JP5465368B2 - セルロースエステル及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、フィルム(偏光板の保護フィルム、カラーフィルタ、写真感光材料のフィルムなど)を形成するのに有用なセルロースエステルとその製造方法、並びにセルロースエステルで構成されたフィルムに関する。
セルロースエステルは光学的等方性に優れるため、写真感光材料の支持体、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、位相差フィルムやカラーフィルタなどとして利用されている。また、液晶表示装置の分野では、軽量化及び,薄手化が求められており、このような要求に伴って、液晶表示装置を構成する偏光板などについても薄手化が要求されている。
このようなセルロースエステルは、硫酸の存在下、パルプをアシル化剤でアシル化し、アルカリ土類金属塩を用いて部分中和し、加水分解又は熟成してアシル化度を調整した後、アルカリ土類金属を添加して総硫酸を中和することにより製造されている。この方法では、中和において、触媒硫酸(セルロースに結合した結合硫酸および遊離の硫酸の総和としての総硫酸)よりも過剰の中和剤を一度に添加している。このようにして得られたセルロースエステルは溶液製膜方法によりフィルム化されている。すなわち、セルロースエステルを有機溶媒に溶解して溶液(ドープ)を調製し、このドープを支持体に流延し、支持体上である程度乾燥させ、フィルム中の残留溶媒量を低減させた後、膜を支持体から剥離して乾燥することによりフィルムを製造している。このような溶液製膜方法において、セルロースエステルフィルムの生産性を向上させるには、金属支持体上に流延したベースを、高速かつ安定に剥離することが必要である。しかし、従来のセルロースエステルは金属支持体表面との密着力が高く、高速製膜過程で安定して剥離させることが困難である。また、剥離性の低下に伴ってセルロースエステルフィルムに光学的歪みが生じる。
特開平10−316701号公報(特許文献1)には、セルロースアセテート及び/又はヘミセルロースアセテートに結合したカルボキシル基のうち少なくとも一部が酸性で存在するセルロースアセテートが開示されている。この文献には、水溶液中の酸解離指数pKaが1.93〜4.5である酸を含むセルロースアセテートなども開示されている。特開2002−179838号公報(特許文献2)には、セルロースエステルを実質的に非塩素系の溶剤に溶解したセルロースエステル溶液であって、実質的に非塩素系の溶剤が、溶解度パラメーターが19〜21であるケトンと溶解度パラメーターが19〜21のエステルとの混合溶媒であり、水溶液中での酸解離指数が1.93〜4.50である酸又はそのアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩を含むセルロースエステル溶液が開示されている。この文献には、塩素系溶剤を用いることなく、支持体からの剥離性を改善できることが記載されている。これらの文献に記載の発明では、支持体からの剥離性を向上できるものの、グルコース単位の置換度分布をコントロールできないだけでなく、結合硫酸の濃度を低減することができない。
特開2000−314811号公報(特許文献3)には、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnの値が3.0〜5.0であり、カルシウム成分の量が60ppm以下、マグネシウム成分の量が70ppm以下のセルロースエステルを含む光学フィルムが開示されている。この文献には、セルロースエステルが綿花リンターを主原料とすることも記載されている。特開2002−40244号公報(特許文献4)には、数平均分子量Mnが5×104〜13×104、重量平均分子量Mwが13×104〜29×104、アルカリ土類金属の含有量が30ppm以下であるセルロースエステル(セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなど)を含む光学フィルムが開示されている。しかし、これらの方法では、アルカリ土類金属の含有量が少ないため、耐熱性(特に耐熱加水分解性)が低下する。
特開平11−5851号公報(特許文献5)には、2位、3位及び6位のアセチル置換度の合計が2.67以上(例えば、2.77以上)であり、かつ2位及び3位のアセチル置換度の合計が1.97以上(2.96以下)であるセルロースアセテートを含むフィルムが開示されている。この文献には、上記セルロースアセテートを用いると冷却溶解法により安定な溶液を調製でき、流延法により厚み方向のレターデーション値が小さく偏光板保護膜として適したフィルムが得られることが記載されている。また、この文献の実施例には、セルローストリアセテートの製造方法として、セルロースをアセチル化した後、硫酸の一部を酢酸マグネシウムで中和し、30分間で60℃に昇温させ、部分中和した生成物に酢酸マグネシウムを添加して70℃で30分間に亘り熟成し、熟成反応終了後、過剰の酢酸マグネシウムを添加して硫酸を完全に中和し、反応を停止したことも記載されている。しかし、この文献の方法でも結合硫酸の濃度を大きく低減できず、高置換度のセルロースアセテートを得ることが困難である。
特開2002−212338号公報(特許文献6)には、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70〜1.90であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレート及びそのフィルムが開示されている。この文献には、上記セルロースアシレートを用いると、経時安定性に優れ、実用的な濃度領域で粘度の低いセルロースアシレート溶液が得られるとともに、流延法により表面平滑性の高いフィルムが得られることが記載されている。この文献には、上記特性を有するセルロースアシレートの製造方法は記載されていない。
特開2002−338601号公報(特許文献7)には、セルロースを溶媒中で触媒の存在下、酢酸又は無水酢酸と反応させてセルロースアセテートを合成する工程、セルロースアセテートを、アセチル基供与体、アセチル基供与体の0.1〜10モル%の水又はアルコール及び触媒の存在下で熟成させる工程からなるセルロースアセテートの製造方法が開示されている。この文献には、2−位及び3−位のアセチル置換度の合計と、6−位のアセチル置換度とを調整できると共に、2−位のアセチル置換度と3−位のアセチル置換度も調整でき、有機溶媒に対する溶解性とドープの粘度を調整でき、光学的特性に優れるフィルムが得られることが記載されている。しかし、この文献に記載の方法では、結合硫酸基量が大きくなり、セルロースエステル中の結合硫酸を含む残存硫酸の量を低減することが困難である。また、結合硫酸基量を低減するためには、相当の長時間または高温度での熟成反応を行う必要があり、高い置換度、具体的には2−位及び3−位、特に6−位でのアシル基置換度の高い酢酸セルロースを得ることが困難となる。そして、結合硫酸濃度が高いため、安定化に要するアルカリ土類金属の使用量も増大し、フィルムのヘーズやイエローネスインデックスが高くなるとともに、金属支持体に対する剥離性も低下する。そのため、金属支持体からの剥離に伴って光学的歪みが生じやすい。
特開2002−131536号公報(特許文献8)には、偏光板の保護フィルムの製造方法に関し、アセチル基の置換度が1.75〜2.15、プロピオニル基の置換度が0.60〜0.80、アルカリ土類金属の含有量が1〜50ppm、残留硫酸量(硫黄元素の含有量として)が1〜50ppm、遊離酸量が1〜100ppmであるセルロースエステルを有機溶媒に溶解させ、支持体に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する方法が開示されている。この文献には、上記特性を有するセルロースエステルの具体的な製造方法が記載されていない。なお、特許文献8のように残存硫酸成分を低減するためには、触媒硫酸量を低減すればよい。しかし、セルロースのアシル化反応とともに、セルロースの解重合反応が平行して生じるため、触媒硫酸量を低減すると、セルロースエステルの分子量が低下するとともに分子量分布が広くなる。そのためか、前記特許文献8の実施例では固有粘度の低いセルロースエステルしか記載されていない。さらに、触媒硫酸量を低減すると、反応が均一に進行しないため、アシル化度のバラツキが大きくなる。そのため、触媒硫酸量を低減すると、セルロースエステルの溶解特性、ドープの粘度特性、機械的又は光学的特性を高めることが困難である。
特開平10−316701号公報(特許請求の範囲、段落番号[0057][0058]) 特開2002−179838号公報(特許請求の範囲、段落番号[0066]) 特開2000−314811号公報(特許請求の範囲) 特開2002−40244号公報(特許請求の範囲) 特開平11−5851号公報(特許請求の範囲、段落番号[0005]) 特開2002−212338号公報(特許請求の範囲、段落番号[0007]) 特開2002−338601号公報(特許請求の範囲、段落番号[0012]) 特開2002−131536号公報(特許請求の範囲)
従って、本発明の目的は、触媒硫酸量を低減することなく、グルコース単位の6−位でのアシル基置換度を高めつつ結合硫酸(セルロースの水酸基にエステル結合で導入された硫酸)の量を低減できるセルロースエステルの製造方法、及びこの方法で得られたセルロースエステルを提供することにある。
