本発明の光学フィルムは、グルカン誘導体と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基に、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されているヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で形成されている。そして、このような本発明の光学フィルム(又は本発明の光学フィルムを構成するヒドロキシ酸変性グルカン誘導体)は、後述するように、光学的特性の耐熱安定性に優れるなどの種々の優れた特性を有している。
[変性グルカン誘導体]
本発明の光学フィルムを構成するヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、前記のように、グルカン誘導体(グルカン誘導体骨格)と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されている。
(グルカン誘導体)
グルカン誘導体としては、ヒドロキシ酸成分がグラフト重合するためのヒドロキシル基を有している限り特に限定されないが、通常、グルカンのグルコース単位のヒドロキシル基の一部が誘導体化(エーテル化、エステル化など)されたグルカン誘導体であってもよい。すなわち、前記グルカン誘導体は、グルカンのグルコース単位(又はグルコース骨格)に含まれるヒドロキシル基(グルコース単位の2,3および6位に位置するヒドロキシル基)に、アシル基などが置換(結合)して誘導体化されたグルカン誘導体であって、前記ヒドロキシル基の一部が残存したグルカン誘導体である場合が多い。ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
グルカンとしては、特に限定されず、例えば、β−1,4−グルカン、α−1,4−グルカン、β−1,3−グルカン、α−1,6−グルカンなどが挙げられる。代表的なグルカンとしては、例えば、セルロース、アミロース、デンプン、レンチナン、デキストランなどの多糖類が挙げられる。これらのグルカンのうち、産業的な観点から、セルロース、デンプン(又はアミロース)が好ましく、特に、セルロースが好ましい。グルカンは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
具体的なグルカン誘導体としては、例えば、エーテル化されたグルカン、エステル化されたグルカンなどが挙げられる。以下に、代表的なグルカン誘導体として、セルロース誘導体について詳述する。
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル[例えば、アルキルセルロース(例えば、C1−4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、シアノアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロースなど)など]、セルロースエステル(セルロースアシレート;硝酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの無機酸及び有機酸の混酸セルロースエステルなど)などが挙げられる。
好ましいセルロース誘導体には、アシルセルロース(又はセルロースアシレート)が含まれる。セルロースアシレートは、光学的特性に優れており、光学用途の変性グルカン誘導体に好適である。セルロースアシレートにおいて、アシル基としては、用途に応じて適宜選択でき、例えば、アルキルカルボニル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのC2−10アルキルカルボニル基(例えば、C2−8アルキルカルボニル基、好ましくはC2−6アルキルカルボニル基、さらに好ましくはC2−4アルキルカルボニル基)など]、シクロアルキルカルボニル基(例えば、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキルカルボニル基など)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、カルボキシベンゾイル基などのC7−12アリールカルボニル基など)などが挙げられる。アシル基は、単独で又は2種以上組み合わせてセルロースのグルコース単位に結合していてもよい。これらのアシル基のうち、アルキルカルボニル基が好ましい。特に、これらのアシル基のうち、少なくともアセチル基がグルコース単位に結合しているのが好ましく、例えば、アセチル基のみが結合していてもよく、アセチル基と他のアシル基(C3−4アシル基など)とが結合していてもよい。
代表的なセルロースアシレートとしては、セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−6アシレート、好ましくはセルロースC2−4アシレートなどが挙げられ、特にセルロースアセテート(特に、セルロースジアセテート又はセルローストリアセテート)が好ましい。
グルカン誘導体(特に、セルロースアセテートなどのセルロースアシレート)において、平均置換度(例えば、アシル基などの平均置換度、詳細にはグルコース単位の2,3および6位における誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数)は、0.5〜2.999(例えば、0.7〜2.99)の範囲から選択でき、例えば、0.9〜2.98(例えば、1.2〜2.97)、好ましくは1.5〜2.96(例えば、1.5〜2.95)、さらに好ましくは1.7以上(例えば、1.8〜2.95、好ましくは1.9〜2.93)]、特に2.25以上[例えば、2.3以上(例えば、2.3〜2.95)、好ましくは2.35〜2.93(例えば、2.38〜2.88)、さらに好ましくは2.4以上(例えば、2.5〜2.85)]であってもよく、通常2〜2.95(例えば、2.05〜2.92)であってもよい。なお、用途などに応じて、平均置換度が2.81以下(例えば、2〜2.8、好ましくは2.25〜2.75、さらに好ましくは2.35〜2.7、特に2.4〜2.65程度)のグルカン誘導体を好適に使用してもよい。
比較的高い置換度[例えば、平均置換度2.25以上(例えば、2.3以上、好ましくは2.4以上)]を有するグルカン誘導体を用いると、耐湿性や光学的特性の点で有利である。なお、ヒドロキシ酸成分がα−ヒドロキシ酸成分[α−ヒドロキシ酸及び環状ジエステルから選択された少なくとも1種(例えば、乳酸及び/又はラクチド)]で構成されている場合、アシル基などの平均置換度は、特に、2.6以下[例えば、1.5〜2.55、好ましくは2.5未満(例えば、1.7〜2.49)、さらに好ましくは1.8〜2.48、通常1.9〜2.46(例えば、2〜2.45)程度]であってもよい。このような平均置換度のグルカン誘導体を用いると、ヒドロキシ酸成分をα−ヒドロキシ酸成分で構成しても、グラフトによりグルカン誘導体を可塑化しやすい。
また、グルカン誘導体として、比較的高い平均置換度、例えば、平均置換度2.7以上(例えば、2.72〜2.999)、好ましくは2.75以上(例えば、2.78〜2.995)、さらに好ましくは2.8以上(例えば、2.83〜2.99)、特に2.85以上(例えば、2.87〜2.97)、通常2.88〜2.95(例えば、2.89〜2.93)程度のグルカン誘導体(特にセルロースアセテートなどのセルロースアシレート)を使用してもよい。このような高い平均置換度を有するグルカン誘導体(特にセルロースアセテート、すなわちセルローストリアセテート)は、レタデーション値が著しく小さいフィルム(光学的等方性を有するフィルム)を得るのに有用である。
グルカン誘導体(又はグルカン)の重合度は、変性グルカン誘導体を所望の目的に使用できれば特に制限はなく、現在工業的に入手可能な市販品と同程度であれば好適に使用可能である。例えば、グルカン誘導体の平均重合度(粘度平均重合度)は、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
なお、グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)は、市販の化合物(例えば、セルロースアセテートなど)を使用してもよく、慣用の方法により合成してもよい。例えば、セルロースアシレートは、通常、セルロースをアシル基に対応する有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物)によりトリアシルエステル(特に、セルローストリアセテート)を調製し、過剰量のアシル化剤(特に、無水酢酸などの酸無水物)を不活性化し、脱アシル化又はケン化(加水分解又は熟成)によりアシル化度を調整することにより製造できる。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2−6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。
なお、一般的なセルロースアシレートの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。また、他のグルカン(例えば、デンプンなど)についても、セルロースアシレートの場合と同様の方法でアシル化(および脱アシル化)できる。
グラフト鎖は、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合(又は反応)して形成されている。すなわち、変性グルカン誘導体では、グルカンのグルコース単位のヒドロキシル基を介して、誘導体化された基(アシル基など)およびヒドロキシ酸成分のグラフト鎖が結合している。なお、後述するように、変性グルカン誘導体は、誘導体化(アシル化、グラフト化など)されることなく残存したヒドロキシル基(未置換のヒドロキシル基)を有していてもよい。
(ヒドロキシ酸成分)
ヒドロキシ酸成分としては、ヒドロキシ酸、環状エステルなどが挙げられる。これらのヒドロキシ酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。本発明では、環状エステル、特にラクトンを好適に用いることができる。
ヒドロキシ酸(オキシカルボン酸)としては、脂肪族オキシカルボン酸、例えば、グリコール酸、乳酸(L−乳酸、D−乳酸、これらの混合物など)、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、6−ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸(好ましくはα−ヒドロキシC2−6アルカンカルボン酸、さらに好ましくはα−ヒドロキシC2−4アルカンカルボン酸)などが例示できる。なお、ヒドロキシ酸は、低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)化されていてもよい。これらのヒドロキシ酸のうち、特に、α−ヒドロキシ酸[特に、乳酸(L−乳酸、D―乳酸、又はこれらの混合物)]が好ましい。ヒドロキシ酸は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
環状エステルとしては、分子内に少なくとも1つのエステル基(−COO−)を有し、かつ、グルカン誘導体に対してグラフト可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、ラクトン(又は環状モノエステル、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなどのC3−20ラクトン、好ましくはC4−15ラクトン、さらに好ましくはC4−10ラクトン)、環状ジエステル(例えば、グリコリド、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド又はこれらの混合物)などのC4−15環状ジエステル、好ましくはC4−10環状ジエステルなど)などが挙げられる。
これらヒドロキシ酸成分は、耐湿性や後述する種々の特性を付与しやすい点で、少なくともラクトンで構成されているのが好ましく、例えば、ラクトン[例えば、C4−10ラクトン(例えば、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC5−8ラクトン)など]単独で構成してもよく、ラクトン(C4−10ラクトンなど)と環状ジエステル[例えば、C4−10環状ジエステル(ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)など)など]とで構成してもよい。特に、ヒドロキシ酸成分(又は環状エステル)は、ラクトン単独で構成してもよい。
ヒドロキシ酸又は環状エステルは、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせてもよい。環状エステルを2種以上組み合わせる場合、ラクトンを組み合わせてもよく、環状ジエステルを組み合わせてもよく、ラクトンと環状ジエステルとを組み合わせてもよい。代表的な組合せとしては、例えば、ラクトン(ε−カプロラクトンなど)とラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)の組み合わせなどが例示できる。
(グラフト鎖)
