JP4094819B2 - セルロースアシレートフイルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースアシレートフイルムおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアシレートフイルムは、その強靭性と難燃性から各種の写真材料や光学材料に用いられている。セルロースアシレートフイルムは、代表的な写真感光材料の支持体である。また、セルロースアシレートフイルムは、その光学的等方性から、近年市場の拡大している液晶表示装置にも用いられている。液晶表示装置における具体的な用途としては、偏光板の保護フイルムおよびカラーフィルターが代表的である。
【0003】
セルロースアシレートフイルムは、一般にソルベントキャスト法またはメルトキャスト法により製造する。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。メルトキャスト法では、セルロースアシレートを加熱により溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフイルムを形成する。ソルベントキャスト法の方が、メルトキャスト法よりも平面性の高い良好なフイルムを製造することができる。このため、実用的には、ソルベントキャスト法の方が普通に採用されている。ソルベントキャスト法については、多くの文献に記載がある。最近のソルベントキャスト法では、ドープを支持体上へ流延してから、支持体上の成形フイルムを剥離するまでに要する時間を短縮して、製膜工程の生産性を向上させることが課題になっている。例えば、特公平5−17844号公報には、高濃度ドープを冷却ドラム上に流延することにより、流延後、剥ぎ取りまでの時間を短縮することが提案されている。
【0004】
ソルベントキャスト法に用いる溶媒は、単にセルロースアシレートを溶解することだけでなく、様々な条件が要求される。平面性に優れ、厚みの均一なフイルムを、経済的に効率よく製造するためには、適度な粘度とポリマー濃度を有する保存安定性に優れた溶液(ドープ)を調製する必要がある。ドープについては、ゲル化が容易であることや支持体からの剥離が容易であることも要求される。そのようなドープを調製するためは、溶媒の種類の選択が極めて重要である。溶媒については、蒸発が容易で、フイルム中の残留量が少ないことも要求される。
セルロースアシレートの溶媒として様々な有機溶媒が提案されている。実用化されている有機溶媒としては実質的にはメチレンクロリドに限定されるが、メチレンクロリドはその環境適性、沸点等の問題を有しておりその代替となるような溶媒の探索が行なわれている。
【0005】
J.M.G.Cowie他の論文、Makromol,chem.,143巻、105頁(1971年)は、置換度2.80から置換度2.90のセルロースアシレートを、アセトン中で−80℃から−70℃に冷却した後、加温することにより、アセトン中にセルロースアシレートが0.5乃至5質量%に溶解している希薄溶液が得られたことを報告している(ただし、ここでのアシル基はアセチル基に限定されている)。以下、このように、セルロースアシレートと有機溶媒との混合物を冷却して、溶液を得る方法を「冷却溶解法」と称する。また、セルロースアシレートのアセトン中への溶解については、上出健二他の論文「三酢酸セルロースのアセトン溶液からの乾式紡糸」、繊維機械学会誌、34巻、57頁(1981年)にも記載がある。この論文は、その標題のように、冷却溶解法を紡糸方法の技術分野に適用したものである。論文では、得られる繊維の力学的性質、染色性や繊維の断面形状に留意しながら、冷却溶解法を検討している。この論文では、繊維の紡糸のために10乃至25質量%の濃度を有するセルロースアセテートの溶液を用いている。
また、上記冷却溶解以外にも、混合物を高温、高圧条件下で溶解させる「高温溶解法」が提案されている。
【0006】
このようにして、様々な溶媒に溶解されたセルロースアシレート溶液(ドープ)を支持体上に流延し、支持体からフイルムを剥離、乾燥する流延法においては、得られたセルロースアシレートフイルムの面状が良好でないことが多々あった。すなわち、ドープの粘度が高いために流延時の筋等が平滑化されずに残存してしまい、表面が平滑でなかったり、時には筋状故障として認識されてしまう。良好な面状を得るためには、ドープを希釈するか、乾燥を温和な条件で行なうことにより表面の平滑化を行なうしかなく、面状を対策することにより製造コストの上昇、製造速度の低下等の問題が発生することとなり、その対策が求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、面状の優れたセルロースアシレートフイルムを製造することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、下記の手段(1)〜(9)により解決できる。
(1)2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフイルム。
【0009】
(2)アシル基がアセチル基である(1)に記載のセルロースアシレートフイルム。
(3)セルロースアシレートフイルムが二層以上の多層構造を有し、セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の側の外部層の厚さが1乃至50μmである(1)に記載のセルロースアシレートフイルム。
【0010】
(4)可塑剤または紫外線吸収剤を含む(1)に記載のセルロースアシレートフイルム。
(5)2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートが溶剤中に溶解しているセルロースアシレート溶液を支持体上に流延して、セルロースアシレートフイルムを形成することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0011】
(6)溶剤が、実質的に非塩素系の溶剤である(5)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(7)セルロースアシレート溶液、水溶液中での酸解離指数が1.93〜4.50である酸、そのアルカリ金属塩またはそのアルカリ土類金属塩を含む(5)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0012】
(8)セルロースアシレートと溶剤の混合物を、−80乃至−10℃の温度に冷却するか、あるいは80乃至220℃の温度に加熱することにより、セルロースアシレートを溶剤中に溶解することによりセルロースアシレート溶液を調製する(5)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
