本発明は、表面状態と光学特性に優れた高品質の窒化物半導体に関する。
青色発光素子や紫外線発光素子は、適切な波長変換材料との組み合わせにより白色光源とすることができる。このような白色光源は、液晶ディスプレイなどのバックライト、発光ダイオードイルミネーション、自動車用照明、あるいは蛍光灯に替わる一般照明などとしての応用が盛んに研究されてきており、その一部は既に実用化されている。現在では、このような青色発光素子や紫外線発光素子は主として、有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)などの手法により窒化ガリウム系半導体結晶の薄膜を成長させることにより作製され、それらは窒化ガリウム系発光ダイオードまたはGaN系LEDと総称されている。
従来、GaN系LEDの基板として使用されているものはサファイア基板がほとんどである。サファイアとGaNとは格子定数が大きく異なるため、サファイア基板上にエピタキシャル成長させて得られたGaN結晶では、109個/cm2程度の相当数の転位が導入されることは避けられない。しかし、サファイア基板はSiC基板やGaN基板に対して安価であるという利点がある。しかも、GaN系LEDの量子井戸層として通常用いられる、青色発光する領域のInGaNは、その発光効率が転位密度に対してあまり敏感でない。このような理由から、依然としてサファイア基板が主要な基板とされているのが現状である。
ところが、窒化ガリウム系半導体結晶を、高いキャリア密度の状況で使用されるデバイスの材料としてみた場合には、上述のような高密度の転位はデバイス特性を顕著に低下させる結果を招く。例えば、高出力LEDやレーザといったデバイスでは、転位密度が高いと素子寿命が著しく短くなる。また、活性層構造にInを全く含まない場合(例えば、AlGaN層を活性層として用いるような場合)や、近紫外領域程度以下の短波長発光を実現するためにIn組成が比較的少ない(たとえば0.2以下程度)InGaN層やInAlGaN層を活性層構造に含む場合には、内部量子効率の転位密度依存性が強くなり、転位密度が高い場合には発光強度そのものが低下してしまう。
つまり、活性層構造にInを全く含まない場合やIn組成が比較的少ないInGaN層やInAlGaN層を活性層構造に含む場合には、青色以上の長い発光波長を有するInGaN層を活性層構造に含む場合に比較して、低転位密度化に対する要求が厳しいものとなってくるのである。
このような低転位密度化を目的とする場合には、GaN基板をエピタキシャル成長用基板として用いることが有効であり、これにより、エピタキシャル層内に見られる転位密度を108個/cm2以下、或いは107個/cm2以下にすることが期待される。また、更に基板等の転位等も低減されれば、106個/cm2以下とすることも期待される。つまり、サファイア基板を用いた場合に比較して、2桁から3桁以上もの転位密度の低減が期待される。このような事情から、GaN自立基板やAlN自立基板は、窒化ガリウム系半導体結晶のエピタキシャル成長用基板として好適である。
窒化物基板であるGaN基板上に窒化ガリウム系半導体結晶をエピタキシャル成長させる従来の試みは、エピタキシャル成長面がc面(つまり、(0001)面)の基板上へのもの、すなわち「極性面」上へのエピタキシャル成長に関するものが殆どである。なお、そのような報告例としては、例えば、特許文献1(特開2005−347494号公報)、特許文献2(特開2005−311072号公報)、特許文献3(特開2007−67454号公報)などがある。
特許文献1には、GaN層をエピタキシャル成長させるための基板として極性面である窒化物基板((0001)面のGaN基板)を用い、炉内圧力を30キロパスカルにしてGaN基板のクリーニングを行なった後、基板温度を1050℃、炉内圧力を30キロパスカルに保持したまま厚さ1μmの第1のn型GaNバッファ層を成長させ、その後、一旦原料の供給を停止し、次いで炉内圧力を30キロパスカルに保持したまま1100℃の基板温度になるまで加熱して更に厚さ1μmの第2のn型GaNバッファ層を形成するという手法が開示されており、このような結晶成長方法により、表面平坦性に優れた良好な結晶品質のバッファ層を有する半導体装置が提供されるとされている。
また、特許文献2には、水素ガスと窒素ガスとアンモニアガスとを流しながらGaN基板の表面に付着している有機物等の汚れや水分を取り除くと同時に基板の表面の結晶性を向上させる工程の後に、窒素ガスと水素ガスを流しながらGaN基板上にGaN層とInGaN層からなる多層構造の中間層を形成し、この中間層上に反射層、活性層、および窒化ガリウム系半導体層を備えた発光素子の発明が開示されている。
さらに、特許文献3の実施例26には、GaN基板上に形成された厚み3μmのSiドープのn型GaNバッファ層を設け、このn型GaNバッファ層上に積層構造を造り込んだレーザ素子の発明が開示されている。なお、上記n型GaNバッファ層とGaN基板との間に、500℃程度の低温で形成した300Å以下のバッファ層を設けてもよい旨が記載されている。
しかし、極性面を主面とする基板上にエピタキシャル成長させて得られた窒化物半導体結晶の表面平坦性や光学特性は必ずしも十分なものとは言えず、更なる成長条件の検討が必要とされていることに加え、成長基板として極性面を選択することにより必然的に生じる問題も認識されている。例えば、c面GaN基板を含む六方晶系のc+面上に形成された量子井戸活性層構造(例えば、InGaN/GaNからなる量子井戸活性層構造)においては、いわゆる量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)によって電子と正孔の再結合確率の低下が生じ、理想的な発光効率よりも小さくなるといった問題が知られている。
このような事情を背景のひとつとして、非極性面を主面とする基板上に量子井戸活性層構造を作製する試みもなされているが、六方晶系III−V窒化物結晶の非極性面であるa面、r面、m面上のエピタキシャル成長は困難とされ、特に、m面基板上には、高品質な六方晶系III−V窒化物半導体積層構造は得られていないのが実情である。
例えば、非特許文献1(第66回応用物理学会学術講演会講演予稿集(2005年秋)11p−N−4)には、「無極性であるm面上に関してはその成長が困難である」と記載され、その困難性を前提とした上で、c面を主面とするGaN基板にm面が側壁として露出するようなストライプ状の加工を施し、そのストライプ側壁面(m面)に窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させるといった特殊な結晶成長方法が報告されている。
また、非特許文献2(Appl. Phys. Lett., Vol.82, No.11 (17 March 2003), p.1793-1795)には、m面を主面とするZnO基板上に、プラズマアシストMBE(Molecular Beam Epitaxy)法によりGaN層を成長させたことが報告されている。しかし、得られたGaN層は「スレート状」のものであると記載されており、表面の凹凸は激しく、単結晶のGaN層は得られていない。
