位相差フィルムは、高分子フィルムの屈折率が三次元方向でそれぞれに制御されたフィルムであり、一般に高分子フィルムを延伸操作などによって配向させることにより得ることができる。このような位相差フィルムの主な機能は光の偏光状態を変えることであり、例えば、直線偏光を円偏光に変換するλ/4板、および直線偏光の偏光振動面を90度変換するλ/2板などの逆分散型(逆波長分散型)位相差フィルムが知られている。すなわち、このような逆分散型位相差フィルムには、所定の波長域(例えば、波長λが400〜700nm程度の領域)において、位相差がより長波長側において大きくなるという特性(逆波長分散性)が必要である。
しかし、従来の位相差フィルムは、単色光に対しては、光線波長の位相差をλ/4又はλ/2の位相差に調整できるが、可視光域の波長の異なる光線が混在した合成波である白色光が入射した場合、波長分散性に起因して、各波長での偏光の形態が大きく異なって偏光状態の分布が生じる。その結果、例えば、位相差がλ/4となる位相差フィルムを作成した場合、十分な効果が得られるのは、位相差がほぼλ/4となるような波長領域のみであるという問題がある。また、入射した白色光が有色光に変換されるという問題もある。
このような問題を解決するために、広い波長域の光に対して均一な位相差を付与できる広帯域位相差フィルムの検討がなされている。例えば、特開平10−68816号公報(特許文献1)には、複屈折光の位相差が1/4波長である1/4波長板と、複屈折光の位相差が1/2波長である1/2波長板とを、それらの光軸が交差した状態で貼り合わせた位相差板が開示されている。しかし、この文献のように、1/4波長板と1/2波長板とを必要とする位相差板では、単一の層で有効な位相差板を形成できない。
単一のフィルムで広帯域位相差フィルムを形成する試みもなされている。例えば、国際公開WO00/026705号パンフレット(特許文献2)には、一軸延伸フィルムで構成されたレタデーションフィルムであって、波長450nmでのレタデーションと550nmでのレタデーションとが所定の関係式を満足し、かつ吸水率が1%以下であるレタデーションフィルムが開示されている。この文献には、ビスフェノール骨格とビスフェノールフルオレン骨格とを有するポリカーボネート共重合体で構成され、積層することなく一枚のフィルムで逆の波長分散性(波長依存性)を有する位相差フィルムが開示されている。しかし、位相差フィルムが疎水性の高いポリカーボネート系樹脂で構成されているため、ポリビニルアルコール系樹脂を用いた偏光板との積層には工夫が必要となる。
また、種々の優れた光学的特性を有することが知られているセルロースアシレートを、位相差フィルムに用いることも知られている。例えば、特許第3459779号公報(特許文献3)には、波長400〜700nmにおける複屈折Δnが長波長ほど大きい(例えば、0.6<Δn・d(450)/Δn・d(550)<0.97、1.01<Δn・d(650)/Δn・d(550)<1.35)高分子配向フィルムからなる位相差板であって、該高分子配向フィルムは、該波長における平均屈折率が短波長ほど大きく、2.4〜2.9のアセチル化度を有するセルロースアセテートからなる高分子フィルムの配向フィルムであることを特徴とする位相差板が開示されている。また、この文献には、特にセルロースアセテートのアセチル置換度を2.5〜2.8としたものは発明の目的を達すると記載され、アセチル化度が2.8以下では延伸方向が遅相軸となる正の光学異方性を有する位相差板となり、アセチル置換度が小さくなるほど、Δn・d(450)/Δn・d(550)は大きくなる傾向を示すと記載されている。
そして、この文献の実施例には、Δn・d(450)/Δn・d(550)の値が、アセチル化度2.661のセルロースアセテートで形成された一軸延伸フィルムにおいて0.736(実施例1)、アセチル化度2.534のセルロースアセテートで形成された一軸延伸フィルムにおいて0.894(実施例2)、アセチル化度2.727のセルロースアセテートで形成された一軸延伸フィルムにおいて0.659(実施例3)であるフィルムが得られたことが記載されている。しかし、セルロースアセテートは、熱可塑性や柔軟性に乏しく、また吸湿性が高いため、理想的な逆波長分散型位相差フィルムを得るためには、現実的には可塑剤や疎水化剤が必要となる。そして、このような添加剤は、波長分散性に影響を与えるため、Δn・d(450)/Δn・d(550)の値は、逆波長分散型位相差フィルムの理想値である0.82に高精度で近づけることは難しくなる。
また、特開2002−296422号公報(特許文献4)には、アセチル基の置換度が1.4〜2.85、アセチル基とプロピオニル基及び/又はブチリル基との合計置換度が2.3〜2.85であるセルロースエステルを用い、所定の条件で1.15〜2.0倍に延伸する位相差フィルムの製造方法が開示されている。この文献には、位相差フィルムは、波長400〜700nmの範囲で、長波長ほど大きな位相差を示し、波長450nm,550nm及び650nmでの位相差をそれぞれR450,R550及びR650としたとき、0.5<R450/R550<1.0、1.0<R650/R550<1.5の範囲にあることも記載されている。
さらに、国際公開WO2005/022215号パンフレット(特許文献5)には、セルロースペンタネート、セルロースヘキサネート、セルロースヘプタネートアセテートなどのセルロース誘導体で形成された位相差フィルムが開示されている。この文献には、前記位相差フィルムの複屈折と波長分散とは、下記式の関係を満たすと記載されている。
(Re750/Re550)=A1/Δn+1
(Re450/Re550)=A2/Δn−1
(Re750/Re550)は波長750nmにおける位相差値の波長550nmにおける位相差値に対する比率であり0.05〜1.95の値を示す。(Re450/Re550)は波長450nmにおける位相差値の波長550nmにおける位相差値に対する比率であり0.05〜1.95の値を示す。Δnは位相差フィルムの波長550nmにおける複屈折であり0.001〜0.06の値を示す。A1およびA2は定数で−0.06〜0.06の値を示し、A1が正の値のときA2は負の値であり、A1が負の値のときA2は正の値になる。
そして、この文献には、置換数2.76のセルロースn−ヘキサネートより作製した膜厚77μmの位相差フィルムの位相差比、Re450/Re550は0.91であり、長波長ほど大きな位相差を与え、アクロマチック位相差フィルムとして用いることができると記載されている。
しかし、これらの文献のセルロースエステルでは、前記セルロースアセテートの場合と同様に、可塑剤や疎水化剤が必要となる場合があり、波長分散性を制御するのが難しくなる。特に、セルロースアセテートプロピオネート、セルロールアセテートブチレートのようなセルロースエステルでは、溶融製膜や延伸によりフィルム成形する際に加熱すると、熱分解物としてプロピオン酸やブタン酸などを発生しやすく、作業性が悪化したり、健康被害をもたらす虞がある。また、セルロースn−ヘキサネートのようなセルロースエステルは、合成に必要なアシル化剤が一般的ではなく高価であるため、その使用は工業的に有利でない。
一方、複数のポリマーをブレンドすることにより、逆分散型の位相差フィルムを得ることも知られている。例えば、特開2004−325523号公報(特許文献6)には、正の屈折率異方性を有する樹脂(M1)と、負の屈折率異方性を有する樹脂(M2)と、二色性を有するレタデーション調整剤(C)とを混合してなる一枚の位相差フィルムが開示されている。しかし、この文献の位相差フィルムでは、レタデーション調整剤を必要とする。また、複数の樹脂を組み合わせるため、透明性などのフィルム特性を損なう虞がある。さらに、具体的な樹脂として使用されているシクロオレフィン樹脂やポリカーボネート樹脂は、偏光板との親和性が十分ではなく、貼り合わせが困難である。
特開2007−298889号公報(特許文献7)には、特定の置換度を有するセルロースアセテートC3−4アシレート(A)と、この成分(A)とは異なる粘度平均重合度を有する水酸基残度0.30以上のセルロースアシレート(B)とを含有する位相差フィルムが開示されている。また、特開2007−310325号公報(特許文献8)には、特定の置換度を有するセルロースアセテートC3−4アシレート(A)と、この成分(A)よりもグルコース含量が大きい糖成分組成を有する水酸基残度0.30以上のセルロースアシレート(B)とを含有する位相差フィルムが開示されている。しかし、この文献の位相差フィルムでも、複数のセルロースアシレートを使用するため、透明性などを損なう虞がある。また、セルロースアセテートプロピオネートのようなセルロースアセテートC3−4アシレートを使用するため、前記のように、作業性が悪化したり、健康被害をもたらす虞があり、波長依存性を制御しにくい。
なお、特開2007−16137号公報(特許文献9)には、少なくとも一般式(1)または(2)で表される繰り返し単位を有するセルロースエステルを主成分とすることを特徴とする光学フィルムが開示されている。
−O−A−OCO−B−CO− (1)
−O−A−CO− (2)
A、Bは、炭素数1〜12の2価の炭化水素基または、水酸基で置換された炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。但しA,Bは同じでも異なってもよい。
この文献には、前記光学フィルムは位相差フィルムであってもよいこと、位相差フィルムの面内リターデーションにおける波長分散性は、好ましくは、0.7<(R
450/R
590)<1.0、1.0<(R
650/R
590)<1.5、更に好ましくは0.7<(R
450/R
590)<0.95、1.01<(R
650/R
590)<1.2であることが記載されている。しかし、位相差フィルムの波長分散特性を、逆波長分散性とする方法について何ら記載されておらず、また、セルロースエステルの波長分散性についても記載されていない。
特開平10−68816号公報(特許請求の範囲)
国際公開WO 00/026705号パンフレット(請求の範囲)
特許第3459779号公報(特許請求の範囲、段落番号[0026]、実施例)
特開2002−296422号公報(特許請求の範囲、段落番号[0076])
国際公開WO2005/022215号パンフレット(請求の範囲、段落番号[0042])
特開2004−325523号公報(特許請求の範囲)
特開2007−298889号公報(特許請求の範囲)
特開2007−310325号公報(特許請求の範囲)
特開2007−16137号公報(特許請求の範囲、段落番号[0086])
