JP4986434B2 - セルロースエーテルエステル - Google Patents
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更に上記の通り合成反応(エステル化及び脱エステル化反応)が均一に進行し難いことからセルロースアセテートよりも深刻な黒色異物及び輝点異物の問題を有している。
また本発明に記載しているセルロースエーテルエステルに類似したセルロース誘導体としては、特開平4−33901号公報(特許文献3)に記載されているが、これに記載されているものではグルコース環の水酸基に置換したアルキル基の長さが短く、かつアシル基の置換度が小さいため本願発明の効果を得ることはできない。
また特開平11−35601号公報(特許文献4)にはカルボキシメチルセルロースをエステル化したセルロース誘導体が開示されているが、このものは、やはりセルロースのグルコース環を置換したカルボキシメチル基がアルキルエーテル基やヒドロキシアルキルエーテル基に比較して短いため本願発明の効果を得ることができない。
特開昭52−23186号公報(特許文献5)にはMS(エーテル結合したエーテル化剤の平均分子数)が0.1<MS<2であるセルロースエーテルをエステル化することにより、MSとDS(アシル基置換度)の和を1.5<MS+DS<5とすることを特徴とする熱可塑性セルロースエステルの製法が記載されており、プロピレンオキシドでのエーテル化が記載されており、かつエーテル化したものを混合脂肪酸エステル化する実施例が記載されている。しかしながらこの文献に開示されたものでは、グルコース環の未置換の水酸基すなわち平均水酸基置換度が大きく、光学フィルムに使用した場合には経時的に光学特性が劣化する。
本発明の他の目的は、湿度の変化に対して寸法変化が少なく面内位相差及び面外位相差の変化が少ない延伸された光学フィルムを提供することである。
すなわち、本発明のセルロースエーテルエステルの製造では、まずセルロースを塩基性条件化でエーテル化し、この際にアルカリ可溶分としてヘミセルロース等の不純物の除去が進むことから、得られたセルロースエーテルをさらにアシル化して得られるセルロースエーテルエステルにおいては黒色異物が著しく低減される。また、セルロースの塩基性条件下でのエーテル化では、エーテル化反応の他に水酸化ナトリウム等によりセルロース繊維が高度に膨潤するため、得られたセルロースエーテルをさらにアシル化する際には、セルロースの天然の強固な結晶構造への試薬の浸透不良等に由来する未反応物を生じることが無く輝点異物が著しく低減される。この効果はアセチル基でアシル化する場合でも得られるが、特に顕著な効果が得られるのはアセチル基以外のアシル基を含めてアシル化する場合である。アシル化剤の炭素数が大きくなるとセルロースの天然の強固な結晶構造への試薬の浸透不良がより顕著になるが、本願発明のセルロースエーテルとすることで、結晶が変化し高炭素数のアシル化剤であっても浸透し易くなり、反応の不均一に起因する輝点異物が減少する。
配向度=(3cos2θ−1)/2で定義され、
θは平均の配向方向とセルロース誘導体分子の棒状セグメントが成す角の平均である。
すなわち平衡水分率(WR)を2wt%以下としながら、固有複屈折を、0.001〜0.040程度とすることが可能であり、面内位相差及び面外位相差発現性と寸法安定性を両立することが可能である。
そして、本発明のセルロースエーテルエステルではガラス転移温度もまた重要であり、ガラス転移温度が60℃未満であると、実使用条件下で分子の配向が変化し、経時的に位相差が変化してしまう。またガラス転移点が180℃を超える温度である場合には、融点も高くなり、高い成型温度を要し、成型中や延伸時の熱分解やそれに伴う着色が生じる。ガラス転移点温度(Tg)の範囲としては、好ましくは70〜160℃、さらに好ましくは80〜140℃である。
尚、固有複屈折を0.001から0.010の範囲にした場合は、セルロースエーテルエステルの置換基の種類、置換度、重合度などにより、ガラス転移点よりも8℃高い温度で50mm/minの引張速度で測定した場合の高温破断伸度が30%未満となる場合がある。このようなものも延伸それ自身は可能ではあるが、延伸ムラが生じ好ましくないため本発明の範囲からは除外される。
従来のセルロースエーテルでは延伸操作によって面内位相差及び/または面外位相差を制御することが難しかったり、それらのゆらぎが大きくなったり、面内位相差が小さく同時に面外位相差が大きい材料を製造したりするときに不便であるか有用でないのに対して、本発明のセルロースエーテルエステルは適度な固有複屈折を有することからこれらの問題の解決にも有効である。
特にアシル化で混合脂肪酸エスエテル化する場合に利点がある。
すなわちこれらの不溶解物すなわち未反応セルロースは、セルロースをアシル化するエステル化反応が早いためセルロースの結晶領域が充分緩和されることがなく反応が進行することにより生じるためであり、これの解決方法として事前にセルロースをエーテル化することによりセルロースの結晶領域が緩和されアセチル化で反応が均一に進み、光学フィルムとして用いるのに好適なセルロース誘導体を得られる利点がある。
本発明においては、使用する原料セルロースとしては木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプ等公知の様々なセルロース源を用いることができる。これらのパルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有している。従って、本願明細書において、「セルロース」という語は、ヘミセルロースなどの異成分も含有する意味で用いる。
