JP2008056768A - セルロースアセテート及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】セルロースアセテートの製造工程を、アセチル化溶媒(C1−6アルカン酸など)でセルロースを活性化する第1の活性化処理工程を含む第1の活性化工程と、アセチル化溶媒およびアセチル化酸触媒(硫酸など)でセルロースを活性化する第2の活性化処理工程を含む第2の活性化工程と、アセチル化酸触媒の存在下、アセチル基を有するアセチル化剤(例えば、無水酢酸)でセルロースをアセチル化する工程とで構成する。
【選択図】なし
Description
これらの用途の中でも近年特に液晶表示装置関係の光学材料、例えば、位相差フィルム、偏光板保護フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルムとして用いられておりその重要性が高まっている。
液晶表示装置関係の光学材料については、セルロースアシレートフィルムは、他のポリマーフィルムと比較して光学的等方性が高い( レタデーション値が低い) という特徴がある。従って、光学的等方性が要求される用途、例えば偏光板保護膜には、セルローストリアセテートフイルムを用いることが普通である。一方、液晶表示装置の光学補償シート( 位相差フィルム) には光学的異方性( 高いレタデーション値) が要求される。特にV A 用の光学補償シートでは3 0 乃至2 0 0 n m の面内レタデーション( R e ) 、7 0 乃至4 0 0 n m の厚さ方向レタデーション( R th ) が必要とされる。従って、光学補償シートとしてはポリカーボネートフィルムやポリスルホンフィルムのような、レタデーション値が高い合成ポリマーフィルムを用いることが普通であった。
しかしながらセルロースアセテートフィルム特に、光学特性に優れるセルローストリアセテートフイルムは延伸性に乏しいため、所望の延伸率を達成できなかった。 このようなセルロースアセテートの延伸性を改良する試みもされた。例えば、特開2002-62430号公報(特許文献1)には、炭素数2〜4のアセチル基を置換基として有し、グルコース単位における2位、3位および6位のアセチル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアセチル基置換度が0.87未満であるセルロースアセテートを含むフィルムが開示されている。このように総置換度を低く制御することでセルロースアセテートの延伸性を改良する試みがされている。しかし、このセルロースアセテートでは、未置換の水酸基が多いものしか得られないため、湿度の変化に応じて経時的に寸法が変化し易くなる。
すなわち、このフィルムではセルロースの水酸基のうちアセチル化されていない水酸基が多く、寸法変化は面内位相差及び面外位相差の変化をもたらすため、偏光特性などの光学的特性が変化し、位相差フィルムや視野角拡大フィルムとしての実際の使用には適さない。
この文献ではセルロースアシレートに可塑剤(トリフェニルフォスフェートとビフェニルジフェニルフォスフェイトの2対1の混合物)、特定構造のレタデーション発現剤を混合溶剤に溶解し、ろ過した後、フラッシュ濃縮を行い、ドープ中の固形分濃度を約21%に調整し、バンド流延機を用いて流延しフィルムを作成する技術が開示されている。このフィルムは更に、残留溶剤量が25から35質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、テンターを用いて15%〜23%の延伸率で幅方向に延伸して、セルロースアシレートフィルムを製造することも記載されている。この文献には、上記のグルコース環内の6位に置換されているアシル基(アセチル基を含む)が上記の特定の範囲にある場合にレタデーションが良好なフィルムが得られることが記載されている。
特に、近年、37インチ以下の準大画面の液晶表示装置でもフルハイビジョンが要求され、一画素の単位面積が小さくなり輝点異物の問題はより重要となっている。この輝点をもたらす異物は、アセチル化の程度が異なるセルロースアセテートに起因していると思われる。すなわち、セルロースアセテートの製造のアセチル化工程でアセチル化度の低いセルロースアセテート(低アセチル化セルロースと称することがある)が副生し、偏光板保護膜などの光学フィルムとして用いると、アセチル化度の高いセルロースとの屈折率の相違に基づいて、偏光を変化させるため、輝点異物として認識される。
また、低アセチル化セルロースは、通常のセルローストリアセテートと比較して、セルロースアセテートの溶媒として用いられる溶媒に対する溶解性が乏しいため、セルロースアセテートを溶解して溶液(ドープ)を調製すると不溶成分として残留する。そのため、低アセチル化セルロースは濾過残渣となるだけでなく、低アセチル化セルロースのサイズや形状などによっては濾過材を通り抜ける場合もある。従って、セルロースアセテート溶液の濾過により上記課題を解決できない。このような低アセチル化成分、すなわちアセチル化度の低い異物は置換度分布で表させるようなものではなく、ほとんどアセチル化されていない極めてアセチル化度の低い成分であると考えられる。
すなわち、グルコース環内の各水酸基の反応性を比較した場合グルコース環内で6位の水酸基の反応性が高い。このため触媒として添加された硫酸は6位の水酸基に対して、他の2,3位の水酸基よりも反応し易く、その結果6位の水酸基が硫酸エステル化される。セルロースアセテートの加水分解過程(熟成工程)では、硫酸エステル基がアセチル基に対してより優先的に加水分解されるため、6位のアセチル基は加水分解されやすいことになり、結果的に6位アセチル基置換度が低下する。