さらに、特許文献4(米国特許第7208393号明細書)には、m面基板上に窒化物半導体を結晶成長させる場合には成長開始界面に欠陥が発生し易いとした上で、欠陥を減少させるための手段として、以下のような手法が記されている。先ず、m面基板上にH-VPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法によってGaNバッファを成長させた後に、一旦反応炉から基板を外部に取り出して誘電体マスクを形成し、それをストライプ状に加工する。そして、そのようなマスクが形成されたものを新たな基板として用い、MOCVD法により、上記ストライプ状マスクの開口部からの横方向成長(LEOまたはELO成長と呼ばれる)により、エピタキシャル膜を平坦化させる。
特開2005−347494号公報
特開2005−311072号公報
特開2007−67454号公報
米国特許第7208393号明細書
第66回応用物理学会学術講演会講演予稿集(2005年秋)11p−N−4)。
Appl. Phys. Lett., Vol.82, No.11 (17 March 2003), p.1793-1795。
C. J. Humphreys et al., "Applications Environmental Impact and Microstructure of Light-Emitting Diodes" MICROSCOPY AND ANALYSIS, NOVEMBER 2007, pp.5-8。
K. SAITOH, "High-resolution Z-contrast Imaging by the HAADF-STEM Method", J. Cryst. Soc. Jpn., 47(1), 9-14 (2005)。
K. WATANABE; "Imaging in High Resolution HAADF-STEM", J. Cryst. Soc. Jpn., 47(1), 15-19 (2005)。
H. Matsumoto, et. al., Material Transactions, JIM 40, 1999, pp.1436-1443。
本発明者らの検討したところによれば、上記文献に記載されている極性面上への成長を前提としたc面GaN基板上の結晶成長方法を非極性面上への結晶成長に適応すると、表面平坦性に優れた窒化物半導体を得ることは困難で、しかも、得られた膜の光学特性も全く充分とは言えないことが確認された。
また、従来の非極性面上への結晶成長方法について述べると、非特許文献1に記載の手法では、ストライプメサの側面上の通常数ミクロンの幅にのみ、非極性面の窒化物半導体結晶を得ることができるに過ぎないため、大面積化は極度に困難でありデバイス作製上の大きな制約が生じる結果となる。一方、非特許文献2に記載の手法では、大面積化は可能であるものの得られる窒化物半導体膜の表面は凹凸が激しいモルフォロジを呈し、単結晶の層を得ることができない。さらに、特許文献4に記載の手法は、工程が複雑であって、下地のストライプの位置に関連して欠陥の多い位置と少ない位置が混在してしまうなどの問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光学特性が良好で、発光素子とした場合の発光効率が高い、非極性面を成長面とする高品質の窒化物半導体を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討の結果、非極性の窒化物である基体の窒化物主面上に、特定の窒化物半導体層を特定の厚さに積層することにより、上記目的を達成することを見出した。しかも、このような構造を有する窒化物半導体層は、表面が極めて激しい凹凸を呈する窒化物半導体表面となることが回避され、かつ、素子化した際の光取り出し効率を向上させるべく、エピタキシャル成長中に凹凸を付与した表面を自己形成的に形成した場合であっても、その凹凸の程度が適度である場合には、量子井戸構造部における良好な内部量子効率をも同時に実現できることを見出した。このような技術思想は、表面モルフォロジを良好にすることが目的とされていた従来の技術思想を覆すものであり、本発明の大きな特徴である。
即ち、本発明の窒化物半導体は、少なくとも一方の主面が非極性の窒化物である基体の窒化物主面上に、一方導電型の窒化物半導体部と、量子井戸活性層構造部と、前記一方導電型とは逆の他方導電型の窒化物半導体部が順次積層されている窒化物半導体であって、前記一方導電型の窒化物半導体部は第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層が順次積層されたものであり、前記第2の窒化物半導体層は400nm以上20μm以下の厚みを有し最表面が略非極性面であることを特徴とする。
好ましくは、前記第1の窒化物半導体層と前記第2の窒化物半導体層は互いに組成が異なる。
前記基体は、例えば、GaN、AlN、InN、BN、若しくはこれらの混晶である自立基板である。また、前記基体主面の窒化物は、例えば、サファイア基板、SiC基板、ZnO基板、Si基板、GaN基板、AlN基板、InN基板、BN基板若しくはこれらの混晶である自立基板の何れかの基板上に結晶成長されたGaN膜、AlN膜、InN膜、BN膜、若しくはこれらの混晶膜である。
好ましくは、前記基体の窒化物主面は(1−100)面(m面)±10度以下の結晶面である。
また、好ましくは、前記第1の窒化物半導体層および前記第2の窒化物半導体層の少なくとも一方は、GaN、AlN、InN、BN、若しくはこれらの混晶のIII−V族窒化物半導体である。
前記第1の窒化物半導体層の厚みL1は0.1nm以上300nm以下であることが好ましい。また、前記第1の窒化物半導体層中のシリコン(Si)濃度は1×1021cm−3以下であることが好ましい。さらに、前記第2の窒化物半導体層中のシリコン濃度は1×1017cm−3以上6×1019cm−3以下であることが好ましい。
本発明において、前記量子井戸活性層構造部は400±30nmの中心波長を有する光を発するものとすることができる。また、前記量子井戸活性層構造部における転位密度が、1×109cm−2以下であることが好ましい。
本発明において、前記前記量子井戸活性層構造部は、低励起密度条件のCW−PL測定から求められる、内部量子効率が20%以上であるものとすることができる。
また、本発明において、前記前記量子井戸活性層構造部の、低励起密度条件のパルス光PL測定から求められる、内部量子効率が20%以上であるものとすることができる。
さらに、本発明において、前記前記量子井戸活性層構造部の、室温であってかつ低励起密度条件における時間分解PL測定から求められるフォトルミネッセンス寿命(τ(PL))が1.0ns以上であるものとすることができる。
本発明では、一方導電型の窒化物半導体部と、量子井戸活性層構造部と、一方導電型とは逆の他方導電型の窒化物半導体部を順次積層させた窒化物半導体を得るに際し、非極性の窒化物の主面を有する基体の上に結晶成長させることとし、一方導電型の窒化物半導体部を第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層を順次積層させたものとするとともに、第2の窒化物半導体層を400nm以上20μm以下の厚みを有し最表面が略非極性面であるようにした。
