JP2007327025A - 変性グルカン誘導体およびその成形体 - Google Patents

変性グルカン誘導体およびその成形体 Download PDF

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Koichi Umemoto
浩一 梅本
Takahiro Tei
貴寛 鄭
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Abstract

【課題】光学フィルムなどの光学用途に好適に利用できる変性グルカン誘導体(例えば、変性セルロースアシレートなど)を提供する。
【解決手段】グルカン誘導体(セルロースアセテートなど)と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ラクトン成分(例えば、ε−カプロラクトンなどのラクトン)で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を光学用途に用いる。変性グルカン誘導体の耐熱性を向上させるため、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合を、グルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で平均0.1〜5モル程度となるように調整してもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、光学用途(例えば、光学フィルムなど)などとして有用なヒドロキシ酸変性グルカン誘導体(例えば、ヒドロキシ酸変性セルロースアシレート)、およびこの変性グルカン誘導体で形成された成形体(特に、光学用成形体(例えば、光学フィルムなど))に関する。
セルロース、デンプン(又はアミロース)、デキストランなどのグルコースを構成単位とするグルカンは、熱可塑性を有しておらず、そのままでは、プラスチック(熱可塑性プラスチック)として使用できない。そのため、このようなグルカン(特にセルロース)は、熱可塑化のため、アシル化(アセチル化など)されることにより、熱可塑性プラスチックとして利用されている。
前記グルカンのうち、特に、セルロースは、アシル化され、セルロースアシレート(特に、セルロースアセテート)として種々の用途に用いられている。特に、セルロースエステルは光学的特性に優れるため、写真感光材料の支持体、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、位相差フィルムやカラーフィルタなどの光学用途に利用されている。例えば、平均置換度2.4〜2.5程度のセルロースジアセテートは、熱可塑性の観点から、可塑剤を含む形態で熱成形に用いられている。しかし、このようなセルロースジアセテートは、ヒドロキシル基を有しているため、吸湿性が高く、寸法安定性を低下させるなどの問題がある。また、セルローストリアセテート(平均置換度2.8〜2.9程度)は、熱成形性が悪いため、塩化メチレンなどの限定された溶媒を用いた成形法で、フィルム、繊維などに加工されているのが実状である。すなわち、セルローストリアセテートは、ガラス転移温度Tgが120℃程度に認められるものの、融点Tmが明確でなく、加熱すると溶融よりも熱分解が先行する。そのため、セルローストリアセテートフィルムは、前記のように熱成形に不向きであり、溶融成膜法により得ることができず[Cellulose Commun Vol.5, No.2 (1998)(非特許文献1)]、延伸することが困難である。
一方、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース混合脂肪酸エステルは、セルローストリアセテートに比べて、熱溶融性及び熱成形性(延伸性)を改善できる。しかし、セルロース混合脂肪酸エステルは、光学的特性(例えば、レタデーション値など)が成形温度(例えば、延伸加工温度など)に対して敏感に変化しやすく、所望の光学的特性を安定して付与することが困難である。
セルロースアシレートを変性することにより、溶解性、熱溶融性や溶融成形性を改良する技術も報告されている。例えば、特開昭60−188401号公報(特許文献1)には、遊離水酸基を有する脂肪酸セルロースエステル(セルロースアセテートなど)に対してその無水グルコース単位あたり0.5〜4.0モルの環状エステル(ε−カプロラクトンなど)を付加させて得られる脂肪酸セルロースエステル系熱可塑性成形材料が開示されている。この文献には、内部可塑化により、多量の可塑剤を添加することなく、射出成形、押出成形などにより成形加工でき、シート、フィルムなどの成形品に使用できることも記載されている。なお、この文献では、実施例において、アセチル置換度が最高で2.25のε−カプロラクトン付加セルロースアセテートを得たことが記載されている。このようなアセチル置換度が低いセルロースアセテートは、耐湿性に乏しく、光学的特性の点でもアセチル置換度が高いものに比べて劣っているため、前記のように、通常、光学フィルムなどの光学用途にはセルローストリアセテートなどの比較的アセチル置換度が高いセルロースアセテートが用いられている。また、この文献の方法では、環状エステルの付加反応において、アシル基の加水分解が生じるためか、生成物として環状エステル付加脂肪酸セルロースエステルのアシル置換度が、原料となる脂肪酸セルロースエステルのアシル置換度に比べて低下し、所望のアシル置換度の環状エステル付加物を得ることが困難であり、さらにはアシル置換度の低下により前記のように光学的特性を低下させる虞がある。また、特開平6−287279号公報(特許文献2)には、ラクタイド(A)とセルロースエステルまたはセルロースエーテル(B)とをエステル化触媒(C)の存在下に開環グラフト共重合させるラクタイド系グラフト共重合体の製造方法が開示されている。この文献には、ラクタイド系グラフト共重合体は、透明性を持ち、かつ分解性、熱可塑的性質を有し、ラミネーション、インキ用樹脂を始め、フィルム用材料、成形用樹脂として有用であることが記載されている。
また、特開2005−300978号公報(特許文献3)には、溶融流延製膜法により成形したセルロースエステル樹脂シートを幅手方向に延伸配向したセルロースエステルフィルムからなり、厚みが20〜100μm、面内リタデーション(Ro)が20〜100nm、厚み方向リタデーション(Rt)が90〜200nmである位相差フィルムが開示されている。この文献には、セルロースエステルとして、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖(グラフト重合体側鎖)を有するセルロースアセテートなどを例示している。そして、この文献には、(i)脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートとして、乳酸を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが挙げられること、(ii)乳酸を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートのアセチル置換度は、グルコース単位あたり2.5〜3.0であることが好ましいこと、(iii)脂肪族ポリエステルグラフト側鎖の分子量は1000〜10000であることが好ましいことが記載されている。具体的には、実施例2において、60℃で24時間真空乾燥済みのセルロースアセテート(アセチル置換度:2.8、数平均分子量120000)100重量部と、L−ラクチド400重量部とを反応させて、最終的にフレーク状の反応生成物を得、この反応生成物と酸化防止剤を含む混合物をペレット化し、樹脂シートを得て、さらに延伸し、厚み100μmの位相差フィルムを得たことが記載されている。
しかし、この文献に記載の脂肪族ポリエステルグラフト鎖を有するセルロースアセテートでは、グラフト鎖がポリラクチド(又はポリ乳酸)で構成されているため、弾性などの機械的特性が十分でない。また、セルロースアセテートに置換する乳酸(ポリ乳酸又はポリラクチド)の量が多すぎるため、変性したセルロースアセテートのガラス転移温度が低く、耐熱性が十分でない。また、このような乳酸のグラフト量が多いセルロースアセテートは、熱により光学的特性が変化しやすくなるだけでなく、セルロースアセテートの優れた特性を損なう虞がある。例えば、乳酸のグラフト鎖の重合度や分子量が大きくなると、グラフト鎖部分が結晶性を示し、白化やヘーズの悪化が生じやすくなる。このように、光学的用途として、実用に耐えうるグラフト鎖を有するセルロースアセテートはこれまで知られていない。
特開昭60−188401号公報(特許請求の範囲、第2頁右下欄) 特開平6−287279号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄) 特開2005−300978号公報(特許請求の範囲、段落番号[0023][0029][0030][0074]〜[0076]) Cellulose Commun Vol.5, No.2 (1998)
従って、本発明の目的は、光学フィルムなどの光学用途に好適に利用できる変性グルカン誘導体(例えば、変性セルロースアシレートなど)、およびこの変性グルカン誘導体で形成された光学用成形体(例えば、光学フィルム)を提供することにある。
本発明の他の目的は、耐熱性に優れた光学用変性グルカン誘導体、およびこの変性グルカン誘導体で形成された光学用成形体(例えば、光学フィルム)を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、延伸などの成形温度に対する樹脂特性(例えば、光学的特性)の変化を高いレベルで抑制でき、安定して樹脂特性(例えば、光学的特性)を付与できる変性グルカン誘導体、およびこの変性グルカン誘導体で形成された成形体(特に、光学用成形体(例えば、光学フィルム))を提供することにある。
本発明の別の目的は、光学的特性および機械的特性(弾性など)に優れ、耐熱性が要求される用途であっても好適に使用できる実用性が高い変性グルカン誘導体、およびこの変性グルカン誘導体で形成された光学用成形体(例えば、光学フィルム)を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、グルカン誘導体(例えば、セルロースアセテートなど)に、少なくともラクトンで構成されたヒドロキシ酸成分をグラフト重合させて得られる変性グルカン誘導体が、優れた光学的特性を付与するのに有用であること、さらには、前記変性グルカン誘導体において、グルカン誘導体に置換するヒドロキシ酸成分の割合などを調整することにより、耐熱性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の光学用ラクトン変性グルカン誘導体は、光学用途に用いるためのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であって、グルカン誘導体(又はグルカン誘導体骨格)と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ラクトン成分で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されている。
前記グルカン誘導体は、セルロース誘導体、例えば、セルロースアシレート(例えば、セルロースC2−4アシレートなど)であってもよい。特に、前記グルカン誘導体は、アセチル基の平均置換度1.5〜2.95程度のセルロースアシレート(特にセルロースアセテート)であってもよく、代表的には、前記グルカン誘導体は、アシル基の平均置換度2.3以上(例えば、2.35〜2.95程度)のセルロースC2−4アシレートであってもよい。前記ヒドロキシ酸成分は、C4−10ラクトンで構成されていてもよく、α−ヒドロキシ酸成分を含まず、ラクトン成分(例えば、ε−カプロラクトンなどのC4−10ラクトン)のみで構成してもよい。
本発明の変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合は、グルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で平均0.1〜5モル程度であってもよい。上記のような割合でヒドロキシ酸成分をグラフト重合させると、効率よく変性グルカン誘導体の耐熱性を向上できる。また、前記変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均重合度は、ヒドロキシ酸換算で1〜20程度であってもよい。
代表的な本発明の変性グルカン誘導体には、グルカン誘導体が平均置換度2〜2.95のセルロースC2−4アシレートであり、ヒドロキシ酸成分がC4−10ラクトンであり、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合がグルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して平均0.2〜4モルである変性グルカン誘導体などが含まれる。
