以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
(有機EL素子用の光取出し透明基板)
本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板は、有機EL素子の光の出射面側に配置して用いる透明支持基板を備える有機EL素子用の光取出し透明基板であって、
有機EL素子に用いる場合に前記透明支持基板の有機EL素子の光の入射面となるべき面側に、第一の凹凸が表面に形成された第一凹凸層からなる回折格子を備えており、
有機EL素子に用いる場合に前記透明支持基板の有機EL素子の光の出射面となるべき面側に、第二の凹凸が表面に形成された第二凹凸層からなるマイクロレンズを備えており、
前記第一及び第二の凹凸の形状がぞれぞれ、該凹凸の形状を原子間力顕微鏡により解析して得られる凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施してフーリエ変換像を得た場合に、前記フーリエ変換像が、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状又は円環状の模様を示す形状である、ものである。
図1は、本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板の好適な一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示す光取出し透明基板1は、透明支持基板10と、回折格子11と、マイクロレンズ12とを備えるものである。なお、図1中の矢印Lは、光取出し透明基板を有機EL素子に用いた場合において、その有機EL素子を発行させた際に内部からの光が進行する方向を概念的に示す矢印である。
<透明支持基板10>
透明支持基板10としては特に制限されず、有機EL素子に用いることが可能な公知の透明基板を適宜利用することができ、例えば、ガラス等の透明無機材料からなる基板;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)等の樹脂からなる基板;これらの樹脂からなる基板の表面にSiN、SiO2、SiC、SiOxNy、TiO2、Al2O3等の無機物からなるガスバリア層を形成してなる積層基板;これらの樹脂からなる基板及びこれらの無機物からなるガスバリア層を交互に積層してなる積層基板が挙げられる。また、透明支持基板10の厚みは、1〜500μmの範囲であることが好ましい。
<回折格子11>
回折格子11は、表面に第一の凹凸の形成された層(第一凹凸層)である。このような回折格子(第一凹凸層)11を形成するための材料(回折格子形成材料)としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型液晶樹脂等の樹脂材料(硬化性樹脂からなる材料)や、透明無機層形成材料(例えばゾルゲル法により凹凸層を形成して透明な無機層を形成する場合には、金属アルコキシド等の金属材料を含むゾル溶液が挙げられる。)等が挙げられる。このように、回折格子11(凹凸層)は前記樹脂材料を硬化せしめてなる硬化樹脂層であっても、透明無機層形成材料を利用して形成される無機層であってもよいが、より高度な耐熱性や機械的強度等の特性を有する層が得られるという観点からは、無機層であることが好ましい。また、第一凹凸層の厚みは0.01〜500μm(より好ましくは0.5〜500μm)の範囲であることが好ましい。第一凹凸層の厚みが前記下限未満では、第一凹凸層の表面に形成される凹凸の高さが不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、硬化時に生じる回折格子形成材料(例えば樹脂)の体積変化の影響が大きくなり凹凸形状が良好に形成できなくなる傾向にある。
回折格子11においては、前記第一凹凸層の表面に形成されている第一の凹凸の形状を原子間力顕微鏡を用いて解析して得られる凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施してフーリエ変換像を得た場合において、前記フーリエ変換像が、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状若しくは円環状の模様を示している必要がある。前記フーリエ変換像が上記の条件を示すように、前記凹凸層の表面に第一の凹凸の形状を形成することにより、波長依存性及び指向性が十分に少ない回折格子が得られるようになる。
また、前記第一の凹凸の形状の前記フーリエ変換像の前記円状若しくは円環状の模様としては、波数の絶対値が10μm−1以下の範囲内となる領域内に存在することが好ましい。前記フーリエ変換像が上記の条件を示すように、前記凹凸層の表面に凹凸の形状を形成することにより、回折格子の波長依存性及び指向性をより高度な水準で低減できる傾向にある。
また、このようなフーリエ変換像の模様としては、波長依存性及び指向性の点で更に高度な効果が得られるという観点から、円環状であることがより好ましい。また、同様に波長依存性及び指向性の点で更に高度な効果が得られるという観点から、前記フーリエ変換像の円状若しくは円環状の模様は、波数の絶対値が1.25〜10μm−1(更に好ましくは1.25〜5μm−1)の範囲内となる領域内に存在することがより好ましい。
なお、本発明にいう「フーリエ変換像の円状や円環状の模様」は、フーリエ変換像において輝点が集合することにより観測される模様である。そのため、本発明にいう「円状」とは、輝点が集合した模様がほぼ円形の形状に見えることを意味し、外形の一部が凸状又は凹状となっているように見えるものも含む概念であり、また、「円環状」とは、輝点が集合した模様がほぼ円還状に見えることを意味し、環の外側の円や内側の円の形状がほぼ円形の形状に見えるものも含み且つかかる環の外側の円や内側の円の外形の一部が凸状又は凹状となっているように見えるものも含む概念である。
また、本発明にいう「円状又は円環状の模様が波数の絶対値が10μm−1以下(好ましくは1.25〜10μm−1、更に好ましくは1.25〜5μm−1)の範囲内となる領域内に存在する」とは、フーリエ変換像を構成する輝点のうちの30%以上(より好ましくは50%以上、更により好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上)の輝点が波数の絶対値が10μm−1以下(好ましくは1.25〜10μm−1、更に好ましくは1.25〜5μm−1)の範囲内となる領域内に存在することをいう。
前記フーリエ変換像は、前記凹凸層の表面に形成されている凹凸の形状を原子間力顕微鏡を用いて解析して凹凸解析画像を得た後に、前記凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施すことにより得られる。
また、前記凹凸解析画像は、原子間力顕微鏡を用いて下記解析条件:
測定方式:カンチレバー断続的接触方式
カンチレバーの材質:シリコン
カンチレバーのレバー幅:40μm
カンチレバーのチップ先端の直径:10nm
により解析して得ることができる。
前記原子間力顕微鏡としては、適宜市販されているものを使用することができ、例えば、SIIナノテクノロジー社製の環境制御ユニット付走査型プローブ顕微鏡「NanonaviIIステーション/E−sweep」を使用することができる。また、前記原子間力顕微鏡の測定方式としては、カンチレバー断続的接触方式を採用することが好ましいが、SIIナノテクノロジー社製の環境制御ユニット付走査型プローブ顕微鏡の用いる場合には、ダイナミックフォースモード(DMFモード)を使用することができる。さらに、カンチレバーとしては、材質がシリコンであり、レバー幅が40μmであり且つチップ先端の直径が10nmのものを使用することが好ましく、例えば、SI−DF40を使用することができる。また、前記原子間力顕微鏡を用いて解析する場合には、大気中において温度を25℃として前記凹凸層の表面に形成されている凹凸の形状を観察することが好ましい。
前記凹凸解析画像の2次元高速フーリエ変換処理は、2次元高速フーリエ変換処理ソフトウエアを備えたコンピュータを用いた電子的な画像処理によって容易に行うことができる。このような2次元高速フーリエ変換処理においては、前記凹凸解析画像に1次傾き補正を含むフラット処理を施すことが好ましい。なお、このような2次元高速フーリエ変換処理を施す前記凹凸解析画像には、表示範囲が3μm角(縦3μm、横3μm)の凹凸解析画像を用いることができる。
また、回折格子11においては、第一凹凸層の表面に形成されている第一凹凸の平均高さが20〜100nmであることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましく、40〜80nmであることが更に好ましい。このような第一の凹凸の平均高さが前記下限未満では、可視光の波長に対して高さが低すぎるため必要な回折が生じなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られた回折格子を有機EL素子の光取出し口側の光学素子として利用した場合に、EL層内部の電界分布が不均一となり特定の箇所に電界が集中することによる発熱によって素子の破壊や寿命が短くなる傾向にあるばかりか、ナノインプリントによる凹凸の複製が困難となる傾向にある。なお、第一の凹凸の平均高さとは、第一凹凸層の表面における凹凸の高さ(凹部及び凸部との深さ方向の距離)を測定した場合において、その凹凸の高さの平均値のことをいう。また、このような凹凸の高さの平均値は、表面の凹凸の形状を走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて、任意の測定領域(好ましくは任意の3μm角の測定領域)において凹凸解析画像を測定した後に、かかる凹凸解析画像中における、任意の凹部及び凸部との深さ方向の距離を100点以上測定し、その平均を求めて算出される値を採用する。
このような第一凹凸層の表面に形成されている第一の凹凸の平均ピッチは10〜700nmの範囲であることが好ましく、100〜700nmの範囲であることがより好ましい。第一の凹凸の平均ピッチが前記下限未満では、可視光の波長に対しピッチが小さくなりすぎるため必要な回折が生じなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、回折角が小さくなって回折格子としての機能が失われる傾向にある。なお、第一の凹凸の平均ピッチとは、第一凹凸層の表面における第一の凹凸のピッチ(隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔)を測定した場合において、第一の凹凸のピッチの平均値のことをいう。また、このような第一の凹凸のピッチの平均値は、前述の解析条件で走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて表面の凹凸を解析して凹凸解析画像を測定した後、かかる凹凸解析画像中における、任意の隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔を100点以上測定し、その平均を求めることにより算出できる値を採用する。更に、このような凹凸のピッチは、後述する本発明にかかる母型を利用することで容易に達成することが可能となる。
また、第一凹凸層からなる回折格子11は、その表面に形成されている第一の凹凸の深さ分布の平均値及び中央値が、下記不等式(1):
0.95×Y≦M≦1.05×Y (1)
[式(1)中、Yは式:Y=1.07m−2.25(式中、mは凹凸の深さ分布の平均値を示す。)を計算して求められる値を示し、Mは凹凸の深さ分布の中央値を示す。]
で表される条件を満たすことが好ましい。このような中央値(M)及び平均値(m)が前記条件を満たす場合には、有機EL素子に用いた場合に、リーク電流の発生を十分に抑制することが可能となる。
このような第一凹凸層の凹凸の深さ分布の中央値(M)及び深さ分布の平均値(m)の測定方法としては、以下のような方法を採用する。すなわち、先ず、第一凹凸層の表面の第一の凹凸の形状を、走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて測定し、凹凸解析画像を測定する。このようにして、凹凸を解析する際には、前述の解析条件で任意の3μm角(縦3μm、横3μm)の測定領域を測定して凹凸解析画像を求める。その際に測定領域内の16384点(縦128点×横128点)以上の測定点における凹凸高さのデータをナノメートルスケールでそれぞれ求める。なお、このような測定点の数は、用いる測定装置の種類や設定によっても異なるものではあるが、例えば、測定装置として上述のエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」を用いた場合には、3μm角の測定領域内において65536点(縦256点×横256点)の測定(256×256ピクセルの解像度での測定)を行うことができる。そして、このようにして測定される凹凸高さ(単位:nm)に関して、先ず、全測定点のうち、透明支持基板10の表面からの高さが最も高い測定点を求める。そして、かかる測定点を含み且つ透明支持基板10の表面と平行な面を基準面(水平面)として、その基準面からの深さの値(前記測定点における透明支持基板10からの高さの値から各測定点における透明支持基板10からの高さを差し引いた差分)を凹凸深さのデータとして求める。なお、このような凹凸深さデータは、測定装置(例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」)によっては測定装置中のソフト等により自動的に計算して求めることが可能でき、このような自動的に計算して求められた値を凹凸深さのデータとして利用できる。このようにして、各測定点における凹凸深さのデータを求めた後、凹凸の深さ分布の平均値(m)は、下記式(I):
[式(I)中、Nは測定点の総数(総ピクセル数)を示し、iは1〜Nまでの整数のうちのいずれかを示し、xiはi番目の測定点の凹凸深さのデータを示し、mは凹凸の深さ分布の平均値を示す。]
を計算することにより求めることができる。また、凹凸の深さ分布の中央値(M)は、1〜N番目までの全測定点における凹凸深さのデータxiを昇順に並べ替えて、これをx(i)と表した場合(この場合、高さの順はx(1)<x(2)<x(3)<・・・<x(N)である。)において、Nが奇数であるか或いは偶数であるかに応じて、下記式(II):
[式(II)中、Nは測定点の総数(総ピクセル数)を示し、Mは凹凸の深さ分布の中央値を示す。]
中のいずれかの式を計算することにより求めることができる。
また、このような回折格子(第一凹凸層)11においては、上記不等式(1)中の第一の凹凸の深さ分布の平均値(m)が20〜100nmであることが好ましく、40〜80nmであることがより好ましい。このような深さ分布の平均値(m)が前記下限未満では、凹凸深さが浅いために十分な回折効果が得られず、発光効率を十分に向上させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、凹凸のアスペクト比が大きくなるため、有機EL素子に用いた場合に、電極にクラックが発生し易くなるばかりか、使用時にリーク電流が発生し易くなり、発光効率が低下する場合や全く発光しない場合が生じたりし、有機EL素子の寿命が短くなってしまう傾向にある。
また、回折格子(第一凹凸層)11においては、第一凹凸層の表面に形成されている凹凸の尖度が−1.2以上であることが好ましく、−1.2〜1.2であることがより好ましく、−1.2〜1であることが更に好ましく、−1.1〜0.0であることが特に好ましい。このような尖度が前記下限未満では、有機EL素子に利用した場合にリーク電流の発生を十分に抑制することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、回折格子(第一凹凸層)12の断面形状にほとんど凹凸がなくなって、まばらに突起若しくは窪みがある状態になるため、凹凸構造の特長である光取出し効率を十分に向上することができない(回折効果を十分に得ることができない)ばかりか、その突起の部分に電界が集中し易くなり、リーク電流が発生してしまう傾向にある。
このような尖度の測定方法としては、以下のような方法を採用する。すなわち、先ず、上述の第一の凹凸の深さ分布の中央値(M)及び深さ分布の平均値(m)の測定方法と同様にして3μm角の測定領域内の16384点(縦128点×横128点)以上(測定装置として例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」を用いた場合には65536点)の測定点において凹凸深さのデータを求める。その後、各測定点の凹凸深さのデータに基づいて凹凸の深さ分布の平均値(m)と凹凸の深さ分布の標準偏差(σ)を計算する。なお、平均値(m)は、上述のように、上記式(I)を計算して求めることができる。一方、深さ分布の標準偏差(σ)は、下記式(III):
[式(III)中、Nは測定点の総数(総ピクセル数)を示し、xiはi番目の測定点の凹凸深さのデータを示し、mは凹凸の深さ分布の平均値を示す。]
を計算して求めることができる。次いで、このようにして求められた平均値(m)及び標準偏差(σ)の値に基づいて、尖度(k)は、下記式(IV):
[式(IV)中、Nは測定点の総数(総ピクセル数)を示し、xiはi番目の測定点の凹凸深さのデータを示し、mは凹凸の深さ分布の平均値を示し、σは標準偏差の値を示す。]
を計算することにより求めることができる。
なお、回折格子11を形成する第一凹凸層において、第一の凹凸の深さ分布の平均値(m)と中央値(M)が上記不等式(1)で表される条件を満たす場合や、尖度(k)が−1.2以上であるという条件を満たす場合においては、リーク電流の発生を、より十分に高度な水準で抑制することが可能となる。この理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、このような回折格子の凹凸構造において、凹凸の深さ分布の平均値(m)と中央値(M)が上記不等式(1)で表される条件を満たす場合や、尖度(k)が−1.2以上である場合は、その波形の凹凸の高さやピッチ、表面形状が規則的・不規則的にかかわらず、その構造の断面形状に極端な尖点がない。そのため、これを有機EL素子の製造に用いて、その凹凸の表面に有機層を蒸着させる場合に、有機層の一部の厚みが極端に薄くなることを十分に防止でき、有機層を十分に均一な膜厚で積層できる。その結果、電極間距離を十分に均一なものとすることができ、電界が集中することを十分に抑制できる。また、上記不等式(1)で表される条件又は尖度(k)が−1.2以上であるという条件を満たす場合、有機EL素子において、凹凸構造の波形の傾斜部における電位分布の勾配が緩やかになる。そのため、上記不等式(1)で表される条件又は尖度(k)が−1.2以上であるという条件を満たす凹凸層を備える回折格子を有機EL素子に用いた場合には、リーク電流の発生をより十分に抑制することができるものと本発明者らは推察する。また、このように、リーク電流の発生をより十分に抑制できることから、発光効率が十分に向上するとともに、有機EL素子の長寿命化を図ることも可能となるものと本発明者らは推察する。また、このような条件を満たす第一凹凸層からなる回折格子11は、後述の回折格子11を製造するための方法を利用することで、効率よく形成することが可能である。
