JP2005036863A - 摩擦クラッチ及び駆動力伝達装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】摩擦クラッチ34は、2枚のインナクラッチプレート34a及び1枚のアウタクラッチプレート34bを備え、それらは互いに接触する摺動面S1,S2を備えている。インナクラッチプレート34aの摺動面S1には、公知の特殊ガス軟窒化処理が施されている。また、摺動面S1には切削加工により微細な幅の溝40が周方向に沿って複数並列に設けられている。一方、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2にはDLC膜42が施されている。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、駆動力を伝達するための摩擦クラッチ及びその摩擦クラッチを備える駆動力伝達装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の摩擦クラッチとしては、駆動側クラッチプレートと、従動側クラッチプレートとを備え、両クラッチプレートが摩擦係合することにより駆動力の伝達を行う。摩擦クラッチを構成する両クラッチプレートの摺動面には、摩擦係合による摩耗を抑制するために表面処理が施されている。その表面処理が施されたクラッチプレートとして、例えばダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC(Diamond Like Carbon )膜という)が施されたものがある。このクラッチプレートでは、DLC膜により耐摩耗性が向上するとともに、相手側のクラッチプレートへの攻撃性を低減することが可能である。
【0003】
一方、このDLC膜が施されたクラッチプレートと摺動するクラッチプレートには、その摺動面において摩擦係合力の向上等の目的で溝が形成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。この溝としては、例えば複数の溝が周方向に沿って並列に形成されたものがあり、溝はプレス加工で形成される。そして、これらのクラッチプレートを備える摩擦クラッチが断接されることで、耐久性に優れた駆動力伝達装置が提供される。
【0004】
【特許文献1】
特開2003−028218号公報(明細書の段落[0042]〜[0047]、第3〜5図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特許文献1のようにプレス加工により溝を形成する方法では、溝として微細な溝が要求された場合、以下のような問題があった。プレス加工で微細な溝を形成するには、その微細な溝に対応した型を用いて、その型をクラッチプレートの摺動面にプレスして形成するが、型が微細に形成されているため、その強度が弱い。このため、型の交換やメンテナンス等の作業が必要であり、作業性の低下を招くとともに、型の分のコストがかかるため、製造する摩擦クラッチが高価になってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、作業性の低下を招くことなく、安価に製造可能な摩擦クラッチ及び駆動力伝達装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、互いに摩擦係合する複数のクラッチプレートを備え、同複数のクラッチプレートは、磁性材料で構成されるとともに、摺動面に溝が形成された第1のクラッチプレートと、同じく磁性材料で構成されるとともに、ダイヤモンド状炭素膜が摺動面に施された第2のクラッチプレートとにより構成された摩擦クラッチにおいて、前記溝を切削加工により形成したことを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、摩擦クラッチを構成する第1のクラッチプレートには、刃具等の工具を用いて切削加工により溝が形成される。従来技術では、プレス加工により溝が形成されており、微細な溝が要求された場合に、型の強度の低下等により、型の交換やメンテナンス等が必要であり、作業性の低下を招いていた。また、型の分のコストが必要となり、コストの高騰を招くため、製造される摩擦クラッチが高価になっていた。しかし、本発明では、切削加工により溝を形成するため、作業性の低下を招くことがなく、さらには、上記のようなコストの高騰を招くことがないため、安価に製造することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の摩擦クラッチにおいて、前記溝は複数形成され、その複数の溝は前記摺動面の周方向に沿って並列に延びていることを要旨とする。
【0010】
この発明によれば、複数の溝が周方向に沿って並列に形成されているため、湿式のクラッチ機構に適用された場合に潤滑油により余分な油膜が形成されることを効果的に阻止することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の摩擦クラッチにおいて、前記溝のピッチは100〜500マイクロメートルの範囲内にあり、深さは3〜20マイクロメートルの範囲内にあることを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、仮にピッチを100マイクロメートル未満とした場合、溝の幅が狭いため、切削加工では溝を保つだけの強度を確保することが困難である。一方、ピッチを500マイクロメートルより上とした場合、余分な油膜を効果的に切ることができず、摩擦クラッチにおける耐久性を示すμ−V勾配が負になってしまうことが実験的に明らかになっている。また、仮に、深さを3マイクロメートル未満とした場合、上記μ−V勾配が負になってしまい、さらには、摩耗した場合に油膜を切り難くなるため、μ−V勾配が負になってしまう。