JP4393028B2 - 新規酵母及びその利用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規酵母、新規酵母の取得方法、及び酒類、食品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の一株である清酒酵母を馴養、交雑、又は変異処理することにより、親株より有機酸を多く生成する株を取得する育種例には、以下の報告がある。リンゴ酸高生成株としては、コハク酸デヒドロゲナーゼの阻害剤であるジメチルサクシネートの感受性酵母(特開平3−175975号公報)、シクロヘキシミド耐性酵母(日本醸造協会誌、第88巻、第8号、第645〜647頁、1993年)、及びコハク酸デヒドロゲナーゼの阻害剤であるテノイルトリフルオロアセトン又はオキシカルボキシン耐性酵母(特開平6−121670号公報)が知られている。これらの酵母は、親株に比べてリンゴ酸を、それぞれ約3倍、約5〜7倍、及び約2倍生成することが述べられている。また、爽快な酸味を生成する泡なし清酒酵母(特開平5−317036号公報)、及びメタ重亜硫酸カリウムに対する馴養株(特開平7−203951号公報)が知られている。
【0003】
しかし、これらの酵母は特定の有機酸は著量生成するが、他の性質、例えば、清酒製造における日本酒度の切れ及びアルコール濃度は親株より劣っている。また、吟醸香の成分の一つである酢酸イソアミルの生成、及び吟醸香の強弱の指標である酢酸イソアミルのイソアミルアルコールに対する比(E/A比)については述べられていない。昨今の清酒需要が低下する中で、その需要を喚起する方法の一つとして、特定の好ましい香味成分によるものだけでなく、複数の成分がバランスよく含まれる清酒が考えられる。前述のような好ましい香味成分の多くは、酵母のアルコール発酵に伴って生成されるものであり、このような酵母の開発が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況にかんがみて行われたものであり、リンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成する新規酵母及びその取得方法、並びに該新規酵母を用いるリンゴ酸、コハク酸、及び酢酸イソアミルがバランスよく高生成される酒類、食品の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、コハク酸、塩酸から選択される酸によりpH2.3〜2.7の範囲となるように調整を行い、YPD培地、SD培地、YM培地、麹汁培地から選択される一の選択培地で、親株であるK−701株よりも増殖能が1.8倍以上高く、かつリンゴ酸生成量とコハク酸生成量との和が1.2倍以上生成することを特徴とするサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する新規酵母Saccharomyces cerevisiae MA−R161(FERM P−18552)に関し、第2の発明は、第1の発明の新規酵母を用いる酒類、食品の製造方法に関する。
【0006】
本発明者らは、糖の中間代謝産物耐性を選択の指標として変異株を取得すれば有機酸生成の変化した酵母が取得できるのではないかと考えた。そこで、通常の酵母が生育できない濃度の酸を含有する平板培地に生育してくる変異株を分離し、該変異株の麹汁培養試験を実施したところ、有機酸を高生成し、酸度が高い変異株を見出した。更に、該変異株を用いて酒類、食品の製造を行ったところ、リンゴ酸、コハク酸、及び吟醸香の成分である酢酸イソアミルをバランスよく高含有し、並びにアルコール濃度等の他の成分がその親株とそん色ないことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明における酵母の種類には特に限定はない。この中でサッカロミセス・セレビシエに属する酵母を用いるのが好ましく、特に、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母、ビール酵母、等の醸造用酵母、パン酵母、等の酒類、食品の製造に用いられているものが好適に用いることができる。酒類、食品の製造に用いられている酵母の菌株は、常法により用いられているものを使用でき、例えば、清酒酵母では、財団法人日本醸造協会K−701号(以下、K−701株という)、K−901号等を、焼酎酵母では協会焼酎酵母2号等を挙げることができる。また、野生株、変異処理株、馴養株、交雑株、細胞融合株、プラスミド等による形質転換株も含まれる。
【0008】
本発明では、酵母を後述の選択培地に培養後、分離することにより所望の新規酵母を取得することができるが、選択培地に培養する前に、酵母に馴養、変異処理等を行う方が効率的に得ることができ、特に変異処理が好適である。変異処理は、公知の変異誘導方法により行うことができる。その例としては、紫外線若しくは放射線を照射させる物理的方法、又はN−メチル−N´−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホネート(以下、EMSという)等の薬剤を適宜用いることにより行えばよく、有効な変異処理としてはEMS処理を挙げることができる。