結晶成長用の基体として非極性面を選択することによりQCSE効果に基づく発光に寄与する電子とホールの空間的分離が抑制され、効率的な輻射が実現される。また、上記第2の窒化物半導体層の厚みを適正なものとすることにより、極めて激しい凹凸を呈する窒化物半導体表面となることが回避される一方、表面を適度に荒らした場合でも、その程度が適度である場合には、発光素子とした場合に良好な光学特性を得ることができる。
これらの効果の結果として、本発明によれば、内部量子効率も高く、かつ、光取り出し効率も良好で、結果として、発光素子とした場合の発光効率が高い、非極性面を成長面とする高品質の窒化物半導体が容易に提供されることとなる。
本発明の窒化物半導体は、前述の通り、少なくとも一方の主面が非極性の窒化物である基体の窒化物主面上に、一方導電型の窒化物半導体部と、量子井戸活性層構造部と、前記一方導電型とは逆の他方導電型の窒化物半導体部が順次積層されている窒化物半導体であって、前記一方導電型の窒化物半導体部は第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層が順次積層されたものであり、前記第2の窒化物半導体層は400nm以上20μm以下の厚みを有し最表面が略非極性面であることを特徴とする。
ここで、略非極性面とは、最表面の結晶面には非極性面を含むものの、発光素子化した際に適切な微小な凹凸や、ファセット面が形成されていることを意味する。本発明の窒化物半導体は非極性の窒化物である基体の窒化物主面上に形成されるが、後述のように、結晶成長過程において、第1の窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層、量子井戸活性層各結晶層の界面または窒化物半導体層の最表面に、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることがある。したがって、本発明における前記「略非極性面」は、エピタキシャル成長をするための基体表面の主面は、非極性面であるものの、その上に形成されたエピタキシャル成長面の最表面は、必ずしも結晶面が一様な非極性面でないこと、もしくは、エピタキシャル層の最表面は非極性面を含むものの、全体が非極性面ではなく、その一部に半極性面や極性面をも含みうる面であることを意味している。
以下、本発明の窒化物半導体について、その製造工程の一例を順に示しながら詳述する。なお、本発明の窒化物半導体は、前述の構成を有していれば、その製造方法は下記の製造方法に限定されるものではない。
エピタキシャル成長方法には各種成長方法があるが、本発明の窒化物半導体の結晶成長に用いられる方法(これを、「本発明の窒化物半導体の結晶成長方法」或いは「本発明のエピタキシャル成長方法」などという)は、主に気相成長法に適応可能であって、その中でも特にH−VPE法とMOCVD法に好ましく適応可能であり、最も好ましくはMOCVD法である。
例えば、MOCVD法においては、さまざまな構成の装置形態を適応可能であって、それぞれの装置形態によって、昇温時/降温時の主たる雰囲気を構成するガス、成長時の主たる雰囲気を構成するガス、原料ガス、有機金属や一部ドーパントの供給を実現するためのキャリアとして使用するガス、原料を希釈するためのガス、原料ガスの取り込みや雰囲気を構成するガスの基体上への接触や供給を効率化するための補助的なガス、ガスの流れ全体を層流化するなどのフローを整えるガス、ヒータや各種ポート等の構成部材の安定化/長寿命化のためのガス、反応炉を開放するために導入するガス等が、適宜導入される。
本発明においては、この中で、原料ガス/雰囲気を構成するガスの基体への取り込みや基体上への接触や供給を効率化するための補助的なガスによって構成される流れや、ガスの流れ全体を層流化するなどのフローを整えるガスの流れを便宜上、「サブフロー」と記載する。また、ヒータや各種ビューポート等の構成部材の安定化/長寿命化のためのガス、反応炉を開放するために導入するガス等、エピタキシャル成長には直接寄与しないガスによって構成される流れを、便宜上、「成長外フロー」と記載する。
これに対して、本発明においては、結晶成長装置内に供給されるサブフローと成長外フロー以外のすべてのガスの流れを、便宜上、「メインフロー」と記載する。よって、メインフローは、主として、昇温時/降温時の主たる雰囲気を構成するガス、成長時の主たる雰囲気を構成するガス、原料ガス、有機金属や一部ドーパントの供給を実現するためのキャリアとして使用するガス、原料を希釈するためのガスなど流れの総称である。このメインフローは、実質的に、窒化物半導体をエピタキシャル成長させるための基体の表面或いはエピタキシャル成長中の窒化物半導体の結晶表面が暴露される雰囲気そのものである。従って、メインフローは気相成長に必須である一方、サブブローや成長外フローは任意的なものである。
図1(A)及び図1(B)はそれぞれ、横型および縦型のMOCVD反応炉の一例を示したもので、メインフローの流れを概念的に示したものである。例えば、横型の反応炉(図1(A))では、石英反応管1の内部に収容されたサセプタ2上に載置された基体3の表面がメインフローMFに暴露され、このメインフローMFが基体3にとっての事実上の「雰囲気」となる構成の装置である。このメインフローMFはサブフローSFによって基体3の表面に押し付けられ、原料ガス/雰囲気を構成するガスの基体3への取り込みや基体3上への接触や供給が効率化されるとともに、ガスの流れ全体も層流化する。
一方、縦型の反応炉の一例として示した図1(B)の構成においては、サブフロー用のガス供給はなされず、石英反応管1の内部を流れるガスはメインフローMFによるもののみである。なお、横型の反応炉(図1(A))と縦型の反応炉(図1(B))の何れにおいても、ヒーターパージやビューポートのパージなどとして、ガス供給によって成長外フローOFによるガスの流れが生じている。
さらに、本明細書においては、昇温時/降温時を含んで、窒化物半導体をエピタキシャル成長させる際に、主に窒素原料となるガスを含むフロー、或いは、基体/エピタキシャル層表面からの窒素抜けを抑制するための雰囲気形成をするためのフローを、便宜上、「第1メインフロー」と記載する場合もある。この場合には、主にそれ以外の原料供給や雰囲気形成のためのガスの流れを、便宜上、「第2メインフロー」と記載することがある。更に、メインフローを構成するガスの一部は有機金属原料を供給するためのキャリアガスとしても使用可能であることから、メインフローを構成するガスの一部をキャリアガスと記載することもある。
ここで、本発明で用いられる「活性ガス」とは、昇温、降温、待機、成長工程などの一連のエピタキシャル結晶成長工程において、温度と圧力条件の下で分解または反応し、原子状あるいは分子状の水素ラジカルや、原子状あるいは分子状の水素イオンや、原子状水素などといった水素の活性種を発生させ得るガスであって、かつ、メインフローを構成するガスのうちの主要なガスとして導入されるものである。また、その量は、少なくともエピタキシャル成長工程のいずれかの時期において、メインフローの中の構成ガス種の流量比で1%を越えるものである。