パルプの純度の指標となるα-セルロース含量は、例えば90〜100重量%程度の範囲から選択でき、木材パルプでは、通常、92〜98重量%程度である。本発明では低純度パルプ、例えばαセルロース含量90〜97重量%、特には92〜96重量%、更には93〜95重量%程度のパルプも使用できるが、好ましくは高純度パルプを用いることができる。
本発明の第1工程はセルロースの水酸基の一部にエーテル結合で置換基を導入することである。すなわちセルロースエーテル類を得ることである。セルロースエーテル類としてはアルキルセルロース類でも良く、ヒドロキシアルキルエーテル類でも良く、カルボキシアルキルセルロース類でも良く、シアノアルキルエーテル類でも良い。そして本発明のセルロースエーテル類をアシル化して得られたセルロースエーテルエステルの場合は特に、透明性、剥離性、延伸性など光学用途に用いるのに良好な特性を持つ光学フィルムの原料となる。尚、本発明におては変性するとはセルロースをエーテル化することである。
(1)1〜6個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状アルキル基、
(2)アリール、アルキルアリール及びアリールアルキル基、
(3)カルボキシル、ニトリル又はヒドロキシル基等のあるアルキル基。
これらの中でもエポキシドが好適であり、エチレンオキシド、ブチレンオキシド、プロピレンオキシドなどを挙げる事ができるが、この中でも特にプロピレンオキサイドが好適である。
これらのエーテル化は公知の方法でよく、特開昭52−23186号、特表2000−513042号などに記載されている。
第1工程の目的のひとつは、セルロースの結晶構造を緩和して、置換基を導入することによって、その結晶構造緩和効果を維持することである。結果として第1工程の生成物であるセルロースエーテルは結晶化度が低下する。そして残った結晶部の少なくとも一定の部分については結晶構造をセルロースI型からセルロースII型に変換される。
本発明においては第1工程でのエーテル化反応のセルロースの結晶領域と非結晶領域での反応形態としては、当然まず非晶領域で反応が生じ、次いで結晶領域に徐々に進行してゆくが、エーテル化は反応速度が遅く、反応速度が律速となり、結晶領域で反応は均一に進行する。この結果として、反応は非晶領域でも、結晶領域でもほぼ均一に進行し、セルロースの結晶構造を緩和する。
り、この部分はアシル化工程では反応が進みに難い。この理由は、セルロースのアシル化反応では反応速度よりもアシル化剤のセルロースの結晶領域への酸の拡散速度が遅いため、拡散速度が律速となり、結晶領域内では反応は不均一に進行する。セルロースI型の結晶構造の方が
セルロースI型の結晶構造と比較して、容易にアシル化され得る。
してセルロースI型の結晶形態を示す。セルロースI型およびセルロースI型の構造の詳細に
ついては文献(Kolpac et al.,1978,Polymer,19,123-131)に記載されている。
セルロースエーテルエステルのエーテル化の程度を示すMSは、アシル化の程度(DS)とともに延伸性と固有複屈折に深く関係し、一般にMSを高くすることで延伸性は増大し固有複屈折も増大する。適度な延伸性と固有複屈折を実現させるためにはセルロースエーテルエステルのMSを適度に調整する必要がある。このため本発明の第1工程での置換用有機基によるグルコース単位あたりにエーテル結合した変性剤の平均分子数(MS)は平均炭素数などを勘案して選択することができ、0.01以上、4.00以下であることが必要である。好ましくは0.01以上、3.00以下、より好ましくは0.01以上、2.0以下、更に好ましくは0.05以上、1.75以下である。
上記の通り、本発明の第1工程ではエーテル化反応での置換度は、かならずしもそれほど高くする必要がない。尚、第1工程での生成物がメチルセルロースの様に、ヒドロキシル基を含有したにエーテル化剤でエーテル化された場合には、エーテル化反応での置換度はグルコース単位あたりにエーテル結合した変性剤の平均分子数(MS)と等しくなるが、アルキルヒドロキシエーテルセルロースなどの場合には、エーテル化反応での置換度はMSと同一ではない。
本発明においてはMSが低い場合でも、本発明の第1工程の生成物であるセルロースエーテルとしては好適である。しかしながら、平均炭素数を勘案しない場合であればMSは0.75から1.75の範囲にすることが好ましい。より好ましくは1.00から1.50の範囲である。
本発明の第2工程はセルロースエーテルのアシル化(エステル化)工程である。
本発明のセルロースエーテルエステルは、本発明の第1工程の生成物であるセルロースエーテルを用いて通常セルロースエステルの慣用の方法、例えば、硫酸触媒法、酢酸法、メチレンクロライド法などの方法を用いることで製造できる。以下に、硫酸触媒による酢酸法を例示する。
上記の通り本発明の第2工程はアシル化工程であるが、この工程においては公知の他のアセチル化技術を組み合わせて有効に用いることができる。
本発明におけるアシル基置換度(DSester)とは、セルロースエーテルのグルコース環またはエーテル置換基に存在する水酸基をエステル化することによりアシル基で置換した程度を示す。すなわち、ヒドロキシアルキルエーテルセルロースであれば、グルコース当たりに保有している3個の水酸基のアシル基での置換の程度を示す。またアルキルエーテルセルロースの場合であれば、セルロースのグルコース環に結合した水酸基がアルキルエーテルで置換された残りの水酸基がアシル基で置換された程度を表す。従って、アシル化が複数のアシル化剤を用いた混合脂肪酸エステル化である場合においてはアシル基置換度(DSester)は各々の置換度の和として求められる。
