JP2016125555A - クラッチ装置及び駆動力伝達装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】部品点数や組み付け工数の増大を抑制し、かつクラッチプレートの耐久性を確保しながら、引き摺りトルクを低減することが可能なクラッチ装置、及び駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】クラッチ装置2は、共通の回転軸線Oを中心として相対回転可能なフロントハウジング21及びパイロットカム61と、フロントハウジング21に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合したアウタクラッチプレート41と、パイロットカム61に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合したインナクラッチプレート42と、アウタクラッチプレート41とインナクラッチプレート42とを摩擦接触させる押圧力を発生する押圧機構5とを備え、パイロットカム61は、インナクラッチプレート42がアウタクラッチプレート41に対して傾斜するように、インナクラッチプレート42とのスプライン係合部611が回転軸線Oに対して傾斜している。
【選択図】図5

Description

本発明は、クラッチプレート間の摩擦によってトルクを伝達するクラッチ装置、及びこのクラッチ装置を備えた駆動力伝達装置に関する。
従来、例えば車両においてトルク(駆動力)を遮断可能に伝達するために用いられ、クラッチプレート間の摩擦によってトルクを伝達するクラッチ装置が知られている。このようなクラッチ装置には、引き摺りトルクを低減するため、トルク伝達の遮断状態においてクラッチプレート間の隙間が大きくなるように構成されたものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
特許文献1に記載のクラッチ装置は、クラッチプレート間に合成ゴム製のリング又はウェーブ状のスプリングからなる弾性体を配置することにより、クラッチプレート間の隙間が大きくなるように構成されている。また、特許文献2に記載のクラッチ装置は、摩擦接触するクラッチプレートの一方を弾性変形可能な波状とすることにより、クラッチプレート間の隙間が大きくなるように構成されている。
特開2008−38958号公報 特開平11−230197号公報
特許文献1に記載のクラッチ装置のように、クラッチプレート間に弾性体を配置する構成では、部品点数の増大ならびに組み付け工数の増大を招来してしまう。
また、特許文献2に記載のクラッチ装置のようにクラッチプレートを波状とする構成では、クラッチプレート同士が押圧された状態での摩擦摺動時に、波状のうねりの頂点にあたる部分における面圧が高くなり、この部分において偏摩耗が発生しやすくなる。また、十分な引き摺りトルクの低減効果が得られる程度にクラッチプレートの波状のうねりを大きくするためには、クラッチプレートの弾性を高めるために厚みを薄くせざるを得ず、クラッチプレートの強度が低下してしまうおそれもある。このように、特許文献2に記載のクラッチ装置では、クラッチプレートの耐久性を確保することが困難であった。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数や組み付け工数の増大を抑制し、かつクラッチプレートの耐久性を確保しながら、引き摺りトルクを低減することが可能なクラッチ装置、及び駆動力伝達装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するため、共通の回転軸線を中心として相対回転可能な第1回転部材及び第2回転部材と、前記第1回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合した第1クラッチプレートと、前記第2回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合した第2クラッチプレートと、前記第1クラッチプレートと前記第2クラッチプレートとを摩擦接触させる押圧力を発生する押圧機構とを備え、前記第2回転部材は、前記押圧機構が前記押圧力を発生していないときに前記第2クラッチプレートが前記第1クラッチプレートに対して傾斜するように、前記第2クラッチプレートとの係合部が前記回転軸線に対して傾斜している、クラッチ装置を提供する。
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記クラッチ装置と、前記第2回転部材よりも内側で前記第1回転部材と相対回転可能な第3回転部材と、前記第1回転部材と前記第3回転部材の間に配置され、軸方向の押圧力を受けて前記第1回転部材と前記第3回転部材とを駆動力伝達可能に連結する多板クラッチと、前記第2回転部材との相対回転により前記多板クラッチに前記軸方向の押圧力を付与する押圧部材とを備えた、駆動力伝達装置を提供する。