そして、重合度を保とうとすると触媒硫酸を増やす必要があり6位置換度が低下するし、輝点異物が大きくなるという技術的な矛盾を解決する手段は見出されていなかった。
第2の活性化工程で添加するアセチル化触媒を含む有機カルボン酸の添加量は10から60重量部(例えば、15から50重量部、好ましくは20から40重量部、さらに好ましくは25から35重量部)であってもよい。
特に、アセチル化触媒が硫酸であり、かつ後段で添加するアセチル化触媒を含む有機カルボン酸溶液を形成する有機カルボン酸が酢酸である場合においては、セルロースを活性化剤で活性化する工程で添加されるアセチル化触媒(硫酸)の添加量は原料セルロース100重量部に対して0.5から5重量部(例えば0.5〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部、さらに好ましくは0.5〜1.5重量部、より好ましくは0.5〜1.0重量部)であっても良い。
本発明は、さらに、前記セルロースアセテートで構成された成形体も包含する。この成形体は、光学フィルムなどのフィルムであってもよく、例えば、偏光板の保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムから選択された光学フィルムであってもよい。
なお、本明細書において、「不溶成分」とは、未反応セルロース及び溶媒に対して溶解性が劣る低置換度セルロースであって、光学的に微小異物として作用する成分を意味し、非溶解成分、不溶解物、低アセチル化セルロースなどと同義に用いる。
原料セルロースとしては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、リンターパルプ(コットンリンターパルプなど)などの種々のセルロース源を用いることができる。これらのパルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有している。従って、本明細書において、用語「セルロース」は、ヘミセルロースなどの異成分も含有する意味で用いる。
木材パルプとしては、広葉樹パルプ及び針葉樹パルプから選択された少なくとも一種が使用でき、広葉樹パルプと針葉樹パルプとを併用してもよい。また、リンターパルプ(精製綿リンターなど)と木材パルプとを併用してもよい。本発明では重合度の高いセルロース、例えば、リンターパルプ、特にコットンリンターパルプが使用でき、セルロースは、少なくとも一部はリンターパルプで構成されたセルロースを使用するのが好ましい。セルロースの結晶化度の指標となるα−セルロース含有量(重量基準)は、98%以上(例えば、98.5〜100%、好ましくは99〜100%、さらに好ましくは99.5〜100%程度)である。
セルロースは、通常、セルロース分子及び/又はヘミセルロース分子に結合した状態などで多少のカルボキシル基を含有しているものであっても良い。
活性化工程(又は前処理工程)では、セルロースを活性化剤で処理し、セルロースを活性化させる。通常、原料セルロースはシート状の形態で供給される場合が多いため、セルロースを乾式で解砕処理し、活性化処理(又は前処理)する。通常、活性化剤には、強酸(硫酸など)が添加されることもあるが、単純に強酸を含む活性化剤で処理すると、セルロースの解重合が進行しやすくなり、重合度が低下する。例えば、常用の技術としては前処理工程で添加される硫酸量としては原料セルロース100部に対して0.1部から0.5部程度用いるものとされており、前処理工程で硫酸を原料セルロース100部当たり0.5部以上用いた場合には原料セルロースの分子量低下が生じることが知られている。「酢酸繊維」(和田野基著 丸善株式会社発行) そこで、本発明では、活性化工程を、セルロースを活性化剤(アセチル化溶媒など)で活性化する第1の活性化工程を含む第1の活性化工程と、活性化剤(アセチル化溶媒など)およびアセチル化触媒でセルロースを活性化する第2の活性化工程を含む第2の活性化工程とで構成する。第1の活性化工程においてアセチル化溶媒で活性化処理した後、第2の活性化工程においてアセチル化触媒およびアセチル化溶媒により(特に、第1の活性化工程に比べてセルロースに対するアセチル化溶媒の濃度を高めて)活性化すると、従来の方法に比べて、セルロース、特にアセチル化反応に対して抵抗性を示すセルロースの結晶部分の活性化効果が高くなり、解重合に比べてアセチル化反応の選択性が大きくなるためか、セルロースアセテート(特にセルローストリアセテート)の高い重合度を維持しつつ、未反応物や低アセチル化反応物の副生を低減化できる。また、後述するように、第2の活性化工程における保持時間を長くすると、より一層高い活性化効果が得られる。
なお、本発明においては、第1の活性化工程では、アセチル化触媒(強酸など)を実質的に含まない活性化剤でセルロースを処理し、第2の活性化工程(又は第2の活性化工程以降の活性化工程)では、アセチル化触媒を含む活性化剤でセルロースを処理することを特徴とする。
第1の活性化処理工程(又は第1の活性化剤添加工程)において、セルロースを活性化処理する活性化剤は、通常、アセチル化反応の溶媒(アセチル化溶媒又は媒質)が使用される。アセチル化溶媒としては、有機カルボン酸、例えば、アルカン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸)などの脂肪族カルボン酸(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルカン酸)などが挙げられる。これらの活性化剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの活性化剤(有機カルボン酸)のうち、分子が小さいほどセルロース内部に浸透又は拡散しやすく、より効果的にセルロースを活性化させることができるため、C1−4アルカン酸、特に入手容易性や回収性などの観点から、C1−2アルカン酸(ギ酸、酢酸)が好ましい。そして、回収したアルカン酸の再使用の観点から酢酸単独でアセチル化反応の溶媒を形成することが好ましい。