【0009】
本発明においてはpH2.7以下の選択培地を用いる。選択培地をpH2.7以下にするためには、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、コハク酸等の有機酸、及び塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸を添加すればよい。これらの酸の中でリンゴ酸、フマル酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、コハク酸、塩酸を用いることが好ましい。選択培地に添加する酸は任意の一種類を添加すればよい。その結果得られる菌株は酸の種類に関係なく同様の性質を有する菌株を取得することができ、リンゴ酸及びコハク酸がバランスよく高生成される。しかし、いずれの酸を添加した培地を用いる場合においても、pH2.7以下にする必要がある。pHが2.7超では菌株間の増殖能の差を区別し難く、効率よく分離することができない。酸の添加量はpH2.7以下となる量で適宜選択すればよく、pH2.3〜2.7の範囲となるように添加するのが好適である。pH2.3未満では、所望の酵母が十分増殖できない場合があり、効率よく取得することができない。選択培地の炭素源、窒素源等の栄養源は、酵母の培養に用いることができるものであれば特に限定はない。このため、酵母の培養に用いられている培地を用い、酸を所望のpHとなるように添加すればよい。この培地の例として、YPD培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)、SD培地〔イーストニトロゲンベース(アミノ酸不含)0.67w/v%、グルコース2.0w/v%〕、YM培地(0.3w/v%酵母エキス、0.3w/v%麦芽エキス、0.5w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)、麹汁培地等を挙げることができる。
【0010】
このような選択培地を用いて酵母の培養を行い、増殖能が高い菌株を分離する。本発明でいう増殖能とは、DNA合成及び細胞分裂を伴い、細胞数が増加する能力のことをいう。選択培地で培養後に増殖能が高い菌株を分離する。増殖能は平板培地上のコロニーを観察し、それが大きいほど増殖能が高いと判定できる。また、平板培養法により分離したコロニーを、親株を対照とし、選択培地で液体培養後、培養液の660nmにおける吸光度(以下、OD660という)を測定し、それが大きいほど増殖能が高いと判定することもできる。
【0011】
分離培養は常法により行えばよい。この例として、平板培養法、平板塗抹法、等による方法を挙げることができる。直径100mmのシャーレ1枚当りの細胞数は、1×104個〜1×109個、好ましくは1×105個〜1×106個植菌すればよい。1×104個未満では、シャーレ1枚当りの細胞数が少ないために効率が悪い。一方、1×109個超では、シャーレ1枚当りの細胞数が多く、複数のコロニーが接触するので、単一のコロニーの分離を行うことができない。培養温度及び時間は、それぞれ酵母が増殖できる温度及び1日〜7日の範囲で適宜選択すればよく、好ましくは、それぞれ20℃〜30℃及び2晩〜3日の範囲で選択すればよい。また、酵母又はそれに変異処理を施したものをpH2.7以下になるように前述の酸を添加してなる液体培地で短時間培養後、選択培地に塗布してもよい。このように行うことにより、該液体培地における増殖能が高い菌株は短い誘導期の後、対数増殖期に入る。このため、短時間の培養においては、該菌株の細胞数が液体培地中に増加し、選択培地に塗布する所望の菌株の割合を高くすることができる。液体培地における培養時間は、用いる酵母、変異処理条件等により異なるので、適宜選択すればよい。
【0012】
分離した菌株を、拡大培養後、ブリックス(Brix)10の麹汁培地で培養し、その上清中の有機酸含量を測定する。その結果、リンゴ酸及びコハク酸の含量が高い株を選択すればよい。有機酸含量の測定は、有機酸分析装置等により測定することができる。
【0013】
また、親株に対する、用いる酸の最小生育阻害濃度を求め、それより高い濃度の酸を含有する培地を用いて分離することもできる。この方法を用いれば、直径100mmのシャーレ1枚に植菌する細胞数を1×109個で行うこともでき、所望の菌株をより効率的に取得することができる。この方法としては特に限定はないが、一例を以下の検討例に示す。
【0014】
(検討例)