グラフト鎖の平均重合度(又はグラフト鎖を構成するヒドロキシ酸成分のヒドロキシ酸換算での平均付加モル数)は、後述の特性を光学フィルム(又は変性グルカン誘導体)に付与できる限り特に限定されないが、通常、ヒドロキシ酸換算(例えば、ε−カプロラクトンではヒドロキシヘキサン酸換算、ラクチドでは乳酸換算など)で、例えば、1〜50、好ましくは1.5〜30(例えば、1.8〜25)、さらに好ましくは2〜20(例えば、2.5〜18)、特に3〜16(例えば、4〜15)程度であってもよい。
特に、グラフト鎖の平均重合度は、グルカン誘導体のアシル基の平均置換度に応じて選択することもできる。例えば、(i)アシル基の平均置換度が2.85以下(例えば、2.3〜2.84、好ましくは2.35〜2.83、さらに好ましくは2.4〜2.82程度)のセルロースアシレートにおいて、グラフト鎖の平均重合度は、ヒドロキシ酸換算で、例えば、1〜12(例えば、1.3〜11)、好ましくは1.5〜10(例えば、1.8〜9)、さらに好ましくは2〜8(例えば、2.5〜7.5程度)であってもよく、(ii)アシル基の平均置換度が2.85よりも大きい(例えば、2.86〜2.99、好ましくは2.87〜2.97、さらに好ましくは2.88〜2.95程度)のセルロースアシレートにおいて、グラフト鎖の平均重合度は、ヒドロキシ酸換算で、例えば、3〜50(例えば、4〜40)、好ましくは5〜30(例えば、6〜25)、さらに好ましくは8〜20(例えば、10〜18程度)であってもよい。なお、グラフト鎖の平均重合度が大きいと、グラフト鎖自体が結晶性を発現し、フィルムの白濁や濁りの原因となる虞がある。
なお、グラフト鎖が、少なくともα−ヒドロキシ酸成分[例えば、α−ヒドロキシ酸及び/又は環状ジエステル(例えば、乳酸およびラクチドから選択された少なくとも1種)]で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖である場合、グラフト鎖の平均重合度は、ヒドロキシ酸換算で、例えば、1〜13、好ましくは1.5〜12(例えば、2〜12)、さらに好ましくは2.5〜11(例えば、3〜10)程度であってもよい。グラフト鎖の重合度を上記のような範囲に調整すると、グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)の優れた特性を損なうことなく、高い耐熱性を効率よく変性グルカン誘導体に付与できる。
また、グラフト鎖の平均分子量(例えば、数平均分子量)は、例えば、80〜10000、好ましくは100〜5000(例えば、150〜3000)、さらに好ましくは200〜2000、特に300〜1500程度、通常1000未満(例えば、350〜900程度)であってもよい。特に、グラフト鎖が、少なくともα−ヒドロキシ酸及び/又は環状ジエステル(例えば、乳酸およびラクチドから選択された少なくとも1種)で構成されたヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖(例えば、ポリ乳酸又はポリラクチドなど)である場合、グラフト鎖の平均分子量(例えば、数平均分子量)は、例えば、1000未満(例えば、80〜950程度)、好ましくは900以下(例えば、150〜870程度)、さらに好ましくは850以下(例えば、200〜830程度)、特に800以下(例えば、250〜780程度)、通常750以下(例えば、300〜700程度)であってもよい。
なお、グラフト鎖(特にラクチドなどのα−ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖)の重合度や分子量が大きくなると、グラフト鎖部分が結晶性を有し、変性グルカン誘導体に、ガラス転移温度以上の熱履歴が作用すると、結晶化により白化やヘーズの悪化が生じやすくなる。このため、光学用途などの用途に応じて、グラフト鎖の重合度や分子量を比較的小さくしてもよい[例えば、平均重合度で20以下、平均分子量で2000以下(特に、α−ヒドロキシ酸成分では平均分子量で1000未満)としてもよい]。
変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合は、グルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均0.01〜10モル(例えば、0.05〜8モル)の範囲から選択でき、通常0.1〜5モル(例えば、0.15〜4モル)、好ましくは0.2〜3モル(例えば、0.25〜2モル)、さらに好ましくは0.3〜1.8モル(例えば、0.35〜1.5モル)、特に0.4〜1.2モル(例えば、0.5〜1モル)程度であってもよく、通常0.3〜1.6モルであってもよい。このようなグラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合が小さいと、十分な靱性をフィルムに付与できなくなり、大きいとガラス転移温度が低下し、耐熱性、さらには光学的特性の耐熱安定性が低下する虞がある。上記のような適度な割合(例えば、グルカン誘導体を構成するグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均0.3〜1.6モル(例えば、0.4〜1.2モル)程度)とすることにより、靱性、耐熱性、耐熱安定性などの特性に優れたバランスよいフィルムを効率よく得ることができる。
なお、前記ヒドロキシ酸成分の割合(モル)とは、グラフト鎖の重合度が、1であるか又は1より大きいか否かにかかわらず、セルロースアシレートのグルコース単位全体に付加(又はグラフト)したヒドロキシ酸成分の平均付加モル数を示す。このような比較的少ない割合でヒドロキシ酸成分をグラフト化させると、グルカン誘導体(例えば、セルロースアシレート)の耐熱性を大きく低下させることなく保持しつつ、グルカン誘導体を効率よく変性できる。そして、このようなグラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合(さらには前記グラフト鎖の平均分子量、グルカン誘導体の平均置換度などとの組み合わせ)を調整することにより、光学的特性の耐熱安定性や耐湿安定性に優れた光学フィルムを効率よく得ることができる。
変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均置換度(すなわち、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖の平均置換度、ヒドロキシ酸成分でグラフト置換されたヒドロキシル基の平均置換度、グルコース単位の2,3および6位におけるグラフト重合により誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数)は、例えば、0.01〜2(例えば、0.015〜1.5)、好ましくは0.02〜1(例えば、0.025〜0.8)、さらに好ましくは0.03〜0.7(例えば、0.035〜0.6)、特に0.04〜0.5(例えば、0.045〜0.4)程度であってもよい。
特に、グラフト鎖の平均置換度は、グルカン誘導体のアシル基の平均置換度に応じて選択することもできる。例えば、アシル基の平均置換度が2.85以下(例えば、2.3〜2.84、好ましくは2.35〜2.83、さらに好ましくは2.4〜2.82程度)のセルロースアシレートにおいて、グラフト鎖の平均置換度は、例えば、0.01〜0.15、好ましくは0.02〜0.13、さらに好ましくは0.03〜0.12程度であってもよい。
なお、ヒドロキシ酸成分をラクトン成分(例えば、ラクトン)とα−ヒドロキシ酸成分[例えば、乳酸、環状ジエステル(ラクチドなど)など]とで構成する場合、変性グルカン誘導体において、グラフト重合したラクトン成分とグラフト重合したα−ヒドロキシ酸成分との割合は、ヒドロキシ酸換算で、前者/後者(モル比)=99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95(例えば、90/10〜10/90)、さらに好ましくは80/20〜20/80(例えば、75/25〜25/75)程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体において、グラフト鎖以外の誘導体化されたヒドロキシル基(例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)とグラフト鎖の平均置換度(モル数)との割合は、前者/後者=40/60〜99.9/0.1(例えば、50/50〜99.5/0.5)、好ましくは70/30〜99/1(例えば、75/25〜98.5/1.5)、さらに好ましくは80/20〜98/2(例えば、85/15〜97.5/2.5)程度であってもよい。特に、アシル基などの誘導体化されたヒドロキシル基の平均置換度が比較的大きい場合、誘導体化されたヒドロキシル基の平均置換度とグラフト鎖の平均置換度との割合は、前者/後者=88/12〜99.9/0.1(例えば、90/10〜99.7/0.3)、好ましくは93/7〜99.5/0.5(例えば、95/5〜99.2/0.8)、さらに好ましくは96/4〜99/1(例えば、97/3〜98.8/1.2)程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体において、ヒドロキシル基(残存ヒドロキシル基)の割合(又はグルコース単位1モルに対して、誘導体化又はグラフト化されることなく残存したヒドロキシル基の割合)は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0〜1.2モルの範囲から選択でき、例えば、0.01〜1モル、好ましくは0.02〜0.8モル、好ましくは0.03〜0.7モル、さらに好ましくは0.04〜0.6モル、通常0.045〜0.55モル(例えば、0.05〜0.5モル)程度であってもよい。特に、アシル基などの誘導体化されたヒドロキシル基の平均置換度が比較的大きい場合、ヒドロキシル基の割合は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0〜0.3モル、好ましくは0.01〜0.2モル、さらに好ましくは0.02〜0.1モル、特に0.03〜0.08モル程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体のグルコース単位において、誘導体化されたヒドロキシル基(アシル基など)およびグラフト鎖の総量と、ヒドロキシル基(残存したヒドロキシル基)との割合は、前者/後者(モル比)=2.995/0.005〜2/1(例えば、2.99/0.01〜2.2/0.8)、好ましくは2.985/0.015〜2.3/0.7(例えば、2.98/0.02〜2.4/0.6)、さらに好ましくは2.975/0.025〜2.45/0.55(例えば、2.97/0.03〜2.5/0.5)程度であってもよい。
上記のように、グルコース単位に(さらには、後述するように、グラフト鎖に)、ヒドロキシ基が残存している変性グルカン誘導体は、耐熱性や光学的特性(レタデーション値、固有複屈折など)をコントロールしやすい。例えば、このような変性グルカン誘導体では、レターデーション値が大きいフィルムであっても、簡便に得ることができる。
なお、変性グルカン誘導体において、誘導体化された基(アシル基など)やグラフト鎖の置換度、ヒドロキシル基濃度、グラフト鎖の重合度(分子量)などは、慣用の方法、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)(1H−NMR、13C−NMRなど)などを用いて測定できる。
なお、変性グルカン誘導体は、通常、ヒドロキシル基を有していてもよい。このようなヒドロキシル基には、グラフト鎖の末端のヒドロキシル基、グルコース単位に残存したヒドロキシル基などが挙げられる。このようなヒドロキシル基は、変性グラフト誘導体の吸湿性を抑制又は調整するなどの目的により、必要に応じて保護基により保護してもよい。
保護基としては、ヒドロキシル基を保護可能な非反応性基であれば特に限定されず、例えば、アルキル基[例えば、メチル基、エチル基、2−シクロヘキシル−2−プロピル基、ヘキシル基、クロロメチル基などの置換基(ハロゲン原子など)を有していてもよいC1−12アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)など]、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などの置換基を有していてもよいC5−8シクロアルキル基)、芳香族炭化水素基(フェニル基などのC6−12アリール基、ベンジル基などのアラルキル基など)、架橋環式炭化水素基(アダマンチル基など)などの炭化水素基;オキサシクロアルキル基(例えば、5〜8員オキサシクロアルキル基);アルコキシアルキル基(例えば、C1−6アルコキシ−C1−6アルキル基)などのアセタール系保護基;アルキルカルボニル基(アセチル、プロピオニルなどのC1−10アルキルカルボニル基)、シクロアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基などのアシル基などが挙げられる。
保護基は、単独で又は2種以上組み合わせて、ヒドロキシル基を保護してもよい。