(9)共流延法により二層以上の層を流延する(5)に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
セルロースアシレートの原料セルロースには、綿花リンターや木材パルプがある。二種類以上の原料セルロースを混合して使用してもよい。セルロースアシレートは、アセチル基または炭素原子数3〜22のアシル基を有するセルロースアシレートである。炭素原子数3〜22のアシル基の例には、プロパノイル基(C2 H5 CO−)、ブタノイル基(C3 H7 CO−)(n−、iso-)、バレロイル基(C4 H9 CO−)(n−、iso-、sec-、tert−)、オクタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイルおよびオレオロイルが含まれる。プロパノイルおよびブタノイルが好ましい。
セルローストリアセテートが、最も好ましいセルロースアシレートである。
【0014】
アシル基のアシル化剤が酸無水物や酸クロライドである場合、反応溶媒としての有機溶媒が用いられる。有機溶媒の例には、有機酸(例、酢酸)やメチレンクロライドが使用される。水酸基の置換度は、2.6〜3.0が好ましい。セルロースアシレートの重合度(粘度平均)は、200〜700が好ましく、250〜550がさらに好ましい。セルロースアシレートの含水率は、2質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明では、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートを用いる。
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有しておいる。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を酢酸によりエステル化したポリマーである。アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は、1.00)を意味する。本発明が用いるセルロースアシレートでは、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上である。
【0016】
2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以下の場合、フイルムが吸湿しやすくなり、加水分解を受けやすくなるためフイルムの耐久性が低下する。また、湿度等による寸法変化も大きくなる。逆に、1.90以上であるとセルロースアシレートの有機性が上がるため溶媒との親和性が増大し、ドープの粘度が上昇してしまう。従って、2位、3位のアシル置換度の合計は1.70以上、1.90以下であることが好ましく、1.75以上1.88以下であることがさらに好ましい。
一方、6位のアシル置換度は0.88以上であることが必要であり、0.88よりも小さくなると溶剤への溶解性が著しく低下するため好ましくない。これは6位の水酸基が2位、3位の水酸基と異なり一級水酸基であるため、水酸基の水素結合が極めて起こりやすいことに起因する。なお、6位のアシル置換度の範囲は合成適性を考慮すると0.88以上0.99以下が好ましく、0.89以上0.98以下がさらに好ましい。
【0017】
なお、特開平11−5851号公報には、2位、3位、6位のアセチル置換基の合計が2.67以上であり、2位、3位のアセチル置換基の合計が1.97以下のセルロースアセテートが記載されている。2位と3位の合計が1.90を超える範囲はフイルムの光学適性からは好ましい。ただし、ドープの粘度の観点からは1.90以下の方がより好ましい。
【0018】
セルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、無水酢酸−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、木材パルプ等のセルロース原料を適当量の有機酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記アシル化混液は、一般に、溶媒としての有機酸、エステル化剤としての無水有機酸および触媒としての硫酸を含む。無水有機酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水有機酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことにより、ケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは、中和することなく、水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0019】
通常のセルロースアシレートの合成方法では、2位または3位のアシル置換度の方が、6位のアシル置換度よりも高い値になる。そのため、2位、3位のアシル置換度の合計が1.90以下をとし、かつ6位のアシル置換度を0.88以上とするためには、前記の反応条件を特別に調節する必要がある。具体的な反応条件としては、硫酸触媒の量を減らし、アシル化反応の時間を長くすることが好ましい。硫酸触媒が多いと、アシル化反応の進行が速くなるが、触媒量に応じてセルロースとの間に硫酸エステルが生成し、反応終了時に遊離して残存水酸基を生じる。硫酸エステルは、反応性が高い6位により多く生成する。そのため、硫酸触媒が多いと6位のアシル置換度が小さくなる。従って、本発明に用いるセルロースアシレートを合成するためには、可能な限り硫酸触媒の量を削減し、それにより低下した反応速度を補うため、反応時間を延長する必要がある。
【0020】
セルロースアシレートフイルムは、フイルムを構成するポリマー成分が実質的に上記の定義を有するセルロースアセテートからなることが好ましい。『実質的に』とは、ポリマー成分の90重量%以上(好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、最も好ましくは99重量%以上)を意味する。フイルムの製造の原料としては、セルロースアセテート粒子を使用することが好ましい。使用する粒子の90重量%以上は、1乃至4mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50重量%以上が2乃至3mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアセテート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0021】
ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートドープを用いてフイルムを製造する。ドープの調製に用いる有機溶媒は、実質的に非塩素系の溶剤であることが望ましい。「実質的に非塩素系」とは、構造式中に塩素原子を1つ以上含む溶剤(例、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン)の含有率が40vol%以下であることが好ましく、15vol%以下であることがより好ましく、5vol%以下であることがさらに好ましく、1vol%以下であることがさらにまた好ましく、0vol%であることが最も好ましい。
非塩素系溶剤は、炭素原子数3乃至12の化合物からなることが。溶剤は、エステル、エーテル、ケトンおよびアルコールからなる群より選ばれることがこのましい。エステル、エーテル、ケトンおよびアルコールは、直鎖構造、分枝構造あるいは環状構造を有していてもよい。エステル、エーテル、ケトンおよびアルコールの官能基(すなわち、−COO−、−O−、−CO−および−OH)のいずれか二つ以上を有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0022】
エステルの例には、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチルおよび酢酸エチルが含まれる。蟻酸メチル、蟻酸エチルおよび酢酸メチルが好ましく、酢酸メチルがさらに好ましい。
ケトンの例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンが挙げられる。アセトン、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンが好ましく、アセトンおよびシクロペンタノンがさらに好ましい。
エーテルの例には、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノールが含まれる。メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールおよび1−ブタノールが好ましく、メタノールおよびエタノールがさらに好ましい。
エステルおよびケトンは、溶解度パラメーターが19乃至21であることが好ましい。
【0023】
二種類以上の溶剤を混合して用いてもよい。溶解度パラメーターが19乃至21であるエステルと溶解度パラメーターが19乃至21であるケトンとを混合して用いることが好ましい。エステルおよびケトンに加えて、アルコールを混合することが好ましい。
溶媒の組み合わせとしては、酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/エタノール(60/15/15/5/5、質量部)、酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール(75/15/5/5、質量部)、酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/1−ブタノール(70/20/5/5、質量部)およびギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)が好ましく、酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール (75/15/5/5、質量部)、酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/エタノール(80/10/5/5、質量部)がさらに好ましい。
【0024】
セルロースアシレート溶液を作成するには、室温下でタンク中の溶剤を撹拌しながら上記セルロースアシレートを添加することでまず溶剤への膨潤を行う。膨潤時間は最低10分以上が必要であり、10分以下では不溶解物が残存する。また、セルロースアシレートを充分に膨潤させるためには溶剤の温度は0〜40℃が好ましい。0℃以下では膨潤速度が低下し不溶解物が残存する傾向にある、40℃以上では膨潤が急激に起こるために中心部分が充分に膨潤しない。
膨潤工程の後にセルロースアシレートを溶解するには、冷却溶解法、高温溶解法のいずれか、あるいは両方を用いることが好ましい。
【0025】
冷却溶解法は、まず室温近辺の温度(−10〜40℃)で有機溶剤中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。主溶剤(例、エステル、ケトン)中にセルロースアシレートを添加した後に、補助溶剤(例、アルコール)を添加してもよい。また、補助溶剤(例、アルコール)で予めセルロースアシレートを湿らせた後に、主溶剤を加えてもよい。セルロースアシレートの量は、混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物は−100乃至−10℃、より好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃に冷却される。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。冷却速度は、速いほど好ましく、100℃/秒以上が好ましい。また冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。
冷却後に、0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶剤中にセルロースアシレートが溶解した溶液が得られる。加温は、室温中に放置するだけでもよい。また、冷却混合物を、温浴中で加温してもよい。
冷却時に加圧し、加温時に減圧すると溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
冷却および加温の操作は、2回以上繰り返してもよい。
【0026】
高温溶解法では、室温近辺の温度(−10〜40℃)で有機溶剤中に、セルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。主溶剤(例、エステル、ケトン)中にセルロースアシレートを添加した後に、補助溶剤(例、アルコール)を添加してもよい。また、補助溶剤(例、アルコール)で予めセルロースアシレートを湿らせた後に、主溶剤を加えてもよい。セルロースアシレートを混合有機溶剤中に予め添加して膨潤させることもできる。−10〜40℃でいずれかの溶剤中に、セルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加してもよいし、場合により特定の溶剤で予め膨潤させその後に他の併用溶剤を加えて混合し均一の膨潤液としてもよく、二種以上の溶剤で膨潤させしかる後に残りの溶剤を、加えても良い。