このような回折格子(第一凹凸層)11を製造するための方法としては特に制限されず、上述のような条件を満たすようにして回折格子を製造することが可能な公知の方法(例えば、国際公開2011/007878号(WO2011/007878A1)に記載の方法等)を適宜利用することができる。また、このような回折格子11を製造するための方法としては、より効率よく第一の凹凸を形成できることから、透明支持基板上に回折格子形成材料(例えば硬化性樹脂)を塗布し、回折格子形成用の母型を押し付けつつ前記回折格子形成材料を硬化させた後、前記母型を取り外すことにより、前記透明支持基板上に凹凸が形成された凹凸層を積層する工程を含む方法(A)を利用することが好ましい。なお、このような方法(A)によれば、上述のような凹凸の特性(平均高さや平均ピッチ等の諸条件も含む)を満たす第一の凹凸が形成された凹凸層を効率よく製造することが可能となる。以下、このような回折格子11を製造するための方法(A)を説明する。
このような方法(A)は、回折格子形成用の母型(モールド)を用いる方法である。このような回折格子形成用の母型(モールド)としては、それを未硬化の回折格子形成材料(例えば硬化性樹脂)からなる層に押し付けながら硬化することにより、その母型に形成されている凹凸の形状を転写(反転)させて、上述の回折格子11において説明した第一の凹凸が形成された第一凹凸層を形成できるものであればよい。従って、このような回折格子形成用の母型(モールド)は、表面に凹凸形状を有するものが利用され、その凹凸形状の特性(平均高さや平均ピッチ等)は上述の回折格子11を形成する第一凹凸層の表面に形成されている凹凸と同様の特性を有するものであることが好ましい。
また、このような回折格子形成用の母型(モールド)の製造方法としては特に制限されないが、例えば、基材の表面に、第1及び第2のポリマー(セグメント)からなるブロック共重合体と溶媒とを含有するブロック共重合体溶液を塗布する工程(I)と、前記基材上の塗膜を乾燥させる工程(II)と、乾燥した塗膜を前記ブロック共重合体のガラス転移温度以上の温度で加熱する工程(III)と、前記工程(III)を施した後に、塗膜のエッチング処理により第2ポリマー(セグメント)を除去して基材上に凹凸構造を形成する工程(IV)と、前記凹凸構造を前記第1ポリマー(セグメント)のガラス転移温度以上の温度で加熱する工程(V)と、前記工程(V)を施した後の前記凹凸構造上にシード層を形成する工程(VI)と、前記シード層上に電鋳により金属層を積層する工程(VII)と、前記金属層および前記シード層から前記凹凸構造を有する基材を剥離する工程(VIII)とを含む方法を好適に利用することができる。以下、工程(I)〜(VIII)を場合により図面を参照しながら分けて説明する。
〈工程(I)〉
工程(I)は、基材の表面に、第1及び第2のポリマー(セグメント)からなるブロック共重合体と溶媒とを含有するブロック共重合体溶液を塗布する工程である。
このようなブロック共重合体としては、第1のホモポリマーからなる第1のポリマーセグメントと、第1のホモポリマーとは異なる第2のホモポリマーからなる第2のポリマーセグメントとを有する共重合体が用いられる。このような第2のホモポリマーとしては、第1のホモポリマーの溶解度パラメーターよりも0.1〜10(cal/cm3)1/2高い溶解度パラメーターを有するものが好ましい。このような第1及び第2のホモポリマー溶解度パラメーターの差が0.1(cal/cm3)1/2未満では、ブロック共重合体の規則的なミクロ相分離構造を形成することが困難となり、他方、前記差が10(cal/cm3)1/2を超えると、ブロック共重合体の均一な溶液を調製することが難しくなる。
このような第1のホモポリマー及び第2のホモポリマーとして用いることができるホモポリマーの原料となるモノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、オクチルスチレン、メトキシスチレン、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ジメチルシロキサン、乳酸、ビニルピリジン、ヒドロキシスチレン、スチレンスルホネート、イソプレン、ブタジエン、εカプロラクトン、イソプロピルアクリルアミド、塩化ビニル、エチレンテレフタレート、テトラフルオロエチレン、ビニルアルコールが挙げられる。これらの中でも、相分離形成が生じやすいことと、エッチングで凹凸を形成しやすいという観点から、スチレン、メチルメタクリレート、エチレンオキシド、ブタジエン、イソプレン、ビニルピリジン、乳酸を用いることが好ましい。
また、第1のホモポリマー及び第2のホモポリマーの組合せとしては、スチレン系ポリマー(より好ましくはポリスチレン)、ポリアルキルメタクリレート(より好ましくはポリメチルメタクリレート)、ポリエチレンオキシド、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリビニルピリジン、及びポリ乳酸からなる群から選択される2種の組合せを挙げることができる。これらの組合せの中でも、エッチング処理により一方のホモポリマーを優先的に除去することにより、ブロック共重合体に形成される凹凸の深さを更に深くすることができるという観点から、スチレン系ポリマー及びポリアルキルメタクリレートの組合せ、スチレン系ポリマー及びポリエチレンオキシドの組合せ、スチレン系ポリマー及びポリイソプレンの組合せ、スチレン系ポリマー及びポリブタジエンの組合せがより好ましく、スチレン系ポリマー及びポリメチルメタクリレートの組合せ、スチレン系ポリマー及びポリイソプレンの組合せ、スチレン系ポリマー及びポリブタジエンの組合せが特に好ましい。より好ましくは、ポリスチレン(PS)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の組合せである。
前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、500000以上であることが好ましく、1000000以上であることがより好ましく、1000000〜5000000であることが特に好ましい。数平均分子量が500000未満では、ブロック共重合体のミクロ相分離構造により形成される凹凸の平均ピッチが小さくなり、得られる回折格子の凹凸の平均ピッチが不十分となる。特に、可視領域の波長範囲に渡って照明光を回折する必要がある場合には、平均ピッチとして10〜700nmが望ましく、この点からブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、500000以上であることが好ましい。一方、ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が500000以上のものを用いた場合には、エッチング工程後に第2加熱工程を行わないと電鋳によって所望の凹凸パターンを得ることが困難となる傾向にある。
前記ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.5以下であることが好ましく、1.0〜1.35であることがより好ましい。このような分子量分布が1.5を超えると、ブロック共重合体の規則的なミクロ相分離構造を形成することが困難になる。なお、前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
前記ブロック共重合体における前記第1のポリマーセグメントと前記第2のポリマーセグメントとの体積比(第1のポリマーセグメント:第2のポリマーセグメント)は、自己組織化によりラメラ構造を創生させるために、3:7〜7:3であることが好ましく、4:6〜6:4であることがより好ましい。このような体積比が前記範囲外である場合には、ラメラ構造に起因する凹凸パターンを形成することが困難となる傾向にある。
また、工程(I)に用いるブロック共重合体溶液は、前記ブロック共重合体を溶媒中に溶解することにより調製することができる。このような溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類;ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;フェノール、クロロフェノール等のフェノール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;2硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物;これらの混合溶媒が挙げられる。前記ブロック共重合体溶液における前記ブロック共重合体の含有率は、ブロック共重合体溶液100質量%に対して、0.1〜15質量%であることが好ましく、0.3〜5質量%であることがより好ましい。
また、前記ブロック共重合体溶液は、他のホモポリマー(その溶液中に含まれるブロック共重合体中の前記第1のホモポリマー及び前記第2のホモポリマー以外のホモポリマー:例えば、ブロック共重合体中の前記第1のホモポリマー及び前記第2のホモポリマーの組合せがポリスチレン及びポリメチルメタクリレートの組合せである場合には、ポリスチレンとポリメチルメタクリレート以外の種類のホモポリマーであればよい。)、界面活性剤、イオン性化合物、消泡剤、レベリング剤等を更に含有していてもよい。
前記ブロック共重合体溶液が他のホモポリマーを含有することにより、ブロック共重合体により形成されるミクロ相分離構造の形状(例えば凹凸の深さ等)を変化させることも可能となる。例えば、ミクロ相分離構造により形成される凹凸の深さをより深くするために、ポリアルキレンオキシドを用いることができる。このようなポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドがより好ましく、ポリエチレンオキシドが特に好ましい。また、このようなポリエチレンオキシドとしては、下記式:
HO−(CH2−CH2−O)n−H
[式中、nは10〜5000の整数(より好ましくは50〜1000の整数、更に好ましくは50〜500の整数)を示す。]
で表されるものが好ましい。
このようなnの値が前記下限未満では、分子量が低すぎて、高温での熱処理で揮発・蒸発などにより失われ、他のホモポリマーを含有させる前記効果が乏しくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分子量が高すぎて分子運動性が低いため、相分離の速度が遅くなりミクロ相分離構造の効率的な形成ができなくなる傾向にある。
また、このような他のホモポリマーの数平均分子量(Mn)は460〜220000であることが好ましく、2200〜46000であることがより好ましい。このような数平均分子量が前記下限未満では、分子量が低すぎて、高温での熱処理で揮発・蒸発などにより失われ、他のホモポリマーを含有させる前記効果が乏しくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると分子量が高すぎて分子運動性が低くなるため、相分離の速度が遅くなりミクロ相分離構造の効率的な形成ができなくなる傾向にある。
このような他のホモポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は1.5以下であることが好ましく、1.0〜1.3であることがより好ましい。分子量分布が前記上限を超えるとミクロ相分離の形状の均一性が保持され難くなる傾向にある。なお、このような数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
また、このような他のホモポリマーを用いる場合、前記ブロック共重合体中の前記第1のホモポリマー及び前記第2のホモポリマーの組合せがポリスチレン及びポリメチルメタクリレートの組合せ(ポリスチレン−ポリメチルメタクリレート)であり、且つ前記他のホモポリマーがポリアルキレンオキシドであることが好ましい。このように、ポリスチレン−ポリメチルメタクリレートのブロック共重合体とポリアルキレンオキシドとを組み合わせて用いることにより、垂直方向の配向性が更に向上して、表面の凹凸の深さを更に深くすることが可能となるとともに、製造時の熱処理時間を短縮することも可能となる。
前記ブロック共重合体溶液に前記他のホモポリマーを用いる場合には、その含有量は、前記ブロック共重合体100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、5質量部〜100質量部であることがより好ましい。このような他のホモポリマーの含有量が前記下限未満では他のホモポリマーを含有させることにより得られる効果が乏しくなる傾向にある。
また、前記界面活性剤を用いる場合には、その含有量は、前記ブロック共重合体100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。さらに、前記イオン性化合物を用いる場合には、その含有量は、前記ブロック共重合体100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
また、前記ブロック共重合体溶液中に前記他のホモポリマーを含有させる場合、前記ブロック共重合体と前記他のホモポリマーとの総量の含有率は、ブロック共重合体溶液中に、0.1〜15質量%であることが好ましく、0.3〜5質量%であることがより好ましい。このような総量の含有率が前記下限未満では必要な膜厚を得るために前記溶液を十分な膜厚で均一に塗布することが容易でなく、前記上限を超えると溶媒に均一に溶けた溶液を調製することが比較的困難となる。
また、工程(I)において用いる基材としては特に制限はないが、例えば、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、ポリシクロオレフィン等の樹脂基板;ガラス、オクタデシルジメチルクロロシラン(ODS)処理ガラス、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)処理ガラス、オルガノシリケート処理ガラス、シリコン基板等の無機基板;アルミニウム、鉄、銅等の金属基板が挙げられる。また、このような基材は、配向処理等の表面処理を施したものであってもよい。なお、このようにガラスなどの基板表面を、ODSやオルガノシリケートなどで処理することで、後述の加熱工程において、ラメラ構造、シリンダー構造、球状構造などのミクロ相分離構造が表面に対して垂直に配列しやすくなる。これはブロック共重合体成分と基材表面との間の界面エネルギー差を小さくすることで、ブロック共重合体を構成する各ブロックのドメインが垂直配向しやすくなるからである。
また、前記基材上に前記ブロック共重合体溶液を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法を採用することができる。
また、基材上に形成される前記ブロック共重合体の塗膜の厚みとしては、乾燥後の塗膜の厚みが、10〜3000nmであることが好ましく、50〜500nmであることがより好ましい。
〈工程(II)〉
工程(II)は、前記基材上の塗膜を乾燥させる工程である。このような塗膜の乾燥工程は特に制限されないが、大気雰囲気中で行ってもよい。また、このような工程における乾燥温度として、前記塗膜から溶媒を除去できる温度であればよく、特に制限されるものではないが、30〜200℃であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましい。なお、このような乾燥により、前記ブロック共重合体がミクロ相分離構造を形成し始めて、塗膜(薄膜)の表面に凹凸が形成される場合もある。
〈工程(III)〉
工程(III)は、工程(II)により乾燥した塗膜を前記ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)以上の温度で加熱する工程(第1加熱工程)である。
このように塗膜を、その塗膜中のブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)以上の温度で加熱することにより、塗膜中のブロック共重合体の自己組織化を進行させて、ブロック共重合体を、第1ポリマーセグメントと第2ポリマーセグメントの部分にミクロ相分離させることが可能となり、これにより効率よくミクロ相分離構造を形成させることが可能となる。
このような第1加熱工程(III)においては、加熱温度を、ガラス転移温度(Tg)以上の温度とする。このような加熱温度が、ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)未満では、ポリマーの分子運動性が低く、ブロック共重合体の自己組織化が十分に進行せず、ミクロ相分離構造を十分に形成できなくなるか、あるいはミクロ相分離構造を十分に生じさせるための加熱時間が長くなる傾向にある。また、このような加熱温度の上限は、前記ブロック共重合体が熱分解しない温度であればよく特に制限されるものではない。このような第1加熱工程を実施する方法は特に制限されず、例えば、大気雰囲気下、オーブンなどを適宜用いる方法を採用してもよい。なお、このような加熱温度を徐々に高めて乾燥及び加熱工程(工程(II)及び(III))を連続的に行ってもよい。なお、このように加熱温度を徐々に高めて乾燥及び加熱工程を連続的に実施する場合には、乾燥工程(工程(II))は加熱工程(工程(III))に含まれる工程となる。
〈工程(IV)〉
工程(IV)は、前記工程(III)を施した後に、塗膜のエッチング処理により第2ポリマー(セグメント)を除去して基材上に凹凸構造を形成する工程(エッチング工程)である。
このようなエッチング工程(IV)は、第1ポリマーセグメントと第2ポリマーセグメントとの分子構造が相違することから、これらのエッチングの速度(エッチングされ易さ)が異なるため、第1ポリマーセグメントと第2ポリマーセグメントのホモポリマーの種類に応じて一方のポリマーセグメント(第2ポリマーセグメント)を選択的に除去することが可能であることを利用して、ブロック共重合体を構成する一方のポリマーセグメント(第2ポリマーセグメント)をエッチングにより選択的に除去する工程である。このようなエッチング工程により、塗膜から第2ポリマーセグメントを除去することにより、ブロック共重合体のミクロ相分離構造(工程(III)により形成された構造)に由来した顕著な凹凸構造を効率よく途膜に形成することが可能である。
このように一方のポリマーセグメントを選択的に除去するためのエッチング処理としては、例えば、反応性イオンエッチング法、オゾン酸化法、加水分解法、金属イオン染色法、紫外線エッチング法等を用いたエッチング法を適宜採用することができる。また、前記エッチング処理として、前記ブロック共重合体の共有結合を酸、塩基及び還元剤からなる群から選択される少なくとも1種で処理して前記共有結合を切断し、その後、一方のポリマーセグメントだけを溶解する溶媒等でミクロ相分離構造が形成された塗膜を洗浄することにより、ミクロ相分離構造を保ったまま、一方のポリマーセグメントのみを除去する方法を採用してもよい。
〈工程(V)〉
工程(V)は、工程(IV)により形成された凹凸構造を前記第1ポリマー(セグメント)のガラス転移温度(Tg)以上の温度で加熱する工程(第2加熱工程)である。このような第2加熱工程(v)は、いわゆるアニール処理として施されるものであり、このような加熱により凹凸構造を形成する凹部の最下部と凸部の頂点とを結ぶ線がより滑らかなものとなり、凹凸形状の尖度がより小さなものとなる。
このような第2加熱工程(V)における加熱温度は、エッチング後に残留した第1ポリマーセグメントのガラス転移温度以上(第1ホモポリマーのガラス転移温度以上)であることが好ましく、第1ホモポリマーのガラス転移温度以上であり且つ第1ホモポリマーのガラス転移温度より70℃高い温度(Tg+70℃)以下であることがより好ましい。このような加熱温度が、第1ホモポリマーのガラス転移温度未満では、後述の電鋳工程後において所望の凹凸構造が得られなくなったり、あるいは所望の凹凸構造を形成するために加熱に長時間を要する傾向にある。他方、このような加熱温度が前記上限を超えると、第1ポリマーセグメントの全体が溶融や分解されたりして、凹凸形状が大きく崩れてしまう傾向にある。このような第2加熱工程を実際に実施するための方法としては、例えば、第1加熱工程と同様に、例えば、大気雰囲気下、オーブン等を適宜用いて行ってもよい。