保護基によりヒドロキシル基が保護された変性グルカン誘導体において、保護基の割合(又はグラフト鎖のヒドロキシ基の保護割合)は、グラフト鎖1モルに対して、0.7〜1モルの範囲から選択でき、例えば、0.9〜1モル、好ましくは0.95〜0.999モル程度であってもよい。
また、変性グルカン誘導体は、わずかであるが、カルボキシル基を有している場合がある。このようなカルボキシル基もまた、前記ヒドロキシル基と同様に保護(又は封止)されていてもよい。
なお、変性グルカン誘導体は、保護基により保護されていないものを好適に用いてもよい。
前記変性グルカン誘導体において、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の含有割合は、変性グルカン誘導体全体に対して、20重量%以下(例えば、0.01〜15重量%程度)の範囲から選択でき、例えば、10重量%以下(例えば、0.05〜9重量%程度)、好ましくは8重量%以下(例えば、0.1〜7重量%程度)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜4.5重量%、特に0.1〜3重量%程度)であってもよい。このようにヒドロキシ酸成分の遊離の単独重合体の含有量が少ない変性グルカン誘導体を用いると、光学フィルムの光学的特性(透明性など)を向上しやすい。
また、変性グルカン誘導体の酸価は、通常、20mgKOH/g以下(例えば、0〜18mgKOH/g程度)、好ましくは15mgKOH/g以下(例えば、0.1〜12mgKOH/g程度)、さらに好ましくは10mgKOH/g以下(例えば、0.3〜9mgKOH/g程度)、特に8mgKOH/g以下(例えば、0.5〜7mgKOH/g程度)である。特に、変性グルカン誘導体の酸価は、0.2〜10mgKOH/g(例えば、0.4〜8mgKOH/g)、好ましくは0.5〜5mgKOH/g(例えば、0.5〜3mgKOH/g)さらに好ましくは0.1〜2mgKOH/g程度である。酸価が小さな変性グルカン誘導体は、耐加水分解性に優れている。酸価は、前記ヒドロキシ酸成分の単独重合体および未反応のヒドロキシ酸成分の含有量などを低減することにより小さくすることができる。酸価は、JISK0070(1992年発行)に準拠し、フェノールフタレインを指示薬とした中和滴定法などによって測定できる。
本発明の光学フィルム(又は光学フィルムを構成する変性グルカン誘導体)は、ヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖を有しているにもかかわらず、比較的耐熱性が高い。例えば、前記変性グルカン誘導体のガラス転移温度は、70℃以上(例えば、73〜220℃程度)であればよく、例えば、75〜200℃(例えば、78〜190℃)、好ましくは80℃以上[例えば、80〜180℃(例えば、82〜170℃)]、さらに好ましくは85〜160℃程度であってもよく、通常90〜155℃(例えば、95〜150℃)程度であってもよい。
なお、変性グルカン誘導体の耐熱性は、例えば、ヒドロキシ酸成分のグラフト割合、グラフト鎖の重合度、グルカン誘導体の種類(置換度、アシル基などの置換基の種類など)などを調整することにより調整できる。通常、グルカン誘導体が同一である場合、グルカン誘導体に付加させるヒドロキシ酸成分の量やグラフト鎖の重合度を大きくするほど、ガラス転移温度は低下するようである。
さらに、前記変性グルカン誘導体は、特にグラフト鎖がラクトン成分(例えば、ラクトン)由来のグラフト鎖(例えば、ポリカプロラクトン鎖など)である場合、通常のグルカン誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど)などに比べて、ガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性(貯蔵弾性率の変化)が比較的小さいという特性を有している。そのため、前記変性グルカン誘導体は、成形温度(延伸温度など)に対して光学的特性が敏感に変化することがなく、安定して所望の特性[例えば、光学的特性(例えば、所望のレタデーション値)]を付与できる。
また、前記変性グルカン誘導体は、耐湿性に優れ、例えば、変性グルカン誘導体の吸水率は、8%以下(例えば、0〜7.5%程度)であり、5%以下(例えば、0.1〜4%程度)、好ましくは3%以下(例えば、0.2〜2.7%程度)、さらに好ましくは2.5%以下(例えば、0.3〜2.2%程度)、特に2%以下(例えば、0.5〜1.8%程度)にすることもできる。
(変性グルカン誘導体の製造方法)
前記変性グルカン誘導体は、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応(開環重合反応又は縮合反応)させることにより得ることができる。すなわち、グルカン誘導体にヒドロキシ酸成分をグラフト重合することにより変性グルカン誘導体を調製できる。なお、グラフト反応(グラフト重合反応)は、ヒドロキシ酸成分として環状エステル(例えば、ラクトン、ラクチドなどの環状ジエステル)を用いるときには、環状エステルの開環を伴う開環反応(開環重合反応、開環グラフト化反応)であり、ヒドロキシ酸(乳酸、ヒドロキシヘキサン酸など)を用いるときには縮合反応(縮合グラフト化反応)である。本発明では、通常、環状エステル(特に少なくともラクトンで構成された環状エステル)を用いた開環グラフト化反応を好適に利用できる。
なお、グラフト重合(特に、環状エステルを用いた開環重合反応)に使用するグルカン誘導体およびヒドロキシ酸成分の水分含有量は、できるだけ少ない方が好ましく、それぞれ、全体に対して0.5重量%以下[0(又は検出限界)〜0.3重量%程度]、好ましくは0.1重量%以下(例えば、0.0001〜0.05重量%程度)、さらに好ましくは0.01重量%以下(例えば、0.0003〜0.005重量%程度)であってもよい。なお、水分含有量は、慣用の方法、例えば、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)に対する接触などにより低減できる。
反応(グラフト重合)において、ヒドロキシ酸成分の割合(使用割合)は、特に制限されず、グルカン誘導体100重量部に対して、例えば、1〜300重量部(例えば、5〜250重量部)、好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは15〜150重量部(例えば、20〜130重量部)、通常120重量部以下(例えば、20〜110重量部、好ましくは30〜100重量部、さらに好ましくは35〜90重量部)程度であってもよい。
反応(又はグラフト重合)は、ヒドロキシ酸成分の種類(例えば、環状エステル)にもよるが、慣用の触媒[例えば、有機酸類、無機酸類、金属(アルカリ金属、マグネシウム、亜鉛、スズ、アルミニウムなど)、金属化合物[スズ化合物(ジブチルチンラウレート、塩化スズ)、有機アルカリ金属化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物(チタンアルコキシドなど)、有機ジルコニウム化合物など]など]の存在下で行ってもよい。触媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
特に、触媒(グラフト重合触媒)としてヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)のグラフト重合(特に、環状エステルを用いた開環重合反応)の触媒となる化合物であって、かつ、単独で重合を開始しない金属錯体(又は金属化合物)を使用してもよい。このような触媒(及び後述の特定溶媒)を使用することにより、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成を著しく抑制でき、高効率でグラフト重合体(変性グルカン誘導体)を得ることができる。また、このような触媒(および後述の特定溶媒)を用いると、前記特許文献1の方法において見られるようなアシル基の置換度の低下を生じることがなく、グラフト重合後の生成物(すなわち、変性グルカン誘導体)において、原料としてのグルカン誘導体のアシル置換度を反映でき、所望のアシル置換度(およびグラフト鎖置換度)を有する変性グルカン誘導体を効率よく得ることができる。
前記重合を開始しない金属錯体(金属化合物)は、中心金属とこの中心金属に配位する配位子とで構成されており、前記金属錯体を構成する具体的な配位子(又はヒドロキシ酸成分に対する重合活性を示さない配位子又はヒドロキシ酸成分に対して不活性な配位子)としては、例えば、一酸化炭素、ハロゲン原子(塩素原子など)、酸素原子、炭化水素[例えば、アルカン(C1−20アルカンなど)、シクロアルカン、アレーン(ベンゼン、トルエンなど)など]、β−ジケトン(アセチルアセトンなどのβ−C5−10ジケトンなど)、カルボン酸[例えば、アルカン酸(酢酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸などのC1−20アルカン酸)などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸など]、炭酸、ホウ酸などに対応する配位子(例えば、ハロ、アルキル、アシルアセトナト、アシル)などが挙げられる。これらの配位子は、単独で又は2種以上組み合わせて中心金属に配位していてもよい。
代表的なグラフト重合触媒としては、アルコキシ基(及びヒドロキシル基)及び/又はアミノ基(第3級アミノ基以外のアミノ基)を配位子として有しない金属錯体、例えば、アルカリ金属化合物(炭酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、炭酸アルカリ土類金属塩、酢酸カルシウムなどのカルボン酸アルカリ土類金属塩)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛、アセチルアセトネート亜鉛など)、アルミニウム化合物(例えば、トリアルキルアルミニウム)、ゲルマニウム化合物(例えば、酸化ゲルマニウムなど)、スズ化合物[例えば、スズカルボキシレート(例えば、オクチル酸スズ(オクチル酸第一スズなど)などのスズC2−18アルカンカルボキシレート、好ましくはスズC4−14アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、モノブチルスズトリオクチレートなどのモノ又はジC1−12アルキルスズC2−18アルカンカルボキシレートなど)などのスズ(又はチン)カルボキシレート類;アルキルスズオキサイド(例えば、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどのモノ又はジアルキルスズオキサイドなど);ハロゲン化スズ;ハロゲン化スズアセチルアセトナト;無機酸スズ(硝酸スズ、硫酸スズなど)など]、鉛化合物(酢酸鉛など)、アンチモン化合物(三酸化アンチモンなど)、ビスマス化合物(酢酸ビスマスなど)などの典型金属化合物又は典型金属錯体;希土類金属化合物(例えば、酢酸ランタン、酢酸サマリウムなどのカルボン酸希土類金属塩)、チタン化合物(酢酸チタンなど)、ジルコニウム化合物(酢酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネートなど)、ニオブ化合物(酢酸ニオブなど)、鉄化合物(酢酸鉄、鉄アセチルアセトナトなど)などの遷移金属化合物が挙げられる。
これらの触媒のうち、特に、スズカルボキシレート類[例えば、スズ(又はチン)カルボキシレート(例えば、スズC2−10アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、モノブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)などのモノ又はジC3−8アルキルスズC2−10アルカンカルボキシレート)など]などのスズ錯体(又はスズ化合物)が好ましい。
さらに、スズ系触媒には、ポリスタノキサン触媒も含まれる。ポリスタノキサンのうち、置換基としてヒドロキシル基を有するポリスタノキサン触媒(例えば、1−ヒドロキシ−3−クロロテトラブチルジスタノキサン)は、ヒドロキシル基に起因してヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)を単独重合させやすく、グラフト重合活性を低下させやすい。そこで、本発明では、通常、ヒドロキシル基(詳細には、スズ原子に直接結合したヒドロキシル基)を除く置換基を有するポリスタノキサン触媒(ポリスタノキサン、ポリスタノキサン化合物)を好適に用いる。
ポリスタノキサン触媒は、酸素原子を介してスズ原子同士が結合した構造を少なくとも1つ有するスズ化合物であり、例えば、下記式(1)で表される。
(式中、R1、R2、X1およびX2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基を除く置換基を示し、nは1以上の整数を示す。)