セルロースアシレートの溶解濃度は5質量%〜30質量%が好ましく、より好ましくは15質量%〜30質量%、さらにこのましくは17質量%〜25質量%である。
次にセルロースアシレートと溶剤混合液は、耐圧容器内で0.2Mpa〜30Mpaの加圧下で70〜240℃、より好ましくは80〜220℃、更に好ましくは100〜200℃、最も好ましくは100〜190℃に加熱される。
この後、使用した溶剤の最も低い沸点以下に冷却する。その場合、−10〜50℃に冷却して常圧に戻すことが一般的である。冷却は室温に放置するだけでもよく、更に好ましくは冷却水などの冷媒を用いてもよい。
加熱および冷却の操作は、二回以上繰り返しても良い。
【0027】
セルロースアシレートを低い濃度に溶解してから、濃縮してもよい。セルロースアシレート溶液を調製する際に、容器内に窒素ガスなどの不活性ガスを充満させ、防爆対応することが好ましい。セルロースアシレート溶液の製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲で調整する。粘度は、10Pa・s〜2000Pa・sの範囲であることが好ましく、30Pa・s〜400Pa・sであることがさらに好ましい。なお、流延時の温度は、−5〜70℃であることが好ましく、−5〜55℃であることがさらに好ましい。セルロースアシレート溶液の濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。
【0028】
セルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤を加えることができる。それらの添加剤は、可塑剤、紫外線防止剤や劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)である。
可塑剤の例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)およびクエン酸アセチルトリエチルが含まれる。光学的異方性を小さくする可塑剤として、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類(特開平11−124445号公報記載)、グリセロールエステル類(特開平11−246704号公報記載)、ジグリセロールエステル類(特開2000−63560号公報記載)、クエン酸エステル類(特開平11−92574号公報記載)あるいは置換フェニルリン酸エステル類(特開平11−90946号公報記載)を用いてもよい。可塑剤は、2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量は、セルロースアシレートに対して5〜30質量%であることが好ましく、8〜16質量%がさらに好ましい。
【0029】
劣化防止剤や紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。劣化防止剤の例には、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が含まれる。紫外線吸収剤は、波長370nm以下の紫外線の吸収能があり、かつ波長400nm以上の可視光の吸収が少ない化合物が好ましい。紫外線吸収剤の例には、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物およびニッケル錯塩系化合物が含まれる。ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が好ましい。
劣化防止剤や紫外線防止剤の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜10000ppmが好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0030】
セルロースアシレートフイルムの面内のレターデーション(Re)は0〜300nmの範囲が好ましい。フイルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)は、厚さ100μm当たり、0nm〜600nmであることが好ましく、0nm〜400nmであることがさらに好ましく、0nm〜250nmであることが最も好ましい。
【0031】
セルロースアシレート溶液を流延する前に剥離剤を添加することができる。剥離剤は、水溶液中での酸解離指数(pKa)が1.93〜4.50である酸、そのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が好ましい。
酸は、無機酸および有機酸のいずれも用いることができる。
無機酸の例には、HClO2 (2.31)、HOCN(3.48)、モリブデン酸(H2 MoO4 、3.62)、HNO2 (3.15)、リン酸(H3 PO4 、2.15)、トリリン酸(H5 P3 O10、2.0)およびバナジン酸(H3 VO4 、3.78)が含まれる。なお、かっこ内の数値は、水溶液中での酸解離指数(pKa)である(以下の酸も同様)。
有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸およびリン酸が代表的である。
カルボン酸には、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族多価カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド酸、ケトン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、複素環式モノカルボン酸、複素環式多価カルボン酸およびアミノ酸が含まれる。
【0032】
脂肪族モノカルボン酸の例には、ギ酸(3.55)、オキサロ酢酸(2.27)、シアノ酢酸(2.47)、フェニル酢酸(4.10)、フェノキシ酢酸(2.99)、フルオロ酢酸(2.59)、クロロ酢酸(2.68)、ブロモ酢酸(2.72)、ヨード酢酸(2.98)、メルカプト酢酸(3.43)、ビニル酢酸(4.12)、クロロプロピオン酸(2.71−3.92)、4−アミノ酪酸(4.03)およびアクリル酸(4.26)が含まれる。
脂肪族多価カルボン酸の例には、マロン酸(2.65)、コハク酸(4.00)、グルタル酸(4.13)、アジピン酸(4.26)、ピメリン酸(4.31)、アゼライン酸(4.39)、フマル酸(2.85)が含まれる。
