JP3714767B2 - 酒類の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は酒類の製造方法に関し、更に詳細には、香味の優れた、特に香気成分として酢酸イソアミル、酢酸イソブチル含量の高い清酒又は焼酎の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、清酒の製品は多様化しており、特に淡麗で酢酸イソアミル等のエステル香の高い吟醸タイプの清酒が人気を集めている。従来、酢酸イソアミル等のエステル香の高い清酒を製造するには低温発酵、高精白米の使用、酢酸イソアミル高生産酵母の育種などの方法が採られてきた。
酢酸イソアミルは、イソアミルアルコールを基質として酵母のアルコールアセチルトランスフェラーゼによって生成することが知られており、清酒醪中においては醪の初期にアルコールアセチルトランスフェラーゼの活性が最も高いが、従来の仕込法では、その時期にイソアミルアルコールは醪中での生成は少なく酢酸イソアミルの生成には限度があった。
清酒の仕込において汲水の全部あるいは一部に清酒以外の酒類を使用する酒類の製造方法(特開昭52−94499号公報)があるが、醪を発酵させて得た清酒中にはエキス分が多く残ってしまい、その結果甘口濃厚酒となる。また該発明、添加する酒質の特異な風味を具有させることを主な目的としている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、多様化する嗜好に対応した吟醸香が多く、ボディ感のある酒質のバランスに優れた高品質な酒類の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明は、初添、仲添、留添の三段仕込により、かつ、製造工程の途中で焼酎を添加することによって、清酒又は焼酎を製造する方法において、使用する焼酎が、アルコール濃度25v/v%換算でイソアミルアルコール270〜1450ppm及びイソブチルアルコール110〜850ppmを含有する焼酎であり、また、焼酎を添加する時期が、仕込工程の留添時〜留添後3日目であり、かつ、焼酎添加後の総水中のアルコール濃度が、0超〜10未満v/v%の範囲であることを特徴とする清酒又は焼酎の製造方法に関する。
【0005】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解決するため鋭意検討を重ねた結果、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル含量の高い酒類を製造するためには、仕込工程の留添時にイソアミルアルコール、イソブチルアルコールを多く含む焼酎を添加し、発酵させることにより、吟醸香である酢酸イソアミルを高生産させ、香味の優れた酒類を製造することが可能であることを見出した。更に、焼酎中にフーゼル油として含まれるその他の高級アルコール、すなわち、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコールの酢酸エステルも増加し、香味に特徴のある優れた酒質の酒類を得ることが可能であることを見出した。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、初添、仲添、留添の三段仕込により、かつ、製造工程の途中で焼酎を添加することによって、清酒又は焼酎を製造する方法である。
例えば、清酒の製造は原料処理、仕込、糖化・発酵、上槽及び精製工程よりなるが、仕込工程では初添、仲添、留添の三段仕込が行われており、焼酎の製造は原料処理、仕込、糖化、発酵(糖化・発酵)、蒸留及び精製工程よりなる。
【0007】
本発明に用いる焼酎は、酒税法でいうところの焼酎であればよく、そのアルコール度数は限定されない。一例として、香気成分である酢酸イソアミル等のエステル類を多く生成させることより、いわゆる本格焼酎も用いることができ、そのまま用いてもよいし、分留して用いてもよい。特に、本格米焼酎の醪を減圧ポットスチルにより蒸留する際の中留区分を用いるのがよく、好ましくは中留開始時から中留開始時180分後、特に好ましくは中留開始時30分後から中留開始時120分後までの範囲で適宜選択されるが、用いる原料や目的とする酒質を勘案して変更することができる。
中留開始時より60分後程度の区分の留液を用いることにより、香気成分のバランスがよく、酒類の製造方法として適している。
また、本発明に使用する焼酎は、25v/v%アルコール濃度換算でイソアミルアルコール270ppm以上、好ましくは270〜1450ppm、及びイソブチルアルコール110ppm以上、好ましくは110〜850ppmを含有したものが酒類品質上好適である。