位相差フィルム(又は位相差板)を構成する変性グルカン誘導体において、グルカン誘導体のヒドロキシル基(残存ヒドロキシル基)にはヒドロキシ酸成分がグラフト重合(グラフト共重合)している。すなわち、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合した化合物であり、詳細には、グルカン誘導体(ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体)と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されている。変性グルカン誘導体(グラフト体)は、通常、無溶媒又は溶媒中、触媒の存在下、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応(グラフト重合)させることにより調製できる。
[グルカン誘導体]
グルカンとしては、特に限定されず、例えば、β−1,4−グルカン、α−1,4−グルカン、β−1,3−グルカン、α−1,6−グルカンなどが挙げられる。代表的なグルカンとしては、例えば、セルロース、アミロース、デンプン、レンチナン、デキストランなどの多糖類が挙げられる。グルカンは単独で又は2種以上合わせて使用できる。これらのグルカンうち、セルロース、デンプン(又はアミロース)、特にセルロースが好ましい。セルロースとしては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプなどの種々のセルロース源が使用できる。これらのパルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有していてもよい。パルプとしては、針葉樹パルプ及びリンターパルプから選択された少なくとも一種のパルプを使用する場合が多い。高品位セルロースのα−セルロース含有量は、98%以上(例えば、98.5〜100%、好ましくは99〜100%、さらに好ましくは99.5〜100%程度)であってもよい。
グルカン誘導体は、グルカンのグルコース単位のヒドロキシル基の一部が置換(エーテル化、エステル化などにより置換)されたグルカン誘導体、例えば、前記グルコース単位(又はグルコース骨格)のヒドロキシル基(グルコース単位の2,3および6位に位置するヒドロキシル基)に、アシル基などが置換(結合)し、かつヒドロキシル基が残存する誘導体である場合が多い。ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
グルカン誘導体の具体例としては、例えば、エーテル化されたグルカン(セルロースエーテル類など)、エステル化されたグルカン(セルロースエステル類など)、エーテル化及びエステル化されたグルカン(セルロースエーテルエステル類など)などが挙げられる。以下に、代表的なグルカン誘導体として、セルロース誘導体について詳述する。
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル[例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロースなどのC1−4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、シアノアルキルセルロース(シアノエチルセルロースなど)、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロースなど)など]、セルロースエステル(アシルセルロース又はセルロースアシレート;硝酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの無機酸及び有機酸の混酸セルロースエステルなど)などが挙げられる。
好ましいグルカン誘導体(特にセルロース誘導体)は、セルロースアシレート(又はセルロースエステル)である。セルロースアシレートにおいて、アシル基としては、例えば、アルキルカルボニル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのC2−10アルキルカルボニル基(例えば、C2−6アルキルカルボニル基、好ましくはC2−4アルキルカルボニル基)など]、シクロアルキルカルボニル基(例えば、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキルカルボニル基など)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基などのC7−12アリールカルボニル基など)などが挙げられる。セルロースのグルコース単位には、同一又は異なるアシル基が結合していてもよい。これらのアシル基のうち、C2−4アルキルカルボニル基が好ましい。特に、これらのアシル基のうち、少なくともアセチル基が好ましく、例えば、グルコース単位には、アセチル基のみが結合していてもよく、アセチル基と他のアシル基(C3−4アシル基など)とが結合していてもよい。
好ましいグルカン誘導体(セルロースアシレートなどのセルロース誘導体)は、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−4アシレート(セルロースジアセテートなどのセルロースアセテート)であり、特にセルロースアセテートが好ましい。
グルカン誘導体(セルロースアセテートなどのセルロースアシレートなど)において、置換基(アシル基、アルキル基など)の平均置換度は、所望の逆波長分散性を得る限り、例えば、1〜2.95(例えば、1.5〜2.95)の範囲から選択してもよいが、通常、2.55〜2.7(例えば、2.555〜2.68)、好ましくは2.56〜2.66、さらに好ましくは2.57〜2.65、特に2.59〜2.65(例えば、2.6〜2.64)程度である。すなわち、本発明は、変性グルカン誘導体の逆波長分散性は、グルカン誘導体の平均置換度に大きく依存し、上記のような特定の平均置換度を有するグルカン誘導体由来の変性グルカン誘導体を用いると、Re(450nm)/Re(550nm)の値が0.82又はその付近[0.7≦Re(450nm)/Re(550nm)≦0.9]の位相差フィルムを形成できることを見出したものである。
なお、このようなグルカン誘導体の平均置換度は、後述するように、異なる平均置換度を有するグルカン誘導体をブレンドすることにより、調整することもできる。
グルカン誘導体のヒドロキシル基は、グルコース単位の2位、3位および6位に存在する。このようなグルカン誘導体の6位のヒドロキシル基の割合は、例えば、ヒドロキシル基全体の25〜70モル%、好ましくは30〜65モル%、さらに好ましくは35〜60モル%程度であってもよい。通常、グルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基のうち、6位のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合しやすいようである。一方、変性グルカン誘導体の波長分散性は、グルカン誘導体のアシル基に大きく影響され、グラフト鎖(又はグラフトしたヒドロキシ酸成分)は波長分散性にほとんど関与しない場合が多く、変性グルカン誘導体全体において波長分散性の程度をより緩和する方向に作用するようである。そのため、6位のヒドロキシル基の濃度が大きいと、変性グルカン誘導体の波長分散性の程度を調整しやすい。
さらに、グルカン誘導体の平均重合度(粘度平均重合度)は、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
なお、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体(セルロースアシレートなど)は、市販品を使用してもよく、慣用の方法により合成してもよい。例えば、セルロースアシレートは、通常、セルロースを有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物)によりセルローストリアシレート(一次セルロースアシレート)を調製し、過剰量のアシル化剤(特に、無水酢酸などの酸無水物)を分解し、脱アシル化又はケン化(加水分解又は熟成)によりアシル化度を調整し、二次セルロースアシレートを生成することにより製造できる。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2−6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。
なお、一般的なセルロースアシレートの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。また、セルロースアシレートの置換度の調整方法については、特開平9−286801号公報などを参照してもよい。なお、この文献の方法によれば、6位のヒドロキシル基の割合が比較的大きいセルロースアシレートを得やすい。さらに、他のグルカン(例えば、デンプンなど)についても、セルロースアシレートの場合と同様の方法でアシル化(および脱アシル化)できる。
グルカン誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。特に、前記のように、変性グルカン誘導体の平均置換度は、逆波長分散性に大きく影響するが、平均置換度が異なる複数のグルカン誘導体を混合して、全体として前記範囲の平均置換度としてもよい。詳細には、グルカン誘導体は、平均置換度の異なる複数のグルカン誘導体(例えば、セルロースC2−4アシレート)で構成され、全体として前記平均置換度(例えば、2.55〜2.7)を充足してもよい。すなわち、前記平均置換度には、このようなブレンド物全体としての平均置換度も含むものとする。なお、ブレンド物において、6位のヒドロキシル基の割合なども同様である。
グルカン誘導体の平均置換度は、その合成過程において、精密に制御することが難しい場合があるが、ブレンドを利用することにより、市販品を利用したり、簡便に合成できるグルカン誘導体を組み合わせたりすることができるため、有用である。また、通常、セルロースアシレートなどのグルカン誘導体同士をブレンドすると、不十分な相溶性のため、位相差フィルムの表面平滑性が損なわれる。しかし、グルカン誘導体混合物にヒドロキシ酸成分をグラフト重合したグラフト重合体(変性グルカン誘導体)では、グラフト重合したヒドロキシ酸成分が、グルカン誘導体同士の相溶性を向上させるバインダーもしくは相溶化剤的な作用を示すためか、表面荒れのようなフィルム特性の低下を生じることなく、フィルムを形成できるという点でも有利である。
ブレンドする場合、グルカン誘導体の平均置換度は、前記範囲(例えば、平均置換度2.55〜2.7)となるように調整できれば、特に限定されないが、通常、2.0〜2.9(例えば、2.25〜2.9)、好ましくは2.2〜2.87(例えば、2.3〜2.87)、さらに好ましくは2.3〜2.85(例えば、2.35〜2.8)の範囲から選択できる。
このようなグルカン誘導体の混合物(ブレンド物)は、代表的には、下記のグルカン誘導体(A)とグルカン誘導体(B)との混合物であってもよい。
(A)アシル基の平均置換度2.7以上(例えば、2.705〜2.95、好ましくは2.71〜2.9、さらに好ましくは2.72〜2.85、特に2.73〜2.82程度)のセルロースアシレート(例えば、セルロースアセテートなどのセルロースC2−4アシレート)