よって、主要な活性ガスとしては、水素(H2)ガスまたはアンモニア(NH3)ガス(これらの混合ガスを含む)が例示される。このようなガスは窒化物結晶に対するエッチング効果があり、特にH2ガスはその効果が非常に大きい。よって、これらのガス(特にH2ガス)に、不適切な条件下で窒化物結晶の表面が過度に暴露された場合には、当該窒化物表面からの窒素脱離が過度に生じ易く、原子レベルの欠陥が導入され易く、さらに、過度にマクロな表面荒れの原因ともなり得る。このようになると、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率が過度に低下し、発光素子化することが適さない窒化物半導体となってしまう。
一方、適切な条件下で使用することで、水素(H2)ガスまたはアンモニア(NH3)ガス(これらの混合ガスを含む)等の主要な活性ガスは、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に窒化物半導体上に形成させることが可能となる。このため、本発明においては窒化物半導体からの光取り出し効率を高くする事ができ、好ましい。
一方、「不活性ガス」とは、昇温、降温、待機、成長工程などの一連のエピタキシャル結晶成長工程において、水素の活性種を発生させることのないガスであって、かつ、メインフローを構成するガスのうち主要構成ガスとして導入されるものであり、その量は、少なくともエピタキシャル成長工程のいずれかの時期において、メインフローの中の構成ガス種の流量比で1%を越えるものである。
このような不活性ガスとしては、窒素(N2)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)が主要なものとして例示される。また、アセトニトリル、アゾイソブタン、ヒドラジン化合物である1,1-ジメチルヒドラジン、アミン系化合物であるジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリアリルアミン、トリイソブチルアミン、アジド系化合物であるメチルアジド、エチルアジド、フェニルアジド、ジエチルアルミニウムアジド、ジエチルガリウムアジド、トリスジメチルアミノアンチモンなども不活性ガスとしての上記条件を満足するものであり、これらの混合ガスも不活性ガスに含まれる。
なお、詳細は後述するが、本発明では、昇温工程(特に期間tA)、第1の成長工程、第2の成長工程の何れの工程も、不活性ガスを主としてメインフローを構成しても、また、活性ガスを主としてメインフローを構成しても、任意である。
ここにおいて、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、不活性ガスを主としてメインフローを構成し、基体表面あるいは成長中の最表面層が、過剰な活性ガス(特に窒化物に対して大きなエッチング効果をもつ水素ガス)に暴露されないように雰囲気制御することが好ましい。特に、昇温工程(特に期間tA)、第1の成長工程においては、メインフローを構成するガスには、水素ガスを過度に含まないように好ましく制御される。
一方、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、活性ガスを主としてメインフローを構成することも好ましい。
図2(G)と図2(A)は、本発明の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するための2つの代表的なシーケンス例を説明するための図である。
図2(G)は本発明において、最も好ましい窒化物半導体層を形成しうるシーケンスの1例であって、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、窒化物半導体層の表面等に適度な凹凸を、自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが可能なシーケンス例である。例えば、このような方法によって形成される窒化物半導体は、凹凸等により光取り出し効率が向上することから、窒化物半導体を発光素子化した際の発光効率を高くすることができる。
一方、図2(A)は本発明において、好ましい窒化物半導体層を形成しうるシーケンスの1例であって、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くしうるシーケンス例である。例えば、このような方法によって形成される窒化物半導体は、素子した際の光取出し効率は必ずしも高くないものの、内部量子効率が比較的高いことから、窒化物半導体を発光素子化した際の発光効率を高くすることができる。
ここでは、非極性面のうちの(1−100)面(m面)を主面とするGaN自立基板上にGaN膜をエピタキシャル成長させる例が図示されている。なお、エピタキシャル成長用反応炉は、例えば、有機金属気相成長装置であって、常圧成長を通常の条件とする横型3層流石英製反応炉、減圧成長を通常の条件とする自公転型反応炉(プラネタリーリアクタ)、減圧成長を通常の条件とする縦型SUS製反応炉などを例示することができる。
先ず、エピタキシャル成長用の基体として、少なくとも一方の主面が窒化物である基体を準備し、この基体を、エピタキシャル成長用反応炉内のサセプタ上に載置して所定の温度まで昇温する(工程A)。この基体主面の窒化物は、GaN、AlN、InN、BN、若しくはこれらの混晶である自立基板の主面であるか、あるいは、サファイア基板、SiC基板、ZnO基板、Si基板、GaN基板、AlN基板、InN基板、BN基板若しくはこれらの混晶である自立基板の何れかの基板上に結晶成長されたGaN膜、AlN膜、InN膜、BN膜、若しくはこれらの混晶膜などである。
本発明のエピタキシャル成長方法は、いわゆるELO(Epiaxial Lateral Overgrowth:横方向成長)等による非極性側壁上へのエピタキシャル成長方法とは異なり、基体表面へのマスク形成や凹凸加工等は必須ではなく任意である。従って、本発明においては、基体主面の方向とエピタキシャル成長が進行する方向は略一致することが好ましい。横方向成長を必須の要件としない本発明においては、非極性側壁面上に成長させたエピタキシャル層の大面積化の困難性といった問題やマスク構造に対応してエピタキシャル層中に極端な高密度転位部分が発生するなどといった問題が生じない。その結果、非極性面(例えばm面)を成長面とするエピタキシャル層の大面積化と低転位密度化を図ることが可能である。
よって、本発明の方法によれば、非極性面の基板上、特にm面基板上に、素子化した際の発光特性に優れたエピタキシャル層を形成可能であることから、エピタキシャル成長方向と直交する窒化物半導体の最表面の面積は30mm2以上500cm2以下であることが好ましい。なお、より好ましくは50mm2以上225cm2以下であって、さらに好ましくは4cm2以上120cm2以下である。
上記の窒化物半導体の最表面の面積の下限値は、結晶成長プロセス(および、これに続く素子化プロセス)が容易に実施可能となるように規定される。一方、上限値は、特に、得られるエピタキシャル層の面内均一性が担保されるように規定される。
