JP2014203069A - 位相差フィルム及びその製造方法並びに偏光板 - Google Patents

位相差フィルム及びその製造方法並びに偏光板 Download PDF

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Abstract

【課題】高倍率で延伸され、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の総置換度が大きくても、高い位相差を実現できる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む位相差フィルムにおいて、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度を0.1以上、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均重合度を7以上に調整し、グルカン誘導体のグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸成分をヒドロキシ酸換算で平均1モル以上の割合でグラフトさせる。前記グルカン誘導体はセルロースアシレートであってもよく、アシル基の平均置換度とヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度との合計は2.4以上であってもよい。前記ヒドロキシ酸成分はC4−10ラクトンであってもよい。この位相差フィルムは、1倍を超え3.5倍以下の延伸倍率で延伸されたフィルムであってもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、液晶表示装置などの表示装置の光学素子として有用な位相差フィルム(又は位相差板)、特に可視光域で波長が大きくなるにつれて位相差が大きくなる波長依存性(正の波長分散特性)を有する位相差フィルム及びその製造方法並びに前記位相差フィルムを備えた偏光板に関する。
位相差フィルムは、高分子フィルムの屈折率が三次元方向でそれぞれに制御されたフィルムであり、一般に高分子フィルムを延伸処理して配向させることにより得られる。このような位相差フィルムの主な機能は光の偏光状態を変えることであり、例えば、直線偏光を円偏光に変換するλ/4板、直線偏光の偏光振動面を90度変換するλ/2板などの逆分散型(逆波長分散型)位相差フィルムが知られている。すなわち、このような逆分散型位相差フィルムには、所定の波長域(例えば、波長λが400〜700nm程度の領域)において、位相差がより長波長側において大きくなるという特性(逆波長分散性)が必要である。
しかし、従来の位相差フィルムは、単色光に対しては、光線波長の位相差をλ/4又はλ/2の位相差に調整できるが、可視光域の波長の異なる光線が混在した合成波である白色光が入射した場合、波長分散性に起因して、各波長での偏光の形態が大きく異なって偏光状態の分布が生じる。その結果、例えば、位相差がλ/4やλ/2となる位相差フィルムを作成した場合、十分な効果が得られるのは、位相差がほぼλ/4やλ/2となるような波長領域のみであるという問題がある。また、入射した白色光が有色光に変換されるという問題もある。
このような問題を解決するために、広い波長域の光に対して均一な位相差を付与できる広帯域位相差フィルムの検討がなされている。例えば、特開平10−68816号公報(特許文献1)には、複屈折光の位相差が1/4波長である1/4波長板と、複屈折光の位相差が1/2波長である1/2波長板とを、それらの光軸が交差した状態で貼り合わせた位相差板が開示されている。しかし、この文献のように、1/4波長板と1/2波長板とを必要とする位相差板では、単一の層で有効な位相差板を形成できない。
積層することなく、単一のフィルムで、位相差に関して長波長で位相差が大きな正の波長依存性を有する位相差フィルムとして、特開2008−197561号公報(特許文献2)には、グルカン誘導体の残存ヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト共重合した変性グルカン誘導体で構成され、かつ積層することなく1枚のフィルムにおいて、波長450nmの位相差値Re(450nm)と波長650nmの位相差値Re(650nm)とが、Re(450nm)/Re(650nm)<1の関係を満足する位相差フィルムが開示されている。
また、特開2010−44244号公報(特許文献3)には、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で構成され、積層することなく1枚のフィルムにおいて、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体が、複数のヒドロキシ酸変性グルカン誘導体で構成され、0.7≦Re(450nm)/Re(550nm)≦0.9の関係を満足する位相差フィルムが開示されている。
さらに、特開2010−44245号公報(特許文献4)には、平均置換度の異なる複数のセルロースアシレートの混合物のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性セルロースアシレートで構成され、積層することなく1枚のフィルムにおいて、0.7≦Re(450nm)/Re(550nm)≦0.9の関係を満足する位相差フィルムが開示されている。
しかし、特許文献2〜4のグルカン誘導体では、延伸倍率を高めると破断するため、高倍率で延伸できず、位相差の発現が小さかった。特に、1/4波長板や1/2波長板では変性グルカン誘導体の総置換度を調節して理想的な波長分散を得るが、総置換度を上昇させると、位相差の絶対値が低下するため、広帯域において1/4波長や1/2波長の位相差を実現するのが困難であった。
特開平10−68816号公報(特許請求の範囲) 特開2008−197561号公報(請求項1) 特開2010−44244号公報(特許請求の範囲) 特開2010−44245号公報(特許請求の範囲)
従って、本発明の目的は、高倍率で延伸され、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体の総置換度が大きくても、高い位相差を実現できる位相差フィルム及びその製造方法並びに前記位相差フィルムを備えた偏光板を提供することにある。
本発明の他の目的は、1/4波長板又は1/2波長板として有用な位相差フィルム及びその製造方法並びに前記位相差フィルムを備えた偏光板を提供することにある。
本発明者らは、特許文献2〜4に記載されたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体では、総置換度を上昇させると、位相差の絶対値が低下するため、総置換度を上昇させることに加えて、延伸倍率を高めることにより、位相差の絶対値を向上させることを試みた。しかし、前記変性グルカン誘導体では、2倍を超える高い延伸倍率で延伸すると、破断するため、位相差の絶対値を向上させることはできなかった。そこで、本発明者らは、変性グルカン誘導体のヒドロキシ酸成分のグラフト重合率を高めて、延伸倍率を高めることを試みた。しかし、グラフト重合率を上昇させた変性グルカン誘導体では、多量に副生する遊離したヒドロキシ酸成分のホモポリマーと変性グルカン誘導体とが共に析出・凝集するためか、副生物との分離が予想外に困難であった。本発明者らは、精製条件を詳細に検討し、反応生成物に対して、親水性溶媒を徐々に添加した後、熟成させることにより、グラフト重合率を向上させた変性グルカン誘導体を単離することに成功したが、今度は、単にグラフト重合率を向上しただけでは延伸倍率の向上には即結びつかない事実が判明した。