(B)アシル基の平均置換度2.55以下(例えば、2.0〜2.54、好ましくは2.1〜2.52、さらに好ましくは2.2〜2.5、特に2.25〜2.48程度)のセルロースアシレート(例えば、セルロースアセテートなどのセルロースC2−4アシレート)。
ブレンドする場合、各グルカン誘導体の混合割合は、前記平均置換度となるように、適宜選択できる。例えば、変性グルカン誘導体(A)と変性グルカン誘導体(B)とを混合する場合、これらの割合は、前者/後者(重量比)=95/5〜5/95(例えば、90/10〜10/90)、好ましくは80/20〜20/80、さらに好ましくは75/25〜25/75、特に70/30〜30/70程度であってもよい。また、前記平均置換度2.55〜2.7の範囲のグルカン誘導体を用いた場合であっても、より理想的な逆波長分散性の位相差フィルムを得るため、他のグルカン誘導体(例えば、グルカン誘導体(A)及び/又はグルカン誘導体(B)など)と混合してもよい。
なお、ブレンド物の平均置換度は、重量換算での重量割合で算出することができる。例えば、ブレンド物が、A重量部のグルカン誘導体(アシル基の平均置換度a)と、B重量部のグルカン誘導体(アシル基の平均置換度b)との混合物である場合、平均置換度は、下記式
a×[A/(A+B)]+b×[B/(A+B)]
により求められる。
なお、グルカン誘導体(A)、(B)もまた、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせてもよい。例えば、複数のグルカン誘導体(A)と、一種又は複数のグルカン誘導体(B)とを組み合わせてもよく、一種のグルカン誘導体(A)と、一種又は複数のグルカン誘導体(B)とを組み合わせてもよい。
また、ブレンドするグルカン誘導体は、特に限定されないが、通常、同種又は同一のグルカン誘導体であってもよい。例えば、混合物は、アシル基の異なるセルロースアシレート同士の混合物(例えば、セルロースアセテートと、セルロースプロピオネートやセルロースブチレートとの混合物、セルロースアセテートとセルロースアセテートプロピオネートとの混合物など)であってもよく、アシル基が同じセルロースアシレート(例えば、セルロースアセテート同士の混合物など)であってもよい。特に、アシル基が同じセルロースアシレートを組み合わせる場合が多い。
[ヒドロキシ酸成分]
ヒドロキシ酸成分としては、ヒドロキシ酸(例えば、ヒドロキシアルカンカルボン酸)、環状エステルなどが例示でき、環状エステルには、ラクトン(環状モノエステル)、及び環状ジエステルが含まれる。ヒドロキシアルカンカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸(L−乳酸、D−乳酸)、ヒドロキシプロピオン酸(ヒドロアクリル酸)、α−オキシ酪酸、6−ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸(好ましくはα−ヒドロキシC2−6アルカンカルボン酸、さらに好ましくはα−ヒドロキシC2−4アルカンカルボン酸)などが例示できる。なお、ヒドロキシ酸は、低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)化されていてもよい。これらのヒドロキシ酸のうち、特に、α−ヒドロキシ酸[特に、乳酸(L−乳酸、D―乳酸、又はこれらの混合物)]が好ましい。ヒドロキシ酸は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。ラクトン(環状モノエステル)としては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなどのC3−20ラクトン、好ましくはC4−15ラクトン、さらに好ましくはC4−10ラクトン)などが例示できる。環状ジエステルとしては、例えば、グリコリド、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド又はこれらの混合物)などのC4−15環状ジエステル、好ましくはC4−10環状ジエステルなど)などが挙げられる。
好ましいヒドロキシ酸成分は、環状エステル、例えば、C4−10ラクトン(例えば、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC4−8ラクトン)、C4−10環状ジエステル[ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)などのC4−8環状ジエステル]である。環状エステルとしては、通常、ε−カプロラクトン、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)を用いる場合が多い。
これらのヒドロキシ酸成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。異種のヒドロキシ酸成分の組み合わせとしては、例えば、ε−カプロラクトンとラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)との組合せなどが例示できる。
なお、変性グルカン誘導体の逆波長分散性は、ヒドロキシ酸成分の種類にもやや依存するようである。そのため、逆波長分散性の程度は、前記のようなグルカン誘導体の平均置換度や、後述のグラフト割合などとともに、適宜選択することにより調整できる。
ヒドロキシ酸成分は、特に、ラクトン成分(ラクトン、α−ヒドロキシ酸以外のヒドロキシ酸、例えば、ε−カプロラクトンなどのC4−10ラクトンなど)であってもよい。このようなヒドロキシ酸成分を使用すると、グルカン誘導体との組み合わせにおいて、逆波長分散性を調整しやすい。また、ラクトン成分は、表面荒れを生じにくく、フィルムの保存性(又は保管性)の点でも有利である。
ヒドロキシ酸成分の割合は、特に制限されず、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体100重量部に対して、例えば、5〜1000重量部(例えば、10〜400重量部)、好ましくは20〜200重量部、さらに好ましくは30〜150重量部(例えば、35〜130重量部、特に25〜80重量部)程度であってもよく、通常、50〜170重量部(例えば、60〜140重量部、好ましくは65〜120重量部)程度であってもよい。
[触媒]
反応(グラフト重合反応)は、ヒドロキシ酸成分の種類(例えば、環状エステル)にもよるが、慣用の触媒[例えば、有機酸類、無機酸類、金属(アルカリ金属、マグネシウム、亜鉛、スズ、アルミニウムなど)、金属化合物[スズ化合物(ジブチルチンラウレート、塩化スズ)、有機アルカリ金属化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物(チタンアルコキシドなど)、有機ジルコニウム化合物など]など]の存在下で行ってもよい。触媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
特に、触媒(グラフト重合触媒)として、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)のグラフト重合(特に、環状エステルを用いた開環重合反応)の触媒となる化合物であって、かつ、単独で重合を開始しない金属錯体(又は金属化合物)を使用してもよい。前記金属錯体は、環状エステルなどのヒドロキシル基を持たないモノマーと共存してもそれら2成分のみでは重合を開始せず、グルカン誘導体や系中に不純物として存在する水のような、ヒドロキシル基を有する化合物が存在して初めて重合を開始し得る。このような触媒(及び後述の特定溶媒)を使用することにより、触媒由来のヒドロキシ酸成分の単独重合体(ホモポリマー)の生成を著しく抑制できる。また、このような触媒(および後述の特定溶媒)を用いると、アシル基の置換度の低下を生じることがなく、グラフト重合後の生成物(すなわち、変性グルカン誘導体)において、原料としてのグルカン誘導体のアシル置換度を反映でき、所望のアシル置換度(およびグラフト鎖置換度)を有する変性グルカン誘導体を効率よく得ることができる。
前記重合を開始しない金属錯体(金属化合物)は、中心金属とこの中心金属に配位する配位子とで構成されており、前記金属錯体を構成する具体的な配位子(又は環状エステルに対する重合開始活性を示さない配位子又は環状エステルに対して不活性な配位子)としては、例えば、一酸化炭素、ハロゲン原子(塩素原子など)、酸素原子、炭化水素[例えば、アルカン(C1−20アルカンなど)、シクロアルカン、アレーン(ベンゼン、トルエンなど)など]、β−ジケトン(アセチルアセトンなどのβ−C5−10ジケトンなど)、カルボン酸[例えば、アルカン酸(酢酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸などのC1−20アルカン酸)などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸など]、炭酸、ホウ酸などに対応する配位子(例えば、ハロ、アルキル、アシルアセトナト、アシルなど)などが挙げられる。これらの配位子は、単独で又は2種以上組み合わせて中心金属に配位していてもよい。
代表的なグラフト重合触媒としては、アルコキシ基(及びヒドロキシル基)及び/又はアミノ基(第3級アミノ基以外のアミノ基)を配位子として有しない金属錯体、例えば、アルカリ金属化合物(炭酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、炭酸アルカリ土類金属塩、酢酸カルシウムなどのカルボン酸アルカリ土類金属塩など)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛、アセチルアセトネート亜鉛など)、アルミニウム化合物(例えば、トリアルキルアルミニウム)、ゲルマニウム化合物(例えば、酸化ゲルマニウムなど)、スズ化合物[例えば、スズカルボキシレート(例えば、オクチル酸スズ(オクチル酸第一スズなど)などのスズC2−18アルカンカルボキシレート、好ましくはスズC4−14アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、モノブチルスズトリオクチレートなどのモノ又はジC1−12アルキルスズC2−18アルカンカルボキシレートなど)などのスズ(又はチン)カルボキシレート類;アルキルスズオキサイド(例えば、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどのモノ又はジアルキルスズオキサイドなど);ハロゲン化スズ;ハロゲン化スズアセチルアセトナト;無機酸スズ(硝酸スズ、硫酸スズなど);ポリスタノキサン(例えば、ジハロテトラアルキルジスタノキサン類、ジアシルオキシテトラアルキルジスタノキサンなどのジスタノキサン)など]、鉛化合物(酢酸鉛など)、アンチモン化合物(三酸化アンチモンなど)、ビスマス化合物(酢酸ビスマスなど)などの典型金属化合物又は典型金属錯体;希土類金属化合物(例えば、酢酸ランタン、酢酸サマリウムなどのカルボン酸希土類金属塩)、チタン化合物(酢酸チタンなど)、ジルコニウム化合物(酢酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナートなど)、ニオブ化合物(酢酸ニオブなど)、鉄化合物(酢酸鉄、鉄アセチルアセトナトなど)などの遷移金属化合物が挙げられる。
