JP5721182B2 - 加硫物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、クロロプレンゴム組成物からなる加硫物及びその製造方法に関する。より詳しくは、動的環境下で使用される加硫物及びその製造方法に関する。
伝動ベルトやタイヤなどのように動的環境下で使用される加硫ゴム製品は、使用時に繰り返し変形を受けることが多いが、その際、粘弾性体に固有のヒステリシスロス(変形損失摩擦)により発熱を生じる。この使用時の発熱は、省エネルギーに反するだけでなく、高温劣化による低寿命化にも繋がる。
このため、加硫ゴム製品においては、動的環境下で使用した場合の発熱を、如何に抑制するかが大きな課題となっている。そこで、従来、加硫ゴム製品の低発熱化について、主に材料の面から種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
一方、加硫ゴム製品は、例えば未加硫又は半加硫のゴム組成物を、所定形状に成形した後、加硫することにより製造される。また、複雑な形状の加硫物を作る方法として、2段階で加硫を行う方法も提案されている(特許文献5参照)。この特許文献5に記載の方法では、先ず、要加工部は半加硫状態とし、それ以外の部分は完全に加硫させた予備成形体を形成し、その後、予備成形体の半加硫状態の部分を、目的の形状になるように変形させ、その状態で再度加硫させて加硫物としている。
特開2010−265431号公報 特開2011−038063号公報 特開2011−126929号公報 特開2011−148891号公報 特開平8−1816号公報
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1〜4に記載の方法では、ゴム成分を特定の末端構造や架橋構造をもつように改質したり、ゴム組成物に特定の加硫系又は第三成分としての改質剤を加えたりする必要があるため、用途が限定されるという問題点がある。加えて、特許文献1〜4に記載の従来技術では、加硫物に供する上で最も重要な加工と考えられる成形加工の影響が考慮されておらず、成形工程で低発熱化効果が緩和され、十分な低発熱性が発現されない可能性もある。
一方、特許文献5に記載の方法は、「三次元複雑形状のものを単純形状の型を用いて製造する」という成形加工上の課題から、段階的に成形及び加硫するものであり、加硫物の低発熱化を目的とした技術ではない。
そこで、本発明は、カーボンブラックを含有するクロロプレンゴム組成物からなる加硫物を、より簡便な方法で、低発熱化することができる加硫物及びその製造方法を提供することを主目的とする。
本発明に係る加硫物は、クロロプレン重合体と、JIS K6217のA法で規定される窒素吸着比表面積(N SA)が85〜150m /gであるカーボンブラックとを少なくとも含有する未加硫のゴム組成物を加硫成形して、JIS K6300−2:2001で規定される方法により求められる加硫特性値がt10〜t80の範囲となる半加硫成形体とし、該半加硫成形体を全体的に変形させた状態で再度加硫した後、変形を解除して得たものである。
ここでいう「クロロプレン重合体」には、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、単にクロロプレンという。)の単独重合体だけでなく、クロロプレンと他の単量体との共重合体も含み、以下の説明においても同様である。
また、加硫特性値t10〜t80は、加硫物の加硫度を示す値であり、JIS K6300−2:2001に準拠し、振動加硫試験機で測定した加硫曲線を解析することにより得られる温度及び時間により決定される。なお、この加硫特性値は、ゴム材料の種類やゴム組成物の配合条件によっても変化する。
更に、「半加硫」とは、未加硫の状態よりは加硫度が高いが、最終製品として必要とされる加硫度には至っていない状態を指す
記ゴム組成物は、クロロプレン重合体100質量部に対して、前記カーボンブラックを20〜80質量部含有することができる。
また、前記ゴム組成物は、クロロプレン重合体100質量部に対してシリカを80質量部以下含有すると共に、該シリカ100質量部に対してシランカップリング剤を0.5〜25質量部含有していてもよい。
更に、変形を加えた状態で再度加硫した後の加硫特性値は、例えばt50〜t90の範囲とすることができる。
一方、JIS K6394に準拠する動的弾性率測定において、周波数10Hz、測定温度150℃の損失正接(tanδ)の値Aを、同一組成のゴム組成物を平衡加硫により同等の加硫度にしたものの損失正接の値Bよりも小さくすることもできる。