本発明に係るクラッチ装置及び駆動力伝達装置によれば、部品点数や組み付け工数の増大を抑制し、かつクラッチプレートの耐久性を確保しながら、引き摺りトルクを低減することが可能となる。
本発明の実施の形態に係るクラッチ装置を含む駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。 駆動力伝達装置の構成例を示す断面図である。 パイロットクラッチを構成するパイロットアウタクラッチプレート及びパイロットインナクラッチプレートの一部を破断して示す斜視図である。 パイロットカムを示し、(a)は回転軸線と平行な方向から見た平面図、(b)は側面図である。 インナクラッチプレートアウタクラッチプレートに対して傾斜した状態を、パイロットカム及びフロントハウジングと共に示す断面図である。 (a)及び(b)は、パイロットクラッチがアーマチャからの押圧力を受けなくなった際にインナクラッチプレートがパイロットカムに対して傾く傾動動作を説明するために示す説明図である。 (a)及び(b)は、図6(a)のA−A線断面図及びB−B線断面図である。 (a)は、インナクラッチプレートの一部を拡大して示す斜視図であり、図8(b)〜(d)は、(a)のC−C線断面図、D−D線断面図、及びE−E線断面図である。
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図8を参照して説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上での好適な一具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施の形態に係るクラッチ装置を含む駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図1に示すように、四輪駆動車1は、走行用のトルクを発生する駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力を変速するトランスミッション12と、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が常時伝達される左右前輪181,182と、走行状態に応じてエンジン11の駆動力が伝達される左右後輪191,192とを備えている。この四輪駆動車1は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192にエンジン11の駆動力を伝達する四輪駆動状態と、左右前輪181,182のみに駆動力を伝達する二輪駆動状態とを切り替え可能である。
また、四輪駆動車1は、フロントディファレンシャル13と、プロペラシャフト14と、リヤディファレンシャル15と、左右の前輪側ドライブシャフト161,162と、左右の後輪側ドライブシャフト171,172と、プロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間に配置された駆動力伝達装置10と、駆動力伝達装置10を制御する制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100とを備えている。ECU100は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度を検出する回転速センサ101〜104、ならびにアクセルペダル111の踏み込み量を検出するためのアクセルペダルセンサ105の検出結果を取得可能であり、これらの検出結果に基づいて、駆動力伝達装置10を制御する。
四輪駆動車1は、駆動力伝達装置10による駆動力の伝達がなされる場合に四輪駆動状態となり、駆動力伝達装置10による駆動力の伝達がなされない場合には二輪駆動状態となる。ECU100は、例えば左右前輪181,182の回転速度と左右後輪191,192の回転速度との差や、アクセルペダル111の踏み込み量等に応じた励磁電流を駆動力伝達装置10に供給し、駆動力伝達装置10は、この励磁電流に応じた駆動力をプロペラシャフト14からリヤディファレンシャル15側に伝達する。
左右前輪181,182には、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13、及び左右の前輪側ドライブシャフト161,162を介して伝達される。フロントディファレンシャル13は、左右前輪側ドライブシャフト161,162にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ131,131と、一対のサイドギヤ131,131にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ132,132と、一対のピニオンギヤ132,132を支持するピニオンギヤシャフト133と、これらを収容するフロントデフケース134とを有している。