一方、20マイクロメートルより上の場合、切削により溝を形成する際に、その切削に用いる工具への負荷が大きい。さらには、電磁式のクラッチ機構に使用される場合に、溝が20マイクロメートルよりも深い場合には、溝がエアギャップとなるため、その溝において透磁率の低下を招き、摩擦クラッチのトルク低下に繋がることが実験的に明らかになっている。このため、ピッチを100〜500マイクロメートルの範囲内にするとともに、深さを3〜20マイクロメートルの範囲内にすることで耐久性や油膜の切れ等において不具合のない好適な摩擦クラッチを提供することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、互いに相対回転可能に位置する内側回転部材と外側回転部材との間に配設され、摩擦係合力にて前記内側回転部材と前記外側回転部材とをトルク伝達可能な連結状態とする摩擦クラッチを備えた駆動力伝達装置において、前記摩擦クラッチを請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の摩擦クラッチで構成したことを特徴とする駆動力伝達装置。
【0014】
この発明によれば、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の摩擦クラッチを用いることで、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の効果と同様の効果を得ることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の駆動力伝達装置において、前記摩擦クラッチは電磁式の駆動手段により断接されることを要旨とする。
この発明によれば、電磁式の駆動手段を備える駆動力伝達装置においても、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の効果と同様の効果を得ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6を参照にして説明する。なお、本実施形態における駆動力伝達装置は、車両における後輪側への駆動力伝達経路に配設されている。
【0017】
図2に示すように、車両12は、駆動力伝達装置11、トランスアクスル13、エンジン14、一対の前輪15、及び一対の後輪16を備えている。エンジン14の駆動力はトランスアクスル13を介してアクスルシャフト17に出力され、前輪15を駆動する。トランスアクスル13にはプロペラシャフト18を介して駆動力伝達装置11が連結され、駆動力伝達装置11にはドライブピニオンシャフト19を介してリヤデファレンシャル20が連結されている。リヤデファレンシャル20には、アクスルシャフト21を介して後輪16が連結されている。前記プロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が駆動力伝達装置11にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン14の駆動力は後輪16に伝達される。
【0018】
図1に示すように、駆動力伝達装置11は外側回転部材としてのアウタケース30a、内側回転部材としてのインナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d及びカム機構30eを備えている。
【0019】
アウタケース30aは、フロントハウジング31aと、フロントハウジング31aの後端開口部にネジ止めされたリヤハウジング31bとから構成されている。フロントハウジング31aの前端部に一体形成される入力軸50にはプロペラシャフト18(図1では図示略)が連結されている。
【0020】
フロントハウジング31aはアルミ合金等の非磁性材料からなる。リヤハウジング31bは、主として磁性材料の鉄からなり、リヤハウジング31bの径方向の中間部には、非磁性部位を形成するステンレス製の筒体51が埋設されている。アウタケース30aはフロントハウジング31aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対してベアリング等を介して回転可能に支持されている。
【0021】
インナシャフト30bは、リヤハウジング31bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング31a内に挿入され、駆動力伝達装置11の軸線O方向への移動を規制された状態でフロントハウジング31aとリヤハウジング31bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト30bには、ドライブピニオンシャフト19(図1では図示略)が挿入されている。
【0022】
メインクラッチ機構30cは、湿式多板式のクラッチ機構であって、複数のインナクラッチプレート32aとアウタクラッチプレート32bとを備えている。各インナクラッチプレート32aは、インナシャフト30bの外周にスプライン嵌合されて軸線O方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸線O方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート32aと各アウタクラッチプレート32bとは交互に位置されて互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0023】
パイロットクラッチ機構30dは、電磁石33、摩擦クラッチ34及びアーマチャ35を備えている。
