、本培養用の種培養液を作製してもよい。この前培養の培養条件としては、25℃で2日間静置培養することを好ましく例示することができる。前述の種培養液を、予め調製した本培養用の果汁液に接種して培養することによって、本培養(本醸造)を行うことができる。本培養用の果汁液は、市販の濃縮果汁とストレート果汁を用いて濃度を調整するなどして調製することができる。本醸造の条件としては、4〜35℃、好ましくは15〜25℃で、8〜14日間培養することを好ましく例示することができる。また、本醸造の途中に補糖を行ってもよい。補糖はグルコースを使用することができ、補糖後の培養液の糖濃度が約20%になるように調整することが好ましい。
醸造する果実酒がワインである場合は、醸造に用いる果汁として、主にブドウ果汁を用いることができるが、その他キウイ、リンゴ、ブルーベリー、アンズ等の果汁なども特に制限されず用いることができる。これらの果汁の分析(比重、直接還元糖、総酸、フェノール、糖度等)は常法に従って行うことができる。また、醸造して得られたワインの分析は、例えば、ワインに含まれるアルコール、直接還元糖、総酸、着色度(420nmの吸光度)、フェノール、硫化水素、低沸点香気成分等を測定し、評価するなどの通常の方法に従って行うことができる。また、良食味のワインか否かは、上記分析結果のみならず、複数の専門パネラーによって味や臭い等を評価することで判定することができる。上記の分析や専門パネラーの評価などに基づいて、本発明の作出方法により得られた菌株から、ワイン等の果実酒の醸造に適している菌株を選抜することができる。なお、本発明のアルコール飲料の製造法においては、本発明の酵母菌株の他に、任意の微生物を併用してもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
(共通実験条件)
酵母の培養は、他に記載のない限り、Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 13,Yeast(前出)に記載のYPD培地(非選択的条件)もしくはSD培地(選択的条件)によって行なった。呼吸欠損株を識別する培地としては、YPDG培地とYPG培地(METHODS IN YEAST GENETICS, A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual, 1997 Edition)を用いた。交雑株を選択的に培養する培地としては、SD培地の糖源を2%グルコースから2%グリセロールに変更したSG培地を用いた。また、酵母の接合、胞子形成誘導、ランダム胞子法もすべて、Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 13,Yeast(前出)に記載の方法で行なった。
(実施例で用いた酵母菌株)
実施例で用いた酵母菌株の情報を表1に記載する。
なお、KY1381は、発明者の一部が属するキリンホールディングス株式会社が保存している酵母菌株であり、キリンホールディングス株式会社フロンティア技術研究所(〒236−0004神奈川県横浜市金沢区福浦1−13−5)にて入手した。
[高いアルコール生成能を有する酵母交雑株を作出するための交雑親の組合せの選抜]
(1)実用酵母菌株のアルコール生成能や発酵能の測定
高いアルコール生成能を有する酵母交雑株を作出するための親株の組合せの選抜をまず行った。具体的には、図1に記載された14種類の実用酵母菌株についてブドウ果汁でのアルコール発酵能を以下の方法で調べた。
前々培養として、前述のそれぞれの酵母の菌体を、YPD寒天培地上で25℃、3日間培養した。次いで、直径18mm、高さ165mmの試験管に、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地15mLを入れ、そこに前々培養後の菌体を一白金耳分植菌し、25℃で48時間振とう培養することによって前培養を行った。次に、直径25mm、高さ200mmの試験管に、濾過滅菌したブドウ果汁〔白ワイン用ストレート果汁と濃縮果汁を混合して37brixに調整した果汁に、さらに窒素源として1.3g/Lのリン酸水素二アンモニウム及び2.6g/Lのファームテック酵母エキス(Merck社製)を添加したもの〕30mLを入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で14日間、ローテーターRT−550(タイテック社製)にて2.5rpmの回転数で回転培養することによって、発酵試験(本培養)を行った。本培養後の培養液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器社製)にて測定した。その結果を図1に示す。図1から分かるように、清酒酵母は全般的に高いアルコール生成能を示したが、ワイン酵母は株によってばらつきが大きく、焼酎酵母には特に高いアルコール生成能を示す株を見い出すことはできなかった。
