JP5708810B2 - クラッチプレート - Google Patents

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Description

本発明は、潤滑溝を有する湿式のクラッチプレートに関するものである。
従来から、駆動側のクラッチプレートと従動側のクラッチプレートとを摩擦係合させることで動力伝達を行う摩擦クラッチが知られている。また、円弧状の貫通穴である窓が複数形成されたクラッチプレートを用いる電磁式の摩擦クラッチも知られている。窓は磁気回路形成のために必要となる。電磁式の摩擦クラッチは、例えば特開平11−303911号公報に記載されている。
また、電磁式摩擦クラッチが用いられる電子制御4WDカップリング(ITCC(登録商標))については、例えば特開2002−213485号公報にも記載されている。
クラッチプレート間には、潤滑油が介在されている。そして、クラッチプレートの軸方向端面(摺動面)には、プレート同士の摩擦係合時に、潤滑油を保持するとともにプレート間から逃がすための潤滑溝が形成されている。
ところで、上記のようにプレート間に潤滑油を介在させる湿式のクラッチ機構では、クラッチの非作動状態の時でも、その間に介在された潤滑油の粘性に基づく係合力に起因して、いわゆる引きずりトルクが発生する。例えば、メインクラッチ機構とパイロットクラッチ機構とカム機構を有する駆動力伝達装置(特許文献1、2参照)では、パイロットクラッチの非作動状態の時に引きずりトルクが発生し、当該引きずりトルクがカム機構にて軸方向の押圧力に変換且つ増幅されてメインクラッチを摩擦係合させてしまう。このため、制御外のトルク伝達や、各クラッチプレート間の摩擦によるメインクラッチの発熱等の不具合が発生し得る。
したがって、引きずりトルクの低減可能なクラッチプレートが求められている。引きずりトルクは、潤滑油粘度に依存し、低温になるほど大きくなる。つまり、低温時の引きずりトルクの低減が主な課題となっている。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、引きずりトルクの低減が可能なクラッチプレートを提供することを目的とする。
本発明に係るクラッチプレートの第1の様相は、軸方向両端面の少なくとも一方に複数の溝からなる潤滑溝が形成され、当該端面が前記潤滑溝と摩擦係合面とを有する環状且つ湿式のクラッチプレートであって、前記溝は、周方向に交差する方向に延伸し延伸方向直交断面が凹状の溝形成部と、前記溝形成部の両側方で前記溝形成部の前記延伸方向に沿って延在し前記摩擦係合面と前記溝形成部とをつなぐダレ部と、を備え、前記ダレ部は、前記延伸方向直交断面において、前記溝の底から開口に向かうほど拡幅し、前記溝の一側端を通り径方向に延びる直線を仮想直線とすると、前記仮想直線に直交し前記一側端を含む平面で切断した前記一側端を有する溝の断面において、前記ダレ部の一側方当たりの幅は、0.12mm以上0.28mm以下であり、前記ダレ部の深さは、25μm以上50μm以下である。



本発明に係るクラッチプレートの第2の様相は、軸方向両端面の少なくとも一方に複数の溝からなる潤滑溝が形成され、当該端面が前記潤滑溝と摩擦係合面とを有する環状且つ湿式のクラッチプレートであって、前記摩擦係合面は、前記複数の溝で構成された少なくとも2点の微分可能でない点及び前記微分可能でない点を結ぶ複数の微分可能な線により、囲まれて画定された丘部を複数有し、前記溝は、延伸方向直交断面が凹状の溝形成部と、前記溝形成部の両側方で前記溝形成部の前記延伸方向に沿って延在し前記丘部と前記溝形成部とをつなぐダレ部と、を備え、前記ダレ部は、前記延伸方向直交断面において、前記溝の底から開口に向かうほど拡幅し、前記微分可能な線のうち周方向に交差して延伸する線上の所定点における接線に対して垂直な平面で切断した断面において、前記ダレ部の一側方当たりの幅は、0.09mm以上0.35mm以下であり、前記ダレ部の深さは、20μm以上50μm以下である。
本発明によれば、溝が所定寸法のダレ部を有し、これにより、引きずりトルクを低減させることができる。
第一実施形態のクラッチプレート1を示す正面図である。 第一実施形態の溝21を示す延伸方向直交断面図である。 第一実施形態のクラッチプレート1を示す部分拡大図である。 第一実施形態のクラッチプレート1を示す部分拡大図である。 第一実施形態の溝21を平面Zで切断した断面図である。 第一実施形態のクラッチプレート1の製造工程を示す工程図である。 実施例1の表面状態の測定結果を示す図である。 ダレ部212の幅dと引きずりトルクとの関係を示す図である。 ダレ部212の深さcと引きずりトルクとの関係を示す図である。 実施形態における四輪駆動車を説明するための説明図である。 実施形態における電子制御4WDカップリングを示す部分断面図である。 第二実施形態のクラッチプレート10を示す正面図である。 溝21及びランド140を説明するための概念図である。 姿抜き工程S3後でラップ工程S4前の状態を示す断面プロファイルである。 ダレ部212の深さfと引きずりトルクとの関係を示す図である。 ダレ部212の深さfと幅eの関係を示す図である。
次に、好ましい実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。本実施形態では、本発明のクラッチプレートを、電子制御4WDカップリング(以下、駆動力伝達装置と称する)のパイロットクラッチ機構のクラッチプレートとして用いた場合を一例として挙げる。
(駆動力伝達装置)