オキシカルボン酸の例には、グリコール酸(3.63)、乳酸(3.66)、リンゴ酸(3.24)、酒石酸(2.82−2.99)およびクエン酸(2.87)、
アルデヒド酸の例には、グリオキシル酸(3.18)が含まれる。
ケトン酸の例には、ピルビン酸(2.26)およびレブリン酸(4.44)が含まれる。
【0033】
芳香族モノカルボン酸の例には、アニリンスルホン酸(3.74−3.23)、安息香酸(4.20)、アミノ安息香酸(2.02−3.12)、クロロ安息香酸(2.92−3.99)、シアノ安息香酸(3.60−3.55)、ニトロ安息香酸(2.17−3.45)、ヒドロキシ安息香酸(4.08−4.58)、アニス酸(4.09−4.48)、フルオロ安息香酸(3.27−4.14)、クロロ安息香酸、ブロモ安息香酸(2.85−4.00)、ヨード安息香酸(2.86−4.00)、サリチル酸(2.81)、ナフトエ酸(3.70−4.16)、ケイ皮酸(3.88)およびマンデル酸(3.19)が含まれる。
芳香族多価カルボン酸の例には、フタル酸(2.75)、イソフタル酸(3.50)およびテレフタル酸(3.54)が含まれる。
複素環式モノカルボン酸の例には、ニコチン酸(2.05)および2−フランカルボン酸(2.97)が含まれる。
複素環式多価カルボン酸の例には、2,6−ピリジンジカルボン酸(2.09)が含まれる。
【0034】
アミノ酸には、通常のアミノ酸に加えて、アミノ酸誘導体(置換基を有するアミノ酸やオリゴペプチドも含まれる。アミノ酸の例には、アスパラギン(2.14)、アスパラギン酸(1.93)、アデニン(4.07)、アラニン(2.30)、β−アラニン(3.53)、アルギニン(2.05)、イソロイシン(2.32)、グリシン(2.36)、グルタミン(2.17)、グルタミン酸(2.18)、セリン(2.13)、チロシン(2.17)、トリプトファン(2.35)、トレオニン(2.21)、ノルロイシン(2.30)、バリン(2.26)、フェニルアラニン(2.26)、メチオニン(2.15)、リシン(2.04)、ロイシン(2.35)、アデノシン(3.50)、アデノシン三リン酸(4.06)、アデノシンリン酸(3.65−3.80)、L−アラニル−L−アラニン(3.20)、L−アラニルグリシン(3.10)、β−アラニルグリシン(3.18)、L−アラニルグリシルグリシン(3.24)、β−アラニルグリシルグリシン(3.19)、L−アラニルグリシルグリシルグリシン(3.18)、グリシル−L−アラニン(3.07)、グリシル−β−アラニン(3.91)、グリシルグリシル−L−アラニン(3.18)、グリシルグリシルグリシン(3.20)、グリシルグリシルグリシルグリシン(3.18)、グリシルグリシル−L−ヒスチジン(2.72)、グリシルグリシルグリシル−L−ヒスチジン(2.90)、グリシル−DL−ヒスチジルグリシン(3.26)、グリシル−L−ヒスチジン(2.54)、グリシル−L−ロイシン(3.09)、γ−L−グルタミル−L−システイニルグリシン(2.03)、N−メチルグリシン(サルコシン、2.20)、N、N−ジメチルグリシン(2.08)、シトルリン(2.43)、3、4−ジヒドロキシフェニルアラニン(2.31)、L−ヒスチジルグリシン(2.84)、L−フェニルアラニルグリシン(3.02)、L−プロリルグリシン(3.07)およびL−ロイシル−L−チロシン(3.15)が含まれる。
【0035】
また、スルホン酸やリン酸も、剥離剤として用いることができる。
界面活性剤(特開昭61−243837号公報記載)も、剥離剤として用いることができる。剥離剤として用いられる界面活性剤の例には、C12H25O−P(=O)−(OK)2 、C12H25OCH2 CH2 O−P(=O)−(OK)2 および(iso-C9 H19)2 −C6 H3 −O−(CH2 CH2 O)3 −(CH2 )4 SO3 Naが含まれる。
【0036】
酸は、遊離酸ではなく、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の状態で用いてもよい。アルカリ金属の例には、リチウム、カリウムおよびナトリウムが含まれる。ナトリウムが特に好ましい。アルカリ土類金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウムおよびストロンチウムが含まれる。カルシウムおよびマグネシウムが特に好ましい。アルカリ金属の方が、アルカリ度類金属よりもより好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属は、二種以上を組み合わせて使用してもよい。アルカリ金属とアルカリ土類金属とを併用してもよい。
【0037】
酸または金属塩の総含有量は、剥離性や透明性などを損なわない範囲で決定する。含有量は、セルロースアシレート1g当たり、1×10-9〜3×10-5モルであることが好ましく、1×10-8〜2×10-5モルであることがより好ましく、1×10-7〜1.5×10-5モルであることがさらに好ましく、5×10-7〜1×10-5モルであることがさらにまた好ましく、6×10-7〜8×10-6モルであることが最も好ましい。
【0038】
微粒子(マット剤)を添加してフイルムの軋みを防止することもできる。微粒子は、無機物質からなることが好ましい。無機物質の例には、シリカ、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、マンガンコロイド、二酸化チタン、硫酸ストロンチウムバリウム、二酸化ケイ素、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)の塩が含まれる。微粒子の添加によるフイルム表面の突起物の平均高さは、0.005〜10μmであることが好ましく、0.01〜5μmであることがさらに好ましい。微粒子の形状は、球形または不定形であることが好ましい。フイルム中の微粒子の含有量は、0.5〜600mg/m2 であることが好ましく、1〜400mg/m2 であることがさらに好ましい。
【0039】
流延前の溶液は、適当な濾材(例、金網、紙、ネル)を用いて、異物(例、未溶解物、ゴミ、不純物)を除去しておくことが好ましい。溶液濾過に用いるフィルターの絶対濾過精度は、0.05〜100μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。濾過圧力は、16kg/cm2 以下であることが好ましく、12kg/cm2 以下であることがより好ましく、10kg/cm2 以下であることがさらに好ましく、2kg/cm2 以下であることが最も好ましい。
【0040】