ここで、「平衡加硫」とは、本発明のように半加硫成形体全体に変形を加える加硫方法とは異なり、工業的に利用される一般的な加硫方法であり、高分子鎖が等方的配置をとる状態で加硫反応を進行させる操作を意味する。
また、前記変形は、例えば圧縮、伸長、せん断及びねじりから選択される少なくとも1種とすることができる。
そして、本発明の加硫物は、例えば伝動ベルト、コンベアベルト、自動車用部材又はタイヤに用いることができる。
本発明に係る加硫物の製造方法は、クロロプレン重合体と、JIS K6217のA法で規定される窒素吸着比表面積(N SA)が85〜150m /gであるとカーボンブラックとを少なくとも含有する未加硫のゴム組成物を、加硫成形して、JIS K6300−2:2001で規定される方法により求められる加硫特性値がt10〜t80の範囲となる半加硫成形体を得る半加硫成形工程と、前記半加硫成形体を全体的に変形させた状態で再度加硫し、その後、変形を解除して、目的とする形状の加硫物を得る変形加硫工程と、を有する。
この製造方法では、前記ゴム組成物に、クロロプレン重合体100質量部に対して前記カーボンブラックを20〜80質量部配合してもよい。
また、前記ゴム組成物に、クロロプレン重合体100質量部に対してシリカを80質量部以下配合すると共に、該シリカ100質量部に対してシランカップリング剤を0.5〜25質量部配合することもできる。
一方、前記変形加硫工程により得られる加硫物は、JIS K6300−2:2001で規定される方法で測定した加硫特性値がt50〜t90の範囲であってもよい。
また、前記変形加硫工程により得られる加硫物は、JIS K6394に準拠する動的弾性率測定において、周波数10Hz、測定温度150℃の損失正接(tanδ)の値Aを、同一組成のゴム組成物を平衡加硫により同等の加硫度にしたものの損失正接の値Bよりも小さくすることもできる。
更に、前記変形として、圧縮、伸長、せん断及びねじりから選択される少なくとも1種を行ってもよい。
本発明によれば、未変形状態での加硫と、変形状態での再加硫という、単純なプロセス制御により、より簡便な方法で、カーボンブラックを含有するクロロプレンゴム組成物からなる加硫物の低発熱化を実現することができる。
横軸に加硫時間をとり、縦軸にトルク(M)をとって、トルクの時間変化を記録した例である。 縦軸にtanδをとり、横軸に温度をとって、実施例1及び比較例1の加硫物のtanδの温度依存性を比較した図である。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る加硫物は、未加硫のクロロプレンゴム組成物を加硫成形した半加硫成形体を、全体的に変形させた状態で再度加硫した後、変形を解除することにより得られる。具体的には、本実施形態の加硫物を製造する際は、未加硫のクロロプレンゴム組成物を加硫成形し、加硫特性値がt10〜t80の範囲の半加硫成形体を得る半加硫成形工程と、この半加硫成形体を全体に変形を加えた状態で再度加硫した後、変形を解除して、目的とする形状の加硫物を得る変形加硫工程とを行う。そして、この加硫物は、例えば伝動ベルト、コンベアベルト、自動車用部材及びタイヤなどに使用される。
[クロロプレンゴム組成物]
本実施形態の加硫物を構成するクロロプレンゴム組成物は、少なくとも、クロロプレン重合体とカーボンブラックとを含有する。ここで、クロロプレン重合体は、クロロプレンの単独重合体又はクロロプレンと他の単量体との共重合体であり、クロロプレン単独又はクロロプレンと他の単量体とを乳化重合することにより得られる。
また、クロロプレン重合体は、乳化重合時に用いる分子量調整剤の種類によって、「硫黄変性タイプ」と「非硫黄変性タイプ」とに分類される。そして、硫黄変性タイプのクロロプレン重合体は、硫黄存在下で原料単量体を重合し、得られた分子量調整剤である硫黄を分子内に含む重合体を、チウラムジスルフィドなどによって可塑化して所定の粘度に調製することにより製造される。
一方、非硫黄変性タイプのクロロプレン重合体には、メルカプタン変性タイプやキサントゲン変性タイプなどがある。メルカプタン変性タイプのクロロプレン重合体は、例えばn−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類を分子量調整剤に使用し、前述した硫黄変性タイプと同様の方法で製造される。また、キサントゲン変性タイプのクロロプレン重合体は、アルキルキサントゲン化合物を分子量調整剤として使用し、前述した硫黄変性タイプと同様の方法で製造される。