上記式(1)において、基R1、R2、X1およびX2としては、ヒドロキシル基以外の置換基であればよく、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、へキシル基、2−エチルへキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのC1−24アルキル基、好ましくはC1−16アルキル基、さらに好ましくはC1−8アルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などのC2−10アルケニル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC4−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ラウリルオキシ基などのC1−20アルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC4−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)、アシル基[例えば、ホルミル基、アルキルカルボニル基又はアルカノイル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ドデカノイル基などのC2−24アルキルカルボニル基、好ましくはC2−20アルキルカルボニル基;(メタ)アクリロキシ基などのC2−10アルケニルカルボニル基など)、アリールカルボニル基又はアロイル基(例えば、ベンゾイル基などのC7−10アリールカルボニル基)など]、アシルオキシ基[例えば、ホルミルオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基(例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ヘプタノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、ノナノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基(ドデカノイルオキシ基)、ヘキサデカノイルオキシ基、オクタデカノイルオキシ基などのC2−24アルキルカルボニルオキシ基、好ましくはC2−20アルキルカルボニルオキシ基、さらに好ましくはC2−16アルキルカルボニルオキシ基)、シクロアルキルカルボニルオキシ基(例えば、シクロヘキシルカルボニルオキシ基などのC4−10アルキル−カルボニルオキシ基など)、アリールカルボニルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基などのC7−10アリールカルボニルオキシ基)など]、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのC1−10アルコキシ−カルボニル基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、窒素原子含有基(例えば、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基など)などが挙げられる。これらの置換基(配位子)は、単独で又は2種以上組み合わせて、スズ原子に置換していてもよい。
また、基R1およびR2は、対応する二価基により互いに結合して環(キレート)を形成していてもよい。さらに、基X1およびX2は、直接結合又は対応する二価基により結合していてもよい。すなわち、ポリスタノキサン触媒は、鎖状(直鎖状)ポリスタノキサンであってもよく、環状ポリスタノキサンであってもよい。
なお、置換基は、配位結合により配位子として結合していてもよい。このような配位子である置換基は、前記例示の配位子、例えば、一酸化炭素(CO)、炭酸、ホウ酸、アシルアセトナト(アセチルアセトナトなど)などであってもよい。
これらの置換基のうち、アルコキシ基、アシルオキシ基、炭化水素基など、特にアシルオキシ基、炭化水素基が好ましい。基R1、R2、X1およびX2は、同系統の置換基であってもよいが、通常、代表的には、X1およびX2が非炭化水素系置換基(例えば、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、(チオ)イソシアナト基、(チオ)シアナト基など)であり、基R1およびR2が炭化水素基(特にアルキル基)である場合が多い。特に、前記式(1)において、基X1およびX2がアシルオキシ基(特にアルカノイルオキシ基)であり、R1およびR2が炭化水素基(特にアルキル基)である化合物、例えば、1,3−ジアルカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラアルキルジスタノキサンであってもよい。これらの置換基が置換したポリスタノキサンでは、加水分解によりヒドロキシル基を生成しにくく、より一層効率よく環状エステルの単独重合を抑制できる。
前記式(1)において、nは、1以上(例えば、1〜10程度)の整数であればよく、好ましくは1〜8(例えば、1〜6)、さらに好ましくは1〜4(例えば、1〜3)であってもよく、通常1〜2(特に1)であってもよい。代表的なポリスタノキサン触媒としては、ジスタノキサン(前記式(1)においてn=1の化合物)、ポリスタノキサン(前記式(1)においてnが2以上の化合物)などが挙げられる。
ジスタノキサンとしては、例えば、ジハロ−テトラアルキルジスタノキサン類(例えば、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルスタノキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジブロモ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどの1,3−ジハロ−テトラC1−20アルキルジスタノキサン)、ジハロ−テトラアリールジスタノキサン類(例えば、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラフェニルジスタノキサンなどの1,3−ジハロ−テトラC6−10アリールジスタノキサン)、ジ(イソ)シアナト−テトラアルキルジスタノキサン類(例えば、1,3−ジ(イソ)シアナト−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどの1,3−ジ(イソ)シアナト−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、ジ(イソ)チオシアナト−テトラアルキルジスタノキサン類(例えば、1,3−ジ(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサンなどの1,3−ジ(イソ)チオシアナト−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、アルコキシ−テトラアルキルジスタノキサン類、アリールオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類、アシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類などが挙げられる。
アルコキシ−テトラアルキルジスタノキサン類としては、例えば、アルコキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−クロロ−3−メトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1−ブロモ−3−メトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC1−10アルコキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、アルコキシ−(イソ)チオシアナト−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−メトキシ−3−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC1−10アルコキシ−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)などが挙げられる。アリールオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類としては、例えば、アリールオキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−クロロ−3−フェノキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC6−10アリールオキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、アリールオキシ−(イソ)チオシアナト−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−フェノキシ−3−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC6−10アリールオキシ−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)などが挙げられる。
アシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類としては、例えば、ジアシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン[例えば、ジアルカノイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジブチリルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラエチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラプロピルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジブチリルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラオクチルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラオクチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラドデシルジスタノキサン、1,3−ジブチリルオキシ−1,1,3,3−テトラドデシルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラドデシルジスタノキサンなどの1,3−ジC2−24アルカノイルオキシ−テトラC1−20アルキルジスタノキサン、好ましくは1,3−ジC2−20アルカノイルオキシ−テトラC1−20アルキルジスタノキサン、さらに好ましくは1,3−ジC2−16アルカノイルオキシ−テトラC1−16アルキルジスタノキサンなど)、ジアロイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1,3−ジベンゾイルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどの1,3−ジC7−11アロイルオキシ−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)など]、アシルオキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン[例えば、アルカノイルオキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−クロロ−3−アセトキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1−クロロ−3−プロピオニルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサンなどのC2−20アルカノイルオキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサン、好ましくはC2−16アルカノイルオキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−16アルキルジスタノキサンなど)など]などが挙げられる。