ブドウ果汁で培養した場合のアルコール生成能は、嫌気条件下での40%グルコース濃度の培地での糖消費能と概ね相関関係が存在すると考えられたため、上記のブドウ果汁での発酵試験よりも簡便な親株の選定法として以下の方法により、実用株の発酵能を調べた。
まず前培養として、図2に記載された酵母菌株を含む8種類の実用酵母菌株を、それぞれYPD培地で25℃、1日間、振とう培養した。次いで、100mL容三角フラスコ中に、40%グルコース含有YPD培地(以下、単に「YPD40培地」という。)を60mL入れ、そこに初期OD600=0.16となるように前培養後の菌体を植菌し、25℃で7日間の静置培養を行った。静置培養の後、ビールアナライザー(京都電子工業社製)で外観発酵エキスを測定した。その結果の一部を図2に示す。Geisenheim74が比較的良好な発酵能を示したので、この株と同等の発酵能を示す株を「発酵良」、この株より割合として10%以上発酵能が優れる株を「発酵優」とした。図2の結果において、「発酵良」又は「発酵優」と認められた株について、後述するように交雑株の取得を試みた。
(2)実用株間交雑株の取得
実用株間交雑株取得のスキームを図3に示す。図3から分かるように、2種類の親株(親株Aと親株B)に対して、それぞれ別の薬剤耐性マーカープラスミドを導入し、さらに、両親株に接合能を付与した後、混合培養して接合させ、前述の両方の薬剤耐性を有していることを指標として、交雑株の取得を行った。親株に薬剤耐性を付与するプラスミドとして、pYT74、pYT75、pKN12、pKN13を用いた。これらのプラスミドの模式図を図4に示す。これら4種類のプラスミドはすべて、酵母細胞の中で自律的に複製されるために必要なARS1及びCEN3の配列と、ウラシル要求性を相補するURA3遺伝子を持つが、それらの配列はすべてKobayashiらの論文(Mol. Gen. Genet., 251: 707-715, 1996)に記載のプラスミドpYT37より得た。またこれらの4種類のプラスミドのうち、pYT74とpYT75は、薬剤耐性を宿主に付与する遺伝子として、G418耐性を有しており、pKN12とpKN13は、ブラストサイジンS(BS)耐性を有している。G418耐性遺伝子発現カセットは、Yamanoらの論文(J. Biotechnol., 32: 173-178, 1994)に記載のプラスミドpZNEOより得た。この発現カセットは、出芽酵母由来PGK1遺伝子のプロモーター及びターミネーターによって制御されている。一方、BS耐性遺伝子発現カセットは、Kobayashiらによる学術論文(Agric. Biol. Chem., 55: 3155-3157, 1991)に記載のDNA塩基配列を参考に、pSV2bsr(フナコシ社製)からPCRによりBS耐性遺伝子BSRを増幅し、出芽酵母由来TDH3遺伝子のプロモーター及びPGK1遺伝子のターミネーターに連結することによって作製した。また、酵母の接合型を判定する接合型判定用カセットは、大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻・原島俊教授より分譲を受けた。このカセットは、中沢が記載しているプラスミドpNN63及びpNN64に含まれるカセットと同一のものである(清酒酵母の研究・90年代の研究、清酒酵母・麹研究会編、財団法人日本醸造協会発行: p95-99, 2003)。pNN63に含まれるSTE6プロモーターに制御されたPHO5遺伝子はa型接合能を持つ株のみで発現されるのに対し、pNN64に含まれるMFalpha1プロモーターに制御されたPHO5遺伝子はα型接合能を持つ株のみで発現される。この性質の違いを利用して、生物分子遺伝学実験法(大嶋泰治編著、学会出版センター発行, 1996)に記載の方法に従って、PHO5遺伝子がコードする酸性ホスファターゼ活性を検出することにより、酵母の接合型の判定を行った。