なお、エッチング工程(IV)を施した後の凹凸構造は、その凹凸構造により画定される溝の側面が粗く、厚み方向と直交する方向に向かって凹凸(オーバーハングを含む)が発生しているような複雑な断面構造を有するものとなり得る。このような凸部の側面に存在する凹凸はブロック共重合体の分子量が大きいほど発生し易い傾向にある。一方で、ブロック共重合体の分子量はミクロ相分離構造、ひいてはそこから得られる回折格子のピッチに深く関係している。そこで、第一の凹凸として好適なピッチの分布をより効率よく達成するために比較的高い分子量のブロック共重合体を用いた場合であっても、電鋳によりそのような所望のピッチ分布を有する凹凸構造をより確実に得るために、上述のような第2加熱工程を施すことが好ましいと言える。このような第二加熱工程(V)において、エッチング工程(IV)を施した後に凹凸構造を加熱することで、凹凸形状の側面を構成する第1ポリマーセグメントがアニール処理され、第1ポリマーセグメントにより画成される断面形状を比較的滑らかな傾斜面とすること(凹部の最下部と凸部の頂点とを結ぶ線をより滑らかなものとすること)が可能となり、基材から上方に向かって先細りの山形(本願では「山形構造」と称する)の形状となる。このように、側面の凹凸が加熱によりアニールされて、オーバーハング部分が加熱によりなめらかな斜面となるため、第二加熱工程(V)に得られる山形構造の凹凸においては、第1ポリマーセグメントに金属層を堆積させた後に、金属層をより容易に剥離することが可能となり、金属層に効率よく凹凸形状を転写することが可能となる。
ここで、エッチング工程(IV)を施した後の凹凸構造により画定される溝の側面が粗く、厚み方向と直交する方向に向かって凹凸(オーバーハングを含む)が発生している場合には、電鋳ためのシード層が付着しない部分が生じ易く、電鋳によって金属層を均一に堆積させることが困難となる傾向にある。そのため、側面が粗い凹凸構造を有する第一ポリマーセグメントの層をそのまま用いた場合には、得られるモールドの機械的強度が低くなるとともに、モールドの変形およびパターン欠損などの欠陥が発生してしまう傾向にある。また、電鋳(電気めっき)では、めっきされる物体の形状によって各部分のめっきの厚さが異なり、めっき金属が物体の凸部や出っ張った角に引き寄せられやすく、凹部やへこんだ部分には引き寄せられ難いことから、側面が粗い複雑な凹凸の断面構造は、均一な膜厚の電鋳膜を得ることが困難な傾向にある。更に、そのような複雑な断面構造を電鋳により得られるモールドに転写することができたとしても、そのモールドを回折格子形成材料(例えば硬化性樹脂)に押し付けて凹凸形状を転写しようとすると、回折格子形成材料(例えば硬化性樹脂)はモールドの複雑な断面構造の隙間に侵入するために、モールドを硬化後の凹凸層から剥離することができないか、あるいは、モールドの強度の弱い部分が破断し、パターン欠損が起こる場合も生じ得る。このような点も併せ鑑みれば、電鋳によりそのような所望のピッチ分布を有する凹凸構造をより確実に得るという観点から、上述のような第2の加熱工程を施すことが好ましい。
このようにして第2加熱工程(V)を施すことにより得られた凹凸(山形構造の凹凸)を有する基材は、後工程における金属への転写用のマスターとして好適に使用できる。そして、このような凹凸の平均ピッチとしては、10〜700nmの範囲であることが好ましく、100〜700nmの範囲であることがより好ましい。凹凸の平均ピッチが前記下限未満では、可視光の波長に対してピッチが小さくなりすぎるため、かかる母型を用いて得られる回折格子において必要な可視光の回折が生じにくく、他方、前記上限を超えると、かかる母型を用いて得られる回折格子の回折角が小さくなり、回折格子としての機能を十分に発揮できなくなる。なお、凹凸の平均ピッチとは、基材上に形成された前記凹凸層(第1ポリマーセグメントからなる層)の表面における凹凸のピッチ(隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔)を測定した場合における、凹凸のピッチの平均値のことをいう。また、このような凹凸のピッチの平均値は、表面の凹凸の形状を走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて凹凸解析画像を測定した後に、かかる凹凸解析画像中における、任意の隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔を100点以上測定し、その平均を求めて算出される値を採用する。
また、基材上に形成された前記凹凸の平均高さは20〜100nmの範囲であることが好ましく、30〜100nmの範囲であることがより好ましく、40〜80nmの範囲であることが更に好ましい。凹凸の平均高さが前記下限未満では、可視光の波長に対し高さが不足するため回折が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られた回折格子を有機EL素子の光取出し口側の光学素子として利用した場合に、EL層内部の電界分布が不均一となり特定の箇所に電界が集中することによる発熱によって素子が破壊されやすくなり、また寿命が短くなり易くなる傾向にある。なお、ここにいう凹凸の平均高さとは、基材上に形成された凹凸層(第1ポリマーセグメントからなる層)の表面における凹凸の高さ(凹部及び凸部との深さ方向の距離)を測定した場合において、凹凸の高さの平均値のことをいう。また、このような凹凸の高さの平均値は、表面の凹凸の形状を走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて凹凸解析画像を測定した後に、かかる凹凸解析画像中における、任意の凹部及び凸部との深さ方向の距離を100点以上測定し、その平均を求めて算出される値を採用する。
なお、このような凹凸(山形構造の凹凸)を有する基材の凹凸の特性(平均高さや平均ピッチ、平均値(m)等)は、ブロック共重合体の種類や加熱処理時の加熱温度等を調整すること等により、容易に所望の特性に調整することが可能である。
〈工程(VI)〜工程(VIII)〉
工程(VI)は、前記工程(V)を施した後の前記凹凸構造上にシード層を形成する工程であり、工程(VII)は、前記シード層上に電鋳(電界めっき)により金属層を積層する工程であり、工程(VIII)は、前記金属層および前記シード層から前記凹凸構造を有する基材を剥離する工程である。このような各工程を以下、図2〜図5を参照しながら説明する。
図2は、基材20上に山形構造の凹凸を有する第1ポリマーセグメントからなる層21が形成されている転写用のマスター30を模式的に示す断面図であり、図3は、転写用のマスター30中の第1ポリマーセグメントからなる層21の表面の凹凸上にシード層22が形成されている状態を模式的に示す断面図であり、図4はシード層22の表面上に電鋳(電界めっき)により金属層23が形成された状態を示し、図5は、転写用のマスター30から、金属層23及びシード層22を剥離した状態を模式的に示す断面図である。
工程(VI)においては、前記工程(V)を施した後に得られる凹凸構造を有する基材(転写用のマスター30)の該凹凸構造上にシード層22を形成する(図2及び図3参照)。
このようなシード層22は、後続の電鋳処理のための導電層となる層である。このようなシード層22を形成する方法は特に制限されず、基材20の表面に形成された凹凸形状の層21上に、前記凹凸の形状を維持しながら、いわゆる導電層を形成することが可能な公知の方法を適宜利用することができ、例えば、無電解めっき、スパッタまたは蒸着等の方法により形成することができる。
また、このようなシード層22の厚みとしては、後続の電鋳工程における電流密度を均一にして後続の電鋳工程により堆積される金属層の厚みを一定にするために、10nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、このようなシード層の材料としては特に制限されないが、例えば、ニッケル、銅、金、銀、白金、チタン、コバルト、錫、亜鉛、クロム、金・コバルト合金、金・ニッケル合金、ホウ素・ニッケル合金、はんだ、銅・ニッケル・クロム合金、錫ニッケル合金、ニッケル・パラジウム合金、ニッケル・コバルト・リン合金、またはそれらの合金などを用いることができる。
このように転写用のマスター30の第1ポリマーセグメントからなる層21の表面(凹凸形状の表面)上にシード層22を形成した後においては、シード層上に電鋳(電界めっき)により金属層を積層する(工程(VII):図4参照)。
このような金属層23の厚みは特に制限されず、例えば、シード層22の厚みを含めて全体で10〜3000μmの厚さとしてもよい。電鋳により堆積させる金属層23の材料としては、シード層22として用いることができる上記金属種のいずれかを用いることができる。このような金属層23の材料としては、得られるモールドの耐摩耗性や剥離性などの観点から、ニッケルが好ましく、この場合、シード層22にもニッケルを用いることが好ましい。
また、金属層23を形成する際の電鋳の条件としては特に制限されず、公知の電界めっきの方法において採用される条件を適宜採用してもよい。また、このような電鋳の際の電流密度としては、ブリッジを抑制して均一な金属層を形成するとともに電鋳時間を短縮するという観点から、例えば、0.03〜10A/cm2としてもよい。
なお、金属層23は、金属層23及びシード層22からなるモールドを利用する際に樹脂層に対する押し付け、剥離及び洗浄などの処理を行うことから、それらの処理の容易性の観点から、適度な硬度及び厚みを有することが好ましい。このような観点から、電鋳により形成される金属層23の硬度を向上させる目的で、金属のモールドの表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)処理やCrめっき加工処理を実施してもよく、あるいは、金属層23をさらに熱処理してその表面硬度を高くしてもよい。
このように、金属層23を形成した後においては、図5に示すように、金属層23及びシード層22からなる金属部31を、凹凸構造を有する基材(転写用のマスター30)から剥離する(工程(VIII))。
このようにして得られたシード層22及び金属層23からなる金属部31を、凹凸構造を有する基材から剥離することにより、回折格子形成用の母型(モールド)を得ることができる。すなわち、このようにして、シード層22及び金属層23からなる回折格子形成用の母型(モールド)31を得ることができる。
このような回折格子形成用の母型(モールド)31を剥離する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、物理的に剥がす方法を利用してもよく、あるいは、第1ホモポリマー及び残留するブロック共重合体を、それらを溶解する有機溶媒、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムなどを用いて溶解して除去することにより、モールド(金属部)31を剥がす方法を利用してもよい。また、このようにして得られるモールド31は、転写用のマスター30の凹凸の特性が転写(反転)されたものとなる。
また、回折格子形成用の母型(モールド)31を転写用のマスター30(山型構造の凹凸を有する層21が積層された基材10)から剥離するときに、剥離処理の方法によっては、第1ポリマーセグメントのようなポリマーの一部がモールドの表面に付着した状態で残留する場合がある。このような場合、モールドの表面に付着して残留したポリマーは洗浄にて除去することが好ましい。このような洗浄の方法としては、湿式洗浄や乾式洗浄を用いることができる。また、このような湿式洗浄の方法としては、トルエン、テトラヒドロフラン等の有機溶剤、界面活性剤、アルカリ系溶液での洗浄などにより除去する方法を挙げることができる。なお、有機溶剤を用いる場合には、超音波洗浄を行ってもよい。また、モールドの表面に付着して残留したポリマーは電解洗浄を行うことにより除去してもよい。また、前記乾式洗浄の方法としては、紫外線やプラズマを使用したアッシングにより除去する方法が挙げられる。また、このような湿式洗浄と乾式洗浄とを組み合わせて利用してモールドの表面に付着して残留したポリマーを洗浄除去してもよい。また、このような洗浄後に、純水や精製水でリンスし、乾燥後にオゾン照射してもよい。
以上、工程(I)〜(VIII)を含む回折格子形成用の母型(モールド)の製造方法について説明したが、このような凹凸の形成された回折格子形成用の母型(モールド)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、工程(I)〜(IV)を実施(好ましくは工程(V)を併せて実施)して得られたブロック共重合体のミクロ相分離構造に由来した凹凸構造を有する樹脂層をそのままモールドとして利用してもよく、或いは、工程(I)〜(IV)を実施(好ましくは工程(V)を併せて実施)して得られたブロック共重合体のミクロ相分離構造に由来した凹凸構造を有する樹脂層を利用して、その樹脂層の凹凸構造の表面上に転写材料(前述のシード層及び金属層以外の材料)を付着させて硬化させた後、取り外すことにより、表面に凹凸が形成された凹凸転写部材を得て、これを回折格子形成用の母型(モールド)として利用してもよい。このような転写材料としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系ポリマー(シリコーンゴム)、ウレタンゴム、ノルボルネン樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル樹脂、液晶ポリマー、エポキシ樹脂等の樹脂組成物であってもよい。また、このような転写材料を付着させる方法としては、特に限定されず、例えば、真空蒸着法;スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法、スパッター法等の各種コート方法を採用することができる。また、転写材料を硬化させる条件としては、使用する転写材料の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲であり、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜10J/cm2の範囲であることが好ましい。また、転写材料を利用する工程を繰り返して、凹凸の反転や転写を繰り返すことにより最終的なモールド(母型)を製造してもよい。このような転写材料を用いて凹凸の反転及び転写を繰り返すことによって、凹凸の反転及び転写をする前の凹凸構造(マスターの凹凸構造)の凸部の側面に凹凸(オーバーハングを含む)が発生しているような場合であっても、その工程ごとに断面形状を滑らかなものとすること(凹部の最下部と凸部の頂点とを結ぶ線をより滑らかなものとすること)が可能となる。そのため、このような転写材料を用いて凹凸の反転及び転写を繰り返すことによって、凹凸の反転及び転写をする前の凹凸構造(マスターの凹凸構造)の凸部の側面に凹凸(オーバーハングを含む)が発生しているような場合であっても、凹凸の形状を所望の形状(例えば、上述のような山形形状)とすることも可能である。
また、最終的に得られる回折格子形成用の母型(モールド)の凹凸形状としては、前述の第一の凹凸と同様の特性を有することが好ましい。このような凹凸の形状は、用いるポリマーの種類や加熱工程における加熱条件等を適宜変更することにより、容易に調整することが可能である。
次に、得られた回折格子形成用の母型(モールド)31を利用して、透明支持基板上に回折格子形成材料(例えば硬化性樹脂)を塗布し、母型を押し付けつつ前記回折格子形成材料を硬化させた後、前記母型を取り外すことにより、前記透明支持基板上に凹凸が形成された凹凸層を積層する工程(回折格子を製造する工程)について説明する。
図6〜8は、回折格子の製造方法の好適な一実施形態を説明するための模式図である。そして、図6は、透明支持基板10上に回折格子形成材料11’(例えば、樹脂材料や、透明無機層形成材料)を塗布した状態を模式的に示す断面図であり、図7は、母型31を押し付けつつ回折格子形成材料を硬化させた状態を模式的に示す断面図であり、図8は、母型31を取り外して回折格子(第一凹凸層)11の表面に凹凸が形成させた状態を模式的に示す断面図である。
このような回折格子を製造する工程においては、先ず、透明支持基板10上に回折格子形成材料11’(例えば硬化性樹脂等)を塗布する(図6参照)。その後、回折格子形成材料11’の途膜に、回折格子形成用の母型(モールド)31を押し付けつつ回折格子形成材料を硬化させる(図7参照)。
このような透明支持基板10は、前述の透明支持基板10と同様のものである。また、このような回折格子形成材料11’としては、第一凹凸層(回折格子)11を形成するための材料として説明したもの(樹脂材料や、透明無機層形成材料)である。
このような回折格子形成材料11’として透明無機層形成材料を用いる場合(凹凸層を無機層とする場合)においては、より効率よくゾルゲル法によりパターンが転写された凹凸層を形成するために、金属材料を含むゾル溶液を用いることが好ましい。このような金属材料を含むゾル溶液としては特に制限されるものではないが、例えば、凹凸層をシリカからなる無機層とする場合としては、シリカ前駆体(金属アルコキシド)を含有するゾル溶液が挙げられる。また、このようなシリカ前駆体としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシドモノマーや、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン等のトリアルコキシドモノマーや、これらモノマーを少量重合したポリマー、前記材料の一部に官能基やポリマーを導入した複合材料等の金属アルコキシドが挙げられる。なお、前記ゾル溶液としては、ゾルゲル法により無機層を形成することが可能なゾル溶液であればよく、金属材料の種類は特に制限されず、金属アルコキシド以外に、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、オキシ塩化物、塩化物や、それらの混合物などが挙げられる。また、このような金属材料中の金属種としても特に限定されるものではなく、ケイ素(Si)以外の金属種であっても、ゾルゲル法で無機層を形成することが可能な金属種であれば適宜利用することができ、例えば、Ti、Sn、Al、Zn、Zr、In等を適宜利用してもよい。また、前記金属材料としては1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて混合物として利用してもよい。また、このようなゾル溶液としては、無機層(前記金属単体や前記金属の酸化物からなる層)の前駆体を適宜混合したものを用いることもできる。また、ゾル溶液に、TEOSとMTESの混合物を用いる場合には、それらの配合比は特に制限されず、1:1としてもよい。
さらに、このようなゾル溶液の溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、2硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物、水、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。特に、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好ましく、また、それらに水を混合したものも好ましい。