更に、クロロプレン重合体は、その結晶化速度に基づいて、例えば、結晶化速度が遅いタイプ、結晶化速度が中庸であるタイプ及び結晶化速度が速いタイプなどに分類することもできる。なお、本実施形態の加硫物においては、クロロプレン重合体の種類は特に限定されず、前述したいずれのタイプのクロロプレン重合体を用いてもよい。
ここで、クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸のエステル類や、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸のエステル類や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類や、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。
なお、クロロプレンと共重合する単量体は、1種類に限定されるものではなく、例えばクロロプレンを含む3種以上の単量体を共重合したものでもよい。また、クロロプレン重合体のポリマー構造も、特に限定されるものではない。
一方、クロロプレンゴム組成物に配合されるカーボンブラックは、特に限定されるものではなく、例えばGPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどを用いることができる。特に、従来、分散性に劣るとされていた比較的比表面積が大きいものが好適であり、具体的には、JIS K6217のA法で規定される窒素吸着比表面積(NSA)が、30〜200m/g以上のものが好ましい。NSAが30m/g未満のカーボンブラックを使用すると、十分に低発熱化されないことがある。また、NSAが200m/gを超えるカーボンブラックは、分散不良を生じることがあり、このようなカーボンブラックを使用すると、製品不良が発生することがある。
また、カーボンブラックの配合量は、クロロプレン重合体100質量部に対して20〜80質量部とすることが好ましい。カーボンブラック配合量が、クロロプレン重合体100質量部に対して20質量部未満の場合、パーコレーション閾値を下回り、低発熱効果が発現しないことがある。一方、カーボンブラックの配合量が、クロロプレン重合体100質量部に対して80質量部を超えると、半加硫成形体を変形加硫することにより得られる低発熱効果が失われることがある。
本実施形態の加硫物を構成するクロロプレンゴム組成物には、クロロプレン重合体及びカーボンブラックに加えて、シリカ及びシランカップリング剤が配合されていてもよい。ゴム組成物に配合されるシリカは、特に限定されるものではなく、例えば湿式シリカ、乾式シリカ及びコロイダルシリカなどのゴムの補強用充填材として使用可能なものから任意に選択して使用することができる。
また、各種シリカの中でも、特に、補強効果及び低発熱化効果向上の観点から、ISO 5794/1に準拠して測定したBET比表面積が50m/g以上のものを使用することが好ましく、100m/g以上のものがより好ましい。なお、このようなシリカとしては、例えば、東ソー・シリカ株式会社製「Nipsil(登録商標)AQ」(BET比表面積:190m/g)や「Nipsil(登録商標)VN3」、デグッサ社製「ウルトラジルVN3」(BET比表面積:175m/g)などがある。
更に、クロロプレンゴム組成物におけるシリカの配合量は、クロロプレン重合体100質量部あたり80質量部以下とすることが好ましい。シリカ配合量が、クロロプレン重合体100質量部あたり80質量部を超えると、分散性が低下して十分に低発熱化できないことがあり、更に、急激に加工性が悪化することもある。
一方、シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して0.5〜25質量部とすることが好ましい。シランカップリング剤は、シリカなどの無機充填材の表面に存在するOH基及びゴム成分の共役ジエン系重合体と反応して、無機充填材とゴムとの結合橋として作用し補強相を形成する。このため、シランカップリング剤を配合することにより、シリカによる補強効果を向上させると共に、低発熱化に寄与することができる。
ただし、シランカップリング剤の配合量が、シリカ100質量部に対して0.5質量部未満の場合、シリカとの反応性が乏しく、前述した添加効果が得られないことがある。また、シリカ100質量部に対して25質量部を超えてシランカップリング剤を配合しても、添加効果の向上はみられず、製造コストの増大を招くこととなる。