ここで、図10および図11を参照して、駆動力伝達装置91について説明する。まず、四輪駆動車90は、図10に示すように、主に、駆動力伝達装置91と、トランスアクスル92と、エンジン93と、一対の前輪94と、一対の後輪95と、を備えている。エンジン93の駆動力は、トランスアクスル92を介してアクスルシャフト81に出力され、前輪94を駆動する。
また、トランスアクスル92は、プロペラシャフト82を介して駆動力伝達装置91に連結されている。そして、駆動力伝達装置91は、ドライブピニオンシャフト83を介してリヤデファレンシャル84に連結されている。リヤデファレンシャル84は、アクスルシャフト85を介して後輪95に連結されている。プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が駆動力伝達装置91にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン93の駆動力は後輪95に伝達される。
駆動力伝達装置91は、例えば、リヤデファレンシャル84とともにディファレンシャルキャリヤ86内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ86に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ86を介して車体に支持されている。
図11に示すように、駆動力伝達装置91は、主に、外側回転部材としてのアウタケース70aと、内側回転部材としてのインナシャフト70bと、メインクラッチ機構70cと、パイロットクラッチ機構70dと、カム機構70eと、を備えている。
アウタケース70aは、有底筒状のフロントハウジング71aと、フロントハウジング71aの後端開口部に螺着され且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング71bと、から構成されている。フロントハウジング71aの前端部には入力軸60が突出形成され、同入力軸60はプロペラシャフト82に連結されている。
入力軸60が一体に形成されたフロントハウジング71a、および、リヤハウジング71bは、磁性材料である鉄で形成されている。リヤハウジング71bの径方向の中間部には、非磁性体材料あるステンレス製の筒体61が埋設され、この筒体61は環状の非磁性部位を形成している。
アウタケース70aは、フロントハウジング71aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ86に対してベアリング等(図示なし)を介して回転可能に支持されている。また、アウタケース70aは、リヤハウジング71bの外周において、ディファレンシャルキャリヤ86に対して支持されたヨーク76にベアリング等を介して支持されている。
インナシャフト70bは、リヤハウジング71bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング71a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング71aとリヤハウジング71bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト70bには、ドライブピニオンシャフト83の先端部が挿入されている。なお、図においてドライブピニオンシャフト83は図示していない。
メインクラッチ機構70cは、湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄からなりその摺動面にペーパ摩擦材が貼付されたインナクラッチプレート72aと、鉄からなるアウタクラッチプレート72bと、を多数備えている。インナクラッチプレート72aおよびアウタクラッチプレート72bは、フロントハウジング71aの奥壁側に配設されている。
クラッチ機構を構成する各インナクラッチプレート72aは、インナシャフト70bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート72bは、フロントハウジング71aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート72aと各アウタクラッチプレート72bは、軸方向に交互に配置されており、互いに当接して摩擦係合可能であるとともに、互いに離間して非係合の自由状態になることもできる。
パイロットクラッチ機構70dは、電磁石73、摩擦クラッチ74、及びアーマチャ75を備えている。電磁石73とアーマチャ75により電磁式の駆動手段が構成されている。
ヨーク76は、ディファレンシャルキャリヤ86に対してインローにて支承され、かつリヤハウジング71bの後端部の外周に対して相対回転可能に支持されている。ヨーク76には環状をなす電磁石73が嵌着され、電磁石73は、リヤハウジング71bの環状凹所63に配置されている。
摩擦クラッチ74は、鉄製の1枚のインナパイロットクラッチプレート74a及び鉄製の2枚のアウタパイロットクラッチプレート74bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。なお、後述する実施形態では、本発明のクラッチプレートの例として、本発明を当該インナパイロットクラッチプレート74aに適用した場合を挙げている。
インナパイロットクラッチプレート74aは、カム機構70eを構成する第1カム部材77の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタパイロットクラッチプレート74bは、フロントハウジング71aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