さらに、本発明者らは、鋭意検討した結果、ヒドロキシ酸成分の平均置換度(DS)及びヒドロキシ酸成分の平均重合度(DPn)及びヒドロキシ酸成分の平均モル数(MS)をバランス良く調整することにより、前記変性グルカン誘導体の延伸倍率が向上することを見出し、前記変性グルカン誘導体の総置換度を大きくしても、高い位相差を発現することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の位相差フィルムは、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む位相差フィルムであって、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度が0.1以上であり、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均重合度が7以上であり、かつグルカン誘導体のグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸成分がヒドロキシ酸換算で平均1モル以上の割合でグラフトしている。前記グルカン誘導体はセルロースアシレートであってもよく、アシル基の平均置換度とヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度との合計は2.4以上であってもよい。前記ヒドロキシ酸成分はC4−10ラクトンであってもよい。本発明の位相差フィルムは、1倍を超え3.5倍以下の延伸倍率で延伸されたフィルムであってもよい。本発明の位相差フィルムは、波長450nmの位相差値が110〜250nmであり、かつ波長650nmの位相差値が150〜280nmであってもよい。本発明の位相差フィルムは、1/4波長板又は1/2波長板であってもよい。
本発明には、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分をグラフト重合する重合工程、得られたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を流延製膜法又は溶融製膜法でシート化するシート化工程、得られたシートを延伸する延伸工程を含む前記位相差フィルムの製造方法も含まれる。前記延伸工程において1倍を超え3.5倍以下の延伸倍率で延伸してもよい。前記重合工程において、重合生成物100重量部に対して50〜2000重量部の親水性溶媒を50重量部/分以下の速度で添加した後、熟成してもよい。
本発明には、前記位相差フィルムと偏光板とが積層された円偏光又は楕円偏光板も含まれる。
本発明では、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、ヒドロキシ酸成分の平均置換度(DS)及びヒドロキシ酸成分の平均重合度(DPn)及びヒドロキシ酸成分の平均モル数(MS)がバランス良く調整されているため、前記変性グルカン誘導体の延伸倍率を向上でき、例えば、2倍を超える延伸倍率でも破断することなく延伸できる。そのため、前記変性グルカン誘導体の総置換度を大きくしても、延伸倍率を高めることにより、高い位相差を発現できる。そのため、前記変性グルカン誘導体の総置換度を調節して理想的な波長分散を得ることができ、広帯域において、1/2波長の位相差や1/4波長の位相差(特に1/2波長の位相差)を実現できる。
位相差フィルム(又は位相差板)に含まれる変性グルカン誘導体において、グルカン誘導体のヒドロキシル基(残存ヒドロキシル基)にはヒドロキシ酸成分がグラフト重合(グラフト共重合)している。すなわち、ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体は、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合した化合物であり、詳細には、グルカン誘導体(ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体)と、このグルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合して形成されたグラフト鎖とで構成されている。変性グルカン誘導体(グラフト体)は、通常、無溶媒又は溶媒中、触媒の存在下、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応(グラフト重合)させることにより調製できる。
[グルカン誘導体]
グルカン誘導体としては、特許文献2〜4に記載のグルカン誘導体などを利用できる。好ましいグルカン誘導体は、セルロースアシレート(又はセルロースエステル)である。セルロースアシレートにおいて、アシル基としては、例えば、アルキルカルボニル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのC2−10アルキルカルボニル基(例えば、C2−6アルキルカルボニル基、好ましくはC2−4アルキルカルボニル基)など]、シクロアルキルカルボニル基(例えば、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキルカルボニル基など)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基などのC7−12アリールカルボニル基など)などが挙げられる。セルロースのグルコース単位には、同一又は異なるアシル基が結合していてもよい。これらのアシル基のうち、C2−4アルキルカルボニル基が好ましい。特に、これらのアシル基のうち、少なくともアセチル基が好ましく、例えば、グルコース単位には、アセチル基のみが結合していてもよく、アセチル基と他のアシル基(C3−4アシル基など)とが結合していてもよい。さらに、種類の異なるセルロースアシレートを2種以上組み合わせて用いてもよい。
さらに、セルロースアシレートの中でも、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−4アシレート(セルロースジアセテートなどのセルロースアセテート)であり、特にセルロースアセテートが好ましい。
グルカン誘導体(セルロースアセテートなどのセルロースアシレートなど)において、置換基(アシル基、アルキル基など)の平均置換度は、所望の逆波長分散性が得られれば、特に限定されず、1〜2.95程度の範囲から選択でき、例えば、2〜2.9(例えば、2.1〜2.8)、好ましくは2.2〜2.7、さらに好ましくは2.3〜2.6(特に2.35〜2.5)程度である。置換度が小さすぎると、位相差の絶対値が低下し、大きすぎると、高倍率で延伸するのが困難となる。
グルカン誘導体のヒドロキシル基は、グルコース単位の2位、3位及び6位に存在する。このようなグルカン誘導体の6位のヒドロキシル基の割合は、例えば、ヒドロキシル基全体の25〜70モル%、好ましくは30〜65モル%、さらに好ましくは35〜60モル%程度であってもよい。通常、グルコース単位の2位、3位及び6位に存在するヒドロキシル基のうち、6位のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合し易いようである。一方、変性グルカン誘導体の波長分散性は、グルカン誘導体のアシル基に大きく影響され、グラフト鎖(又はグラフトしたヒドロキシ酸成分)は波長分散性にほとんど関与しない場合が多く、変性グルカン誘導体全体において波長分散性の程度をより緩和する方向に作用するようである。そのため、6位のヒドロキシル基の濃度が大きいと、変性グルカン誘導体の波長分散性の程度を調整し易い。
グルカン誘導体において、ヒドロキシル基(残存するヒドロキシル基)の割合は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0.01〜2.5モル(例えば、0.05〜2モル)、好ましくは0.1〜1.5モル(例えば、0.1〜1モル)、さらに好ましくは0.15〜0.8モル(例えば、0.3〜0.7モル)程度であってもよい。
グルカン誘導体の平均重合度(粘度平均重合度)は、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
なお、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体(セルロースアシレートなど)は、市販品を使用してもよく、慣用の方法により合成してもよい。例えば、セルロースアシレートは、通常、セルロースを有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物)によりセルローストリアシレート(一次セルロースアシレート)を調製し、過剰量のアシル化剤(特に、無水酢酸などの酸無水物)を分解し、脱アシル化又はケン化(加水分解又は熟成)によりアシル化度を調整し、二次セルロースアシレートを生成することにより製造できる。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2−6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。