本発明のセルロースエーテルエステルにおいてアシル基の平均置換度すなわちDSesterは、目的とする用途や特性に応じて1.0〜3.0程度の範囲から選択できる。
エーテル基としてヒドロキシアルキル基を選択する場合には、アシル基の平均置換度は3.0になるべく近い数値、例えば2.90〜2.97程度としてほぼ全ての水酸基を修飾することが寸法安定性の観点から好ましい。アルキルエーテルセルロースの場合であれば、DSesterは低くても構わない。例えばエーテル基としてメチル基を選択する場合には、メチル基MSは1.40〜1.50程度とし、アシル機の平均置換度は1.40から1.50程度としてほぼ全ての水酸基を修飾することが寸法安定性の観点から好ましい。
置換度DSester及びMSは、常法に従って求めることができる。すなわち適切な標準物質により作られた検量線により、NMRによっても測定することができる。置換度の精度から考えて13C-NMRによりMS及びDSesterを求めることが好ましい。
本発明において平均炭素数(AC)はエーテル基、アシル基で置換されている其々の置換基の長さの程度と置換の程度の双方を勘案した数値であり、エーテル基およびエステル基各々の炭素数と置換度の積を3で除したものの和として定義される。
すなわち具体的には、置換基の平均炭素数(AC)はエーテル基およびエステル基各々の炭素数と置換度の積を3で除したものの和として定義される。これをエポキシ化合物やハロゲン化アルキルなどのセルロースへの導入に際して炭素数に変化の無いエーテル化剤の炭素数とMSをもって表すと次式の通り定義される。
(MS/3×(エーテル化剤炭素数)+DS/3×(アシル基炭素数))
また、複数のエーテル化剤及びアシル化剤からなるセルロースエーテルエステルでは、平均炭素数(AC)は、エーテル化剤1、エーテル化剤2、エーテル化剤3‥‥エーテル化剤NそれぞれのMSをMS1, MS2, MS3,‥MSNとして、さらの各々エーテル化剤の炭素数をA1, A2, A3‥ANとする。更に、アシル化剤1、アシル化剤2、アシル化剤3‥‥アシル化剤Nそれぞれの置換度をDS1, DS2, DS3‥DSNとして、さらの各々アシル化剤の炭素数をB1,B2,B3‥BNとすると以下の式で表すことができる。
AC=(MS1/3×A1)+(MS2/3×A2)+(MS3/3×A3)+‥‥+(MSN/3×AN)+(DS1/3×B1)+(DS2/3×B2)+(DS2/3×B3)‥‥+(DSN/3×BN)
ここで、
MS=MS1+MS2+MS3‥MSN
DSester=DS1+DS2+DS3‥DSN
本発明でいうところの平均水酸基置換度(RH)とは、セルロースのグルコース環当たりの平均残存水酸基数であり、グルコース環mol当たりの水酸基のmol数である。すなわちセルロースの当初3個保有していた水酸基の中でエーテル化、エステル化を経て本発明のセルロースエーテルエステルとなった場合の残存している水酸基の数であり、残存水酸基数あるいは平均水酸基置換度とも称される。本発明での平均水酸基置換度(RH)とはセルロースのグルコース環に直接結合していた水酸基のみならず、ヒドロキシアルキルエーテルセルロースとされた場合のヒドロキシアルキル基により導入された水酸基も含む。したがって、モノヒドロキシアルキルエーテル基で置換されたセルロースエーテルをエステル化した場合には、RHは次式で与えたれる。
RH=3−DSester
一方、水酸基を含有していないアルキルエーテル基で置換された場合には、エーテル化の工程でセルロースの3個の水酸基が置換されるため、RHは次式で与えられる。
RH=3−(DSester+MS)
Re(正面):|nx−ny|×d
Rth(厚み):|(nx+ny)/2−nz|×d
このなかで面内位相差(正面方向のレタデーション(Re))は光学フイルムでは0〜300nm程度に任意に調整できることが好ましく、面外位相差(厚み方向のレタデーション(Rth))は光学フイルムの用途により大きい場合が好ましいこともあり、また小さい方が好ましい場合がある。(Cellulose Commun. Vol.5, No.2 (1998) 101-104)
本発明においては固有複屈折率(IR)も重要である。すなわち固有複屈折率(IR)は物質固有の値であり、本発明のセルロースエーテルエステルとすることにより、固有複屈折率(IR)を好適な範囲にすることができる。なお、本発明のセルロースエーテルエステルにおいて、総置換度を高くしてグルコース残基あたりの水酸基数を0.3以下とした場合でも相当の固有複屈折を示すのは、通常のセルロースエーテルよりもセルロースを構成するグルコース残基に直接に結合するアシル基が少なく、アシル基のカルボニル結合が優先的にセルロース主鎖に鉛直に配向し、セルロース主鎖の正の複屈折を打ち消すことの影響が少なくなるためと考えられる。固有複屈折率(IR)の測定方法は下記の通りである。
ここに、複屈折:面に平行な屈折率と垂直な屈折率の差
なお、試料の体積分率算出に際しては、試料と溶媒の混合による体積変化は無視した。試料の密度は定容積膨張法(アキュピック法)により測定した。
本発明では不溶解物量の測定方法は下記の通りである。
(測定方法)
メチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に、2wt%固形分濃度になるようにセルロースエーテルエステルを溶解した溶液を、ガラスフィルター(孔径5〜10μm)を使用して濾過する。ガラスフィルターとしては相互理化学硝子製作所製のG―4を用いた。その後、濾過残渣に付着しているドープをメチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒にて洗浄する。濾過残渣をガラスフィルターごと恒量になるまで乾燥する。これらの濾過前後でのガラスフィルター重量を測定し、次式より不溶解物量を算出する。
