JP5425369B2 - セルロース誘導体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明では、原料パルプとして、カルシウム含量の少ないパルプを用いるのが好ましく、カルシウム含量の少ないパルプを用いることにより、光学的に均質なフィルム(視野角拡大フィルムなど)の基材として用いてもクレータ状欠点の発生が抑制できる。但し、例えば、アルカリ金属の試薬中においてもカルシウムが不純物として存在している場合もある。このため、原料や蒸解工程で不純物として存在するカルシウムイオンを完全になくすことは工業的には困難である。また、後述するクレータ状欠点の推定メカニズムからも、カルシウム含量が特定量以下であれば、顕著に液晶層の表面平滑性を改善できる。
パルプ中のカルシウム含量の測定は原子吸光法で行う。具体的な測定の前処理手順としては以下の方法を用いる。
本発明のセルロース誘導体は、前記カルシウム含量のパルプを用いて得られたものであれば特に限定されず、セルロースエーテルとセルロースエステルに大別されるが、好ましくはセルロースエステルである。セルロースエステルとしては、例えば、有機酸エステル[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−6アシレート]、前記有機酸エステルの誘導体(ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテートなどのグラフト体など)、有機酸エステル・エーテル類(アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロースなどのC2−6アシルセルロースC1−6アルキルエーテル、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロースなどのC2−6アシルセルロースヒドロキシC2−6アルキルエーテルなど)、無機酸エステル(硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなど)、有機酸・無機酸混合エステル(硝酸酢酸セルロースなど)などが挙げられる。これらのセルロースエステルは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明のセルロース誘導体の製造方法は、カルシウム含量が20ppm以下のパルプと、エステル化剤又はエーテル化剤とを反応させる方法であり、カルシウム含量の少ない原料パルプを用いることを除いては、慣用の製造方法を利用できる。
前記活性化工程において、原料パルプ(セルロース)は、通常、乾式などで解砕処理される。解砕処理されたパルプを活性化処理する方法としては、例えば、有機カルボン酸や含水有機カルボン酸(酢酸や含水酢酸)の噴霧や、有機カルボン酸や含水有機カルボン酸への浸漬などによリ、パルプ(セルロース)を処理することにより行うことができる。有機カルボン酸(酢酸など)の使用量は、セルロース100重量部に対して10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜60重量部程度であってもよい。
前記アシル化工程では、活性化されたセルロースをアシル化触媒(特に、硫酸などの強酸)の存在下、アシル化剤でアシル化する。アシル化触媒の使用量は、セルロース100重量部に対して、例えば、1〜15重量部、好ましくは5〜13重量部、さらに好ましくは7〜10重量部程度である。
前記失活工程では、アシル化反応の終了後、反応系に残存するアシル化剤を失活(クエンチ)させるため、反応系に反応停止剤を添加する。反応停止剤は、水又は水と有機カルボン酸類との混合溶媒などであってもよいが、塩基の水性溶液(特に水溶液)が好ましい。塩基としては、例えば、アルカリ金属化合物[水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムなど)、有機酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩など)など]、アルカリ土類金属化合物[水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなど)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなど)、有機酸塩(酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどの酢酸塩など)など]が例示できる。
前記熟成工程では、アシル化反応を停止した後、生成したセルロースアシレート(セルローストリアシレート)をケン化(脱アシル化反応及び脱硫酸エステル反応)させて、アシル化度及び置換度分布が調整されたセルロースアシレートを得る。
このようなセルロースアシレートの製造工程(例えば、製造工程の最終段階)においては、耐熱処理を行うのが望ましい。すなわち、セルロースアシレートは、通常、熱が作用し水分が存在している環境下では加水分解を起こす。そのため、熱安定性や湿熱安定性を向上させるため、安定剤として、例えば、アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウムなど)又はその塩やその化合物、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなど)又はその塩やその化合物を含有させることにより、硫酸を触媒として用いた際に導入される硫酸基を不活性化し、耐熱安定性を付与してもよい。
試料5gを300mlのビーカに取り、17.5%水酸化ナトリウム溶液50mlを加える。3.5分後から先端の平たいガラス棒で押し潰して離解し、20分間放置する。撹拌しながら50mlの純水を加え、測定開始から35.5分後にビーカ内容物を重量既知の金巾を敷いたブフナー漏斗に移し、吸引濾過する。ろ過終了後、再濾過し濾液が80mlとなるまで圧搾し、次に水900mlで洗浄する。水洗後の残渣に10%酢酸40mlを加え5分間放置する。最後に1000mlの純水で洗浄し、残渣を金巾と共に80℃で30分乾燥後105℃で乾燥して恒量を求め、試料重量(乾燥重量)に対する重量%を算出する。