フロントデフケース134には、リングギヤ135が固定され、このリングギヤ135がプロペラシャフト14の車両前方側の端部に設けられたピニオンギヤ141に噛み合っている。プロペラシャフト14の車両後方側の端部は、駆動力伝達装置10のクラッチハウジング20に連結されている。駆動力伝達装置10は、クラッチハウジング20と相対回転可能に配置されたインナシャフト23を有しており、ECU100から供給される励磁電流に応じた駆動力を、インナシャフト23と相対回転不能に連結されたピニオンギヤシャフト150を介してリヤディファレンシャル15に伝達する。
また、駆動力伝達装置10は、クラッチハウジング20とインナシャフト23との間に配置されたメインクラッチ3と、メインクラッチ3と軸方向に並置されたパイロットクラッチ4と、ECU100から供給される励磁電流によりパイロットクラッチ4を作動させる電磁力を発生させる電磁コイル50と、パイロットクラッチ4を介して伝達されるトルクによって作動し、メインクラッチ3を押圧する押圧力を発生させるカム機構6とを有している。駆動力伝達装置10の構成の詳細については後述する。
リヤディファレンシャル15は、左右後輪側ドライブシャフト171,172にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ151,151と、一対のサイドギヤ151,151にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ152,152と、一対のピニオンギヤ152,152を支持するピニオンギヤシャフト153と、これらを収容するリヤデフケース154と、リヤデフケース154に固定されてピニオンギヤシャフト150と噛み合うリングギヤ155とを有している。
(駆動力伝達装置10の構成)
図2は、駆動力伝達装置10の構成例を示す断面図である。図3は、パイロットクラッチ4を構成するパイロットアウタクラッチプレート41及びパイロットインナクラッチプレート42の一部を破断して示す斜視図である。
駆動力伝達装置10は、プロペラシャフト14に連結されたクラッチハウジング20と、このクラッチハウジング20に対して相対回転可能に支持されたインナシャフト23と、軸方向の押圧力を受けてクラッチハウジング20とインナシャフト23とを駆動力伝達可能に連結する多板クラッチからなるメインクラッチ3と、メインクラッチ3の軸方向に並列配置されたパイロットクラッチ4と、パイロットクラッチ4に対して軸方向の押圧力を作用させる電磁コイル50及びアーマチャ51と、パイロットクラッチ4によって伝達されるクラッチハウジング20のトルクをメインクラッチ3への押圧力に変換するカム機構6とから大略構成されている。
クラッチハウジング20とインナシャフト23との間には、メインクラッチ3及びパイロットクラッチ4を潤滑して焼き付きを防止するための図略の潤滑油が、例えば80%の充填率で充填されている。
クラッチハウジング20は、有底円筒状のフロントハウジング21、及びフロントハウジング21の開口端に螺着して一体回転するように結合された環状のリヤハウジング22からなる。フロントハウジング21の内周面には、回転軸線Oに沿って設けられた複数のスプライン歯211が形成されている。フロントハウジング21の底部210には、プロペラシャフト14が例えば十字継手を介して連結される。
リヤハウジング22は、フロントハウジング21に結合された軟磁性材料からなる第1部材221、第1部材221の内周側に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2部材222、及び第2部材222の内周側に結合された軟磁性材料からなる第3部材223からなる。
インナシャフト23は、フロントハウジング21の内側に配置され、玉軸受24及び針状ころ軸受25によって回転可能に支持されている。インナシャフト23におけるフロントハウジング21の底部210側の外周面には、回転軸線Oに沿って設けられた複数のスプライン歯231が形成されている。また、インナシャフト23におけるフロントハウジング21の底部210とは反対側の端部の内周面には、ピニオンギヤシャフト150(図1参照)の一端部を相対回転不能に連結するための複数のスプライン嵌合部232が形成されている。