インナパイロットクラッチプレート74aと各アウタパイロットクラッチプレート74bとは、軸方向に交互に配置され、互いに当接して摩擦係合可能であるとともに、互いに離間して非係合の自由状態になることもできる。
なお、第2カム部材78はインナシャフト70bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト70bに対して一体回転可能に組み付けられている。第2カム部材78は、メインクラッチ機構70cのインナクラッチプレート72aに対向して配置されている。第2カム部材78と第1カム部材77の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア79が介在されている。
駆動力伝達装置91において、パイロットクラッチ機構70dを構成する電磁石73の電磁コイルへの通電がなされていない場合には、磁路は形成されず、摩擦クラッチ74は非係合状態にある。この場合、パイロットクラッチ機構70dは非作動の状態にあって、カム機構70eを構成する第1カム部材77は、カムフォロア79を介して第2カム部材78と一体回転可能であり、メインクラッチ機構70cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車90は、二輪駆動の駆動モードを構成する。
一方、電磁石73の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構70dには磁路が形成され、電磁石73はアーマチャ75を吸引する。この場合、アーマチャ75は摩擦クラッチ74を押圧して摩擦係合させ、カム機構70eの第1カム部材77をフロントハウジング71a側と連結させ、第2カム部材78との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構70eではカムフォロア79が両カム部材77、78を互いに離間する方向へ押圧する。
この結果、第2カム部材78はメインクラッチ機構70c側へ押圧され、メインクラッチ機構70cを摩擦クラッチ74の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース70aとインナシャフト70bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車90は、プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
また、電磁石73の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石73のアーマチャ75に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ75は強く電磁石73側へ吸引作動され、摩擦クラッチ74の摩擦係合力を増大させ、両カム部材77、78間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア79は第2カム部材78に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構70cを結合状態とする。このため、四輪駆動車90は、プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。
<第一実施形態>
第一実施形態のクラッチプレート1について、図1〜図9を参照して説明する。ただし、図2および図5については、作図の都合上、上下と左右の比を変更して表している。クラッチプレート1は、一例として上記インナパイロットクラッチプレート74aに適用させている。
クラッチプレート1は、図1に示すように、環状の磁性体金属板からなり、軸方向一端面11および軸方向他端面(図示せず)の両端面にはそれぞれ潤滑溝2が形成されている。軸方向他端面には、軸方向一端面11と同様の潤滑溝2が形成されている。
端面11は、潤滑溝2と、プレート同士が摩擦係合する摩擦係合面13と、を有している。摩擦係合面13は、端面11においておよそ潤滑溝2と窓3と空間部分Aを除いた部分であり、平面状に形成されている。なお、軸方向は、環状の中心軸Oに平行な方向であり、入力軸60に平行な方向ともいえる。
潤滑溝2は、上記の両パイロットクラッチプレート74a、74b間に介在する余分な潤滑油を受け入れるように構成されている。つまり、クラッチプレート1は湿式のクラッチプレートである。潤滑溝2は、プレート間の潤滑油を受け入れるとともにプレート間外へ逃がす役割も果たす。これにより、プレート同士の係合がスムーズに行われる。
また、クラッチプレート1の端面11の径方向略中央には、軸方向に貫通した円弧状の貫通穴である窓3が同一円周上に複数配置されている。窓3は、パイロットクラッチ機構において、適切な磁気回路(磁路)を形成するために必要である。また、クラッチプレート1の内周縁には、スプライン4が形成されている。
潤滑溝2は、図1および図3に示すように、複数の溝21からなっている。潤滑溝2は、両端面11上に全体的に延在し、表面中央部から外周縁および内周縁(スプライン4の縁)にまで延在している。潤滑溝2は、窓3および窓3同士の間(空白部分A)を除いた表面全体に形成されている。
本実施形態では、潤滑溝2は、格子状(メッシュ状)に形成されている。溝21は、外周側では外周縁から窓3または空白部分Aまで延び、内周側では窓3または空白部分Aから内周縁(スプライン4の縁)まで延びている。つまり、潤滑溝2の溝21は、両端面11上において、周方向に交差する方向に延伸している。そして、潤滑溝2は、溝21同士が接する(ここでは交差する)交点22を複数有している。