また、本発明の変性グルカン誘導体は、ガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性が比較的小さいという特性を有している。そのため、本発明の変性グルカン誘導体には、横軸を温度、縦軸を変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E')とする貯蔵弾性率曲線において、貯蔵弾性率が10〜100MPaを示す範囲での最大傾きが、−12〜−1MPa・℃−1程度である変性グルカン誘導体も含まれる。このような特定の貯蔵弾性率の最大傾きを有する変性グルカン誘導体は、前記のように、光学用途に用いるためのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であってもよい。
本発明には、前記変性グルカン誘導体で形成された成形体[特に、光学用成形体(特に、光学フィルム)]も含まれる。
なお、本明細書において、「平均置換度」とは、グルコース単位の2,3および6位のヒドロキシル基のうち、誘導体化(エーテル化、エステル化、グラフト化など)されたヒドロキシル基(例えば、アシル基、グラフト鎖)の置換度(置換割合)の平均(又はグルコース単位の2,3および6位における誘導体化されたヒドロキシル基の平均モル数)を意味し、セルロースエステルなどにおける「平均置換度」と同意である。
また、本明細書において、「ヒドロキシ酸成分」とは、ヒドロキシ酸のみならず、ヒドロキシ酸の低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)、ヒドロキシ酸の環状エステルも含む意味に用いる。
本発明の変性グルカン誘導体(例えば、変性セルロースアシレートなど)は、ラクトンで構成されたグラフト鎖を有しているため、光学フィルムなどの光学用途に好適に利用できる。また、本発明の変性グルカン誘導体は、グルカン誘導体に置換するヒドロキシ酸成分の割合などが調整されているので、耐熱性に優れている。さらに、延伸などの成形温度に対する樹脂特性(例えば、光学的特性)の変化を高いレベルで抑制でき、安定して樹脂特性(例えば、光学的特性)を付与できる。さらにまた、光学的特性(光学的等方性、光学的異方性など)および機械的特性(弾性など)に優れ、耐熱性が要求される用途であっても好適に使用でき、実用性が高い。
[変性グルカン誘導体]
本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されている。そして、このような本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、特に限定されないが、光学用途に用いるためのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体として(すなわち、光学用途に)好適に用いることができる。
(グルカン誘導体)
グルカン誘導体としては、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合するためのヒドロキシル基を有している限り特に限定されないが、通常、グルカンのグルコース単位のヒドロキシル基の一部が誘導体化(エーテル化、エステル化など)されたグルカン誘導体であってもよい。すなわち、前記グルカン誘導体は、グルカンのグルコース単位(又はグルコース骨格)に含まれるヒドロキシル基(グルコース単位の2,3および6位に位置するヒドロキシル基)に、アシル基などが置換(結合)して誘導体化されたグルカン誘導体であって、前記ヒドロキシル基の一部が残存したグルカン誘導体である場合が多い。ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
グルカンとしては、特に限定されず、例えば、β−1,4−グルカン、α−1,4−グルカン、β−1,3−グルカン、α−1,6−グルカンなどが挙げられる。代表的なグルカンとしては、例えば、セルロース、アミロース、デンプン、レンナチン、デキストランなどの多糖類が挙げられる。これらのグルカンのうち、産業的な観点から、セルロース、デンプン(又はアミロース)が好ましく、特に、セルロースが好ましい。グルカンは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
具体的なグルカン誘導体としては、例えば、エーテル化されたグルカン、エステル化されたグルカンなどが挙げられる。以下に、代表的なグルカン誘導体として、セルロース誘導体について詳述する。
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル[例えば、アルキルセルロース(例えば、C1−4アルキルセルロース)、ヒドロキシルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、シアノアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロースなど)など]、セルロースエステル(セルロースアシレート;硝酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの無機酸及び有機酸の混酸セルロースエステルなど)などが挙げられる。
好ましいセルロース誘導体には、光学的特性に優れるという点で、アシルセルロース(又はセルロースアシレート)が含まれる。セルロースアシレートにおいて、アシル基としては、用途に応じて適宜選択でき、例えば、アルキルカルボニル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのC2−10アルキルカルボニル基(例えば、C2−8アルキルカルボニル基、好ましくはC2−6アルキルカルボニル基、さらに好ましくはC2−4アルキルカルボニル基)など]、シクロアルキルカルボニル基(例えば、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキルカルボニル基など)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、カルボキシベンゾイル基などのC7−12アリールカルボニル基など)などが挙げられる。アシル基は、単独で又は2種以上組み合わせてセルロースのグルコース単位に結合していてもよい。これらのアシル基のうち、アルキルカルボニル基が好ましい。特に、これらのアシル基のうち、少なくともアセチル基がグルコース単位に結合しているのが好ましく、例えば、アセチル基のみが結合していてもよく、アセチル基と他のアシル基(C3−4アシル基など)とが結合していてもよい。
代表的なセルロースアシレートとしては、セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−6アシレート、好ましくはセルロースC2−4アシレートなどが挙げられ、特にセルロースアセテート(特に、セルロースジアセテート又はセルローストリアセテート)が好ましい。
グルカン誘導体(特に、セルロース誘導体、例えば、セルロースアセテートなどのセルロースアシレート)において、平均置換度(アシル基などの平均置換度、グルコース単位の2,3および6位における誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数)は、0.5〜2.999の範囲から選択でき、例えば、0.5〜2.99(例えば、0.7〜2.98)、好ましくは0.8〜2.97(例えば、1〜2.96)、さらに好ましくは1.5〜2.95[例えば、1.7以上(例えば、1.8〜2.95、好ましくは1.9〜2.93)]、特に2.25以上[例えば、2.3以上(例えば、2.3〜2.95)、好ましくは2.35〜2.93(例えば、2.38〜2.88)、さらに好ましくは2.4以上(例えば、2.5〜2.85)]であってもよく、通常2〜2.95(例えば、2.05〜2.92)であってもよい。比較的高い置換度[例えば、平均置換度2.25以上(例えば、2.3以上、好ましくは2.4以上)]を有するグルカン誘導体を用いると、耐湿性や光学的特性の点で有利である。なお、ヒドロキシ酸成分が、ラクトン成分とα−ヒドロキシ酸成分[α−ヒドロキシ酸及び環状ジエステルから選択された少なくとも1種(例えば、乳酸及び/又はラクチド)]とで構成されている場合、アシル基などの平均置換度は、特に、2.6以下[例えば、1.5〜2.55、好ましくは2.5未満(例えば、1.7〜2.49)、さらに好ましくは1.8〜2.48、通常1.9〜2.46(例えば、2〜2.45)程度]であってもよい。このような平均置換度のグルカン誘導体を用いると、ヒドロキシ酸成分をαヒドロキシ酸成分で構成しても、グラフトによりグルカン誘導体を可塑化しやすく、熱可塑化の観点で有利である。
また、グルカン誘導体として、比較的高い平均置換度、例えば、平均置換度2.7以上(例えば、2.72〜2.999)、好ましくは2.75以上(例えば、2.78〜2.995)、さらに好ましくは2.8以上(例えば、2.83〜2.99)、特に2.85以上(例えば、2.87〜2.97)、通常2.88〜2.95(例えば、2.89〜2.93)程度のグルカン誘導体((特にセルロースアセテートなどのセルロースアシレート)を使用してもよい。このような高い平均置換度を有するグルカン誘導体(特にセルロースアセテート、すなわちセルローストリアセテート)は、後述するようにレタデーション値が著しく小さいフィルム(光学的等方性を有するフィルム)を得るのに有用である。
また、グルカン誘導体(例えば、セルロースアシレートなどのセルロース誘導体)において、ヒドロキシル基(残存するヒドロキシル基、グルコース単位のヒドロキシル基)の割合は、特に制限されないが、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0.01〜2.5モル(例えば、0.05〜2モル)、好ましくは0.1〜1.5モル(例えば、0.2〜1.2モル)、さらに好ましくは0.3〜1モル(例えば、0.4〜0.7モル)程度であってもよい。
グルカン誘導体(又はグルカン)の重合度は、変性グルカン誘導体を所望の目的に使用できれば特に制限はなく、現在工業的に入手可能な市販品と同程度であれば好適に使用可能である。例えば、グルカン誘導体の平均重合度(粘度平均重合度)は、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
なお、グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)は、市販の化合物(例えば、セルロースアセテートなど)を使用してもよく、慣用の方法により合成してもよい。例えば、セルロースアシレートは、通常、セルロースをアシル基に対応する有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物)によりトリアシルエステル(特に、セルローストリアセテート)を調製し、過剰量のアシル化剤(特に、無水酢酸などの酸無水物)を不活性化し、脱アシル化又はケン化(加水分解又は熟成)によりアシル化度を調整することにより製造できる。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2−6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。
なお、一般的なセルロースアシレートの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。また、他のグルカン(例えば、デンプンなど)についても、セルロースアシレートの場合と同様の方法でアシル化(および脱アシル化)できる。
グラフト鎖は、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合(又は反応)して形成されている。すなわち、変性グルカン誘導体では、グルカン誘導体のグルコース単位のヒドロキシル基を介して、誘導体化された基(アシル基など)およびヒドロキシ酸成分のグラフト鎖が結合している。なお、後述するように、変性グルカン誘導体は、誘導体化(アシル化、グラフト化など)されることなく残存したヒドロキシル基(未置換のヒドロキシル基)を有していてもよい。
(ヒドロキシ酸成分)
ヒドロキシ酸成分は、ラクトン成分で構成されている。ラクトン成分としては、ラクトン(又は環状モノエステル)、α−ヒドロキシ酸を除くヒドロキシ酸などが挙げられる。ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなどのC3−20ラクトン(好ましくはC4−15ラクトン、さらに好ましくはC4−10ラクトン)などが挙げられる。また、前記ヒドロキシ酸成分としては、α−ヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸など)を除くヒドロキシ酸、例えば、脂肪族オキシカルボン酸(例えば、6−ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸など)などが挙げられる。なお、ヒドロキシ酸は、低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)化されていてもよい。