第1の活性化処理工程での活性化剤(アセチル化溶媒)の使用量は、例えば、セルロース100重量部に対して40〜100重量部、好ましくは40〜90重量部、さらに好ましくは40〜80重量部程度であってもよい。
第2の活性化工程前に、セルロースを予めアセチル化溶媒(特にギ酸、酢酸などの低級カルボン酸)で活性化しておく(すなわち、第1の活性化処理する)と、セルロース(特にリンターパルプなどの結晶化の程度が大きなセルロース)であっても、アセチル化溶媒がセルロース内に拡散浸透し、結晶構造を緩和し、アセチル化のためのアセチル化触媒の内部への浸透を促進する。しかも、第1の活性化処理工程のアセチル化溶媒はアセチル化触媒を含んでいないため、アセチル化反応に供してもセルロースの解重合が過度に進行することがなく、このような第1の活性化工程(第1の活性化処理工程)と第2の活性化工程とを組み合わせることにより、アセチル化触媒量を制限しつつ、低アセチル化成分の発生を抑制でき、かつ分子量が低下することを防ぎ、分子量が高く、不溶解物量が少ない高い6位置換度のセルロースアセテート(特にセルローストリアセテートを達成できる。
そして、アセチル化触媒は、通常、強酸(硫酸、スルホン酸など)、特に硫酸で構成する場合が多い。
なお、第2の活性化工程は複数の工程で構成してもよい。例えば、第2の活性化工程は、アセチル化触媒を含むアセチル化溶媒(又は媒質)で処理する工程と、アセチル化触媒を含まないアセチル化溶媒(又は媒質)で処理する工程とで構成してもよく、アセチル化触媒を含むアセチル化溶媒(又は媒質)で複数回に亘り処理する複数の工程で構成してもよい。また、後者の複数回に亘る処理工程では、アセチル化触媒濃度を段階的又は連続的に大きくしてもよく小さくしてもよい。
第2の活性化処理工程でのアセチル化触媒(硫酸など)の濃度は、アセチル化溶媒及びアセチル化触媒の総量[又はアセチル化触媒(特に硫酸)を含むアセチル化溶媒]に対して、1〜10重量%程度の範囲から選択でき、通常、2〜9重量%(例えば、2〜7重量%、好ましくは2〜5重量%、さらに好ましくは2〜4重量%)程度であってもよい。アセチル化触媒の濃度が低いと、セルロースの活性化効果が小さく、アセチル化反応が遅くなって未反応物の副生量が増加し、前記濃度が高過ぎると、アセチル化触媒によるセルロースの解重合が顕著となり、セルロースアセテート(特にセルローストリアセテート)の重合度が低下する場合がある。なお、第2の活性化工程でアセチル化触媒を高い濃度で含むアセチル化溶媒(又は媒質)を用いると、第2の活性化工程の処理時間(又は保持時間)を効率よく短縮できる。
第2の活性化処理は、セルロース(第1の活性化工程を経たセルロース、活性化されたセルロース)に対してアセチル化触媒を含む活性化剤で処理できればよく、活性化処理方法としては、第1の活性化処理と同様にできる。
また、第2の活性化処理温度は、0℃〜100℃の範囲から選択でき、通常、10℃〜40℃、好ましくは15℃〜35℃、さらに好ましくは20〜30℃程度であってもよい。
第2の活性化工程は、第2の活性化処理工程(又は第2の活性化剤添加工程)を少なくとも含んでいればよく、通常、第2の活性化処理工程(第2の活性化剤添加工程)と、この活性化処理後、セルロース(第2の活性化処理により活性化されたセルロース)を保持(又は放置又は熟成)する保持工程(第2の保持工程)とで構成してもよい。この保持工程(第2の保持工程)での保持温度は、10〜40℃(例えば、15〜35℃、好ましくは20〜30℃)程度であってもよい。また、第2の保持工程において、保持時間(詳細には、第2の活性化処理工程終了からアセチル化開始(アセチル化剤の添加)までの時間)は、5分以上(例えば、10〜300分)の範囲から選択でき、例えば、20分以上(例えば、25〜240分程度)、好ましくは30〜180分(例えば、35〜150分)、さらに好ましくは40〜120分程度である。保持温度は10〜30℃程度、保持時間は40〜180分程度である場合が多い。比較的長い保持時間[例えば、75分以上(例えば、80〜150分程度)の時間]が確保できれば、比較的低いアセチル化触媒濃度(例えば、3〜4重量%程度の硫酸濃度)の媒質で処理することにより、高い重合度を有し、しかも未溶解物の量が著しく低減したセルロースアセテートを効率よく得ることができる。
なお、第2の活性化工程全体の時間(例えば、第2の活性化処理時間と第2の保持時間との総時間)は、0.1〜72時間(10分〜24時間程度)の範囲から選択でき、例えば、25〜240分、好ましくは35〜180分、さらに好ましくは45〜120分程度、通常0.1〜3時間(好ましくは90〜150分程度)であってもよい。第2の活性化工程の時間が短すぎると活性化の効果が不充分か均一に処理を行うために不適当であり、長すぎると分子量が低下するため適さない。
なお、活性化工程は、第1の活性化工程および第2の活性化工程の少なくとも二段階の工程で構成されていればよく、さらに多段階の工程(三段階、四段階など)で構成されていてもよい。ただし、三段階以上の多段階の工程であっても、第1の活性化処理工程では、通常、アセチル化触媒(強酸など)を実質的に含まない活性化剤でセルロースを処理する必要がある。
前記活性化処理(第1および第2の活性化処理)により活性化されたセルロースは、アセチル化触媒の存在下、アセチル化剤でアセチル化され、セルロースアセテート(特に、セルローストリアセテート)を生成する。アセチル化触媒としては、前記と同様に強酸、特に硫酸が使用できる。アセチル化工程でのアセチル化触媒(特に、硫酸)の使用量は、前記活性化工程でのアセチル化触媒の使用量を含めて合算で、原料セルロース100重量部に対して1〜20重量部程度であれば良く、特にアセチル化触媒が硫酸の場合には7〜12重量部(例えば7〜11重量部、好ましくは8〜11重量部、より好ましくは9〜11重量部)程度であっても良い。