前述の薬剤耐性マーカープラスミドでの親株の形質転換は、生物分子遺伝学実験法(大嶋泰治編著、学会出版センター発行, 1996)に記載の方法に従って、電気穿孔法により行なった。得られた形質転換体をYPD培地で静止期まで液体振とう培養を行い、その菌体を寒天培地に塗布し、上述の方法で酸性ホスファターゼ活性を調べて、該活性を発現している株を分離することによって、前述の形質転換体の中から自然突然変異で接合能を取得した株を分離した。分離した菌体を滅菌水に懸濁し、自然突然変異体懸濁液とした。
一方、胞子を誘導することにより接合能を付与した株の取得は、以下の方法で行なった。
100mL容三角フラスコに10mLの胞子形成用培地(酢酸カリウム 1.0%、Difco Yeast Extract 0.1%、グルコース 0.05%)を入れ、そこに酵母菌体を植菌し、一週間以上25℃で振とう培養を行なった後、培養液を遠心することによって集菌し、得られた菌体を5mLの滅菌水に懸濁し、0.25mLの2mg/mL Zymolyase 100T(生化学工業社製)及び0.01mLのβ-メルカプトエタノールを加え、30℃で一晩振とうした。得られた培養液を遠心して集菌し、その菌体を1mLの1.5% Nonidet P-40(ナカライテスク社製)に懸濁した後、遠心して集菌し、次いで、再び1mLの1.5% Nonidet P-40(ナカライテスク社製)に懸濁し、水浴式超音波発生装置で10分間の処理を行なった後、60℃で10分間処理を行なうことによって胞子以外の細胞を破砕した。この破砕液から再度集菌し、次いで、それを再び1mLの1.5% Nonidet P-40(ナカライテスク社製)に懸濁し、水浴式超音波発生装置で10分間の超音波処理を行なった後、遠心して集菌し、その菌体を滅菌水に懸濁し、胞子懸濁液とした。
自然突然変異で接合能を付与した親株や、胞子を誘導することにより接合能を付与した親株を用いた交雑は、2つの親株に由来する胞子懸濁液同士、2つの親株に由来する自然突然変異懸濁液同士、又は、1つの親株に由来する胞子懸濁液と1つの親株に由来する自然突然変異懸濁液、を混合し、YPD液体培地中で一晩静置後、0.4mg/mL ジェネティシン(Gibco BRL社製)及び0.2mg/mL ブラストサイジンS(フナコシ社製)を含むYPD寒天培地に塗布し、両親株に付与した2つの薬剤に対する耐性を指標として交雑株を選抜した。その結果、合計79通りの親株の組合せから、852株の交雑株を得た。
(3)交雑株の発酵能の一次評価
上記実施例1(2)で得られた交雑株を、上記実施例1(1)記載の方法で静置培養し、発酵能の評価を行なった。発酵能の評価は、デジタル糖度計(井内盛栄堂社製)を用い、糖度の減少を指標として行った。その結果を表2〜6に示す。なお、表中の「親株における接合能の付与方法」の項目におけるNは胞子形成誘導を経ずに接合能を付与したことを表し、Sは胞子形成誘導を経て接合能を付与したことを表し、「×」の左側の記号が親株1の、右側の記号が親株2の接合能の付与方法を表す。また、残存糖度がGeisenheim74より低い株を「発酵良」と評価し、残存糖度がGeisenheim74の0.9倍より低い株を「発酵優」と評価した。また、「発酵優」に該当する株は、「発酵良」としてもカウントした。さらに、発酵優の株が1株以上取得できた交雑組合せについては、「株数」の欄の背面を灰色で示している。
これら852株の交雑株の中から、「発酵良」の株として228株を、「発酵優」の株として24株を選抜した。「発酵優」の株が得られた親株の組合せは、16組合せであった。
(4)交雑株の発酵能の二次評価
上記実施例1(3)の一次評価において良好な発酵能を示した交雑株について、ブドウ果汁での発酵能を以下に述べる方法で調べた。
前々培養として、交雑株の菌体を、YPD寒天培地上で25℃、3日間培養した。次に、直径18mm、高さ165mmの試験管にグルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地5mLを入れ、そこに前々培養して得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で48時間振とう培養することによって前培養を行った。
