JP6306314B2 - 糖質低減清酒の製造方法、及び清酒 - Google Patents

糖質低減清酒の製造方法、及び清酒 Download PDF

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Description

本発明は、糖質低減清酒の製造方法に関する。
近年、健康志向の高まりから、肥満の改善又は予防を目的として、糖質や脂質等を低減した飲料や食品の開発が行われている。このような流れの中、アルコール飲料においても、糖質を抑えた商品の需要が高まっている。例えば、ビール風味飲料である発泡酒や、第3のビール等では、糖質をカットした商品や、糖質ゼロの商品等が開発されている。
一方清酒は、ビールやワイン等の他の醸造酒と比べて糖質を多く含有するイメージがあるため、消費者から敬遠されがちであり、清酒の生産量は減少傾向にある。そこで、日本酒においても糖質を抑えた商品の開発が求められている。しかし、清酒は、酒税法において、使用できる原料が、米、米麹、醸造アルコール、酵素、及び水等に限定されているため、ビール風味飲料等と同様の方法によって糖類を低減することは困難である。このため、清酒の糖類を低減する方法として、清酒に特化した糖質の低減方法が開発されている。ここで、糖質は、例えば、健康増進法の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に定義されており、食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、エタノールおよび水分の量を控除して算定したものであり、グルコース等の単糖類以外に、二糖類、三糖類、四糖以上を含むオリゴ糖類、多糖類、糖アルコール、糖エステル、グリセロール等が含まれる。
例えば特許文献1には、醪を仕込む際にトランスグルコシダーゼ等の酵素を添加し、醪中の二糖類、三糖類、オリゴ糖類、多糖類等を酵母が資化できるグルコースにまで分解することにより、醪の発酵を促進させて清酒の糖質を低減させる方法が開示されている。
特開2010−104270号公報
特許文献1に記載の醸造方法では、トランスグルコシダーゼ等の酵素を用いることから、グルコースに分解する糖類等は低減させることができるものの、これら糖類以外の糖質に関しては低減効果が十分得られず、清酒の糖質を十分低減させることができない虞がある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、グルコースに分解する糖類以外の糖質を低減させることにより、清酒の糖質を十分低減させることができる糖質低減清酒の製造方法を提供することを目的とする。
即ち、本発明は以下の発明を含む。
[発明1]
醪を仕込む仕込み工程と、醪を発酵させる発酵工程と、を包含する糖質低減清酒の製造方法であって、
前記仕込み工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量(L)の百分率と、前記発酵工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する追水の合計容量(L)の百分率との合計が200%以上となるように、前記汲水及び前記追水を添加するとともに、前記追水の添加を醪の発酵初期段階までに行う糖質低減清酒の製造方法。
[発明2]
前記発酵工程において、前記醪の発酵初期段階は醪日数10日目までである発明1に記載の糖質低減清酒の製造方法。
[発明3]
前記仕込み工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量(L)の百分率と、前記発酵工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する追水の合計容量(L)の百分率との合計が200%である発明1又は2に記載の糖質低減清酒の製造方法。
[発明4]
前記仕込み工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量の百分率が140%であり、前記発酵工程における掛米及び麹米の合計重量に対する追水の合計容量の百分率が60%である発明1〜3の何れか一項に記載の糖質低減清酒の製造方法。
