JP5654641B2 - 既設港湾岸壁の補強方法 - Google Patents
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「既存の岸壁から所定距離だけ離間した位置であって該岸壁と対向するように列状に打ち込まれた複数の杭と、前記岸壁と前記杭に挟まれた水底領域に水中コンクリートを打設して形成した荷重伝達版とからなる耐震補強構造であって、前記複数の杭は、それらの強軸が前記岸壁と平行になるようにかつそれらの頭部位置が水面以下であってかつ前記荷重伝達版の天端以上となるように設定されたことを特徴とする岸壁の耐震補強構造。」(特許文献2参照)
しかしながら、特許文献2に記載の耐震補強構造は、荷重伝達版を介して伝達される水平力を杭頭部の側面で受け、杭の曲げ剛性によって支持するものであることから、杭への力の伝達が十分できないと共に杭には高い曲げ剛性が要求される。それ故に、十分な耐震補強を行うためには杭が大型化し、その施工は作業台船などによる施工が必要となり、岸壁を供用しながらの施工は困難となる。
なお、「壁体を前面側から支持する」というときの前面側とは海側を意味する。
本実施の形態の既設港湾岸壁の補強構造は、既設岸壁の鋼矢板1の前面に配置されたL型の壁体支持部材7と、壁体支持部材7に頭部が結合されて該壁体支持部材7を支持する杭体9とを備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
壁体支持部材7は、軸方向直交断面形状がL型の床版であって、海底11側に設置される横片部7aがプレキャストコンクリート(以下、単にPCと言う場合あり)からなり、鋼矢板1側の縦片部7bが鉄筋コンクリート(以下、単にRCという場合あり)からなるものである。この例では、横片部7aを海底11に設置し、その後、縦片部7bを現場施工して両者を結合してL型としたものである。
横片部7aは、図2に示されるように、紙面直交方向に所定の長さ(例えば、5〜6m)を有する矩形状からなるものである。また、縦片部7bは、後施工されたものであり、図2に示すように、鋼矢板1の凹凸部にもコンクリートが充填されて鋼矢板1と連結されている。
杭体9は、図1に示すように、鋼矢板1側には直杭9aが施工され、海側には斜杭9bが施工されている。そして、これら直杭9aと斜杭9bは、図2に示すように、一つのPC床版に所定のピッチで3列施工されている。
なお、杭体9は、この例では岸壁側からの施工を可能にするため小型杭(杭径100〜300mmの小径杭)を用いている。小型杭としては、前記の小径杭(鋼管杭、コンクリート杭、鋼管コンクリート杭等)に限らず、フランジ幅、ウェブ高さともに100〜300mm程度のH形鋼杭を用いることもできる。
斜杭9bの傾斜角度は、例えば20度以内とする。
このように、本実施の形態では、杭頭部25と壁体支持部材7とを結合したことにより、杭体9の押込み抵抗、引抜抵抗、曲げ剛性及び水平地盤抵抗という杭としての全ての機能を有効に活用して鋼矢板1に作用する水平力に抵抗することになり、受働抵抗を効果的に高めることができる。
次に上記のように構成された既設港湾岸壁の補強構造の構築方法を説明することによって、既設港湾岸壁の補強方法を説明する。図3〜図14は既設港湾岸壁の補強構造の構築方法の説明図であり、図3から順に施工工事が進んでいく状態を示したものである。以下、図3〜図14に基づいて補強構造の構築方法について説明する。
次に、鋼矢板1における壁体支持部材7の縦片部7bが施工される部位にスタッド13を打設する(図5参照)。このスタッド13が本発明の連結部材として機能する。そして、海底11の掘削箇所に壁体支持部材7の横片部7aとなるプレキャスト底盤を設置する(図6参照)。この施工は、例えば岸壁側からクレーン等または海側からクレーン船等によって施工する。横片部7aには、図6に示すように、杭を貫通させるための貫通孔15が設けられると共に、縦片との結合を確実に行なうために鉄筋17が延出されている。
そして、図8に示すように、小径杭を岸壁上の施工機械19によって横片を貫通するようにして施工する。杭先端部が支持層21まで到達した後、杭体9と地盤との間にグラウト23を注入する(図9参照)。そして、ヤットコ10を撤去して直杭9aの建て込みを完了する(図10参照)。
なお、杭頭部25と横片部7aとの結合をより簡易に行なうための方法として、例えば図15に示すように、横片部7aに係合部27を設けると共に杭頭部25に係合部27に係止する係止部29を設け、杭体9を回転することで係止部29が係合部27に係止して両者が連結されるような機械的結合構造にしてもよい。
また、図16に示すように、杭頭部25に支圧板31をねじ込むようにして固定し、支圧板31を固定した状態でグラウトを注入するようにしてもよい。このような機械的結合構造を併用することにより、杭頭部25と横片部7aの結合のための水中での作業を大幅に省力化することができる。