本発明の他の目的は、分子量の低下を抑制しつつ、結合硫酸を含む残存硫酸成分の量を低減でき、金属支持体に対する剥離性及び湿熱安定性を改善できるとともに、光学的特性を改善できるセルロースエステルとその製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の使用量を低減しても湿熱安定性を改善できるとともに、金属支持体に対する剥離性が高く、光学的特性を改善できるセルロースエステルとその製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、グルコース単位におけるアシル基の置換度分布が制御され、非ハロゲン系溶媒に対する溶解性及び濾過性能の高いセルロースエステル及びその製造方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、前記特性を備え、光学フィルムなどの種々の用途に利用できるセルロースエステルフィルムを提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、エステル化工程が終了した後、水又は塩基(通常、水溶液の形態の塩基)を添加して、熟成工程において、所定量の塩基(例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物)を連続的に添加して、残存硫酸の存在下、熟成するか、又は塩基を添加して、残存硫酸の存在下、熟成する操作を3以上の複数回に亘り繰り返すと、触媒硫酸量を低減しなくても、アシル基の平均置換度(グルコース単位の6−位での平均置換度)を低下させることなく、結合硫酸量を大きく低減できること、および熟成工程の開始において、当初の触媒硫酸量を中和により低減して熟成すると、使用する触媒硫酸量が同じであっても、最終的なセルロースエステル中の結合硫酸量を含む残存硫酸量を大きく低減できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の方法では、硫酸触媒の存在下、セルロースをアシル化剤でアシル化した後、熟成するセルロースエステルの製造方法であって、熟成工程において、反応開始から反応の停止までに、連続的塩基を添加するか又は少なくとも3回に分けて間欠的に塩基を添加することにより、セルロースエステルを製造する。この方法において、熟成工程の反応開始後、反応の停止までの間に、塩基を添加する操作を少なくとも4回繰り返してもよい。熟成工程での反応(熟成反応)は、アシル基の平均置換度の低下を防止するため、温和な条件、例えば、温度20〜60℃程度で行ってもよい。また、熟成工程の反応開始時に、当初の硫酸触媒量に対して25〜90当量%の塩基を添加してもよい。また、連続的又は間欠的な塩基の添加により、当初の硫酸量(触媒硫酸量)を10〜75重量%(例えば、30〜70重量%)程度に低減して熟成反応を行ってもよい。
本発明は、硫酸触媒の存在下、セルロースをアシル化剤でアシル化した後、熟成するセルロースエステルの製造方法であって、熟成工程で、塩基を連続的又は間欠的(又は段階的)に添加して反応系中の硫酸量[S]を下記式で表される量に制御するセルロースエステルの製造方法も含む。
[S]=2/[a(k×t+4/[S]0)]
(式中、[S]は原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、[S]0は塩基添加前の原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、係数aは0.5〜2、係数kは0.01〜0.1、tは、連続的添加では塩基添加開始からの経過時間(分)、間欠的添加では塩基の添加からの経過時間(分)を示す)
上記方法は、熟成工程で、塩基を連続的又は間欠的(段階的)に添加して反応系中の硫酸量[S]を下記式で表される範囲に制御してもよい。
2/[a(0.1×t+4/[S]0)]≦[S]≦2/[a(0.01×t+4/[S]0)]
(式中、[S]は原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、[S]oは塩基添加前の原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、係数aは0.5〜2、tは、連続的添加では塩基添加開始からの経過時間(分)、間欠的添加では塩基の添加からの経過時間(分)を示す)
なお、上記方法において、塩基添加前又は中和前(t=0)の硫酸量は外挿により求めることができるが、実用的な観点からすると、上記製造方法は、塩基を連続的又は間欠的に添加し、塩基の添加から3分経過以内に反応系中の硫酸量[S]を下記式で表される範囲に制御してもよい。
2/(0.1×t+4/[S]0)≦[S]≦2/[0.6(0.01×t+4/[S]0
(式中、[S]は原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、[S]0は塩基添加前(又は中和前)の原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、tは、連続的添加では塩基添加開始からの経過時間(分)、間欠的添加では塩基の添加からの経過時間(分)を示す)
前記式において、[S]は熟成工程での残存硫酸量に対応し、[S]0は塩基の添加前又は中和前の残存硫酸量に対応する。
前記方法では、セルロースをアシル化剤でアシル化した後、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選択された少なくとも一種の塩基を所定量添加して熟成することができる。より具体的には、硫酸の存在下、セルロースと無水酢酸とを反応させてアセチル化した後、熟成してアセチル化度を調整し、セルロースアセテートを製造する方法であって、アセチル化した後(所定のアセチル化度に到達した後)、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選択された少なくとも一種の塩基を連続的に又は少なくとも3回に分けて間欠的に添加して、残存硫酸の存在下で、熟成する熟成工程と、反応系中の残存硫酸を完全に中和するための完全中和工程とを経てセルロースアセテートを製造してもよい。より具体的には、アシル化によりトリアシレートを生成した後、熟成工程で、前記塩基を連続的に添加して熟成する方法(残存硫酸の存在下で熟成する連続熟成方法)、又は熟成工程で、硫酸の一部を中和して残存硫酸の存在下で熟成する操作を少なくとも3回繰り返す方法(多段熟成方法)により熟成してもよい。さらに、連続熟成方法(又は連続熟成反応)と多段熟成方法(又は多段熟成反応)とを組み合わせてもよい。例えば、セルロースをアシル化した後、触媒硫酸の一部を塩基で中和し、残存硫酸の存在下、熟成する操作を少なくとも一回繰り返した後、塩基を連続的に添加して熟成してもよく、セルロースをアシル化した後、塩基を連続的に添加して熟成した後、塩基を添加し、残存硫酸の存在下、熟成する操作を少なくとも一回繰り返してもよい。前記連続的又は複数回に亘る熟成反応は、塩基を添加して、残存硫酸量を制御しつつ、熟成することにより行うことができる。換言すれば、塩基を複数回に分けて添加する場合、熟成工程では、残存硫酸の一部を塩基で中和して熟成する操作を繰り返し行うことができ、各反応(熟成反応)では、塩基の添加により、残存硫酸量を順次低減して熟成できる。
なお、熟成工程において、複数回に分けて塩基を添加する場合(又は部分中和する場合)、初回の塩基の添加により残存硫酸量の20〜80重量%(例えば、40〜60重量%)、好ましくは45〜55重量%程度を中和してもよい。
このような方法では、触媒硫酸の使用量を低減することなく、セルロースエステル中の残存硫酸量(特に結合硫酸量)を大きく低減できる。そのため、本発明では、アセチル化などのアシル化の硫酸触媒の使用量が原料セルロース100重量部に対して5〜15重量部であり、硫酸量に対して、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選択された少なくとも一種の塩基を連続的若しくは間欠的(又は複数回)に分けて(例えば、1回当たり0.1〜0.9当量)添加することにより、セルロースエステル中の残存硫酸量(特に結合硫酸量)を200ppm以下(例えば、10〜200ppm程度)、特に150ppm以下(例えば、10〜150ppm程度)に低減してもよい。また、このような方法では、脱アシル化に比べて脱硫酸エステル化を比較的選択的に進めることができるため、置換度、具体的にはグルコース単位の2−位、3−位及び6−位(特に6−位)でのアシル基平均置換度が高く、しかも残存硫酸量(又は結合硫酸量)が少ないセルロースエステルを得ることが可能である。例えば、グルコース単位の6−位のアシル基平均置換度が0.91〜1.0程度であり、かつ残存硫酸量(又は結合硫酸量)が、150ppm以下(例えば、10〜150ppm程度)、好ましくは130ppm以下(例えば、20〜130ppm程度)のセルロースエステルを得ることができる。
本発明の方法で得られたセルロースエステルは、グルコース単位の2−及び3−位のアシル基平均置換度が大きく、グルコース単位の2−位、3−位及び6−位のアシル基平均置換度が下記式(I)及び(II)を満足するとともに残存硫酸量が150ppm以下(例えば、10〜150ppm程度)、特に130ppm以下(例えば、20〜130ppm程度)である。
DS2+DS3≧1.95 (I)
DS6≧0.91 (II)
(式中、DS2はグルコース単位の2−位のアシル基平均置換度、DS3はグルコース単位の3−位のアシル基平均置換度、DS6はグルコース単位の6−位のアシル基平均置換度を示す。)
また、塩基として少なくともカルシウム成分を用いた場合、カルシウム含量10〜110ppm、残存硫酸量10〜150ppm、残存硫酸に対するカルシウムの化学当量比0.5〜3.0、粘度平均重合度230〜380、および平均酢化度58〜62.5%のセルローストリアセテートを得ることもできる。
さらに、触媒硫酸量を低減することなくセルロースをアシル化できるので、前記方法で得られたセルロースエステルは分子量の低下が少ないだけでなく、アシル化度(酢化度など)のバラツキが少ない。そのため、セルロースエステルの赤外線吸収スペクトルにおいて波数3450〜3550cm-1に吸収極大を有し、この吸収極大の吸収帯の半値幅が135cm-1以下である。
本発明は、前記方法で得られたセルロースエステルで構成されているセルロースエステルフィルム(例えば、光学フィルムなど)も包含する。このフィルムは、液晶表示装置用光学補償フィルム、偏光板の保護フィルムなどであってもよい。