不溶解物量(wt%)=〔濾過後ガラスフィルター重量(g)−濾過前ガラスフィルター重量(g)〕/セルロースエーテルアセテート重量(g)×100
本発明でガラス転移点と称しているものは、高分子の一般的な定義でのガラス転移温度((Tg)である。高分子のガラス転移温度は測定方法により、数値が変わることが知られているが、本発明でガラス転移点(Tg)としているものは、入力補償型の熱示差走査熱量計(DSC)で昇温速度1℃/minの条件で示差熱分析を測定した場合のベースラインの変動として与えられるガラス転移点(glass transition temperature )である。昇温速度以外の測定条件についてはJIS K7121に準拠したものである。本発明におけるガラス転移点(Tg)は固有複屈折率が0.001から0.040の範囲にある場合には、通常60〜180℃、好ましくは70〜160℃、さらに好ましくは80〜140℃である。
ガラス転移温度が低いと、実使用条件で使用環境温度や使用機器での発熱により光学フィルムの温度がガラス転移温度に達する場合があり、その場合には分子の配向が変化し、位相差が変化し、光学的な特性が変化してしまう。
ガラス転移温度が高いと、融点も高く、高い成型温度、延伸温度を要し、成型中の熱分解やそれに伴う着色の点で不利である。
本発明でいう平衡水分率とは、物質の平衡水分率のことであり、一般的には平衡含水率とも呼ばれている物でである。これは特定の条件下で求めた平衡水分率であり、本発明では温度25℃、相対湿度65%の条件で求めた平衡水分重量を試料の乾燥重量で除して求めた平衡水分率のことである。本発明においてはセルロースエーテルエステルで平衡水分率を2wt%以下、好ましくは0.01wt%から1.75wt%、より好ましくは0.1wt%から1.6wt%、更に好ましくは、0.4wt%から1.3wt%とすることにより、液晶表示装置として長期間使用された場合の光学的特性の変化を少なくすることができる。
本発明においては、ガラス転移点より8℃高い温度で50mm/minの引張速度で測定した高温破断伸度(HB)もまた重要である。すなわち高温破断点伸度(HB)は延伸性と延伸された場合の分子配向の程度を示す。本発明のセルロースエーテルエステルとしては固有複屈折率が0.001から0.040の範囲にある場合には、高温破断伸度(HB)が30〜250%であることが必要であり、好ましくは40〜200%、さらに好ましくは60〜150%である。
固有複屈折率が0.001から0.040の範囲にある場合には、高温破断伸度(HB)が30よりも低いと延伸による分子が配向することができないことを示しており、すなわち分子配向を誘起できず、位相差を制御することが困難であり、延伸された光学フイルムとして用いることができない。
また、固有複屈折率が0.001から0.040の範囲にあるにも拘らず、高温破断伸度(HB)が250よりも高い場合には、材料としての弾性が不足しており、自立フィルムとして使用するのが困難になる。
本発明の光学フイルムの原料となるセルロースエーテルエステルの製造工程においては、その製造工程の最終段階で耐熱処理を行うことが望ましい。すなわち、セルロースエステルは通常熱と水分が存在している環境下では加水分解を起こす。。
、熱安定性や湿熱安定性を向上させるため、安定剤、例えば、アルカリ金属(リチウム,カリウム,ナトリウムなど)又はその塩やその化合物、アルカリ土類金属(カルシウム,マグネシウム,ストロンチウム,バリウムなど)又はその塩やその化合物を大過剰に含有し、それにより硫酸基をフリーにしないで安定を付与しても良い。。
セルロースエーテルエステルは、溶媒中に溶解してセルロースエーテルエステル溶液を調製する。溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。前述したように、本発明のセルロースエーテルエステル溶液は、様々な種類の有機溶媒を用いて調製できるという効果を有する。すなわち、メチレンクロリドのようなハロゲン原子を含む有機溶媒への溶解性に優れるのみならず、ハロゲン原子を含む有機溶媒を使用しなくても溶液の調製が可能である。しかしながら、無論メチレンクロリドを用いて溶液を調整しても良い。全溶媒中のハロゲン原子を含む有機溶媒の割合は、50重量%以下であることが好ましく、5重量%未満であることが更に好ましく、2重量%未満であることがさらに好ましい。また、全く使用しないことが特に好ましい。ケトン類、エステル類およびエーテル類から選ばれるハロゲン原子を含まない有機溶媒が好ましく用いられる。この中でもケトン類およびエステル類がさらに好ましい。ケトン類、エステル類およびエーテル類は環状構造を有していてもよい。有機溶媒の沸点は、140℃未満であることが好ましく、100℃未満であることがさらに好ましく、70℃未満であることが最も好ましい。有機溶媒の例としては、アセトン(沸点:56℃)、N−メチルピロリドン(沸点:202℃)、テトラヒドロフラン(沸点:65.4℃)、1,4−ジオキサン(沸点:101.1℃)、メチルアセテート(沸点:57.8℃)、エチルホルメート (沸点:54℃)、2−メトキシエタノール(沸点:124℃)を挙げることができる。アセトンおよびメチルアセテートが特に好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。しかしながらメチルアセテート単独溶媒でも溶解させることができる。二種類以上の有機溶媒を併用する場合、上記に例示した良溶媒とそれ以外の貧溶媒を併用してもよい。貧溶媒の例としては、炭素原子数が1乃至4の低級アルコール(例、メタノール、n−ブタノール)およびシクロヘキサンを挙げることができる。良溶媒と貧溶媒を併用する場合、良溶媒の割合は50重量%以上であることが好ましい。更に好ましくは、70重量%以上、特に好ましくは、90重量%以上である。