摩擦クラッチ34は、第1のクラッチプレートとしてのインナクラッチプレート34aと第2のクラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート34bとからなる湿式多板式の摩擦クラッチとして構成されている。両クラッチプレート34a,34bは、磁性材料としての鉄で構成されている。各インナクラッチプレート34aは、後述するカム機構30eを構成する第1カム部材37の外周にスプライン嵌合されて軸線O方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート34bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸線O方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート34aと各アウタクラッチプレート34bとは交互に位置して、互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0024】
アーマチャ35は環状をなしており、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸線O方向への移動可能に組み付けられている。アーマチャ35は摩擦クラッチ34の一側において対向している。
【0025】
ディファレンシャルキャリヤ22に対して支承されているヨーク36には環状の電磁石33が嵌着されている。電磁石33の電磁コイルへの通電により、ヨーク36、リヤハウジング31b、摩擦クラッチ34(外側)、アーマチャ35、摩擦クラッチ34(内側)、リヤハウジング31b及びヨーク36間を循環する磁路Z(図1下部に示す)が形成される。電磁式の駆動手段は、電磁石33及びアーマチャ35により構成される。なお、摩擦クラッチ34の筒体51に対応する部分には、磁性の短絡を防ぐ空間部が設けられている。
【0026】
カム機構30eは、第1カム部材37、第2カム部材38及びカム体39を備えている。第1カム部材37は、インナシャフト30bに対して相対回転可能に嵌挿されており、リヤハウジング31bの前端面に対して軸受を介して接触している。第2カム部材38はインナシャフト30bの外周面に対してスプライン結合されており、インナシャフト30bの軸線O方向に移動可能となっている。第2カム部材38はインナクラッチプレート34aに対向するように配設されている。第2カム部材38と第1カム部材37との互いに対向するカム溝には、ボール状のカム体39が介在されている。
【0027】
アウタケース30a、インナシャフト30b及びリヤハウジング31bで囲まれた室内には、インナクラッチプレート32aとアウタクラッチプレート32bとの潤滑及びインナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの潤滑を行う潤滑油Lが充填されている。
【0028】
駆動力伝達装置11は、電磁石33の電磁コイルへの通電がなされていない場合には磁路Zが形成されず、摩擦クラッチ34は非係合状態である。このため、パイロットクラッチ機構30dは非作動の状態であり、カム機構30eを構成する第1カム部材37は、カム体39を介して第2カム部材38と一体回転可能であり、メインクラッチ機構30cは非作動状態にある。
【0029】
一方、電磁石33の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構30dに磁路Zが形成され、アーマチャ35は電磁石33に吸引されて摩擦クラッチ34を押圧して摩擦係合させる。これにより、第1カム部材37は第2カム部材38と一体回転する状態から、アウタケース30aの回転に応じて回転するようになる。すると、第1カム部材37と第2カム部材38との間には相対回転が生じ、両カム部材37,38のカム溝内において、カム体39が移動する。この移動により、カム体39が両カム部材37,38を互いに離間する方向へ押圧する。この結果、第2カム部材38はメインクラッチ機構30c側へ押圧され、メインクラッチ機構30cを摩擦クラッチ34の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行う。
【0030】
また、電磁石33の電磁コイルへの電圧・電流を所定の値に高めると、アーマチャ35に対する吸引力が増大し、アーマチャ35は強く電磁石33に吸引され、摩擦クラッチ34の摩擦係合力を増大させる。すると、第1カム部材37はアウタケース30aの回転に対して滑りが生じ難くなり、両カム部材37,38間の相対回転を増大させる。この結果、カム体39は第2カム部材38に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構30cを結合状態とする。
【0031】
次に、本発明の特徴的な構成及び作用について図3〜図6を参照にして説明する。
図3に示すように、摩擦クラッチ34を構成する2枚のインナクラッチプレート34a及び1枚のアウタクラッチプレート34bは、互いに接触する摺動面S1,S2を備えている。
【0032】
図4に示すように、インナクラッチプレート34aの摺動面S1には、公知の特殊ガス軟窒化処理が施されている。また、摺動面S1には切削加工により微細な幅の溝40が周方向に沿って複数並列に設けられている。溝40のピッチは100〜500マイクロメートルの範囲内、好ましくは150〜300マイクロメートルの範囲内で形成されている。また、溝40の深さは、3〜20マイクロメートルの範囲内、好ましくは7〜16マイクロメートルの範囲内で形成されている。
【0033】