メインクラッチ3は、回転軸線Oに沿って交互に配置された複数のメインアウタクラッチプレート31及び複数のメインインナクラッチプレート32を有し、フロントハウジング21とインナシャフト23との間に配置されている。メインアウタクラッチプレート31は、フロントハウジング21の複数のスプライン歯211に係合する複数の係合突起311を有し、フロントハウジング21に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト23の複数のスプライン歯231に係合する複数の係合突起321を有し、インナシャフト23に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
パイロットクラッチ4は、回転軸線Oに沿って交互に配置されたパイロットアウタクラッチプレート41及びパイロットインナクラッチプレート42を有する。パイロットアウタクラッチプレート41は、フロントハウジング21の複数のスプライン歯211に係合する複数の係合突起411を有し、フロントハウジング21に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に係合している。パイロットインナクラッチプレート42は、後述するカム機構6のパイロットカム61の外周面に形成された複数のスプライン歯612に係合する複数の係合突起421を有し、パイロットカム61に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に係合している。
本実施の形態では、パイロットクラッチ4が2枚のパイロットアウタクラッチプレート41、及び1枚のパイロットインナクラッチプレート42からなり、2枚のパイロットアウタクラッチプレート41の間に1枚のパイロットインナクラッチプレート42が配置されているが、パイロットアウタクラッチプレート41及びパイロットインナクラッチプレート42の枚数に制限はなく、例えば3枚のパイロットアウタクラッチプレート41と2枚のパイロットインナクラッチプレート42とを交互に配置してパイロットクラッチ4を構成してもよい。
以下、パイロットアウタクラッチプレート41を単に「アウタクラッチプレート41」といい、パイロットインナクラッチプレート42を単に「インナクラッチプレート42」という。アウタクラッチプレート41は、本発明の「第1クラッチプレート」の一態様であり、インナクラッチプレート42は、本発明の「第2クラッチプレート」の一態様である。
フロントハウジング21とインナシャフト23とは、回転軸線Oを共有して相対回転可能である。パイロットカム61は、インナシャフト23に外嵌されており、フロントハウジング21とパイロットカム61とは、回転軸線Oを共有して相対回転可能である。フロントハウジング21、パイロットカム61、及びインナシャフト23は、それぞれ本発明の「第1回転部材」、「第2回転部材」、及び「第3回転部材」の一態様である。
電磁コイル50及びアーマチャ51は、アウタクラッチプレート41とインナクラッチプレート42とを摩擦接触させる押圧力を発生する押圧機構5を構成する。フロントハウジング21、パイロットクラッチ4、パイロットカム61、及び押圧機構5は、電磁クラッチ装置2を構成する。この電磁クラッチ装置2は、本発明の「クラッチ装置」の一態様である。
電磁コイル50は、ケーブル500を介してECU100からの励磁電流の供給を受け、磁力を発生させる。電磁コイル50は、リヤハウジング22の第3部材223に玉軸受27を介して支持されたヨーク28に保持され、リヤハウジング22の第1部材221と第3部材223との間に配置されている。
アーマチャ51は、パイロットクラッチ4のアウタクラッチプレート41に対向して配置された環状の軟磁性体からなり、その外周面には、フロントハウジング21の複数のスプライン歯211に係合する複数の係合突起511が設けられている。これにより、アーマチャ51は、フロントハウジング21に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
アウタクラッチプレート41及びインナクラッチプレート42は、電磁コイル50への通電により発生する磁束を透過させる軟磁性材料からなり、アーマチャ51とリヤハウジング22との間に配置されている。アウタクラッチプレート41及びインナクラッチプレート42は、例えば鉄系金属からなる板状の素材をプレス成型し、さらに焼き入れ焼き戻し処理を施してなる。ECU100から電磁コイル50に励磁電流が供給されると、ヨーク28、リヤハウジング22の第1部材221及び第3部材223、アウタクラッチプレート41及びインナクラッチプレート42、ならびにアーマチャ51を通過する磁路Gに磁束が発生し、この磁束の磁力によってアーマチャ51がリヤハウジング22側に吸引される。