なお、本明細書において、「結合硫酸」とは、セルロースに結合した硫酸(硫酸エステルなどの硫酸基やスルホン酸基として結合した結合硫酸成分)を意味する。「総硫酸」とは、結合硫酸、遊離の硫酸などを総称し、「残存硫酸」、「残存硫酸成分」又は単に「硫酸」という場合がある。また、「反応系中の硫酸」とは、塩基の添加により中和された硫酸塩(又は析出した硫酸塩)に対応する硫酸は含まず、遊離の硫酸および結合硫酸を意味する。
さらに、「残存硫酸」とは、(i)反応系においては、前記「反応系中の硫酸」と同じ意味であり、(ii)生成物としてのセルロースエステルに対して用いる場合、結合硫酸、遊離の硫酸、および塩基の添加により中和された硫酸塩などに対応する硫酸(H2SO4)を含む意味に用いる。
また、本明細書において、「熟成」又は「熟成工程」とは、セルロースをアシル化した後、アシル化反応系に水、水溶液(例えば、水および有機カルボン酸類との水溶液など)及び/又は塩基(通常、水溶液の形態の塩基)を添加してアシル化剤を分解しつつ反応系に水を存在させ、硫酸触媒(又は残存硫酸触媒)の存在下で、脱アシル化及び脱硫酸エステル化を行うことを意味する。すなわち、熟成工程における「熟成反応」では、脱アシル化反応と脱硫酸エステル反応とが、互いに競争的に進行しているようである。そのため、本明細書において、「脱アシル化」、「脱硫酸エステル化」とは、特に断りのない限り、「脱アシル化および脱硫酸エステル化」を含む意味に用いる。
さらに、本明細書において、「熟成反応の開始」又は「熟成工程の反応開始」とは、水又は塩基(又は塩基の水溶液)を添加し、水の存在下、熟成(脱アシル化及び脱硫酸エステル化)を開始させることを意味する。「熟成反応」は、アシル化反応の停止とともに、又はアシル化反応を停止し、所定の温度(例えば、20〜60℃程度)に昇温した後、開始する場合が多く、「アシル化反応の停止」と「熟成反応の開始」とを同意に用いる場合がある。また、「熟成反応の停止」又は「熟成工程の反応停止」とは、反応系に残存する硫酸成分(結合硫酸を含む)、すなわち、前記「反応系中の硫酸」を過剰量の塩基で完全に中和することを意味する。なお、「熟成反応の開始」(又は「熟成工程の反応開始」)および「熟成反応の停止」(又は「熟成工程の反応停止」)のために塩基(塩基の水溶液)を添加する場合は、熟成(脱アシル化及び脱硫酸エステル化)のための塩基の添加回数としてはカウントされない。「原料セルロース」とはアシル化前の原料セルロースを意味し、アシル化のために添加した硫酸触媒の量は、通常、塩基添加までの間に変動せず失われない。
本発明では、連続的又は間欠的に塩基を添加し、連続的又は複数回に亘り熟成反応を行うため、触媒硫酸量を低減することなく、グルコース単位の6−位でのアシル基置換度の割合が高いにも拘わらず、結合硫酸(又は残存硫酸)の量を低減できる。また、分子量の低下を抑制しつつ、残存硫酸成分の量を低減できる。すなわち、残存硫酸量の低減に伴って、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)の使用量を低減できるとともに、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が少なくても高い耐湿熱安定性を備えている。さらに、金属支持体に対する剥離性が高く、光学的特性を改善できる。また、イエローネスインデックスやヘーズ値を大きく低減できる。さらに、グルコース単位におけるアシル基の平均置換度分布を制御でき、非ハロゲン系溶媒に対する溶解性及び濾過性能を改善できる。そのため、光学フィルムなどのフィルム(偏光板の保護フィルム、光学補償フィルムなど)などの材料として有用である。
[セルロースエステルの製造方法]
セルロースエステルは、硫酸触媒の存在下、セルロースをアシル化剤でアシル化した後、熟成することにより製造できる。すなわち、セルロースエステルは、必要によりセルロースを活性化処理した後、硫酸触媒の存在下、セルロースをアシル化剤でアシル化した後、熟成(又は加水分解)することにより製造できる。より詳細には、セルロースエステル(セルロースアセテートなど)は、通常、セルロースをアシル基に対応する有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理(活性化工程)した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(無水酢酸など)によりトリアシルエステル(トリアセテートなど)を調製し(アシル化工程)、水又は塩基(通常、水溶液の形態の塩基)を添加してアシル化反応を停止させ、水および硫酸触媒(又は残存硫酸触媒)の存在下で、熟成(又は加水分解又はケン化)することによりアシル化度を調整する(脱アシル化工程又はケン化・熟成工程)ことにより製造できる。なお、一般的なセルロースエステルの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。
前記セルロース(パルプ)としては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)や綿花リンターなどが使用できる。これらのセルロースは単独で又は二種以上組み合わせてもよく、例えば、針葉樹パルプと、綿花リンター又は広葉樹パルプとを併用してもよい。セルロースとしては、通常、パルプ(特に針葉樹パルプ)を用いる場合が多い。なお、綿花リンターは剥離性を改善するためには有用であるものの、入手が困難であるとともに高価であるため、セルロースエステルフィルムの工業的製造には不利である。一方、木材パルプは安価であるが、流延法(溶液成膜法)において支持体からの剥離性が劣り、高速製膜には適さない。そのため、パルプとしては、構成糖成分全体に対して高いマンノース含量のパルプ及び/又はマンノース含量に対するキシロース含量の低いパルプを用いるのが有利である。セルロースを構成する糖鎖成分(又は構成糖成分)において、マンノース(マンノース骨格又はマンノース単位)の含量(モル%)は、0.4以上(例えば、0.4〜2.5)、好ましくは0.5〜2(例えば、0.5〜1.5)、さらに好ましくは0.6〜1.5程度である。また、マンノース含量に対するキシロース含量の割合(モル比)は、通常、3未満、例えば、0.3〜2.8、好ましくは0.3〜2程度であり、0.5〜1.5程度であってもよい。なお、セルロースは、キシロース(キシロース骨格又はキシロース単位)をも含んでいてもよく、キシロース含有量(モル%)は、例えば、0.5〜3、好ましくは0.7〜2、さらに好ましくは0.8〜1.5程度である。なお、セルロース及びセルロースエステルにおいて、マンノース含量及びキシロース含量は、特開平10−130301号公報の段落番号[0008][0009]に記載の方法で定量できる。
なお、セルロースのα−セルロース含有量(重量%)は、通常、94〜99(例えば、95〜99)、好ましくは96〜98.5(例えば、97.3〜98)程度であってもよい。
さらに、パルプ(例えば、針葉樹パルプ)100g当たりのカルボキシル基濃度(meq/100g)は、例えば、0〜3.0、好ましくは0.2〜2.5(例えば、0.5〜2.5)、さらに好ましくは0.4〜2.0程度であり、1.5〜3.0程度であってもよい。セルロース中のカルボキシル基含量は、TAPPI Standard T237 om-83により測定できる。
活性化工程は、例えば、有機カルボン酸や含水有機カルボン酸(酢酸や含水酢酸)の噴霧や、有機カルボン酸や含水有機カルボン酸への浸漬などによリ、セルロースを処理することにより行うことができる。有機カルボン酸(酢酸など)の使用量は、セルロース100重量部に対して10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜60重量部程度である。
アシル化触媒としての硫酸の使用量は、通常、原料セルロース100重量部に対して、1〜15重量部程度の範囲から選択でき、通常、5〜15重量部(例えば、5〜12重量部)、好ましくは7〜13重量部、さらに好ましくは5〜10重量部程度である。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2-6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。これらのアシル化剤(酸無水物など)は単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。好ましいアシル化剤は、C2-4アルカンカルボン酸無水物、特に少なくとも無水酢酸を含む。好ましい態様において、アシル化工程では、無水酢酸と反応させてセルロースをアセチル化する。
アシル化工程(アセチル化工程などのエステル化工程)でのアシル化剤(無水酢酸など)の使用量は、前記アシル化度に応じて選択でき、例えば、セルロース100重量部に対して230〜300重量部、好ましくは240〜290重量部、さらに好ましくは250〜280重量部程度である。
アシル化工程において、通常、溶媒又は稀釈剤として有機カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸などのC2-6アルカンカルボン酸など)が使用される。有機カルボン酸(酢酸など)の使用量は、例えば、セルロース100重量部に対して200〜700重量部、好ましくは300〜600重量部、さらに好ましくは350〜500重量部程度である。なお、アシル化反応は、慣用の条件、例えば、0〜50℃(例えば、5〜40℃)程度の温度で行うことができる。
アシル化反応によりセルロースエステル(特に、セルローストリアセテートなどのセルローストリアシレート)を生成させることができる。そして、所定のアシル化度(特に、アセチル化度)に到達した後、アシル化反応を停止し、硫酸(残存硫酸)を熟成触媒(又は脱アシル化触媒)として利用して、所定量の塩基(特に無機塩基)を添加して残存硫酸成分を部分中和しつつ、熟成(又は加水分解)する。なお、本明細書において、「部分中和」とは、熟成工程において塩基を添加して行う中和を意味し、アシル化反応の停止(および熟成反応の開始)のために添加する塩基による中和を含まない。