上述の上限値について説明すると、第1に、MOCVD装置内における均質なエピタキシャル層を形成するうえで、MOCVD装置等における均質な原料ガス供給可能な範囲(領域)はおよそ500cm2と考えられる。これが、窒化物半導体の最表面の面積を500cm2以下とすることが好ましい理由である。
第2に、主面がm面などの非極性面である基体は、その主面内における結晶軸が、c面などの極性面を有する基体に対して、より非等方的である。例えば、c面基板を用いた場合には、その面内に120度おきにa軸を有するが、m面基板の場合には、その面内にa軸とc軸を有し、これらの軸方向はまったく性質が異なっている。このため、温度が高い場合には、基体が不均質に「歪む」或いは「反る」などの傾向がある。従って、そのような場合においても基体上に比較的均一なエピタキシャル層を形成させるためには、225cm2以下であることが好ましく、120cm2以下であることがより好ましいのである。
本発明者らの検討によれば、本発明の結晶成長方法は、基体表面の原子配列から考えて、(11−20)面(a面)、(1−102)面(r面)、(1−100)面(m面)等に代表されるいわゆる「非極性面」に好適に利用可能であって、非極性面の中でも特に、主面の結晶面方位が(1−100)面(m面)、或いはこれらと等価な面である基体上へのエピタキシャル成長に適している。基体は、例えば、主面が(1−100)面のGaN自立基板を用いることが好ましく、この上に、本発明の結晶成長方法によってGaN系窒化物半導体を結晶成長させると良質のエピタキシャル成長膜が得られる。
量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、積極的に微傾斜面を有する基体を用いることも好ましい。この場合には、その主面が、ジャストm面からの傾斜角がa軸方向、c軸方向の双方において通常±10.0°以下、好ましくは±7.0°以下、さらに好ましくは±5.0°以下、特に好ましくは±3.0°以下、最も望ましくは±1.5°程度の結晶面であることが好ましい。
なお、本発明において窒化物半導体層の表面等に、適度な凹凸を自己形成的に形成した場合には、最表面は略非極性面であって、最表面のRaは、通常100nm以上、好ましくは150nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは250nm以下であることが好ましい。
一方、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、各面からのいわゆる「オフ角度」は、通常±10.0°以下、好ましくは±5.0°以下、さらに好ましくは±3.0°以下、特に好ましくは±1.0°以下、最も望ましくは±0.5°以下である。このようなオフ角度であれば、本発明の手法によって、基体上に、特に内部量子効率の良質の窒化物半導体をエピタキシャル結晶成長させることができる。なお、m面の基体を用いる場合にも、その主面が、ジャストm面からの傾斜角がa軸方向、c軸方向の双方において通常±10.0°以下、好ましくは±5.0°以下、さらに好ましくは±3.0°以下、特に好ましくは±1.0°以下、最も望ましくは±0.5°以下の結晶面であることが好ましい。
なお、前記基体を用いて形成された本発明の窒化物半導体は、例えば前述の一方導電型の窒化物半導体部の最表面を略m面とする場合、あるいは、例えば後述する他方導電型の窒化物半導体部の最表面を略m面とする場合、その最表面は、通常(1−100)面±5.0°以下、好ましくは±3.0°以下、さらに好ましくは±1.0°以下、特に望ましくは±0.5°以下である。
工程Aにおける昇温は、基体の温度を後述の第1の窒化物半導体層の成長温度である600℃〜1350℃とするためのもので、この昇温は、例えば、反応炉内の圧力が35キロパスカル〜120キロパスカルとなるようにメインフローを構成するガスを供給して実行される。なお、後述するような積層構造を窒化物半導体層上に形成する場合、光学素子特性を支配する当該積層構造の光学特性を良好なものとするためには、工程Aの好ましい昇温到達温度TAは、600℃〜1350℃となり、より好ましくは650℃〜1200℃の範囲、更に好ましくは800℃〜1100℃の範囲、最も好ましくは900℃〜970℃の範囲である。
なお、工程Aの昇温到達温度範囲と、これに続く第1の窒化物半導体層の成膜温度範囲とは一致することが好ましく、例えば800℃〜1100℃の範囲で第1の窒化物半導体層を成膜する場合には、工程Aの昇温到達温度も800℃〜1100℃の範囲のものとなる。
図2(G)に例示した昇温工程は、活性ガスによってメインフローを構成した雰囲気中で基体を所定の温度まで昇温する期間tAの昇温段階(高温段階)と、この昇温期間tAの前の相対的に低温の領域において、当該昇温期間tAのメインフローとは異なる組成のガスでメインフローを構成した雰囲気中で基体を昇温する期間tBの昇温段階(低温段階)の2段階からなる。以降においては、上述の期間tBの昇温段階(低温段階)を便宜上「第1の昇温工程」といい、上述の期間tAの昇温段階(高温段階)を便宜上「第2の昇温工程」と言うことがある。
一方、図2(A)に例示した昇温工程は、不活性ガスと任意の構成として活性ガスを含んでメインフローを構成した雰囲気中で基体を所定の温度まで昇温する期間tAの昇温段階(高温段階)と、この昇温期間tAの前の相対的に低温の領域において、当該昇温期間tAのメインフローとは異なる組成のガスでメインフローを構成した雰囲気中で基体を昇温する期間tBの昇温段階(低温段階)の2段階からなる場合を示している。
なお、図2(A)に例示したガスのうち、水素ガス以外の活性ガスであるNH3ガスは任意の構成であるが、後述する適切な量を供給すれば、窒化物半導体層を構成する窒素の良質な原料ガスであり得る。一方、本発明においては、窒化物半導体層を構成する窒素原料としては、NH3ガスを用いずに、不活性ガスである、1,1-ジメチルヒドラジン、(1,1−DMHy)、アセトニトリル、アゾイソブタン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリアリルアミン、トリイソブチルアミン、メチルアジド、エチルアジド、フェニルアジド、ジエチルアルミニウムアジド、ジエチルガリウムアジド、トリスジメチルアミノアンチモンなどを使用することも可能である。
従って、後述の第1及び第2の成長工程におけるメインフローは、主として窒素原料供給ガス(例示した図2(G)および図2(A)では、たとえばNH3ガス)を含む第1のメインフローと、主として窒化物半導体層を構成する窒素以外の元素を原料供給するガスを含む第2のメインフローを少なくとも含むこととなる。
相対的に低温の領域での期間tBの昇温段階は、基体主面を構成する窒化物からの窒素脱離を積極的には抑制する必要のない温度領域における昇温段階である。一方、相対的に高温の領域での期間tAの昇温段階は、基体主面を構成する窒化物からの窒素脱離を積極的に抑制する必要のある温度領域における昇温段階である。