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。 また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。必要に応じて窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。調製する溶液中のセルロースエーテルエステルの濃度は、溶液の用途に応じて決定する。溶液中の濃度は、一般に5乃至50重量%であり、好ましくは10乃至40重量%である。セルロースエーテルエステル溶液をフイルムの製造に使用する場合、溶液の粘度は10000乃至1000000cPの範囲であることが好ましい。これらのセルロースエーテルエステルの溶液の調整については特開平08-231761に記載されている。
セルロースエーテルエステルフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することが普通である。
可塑剤の例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)およびクエン酸アセチルトリエチルが含まれる。
劣化防止剤や紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。
本発明のセルロースエーテルエステルは、従来のセルロースアセテートと比較して、可塑剤の添加量が少なくても済むという利点がある。このため、可塑剤の量が15重量%以下でも、可塑剤の効果が得られる。セルロースエーテルエステル溶液(ドープ)あるいはセルロースエーテルエステルフイルムに添加できる劣化防止剤の例には、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤および酸捕獲剤が含まれる。劣化防止剤については、特開平5−1973号公報に記載がある。また、紫外線防止剤については、特開平7−156号公報に記載がある。
本発明の光学フイルムは様態(23)に記載した通り、水溶液中での酸解離指数pkaが1.93〜4.50である少なくとも一種類の酸、この酸のアルカリ金属塩、および前記酸のアルカリ土類金属塩から選択された少なくとも一種を剥離剤として含むことができる。
剥離剤はセルロースエーテルエステル溶液を流延する前に添加することができる。剥離剤は本発明の光学フイルムの原材料であるセルロースエーテルエステルに含有されていても良い。
カルボン酸には、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族多価カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド酸、ケトン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、複素環式モノカルボン酸、複素環式多価カルボン酸およびアミノ酸が含まれる。脂肪族モノカルボン酸の例には、ギ酸(3.55)、オキサロ酢酸(2.27)、シアノ酢酸(2.47)、フェニル酢酸(4.10)、フェノキシ酢酸(2.99)、フルオロ酢酸(2.59)、クロロ酢酸(2.68)、ブロモ酢酸(2.72)、ヨード酢酸(2.98)、メルカプト酢酸(3.43)、ビニル酢酸(4.12)、クロロプロピオン酸(2.71−3.92)、4−アミノ酪酸(4.03)およびアクリル酸(4.26)が含まれる。脂肪族多価カルボン酸の10 例には、マロン酸(2.65)、コハク酸(4.00)、グルタル酸(4.13)、アジピン酸(4.26)、ピメリン酸(4.31)、アゼライン酸(4.39)、フマル酸(2.85)が含まれる。オキシカルボン酸の例には、グリコール酸(3.63)、乳酸(3.66)、リンゴ酸(3.24)、酒石酸(2.82−2.99)およびクエン酸(2.87)、アルデヒド酸の例には、グリオキシル酸(3.18)が含まれる。ケトン酸の例には、ピルビン酸(2.26)およびレブリン酸(4.44)が含まれる。
また、スルホン酸やリン酸も、剥離剤として用いることができる。界面活性剤(特開昭61−243837号公報記載)も、剥離剤として用いることができる。剥離剤として用いられる界面活性剤の例には、C12H25O−P(=O)−(OK)2、C12H25OCH2CH2 O−P(=O)−(OK)2および(iso-C9H19)2−C6H3−O−(CH2CH2O)3−(CH2)4SO3Naが含まれる。
酸または金属塩の総含有量は、剥離性や透明性などを損なわない範囲で決定する。含有量は、セルロースエーテルエステル1g当たり、1×10- 9 〜3×10- 5モルであることが好ましい。
微粒子(マット剤)を添加してフイルムの軋みを防止することもできる。微粒子は、無機物質からなることが好ましい。無機物質の例には、シリカ、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、マンガンコロイド、二酸化チタン、硫酸ストロンチウムバリウム、二酸化ケイ素、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)の塩が含まれる。微粒子の添加によるフイルム表面の突起物の平均高さは、0.005〜10μmであることが好ましく、0.01〜5μmであることがさらに好ましい。微粒子の形状は、球形または不定形であることが好ましい。フイルム中の微粒子の含有量は、0.5〜600mg/m2 であることが好ましく、1〜400mg/m2 であることがさらに好ましい。