酵母として、K−701株を用い、リンゴ酸に対する最小生育阻害濃度を求めた。K−701株をSD液体培地〔イーストニトロゲンベース(アミノ酸不含)0.67w/v%、グルコース2.0w/v%〕5mlに一夜振とう培養して、酵母前培養液を得た。次に、リンゴ酸を0.0mM、300mM、370mM、460mM、520mM含有するYPD平板培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース、2w/v%寒天)に前培養したK−701株を植菌した。30℃で3日間培養後生育を観察して生育の程度〔非常に生育した:(++)、生育した(+)、生育しない(−)〕を調べた。K−701株に対するリンゴ酸の最小生育阻害濃度の結果を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
表1の結果より、K−701株は370mMのリンゴ酸ではコロニーを形成するが、460mM以上の濃度ではコロニーを形成しない。また、460mMリンゴ酸含有YPD培地のpHを測定した結果、pHは2.7であった。したがって、YPD培地において、K−701株に対するリンゴ酸の最小生育阻害濃度は460mMであり、そのpHは2.7であることが明らかになった。
【0017】
本発明の新規酵母は、前述の酸をpH2.7以下になるように添加してなるSD液体培地〔イーストニトロゲンベース(アミノ酸不含)0.67w/v%、グルコース2.0w/v%〕において、30℃、48時間静置培養した培養液のOD660が野生株の1.8倍以上を有するものである。また、該酵母はリンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成するものである。本発明の代表的菌株であるMA−R161株は、Saccharomyces cerevisiae MA−R161株と表示、命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−18552として寄託されている。
【0018】
MA−R161株は、K−701株の変異株であり、それらの菌学的性質を以下に示す。
(菌学的性質)
1.形態学的性質
YPD培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)で30℃、2日間培養した後、顕微鏡で観察した。
a)形:卵円形
b)大きさ:長さ4.7〜7.9μm、幅3.8〜5.5μm
2.増殖の形態:出芽
3.生化学的観察
a)糖の発酵性
0.67w/v%イーストニトロゲンベース(ディフコ社製)、下記記載の糖(2w/v%)をダーラム管入り試験管に分注して、当該菌株を接種し、30℃で5日間培養して、その炭酸ガスの発生の有無を観察した。
グルコース (+) ガラクトース (+)
スクロース (+) マルトース (+)
ラクトース (−) メリビオース (−)
ラフィノース (+)
b)糖の資化性
0.67w/v%イーストニトロゲンベース(ディフコ社製)、下記記載の糖(2w/v%)を用いて、オーキサノグラフ法により、30℃で14日間の生育を観察した。
グルコース (+) ガラクトース (+)
スクロース (+) マルトース (+)
ラクトース (−)
c)硝酸塩の同化性:(−)
硝酸塩は硝酸カリウムとしてウィッカーハムの炭素化合物同化試験用培地(ディフコ社製)を用いて、オーキサノグラフ法により生育を観察した。
d)TTC染色性:赤
e)β−アラニン培地、35℃、3日間培養での生育:(−)
4.高泡の形成
清酒の小仕込を行ったところ、高泡の形成は観察されなかった。
以上、形態学的、生化学的結果は、本発明酵母菌株がサッカロミセス・セレビシエに属する酵母であることを示すものである。また、β−アラニン培地、35℃での生育が陰性、及び清酒の小仕込試験において、高泡の形成も認められないことから、該菌株はK−701株の変異株であることを示すものである。
【0019】
5.薬剤に対する感受性
ジメチルスクシネート(1.5v/v%)を含むYM培地(0.3w/v%酵母エキス、0.3w/v%麦芽エキス、0.5w/v%ペプトン、2w/v%グルコース)を用いて、30℃で7日間培養した。親株であるK−701株と同等に生育してきた株を+で表した。ジメチルスクシネートに対する結果を表2に示す。親株であるK−701株及びその変異株であるMA−R161株は生育し、感受性を示さなかった。
【0020】
【表2】
【0021】
6.薬剤に対する耐性
シクロヘキシミド(0.5μg/ml)含有YM培地、テノイルトリフルオロアセトン(0.1mg/ml)、50%オキシカルボキシンを含有する農薬プラントバックス〔3.2mg/ml:日本曹達(株)製〕含有YNBC培地(0.67w/v%ディフコ社イーストニトロゲンベース、2w/v%クエン酸、2w/v%寒天、pH6.0)、又はメタ重亜硫酸カリウム(0.2mg/ml)含有SD培地を用いて親株であるK−701株と同様に生育してこなかった株を−で示した。薬剤に対する耐性の結果を表3に示す。MA−R161株はいずれの薬剤を含有する培地においても生育せず、耐性を示さなかった。
【0022】
【表3】
【0023】
7.酸存在下における増殖能