クロロプレンゴム組成物に配合するシランカップリング剤としては、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(3−トリメトキシンリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3−ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3−ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリンドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリロイルモノスルフィドなどが挙げられる。
なお、クロロプレンゴム組成物に配合されるシランカップリング剤は、これらに限定されるものではなく、加硫などに影響を与えないものであればよい。また、これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本実施形態の加硫物を構成するクロロプレンゴム組成物には、前述した各成分に加えて、シリカ以外の無機充填材が配合されていてもよい。シリカ以外の無機充填材としては、例えば、γ−アルミナ及びα−アルミナなどのアルミナ(Al)、ベーマイト及びダイアスポアなどのアルミナ一水和物(Al・HO)、ギブサイト及びバイヤライトなどの水酸化アルミニウム[Al(OH)]、炭酸アルミニウム[Al(CO]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、チタン白(TiO)、チタン黒(TiO2n−1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、クレー(Al・2SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・HO)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al・3SiO・5HOなど)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO、MgSiOなど)、ケイ酸カルシウム(CaSiOなど)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiOなど)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)・nHO]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩などを使用することができる。
更に、クロロプレンゴム組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤などの加硫系配合剤、プロセス油、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸などを配合することができる。
[半加硫成形工程]
本実施形態の加硫物を製造する際は、先ず、前述した未加硫のクロロプレンゴム組成物を加硫成形して、加硫特性値がt10〜t80の範囲の半加硫成形体を得る(半加硫成形工程)。ここで、「加硫特性値」とは、加硫物における加硫の度合い(加硫度)を示すものであり、JIS K6300−2:2001で規定される方法により求められる。
この半加硫成形工程で得られる半加硫成形体が、加硫特性値がt10未満となる加硫度であった場合、後述する変形加硫工程により形状が大きく変化し、成形時の形状を維持することができなくなる。一方、半加硫成形体が、加硫特性値がt80を超える加硫度であった場合、後述する変形加硫工程を行っても、低発熱化効果が発現しなくなる。
なお、この半加硫成形工程における加硫条件(温度・時間など)は、特に限定されるものではなく、ゴム組成物に配合されるゴム成分や架橋剤などの種類及び配合量などに応じて、適宜設定することができる。
[変形加硫工程]
次に、前述した半加硫成形工程で得た半加硫成形体(加硫度:t10〜t80)を、全体的に変形させた状態で再度加硫し、その後変形を解除して、目的とする形状の加硫物を得る(変形加硫工程)。半加硫成形体は、形状が保持される加硫度まで加硫されているため、変形加硫工程で得られる加硫物と半加硫成形体とでは大きな形状変化はないが、変形加硫後の加硫物は半加硫成形体に比べて一定の永久歪みをもつ。