ラクトン成分は、少なくともラクトンで構成するのが好ましく、特に好ましいラクトンには、C4−10ラクトン(例えば、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC5−8ラクトン)、特にε−カプロラクトンが含まれる。
これらのラクトン成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
ヒドロキシ酸成分は、少なくともラクトン成分で構成すればよく、ラクトン成分のみ(例えば、ラクトンのみ)で構成してもよく、ラクトン成分と他のヒドロキシ酸成分とで構成してもよい。
他のヒドロキシ酸成分としては、α−ヒドロキシ酸[例えば、グリコール酸、α−オキシ酪酸などのα−ヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸、好ましくはα−ヒドロキシC2−6アルカンカルボン酸、さらに好ましくはα−ヒドロキシC2−4アルカンカルボン酸)など]、環状ジエステル[例えば、グリコリドなどのC4−15環状ジエステル、好ましくはC4−10環状ジエステルなど]などが挙げられる。これらの他のヒドロキシ酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
(グラフト鎖)
グラフト鎖の平均重合度(又はグラフト鎖を構成するヒドロキシ酸成分のヒドロキシ酸換算での平均付加モル数)は、ヒドロキシ酸換算(例えば、ε−カプロラクトンではヒドロキシヘキサン酸換算、ラクチドでは乳酸換算など)で、1〜100程度の範囲から選択でき、例えば、1〜50、好ましくは1.5〜30(例えば、1.8〜25)、さらに好ましくは2〜20(例えば、2.5〜18)、特に3〜15、通常1〜20(好ましくは2〜12、さらに好ましくは3〜10)程度であってもよい。なお、グラフト鎖が、ラクトン成分とα−ヒドロキシ酸成分[例えば、α−ヒドロキシ酸及び/又は環状ジエステル(例えば、乳酸およびラクチドから選択された少なくとも1種)]とで構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖(例えば、カプロラクトン−ラクチド共重合体鎖など)である場合、グラフト鎖の平均重合度は、例えば、1〜13、好ましくは1.5〜12(例えば、2〜12)、さらに好ましくは2.5〜11(例えば、3〜10)程度であってもよい。グラフト鎖の重合度を上記のような範囲に調整すると、効率よく高い耐熱性を変性グルカン誘導体に付与できる。
また、グラフト鎖の平均分子量(例えば、数平均分子量)は、例えば、80〜10000、好ましくは100〜5000(例えば、150〜3000)、さらに好ましくは200〜2000、特に300〜1500、通常1000未満(例えば、350〜900程度)であってもよい。特に、グラフト鎖が、ラクトン成分とα−ヒドロキシ酸成分とで構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖である場合、グラフト鎖の平均分子量は、例えば、1000未満(例えば、80〜950程度)、好ましくは900以下(例えば、150〜870程度)、さらに好ましくは850以下(例えば、200〜830程度)、特に800以下(例えば、250〜780程度)、通常750以下(例えば、300〜700程度)であってもよい。
なお、グラフト鎖の重合度や分子量が大きくなると、グラフト鎖部分が結晶性を示し、白化やヘーズの悪化が生じやすくなる。そのため、グラフト鎖の重合度や分子量を比較的小さくしてもよい[例えば、平均重合度で20以下、平均分子量で2000以下程度としてもよい]。
変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合は、グルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均0.01〜10モル(例えば、0.05〜8モル)の範囲から選択でき、例えば、0.1〜5モル(例えば、0.15〜4.5モル)、好ましくは0.2〜4モル(例えば、0.25〜3.5モル)、さらに好ましくは0.3〜3モル(例えば、0.35〜2.5)、通常0.35〜3.2モル程度であってもよく、特に3モル以下(例えば、0.1〜2.5モル、好ましくは0.15〜2モル、さらに好ましくは0.2〜1.8モル)、通常、1.2以下[例えば、0.02〜1.1、好ましくは0.05〜1(例えば、0.1〜0.9)、さらに好ましくは0.5未満(例えば、0.1〜0.45)程度]であってもよい。であってもよい。なお、前記ヒドロキシ酸成分の割合(モル)とは、グラフト鎖の重合度が、1又は1より大きいか否かにかかわらず、セルロースアシレートのグルコース単位全体に付加(又はグラフト)したヒドロキシ酸成分の平均付加モル数を示す。このような比較的少ない割合でヒドロキシ酸成分をグラフト化させると、グルカン誘導体のガラス転移温度を大きく低下させることなく保持でき、グルカン誘導体(例えば、セルロースアシレート)を効率よく変性できる。
なお、ヒドロキシ酸成分をラクトン成分(例えば、ラクトン)とα−ヒドロキシ酸成分(例えば、乳酸及び/又はラクチド)とで構成する場合、変性グルカン誘導体において、グラフト重合したラクトン成分とグラフト重合したα−ヒドロキシ酸成分との割合は、ヒドロキシ酸換算で、前者/後者(モル比)=99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95(例えば、90/10〜10/90)、さらに好ましくは80/20〜20/80(例えば、75/25〜25/75)程度であってもよい。
変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均置換度(すなわち、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖の平均置換度、ヒドロキシ酸成分でグラフト置換されたヒドロキシル基の平均置換度、グルコース単位の2,3および6位におけるグラフト重合により誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数)は、例えば、0.01〜2(例えば、0.015〜1.5)、好ましくは0.02〜1(例えば、0.025〜0.8)、さらに好ましくは0.03〜0.7(例えば、0.035〜0.6)、特に0.04〜0.5(例えば、0.045〜0.4)程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体において、グラフト鎖以外の誘導体化されたヒドロキシル基(例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)とグラフト鎖の平均置換度(モル数)との割合は、前者/後者=40/60〜99.9/0.1(例えば、50/50〜99.5/0.5)、好ましくは70/30〜99/1(例えば、75/25〜98.5/1.5)、さらに好ましくは80/20〜98/2(例えば、85/15〜97.5/2.5)程度であってもよい。特に、アシル基などの誘導体化されたヒドロキシル基の平均置換度が比較的大きい場合、誘導体化されたヒドロキシル基の平均置換度とグラフト鎖の平均置換度との割合は、前者/後者=88/12〜99.9/0.1(例えば、90/10〜99.7/0.3)、好ましくは93/7〜99.5/0.5(例えば、95/5〜99.2/0.8)、さらに好ましくは96/4〜99/1(例えば、97/3〜98.8/1.2)程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体において、ヒドロキシル基(残存ヒドロキシル基)の割合(又はグルコース単位1モルに対して、誘導体化又はグラフト化されることなく残存したヒドロキシル基の割合)は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0〜1.2モルの範囲から選択でき、例えば、0.01〜1モル、好ましくは0.02〜0.8モル、好ましくは0.03〜0.7モル、さらに好ましくは0.04〜0.6モル、通常0.05〜0.55モル程度であってもよい。特に、アシル基などの誘導体化されたヒドロキシル基の平均置換度が比較的大きい場合、ヒドロキシル基の割合は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0〜0.3モル、好ましくは0.01〜0.2モル、好ましくは0.02〜0.1モル、さらに好ましくは0.03〜0.08モル程度であってもよい。
なお、変性グルカン誘導体において、誘導体化された基(アシル基など)やグラフト鎖の置換度、ヒドロキシル基濃度、グラフト鎖の重合度(分子量)などは、慣用の方法、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)(H−NMR、13C−NMRなど)などを用いて測定できる。
なお、変性グルカン誘導体は、通常、ヒドロキシル基を有していてもよい。このようなヒドロキシル基には、グラフト鎖の末端のヒドロキシル基、グルコース単位に残存したヒドロキシル基などが挙げられる。このようなヒドロキシル基は、変性グラフト誘導体の吸湿性を抑制又は調整するなどの目的により、必要に応じて保護基により保護してもよい。
保護基としては、ヒドロキシル基を保護可能な非反応性基であれば特に限定されず、例えば、アルキル基[例えば、メチル基、エチル基、2−シクロヘキシル−2−プロピル基、ヘキシル基、クロロメチル基などの置換基(ハロゲン原子など)を有していてもよいC1−12アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)など]、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などの置換基を有していてもよいC5−8シクロアルキル基)、芳香族炭化水素基(フェニル基などのC6−12アリール基、ベンジル基などのアラルキル基など)、架橋環式炭化水素基(アダマンチル基など)などの炭化水素基;オキサシクロアルキル基(例えば、5〜8員オキサシクロアルキル基);アルコキシアルキル基(例えば、C1−6アルコキシ−C1−6アルキル基)などのアセタール系保護基;アルキルカルボニル基(アセチル、プロピオニルなどのC1−10アルキルカルボニル基)、シクロアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基などのアシル基などが挙げられる。
保護基は、単独で又は2種以上組み合わせて、ヒドロキシル基を保護してもよい。
保護基によりヒドロキシル基が保護された変性グルカン誘導体において、保護基の割合(又はグラフト鎖のヒドロキシ基の保護割合)は、グラフト鎖1モルに対して、0.7〜1モルの範囲から選択でき、例えば、0.9〜1モル、好ましくは0.95〜0.999モル程度であってもよい。
また、変性グラフト誘導体は、わずかであるが、カルボキシル基を有している場合がある。このようなカルボキシル基もまた、前記ヒドロキシル基と同様に保護(又は封止)されていてもよい。
本発明の変性グルカン誘導体は、ヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖を有しているにもかかわらず、比較的高いガラス転移温度を有しており、耐熱性が高い。本発明のグルカン誘導体のガラス転移温度は、70℃以上(例えば、73〜220℃程度)の範囲から選択でき、例えば、75〜200℃(例えば、78〜190℃)、好ましくは80℃以上[例えば、80〜180℃(例えば、82〜170℃)]、さらに好ましくは85〜160℃程度であってもよく、通常90〜155℃(例えば、95〜150℃)程度であってもよい。なお、変性グルカン誘導体のガラス転移温度は、例えば、ヒドロキシ酸成分のグラフト割合、グラフト鎖の重合度、グルカン誘導体の種類(置換度、アシル基などの置換基の種類など)などを調整することにより調整できる。通常、グルカン誘導体が同一である場合、グルカン誘導体に付加させるヒドロキシ酸の量やグラフト鎖の重合度を大きくするほど、ガラス転移温度は低下するようである。
また、本発明の変性グルカン誘導体は、通常のグルカン誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど)や、グルカン誘導体に乳酸又はラクチドを重合したグラフト重合体などに比べて、ガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性(貯蔵弾性率の変化)が比較的小さいという特性を有している場合が多い。そのため、本発明の変性グルカン誘導体は、成形温度(延伸温度など)に対して光学的特性などの樹脂特性が敏感に変化することがなく、安定して所望の特性[例えば、光学的特性(例えば、所望のレタデーション値)]を付与できる。