これらの触媒のうち、特に、スズカルボキシレート類などのスズ系触媒(又はスズ化合物)が好ましい。触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
反応(グラフト重合反応)において、前記触媒の割合(使用割合)は、前記グルカン誘導体のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、10−7〜10−1モル、好ましくは5×10−7〜5×10−2モル、さらに好ましくは10−6〜3×10−2モル程度であってもよい。
[溶媒]
ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)を用いた重合反応系では、水に対する溶解度が小さな特定の溶媒(疎水性溶媒)又は水分含有量の少ない溶媒を使用すると、水の影響を極力抑え、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)のホモポリマーの生成を著しく抑制できる。そこで、前記特定の触媒と特定の溶媒とを組み合わせることにより、ヒドロキシ酸成分単独の重合(すなわち、環状エステルなどのホモポリマーの生成)を抑制するのが有用である。また、溶媒の非存在下、前記特定の触媒を用いることによっても、ヒドロキシ酸成分単独の重合を抑制できる。
20℃における水に対する溶媒の溶解度(又は溶媒の水分含有量)は、10重量%以下[例えば、0(又は検出限界)〜8重量%]の範囲から選択でき、例えば、7重量%以下(例えば、0.0001〜6重量%程度)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.0005〜4重量%程度)、さらに好ましくは3重量%以下(例えば、0.0008〜2重量%程度)、特に1重量%以下(例えば、0.001〜0.8重量程度)であってもよく、より効率よくホモポリマーの副生を抑制するためには、0.7重量%以下(例えば、0.002〜0.5重量%、好ましくは0.003〜0.3重量%、さらに好ましくは0.005〜0.1重量%、特に0.007〜0.05重量%程度)であってもよい。
水に対する溶解度が小さい溶媒としては、具体的には、例えば、脂肪族炭化水素類[例えば、アルカン(例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの直鎖状又は分岐鎖状C7−20アルカンなど)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンなどのC4−10シクロアルカン)など]、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン(o,m又はp−キシレン)、エチルベンゼンなどのC6−12アレーン、好ましくはC6−10アレーン)、脂肪族ケトン類[例えば、ジアルキルケトン(例えば、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのC5−15ジアルキルケトン、好ましくはC7−10ジアルキルケトン)など]、鎖状エーテル類[例えば、ジアルキルエーテル(例えば、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn−ブチルエーテルなどのC6−10ジアルキルエーテルなど)、アルキルアリールエーテル(アニソールなど)など]などの非ハロゲン系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ハロアルカン(例えば、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロC1−10アルカン)、ハロシクロアルカン(クロロシクロヘキサンなどのハロC4−10シクロアルカン)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、クロロメチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどのハロC6−12アレーン、好ましくはハロC6−10アレーンなど)などのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
20℃において水に対する溶解度が10重量%を越える溶媒、例えば、親水性溶媒であっても、慣用の方法、例えば、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)などを利用して水分を除去することにより反応に有効に使用できる。前記親水性溶媒としては、重合の開始剤(例えば、環状エステルの開環重合の開始剤)となる官能基(ヒドロキシル基、一級又は二級アミノ基など)を有しない溶媒であれば特に限定されず、例えば、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、窒素含有溶媒(ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)、末端ヒドロキシル基が修飾されたグリコール類(例えば、メチルグリコールアセテートなどのセロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類など)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、炭酸プロピレンなどが挙げられる。さらに、必要であれば、過剰のヒドロキシ酸成分(例えば、ラクトン、ラクチドなど)を溶媒として用いてもよい。溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
溶媒の沸点は、例えば、60℃以上(例えば、70〜250℃程度)、好ましくは80℃以上(例えば、85〜220℃程度)、さらに好ましくは90℃以上(例えば、95〜200℃程度)、特に100℃以上(例えば、105〜180℃程度)であってもよい。溶媒の沸点が低いと、反応温度が制約され、重合速度が低下する。
溶媒の割合は、溶媒の種類などにもよるが、グルカン誘導体100重量部に対して、50重量部以上(例えば、55〜500重量部程度)の範囲から選択でき、例えば、60〜450重量部(例えば、65〜400重量部)、好ましくは60〜300重量部(例えば、65〜250重量部)、さらに好ましくは70〜200重量部(例えば、75〜190重量部)、特に80〜180重量部(例えば、85〜170重量部、好ましくは90〜150重量部)程度であってもよい。また、溶媒の割合は、グルカン誘導体及びヒドロキシ酸成分の総量100重量部に対して、例えば、10〜200重量部、好ましくは30〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部(例えば、50〜100重量部)、通常45〜90重量部(例えば、50〜80重量部)程度であってもよい。
なお、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分との反応は、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成や副反応を抑えるため、出来る限り水分が少ない状態で行ってもよい。反応系(反応の液相系)の水分含有量は、例えば、0.5重量%以下(0(又は検出限界)〜0.4重量%程度)であり、通常、0.3重量%以下[0〜0.25重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.0001〜0.18重量%程度)、さらに好ましくは0.15重量%以下(例えば、0.0005〜0.12重量%程度)、特に0.1重量%以下(例えば、0.001〜0.05重量%程度)であってもよい。なお、縮合反応によりグラフト化する場合には、水よりも高沸点の溶媒を用い、共沸などを利用して生成する水を除去しつつ反応を行ってもよい。反応系の水分含有量は、慣用の方法、例えば、減圧乾燥、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)などを利用して各原料や溶媒から水分を除去することにより調整できる。水分含有量は、加熱式水分気化装置を備えたカールフィッシャー式電量法水分測定装置((株)ダイヤインスツルメンツ製、CA−100)を用いて、JISK0113(2005年発行)に準拠して測定できる。
反応(グラフト化反応)は、常温下で行ってもよいが、通常、加温又は加熱下で行われる。反応温度は、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜180℃(例えば、105〜170℃)であり、通常、110〜160℃程度であってもよい。反応は、攪拌しながら空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウムなどの希ガスなど)中で行うことができ、通常、不活性雰囲気中で行うことができる。また、反応は、常圧又は加圧下で行ってもよい。
グラフト反応で生成した反応生成物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、中和、沈澱などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製してもよい。
[変性グルカン誘導体]
本発明の位相差フィルムでは、セルロースエステルのようなグルカン誘導体ではなく、このようなグルカン誘導体にヒドロキシ酸成分がグラフト重合した化合物(変性グルカン誘導体)、特に、このような変性グルカン誘導体のブレンド物を使用する。変性グルカン誘導体を使用することにより、熱可塑性や柔軟性に優れ、また、波長分散性を制御しやすいフィルムを効率よく得ることができる。
変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均重合度(又はグラフト鎖を構成するヒドロキシ酸成分のヒドロキシ酸換算での平均付加モル数)は、特に限定されないが、ヒドロキシ酸換算(例えば、ε−カプロラクトンではヒドロキシヘキサン酸換算、ラクチドでは乳酸換算など)で、1〜100(例えば、1〜70)の範囲から選択でき、例えば、1〜50、好ましくは1.5〜30(例えば、1.8〜25)、さらに好ましくは2〜20(例えば、2.5〜18)、特に3〜15、通常1〜20(好ましくは2〜12、さらに好ましくは3〜10)程度であってもよい。