SD液体培地5mlで30℃で一晩振とう培養したMA−R161株の培養液25μlを、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、若しくはフマル酸を表4に示す濃度で含有するpH2.7以下のSD液体培地5ml、又は塩酸をpH2.7になるように添加したSD液体培地5mlに添加し、30℃で二晩静置培養した。静置培養後、培養液のOD660を測定した。対照として、親株であるK−701株を用いて同様の培養を行った。その結果を表4に示す。MA−R161株は、表4に示す酸を含有するpH2.7以下のSD液体培地において、その親株であるK−701株より増殖能が1.8倍以上高かった。
【0024】
【表4】
【0025】
本発明の新規酵母を用いて、酒類、食品を製造することができ、その種類は、製造に酵母を用いるものであれば特に限定はない。この例として、清酒、焼酎、ワイン、ビール、雑酒等の酒類、及びパン、発酵調味料等の食品を挙げることができ、得られる酒類、食品は、アルコール濃度等の好ましい性質はそのままで、爽快な口当りや香気の良い酸味がバランスよく付与された製品となる。例えば、清酒では、アルコール濃度及び日本酒度は同等で、リンゴ酸の爽快な酸味、コハク酸の旨味、及び酢酸イソアミルによる吟醸香がバランスよく付与され、香味に優れたものである。これらの酒類、食品の製造は常法により行うことができ、清酒、焼酎、ワイン、ビール、又はパン等の用いる原料は特に限定するものではない。例えば、穀類では、精白及び/又は未精白の粳米、糯米、大麦、小麦、ライ麦、ヒエ、アワ、コウリャン、ソバ、トウモロコシ、モロコシ、マイロ等の穀類が挙げられるが、一般的な原料を適宜用いることができる。また、本発明の新規酵母を1種類単独で、又は他の酵母、かび、細菌等の微生物と2種類以上併用して用いてもよく、更に該新規酵母にK−701株等の公知のサッカロミセス・セレビシエに属する菌株を組合せて酒類、食品を製造することができる。更に、該新規酵母又は該公知サッカロミセス・セレビシエをそれぞれ用いて製造した酒類、食品を混合して新規の酒類、食品も製造できる。
【0026】
かくして、本発明により、pH2.7以下の選択培地で増殖能が高い菌株を分離することにより得られる新規酵母及びその取得方法、並びに該新規酵母を用いる酒類、食品の製造方法が提供される。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
K−701株をYPD(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)液体培地5mlで30℃にて一夜振とう培養後、遠心分離で集菌し、滅菌水で洗浄した。洗浄菌体を4.35mlの0.2Mリン酸バッファー(pH8.0)に懸濁し、20w/v%グルコース溶液を0.5ml添加してかくはんした後、EMSを0.15ml添加して、30℃にて1時間穏やかに振とうした。振とう後、そのうちの1mlを49mlの6w/v%チオ硫酸ナトリウム溶液に加えて、室温で10〜15分放置後、遠心分離で集菌し、1mlの滅菌水に懸濁した。そして、該懸濁液0.1ml(4×107個/ml)を460mMリンゴ酸含有YPD平板培地(pH2.7)10枚に植菌した。30℃で3日間培養後、出現したコロニーの中で大きいコロニーを形成する91株を釣菌し、以下に示す麹汁培養試験を行った。釣菌した菌株を5mlのYPD液体培地に植菌し、30℃で一晩、振とう培養した。次に、各培養液3mlを集菌し、Brix10.0に調整した麹汁液体培地に植菌し、15℃で10日間発酵させた。次に、発酵させた培養液を遠心(3,000rpm、5分間)分離後、上澄を0.45μmのフィルターによりろ過し、島津高速液体クロマトグラフ有機酸分析システム〔島津製作所(株)製〕にて有機酸分析を行った。その結果、親株であるK−701株と比較してリンゴ酸生成量とコハク酸生成量との和が1.2倍以上有する株が10株得られた。それらの中で顕著に酸度が高いMA−R161株及びMA−R101株について、表5に示す仕込配合で総米200gの小仕込試験を実施した。掛米及び麹は、それぞれ77w/w%精白のα化米及び75w/w%精白の白米を用いて製造した麹を使用し、酵母は5.0ml中に109個含むものを用いた。発酵温度は15℃一定で、留添仕込後15日目で遠心分離法により上槽し、清酒を得た。得られた清酒の分析結果を表6に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