例えば、本発明の変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率において、横軸(又はX軸)を温度、縦軸(Y軸)を変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E')とする貯蔵弾性率曲線において、貯蔵弾性率が10〜100MPaを示す範囲での最大傾き(δy/δx)は、−12〜0MPa・℃−1(例えば、−12〜−1MPa・℃−1)、好ましくは−11〜−1.5MPa・℃−1、さらに好ましくは−10〜−2MPa・℃−1であってもよい。なお、前記転移域において、変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率は、温度上昇とともに低下する場合が多い。そのため、上記最大傾きは、貯蔵弾性率10MPaを示す温度をt1(℃)、貯蔵弾性率100MPaを示す温度をt2(℃)とするとき、90×(t2−t1)−1(MPa・℃−1)で求められる値と近似してもよい。また、貯蔵弾性率の測定に用いる前記変性グルカン誘導体の形態は特に限定されないが、例えば、フィルム状成形体(特に、未延伸フィルム)を用いて測定してもよい。
なお、このような特定の貯蔵弾性率の最大傾きを有する変性グルカン誘導体は、成形温度変化に対する樹脂特性の変化が小さく、必ずしも前記光学用変性グルカン誘導体(すなわち、光学用途の変性グルカン誘導体)に限定されず、種々の用途に適用可能である。
また、本発明の変性グルカン誘導体は、耐湿性に優れ、例えば、変性グルカン誘導体の吸水率は、8%以下(例えば、0〜7.5%程度)であり、5%以下(例えば、0.1〜4%程度)、好ましくは3%以下(例えば、0.2〜2.7%程度)、さらに好ましくは2.5%以下(例えば、0.3〜2.2%程度)、特に2%以下(例えば、0.5〜1.8%程度)にすることもできる。
(変性グルカン誘導体の製造方法)
本発明の変性グルカン誘導体は、グルカン誘導体と前記ヒドロキシ酸成分とを反応(開環重合反応又は縮合反応)させることにより得ることができる。すなわち、グルカン誘導体にヒドロキシ酸成分をグラフト重合することにより変性グルカン誘導体を調製できる。なお、グラフト反応(グラフト重合反応)は、ヒドロキシ酸成分として環状エステル(例えば、ラクトンなど)を用いるときには、環状エステルの開環を伴う開環反応(開環重合反応、開環グラフト化反応)であり、ヒドロキシ酸(ヒドロキシヘキサン酸など)を用いるときには縮合反応(縮合グラフト化反応)である。本発明では、通常、環状エステルを用いた開環グラフト化反応を好適に利用できる。
なお、グラフト重合(特に、環状エステルを用いた開環重合反応)に使用するグルカン誘導体およびヒドロキシ酸成分の水分含有量は、できるだけ少ない方が好ましく、それぞれ、全体に対して0.5重量%以下[0(又は検出限界)〜0.3重量%程度]、好ましくは0.1重量%以下(例えば、0.0001〜0.05重量%程度)、さらに好ましくは0.01重量%以下(例えば、0.0003〜0.005重量%程度)であってもよい。なお、水分含有量は、慣用の方法、例えば、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)に対する接触などにより低減できる。
反応(グラフト重合)において、ヒドロキシ酸成分の割合(使用割合)は、特に制限されず、グルカン誘導体100重量部に対して、例えば、1〜300重量部(例えば、5〜250重量部)、好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは15〜150重量部(例えば、20〜130重量部)、通常120重量部以下(例えば、20〜110重量部)程度であってもよい。
反応(又はグラフト重合)は、ヒドロキシ酸成分の種類(例えば、環状エステル)にもよるが、慣用の触媒[例えば、有機酸類、無機酸類、金属(アルカリ金属、マグネシウム、亜鉛、スズ、アルミニウムなど)、金属化合物[スズ化合物(ジブチルチンラウレート、塩化スズ)、有機アルカリ金属化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物(チタンアルコキシドなど)、有機ジルコニウム化合物など]など]の存在下で行ってもよい。触媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
特に、触媒(グラフト重合触媒)としてヒドロキシ酸成分(ラクトンなど)のグラフト重合(特に、環状エステルを用いた開環重合反応)の触媒となる化合物であって、かつ、単独で重合を開始しない金属錯体(又は金属化合物)を使用してもよい。このような触媒(及び後述の特定溶媒)を使用することにより、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成を著しく抑制でき、高効率でグラフト重合体(変性グルカン誘導体)を得ることができる。また、このような触媒(および後述の特定溶媒)を用いると、前記特許文献1の方法において見られるようなアシル基の置換度の低下を生じることがなく、グラフト重合後の生成物(すなわち、変性グルカン誘導体)において、原料としてのグルカン誘導体のアシル置換度を反映でき、所望のアシル置換度(およびグラフト鎖置換度)を有する変性グルカン誘導体を効率よく得ることができる。
前記重合を開始しない金属錯体(金属化合物)は、中心金属とこの中心金属に配位する配位子とで構成されており、前記金属錯体を構成する具体的な配位子(又はヒドロキシ酸成分に対する重合活性を示さない配位子又はヒドロキシ酸成分に対して不活性な配位子)としては、例えば、一酸化炭素、ハロゲン原子(塩素原子など)、酸素原子、炭化水素[例えば、アルカン(C1−20アルカンなど)、シクロアルカン、アレーン(ベンゼン、トルエンなど)など]、β−ジケトン(アセチルアセトンなどのβ−C5−10ジケトンなど)、カルボン酸[例えば、アルカン酸(酢酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸などのC1−20アルカン酸)などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸など]、炭酸、ホウ酸などに対応する配位子(例えば、ハロ、アルキル、アシルアセトナト、アシル)などが挙げられる。これらの配位子は、単独で又は2種以上組み合わせて中心金属に配位していてもよい。
代表的なグラフト重合触媒としては、アルコキシ基(及びヒドロキシル基)及び/又はアミノ基(第3級アミノ基以外のアミノ基)を配位子として有しない金属錯体、例えば、アルカリ金属化合物(炭酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、炭酸アルカリ土類金属塩、酢酸カルシウムなどのカルボン酸アルカリ土類金属塩)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛、アセチルアセトネート亜鉛など)、アルミニウム化合物(例えば、トリアルキルアルミニウム)、ゲルマニウム化合物(例えば、酸化ゲルマニウムなど)、スズ化合物[例えば、スズカルボキシレート(例えば、オクチル酸スズ(オクチル酸第一スズなど)などのスズC2−18アルカンカルボキシレート、好ましくはスズC4−14アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、モノブチルスズトリオクチレートなどのモノ又はジC1−12アルキルスズC2−18アルカンカルボキシレートなど)などのスズ(又はチン)カルボキシレート類;アルキルスズオキサイド(例えば、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどのモノ又はジアルキルスズオキサイドなど);ハロゲン化スズ;ハロゲン化スズアセチルアセトナト;無機酸スズ(硝酸スズ、硫酸スズなど)など]、鉛化合物(酢酸鉛など)、アンチモン化合物(三酸化アンチモンなど)、ビスマス化合物(酢酸ビスマスなど)などの典型金属化合物又は典型金属錯体;希土類金属化合物(例えば、酢酸ランタン、酢酸サマリウムなどのカルボン酸希土類金属塩)、チタン化合物(酢酸チタンなど)、ジルコニウム化合物(酢酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネートなど)、ニオブ化合物(酢酸ニオブなど)、鉄化合物(酢酸鉄、鉄アセチルアセトナトなど)などの遷移金属化合物が挙げられる。
これらの触媒のうち、特に、スズカルボキシレート類などのスズ錯体(又はスズ化合物)が好ましい。触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
反応(グラフト重合反応)において、前記触媒の割合(使用割合)は、前記グルカン誘導体のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、10−7〜10−1モル、好ましくは5×10−7〜5×10−2モル、さらに好ましくは10−6〜3×10−2モル程度であってもよい。
また、反応(グラフト重合反応)は、無溶媒又は溶媒中で行ってもよく、通常、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、例えば、炭化水素類、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、窒素含有溶媒(ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などを使用してもよく、過剰のヒドロキシ酸成分(例えば、ラクトン、ラクチドなど)を溶媒に用いてもよい。溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
なお、環状エステルを用いた開環重合反応系では、前記特定の触媒に加えて、さらに水に対する溶解度が小さい特定の溶媒を使用することにより、重合系又は反応における水の影響を極力抑えることができるためか、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成を高いレベルで抑制しつつ変性グルカン誘導体を得ることができる。具体的には、グラフト重合反応に用いる溶媒の20℃における水に対する溶解度は、10重量%以下[例えば、0(又は検出限界)〜8重量%]の範囲から選択でき、例えば、7重量%以下(例えば、0.0001〜6重量%程度)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.0005〜4重量%程度)、さらに好ましくは3重量%以下(例えば、0.0008〜2重量%程度)、特に1重量以下(例えば、0.001〜0.8重量、好ましくは0.002〜0.5重量%、さらに好ましくは0.003〜0.3重量%程度)であってもよい。
水に対する溶解度が小さい溶媒としては、具体的には、例えば、脂肪族炭化水素類[例えば、アルカン(例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのC7−20アルカンなど)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンなどのC4−10シクロアルカン)など]、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン(o,m又はp−キシレン)、エチルベンゼンなどのC6−12アレーン、好ましくはC6−10アレーン)、脂肪族ケトン類[例えば、ジアルキルケトン(例えば、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのC5−15ジアルキルケトン、好ましくはC7−10ジアルキルケトン)など]、鎖状エーテル類[例えば、ジアルキルエーテル(C6−10ジアルキルエーテルなど)、アルキルアリールエーテル(アニソールなど)など]などの非ハロゲン系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ハロアルカン(例えば、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロC1−10アルカン)、ハロシクロアルカン(クロロシクロヘキサンなどのハロC4−10シクロアルカン)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、クロロメチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどのハロC6−12アレーン、好ましくはハロC6−10アレーンなど)などのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