【0008】
焼酎を添加する時期は、清酒又は焼酎のうち、例えば清酒を製造する方法において、仕込工程の留添時〜留添後3日目がよく、留添時に添加するのがより好ましい。また、添加は1回で行ってもよく、数回に分けてもよい。初添時あるいは仲添時に添加すると酵母の増殖が十分に行われないので発酵不良となり、留添後4日目以降に添加するとボーメ度の切れも悪く、生成する酢酸イソアミル含量も減少することになる。
また、醪における糖化・発酵を十分に行わせ、香味のバランスに優れたものを得るには、焼酎添加後の総水中のアルコール濃度は0超〜10未満v/v%、好ましくは5v/v%程度であり、それを超えると、例えばアルコール濃度10v/v%では、酢酸イソアミル含量は増加するが、発酵は緩慢となり、濃厚ではあるが甘口の酒質となってしまう。
更に、添加する焼酎を含めた総水歩合〔総水とは汲水と焼酎の合計値(リットル)を、総水歩合とは総米重量(kg)に対する総水(リットル)の百分率(%)を意味する〕は、発酵が正常に行われる条件で行えばよく、好ましくは125〜200%、特に好ましくは135〜200%の範囲から選択すればよい。125%未満では原料利用率が悪くなり甘口濃厚酒となる。
また、200%を超えるとボディ感に欠けることとなる。
仕込工程における総水中のアルコール濃度、総水歩合を適宜選択することにより、ボディ感のある香味のバランスに優れた酒質のものが得られ、多様化が可能となる。
【0009】
〔検討例〕
以下、本発明を検討例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら検討例に限定されない。
検討例1
清酒を製造する方法において、醪の初期にイソアミルアルコール、イソブチルアルコールを添加したモデル系で検討を行った。
総米500g、汲水歩合〔総米重量(kg)に対する汲水(リットル)の百分率(%)を意味する〕125%の蒸米三段仕込による小仕込試験とした。表1にその仕込配合を示す。添加するイソアミルアルコール、イソブチルアルコールは試薬特級〔ナカライテスク(株)製〕を用い、醪中での濃度がそれぞれ370ppm、440ppmとなるように留仕込直後に添加した。酵母はK−701の固形酵母(1×1010個/g)を使用した。発酵は、留後5日目より、最高品温が15℃となるようにし、留後13日目より、降温し、留後18日目で上槽した。その上槽液についてヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって香気成分の測定を行った。上槽液の分析結果を表2に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
【表2】
【0012】
表2より、イソブチルアルコール添加では酢酸イソブチル含量が、イソアミルアルコール添加では酢酸イソアミル含量がそれぞれ顕著に増加していた。
【0013】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0014】
実施例1
精米歩合78%の粳白米を用い、表3に示す総米500gの仕込配合を基本として、汲水歩合と焼酎添加量を変えて清酒の試醸を行った。汲水の調整、焼酎の添加は留添時に行った。それぞれの汲水量と焼酎の添加量を表4に示す。焼酎のアルコール濃度は25v/v%とした。酵母はK−701の固形酵母(1×1010個/g)を使用した。発酵は、留後5日目より、最高品温が15℃となるようにし、留後13日目より、降温し、留後18日目で上槽した。
【0015】
【表3】
【0016】
【表4】
【0017】
この試醸で得られた清酒について一般分析値を表5に、香気成分分析結果を表6に、官能検査結果を表7に示す。一般分析値については第四回改正国税庁所定分析法注解に記載の方法により、香気成分についてはヘッドスペースガスクロマトグラフ法により測定を行った。
【0018】
【表5】
【0019】
【表6】
【0020】
【表7】
【0021】
官能検査は5点法(1:良←→5:悪)で行い、対照を3点として、パネラー10名の平均値で表した。
【0022】
表5、表6、表7より、清酒醪の留添時に焼酎を添加することで、製成酒中の酢酸イソアミル濃度を増加させることができ、総水中のアルコール濃度を5v/v%とした場合、総水歩合を156%とすることにより、発酵は正常に進み、酢酸イソアミルも多く生成させることができた。また、官能的にも総水歩合125%、137%に比べて、香味のバランスがよいエキス分が少ない辛口タイプの酒質であった。