ここで、半加硫成形体を変形させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば圧縮、伸長、せん断及びねじりなどが挙げられる。変形方式を、歪み、応力、弾性率及び粘度の定義から解釈すると、基本方式は、伸長又は圧縮、ずり(せん断)、体積圧縮の3種に集約される。しかしながら、実用的な加硫成形方法を考慮すると、伸長、圧縮、せん断及びねじりは、それぞれ異なる加工形態と理解される。そして、本実施形態の加硫物の製造方法においては、伸長、圧縮、せん断及びねじりの変形方式において、特に好適な効果を発現する。
なお、これらの変形方式は、単独で行ってもよいが、複数を組み合わせて行ってもよい。また、半加硫成形体の変形量も、特に限定されるものではなく、ゴム組成物に配合されたゴム成分の種類、半加硫成形体の加硫度、変形の種類などに応じて、適宜設定することができる。
例えば、変形が「圧縮」の場合は、その変形率は10〜80%とすることが好ましい。変形率が10%に満たないと、半加硫成形体を再加硫しても発熱性低減の効果が十分に得られないことがあり、変形率が80%を超えると、過大な圧力が必要になるばかりでなく、ゴム成分の種類によっては半加硫成形体が圧壊してしまう場合がある。また、「圧縮」の場合のより好ましい変形率は10〜50%であり、これにより、各種物性に優れ、かつ低発熱性の加硫物が得られる。ここで規定する「変形率(%)」は、変形を加える前の半加硫成形体における変形させる方向の長さをC、変形させた状態の半加硫成形体における変形方向の長さをDとしたとき、{(C−D)/C}×100により求められる。なお、長さC及びDの定義は、変形が後述する「伸長」の場合においても同様である。
変形が「伸長」の場合は、その変形率は30〜300%とすることが好ましい。変形率が30%に満たないと、半加硫成形体を再加硫しても発熱性低減の効果が十分に得られないことがある。一方、300%を超えて伸長させると、ゴム成分の種類によっては、半加硫成形体が破断したり、得られる加硫物の弾性が失われたりすることがある。また、「伸長」の場合の変形率のより好ましい範囲は、40〜200%であり、これにより、各種物性に優れ、かつ低発熱性の加硫物が得られる。なお、変形が「伸長」である場合、変形率(%)は{(D−C)/C}×100により求められる。
変形が「せん断」の場合は、その変形率は10〜200%とすることが好ましい。変形率が10%未満の場合、半加硫成形体を再加硫しても発熱性低減の効果が十分に得られないことがあり、変形率が200%を超えると、過大なせん断力が必要になるばかりでなく、ゴム成分の種類によっては半加硫成形体が切断してしまうことがある。また、「せん断」の場合の変形率のより好ましい範囲は、10〜150%であり、これにより、各種物性に優れ、かつ低発熱性の加硫物が得られる。なお、変形が「せん断」である場合の変形率(%)は、ずれの長さをE、せん断面間距離をFとしたとき、(E/F)×100により求められる。
変形が「ねじり」の場合は、その最大変形率は30〜300%とすることが好ましい。変形率が30%未満の場合、半加硫成形体を再加硫しても発熱性低減の効果が十分に得られないことがあり、300%を超えて変形させるためには、過大なトルクが必要になるばかりでなく、ゴム成分の種類によってはねじ切れてしまうことがある。また、「ねじり」の場合の変形率のより好ましい範囲は、50〜200%であり、これにより、各種物性に優れ、かつ低発熱性の加硫物が得られる。なお、変形が「ねじり」である場合、最大変形率(%)は、回転半径をR、ねじり角をθラジアン、試料高さをHとしたとき、(Rθ/H)×100により求められる。
なお、変形加硫工程における加硫条件(温度・時間など)も、特に限定されるものではなく、クロロプレンゴム組成物に配合されるクロロプレン重合体や架橋剤などの種類及び配合量などに応じて、適宜設定することができる。また、この変形加硫工程により得られる加硫物の加硫度は、製品の実用性の観点から、加硫特性値がt50〜t90となる範囲であることが望ましい。
この変形加硫工程により得られる加硫物は、JIS K6394に準拠する動的弾性率測定において、周波数10Hz、測定温度150℃の損失正接(tanδ)の値Aが、同一組成のゴム組成物を平衡加硫により同等の加硫度にしたものの損失正接の値Bよりも小さくなる。これは、本実施形態の加硫物が、従来の方法で製造された加硫物よりも、発熱性が低いものであることを示す。