なお、一般的なセルロースアシレートの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。また、セルロースアシレートの置換度の調整方法については、特開平9−286801号公報などを参照してもよい。なお、この文献の方法によれば、6位のヒドロキシル基の割合が比較的大きいセルロースアシレートを得易い。さらに、他のグルカン(例えば、デンプンなど)についても、セルロースアシレートの場合と同様の方法でアシル化(及び脱アシル化)できる。
[ヒドロキシ酸成分]
ヒドロキシ酸成分としては、ヒドロキシ酸(例えば、ヒドロキシアルカンカルボン酸)、環状エステルなどが例示でき、環状エステルには、ラクトン(環状モノエステル)、及び環状ジエステルが含まれる。これらのヒドロキシ酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヒドロキシ酸成分のうち、ホモポリマーが生成し易く、変性グルカン誘導体の精製が困難であり、本発明の効果が大きい点から、ラクトンが好ましい。さらに、ラクトンを使用すると、グルカン誘導体との組み合わせにおいて、逆波長分散性を調整し易い。また、ラクトンは、表面荒れを生じにくく、フィルムの保存性(又は保管性)の点でも有利である。
ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなどのC3−20ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトンのうち、C4−10ラクトン(特に、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC4−8ラクトン)が好ましい。
なお、変性グルカン誘導体の逆波長分散性は、ヒドロキシ酸成分の種類にもやや依存するようである。そのため、逆波長分散性の程度は、前記のようなグルカン誘導体の平均置換度や、後述のグラフト割合などとともに、適宜選択することにより調整できる。
ヒドロキシ酸成分が適度にグラフト重合され、かつ精製が容易な変性グルカン誘導体を得るために、ヒドロキシ酸成分の割合は重要である。ヒドロキシ酸成分の割合(仕込み量)は、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体100重量部に対して、例えば、50〜95重量部、好ましくは60〜90重量部、さらに好ましくは65〜85重量部(特に70〜80)重量部程度であるヒドロキシ酸部の割合が少なすぎると、グラフト重合が不十分となり、多すぎると、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーが増加して、後述する条件で親水性溶媒を添加して熟成しても、変性グルカン誘導体が沈殿せず、精製が困難となる。
[ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体]
ヒドロキシ酸変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均置換度DS(グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフトしたグラフト鎖の平均置換度)は0.1以上であり、例えば、0.1〜0.3(例えば、0.1〜0.2)、好ましくは0.11〜0.18、さらに好ましくは0.12〜0.16(特に0.13〜0.15)程度である。グラフト鎖のDSが0.1未満であると、前記変性グルカン誘導体の柔軟性を向上できず、高倍率で延伸すると破断する。なお、グラフト鎖の平均置換度とは、グルコース単位の2,3及び6位におけるグラフト重合により誘導体化されたヒドロキシル基のグルコース単位1モルあたりの平均モル数を意味する。
前記変性グルカン誘導体において、全置換基の平均置換度(総置換度)DS、すなわち、グラフト鎖以外の置換基(置換されたヒドロキシル基、例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)をAとし、グラフト鎖の平均置換度(モル数)をBとしたとき、A+Bの値(例えば、アシル基の平均置換度とヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度との合計)は2.4以上であってもよく、例えば、2.4〜2.8、好ましくは2.43〜2.7、さらに好ましくは2.45〜2.65(特に2.5〜2.6)程度である。総置換度DSが低すぎると、逆波長分散性を発現させるのが困難となり、逆に高すぎても、位相差の絶対値が低すぎて、逆波長分散性を発現させるのが困難となる。
前記変性グルカン誘導体において、グラフト鎖以外の置換基(置換されたヒドロキシル基、例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)とグラフト鎖の平均置換度(モル数)との割合は、前者/後者=50/50〜99.9/0.1、好ましくは70/30〜99/1、さらに好ましくは80/20〜98/2(特に90/10〜97/3)程度であってもよい。
前記変性グルカン誘導体において、グラフト鎖の平均重合度DPn(又はグラフト鎖を構成するヒドロキシ酸成分のヒドロキシ酸換算での平均付加モル数)は、ヒドロキシ酸換算(例えば、ε−カプロラクトンではヒドロキシヘキサン酸換算)で7以上であり、例えば、7〜20、好ましくは7.5〜15、さらに好ましくは7.8〜10(特に8〜9)程度である。重合度DPnが低すぎると、前記変性グルカン誘導体の柔軟性を向上できず、高倍率で延伸すると破断する。逆に、高すぎると、グラフト鎖の結晶性により、光学特性が低下し易い。特に、重合度DPnを8以上(例えば、8〜10)に調整することにより、柔軟性をより向上できる。
前記変性グルカン誘導体において、グラフト重合したヒドロキシ酸成分の割合(平均付加モル数)MSは、例えば、グルカン誘導体の(又はグルカン誘導体を構成する)グルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均1モル以上であり、例えば、1〜5モル、好ましくは1.02〜3モル(例えば、1.05〜2モル)、さらに好ましくは1.08〜1.5モル(特に1.1〜1.2モル)程度である。付加モル数MSが低すぎると、前記変性グルカン誘導体の柔軟性を向上できず、高倍率で延伸すると破断する。
本発明では、前記変性グルカン誘導体においては、ヒドロキシ酸成分の置換度DS、重合度DPn、付加モル数MSのいずれもが前述の範囲を充足する必要があり、例えば、MS及びDPnが前記範囲を充足していても、DSが低い場合には、柔軟性が低下し、高倍率で延伸すると破断し易くなる。
なお、前記ヒドロキシ酸成分の割合(モル)とは、グラフト鎖の重合度が、1又は1より大きいか否かにかかわらず、変性グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)のグルコース単位全体に付加(又はグラフト)したヒドロキシ酸成分の平均付加モル数を示す。
また、前記変性グルカン誘導体において、置換又は誘導体化された基(アシル基など)やグラフト鎖の置換度、ヒドロキシル基濃度、グラフト鎖の重合度(分子量)などは、慣用の方法、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)(H−NMR、13C−NMRなど)などを用いて測定できる。
前記変性グルカン誘導体は、通常、ヒドロキシル基を有していてもよい。このようなヒドロキシル基には、グラフト鎖の末端のヒドロキシル基、誘導体化又はグラフト化されることなくグルコース単位に残存したヒドロキシル基などが挙げられる。このようなヒドロキシル基は、変性グラフト誘導体の吸湿性を抑制又は調整するなどの目的により、必要に応じて保護基により保護してもよい。また、前記変性グルカン誘導体は、わずかであるが、カルボキシル基を有している場合がある。このようなカルボキシル基もまた、前記ヒドロキシル基と同様に保護(又は封止)されていてもよい。