したがって、総水歩合は品質の面から125%以上でもよいが、125〜200%がより好ましく、135〜200%が更に好ましい範囲である。
また、総水中のアルコール濃度が10v/v%となるように焼酎を添加した場合、酢酸イソアミル濃度は高くなるが、総水歩合を156%としても、発酵は緩慢となり、日本酒度が残るエキス分の多い甘口の酒質となり、官能的にも香味のバランスが悪くなった。したがって、総水中のアルコール濃度は0超〜10未満%が好ましい。
【0023】
実施例2
まず、表8に示す仕込配合で添加用本格米焼酎の製造を行った。
【0024】
【表8】
【0025】
掛米は精米歩合70%の低品位米を使用した。麹は、精米歩合72%の白米を用いて製造した。酵母はK−701株を使用し、5ml中に2×108 個含むものを添加した。酵素剤はスピターゼM〔ナガセ生化学工業(株)製〕を使用した。発酵温度は20℃一定で行った。留後14日目の醪を減圧度−700mmHgで減圧蒸留し、その留液を経時的に分取した。なお、エチルアルコール20v/v%でカットして後留とした。
【0026】
次に、実施例1と同様に総米500g、蒸米三段仕込による清酒醪に、留液を25v/v%アルコール濃度の焼酎としたものを添加して清酒を試醸した。添加する焼酎量を含めた総水歩合は156%とし、総水中のアルコール濃度が5v/v%となるように焼酎を添加して行った。また、焼酎を添加する時期は、留添時、留後4日目とした。
使用する留液としては、初留区分、中留開始直後、中留開始30分後、中留開始60分後、中留開始90分後、中留開始120分後、中留開始180分後、中留開始240分後、中留区分全体とした。
使用する留液、総水歩合及び焼酎の添加時期を表9に示す。
【0027】
【表9】
【0028】
この試醸で得られた清酒について一般分析値を表10に、香気成分分析結果を表11に、官能検査結果を表12に示す。一般分析値については第四回改正国税庁所定分析法注解に記載の方法により、香気成分についてはヘッドスペースガスクロマトグラフ法により測定を行った。
【0029】
【表10】
【0030】
【表11】
【0031】
【表12】
【0032】
官能検査は5点法(1:良←→5:悪)で行い、対照を3点として、パネラー10名の平均値で表した。
【0033】
表10、表11より、総水歩合を125%から156%としても、清酒醪の留添時に焼酎を添加することにより、製成酒中の酢酸イソアミル濃度を増加させることができ、表12の官能検査より、No.4の中留開始の区分からNo.11の中留区分全体の焼酎で官能的に良好な結果を得た。また、アルコール濃度25v/v%換算した場合、イソアミルアルコール濃度は270〜1450ppm及びイソブチルアルコール濃度は110〜850ppmであった。特に中留開始30分後(No.5)、中留開始60分後(No.6)、中留開始90分後(No.7)、中留開始120分後(No.8)の留液を使用した焼酎の添加により、酢酸イソアミル、酢酸イソブチルを多く生成させることができ、官能的にも味に幅があり、ボディ感のある香味のバランスに優れたエキス分の少ない辛口タイプの酒質とすることができた。
【0034】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に従って清酒又は焼酎の仕込工程の留添時〜留添後3日後に焼酎を添加し、総水中のアルコール濃度が0超〜10未満v/v%の範囲とし、発酵することにより、辛口タイプの酒質で、香気成分である酢酸イソアミル、酢酸イソブチル等のエステル香に富む、香味のバランスのよいボディ感のある酒類を得ることができるので、本発明は品質の多様化につながる有用な清酒又は焼酎の製造方法である。
Claims (2)
- 初添、仲添、留添の三段仕込により、かつ、製造工程の途中で焼酎を添加することによって、清酒又は焼酎を製造する方法において、使用する焼酎が、アルコール濃度25v/v%換算でイソアミルアルコール270〜1450ppm及びイソブチルアルコール110〜850ppmを含有する焼酎であり、また、焼酎を添加する時期が、仕込工程の留添時〜留添後3日目であり、かつ、焼酎添加後の総水中のアルコール濃度が、0超〜10未満v/v%の範囲であることを特徴とする清酒又は焼酎の製造方法。
- 焼酎添加後の総水歩合が、125〜200%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の清酒又は焼酎の製造方法。
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