特に、グラフト鎖が、少なくともα−ヒドロキシ酸成分[例えば、α−ヒドロキシ酸及び/又は環状ジエステル(例えば、乳酸およびラクチドから選択された少なくとも1種)]で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖である場合、グラフト鎖の平均重合度は、ヒドロキシ酸換算で、例えば、1〜13、好ましくは1.5〜12(例えば、2〜12)、さらに好ましくは2.5〜11(例えば、3〜10)程度であってもよい。グラフト鎖の重合度を上記のような範囲に調整すると、グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)の優れた特性を損なうことなく、高い耐熱性を効率よく変性グルカン誘導体に付与できる。
グラフト鎖(特にラクチドなどのα−ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖)の重合度又は分子量が大きくなると、グラフト鎖部分が結晶性を有する場合がある。その場合、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体に、結晶化温度以上の熱履歴が作用すると、結晶化により白化などが生じやすくなる。このため、用途に応じて、グラフト鎖の重合度や分子量を比較的小さくして(例えば、平均重合度で20以下にして)もよい。
変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合は、例えば、グルカン誘導体の(又はグルカン誘導体を構成する)グルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均0.0001〜10モル(例えば、0.005〜8モル)の範囲から選択でき、例えば、0.05〜5モル(例えば、0.1〜4モル)、好ましくは0.15〜4モル(例えば、0.2〜3.5モル)、さらに好ましくは0.3〜3モル、通常0.35〜3.2モル程度であってもよく、特に3モル以下(例えば、0.1〜2.5モル、好ましくは0.15〜2モル、さらに好ましくは0.2〜1.8モル)、通常、1.2モル以下{例えば、0.02〜1.2モル(例えば、0.05〜1.2モル)、好ましくは1モル以下[例えば、0.1〜1モル(例えば、0.15〜0.9モル)]、さらに好ましくは0.2〜1.1モル(例えば、0.3〜1モル)程度}であってもよい。
なお、変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分は、波長分散性を有しない場合が多く、変性グルカン誘導体中の割合が多いほど、変性グルカン誘導体の波長分散性を緩和する方向(Re(450nm)/Re(550nmが1に近づく方向)に作用するようである。そのため、ヒドロキシ酸成分の割合は、あまり大きすぎると、所望の波長分散性を得にくくなる場合があるため、上記のような範囲に調整することが好ましい。
なお、前記ヒドロキシ酸成分の割合(モル)とは、グラフト鎖の重合度が、1又は1より大きいか否かにかかわらず、変性グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)のグルコース単位全体に付加(又はグラフト)したヒドロキシ酸成分の平均付加モル数を示す。このような比較的少ない割合でヒドロキシ酸成分をグラフト化させると、グルカン誘導体(例えば、セルロースアシレート)のガラス転移温度を大きく低下させることなく保持しつつ、グルカン誘導体を効率よく変性できる。
変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均置換度(詳細には、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖の平均置換度)は、例えば、0.01〜0.3(例えば、0.015〜0.25)、好ましくは0.02〜0.22(例えば、0.025〜0.2)、さらに好ましくは0.03〜0.18(例えば、0.035〜0.15)、特に0.04〜0.13(例えば、0.045〜0.12)、通常0.03〜0.2(例えば、0.05〜0.15)程度であってもよい。なお、グラフト鎖の平均置換度とは、前記アシル基などと同様に、グルコース単位の2,3および6位におけるグラフト重合により誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数を意味する。
変性グルカン誘導体において、グラフト鎖以外の置換基(置換されたヒドロキシル基、例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)をAとし、グラフト鎖の平均置換度(モル数)をBとしたとき、A+Bの値は、例えば、2.56〜3.0、好ましくは2.56〜2.98(例えば、2.57〜2.97)、さらに好ましくは2.58〜2.95(例えば、2.58〜2.9)程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体において、グラフト鎖以外の置換基(置換されたヒドロキシル基、例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)とグラフト鎖の平均置換度(モル数)との割合は、前者/後者=40/60〜99.9/0.1(例えば、50/50〜99.5/0.5)、好ましくは70/30〜99/1(例えば、75/25〜98.5/1.5)、さらに好ましくは80/20〜98/2(例えば、85/15〜97.5/2.5)程度であってもよい。
なお、変性グルカン誘導体において、置換又は誘導体化された基(アシル基など)やグラフト鎖の置換度、ヒドロキシル基濃度、グラフト鎖の重合度(分子量)などは、慣用の方法、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)(1H−NMR、13C−NMRなど)などを用いて測定できる。なお、グルカン誘導体がブレンド物である場合、NMRにより測定すると、ブレンド物全体としての各種値(グラフト鎖の置換度など)が得られる。
なお、変性グルカン誘導体は、通常、ヒドロキシル基を有していてもよい。このようなヒドロキシル基には、グラフト鎖の末端のヒドロキシル基、誘導体化又はグラフト化されることなくグルコース単位に残存したヒドロキシル基などが挙げられる。このようなヒドロキシル基は、変性グラフト誘導体の吸湿性を抑制又は調整するなどの目的により、必要に応じて保護基により保護してもよい。
保護基としては、ヒドロキシル基を保護可能な非反応性基であれば特に限定されず、例えば、アルキル基[例えば、メチル基、エチル基、2−シクロヘキシル−2−プロピル基、ヘキシル基、クロロメチル基などの置換基(ハロゲン原子など)を有していてもよいC1−12アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)など]、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などの置換基を有していてもよいC5−8シクロアルキル基)、芳香族炭化水素基(フェニル基などのC6−12アリール基、ベンジル基などのアラルキル基など)、架橋環式炭化水素基(アダマンチル基など)などの炭化水素基;オキサシクロアルキル基(例えば、5〜8員オキサシクロアルキル基);アルコキシアルキル基(例えば、C1−6アルコキシ−C1−6アルキル基)などのアセタール系保護基;アルキルカルボニル基(アセチル、プロピオニルなどのC1−10アルキルカルボニル基)、シクロアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基などのアシル基などが挙げられる。保護基は、単独で又は2種以上組み合わせて、ヒドロキシル基を保護してもよい。
また、変性グルカン誘導体は、わずかであるが、カルボキシル基を有している場合がある。このようなカルボキシル基もまた、前記ヒドロキシル基と同様に保護(又は封止)されていてもよい。
変性グルカン誘導体において、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の含有割合は、変性グルカン誘導体全体に対して、15重量%以下(例えば、0〜12重量%程度)の範囲から選択でき、例えば、10重量%以下(例えば、0.05〜9重量%程度)、好ましくは8重量%以下(例えば、0.1〜7重量%程度)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜4.5重量%、特に0.1〜3重量%程度)であってもよい。このようにヒドロキシ酸成分の遊離の単独重合体の含有量が少ないと、位相差フィルムの光学的特性(透明性、位相差性など)を向上できる。
なお、変性グルカン誘導体(変性セルロースアシレートなど)のガラス転移温度Tgは、例えば、70℃以上(例えば、73〜220℃程度)、好ましくは75〜200℃(例えば、78〜190℃)、さらに好ましくは80〜180℃(例えば、85〜160℃)程度であってもよく、通常、90〜155℃(例えば、95〜150℃)程度であってもよく、100〜180℃(例えば、110〜175℃、特に120℃〜170℃)程度であってもよい。
さらに、変性グルカン誘導体の酸価は、通常、20mgKOH/g以下(例えば、0〜18mgKOH/g程度)、好ましくは15mgKOH/g以下(例えば、0.1〜12mgKOH/g程度)、さらに好ましくは10mgKOH/g以下(例えば、0.3〜9mgKOH/g程度)、特に8mgKOH/g以下(例えば、0.5〜7mgKOH/g程度)である。変性グルカン誘導体の酸価は、通常、0.2〜10mgKOH/g(例えば、0.4〜8mgKOH/g)、特に0.5〜5mgKOH/g(例えば、0.5〜3mgKOH/g)程度であってもよい。酸価が小さな変性グルカン誘導体は、耐加水分解性に優れている。酸価は、前記ヒドロキシ酸成分の単独重合体および未反応のヒドロキシ酸成分の含有量などを低減することにより小さくすることができる。酸価は、JISK0070(1992年発行)に準拠し、フェノールフタレインを指示薬とした中和滴定法などによって測定できる。
なお、変性グルカン誘導体は、必要により種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、熱安定剤など)、可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤など)、レタデーション調整剤(特開平2001−91743号公報に開示のレタデーション調整剤、例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジベンジルオキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系レタデーション調整剤など)、離型剤、滑剤、着色剤などを含んでいてもよい。
本発明では、変性グルカン誘導体又は位相差フィルムが、レタデーション調整剤や可塑剤を含んでいなくても、幅広い波長範囲で逆波長分散性を有する位相差フィルムが得られる。
[位相差フィルム]