前記変性グルカン誘導体において、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの含有割合は、前記変性グルカン誘導体全体に対して、15重量%以下(例えば、0〜12重量%程度)の範囲から選択でき、例えば、10重量%以下(例えば、0.05〜9重量%程度)、好ましくは8重量%以下(例えば、0.1〜7重量%程度)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜4.5重量%、特に0.1〜3重量%程度)であってもよい。このようにヒドロキシ酸成分の遊離のホモポリマーの含有量が少ないと、位相差フィルムの光学的特性(透明性、位相差性など)を向上できる。
前記変性グルカン誘導体(変性セルロースアシレートなど)のガラス転移温度Tgは、例えば、70℃以上、好ましくは75〜200℃、さらに好ましくは80〜180℃(特に100〜170℃)程度である。ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/分で測定できる。
前記変性グルカン誘導体の酸価は、例えば、20mgKOH/g以下、好ましくは0.1〜15mgKOH/g、さらに好ましくは0.3〜10mgKOH/g(特に0.5〜5mgKOH/g)程度である。酸価が小さな変性グルカン誘導体は、耐加水分解性に優れている。酸価は、前記ヒドロキシ酸成分のホモポリマー及び未反応のヒドロキシ酸成分の含有量などを低減することにより小さくすることができる。酸価は、JIS K0070(1992年発行)に準拠し、フェノールフタレインを指示薬とした中和滴定法などによって測定できる。
前記変性グルカン誘導体は、必要により種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、熱安定剤など)、可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤など)、レタデーション調整剤(特開平2001−91743号公報に開示のレタデーション調整剤、例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジベンジルオキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系レタデーション調整剤など)、離型剤、滑剤、着色剤などを含んでいてもよい。
本発明では、前記変性グルカン誘導体がレタデーション調整剤や可塑剤を含んでいなくても、幅広い波長範囲で逆波長分散性を有する位相差フィルムが得られる。
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、このようなヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含んでおり、詳しくは、前記変性グルカン誘導体で形成されたシートの延伸フィルム(一軸又は二軸延伸フィルム)である。延伸フィルムは、通常、一軸延伸フィルムである。延伸倍率は、レタデーション値に応じて1倍を超え3.5倍以下の範囲から選択でき、例えば、1.05〜3.2倍、好ましくは1.1〜3.1倍、さらに好ましくは1.5〜3倍(特に2〜2.8倍)程度である。本発明では、前記変性グルカン誘導体は、総置換度が高いにも拘わらず、柔軟性に優れるため、2倍を超える倍率で延伸することができ、例えば、3倍の倍率で延伸しても破断しない。そのため、1/2波長板などを作製するために高倍率に延伸してもよく、例えば、2〜3.5倍、好ましくは2.3〜3.3倍、さらに好ましくは2.5〜3.2倍(特に2.8〜3.1倍)であってもよい。
位相差フィルムは、積層することなく1枚のフィルムで位相のずれを補償するのに有効である。そして、前記変性グルカン誘導体は、フィルムを形成したとき、逆波長分散性(正の波長分散性、正の波長依存性)を示す。すなわち、本発明の位相差フィルムは、積層することなく1枚のフィルムにおいて、位相差に関して正の波長依存性を示し、下記式(1)を充足する。
Re(450nm)/Re(650nm)<1 (1)
[式中、Re(450nm)及びRe(650nm)はそれぞれ波長450nm及び波長650nmでの位相差値(レタデーション値)を示す]。
本発明の位相差フィルムは、波長550nmでの位相差値(レタデーション値)を基準値としたとき、波長400〜700nmにおいて、550nm未満の波長での位相差値が基準値と同じであるか又は基準値よりも小さく、550nmを越える波長での位相差値(レタデーション値)が基準値と同じであるか又は基準値よりも大きい。より具体的には、前記式(1)において、Re(450nm)/Re(650nm)=Xとすると、例えば、X=0.5〜0.98、好ましくは0.6〜0.95、さらに好ましくは0.7〜0.9(特に0.8〜0.85)程度であってもよい。
さらに、本発明の位相差フィルムは、下記関係式(2)及び(3)を充足する。
0.3<Re(450nm)/Re(550nm)<1.00 (2)
1.00<Re(650nm)/Re(550nm)<1.5 (3)
[式中、Re(450nm)、Re(550nm)及びRe(650nm)は、それぞれ波長450nm、波長550nm及び波長650nmでの位相差値を示す]。
前記式(2)及び(3)において、Re(450nm)/Re(550nm)=Yとすると、例えば、Y=0.5〜0.98、好ましくは0.6〜0.95、さらに好ましくは0.7〜0.93(特に0.8〜0.9)程度であってもよく、Re(650nm)/Re(550nm)=Zとすると、例えば、Z=1.01〜1.4、好ましくは1.02〜1.3、さらに好ましくは1.03〜1.2(特に1.05〜1.1)程度であってもよい。
なお、フィルムのレタデーション値(面内のレタデーション値Re)は、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、及び厚み方向の屈折率を測定し、これらの屈折率の値から、下記式で定義される式に基づいてそれぞれ算出できる。
Re=(nx−ny)×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す)。
本発明の位相差フィルムは、通常、可視光域において、波長が大きくなるにつれて位相差も大きくなり、波長が短くなるにつれて位相差も小さくなる。すなわち、正の波長分散特性を有している。そのため、可視光域での光線の位相のずれを補償し、鮮明な色再現性を実現するのに有効である。
本発明の位相差フィルムは、総置換度が高いにも拘わらず、レタデーション値Reも高い。波長450nmのレタデーション値Reは、例えば、110〜250nm、好ましくは120〜240nm、さらに好ましくは130〜220nm程度である。波長550nmのレタデーション値Reは、例えば、130〜260nm、好ましくは140〜255nm、さらに好ましくは150〜250nm程度である。波長650nmのレタデーション値Reは、例えば、150〜280nm、好ましくは160〜270nm、さらに好ましくは170〜260nm程度である。レタデーション値は延伸の程度により容易に調整できる。
本発明では、1/2波長板などに適した高いレタデーション値に調整することもでき、例えば、波長450nmのレタデーション値Reは、例えば、175〜250nm、好ましくは180〜240nm、さらに好ましくは190〜220nm程度であってもよい。波長550nmのレタデーション値Reは、例えば、195〜260nm、好ましくは200〜255nm、さらに好ましくは220〜250nm程度であってもよい。波長650nmのレタデーション値Reは、例えば、195〜280nm、好ましくは210〜270nm、さらに好ましくは230〜260nm程度であってもよい。
位相差フィルムの厚みは特に制限されず、例えば、5〜1000μm(例えば、10〜500μm)、好ましくは20〜300μm(例えば、30〜250μm)、さらに好ましくは50〜200μm(特に100〜180μm)程度であってもよい。