溝21は、図2に示すように、溝形成部211と、ダレ部212と、を有している。溝形成部211は、溝21の延伸方向直交断面(図4のW参照)が凹状となるように形成されている。溝形成部211は、製造上、延伸方向直交断面において、溝21の底から開口に向かうほど拡幅している。溝形成部211の側壁211a、211bは、ほぼ平面状に形成され、軸方向に対して傾斜している。なお、溝形成部211の側壁211a、211bは、軸方向に平行に形成されてもよい。
ダレ部212は、溝形成部211の両側方(図2の左右端)に位置し、溝形成部211の延伸方向に沿って延在し、摩擦係合面13と溝形成部211とをつなぐ部位である。ダレ部212は、延伸方向直交断面において、ほぼ一定の曲率をもつ凸弧状に形成され、溝21の底から開口に向かうほど拡幅している。ダレ部212の拡幅度(軸方向に対する傾斜)は、溝形成部211の拡幅度よりも大きい。
このように、端面11は、摩擦係合面13と、ダレ部212と、溝形成部211と、窓3と、空間部分Aと、で形成されている。
本実施形態において、溝21の幅aは、およそ0.1〜0.5mmである。ここで、本発明における溝21の幅aとは、図2に示すように、延伸方向直交断面において、溝形成部211の側壁211a、211bに沿って延ばした延長線と、摩擦係合面13に沿って延ばした延長線とが交わる2つの交点の離間距離を意味する。
溝21の深さbは、溝21の底から開口(または摩擦係合面13を含む平面)までの距離であり、本実施形態ではおよそ0.1〜0.2mmである。
ここで、ダレ部212の寸法について説明する。本発明において、ダレ部212の寸法は、後述する断面上での寸法である。当該断面について説明すると、図3に示すように、まず、溝21のある一側端Xを通り且つクラッチプレート1の径方向に延びる(平行な)直線を仮想直線Yとする。そして、図3および図4に示すように、本発明においてダレ部212の寸法を規定する断面は、仮想直線Yに直交し且つ一側端Xを含む平面Zで切断された断面Zである。一側端とは、溝21の両サイドのうち一サイドの端部(縁)上の一点である。本実施形態において、一側端Xは、溝21の交点22位置に設定されている。
図5に示すように、断面Zにおいて、一側方当たりのダレ部212の幅dは、0.12mm以上0.35mm以下であり、ダレ部212の深さcは、25μm以上50μm以下である。測定対象は、一側端Xを有する溝21である。断面Zにおいて、幅dは軸方向に直交する方向の長さであり、深さcは軸方向の長さである。引きずりトルクは、クラッチプレート1の周方向(一側端Xでは断面Zに相当する)の凹凸形状に影響を受け得る。
クラッチプレート1の製造方法は、プレス加工を用いたものであり、図6に示すように、主に、仮抜き工程S1と、溝押し工程S2と、姿抜き工程S3と、ラップ工程S4と、を含んでいる。
仮抜き工程S1は、磁性体金属板(ここでは鉄板)Mに対して、クラッチプレート1の大まかな内周縁と外周縁の形を形成する工程である。溝押し工程S2は、鉄板Mに対し、潤滑溝2の型を両端面11、12にプレスする工程である。姿抜き工程S3は、クラッチプレート1の内周縁(ここではスプライン4)、外周縁、および、窓3を形成する工程である。ラップ工程S4は、溝押し工程S2以降に行われ、摩擦係合面13を研磨して平面度を高める工程である。
ダレ部212の寸法は、プレスの押し付け力や、ラップ工程S4により調整できる。押し付け力を調整することで摩擦係合面13の盛り上がり量を調整し、ラップ工程S4のラップ加工において研磨量を調整することで、ダレ部212の深さcや幅dを調整できる。
なお、従来の製法、例えば、仮抜き工程S1→溝押し工程S2→平押し工程→姿抜き工程S3→ラップ工程S4を順にそれぞれプレスする方法によっても、上記溝21を持つクラッチプレート1を形成することができる。平押し工程とは、盛り上がった摩擦係合面13を押えて平面化する工程である。従来はラップ工程S4において、ダレ部分を取り除いていたが、本発明では、ダレ部分適量が残るようにラップ加工することで、ダレ部212が形成される。
(実施例1)
クラッチプレート1について、ダレ部212の幅dはおよそ0.14mmで、ダレ部212の深さcはおよそ32μmであった。ダレ部212は凸弧状であり、その曲率半径はおよそ0.86mmであった。
なお、溝21の深さbは、0.13mmであった。溝21の深さbは、製造上、ダレ部212の寸法とおおよそ連動して変動する。摩擦係合面13の一部である1つのランド14(溝21で囲まれた部位)の面積は、およそ3.3mmであった。測定した溝21(交点22)は、窓3よりも内周側に位置する。寸法測定に用いた測定装置は、ZYGO NewView(登録商標) 7300である。詳細な測定条件は次のとおりである。測定機は上記ZYGO NewView(登録商標) 7300であり、構成は白色干渉方式であり、対物レンズは10倍であり、ズームレンズは1倍であり、カメラモードは640×480画素であり、スキャン方式はモータースキャンであり、画像連結は9×9面である。参考に測定結果を図7に表す。図7の横軸の単位はmmで、図7の縦軸の単位はμmである。
実施例1のクラッチプレート1に対し、低温時(−20℃、−40℃)の引きずりトルクを測定した。引きずりトルクの測定装置は、神鋼造機株式会社製カップリング性能試験機である。測定条件としては、通常使用される状態、すなわちクラッチプレート1が2枚をアウタパイロットクラッチプレート3枚で交互に軸方向に挟み込んだ状態で測定した。なお、測定された引きずりトルクの値は、メインクラッチ機構70cの交互に軸方向に配置された6枚のインナクラッチプレート72aと6枚のアウタクラッチプレート72bと、これらのクラッチプレートの間に介在する潤滑油とが生じる引きずりトルクの値も含む。潤滑油は、ATF系4WDカップリング専用フルードを用いた。使用したATF系4WDカップリング専用フルードの動粘度は次のとおりである。−40℃での動粘度が4833mm/sであり、40℃での動粘度が23.13mm/sであり、100℃での動粘度が4.8mm/sである。電磁石73へは電流を印加しない。