パルプを72%硫酸で氷水バスで冷やしながら4時間、次いで6%硫酸に希釈して110℃で3時間処理して加水分解する。これを炭酸バリウムで中和後、濾過して得られた濾液を糖分析システム(ダイオネクス社製)で液体クロマトグラフィー分析し、グルコース、マンノース及びキシロースの合計量に対する各成分の割合(モル%)を算出する。
パルプ中のカルシウム含量は、前述の測定方法に従って測定した。
酢化度は、単位重量当たりの結合酢酸の重量百分率を意味し、以下の通り測定した。乾燥したセルロースアセテート1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を計算する。
(式中、Aは試料の1N−硫酸の滴定量(mL)を、Bはブランク試験の1N−硫酸の滴定量(mL)を、Fは1N−硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を示す)
[セルロースアセテートの粘度平均重合度]
メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液に、乾燥したセルロースアセテートを溶解し、所定の濃度C(2.00g/リットル)の溶液を調製する。この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定した。一方、前記混合溶媒単独についても同様にして通過時間(秒)t0を測定し、下記式に従って、粘度平均重合度を算出した。
[η]=(ln ηrel)/C
DP=[η]/(6×10-4)
[式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、Cは溶液のセルロースアセテート濃度(g/リットル)、ηrelは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは粘度平均重合度を示す]。
105℃において1時間乾燥させ、次いで30分間デシケーターに移して冷却したセルロースアセテート約0.500gを秤量する。この秤量した試料を100mlのN−メチルピロリドンに溶解し、約0.5g/dlの溶液を得る。秤量した試料重量から予め正確な濃度(C)を算出しておく。この溶液を65℃においてオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定した。一方、前記N−メチルピロリドン溶媒単独についても同様にして通過時間(秒)t0を測定し、下記式に従って、相対粘度、比粘度を算出した。
ηsp=ηrel−1
[式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、ηrelは相対粘度、ηspは比粘度を示す]。
[式中、[ηNMP]はNMP中での極限粘度、Cは溶液のセルロースアセテート濃度(g/dLを示す]。
セルロースアセテート中のアルカリ土類金属含量は、前述の「パルプ中のカルシウム含量の測定方法」に準じて測定した。
60℃の温風乾燥機でセルロースアセテートフィルムを90分間乾燥し、乾燥後の変色を目視で観察し、以下の基準で評価した。
×:60℃での加温乾燥後に、劣化、変色を生じる。
実施例及び比較例で得られた視野角拡大フィルムについて、欠点検出装置(FUTEC社製)で欠点(クレータ状凹部)を検知した。この欠点検知装置は、受光器、投光器、信号処理盤、マーカー、及びエンコーダーで構成されていた。投光方式は透過方式を用いた。前記受光器にはCCDラインセンサーを使ったカメラ(稼動クロック:20MHz、画素数:1024画素)を用いた。カメラは、検知巾5メートルに対して5台設置した。投光器はスリット付き蛍光灯とし、スリット巾は10mmとした。また、投光器側に偏光フィルムを設置した。さらに、視野角拡大フィルムの偏光方向と、投光器の光の偏光方向とは異なっているので、クレータ状欠点は明欠点として検知されるようにした。信号処理盤、マーカー、エンコーダーについては標準的に装備されたものを用いた。以上のようにして行った欠点検知の結果を、比較例1の欠点数を100%として、他の実施例及び比較例を比較例1に対する%表示で記載した。
広葉樹の木材チップを用いてパルプを製造した。パルプの精製法はクラフト法を用いて行った。木材チップの蒸解工程で使用する水酸化ナトリウムについて、回収再生品を使用することなく、工業用水酸化ナトリウムを用いて蒸解することで、パルプ1を得た。また、回収再生品と工業用水酸化ナトリウムとの使用割合を変更して、パルプ2及び3を得た。得られたパルプ1〜3の性状について表1に示す。
広葉樹の木材チップを用いてパルプを製造した。パルプの精製法はクラフト法を用いて行った。木材チップの蒸解工程で使用する水酸化ナトリウムについて、全量回収再生品を用いた。得られたパルプ4の性状について表1に示す。
(アセチル化工程:アセチル化法1)
パルプ1〜4を用いて、次の方法に従ってセルロースアセテートを製造した。すなわち、パルプ(含水量5%)100部に氷酢酸50部を散布して前処理活性化させた後、氷酢酸470部、無水酢酸265部及び硫酸8.3部の混合物を添加し、常法に従って、−5℃に冷却し、その後、45℃に昇温して反応させた。その後、水を加えてアセチル化剤を失活させて、50℃に昇温し、加水分解した。加水分解終了後、ドープを希酢酸中に滴下して沈綿させ、洗浄し、脱液した。得られた含水フレークを酢酸カルシウム及び酢酸マグネシウムを含む希薄水溶液に浸漬した後、脱液することにより安定化処理し、酢化度61.3%のセルロースアセテートを得た。このセルロースアセテートをそれぞれ、実施例1〜3及び比較例1とする。各セルロースアセテートの使用パルプ、セルロースアセテートの製造方法、得られたセルロースアセテートの性状を表2に記す。