流延前の溶液は、適当な濾材(例、金網、紙、ネル)を用いて、異物(例、未溶解物、ゴミ、不純物)を除去しておくことが好ましい。溶液濾過に用いるフィルターの絶対濾過精度は、0.05〜100μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。濾過圧力は、16kg/cm2 以下であることが好ましく、12kg/cm2 以下であることがより好ましく、10kg/cm2 以下であることがさらに好ましく、2kg/cm2 以下であることが最も好ましい。
セルロースエーテルエステルフィルムを製造する方法および設備は、従来のセルローストリアセテートフイルム製造に供する溶液流延製膜方法と溶液流延製膜装置が使用できる。また、セルロースエーテルエステルのエーテル基やアシル基の種類とMS及びDSに応じて、適当な流動性を有するガラス転移点以上の温度で溶融製膜することもできる。
溶液流延製膜方法では、溶解タンク(釜)から調製されたドープ(セルロースエーテルエステル溶液)をストックタンクで一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡したり最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の支持体の上に均一に流延され、支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、各種の層(下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層)を支持体へ設けるために、塗布装置が付加されることが多い。
乾燥工程における乾燥温度は、30〜250℃が好ましく、40〜180℃がさらに好ましい。乾燥工程については、特公平5−17844号公報に記載がある。
出来上がり(乾燥後)のセルロースエーテルエステルフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常5〜500μmの範囲であり、更に20〜250μmの範囲が好ましく、特に30〜180μmの範囲が最も好ましい。なお、光学用途としては30〜110μmの範囲が特に好ましい。フイルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力や支持体速度を調節すればよい。
本発明のセルロースエーテルエステルからなるフイルムは容易に延伸することが可能である。フイルムを、積極的に幅方向に延伸する方法としては特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号の各公報記載の方法を用いることができる。
フイルムの延伸は、一軸延伸または二軸延伸が採用できる。フイルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、10〜600%であってもよく、より好ましくは10から300%であり、更に好ましくは10から100%であり、特に好ましくは10から70%であり、より良く好ましくは10から50%であり、とりわけ好ましくは10から30%である。本発明のセルロースエーテルエステルからなるフイルムは上記の通り容易に延伸することが可能であるから、延伸倍率は求める光学的特性を勘案して定めることができるが、一般的な光学フイルムとして考えた場合には30%程度であっても良い。
本発明でのフイルムでの延伸はガラス転移温度(Tg)より2℃から10℃程度高い温度で延伸をすることができる。また本発明のセルロースエーテルエステルは残留溶媒が極めて少ない(2wt%以下)状態で延伸することも可能であるが、残留溶剤量が高い状態で延伸しても構わない。
偏光板用保護膜の構成においては、セルロースエーテルエステルフィルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることが好ましい。導電性素材としては、導電性金属酸化物や導電性ポリマーが好ましい。なお、蒸着やスパッタリングによる透明導電性膜でもよい。導電性層は、最外層でもよいし、内部層でも問題はない。導電層の送電性は、抵抗が100〜1012Ωであることが好ましく、特には100〜1010Ωであることが好ましい。導電層の送電層は金属酸化物が好ましい。金属酸化物の例には、ZnO、TiO2 、SnO2 、Al2 O3 、In2 O3 、SiO2 、MgO、BaO、MoO2 、V2 O5 および複合酸化物が含まれる。ZnO、SnO2 およびV2 O5が好ましい。導電性イオン性高分子化合物の例には、主鎖中に解離基をもつアイオネン型ポリマー、側鎖中にカチオン性解離基をもつカチオン性ペンダント型ポリマーが含まれる。導電性材料としては、有機電子伝導性材料が好ましい。有機電子伝導性材料の例には、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体およびポリアセチレン誘導体が含まれる。
本発明のセルロースエーテルエステルフィルムには、フイルムそのものを光学補償シートとして用いることができる。なお、フイルムそのものを光学補償シートとして用いる場合は、偏光素子(後述)の透過軸と、セルロースエーテルエステルフィルムからなる光学補償シートの遅相軸とを実質的に平行または垂直になるように配置することが好ましい。このような偏光素子と光学補償シートとの配置については、特開平10−48420号公報に記載がある。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に80〜500μmの厚さを有する。