ポリスタノキサンとしては、トリスタノキサン{例えば、ジハロ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類(例えば、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサンなどの1,5−ジハロ−ヘキサC1−20アルキルトリスタノキサン);アルコキシ−ハロ−ヘキサアルキルトリスタノキサン(例えば、1−クロロ−5−メトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサンなどのC1−10アルコキシ−ハロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサC1−20アルキルトリスタノキサンなど)などのアルコキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類;ジアシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン[例えば、ジアルカノイルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン(例えば、1,5−ジアセトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジブチリルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジアセトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジブチリルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジアセトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジブチリルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジオクタノイルキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサンなどの1,5−ジC2−20アルカノイルオキシ−ヘキサC1−20アルキルトリスタノキサン、好ましくは1,5−ジC2−16アルカノイルオキシ−ヘキサC1−16アルキルトリスタノキサンなど]などのアシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類など}などの前記ジスタノキサンに対応するポリスタノキサンなどが挙げられる。
ポリスタノキサン触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらのポリスタノキサンのうち、アシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類(特に、ジアルカノイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン、ジアロイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサンなどのジアシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン)、アシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類(特に、ジアルカノイルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン、ジアロイルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサンなどのジアシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン)が好ましい。特に、ジアルカノイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1,3−ジアルカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラアルキルジスタノキサンなどの1,3−ジアシルオキシ−1,1,3,3−テトラアルキルジスタノキサン)などのジアシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(又はテトラアルキルジスタノキサンジカルボキシレート)が好ましい。
なお、ポリスタノキサンは、市販品を使用してもよく、慣用の方法により合成したものを使用することもできる。例えば、ジアシルオキシテトラアルキルジスタノキサンは、ジアルキルスズオキシドとアシル基に対応する化合物(カルボン酸、無水カルボン酸など)とを反応させる方法、ジオルガノスズジカルボキシレートとアルコールとを反応させる方法(特開2006−28066号公報に記載の方法など)などを利用して合成できる。
反応(グラフト重合反応)において、前記触媒の割合(使用割合)は、前記グルカン誘導体のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、1×10−7〜1×10−1モル、好ましくは5×10−7〜5×10−2モル、さらに好ましくは10−6〜3×10−2モル程度であってもよい。
また、反応(グラフト重合反応)は、無溶媒又は溶媒中で行ってもよく、通常、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、例えば、炭化水素類、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、窒素含有溶媒(ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などを使用してもよく、過剰のヒドロキシ酸成分(例えば、ラクトンなど)を溶媒に用いてもよい。溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
なお、環状エステルを用いた開環重合反応系では、前記特定の触媒に加えて、さらに水に対する溶解度が小さい特定の溶媒を使用することにより、重合系又は反応における水の影響を極力抑えることができるためか、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成を高いレベルで抑制しつつ変性グルカン誘導体を得ることができる。具体的には、グラフト重合反応に用いる溶媒の20℃における水に対する溶解度は、10重量%以下[例えば、0(又は検出限界)〜8重量%]の範囲から選択でき、例えば、7重量%以下(例えば、0.0001〜6重量%程度)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.0005〜4重量%程度)、さらに好ましくは3重量%以下(例えば、0.0008〜2重量%程度)、特に1重量%以下(例えば、0.001〜0.8重量%、好ましくは0.002〜0.5重量%、さらに好ましくは0.003〜0.3重量%程度)であってもよい。
水に対する溶解度が小さい溶媒としては、具体的には、例えば、脂肪族炭化水素類[例えば、アルカン(例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのC7−20アルカンなど)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンなどのC4−10シクロアルカン)など]、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン(o,m又はp−キシレン)、エチルベンゼンなどのC6−12アレーン、好ましくはC6−10アレーン)、脂肪族ケトン類[例えば、ジアルキルケトン(例えば、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのC5−15ジアルキルケトン、好ましくはC7−10ジアルキルケトン)など]、鎖状エーテル類[例えば、ジアルキルエーテル(C6−10ジアルキルエーテルなど)、アルキルアリールエーテル(アニソールなど)など]などの非ハロゲン系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ハロアルカン(例えば、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロC1−10アルカン)、ハロシクロアルカン(クロロシクロヘキサンなどのハロC4−10シクロアルカン)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、クロロメチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどのハロC6−12アレーン、好ましくはハロC6−10アレーンなど)などのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
溶媒の割合は、溶媒の種類などにもよるが、グルカン誘導体100重量部に対して、50重量部以上(例えば、55〜500重量部程度)の範囲から選択でき、例えば、60〜450重量部(例えば、65〜400重量部)、好ましくは60〜300重量部(例えば、65〜250重量部)、さらに好ましくは70〜200重量部(例えば、75〜190重量部)、特に80〜180重量部(例えば、85〜170重量部、好ましくは90〜150重量部)程度であってもよい。また、溶媒の割合は、グルカン誘導体及びヒドロキシ酸成分の総量100重量部に対して、例えば、10〜200重量部、好ましくは30〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部(例えば、50〜100重量部)、通常45〜90重量部(例えば、50〜80重量部)程度であってもよい。
反応(グラフト化反応)は、常温下で行ってもよく、通常、反応を効率よく行うため、加温下で行ってもよい。また、開環重合反応は、溶媒の沸点をA(℃)とするとき、反応温度は、通常、溶媒の沸点以上の温度、例えば、A〜(A+30)(℃)[例えば、A〜(A+25)(℃)]、好ましくはA〜(A+22)(℃)、さらに好ましくは(A+3)〜(A+20)(℃)程度であってもよい。なお、溶媒が混合溶媒である場合には、純物質における沸点が最も低い溶媒の沸点を上記沸点としてもよい。低い温度で反応を行うと、重合系(特に、開環重合系)における水の影響を抑える効果が小さく、ホモポリマーの生成を抑制しきれず、用いる溶媒の沸点よりも高すぎる温度で重合を行うと、溶媒の還流が激しくなり制御が困難になる場合がある。具体的な反応温度は、溶媒の種類にもよるが、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜180℃(例えば、105〜170℃)、通常110〜160℃程度であってもよい。
反応は、空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウムなどの希ガスなど)中で行ってもよく、通常不活性雰囲気下で行うことができる。また、反応は、常圧又は加圧下で行ってもよい。さらに、グラフト化は、攪拌しながら行ってもよい。
なお、反応は、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成や副反応を効率よく抑えるため、出来る限り水分が少ない状態で行ってもよい。例えば、反応(特に、開環重合反応)において、グルカン誘導体、ヒドロキシ酸成分、および溶媒の総量に対する水分含有量(又は反応系の水分含有量)は、例えば、0.3重量%以下[0(又は検出限界)〜0.25重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.0001〜0.18重量%程度)、さらに好ましくは0.15重量%以下(例えば、0.0005〜0.12重量%程度)、特に0.1重量%以下(例えば、0.001〜0.05重量%程度)であってもよい。なお、縮合反応によりグラフト化する場合には、水よりも高沸点の溶媒を用い、共沸などを利用して生成する水を除去しつつ反応を行ってもよい。
グラフト重合反応において、反応時間は、特に制限されないが、例えば、10分〜24時間、好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜6時間程度であってもよい。
なお、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を保護する場合、保護は、前記反応(グラフト化)で得られた生成物を分離(及び精製)し、この分離(及び精製)したグラフト生成物と、前記保護基に対応する保護剤[例えば、酸ハライド、酸無水物などのアシル化剤、アルケニルアシレート(例えば、酢酸イソプロペニルなど)などのヒドロキシル基の保護剤;カルボジイミド化合物などのカルボキシル基の保護剤など]とを反応させて行ってもよく、前記グラフト化と同一の反応系で連続して行ってもよい。同一の反応系で行う場合、反応系の粘度を下げるため、必要に応じて、溶媒を添加してもよく、グラフト化において予め多量又は過剰量のヒドロキシ酸成分を使用し、この過剰量のヒドロキシ酸成分を溶媒として用いてもよい。
反応終了後(グラフト重合後、グラフト重合およびヒドロキシル基の保護後)の反応混合物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、中和、沈澱などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
なお、上記方法において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分をA1(モル)、生成した(詳細には副生成物として生成した)ヒドロキシ酸成分のホモポリマーを構成するヒドロキシ酸成分をA2(モル)とするとき、[A1/(A1+A2)]×100(%)で表されるグラフト効率は、20%以上(例えば、40〜100%程度)程度であり、70%以上(例えば、80〜100%)、好ましくは85%以上(例えば、88〜99.9%程度)、さらに好ましくは90%以上(例えば、93〜99.8%程度)、さらに好ましくは95%以上(例えば、96〜99.7%程度)にすることもできる。なお、グラフト効率が高いほど、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成が抑制されていることを意味する。