基体の置かれている反応炉内圧力にも依存するが、非極性面の窒素脱離は、その原子配列から考えて、他の極性面よりも低温から発生すると考えられ、概ね450℃程度以上の温度領域では窒化物表面からの窒素脱離を積極的に抑制する必要が生じるものと考えられる。従って、この温度よりも低温の領域では、メインフローを構成するガスとして、活性ガスと不活性ガスの何れのガスをどのような割合で含んでいてもよい。例えば、メインフローのすべてを不活性ガスであるN2ガスで構成してもよく、活性ガスであるNH3ガスのみで構成してもよい。
高温段階の昇温を行う期間tAにおいては、窒化物表面からの窒素脱離を適切に抑制するために配慮が必要である。この場合に、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、活性ガス、たとえばH2ガスとNH3ガスのみで昇温することも好ましい。このようにすると、窒化物半導体層の表面等に、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが可能となるため好ましい。
一方、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、不活性ガスのみで昇温することが好ましく、当該不活性ガス中に、たとえば、ジメチルヒドラジンの様な窒素原料ガスが含まれることが重要である。一方、不活性ガスと、任意の構成として適切な量の活性ガスを含んでメインフローを構成した雰囲気中で昇温する場合には、不活性ガスか、活性ガスの、少なくとも一方に窒素原料ガスが含まれることが好ましい。たとえば、NH3ガスなどは活性ガスである窒素原料ガスとなりうる。
なお、この場合には活性ガスとして、H2は過度に導入しないことが好ましく、一方、NH3ガスは適切な量を供給すれば、良質な窒化物半導体用の窒素原料となり得るので好ましい。詳細は後述するが、昇温工程中におけるメインフローを構成する全ガス種の中で、活性ガスの占める流量比は0.5未満であることが好ましい。なお、昇温工程全体を通じて、一定の雰囲気中で基体の昇温を行うこととしてもよく、この場合には期間tAは昇温工程期間に一致することとなる。
なお、この昇温段階における反応炉内の圧力は、35キロパスカル〜120キロパスカルとなるように調整されることが好ましい。反応炉内の圧力の下限を35キロパスカルとしているのは、基体表面が暴露している雰囲気が過度の減圧状態である場合、光学特性が大幅に劣化するためである。この点については後述する。
なお、後述するような積層構造を窒化物半導体層上に形成する場合、光学素子特性を支配する当該積層構造の光学特性を良好なものとするためには、第1および第2の窒化物半導体層の成膜温度は600℃〜1350℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは650℃〜1200℃の範囲、更に好ましくは800℃〜1100℃の範囲、最も好ましくは900℃〜970℃の範囲である。なお、窒化物半導体層の成膜温度範囲と工程Aの昇温到達温度範囲は一致することが好ましく、例えば800℃〜1100℃の範囲で窒化物半導体層を成膜する場合には、工程Aの昇温到達温度も800℃〜1100℃の範囲のものとなる。
図2(G)に示したシーケンス例では、反応炉内で基体の窒化物主面が暴露される主たる雰囲気となる活性ガスとして水素ガスを第2のメインフローとして供給しながら第1の昇温工程を開始し、基体温度が400℃になった時点で第1のメインフローを構成するガスとして活性ガスであるNH3ガスの供給を追加して第2の昇温工程を開始し、この混合ガス中で更に到達温度である1000℃まで昇温させている。なお、この第2の昇温工程におけるNH3ガスの供給は、当該昇温工程中に基体の表面から窒素が抜けてエピタキシャル成長面の結晶性が過度に低下することを防止するためのものである。
このように、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、活性ガス、たとえばH2ガスとNH3ガスのみで昇温する事が好ましい。このようにすると、窒化物半導体層の表面等に、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが可能となる。
一方、図2(A)に示したシーケンス例では、反応炉内で基体の窒化物主面が暴露される主たる雰囲気となる不活性ガスとして窒素ガスを第2のメインフローとして供給しながら第1の昇温工程を開始し、基体温度が400℃になった時点で第1のメインフローを構成するガスとして活性ガスであるNH3ガスの供給を追加して第2の昇温工程を開始し、この混合ガス中で更に到達温度である1000℃まで昇温させている。なお、この第2の昇温工程におけるNH3ガスの供給は、当該昇温工程中に基体の表面から窒素が抜けてエピタキシャル成長面の結晶性が過度に低下することを防止するためのものである。
この第2の昇温工程において、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、メインフローを構成する全ガス(この場合は第1のメインフローと第2のメインフローの和)に対する不活性ガス(窒素ガス)の成分比は、流量比で0.5以上1.0以下であることが好ましい。このような混合ガス成分とするのは、比較的高温の領域での基体昇温の際に、基体表面が暴露されることとなる雰囲気中に活性ガスが過剰に多く含まれていると、基体表面の窒化物結晶中に欠陥が導入され易いためである。よって、この第2の昇温工程においては、特にエッチング効果が過剰で、窒素抜けを誘発する水素ガスは雰囲気中に過度に含まれないことが好ましい。
このような昇温工程(工程A)に続いて、第1の窒化物半導体層の成長工程(工程B)に移行するが、本発明の、基体の窒化物主面がm面においては、熱的なクリーニング工程を設けない場合に、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするための、適度な凹凸が自己形成的できるため、好ましい。
図2(G)に示された工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3ガスの供給を続け、第2のメインフローを構成するガスも水素ガスの供給を継続し、反応炉内の雰囲気が安定化した後に、第2のメインフローを構成する水素ガスの一部をIII族元素の原料およびドーパント原料を供給するためのキャリアガスとして使用し、エピタキシャル成長原料を反応炉内に供給させて窒化物半導体層の結晶成長を開始する。
一方、図2(A)に示された工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3ガスの供給を続け、第2のメインフローを構成するガスも窒素ガスの供給を継続し、反応炉内の雰囲気が安定化した後に、第2のメインフローを構成する窒素ガスの一部をIII族元素の原料およびドーパント原料を供給するためのキャリアガスとして使用し、エピタキシャル成長原料を反応炉内に供給させて窒化物半導体層の結晶成長を開始する。
このようにして形成される第1の窒化物半導体層は多結晶成分を含まない結晶であることが好ましく、さらに単結晶そのものにより構成されていることがより好ましい。この第1の窒化物半導体層の上に、更に第2の窒化物半導体層が形成される。このように形成される層は非極性面上に形成される窒化物半導体層であるが、本発明によって結晶学的には十分な長距離秩序の保たれた層となる。