溶媒の割合は、溶媒の種類などにもよるが、グルカン誘導体100重量部に対して、50重量部以上(例えば、55〜500重量部程度)の範囲から選択でき、例えば、60〜450重量部(例えば、65〜400重量部)、好ましくは60〜300重量部(例えば、65〜250重量部)、さらに好ましくは70〜200重量部(例えば、75〜190重量部)、特に80〜180重量部(例えば、85〜170重量部、好ましくは90〜150重量部)程度であってもよい。また、溶媒の割合は、グルカン誘導体及びヒドロキシ酸成分の総量100重量部に対して、例えば、10〜200重量部、好ましくは30〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部(例えば、50〜100重量部)、通常45〜90重量部(例えば、50〜80重量部)程度であってもよい。
反応(グラフト化反応)は、常温下で行ってもよく、通常、反応を効率よく行うため、加温下で行ってもよい。また、開環重合反応は、溶媒の沸点をA(℃)とするとき、反応温度は、通常、溶媒の沸点以上の温度、例えば、A〜(A+30)(℃)[例えば、A〜(A+25)(℃)]、好ましくはA〜(A+22)(℃)、さらに好ましくは(A+3)〜(A+20)(℃)程度であってもよい。なお、溶媒が混合溶媒である場合には、純物質における沸点が最も低い溶媒の沸点を上記沸点としてもよい。低い温度で反応を行うと、重合系(特に、開環重合系)における水の影響を抑える効果が小さく、ホモポリマーの生成を抑制しきれず、用いる溶媒の沸点よりも高すぎる温度で重合を行うと、溶媒の還流が激しくなり制御が困難になる場合がある。具体的な反応温度は、溶媒の種類にもよるが、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜180℃(例えば、105〜170℃)、通常110〜160℃程度であってもよい。
反応は、空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウムなどの希ガスなど)中で行ってもよく、通常不活性雰囲気下で行うことができる。また、反応は、常圧又は加圧下で行ってもよい。さらに、グラフト化は、攪拌しながら行ってもよい。
なお、反応は、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成や副反応を効率よく抑えるため、出来る限り水分が少ない状態で行ってもよい。例えば、反応(特に、開環重合反応)において、グルカン誘導体、ヒドロキシ酸成分、および溶媒の総量に対する水分含有量は、例えば、0.3重量%以下[0(又は検出限界)〜0.25重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.0001〜0.18重量%程度)、さらに好ましくは0.15重量%以下(例えば、0.0005〜0.12重量%程度)、特に0.1重量%以下(例えば、0.001〜0.05重量%程度)であってもよい。なお、縮合反応によりグラフト化する場合には、水よりも高沸点の溶媒を用い、共沸などを利用して生成する水を除去しつつ反応を行ってもよい。
グラフト重合反応において、反応時間は、特に制限されないが、例えば、10分〜24時間、好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜6時間程度であってもよい。
なお、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を保護する場合、保護は、前記反応(グラフト化)で得られた生成物を分離(及び精製)し、この分離(及び精製)したグラフト生成物と、前記保護基に対応する保護剤[例えば、酸ハライド、酸無水物などのアシル化剤、アルケニルアシレート(例えば、酢酸イソプロペニルなど)などのヒドロキシル基の保護剤;カルボジイミド化合物などのカルボキシル基の保護剤など]とを反応させて行ってもよく、前記グラフト化と同一の反応系で連続して行ってもよい。同一の反応系で行う場合、反応系の粘度を下げるため、必要に応じて、溶媒を添加してもよく、グラフト化において予め多量又は過剰量のヒドロキシ酸成分を使用し、この過剰量のヒドロキシ酸成分を溶媒として用いてもよい。
反応終了後(グラフト重合後、グラフト重合およびヒドロキシル基の保護後)の反応混合物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、中和、沈澱などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
なお、上記方法において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分をA1(モル)、生成した(詳細には副生成物として生成した)ヒドロキシ酸成分のホモポリマーを構成するヒドロキシ酸成分をA2(モル)とするとき、[A1/(A1+A2)]×100(%)で表されるグラフト効率は、20%以上(例えば、40〜100%程度)程度であり、70%以上(例えば、80〜100%)、好ましくは85%以上(例えば、88〜99.9%程度)、さらに好ましくは90%以上(例えば、93〜99.8%程度)、さらに好ましくは95%以上(例えば、96〜99.7%程度)にすることもできる。なお、グラフト効率が高いほど、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成が抑制されていることを意味する。
[成形体]
本発明の変性グルカン誘導体は、種々の成形体(特に光学用成形体)を形成するのに有用である。成形体(特に光学用成形体)の形態は、特に限定されず、二次元的成形体(フィルム、シート、塗膜(又は薄膜)など)、湾曲又は立体形状などの三次元的成形体などのいずれであってもよい。
特に、本発明のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、光学用途に用いるためのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体として(すなわち、光学用途に)好適に用いることができる。そして、本発明の変性グルカン誘導体は、高い耐熱性および光学的特性(配向複屈折性など)を有しているため、好適に光学フィルムを形成することができる。すなわち、本発明の光学フィルムは、前記変性グルカン誘導体(例えば、変性セルロースアシレート)で形成(又は構成)されている。
以下に、光学フィルムおよびその製造方法について詳述する。
本発明の光学フィルム(変性グルカン誘導体フィルム、単にフィルムということがある)は、置換度やアシル基の種類などに応じて、溶融製膜方法(押出成形法など)、溶液製膜方法(流延法)のいずれで製造してもよい。通常、溶液製膜方法により平面性に優れたフィルムを製造してもよい。
溶液製膜方法において、光学フィルムは、変性グルカン誘導体と有機溶媒とを含むドープ(又は有機溶媒溶液)を剥離性支持体に流延し、生成した膜を剥離性支持体から剥離して乾燥することにより製造できる。剥離性支持体は、通常、金属支持体(ステンレススチールなど)であってもよく、ドラム状やエンドレスベルト状であってもよい。支持体の表面は、通常、鏡面仕上げされ、平滑である場合が多い。
ドープを調製するための有機溶媒は、ハロゲン系有機溶媒(特に塩素系有機溶媒)であってもよく、非ハロゲン系有機溶媒(特に非塩素系有機溶媒)であってもよい。有機溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよく、例えば、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒とを組み合わせてもよい。ハロゲン系有機溶媒(特に塩素系有機溶媒)としては、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類(特に塩素化炭化水素類)などが挙げられる。非ハロゲン系有機溶媒(特に非塩素系有機溶媒)としては、例えば、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのジアルキルケトン類、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのC1−4アルカノール類)などが例示できる。
ドープには、種々の添加剤、例えば、可塑剤[リン酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、クエン酸エステルなど)、トリアセチンなど]、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤など)、滑剤(微粒子状滑剤)、難燃剤、離型剤などを添加してもよい。また、ドープには、レタデーション上昇剤(特開2001−139621号公報に記載のレタデーション上昇剤など)、剥離剤(特開2002−309009号公報に記載の剥離剤など)などを添加してもよい。
なお、ドープは、慣用の方法、例えば、高温溶解法、冷却溶解法などを利用して調製できる。ドープ中のセルロースエステル濃度は、10〜35重量%、好ましくは20〜30重量%(例えば、15〜25重量%)程度であってもよい。また、高品質フィルム(液晶表示装置用フィルムなど)を得るため、ドープはさらに濾過処理してもよい。
流延ダイなどを利用してドープを支持体上に流延し、乾燥することによりフィルムを製造できる。通常、ドープを支持体上に流延し、予備乾燥した後、有機溶媒を含む予備乾燥膜を乾燥することによりフィルムが製造される。
溶融製膜方法では、例えば、前記変性グルカン誘導体(および必要に応じて可塑剤などの他の成分)を押出機などで溶融混合し、ダイ(Tダイ、リングダイなど)から押出成形し、冷却することによりフィルムを製造してもよい。溶融混合温度は、例えば、120〜250℃程度の範囲から選択できる。
フィルムの厚みは用途に応じて選択でき、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜120μm程度であってもよい。
なお、フィルムには、延伸処理を施してもよい。本発明のフィルムは、グルカン誘導体がヒドロキシ酸成分により変性されているため、延伸性に優れている。そして、延伸処理により、フィルムを効率よく配向させて、光学的に異方性のフィルムを簡便に得ることができる。フィルムは、慣用の方法(ドロー、延伸など)、例えば、一軸又は二軸により配向させることができ、引き取りロールのドロー比を利用して配向させてもよく、チャックでフィルムの端部を掴んで延伸して配向させてもよい。延伸方法としては、熱延伸を好ましく用いることができ、例えば、溶液製膜方法では、乾燥後のフィルム又は溶媒を含む予備乾燥フィルムを延伸することにより配向させてもよい。また、溶融製膜方法では、押出機のダイから押し出されるフィルム状溶融物を引き取り、一軸方向に引き延ばしつつ冷却ロールなどの冷却手段により冷却してもよく、ダイから押し出されたフィルム状溶融物を冷却し、所定の温度で延伸してもよい。また、フィルムは、少なくとも一方の方向(縦又は引き取り方向MD、又は幅方向TD)に配向していればよく、交差又は直交する方向に配向していてもよい。また、延伸処理は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれであってもよい。
フィルムの配向度(延伸倍率)は、少なくとも一方の方向に1.05〜8倍、好ましくは1.1〜4倍、さらに好ましくは1.2〜3倍、特に1.4〜2倍程度であってもよい。また、二軸延伸フィルムでは、MD方向に1.1〜8倍(例えば、1.1〜5倍、好ましくは1.1〜2倍、さらに好ましくは1.2〜1.5倍)程度、TD方向に1.0〜4倍(例えば、1.0〜3倍、好ましくは1.0〜2倍、さらに好ましくは1.1〜1.5倍)程度であってもよい。
フィルム(未延伸フィルム)の延伸温度は、通常、変性グルカン誘導体のガラス転移温度以上の温度であって、融点未満の温度で選択できる。例えば、変性グルカン誘導体のガラス転移温度をA℃とするとき、延伸温度はA〜A+70℃、好ましくはA〜A+50℃、さらに好ましくはA+30℃程度であってもよい。
本発明では、幅広い範囲で所望のレタデーション値を有する光学フィルムを調製できる。例えば、本発明のフィルム(延伸フィルム又は未延伸フィルム)において、フィルム面内のレタデーション値Reおよびフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、それぞれ、−250nm〜+500nm(例えば、−200nm〜+400nm)、好ましくは−100nm〜+350nm、さらに好ましくは−50nm〜+300nm程度である。なお、面内のレタデーション値Reは、通常、フィルムの中央付近(又は中央部)の値であってもよい。
また、本発明のフィルムは、延伸処理により簡便に光学的特性を付与でき、例えば、延伸処理(一軸又は二軸延伸処理など、例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルム面内のレタデーション値Reは、0〜400nm(例えば、5〜350nm)、好ましくは10〜300nm、さらに好ましくは20〜300nm(例えば、25〜250nm)、特に30〜220nm(例えば、35〜200nm)程度であってもよい。また、延伸処理(一軸又は二軸延伸処理など、例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、−150nm〜+500nm(例えば、−100nm〜+450nm)、好ましくは−80nm〜+400nm、さらに好ましくは−60nm〜+350nm程度であってもよい。特に、延伸処理(一軸又は二軸延伸処理など、例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、−80nm〜+500nm(例えば、−60nm〜+450nm)、好ましくは−50nm〜+400nm、さらに好ましくは−45nm〜+350nm(例えば、−40nm〜+320nm)程度であってもよい。