なお、変性グルカン誘導体(又は光学フィルム)は、必要により種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、熱安定剤など)、可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤など)、レタデーション調整剤、離型剤、滑剤、着色剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
レタデーション調整剤としては、例えば、特開平2001−91743号公報に開示のレタデーション調整剤(例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジベンジルオキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系レタデーション調整剤など)などの慣用の化合物が挙げられる。
また、レタデーション調整剤として、芳香族アシル基を有するセルロースエステル(又はセルロースと芳香族カルボン酸とのエステル)、例えば、セルロース芳香族アシレート(例えば、セルロースベンゾエート、セルロースメチルベンゾエート、セルロースメトキシベンゾエート、セルロースフルオロベンゾエート、セルロースシアノベンゾエート、セルロースナフタレートなどの芳香族アシル基に置換基(ハロゲン原子、シアノ基、炭化水素基(アルキル基など)、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基など)を有していてもよいセルロースC6−10アシレート、好ましくはベンゾイル基に置換基を有していてもよいセルロースベンゾエートなど)、芳香族アシル基を有するセルロース混酸エステル[例えば、脂肪族アシル基および芳香族アシル基を有するセルロース混酸エステル(例えば、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースアセテートメチルベンゾエートなどの芳香族アシル基に置換基(前記例示の置換基など)を有していてもよいセルロース脂肪族C2−6アシレート芳香族C6−10アシレート、好ましくは芳香族アシル基に置換基を有していてもよいセルロースアセテート芳香族C6−8アシレート、さらに好ましくはベンゾイル基に置換基を有していてもよいセルロースアセテートベンゾエート)など]などが含まれる。なお、芳香族アシル基を有するセルロースエステルについては、特開2002−179701号公報、特開2002−241512号公報、特開2002−322201号公報などに記載の化合物を参照できる。
芳香族アシル基を有するセルロースエステルは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
なお、芳香族アシル基を有するセルロースエステルにおいて、芳香族アシル基の平均置換度は、例えば、0.1〜2.5、好ましくは0.2〜2、さらに好ましくは0.3〜1.5(例えば、0.4〜1)程度であってもよい。また、脂肪族アシル基および芳香族アシル基を有するセルロース混酸エステルにおいて、脂肪族アシル基と芳香族アシル基との割合は、前者/後者(モル比)=99/1〜20/80(例えば、97/3〜30/70)、好ましくは95/5〜40/60(例えば、93/7〜50/50)、さらに好ましくは92/8〜60/40(例えば、90/10〜70/30)程度であってもよい。
レタデーション調整剤(特に、芳香族アシル基を有するセルロースエステル)の使用量は、例えば、変性グルカン誘導体100重量部に対して、例えば、0.1〜30重量部、さらに好ましくは0.3〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部程度であってもよい。
なお、前記変性グルカン誘導体は、種々の溶媒に対して溶解するため、種々のレタデーション調整剤と組み合わせることができる。
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、前記変性グルカン誘導体で構成(又は形成)されており、耐熱性や種々の特性において優れている。このような光学フィルムは、用途などに応じて、未延伸フィルムであってもよく延伸フィルム(一軸又は二軸延伸フィルム)であってもよい。光学フィルム(延伸フィルム)の配向度(延伸倍率)は、変性グルカン誘導体の種類や所望のレタデーション値などに応じて選択でき、一軸延伸フィルムでは、例えば、1.05〜8倍、好ましくは1.1〜5倍、さらに好ましくは1.15〜3倍、特に1.2〜2.5倍(例えば、1.3〜1.7倍)、通常1.05〜3倍程度であってもよい。また、二軸延伸フィルムでは、延伸倍率が、MD方向(縦方向)に1.1〜8倍(例えば、1.1〜5倍、好ましくは1.1〜2倍、さらに好ましくは1.2〜1.5倍)、通常1.05〜3倍程度、TD方向(横方向)に1.0〜4倍(例えば、1.0〜3倍、好ましくは1.0〜2倍、さらに好ましくは1.1〜1.5倍)、通常1.05〜3倍程度であってもよい。
また、光学フィルムの厚みは、特に制限されず、用途などに応じて適宜選択でき、例えば、5〜1000μm(例えば、10〜500μm)、好ましくは20〜300μm(例えば、30〜250μm)、さらに好ましくは40〜200μm(例えば、50〜150μm)程度であってもよい。
本発明の光学フィルム(又は前記変性グルカン誘導体)は、耐熱性に優れている。例えば、未延伸フィルムにおいて、温度(℃)を横軸、貯蔵弾性率E1(MPa)と損失弾性率E2(MPa)とを用いて、tan(E1/E2)で表される損失正接を縦軸とするとき、損失正接が最大値(又はピークトップ)を示す温度(最大温度、ピークトップ温度)が、例えば、120℃以上(例えば、125〜220℃程度)、好ましくは130℃以上(例えば、135〜200℃程度)、さらに好ましくは140℃以上(例えば、145〜190℃程度)、特に150℃以上(例えば、150〜180℃程度)である。なお、上記損失正接のピークトップ温度は、JIS C 6481[DMA法(引張り法)]に準じて、昇温速度5℃/分(JIS C 6481では2℃/分)の条件下で測定される温度であり、引張り法によるガラス転移温度(又はそれに準ずる温度)として知られている。また、上記ピークトップ温度を測定する際のフィルムのサイズは特に限定されず、例えば、厚み100μm(幅5mm、長さ5cm程度)のフィルムを用いてもよい。
なお、光学フィルムの耐熱性は、例えば、ヒドロキシ酸成分のグラフト割合、グラフト鎖の重合度、グルカン誘導体の種類(置換度、アシル基などの置換基の種類など)などを調整することにより調整できる。
また、前記光学フィルム(又は前記変性グルカン誘導体)の20℃における貯蔵弾性率は、未延伸フィルムにおいて、例えば、1800〜6000MPa、好ましくは2000〜5000MPa、さらに好ましくは2200〜4000MPa程度であってもよい。
本発明の光学フィルムは、延伸処理(配向処理)により簡便に光学的特性を付与でき、例えば、延伸処理(例えば、幅方向の一軸延伸処理)されたフィルムにおいて、フィルム面内のレタデーション値Reは、例えば、10〜350nm、好ましくは20〜300nm(例えば、25〜280nm)、さらに好ましくは30〜250nm(例えば、35〜220nm)、通常20〜300nm程度であってもよい。また、延伸処理されたフィルムにおいて、フィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、−150nm〜+500nm(例えば、−100nm〜+450nm)、好ましくは−80nm〜+400nm、さらに好ましくは−60nm〜+350nm程度であってもよい。特に、延伸処理されたフィルムにおいて、フィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは、−80nm〜+500nm(例えば、−60nm〜+450nm)、好ましくは−50nm〜+400nm、さらに好ましくは−45nm〜+350nm(例えば、−40nm〜+320nm)程度であってもよい。なお、面内のレタデーション値Reは、通常、フィルムの中央付近(又は中央部)の値であってもよい。また、レタデーション値は、延伸の有無、延伸倍率などに応じて容易に調整できる。
また、前記光学フィルムでは、面内レタデーション値Reが、0〜20nm、好ましくは0〜15nm、さらに好ましくは0〜10nm、特に0〜8nm程度の面内等方性の(又は面内異方性のほとんどない)フィルムとすることもできる。特に、特定の変性グルカン誘導体[例えば、平均置換度が2.85よりも大きい(例えば、2.86〜2.99、好ましくは2.87〜2.97、さらに好ましくは2.88〜2.95程度)のセルロースアセテートをグルカン誘導体とする変性グルカン誘導体]でフィルムを形成することにより、光学的に等方なフィルム[例えば、面内のリタデーション値Reが0〜10nm(例えば、0〜3nm程度)程度であり、かつ厚み方向のレタデーション値Rthが−10nm〜+10nm(例えば、−8nm〜+8nm程度)程度の光学フィルム]を調製することもできる。このような光学的に等方性のフィルムは、前記変性グルカン誘導体が配向しやすいという点から、通常、前記変性グルカン誘導体を含むドープを用いた溶液流延法により得られる未延伸フィルムの形態である場合が多い。
なお、フィルムのレタデーション値(面内のレタデーション値Re、厚み方向のレタデーション値Rth)は、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、および厚み方向の屈折率を測定し、これらの屈折率の値から、下記式で定義される式に基づいてそれぞれ算出できる。
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
なお、上記レタデーション値は、通常、可塑剤を含まないフィルムのレタデーション値であってもよい。
本発明の光学フィルムは、前記変性グルカン誘導体で構成されており、耐熱性に優れているためか、光学的特性の耐熱安定性に優れており、例えば、延伸倍率1.5倍のフィルム(例えば、一軸延伸フィルム)において、80℃で500時間加熱処理したとき、加熱処理前後の面内レタデーション値Reの変化(加熱処理前のフィルムのReをRe1、加熱処理後のフィルムのReをRe2とするとき、(Re2−Re1)又はその絶対値)が、通常10nm以下(例えば、0又は検出限界〜9nm程度)、好ましくは8nm以下(例えば、0〜6nm程度)、さらに好ましくは5nm以下(例えば、0〜4nm程度)、特に3nm以下(例えば、0〜2nm程度)であり、通常、ほぼ0nm(例えば、0〜1nm程度)である。
また、本発明の光学フィルムは、光学的特性の湿度安定性に優れ、例えば、延伸倍率1.5倍のフィルムにおいて、23℃および相対湿度30%で24時間処理(又は放置又は静置)した後の面内レタデーション値をRe(30)とし、この処理(又は放置又は静置)後、さらに23℃および相対湿度80%で24時間加湿処理した後の面内レタデーション値をRe(80)とするとき、ΔRe=Re(30)−Re(80)の値(負の値であるときは絶対値)が、50nm以下(例えば、0又は検出限界〜40nm)、好ましくは30nm以下(例えば、0.1〜25nm)、さらに好ましくは20nm以下(例えば、0.3〜15nm)、特に10nm以下(例えば、0.5〜5nm)である。
本発明の光学フィルムは、前記変性グルカン誘導体が配向しやすいためか、延伸処理(又は配向処理)により、耐熱性や弾性率が大きく向上するという特性を有している。そのため、延伸フィルム(又は配向フィルム)は、これらの特性に優れ、用途に応じて好適に使用できる。例えば、延伸倍率1.5倍の延伸フィルムにおける前記損失正接のピークトップ温度は、延伸前のフィルム(未延伸フィルム)における損失正接のピークトップ温度よりも、例えば、5℃以上(例えば、6〜30℃)、好ましくは7℃以上(例えば、7〜25℃)、さらに好ましくは8℃以上(例えば、8〜20℃)程度高い(すなわち延伸により高耐熱化することができる)。また、延伸倍率1.5倍の延伸フィルムの20℃における貯蔵弾性率は、延伸前のフィルム(未延伸フィルム)の20℃における貯蔵弾性率よりも、例えば、1500MPa以上(例えば、1700〜5000MPa)、好ましくは1800MPa以上(例えば、1900〜4000MPa)、さらに好ましくは2000MPa以上(例えば、2100〜3700MPa)程度高い(すなわち延伸により高弾性化することができる)。
なお、延伸フィルムの前記損失正接のピークトップ温度は、延伸倍率1.5倍の延伸フィルムにおいて、例えば、135℃以上(例えば、140〜230℃程度)、好ましくは145℃以上(例えば、150〜210℃程度)、さらに好ましくは155℃以上(例えば、160〜200℃程度)、特に165℃以上(例えば、165〜190℃程度)である。また、延伸フィルムの20℃における貯蔵弾性率は、延伸倍率1.5倍の延伸フィルムにおいて、例えば、4000〜9000MPa、好ましくは4200〜8500MPa、さらに好ましくは4500〜8000MPa程度である。