このような位相差フィルムは、位相差に関して正の波長依存性を有しており、所定波長の光線の位相のずれを有効に補償でき、1/4波長板又は1/2波長板として利用できる。波長550nmにおいて、1/4波長板のレタデーション値は、110〜160nm(例えば、125〜150nm)程度であり、1/2波長板のレタデーション値は、225〜325nm(例えば、250〜300nm)程度である。
本発明の位相差フィルムは、各種フィルム特性においても優れており、例えば、本発明の位相差フィルムの全光線透過率は、80%以上(例えば、83〜99%)、好ましくは85%以上(例えば、87〜98%)、さらに好ましくは90%以上(例えば、91〜97%)であってもよい。また、本発明の位相差フィルムのヘーズ(全ヘーズ)は、3%以下(例えば、0〜2.5%)、好ましくは2%以下(例えば、0.1〜1.8%)、さらに好ましくは1.5%以下(例えば、0.3〜1.4%)であってもよい。
[位相差フィルムの製造方法]
本発明の位相差フィルムの製造方法は、グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分をグラフト重合する重合工程、得られたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を流延製膜法又は溶融製膜法でシート化するシート化工程、得られたシートを延伸する延伸工程を経て得られる。
(重合工程)
重合工程において、反応(グラフト重合反応)は、通常、溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、特許文献2〜4で記載された疎水性溶媒、親水性溶媒を、単独で又は二種以上組み合わせて利用できる。本発明では、溶媒として、水に対する溶解度が小さな特定の溶媒(疎水性溶媒)又は水分含有量の少ない溶媒を使用すると、水の影響を極力抑え、ヒドロキシ酸成分(ラクトンなど)のホモポリマーの生成を著しく抑制できる。一方、親水性溶媒、例えば、20℃において水に対する溶解度が10重量%を越える親水性溶媒(例えば、シクロヘキサノンなど)の場合、慣用の方法、例えば、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)などを利用して水分を除去して使用してもよい。
溶媒の割合は、溶媒の種類などにもよるが、グルカン誘導体100重量部に対して、50重量部以上の範囲から選択でき、例えば、100〜2000重量部、好ましくは200〜1500重量部、さらに好ましくは300〜1200重量部(特に500〜1000重量部)程度である。
反応は、ヒドロキシ酸成分の種類(例えば、ラクトンなど)に応じて、慣用の触媒の存在下で行ってもよい。慣用の触媒としては、特許文献2〜4に記載の触媒などを、単独で又は2種以上組み合わせて利用できる。好ましい触媒としては、例えば、スズ化合物(モノブチルスズトリオクチレートなどのスズカルボキシレート類など)などが挙げられる。
触媒の割合は、前記グルカン誘導体のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、10−7〜10−1モル、好ましくは5×10−7〜5×10−2モル、さらに好ましくは10−6〜3×10−2モル程度であってもよい。
グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分との反応は、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成や副反応を抑えるため、出来る限り水分が少ない状態で行ってもよい。反応系(反応の液相系)の水分含有量は、例えば、0.5重量%以下(0(又は検出限界)〜0.4重量%程度)であり、通常、0.3重量%以下、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.0001〜0.18重量%程度)、さらに好ましくは0.15重量%以下(例えば、0.0005〜0.12重量%程度)であってもよい。なお、縮合反応によりグラフト化する場合には、水よりも高沸点の溶媒を用い、共沸などを利用して生成する水を除去しつつ反応を行ってもよい。反応系の水分含有量は、慣用の方法、例えば、減圧乾燥、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)などを利用して各原料や溶媒から水分を除去することにより調整できる。水分含有量は、加熱式水分気化装置を備えたカールフィッシャー式電量法水分測定装置((株)ダイヤインスツルメンツ製、CA−100)を用いて、JISK0113(2005年発行)に準拠して測定できる。
さらに、グラフト鎖の安定性を向上させるために、加水分解安定剤(例えば、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジミドなどのカルボジイミド化合物など)を添加してもよい。加水分解安定剤の割合は、ヒドロキシ酸100重量部に対して、例えば、0.1〜15重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは3〜8重量部程度である。
反応(グラフト化反応)は、常温下で行ってもよいが、通常、加温又は加熱下で行われる。反応温度は、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜180℃(例えば、105〜170℃)であり、通常、110〜160℃程度であってもよい。反応は、攪拌しながら空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウムなどの希ガスなど)中で行うことができ、通常、不活性雰囲気中で行うことができる。また、反応は、常圧又は加圧下で行ってもよい。
本発明では、目的の変性グルカン誘導体を、副生したヒドロキシ酸成分のホモポリマーから分離(単離)するために、反応溶媒を含む反応生成物(重合生成物)に対して親水性溶媒を徐々に添加した後、熟成する析出処理を行う。本発明では、このような析出処理を行うことにより、総置換度の大きいグルカン誘導体に対して高い分子量でヒドロキシ酸成分をグラフトさせた変性グルカン誘導体であっても、前記ホモポリマーと分離でき、目的の変性グルカン誘導体を得ることができる。
析出処理での温度は、例えば、20〜100℃程度の範囲から選択できるが、少なくとも70℃以上(例えば、70〜80℃)の温度で析出処理を行うのが好ましく、温度を変えることによって析出処理を2段階で行うのが特に好ましい。2段階の析出処理では、第1段階の高温析出処理と、第2段階での低温析出処理とを組み合わせてもよい。高温析出処理では、例えば、70〜100℃、好ましくは70〜90℃、さらに好ましくは70〜80℃程度である。低温析出処理では、例えば、20〜60℃、好ましくは25〜55℃、さらに好ましくは30〜50℃程度である。
析出処理では、親水性溶媒を徐々に添加するのが重要であり、親水性溶媒の添加速度が速すぎると、急激な相変化や温度変化によるためか、変性グルカン誘導体同士が凝集して沈殿する前に、副生物であるホモポリマーと共に凝集してゲル状になり、変性グルカン誘導体を単離できない。
添加する親水性溶媒の割合(2段階の析出処理の場合、合計割合)は、重合生成物100重量部に対して、例えば、50〜2000重量部、好ましくは100〜1500重量部、さらに好ましくは300〜1000重量部(特に400〜800重量部)程度である。
親水性溶媒の添加速度は、前記割合の親水性溶媒を、重合生成物100重量部に対して50重量部/分以下であり、例えば、0.3〜50重量部/分、好ましくは1〜40重量部/分、さらに好ましくは5〜30重量部/分程度である。
具体的には、親水性溶媒の添加速度は、重合生成物30gに対して15ml/分以下であり、例えば、0.1〜15ml/分、好ましくは1〜10ml/分、さらに好ましくは2〜8ml/分程度であってもよい。
親水性溶媒を添加した後、同一の温度で所定時間放置することにより、熟成させる。熟成時間(2段階の析出処理の場合、各熟成時間)は、例えば、5〜120分、好ましくは10〜60分、さらに好ましくは20〜40分程度である。