そして、このアーマチャ51の軸方向移動によってパイロットクラッチ4が押圧され、アウタクラッチプレート41とインナクラッチプレート42とが摩擦接触して、フロントハウジング21からパイロットカム61へトルクが伝達される。パイロットカム61へ伝達されるトルクは、電磁コイル50に供給される励磁電流に応じて変化する。
図3に示すように、アウタクラッチプレート41は、インナクラッチプレート42と摩擦接触する摩擦部410よりも外側に、フロントハウジング21の複数のスプライン歯211に係合する複数の係合突起411が等間隔に形成されている。アウタクラッチプレート41の径方向における摩擦部410の中央部には、磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリット410aが形成されている。また、摩擦部410の表面には、摩擦係合力を低下させる油膜の形成を阻止するための同心円状の多数の微細溝410bが形成されている。
インナクラッチプレート42は、アウタクラッチプレート41と摩擦接触する摩擦部420よりも内側に、パイロットカム61の複数のスプライン歯612に係合する複数の係合突起421が等間隔に形成されている。インナクラッチプレート42の径方向における摩擦部420の中央部には、磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリット420aが形成されている。また、摩擦部420の表面には、潤滑油の流路となる複数の油溝420bが格子状に形成されている。
カム機構6は、パイロットカム61と、メインクラッチ3に軸方向の押圧力を付与する押圧部材としてのメインカム62と、パイロットカム61とメインカム62との間に配置された複数の球状のカムボール63とを有して構成され、フロントハウジング21の内側に配置されている。メインカム62は、その内周面に形成された複数の係合突起622がインナシャフト23の複数のスプライン歯231に係合し、インナシャフト23との相対回転が規制されている。パイロットカム61とリヤハウジング22の第3部材223との間には、スラスト針状ころ軸受26が配置されている。
パイロットカム61は、カムボール63を転動させるカム溝610aが形成されたカム部610と、外周面に複数のスプライン歯612が設けられたスプライン係合部611とを一体に有している。メインカム62は、カムボール63を転動させるカム溝620aが形成されたカム部620と、メインクラッチ3の1つのメインインナクラッチプレート32に当接してメインクラッチ3を押圧する押圧部621とを有している。
パイロットカム61及びメインカム62のカム溝610a,620aは、周方向に沿って所定の角度範囲で延在し、その中央部で軸方向の深さが最も深く、端部ほど浅くなるように形成されている。本実施の形態では、パイロットカム61及びメインカム62にそれぞれ6つのカム溝610a,620aが形成されている。
上記のように構成された駆動力伝達装置10は、ECU100から電磁コイル50に励磁電流が供給されると、電磁コイル50の磁力によってアーマチャ51がリヤハウジング22側に吸引され、パイロットクラッチ4を押圧する。これによりパイロットクラッチ4のアウタクラッチプレート41とインナクラッチプレート42が摩擦摺動し、フロントハウジング21の回転力がパイロットクラッチ4を介してカム機構6のパイロットカム61に伝達され、パイロットカム61がメインカム62に対して相対回転する。
パイロットカム61とメインカム62との相対回転によって、カムボール63がカム溝610a,620aを転動すると、メインカム62にパイロットカム61から離間する方向の軸方向の推力が発生する。そして、このカム機構6の推力によってメインクラッチ3がメインカム62によって押圧され、複数のメインアウタクラッチプレート31と複数のメインインナクラッチプレート32との間に摩擦力が発生し、フロントハウジング21とインナシャフト23とが駆動力伝達可能に連結される。
一方、ECU100から電磁コイル50への励磁電流の供給が遮断されると、パイロットクラッチ4がアーマチャ51に押圧されなくなり、パイロットクラッチ4を介してフロントハウジング21からパイロットカム61に回転力が伝達されなくなるため、メインクラッチ3がメインカム62に押圧されず、メインクラッチ3による駆動力伝達がなされなくなる。
ここで、仮にパイロットクラッチ4における引き摺りトルクが大きいと、電磁コイル50への励磁電流の供給を遮断しても、フロントハウジング21からパイロットカム61へトルクが伝達され、カム機構6が作動して複数のメインアウタクラッチプレート31と複数のメインインナクラッチプレート32との間に摩擦力が発生してしまう。そのため、パイロットクラッチ4における引き摺りトルクは、出来る限り小さいことが望ましい。なお、ここで引き摺りトルクとは、アウタクラッチプレート41とインナクラッチプレート42との間に介在する潤滑油の粘性等により、アーマチャ51からの押圧力を受けていない場合でも、パイロットカム61側へ伝達されてしまうトルクをいう。