アセチル化剤としては、アセチル基(後述のアセチル基など)に対応するアセチル化剤であれば、酢酸クロライド、酢酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸が使用できる。
なお、セルローストリアセテートを得る場合、酢酸の存在化でアセチル化及び/又は熟成できればよい。アセチル化工程でのアセチル化剤の使用量は、例えば、セルロースの水酸基に対して1.1〜4当量、好ましくは1.1〜2当量、さらに好ましくは1.3〜1.8当量程度である。
なお、アセチル化反応は、慣用の条件、例えば、0〜50℃、好ましくは5〜35℃、さらに好ましく10〜30℃程度の温度で行うことができる。なお、アセチル化反応は、初期において、比較的低温[例えば、10℃以下(例えば、0〜10℃)]で行ってもよい。このような低温での反応時間は、例えば、アセチル化反応開始から30分以上(例えば、40分〜5時間、好ましくは60〜300分程度)であってもよい。また、アセチル化時間(総アセチル化時間)は、例えば、1時間以上(例えば、2〜36時間、好ましくは3〜24時間、さらに好ましくは6〜18時間程度)であってもよい。
アセチル化反応の終了後、反応系に残存するアセチル化剤を失活(クエンチ)させるため、反応系に反応停止剤を添加する。失活工程では少なくとも前記アセチル化剤(特に酸無水物)が失活させられる。
前記反応停止剤は、アセチル化剤を失活可能であればよく、通常、少なくとも水を含んでいる場合が多い。例えば、反応停止剤は、水と、アセチル化溶媒(有機カルボン酸など)、アルコール及び中和剤から選択された少なくとも一種とで構成してもよい。より具体的には、反応停止剤としては、例えば、水単独、水と有機カルボン酸との混合物、水とアルコールとの混合物、水と中和剤との混合物、水と有機カルボン酸とアルコールと中和剤との混合物などが例示できる。
水とアセチル化溶媒及び/又はアルコールとの割合は、例えば、水100重量部に対してアセチル化溶媒及び/又はアルコール10〜150重量部程度の範囲から選択でき、通常、25〜120重量部、好ましくは30〜100重量部、さらに好ましくは50〜90重量部程度であってもよい。
アセチル化反応停止剤の添加速度は、特に限定されないが、反応系に残存するアセチル化剤(特に無水酢酸などの酸無水物)1モルに対して、0.3〜10当量/分(例えば、0.5〜9当量/分)、好ましくは0.7〜8当量/分(例えば、1〜7当量/分)、さらに好ましくは1.5〜6当量/分(例えば、1.7〜5当量/分)、特に2〜5当量/分程度であってもよい。アセチル化反応停止剤は、少なくとも前記酸無水物を失活させるため、反応系に残存する酸無水物1モルに対して、0.5〜5当量/分(例えば、1.5〜4当量/分)程度の速度で添加する場合が多い。なお、反応系に残存するアセチル化剤の量は、セルロースの使用量をグルコース単位(モル)に換算し、全てのグルコース単位に存在するヒドロキシル基のモル数(すなわち、グルコース単位(モル)×3)をアセチル化剤の使用モル数から減じることにより残余モル数として算出できる。
前記アセチル化反応を停止した後、生成したセルロースアセテート(セルローストリアシレート)をケン化熟成(脱アセチル化または加水分解)することにより、アセチル化度及び置換度分布を調整したセルロースアセテートを得ることができる。この反応において、アセチル化に利用したアセチル化触媒(特に硫酸)の一部を中和し、残存するアセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してもよく、中和することなく残存した全てのアセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してもよい。
好ましい態様では、残存アセチル化触媒(硫酸成分)を熟成触媒として利用してセルロースアセテート(セルローストリアシレート)を脱アセチル化(加水分解または熟成)する。なお、熟成において、必要に応じて新たに溶媒(水、酢酸、アルコール、塩化メチレンなど)を添加してもよい。これらの溶媒の内、水、アルコール、酢酸の量的な割合については後述する。
脱アセチル化反応(熟成または加水分解工程)は、例えば、20℃〜90℃の温度、好ましくは25℃〜80℃、さらに好ましくは30℃〜70℃程度で行うことができる。脱アセチル化反応は、不活性ガス雰囲気中で行ってもよく、空気雰囲気中で行ってもよい。
熟成反応時間[アセチル反応停止から熟成反応の停止(中和剤の添加)までの時間]は、例えば、20分以上(例えば、25分〜24時間)の範囲から選択でき、好ましくは30分〜18時間(例えば、40分〜12時間)、さらに好ましくは1〜10時間(例えば、2〜4時間)程度であってもよい。なお、比較的アセチル置換度が小さいセルローストリアセテートを得る場合、熟成時間は、30〜360分、好ましくは40〜300分、さらに好ましくは60〜240分程度であってもよい。
本発明のセルロースアセテートを得る場合、熟成工程における水分量を限定すると分子間置換度分布が均一でかつグルコース環の6位置換度分布が高いセルロースアセテートを得ることができるので好ましい。具体的にはセルロースアセテートを、アセチル基供与体の0.1乃至13モル%(0.1モル%以上、13モル%未満)の水またはアルコール(プロトン供与体)および触媒の存在下で熟成すると、2位、3位および6位のアセチル置換度を容易かつ適切に調整できる。