次いで、濾過滅菌したブドウ果汁(白ワイン用ストレート果汁と濃縮果汁を混合し、37brixに調整し、さらに窒素源として1.3g/Lのリン酸水素二アンモニウム及び2.6g/Lのファームテック酵母エキス(Merck社製)を添加したもの)30mLを直径25mm、高さ200mmの試験管に入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で14日間、ローテーターRT−550(タイテック社製)にて2.5rpmの回転数で回転培養することによって、発酵試験(本培養)を行った。本培養後の培養液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器社製)にて測定した。そのアルコール濃度の測定結果と、その交雑株の親株の組合せを図5に示す。図5に示すとおり、図1で最も高いアルコール生成能を示したDV10株を凌ぎ、最高アルコール生成濃度20%に到達するような高いアルコール生成能を有する酵母を作出・選抜することができた。以上の結果より、WE452株(WE452胞子)と清酒酵母きょうかい11号株(K11)などの高いアルコール生成能を有する酵母菌株を生じる交雑親の組合せ(図5記載の交雑組合せ)を得ることができた。また、本培養により得られたワインの風味を評価したところ、強くリッチな味わいの、風味に優れたワインであることが判明した。
[実用化用の高アルコール生成能を有する酵母交雑株の作出・選抜]
実施例1の実験により、高アルコール生成能を有する酵母交雑株を作出するために特に優れた交雑親の組合せが判明した。しかし、実施例1の実験系で得られる交雑株は薬剤耐性マーカープラスミドが導入された組換え酵母であるため、市販用のアルコール飲料の製造に用いるには、遺伝子組換え食品の規制や、消費者の不安感の点で全く問題がないとはいえない。そこで、市販用のアルコール飲料の製造にも適した実用化用の高アルコール生成能酵母交雑株を作出するために、遺伝子組換えではない以下の作出方法を実施した。
(1)酵母の接合能判定に用いるテスター株の取得
まず始めに、酵母の接合能判定に用いるテスター株の取得を行った。具体的には、実験室酵母、サッカロミセス・セレビシエATCC200875 (MATa,leu2) 及びATCC200883 (MATα,trp1,lys2,ura3) を常法によって接合後、胞子形成を誘導し、さらにランダム胞子法によって胞子由来株を得た。得られた株を2mMの硫酸銅を含むSD培地に塗布して培養することによって、それらの株の中から硫酸銅耐性、a型もしくはα型の接合能、及び、栄養要求性(リシン要求性(lys2)またはウラシル要求性(ura3))を持った2株を選抜した。選抜したこれら2株をそれぞれMT1(MATα,ura3)、MT2(MATa,lys2)と命名し、以下の実験においてテスター株として利用した。なお、酵母の株名の後の括弧内の記載は遺伝子型を示す。
(2)栄養要求性(リシン要求性)及び接合能を付与した親ワイン酵母株の取得
交雑用の親ワイン酵母株として、まず、栄養要求性(リシン要求性)マーカーを付与したワイン酵母株の取得を行った。具体的には、ワイン酵母として知られているWE452株(独立行政法人酒類総合研究所)を、30mg/Lのリシン及び2g/Lのα‐アミノアジピン酸を含むSD培地で培養し、それらの株の中から、自然変異によるリシン要求性株、すなわち、前述のSD培地で生育可能なα‐アミノアジピン酸への耐性株を得、KY2070株と命名した。次いで、KY2070株から、定法に従って胞子形成を誘導し、ランダム胞子法により胞子を得ることによって、接合能を付与した。
(3)呼吸欠損マーカー及び接合能を付与した親清酒酵母株の取得
また、KY2070株の交雑パートナーとして、まず、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母株の取得を行った。具体的には、清酒酵母きょうかい11号株(独立行政法人酒類総合研究所)を、YPDG培地や、グリセロールを唯一の糖源とするYPG培地で培養し、それらの株の中から、自然変異による呼吸欠損株、すなわち、YPDG培地で小さなコロニーを形成しかつグリセロールを唯一の糖源とするYPG培地で生育できない株を得、KY1792株と命名した。