本発明の光学フィルム(又は光学フィルムを構成する変性グルカン誘導体)は、光学用途として十分使用に耐えうる比較的小さい光弾性係数を有している。例えば、前記光学フィルム(又は変性グルカン誘導体)の光弾性係数は、8×10−12〜20×10−12Pa−1、好ましくは9×10−12〜18×10−12Pa−1、さらに好ましくは10×10−12〜16×10−12Pa−1程度である。そして、本発明の光学フィルム(又は光学フィルムを構成する変性グルカン誘導体)は、延伸速度の変化による複屈折の変化が少ない(換言すれば、延伸速度の変化に対する複屈折の変化が鈍感である)という特性を有する。そのため、本発明では、延伸速度を高いレベルに調整しなくても、所望の複屈折率を有する光学フィルム(延伸フィルム)を効率よく得ることができる。例えば、延伸倍率1.5倍のフィルムを、50%/分の延伸速度で得た場合の面内の複屈折をNxy(50)とし、200%/分の延伸速度で得た場合の面内の複屈折をNxy(200)とするとき、Nxy(200)−Nxy(50)の値(負の値であるときは絶対値)は、例えば、0〜20×10−5、好ましくは0.1×10−5〜10×10−5、さらに好ましくは0.5×10−5〜5×10−5程度である。
また、本発明の光学フィルムは、前記のように、特にグラフト鎖がラクトン成分(例えば、ラクトン)由来のグラフト鎖(例えば、ポリカプロラクトン鎖など)である場合、変性グルカン誘導体のガラス域からゴム域に転移するいわゆる転移域における貯蔵弾性率の温度依存性が低いためか、成形温度(延伸温度)を精密に調整しなくても光学的特性を付与できる。すなわち、通常のグルカン誘導体(セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど)などでは、レタデーション値のような光学的特性は成形温度(延伸温度)に依存して敏感に変化しやすく、所望の光学的特性を得るためには精密な条件でフィルムを調製する必要があるが、本発明のフィルムは、比較的広い延伸温度範囲で延伸しても、光学的特性の変化が小さく、安定して所望の光学的特性を付与できる。
例えば、本発明のフィルムにおいて、同一の延伸倍率で、フィルム(未延伸フィルム)の延伸温度を所定の温度B〜B+20(℃)まで変化させたとき、(i)面内レタデーション値Reの最大値と最小値との差(ΔRe)、は、例えば、0〜20nm、好ましくは0.5〜15nm、さらに好ましくは1〜10nm(例えば、1〜8nm)程度であり、かつ(ii)厚み方向のレタデーション値Rthの最大値と最小値との差(ΔRth)、は、例えば、0〜35nm、好ましくは1〜30nm(例えば、1.5〜25nm)、さらに好ましくは2〜20nm(例えば、3〜15nm)、通常2.5〜10nm程度であり、20℃もの広い延伸温度範囲で延伸してもレタデーション値の変化が著しく小さい。なお、延伸温度(B〜B+20℃)は、変性グルカン誘導体のガラス転移温度に応じて、適宜選択できる。
本発明の光学フィルムは、透明性にも優れている。例えば、前記光学フィルムのイエローネスインデックス(YI)値は、例えば、2以下(例えば、0〜1.5)、好ましくは1以下(例えば、0.05〜0.8)、さらに好ましくは0.7以下(例えば、0.1〜0.6)であってもよい。
なお、このような着色が著しく抑制されているフィルムは、前記変性グルカン誘導体が着色しやすいという観点から、通常、前記変性グルカン誘導体を含むドープを用いた溶液流延法により得られるフィルム(未延伸又は延伸フィルム)である場合が多い。
また、前記光学フィルムのヘーズは、例えば、0〜0.8%、好ましくは0.05〜0.6%、さらに好ましくは0.1〜0.55%程度であってもよい。さらに、前記光学フィルムの全光線透過率は、例えば、90%以上(例えば、90.5〜99.5%)、好ましくは91%以上(例えば、92〜99%)であってもよい。
本発明の光学フィルムは、靱性においても優れている。例えば、前記光学フィルムは、以下の条件下で測定される屈曲回数(折り曲げ回数、MIT屈曲回数)が、通常100回以上(例えば、110〜350回)、好ましくは120回以上(例えば、125〜300回)、さらに好ましくは130回以上(例えば、135〜270回)である。
幅10mmおよび厚み100±5μmの未延伸フィルムにおいて、20℃、相対湿度50%雰囲気下で、耐揉疲労試験機D型により、JIS P 8115に準じ、折り曲げ部曲率半径0.38mm、重り重量250gおよび折り曲げ速度175cpmの条件で、左右に各135°往復させて折り曲げたとき、フィルムが切断するまでの屈曲回数(折り曲げ回数)。
なお、上記屈曲回数は、上記フィルムとして測定したときの屈曲回数であって、本発明のフィルムが、幅10mmおよび厚み100±5μmの未延伸フィルムに特定されるわけではない。
(光学フィルムの製造方法)
光学フィルムは、慣用の方法でフィルム又はシート成形し、得られたフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)することなく製造してもよく、延伸(又は配向処理)することにより製造してもよい。フィルム成形には、押し出し成形、ブロー成形などの溶融成形法(溶融製膜法)を利用してもよく、流延成形法(流延製膜法、溶液流延法)を利用してもよい。透明性に優れたフィルムや光学的に等方性のフィルムを成形するためには、通常、流延成形法を好適に利用できる。
溶融成形法では、押出機を用いて前記変性グルカン誘導体単独又は変性グルカン誘導体を含む組成物を溶融してダイのスリットからフィルム状に押出成形し、冷却することによりフィルム又はシートを調製し、このフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)するか又は延伸することなく、光学フィルムを得ることができる。溶融成形法ではTダイを利用して押し出し成形する場合が多い。なお、溶融製膜法では、ダイからの溶融フィルム又はシートの引き取りによりフィルム又はシートを配向させることもできる。本明細書では、このような配向も延伸の概念に含めることができる。
流延成形法では、前記変性グルカン誘導体を含むドープを流延成形してフィルム又はシートを調製し、このフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)するか又は延伸することなく、光学フィルムを得ることができる。なお、前記のように、光学的等方性のフィルムは、通常延伸することなく光学フィルムを得る場合が多い。前記ドープは、前記変性グルカン誘導体と、溶媒(この変性グルカン誘導体を可溶な溶媒)とで構成できる。
溶媒としては、ハロゲン系有機溶媒(特に塩素系有機溶媒)であってもよく、非ハロゲン系有機溶媒(特に非塩素系有機溶媒)であってもよい。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよく、例えば、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒とを組み合わせてもよい。ハロゲン系有機溶媒(特に塩素系有機溶媒)としては、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類(特に塩素化炭化水素類)などが挙げられる。非ハロゲン系有機溶媒(特に非塩素系有機溶媒)としては、例えば、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのジアルキルケトン類、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのC1−4アルカノール類)などが例示できる。前記変性グルカン誘導体は、セルローストリアセテートと比べて、塩化メチレンのような特定の溶媒だけでなく、非塩素系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン)などの幅広い溶剤に溶解性を示す。また、非塩素系溶剤にも溶解性を示すため、環境や経済性の側面からも優位である。
ドープ中の変性グルカン誘導体の濃度は、例えば、5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%程度であってもよい。なお、ドープは、さらに必要に応じて、前記例示の添加剤(レタデーション調整剤など)などの他の成分を含んでいてもよい。
なお、ドープは、慣用の方法、例えば、高温溶解法、冷却溶解法などを利用して調製できる。また、高品質フィルム(液晶表示装置用フィルムなど)を得るため、ドープはさらに濾過処理してもよい。
そして、前記ドープを、平滑面を有する剥離性支持体(金属ドラムなど)に流延し、ドープの塗膜中の溶媒を少なくとも部分的に除去し、前記支持体から剥離することにより溶媒を含んでいてもよいフィルム又はシートを得ることができる。支持体の表面は、通常、鏡面仕上げされ、平滑である場合が多い。
フィルム又はシートの延伸操作は、例えば、機械方向又は縦方向(MD方向)に延伸してもよく、幅方向(TD方向)に延伸してもよく、MD方向及びTD方向に延伸してもよい。延伸は、変性グルカン誘導体のガラス転移温度以上の温度で行うことができ、通常、所定温度(例えば、ガラス転移温度+30℃、好ましくはガラス転移温度+20℃、さらに好ましくはガラス転移温度+10℃程度)以下の温度で行うことができる。なお、流延成形法では、フィルム又はシートの延伸操作は、フィルム又はシートから溶媒を除去した後で行われる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、実施例において、各種特性は以下のようにして測定した。
(貯蔵弾性率、損失正接)
得られた未延伸、延伸フィルムについて、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)、RSA−III)を用いて、昇温速度5℃/分および角周波数62.8rad/秒の条件下で、横軸を温度(単位:℃)、縦軸を変性グルカン誘導体の貯蔵弾性率(E’)(単位:MPa)、損失弾性率(E’’)とする粘弾性曲線を測定した。さらに、tanδ=E’’/E’の関係を利用し、フィルムの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を得た。なお、動的粘弾性は、フィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で48時間放置して調湿し、同環境下で測定した。
(レタデーション値、光弾性係数)
楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製、「KOBRA−WPR」)を用いて、波長590nmにおいて、得られたフィルム(延伸前のフィルム、延伸後のフィルム)の3次元屈折率測定を行い、遅相軸方向の屈折率nx、進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを求め、これらの値から、フィルムの面内のレタデーション値Re、およびフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthを、下記式で定義される式に基づいて算出した。なお、面内のレタデーション値Reは、フィルムの中央付近の値である。
Re=|nx−ny|×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す)
また、光弾性係数は、延伸前のフィルムに荷重を加え、フィルムの面内のレタデーション値Reを測定し、この値Reをフィルム厚みdで割って、Δn=Re/dを求める。そして、加える荷重を変化させながら、Reを測定し、Δnを算出する。得られたデータより、荷重対Δn曲線を作成し、その傾きを光弾性係数とした。レタデーションの測定には上記KOBRA−WPRを用いた。
(レタデーション耐湿性)
延伸したフィルムのReの湿度による変化の評価をおこなった。まず、1.5倍延伸したフィルムサンプルを23℃において相対湿度30%の恒温恒湿槽で24時間放置後、調湿されたサンプルのReを測定する。その後、同フィルムサンプルを23℃において相対湿度80%の恒温恒湿槽で24時間放置後、調湿されたサンプルのReを測定する。相対湿度30%における面内のレタデーション値をRe(30)、相対湿度80%における面内のレタデーション値をRe(80)としたとき、フィルムのReの耐湿性はΔRe=Re(30)−Re(80)で表わされ、ΔReの値が小さいほど耐湿性に優れている。
(レタデーション耐熱性)
延伸したフィルムのReの耐熱性に対する評価をおこなった。1.5倍延伸したフィルムサンプルを80℃に設定した恒温槽に500時間アニール後、フィルムのReを測定した。
(複屈折)
フィルム面内のレタデーションReを測定し、これを厚みdで割って、複屈折Δn=Re/dを求めた。レタデーションの測定には楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製、「KOBRA−WPR」)を用いた。
(屈折率)
得られたフィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、アッベ屈折計((株)アタゴ製、「2T」)を用い、JIS K7142に準じて、屈折率を測定した。
(ヘーズ)
得られたフィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、同環境下で、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7136に準じて、ヘーズを測定した。
(全光線透過率)