工程Bでは、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、図2(G)に示されるように、Siドーパントを適切に入れる事が好ましい。適切な量を意図的に導入する場合は、適度な凹凸が表面に形成されることにより、光取り出し効率が高くなり、ひいては本発明の窒化物半導体を用いた発光素子の発光効率が上がる。
特に、本発明の窒化物半導体では、Raが200nm程度と紫外光、近紫外光、可視光の波長と同程度の荒れを自己発生的に、意図して形成することにより、特に本発明において好ましく実現される発光波長域において、光取り出し効果が期待されるため好ましい。このように、光取り出し効果を期待しつつ、さらに内部量子効率も過度に低くならないSi濃度は、通常3×1017cm−3以上、好ましくは5×1018cm−3以上であり、通常1×1021cm−3以下、好ましくは6×1019以下である。
なお、Siなどのドーパントを意図的に入れる場合は、その濃度が過度であると、極端に表面に凹凸が発生し、量子井戸活性層構造部の内部量子効率も過度に低下するため、好ましくない。
一方、工程Bでは、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くする場合は、基体の窒化物主面上にシリコン(Si)原料が意図的には供給されない環境下で第1の窒化物半導体層がエピタキシャル成長されることが好ましい。
つまり、基体の窒化物主面を不活性ガスと、任意の構成として適切な量の活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で当該基体の窒化物主面上にSi原料を意図的に供給することなく第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることが好ましい。
図2(A)に示したシーケンスの場合、N2とNH3を含んでメインフローを構成した雰囲気中で基体の窒化物主面上にSi原料を意図的に供給することなく第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることを意味する。
これによって得られる代表的な膜は、理想的には、i−GaN層である。しかし、Siなどのドーパントが意図的には原料供給されない状態でエピタキシャル成長したGaN層であっても、実際には、原料ガスから不純物として混入したSi等や反応炉中あるいはその近傍中に存在する石英部材等から混入するSi等を含んでしまうのが通常である。
さらには、たとえばGaN基板やAlN基板のような自立基板の表面研磨工程等で使用されるSi系研磨剤が、残留物として基体表面に付着している場合には、エピタキシャル成長時の基板表面にSiが滞留していることとなり、これが不純物としてi−GaN層に混入する可能性もある。
加えて、GaN基板やAlN基板のような自立基板作成時に意図的にSiがドーピングされた基板をエピタキシャル成長用基体として用いる場合には、エピタキシャル成長初期に、基体表面にSiが偏析してしまう可能性もあり、このSiをi−GaN層が取り込んでしまう可能性もある。このような意図しない不純物の濃度は、Siの場合、3×1021cm−3以下に抑えることが好ましい。
また、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、シリコン(Si)原料が意図的には供給されない環境下で第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させればよく、第1の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度は、第2の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度よりも低いことが好ましい。
これは、上記の各種理由によるSiの混入があったとしても、その影響は界面数百nm程度が極端であると考えられることから、この厚みよりも十分に厚い第1の窒化物半導体層を形成した場合には、Siなどのドーパントを意図的には原料供給せずにエピタキシャル成長した第1の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度は、n型ドーパントをSiとして、これを意図的に供給し成長する第2の窒化物半導体層のSi濃度よりも低くなると考えられるからである。
なお、この工程Bの反応炉内圧力も、例えば、35キロパスカル〜120キロパスカル程度に設定されることが好ましい。この際に本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、メインフローを構成する全ガス中に占める不活性ガス成分比(Fp)(図2(A)のシーケンス例では第1メインフローであるNH3ガス成分と第2メインフローである窒素ガス、TMGa成分の総和に対する不活性ガス成分比)が流量比で0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましい。また、メインフローを構成する不活性ガス中にエッチング効果の高いH2ガスは過度に含まれないことが好ましい。
工程Bにおいては、反応炉内圧力が35キロパスカル未満の減圧状態でエピタキシャル成長させた場合には、点欠陥の増大により結晶性が低下し、さらにその上に形成される第2の窒化物半導体層や、任意の構成として形成される多重量子井戸活性層構造のフォトルミネッセンス(PL)特性も劣化する。さらに、120キロパスカル以上の圧力では反応炉内の気相反応が増加してしまい、エピタキシャル成長中に窒化物半導体層内に炭素が取り込まれて結晶性が低下する。
工程Bでの基体温度は600℃〜1350℃の温度範囲の所定の温度に設定されるが、下限を600℃としているのは良質の窒化物半導体を結晶成長させるために必要とされる熱エネルギーを考慮したためであり、上限を1350℃としているのは反応炉の構成部材の劣化等の制約からである。600℃未満の温度で成膜すると多結晶成分が混在し易く、その結果として発光特性も低下する。
このような条件下で得られる第1の窒化物半導体層は、その厚みL1が0.1nm以上300nm以下の範囲の比較的薄い層であることが好ましい。第1の窒化物半導体層の厚みの下限を0.1nmとするのは、基体表面(窒化物表面)を、エピタキシャル層でSiを過度に含まない層で被覆するためには少なくとも0.1nmを要するためである。
さらに本発明者らの検討によれば、過度に厚い第1の窒化物半導体層は、その後に成長されるエピタキシャル層全体の表面モルフォロジの極端な劣化、また、エピタキシャル層が活性層構造を含む場合には、この光学特性の劣化等を引き起こすことが想定されるため、好ましくない。具体的には、L1は通常0.1nm以上、好ましくは1.0nm以上、さらに好ましくは5.0nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは150nm以下、さらに好ましくは50nm以下の比較的薄い層である事が好ましい。
本発明者らの検討によれば、このような第1の窒化物半導体層の上に第2の窒化物半導体層をホモエピタキシャル成長させると、発光素子に適した窒化物半導体を実現できる。