表6より、前述の取得方法により分離したMA−R161株及びMA−R101株を用いることにより得られる清酒は、親株のK−701株を用いた場合と比べて、日本酒度の切れがよく、滴定酸度、リンゴ酸、コハク酸、酢酸イソアミル、及びE/A比が、それぞれ約1.4倍、約1.4倍〜1.6倍、約1.5〜1.7倍、約1.6〜2.0倍、及び1.3〜1.5倍であり、バランスよくこれらの香味成分が増加しているものであった。また、アルコール濃度は変異株及びK−701株ともに同じであり、十分にアルコールが生成されていた。これらの清酒について官能検査を行った結果、MA−R161株及びMA−R101株を用いて得られる清酒は、リンゴ酸による爽快な酸味、コハク酸による旨味を呈するだけでなく、酢酸イソアミルによる吟醸香が優れた、従来にみられない好ましい香味を呈するものであった。特に、この傾向はMA−R161株において顕著であった。したがって、親株の生育できないpHになるようにリンゴ酸を添加してなる選択培地において生育する変異株は、その親株の特性を保持しながら、リンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成する菌株であることが明らかになった。さらに、該菌株を用いた酒類、食品、特に清酒の製造に用いることにより、これらの有機酸及び香気を親株よりバランスよく多量に生成し、優れたものを製造できることが明らかになった。
【0032】
実施例2
酵母にK−701株を用い、実施例1と同様に変異処理を行った。選択培地として30mMフマル酸含有SD平板培地(pH2.7)に変異処理を行った酵母を直径100mmのシャーレ1枚当り1×106個植菌し、30℃で3日間培養した。形成したコロニーのうち、その大きさが大きいものを50菌株釣菌し、YPD培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、5w/v%グルコース)で拡大培養後、Brix10の麹汁培地30mlに6×108個植菌し、15℃で10日間静置培養した。対照としては、K−701株を用い、Brix10の麹汁培地で同様に培養した。その上清について、実施例1と同様にリンゴ酸及びコハク酸含量を測定し、K−701株と比較してリンゴ酸生成量とコハク酸生成量との和が1.2倍以上有する株が3株得られた。その結果を表7に示す。
【0033】
【表7】
【0034】
表7より、麹汁培地による培養液中のリンゴ酸及びコハク酸含量の和は、対照のK−701株に比べて、該菌株を変異処理後、30mMフマル酸含有SD平板培地で分離した菌株の方が高い濃度であった。したがって、フマル酸をpH2.7になるように添加してなる選択培地を用いて増殖能が高い菌株を分離すると、該菌株はリンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成することが明らかになった。また、表4に示す濃度になるようにリンゴ酸、コハク酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、又はフマル酸を添加したSD液体培地、及びpH2.7になるように塩酸を添加したSD液体培地において、リンゴ酸及びコハク酸生成量が高かったクローン番号FUM−R4株及びFUM−R22株、並びに対照株であるK−701株を30℃で2晩静置培養し、OD660を測定した。その結果、前者の2株は対照株の1.8倍以上の値であり、選択培地に用いた酸以外の酸においても増殖能が高いことが明らかになった。
【0035】
実施例3
酵母としてK−701株を用い、実施例1と同様に変異処理を行った。選択培地として150mM乳酸含有SD平板培地(pH2.7)に変異処理を行った酵母を直径100mmのシャーレ1枚当り1×106個植菌し、30℃で3日間培養した。形成したコロニーのうち、その大きさが大きいものを100菌株釣菌し、選択培地と同じ組成の液体培地で拡大培養後、K−701株を対照として選択培地と同じ組成の液体培地10mlに2×106個植菌し、30℃で3日間培養した。培養後、培養液の660nmにおける吸光度を測定し、その値が大きい2菌株を選択した。該菌株はBrix10の麹汁培地30mlに6×108個植菌し、15℃で10日間静置培養した。対照としては、K−701株を用い、Brix10の麹汁培地で同様に培養した。その上清について、実施例1と同様にリンゴ酸及びコハク酸含量を測定し、K−701株と比較してリンゴ酸生成量とコハク酸生成量との和が1.2倍以上有する株が2株得られた。その結果を表8に示す。
【0036】
【表8】
【0037】
表8より、麹汁培地による培養液中のリンゴ酸及びコハク酸含量の和は、対照のK−701株に比べて、該菌株を変異処理後、150mM乳酸含有SD平板培地で分離した菌株の方が、高い濃度であった。したがって、乳酸をpH2.7になるように添加してなる選択培地を用いて増殖能が高い菌株を分離すると、該菌株はリンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成することが明らかになった。また、表4に示す濃度になるようにリンゴ酸、コハク酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、又はフマル酸を添加したSD液体培地、及びpH2.7になるように塩酸を添加したSD液体培地において、リンゴ酸及びコハク酸生成量が高かったクローン番号LAC−R48株及びLAC−R59株、並びに対照株であるK−701株を30℃で2晩静置培養し、OD660を測定した。その結果、前者の2株は対照株の1.8倍以上の値であり、選択培地に用いた酸以外の酸においても増殖能が高いことがあきらかになった。