すなわち、2位、3位または6位に未反応の水酸基を有するグルコース単位と、アセチル基供与体(R−COCH3 :Rは、HO、アルコキシ基、アリールオキシ基)との平衡条件を調節することにより、2位、3位および6位のアセチル置換度を効果的に調整することができる。
熟成工程における触媒としては、酸または金属(例、チタン、スズ)イオンが好ましい。酸としては、通常のプロトン酸のみではなく、ルイス酸も有効である。最も好ましい触媒は、硫酸である。
なお、セルロースアセテートを合成する工程では、一般に過剰量の無水酢酸を使用するが、熟成工程の前に、過剰の無水酢酸を酢酸まで加水分解しておく(熟成工程では無水酢酸が存在しない)ことが好ましい。このようにすることにより、本発明に好適である2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上2.00以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.85以上であるセルロースアセテートを得ることができる。
所定のセルロースアセテートを生成させた後、熟成反応を停止させる。すなわち、前記脱アセチル化反応の後、必要により前記塩基で構成された中和剤(好ましくは前記アルカリ金属化合物及び/又は前記アルカリ土類金属化合物、特に少なくともカルシウム化合物)を添加してもよい。
反応生成物(セルロースアセテートを含むドープ)を析出溶媒(水、酢酸水溶液など)に投入して生成したセルロースアセテートを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。なお、水洗の際に中和剤を使用することもできる。
このような方法により、セルロースアセテートの重合度の低下を抑制しつつ、不溶物又は低溶解性成分(未反応セルロース、低アセチル化セルロースなど)の生成を低減できる。
本発明には、特定の溶媒に対する不溶成分量が著しく低減されたセルロースアセテートも含まれる。すなわち、本発明のセルロースアセテート(特に、セルローストリアセテート)は、塩化メチレン及びメタノールの混合溶液(塩化メチレン/メタノール=9/1(重量比))への不溶成分量が0.1重量%以下のセルロースアセテートである。なお、このようなセルロースアセテートは、例えば、前記の製造方法により製造することができる。
本発明のセルロースアセテート(特にセルローストリアセテート)において、総平均置換度(セルロースを構成するグルコース単位の2,3および6位に置換するアセチル基の総平均置換度)は、充分な耐湿性を付与できる範囲で選択でき、3以下(例えば、2.5〜3程度)の範囲から選択でき、例えば、好ましくは2.0〜2.99、好ましくは2.30〜2.98、さらに好ましくは2.50〜2.97、特に2.60〜2.96(例えば、2.64〜2.95)程度であってもよい。総平均置換度が高いと、加湿による光学特性の変化を防止できる。
このため、アセチル置換度は、目的とするリタデーションなどに応じて選択することができる。グルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度は、手塚Tezuka,Carbonydr.Res.273,83(1995) )の方法に従いNMRで測定できる。
すなわち、セルロースアセテート試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、炭素13のスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチルとプロピオニルの存在比から、元のセルロースアセテートにおける酢化度を求めることができる。
DS=162×AV×0.01/(60−42×AV×0.01)
上記式において、DSはアセチル置換度であり、AVは酢化度(%)である。なお、換算して得られる置換度の値は、前記のNMR測定値との間に若干の誤差が生じることが普通である。換算値とNMR測定値とが異なる場合は、NMR測定値を採用する。また、NMR測定の具体的方法によって値が相違する場合は、上記手塚の方法によるNMR測定値を採用する。また、アセチル化度は、1H−NMR、13C−NMRで分析することもできる。
このようなセルローストリアセテートの粘度平均重合度は、例えば、下限が250以上(例えば、290以上、より好ましくは300以上、特に好ましくは305以上)であり、上限は350以下(例えば330以下、好ましくは325以下、特に好ましくは320以下)であってもよい。
ηrel=t/t0
[η]=(lnηrel)/c
DP=[η]/(6×10−4)
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルローストリアセテート濃度(g/L)、ηrelは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは平均重合度を示す)。
また本発明のセルロースアセテートについては他の溶媒でも極限粘度を求めることができる。例えば、N−メチルピロリドン中での極限粘度を求めることもできる。本発明のセルローストリアセテートは、65℃においてN−メチルピロリドン(NMP)中で測定した場合に約2.3〜3.8dl/gの極限粘度を有する。セルローストリアセテートの極限粘度は、具体的には、105℃において1時間乾燥させ、次いで30分間デシケーターに移して冷却させる。この様にして正確な乾燥重量を求めたセルローストリアセテートを0.500gを100mlのN−メチルピロリドン溶解し、0.5g/dlの溶液を得る。この溶液を65℃においてオストワルド粘度計やViscotek Y501C粘度計を用いて測定し、得られた相対粘度(ηr)をSolomon-Gottesman式などの換算式を用いて算出することで求めることができる。