なお、アシル化反応を停止するため、前記のように、水、水溶液[例えば、水とカルボン酸類(特にアシル化剤に対応するカルボン酸など)との混合溶媒]を反応系に添加したり、前記塩基(通常、塩基の水溶液)を添加し、アシル化剤を失活させるとともに、反応系に水を存在させる場合が多い。水の添加量は、アシル化剤の残存量に応じて選択でき、例えば、アシル化剤の残存量1モルに対して1.2〜3モル、好ましくは1.5〜2.5モル程度である。なお、高置換度のセルロースエステルを得るためには、前記混合溶媒(例えば、酢酸水溶液)を用いるのが有利である。混合溶媒中のカルボン酸類の含有量は、例えば、20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%程度であってもよい。
塩基としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、遷移金属化合物、アンモニアなどが例示できる。アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど)、有機酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩など)などが例示できる。アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなど)、炭酸塩(炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなど)、有機酸塩(酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどの酢酸塩など)などが例示できる。遷移金属化合物としては、鉄、銅、アルミニウム、亜鉛などの遷移金属の水酸化物、有機酸塩(酢酸塩など)などが例示できる。これらの塩基は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの塩基のうち、通常、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選択された少なくとも一種の塩基を使用する場合が多い。特に、ナトリウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物から選択された塩基(好ましくは少なくともマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物)を用いる場合が多い。なお、塩基は粉粒体の形態で用いてもよいが、通常、液体(水溶液など)の形態で用いる場合が多い。
なお、上記塩基(塩基の水溶液)を一括して添加して中和(部分中和)しても、残存硫酸成分(特に結合硫酸基濃度)を低減することが困難である。そこで、本発明では、熟成工程において、反応系に所定量の塩基を連続的に添加するか又は複数回に分けて間欠的(又は段階的)に添加して部分中和し、連続的に又は複数回に亘り熟成反応(脱アシル化および脱硫酸エステル反応)を行う。本発明では、連続的又は間欠的な添加(又は添加方法)により反応系の硫酸量を低減し、セルロースエステル結合の形態で導入された硫酸(硫酸エステル基)を脱離させることができる。すなわち、脱アシル化反応と脱硫酸反応とは、前記のように、競争反応であるようである。このような反応系において、連続的又は間欠的な塩基の添加により、残存硫酸成分(結合硫酸など)の脱離効率を選択的に高めることができ、生成した硫酸金属塩を硫酸成分として除去できる。特に、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を添加すると、反応系で不溶性硫酸金属塩(特に、硫酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属硫酸塩)が生成し、析出とともに硫酸成分を反応系から除去できる。
なお、所定の形態(水溶液などの液体、粉体などの形態)で、塩基を反応系に短いインターバルをおいて滴下又は添加することにより、塩基を実質的に連続して添加できる。複数回に分けて塩基を添加する場合、塩基の添加回数は、少なくとも3回(例えば、3〜100回)、好ましくは4回以上(4〜100回)、さらに好ましくは5回以上(5〜100回)であってもよい。工業的に有利に熟成を行うためには、少なくとも3回、例えば、3〜50回(例えば、3〜20回)、好ましくは4〜25回(4〜20回)程度である場合が多く、3〜10回程度であってもよい。当初の硫酸を塩基で部分中和して熟成(脱アシル化)する操作が2回以下であると、残存硫酸量(特に結合硫酸量)を大きく低減できないため、残存硫酸の中和に使用するためのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の使用量を低減できなくなるだけでなく、高置換度のセルロースエステルを得ることが困難である。また、金属の使用量を低減して湿熱安定性を改善することができず、金属支持体に対する剥離性、光学特性が低下しやすい。なお、塩基の添加は、熟成工程において、反応開始から反応停止までの間に行うことができる。すなわち、アシル化反応停止(又は熟成反応開始)および熟成工程の停止のための塩基の添加は、熟成工程での塩基の添加に含まない。
部分中和(熟成工程での塩基の添加)のための塩基の量は、反応系中の硫酸触媒1当量に対して、部分中和(又は中和操作)1回あたり0.1〜0.9当量、好ましくは0.2〜0.8当量、さらに好ましくは0.3〜0.7当量(例えば、0.3〜0.6当量)程度の範囲から選択できる。さらに、熟成工程では、このような部分中和をくり返すことができる。
前記塩基の添加様式は特に制限されず、等量の塩基を反応系に連続的又は間欠的に添加してもよく、熟成工程(又は熟成反応)の初期に塩基の添加量を多くし、後期に至るにつれて塩基の添加量を連続的又は間欠的(段階的)に低減してもよく、熟成工程の初期に塩基の添加量を少なくし、後期に至るにつれて塩基の添加量を連続的又は段階的に増加させてもよい。塩基の添加は、通常、熟成工程の後期よりも初期での塩基の添加量を多くする場合が多い。複数回に分けて塩基を添加する場合、好ましい態様では、初回(熟成工程における第1回目の塩基の添加)において、当初の硫酸触媒量(残存硫酸量)に対して10〜90当量%(好ましくは25〜90当量%、さらに好ましくは30〜70当量%、特に40〜60当量%)程度の塩基を添加して部分中和し、熟成反応(第1熟成反応)を行う場合が多く、20〜80当量%(例えば、45〜55当量%)程度の塩基を添加して部分中和し、熟成反応(第1熟成反応)を行ってもよい。このような塩基の添加(又は中和処理)により、当初の硫酸量を10〜75重量%(好ましくは30〜70重量%、さらに好ましくは40〜60重量%)程度に低減でき、結合硫酸を脱離しつつ、熟成反応を行うことができる。
熟成工程では、連続的又は間欠的に塩基を添加して行えばよいが、残存硫酸量を所定の範囲に制御しつつ行うのが好ましい。例えば、反応系中の残存硫酸量[S]を下記式(1)で表される量に制御しつつ、熟成反応を行うことができる。
[S]=2/[a(k×t+4/[S]0)] (1)
(式中、[S]は原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、[S]0は中和前(塩基添加前)の原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、係数aは0.5〜2、係数kは0.01〜0.1、tは、連続的添加では塩基添加開始からの経過時間(分)、段階的添加では塩基の添加からの経過時間(分)を示す。)
より具体的には、塩基を連続的又は間欠的(段階的)に添加して反応系中の硫酸量[S]を下記式(2)で表される範囲に制御し、熟成反応を行うことができる。
2/[a(0.1×t+4/[S]0)]≦[S]≦2/[a(0.01×t+4/[S]0)] (2)
(式中、[S]、[S]0、a、tは前記に同じ)
なお、前記式(1)及び(2)において、中和前(塩基添加前)の原料セルロース100重量部に対する硫酸量[S]0は塩基の添加条件(添加量、添加方法)と残存硫酸成分量との関係に基づいて外挿により求めることができるが、中和前の反応系中の硫酸量を実際に測定することは困難である。そのため、実用的な観点からすると、塩基を連続的又は段階的に添加する方法において、各塩基の添加(又は添加完了)から3分経過以内の反応系中の硫酸量(原料セルロース100重量部に対する硫酸量)[S]を下記式(3)で表される範囲に制御し、熟成反応を行ってもよい。すなわち、上記式(2)を下記式(3)に置き換えて反応系中の硫酸量を制御しつつ、熟成反応を行ってもよい。
2/(0.1×t+4/[S]0)≦[S]≦2/[0.6(0.01×t+4/[S]0)] (3)
(式中、[S]は原料セルロース100重量部に対する硫酸量(重量部)、[S]0は塩基の添加前(塩基添加前)の原料セルロース100重量部に対する反応系の硫酸量(重量部)、tは、連続的添加では塩基添加開始からの経過時間(分)、段階的添加では塩基の添加からの経過時間(分)を示す)
式(3)において、[S]0は、各塩基の添加(又は添加完了)から3〜5分経過後(特に3分経過後)の硫酸量(重量部)として測定する場合が多い。前記反応系中の硫酸量(重量部)は、反応系中の残存硫酸量(特に結合硫酸を含む残存硫酸成分量)を意味する。
前記式(1)〜(3)は、硫酸基の置換度と脱硫酸の速度との関係を示す反応速度論を基にして速度定数を求めることにより実験的に得られた関係式であり、塩基の添加からの経過時間t(連続的添加では塩基の添加開始からの経過時間(分)、段階的又は間欠的添加では各添加操作での塩基の添加終了からの経過時間(分)、例えば、式(3)では塩基の塩基添加終了から3〜5分後)において、塩基の添加前の反応系中の硫酸量(残存硫酸量)[S]0に対して、反応系中の硫酸量(残存硫酸量)[S]を所定の割合で低減させることを意味する。すなわち、式(1)〜(3)は、塩基の添加前の硫酸量(仕込み硫酸量又は残存硫酸量)[S]0に対して、塩基添加による中和初期(例えば、時間t=0)における硫酸量(残存硫酸量)[S]を所定割合(例えば、40〜60重量%、特に45〜55重量%)に低減させて(又は所定量の硫酸を残存させて)アシル化することを意味する。なお、第1回の塩基の添加前では、塩基の添加前の反応系中の硫酸量(残存硫酸量)[S]は反応に使用した硫酸の使用量(又は仕込量)に相当する。