[発明5]
醪を仕込む仕込み工程と、醪を発酵させる発酵工程と、を包含する糖質低減清酒の製造方法であって、
前記仕込み工程において、掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量(L)の百分率が200%以上となるように、前記汲水を添加する糖質低減清酒の製造方法。
本構成の糖質低減清酒の製造方法は、酵母を効率よく活性化させることができ、グルコースに分解する糖類以外の糖質も低減させることができるため、清酒の糖質を十分低減させることが可能となる。
図1は、汲水及び追水の添加量と醪日数との関係を示したグラフである。 図2は、醪の発酵温度と醪日数との関係を示したグラフである。 図3は、糖質及び糖質の各成分の濃度を比較したグラフである。 図4は、カプロン酸エチルの含有量を比較したグラフである。
以下、本発明に係る糖質を低減させる清酒の製造方法に関する実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
[清酒の醸造方法]
清酒は、一般に、掛米、米麹、及び酒母を製造する準備工程と、準備工程で得られた掛米、米麹、及び酒母に汲水を添加して醪を仕込む仕込み工程と、仕込み工程で得られた醪を発酵させる発酵工程と、発酵させた醪を清酒と酒粕とに分離する固液分離工程とにより製造される。ここで、仕込み工程では、一段で掛米、米麹、汲水を全て添加してもよいが、一般には、数段に分けて実施され、例えば、三段仕込みの場合、第一段の初添、第二段の仲添、第三段の留添に分けて添加される。汲水は、添加量により酵母の発酵状態を調節することができる。また、発酵工程では、追水を添加して醪の発酵状態を調節している。本発明の糖質低減清酒の製造方法は、仕込み工程、及び発酵工程において汲水及び追水を添加して清酒の糖質を低減させる方法である。
糖質は、食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、エタノールおよび水分の量を控除して算定したものであり、清酒においては、グルコースを含む単糖類、二糖類、三糖類、オリゴ糖類、多糖類等の他に、エチル―α―(D)―グルコシド、α―D−グルコシルグリセロール、及びグリセロール等が多く含まれている。つまり、単糖類、二糖類、三糖類、オリゴ糖類、多糖類以外の成分である、エチル―α―(D)―グルコシド、α―D−グルコシルグリセロール、及びグリセロール等を低減することができれば、清酒の糖質をさらに低減させることができる。
(準備工程)
準備工程は、掛米、米麹、及び酒母を準備する工程である。掛米は、清酒の醪の仕込みに使用される米のことである。米麹に使用される米のことは、麹米という。ここで、本明細書中で用いられる「掛米」とは、醪の仕込みに用いられる全ての掛米(三段仕込みの場合、酒母用の掛米、初添用の掛米、仲添用の掛米、及び留添用の掛米)を含むことを意味する。本明細書中で用いられる「麹米」とは、醪の仕込みに用いられる全ての麹米(三段仕込みの場合、酒母用の麹米、初添用の麹米、仲添用の麹米、及び留添用の麹米を含む)を含むことを意味する。本明細書中で用いられる「総米」とは、醪の仕込みに用いられる洗米をする前の白米の総重量を意味し、掛米及び麹米の合計重量が総米となる。掛米及び麹米の重量は洗米をする前の白米の重量を意味する。
掛米及び麹米に使用される原料米の種類としては、例えば、コシヒカリ、ヒノヒカリ、ひとめぼれ、あきたこまち、キヌヒカリ、はえぬき、キララ397、七つ星、星の夢、つがるロマン(登録商標)、ゆめぴりか(登録商標)等の一般米でもよいが、好ましくは山田錦、五百万石、美山錦、雄町、八反錦、吟風、日本晴、祝等の酒造好適米である。精米歩合は、30〜85%であり、好ましくは50〜75%であり、更に好ましくは60%である。
国税庁が開示する「清酒の製法品質表示基準」(http://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm)によれば、精米歩合60%以下の米を用いて清酒を製造した場合、特定名称酒として「(大)吟醸酒」「純米(大)吟醸酒」あるいは「特別本醸造酒」と表示することが可能である。