セルロースアシレートフイルムを製造する方法および設備は、従来のセルローストリアセテートフイルム製造に供する溶液流延製膜方法と溶液流延製膜装置が使用できる。溶解タンク(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)をストックタンクで一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡したり最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の支持体の上に均一に流延され、支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、各種の層(下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層)を支持体へ設けるために、塗布装置が付加されることが多い。
【0041】
得られたセルロースアシレート溶液を、支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に流延する。複数のセルロースアシレート液を、逐次流延あるいは共流延して二層以上のセルロースアシレートフイルムを製造してもよい。例えば、複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフイルムを作製してもよい(特開平11−198285号公報記載)。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってフイルム化する方法(特開平6−134933号公報記載)も実施できる。また、高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフイルム流延方法(特開昭56−162617号公報記載)でもよい。このような共流延を行なうことにより、前述の様に表面の乾燥における平滑化が進行するため面状の大幅な改良が期待できる。共流延の場合の膜厚は、各層の厚さは特に限定されないが、好ましくは外部層が内部層より薄いことが好ましく用いられる。その際の外部層の膜厚は、1〜50μmが好ましく、特に好ましくは1〜30μmである。ここで、表面層とは、2層の場合はバンド面(ドラム面)ではない面、3層以上の場合は完成したフイルムの両表面側の層を示す。内部層とは、2層の場合はバンド面(ドラム面)。3層以上の場合は表面層より内側に有る層を示す。
セルロースアシレート溶液は、他の機能層(例、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層)と同時に流延することできる。
【0042】
乾燥工程における乾燥温度は、30〜250℃が好ましく、40〜180℃がさらに好ましい。乾燥工程については、特公平5−17844号公報に記載がある。フイルムを、積極的に幅方向に延伸する方法(特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号の各公報記載)を採用してもよい。フイルムの延伸は、一軸延伸または二軸延伸が採用できる。フイルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、10〜30%であることが好ましい。
【0043】
出来上がり(乾燥後)のセルロースアシレートフイルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常5〜500μmの範囲であり、更に20〜250μmの範囲が好ましく、特に30〜180μmの範囲が最も好ましい。なお、光学用途としては30〜110μmの範囲が特に好ましい。フイルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力や支持体速度を調節すればよい。
【0044】
セルロースアシレートフイルムの表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフイルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着を改善してもよい。表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理が含まれる。酸またはアルカリ処理が好ましく、アルカリ処理がさらに好ましい。酸またはアルカリ処理は、セルロースアシレートフイルムに対して、鹸化処理として機能する。
アルカリ鹸化処理は、フイルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥する手順で行われることが好ましい。アルカリ溶液は、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの規定濃度は0.1N〜3.0Nであることが好ましく、0.5N〜2.0Nがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃が好ましく、30℃〜70℃がさらに好ましい。次に一般には水洗され、しかる後に酸性水溶液を通過させた後に水洗して表面処理したセルロースアシレートフイルムを得る。この時、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などであり、その濃度は0.01N〜3.0Nが好ましく、0.05N〜2.0Nがさらに好ましい。そして、セルロースアシレートフイルム支持体と機能層との接着を達成するために、下塗層(接着層)を設けこの上に機能層を塗布することも好ましい。
【0045】
偏光板用保護膜の構成においては、セルロースアシレートフイルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることが好ましい。導電性素材としては、導電性金属酸化物や導電性ポリマーが好ましい。なお、蒸着やスパッタリングによる透明導電性膜でもよい。導電性層は、最外層でもよいし、内部層でも問題はない。導電層の送電性は、抵抗が100 〜1012Ωであることが好ましく、特には100 〜1010Ωであることが好ましい。金属酸化物が好ましい。金属酸化物の例には、ZnO、TiO2 、SnO2 、Al2 O3 、In2 O3 、SiO2 、MgO、BaO、MoO2 、V2 O5 および複合酸化物が含まれる。ZnO、SnO2 およびV2 O5 5が好ましい。導電性イオン性高分子化合物の例には、主鎖中に解離基をもつアイオネン型ポリマー、側鎖中にカチオン性解離基をもつカチオン性ペンダント型ポリマーが含まれる。導電性材料としては、有機電子伝導性材料が好ましい。有機電子伝導性材料の例には、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体およびポリアセチレン誘導体が含まれる。