熟成工程での反応(熟成反応)は、20〜90℃程度の範囲で行ってもよいが、アシル基の置換度を高いレベルに維持するためには温和な条件で行うのが好ましい。そのため、熟成工程での反応(熟成反応)は、例えば、温度20〜60℃(例えば、30〜60℃)、好ましくは25〜60℃(例えば、30〜55℃)、さらに好ましくは30〜55℃(例えば、40〜55℃)程度で好適に行ってもよい。
熟成反応は、必要であれば、他の酸触媒(プロトン酸、ルイス酸)を使用してもよいが、通常、残存硫酸を熟成反応の触媒として使用する場合が多い。熟成反応は、不活性ガス雰囲気中で行ってもよく、空気雰囲気中で行ってもよい。
このような連続的又は多段熟成反応(脱アシル化反応、脱硫酸エステル反応)によりアシル化度(アセチル化度など)を調整し、所定のアシル化度のセルロースエステル(セルロースアセテートなど)を生成できる。さらに、アシル化工程での触媒硫酸量を低減することなく、生成したセルロースエステル中の残存硫酸量(特に結合硫酸量)を大きく低減できるとともに残存硫酸量をコントロールできる。例えば、絶乾でのセルロースエステル中の残存硫酸量(硫黄に基づく硫酸換算の量)を200ppm以下(0〜200ppm、特に10〜200ppm)、通常、150ppm以下(例えば、10〜150ppm、特に20〜150ppm)、好ましくは130ppm以下(例えば、20〜130ppm)、さらに好ましくは120ppm以下(例えば、25〜110ppm以下)、特に100ppm以下(例えば、30〜100ppm程度)にまで低減でき、50〜150ppm(例えば、50〜100ppm)程度に低減することもできる。
残存硫酸量(又は総硫酸量)は、乾燥したセルロースエステルを1300℃の電気炉で焼き、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、規定水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、SO4 2-換算の量として測定する。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中の硫酸含有量としてppm単位で表される。
さらに、前記連続的熟成反応又は多段熟成反応では、アシル基の置換度の高いセルロースエステルが得られる。なお、熟成反応を所定量の水又はアルコールの共存下で行い、グルコース単位又は骨格の6−位での平均置換度をさらに高めてもよい。すなわち、特開2002−338601号公報に記載のように、アシル化剤(又はアシル基供与体)に対する水又はアルコールの割合が少ない条件で熟成反応を行うと、グルコース単位又は骨格の2−位、3−位及び6−位のアシル基の平均置換度を調整できるとともに、6−位の平均置換度を高めることができる。熟成反応系での水又はアルコールの含有量はアシル化剤(又はアシル基供与体)に対して10モル%未満(例えば、1〜9モル%)、好ましくは8モル%以下(例えば、2〜8モル%)、さらに好ましくは3〜7モル%程度であり、通常、0.5〜7モル%程度である。
前記連続的熟成反応又は多段熟成反応では、グルコース単位の6−位でのアシル基の平均置換度の低下を抑制でき、グルコース単位の6−位でのアシル基平均置換度を高めることができる。グルコース単位の6−位でのアシル基平均置換度は、0.9〜1.0程度であってもよいが、通常、0.91〜1.0(例えば、0.915〜0.97)、好ましくは0.92〜0.98(例えば、0.92〜0.95)程度である。そのため、本発明の方法は、前記連続的熟成反応又は多段熟成反応により、グルコース単位の6−位の平均アシル基置換度の低下を抑制しつつ、残存硫酸量を低減する方法ということもできる。グルコース単位の6−位のアシル基平均置換度が大きな置換度分布を有するセルロースエステルは、溶媒に対する溶解性を高く、均一な溶液(又はドープ)を調製できる。
前記方法では、グルコース単位の2−位、3−位及び6−位のアシル基平均置換度が下記式(I)及び(II)を満足するセルロースエステルを生成させることができる。
DS2+DS3≧1.95 (I)
DS6≧0.91 (II)
(式中、DS2はグルコース単位の2−位のアシル基平均置換度、DS3はグルコース単位の3−位のアシル基平均置換度、DS6はグルコース単位の6−位のアシル基平均置換度を示す。)
好ましい態様では、DS2+DS3=1.95〜2.0(好ましくは1.96〜2.0、さらに好ましくは1.97〜2.0、特に1.97〜1.99)程度、DS6=0.91〜0.96(好ましくは0.92〜0.95)程度である。
なお、グルコース単位とアシル基の置換位置は下記式で表すことができる。
Figure 0005465368
熟成工程(又は熟成反応)の停止は、反応系中の残存硫酸を完全に中和(完全中和)するための完全中和工程を経ることにより行われる。すなわち、前記熟成反応の後、塩基(特に金属成分)で構成された中和剤(好ましくはアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物)を添加する場合が多い。通常、熟成工程(又は熟成反応)を停止させるため(又は反応系中の残存硫酸を中和するため)、前記塩基(特に過剰量の塩基)を添加して完全中和する場合が多い。なお、当初の硫酸量(触媒硫酸量、仕込み量)に対して残存硫酸量が1〜35重量%(例えば、15〜35重量%)、好ましくは1〜15重量%(例えば、5〜15重量%)、さらに好ましくは1〜10重量%程度(例えば、5重量%以下)に低減したとき、完全中和のための塩基(例えば、中和用塩基の残存量)を反応系に一括して添加してもよい。
反応生成物は、通常、洗浄、沈析などの操作による精製工程に供される。代表的には、反応生成物を水又は酢酸水溶液などに投入し、生成したセルロースエステル(沈澱物)を分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去する場合が多い。特に、前記熟成反応の後(完全中和の後)、セルロースエステルの耐熱安定性を高めるため、必要に応じてさらに、前記中和剤[好ましくはアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、特に少なくともカルシウム化合物(水酸化カルシウムなど)]を添加してもよい。また、反応生成物を水又は酢酸水溶液などに投入して生成したセルロースエステルを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。なお、水洗の際に中和剤を使ってもよい。
[セルロースエステル]
本発明のセルロースエステルは、脂肪族アシル基などを有する種々のセルロースエステルであってもよい。代表的なセルロースエステルとしては、C1-10アルキルカルボニル基を有するセルロースエステル、例えば、セルロースアルキルカルボニルエステル(セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC2-6アルキルカルボニルエステル類、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセチルC3-6アルキルカルボニルエステル類(脂肪族混酸エステル類))が例示できる。好ましいセルロースエステルは、セルロースC2-4アルキルカルボニルエステル類(特に、セルロースアセテート)やセルロースアセチルC3-4アルキルカルボニルエステル類(特に、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)である。光学フィルム分野においては、諸特性に優れるセルロースアセテート(セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)を用いる場合が多い。これらのセルロースエステルは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
セルロースエステルにおいてアシル基の平均置換度は、例えば、1.5〜3(例えば、2〜3)、好ましくは2.5〜3、さらに好ましくは2.7〜3程度である。なお、混酸エステルにおいて、アセチル基の平均置換度は、例えば、1〜2.9(好ましくは1.5〜2.8、さらに好ましくは1.7〜2.7)程度、C3-6アシル基の平均置換度は、例えば、0.1〜1(好ましくは0.2〜0.8、さらに好ましくは0.3〜0.8)程度であってもよい。セルロースエステルのうちセルロースアセテートの平均酢化度は、用途や特性に応じて、例えば、43.7〜62.5%(アセチル基の平均置換度1.7〜3)程度の範囲から選択でき、通常、57.5〜62.5%(アセチル基の平均置換度2〜3)、好ましくは58〜62.5%(例えば、58.8〜61.3%)程度である。寸法安定性や耐湿性、耐熱性などが高く、写真材料や光学材料として用いるためには、平均酢化度58〜62.5%、好ましくは58.5〜62%、さらに好ましくは59〜62%(例えば、60〜61%)程度のセルローストリアセテートを用いるのが有利である。
なお、アシル化度は慣用の方法で測定でき、例えば、酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従って測定できる。
本発明では、触媒硫酸の使用量を低減することなく、残存硫酸量を低減できる。そのため、セルロースエステルの溶解特性、ドープの粘度特性や機械的特性を損なうことなく、セルロースエステルの耐熱性、耐熱水性や耐加水分解性を向上できるとともに、酢酸などの有機酸臭を抑制できる。さらに、中和に要する中和剤(カルシウム成分などのアルカリ土類金属化合物など)の使用量も低減でき、フィルムの光学的特性(ヘーズやイエローネスインデックスなど)を改善できる。