親水性溶媒としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのC1−4アルカノールなど)、アルカンジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどのC2−4アルカンジオールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのC1−4アルキルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテートなどのC1−4アルキルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのC1−4アルキルカルビトールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなどのジC1−4アルキルケトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状又は鎖状C4−6エーテルなど)などが挙げられる。これらの親水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの親水性溶媒のうち、変性グルカン誘導体の析出効果が高い点から、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのC2−4アルカノールが好ましい。
ホモポリマーと分離された重合生成物(反応生成物)は、さらに慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、中和、沈澱などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製してもよい。
(シート化工程)
シート化工程では、押し出し成形、ブロー成形などの溶融成形法(溶融製膜法)、流延成形法(流延製膜法)のいずれの成形方法も利用できるが、通常、流延成形法が利用される。
溶融成形法では、押出機を用いて前記変性グルカン誘導体単独又は変性グルカン誘導体を含む組成物を溶融してダイのスリットからシート状に押出成形し、冷却することによりフィルム又はシートを調製する。溶融成形法ではTダイを利用して押し出し成形する場合が多い。
流延成形法では、前記変性グルカン誘導体を含むドープを流延成形してシートを調製する。より詳細には、前記ドープは、前記変性グルカン誘導体と、この変性グルカン誘導体を可溶な溶媒とで構成でき、溶媒としては、例えば、塩化メチレン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類などの他、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)なども利用できる。ドープ中の変性グルカン誘導体の濃度は、例えば、5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%程度であってもよい。前記ドープを、平滑面を有する剥離性支持体(金属ドラムなど)に流延し、ドープの塗膜中の溶媒を少なくとも部分的に除去し、前記支持体から剥離することにより溶媒を含んでいてもよいシートを得ることができる。
(延伸工程)
延伸工程では、シートの延伸操作は、例えば、機械方向又は縦方向(MD方向)に延伸してもよく、幅方向(TD方向)に延伸してもよく、MD方向及びTD方向に延伸してもよい。延伸は、変性グルカン誘導体のガラス転移温度以上の温度で行うことができ、通常、所定温度(ガラス転移温度+10℃)以下の温度で行うことができる。
なお、溶融製膜法では、ダイからの溶融フィルム又はシートの引き取りによりフィルム又はシートを配向させることもできる。本願明細書では、このような配向も延伸の概念に含めることができる。一方、流延成形法では、シートの延伸操作は、フィルム又はシートから溶媒を除去した後で行われる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
(グラフト体の調製)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に2酢酸セルロース((株)ダイセル製「L−20」、平均置換度2.41)21.0gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン15.8g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液が75℃以下にならないようANON50gを滴下し、滴下完了後75℃にまで冷却した。続いて75℃を維持してイソプロピルアルコール200gを5ml/分の速度でゆっくりと滴下した。30分熟成後40℃まで冷却し、40℃を維持してイソプロピルアルコール250gを5ml/分の速度で滴下後さらに30分熟成した。さらに析出した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、40℃、10時間、2Torrで減圧乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は1.15、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.14、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は8.15、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.45であった。。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体13.89g、ジクロロメタン72.22g、及びメタノール13.89gを密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを24時間静置しドープ中の泡を除いた。
泡を除いたドープを、ガラス板上にバーコーターを用いて流延し、直ちに40℃、28%RH以下に管理した乾燥機にて30分間乾燥させた後、ガラス板からシートを剥離した。次いでシートをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で30分間乾燥させてシートを得た。
得られたシートを、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に破断するまで延伸させたところ、延伸倍率3.2倍にフィルム破断点を確認した。
また、得られたシート(未延伸シート)を、引張試験機(オリエンテック(株)製「UCT−5T」)及び環境ユニット(オリエンテック(株)製「TLF−U3」)を用いて、155℃で幅方向に2.0倍延伸させた。得られた膜厚165μmのフィルム(2.0倍延伸フィルム)の波長分散性(波長依存性)を、自動複屈折率計(王子計測機器(株)製「KOBRA−WPR」)を用い、23℃、50%RHの雰囲気下で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.83、Re(450nm)/Re(550nm)=0.88、Re(650nm)/Re(550nm)=1.06、Re(550nm)=187.0nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[実施例2]
実施例1で得られたシート(未延伸シート)を、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に3.0倍延伸させた。得られた膜厚132μmのフィルム(3.0倍延伸フィルム)の波長分散性(波長依存性)を、自動複屈折率計(KOBRA−WPR)を用いて実施例1の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.83、Re(450nm)/Re(550nm)=0.88、Re(650nm)/Re(550nm)=1.06、Re(550nm)=238.7nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。さらに、実施例1の結果より延伸倍率増加に伴い位相差が増加するが、波長分散特性[Re(x nm)/Re(y nm)]は維持していることを確認した。