本発明のセルロースアセテートは、著しく高いレベルで異物(非溶解性成分)の含有量(不溶化物量)が少ない。本明細書では、このような非溶解性成分(微小な異物)を、メチレンクロライド/メタノール(重量比)=9/1の混合溶媒に対して溶解しない成分であると定義する。このような非溶解性成分としては、前記混合溶媒に溶解しなければ特に限定されないが、通常、原料のセルロース又はセルロース由来の副生物、主に、セルロースアセテートの合成において反応しなかった未反応セルロース、低置換度のセルロースアセテート、セルロースアセテート同士が結合硫酸および金属成分(カルシウムなど)を介して結合した結合形成物、これらの混合物などが挙げられる。
塩化メチレン:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に、セルロースアセテートを所定の固形分濃度(例えば、1〜3重量%程度)に溶解し、得られた溶液を、ガラスフィルター(例えば、孔径5〜10μm程度)を使用して濾過する。ガラスフィルターとしては相互理化学硝子製作所製の「G―4」などを使用できる。フィルターに付着している残渣及びドープを塩化メチレン:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒で洗浄する。濾過残渣をガラスフィルターごと恒量になるまで乾燥する。濾過前後でのガラスフィルター重量を測定し、次式より不溶解物量を算出する(式中、W1は濾過前ガラスフィルター重量(g)、W2は濾過後ガラスフィルター重量(g)を示し、Sはセルロースアセテート重量(g)を示す)。
不溶解物量(重量%)=[(W2−W1)/S]×100
なお、セルロースアセテートは、硫酸を触媒として用いて合成した場合、「酢酸繊維」(和田野基著 丸善株式会社発行)などにも記載されているように、通常、残存する硫酸成分を含有する。このような残存硫酸成分には、遊離状のもの、吸着されているもの、アセチルの形で結合しているもの(結合硫酸)、固体状の無機硫酸塩の4種類などが挙げられる。これらの硫酸成分のうち、慣用の方法(工業的な洗浄など)で洗浄したセルロースアセテートの場合には、通常、吸着されているもの、遊離しているものは極微量である。
セルロースアセテートの製造工程(例えば、製造工程の最終段階)においては、耐熱処理を行うのが望ましい。すなわち、セルロースアセテートは、通常、熱が作用し水分が存在している環境下では加水分解を起こす。そのため、熱安定性や湿熱安定性を向上させるため、安定剤、例えば、アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウムなど)又はその塩やその化合物、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなど)又はその塩やその化合物を含有させることにより、硫酸基を不活性化し、耐熱安定性を付与してもよい。安定剤の含有量は残存硫酸成分に対して大過剰であってもよい。
セルロースアセテートは、溶媒に溶解してセルロースアセテート溶液(ドープ)を調製してもよい。溶媒としては、有機溶媒、例えば、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレンなど)、ケトン類(アセトンなど)、アセチル類(酢酸メチルなど)などが例示できる。本発明のセルロースアセテートは、塩化メチレンなどのハロゲン含有溶媒への溶解性に優れるのみならず、非ハロゲン系溶媒を用いてもドープの調製が可能である。
セルロースアセテート溶液は、一般的なソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて調製することができる。比較的低濃度の溶液は常温で攪拌することにより得ることができる。高濃度の溶液では、加圧および加熱条件下で攪拌して調製することが好ましい。具体的には、セルロースアセテートと溶媒を加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常、60℃以上、好ましくは80℃乃至110℃である。
可塑剤としては、トリフェニルフォスフェート(TPP)、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)などのリン酸アセチル系可塑剤、ジオクチルフタレート(DOP)などのフタル酸系可塑剤、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)およびクエン酸アセチルトリエチルなどのクエン酸系可塑剤などが含まれる。本発明のセルロースアセテートは、従来のセルロースアセテートと比較して、可塑剤の添加量が少なくても済むという利点がある。このため、可塑剤の量が15重量%以下でも、可塑効果が得られる。
本発明の光学フィルムは水溶液中での酸解離指数pkaが1.93〜4.50である少なくとも一種類の酸(クエン酸など)、この酸のアルカリ金属塩、および前記酸のアルカリ土類金属塩から選択された少なくとも一種を剥離剤として含むことができる。剥離剤はセルロースアセテート溶液を流延する前に添加することができ、セルロースアセテートに含有されていてもよい。
セルロースアセテートフィルムを製造する方法および設備は、従来のセルローストリアセテートフイルム製造に供する溶液流延製膜方法と溶液流延製膜装置が使用できる。例えば、セルロースアセテート溶液を、支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に流延する。複数のセルロースアセテート液を、逐次流延あるいは共流延して二層以上のセルロースアセテートフィルムを製造してもよい。