また、このようなゾル溶液中に添加することが可能な添加物としては、粘度調整のためのポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールや、溶液安定剤であるトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アセチルアセトン等のβ―ジケトン、β―ケトエステル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどが挙げられる。
また、回折格子形成材料の塗工厚みは、第一凹凸層(回折格子)11の厚みが0.01〜500μm(より好ましくは0.5〜500μm)となる範囲であることが好ましい。回折格子形成材料の塗工厚みが前記下限未満では、第一凹凸層の表面に形成される凹凸の高さが不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記回折格子形成材料(例えば樹脂)の硬化時に生じる体積変化の影響が大きくなり、凹凸形状が良好に形成できなくなる傾向にある。
また、透明支持基板10上に回折格子形成材料11’(前記ゾル溶液を含む。)を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法,カーテンコート法、インクジェット法、スパッター法等の各種コート方法を採用することができる。さらに、回折格子形成材料が樹脂材料(例えば硬化性樹脂)の場合において、その樹脂材料を硬化させる条件としては、使用する樹脂の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲であり、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜5J/cm2の範囲であることが好ましい。
また、前記ゾル溶液を用いて回折格子形成材料を硬化させる場合(無機層を形成する場合)には、金属種や利用する金属材料の種類に応じて、いわゆるゾルゲル法に利用することが可能な公知の条件を適宜採用して、ゾル溶液から硬化層(無機層)を形成すればよい。例えば、シリカ前駆体を含むゾル溶液を用いてシリカからなる無機層(凹凸層)を形成する場合には、加水分解及び重縮合反応を行わせることによって非晶質シリカを合成して無機層を形成することができる。このような加水分解及び重縮合反応は、非晶質シリカを合成することが可能な条件であればよく、特に制限されないが、前記ゾル溶液のpHを調製するために塩酸等の酸や、アンモニア等のアルカリを添加することが好ましく、そのpHを4以下若しくは10以上とすることがより好ましい。また、前記加水分解を行うために、水を別途添加してもよい。なお、このように加水分解を行うために、水を別途添加する場合に、その水の添加量は、金属アルコキシド種に対してモル比で1.5倍以上にすることが好ましい。また、回折格子形成材料11’として透明無機層形成材料を用いる場合(凹凸層を無機層とする場合)においては、ゾル溶液の塗膜に回折格子形成用の母型(モールド)31を押し付ける際に、加熱した押圧ロールを利用することが好ましい。このようにして、塗膜に加熱しながらモールドを押し付けることにより、モールドを押し付けつつ硬化させることが可能となり、より効率よく凹凸層を形成できる傾向にある。また、このようにして、透明無機層形成材料を硬化して無機層を形成させた後においては、機械的強度を高めるという観点から、更に、200〜1200℃の温度で5分〜6時間加熱することが好ましい。
なお、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、樹脂材料を利用した場合と比較して、回折格子11の耐熱性が向上する傾向にある。そのため、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、それを有機EL素子の製造に利用する場合に、いわゆる加熱スパッタにより低抵抗の透明電極(例えばITO)を効率よく製膜でき、より電力効率の高い有機EL素子が得られるばかりか、高温条件下において、その有機EL素子を使用した場合においても、回折格子11が変色等することなく、高温による劣化をより十分に抑制できる。また、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、素子化前に、その回折格子11の凹凸パターン面にブラシ洗浄を行うことも可能である。凹凸層を形成するための材料として透明無機層形成材料を利用した場合には、樹脂材料を利用した場合と比較して、凹凸層の表面の機械的強度がより高いものとなるため、ブラシ洗浄工程により層の表面に傷が発生することをより十分に抑制できるため(基本的に傷が発生しないため)、効率よく凹凸層の表面を洗浄でき、表面上の異物等をより効率よく除去することができるため、表面上の異物等に起因する不良発生を十分に抑制できる(不良発生率を低減できる)。更に、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、樹脂材料を利用した場合と比較して、耐薬品性により優れた層を形成でき、層の耐アルカリ性をより高度な水準なものに向上させることも可能である。そのため、その表面の洗浄工程において各種洗浄溶媒を用いることが可能である。すなわち、素子化前の洗浄工程において洗浄液を選ばず、アルカリや各種有機溶剤を適宜利用することも可能となる。また、上述のように、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、樹脂材料を利用した場合と比較して、耐薬品性により優れた層を形成できることから、ITOパターニングのレジスト、現像液によるダメージもより低減させることできる傾向にある。また、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、樹脂材料を利用した場合と比較して、回折格子11の耐UV性をより高い水準のものとすることができる。そのため、回折格子11が透明無機層形成材料により形成された場合においては、UVオゾン洗浄により有機系汚染物を効率よく洗浄除去することが可能となり、有機系汚染物由来の不良率を低下させることが可能となるばかりか、屋外で使用した場合においても太陽光による劣化を十分に抑制でき、耐候性をより高度なものとすることができる傾向にある。
また、このような回折格子の製造工程においては、次いで、硬化後の回折格子(第一凹凸層)11から母型31を取り外す(図8参照)。このように硬化後の回折格子(第一凹凸層)11から母型31を取り外す方法としては、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。このようにして、透明支持基板10上に凹凸が形成された第一凹凸層(回折格子)11を積層することができる。
なお、このような工程を実施する際に、母型(モールド31)を用いてその凹凸構造を回折格子形成材料(例えば硬化性樹脂)に転写する際に、回折格子形成材料からの離型性を向上させるために母型に離型処理を行ってもよい。このような離型処理としては、表面エネルギーを下げる処方が一般的であり、特に制限はないが、フッ素系の材料やシリコーン樹脂等の離型剤をモールド31の凹凸表面にコーティングしたり、フッ素系のシランカップリング剤で処理する方法、ダイヤモンドライクカーボンを表面に成膜する方法などが挙げられる。
このようにして所望のパターンを有する回折格子11を備える透明支持基材10を得ることができるが、このようにして得られた回折格子11を備える透明支持基材10を、回折格子形成用の母型(モールド)として利用して、回折格子11を製造する工程を再度実施してもよい。すなわち、回折格子11を備える透明支持基材10を母型として反転パターンのレプリカを製造してもよく、この場合には、そのレプリカを回折格子11として利用すればよい。また、このような反転、転写する工程は繰り返し実施してもよく、例えば、反転パターンのレプリカを母型として上記転写工程を再度繰り返して子レプリカを形成してもよい。このように凹凸の反転及び転写を繰り返して、最終的に第一の凹凸の形成された回折格子11を形成してもよい。なお、このようにレプリカを順次複製する場合には、母型として用いる回折格子(第一の凹凸層)の凹凸パターンが形成されている面に蒸着法またはスパッタ法などの気相法により膜を積層してもよい。このように膜を積層することにより、その表面に樹脂を塗布する等して転写等を行う際に、その樹脂(例えばUV硬化樹脂)との密着性を低下させることができ、母型を剥がし易くなる。また、このような蒸着膜は、例えば、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル等の金属、酸化アルミニウム等の金属酸化物が挙げられる。また、このような膜の厚みとしては5〜500nmであることが好ましい。このような厚みが前記下限未満では均一な膜が得られにくく十分な密着性の低下効果が薄れ、前記上限を超えると母型の形状がなまり易くなる。レプリカの凹凸層がUV硬化樹脂からなる場合には、樹脂硬化後に、再度、紫外光を照射するなどして、適宜ポストキュアを行ってもよい。
<マイクロレンズ12>
マイクロレンズ12は、表面に第二の凹凸の形成された凹凸層(第二凹凸層)からなるものである。このようなマイクロレンズ(第二凹凸層)12を形成するための材料(マイクロレンズ形成材料)としては、前述の回折格子11を製造するために用いる材料と同様のもの(例えば硬化性樹脂や、透明無機層形成材料)を適宜用いることができる。このように、マイクロレンズ12(凹凸層)は前記樹脂材料を硬化せしめてなる硬化樹脂層であっても、透明無機層形成材料を利用して形成される無機層であってもよい。
このようなマイクロレンズ(第二凹凸層)12の厚みは1〜500μmの範囲であることが好ましい。このようなマイクロレンズ12を形成する凹凸層の厚みが前記下限未満では、凹凸層の表面に形成される凹凸の高さが不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、マイクロレンズ形成材料(例えば樹脂)の硬化時に生じる体積変化の影響が大きくなり凹凸形状が良好に形成できなくなる傾向にある。
また、マイクロレンズ(第二凹凸層)12においては、表面に形成された第二の凹凸形状を原子間力顕微鏡を用いて解析して得られる凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施してフーリエ変換像を得た場合に、前記フーリエ変換像が、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状又は円環状の模様を示している必要がある。このようなフーリエ変換像が上記の条件を示すように、前記凹凸層の表面に凹凸の形状を形成することにより、凹凸形状があらゆる断面方向から見た場合に等方的なものとなり、一方の面(基板と接している面)側から光を入射させて、前記形状が形成されている面から光を出射させた場合に、出射光の角度依存性及び色度の変化を十分に低減することが可能となる。
また、前記第二の凹凸形状の前記フーリエ変換像の前記円状又は円環状の模様としては、波数の絶対値が1μm−1以下の範囲内となる領域内に存在することが好ましい。このようなフーリエ変換像が上記の条件を示すように、前記凹凸層の表面に凹凸の形状を形成することにより、出射光の角度依存性及び色度の変化をより高度な水準で十分に低減することが可能となる。
また、このような前記第二の凹凸形状に関する前記円状又は円環状の模様としては、可視域(380nm〜780nm)にある発光スペクトルを効率よく屈折もしくは回折させるという観点から、波数の絶対値が0.05〜1μm−1の範囲内となる領域内に存在することが好ましく、波数の絶対値が0.1〜0.5μm−1の範囲内となる領域内に存在することがより好ましい。このような波数の絶対値の範囲内の領域に前記円状又は円環状の模様が存在しない場合、すなわち、前記円状及び円環状の模様を構成するフーリエ変換像の輝点のうち前記範囲内に存在する輝点の数が30%未満である場合には、レンズとして有効な屈折が得られない傾向にある。また、第二の凹凸のフーリエ変換像の模様としては、可視域(380nm〜780nm)にある波長の光に対して十分な効果を得るという観点から、円環状であることがより好ましい。なお、このようなフーリエ変換像の測定方法としては、上述の第一の凹凸の形状のフーリエ変換像を測定する方法と同様の方法を採用することができる。
また、このようなマイクロレンズ(第二凹凸層)12の表面に形成されている第二の凹凸の平均ピッチは2〜10μmの範囲であることが好ましく、2.5〜5μmの範囲であることがより好ましい。このような凹凸の平均ピッチが前記下限未満では、レンズとしての屈折効果よりも回折格子としての回折効果の方が強くなり、光の取出し効果が低下するばかりか、出射光の角度依存性が高くなり、測定位置によっては十分な発光が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、回折格子としての回折効果が得られにくくなり、通常の半球レンズと同様の特性となる傾向にある。なお、このような範囲のマイクロメートルサイズの平均ピッチを有するものとすることにより、マイクロレンズにおいて光の入射角を、より直角に近づけることが可能となり、より高度な光取出し効果(レンズ効果)が得られるとともに、より小さなサイズの平均ピッチのマイクロレンズと比較して耐摩擦性がより向上する傾向にある。
このような第二の凹凸の平均ピッチは、第二凹凸層の表面における第二の凹凸のピッチ(隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔)を測定した場合において、第二の凹凸のピッチの平均値のことをいう。また、このような第二の凹凸のピッチの平均値は、表面の凹凸の形状を走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて凹凸解析画像を測定した後に、かかる凹凸解析画像中における、任意の隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔を10点以上測定し、その平均を求めて算出される値を採用する。
また、マイクロレンズ(第二凹凸層)12の表面に形成されている第二の凹凸の平均高さは400〜1000nmの範囲であることが好ましく、600〜1000nmの範囲であることがより好ましく、700〜900nmの範囲であることが更に好ましい。このような凹凸の平均高さ(深さ)が前記下限未満では、十分な屈折もしくは回折効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、機械的強度が低下し、製造時や使用時にクラックが生じ易くなる傾向にある。なお、凹凸の平均高さとは、凹凸層の表面における凹凸の高さ(凹部及び凸部との深さ方向の距離)を測定した場合において、凹凸の高さの平均値をいう。また、このような凹凸の高さの平均値は、表面の凹凸の形状を走査型プローブ顕微鏡(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の製品名「E−sweep」等)を用いて凹凸解析画像を測定した後に、かかる凹凸解析画像中における、任意の凹部及び凸部との深さ方向の距離を10点以上測定し、その平均を求めて算出される値を採用する。なお、このような高さ(深さ)を有する凹凸形状は、後述する本発明の有機EL素子用のマイクロレンズの製造方法を利用することにより効率よく形成することが可能となる。
さらに、このようなマイクロレンズ(第二凹凸層)12においては、凹凸が形成されていない面側からマイクロレンズに入射させた光Lを前記凹凸が形成されている面から出射させて、前記凹凸が形成されている面上の任意の測定点Pにおける発光スペクトル強度を測定した場合において、下記不等式(2):
Σ(y(θ)−y0(θ))2≦0.05 (2)
[式中、θは−80°から80°までの間を5度づつ変化させた場合の33点の測定角度を示し、y(θ)は角度θにおける発光スペクトル強度の測定値を角度0°における発光スペクトル強度の測定値で規格化した値を示し、y0(θ)はランバート則に基づく放射パターンより求められる角度θにおける発光スペクトル強度の理論値を前記放射パターンより求められる角度0°における発光スペクトル強度の理論値で規格化した値を示す。]
に示す条件を満たすことが好ましい。すなわち、角度θにおいて測定された発光スペクトル強度の測定値を角度0°における発光スペクトル強度の測定値で規格化した値(y(θ))と、ランバート則に基づく角度θにおける発光スペクトル強度の理論値をランバート則に基づく角度0°における発光スペクトル強度の理論値で規格化した値(y0(θ))との差分を二乗した値[(y(θ)−y0(θ))2]を、各角度θごとにそれぞれ求め、その値の総和(Σ(y(θ)−y0(θ))2)を求めた場合において、その総和が0.05以下であることが好ましい。このような測定値の規格化値と理論値の規格化値との差分の二乗の総和の値が前記範囲内にある第二凹凸層は、ランバート則に沿った放射パターンと近似した放射パターンを示すものである。そのため、このような総和の値が前記範囲内にある第二凹凸層は、出射光の角度依存性をより十分に低くすることが可能なマイクロレンズ12として利用できる。なお、このような測定値の規格化値と理論値の規格化値との差分の二乗の総和(Σ(y(θ)−y0(θ))2)は、より高度に出射光の角度依存性及び色度の変化を低減できることから、0.03以下であることがより好ましく、0.01以下であることが特に好ましい。
ここで、このような発光スペクトル強度の測定値を規格化した値(規格化値)等を求める方法を説明する。このような発光スペクトル強度の測定には、発光スペクトル強度を測定することが可能な公知の発光スペクトルの測定装置(例えば、Ocean Optics社製の商品名「USB−2000」)を適宜用いることができる。また、このような発光スペクトル強度を測定するために凹凸層に入射させる光は、有機EL素子用の光取出し透明基板を有機EL素子上に積層することにより、有機EL素子の有機層を光源として利用してもよく、或いは、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、水銀灯、蛍光灯、LEDランプなど可視域に発光スペクトルを有するものを光源として利用してもよい。そして、第二凹凸層12の表面に対して垂直な方向から測定する場合の測定角度を0°とした場合に、測定角度が−80°、−75°・・・−10°、−5°、0°、5°、10°・・・75°、80°となる33点の測定位置において、波長450〜700nmの光のスペクトルデータをそれぞれ測定して、各角度におけるスペクトルデータの積分面積から発光スペクトル強度の実測値(測定値)をそれぞれ求めた後に、各角度θにおける発光スペクトル強度の実測値(測定値)を、角度0°における発光スペクトル強度の実測値(測定値)により割ることにより規格化して、発光スペクトル強度の測定値を規格化した値(y(θ))を求めることができる。ここで、測定角度θについて図9を参照しながら、より詳細に説明すると、発光スペクトル測定装置(受光体)のうちの発光スペクトルを受光する受光面の中心部分を受光部Oとし、第二凹凸層の表面S中の任意の測定点をPとした場合において、測定点Pを通り且つ第二凹凸層の表面Sに対して垂直な方向(図2中、点線の矢印Aが示す方向である。以下、場合により単に「点線A」という。)に対して、受光部Oと測定点Pとを結ぶ線分PO(線L1)がなす角度を測定角度θという。また、このような測定に際しては、測定点Pと受光部Oと間の距離が10cmとなるようにしてスペクトルを測定する。このようにして、点線Aと線L1(線分PO)とがなす角度を測定角度θとした場合に、前述の33点の測定位置において、それぞれ波長450〜700nmの光のスペクトルデータを測定し、得られたスペクトルデータに基づいて各角度における発光スペクトル強度の実測値(波長450〜700nmの光のスペクトルのグラフの積分面積値)をそれぞれ求め、角度0°における発光スペクトル強度の実測値により割ることによって規格化して、各角度θにおける発光スペクトル強度の規格化値(y(θ))をそれぞれ得ることができる。なお、本発明においては、測定角度0°における発光スペクトル強度の測定値を規格化した値(y(0))は1.0となる。また、ランバート則に基づく放射パターンとは、ランバート則により理論的に求められる発光スペクトル強度(波長450〜700nmの光のスペクトルのグラフの積分面積値)の角度分布(いわゆるランバート分布)のパターンをいう。そして、このようなランバート則による理論的な発光スペクトル強度の角度分布パターン(放射パターン)に基いて、前記測定角度33点の発光スペクトル強度の理論値を、角度0°の発光スペクトル強度の理論値によりそれぞれ規格化することにより、各角度θにおける発光スペクトル強度の理論値を規格化した値(y0(θ))を求めることができる。なお、本発明においては、角度0°における発光スペクトル強度の理論値の規格化値(y0(0))は1.0となる。