溝40は、切削加工に用いる工具(刃具)によるが、例えば図4において二点鎖線で囲まれた拡大図に示すような形状で形成される。同拡大図では、実際に比べ誇張して描かれているが、溝40のピッチが200マイクロメートル、深さが10マイクロメートルの場合を示す。また、アウタクラッチプレート34bとの接触面となる突部41の先端部は、鋭利な形状で形成されている。この突部41の鋭利な部分は、アウタクラッチプレート34bと摩擦係合した際に削られて、同図に点線で示すように平坦化される。
【0034】
図5に示すように、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2にはダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC(Diamond Like carbon )膜という)42が形成されている。DLC膜42は、特許文献1の明細書の段落[0044]〜[0046]と同様の方法により施される。本実施形態ではDLC膜42としてシリコンを含んだDLC−Si膜が施されているが、DLC膜であれば特にその種類については限定されない。また、DLC膜の膜厚は、摺動面S2の保護や摩耗に対する耐久寿命を考慮して好適な値に形成される。摺動面S2には、略網目状の溝43が形成されている。この溝43は、例えば切削加工により形成することができるが、プレス加工等の他の方法により形成してもよい。また、溝43の形状は略網目状に限定されず、省略されてもよい。
【0035】
次に、本実施形態の摩擦クラッチ34の耐久性等について、従来から一般的に用いられることが多い特殊ガス軟窒化処理が施されたアウタクラッチプレートを備える摩擦クラッチ(以下、比較例という)と比較して説明する。なお、摩擦クラッチ34及び比較例ともに、切削加工により溝40が形成されたインナクラッチプレート34aを備えている。
【0036】
図6は、摩擦クラッチ34及び比較例の「耐久サイクル数」と「μ100/μ50」との関係を示したものである。同図では、縦軸に「μ100/μ50」をとり、横軸に「耐久サイクル数」をとっている。同図における「μ100/μ50」とは100min−1のときの伝達トルクμを50min−1のときの伝達トルクμで除算した値である。この「μ100/μ50」の値が1以上であれば、伝達トルクμは正の速度依存性を有することになって、耐ジャダー(摩擦振動音)性、μ−V特性(差動回転数vに対する伝達トルクμの特性)、耐久性に優れていることを示す。また、「μ100/μ50」が1以下になると伝達トルクμは負の速度依存性を有することになって、耐ジャダー性、μ−V特性、耐久性が低下し、摩擦クラッチの寿命となることを示す。
【0037】
同図に示すように、比較例は「耐久サイクル数」の値がa1のときに、「μ100/μ50」の値が1以下となり、このとき摩擦クラッチの寿命となる。一方、本実施形態の摩擦クラッチ34は「耐久サイクル数」の値がa2のときに、「μ100/μ50」の値が1以下となり、摩擦クラッチ34の寿命となる。この耐久サイクル数a2と耐久サイクル数a1とを比較すると、比較例に比べて本実施形態の摩擦クラッチ34の耐久サイクル数が大幅に(7倍程度)向上していることが明らかである。
【0038】
摩擦クラッチ34及び比較例は、共に同じインナクラッチプレート34aを備えるものである。しかし、上記のように摩擦クラッチ34が比較例に比べて「耐久サイクル数」、つまり、耐久性等に優れる理由として、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2にDLC−Si膜等のDLC膜42が施されていることが挙げられる。これは、DLC膜42が一種の炭素膜であり、摩耗を抑制する固体潤滑剤の役割を果たすため、特殊ガス軟窒化処理が施された比較例に比べて、相手材となるインナクラッチプレート34aに対する攻撃性が低い。従って、摩擦クラッチ34では、比較例に比べてインナクラッチプレート34aの摺動面S1の摩耗が少なく、溝40が維持されるため、耐久サイクル数が大幅に向上する。
【0039】
また、一般に、プレス加工により形成された溝に比べ、切削加工により形成された溝40は耐久性等に乏しいとされている。しかし、本実施形態のようにアウタクラッチプレート34bの摺動面S2にDLC−Si膜等のDLC膜42を施すことで、インナクラッチプレート34aに対する攻撃性が低くなり、切削加工により形成された溝40の形が維持され易くなる。このため、切削加工により形成された溝40であっても、十分な耐久性を発揮することができる。
【0040】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)インナクラッチプレート34aの摺動面S1に切削加工によって周方向に沿って延びる複数の溝40を形成した。従来技術ではプレス加工で溝を形成しており、溝を形成するには、その溝に対応した型を摺動面にプレスすることで形成する。しかし、溝として微細な溝が要求された場合、その型も微細なものを使用するため、型の寿命が短い等の不具合があり、型の交換やメンテナンス等で作業性の低下を招いていた。また、交換する型の分のコストがかかり、製造する摩擦クラッチが高価になっていた。これに比べて、本実施形態では切削加工により溝40を形成するため、上記のような作業性の低下を招くことがなく、安価に摩擦クラッチ34を製造することができる。
【0041】
(2)溝40は、周方向に沿って複数並列に形成されている。このため、潤滑油による余分な油膜の形成を効果的に阻止することができる。