前記変性グルカン誘導体で構成された位相差フィルムは、未延伸フィルムであってもよく延伸フィルム(一軸又は二軸延伸フィルム)であってもよい。位相差フィルムは、通常、未延伸フィルム又は一軸延伸フィルムである場合が多い。延伸倍率は、レタデーション値に応じて1.05〜5倍程度の範囲から適当に選択でき、例えば、1.1〜4倍、好ましくは1.15〜3倍、さらに好ましくは1.2〜2.5倍(例えば、1.3〜2.2倍)程度であってもよい。
位相差フィルムは、積層することなく1枚のフィルムで位相のずれを補償するのに有効である。そして、前記変性グルカン誘導体は、フィルムを形成したとき、逆波長分散性(正の波長分散性、正の波長依存性)を示す。すなわち、本発明の位相差フィルムは、積層することなく1枚のフィルムにおいて、位相差に関して正の波長依存性を示し、下記式を満足する。
0.7≦Re(450nm)/Re(550nm)≦0.9
(式中、Re(450nm)及びRe(550nm)はそれぞれ波長450nm及び波長550nmでの位相差値(レタデーション値)を示す)
より具体的には、Re(450nm)/Re(550nm)=Xとすると、Xの値が、0.71〜0.895、好ましくは0.72〜0.89(例えば、0.73〜0.89)、さらに好ましくは0.74〜0.885(例えば、0.75〜0.885)、特に0.77〜0.88(例えば、0.78〜0.85)、通常0.74〜0.89であってもよい。
本発明の位相差フィルムは、特に、波長450〜550nmの範囲において理想的な逆波長分散性を有するが、通常、この波長領域以外においても逆波長分散性を有している。例えば、本発明の位相差フィルムは、下記式を満足してもよい。
1.00<Re(630nm)/Re(550nm)≦1.6
(式中、Re(550nm)及びRe(630nm)は、それぞれ波長550nm及び波長630nmでの位相差値を示す)
より具体的には、Re(630nm)/Re(550nm)=Yとすると、Y=1.01〜1.5、好ましくは1.01〜1.4、さらに好ましくは1.02〜1.3(例えば、1.05〜1.2)程度であってもよい。特に、理想的な逆波長依存性を示す位相差フィルムでは、前記Yの値が約1.15となるが、本発明では、Yの値が1.15又はその付近である位相差フィルム[例えば、Yの値が、1.03〜1.25、好ましくは1.04〜1.2(例えば、1.05〜1.18)、さらに好ましくは1.06〜1.17程度の位相差フィルム]を得ることも可能である。
なお、フィルムのレタデーション値(面内のレタデーション値Re)は、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、および厚み方向の屈折率を測定し、これらの屈折率の値から、下記式で定義される式に基づいてそれぞれ算出できる。
Re=(nx−ny)×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
本発明の位相差フィルムは、通常、可視光域において、波長が大きくなるにつれて位相差も大きくなり、波長が短くなるにつれて位相差も小さくなる。すなわち、正の波長分散特性を有している。そのため、可視光域での光線の位相のずれを補償し、鮮明な色再現性を実現するのに有効である。
位相差フィルムの厚みは特に制限されず、例えば、5〜1000μm(例えば、10〜500μm)、好ましくは20〜300μm(例えば、30〜250μm)、さらに好ましくは50〜200μm(例えば、50〜150μm)程度であってもよい。
なお、位相差フィルムのレタデーション値(Re)は、波長550nmにおいて、例えば、1〜1000(例えば、2〜800)程度の範囲から選択でき、通常、3〜750(例えば、5〜600)、好ましくは10〜500(例えば、20〜400)、さらに好ましくは30〜350(例えば、40〜300)程度であってもよい。レタデーション値は延伸の程度により容易に調整できる。
このような位相差フィルムは、位相差に関して正の波長依存性を有しており、所定波長の光線の位相のずれを有効に補償でき、1/4波長板又は1/2波長板として利用できる。波長550nmにおいて、1/4波長板のレタデーション値は、110〜160nm(例えば、125〜150nm)程度であり、1/2波長板のレタデーション値は、225〜325nm(例えば、250〜300nm)程度である。
本発明の位相差フィルムは、各種フィルム特性においても優れており、例えば、本発明の位相差フィルムの全光線透過率は、80%以上(例えば、83〜99%)、好ましくは85%以上(例えば、87〜98%)、さらに好ましくは90%以上(例えば、91〜97%)であってもよい。また、本発明の位相差フィルムのヘーズ(全ヘーズ)は、3%以下(例えば、0〜2.5%)、好ましくは2%以下(例えば、0.1〜1.8%)、さらに好ましくは1.5%以下(例えば、0.3〜1.4%)であってもよい。本発明の位相差フィルムでは、特に、原料としてのグルカン誘導体を複数の変性グルカン誘導体で構成しても、表面荒れを生じることがなく、また、透明性を損なうこともない。
[位相差フィルムの製造方法]
位相差フィルムは、慣用の方法でフィルム又はシート成形し、得られたフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)することなく製造してもよく、延伸(又は配向処理)することにより製造してもよい。フィルム成形には、押し出し成形、ブロー成形などの溶融成形法(溶融製膜法)を利用してもよく、流延成形法(流延製膜法)を利用してもよい。フィルム成形には、通常、流延成形法が利用される。溶融成形法では、押出機を用いて前記変性グルカン誘導体単独又は変性グルカン誘導体を含む組成物を溶融してダイのスリットからフィルム状に押出成形し、冷却することによりフィルム又はシートを調製し、このフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)するか又は延伸することなく、位相差フィルムを得ることができる。溶融成形法ではTダイを利用して押し出し成形する場合が多い。なお、溶融製膜法では、ダイからの溶融フィルム又はシートの引き取りによりフィルム又はシートを配向させることもできる。本願明細書では、このような配向も延伸の概念に含めることができる。
流延成形法では、前記変性グルカン誘導体を含むドープを流延成形してフィルム又はシートを調製し、このフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)するか又は延伸することなく、位相差フィルムを得ることができる。より詳細には、前記ドープは、前記変性グルカン誘導体と、この変性グルカン誘導体を可溶な溶媒とで構成でき、溶媒としては、前記例示の溶媒(塩化メチレン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類など)の他、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)なども利用できる。ドープ中の変性グルカン誘導体の濃度は、例えば、5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%程度であってもよい。前記ドープを、平滑面を有する剥離性支持体(金属ドラムなど)に流延し、ドープの塗膜中の溶媒を少なくとも部分的に除去し、前記支持体から剥離することにより溶媒を含んでいてもよいフィルム又はシートを得ることができる。流延成形法では、フィルム又はシートの延伸操作は、フィルム又はシートから溶媒を除去した後で行われる。
なお、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアシレートなどは、置換度によって溶剤溶解性が異なるため、また二成分間の親和性の問題から、キャスト製膜の溶剤乾燥過程で濃厚な溶液になっていく過程において、濃度ゆらぎが生じ、ブレンドした二成分が相分離を起こしやすく、表面荒れを生じる。しかし、変性グルカン誘導体では、グラフト重合したヒドロキシ酸成分(又はグラフト鎖)により、グルカン誘導体よりも高度に溶剤に対する溶解性が高いため複数成分間の溶解性の差を小さくなっており、またヒドロキシ酸成分(又はグラフト鎖)が二成分間の親和性を向上させる相溶化剤的な効果を発揮するために、濃度ゆらぎを起こしにくく、表面荒れの無いフィルムを得ることができる。
フィルム又はシートの延伸操作は、例えば、機械方向又は縦方向(MD方向)に延伸してもよく、幅方向(TD方向)に延伸してもよく、MD方向及びTD方向に延伸してもよい。延伸は、変性グルカン誘導体のガラス転移温度以上の温度で行うことができ、通常、所定温度(ガラス転移温度+10℃)以下の温度で行うことができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例において各種物性は以下のようにして測定した。
(酢酸セルロースの酢酸平均置換度、残存水酸基の置換基分布測定)
酢酸セルロースの酢酸平均置換度、残存水酸基の置換基分布の測定は、分析対象の酢酸セルロースをプロピオニル化し、置換したプロピオニル基の分布をNMRにより測定することによって行った。具体的には下記の通りである。
(プロピオニル化)
80℃で24時間、乾燥機にて乾燥を行った酢酸セルロースを50mlナス型フラスコに0.4g測り取った。そして、8mlのジクロロメタンを加え、約1時間均一になるまで撹拌混合した。均一になったことを確認した後、8mlのピリジン、プロピオニル化に大過剰量である8mlの無水プロピオン酸、40mgのジメチルアミノピリジンを加え、冷却管を取り付け、100℃のオイルバス中で、撹拌下一時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を300mlのメタノール中に撹拌を伴いつつ滴下すると、白色の全置換されたプロピオニル化酢酸セルロースが得られた。そして、1H−NMRにより2,3位および、6位の残存水酸基を置換したプロピオニル基のピーク面積から、各残存水酸基の置換基分布及びアセチル平均置換度を求めた。NMR測定条件は、以下の通りである。
溶媒:重水素化クロロホルム
温度:40℃
磁場強度:500MHz
積算回数:16回。
図1はプロピオニル化した原料酢酸セルロースの1H−NMRスペクトルの一例である。図中、横軸の単位はppmであり、1.1ppmに観測されるピークA(5重線)は2,3位(2および3位)に置換したプロピオン酸のメチル基に由来するものである。また、6位に置換したプロピオン酸のメチル基はピークAの近傍である1.2ppmにピークBとして観測される。さらにはグルコースユニット由来のプロトンが3.4〜5.2ppmにピークCとして観測される。残存水酸基の置換基分布および酢酸平均置換度はこれら3つのピーク面積から算出した。
すなわち、
2および3位残存水酸基=(ピークA面積/3)/(ピークC面積/7)
6位残存水酸基=(ピークB面積/3)/(ピークC面積/7)
酢酸平均置換度=3−(2,3位残存水酸基)−(6位残存水酸基)
より求めた。
(グラフト体の一次構造測定)