潤滑油は、駆動力伝達装置91の潤滑油の封入される空間の略80vol%が封入されている。なお、潤滑油の封入される空間は、フロントハウジング71a、オイルシール65(Oリング)、リヤハウジング71b、筒体61、リヤハウジング71b、オイルシール66(Xリング)、インナシャフト70b、および、オイルシール67(シールキャップ)により画定された空間である。
引きずりトルクの測定装置は低温室に配置されている。低温室の室温を−20℃にして駆動力伝達装置91の温度が−20℃になるのを待った。駆動力伝達装置91の温度が−20℃になると、引きずりトルクの測定装置に固定されたアウタケース70aに対してインナシャフト70bを回転させて引きずりトルクを測定した。
引きずりトルクは、アウタケース70aに対するインナシャフト70bの回転速度を、0(min−1)から300(min−1)まで1秒間の間に一定加速度で加速させ、直ちに300(min−1)から0(min−1)まで1秒間の間に一定加速度で減速させる間に生じる最大のトルク値である。
また、同様に、低温室の室温を−40℃にして駆動力伝達装置91の温度が−40℃になるのを待った。駆動力伝達装置91の温度が−40℃になると、引きずりトルクの測定装置に固定されたアウタケース70aに対してインナシャフト70bを回転させて引きずりトルクを測定した。
この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、312Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、517Nmであった。なお、ダレ部分がないあるいはほぼ取り除かれた従来のクラッチプレートでは、−20℃のときの引きずりトルクが400〜500Nmで、−40℃のときの引きずりトルクが600〜700Nmであった。
(実施例2)
実施例2のクラッチプレート1について、ダレ部212の幅dはおよそ0.24mmで、ダレ部212の深さcはおよそ47μmであった。ダレ部212は凸弧状であり、その曲率半径はおよそ1mmであった。なお、溝21の深さbは、0.15mmであった。実施例2では、実施例1と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、264Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、463Nmであった。
(実施例3)
実施例3のクラッチプレート1について、ダレ部212の幅dはおよそ0.28mmで、ダレ部212の深さcはおよそ49μmであった。ダレ部212は凸弧状であり、その曲率半径はおよそ1.2mmであった。なお、溝21の深さbは、0.16mmであった。実施例3では、実施例1と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、240Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、450Nmであった。
(参考例1)
クラッチプレート1と同構成(寸法除く)の参考例1について、ダレ部212の幅dはおよそ0.1mmで、ダレ部212の深さcはおよそ21μmであった。ダレ部212は凸弧状であり、その曲率半径はおよそ0.15mmであった。なお、溝21の深さbは、0.09mmであった。参考例1では、実施例1と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、398Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、663Nmであった。
(参考例2)
クラッチプレート1と同構成(寸法除く)の参考例2について、ダレ部212の幅dはおよそ0.05mmで、ダレ部212の深さcはおよそ10μmであった。ダレ部212は凸弧状であり、その曲率半径はおよそ0.05mmであった。なお、溝21の深さbは、0.2mmであった。参考例2では、実施例1と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、410Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、680Nmであった。
上記実施例1〜3および参考例1、2の結果をまとめたグラフを図8および図9に表す。図8および図9に示すように、参考例1から実施例1に移る際に急激に引きずりトルクが下がっている。つまり、ダレ部212の幅dは、参考例1と実施例1の間における0.12mm以上で、実施例3を含む0.28mm以下であることが好ましい。同様に、ダレ部212の深さcは、25μm以上50μm以下が好ましい。
本実施形態によれば、引きずりトルクが例えば−20℃で400Nm未満および−40℃で600Nm未満となり、低温時における引きずりトルクを低減させることができる。−20℃より温度が高い場合でも、潤滑油の粘性が低下するため、さらに引きずりトルクは低減する。
なお、実施例1〜3を含む好適な態様では、ダレ部212の曲率半径が0.5〜1.3mmであり、溝21の深さbが0.12〜0.18mmであった。溝21の深さbを大きくしていくと、ある数値からは引きずりトルクは大きくなった。例えば溝21の深さbをおよそ0.2mmにすると引きずりトルクは上昇した。つまり、溝21の深さbと引きずりトルクとの間に相関は見られず、ダレ部212の寸法に相関が見られた。また、プレート枚数等の測定条件を変化させても、引きずりトルクの絶対値が変化するだけで、比(グラフの曲線)としては同様の変化となる。