なお、本発明では、特定の変性グルカン誘導体[例えば、平均置換度2.75以上(例えば、2.85〜2.95程度)のセルロースアセテートをグルカン誘導体とする変性グルカン誘導体]でフィルムを形成することにより、光学的に等方なフィルム[例えば、面内のリタデーション値Reが0〜10nm(例えば、0〜3nm程度)程度であり、かつ厚み方向のレタデーション値Rthが−10nm〜+10nm(例えば、−5nm〜+5nm程度)程度の光学フィルム]を調製することもできる。このような光学的等方性を有するフィルムは、通常、延伸処理されていないフィルム(未延伸フィルム)である場合が多い。
なお、フィルムのレタデーション値(面内のレタデーション値Re、厚み方向のレタデーション値Rth)は、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、および厚み方向の屈折率を測定し、これらの屈折率の値から、下記式で定義される式に基づいてそれぞれ算出できる。
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
なお、上記レタデーション値は、通常、可塑剤を含まないフィルムのレタデーション値であってもよい。
また、本発明の光学フィルムは、前記のように、変性グルカン誘導体のガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性が低いためか、成形温度(延伸温度)を精密に調整しなくても光学的特性を付与できる。すなわち、通常のグルカン誘導体やグルカン誘導体に乳酸又はラクチドを重合したグラフト重合体などでは、レタデーション値のような光学的特性は成形温度(延伸温度)に依存して敏感に変化しやすく、所望の光学的特性を得るためには精密な条件でフィルムを調製する必要があるが、本発明の光学フィルムは、比較的広い延伸温度範囲で延伸しても、光学的特性の変化が小さく、安定して所望の光学的特性を付与できる。
例えば、本発明の光学フィルムにおいて、同一の延伸倍率で、フィルム(未延伸フィルム)の延伸温度を所定の温度B〜B+20(℃)まで変化させたとき、(i)面内レタデーション値Reの最大値と最小値との差(ΔRe)、は、例えば、0〜20nm、好ましくは0.5〜15nm、さらに好ましくは1〜10nm(例えば、1〜8nm)程度であり、かつ(ii)厚み方向のレタデーション値Rthの最大値と最小値との差(ΔRth)、は、例えば、0〜35nm、好ましくは1〜30nm(例えば、1.5〜25nm)、さらに好ましくは2〜20nm(例えば、3〜15nm)、通常2.5〜10nm程度であり、20℃もの広い延伸温度範囲で延伸してもレタデーション値の変化が著しく小さい。なお、延伸温度(B〜B+20℃)は、前記のような温度範囲から適宜選択できる。
本発明の変性グルカン誘導体は、光学的特性(光学的等方性、光学的異方性など)に優れ、このような光学的特性は、グルカン誘導体の種類、グラフト割合、延伸倍率などを調整することにより簡便に制御でき、用途に応じて幅広い範囲の光学的特性を付与できる。また、本発明の変性グルカン誘導体は、乳酸やラクチドをグルカン誘導体にグラフトしたグラフト重合体に比べて、弾性などの機械的特性にも優れている。さらに、耐熱性に優れており、しかも、成形温度範囲が広く、幅広い成形温度で優れた光学的特性を簡便に付与できる。さらにまた、本発明の変性グルカン誘導体は、透明性および耐湿性に優れており、光学用途の成形体[例えば、液晶パネルなどの表示材料又は表示素子、レンズ(眼鏡用レンズ、コンタクトレンズなど)など]を形成するのに有用である。光学用途の成形体は、前記のように三次元的形態の成形体であってもよく、特に、フィルム状成形体に好適である。フィルム(光学フィルム)としては、付与する光学的特性に応じて、例えば、カラーフィルタ、写真感光材料の基材フィルム、表示装置用フィルム(例えば、液晶表示装置用光学補償フィルムなどの光学補償フィルム)、位相差フィルム、保護フィルム(偏光板用保護フィルムなど)、反射防止フィルムの基材フィルムなどとして利用できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例において、特に断りのない限り、「部」とは「重量部」を意味する。
なお、実施例において、各種特性は以下のようにして測定した。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度(Tg)は、高感度型示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製、「DSC6200」)を用い、JIS K7121の方法に従い、下記の条件で測定した。
サンプル重量:8.0mg
窒素ガス流入量:40ml/min.
加熱速度:20℃/min.
冷却速度:20℃/min.
測定開始温度:20℃
測定終了温度:210℃
なお、ガラス転移温度は、サンプルを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置して調湿し、同環境下で測定した。
(貯蔵弾性率の最大傾き)
実施例および比較例で得られた未延伸フィルムについて、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)、RSA−III)を用いて、昇温速度5℃/分および角周波数62.8rad/秒の条件下で、横軸を温度(単位:℃)、縦軸を変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E')(単位:MPa)とする貯蔵弾性率曲線を測定し、この貯蔵弾性率曲線において、貯蔵弾性率が10〜100MPaを示す範囲(ガラス〜ゴム遷移領域)の最大傾き(単位:MPa・℃−1)を求めた。なお、貯蔵弾性率は、未延伸フィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置して調湿し、同環境下で測定した。
(レタデーション値)
自動複屈折計(王子計測機器(株)製、「KOBRA−21ADH」)を用いて、23℃、50%RHの環境下で、波長590nmにおいて、得られたフィルム(延伸前のフィルム、延伸後のフィルム)の3次元屈折率測定を行い、遅相軸方向の屈折率nx、進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを求め、これらの値から、フィルムの面内のレタデーション値Re、およびフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthを、下記式で定義される式に基づいて算出した。なお、面内のレタデーション値Reは、フィルムの中央付近の値である。
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す)。
(屈折率)
実施例および比較例で得られたフィルム(未延伸フィルム)およびプレス片を、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、アッベ屈折計((株)アタゴ製、「2T」)を用い、JIS K7142に準じて、屈折率を測定した。
(ヘーズ)
実施例および比較例で得られたフィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7136に準じて、ヘーズを測定した。
(アッベ数)
実施例および比較例で得られたプレス片を、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、アッベ屈折計((株)アタゴ製、「2T」)を用い、アッベ数を測定した。
(全光線透過率)
実施例および比較例で得られたフィルム(未延伸フィルム)を、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7361−1に準じて、全光線透過率を測定した。
(引張弾性率および破断伸度)
実施例および比較例で得られたフィルム(未延伸フィルム)を、7号ダンベル試験片状に打ち抜き、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下でJIS K7113に準じて、引張弾性率および破断伸度を引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)を用いて求めた。
また、実施例で得られたフィルムの配向複屈折(レタデーション値)の温度依存性は以下のように評価した。
(配向複屈折の温度依存性)
○:同一の延伸倍率で、所定の延伸温度A℃およびA+20℃でそれぞれ延伸したフィルムの各レタデーション値の差が、ReおよびRthのいずれにおいても10nm未満
×:同一の延伸倍率で、所定の延伸温度A℃およびA+20℃で延伸したフィルムの各レタデーション値の差が、ReおよびRthのいずれにおいても10nm以上。
[実施例1]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、置換度2.41)80部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン20部、シクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.43、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.08、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は5.1であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、133.4℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−5.3MPa・℃−1であった。図1は、得られたグラフト体の温度(横軸)に対して貯蔵弾性率(縦軸)をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。なお、図において、左側の縦軸は貯蔵弾性率E’(Pa)、横軸は温度(℃)をそれぞれ示し、○の点をプロットした曲線は、貯蔵弾性率曲線を示す(以下の図においても同じ)。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置しドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度30℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で8分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム、未延伸フィルム)のReは11nmであり、Rthは160nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.4%、屈折率は1.48、ヘーズは0.6%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は3015MPa、破断伸びは6.9%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、145℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは184nmであり、Rthは134nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.3%、屈折率1.48、アッベ数は59であった。