得られたグラフト体を精製した後、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製、JNM A500)により、セルロースアセテート、ε−カプロラクトンのグラフト共重合体に由来するピーク面積から各成分のモル分率を決定し、セルロースアセテートにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)、グラフトしたε−カプロラクトンの平均置換度(DS)、グラフトしたε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)を決定した。NMR測定条件は、以下の通りである。
溶媒:ジメチルスルホキシド−d6
温度:60℃
磁場強度:500MHz
積算回数:16回。
(ヘーズ)
フィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7136に準じて、ヘーズを測定した。
(全光線透過率)
フィルム(未延伸フィルム)を、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7361−1に準じて、全光線透過率を測定した。
[参考例1]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.44、2,3位(2および3位、以下同じ)残存水酸基0.31、6位残存水酸基0.25)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、ジプロピルフェニルカルボジイミド(DPC)2.7重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、1H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.82、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.092、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は8.9であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚105μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.2%、全ヘーズ0.5%、外部ヘーズ0.2%であった。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、145℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは100μmであり、位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)により、23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=201nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.92、Re(630nm)/Re(550nm)=1.03であった。
[参考例2]
(酢酸セルロースの合成)
水分8.2重量%を含む解砕されたパルプ1520重量部に、698重量部の酢酸を均一に散布し、撹拌の後、90分間室温で放置した。約−10℃に冷却した無水酢酸3930.6重量部、酢酸5755重量部および98%硫酸115.4重量部の混合液中に上記の酢酸含浸パルプを投入し、混合した。外部冷却と外部加温とによって、反応温度を反応開始時点の0℃から70分後に37℃まで直線的に昇温し、さらに80分間、37℃を維持して酢酸セルロースを合成した。
合成した酢酸セルロースの溶液に、30%酢酸水溶液383.7重量部を添加し、反応温度47℃で130分間保持した。酢酸に対する水の量は6.0モル%であった。その後、酢酸マグネシウムの4水和物の水溶液297gを加え、反応を停止した。
得られた溶液を激しく撹拌しながら、30リットルの10%酢酸水溶液に投入し、沈殿を形成した。沈殿は、濾別し、流水洗浄し、熱水洗浄し、さらに流水洗浄と遠心脱液を行って、50℃で乾燥した。
得られた原料酢酸セルロースの酢酸平均置換度は2.78、2,3位残存水酸基0.11、6位残存水酸基0.11であった。
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に得られた酢酸セルロース(平均置換度2.78、2,3位残存水酸基0.11、6位残存水酸基0.11)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、ジプロピルフェニルカルボジイミド(DPC)2.7重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、1H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.67、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.062、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は11.0であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚103μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.2%、全ヘーズ0.5%、外部ヘーズ0.2%であった。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、165℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは97μmであり、位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)により23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=35nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.37、Re(630nm)/Re(550nm)=1.30であった。
[参考例3] (酢酸セルロースの合成)
特開平9−286801号公報に記載の方法に準じて酢酸セルロースを合成した。すなわち、セルロース100重量部に対して硫酸7.8重量部、無水酢酸260重量部及び酢酸400重量部を加え、40℃で40分間アセチル化を行った。その後、反応物を大過剰の水によって洗浄し乾燥を行い、DMSO(ジメチルスルホキシド)1500重量部に溶解させた。これにヒドラジン1水和物27重量部とDMSO100重量部の混合物を加え、50℃で5時間、部分加水分解を行った。その後、反応物を大過剰の水により沈殿し、洗浄し、乾燥を行った。
次に、乾燥した反応物100重量部をピリジン3000重量部に100℃で溶解した。これに塩化トリチル8.5重量部を加え、90度に調温後、25時間撹拌し、トリチル化を行った。その後、さらに4−ジメチルアミノピリジン90重量部および無水酢酸50重量部を加え、60℃で20時間撹拌し、アセチル化を行った。その後、反応物を大過剰の水により沈殿後、1000重量部のメタノールによる洗浄を3回行った。反応物を乾燥した後、クロロホルム3000重量部に溶解した。これに30重量%臭化水素酸の酢酸溶液40重量部を加え、25℃で5分間撹拌することにより、脱トリチル化を行った。反応物を大過剰の水により沈殿後、1000重量部のメタノールによる洗浄を3回行い、乾燥することにより酢酸セルロースを得た。
さらに、得られた酢酸セルロース100重量部を塩化メチレン500重量部に溶解させた。これに96%酢酸水溶液1000重量部を加え、減圧により塩化メチレンを除去しながら、65℃で45分間、酢酸と水による酢酸セルロースの部分加水分解を行った。反応物を大過剰の水により沈殿、洗浄、乾燥した。
得られた原料酢酸セルロースの酢酸平均置換度は2.72、2,3位残存水酸基0.11、6位残存水酸基0.17であった。
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に得られた酢酸セルロース(平均置換度2.72、2,3位残存水酸基0.11、6位残存水酸基0.17)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、ジプロピルフェニルカルボジイミド(DPC)2.7重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、1H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.76、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.061、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は12.5であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚106μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.2%、全ヘーズ0.6%、外部ヘーズ0.2%であった。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、165℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは98μmであり、位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)により23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=42nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.53、Re(630nm)/Re(550nm)=1.22であった。
[参考例4]
(酢酸セルロースの合成)
セルロース100重量部に対して硫酸7.8重量部、−10℃に冷却した無水酢酸260重量部および、酢酸400重量部を加え、40℃で40分間アセチル化を行った。その後、反応物を大過剰の水により沈殿、乾燥を行い、DMSO1500重量部に溶解させた。これに、ヒドラジン1水和物27重量部とジメチルスルホキシド(DMSO)100重量部の混合物を加え、50℃で5時間、部分加水分解を行った。その後、反応物を大過剰の水により沈殿、洗浄し、乾燥行った。
次に、乾燥した反応物100重量部をピリジン3000重量部に100℃で溶解した。これに塩化トリチル8.5重量部を加え、90℃に調温後、25時間撹拌下、トリチル化を行った。その後、さらに4−ジメチルアミノピリジン90重量部および無水酢酸50重量部を加え、60℃で20時間撹拌下、アセチル化を行った。その後、反応物を大過剰の水により沈殿後、1000重量部のメタノールによる洗浄を3回行った。反応物を乾燥後、クロロホルム3000重量部に溶解した。これに30重量%臭化水素酸の酢酸溶液40重量部を加え、25℃で5分間撹拌することにより、脱トリチル化を行った。反応物を大過剰の水により沈殿後、1000重量部のメタノールによる洗浄を3回行い、乾燥することにより、酢酸セルロースを得た。