米麹は、蒸した米に麹菌(Aspergillus oryzae)を繁殖させて作られる。清酒の製造に使用する米麹は、平成元年11月22日 国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件[1]」において、「米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでんぷんを糖化させることができるものをいい、特定名称の清酒は、こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいう。以下同じ)が、15%以上のものに限るものとする。」と定められている。使用する麹菌としては、清酒の製造に使用できるものであればよく、例えば、株式会社ビオックの大吟醸、酒母用、醪用、機械製麹用、純米吟醸用、純米酒用、本醸造用、経済酒用、良い香り、液化仕込み用や、樋口松之助商店のひかみ吟醸用、ハイ・G、ダイヤモンド印、もと立用、醪用、ひかみ醪用20号、ひかみ醪用30号、ひかみ特選粉状A、エースヒグチ、ヒグチ粉状菌、白峯、かおり、強力糖化菌、液化仕込み用等があげられる。総米は、掛米及び米麹に使用される麹米の合計である。総米重量に対する麹米の重量の百分率(麹歩合)は、例えば、5−100%である。
酒母は、酒母用の掛米及び米麹に汲水を加えて酵母を大量に増殖させたものである。使用する酵母としては、清酒の醸造に使用できる酵母であればよいが、その殆どが出芽酵母のSaccharomyces cerevisiaeである。その中でも特に醸造特性の高い株として、公益財団法人日本醸造協会から頒布されている泡あり酵母のきょうかい酵母1号、2号、3号、4号、5号、6号、7号、8号、9号、10号、11号、12号、13号、14号、15号;泡なし酵母のきょうかい酵母601号、701号、901号、1001号、1401号、1501号、1601号、1701号、1801号、KT901号;尿素非生産のKArg7号、KArg9号、KArg10号等が挙げられる。また、他の酵母としては、例えば、株式会社秋田今野商店の取り扱い酵母である、清酒用No.2、No.4、No.4A、No.5、No.9A、No.12、No.17、No.24、No.25、No.32、No.35;各県工業総合研究センターが開発した、まほろば華酵母、吟醸2号、宮城マイ酵母、愛美酵母、泡なし宮城マイ酵母、秋田流・花酵母、秋田純米酵母、こまち酵母、秋田流・雅酵母;学校法人東京農業大学が開発した花酵母等が挙げられる。また、上記酵母を変異導入・交配などの技術で、育種あるいは改良した酵母でもよい。酒母は、酒母用の掛米及び米麹に汲水を加えて酵母を大量に増殖させたものであるため、酒母の代わりに上記酵母を純粋培養したものを添加することも可能である。この際には、乳酸を添加する必要がある。
(仕込み工程)
仕込み工程は、酒母に掛米、米麹、汲水を添加して醪を仕込む工程である。例えば、三段仕込みでは、4日間かけて醪を増量する。先ず、1日目の初添では、酒母、初添用の掛米、麹米及び初添用の汲水を添加する。2日目は酵母の増殖を待つ、踊りとよばれる期間を設ける。次いで、3日目の仲添では、一般に初添用の掛米及び汲水の約1.5〜2.5倍量の仲添用の掛米及び汲水を添加し、初添用の麹米の0.5〜1.5倍量の麹米を添加する。最後に、4日目の留添では、一般に初添用の掛米及び汲水の約2.5〜4.5倍量の留添用の掛米及び汲水を添加し、初添用の麹米の1.5〜2.5倍量の麹米を添加して、醪が作られる。
掛米は、例えば、原料米を蒸した蒸米に代えて、原料米を液化した融米を使用してもよい。蒸米を使用する場合は、粒仕込みともいわれ、融米を使用する場合は、液化仕込みといわれる。液化した融米は、例えば、原料米又は原料米を粉砕した粉砕米に、汲水及び耐熱性酵素であるα−アミラーゼを添加し、60℃〜90℃で液化することにより得られる(特開昭59−66875号公報参照)。液化した融米を使用する場合、総米における融米の比率は、例えば、融米の調製に使用した原料米として換算することができる。
掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量(L)の百分率(%)は、汲水歩合という。本発明に係る糖質低減清酒の製造方法では、追水を使用しない場合において、使用した掛米及び麹米の合計重量に対する使用した汲水の合計容量の汲水歩合は、200%以上であり、好ましくは200%〜500%であり、さらに好ましくは200%〜300%である。これにより、清酒の糖質を効率よく低減させることができる。汲水の添加方法としては、例えば、三段仕込みの場合、使用した掛米及び麹米の合計重量に対する使用した汲水の合計容量の汲水歩合が、200%以上となるように、初添のときに汲水を多く添加してもよいし、仲添のときに汲水を多く添加してもよいし、留添のときに汲水を多く添加してもよいが、初添、仲添、及び留添に添加する夫々の汲水の汲水歩合が同じ値(200%以上)となるように添加することが好ましい。
仕込み工程における仕込み温度は、例えば、5℃〜15℃であり、好ましくは7℃〜12℃であり、更に好ましくは8℃〜10℃である。仕込み温度を5℃未満にすると、酵母が死滅する虞があり、15℃より高く設定すると、仕込み段階において雑味を形成する虞がある。仕込み温度は、一定の温度で行ってもよいが、初添の仕込み温度を、10℃〜15℃に設定し、仲添、留添に進むにつれて仕込み温度を徐々に下げていくことが好ましい。例えば、初添の温度を10℃、仲添の温度を9℃、留添の温度を8℃に設定することにより、清酒の吟醸香であるカプロン酸エチルの生成量が増加する。
(発酵工程)
発酵工程は、仕込み工程で得られた醪を発酵させて熟成させる工程である。発酵工程では、追水により醪中の糖濃度やアルコール濃度を希釈して酵母の発酵環境を調節している。これは、アルコール濃度が高まると、酵母が死滅し、発酵が止まるためである。従来の追水の添加方法としては、醪の発酵中期段階(醪日数10日目以降)から発酵後期段階にかけて追水を行う。これにより、醪のアルコール濃度を低下させて、酵母の発酵を継続させている。
本発明に係る糖質低減清酒の製造方法では、使用した掛米及び麹米の合計重量に対する汲水及び追水の合計容量の百分率が200%以上となるように、好ましくは200%〜500%となるように、さらに好ましくは200%〜300%となるように、汲水及び追水を添加するとともに、追水の添加は醪の発酵初期段階までに実施する。これにより、清酒の糖質を効率よく低減させることができる。追水を添加するタイミングとしては、醪の発酵初期段階であり、醪の発酵期間が30日の場合、仕込み工程終了後の醪の発酵の経過日数、いわゆる醪日数(三段仕込みの場合、留添を1日目とする)の10日目までに追水を添加することが好ましく、醪日数の5日目までに添加することがさらに好ましい。また、追水を添加する場合においても、使用した掛米及び麹米の合計重量に対する汲水の合計容量の百分率(汲水歩合)が140%以上となるように設定することが好ましい。これにより、清酒の糖質をさらに効率よく低減させることができる。
発酵工程における醪の発酵温度は、例えば、約5℃〜25℃であり、好ましくは約8℃〜15℃である。発酵温度は、一定の温度で行ってもよいが、醪日数1日目の発酵温度を、8℃〜10℃に設定し、醪日数約14日まで徐々に昇温して、最終温度を10℃〜15℃にすることが好ましい。これにより、吟醸香であるカプロン酸エチルの生成量が増加する。醪の発酵期間は、例えば、約20〜40日間であり、約20〜30日間が好ましい。
(固液分離工程)
固液分離工程では、発酵が終了した醪から、酒粕を除去し、清酒画分を回収する工程である。固液分離工程を、上槽ともいい、例えば、圧搾、ろ過等により、酒粕と清酒画分(上槽酒)とが分離される。得られた上槽酒は、さらにろ過処理、活性炭処理、加熱処理等が行われる。
[試験醸造]
図1は、汲水及び追水の添加量と醪日数との関係を示したグラフである。縦軸は汲水及び追水の合計の添加量(ml)であり、横軸は醪日数(日)を表している。醪の仕込みにおける酒母の醪日数は−8日目、初添の醪日数は−2日目、仲添の醪日数は0日目、留添の醪日数は1日目である。図2は、醪の発酵温度と醪日数との関係を示したグラフである。縦軸は発酵温度(℃)であり、横軸は醪日数(日)を表している。醪の仕込みにおける酒母、初添、仲添、及び留添の醪日数は、図1と同じである。醪の仕込みから醪の発酵における発酵温度と、汲水及び追水の添加タイミングとを、図1及び図2に示すように変更して実施例1〜3、及び比較例に関する試験醸造を行った。実施例1及び比較例の掛米、麹米、及び汲水の配合量を以下の表1に示す。実施例2及び実施例3の掛米、麹米、及び汲水の配合量を以下の表2に示す。