【0046】
セルロースアシレートフイルムのいずれかの機能性層に、界面活性剤を好ましく添加できる。ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤およびベタイン性界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤も用いることができる。界面活性剤は、有機溶媒中で塗布剤や、帯電防止剤として機能させることができる。
セルロースアシレートフイルムの上のいずれかの層に滑り剤を含有させることが好ましい。滑り剤の例には、ポリオルガノシロキサン(特公昭53−292号公報記載)、高級脂肪酸アミド(米国特許4275146号明細書記載)、高級脂肪酸エステル(英国特許927446号明細書、特公昭58−33541号、特開昭55−126238号、同58−90633号の各公報記載)が含まれる。上記高級脂肪酸エステルは、炭素原子数10〜24の脂肪酸と炭素原子数10〜24のアルコールとのエステルである。
【0047】
セルロースアシレート溶液から形成したセルロースアシレートフイルムは、様々な用途で用いることができる。
セルロースアシレートフイルムは、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると特に効果がある。セルロースアシレートフイルムには、フイルムそのものを光学補償シートとして用いることができる。なお、フイルムそのものを光学補償シートとして用いる場合は、偏光素子(後述)の透過軸と、セルロースアシレートフイルムからなる光学補償シートの遅相軸とを実質的に平行または垂直になるように配置することが好ましい。このような偏光素子と光学補償シートとの配置については、特開平10−48420号公報に記載がある。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に80〜500μmの厚さを有する。
【0048】
光学補償シートは、液晶画面の着色を取り除くための複屈折率フイルムである。セルロースアシレートフイルムは、光学補償シートとして用いることができる。さらに反射防止層、防眩性層、λ/4層や2軸延伸セルロースアシレートフイルムとして機能を付与してもよい。また、液晶表示装置の視野角を改良するため、セルロースアシレートフイルムと、それとは(正/負の関係が)逆の複屈折を示すフイルムを重ねて光学補償シートとして用いてもよい。光学補償シートの厚さの範囲は、前述したフイルムの好ましい厚さと同じである。
偏光素子の偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。いずれの偏光膜も、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。偏光板の保護膜は、25〜350μmの厚さを有することが好ましく、30〜200μmの厚さを有することがさらに好ましい。
液晶表示装置には、表面処理膜を設けてもよい。表面処理膜の機能には、ハードコート、防曇処理、防眩処理および反射防止処理が含まれる。前述したように、支持体の上に液晶(特にディスコティック液晶性分子)を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートも提案されている(特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報記載)。セルロースアシレートフイルムは、そのような光学補償シートの支持体としても用いることができる。
【0049】
セルロースアシレートフイルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体 、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として好ましく用いられる。
【0050】
【実施例】
各実施例において、セルロースアシレート、溶液およびフイルムの化学的性質および物理的性質は、以下のように測定および算出した。
【0051】
(1)セルロースアシレートの置換度(%)
酢化度はケン化法により測定した。乾燥したセルロースアシレートを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)に溶解した後、所定量の1N−水酸化ナトリウム水溶液を添加し、25℃で2時間ケン化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法により、ブランクテストを行った。そして、下記式に従って酢化度(%)を算出した。
酢化度(%)=(6.005×(B−A)×F)/W
式中、Aは試料の滴定に要した1N−硫酸量(ml)、Bはブランクテストに要した1N−硫酸量(ml)、Fは1N−硫酸のファクター、Wは試料重量を示す。
なお、複数のアシル基を含有する系では、そのpKaの差を使って、各アシル基の量を求めた。また、文献(T.Sei,K.Ishitani,R.Suzuki,K.Ikematsu Polymer Journal 17 1065、1985)に記載の方法によっても同様に求めた。
さらに、求められた酢化度、その他のアシル基の量からモル分子量を考慮して置換度に換算した。
さらにまた、セルロースアシレートの2位、3位および6位のアシル置換度を、セルロースアセテートをアシル化に用いていないアシル基でアシル化処理した後、Carbohydr. Res. 273(1995)83-91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0052】
(2)セルロースアシレートの粘度平均重合度(DP)
絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(重量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
【0053】
(3)溶液の安定性
得られた溶液またはスラリーの状態を常温(23℃)で20日間静置保存したまま観察し、以下のA、B、C、Dの4段階に評価した。
A:透明性と液均一性を示す。
B:若干の溶け残りがある、または少し白濁が見られる。
C:明らかな溶け残りがある、または溶液がゲル化している。
D:液は膨潤・溶解が見られず不透明性で不均一な溶液状態である。
【0054】
(4)溶液の粘度
得られたセルロースアシレート溶液をTA Instruments社のRheometerにて40℃における粘度を測定した。
【0055】
(5)フイルム面状
フイルムを目視で観察し、その面状を以下の如く評価した。
A:フイルム表面は平滑であり、きわめて面状が良好である。