得られたセルロースアセテート100部、トリフェニルホスフェート(可塑剤)7.8部、ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤)3.9部、メチレンクロライド(第1溶媒)336部及びメタノール(第2溶媒)29部で構成された組成物をミキシングタンクに投入し、50℃に加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
得られたセルロースアセテート溶液をバンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が50%のフィルムをバンドから剥離し、130℃の条件で、残留溶剤量が40%のフィルムをテンターを用いて17%の延伸倍率で横延伸し、延伸後の幅のまま130℃で30秒間保持した。その後、クリップを外してセルロースアセテートフィルムを製造した。
得られたセルロースアセテートフィルムを、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で2分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥し、セルロースアセテートフィルムの表面をケン化した。得られたフィルムの耐熱性の評価結果を表2に示す。
ケン化処理したセルロースアセテートフィルム(透明支持体)の一方の面に、下記組成式で表される変性ポリビニルアルコール20部、水360部、メタノール120部及びグルタルアルデヒド(架橋剤)1部で構成された塗布液を、#14のワイヤーバーコーターで24ml/m2塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。次に、セルロースアセテートフィルム(透明支持体)の延伸方向と45゜の方向に、形成した膜にラビング処理を実施した。
得られた配向膜上に、下記式で表されるディスコティック液晶性分子41.01部、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)4.06部、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.9部、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23部、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35部、及び増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45部を、102部のメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#3のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性分子を配向させた。次に、130℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射しディスコティック液晶性分子を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成した。このようにして、視野角拡大フィルムを作製した。このフィルムのクレータ状欠点についての評価結果を表2に示す。
以下のアセチル化工程を用い、実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム及び視野角拡大フィルムを作製した。評価結果を表2に示す。
パルプ1(含水量5%)100部に、硫酸11.7部、無水酢酸260部及び酢酸450部の混合物を添加し、アセチル化法1と同様にして、常法に従って、酢化度60.2%、粘度平均重合度267、NMP極限粘度1.61のセルロースアセテートを得た。
以下のアセチル化工程を用いる実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム及び視野角拡大フィルムを作製した。評価結果を表2に示す。
パルプ(含水量5%)100部に氷酢酸50部を散布して前処理活性化させた後、氷酢酸470部、無水酢酸265部及び硫酸8.3部の混合物を添加し、常法に従って、−5℃に冷却し、その後、45℃に昇温して反応させた。その後、酢酸マグネシウムの希薄水溶液を加えてアセチル化剤を失活させて、50℃に昇温し、加水分解と硫酸触媒の部分中和を行った。加水分解終了後、ドープを希酢酸中に滴下して沈綿させ、洗浄し、脱液した。得られた含水フレークを、耐熱処理することなく脱液し、酢化度61.3%のセルロースアセテートを得た。
Claims (8)
- カルシウム含量が20ppm以下であり、かつα−セルロース含量が94重量%以上であるパルプと、エステル化剤とを反応させて、少なくともアセチル基を含むセルロースエステルを製造する方法。
- パルプが木材由来のパルプである請求項1記載の方法。
- 硫酸触媒を用いて、カルシウム含量が0.01〜15ppmであるパルプとエステル化剤としてのアシル化剤とを反応させる請求項1記載の方法。
- 平均置換度2.6〜2.965のセルロースエステルを得る請求項1記載の方法。
- カルシウム含量が120ppm以下であるセルロースエステルを得る請求項1記載の方法。
- ディスコティック液晶層を有する視野角拡大フィルムに用いるためのセルロースエステルを得る請求項1記載の方法。
- さらに、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物で構成された安定剤で耐熱処理する工程を含む請求項1記載の方法。
- パルプが、クラフト法においてカルシウム含量を20ppm以下に調整した木材パルプである請求項1記載の方法。
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