(変形態様)
ダレ部212は、凸弧状でなく、平面状であってもよい。また、溝21は、周方向に突出(凹凸)しつつ全体として径方向に延伸する波型(ギザギザ)形状であってもよい。また、溝21は、屈曲することなく径方向に延伸するものでもよい。また、潤滑溝2は、交点22を持たないものでもよい。また、本実施形態は、他の湿式クラッチプレートにも適用でき、例えばアウタパイロットクラッチプレート74bやメインクラッチ機構70cのクラッチプレート70a、70bにも適用できる。これらの構成であっても、本実施形態同様の効果が発揮される。また、仮想直線Yは、環状(クラッチプレート1)の中心軸Oに直交し且つ溝21の一側端Xを通る直線ともいえる。
<第二実施形態>
第二実施形態のクラッチプレート10は、図12に示すように、第一実施形態同様の構成及び用途であって、環状の磁性体金属板からなり、軸方向一端面11および軸方向他端面(図示せず)の両端面にはそれぞれ潤滑溝2が形成されている。軸方向他端面には、軸方向一端面11と同様の潤滑溝2が形成されている。クラッチプレート10は、第一実施形態と同様の製造方法で製造されている。
第二実施形態における溝21は、第一実施形態同様、クラッチプレート10の周方向(回転方向)に交差するように、クラッチプレート10の内側(スプライン4よりも内側)に中心を持つ仮想円(又は仮想球)の軌跡に沿って形成されている。互いに中心が異なる複数の仮想円に対応して複数の溝21が形成されている。さらに具体的に、上記仮想円の中心は、クラッチプレート10の中心を中心とする第二仮想円上で周方向に等間隔に位置している。
端面11は、潤滑溝2と、プレート同士が摩擦係合する摩擦係合面13と、を有している。摩擦係合面13は、端面11においておよそ潤滑溝2と窓3と空間部分Aを除いた部分であり、平面状に形成されている。
摩擦係合面13は、複数のランド(「丘部」に相当する)140を有している。ランド140は、複数の溝21により囲まれて画定された部分である。複数の溝21は、ランド140を画定するにあたり、少なくとも2点の微分可能でない点と、当該微分可能でない点を結ぶ複数の微分可能な線と、を構成している。本発明では、ランド140を画定する上記点及び線を、溝21を、溝21の幅方向の中央を通る線(以下、「溝中央線」と称する)とみなして規定している。換言すると、本発明におけるランド140の画定にあたっては、溝21を、幅を持たない線として定義している。微分可能でない点とは接線が1つに確定しない点を意味し、微分可能な線とは線上の任意の点で接線が1つに確定する線を意味する。
具体的には、図13に示すように、複数の溝21による溝中央線の交点(22)が微分可能でない点p1〜p4となり、点p1と点p2を結ぶのが微分可能な線q1となり、点p2と点p3を結ぶのが微分可能な線q2となり、点p3と点p4を結ぶのが微分可能な線q3となり、点p4と点p1を結ぶのが微分可能な線q4となる。第二実施形態におけるランド140は、4点の微分可能でない点p1〜p4と、4つの微分可能な線q1〜q4と、により囲まれて画定されている。第二実施形態において、線q1〜q4はほぼ同じ長さである。
第二実施形態の溝21は、第一実施形態と同様の構成であり、図14に示すように、溝形成部211と、ダレ部212と、を有している。ダレ部212は、ランド140の全周に対して形成されている。ここで、ランド140を画定する微分可能な線q1〜q4のうちの1つの線q1を選択し、その線q1上の所定点r1を通る接線Rに対して垂直な平面を平面Sとする(図13参照)。溝21を平面Sで切断した断面は、溝21の延伸方向直交断面に相当し、当該断面における溝21の形状は図14に示すようになる。つまり、溝21を平面Sで切断した断面は、交点22すなわち微分可能でない点p1〜p4を除く溝21の延伸方向直交断面を意味する。
第二実施形態では、図14に示すように、溝21を平面Sで切断した断面において、ダレ部212の一側方当たりの幅eは、0.09mm以上0.35mm以下であり、ダレ部212の深さfは、20μm以上50μm以下となるように形成されている。なお、本実施形態において、交点22におけるダレ部212の深さcと、交点22以外の部位におけるダレ部212の深さfは、一致していない。
ここで第二実施形態におけるダレ部212の幅e及び深さfの測定方法について説明する。図14は、姿抜き工程S3後でラップ工程S4前の状態を示す断面プロファイルである。図14の断面プロファイルにおいて、まず基準線Tを引く。基準線Tは以下のように引く。溝底の一側方のR、及び溝底の他側方のRをとる。一側方のRと一側方の溝底線とが一致する範囲を指定し、他側方のRと他側方の溝底線とが一致する範囲を指定する。そして、一側方の当該範囲における溝底側の境界点と、他側方の当該範囲における溝底側の境界点の2点を通る基準線Tを引く。
次に溝21の側面21a、21bにおいて変曲点Gを指定する。変曲点Gは、曲率が変わる位置であって、溝形成部211の側面とダレ部212の側面との境目となる点である。例えば溝形成部211の一側面21aの傾きを直線で表せた場合、開口側において当該直線と溝21の一側面21aとが分離する位置が変曲点Gとなる。
次にラップ工程S4前のランド(140)のピーク点(頂点)を通り且つ基準線Tに平行な平行線Uを引く。そして、変曲点Gと平行線Uとの距離を求める。最後に、求めた距離からラップ分(研磨で削られる分:本実施形態では15μm)を減算し、減算後の値をダレ部212の深さfとする。