なお、従来の方法では、残存硫酸成分の量が多くなるとともに、中和に要する中和剤(カルシウム成分など)の使用量も増大し、セルロースエステル溶液及びフィルムのヘイズが高くなったり、イエローネスインデックスが高くなる。これに対して、本発明では、残存硫酸量を低減できるため、中和剤(特にカルシウム成分)の使用量も低減できる。本発明のセルロースエステルにおいてカルシウム成分の含有量(重量基準)は、小さく、10〜130ppm程度の範囲から選択でき、例えば、10〜110ppm(例えば、15〜100ppm)、好ましくは20〜90ppm(例えば、25〜80ppm)、さらに好ましくは30〜70ppm(例えば、35〜70ppm、特に40〜65ppm)程度であってもよい。
なお、耐熱安定性を高めるため、セルロースエステルは、通常、アルカリ金属(カリウム、ナトリウムなど)やアルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなど)などの金属成分を含んでいる。これらの金属成分は、金属支持体に対する親和性が高く、金属支持体からの流延乾燥膜の剥離性を大きく損なうとともに、フィルムの光学的特性をも損なう。この詳細な機構は明確ではないが、セルロースのアシル化において触媒硫酸により残存硫酸又は結合硫酸成分(硫酸エステル基やスルホン酸基)が生成するとともに、セルロースエステルはセルロースに由来してカルボキシル基を有している。硫酸エステル基やスルホン酸基は酸性基であるため、中和されずに残留するとセルロールエステル自体の加水分解を促進する。そこで、安定性(特に耐熱安定性)を付与するため、前記のように、中和工程やその後の工程において、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物の耐熱安定剤、特にカルシウム成分(カルシウム塩など)を添加すると、上記スルホン酸基とともにカルボキシル基はカルシウム塩を形成する。しかし、これらのカルシウム塩が金属支持体に対する密着性を高め、剥離性を低減させる。そのため、安定性を損なわない範囲で、カルシウム成分の含有量を低減することが有用である。
さらに、セルロースエステルの安定性を高めるとともに、金属支持体に対する密着性を低減するため、残存硫酸(又は総硫酸、特に結合硫酸成分)の化学当量(硫酸換算での化学当量)に対するカルシウムの化学当量比(Ca/SO4比)は、例えば、0.5〜3.0、好ましくは1.0〜2.8、さらに好ましくは1.2〜2.6(例えば、1.3〜2.5)程度であってもよい。特に、Ca/SO4比は、剥離性が許容できる範囲であれば1.5〜2.5程度であってもよく、剥離性に問題が生じる場合(例えば、総硫酸量が比較的多い場合)には1.0〜1.5程度であってもよい。
なお、流延速度の調整などにより剥離性に問題が生じない場合には、耐熱安定性の観点から、Ca/SO4比は、比較的大きいのが好ましく、例えば、1.5〜3.0、好ましくは1.5〜2.5程度であってもよい。また、剥離性に問題を生じる場合はカルシウムの含有割合を低減する必要があるが、耐熱安定性の観点から、Ca/SO4比は、少なくとも0.5(例えば、0.5〜1.5程度)、好ましくは少なくとも0.6(例えば、0.6〜1.2程度)、さらに好ましくは少なくとも0.7(例えば、0.7〜1.0程度)の範囲から選択してもよい。
なお、セルロースエステルは、必要であれば、カルシウム以外の金属成分、例えば、アルカリ金属(カリウム、ナトリウムなど)やアルカリ土類金属(マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなど)を含んでいてもよい。金属成分(特にアルカリ土類金属成分)の総含有量は、剥離性や光学的特性を損なわない範囲で選択できる。
カルシウムなどの金属含量は、乾燥したセルロースエステルを完全に燃焼させた後、灰分を塩酸に溶解させる前処理を施し、得られた試料について原子吸光法により測定できる。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中の金属含有量としてppm単位で表される。なお、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理した後、ICP−AES(誘電結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析することによっても測定できる。
総硫酸に対するカルシウムの化学当量比[Ca/SO4比]は、カルシウムの含有量と硫酸量からCa/SO4比率をモル比として算出する。すなわち、上記硫酸量を96で除することにより、セルロースエステル1g中の硫酸含有量をmol単位で表すことができ、カルシウム含有量を40.1で除することにより、セルロースエステル1g中のカルシウム含有量をmol単位で表すことができる。
本発明のセルロースエステル(セルロースアセテートなど)は、セルロースの解重合及び分子量の低下を抑制できるため、重合度及び分子量が比較的高い。セルロースエステルの粘度平均重合度は、200〜400(例えば、230〜380)、好ましくは250〜400、さらに好ましくは270〜400(例えば、270〜350)程度である。
粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。なお、溶媒はセルロースエステルのアシル化度などに応じて選択できる。例えば、セルローストリアセテートの場合には、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液にセルローストリアセテートを溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製し、この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定する。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間t0(秒)を測定し、下記式に従って、粘度平均重合度を算出できる。
ηr e l=t/t0
[η]=(lnηr e l)/c
DP=[η]/(6×10- 4
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルローストリアセテート濃度(g/L)、ηr e lは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは平均重合度を示す)。
なお、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒を用いたとき、セルローストリアセテートの6重量%溶液粘度は、例えば、200〜700mPa・s、好ましくは250〜600mPa・s、特に250〜500mPa・s程度である。
さらに、本発明のセルロースエステルは、前記のように、グルコース単位に対する所定の置換度分布(グルコース単位の6−位の平均置換度が大きな分布)を有していてもよい。このような置換度分布は、公知の方法で測定できる。例えば、セルロースアセテートについて、グルコース単位の2,3,6−位のアセチル基の平均置換度は、セルロースアセテートをプロピオニル化した後、13C−NMRを測定することにより求めることができる。測定方法については、手塚ら(Carbohydr. Res. 273 (1995) 83-91)及び特開2002−338601号公報を参照できる。
溶解性が高く粘度調整が容易なセルロースエステルは、赤外線吸収スペクトルにおいて波数3450〜3550cm-1(好ましくは3455〜3540cm-1、さらに好ましくは3460〜3530cm-1)に吸収極大を有し、この吸収極大の吸収帯の半値幅は135cm-1以下(好ましくは130cm-1以下、さらに好ましくは125cm-1以下)である。赤外線吸収スペクトルの吸収帯及び半値幅の解析については、「高分子の構造」(田所宏行,化学同人社1976年発行、第219頁〜221頁)及び特開2002−338601号公報を参照できる。
セルロースエステル(セルロースアセテートなど)は、パルプの漂白やヘミセルロース(マンノース単位及びキシロース単位を含むセルロース)に起因して、カルボキシル基を有していてもよい。セルロースエステル100g当たりのカルボキシル基濃度(meq/100g、セルロース換算)は、例えば、0〜2.0、好ましくは0.1〜1.5(例えば、0.5〜1.5)、さらに好ましくは0.3〜1.2(例えば、0.7〜1.2)程度であり、0.4〜1.5(例えば、0.4〜0.9)程度であってもよい。
セルロースエステル中のカルボキシル基含量(セルロース換算)は、例えば、次のようにして測定できる。
塩化メチレン及びメタノールの混合溶液(塩化メチレン/メタノール=9/1(重量比))に、乾燥したセルロースエステルをセルロースエステル濃度が5重量%になるように溶解する。前記溶液の約10g(セルロースエステル含量約0.5g)をメタノールに投入してセルロースエステルを沈殿再生させる。得られたセルロースエステル沈殿中の溶媒をメタノールで洗浄置換し、次いで水で洗浄置換した後、ガラスフィルターで軽く濾別し、回収した沈殿と付着した水との合計重量A(g)を測定する。この水湿潤状態のセルロースエステルに、420重量ppm濃度のメチレンブルークロライド水溶液14.5gとpH=8.5に調整したホウ酸緩衝液20gとを加えて、20〜25℃で2時間攪拌し、セルロースエステルのカルボキシル基にメチレンブルーを吸着させる。セルロースエステルをガラスフィルターを用いて濾別し、濾液を採取する。この濾液3gに、0.1N−塩酸3g及び水36gを加える。この溶液の664nm付近のピーク吸光度を測定する。一方、セルロースエステルを加えないで種々のメチレンブルークロライド濃度に調整した溶液の吸光度を測定し、吸光度とメチレンブルークロライド濃度との関係を調べ、得られた関係式から前記希釈濾液のメチレンブルークロライド濃度B(重量ppm)を求める。さらに、メチレンブルークロライドが吸着したセルロースエステルを水で3回洗浄した後、真空乾燥して絶乾重量C(g)を測定し、下記式よりセルロースエステル中のカルボキシル基含量を算出する。