以上詳述したように、本実施形態の加硫物は、加硫成形により得た特定の加硫度の半加硫成形体を、変形させた状態で再度加硫し、その後変形を解除しているため、クロロプレンゴム組成物に含有されるカーボンブラックの分散性が向上し、網目構造が発達するため、特に低周波数領域でのtanδが減少する。これにより、加硫物が低発熱化し、加硫ゴム製品に要求される種々の物性を低下させることなく、簡便な方法で、低発熱性の加硫物を実現することができる。
なお、前述した特許文献5に記載の方法でも、2段階で加硫を行っているが、この方法は、複雑な形状のものを成形するために、複数回に分けて成形加硫を行っているものであり、本実施形態の加硫物の成形方法とは、目的及び技術的思想が異なっている。特に、特許文献5に記載の方法では、既に成形した部分には変形を加えておらず、未成形の部分を変形させて目的とする形状に加硫成形しているため、本実施形態の加硫物のように、低発熱化の効果は得られない。
また、本実施形態の加硫物は、材料ではなくプロセスの面から、低発熱化を図っているため、製造コストを増加させることなく、低発熱性の加硫物を実現することができる。そして、本実施形態の加硫物の製造方法は、省エネルギーに資すると共に、加硫ゴム製品の高寿命化に寄与するものである。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記表1に示すカーボンブラックを用いて、以下に示す方法で、実施例及び比較例の加硫物を作製し、その損失正接(tanδ)値から発熱性を評価した。
Figure 0005721182
<実施例1>
(未加硫ゴム組成物の作製)
クロロプレン重合体(電気化学工業株式会社製 PS−40A:硫黄変性タイプ,結晶化速度遅い)100質量部に対し、カーボンブラック(SAF)を35質量部、ステアリン酸を1質量部、酸化マグネシウムを4質量部、アミン系老化防止剤(大内新興化学工業株式会社製 ノクラック(登録商標)CD:4,4−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)を1質量部、チオウレア系加硫促進剤(川口化学工業株式会社製 アクセル(登録商標)22S:エチレンチオ尿素)を1.0質量部、スルフェンアミド系加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製 ノクセラー(登録商標)CZ:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)を0.5質量部、及び酸化亜鉛を5.0質量部配合し、8インチロールを用いて混練りした。
(加硫度と未加硫ゴム組成物の評価)
未加硫ゴム組成物の加硫特性値の測定は、JIS K6300−2:2001の「振動式試験機による加硫特性の求め方」に準拠して行なった。一般に、加硫物の諸特性値は、温度の関数としてこれら諸性質を測定することによって求められる。加硫特性値は、ディスク加硫試験機(ローター加硫試験機)、ダイ加硫試験機(ローターレス加硫試験機)などの加硫試験機によって測定され、これら装置によって試料に繰り返し応力又は歪が加えられ、付随して発生する歪又は応力が計測される。
また、加硫試験は、一定温度で行われ、計測された試料の剛性(トルク又はせん断力で現される)は、時間の関数で連続的に記録される。図1は縦軸にトルク(M)、横軸に加硫時間をとり、トルクの時間変化を記録した例である。図1に示す加硫曲線のトルクの最小値をM、最大値をMHFとしたとき、M及びMHFを通り時間軸に並行な2直線を引く、この直線間の距離をM(M=MHF−M)とする。例えば、M+10%M、M+50%M、M+90%Mを通り時間軸に並行な直線を引き加硫曲線との交点を求め、試験開始時間からそれぞれの交点までに要した時間(加硫時間)を、それぞれt10、t50及びt90とする。
未加硫ゴム組成物に関して、株式会社東洋精機製作所 ロータレスレオメーター:RLR−3を用いて、JIS K3200-2:2001に準拠し、170℃、30分間における加硫特性を測定し、t50=1.5分、t90=5.0分を得た。
(半加硫成形工程)
2mmシート厚の金型を用いて、未加硫ゴム組成物を、170℃で1.5分間プレスすることで、加硫成形し、シート状の半加硫成形体を得た。
(変形加硫工程)
次に、この半加硫成形体を、1.5mmシート厚の金型に入れて、25%の圧縮変形率の条件下、170℃で、3.5分間(t90−t50=3.5分)プレス再加硫して、実施例1のクロロプレンゴム加硫物を得た。