得られたフィルムを、23℃、相対湿度50%の恒温、恒湿室で48時間放置し、濁度計(日本電色工業(株)、「NDH5000W」)を用い、JIS K7361−1に準じて、全光線透過率を測定した。
(イエローネスインデックス(YI)値)
得られたフィルム(未延伸フィルム)を、YI値を、JIS K 7105に準じて、色差計(日本電色工業(株)製、NDJ300A)を用いて測定した。
(折り曲げ試験)
フィルム(幅10mmおよび厚み100μmの未延伸フィルム)を、20℃、相対湿度50%雰囲気下で、耐揉疲労試験機(東洋精機(株)製;FOLDING ENDURANCE TESTER)D型により、JIS P 8115に準じ、折り曲げ部曲率半径0.38mm、重り重量250gおよび折り曲げ速度175cpmの条件で、左右に各135°往復させて折り曲げたとき、フィルムが切断するまでの屈曲回数(折り曲げ回数)を測定した。そして、同一(同一成分)のフィルム5枚について、この屈曲回数を測定し、これらの屈曲回数の平均値を屈曲回数(折り曲げ回数)とした。
(合成例1)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.41)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。減圧乾燥後の酢酸セルロースの一部を抜き取って水分を確認すると0.07重量%であった。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、クロロホルム90重量部に対して反応混合液10重量部を混合(溶解)した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.71、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.13、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は5.4であった。これらの特性値は1H−NMR測定により求めた。
(実施例1)
合成例1で得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置し、ドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度25℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で20分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚110μmのフィルムを得た。この未延伸フィルムの幅方向の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が2490MPa、tanδのピークトップが153℃であった。また、得られた未延伸フィルムのReは5nmであり、Rthは180nmであった。さらに、得られた未延伸フィルムのYI値は0.3、光弾性係数は15×10−12Pa−1、全光線透過率は92.6%、屈折率は1.48、ヘーズは0.4%であった。透明性に優れ、面内異方性の殆どないフィルムが得られた。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、155℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸させた。延伸フィルムの厚みは100μmで23℃、50%相対湿度に調湿したときのReは175nm、Rthは175nmであった。ΔReは10nmであり、アニール前後でRe変化もなく、耐熱性も十分であった。また、延伸フィルムの幅方向(延伸方向)の動的粘弾性を測定したところ、20℃における貯蔵弾性率が5230MPa、tanδのピークトップが168℃となっており、延伸によって高弾性率化、高耐熱化したことが分かった。
また、配向複屈折の延伸速度依存性を調べるために、未延伸フィルムを上記システムを用いて、155℃において延伸速度を200%/分、100%/分、50%/分に設定して、延伸倍率1.5倍で延伸を行ったところ面内の複屈折(Nxy)がそれぞれ、0.00177(200%/分)、0.00175(100%/分)、0.00174(50%/分)と安定した複屈折が得られた。
さらに、前記ドープを用いて、前記と同様の方法により、膜厚100μmのフィルムを得た。そして、得られたフィルムに対して折り曲げ試験を行ったところ、折り曲げ回数155回まで耐えた。
(合成例2)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、FRM、平均置換度2.80)65重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。減圧乾燥後の酢酸セルロースの一部を抜き取って水分を確認すると0.07重量%であった。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン35重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、クロロホルム90重量部に対して反応混合液10重量部を混合(溶解)した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.76、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.11、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は6.7であった。これらの特性値は1H−NMR測定により求めた。
(実施例2)
合成例2で得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置し、ドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度25℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で20分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚104μmのフィルムを得た。この未延伸フィルムの幅方向の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が2460MPa、tanδのピークトップが155℃であった。また、得られた未延伸フィルムのReは3nmであり、Rthは40nmであった。さらに、得られた未延伸フィルムのYI値は0.4、光弾性係数は13×10−12Pa−1、全光線透過率は92.6%、屈折率は1.48、ヘーズは0.5%であった。透明性に優れ、面内異方性の殆どないフィルムが得られた。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、160℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸させた。延伸フィルムの厚みは95μmで23℃、50%相対湿度に調湿したときのReは48nm、Rthは60nmであった。ΔReは4nmであり、アニール前後でRe変化もなく、耐熱性も十分であった。また、延伸フィルムの幅方向(延伸方向)の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が4640MPa、tanδのピークトップが170℃となっており、延伸によって高弾性率化、高耐熱化したことが分かった。
また、配向複屈折の延伸速度依存性を調べるために、未延伸フィルムを上記システムを用いて、160℃において延伸速度を200%/分、100%/分、50%/分に設定して延伸倍率1.5倍で延伸を行ったところ面内の複屈折(Nxy)がそれぞれ、0.00052(200%/分)、0.00050(100%/分)、0.00050(50%/分)と安定した複屈折が得られた。
さらに、前記ドープを用いて、前記と同様の方法により、膜厚100μmのフィルムを得た。そして、得られたフィルムに対して折り曲げ試験を行ったところ、折り曲げ回数140回まで耐えた。
(合成例3)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、LT−35、平均置換度2.90)60重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。減圧乾燥後の酢酸セルロースの一部を抜き取って水分を確認すると0.06重量%であった。その後、系を乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン40重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、クロロホルム90重量部に対して反応混合液10重量部を混合(溶解)した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.75、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.06、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は12.6であった。これらの特性値は1H−NMR測定により求めた。
(実施例3)
合成例3で得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置し、ドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度25℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で20分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚114μmのフィルムを得た。この未延伸フィルムの幅方向の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が3520MPa、tanδのピークトップが168℃であった。また、得られた未延伸フィルムのReは0nmであり、Rthは−6nmであった。さらに、得られた未延伸フィルムのYIは0.3、光弾性係数は11×10−12Pa−1、全光線透過率は92.6%、屈折率は1.48、ヘーズは0.4%であった。透明性に優れ、面内異方性の殆どないフィルムが得られた。
上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、170℃で幅方向のみに100%/分の速度で1.5倍延伸させた。延伸フィルムの厚みは105μmで23℃、50%相対湿度に調湿したときのReは43nm、Rthは−20nmであった。ΔReは2nmであり、アニール前後でRe変化もなく、耐熱性も十分であった。また、延伸フィルムの幅方向(延伸方向)の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が6910MPa、tanδのピークトップが177℃と延伸によって高弾性率化、高耐熱化したことが分かった。
また、配向複屈折の延伸速度依存性を調べるために、未延伸フィルムを上記システムを用いて、170℃において延伸速度を200%/分、100%/分、50%/分に設定して延伸倍率1.5倍で延伸を行ったところ面内の複屈折(Nxy)がそれぞれ、0.00042(200%/分)、0.00041(100%/分)、0.00040(50%/分)と安定した複屈折が得られた。
さらに、前記ドープを用いて、前記と同様の方法により、膜厚100μmのフィルムを得た。そして、得られたフィルムに対して折り曲げ試験を行ったところ、折り曲げ回数235回まで耐えた。
(比較例1)
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、LT−35、平均置換度2.90)15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置し、ドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度25℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で20分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚115μmのフィルムを得た。この未延伸フィルムの幅方向の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が4240MPa、tanδのピークトップが197℃であった。 上記未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、200℃で幅方向に100%/分の速度で1.5倍延伸させた。延伸フィルムの厚みは107μmで23℃、50%相対湿度に調湿したときのReは42nm、Rthは−15nmであった。ΔReは10nm、アニール前後でRe変化もなく、耐熱性も十分であった。また、延伸フィルムの幅方向(延伸方向)の動的粘弾性を測定したところ20℃における貯蔵弾性率が7830MPa、tanδのピークトップが208℃と延伸によって高弾性率化、高耐熱化したことが分かった。