ダレ部212の幅eの算出については、まず、研磨分を考慮するため平行線Uから15μm下方に離れて平行線Uに平行な線Vを引く。そして、線Vと一側方のダレ部212との交点v1と、変曲点Gとの基準線T方向の離間距離を求め、当該離間距離をダレ部212の幅eとする。なお、ダレ部212の深さfは、変曲点Gと線Vの離間距離ともいえる。ダレ部212の深さf及び幅eは、ラップ工程S4後のランド140の表面すなわちクラッチプレート完成品におけるランド140の表面に基づいて求められる。
(実施例4)
クラッチプレート10について、ダレ部212の幅eはおよそ0.155mmで、ダレ部212の深さfはおよそ23μmであった。ダレ部212は凸弧状であった。
第二実施形態における各実施例では、ダレ部212の幅e及び深さfの測定において、複数の測定点で測定し、それらの平均値により幅e及び深さfを算出した。各実施例では、16箇所の測定点を指定して平均値を測定した。測定点は、ファイバー方向(図12の矢印参照)に対して0°と90°の位置にある各ランド140において隣接(ここでは対向)する2つの溝21上にとった。なお、ファイバー方向は、クラッチプレート10を形成する素材としての鋼板を製造するにあたり、圧延によって形成されたファイバーフローの延在方向である。図12の○印は、測定点を表している。図12に示すように、測定点は、一方の端面11に8箇所、他方の端面に同様に8箇所とした。測定点は、当該選択された各溝21が構成するランド140の辺(微分可能な線)の中央位置とした。すなわち、図13に示すように、測定点(所定点)r1は線q1の中央とした。対向する溝21の各測定点r1、r2での測定方向は、ランド140から溝21に向かう方向であって、当該測定点における溝21の接線に垂直でランド140の表面に平行な方向(図13の矢印参照)とした。
実施例4におけるラップ前の溝21の深さは、およそ0.142mmであった。1つのランド140の面積は、およそ3.3mmであった。寸法測定に用いた測定装置は、形状測定機(商品名:サーフコム1500DX(登録商標))である。測定子としては先端角度が30°であるスタイラス(サファイア製)を使用した。測定条件は、送り速度を0.15mm/sとし、測定ピッチを0.002mmとした。
実施例4のクラッチプレート10に対し、低温時(−20℃、−40℃)の引きずりトルクを測定した。引きずりトルクの測定装置及び測定条件は、第一実施形態の実施例1〜3と同じである。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、260Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、460Nmであった。なお、ダレ部分がないあるいはほぼ取り除かれた従来のクラッチプレートでは、−20℃のときの引きずりトルクが400〜500Nmで、−40℃のときの引きずりトルクが600〜700Nmであった。
(実施例5)
実施例5のクラッチプレート10について、ダレ部212の幅eはおよそ0.214mmで、ダレ部212の深さfはおよそ37μmであった。ダレ部212は凸弧状であった。なお、ラップ前の溝21の深さは、0.209mmであった。実施例5では、実施例4と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、195Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、410Nmであった。
(実施例6)
実施例6のクラッチプレート10について、ダレ部212の幅eはおよそ0.244mmで、ダレ部212の深さfはおよそ44μmであった。ダレ部212は凸弧状であった。なお、ラップ前の溝21の深さは、0.240mmであった。実施例6では、実施例4と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、180Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、350Nmであった。
(実施例7)
実施例7のクラッチプレート10について、ダレ部212の幅eはおよそ0.248mmで、ダレ部212の深さfはおよそ45μmであった。ダレ部212は凸弧状であった。なお、ラップ前の溝21の深さは、0.242mmであった。実施例7では、実施例4と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、175Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、280Nmであった。
(参考例3)
クラッチプレート10と同構成(寸法除く)の参考例3について、ダレ部212の幅eはおよそ0.118mmで、ダレ部212の深さfはおよそ14μmであった。ダレ部212は凸弧状であった。なお、ラップ前の溝21の深さは、0.106mmであった。参考例3では、実施例4と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、305Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、510Nmであった。
(参考例4)
クラッチプレート10において、交点22を除く溝21(すなわち微分可能な線q1〜q4)にダレ部212が形成されていないものを参考例4とする。なお、ラップ前の溝21の深さは、0.100mmであった。参考例4では、実施例4と同条件で寸法測定および引きずりトルク測定を行った。この結果、−20℃のときの引きずりトルクは、400Nmであった。また、−40℃のときの引きずりトルクは、620Nmであった。