また、マイクロレンズ(第二凹凸層)12においては、前記発光スペクトル強度等の測定方法と同様の方法を採用して、波長380〜780nmの光の発光スペクトル強度を測定し、その発光スペクトル強度の値に基づいてCIE u’v’色度図を求めた場合において、測定角度0°の色座標と各測定角度における色座標との間の距離(Δc)の最大値が0.015以下、好ましくは0.01以下、更に好ましくは0.006以下となることが好ましい。このような色座標距離の最大値が前記上限を超えると発光色の視野角依存性が大きくなり、角度を変えて見た時にその色変わりを人間が知覚できるようになる傾向にある。
また、マイクロレンズ(第二凹凸層)12は、粘着剤層及び/又は接着剤層を介して前記透明支持基板10上に積層されていてもよい。このように粘着剤層及び/又は接着剤層を含む場合には、例えば、透明支持基板上に接着剤を用いてマイクロレンズ12を積層する方法、透明支持基板10上に粘着剤を用いてマイクロレンズ12を積層する方法等を利用して、透明樹脂基板10にマイクロレンズ(第二凹凸層)12を積層すればよい。また、この場合には、別途フィルム形態でマイクロレンズ(第二凹凸層)12を製造し、その形態のまま透明樹脂基板10の表面に貼合することも可能となる。また、このような貼合型にした場合、マイクロレンズ(第二凹凸層)12に傷や欠陥を発見した際にその部分を取り除くことができるばかりか、素子側に不良を発見した際に、その不良品を除くことができるため、歩留まりを向上させることも可能となる。
このような粘着剤層及び/又は接着剤層の材料としては、透明支持基板10上にマイクロレンズ(第二凹凸層)12を接着することが可能な公知の材料(粘着剤及び接着剤)を適宜利用することができ、例えば、アクリル系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体、天然ゴム系粘着剤、ポリイソブチレン、ブチルゴム、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−インプレン−スチレンブロック共重合体等の合成ゴム系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤を適宜利用してもよく、市販品(ノーランド社製UV硬化型光学用接着剤NOA60、NOA61、NOA71,NOA72、NOA81、東亜合成製UV−3400)を用いてもよい。このような粘着剤及び接着剤を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。なお、このような粘着剤及び接着剤は透明支持基板10及びマイクロレンズ12のどちらに塗布してもよい。
マイクロレンズ(第二凹凸層)12は、その表面の第二の凹凸の耐摩擦性や耐傷性が向上するという観点から、その凹凸形状が形成されている表面上に保護層が積層されていることが好ましい。このような保護層としては、透明フィルムや透明な無機蒸着層を適宜利用することができる。このような透明フィルムとしては特に制限されず、公知の透明フィルムを適宜利用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等のような透明なポリマーからなるフィルムが挙げられる。また、このような透明フィルムは一方の面に粘着剤層又は接着剤層を形成して、第二の凹凸が形成されている第二凹凸層の表面上に、凸部間に空間が形成されるようにして透明フィルムを貼りあわせて使用してもよい。このような粘着剤又は接着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体、天然ゴム系粘着剤、ポリイソブチレン、ブチルゴム、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−インプレン−スチレンブロック共重合体等の合成ゴム系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤を適宜利用してもよい。
また、前記保護層として無機蒸着層を積層する場合には、蒸着法により透明な無機層を形成することが可能な公知の金属材料を適宜利用することができ、例えば、Sn、In、Te、Ti、Fe、Co、Zn、Ge、Pb、Cd、Bi、Se、Ga、Rb等の金属の酸化物、窒化物、硫化物等が挙げられる。また、このような金属材料としては、酸化による劣化を十分に防止できるという観点からは、TiO2を好適に用いることができ、また、安価で高輝度が得られるという観点からはZnSを好適に用いることができる。また、このような無機蒸着層を形成する方法としては特に制限されず、公知の物理蒸着装置を用いて適宜製造すればよい。
次に、このようなマイクロレンズ12を製造するための方法について説明する。このようなマイクロレンズ12の製造方法としては、例えば、下記マイクロレンズを製造するための方法(B)を好適に採用することができる。このようなマイクロレンズを製造するための方法(B)は、平面状の支持材料の一方の面上にマイクロレンズ形成材料(例えば樹脂材料(硬化性樹脂等)や、透明無機層形成材料)を塗布し、マイクロレンズ形成用の母型を押し付けつつ前記マイクロレンズ形成材料を硬化させた後、前記母型を取り外して、表面に凹凸が形成された第二凹凸層を形成す工程を含む方法である。
このような方法(B)は、マイクロレンズ形成用の母型(モールド)を用いる方法である。このようなモールドとしては、それを未硬化のマイクロレンズ形成材料からなる層に押し付けながら硬化することにより、そのモールドに形成されている凹凸の形状を転写〈反転)させて、マイクロレンズ12において説明した第二の凹凸が形成された第二凹凸層を形成できるものであればよい。従って、このようなモールドは、表面に凹凸形状を有するものが利用され、その凹凸形状の特性(平均高さや平均ピッチ等)は上述のマイクロレンズ12を形成する第二凹凸層の表面に形成されている凹凸と同様の特性を有するものであることが好ましい。
また、このようなマイクロレンズ形成用の母型(モールド)の製造方法としては特に制限されないが、中でも、70℃以上の温度条件下において、熱により体積が変化するポリマーからなるポリマー膜の表面に蒸着膜を形成した後、前記ポリマー膜及び前記蒸着膜を冷却することにより、前記蒸着膜の表面に皺による凹凸を形成する工程(i)と、
前記蒸着膜上に母型材料を付着させ硬化させた後に、硬化後の母型材料を前記蒸着膜から取り外してマイクロレンズ形成用の母型を得る工程(ii)と、
を含む方法を採用することが好ましい。以下、このようなマイクロレンズ形成用の母型(モールド)を得るための工程(i)〜(ii)を、図10〜13を参照しながら説明する。なお、図10は、蒸着膜を形成する前のポリマー膜41がポリマー膜形成用基板40上に積層されている状態を模式的に示す断面図であり、図11は、ポリマー膜41上に蒸着膜42を形成し、ポリマー膜41及び蒸着膜42を冷却することにより蒸着膜42の表面に皺による凹凸を形成した状態を模式的に示す断面図であり、図12は、凹凸が形成された蒸着膜42上に母型材料43’を付着させた状態を模式的に示す断面図であり、図13は、母型材料43’を硬化して得られる母型43を蒸着膜42から取り外した状態を模式的に示す断面図である。
〈工程(i)〉
工程(i)は、70℃以上の温度条件下において、熱により体積が変化するポリマーからなるポリマー膜の表面に蒸着膜を形成した後、前記ポリマー膜及び前記蒸着膜を冷却することにより、前記蒸着膜の表面に皺による凹凸を形成する工程である。このような工程においては、先ず、ポリマー膜形成用基板40上に熱により体積が変化するポリマーからなるポリマー膜41を準備する。このような熱により体積が変化するポリマーとしては、加熱又は冷却により体積が変化するもの(例えば、熱膨張係数が50ppm/K以上のもの)を適宜使用することができるが、ポリマーの熱膨張係数と蒸着膜42の熱膨張係数との差が大きく、高い柔軟性を有しており、蒸着膜42の表面に皺による凹凸を形成しやすいという観点から、シリコーン系ポリマーがより好ましく、ポリジメチルシロキサンを含有するシリコーン系ポリマーであることが特に好ましい。
また、このようなポリマー膜41を形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法,カーテンコート法、インクジェット法、スプレーコート法、スパッター法、真空蒸着法等を採用してポリマー膜を支持することが可能なポリマー膜形成用基板40上に、前記ポリマーを塗布する方法を採用することができる。
また、ポリマー膜形成用基板40としては特に制限されず、ポリマーの膜を形成する際に用いることが可能な公知の基板(ガラス基板等)を適宜用いることができる。また、このようにして形成するポリマー膜41の厚みとしては、10〜5000μmの範囲であることが好ましく、10〜2000μmの範囲であることがより好ましい。なお、本実施形態においては、ポリマー膜41を基板40に積層したまま用いているが、ポリマー膜41は基板40から取り外して用いてもよい。
また、工程(i)においては、前述のようにポリマー膜41を準備した後に、70℃以上の温度条件下において、ポリマー膜41の表面に蒸着膜42を形成する。蒸着膜42を形成する際の温度は70℃以上であることが必要であり、90℃以上とすることがより好ましい。前記温度が70℃未満では、蒸着膜の表面に皺による凹凸を十分に形成することができない。蒸着膜42を形成する方法としては、蒸着法、スパッター法等の公知の方法を適宜採用することができる。これらの方法の中でも、ポリマー膜の表面に形成されている凹凸の形状を維持するという観点から、蒸着法を採用することが好ましい。また、蒸着膜42の材質は特に限定されないが、例えば、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル等の金属、酸化アルミニウム等の金属酸化物が挙げられる。
さらに、工程(i)においては、前述のようにしてポリマー膜41の表面に蒸着膜42を形成した後に、ポリマー膜41及び蒸着膜42を冷却することにより、蒸着膜42の表面に皺による凹凸を形成する(図11参照)。このように、ポリマー膜41上に蒸着膜42を形成した後に冷却すると、ポリマー膜41及び蒸着膜42の体積はそれぞれ変化するが、ポリマー膜41を形成する材料の熱膨張係数と蒸着膜42を形成する材料の熱膨張係数との間に差があるため、各層の体積の変化率がそれぞれ異なるものとなり、図11に示すように、蒸着膜42の表面に皺による凹凸(いわゆるバックリングパターン、又は、いわゆるチューリングパターン)が形成される。また、冷却後のポリマー膜41及び蒸着膜42の温度は40℃以下であることが好ましい。冷却後のポリマー膜41及び蒸着膜42の温度が前記上限を超える場合には、蒸着膜の表面に皺による凹凸を形成しにくくなる傾向にある。さらに、ポリマー膜41及び蒸着膜42を冷却する際の降温速度は1〜80℃/分の範囲内とすることが好ましい。前記降温速度が前記下限未満では、凹凸が緩和されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ポリマー膜又は蒸着膜の表面にクラック等の傷が発生しやすくなる傾向にある。
〈工程(ii)〉
工程(ii)は、前記蒸着膜上に母型材料を付着させ硬化させた後に、硬化後の母型材料を前記蒸着膜から取り外してマイクロレンズ形成用の母型を得る工程である。このような工程においては、先ず、蒸着膜42の表面上(凹凸形状を有する面)に、母型材料43’を付着させる(図8参照)。
このような母型材料43’としては、得られる母型が凹凸形状の型として使用するための強度や硬度等を維持することが可能なものであればよく、特に限定されず、例えば、ニッケル、ケイ素、炭化ケイ素、タンタル、グラッシーカーボン、石英、シリカ等の無機物;シリコーン系ポリマー(シリコーンゴム)、ウレタンゴム、ノルボルネン樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル、液晶ポリマー等の樹脂組成物が挙げられる。これらの母型材料43’の中でも、成形性、微細形状の追従性、型離れという観点から、シリコーン系ポリマー、ニッケル、ケイ素、炭化ケイ素、タンタル、グラッシーカーボン、石英、シリカがより好ましく、シリコーン系ポリマーが更により好ましく、ポリジメチルシロキサンを含有するシリコーン系ポリマーであることが特に好ましい。
また、このように母型材料43’を蒸着膜42の凹凸形状が形成されている面上に付着させる方法としては、特に限定されず、例えば、電気めっき;真空蒸着法;スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法,カーテンコート法、インクジェット法、スパッター法等の各種コート方法を採用することができる。
また、工程(ii)においては、前述のようにして蒸着膜42の表面上に母型材料43’を付着させた後に、その母型材料43’を硬化させる。母型材料43’を硬化させる条件としては、使用する母型材料の種類により異なるものであり、一概に言えるものではないが、例えば、樹脂材料を利用した場合には、その材料の種類に応じて、硬化温度を室温〜250℃の範囲とし、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲とすることが好ましい。また、母型材料43’の種類に応じて、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することにより母型材料43’を硬化させる方法を採用してもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜10J/cm2の範囲であることが好ましい。
また、工程(ii)においては、前述のようにして蒸着膜42の表面上に母型材料43’を硬化させた後に、図13に示すように、母型材料43’を硬化して得られる層43を蒸着膜42から取り外すことにより、マイクロレンズ形成用の母型43を得る。このように母型43を蒸着膜42から取り外す方法としては、特に限定されず、適宜公知の方法を採用することができる。
また、第二の凹凸をより効率よく形成できるという観点からは、工程(i)〜(ii)を実施して得られた母型43を用いて、
支持材料の一方の面上に硬化性樹脂を塗布し、母型43を押し付けつつ前記硬化性樹脂を硬化させ、前記母型43を取り外すことにより、前記支持材料上に凹凸が形成された第一凹凸樹脂膜を得る第1工程と、
前記第一凹凸樹脂膜の表面に熱により体積が変化するポリマーを塗布して硬化させた後、硬化したポリマー膜を取り外して表面に凹凸が形成された第二のポリマー膜を得る第2工程と、
該凹凸の形成された表面に対して、70℃以上の温度条件下において蒸着膜を形成した後、前記ポリマー膜及び前記蒸着膜を冷却することにより、前記蒸着膜の表面に皺による凹凸を形成して、積層体を得る第3工程と、
他の支持材料の一方の面上に硬化性樹脂を塗布して塗膜を得た後に、該塗膜に前記積層体の凹凸面を押し付けつつ前記硬化性樹脂を硬化させ、前記積層体を取り外すことにより、前記支持材料上に凹凸が形成された第二凹凸樹脂膜を得る第4工程と、
第二凹凸樹脂膜上に母型材料を付着させ硬化させた後に、硬化後の母型材料を前記蒸着膜から取り外して母型を得る第5工程と、
を更に実施してもよい。また、このような第5の工程により得られた母型を用いて第1〜第5工程を繰り返し実施してもよく、あるいは、第1〜第5工程を実施した後に、第5工程により得られた母型の凹凸の表面を第3工程に記載の凹凸の形成された表面として利用して、第3〜第5工程のみを繰り返し実施してもよい。また、第2工程及び第4工程で得られた凹凸樹脂膜を母型として利用してもよい。このように第1〜第5工程を繰り返し実施したり、第1〜第5工程を実施した後にその一部の工程を繰り返し実施したり、第1〜第5工程の一部の工程のみを実施する等して、母型43に形成された凹凸の形状が順次複製(反転又は転写)された母型を製造した場合には、蒸着工程を繰り返すたびに、皺をより深いものとすることができるため、母型の表面に形成されている凹凸の平均高さをより大きくすることができる。そして、このようにして、凹凸の平均高さが大きくなった母型を、マイクロレンズ形成用の母型として用いることで、より性能の高いマイクロレンズを形成することも可能となる。なお、目的とする凹凸形状の設計(ピッチや凹凸の高さ(深さ))や用いる材料の種類等に応じて、第一の母型に形成された凹凸形状を複製するための工程(例えば、前記第1〜第5工程)を繰り返す回数や、繰り返し実施する工程の種類等を適宜変更することができ、これにより容易に凹凸の特性を調整することができ、前述の第二の凹凸と同様の特性を有するものとすることができる。
また、このような第1工程及び第2工程において用いる熱により体積が変化するポリマーは工程(i)において説明したものと同様のものを用いることができる。また、第1工程及び第2工程において用いる硬化性樹脂としては、前述の第一凹凸層を形成する際に用いる樹脂材料(硬化性樹脂)と同様のものを適宜利用できる。また、支持材料としては、硬化性樹脂を塗布し且つこれを支持することが可能なものであればよく、特に制限されず、公知の基材を適宜用いることができ、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、ポリシクロオレフィン等の樹脂基板や;ガラス、シリコン基板等の無機基板;アルミニウム、鉄、銅等の金属基板等、からなる基材が挙げられる。また、硬化性樹脂の塗布方法、硬化方法等も特に制限されず、前述の樹脂材料(硬化性樹脂)の塗布方法、硬化方法を適宜採用してもよい。また、第3工程は、第2工程により得られるポリマー膜を用いる以外、前述の凹凸形状形成工程において説明されている工程と同様の工程である。また、第4工程及び第5工程において用いる硬化性樹脂は前述の第一凹凸層を形成する際に用いる樹脂材料(硬化性樹脂)と同様のものを適宜利用できる。また、第4工程及び第5工程において用いる母型材料は前述の工程(ii)等において説明したもの同様のものを利用することができ、その塗布方法等も前述の工程(ii)において説明した方法等と同様の方法を利用してもよい。
また、マイクロレンズ形成用の母型43の製造方法においては、母型材料に熱により体積が変化するポリマーを用いた場合には、得られた母型をポリマー膜として用いて、前記各工程(i)〜(ii)を繰り返してもよい。このような方法によっても、母型の表面に形成されている皺を深くすることができ、母型の表面に形成されている凹凸の平均高さを大きくすることができる。
なお、このようなマイクロレンズ形成用の母型43の製造方法においては、用いる樹脂の種類や繰り返し実施する工程等を目的とする凹凸構造の設計に併せて適宜変更することにより、所望の凹凸形状を容易に形成することが可能である。