さらに、得られた酢酸セルロース100重量部を塩化メチレン500重量部に溶解させた。これに96%酢酸水溶液1000重量部を加え、減圧により塩化メチレンを除去しながら、65℃で115分間、酢酸と水による酢酸セルロースの部分加水分解を行った。反応物を大過剰の水により、沈殿、洗浄、乾燥した。得られた原料酢酸セルロースの酢酸平均置換度は2.62、2,3位残存水酸基0.17、6位残存水酸基0.21であった。
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に得られた酢酸セルロース(平均置換度2.62、2,3位残存水酸基0.17、6位残存水酸基0.21)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、ジプロピルフェニルカルボジイミド(DPC)2.7重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、1H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.69、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.092、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は7.5であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚145μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.6%、全ヘーズ0.4%、外部ヘーズ0.2%であった。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、165℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは138μmであり、位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)により23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=137nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.81、Re(630nm)/Re(550nm)=1.08であった。
[参考例5]
(酢酸セルロースの合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼、冷却管を備えた反応器に、90℃、24時間予備乾燥を行った水分含量0.1重量%の酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.44、2,3位残存水酸基0.31、6位残存水酸基0.25)70重量部、ピリジン740重量部を加え、乾燥窒素雰囲気下、撹拌下、100℃、2時間で均一化を行った。均一になったことを確認した後、4−ジメチルアミノピリジン4重量部、無水酢酸5.8重量部を加え、撹拌下、100℃、1時間反応を行った。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応溶液を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し原料酢酸セルロースを得た。
得られた原料酢酸セルロースの酢酸平均置換度は2.58、2,3位残存水酸基0.26、6位残存水酸基0.16であった。
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に得られた酢酸セルロース(平均置換度2.58、2,3位残存水酸基0.26、6位残存水酸基0.16)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、ジプロピルフェニルカルボジイミド(DPC)2.7重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、1H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.82、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.071、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は11.5であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延
したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レ
ベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚115μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.7%、全ヘーズ0.5%、外部ヘーズ0.2%であった。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、145℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは110μmであり、位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)により23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=137nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.88、Re(630nm)/Re(550nm)=1.05であった。
[実施例3]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.44、2,3位残存水酸基0.31、6位残存水酸基0.25)31.5重量部、参考例2で得られた酢酸セルロース(平均置換度2.78、2,3位残存水酸基0.11、6位残存水酸基0.11)38.5重量部を加え(すなわち、酢酸セルロース混合物の平均置換度は2.63)、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。なお、酢酸セルロース混合物の平均置換度は、下記式により求められる。
平均置換度=2.44×31.5/(31.5+38.5)+2.78×38.5/(31.5+38.5)=2.627≒2.63
その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、ジプロピルフェニルカルボジイミド(DPC)2.7重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、ジクロロメタン90重量部に対して反応溶液10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、1H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.77、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.090、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は8.6であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延
したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚110μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.2%、全ヘーズ1.0%、外部ヘーズ0.5%であった。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、165℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは103μmで位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)により23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=50nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.75、Re(630nm)/Re(550nm)=1.11であった。
[参考例6]
参考例2で得られた酢酸セルロース(平均置換度2.78、2,3位残存水酸基0.11、6位残存水酸基0.11)7.5重量部、酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.44、2,3位残存水酸基0.31、6位残存水酸基0.25)7.5重量部(混合物の平均置換度=2.61)、塩化メチレン78重量部、およびメタノール15重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置することによりドープ中の泡を除いた。
なお、酢酸セルロース混合物の平均置換度は、下記式により求められる。
平均置換度=2.78×7.5/(7.5+7.5)+2.44×7.5/(7.5+7.5)=2.61
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度20℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で30分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させて膜厚98μmのフィルムを得た。フィルムの透明性を測定したところ全光線透過率92.7%、全ヘーズ2.7%、外部ヘーズ1.6%であった。フィルムは、目視で明らかに表面が荒れ、曇っていることが確認できた。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、190℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸(自由端一軸延伸)させた。得られた延伸フィルムの厚みは92μmで位相差の波長分散特性を自動複屈折率計(王子計測機器(株)製KOBRA−WPR)により23℃、50%湿度雰囲気下において測定したところ、Re(550nm)=148nm、Re(450nm)/Re(550nm)=0.85、Re(630nm)/Re(550nm)=1.06であった。