本発明のセルロースアセテートフィルムは延伸されていてもよい。延伸方法は特に制限されず、フィルムの延伸には、一軸延伸又は二軸延伸が採用できる。フィルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、10〜600%であってもよく、好ましくは10〜300%(例えば、15〜100%)、さらに好ましくは10〜70%(例えば、20〜50%)、特に10〜30%程度である。なお、延伸倍率は、フィルムの特性(光学的特性など)を考慮して選択できる。一般的な光学フィルムでは延伸倍率20〜40%(例えば、25〜35%)程度であってもよい。
セルロースアセテートで構成された成形体は、繊維状などの二次元状形態、フィルムやシートなどの二次元状形態、湾曲又は立体形状の三次元形態であってもよい。成形体は、通常、フィルム又はシートである場合が多い。このような成形体(特にフィルム)では、従来は実現が困難であった広い範囲の面内位相差及び面外位相差を発現させながら、寸法及び光学特性が湿度に依存して変化することがない。
セルロースアセテートの酢化度、6%粘度、不溶解物量、粘度平均重合度、NMP極限粘度、置換基分布(2+3位置換度、6位置換度)、剥離性は次のようにして評価した。
セルロースアセテートのDS(平均アセチル置換度)は、ASTM−D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法である。
またASTMに従い求めた酢化度(結合酢酸量)を、次式で置換度に換算してもよい。
DS=162×AV×0.01/(60−42×AV×0.01)
上記式において、DSはアセチル置換度であり、AVは酢化度(%)である。
三角フラスコに乾燥試料3.0g、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)混合溶媒61.67gを入れ、密栓して1時間攪拌した。その後、回転振盪機で1.5時間振盪して完溶させた。得られた6wt/vol%の溶液を所定オストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約30分整温した。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出した。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(s)×粘度計係数
粘度計係数は、粘度計校正用標準液を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求めた。
メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液にセルロースアセテートを溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製し、この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定した。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間(秒)t0を測定し、下記式に従って、粘度平均重合度を算出した。
ηrel=t/t0 [η]=(lnηrel)/c DP=[η]/(6×10−4)
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルロースアセテート濃度(g/L)、ηrelは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは粘度平均重合度を示す)。
セルロースアセテートを1重量%の割合で、メチレンクロライド/メタノール(重量比)=9/1の混合溶媒に溶解させた溶液(ただし、非溶解性成分は溶解していない)を、孔径5〜10μmを有するフィルター部を備えたガラスフィルター(相互理化学硝子製作所製、商品名「G―4」)を使用してろ過し、ろ過残渣に付着している付着物(ドープ)を洗浄するため、フィルター部分を前記混合溶媒で洗浄したのち、ろ過残渣を含むガラスフィルターを、一定の重量(恒量)になるまで乾燥した。そして、濾過前後のガラスフィルター重量を測定し、濾過後(濾過、洗浄および乾燥後)のガラスフィルター重量をX(g)、濾過前のガラスフィルター重量をY(g)、濾過に使用した溶液中のセルロースアセテートの乾燥重量をZ(g)とするとき、次式により非溶解性成分の含有量を算出した。
非溶解性成分の含有量=[(X−Y)/Z]×100(重量%)。
グルコース環内置換度分布の測定は、手塚(Tezuka, Carbohydr. Res. 273, 83(1995) )の方法に従い実施した。すなわち、試料セルロースアセテートの遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、炭素13のスペクトルを測定する。アセチル基のカルボニル炭素のシグナルは169ppmから171ppmの領域に、高磁場から2位、3位、6位の順、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチルとプロピオニルの存在比から、もとのセルロースアセテートにおけるアセチル基の分布を求めた。
溶液流延製膜法によるフィルムの剥離性は次のようにして評価した。セルロースアセテート100重量部を、塩化メチレン320重量部、メタノール40重量部、ブタノール25重量部及びトリフェニルフォスフェート15重量部を混合してドープを調製した。このド−プを、室温(20〜25℃)で、平滑なステンレススチール板(支持体)上に厚み1mm程度に流延し、室温で3〜4分間放置し、支持体からの剥離性を以下の基準で評価した。
〇:剥離抵抗が小さく、円滑に剥離でき、フィルム表面が平滑である