(動的粘弾性試験:tanδ)
そして、前述した方法で作製した実施例1の加硫物について、損失正接(tanδ)を測定した。具体的には、動的粘弾性試験(JIS K 6394)を行い、下記数式1で定義される複素弾性率Εを求めた。ここで、下記数式1に示す複素弾性率Εの実数部Ε’は貯蔵弾性率、虚数部Ε”は損失弾性率である。また、歪みと応力の時間的遅れを表す位相角δは、損失角と呼ばれ、そのtanとして表わされる損失正接tanδは下記数式2により定義される。
Figure 0005721182
Figure 0005721182
上記数式2で表されるtanδは、減衰項であって、熱として散逸されるエネルギーと貯蔵されるエネルギーとの比で表わされる。そして、このtanδの値は、ゴム材料製品に加えられた機械的エネルギーが、「熱として散逸されやすいか」又は「貯蔵され難いか」を示し、その値が低いほど低発熱性と解釈される。
具体的試験は、JIS K6394に準拠し、下記に示す条件で実施した。
・測定器:レオバイブロン動的粘弾性自動測定器
・加振方法:変位振幅10μm(歪み0.05%)、静的張力5gf
・試料形状:幅:0.45cm、長さ:3cm(ただしチャック間2cm)、厚さ:0.2cmの板状
・測定周波数:10Hz
・測定温度条件:0℃〜200℃(昇温速度:5℃/min)
発熱性の指標であるtanδは、150℃における値を採用した。その結果、実施例1のクロロプレンゴム加硫物のtanδは、0.052であった。
<実施例2,3,6〜14、参考例4,5
下記表2及び表3に示す配合、加硫度及び変形率条件で、実施例1と同様の方法で、実施例2,3,6〜14及び参考例4,5の加硫物を作製し、tanδを求めた。なお、実施例10では、クロロプレン重合体に、電気化学工業株式会社製 M−40(メルカプタン変性タイプ,結晶化速度中庸)を用いた。また、実施例11では、カーボンブラックと共に、シリカ(東ソー・シリカ株式会社製 Nipsil(登録商標)VN3)を配合した。
<実施例15>
下記表3に示す配合、加硫度及び変形率条件で、加硫変形の際の変形方式を「伸長」とし、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例15の加硫物を作製した。その際、加硫成形後の2mmシート厚の半加硫成形体を、両端をつかみ具で固定し、列理方向に40%伸長保持させ、170℃の熱雰囲気下、再加硫を実施した。
<実施例16>
下記表3に示す配合、加硫度及び変形率条件で、加硫変形の際の変形方式を「せん断」とし、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例16の加硫物を作製した。その際、加硫成形後の2mmシート厚の半加硫成形体を、両端をつかみ具で固定すると共に、中央部を別のつかみ具で固定後、中央つかみ具を列理方向に移動させて40%せん断保持させ、170℃の熱雰囲気下、再加硫を実施した。
<比較例1〜11>
(平衡加硫工程)
実施例1と同様の方法により、下記表4及び表5に示す配合で作製した未加硫のゴム組成物を、2mmシート厚の金型を使用し、170℃で5分間プレス加硫して、下記表4及び表5に示す加硫度の比較例1〜11の加硫物を作製し、そのtanδを求めた。以上の結果を下記表2〜5にまとめて示す。
Figure 0005721182
Figure 0005721182
Figure 0005721182
Figure 0005721182
上記表2〜5に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜3,6〜16の加硫物は、JIS K6394に準拠する動的弾性率測定において、周波数10Hz、測定温度150℃の損失正接(tanδ)の値(A)が、同一組成のゴム組成物を平衡加硫により同等の加硫度にしたものの損失正接の値(B)よりも小さかった。
例えば、実施例1の加硫物のtanδ(=0.052)は、比較例1の加硫物のtanδ(=0.060)に比べて低下していた。そして、この実施例1の加硫物と比較例1の加硫物とを比較した場合、(A/B)が0.87であり、1を下回っている。なお、この値(A/B)が小さい程、低発熱化の効果が強いことを意味する。
更に、図2は縦軸にtanδをとり、横軸に温度をとって、実施例1及び比較例1の加硫物のtanδの温度依存性を比較した図である。図2に示すように、実施例1の加硫物では、約30℃以上の環境下で低発熱化の効果が得られ、高温になるほどその効果が大きくなることが確認された。