本実施の形態では、パイロットカム61の形状を変更し、インナクラッチプレート42をアウタクラッチプレート41に対して傾斜させることにより、引き摺りトルクを低減している。以下、このパイロットカム61の構成等について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図4は、パイロットカム61を示し、(a)は回転軸線Oと平行な方向から見た平面図、(b)は側面図である。
図4(a)に示すように、パイロットカム61の中心部には、インナシャフト23が挿入される貫通孔61aが形成され、この貫通孔61aの外側に6つのカム溝610aが形成されている。インナクラッチプレート42が係合するスプライン係合部611は、カム部610の外周囲に円筒状に形成され、その外周面に複数のスプライン歯612が等間隔に設けられている。
パイロットカム61は、電磁コイル50への励磁電流が供給されず、押圧機構5がパイロットクラッチ4を押圧する押圧力を発生していないときに、インナクラッチプレート42がアウタクラッチプレート41に対して傾斜するように、スプライン係合部611が回転軸線Oに対して傾斜している。このため、図4(b)に示すように、複数のスプライン歯612の歯筋が、回転軸線Oに対して傾斜角θをもって傾斜している。
この傾斜角θの好適な角度は、0.1〜0.5°である。傾斜角θが0.5°を超えると、パイロットクラッチ4がアーマチャ51からの押圧力を受けた場合のインナクラッチプレート42の係合突起421とパイロットカム61のスプライン歯612との良好な歯当たりが得られず、パイロットクラッチ4のトルク伝達容量が制限されてしまう。また、傾斜角θが0.1°未満であると、インナクラッチプレート42を傾かせることによる引き摺りトルクの低減効果が十分に得られない。なお、図4等の各図面では、説明の明確化のため、傾斜角θを誇張して表現している。
パイロットカム61の複数のスプライン歯612のそれぞれは、回転軸線Oに対して同一の傾斜角θで一様に傾斜している。このようなスプライン歯612は、例えば円筒状の内面に複数の刃が軸方向と平行に形成されたブローチ型を、パイロットカム61に対して斜めに押し当てるブローチ加工によって形成することができる。また、パイロットカム61を焼結によって形成してもよい。
図5は、インナクラッチプレート42がアウタクラッチプレート41に対して傾斜した状態を、パイロットカム61及びフロントハウジング21と共に示す断面図である。図5に示すように、インナクラッチプレート42がアウタクラッチプレート41に対して傾くことにより、インナクラッチプレート42の摩擦部420とアウタクラッチプレート41の摩擦部410とが面接触せず、インナクラッチプレート42とアウタクラッチプレート41との間に十分な量の潤滑油を介在させることができる。これにより、パイロットクラッチ4における引き摺りトルクが低減される。
図6(a)及び(b)は、パイロットクラッチ4がアーマチャ51からの押圧力を受けなくなった際にインナクラッチプレート42がパイロットカム61に対して傾く傾動動作を説明するために示す説明図であり、図7(a)及び(b)は、図6(a)のA−A線断面図及びB−B線断面図である。
図6(a)に示すように、インナクラッチプレート42がパイロットカム61に対して傾斜していない場合には、インナクラッチプレート42の係合突起421がスプライン歯612に対して斜めに当たることとなる。この場合、図6(a)及び図7(a)に示すように、係合突起421の側面421aが、軸方向(インナクラッチプレート42の厚さ方向)の一方の端部における接触箇所Pにおいて、スプライン歯612の歯面612aに点当たりする。なお、スプライン歯612の歯面612a及び係合突起421の側面421aは、その断面形状がインボリュート曲線からなる。
このため、図7(b)に示すように、係合突起421の側面421aは、軸方向の他方の端部ではスプライン歯612の歯面612aから浮いてしまい、インナクラッチプレート42の姿勢が不安定な状態となる。この状態でパイロットカム61が回転すると、インナクラッチプレート42が潤滑油から回転抵抗力を受け、パイロットカム61に対して図6(b)に示す矢印方向に傾動し、係合突起421の側面421aが接触箇所Pにおいてスプライン歯612の歯面612aに線当たりする。これにより、パイロットカム61に対するインナクラッチプレート42の姿勢が傾斜した状態で安定し、アウタクラッチプレート41との間隔が広がって、引き摺りトルクが低減される。