そして特開平6−157791には上記目的に加えてさらに反射防止効果を有するトリアセチルセルロースフィルム、そのフイルムを使用した偏光板、及び耐擦傷性に優れたトリアセチルセルロースフィルムの製造方法が開示されている。このような反射防止効果を有する反射防止フイルムとしても本発明のセルロースエーテルエステルフィルムは好適に用いることができる。
本発明において、本発明の光学フィルムまたは該光学フィルムの原料であるセルロースエーテルエステルのDSester(アシル置換度)、MS(エーテル置換度)は、13C−NMR(核磁気共鳴)法により測定することができる。この際、測定溶媒としては例えば、重メチルスルホキシド(DMSO−d6)を用いることができる。
2.2gの試料を2mlの3−メチルピリジン(比較例1のセルロースアセテートのみ1−メチル−2−ピロリジノン)に溶解し液晶状態の溶液を得た。アッベ型屈折率系を用いて20℃〜100℃の範囲の種々の温度で面方向(プラーナ−配向)と平行方向及び垂直方向の屈折率を測定し、Hallerの方法(Prog. Solid State Chem., 10, 103 (1975))により秩序度を求め、次式により固有複屈折を算出した。
(固有複屈折)=2×(複屈折)/((秩序度)×(試料の体積分率))
ここに、複屈折:面に平行な屈折率と垂直な屈折率の差
なお、試料の体積分率算出に際しては、試料と溶媒の混合による体積変化は無視した。試料の密度は定容積膨張法(アキュピック法)により測定した。
25℃、相対湿度65%の条件で96時間保管し、8時間時間経過毎の重量を測定し、平衡含水重量を求め、初期乾燥試料重量で除することにより平衡水分率を求めた。
昇温1℃/分の条件でDCSを用いてTgを求めた。
メチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に、15wt%固形分濃度になるように試料を溶解した。この溶液をバーコーターを用いてガラス板上に流延し、厚さ75〜85μmのフィルムを得た。恒温槽付の万能引張り試験機でガラス転移温度よりも8℃高い温度に保ち、このフィルムを5cm/分の速度で引っ張り、破断するときの伸度(%)を求めた。
メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液にセルロースエーテルエステルまたはそれからなる光学フィルムを溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製する。この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間(秒)tを測定する。尚、光学フイルムの場合は一般に添加剤を含んでいるのでセルロースエーテルエステルの貧溶媒に溶解し、添加剤を溶出した上で粘度を測定する。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間(秒)t0を測定し、下記式に従って、粘度平均重合度を算出できる。
η r e l =t/t0
[η]=(lnη r e l )/c
DSester=[η]/(6×10- 4 )
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルロースエーテルエステル濃度(g/L)、η r e l は相対粘度、[η]は極限粘度、DSesterは平均重合度を示す)。
(実施例1)
広葉樹前加水分解クラフト法パルプ(αセルロース含量98.4%)100重量部に5%の水酸化ナトリウム水溶液140重量部を加え混合した。次にプロピレンオキシド800重量部を加え、攪拌しながら0〜5℃の温度に約1時間保った後、30〜40℃に加温して6時間反応させた。内容物を濾別して、沈殿をとり除いた後、これに温水を加えた。1%のリン酸水溶液で中和した後、アセトン中に滴下して反応生成物を析出させた。濾別により分離し、アセトン/水(9:1)で数回洗浄を繰り返し、60℃で真空乾燥を行い本発明のセルロースエーテルであるヒドロキシプロピルセルロースを得た。生成物のプロピレンオキシドによる置換度(MS)はNMRによる測定の結果、1.1であった。
第1工程で得られたセルロースエーテル100重量部に酢酸50重量部を散布して、前処理活性化させた後、氷酢酸470重量部、無水酢酸265重量部および硫酸8.3重量部の混合物を添加し、常法によりエステル化を行った。その後、加水分解を行い、耐熱安定剤(酢酸カルシウムおよび酢酸マグネシウム)を添加することにより、セルロースエーテルエステルを得た。得られたセルロースエーテルエステルの分析評価結果を表1及び表2に示す。
比較例1
広葉樹前加水分解クラフト法パルプ(αセルロース含量98.4%)を実施例1第2工程に記載した方法でアシル化し、セルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートの分析評価結果を表1及び表2に示す。
比較例2
実施例1の第1工程でプロピレンオキシドに代えて200重量部のエチレンオキシドを使う以外は実施例1と同様に合成を行い、セルロースエーテルエステルを得た。得られたセルロースエーテルエステルの分析評価結果を表1及び表2に示す。
比較例3
実施例1の第1工程でプロピレンオキシド1600重量部を加え、攪拌しながら0〜5℃の温度に約1時間保った後、30〜40℃に加温して15時間反応させる以外は実施例1と同様に合成を行い、セルロースエーテルエステルを得た。得られたセルロースエーテルエステルの分析評価結果を表1及び表2に示す。
比較例4