カルボキシル基含量(meq/100gセルロースエステル)
=[6090−14×B×(34.5+A−C)]/(3739×C)
なお、置換基種及び置換度の異なるセルロースエステル間での比較を容易にするため、本明細書中では、セルロースエステル中のカルボキシル基含量はセルロース換算とする。すなわち、セルロースエステル中のカルボキシル基含量は、完全に加水分解分解すると100gのセルロースを生じるセルロースエステル量を基準とする。例えば、セルローストリアセテート(置換度3)の場合、100gを加水分解すると、56.25gのセルロースを生じるため、前記式に従って求めたカルボキシル基含量(セルロースエステル換算:meq/100g)に、100/56.25=1.778倍を乗じた値が、セルロースアセテート(置換度3)のカルボキシル基含量(セルロース換算:meq/100g)となる。
本発明のセルロースエステル(セルロースアセテートなど)は、イエローネスインデックス(Yellowness Index)及びヘーズ値が小さい。すなわち、セルロースエステルの黄色度の指標となるイエローネスインデックス(Yellowness Index,YI)は、例えば、1〜7(例えば、1〜6)、好ましくは1〜5(例えば、2〜4)程度である。
セルロースエステル(セルロースアセテートなど)のヘーズ値は、例えば、1〜5(例えば、1〜4)、好ましくは1〜3.5(例えば、2〜3.5)程度である。
なお、イエローネスインデックス(YI)、ヘーズおよび透明度は次のような方法で測定できる。
[イエローネスインデックス(YI)]
乾燥したセルロースエステル12.0gを正確に秤量し、溶媒(メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒やアセトンなど)88.0gを加えて完全に溶解させる(12重量%試料溶液)。色差計(日本電色工業(株)製,色差計Σ90)と、ガラスセル(横幅45mm,高さ45mm,光路長10mm)を用い、下記式によりYIを算出する。
YI=YI2 −YI1
(式中、YI1 は溶媒のYI値,YI2 は12重量%試料溶液のYI値を示す)。
[ヘーズ]
濁度計(日本電色工業製)を用い、ガラスセル(横幅45mm,高さ45mm,光路長10mm)を使用し、次のようにして測定する。上記と同様の溶媒をガラスセルに入れて濁度計にセットし、0点合わせと標準合わせを行う。次いで、ガラスセルに上記と同様にして調製した12重量%試料溶液を入れて濁度計にセットし、数値を読み取る。
本発明のセルロースエステルは、残存硫酸量(特に、結合硫酸量)が少なく、しかも金属成分(カルシウム成分など)の含量を低減できるため、金属支持体に対する高い剥離性を有すると共に光学的特性に優れる。しかも、残存硫酸成分の量が少なく、金属成分(特にカルシウム成分)を含むため、安定性、特に湿熱安定性(例えば40℃×90RH%で長時間(例えば1000時間)晒されたときの加水分解に対する安定性)や耐熱安定性も高い。また、成膜性や成形性も向上できる。
そのため、本発明のセルロースエステルは、種々の成形体(繊維などの一次元的成形体、フィルムなどの二次元的成形体、三次元的成形体)、例えば、セルロースエステルフィルムに利用するのに適している。例えば、溶液製膜方法(又はソルベントキャスト法)などによりフィルムを製造でき、紡糸により繊維を製造できる。特に、金属支持体に対する剥離性が高く、光学的特性に優れているため、セルロースエステルフィルム(特に薄膜化されたセルロースエステルフィルム)を高い生産性で製造するのに有用である。
[セルロースエステルフィルム及びその製造方法]
セルロースエステルフィルムの製造方法は、溶融製膜方法および溶液製膜方法のいずれであってもよいが、平面性に優れたフィルムを製造するためには、溶液製膜方法が好ましい。なお、フィルム成形や紡糸においては、通常、セルロースジアセテート乃至セルローストリアセテート(特にセルローストリアセテート)が使用される。
溶融製膜方法において、セルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと有機溶媒とを含むドープ(又は有機溶媒溶液)を剥離性支持体に流延し、生成した膜を剥離性支持体から剥離して乾燥することにより製造できる。
剥離性支持体は、通常、金属支持体(ステンレススチールなど)であり、ドラム状やエンドレスベルト状であってもよい。支持体の表面は、通常、鏡面仕上げされ平滑である。
ドープを調製するための有機溶媒は、塩素系有機溶媒(ジクロロメタン、クロロホルムなど)であってもよく非塩素系有機溶媒であってもよい。非塩素系有機溶媒としては、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなど)などが例示できる。これらの溶媒は単独で又は二種以上混合して使用でき、塩素系溶媒と非塩素系溶媒とを混合して使用してもよい。
ドープには、種々の添加剤、例えば、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、滑剤(微粒子状滑剤)、難燃剤、離型剤などを添加してもよい。
なお、ドープは、慣用の方法、例えば、高温溶解法、冷却溶解法などを利用して調製できる。ドープ中のセルロースエステル濃度は、10〜35重量%、好ましくは15〜25重量%(例えば、18〜23重量%)程度であってもよい。また、高品質フィルム(液晶表示装置用フィルムなど)を得るため、ドープは濾過処理してもよい。
流延ダイなどを利用してドープを支持体上に流延し、乾燥することによりフィルムを製造できる。通常、ドープを支持体上に流延し、予備乾燥した後、有機溶媒を含む予備乾燥膜を乾燥することによりフィルムが製造される。
フィルムの厚みは特に制限されず用途に応じて選択できる。フィルムの厚みは、通常、5〜100μm、好ましくは10〜80μm程度であってもよい。
本発明のセルロースエステルとそのフィルムは、光学的特性に優れるため、種々の光学フィルム、例えば、カラーフィルタ、写真感光材料の基材フィルム、液晶表示装置用フィルムなどとして利用できる。特に、本発明のセルロースエステルフィルムは、偏光板の保護フィルム(例えば、偏光膜の少なくとも一方の面、特に両面の保護フィルム)、液晶表示装置用光学補償フィルムとして有用である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において各特性は次のようにして測定した。
<重合度の測定>
メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液にセルローストリアセテートを溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製し、この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定する。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間t0(秒)を測定し、下記式に従って、粘度平均重合度を算出した。
ηr e l=t/t0[η]=(lnηr e l)/cDP=[η]/(6×10- 4
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルローストリアセテート濃度(g/L)、ηr e lは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは平均重合度を示す)。
〈DS、DS2、DS3及びDS6の測定〉
試料を、ピリジン溶媒中、無水プロピオン酸でプロピオニル化した後、クロロホルム溶媒で13C−NMRスペクトルを測定し、169.1〜170.2ppm付近に現れるアセチルカルボニル炭素の3シグナルの強度を積分してアセチルカルボニル炭素シグナル積分強度∫Acを算出するとともに、172.7〜173.6ppm付近に現れるプロピオニルカルボニル炭素の3シグナルの強度を積分してプロピオニルカルボニル炭素シグナル積分強度∫Prを算出した。なお、NMR測定条件は次の通りであった。
測定溶媒:CDCl3(約3ml使用)
測定温度:: 40℃
サンプル量:160〜180mg(φ10mm)
観測核:13C(1H完全デカップリング)
データポイント数:32768
パルス角と時間:45°,9μsec
データ取り込み時間:0.9667sec
待ち時間:2.0333sec
積算回数:18,000回
置換度(DS)は次式で求めた。なお、下記式において、ΣAcはアセチルカルボニル炭素シグナル積分強度を示し、ΣPrはプロピオニルカルボニル炭素シグナル積分強度を示す。
置換度(DS)=3×∫Ac/(∫Ac+∫Pr)
なお、13C−NMRスペクトルにおいて、169.1〜170.2ppm付近に現れるアセチルカルボニル炭素の3シグナルは、高磁場側からそれぞれ2−、3−、6−位に帰属される。各シグナルの極大に対して±0.2ppmの範囲の強度を積分し、得られた各積分値を各アセチルカルボニル炭素シグナルの積分強度と定義し、次式からDSi(iは2−、3−または6−位を示す)を求めた。なお、式中、i−位のアセチルカルボニル炭素シグナル積分強度を∫Aciで示し、2−、3−または6−位のアセチルカルボニル炭素シグナル積分強度を∫Ac2、∫Ac3、及び∫Ac6で示す。
DSi=DS×∫Aci/(∫Ac2+∫Ac3+∫Ac6
〈残存硫酸量の測定〉
乾燥したセルロースエステルを1300℃の電気炉で焼き、生成した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、このトラップ液を規定水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。得られた値は、絶乾セルロースエステル当たりのH2SO4換算の量としてppm単位(重量基準)で表示した。
<カルシウム(Ca)成分含有量>
乾燥したセルローストリアセテートを完全に燃焼させた後、灰分を塩酸に溶解した前処理を行った上で原子吸光法により測定した。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中のカルシウム含有量としてppmを単位としてppm単位(重量基準)で表示した。