Figure 0006306314
Figure 0006306314
この試験醸造では、掛米には精米歩合60%の米(五百万石)を使用し、米麹には乾燥麹(精米歩合60%)を用いた。酒母には乳酸0.1mlを添加し、酵母の添加量としては、酵母密度が約1×10細胞/mlとなるように添加した。汲水及び追水の添加は、表1及び図1に示すように、実施例1では、掛米及び麹米の合計重量に対して汲水歩合が140%となるように汲水を添加し、醪の発酵初期段階に当たる醪日数3日目〜5日目に各100mlの追水を添加した。実施例2及び実施例3は、表2及び図1に示すように、掛米及び麹米の合計重量に対して汲水歩合が200%となるように汲水を添加し、追水は添加しなかった。比較例は、実施例1と同様、掛米及び麹米の合計重量に対して汲水歩合が140%となるように汲水を添加し、醪の発酵中期から発酵後期段階に当たる醪日数19日目に50ml、21日目に50ml、26日目に50ml、29日目に100mlの追水を添加した。
発酵温度経過については、図2に示すように、実施例1、実施例2、及び比較例は、酒母(醪日数−8日)を24℃、初添(醪日数−2日)を10℃、仲添(醪日数0日)を9℃、留添(醪日数1日)を8℃で行い、以降醪日数3日目、5日目、7日目、9日目、13日目に1℃ずつ昇温して、最高温度を13℃とした。上槽は、留添後、40日目で行った。実施例3は、酒母(醪日数−8日)を24℃、初添(醪日数−2日)を13℃とし、以降13℃の一定温度で発酵を行った。上槽は、留添後、40日目で行った。
(酒質分析)
実施例1〜3及び比較例の上槽酒について、酒質の分析を行った。各種分析方法は、独立行政法人酒類総合研究所が定める「酒類総合研究所標準分析法」(平成22年11月4日、http://www.nrib.go.jp/data/nribanalysis.htm)基づいて実施した。具体的には、以下の方法である。
(1)アルコール:蒸留−密度(比重)法である浮ひょう法、振動式密度計法あるいはそれに準ずる方法を用いて測定する。
(2)日本酒度:日本酒度は、水に対する酒の比重を日本酒度計で計った値である。具体的には、日本酒度計を用いて15℃における清酒の密度を測定し、4℃の水と同じ重さの清酒の日本酒度を0とし、それより軽いものを(+)、重いものを(−)で表す。
(3)酸度:酸度は、清酒に含まれる、有機酸(乳酸、リンゴ酸、コハク酸等)の総量を示した値である。具体的には、10mLの清酒を中和するのに要する水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)で表す。
(4)アミノ酸度:アミノ酸度は、清酒10mLを0.1Nの水酸化ナトリウムで中和した後、中性ホルマリン液を5mL加え、再度0.1Nの水酸化ナトリウムで中和するのに要する0.1Nの水酸化ナトリウムの滴定量(mL)で表す。
(5)エキス分:エキス分=(S−A)×260+0.21により算出した。
Sは、S(比重(15/4℃))=1443/(1443+日本酒度)の式から算出した。Aはアルコールを比重(15/15℃)に換算して求めた。
(6)簡易算定糖質:エキス分からタンパク質を控除した値(エキス分−タンパク質)を「簡易算定糖質」とした。糖質は、エキス分から、タンパク質、脂質、食物繊維および灰分を控除した値であるが、清酒において、脂質、食物繊維、及び灰分は、糖質とタンパク質の量と比較すると、無視できる程度の量しか含まれていないため、「エキス分−タンパク質」を、間接的に糖質を示すパラメーターとして使用した。
また、各検体に関して生産性を確認するために、酒化率(L/t)を算出した。酒化率は、1トンの白米から生成されるアルコール量(L)の割合を百分率で表したものである。以下の表3に各上槽酒の分析結果を示す。
Figure 0006306314