B:フイルム表面は平滑であるが、まれに凹凸が認められる。
C:フイルム表面は平滑であるが、弱い凹凸が比較的多数見られる。
D:フイルム全面に弱い凹凸が認められる。
E:フイルムに強い凹凸が見られ、異物が見られる。
【0056】
(6)フイルムのヘイズ
ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0057】
(1−1)セルロースアシレート溶液の作製
下記の2種の溶解方法にてセルロースアシレート溶液を作製した。詳細な溶剤組成については表1に記載した。なお、シリカ粒子(粒径20nm)、トリフェニルフォスフェート/ビフェニルジフェニルフォスフェート(1/2)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジンをそれぞれセルロースアシレートの0.5質量%、10質量%、1.0質量%添加した。また、剥離剤としてクエン酸をセルロースアシレートに対して200ppm添加した。なお、共流延の内部層、外部層を形成する液としては上記セルロースアシレート溶液を濃度を変えて用いた。詳細は表1に合わせて示した。
【0058】
(1−1a)冷却溶解(表1に「冷却」と記載)
溶剤中に、よく攪拌しつつ表1記載のセルロースアシレートを徐々に添加し、室温(25℃)にて3時間放置し膨潤させた。得られた膨潤混合物をゆっくり撹拌しながら、−8℃/分で−30℃まで冷却、その後表1記載の温度まで冷却し6時間経過した後、+8℃/分で昇温し内容物のゾル化がある程度進んだ段階で、内容物の撹拌を開始した。50℃まで加温しドープを得た。
【0059】
(1−1b)高圧高温溶解(表1に「高温」と記載)
溶剤中に、よく攪拌しつつ表1記載のセルロースアシレートを徐々に添加し、室温(25℃)にて3時間放置し膨潤させた。得られた膨潤混合物を、二重構造のステンレス製密閉容器に入れた。容器の外側のジャケットに高圧水蒸気を通すことで+8℃/分で加温し1Mpa下、表1記載の温度で5分間保持した。この後外側のジャケットに50℃の水を通し−8℃/分で50℃まで冷却し、ドープを得た。
【0060】
(1−2)セルロースアシレート溶液の濾過
次に得られたドープを50℃にて、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で濾過し、さらに絶対濾過精度0.0025mmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。
【0061】
(1−3)セルロースアシレートフイルムの作製
(1−2)の溶液を特開昭56−162617号公報に記載の流延機を用いて流延し、120℃の環境下で30分乾燥して溶剤を蒸発させセルロースアシレートフイルムを得た。層構成は本発明においては二層または三層であり、二層ではバンド面から内部層/外部層の構成、三層では外部層/内部層/外部層のサンドイッチ型構成であった。詳細は表1に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
(1−4)結果
得られたセルロースアシレートの溶液およびフイルムを上述の項目に従って評価した。本発明のセルロースアシレート溶液およびフイルムは、その溶液安定性、フイルムの機械物性、光学物性において特に問題は認められなかった。一方、比較例では得られたフイルムの面状に問題が認められた。
【0064】
また、これらのフイルムを、製膜工程中の乾燥工程中にオンラインで、あるいはその後オフラインで130℃にて10%〜30%MD、TD延伸延伸した。これらは、延伸倍率に比例し40nm〜160nmにレターデーションを増加させることができた。
このようにして得たセルロースアシレートフイルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載のVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載のOCB型液晶表示装置に用いたところ良好な性能が得られた。さらに、特開昭54−016575号公報に記載の偏光板として用いたところ、良好な性能が得られた。
【0065】
【表2】
【0066】
【発明の効果】
2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートおよびそれを用いたセルロースアシレート溶液、セルロースアシレートフイルム、その製造方法により、セルロースアシレート溶液の粘度を低下させるとともに、フイルムの面状を改良する製造方法を達成した。
Claims (9)
- 2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフイルム。
- アシル基がアセチル基である請求項1に記載のセルロースアシレートフイルム。
- セルロースアシレートフイルムが二層以上の多層構造を有し、セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の側の外部層の厚さが1乃至50μmである請求項1に記載のセルロースアシレートフイルム。
- 可塑剤または紫外線吸収剤を含む請求項1に記載のセルロースアシレートフイルム。
- 2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートが溶剤中に溶解しているセルロースアシレート溶液を支持体上に流延して、セルロースアシレートフイルムを形成することを特徴とするセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 溶剤が、実質的に非塩素系の溶剤である請求項5に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- セルロースアシレート溶液、水溶液中での酸解離指数が1.93〜4.50である酸、そのアルカリ金属塩またはそのアルカリ土類金属塩を含む請求項5に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- セルロースアシレートと溶剤の混合物を、−80乃至−10℃の温度に冷却するか、あるいは80乃至220℃の温度に加熱することにより、セルロースアシレートを溶剤中に溶解することによりセルロースアシレート溶液を調製する請求項5に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
- 共流延法により二層以上の層を流延する請求項5に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
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