[比較例1]
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に2酢酸セルロース(L−20)10.5g、3酢酸セルロース((株)ダイセル製「FRM」、平均置換度2.81)10.5gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン10.7g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、実施例1と同様の操作を行うことで、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.42、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.08、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は5.10、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.30であった。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体を実施例1と同様の条件で溶解、流延し、シートを得た。
得られたシートを、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に破断するまで延伸させたところ、延伸倍率2.2倍にフィルム破断点を確認した。
また、得られたシート(未延伸シート)を、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に1.5倍延伸させた。得られた膜厚100μmのフィルム(1.5倍延伸フィルム)の波長分散性(波長依存性)を、自動複屈折率計(KOBRA−WPR)を用いて実施例1の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.77、Re(450nm)/Re(550nm)=0.83、Re(650nm)/Re(550nm)=1.08、Re(550nm)=78.3nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認したが、位相差の絶対値が実施例1及び2で得られたフィルムに比べ低い値となった。
[比較例2]
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に2酢酸セルロース(L−20)5.3g、3酢酸セルロース(FRM)15.7gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン10.5g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、実施例1と同様の操作を行うことで、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、40℃、10時間、2Torrで減圧乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.59、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.10、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は6.02、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.19であった。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体を実施例1と同様の条件で溶解、流延し、シートを得た。
得られたシートを、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に延伸させたところ、延伸倍率2.2倍にフィルム破断点を確認した。
また、得られたシート(未延伸シート)を、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に1.5倍延伸させて得られた膜厚100μmのフィルムの波長分散性(波長依存性)を、自動複屈折率計(KOBRA−WPR)を用いて実施例1の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.55、Re(450nm)/Re(550nm)=0.64、Re(650nm)/Re(550nm)=1.16、Re(550nm)=54.2nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認したが、位相差の絶対値が実施例1及び2で得られたフィルムに比べ低い値となった。
[比較例3]
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(平均置換度2.58)21.0gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン10.5g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、実施例1と同様の操作を行うことで、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、40℃、10時間、2Torrで減圧乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.82、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.071、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は11.5、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.35であった。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体を実施例1と同様の条件で溶解、流延し、シートを得た。
得られたシートを、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に延伸させたところ、延伸倍率2.0倍にフィルム破断点を確認した。
[比較例4]
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に2酢酸セルロース(L−20)21.0gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン10.7g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液が75℃以下にならないようANON50gを滴下し、滴下完了後75℃にまで冷却した。続いてイソプロピルアルコール200gを20ml/分の速度で滴下したところ液温が65℃に低下しゲル状の沈澱が析出した。再度75℃に昇温しても析出物が再溶解しなかった。続いて40℃まで冷却し、40℃を維持してイソプロピルアルコール250gを5ml/分の速度で滴下後さらに30分熟成したが、析出した沈殿物(グラフト体)を濾別しようとしたところ、塊状でろ過性が悪く溶媒及びε−カプロラクトンの単独重合体を除去できなかった。
[比較例5]