実施例1及び比較例は、汲水歩合は同じであり、添加した追水の合計量も略同じであるが(汲水歩合140%、追水量:実施例1が300ml,比較例が250ml)、実施例1は、表3に示すように、比較例と比べると、エキス分及び簡易算定糖質が大幅に減少していた。また、実施例2及び3は、実施例1で添加した汲水及び追水の合計量と同じ量の汲水(汲水歩合200%)を添加し、追水を添加しなかったものであるが、実施例1と同様に、比較例と比べてエキス分及び糖質が大幅に減少していた。これら結果から、汲水歩合が一定以上(汲水歩合200%以上)となるように汲水を添加するか、或いは添加する汲水及び追水の合計重量が一定以上となるように、醪の発酵初期までに追水を添加すると、エキス分及び糖質が大幅に低減することが明らかとなった。また、実施例1〜3は、比較例と比べて、アルコール度数及び酒化率が高い値になっていることから、生産性も優れていることが示された。
(糖質の分析)
図3は、糖質及び糖質の各成分の濃度を比較したグラフである。図3(a)は、実施例1〜3及び比較例の上槽酒に含まれる糖質の含有量を示し、図3(b)は、実施例1〜3及び比較例の上槽酒の糖質に含まれる成分の濃度を示している。実施例1〜3及び比較例の上槽酒に含まれる糖質及び糖質に含まれる成分の量を比較し、糖質の低減効果に関して評価した。糖質は、例えば、食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、エタノールおよび水分の量を控除して算定したものであり、グルコース等の単糖類以外に、二糖類、三糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール、糖エステル等が含まれる。清酒の糖質としては、グルコースや二糖類等の糖類以外に、エチル―α―(D)―グルコシド(以下、α―EGと称す)、α―D−グルコシルグリセロール(以下、α―GGと称す)、及びグリセロール等が多く含まれている。図3(b)では、清酒中に多く含まれるグルコース、α―EG、α―GG、及びグリセロールの量を比較している。グルコース、α―EG、α―GG、及びグリセロールの分析は、高速液体クロマトグラフ(HPLC:型番LC-20、株式会社島津製作所製)を用いて行った。
実施例1〜3は、図3(a)に示すように、比較例と比べて、糖質を半分以下に低減させた。また、図3(b)に示すように、糖質に含まれるグルコース、α―EG、α―GG、及びグリセロールの各成分のうち、グリセロールでは優位な低減効果は認められなかったが、α―EGに関しては優位に低減し、グルコース及びα―GGに関しては大幅に低減していた。当該結果から、汲水歩合が一定以上(汲水歩合200%)となるように汲水を留添までに添加するか、或いは添加する汲水及び追水の合計重量が一定以上となるように、醪の発酵初期段階までに追水を添加すると、グルコースだけでなく、α―EGやα―GG等を効果的に低減させ、清酒の糖質が大幅に低減することが示された。
(醪の発酵経過とグルコース濃度)
実施例1〜3及び比較例について、醪発酵期間中におけるグルコース濃度の変化を評価した。以下の表4に、醪日数の5日目以降の実施例1〜3及び比較例のグルコース濃度を分析した結果を示す。グルコース濃度は、全自動グルコース測定装置(型番GA−1152、アークレイ株式会社製)を用いて測定した。
Figure 0006306314
実施例1〜3は、表4に示すように、醪の発酵中期である醪日数15日目には、グルコース濃度が0.1(g/dl)未満となり、以降グルコース濃度は低濃度に維持された。実施例1及び2では、初添から醪日数5日目まで10℃以下の低温の発酵温度で醪の発酵を行い、実施例3では、初添えから上槽まで13℃の一定の発酵温度で醪の発酵を行った。発酵温度を13℃の一定で発酵を行った実施例3は、グルコース濃度が醪日数5日目には既に低下しており、8日目にはグルコース濃度が0.1(g/dl)未満になった。また、初添から醪日数5日目まで10℃以下の低温で発酵を行った実施例1及び2では、醪の仕込みにおいて、汲水歩合を200%となるように汲水を添加した実施例2の方が、追水を添加した実施例1よりもグルコース濃度の低下が速かった。実施例2は醪日数12日目にはグルコース濃度が0.1(g/dl)未満になり、実施例1は醪日数15日目にグルコース濃度が0.1(g/dl)未満になった。これに対して比較例では、醪の発酵中期段階以降に追水を行っているが、グルコース濃度が一定濃度以下に低下せず、醪日数22日目以降は、逆にグルコース濃度が高くなった。これら結果から、初添から醪日数5日目まで10℃以下の低温の発酵温度で醪の発酵を行う、例えば、吟醸酒を製造するような場合、上槽酒の糖質を低減させるためには、追水の添加を、醪の発酵初期段階までに行う必要があることが示された。