比較例1
広葉樹クラフト法パルプ(α−セルロース含量98.5重量%)100重量部に氷酢酸50重量部を散布して前処理活性化させた後、氷酢酸445重量部、無水酢酸265重量部、および硫酸8.3重量部の混合物を添加し、37℃以下の温度で撹拌混合しながらエステル化を行った。なお、繊維片がなくなったときをエステル化反応の終点とした。エステル化反応終了時に反応系に水を添加し、過剰の無水酢酸を分解させてアシル化反応(エステル化反応)を停止し、反応系中の水分量を酢酸に対して10モル%に調整し、50℃で60分間保持することにより熟成反応を行った(又は熟成工程を開始した)。そして、触媒硫酸量に対して十分に過剰量の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止させた。
反応混合物を希酢酸中に吐出して、セルローストリアセテートを沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルローストリアセテートを得た。
比較例2
以下の操作を行う以外、比較例1と同様としてセルローストリアセテートを生成させた。エステル化反応終了時に反応系に24.8重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を一括で添加することにより過剰の無水酢酸を分解せしめつつ残存硫酸量が4.2重量部になるように中和してアシル化反応を停止し、反応系中の水分量を酢酸に対して10モル%に調整し、70℃で25分間保持することにより熟成を行った(又は熟成工程を開始した)。そして、過剰量の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止させた。
反応混合物を希酢酸中に吐出して、セルローストリアセテートを沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルローストリアセテートを得た。
比較例3
広葉樹クラフト法パルプ(α−セルロース含量98.5%)100重量部に氷酢酸100重量部を散布して前処理活性化させた後、氷酢酸365重量部、無水酢酸245重量部、および硫酸9重量部の混合物を添加し、37℃以下の温度で撹拌混合しながらエステル化を行った。反応系に26.2重量部の30重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加することにより過剰の無水酢酸を分解してエステル化反応を中止(アシル化反応を停止)するとともに残存硫酸量が4重量部となるように中和し、反応系中の水分量を酢酸に対して10モル%に調整した。熟成工程では、30分かけて60℃に昇温させることにより熟成反応を行った後、5分間かけて7.4重量部の30重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が2.5重量部になるように中和し、70℃で30分間保持して第1の熟成反応を行った。すなわち、熟成工程において、中和操作(部分中和操作)を1回行った。その後、過剰量の30重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止した。
反応混合物を希酢酸中に吐出して、セルローストリアセテートを沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルローストリアセテートを得た。
実施例1
以下の操作を行う以外、比較例1と同様としてセルローストリアセテートを生成させた。エステル化反応終了時に反応系に水を添加し、過剰の無水酢酸を分解させ、反応系中の水分量を酢酸に対して10モル%に調整し、50℃で50分間保持して熟成を行った。熟成工程では、5分間かけて24.8重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が4.2重量部になるまで中和し、さらに50℃で10分間保持し、第1の熟成反応を行った。さらに、5分間かけて12.7重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が2重量部になるまで中和し、50℃で20分間保持し、第2の熟成反応を行った。さらに、5分間かけて6重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が1重量部になるまで中和し、50℃で25分間保持し、第3の熟成反応を行った。すなわち、熟成工程において、中和操作(部分中和操作)を3回繰り返した。その後、過剰量の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止した。
反応混合物を希酢酸中に吐出して、セルローストリアセテートを沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルローストリアセテートを得た。
実施例2
比較例2と同様に以下の操作を行った。すなわち、熟成工程において、24.8重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を5分間かけて添加し、硫酸量が4.2重量部になるまで中和し、50℃で25分間保持し、第1の熟成反応を行った。次いで、5分間かけて12.7重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が2重量部になるまで中和し、50℃で10分間保持し、第2の熟成反応を行った。また、5分間かけて6重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が1重量部になるまで中和し、50℃で20分間保持し、第3の熟成反応を行った。さらに、5分間かけて3重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が0.5重量部になるまで中和し、50℃で25分間保持し、第4の熟成反応を行った。すなわち、熟成工程において、中和操作(部分中和操作)を4回繰り返した。その後、過剰量の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止した。
反応混合物を希酢酸中に吐出して、セルローストリアセテートを沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルローストリアセテートを得た。
実施例3
実施例2の第1及び第4の熟成反応において、50℃で25分間保持に代えて、それぞれ70℃で20分間保持することにより、熟成を行う以外、実施例2と同様にしてセルローストリアセテートを得た。
反応混合物を希酢酸中に吐出して、セルローストリアセテートを沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルローストリアセテートを得た。
得られたセルローストリアセテートの特性を表に示す。なお、酢化度は以下の式に基づいて算出した。
酢化度=6005×DS÷(164.14+42.037×DS)
Figure 0005465368
表から明らかなように、実施例では6−位の平均置換度が高く、しかも総硫酸量を大きく低減できる。

Claims (10)

  1. 硫酸触媒の存在下、セルロースをアシル化剤でアシル化した後、熟成してエステル化度を調整し、セルロースエステルを製造する方法であって、所定のエステル化度に到達した後、熟成工程において、反応開始から反応の停止までに、塩基を連続的に又は少なくとも3回に分けて間欠的に反応系中の硫酸触媒1当量に対して1回当たり0.2〜0.8当量で添加して、残存硫酸の存在下で、熟成した後、反応系中の残存硫酸を完全に中和する熟成工程とを含むセルロースエステルの製造方法。
  2. 熟成工程の反応開始から反応の停止までの間に、塩基を添加する操作を少なくとも4回繰り返す請求項1記載の製造方法。
  3. 熟成工程での反応を温度20〜60℃で行う請求項1記載の製造方法。
  4. 熟成工程の反応開始時に、当初の硫酸触媒量に対して25〜90当量%の塩基を添加する請求項1記載の製造方法。
  5. 硫酸の存在下、セルロースと無水酢酸とを反応させてアセチル化した後、熟成してアセチル化度を調整し、セルロースアセテートを製造する方法であって、塩基として、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選択された少なくとも一種を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られたセルロースエステルであって、グルコース単位の6−位のアシル基平均置換度が0.91〜1.0であり、残存硫酸量が10〜150ppmであり、かつ粘度平均重合度が230〜380であるセルロースエステル。
  7. グルコース単位の2−位、3−位及び6−位のアシル基平均置換度が下記式(I)及び(II)を満足し、残存硫酸量が20〜130ppmである請求項6記載のセルロースエステル。
    DS2+DS3≧1.95 (I)
    DS6≧0.91 (II)
    (式中、DS2はグルコース単位の2−位のアシル基平均置換度、DS3はグルコース単位の3−位のアシル基平均置換度、DS6はグルコース単位の6−位のアシル基平均置換度を示す)
  8. カルシウム含量10〜110ppm、残存硫酸量25〜110ppm、残存硫酸に対するカルシウムの化学当量比0.5〜3.0、および平均酢化度58〜62.5%のセルローストリアセテートである請求項6記載のセルロースエステル。
  9. 請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られたセルロースエステルで構成されているセルロースエステルフィルム。
  10. 液晶表示装置用光学補償フィルム又は偏光板の保護フィルムである請求項9記載のセルロースエステルフィルム。
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