また、本実施の形態では、インナクラッチプレート42のパイロットカム61に対する傾動動作、及びインナクラッチプレート42がパイロットカム61に対して傾いた状態からの復帰動作が円滑に行われるように、パイロットカム61のスプライン歯612に当接する係合突起421の角部が丸面取りされている。この構成について、図8を参照して詳細に説明する。
図8(a)は、インナクラッチプレート42の一部を拡大して示す斜視図であり、図8(b)〜(d)は、図8(a)のC−C線断面図、D−D線断面図、及びE−E線断面図である。なお、図8(a)では、油溝420b(図3参照)の図示を省略している。
図8(b)及び(c)に示すように、インナクラッチプレート42の係合突起421は、インナクラッチプレート42の周方向に沿った断面における形状が略矩形状であり、パイロットカム61のスプライン歯612に当接する角部が丸面取りされている。より具体的には、インナクラッチプレート42の周方向における係合突起421の両端部の一対の側面421aと、インナクラッチプレート42の軸方向における係合突起421の両端面421bとの間のそれぞれの角部R〜Rが、断面円弧状に丸面取り(アール面取り)されている。この丸面取りされた角部R〜Rの断面における曲率半径は、例えば0.1〜0.5mmである。
また、本実施の形態では、図8(d)に示すように、インナクラッチプレート42の軸方向における係合突起421の両端面421bと、係合突起421の先端面421cとの間の角部R,Rも、角部R〜Rと同様に丸面取りされている。
これらの丸面取りにより、パイロットカム61の複数のスプライン歯612が回転軸線Oに対して傾斜していても、インナクラッチプレート42の係合突起421がスプライン歯612の歯面612aに引っ掛かることがなく、傾動動作及び復帰動作が円滑になされる。また、トルク伝達時における応力集中により、スプライン歯612の歯面612aに傷がついてしまうことを抑制することも可能となる。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、インナクラッチプレート42をアウタクラッチプレート41に対して傾斜させることにより、部品点数や組み付け工数を増大させることなく、パイロットクラッチ4の引き摺りトルクを低減することができる。また、例えば特許文献2に記載されたもののように、インナクラッチプレート42を弾性変形させる必要がないので、インナクラッチプレート42の耐久性が低下してしまうこともない。またさらに、インナクラッチプレート42を傾斜させるための構成は、パイロットカム61のスプライン係合部611における複数のスプライン歯612を回転軸線Oに対して傾斜させるという簡素な構成であるため、製造コストの上昇を抑制しながら、パイロットクラッチ4の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
また、本実施の形態に係る電磁クラッチ装置2のように、クラッチプレートに磁束を透過させる構成のものでは、残留磁束によってクラッチプレート同士の面接触状態が維持されると、引き摺りトルクが大きくなってしまうが、本実施の形態では、インナクラッチプレート42をアウタクラッチプレート41に対して傾斜させることにより、積極的にアウタクラッチプレート41とインナクラッチプレート42とを離間させるので、アウタクラッチプレート41及びインナクラッチプレート42に磁束を透過させながらも、引き摺りトルクを低減することが可能となる。
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、インナクラッチプレート42をアウタクラッチプレート41に対して傾斜させることにより、パイロットクラッチ4の引き摺りトルクを低減する場合について説明したが、これとは逆に、アウタクラッチプレート41をインナクラッチプレート42に対して傾斜させることにより、パイロットクラッチ4の引き摺りトルクを低減してもよい。この場合には、フロントハウジング21の複数のスプライン歯211のうち、アウタクラッチプレート41に係合する範囲を回転軸線Oに対して傾斜させる。また、インナクラッチプレート42及びアウタクラッチプレート41を互いに逆方向に傾かせるように、パイロットカム61及びフロントハウジング21を構成してもよい。
また、上記実施の形態では、電磁コイル50への通電によって作動する電磁クラッチ装置2に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、電磁クラッチ装置に限らず、クラッチプレート間の摩擦によってトルクを伝達するものであれば、様々な形式のクラッチ装置に適用することが可能である。