(カプロン酸エチルの含有量の比較)
図4は、カプロン酸エチルの含有量を比較したグラフである。実施例1〜3及び比較例の上槽酒について、カプロン酸エチルの含有量を比較した。カプロン酸エチルは、リンゴ様の華やかな香を有し、特に清酒では重要な香気成分(吟醸香)である。カプロン酸エチルはヘッドスペース法によりガスクロマトグラフィー(型番GC-2010、株式会社島津製作所製)を用いて分析した。
比較例は、初添から醪日数5日目まで10℃以下の低温の発酵温度で醪の発酵を行い、さらに、追水を醪の発酵中期から発酵後期段階にかけて添加しているため、吟醸香であるカプロン酸エチルが生成する好適な発酵条件となっている。図4に示すように、発酵温度を13℃の一定で行った実施例3は、比較例と比べて約50%のカプロン酸エチルの含有量であった。追水を行わず、汲水歩合を200%とした実施例2は、比較例と比べて約85%のカプロン酸エチルの含有量であった。追水を行った実施例1では、比較例と略同等のカプロン酸エチルの含有量であった。当該結果から、実施例1及び2は、糖質を低減させるだけでなく、効率よくカプロン酸エチルを生成することができ、特に実施例1の製造方法、つまり、追水を醪の発酵初期までに添加する清酒の製造方法では、糖質を低減させながら吟醸香を有する清酒を製造できると考えられる。
(官能試験)
実施例1〜3及び比較例の各上槽酒について、8人のパネラーにより官能試験を行った。官能試験は、香り、味、後味、コク、苦味等を総合して5段階の採点法により吟醸酒としての評価を行った。点数が小さい方が良好な清酒となる。以下の表5に官能試験結果を示す。
Figure 0006306314
実施例2及び実施例3は、比較例と比べて、吟醸香の香りが弱く、吟醸酒としての官能試験では若干劣る結果となったが、実施例1は、糖質を低減させながら吟醸香の香りがよく比較例と略同等の結果を得ることができた。
本発明に係る糖質低減清酒の製造方法は、清酒の製造において利用可能であり、本醸造、純米酒、吟醸酒、純米吟醸酒の製造に利用することができる。

Claims (6)

  1. 醪を仕込む仕込み工程と、醪を発酵させる発酵工程と、を包含する糖質低減清酒の製造方法であって、
    前記仕込み工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量(L)の百分率と、前記発酵工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する追水の合計容量(L)の百分率との合計が200%以上となるように、前記汲水及び前記追水を添加するとともに、前記追水の添加を醪の発酵初期段階である醪日数10日目までに行う糖質低減清酒の製造方法。
  2. 前記仕込み工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量(L)の百分率と、前記発酵工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する追水の合計容量(L)の百分率との合計が200%である請求項1に記載の糖質低減清酒の製造方法。
  3. 前記仕込み工程における掛米及び麹米の合計重量(kg)に対する汲水の合計容量の百分率が140%であり、前記発酵工程における掛米及び麹米の合計重量に対する追水の合計容量の百分率が60%である請求項1又は2に記載の糖質低減清酒の製造方法。
  4. 糖質が2.32g/dL以下であって、カプロン酸エチルが5mg/L以上であり、α−D−グルコシルグリセロールを含まない清酒。
  5. 糖質が1.11g/dL以下であって、カプロン酸エチルが5mg/L以上であり、グルコース濃度が0.04g/dL以下である清酒。
  6. アルコール度数16.95%換算である請求項4又は5に記載の清酒。
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