次いで、KY1792株から、自然突然変異によってさらに接合能を持った株の取得を行った。具体的には、前述のKY1792株をYPD培地で培養後、この培養液をYPD培地で希釈し、1ウェルあたり約10細胞となるように96ウェルプレートに分注し、30℃にて一晩、培養した。培養液の一部を保存し、残りの培養液にテスター株MT2の培養液を加えて混合し、30℃にて一晩、培養した後、1.5mM硫酸銅を含むSD培地(リシンを含んでいない)に塗布し、4日間、30℃にて培養を行なった。この培地で増殖し得ることを指標として利用することによって、MT2株と接合することのできる株、すなわちMATαの接合型を持った株を一株、保存した培養液から分離し、KY2074株と命名した。
(4)前述の親ワイン酵母株と親清酒酵母株の交雑
前述のKY2070株の胞子(リシン要求性マーカー及び接合能を有する親ワイン酵母株)と、前述のKY2074株(呼吸欠損マーカー及び接合能を有する親清酒酵母株)の交雑を行った。具体的には、まず、YPD培地を分注した96ウェルプレートにおいて、KY2070株由来の胞子とKY2074株との混合培養を25℃で24時間行なった。混合培養後の培地を、SG培地(リシンを含まない)に塗布し、それらの株の中から、前述の両株の接合株、すなわち、リシン非要求性かつグリセロールを単独の糖源として生育可能な交雑株を選抜した。選抜した交雑株について、Tamaiら記載の方法でパルスフィールドゲル電気泳動を行なって(Y. Tamai, et. Al., 1998, Yeast 14: 923-933)、核型を調べ、選抜したこれらの株が両親の染色体を併せ持つことを確認した。このようにして、ワイン酵母株(KY2070株)と清酒酵母株(KY2074株)との交雑株(以下、単に「交雑株」という。)を多数得た。
(5)交雑株からの、高アルコール生産酵母株の選抜
前述の交雑株について後述するように小スケールの発酵試験を実施し、交雑株から高アルコール生成能を有する株の選抜を行った。具体的には、以下のような方法で行った。
前々培養として、交雑株の菌体を、YPD寒天培地上で25℃、3日間培養した。次に、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地(以下、単に「YPD10培地」という。)を15mL入れた直径18mm、高さ165mmの試験管を用意し、前述の前々培養により得られた菌体を一白金耳分、前述の試験管内に植菌した後、25℃で72時間振とう培養することによって前培養を行った。
次いで、直径25mm、高さ200mmの試験管に、グルコース濃度を40%(w/v)としたYPD培地(以下、単に「YPD40培地」という。)を30mL入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で16日間、ローテーターRT−550(タイテック社製)にて2.5rpmの回転数で回転培養することによって、発酵試験(本培養)を行った。本培養後の培養液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器社製)にて測定した。その結果の一部を表7に示す。
表7の結果から分かるように、親ワイン酵母であるWE452株由来株(KY2070株)と、親清酒酵母である清酒酵母きょうかい11号株(独立行政法人酒類総合研究所)由来株(KY2070株)との交雑によって、アルコール生成能が親ワイン酵母株(WE452株)や親清酒酵母(きょうかい11号株)よりも優れた株(交雑株)が取得可能であることが示された。得られた交雑株の中でも、アルコール生成能に秀でた株として、KT373株(アルコール濃度19.48%)を選抜した。
[アルコール生成能の高い選抜酵母株(KT373株)の発酵試験]
実施例2で得られた、アルコール生成能の高い選抜酵母株(KT373株)の発酵能を調べるために、発酵試験を行った。具体的には、以下のような方法で行った。
前々培養として、KT373株の菌体をYPD寒天培地上で25℃、3日間培養した。次に、直径18mm、高さ165mmの試験管に、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地を15mL入れ、そこに前述の前々培養により得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で48時間振とう培養することによって前培養を行った。