以上、工程(i)〜(ii)を含むマイクロレンズ形成用の母型(モールド)の製造方法について説明したが、マイクロレンズ形成用の母型(モールド)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、前述の回折格子形成用の母型(モールド)の製造方法と同様の方法を採用して所望の凹凸が形成されたマイクロレンズ形成用の母型(モールド)を製造してもよい。なお、同様に、回折格子形成用の母型(モールド)の製造方法として、工程(i)〜(ii)を実施する方法を利用してもよい。
次に、得られたマイクロレンズ形成用の型(モールド)を利用して、平面状の支持材料の一方の面上にマイクロレンズ形成材料(例えば樹脂材料(硬化性樹脂)や、透明無機層形成材料)を塗布し、マイクロレンズ形成用の母型を押し付けつつ前記マイクロレンズ形成材料を硬化させた後、前記母型を取り外して、表面に凹凸が形成された第二凹凸層を形成す工程(マイクロレンズ形成工程)を説明する。
このようなマイクロレンズ形成工程においては、先ず、平面状の支持材料の一方の面上にマイクロレンズ形成材料(例えば硬化性樹脂)を塗布し、マイクロレンズ形成用の母型を押し付けつつ前記マイクロレンズ形成材料を硬化させる。このような工程は、基本的に、回折格子形成用の母型を用いる代わりにマイクロレンズ形成用の母型を利用する以外は、前述の回折格子を製造する工程と同様の工程である。
このようなマイクロレンズ形成材料としては、前述の第一凹凸層を形成するための材料(回折格子形成材料)と同様のものを適宜利用することができる。また、平面状の支持材料としては、マイクロレンズ形成材料を塗布し且つこれを支持することが可能なものであればよく、特に制限されず、公知の基材(例えばガラス基材や樹脂フィルム(TAC、PET、COP、PC等のフィルム)等)を適宜用いることができる。また、このような支持材料としては、有機EL素子用の透明支持基板10を好適に用いることもできる。このように、前記支持材料として透明支持基板10を用いた場合には、支持材料からマイクロレンズ(第二凹凸層)を剥離せずに、そのまま有機EL素子用の光取出し透明基板の製造に利用することも可能となり、有機EL素子の製造工程を簡略化することが可能である。特に、前記支持材料として透明支持基板10に回折格子11が形成された基板を用いた場合には、そのまま有機EL素子用の光取出し透明基板とすることができる。また、前記支持材料として樹脂フィルム(TAC、PET、COP、PC等のフィルム)を用いて、フィルムに積層した状態でマイクロレンズを得て、そのフィルムを積層した状態のまま透明支持基板10上に積層してもよい。また、このような支持材料の厚みは特に制限されないが、1〜500μmの範囲であることが好ましい。
次いで、マイクロレンズ形成工程においては、硬化後の層からマイクロレンズ形成用の母型を取り外して、第二凹凸層からなるマイクロレンズを得る。このように硬化後の凹凸層(マイクロレンズ形成材料が硬化した層、例えば硬化樹脂層等)から母型を取り外す方法としては、特に限定されず、適宜公知の方法を採用することができる。そして、このようにして、支持材料上に第二の凹凸が形成された第二凹凸層からなるマイクロレンズを得ることができる。なお、このようにして、マイクロレンズを形成した後においては、支持材料からマイクロレンズを剥離して、これを粘着剤層及び/又は接着剤層を介して透明支持基板10に積層して有機EL素子用の光取出し透明基板を製造してもよく、支持材料として透明支持基板10を用いる場合には、マイクロレンズを剥離することなく、そのまま光取出し透明基板の製造に利用してもよく、更には、支持材料として透明樹脂フィルム等を利用した場合には、マイクロレンズを積層したフィルムを、そのまま透明支持基板10上に積層してもよい。
また、このような透明支持基板10、回折格子11及びマイクロレンズ12を備える光取出し透明基板の製造方法は、特に制限されず、例えば、予め回折格子11が積層された透明支持基板10に、別途製造されたマイクロレンズ12を積層する方法を利用してもよく、予め回折格子11が積層された透明支持基板10のもう一方の表面上にマイクロレンズ12を直接製造する方法を利用してもよく、予めマイクロレンズ12が積層された透明支持基板10のもう一方の表面上に回折格子11を直接製造する方法を利用してもよい。
このような本発明の光取出し透明基板1は、これを有機EL素子に利用する場合に、透明支持基板10の回折格子11の形成されている側の面10Aを、有機EL素子からの光Lが入射する面(入射面)側に配置し、且つ、透明支持基板10のマイクロレンズ12の形成されている面10Bを、有機EL素子からの光Lが出射する面(出射面)側に配置する。このようにして利用することで、有機ELからの光をより効率よく取り出すことが可能となる。
また、光取出し透明基板1においては、回折格子11とマイクロレンズ12とを組み合わせて用いているため、回折格子の凹凸の平均高さを大きくすることなく、十分に発光効率を向上させることができるため、有機EL素子の寿命の低下を十分に抑制できるとともに、導波光を十分に取り出すことも可能となる。また、このような光取出し透明基板1においては、輝度・色度の角度依存性を十分に低減させながら、発光効率を十分に向上させることができる。
以上、本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板の好適な実施形態について説明したが、本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す実施形態においては透明支持基板10、回折格子11及びマイクロレンズ12からなるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲において、透明支持基板10と回折格子11との間や、透明支持基板10とマイクロレンズ12との間に、接着剤層、粘着剤層、透明樹脂層(例えば、有機EL素子に用いることが可能な樹脂フィルム(TAC、PET、COP、PC等のフィルム等):なお、マイクロレンズの製造時に支持材料として用いた樹脂フィルムをそのまま透明樹脂層としてもよい。)等を適宜配置してもよく、例えば、後述する図14に示す有機EL素子中の光取出し透明基板1のような積層体の構成としてもよい。
(有機EL素子)
次に、本発明の有機EL素子について説明する。すなわち、本発明の有機EL素子は、透明支持基板、
該透明支持基板の一方の面側に配置され且つ表面に第一の凹凸が形成された第一凹凸層からなる回折格子、
該透明支持基板のもう一方の面側に配置され且つ表面に第二の凹凸が形成された第二凹凸層からなるマイクロレンズ、並びに、
前記第一凹凸層の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして、前記第一凹凸層上に順次積層された透明電極、有機層、及び、金属電極を備えており、且つ、
前記透明支持基板と前記回折格子と前記マイクロレンズとにより形成される構成部分が、上記本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板からなる、ものである。
以下、このような本発明の有機EL素子の好適な一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図14は、本発明の有機EL素子の好適な一実施形態を模式的に示す断面図である。図14に示す有機EL素子は、基本的に、光取出し透明基板1と、透明電極51と、有機層52と、陰極バッファー層53と、金属電極54とを備えるものである。
このような光取出し透明基板1としては、上記本発明の光取出し透明基板を用いている。なお、本実施形態においては、光取出し透明基板1として、有機EL素子の出射面側の透明支持基板10の表面上に接着剤層13と透明樹脂層14とを介してマイクロレンズ12が積層されており、もう一方の面上に回折格子11が積層されているものを用いている。このようなマイクロレンズ12と透明支持基板10との間の積層構成は、マイクロレンズ12を製造する際の平面状の支持基板として透明樹脂フィルムを利用し、その透明樹脂フィルムのもう一方の面に接着剤層を形成しておき、これを透明支持基板10上に張り合わせることにより容易に達成できる。
また、光取出し透明基板1中の回折格子に形成されている凹凸の平均高さが、有機EL素子の有機層52の全体の厚みの20%〜80%の大きさであることが好ましい。このような凹凸の平均高さが前記下限未満(20%未満である場合)では、凹凸の平均高さが足りないため十分な回折効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると(凹凸の平均高さが有機層の厚みの80%より大きい場合)、陽極および陰極間の短絡、発光層の絶縁破壊などの欠陥、発光不良、寿命低下等が発生する可能性が高くなる傾向にある。
また、図14に示す有機EL素子においては、光取出し透明基板1の回折格子(第一凹凸層)11の第一の凹凸が形成されている面上に、第一の凹凸の形状が維持されるようにして、透明電極51、有機層52(正孔輸送層101/発光層102/正孔阻止層103/電子輸送層104)、陰極バッファー層53、金属電極54が順次積層されている。
このような透明電極51の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、金、白金、銀、銅が用いられる。これらの中でも、透明性と導電性の兼ね合いの観点から、ITOが好ましい。また、透明電極51の厚みは20〜500nmの範囲であることが好ましい。厚みが前記下限未満では、導電性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、透明性が不十分となり発光したEL光を十分に外部に取り出せなくなる傾向にある。
図14に示す有機EL素子において有機層52は、正孔輸送層101、発光層102、正孔阻止層103、電子輸送層104からなる積層体である。このような正孔輸送層101、発光層102、正孔阻止層103、電子輸送層104の材料としては特に制限されず、公知の材料を適宜利用できる。例えば、正孔輸送層101の材料としては、ナフチルジアミン(α−NPD)、トリフェニルアミン、トリフェニルジアミン誘導体(TPD)、ベンジジン、ピラゾリン、スチリルアミン、ヒドラゾン、トリフェニルメタン、カルバゾール等の誘導体等を用いることができる。発光層102の材料としては、例えば、4,4’−N,N’−dicarbazole−biphenyl(CBP)にトリスフェニルピリジナトイリジウム(III)錯体(Ir(ppy)3)をドープした材料や、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3、green、低分子)、bis-(8-hydroxy)quinaldine aluminum phenoxide(Alq’2OPh、blue、低分子)、5,10,15,20-tetraphenyl-21H,23H-porphine(TPP、red、低分子)、poly(9,9-dioctylfluorene-2,7-diyl)(PFO、blue、高分子)、poly[2-methoxy-5-(2'-ethylhexyloxy)-1,4-(1-cyanovinylene)phenylene](MEH−CN-PPV、red、高分子)、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる材料などの電圧の印加によって発光する公知の材料を適宜利用することができる。また、正孔阻止層103としても、いわゆる正孔阻止材料として公知な材料(例えば、9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等)を適宜用いることができる。更に、電子輸送層104の材料としては、アルミニウムキノリノール錯体、フェナンスロリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体等を用いることができる。
また、このような有機層52としては、凹凸層の表面に形成されている凹凸の形状を維持するという観点から、正孔輸送層101、発光層102、正孔阻止層103、電子輸送層104の厚みは、それぞれ、5〜200nmの範囲(正孔輸送層101)、5〜200nmの範囲(発光層102)、1〜50nmの範囲(正孔阻止層103)、5〜200nmの範囲(電子輸送層104)であることが好ましい。また、有機層52の全体の厚みとしては20〜600nmの範囲であることが好ましい。
また、陰極バッファー層53の材料としては、フッ化リチウム(LiF)、Li2O3等の金属フッ化物、Ca、Ba、Cs等の活性の高いアルカリ土類金属等を用いることができる。このような陰極バッファー層53の厚みは0.5〜10nmの範囲であることが好ましい。
また、金属電極54は、金属からなる電極である。このような金属電極54の材料としては、仕事関数の小さな物質を適宜用いることができ、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、MgAg、MgIn、AlLiが挙げられる。また、金属電極54の厚みは50〜500nmの範囲であることが好ましい。このような厚みが前記下限未満では、導電性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、凹凸形状の維持が困難となる傾向にある。
このような本発明の有機EL素子においては、透明電極51、有機層52、陰極バッファー層53及び金属電極54がそれぞれ回折格子の第一凹凸層の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして、回折格子の第一凹凸層の表面上に積層されているため、有機EL素子を折り曲げた場合に発生する応力を、その凹凸の形状により緩和することができる。そのため、本発明の有機EL素子は、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル照明等のフレキシブル性が要求される有機EL素子としても好適に用いることができる。
また、本発明の有機EL素子においては、上述のように、有機EL素子の構成部位の一部が光取出し透明基板1からなる。このような有機EL素子においては、リーク電流の発生をより十分に抑制するという観点からは、光取出し透明基板1中の回折格子11が、上記不等式(1)で示す条件、及び/又は、尖度(k)が−1.2以上(より好ましくは−1.2〜1.2)であるという条件を満たすものであることがより好ましい。このような条件を満たす回折格子(第一凹凸層)11を備える光取出し透明基板1を用いた場合において、図15に示すように、透明電極51、有機層52及び金属電極54(なお、図15中においては陰極バッファー層53の記載を省略している。)が回折格子(第一凹凸層)11の表面に形成されている第一の凹凸の形状をそのまま維持しているものと仮定した場合(各層がそれぞれ透明電極基板の表面に垂直な方向に均一な厚みを有する層であると仮定した場合)に、第一凹凸層11の凹凸解析画像に基づいて求められる透明電極基板の表面に垂直な方向における透明電極51と金属電極54との間の電極間距離(標準距離:図15中においてXで表される距離)と、透明電極51と金属電極54との間の電極間距離が最も短くなる距離(最短距離:図15中においてYで表される距離)に関して、凹凸解析の際の全測定点のうち最短距離Yの大きさが標準距離Xの半分以下となる測定点の割合を0〜2%とすることが可能となる。なお、本発明者らは、このような最短距離Yの大きさが標準距離Xの半分以下となるような領域においてリーク電流が発生し易い傾向にあることを見出しており、かかる知見に基づいて、このような最短距離Yの大きさが標準距離Xの半分以下となるような領域の割合が0〜2%となるようにすることによって、リーク電流の発生を十分に抑制することが可能となることを見出している。なお、本明細書においては、このような全領域(全測定点)のうちの、最短距離Yの大きさが標準距離Xの半分以下となるような領域(測定点)の割合を「リーク電流懸念領域の存在比率」という。
このように、本発明の有機EL素子においては、リーク電流を十分に抑制するという観点から、深さ分布の中央値(M)及び平均値(m)の測定方法と同様の方法を採用して第一凹凸層11の凹凸解析画像を測定し、透明電極51、有機層52及び金属電極54が第一凹凸層11の表面に形成されている凹凸の形状をそのまま維持しているものと仮定して、上記凹凸解析画像に基づいて電極間距離の分布を求めた場合に、電極間距離の分布から求められる凹凸解析画像の全測定点のうちの最短距離Yの大きさが標準距離Xの半分以下となる測定点の割合(リーク電流懸念領域の存在比率)が0〜2%となることが好ましい。すなわち、本発明の有機EL素子においては、前記透明電極51と前記金属電極54との間の電極間距離の分布から求められるリーク電流懸念領域の存在比率が0〜2%であることが好ましい。なお、このような電極間距離の分布の測定に際しては、標準距離Xは実際の設計に合わせて30〜500nmの範囲で設定(仮定)することが好ましく、例えば、有機層の透明支持基板と垂直な方向の厚みが70nmである有機EL素子においては、標準距離Xが70nmと仮定する。そして、前記凹凸解析画像(SPM像)に基づいて最短距離の分布を計算して、電極間距離の最短距離Yが標準距離Xの半分以下となる領域(リーク電流懸念領域)が、凹凸解析画像(SPM像)測定の全測定点のうちに占める割合を計算することにより、リーク電流懸念領域の存在比を求めることができる。なお、このような最短距離の計算やリーク電流懸念領域の存在比は、回折格子(第一凹凸層)11の凹凸解析画像の分析結果に基づいてコンピュータにより計算して求めることができる。
また、本発明の有機EL素子においては、透明電極51、有機層52、陰極バッファー層53及び金属電極54がそれぞれ回折格子(第一凹凸層)11の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして積層されているため、有機層で生じた光が各界面において全反射してしまい素子の内部において多重反射を繰り返すことを抑制することができる。また、透明支持基板とマイクロレンズ12との界面において反射してしまった光を、回折効果により再出射させることもできる。さらに、透明電極51、有機層52及び金属電極54がそれぞれ回折格子(第一凹凸層)11の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして積層されることから、上述のように、透明電極51と金属電極54との電極間距離が部分的に短くなっている。そのため、透明電極51と金属電極54との電極間距離が均一なものと比較して、電圧印加時において電界強度の増加を見込むことができ、有機EL素子の発光効率を向上させることもできる。また、リーク電流懸念領域が0〜2%となるように制御した場合には、リーク電流も十分に防止することも可能となり、有機EL素子の発光効率をより向上させることも可能である。このように、本発明の有機EL素子によれば、十分な外部取出し効率を達成することが可能となる。
また、本発明の有機EL素子においては、透明支持基板10の一方の面にマイクロレンズ12が配置されている。このようなマイクロレンズ12においては、第二の凹凸の形状(その形状を原子間力顕微鏡により解析して得られる凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施してフーリエ変換像を得た場合において、前記フーリエ変換像が、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状又は円環状の模様を示す形状)が形成されており、かかる凹凸があらゆる断面方向から見た場合に等方的な凹凸形状であるため、光の取出し効率十分に高いものとなるばかりか、あらゆる角度に十分に安定して光を出射させることが可能であり、出射光の角度依存性及び色度の変化を十分に低減することができる。