図15は、上記実施例4〜7および参考例3、4の結果をまとめたグラフである。ダレ部212の深さfは、20μm未満であると流体くさび効果が得難く油圧反力が発生し難いため引きずりトルク低減効果を十分に得られないおそれがある。したがって、ダレ部212の深さfは、20μm以上であることが好ましい。また、ダレ部212の深さfは、50μmより大きくなると摺動面(摺接領域)が減少し十分なトルク特性が確保できないおそれがあるため、50μm以下であることが好ましい。摺動面とは、対向するクラッチプレートと接する面で且つトルク伝達に寄与する面であり、本実施形態では摩擦係合面13に相当する。クラッチプレート10は、端面11における摩擦係合面13の割合(摺動面積率)が55%以上90%以下となるように形成されている。
図15に示すように、ダレ部212の深さfが20μm以上50μm以下とすることで、引きずりトルクを、−20℃において300Nm未満にでき、−40℃において500Nm未満にすることができる。特にダレ部212の深さfが35μm以上50μm以下である場合、トルク特性を保ちつつ、引きずりトルクをより小さくできる。
引きずりトルクは、クラッチプレート間(アウタクラッチプレート及びインナクラッチプレート)のせん断力τ(せん断抵抗)に相当する。せん断力τは、τ=η×(U/h)で表せ、クラッチプレート間の隙間hに左右される。ηは潤滑油粘度であり、Uはクラッチプレート間の相対速度である。溝21にダレ部212があることでフルード流入に対して油圧反力が発生し、クラッチプレート間の隙間hに影響を及ぼす。つまり、クラッチプレート10の周方向(回転方向)に交差する溝21おいて、ダレ部212の深さfは、引きずりトルクに大きく関係している。
また、実施例4〜7の他に複数のクラッチプレート10を作成し、第二実施形態におけるダレ部212の深さfと幅eの相関について検証した。製造方法及び測定方法は実施例4〜7同様である。図16に示すように、ダレ部212の深さfと幅eとの間には相関関係がみられる。第二実施形態のダレ部212の深さf範囲20μm〜50μmに対応して、ダレ部212の幅eはおよそ0.09mm〜0.35mmとなっている。つまり、ダレ部212の深さが20μm以上50μm以下であり、且つダレ部212の幅eが0.09mm以上0.35mm以下であることにより、上記作用効果が発揮される。
第二実施形態のクラッチプレート10によれば、低温時の引きずりトルクを低減させることができる。なお、第二実施形態のクラッチプレート10は、上記に限られず、第一実施形態の変形態様同様の変形態様であっても良い。また、ランド140の形状は、多角形であっても良い。ダレ部212の深さfは、クラウニング量ともいえる。また、第一実施形態と第二実施形態とを組み合わせることで、より確実に引きずりトルクを低減させることができる。また、第二実施形態のクラッチプレート10は、多くのランド(丘部)が4点の微分可能でない点と4つの微分可能な線により囲まれて画定されていたが、ランドは、2点の微分可能でない点と2つの微分可能な線により囲まれて画定されていても良い。また、ランドは、3点の微分可能でない点と3つの微分可能な線により囲まれて画定されていても良い。また、ランドは、5点以上の微分可能でない点と、当該微分可能でない点と同じ数の微分可能な線により囲まれて画定されていても良い。
1、10:クラッチプレート、 11:軸方向一端面、 13:摩擦係合面、 14、140:ランド(丘部)、 2:潤滑溝、 21:溝、 22:交点、 211:溝形成部、 212:ダレ部、 3:窓、 4:スプライン、 91:駆動力伝達装置、 X:一側端、 Y:仮想直線、 S、Z:平面(断面)、 p1、p2、p3、p4:微分可能でない点、 q1、q2、q3、q4:微分可能な線

Claims (2)

  1. 軸方向両端面の少なくとも一方に複数の溝からなる潤滑溝が形成され、当該端面が前記潤滑溝と摩擦係合面とを有する環状且つ湿式のクラッチプレートであって、
    前記溝は、周方向に交差する方向に延伸し延伸方向直交断面が凹状の溝形成部と、前記溝形成部の両側方で前記溝形成部の前記延伸方向に沿って延在し前記摩擦係合面と前記溝形成部とをつなぐダレ部と、を備え、
    前記ダレ部は、前記延伸方向直交断面において、前記溝の底から開口に向かうほど拡幅し、
    前記溝の一側端を通り径方向に延びる直線を仮想直線とすると、
    前記仮想直線に直交し前記一側端を含む平面で切断した前記一側端を有する溝の断面において、前記ダレ部の一側方当たりの幅は、0.12mm以上0.28mm以下であり、前記ダレ部の深さは、25μm以上50μm以下であるクラッチプレート。
  2. 軸方向両端面の少なくとも一方に複数の溝からなる潤滑溝が形成され、当該端面が前記潤滑溝と摩擦係合面とを有する環状且つ湿式のクラッチプレートであって、
    前記摩擦係合面は、前記複数の溝で構成された少なくとも2点の微分可能でない点及び前記微分可能でない点を結ぶ複数の微分可能な線により、囲まれて画定された丘部を複数有し、
    前記溝は、延伸方向直交断面が凹状の溝形成部と、前記溝形成部の両側方で前記溝形成部の前記延伸方向に沿って延在し前記丘部と前記溝形成部とをつなぐダレ部と、を備え、
    前記ダレ部は、前記延伸方向直交断面において、前記溝の底から開口に向かうほど拡幅し、
    前記微分可能な線のうち周方向に交差して延伸する線上の所定点における接線に対して垂直な平面で切断した断面において、前記ダレ部の一側方当たりの幅は、0.09mm以上0.35mm以下であり、前記ダレ部の深さは、20μm以上50μm以下であるクラッチプレート。
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