実施例1の第2工程で氷酢酸470重量部、無水酢酸220重量部および硫酸14重量部の混合物を添加し、常法によりエステル化を行い、その後、加水分解を行う以外は、実施例1と同様に合成を行い、セルロースエーテルエステルを得た。得られたセルロースエーテルエステルの分析評価結果を表1及び表2に示す。
比較例5
広葉樹前加水分解クラフト法パルプ(αセルロース含量98.4%)を実施例2第2工程に記載した方法でアシル化し、セルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートの分析評価結果を表1及び表2に示す。
以下本発明のセルロースエーテルエステルの延伸された光学フィルムを作成した。
実施例2と比較例2および比較例3についてメチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に、15wt%固形分濃度になるように試料を溶解した。この溶液をバーコーターを用いてガラス板上に流延し、厚さ75〜85μmのフィルムを得た。恒温槽付の万能引張り試験機でガラス転移温度よりも8℃高い温度に保ち、縦方向、横方向それぞれに延伸倍率1.3倍に延伸し延伸された光学フィルムを作成した。
実施例2のヒドロキシプロピルセルロースアセテートプロピオネートを用いた延伸された光学フイルムを実施例4とした。この延伸された光学フィルムは厚み方向のレタデーションが高く位相差フィルムとして好適に使用することができた。
また比較例2のヒドロキシエチルセルロースアセテートを用いた延伸された光学フイルムを比較例6としたがこのものは延伸途中で破断し、延伸された光学フィルムを得ることができなかった。
比較例3のヒドロキシプロピルセルロースアセテートプロピオネートは延伸することはできたが厚み方向のレタデーションが上がらず位相差フィルムとして使用することはできなかった。
結果を表3に示す。
Claims (12)
- 以下の条件を満たすセルロースエーテルエステル
(1)置換基がヒドロキシアルキル基、アシル化ヒドロキシアルキル基及びアシル基でありかつ、
(2)グルコース単位あたりの平均の水酸基置換度(RH)が0.001から0.400でありかつ
(3)グルコース単位あたりにエーテル結合したエーテル化剤の平均分子数(MS)が0.75から1.75でありかつ
(4)エーテル基およびエステル基各々の炭素数と置換度の積を3で除したものの和として定義する平均炭素数(AC)が2.5から6.5でありかつ、
(5)1.5≦DSester<3.0
但し、DSesterはセルロースを構成している無水グルコース単位当たりのアシル基により置換されている水酸基の平均数を示す。 - エーテル基およびエステル基各々の炭素数と置換度の積を3で除したものの和として定義する平均炭素数(AC)が3.1から3.9である請求項1に記載のセルロースエーテルエステル
- アシル基がアセチル基及びプロピオニル基またはブチリル基でありかつ、
ヒドロキシアルキル基の90%以上が2−ヒドロキシエチル基および/または2−ヒドロキシプロピル基である請求項1乃至2何れかに記載のセルロースエーテルエステル。 - ヒドロキシアルキル基が2−ヒドロキシエチル基および/または2−ヒドロキシプロピル基であることを特徴とする請求項3に記載のセルロースエーテルエステル。
- ヒドロキシアルキル基が2−ヒドロキシプロピル基であることを特徴とする請求項3記載のセルロースエーテルエステル。
- アシル基がアセチル基及びプロピオニル基であることを特徴とする請求項5に記載のセルロースエーテルエステル。
- アシル基の70%以上がプロピオニル基であることを特徴とする請求項6に記載のセルロースエーテルエステル。
- アシル基がアセチル基及びブチリル基であることを特徴とする請求項5に記載のセルロースエーテルエステル。
- アシル基の30%以上がブチリル基であることを特徴とする請求項8に記載のセルロースエーテルエステル。
- 下式で求めた固有複屈折(IR)が0.001から0.040でありかつ、平衡水分率(WR)が2wt%以下でありかつ、示査走査熱量計で求めたガラス転移点(Tg)が60〜180℃でありかつ、ガラス転移点より8℃高い温度で50mm/minの引張速度で測定した高温破断伸度(HB)が30〜250%である請求項1から9に記載のセルロースエーテルエステル。
(固有複屈折)=2×(複屈折)/((秩序度)×(試料の体積分率))
ここに、複屈折:面に平行な屈折率と垂直な屈折率の差 - 下記測定方法で測定した不溶解物量(US)が0.014wt%以下である請求項10に記載のセルロースエーテルエステル
(測定方法)
メチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に、2wt%固形分濃度
になるようにセルロースエーテルアセテートを溶解した溶液を、ガラスフィルター(孔径
5〜10μm)を使用して濾過する。その後、濾過残渣に付着しているドープをメチレン
クロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒にて洗浄する。濾過残渣をガラス
フィルターごと恒量になるまで乾燥する。これらの濾過前後でのガラスフィルター重量を
測定し、次式より不溶解物量を算出する。
不溶解物量(wt%)=〔濾過後ガラスフィルター重量(g)−濾過前ガラスフィルター重
量(g)〕/セルロースエーテルアセテート重量(g)×100 - 請求項1から11何れかに記載されるセルロースエーテルエステルと可塑化及び又は耐候性改善に効果を有する化合物からなるソルベントキャスト法または溶融製膜法で製造されたセルロースエーテルエステルのフィルムを機械方向および/または幅方向に1.3倍以上の延伸倍率で延伸した光学フィルム。
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