次いで、濾過滅菌したブドウ果汁(白ワイン用ストレート果汁と濃縮果汁を混合し、39brixに調整し、さらに窒素源として1.3g/Lのリン酸水素二アンモニウム及び2.6g/Lのファームテック酵母エキス(Merck社製)を添加したもの)30mLを直径25mm、高さ200mmの試験管に入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で14日間、ローテーターRT−550(タイテック社製)にて2.5rpmの回転数で回転培養することによって、発酵試験(本培養)を行った。本培養後の培養液のアルコール生成濃度をアルコメイト(理研計器社製)にて測定した。その結果の一部を表8に示す。
表8の結果から、KT373株は、実際のブドウ果汁を用いた発酵においても、両親株を凌駕する(WE452株と比較しても約1.14倍)アルコール生成量を示すことが判明した。なお、このKT373株は、独立行政法人産業技術総合研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)において受託番号FERM P−21447(受託日2007年11月20日)として国内寄託されている。また、本培養により得られたワインの風味を評価したところ、強くリッチな味わいの、風味に優れたワインであることが判明した。
[アルコール生成能の高い選抜酵母株の発酵試験2]
実施例2で得られた、アルコール生成能の高い選抜酵母株(KT373株)の発酵能をより詳細に調べるために、KT373株、及び、その親株である清酒酵母きょうかい11号株(K11株)、WE452株について、以下の方法で発酵試験を行った。
前々培養として、上記のいずれかの酵母菌株の菌体をYPD寒天培地上で25℃、1日間培養した。次に、直径18mm、高さ165mmの試験管に、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地を15mL入れ、そこに前述の前々培養により得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で3日間振とう培養することによって前培養を行った。
次いで、濾過滅菌したブドウ果汁(白ワイン用ストレート果汁と濃縮果汁を混合し、40brixに調整し、さらに窒素源として1.3g/Lのリン酸水素二アンモニウム及び2.6g/Lのファームテック酵母エキス(Merck社製)を添加したもの)30mLを直径25mm、高さ200mmの試験管に入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で18日間、ローテーターRT−550(タイテック社製)にて2.5rpmの回転数で回転培養することによって、発酵試験(本培養)を行った。本培養中の培養液を、培養開始から13日、15日、18日後にそれぞれサンプリングし、そのアルコール濃度をアルコメイト(理研計器社製)にて測定した。その結果の図6に示す。図6の結果から分かるように、培養開始後18日後で、交雑株KT373株は、親株のWE452と比較しても割合として11%高いアルコール濃度(実測値として16.7vol%)を示した。また、交雑株はアルコール生成の速度についても、親株のいずれよりも高いことが判明した。また、本培養により得られたワインの風味を評価したところ、強くリッチな味わいの、風味に優れたワインであることが判明した。
[KT373株のエステル生成能確認試験]
アルコール生成能の高いKT373株を用いて醸造して得られるワインの香りが、その親株である清酒酵母きょうかい11号株及びWE452株と比較してどのようであるかを客観的に調べるため、それら3種類の酵母について、以下の方法でエステル生成能確認試験を行った。
前々培養として、上記のいずれかの酵母菌株の菌体をYPD寒天培地上で25℃、1日間培養した。次に、100ml容量の三角フラスコに、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地60mLを入れ、そこに前述の前々培養により得られた菌体を一白金耳分植菌した後、25℃で72時間振とう培養することによって前培養を行った。