△:剥離抵抗は小さいものの、支持体にフィルムからの剥離物が付着し、フィルム表面の平滑性が損なわれる。
×:剥離抵抗が大きく、円滑に剥離できないか又は支持体にフィルムからの剥離物が付着する。
尚、光学フィルムとして好適に使用できるものは○のもののみである。
105℃において1時間乾燥させ、次いで30分間デシケーターに移して冷却したセルローストリアセテート約0.500gを秤量する。この秤量した試料を100mlのN−メチルピロリドン溶解し、約0.5g/dlの溶液を得る。秤量した試料重量から予め正確な濃度(C)を算出しておく。
この溶液を65℃においてオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定した。一方、前記N−メチルピロリドン溶媒単独についても上記と同様にして通過時間(秒)t0を測定し、下記式に従って、相対粘度、比粘度を算出した。
ηrel=t/t0 ηsp=ηrel−1
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、ηrelは相対粘度を示す。)
得られたηrelとηspを用いて、下記のSolomon-Gottman式に代入して一点の測定からNMP極限粘度を算出した。
[ηNMP]=2(ηrel−ln(ηsp))1/2/C
(式中、[ηNMP]はNMP中での極限粘度、Cは溶液のセルロースアセテート濃度(g/dLを示す。)
シート状セルロース(コットンリンターパルプ)αセルロース含量97wt%をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100重量部の綿状セルロース(含水率8.0重量%)に表1に示す割合で酢酸を噴霧し、よく攪拌し、温度24℃で60分間静置した(第1の活性化工程)。さらに、第1の活性化工程を経たセルロースに、表1に示す割合で硫酸を含む酢酸を添加し、24℃で表1に示す所定時間静置した(第2の活性化工程)。
そして、第2の活性化工程を経て活性化されたセルロースに、表2に示す所定量の酢酸、無水酢酸および硫酸を混合し(、15℃以下で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を35℃まで昇温して表2に示す時間保持し、アセチル化を行った。そして、表2に示す割合で酢酸、水および酢酸マグネシウムを混合し、温度61℃で95分間保持したのち、表2に示す割合で酢酸マグネシウム、酢酸および水を添加し熟成反応を停止した。反応浴を希酢酸中に攪拌下投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルロースアセテートを得た。表-3に得られたセルロースアセテートの特性を示す。
第2の活性化工程(硫酸を含む酢酸による第2の活性化処理)を行うことなく、表1に示す割合で、酢酸でセルロースを活性化処理したこと以外は、実施例1〜4と同様にして、表2に示す条件でセルロースアセテートを得た。
表1にセルロースアセテートの原料パルプ及び前処理条件を記載する。また表-2にこれらのアセチル化製造条件を記載する。また表-3に得られたセルロースアセテートの特性を示す。
実施例1の活性化処理2で添加した硫酸量と同量の硫酸量を活性化処理1で添加する以外は実施例1と同様にして、表1に示す割合で、酢酸でセルロースを活性化処理したこと以外は、実施例1〜4と同様にして、表2に示す条件でセルロースアセテートを得た。表-3に得られたセルロースアセテートの特性を示す。
Claims (7)
- セルロースを活性化剤で活性化処理する工程、アセチル化触媒の存在下、酢酸および/または無水酢酸でセルロースをアセチル化する工程、および生成したセルロースアセテートをケン化熟成する工程を含むセルロースアセテートの製造方法であって、活性化処理工程において酢酸による活性化前処理を二段に分けて行い、後段において2〜9重量%のアセチル化触媒を含む有機カルボン酸溶液を原料セルロース100重量部に対して10〜60重量部添加する工程をから成るセルロースアセテートの製造方法。
- 後段においてアセチル化触媒を含む有機カルボン酸溶液を添加した上で30〜180分間処理することを特徴とする請求項1のセルロースアセテートの製造方法。
- アセチル化触媒が硫酸であり、かつ後段において添加するアセチル化触媒を含む有機カルボン酸溶液を形成する有機カルボン酸が少なくとも酢酸を含むものであり、かつセルロースを活性化剤で活性化処理する工程での硫酸添加量が原料セルロース100重量部に対して0.5〜5重量部であることを特徴とする請求項1記載のセルロースアセテートの製造方法。
- 2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上2.00以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.85以上であり、塩化メチレン/メタノール混合溶液(9/1(重量比))への不溶物量が0.03重量%以下であることを特徴とするセルロースアセテート。
- 2位、3位のアシル置換度の合計が1.80以上1.95以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.85以上であり、塩化メチレン/メタノール混合溶液(9/1(重量比))への不溶物量が0.01重量%以下であることを特徴とする請求項4記載のセルロースアセテート。
- 粘度平均重合度が250〜350であることを特徴とする請求項4または請求項5の何れかに記載のセルロースアセテート。
- 請求項4から請求項6のいずれかに記載のセルロースアセテートよりなる光学フィルム。
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