1…四輪駆動車、10…駆動力伝達装置、101〜104…回転速センサ、105…アクセルペダルセンサ、11…エンジン、111…アクセルペダル、12…トランスミッション、13…フロントディファレンシャル、131…サイドギヤ、132…ピニオンギヤ、133…ピニオンギヤシャフト、134…フロントデフケース、135…リングギヤ、14…プロペラシャフト、141…ピニオンギヤ、15…リヤディファレンシャル、150…ピニオンギヤシャフト、151…サイドギヤ、152…ピニオンギヤ、153…ピニオンギヤシャフト、154…リヤデフケース、155…リングギヤ、161,162…前輪側ドライブシャフト、171,172…後輪側ドライブシャフト、181,182…左右前輪、191,192…左右後輪、2…電磁クラッチ装置、20…クラッチハウジング、20…フロントハウジング(第1回転部材)、21…フロントハウジング、210…底部、211…スプライン歯、22…リヤハウジング、221…第1部材、222…第2部材、223…第3部材、23…インナシャフト(第3回転部材)、231…スプライン歯、232…スプライン嵌合部、24…玉軸受、25…針状ころ軸受、26…スラスト針状ころ軸受、27…玉軸受、28…ヨーク、3…メインクラッチ(多板クラッチ)、31…メインアウタクラッチプレート、311…係合突起、32…メインインナクラッチプレート、321…係合突起、4…パイロットクラッチ、41…パイロットアウタクラッチプレート(第1クラッチプレート)、410…摩擦部、410a…スリット、410b…微細溝、411…係合突起、42…パイロットインナクラッチプレート(第2クラッチプレート)、420…摩擦部、420a…スリット、420b…油溝、421…係合突起、421a…側面、421b…端面、421c…先端面、5…押圧機構、50…電磁コイル、500…ケーブル、51…アーマチャ、511…係合突起、6…カム機構、61…パイロットカム(第2回転部材)、610…カム部、610a…カム溝、611…スプライン係合部(係合部)、612…スプライン歯、612a…歯面、61a…貫通孔、62…メインカム(押圧部材)、620…カム部、620a…カム溝、621…押圧部、622…係合突起、63…カムボール、O…回転軸線、P,P…接触箇所、R〜R…角部、θ…傾斜角

Claims (6)

  1. 共通の回転軸線を中心として相対回転可能な第1回転部材及び第2回転部材と、
    前記第1回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合した第1クラッチプレートと、
    前記第2回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合した第2クラッチプレートと、
    前記第1クラッチプレートと前記第2クラッチプレートとを摩擦接触させる押圧力を発生する押圧機構とを備え、
    前記第2回転部材は、前記押圧機構が前記押圧力を発生していないときに前記第2クラッチプレートが前記第1クラッチプレートに対して傾斜するように、前記第2クラッチプレートとの係合部が前記回転軸線に対して傾斜している、
    クラッチ装置。
  2. 前記第2回転部材は、前記第1回転部材の内側に配置され、
    前記第2クラッチプレートは、前記第1クラッチプレートと摩擦接触する摩擦部よりも内側に、前記第2回転部材と係合する複数の係合突起を有し、
    前記第2回転部材の前記係合部は、前記第2回転部材の前記複数の係合突起とスプライン係合する複数のスプライン歯を有している、
    請求項1に記載のクラッチ装置。
  3. 前記複数のスプライン歯の歯筋が前記回転軸線に対して0.1〜0.5°の傾斜角をもって傾斜している、
    請求項2に記載のクラッチ装置。
  4. 前記複数の係合突起は、前記第2クラッチプレートの周方向に沿った断面における形状が略矩形状であり、前記第2回転部材の前記複数のスプライン歯に当接する角部が丸面取りされている、
    請求項2又は3に記載のクラッチ装置。
  5. 前記押圧機構は、電磁コイル、及び前記電磁コイルの磁力によって軸方向移動するアーマチャを有し、
    前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートは、前記電磁コイルへの通電により発生する磁束を透過させる軟磁性材料からなる、
    請求項1乃至4の何れか1項に記載のクラッチ装置。
  6. 請求項1乃至5の何れか1項に記載のクラッチ装置と、
    前記第2回転部材よりも内側で前記第1回転部材と相対回転可能な第3回転部材と、
    前記第1回転部材と前記第3回転部材の間に配置され、軸方向の押圧力を受けて前記第1回転部材と前記第3回転部材とを駆動力伝達可能に連結する多板クラッチと、
    前記第2回転部材との相対回転により前記多板クラッチに前記軸方向の押圧力を付与する押圧部材とを備えた、
    駆動力伝達装置。
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