次いで、濾過滅菌したブドウ果汁(白ワイン用ストレート果汁(株式会社果香より入手)と濃縮果汁(株式会社東食より入手)を混合し、40brixに調整し、さらに窒素源として酵母エキス(MERCK社製)を2.3g/L、リン酸水素二アンモニウムを1.3g/Lとなるよう添加したもの)200mLを250ml容量の広口メジューム瓶に入れ、そこにOD600=1.0(約1.0×10cells/mL)となるように前培養後の菌体を植菌し、広口メジューム瓶のフタを緩めた状態にして、MAGNETIC STIRRER F-626N(Fine社製)にて90rpmの回転数で回転させながら20℃で嫌気撹拌培養(本培養)を行った。本培養開始から7日目の培養液について、キャピラリー・ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)を用いて、酢酸エチルと酢酸イソアミルの生成量をそれぞれ測定した。その結果を表9に示す。表9の結果から分かるように、交雑株(KT373株)は、親株のWE452や清酒酵母きょうかい11号と比較しても酢酸エチルにおいて、親株よりも割合としてそれぞれ79.6%、9.9%、また酢酸イソアミルにおいて親株よりも割合としてそれぞれ1136.8%、40.3%、高い濃度を示した。
表9の結果から、ワイン酵母WE452株と、清酒酵母きょうかい11号の交雑によって、エステル生成能が親のワイン酵母よりも強いワイン酵母株を取得することが可能であることが示された。
実用酵母菌株のアルコール生成能を示す図である。 実用酵母菌株のYPD40培地での発酵能を示す図である。 薬剤耐性マーカーを利用した実用株間交雑株の取得スキームを示す図である。 薬剤耐性を付与するプラスミドの模式図を示す図である。 選抜された交雑株のアルコール生成能を示す図である。 選抜された交雑株のアルコール生成能を経時的に示す図である。

Claims (3)

  1. 接合能を付与した親ワイン酵母と、接合能を付与した親清酒酵母とを交雑し、交雑株の中から高アルコール生成能を有する交雑株を選抜する、ワイン酵母菌株の作出方法であって、
    前記接合能を付与した親ワイン酵母と、前記接合能を付与した親清酒酵母との組合せが、Geisenheim74株と清酒酵母きょうかい14号株(K14株)との組合せ、K1−V1116株(V1116株)とK14株との組合せ、L2226株とK14株との組合せ、WE452株とK14株との組合せ、及び、WE452株と清酒酵母きょうかい11号株(K11株)との組合せから選択されるいずれかの組合せであり、かつ、
    前記親ワイン酵母と前記親清酒酵母との組合せが、(a)栄養要求性マーカーを付与した親ワイン酵母と、呼吸欠損マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、(b)呼吸欠損マーカーを付与した親ワイン酵母と、栄養要求性マーカーを付与した親清酒酵母との組合せ、又は、(c)親ワイン酵母と親清酒酵母のそれぞれに異なる栄養要求性マーカーを付与した組合せであり、
    前記(a)又は(b)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性及び非呼吸欠損の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、
    前記(c)の組合せで交雑した場合は、該交雑の後、非栄養要求性の表現型をマーカーとして交雑株を分離し、
    前記高アルコール生成能を有する交雑株が、少なくとも特定の生成条件の下での最高アルコール生成濃度又は最終アルコール生成濃度として18.0%以上を達成し得るアルコール生成能を有する交雑株であり、前記特定の生成条件が、YPD寒天培地上で25℃、3日間、前々培養した交雑株の菌体を、グルコース濃度を10%(w/v)としたYPD培地に植菌し、25℃で72時間振とう培養することによって前培養し、グルコース濃度を40%(w/v)としたYPD培地に、OD600=1.0となるように前培養後の菌体を植菌し、20℃で16日間、2.5rpmの回転数で回転培養することによって、本培養する生成条件であることを特徴とする、方法。
  2. 請求項1に記載の作出方法によって得られるワイン酵母菌株。
  3. 請求項に記載のワイン酵母菌株を糖質含有物に接種して醸造することを特徴とするアルコール飲料の製造方法。
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