なお、このような本発明の有機EL素子を製造するための方法は特に制限されず、例えば、以下に説明するような有機EL素子を製造するための方法を採用して製造してもよい。すなわち、このような有機EL素子を製造するための方法としては、上記本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板を準備する工程と、該有機EL素子用の光取出し透明基板の第一凹凸層(回折格子)の表面上に、前記透明電極、前記有機層及び前記金属電極を、前記第一凹凸層の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして、それぞれ積層して、有機EL素子を得る工程(有機EL素子形成工程)とを含む方法を採用してもよい。以下、図14に示す実施形態の有機EL素子を製造する場合を例に挙げて、各工程を説明する。
上記本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板を準備する工程は、上述の本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板において説明した光取出し透明基板の製造方法を適宜採用することができる。
次いで、有機EL素子形成工程においては、先ず、図14に示すように、回折格子(第一凹凸層)11上に透明電極51を、第一凹凸層11の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして積層する。透明電極51の材料としては、前記本発明の有機EL素子において透明電極3の材料として説明したものと同様のものを用いることができる。また、透明電極51を積層する方法としては、蒸着法、スパッター法等の公知の方法を適宜採用することができる。これらの方法の中でも、第一凹凸層の表面に形成されている第一の凹凸の形状を維持するという観点から、蒸着法を採用することが好ましい。
また、有機EL素子形成工程においては、次に、図14に示すように、透明電極51上に有機層52を、第一凹凸層11の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして積層する。このような有機層52の種類や材料としては、前記本発明の有機EL素子における有機層に関して説明したものと同様のものを用いることができる。また、有機層52は、例えば、図14に示すような正孔輸送層101/発光層102/正孔阻止層103/電子輸送層104からなる積層体(記号「/」は積層されていることを示す。)の構成としてもよい。また、有機層52を積層する方法としては、蒸着法、スパッター法等の公知の方法を適宜採用することができる。これらの方法の中でも、第一凹凸層11の表面に形成されている第一の凹凸の形状を維持するという観点から、蒸着法を採用することが好ましい。
有機EL素子形成工程においては、次いで、図14に示す有機EL素子を製造する場合には、その有機層52上に陰極バッファー層53、金属電極54を、第一凹凸層11の表面に形成されている第一の凹凸の形状が維持されるようにして積層する。このような陰極バッファー層53及び金属電極54の材料としては、前記本発明の有機EL素子において説明したものと同様のものを用いることができる。また、陰極バッファー層53及び金属電極54を積層する方法としては、蒸着法、スパッター法等の公知の方法を適宜採用することができる。これらの方法の中でも、第一凹凸層11の表面に形成されている第一の凹凸の形状を維持するという観点から、蒸着法を採用することが好ましい。
また、有機EL素子を製造するための方法は上記方法に制限されるものではなく、透明支持基材上に回折格子を形成し、その回折格子に対して上記有機EL素子形成工程を実施して、透明支持基材10、回折格子11、透明電極51、有機層52、陰極バッファー層53及び金属電極54の積層体を得た後、別途製造しておいたマイクロレンズ12を張り合わせる方法を採用してもよい。このような方法を採用した場合には、マイクロレンズ(第二凹凸層)12に傷や欠陥を発見した際にその部分を取り除くことができるばかりか、素子側に不良を発見した際に、その不良品を除くことができるため、最終的な有機EL素子の製造の歩留まりを向上させることも可能となる。
以上説明したような本発明の有機EL素子を製造するための方法によれば、得られる有機EL素子において、光の取出し効率が十分に高いものとなるばかりか、あらゆる角度に十分に安定して光を出射させることが可能となり、出射光の角度依存性及び色度の変化を十分に低減することも可能である。
以上、本発明の有機EL素子の好適な実施形態について説明したが、本発明の有機EL素子は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図14に示す実施形態においては有機層52の構成が、下記構成(A):
(A)正孔輸送層101/発光層102/正孔阻止層103/電子輸送層104(記号「/」は積層されていることを示す。)
で示されるものであったが、有機層52の構成は特に制限されず、公知の有機EL素子の有機層の構成を適宜採用してもよく、例えば、有機層を下記構成(B)〜(E):
(B)発光層/電子輸送層
(C)正孔輸送層/発光層/電子輸送層
(D)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層
(E)正孔輸送層/電子輸送層
に示す構成としてもよい。また、図14に示す実施形態においては陰極バッファー層が積層された構成のものであったが、本発明の有機EL素子においては、上記本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板と、透明電極と、有機層と、金属電極とを備えていればよく、他の構成は特に制限されず、陰極バッファー層は積層しないものとしてもよい。また、同様の観点から、本発明の有機EL素子においては、透明電極51と有機層との間に陽極バッファー層を更に積層してもよい。このような陽極バッファー層の材料としては公知の材料を適宜利用することができ、例えば、銅フタロシアニン、PEDOT等が挙げられる。また、このような陽極バッファー層の厚みとしては1〜50nmとすることが好ましい。また、陽極バッファー層を用いる場合の製造方法も特に制限されず、陽極バッファー層を製造することが可能な公知の方法を適宜採用できる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、以下の実施例及び比較例で用いたブロック共重合体1について説明する。このようなブロック共重合体1は、第1のポリマーセグメントとしてポリスチレン(以下、適宜「PS」と略する)を、第2のポリマーセグメントとしてポリメチルメタクリレート(以下、適宜「PMMA」と略する)を用いた。ブロック共重合体における第1及び第2のポリマーセグメントの体積比(第1のポリマーセグメント:第2のポリマーセグメント)は、ポリスチレンの密度が1.05g/cm3であり、ポリメチルメタクリレートの密度が1.19g/cm3であるものとして算出した。ポリマーセグメント又はポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー(株)製、型番「GPC−8020」、TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000及びSuperH4000を直列に接続したもの)を用いて測定した。ポリマーセグメントのガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量計(Perkin−Elmer社製、製品名「DSC7」)を用いて、0〜200℃の温度範囲について20℃/minの昇温速度にて昇温しつつ測定した。ポリスチレン及びポリメチルメタクリレートの溶解度パラメーターはそれぞれ9.0及び9.3である(化学便覧 応用編 改定2版参照)。
〈ブロック共重合体1〉
PSとPMMAのブロック共重合体(Polymer Source社製)、
PSセグメントのMn=868,000、
PMMAセグメントのMn=857,000、
ブロック共重合体のMn=1,725,000
PSセグメントとPMMAセグメントの体積比(PS:PMMA)=53:47、
分子量分布(Mw/Mn)=1.30、
PSセグメントのTg=96℃、
PMMAセグメントのTg=110℃。
〈凹凸形状の測定方法〉
凹凸形状の測定方法について説明する。すなわち、先ず、各実施例等において、回折格子、マイクロレンズに形成されている凹凸形状に対しては、任意の3μm角(縦3μm、横3μm)の測定領域に対して、原子間力顕微鏡(SIIナノテクノロジー社製の環境制御ユニット付走査型プローブ顕微鏡「NanonaviIIステーション/E−sweep」)を用いて下記の解析条件:
測定モード:ダイナミックフォースモード
カンチレバー:SI−DF40(材質:Si、レバー幅:40μm、チップ先端の直径:10nm)
測定雰囲気:大気中
測定温度:25℃
による解析を行い、これにより、その凹凸形状に関する凹凸解析画像(SPM像)を得た。次に、得られた凹凸解析画像に対し、1次傾き補正を含むフラット処理を施した後に、2次元高速フーリエ変換処理を施すことによりフーリエ変換像を得た。そして、このような凹凸解析画像及びフーリエ変換像に基づいて、回折格子及びマイクロレンズの凹凸の平均高さ、凹凸の平均ピッチ、フーリエ変換像の模様を測定した。なお、回折格子の凹凸の平均高さ及び凹凸の平均ピッチは、100点の凹凸の高さ及び距離の平均値とし、マイクロレンズの凹凸の平均高さ及び凹凸の平均ピッチは、10点の凹凸の高さ及び距離の平均値とした。
また、前記凹凸解析画像に基づいて、回折格子の凹凸の深さ分布の中央値(M)及び深さ分布の平均値(m)並びに尖度(k)も測定した。なお、このような凹凸の深さ分布の中央値(M)及び深さ分布の平均値(m)並びに尖度(k)は、前述の第一凹凸層の凹凸の深さ分布の中央値(M)及び深さ分布の平均値(m)の測定方法並びに尖度の測定方法と同様の方法を採用することにより求めた。
(実施例1)
〈回折格子形成用の母型(モールド)の調製〉
150mgのブロック共重合体1、及び、ポリエチレンオキシドとして38mgの東京化成製ポリエチレングリコール4,000(Mw=3000、Mw/Mn=1.10)に、トルエンを、総量が10gになるように加えて溶解させた後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過して、ブロック共重合体溶液を得た。次に、このようにして得られたブロック共重合体溶液を、基材としてのポリフェニレンスルフィドフィルム(東レ(株)製トレリーナ)上に、スピンコートにより200〜250nmの膜厚で塗布した。このようなスピンコートは、回転速度500rpmで10秒間行った後、引き続いて800rpmで30秒間行った。その後、スピンコートで塗布された薄膜を室温で10分間放置して乾燥した。
次いで、薄膜が形成された基材を、170℃のオーブン中で5時間加熱した(第1加熱工程)。このような加熱後の薄膜の表面には凹凸が観察されて、薄膜を構成するブロック共重合体がミクロ層分離していることが分かった。なお、薄膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立社製H−7100FA)により観察したところ、その断面の映像からもミクロ層分離していることが確認された。
次に、第一加熱工程後の薄膜を、以下のようにしてエッチング処理して基材上のブロック共重合体の層からPMMAを選択的に分解除去した。このような分解除去工程においては、先ず、前記薄膜に、高圧水銀灯を用いて30J/cm2の照射強度で紫外線を照射した。次いで、前記薄膜を酢酸中に浸漬してPMMAを選択的に分解除去し、イオン交換水で洗浄した後、乾燥した。なお、このような分解除去工程により、上記第一加熱処理により薄膜表面に現れた凹凸が、明らかに深い凹凸パターンが基材上に形成されていることが透過型電子顕微鏡(TEM)による測定で確認された。
次いで、エッチング処理により形成された凹凸パターンが形成された基材を140℃のオーブン中で1時間の加熱処理(第2加熱工程)を施した。このような第2加熱工程後の凹凸パターンが形成された薄膜の表面に、スパッタにより、電流シード層として10nm程度の薄いニッケル層を形成した。次いで、このようなニッケル層が形成された薄膜付きの基材を、スルファミン酸ニッケル浴中に入れ、温度50℃で、電鋳(最大電流密度0.05A/cm2)処理してニッケルを厚み250μmになるまで析出させて、前記ニッケル層(シード層)上に電気めっき層(金属層)を形成せしめた。このようにして形成されたニッケル電鋳体(シード層としてのニケッル層上に電気めっき層としてのニッケル層が積層したもの)を、前記凹凸パターンが形成された薄膜付きの基材から、機械的に剥離した。次いで、このようにして基材から剥離したニッケル電鋳体を日本シービーケミカル製ケミゾール2303中に浸漬し、50℃にて2時間攪拌しながら洗浄した。その後、ニッケル電鋳体に、アクリル系UV硬化樹脂を塗布して硬化し、剥離することを3回繰り返すことで、電鋳体の表面に付着していたポリマー成分を除去し、表面に凹凸が形成されたニッケル電鋳体からなる回折格子形成用のモールドを得た。
このようにして得られた回折格子形成用のモールドの断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM:日立製作所社製S4800)により観察したところ、ニッケル電鋳体の凹凸は滑らかであり、凸部は滑らかな山形形状であることが分かった。
次いで、このような回折格子形成用のモールドをダイキン化成品販売社製HD−2101THに約1分浸し、乾燥した後、一晩静置した。そして、翌日、回折格子形成用のモールドを、ダイキン化成品販売社製HDTH中に浸漬して約1分間超音波処理洗浄を行った。このようにして回折格子形成用のモールドの表面に離型処理を施した。
〈回折格子付の基板の調製〉
ガラス基板(縦12mm、横20mm、厚み0.7mm)上にフッ素系UV硬化性樹脂を塗布し、前記離型処理後の回折格子形成用のモールドを押し付けながら、紫外線を600mJ/cm2で照射することでフッ素系UV硬化性樹脂を硬化させた。このようにして樹脂を硬化させた後、回折格子形成用のモールドを硬化した樹脂から剥離した。こうして回折格子形成用のモールドの表面の凹凸形状が転写された硬化樹脂膜からなる回折格子が積層されたガラス基板を得た。
このようにして得られた回折格子のフーリエ変換像を図16に示す。図16に示すフーリエ変換像からも明らかなように、フーリエ変換像は波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状の模様を示しており、且つ前記円環状の模様が波数の絶対値が10μm−1以下の範囲内となる領域内にフーリエ変換像を構成する全輝点のうちの90%以上の輝点が存在するものであることが確認された。また、かかる回折格子の表面に形成されている凹凸の平均高さは54nmであり、平均ピッチは605nmであった。また、凹凸の深さ分布の中央値(M)は50.892nmであり、深さ分布の平均値(m)は47.434nmあり、尖度(k)は−0.973であった。なお、前記凹凸解析画像(SPM像)に基づいて、上述の「リーク電流懸念領域(最短距離の分布を計算して、電極間距離の最短距離が標準距離Xの半分以下となる領域」の存在比率を求めたところ、その比率は0%であった。
〈マイクロレンズ形成用の母型(モールド)の調製〉
先ず、ポリマー膜形成用基板(材質:ガラス、厚み:1.1mm、大きさ:17×13mm)上に、シリコーン系ポリマー(シリコーンゴム[ワッカーケミ社製、製品名「Elastosil RT601A」]90質量%と、硬化剤[ワッカーケミ社製、商品名「Elastosil RT601B」]10質量%との混合樹脂組成物)を、塗布後の厚みが22.5μmとなるようにしてスピンコート法により塗布し、100℃にて1時間加熱して硬化させて第一のシリコーン系ポリマー膜を形成した。
次に、第一のシリコーン系ポリマー膜が形成された基材を真空チャンバーに入れ、温度が80℃であり且つ圧力が1×10−3Paである条件下において、第一のシリコーン系ポリマー膜上に蒸着法により第一のアルミニウム蒸着膜(厚み:100nm)を形成した。このようにして第一のシリコーン系ポリマー膜上に第一のアルミニウム蒸着膜を形成した第一積層体を得た後、真空チャンバー内にて、かかる第一積層体を1時間かけて室温(25℃)まで冷却し、その後、真空チャンバー内の圧力を大気圧(1.013×105Pa)に戻した。このようにして第一積層体を冷却することにより、第一のシリコーン系ポリマー膜上に形成された第一のアルミニウム蒸着膜の表面には凹凸が形成されていた。
次いで、第一のアルミニウム蒸着膜上にシリコーン系ポリマー(シリコーンゴム[ワッカーケミ社製、製品名「Elastosil RT601A」]90質量%と、硬化剤[ワッカーケミ社製、商品名「Elastosil RT601B」]10質量%との混合樹脂組成物)を塗布後の厚みが1.5mmとなるようにして滴下法により塗布し、オーブンで60℃にて2時間加熱して硬化させた後に、第一のアルミニウム蒸着膜から取り外して第一のモールドを得た。
次に、他の基材(材質:ガラス、厚み:1.1mm、大きさ:17×13mm)を準備し、前記基材上に紫外線硬化性エポキシ樹脂(Norland社製の商品名「NOA81」)を塗布後の厚みが100μmとなるようにして滴下法により塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜の表面に第一のモールドを押し付けつつ紫外線を10分照射することにより、紫外線硬化性エポキシ樹脂を硬化させ、第一のモールドを取り外すことにより、表面に第一のモールドの凹凸形状に由来した凹凸が形成された第一のエポキシ樹脂膜(第二のモールド)を得た。
次いで、第一のエポキシ樹脂膜上に、シリコーン系ポリマー(シリコーンゴム[ワッカーケミ社製、製品名「Elastosil RT601A」]90質量%と、硬化剤[ワッカーケミ社製、商品名「Elastosil RT601B」]10質量%との混合樹脂組成物)を塗布後の厚みが1.5mmとなるようにして滴下法により塗布し、オーブンで60℃にて2時間加熱して硬化させた後に、第一のエポキシ樹脂膜から取り外して、表面に第一のエポキシ樹脂膜の凹凸形状に由来した凹凸が形成された凹凸の形成された第二のシリコーン系ポリマー膜(第三のモールド)を得た(なお、上述のようにして得られた第一のエポキシ樹脂膜、第二のシリコーン系ポリマー膜は、その製造方法からも明らかなように、第一のモールト゛の凹凸形状を反転又は転写したものであり、そのままマイクロレンズ形成用の母型としても利用することが可能である。)。
次に、第二のシリコーン系ポリマー膜を真空チャンバーに入れ、温度が80℃であり且つ圧力が1×10−3Paである条件下において、第二のシリコーン系ポリマー膜の凹凸が形成された表面上に蒸着法により第二のアルミニウム蒸着膜(厚み:100nm)を形成した。このようにして第二のシリコーン系ポリマー膜上に第二のアルミニウム蒸着膜を形成した第二積層体を得た後、真空チャンバー内にて、かかる第二積層体を1時間かけて室温(25℃)まで冷却し、その後、真空チャンバー内の圧力を大気圧(1.013×105Pa)に戻した。このようにして第二積層体を冷却することにより、第二のシリコーン系ポリマー膜上に形成された第二のアルミニウム蒸着膜の表面には、凹凸が形成されていた。