[実施例2]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、置換度2.41)70部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30部、シクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.86、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.12、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は7.4であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、125.4℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−5.2MPa・℃−1であった。図2は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは11nmであり、Rthは130nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.4%、屈折率は1.48、ヘーズは0.7%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は2125MPa、破断伸びは18.5%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、135℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは153nmであり、Rthは137nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.5%、屈折率1.48、アッベ数は59であった。
[実施例3]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、置換度2.41)50部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン50部、ジイソプロピルケトン(DIPK)67部を加えて140℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、140℃で3時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は2.30、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.17、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は13.3であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、84.0℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−3.4MPa・℃−1であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置しドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度30℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で8分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、60℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは3nmであり、Rthは74nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.3%、屈折率は1.49、ヘーズは0.6%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は411MPa、破断伸びは47.3%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、95℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは74nmであり、Rthは95nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.4%、屈折率1.48、アッベ数は45であった。
[実施例4]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、NAC、置換度2.74)75部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン25部、シクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.54、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.11、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は4.9であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、140.5℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−9.3MPa・℃−1であった。図3は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは0nmであり、Rthは−24nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.2%、屈折率は1.48、ヘーズは0.8%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は1978MPa、破断伸びは6.8%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、150℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは41nmであり、Rthは38nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.2%、屈折率1.48、アッベ数は48であった。
[実施例5]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、NAC、置換度2.74)50部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン50部、シクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は1.66、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.17、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は10.1であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、103.1℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−4.9MPa・℃−1であった。図4は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは1nmであり、Rthは−58nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.1%、屈折率は1.48、ヘーズは0.7%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は1367MPa、破断伸びは24.6%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、115℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは69nmであり、Rthは89nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.2%、屈折率1.48、アッベ数は51であった。
[実施例6]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、LT―35、置換度2.90)70部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30部、シクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.68、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.05、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は13.6であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、154.4℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−9.5MPa・℃−1であった。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは0nmであり、Rthは−2nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.4%、屈折率は1.48、ヘーズは0.3%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は2850MPa、破断伸びは7.1%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、165℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは24nmであり、Rthは−23nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形しようとしたが、成形できなかった。
[実施例7]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、LM―80、置換度2.10)60部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン40部、シクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は1.29、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.34、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は3.9であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、104.3℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−6.6MPa・℃−1であった。図5は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは6nmであり、Rthは102nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.1%、屈折率は1.49、ヘーズは0.7%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は2160MPa、破断伸びは16.3%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、115℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは147nmであり、Rthは145nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.1%、屈折率1.48、アッベ数は51であった。
[比較例1]
(フィルムの作成)
グラフト体に代えて、酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、LT―35、置換度2.90、ガラス転移温度194.1℃、貯蔵弾性率の傾き=−15.9MPa・℃−1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。図6は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは4nmであり、Rthは80nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.5%、屈折率は1.47、ヘーズは0.6%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は4285MPa、破断伸びは4.5%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、180℃で幅方向に1.5倍延伸させたところ、フィルムが破断した。そのため、得られたフィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、180℃で幅方向に1.2倍延伸させた。延伸フィルムのReは4nmであり、Rthは70nmであり、Reはほとんど変化せず、光学的に一軸性のままであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形しようとしたが、成形できなかった。
[比較例2]
(フィルムの作成)