【0038】
実施例4
オキサロ酢酸、イソクエン酸、及びピルビン酸を、それぞれ23mM、78mM、及び38mMを含有するSD平板培地(pHは、それぞれ2.5、2.4、及び2.5)を調製し、これを選択培地として変異株の分離を行った。酵母としてはK−701株を親株として実施例1と同様に変異処理を行い、前述の選択培地に直径100mmのシャーレ1枚当り1×106個塗布した後、30℃で3日間培養した。培養後、増殖能が高い株、すなわちコロニーの大きい株を各選択培地につき50株ずつ釣菌した。選択株を実施例2と同様に拡大培養、次いでBrix10の麹汁培地で培養を行い、実施例1と同様に麹汁培養液中のリンゴ酸及びコハク酸含量の測定を行った。その結果、23mMオキサロ酢酸、78mMイソクエン酸、及び38mMピルビン酸を含有する各選択培地から、親株であるK−701株よりリンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成する菌株が、それぞれ3株、10株、8株選択することができた。更に、これらの菌株について、表4に示す濃度になるようにリンゴ酸、コハク酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、又はフマル酸を添加したSD液体培地、及びpH2.7になるように塩酸を添加したSD液体培地において、30℃で2晩静置培養を行った結果、いずれの菌株においてもOD660は親株のK−701株の1.8倍以上であった。したがって、選択した菌株は、選択培地に用いた酸以外の酸においても増殖能が高いことが明らかになった。
【0039】
実施例5
塩酸をpH2.7になるように添加したSD平板培地を調製し、これを選択培地として変異株の分離を行った。酵母としてはK−701株を親株として実施例1と同様に変異処理を行い、前述の選択培地に直径100mmのシャーレ1枚当り1×106個塗布した後、30℃で3日間培養した。培養後、増殖能が高い株、すなわちコロニーの大きい株を50株釣菌した。選択株を実施例2と同様に拡大培養、次いでBrix10の麹汁培地で培養を行い、実施例1と同様に麹汁培養液中のリンゴ酸及びコハク酸含量の測定を行った。その結果、親株であるK−701株よりリンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成する菌株が、12株選択することができた。更に、これらの菌株について、表4に示す濃度になるようにリンゴ酸、コハク酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、又はフマル酸を添加したSD液体培地、及びpH2.7になるように塩酸を添加したSD液体培地において、30℃で2晩静置培養を行った結果、いずれの菌株においてもOD660は親株のK−701株の1.8倍以上であった。したがって、選択した菌株は、選択培地に用いた酸以外の酸においても増殖能が高いことが明らかになった。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、リンゴ酸及びコハク酸をバランスよく高生成するサッカロミセス・セレビシェに属する新規酵母を取得することができ、該酵母を用いて製造される酒類、食品は従来にはない好ましいものである。更に、アルコール発酵能等の他の性質は親株であるK−701株と同等であるので、従来から行われている方法で製造することができる。特に、清酒は、リンゴ酸による爽快な酸味、コハク酸による旨味を呈するだけでなく、酢酸イソアミルによる吟醸香が優れたものであり、複数の香味成分をバランスよく高含有する好ましいものである。
Claims (2)
- リンゴ酸、フマル酸、乳酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、ピルビン酸、コハク酸、塩酸から選択される酸によりpH2.3〜2.7の範囲となるように調整を行い、YPD培地、SD培地、YM培地、麹汁培地から選択される一の選択培地で、親株であるK−701株よりも増殖能が1.8倍以上高く、かつリンゴ酸生成量とコハク酸生成量との和が1.2倍以上生成することを特徴とするサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する新規酵母Saccharomyces cerevisiae MA−R161(FERM P−18552)。
- 請求項1に記載のサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する新規酵母Saccharomyces cerevisiae MA−R161(FERM P−18552)を用いることを特徴とする酒類、食品の製造方法。
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