次に、他の基材(材質:ガラス、厚み:1.1mm、大きさ:17×13mm)を準備し、前記基材上に紫外線硬化性エポキシ樹脂(Norland社製の商品名「NOA81」)を塗布後の厚みが100μmとなるようにして滴下法により塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜の表面に前記第二積層体を押し付けつつ紫外線を10分照射することにより、紫外線硬化性エポキシ樹脂を硬化させ、次いで、前記第二積層体を取り外すことにより、表面に前記第二積層体の凹凸形状に由来した凹凸が形成された第二のエポキシ樹脂膜(第四のモールド)を得た。
次いで、第二のエポキシ樹脂膜上にシリコーン系ポリマー(シリコーンゴム[ワッカーケミ社製、製品名「Elastosil RT601A」]90質量%と、硬化剤[ワッカーケミ社製、商品名「Elastosil RT601B」]10質量%との混合樹脂組成物)を塗布後の厚みが1.5mmとなるようにして滴下法により塗布し、オーブンで60℃にて2時間加熱して硬化させた後に、第二のエポキシ樹脂膜から取り外すことにより、第二のエポキシ樹脂膜の凹凸形状に由来した凹凸が形成された第三のシリコーン系ポリマー膜(第五のモールド)を得た。
次に、第三のシリコーン系ポリマー膜を真空チャンバーに入れ、温度が80℃であり且つ圧力が1×10−3Paである条件下において、第三のシリコーン系ポリマー膜の凹凸が形成された表面上に蒸着法により第三のアルミニウム蒸着膜(厚み:100nm)を形成した。このようにして第三のシリコーン系ポリマー膜上に第三のアルミニウム蒸着膜を形成した第三積層体を得た後、真空チャンバー内にて、かかる第三積層体を1時間かけて室温(25℃)まで冷却し、その後、真空チャンバー内の圧力を大気圧(1.013×105Pa)に戻した。このようにして第三積層体を冷却することにより、第三のシリコーン系ポリマー膜上に形成された第三のアルミニウム蒸着膜の表面には、凹凸が形成されていた。
次いで、他の基材(材質:ガラス、厚み:1.1mm、大きさ:17×13mm)を準備し、前記基材上に紫外線硬化性エポキシ樹脂(Norland社製の商品名「NOA81」)を塗布後の厚みが100μmとなるようにして滴下法により塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜の表面に前記第三積層体を押し付けつつ紫外線を10分照射することにより紫外線硬化性エポキシ樹脂を硬化させ、次いで、前記第三積層体を取り外すことにより、表面に前記第三積層体の凹凸形状に由来した凹凸が形成された第三のエポキシ樹脂膜(第六のモールド)を得た。
次いで、第三のエポキシ樹脂膜上にシリコーン系ポリマー(シリコーンゴム[ワッカーケミ社製、製品名「Elastosil RT601A」]90質量%と、硬化剤[ワッカーケミ社製、商品名「Elastosil RT601B」]10質量%との混合樹脂組成物)を塗布後の厚みが1.5mmとなるようにして滴下法により塗布し、オーブンで60℃にて2時間加熱して硬化させた後に、第三のエポキシ樹脂膜から取り外すことにより、第三のエポキシ樹脂膜の凹凸形状に由来した凹凸が形成されシリコーン系ポリマーからなるマイクロレンズ形成用の母型(第七のモールド)を得た。
〈マイクロレンズの調製〉
支持材料として、厚み40nmのトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム、縦12mm、横20mm)の一方の面上に、厚み25nmのアクリル系接着剤からなる接着剤層と、PETからなる離形フィルムとが積層された樹脂基板(TACフィルム/接着剤層/PET離形フィルム)を準備した。
そして、このような樹脂基板(支持材料)のTACフィルムの表面上に、紫外線硬化性エポキシ樹脂(Norland社製の商品名「NOA81」)を塗布後の厚みが10μmとなるようにして滴下法により塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜の表面にシリコーン系ポリマーからなるマイクロレンズ形成用の母型(第七のモールド)を押し付けつつ紫外線を10分照射することにより紫外線硬化性エポキシ樹脂を硬化させ、次いで、前記マイクロレンズ形成用の母型を取り外すことにより、硬化樹脂膜の表面に前記前記マイクロレンズ形成用の母型の凹凸形状に由来した凹凸が形成されており、凹凸形状を有する硬化樹脂膜(厚み:10μm)からなるマイクロレンズが積層された樹脂基板を得た。
このようにして得られたマイクロレンズのフーリエ変換像を図17に示す。図17に示すフーリエ変換像からも明らかなように、フーリエ変換像は波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状の模様を示しており、且つ前記円環状の模様が波数の絶対値が1μm−1以下の範囲内となる領域内にフーリエ変換像を構成する全輝点のうちの90%以上の輝点が存在するものであることが確認された。また、前記マイクロレンズの表面に形成されている凹凸の平均高さは840nmであり、平均ピッチは3.1μmであった。
〈有機EL素子の調製〉
先ず、前述のようにして得られた回折格子が積層されたガラス基板を用い、前記ガラス基板上の回折格子の表面上に、透明電極(ITO、厚み:120nm)、正孔輸送層(α−NPD、厚み:30nm)、発光層(CBPにIr(ppy)3錯体を7.0mol%ドープした層、厚み:30nm)、正孔阻止層(10−フェナントロリン(BCP)、厚み:5nm)、電子輸送層(アルミニウムキノリノール錯体(Alq3)、厚み:50nm)、陰極バッファー層(フッ化リチウム(LiF)、厚み:1.5nm)及び金属電極(アルミニウム、厚み:50nm)を、回折格子(第一凹凸層:硬化樹脂層)の表面に形成されている凹凸の形状が維持されるようにして、それぞれ蒸着法により積層して有機EL素子用の積層体を得た。なお、このような積層体は、ガラス基板/回折格子/透明電極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/金属電極の順に積層されたものであった。
次に、前述のようにして得られたマイクロレンズが積層された樹脂基板(TACフィルム/接着剤層/PET離形フィルム)からPET離形フィルムを剥離し、表出させた接着剤層を、前記有機EL素子用の積層体のガラス基板の表面に張り合わせ、接着剤層を硬化させることにより、図14に示すような構成の有機EL素子(マイクロレンズ(10μm/TACフィルム(40nm)/接着剤層(25nm)/ガラス基板(0.7mm)/回折格子(5μm)/透明電極(120nm)/正孔輸送層(30nm)/発光層(30nm)/正孔阻止層(5nm)/電子輸送層(50nm)/陰極バッファー層(1.5nm)/金属電極(50nm))を得た。
(比較例1)
回折格子が積層されたガラス基板を用いる代わりにガラス基板(縦12mm、横20mm、厚み0.7mm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法を採用して、比較のための有機EL素子(マイクロレンズ/TACフィルム/接着剤層/ガラス基板/透明電極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/金属電極)を得た。
(比較例2)
マイクロレンズが積層された樹脂基板を用いてガラス基板の表面上にマイクロレンズとTACフィルムと接着剤層との積層体を積層する代わりに、直径5mmの半球レンズ(Edmund社製)を未硬化の紫外線硬化性エポキシ樹脂(Norland社製の商品名「NOA81」)を接着剤としてガラス基板の表面上に積層した以外は、実施例1と同様の方法を採用して、比較のための有機EL素子(半球レンズ/エポキシ樹脂接着剤層(滴下法)/ガラス基板/回折格子/透明電極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/金属電極)を得た。
(比較例3)
回折格子が積層されたガラス基板を用いる代わりにガラス基板(縦12mm、横20mm、厚み0.7mm)を用い、且つ、マイクロレンズが積層された樹脂基板を用いてガラス基板の表面上にマイクロレンズとTACフィルムと接着剤層との積層体を積層する代わりに、直径5mmの半球レンズ(Edmund社製)を未硬化の紫外線硬化性エポキシ樹脂(Norland社製の商品名「NOA81」)を接着剤としてガラス基板の表面上に積層した以外は、実施例1と同様の方法を採用して、比較のための有機EL素子(半球レンズ/エポキシ樹脂接着剤層/ガラス基板/透明電極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/金属電極)を得た。
(比較例4)
マイクロレンズが積層された樹脂基板を用いてガラス基板の表面上にマイクロレンズとTACフィルムと接着剤層との積層体を積層する工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様の方法を採用して、比較のための有機EL素子(ガラス基板/回折格子/透明電極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/金属電極)を得た。
(比較例5)
回折格子が積層されたガラス基板を用いる代わりにガラス基板(縦12mm、横20mm、厚み0.7mm)を用い、且つ、マイクロレンズが積層された樹脂基板を用いてガラス基板の表面上にマイクロレンズとTACフィルムと接着剤層との積層体を積層する工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様の方法を採用して、比較のための有機EL素子(ガラス基板/透明電極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/金属電極)を得た。
[実施例1及び比較例1〜5で得られた有機EL素子の性能の評価]
(i)発光効率の測定
実施例1及び比較例1〜5で得られた有機EL素子の発光効率を以下の方法で測定した。すなわち、有機EL素子に電圧を印加し、印加電圧(V)及び有機EL素子に流れる電流(I)を印加測定器(アドバンテスト社製、型番:R6244)にて、また発光輝度(L)を分光装置(スペクトラ・コープ社製、Solid LambdaCCD UV−NIR)にて測定した。このようにして得られた印加電圧(V)、電流(I)及び発光輝度(L)の測定値に基づいて、電流効率については、下記計算式(F1)を用いて算出し、電力効率については下記計算式(F2)を用いて算出した。
(電流効率)=(L/I)・・・(F1)
(電力効率)=(L/I/V)・・・(F2)
そして、マイクロレンズ及び回折格子を利用していない比較例5で得られた有機EL素子の値を基準値(1倍)として規格化した値(比較例5に対する電流効率及び電圧効率の倍率)を求めた。得られた結果を表1に示す。
(ii)リーク電流の防止性の測定
上記(i)発光効率の測定において測定した印加電圧(V)、電流(I)及び発光輝度(L)の値に基づいて、同一電圧における電流と輝度の関係を比較することにより、リーク電流の発生の有無を評価した。得られた結果を表1に示す。
(iii)輝度の角度依存性の測定
実施例1及び比較例1〜5で得られた有機EL素子をそれぞれ用いて、ガラス基板に垂直な方向を測定角度0°とした場合に、測定角度を−80°から80°までの間を5度づつ変化させた場合における33点の測定位置において、波長450〜700nmの光の発光スペクトルの積分面積により発光スペクトル強度をそれぞれ測定した。このような発光スペクトル強度の測定には、測定装置としてOcean Optics社製、製品名「USB−2000」を用い、有機EL素子に約10Vの電圧を印加して、有機EL素子上の任意の測定点から発せられる光のスペクトルを測定することにより行った。また、発光スペクトル強度の測定に際しては、発光スペクトルを受光する受光部と、有機EL素子の表面上の測定点との間の距離が10cmとなるようにした。
そして、このようにして求められた各測定角度における発光スペクトル強度の測定値を、測定角度0°における発光スペクトル強度の測定値により規格化して、発光スペクトル強度の規格化値(各測定角度における測定値を測定角度0°における測定により割った値)を求め、下記不等式:
Z=Σ(y(θ)−y0(θ))2
[式中、θは前述の33点の測定角度を示し、y(θ)は角度θにおける発光スペクトル強度の規格化値を示し、y0(θ)はランバート則に基づく放射パターンより求められる角度θにおける発光スペクトル強度の理論値を示す。]
を計算して、求められるZの値から輝度の角度依存性を評価した。なお、このようなZの値(規格化値と理論値の差の二乗和)の値は、より小さな値となるほど、ランバート則による放射パターンに沿った放射パターンであることを示す値であり、輝度の角度依存性の指標として利用できる値である。得られた結果を表1に示す。
(iv)色座標の測定
前述の(iii)輝度の角度依存性の測定において採用している発光スペクトルの強度の測定方法と同様の測定方法を採用して、実施例1及び比較例1〜5で得られた有機EL素子の波長380〜780nmの光の発光スペクトル強度を測定し、かかる発光スペクトル強度のデータに基づいて、u’v’色度図(CIE 1976 UCS色度図)を求めた。そして、発光スペクトル強度の測定の際の測定角度θが0°である場合のu’v’色度図の座標点と、各測定角度θにおけるu’v’色度図の座標点との間の距離(Δc)を求めて、その最大値を求めた(Δcの数値範囲を求めた)。なお、このようなΔcの値の変化が小さいほど、色度の変化がより低減されたものとなる。得られた結果を表1に示す。
表1に示す結果からも明らかなように、本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板を備える本発明の有機EL素子(実施例1)においては、ガラス基板を光取出し面として回折格子及びマイクロレンズのいずれも利用していない比較例5で得られた有機EL素子と比較して、電流効率および電圧効率がともに十分に高くなっており、発光効率が高く、光の外部取出し効率が十分に高度なものであることが確認された。また、マイクロレンズとして半球レンズを用いた比較例2〜3で得られた有機EL素子においては、電流効率および電圧効率が非常に高い値となるものの、輝度の角度依存性や色度の角度依存性が大きくなっており、実用上必ずしも十分なものとはいえないものであることが分かった。一方、本発明の有機EL素子(実施例1)においては、輝度の角度依存性が低いことから、ランバート則により近似した放射パターンを示していることが分かり、十分に発光の角度依存性が低減されていることが確認された。また、本発明の有機EL素子(実施例1)においては、比較例2〜3で得られた有機EL素子と比較して十分に薄い素子構成とすることができ、このような観点からも実用性が高いものであると言える。さらに、本発明の有機EL素子(実施例1)においては、いずれの測定角度においてもΔcの値が0.006未満であることからも明らかように、色度の角度依存性が非常に低減されており、色度の変化が非常に低減されたものとなっていることが確認された。また、回折格子を用いずに凹凸の形成された硬化樹脂膜からなるマイクロレンズのみを用いた比較のための有機EL素子(比較例1)においては、発光効率の向上、輝度の角度依存性の低減及び色度の角度依存性の低減がバランスよく達成された実用性の高いものであることが分かるが、本発明の有機EL素子(実施例1)と比較すると発光効率の点で必ずしも十分なものとは言えないことが分かる。また、マイクロレンズを用いずに回折格子のみを用いた比較のための有機EL素子(比較例4)においても、発光効率の向上、輝度の角度依存性の低減及び色度の角度依存性の低減がバランスよく達成されているものの、本発明の有機EL素子(実施例1)と比較すると輝度の角度依存性の低減及び色どの角度依存性の低減の点で必ずしも十分アものではないことが分かる。このような結果から、透明支持基板の一方の面側に第一の凹凸が形成された回折格子を備えており且つもう一方の面側に第二の凹凸が形成されたマイクロレンズを備えており、前記第一及び第二の凹凸の形状がぞれぞれ、該凹凸の形状を原子間力顕微鏡により解析して得られる凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施してフーリエ変換像を得た場合に、前記フーリエ変換像が、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状又は円環状の模様を示す形状となっている本発明の有機EL素子用の光取出し透明基板(実施例1)を利用した場合には、発光効率の向上、輝度の角度依存性の低減及び色度の角度依存性の低減が非常に高度な水準でバランスよく発揮できることが確認された。
(参考例1)
〈回折格子形成用の母型の調製〉
先ず、実施例1において採用した回折格子形成用の母型(モールド)の調製の方法と同様の方法を採用して、表面に離型処理を施したニッケル電鋳体からなるモールド(以下、単にモールド(A)という。)を得た。次に、このようにして得られたモールド(A)を用いて、回折格子形成用のモールド(B)を製造した。すなわち、PET基板(東洋紡製、コスモシャインA−4100)上にフッ素系UV硬化性樹脂(旭硝子株式会社製の商品名「NIF」)を塗布し、前記ニッケル電鋳体からなるモールド(A)を押し付けた後、紫外線を600mJ/cm2で照射してフッ素系UV硬化性樹脂を硬化させ、その後、モールド(A)を剥離した。こうしてモールド(A)の表面形状が転写されたUV硬化樹脂フィルムからなる回折格子形成用のモールド(B)を得た。表面形状が転写されたUV硬化樹脂の厚みは1μmであった。
〈回折格子の形成〉
先ず、エタノール24.3g、水2.16g及び濃塩酸0.0094gを混合した液に、テトラエトキシシラン(TEOS)2.5gとメチルトリエトキシシラン(MTES)2.1gを滴下して加え、23℃、湿度45%で2時間攪拌してゾル溶液を得た。次いで、厚さ0.7mmのガラス基板(ソーダライム製)上にゾル溶液をバーコーターで塗布してガラス基板上のゾル溶液の塗膜を製造した。そして、その塗膜の製造の60秒後に、前記ガラス基板上の塗膜に対して、以下に記載するような方法を採用して、加熱した押圧ロールを利用して実施例1で製造されたモールド(B)を押し付け、ガラス基板上に回折格子(凹凸層)を形成した。
すなわち、先ず、押圧ロールとしては、内部にヒータを備え、外周が4mm厚の耐熱シリコーンが被覆されたロールであって、ロール径(直径)が50mm且つ軸方向長さが350mmのものを用いた。そして、モールド(B)の凹凸パターンが形成された面を、ガラス基板の一端から他端に向かって80℃に加熱した押圧ロールを回転させながらガラス基板上の塗膜に押し付けた。このようにしてモールド(B)の押圧終了後、モールド(B)を前記一端から他端に向かって剥離角度が約30°になるように手で剥離した。そして、モールド(B)を剥離した後、モールド(B)の凹凸に由来する凹凸が形成された硬化塗膜つきのガラス基板を、オーブンを用いて300℃で60分間加熱し、無機層からなる回折格子(凹凸層)が積層したガラス基板を得た。なお、無機層の厚みは0.3μmであった。
このようにして得られた回折格子(無機層)のフーリエ変換像は、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状の模様を示しており、且つ前記円状の模様が波数の絶対値が10μm−1以下の範囲内となる領域内にフーリエ変換像を構成する全輝点のうちの90%以上の輝点が存在するものであることが確認された。また、かかる回折格子の表面に形成されている凹凸の平均高さは71.5nmであり、平均ピッチは375nmであった。また、凹凸の深さ分布の中央値(M)は49.6nmであり、深さ分布の平均値(m)は50.3nmあり、凹凸深さの分布の標準偏差(σ):19.3nm、尖度(k)は−0.15であった。