鋼矢板1と壁体支持部材7の縦片部7bを一体化することによって、鋼矢板1の剛性に縦片部7bの剛性が足し合わされ、大きな曲げ剛性を確保することができる。したがって、前記一体化は耐震性能が大きく不足している既設構造物、例えば設計震度で0.1以上耐震性を向上させる必要があるような既設構造物を対象とするのが好ましい。
一体化に伴う作業としては、水中での既設壁体のケレン、スタッド打設、コンクリート打設といったものが必要となる。
縦片部7bの上端付近で壁体を前面で支持し、既設のタイロッド5と協働して2点で支持したのと同様の補強効果を奏する。
したがって、耐震性能が不足している既設構造物であって、例えば向上させるべき耐震性が設計震度で0.1未満の既設構造物を対象とするのが好ましい。
一体化しない場合には、既設壁体と壁体支持部材7の縦片部7bとの隙間にコンクリート等を充填するといった簡易な施工となり、コストが低減され、また工期も短縮化される。
なお、鋼矢板1と壁体支持部材7の縦片部7bを一体化させない場合であっても、両者は直接又は間接に接触していることから、地震時などに鋼矢板1へ作用する海側への水平力は壁体支持部材7の縦片部7bに作用し、その荷重が横片部7aを介して杭体9に作用することに変わりはない。
また、上記の説明では、横片部7aをプレキャストコンクリート(PC)とし、縦片部7bを鉄筋コンクリート(RC)とした場合を説明したが、これに限られるものではなく、横片部7aと縦片部7bの組合せは以下のようなパターンがある。
横片部7aと縦片部7b共に現場打ちに鉄筋コンクリートとする。横片部7aを鋼構造(S)とし、縦片部7bを鉄筋コンクリートとする。横片部7aを鉄骨コンクリート(SC)とし、縦片部7bを鉄筋コンクリート(RC)とする。横片部7aを鉄筋鉄骨コンクリートとし、縦片部7bを鉄筋コンクリート(RC)とする。
図17、図18は壁体支持部材7としてL型の鋼構造体を用いたものの一例としてH形鋼を組み合わせてL型構造体としたものである。この場合には、横片部7aの下部に杭頭部25との結合のためのボックス部35を設けて、杭頭部25をこれに挿入して両者を結合するようにする。
なお、鋼構造にした場合において、縦片部7bと鋼矢板1との隙間には中詰め材37となるコンクリートを充填して縦片と鋼矢板1とが接触するようにする。この場合には、壁体支持部材7と鋼矢板1とが中詰め材37を介して間接的に接触する態様となる。
なお、この実施の形態では、壁体支持部材7と鋼矢板1とは、間接的に接触しているが一体化されているわけではない。
なお、壁体支持部材7の形状を軸直交断面が倒伏T字状にすることにより、例えば大型船舶に対応可能とするために海底地盤を掘削して増深化した場合にも、図20に示すように、対応可能となる。
3 控え杭
5 タイロッド
7 壁体支持部材
7a 横片部
7b 縦片部
9 杭体
9a 直杭
9b 斜杭
10 ヤットコ
11 海底
13 スタッド
15 貫通孔
17 鉄筋
19 施工機械
21 支持層
23 グラウト
25 杭頭部
27 係合部
29 係止部
31 支圧板
35 ボックス部
37 中詰め材
Claims (5)
- 既設港湾岸壁の補強方法であって、岸壁の壁体前面の海底地盤を掘削する海底地盤掘削工程と、掘削した箇所に壁体を前面側から支持する壁体支持部材を施工する壁体支持部材施工工程と、前記壁体支持部材を貫通して杭体を打設する杭体打設工程と、杭体の頭部を前記壁体支持部材に連結する杭頭連結工程とを備えたことを特徴とする既設港湾岸壁の補強方法。
- 既設港湾岸壁の補強方法であって、岸壁の壁体前面の海底地盤を掘削する海底地盤掘削工程と、掘削した海底地盤に杭体を打設する杭体打設工程と、壁体を前面側から支持する壁体支持部材を杭体頭部に設置して両者を結合する壁体支持部材施工工程とを備えてなることを特徴とする既設港湾岸壁の補強方法。
- 壁体支持部材は、プレキャストコンクリート床版、鉄筋コンクリート床版、鉄骨部材、鉄骨コンクリート部材、鉄骨・鉄筋コンクリート部材のうちのいずれか1種以上からなり、壁体支持部材施工工程は前記壁体支持部材をコンクリート打設または組立施工を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の既設港湾岸壁の補強方法。
- 壁体支持部材施工工程は、壁体支持部材と壁体とを連結する連結施工工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の既設港湾岸壁の補強方法。
- 杭体打設工程は杭体が杭径300mm以下の小型杭を岸壁背面天端に設置した杭施工機械によって打設することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の既設港湾岸壁の補強方法。
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