グラフト体に代えて、セルロースアセテートブチレート(関東化学(株)製、カタログNo.40425−1A、アセチル基の置換度1.06、ブチリル基の置換度1.66、ガラス転移温度139.0℃、貯蔵弾性率の傾き=−16.8MPa・℃−1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。図7は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは8nmであり、Rthは127nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.4%、屈折率は1.47、ヘーズは0.8%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は3965MPa、破断伸びは9.5%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、150℃で幅方向に1.5倍延伸させた。延伸フィルムのReは118nmであり、Rthは89nmであった。また、得られたフィルムを140℃で同様に1.5倍延伸させたところ、延伸フィルムのReは143nmであり、Rthは113nmであり、150℃で延伸した場合と比べて、レタデーション値が大きく変化(ΔRe=25nm、ΔRth=24nm)した。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.3%、屈折率1.47、アッベ数は44であった。
[比較例3]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、NAC、置換度2.74)20部、L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製)80部を加え、65℃、24時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、140℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にオクタン酸スズ0.10部を添加し、140℃で1時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、L−ラクチドの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、L−ラクチドがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−ラクチドグラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトした乳酸単位(乳酸ユニット)の平均モル数(MS)は14.1、グラフト鎖(グラフトしたL−ラクチド鎖)の平均置換度(DS)は0.23、グラフト鎖の乳酸単位の平均重合度(DPn)は60.5であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、65.0℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−8.6MPa・℃−1であった。図8は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置しドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度30℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で8分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、45℃の温風乾燥機で120分間乾燥させて膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは1nmであり、Rthは4nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.3%、屈折率は1.49、ヘーズは1.5%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は3785MPa、破断伸びは5.8%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、75℃で幅方向に1.3倍延伸させた。延伸フィルムのReは34nmであり、Rthは−15nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.2%、屈折率1.49、アッベ数は41であった。
[比較例4]
(グラフト体の合成)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、置換度2.41)70部、L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製)30部を加え、65℃、12時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、L−ラクチドの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、L−ラクチドがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−ラクチドグラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトした乳酸単位(乳酸ユニット)の平均モル数(MS)は0.85、グラフト鎖(グラフトしたL−ラクチド鎖)の平均置換度(DS)は0.22、グラフト鎖の乳酸単位の平均重合度(DPn)は3.9であった。また、得られたグラフト体のガラス転移温度は、155.9℃であった。さらに、得られたグラフト体の貯蔵弾性率の傾きは、−16.2MPa・℃−1であった。図9は、得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。
(フィルムの作成)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置しドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度30℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で8分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルム(延伸前フィルム)のReは4nmであり、Rthは173nmであった。また、得られたフィルムの全光線透過率は93.5%、屈折率は1.47、ヘーズは0.5%であった。さらに、得られたフィルムの引張弾性率は3656MPa、破断伸びは6.7%であった。
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、165℃で幅方向に1.3倍延伸させた。延伸フィルムのReは135nmであり、Rthは287nmであった。
さらに、得られたグラフト体をホットプレス機に供給し、プレス温度210℃、プレス圧力10MPa、冷却温度15℃、プレス時間および冷却時間をいずれも3分とするプレス条件下で、幅5.0cm×長さ5.0cm×厚み1.0mmのプレス片を成形し、全光線透過率、屈折率およびアッベ数を測定した。得られたプレス片の全光線透過率は92.6%、屈折率1.47、アッベ数は58であった。
得られた結果を表1〜4に示す。なお、表1および表3において、「CA」は酢酸セルロース、「CL」はε−カプロラクトン、「LA」はL−ラクチド、「Tg」はガラス転移温度を示す。
Figure 2007327025
Figure 2007327025
Figure 2007327025
Figure 2007327025
図1は、実施例1で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図2は、実施例2で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図3は、実施例4で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図4は、実施例5で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図5は、実施例7で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図6は、比較例1で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図7は、比較例2で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図8は、比較例3で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。 図9は、比較例4で得られたグラフト体の温度に対して貯蔵弾性率をプロットした貯蔵弾性率曲線を示すグラフである。

Claims (12)

  1. 光学用途に用いるためのヒドロキシ酸変性グルカン誘導体であって、グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ラクトン成分で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されている光学用ラクトン変性グルカン誘導体。
  2. グルカン誘導体が、セルロースアシレートである請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  3. グルカン誘導体が、アセチル基の平均置換度1.5〜2.95のセルロースアセテートである請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  4. グルカン誘導体が、アシル基の平均置換度2.3以上のセルロースC2−4アシレートである請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  5. ヒドロキシ酸成分がC4−10ラクトンで構成されている請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  6. グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合が、グルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で平均0.1〜5モルである請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  7. グラフト鎖の平均重合度がヒドロキシ酸換算で1〜20である請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  8. グルカン誘導体が平均置換度2〜2.95のセルロースC2−4アシレートであり、ヒドロキシ酸成分がC4−10ラクトンであり、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合がグルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して平均0.2〜4モルである請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  9. 横軸を温度、縦軸を変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E')とする貯蔵弾性率曲線において、貯蔵弾性率が10〜100MPaを示す範囲での最大傾きが、−12〜−1MPa・℃−1である請求項1記載の変性グルカン誘導体。
  10. グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ラクトン成分で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されているラクトン変性グルカン誘導体であって、横軸を温度、縦軸を変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E')とする貯蔵弾性率曲線において、貯蔵弾性率が10〜100MPaを示す範囲での最大傾きが、−12〜−1MPa・℃−1である変性グルカン誘導体。
  11. 請求項1記載の変性グルカン誘導体で形成された光学用成形体。
  12. 光学フィルムである請求項11記載の光学用成形体。
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CN102924696A (zh) * 2012-11-27 2013-02-13 江南大学 一种乙酰化稻草纤维接枝ε-己内酯的改性方法

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