(3)溝40のピッチを100〜500マイクロメートルの範囲内で形成し、深さを3〜20マイクロメートルの範囲内で形成した。仮に、ピッチを100マイクロメートル未満とした場合、溝の幅が狭いため、切削加工では溝を保つだけの強度を確保することが困難である。逆に、ピッチを500マイクロメートルより上とした場合、余分な油膜を効果的に切ることができず、摩擦クラッチ34における耐久性を示すμ−V勾配が負になってしまうことが実験的に明らかになっている。また、仮に、深さを3マイクロメートル未満とした場合、μ−V勾配が負になってしまい、さらには、摩耗した場合に油膜を切り難くなるため、μ−V勾配が負になってしまう。一方、20マイクロメートルより上の場合、切削加工により溝を形成する際に、その切削に用いる工具への負担が大きい。さらには、本実施形態のようにパイロットクラッチ機構30dに使用される際、溝が20マイクロメートルよりも深い場合、その溝がエアギャップとなることで透磁率の低下を招き、パイロットクラッチ機構30dにおけるトルクの低下に繋がることが実験的に明らかになっている。このため、溝40のピッチを100〜500マイクロメートルの範囲内にするとともに、深さを3〜20マイクロメートルの範囲内にすることで耐久性、μ−V特性及び油膜の切れ等において不具合のない好適な摩擦クラッチを提供することができる。
【0042】
(4)アウタクラッチプレート34bの摺動面S2に対して切削加工により略網目状の溝43を形成した。このため、インナクラッチプレート34aの摺動面S1に対して切削加工により溝40を形成する際の装置、工程等と同じとすることが可能であり、作業性を向上させるとともに、より安価に摩擦クラッチ34を製造することが可能となる。
【0043】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ インナクラッチプレート34aの摺動面S1に対して切削加工により形成される溝は、周方向に沿って複数並列に形成された溝40に限らない。切削加工により形成される溝であれば、特にその形状については限定されない。
【0044】
○ 上記実施形態では、インナクラッチプレート34aの摺動面S1に対して切削加工により溝40を形成し、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2にDLC膜42を施していたが、摺動面S1に対してDLC膜42を施し、摺動面S2に対して溝40を形成してもよい。この場合、アウタクラッチプレート34bが第1のクラッチプレートに相当し、インナクラッチプレート34aが第2のクラッチプレートに相当する。
【0045】
○ 摩擦クラッチ34は、一枚のインナクラッチプレート34aと2枚のアウタクラッチプレート34bで構成される構成に限らない。インナクラッチプレート34a及びアウタクラッチプレート34bの枚数は特に限定されない。
【0046】
○ 摩擦クラッチ34は、上記実施形態のように四輪駆動車の電磁式の駆動力伝達装置11に使用される構成に限らない。例えば、オートマチックトランスミッション用の駆動力伝達装置に摩擦クラッチ34を適用してもよい。
【0047】
○ インナクラッチプレート34aは、特殊ガス軟窒化処理に限らず、焼入れ焼戻し等の表面硬化処理がされていればよい。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、切削加工によりクラッチプレートに溝を形成するため、作業性の低下を招くことなく、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】駆動力伝達装置の部分断面図。
【図2】駆動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の説明図。
【図3】インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートの摩擦係合時における断面図。
【図4】インナクラッチプレートを示す正面図。
【図5】アウタクラッチプレートを示す正面図。
【図6】「耐久サイクル数」と「μ100/μ50」の関係を示す説明図。
【符号の説明】
S1,S2…摺動面、11…駆動力伝達装置、33…電磁式の駆動手段を構成する電磁石、34…摩擦クラッチ、34a…第1のクラッチプレートとしてのインナクラッチプレート、34b…第2のクラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート、35…電磁式の駆動手段を構成するアーマチャ、40…溝、42…ダイヤモンド状炭素膜(DLC膜)。
Claims (5)
- 互いに摩擦係合する複数のクラッチプレートを備え、同複数のクラッチプレートは、磁性材料で構成されるとともに、摺動面に溝が形成された第1のクラッチプレートと、同じく磁性材料で構成されるとともに、ダイヤモンド状炭素膜が摺動面に施された第2のクラッチプレートとにより構成されている摩擦クラッチにおいて、
前記溝を切削加工により形成したことを特徴とする摩擦クラッチ。 - 前記溝は複数形成され、その複数の溝は前記摺動面の周方向に沿って並列に延びていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦クラッチ。
- 前記溝のピッチは100〜500マイクロメートルの範囲内にあり、深さは3〜20マイクロメートルの範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の摩擦クラッチ。
- 互いに相対回転可能に位置する内側回転部材と外側回転部材との間に配設され、摩擦係合力にて前記内側回転部材と前記外側回転部材とをトルク伝達可能な連結状態とする摩擦クラッチを備えた駆動力伝達装置において、前記摩擦クラッチを請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の摩擦クラッチで構成したことを特徴とする駆動力伝達装置。
- 前記摩擦クラッチは電磁式の駆動手段により断接されることを特徴とする請求項4に記載の駆動力伝達装置。
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