以上の結果から、本発明によれば、より簡便な方法で、カーボンブラックを含有するクロロプレンゴム組成物からなる加硫物を低発熱化できることが確認された。

Claims (13)

  1. クロロプレン重合体と、JIS K6217のA法で規定される窒素吸着比表面積(N SA)が85〜150m /gであるカーボンブラックとを少なくとも含有する未加硫のゴム組成物を加硫成形して、JIS K6300−2:2001で規定される方法により求められる加硫特性値がt10〜t80の範囲となる半加硫成形体とし、該半加硫成形体を全体的に変形させた状態で再度加硫した後、変形を解除して得た加硫物。
  2. 前記ゴム組成物は、クロロプレン重合体100質量部に対して前記カーボンブラックを20〜80質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の加硫物。
  3. 前記ゴム組成物は、更に、クロロプレン重合体100質量部に対してシリカを80質量部以下含有すると共に、該シリカ100質量部に対してシランカップリング剤を0.5〜25質量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の加硫物。
  4. 変形を加えた状態で再度加硫した後の加硫特性値がt50〜t90の範囲であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の加硫物。
  5. JIS K6394に準拠する動的弾性率測定において、周波数10Hz、測定温度150℃の損失正接(tanδ)の値Aが、同一組成のゴム組成物を平衡加硫により同等の加硫度にしたものの損失正接の値Bよりも小さいことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の加硫物。
  6. 前記変形が、圧縮、伸長、せん断及びねじりから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の加硫物。
  7. 伝動ベルト、コンベアベルト、自動車用部材又はタイヤに用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の加硫物。
  8. クロロプレン重合体と、JIS K6217のA法で規定される窒素吸着比表面積(N SA)が85〜150m /gであるカーボンブラックとを少なくとも含有する未加硫のゴム組成物を、加硫成形して、JIS K6300−2:2001で規定される方法により求められる加硫特性値がt10〜t80の範囲となる半加硫成形体を得る半加硫成形工程と、
    前記半加硫成形体を全体的に変形させた状態で再度加硫し、その後、変形を解除して、目的とする形状の加硫物を得る変形加硫工程と、
    を有する加硫物の製造方法。
  9. 前記ゴム組成物に、クロロプレン重合体100質量部に対して前記カーボンブラックを20〜80質量部配合することを特徴とする請求項に記載の加硫物の製造方法。
  10. 前記ゴム組成物に、クロロプレン重合体100質量部に対してシリカを80質量部以下配合すると共に、該シリカ100質量部に対してシランカップリング剤を0.5〜25質量部配合することを特徴とする請求項8又は9に記載の加硫物の製造方法。
  11. 前記変形加硫工程により得られる加硫物は、JIS K6300−2:2001で規定される方法で測定した加硫特性値がt50〜t90の範囲であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の加硫物の製造方法。
  12. 前記変形加硫工程により得られる加硫物は、JIS K6394に準拠する動的弾性率測定において、周波数10Hz、測定温度150℃の損失正接(tanδ)の値Aが、同一組成のゴム組成物を平衡加硫により同等の加硫度にしたものの損失正接の値Bよりも小さいことを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の加硫物の製造方法。
  13. 前記変形が、圧縮、伸長、せん断及びねじりから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の加硫物の製造方法。
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