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に2酢酸セルロース(L−20)21.0gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン21.0g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液が75℃以下にならないようANON50gを滴下し、滴下完了後75℃にまで冷却した。続いてイソプロピルアルコール200gを5ml/分の速度で滴下したが沈澱物は析出しなかった。30分熟成後、冷却を開始したところ55℃で塊状の沈澱(グラフト体)が析出したため溶媒及びε−カプロラクトンの単独重合体を除去できなかった。40℃、10時間、2Torrで減圧乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は1.48、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.14、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は8.15、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.45であった。しかし、この測定結果にはε−カプロラクトンの単独重合体の積分値が含まれるため見かけ上の測定値であり、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)単独の構造は分析できなかった。
[比較例6]
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に3酢酸セルロース(FRM)21.0gを加え、90℃、10時間、2Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)150.0g重量部を加えて110℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。さらに混合液を130℃に加熱してANONと共に溶存する水を留去した。この溶液に事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン10.5g、N,N’−ジ(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド0.82g、モノブチルスズトリオクチレート0.32gを添加し、125℃で5時間撹拌しながら加熱した。その後、実施例1と同様の操作を行うことで、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、40℃、10時間、2Torrで減圧乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.49、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.08、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は5.98、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.11であった。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体を実施例1と同様の条件で溶解、流延し、シートを得た。
得られたシートを、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、155℃で幅方向に延伸させたところ、延伸倍率1.4倍にフィルム破断点を確認した。
そこで、得られたシート(未延伸シート)を、引張試験機(UCT−5T)及び環境ユニット(TLF−U3)を用いて、延伸温度を高め、170℃で幅方向に1.5倍延伸させて得られた膜厚100μmのフィルムの波長分散性(波長依存性)を、自動複屈折率計(KOBRA−WPR)を用いて実施例1の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.06、Re(450nm)/Re(550nm)=0.09、Re(650nm)/Re(550nm)=1.44、Re(550nm)=11.0nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認したが、位相差の絶対値が実施例1〜2及び比較例1〜2で得られたフィルムに比べ低い値となった。特に550nm以下の低波長領域においてほとんど複屈折を示さなかった。
実施例及び比較例で得られた結果を表1に示す。
Figure 2014203069
なお、表1中の略号は以下の通りである。
DAC:2酢酸セルロース
TAC:3酢酸セルロース
CL仕込み量(対CA):酢酸セルロースに対するカプロラクトンの仕込量
DS(Ac):アセチル基の平均置換度
DS(CL):カプロラクトンによるグラフト鎖の平均置換度
DPn:カプロラクトンによるグラフト鎖の平均重合度
Total DS:総置換度
MS:カプロラクトンの平均付加モル数
本発明の位相差フィルムは、光線の位相差を補償するのに適しており、光学素子(光学補償フィルム、反射防止フィルムなど)として種々の光学装置に利用できる。特に、液晶や偏光板の透過により位相にずれが生じるため、液晶表示装置での位相差フィルムなどの光学補償フィルムとして有用である。より具体的には、位相差フィルムと偏光板(又は偏光フィルム、偏光子)とを積層し、円偏光又は楕円偏光板を構成してもよい。なお、1/4波長板と偏光板との積層により円偏光板を構成でき、1/2波長板と偏光板との積層により楕円偏光板を構成できる。位相差フィルムは偏光板(又は偏光フィルム)の少なくとも一方の面に積層すればよく、偏光板の両面に積層してもよい。このような積層フィルムでは、位相差フィルムがグルカン誘導体で構成されているため、位相差フィルムにより偏光板の保護フィルムとしての機能も発現できる。そのため、本発明の位相差フィルムは、偏光板用保護フィルムなどの保護フィルムとしても有用である。

Claims (10)

  1. グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト重合したヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を含む位相差フィルムであって、
    ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度が0.1以上であり、
    ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均重合度が7以上であり、かつ
    グルカン誘導体のグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸成分がヒドロキシ酸換算で平均1モル以上の割合でグラフトしている位相差フィルム。
  2. グルカン誘導体がセルロースアシレートであり、アシル基の平均置換度とヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度との合計が2.4以上である請求項1記載の位相差フィルム。
  3. ヒドロキシ酸成分がC4−10ラクトンである請求項1又は2記載の位相差フィルム。
  4. 1倍を超え3.5倍以下の延伸倍率で延伸されたフィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
  5. 波長450nmの位相差値が110〜250nmであり、かつ波長650nmの位相差値が150〜280nmである請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
  6. 1/4波長板又は1/2波長板である請求項1〜5のいずれかに記載の位相差フィルム。
  7. グルカン誘導体のヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分をグラフト重合する重合工程、得られたヒドロキシ酸変性グルカン誘導体を流延製膜法又は溶融製膜法でシート化するシート化工程、得られたシートを延伸する延伸工程を含む請求項1〜6のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
  8. 延伸工程において1倍を超え3.5倍以下の延伸倍率で延伸する請求項7記載の製造方法。
  9. 重合工程において、重合生成物100重量部に対して50〜2000重量部の親水性溶媒を50重量部/分以下の速度で添加した後、熟成する請求項7又は8記載の製造方法。
  10. 請求項1〜6のいずれかに記載の位相差フィルムと偏光板とが積層された円偏光又は楕円偏光板。
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