この第1の窒化物半導体層(第1のGaN層)の上に、n型ドーパント原料を供給しながら、比較的厚い層である第2の窒化物半導体層(第2のGaN層)をエピタキシャル成長させる(工程C)。
量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、図2(G)に示されるように、第1の窒化物半導体層表面を適切な活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で、当該第1の窒化物半導体層上にn型ドーパント原料を意図的に供給しながら第2の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることが好ましい。このようにすると、窒化物半導体層の表面等に、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが可能となる。
本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、図2(A)に示されるように、第1の窒化物半導体層表面を不活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で当該第1の窒化物半導体層上にn型ドーパント原料を意図的に供給しながら第2の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることとなる。
ここで、窒化物半導体層に対するn型ドーパントとしては、Si、O、C、Ge、Se、S、Teなどを例示することが可能であって、特にSi、Se、Oが好ましく、さらに、Siが最も好ましく利用可能である。
工程Cでの基体温度も600℃〜1350℃に設定されるが、反応炉内の圧力は5キロパスカル以上であって且つ第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時の圧力以下とする。第1の窒化物半導体層上に第2の窒化物半導体層を積層させる過程では点欠陥の発生が抑制されるため、反応炉内の圧力を工程Aおよび工程Bよりも低く設定することが可能である。但し、5キロパスカル未満の圧力では成長過程の第2の窒化物半導体層の表面から窒素が抜け易く、この効果が非極性面では通常の極性面よりも大きいと考えられるので、圧力下限は5キロパスカルとすることが好ましい。
図2(G)に示したシーケンス例では、メインフローを構成する第1メインフローとしてGaNの窒素源となりうるNH3ガスを供給し、メインフローを構成する第2メインフローとしてH2を用い、この一部をキャリアガスとしてTMGaを供給し、さらに、n型ドーパントであるSi源としてシラン(SiH4)ガスを供給している。
量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、本発明における、窒化物半導体からの光取り出し効率を高くするためには、全ガス中に占める活性ガス成分比をH2等を第2のメインフローガスとして導入することで流量比で0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましい。
一方、図2(A)に示したシーケンス例では、メインフローを構成する第1メインフローとしてGaNの窒素源となりうるNH3ガスを供給し、メインフローを構成する第2メインフローとしてN2を用い、この一部をキャリアガスとしてTMGaを供給し、さらに、n型ドーパントであるSi源としてシラン(SiH4)ガスを供給している。
なお、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、工程Bと同様に、この工程Cにおけるメインフローを構成する全ガス中に占める不活性ガス成分比(図2(A)のシーケンス例では第1メインフローであるNH3ガス成分と第2メインフローである窒素ガス、TMGa、SiH4ガス成分の総和に対する不活性ガス成分比)が流量比で0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましい。
このようにして得られる第2の窒化物半導体層は、その厚みL2が0.4〜20μm(即ち400nm以上20μm以下)の範囲の比較的厚い層で、シリコン濃度は、通常1×1017cm−3以上、好ましくは、5×1017cm−3以上、さらに好ましくは1×1018cm−3以上、特に好ましくは3×1018cm−3以上である。また、通常6×1019cm−3程度以下、好ましくは4×1019cm−3以下、さらに好ましくは1×1019cm−3以下、特に好ましくは7×1018cm−3以下である。ここで、第2の窒化物半導体層の厚みL2が0.4μm未満ではpn接合素子を作製した場合に良好なpn特性を得ることが困難であり、20μmを越える厚膜とすると過度に表面荒れが生じ易い。
厚みL2は、素子化した場合の電気特性を安定なものとし易くし、エピタキシャル成長開始界面に残存している僅かな格子欠陥が素子の量子井戸活性層構造に悪影響を及ぼすことを抑制するという観点から、0.4μm(400nm)以上とすることが好ましい。
さらにL2の厚みは、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、窒化物半導体層の表面等の凹凸の程度を調整するために重要であって、一般には適切なエピタキシャル成長条件によって、その適切な厚膜化を図ることで、凹凸の程度を大きくできる。但し、過度な凹凸形成は好ましくなく、その上限は、20μmである。
第2の窒化物半導体層のドーパント濃度は、1×1017cm−3未満であるとpn接合素子を作製した場合に良好なpn特性を得ることが困難であり、ドーパント濃度が6×1019cm−3を超える高濃度ドープの窒化物半導体層では表面が過度に荒れ易い。
本発明においては、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との組成は異なることが好ましい。これは、第1の窒化物半導体層がいわゆるバッファ層としての機能を有し、一方、第2の窒化物半導体層の一部は少なくとも量子井戸活性層構造部へのキャリア注入の機能を有することが好ましく、機能分離を図れるからである。例えば、第1の窒化物半導体層は意図的にはSi等をドーピングしない、アンドープGaN層とした際に、第2の窒化物半導体層は意図的にSi等をドーピングするn−GaN層とすることが好ましい。意図的に成長条件を変化させることで、それぞれの層の機能分離を図ることもよく、このようにすると含まれる不純物濃度等も異なる場合がある。このような意味において、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との組成は異なることが好ましい。
本発明はこれら工程A、B、Cを備えているが、追加の工程を加えることとしてもよいことは言うまでもない。例えば、工程Bと工程Cの間(第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層の間)に、ドーピング濃度が異なる2種類以上の層を繰り返し積層した層構造や、異なる材料から構成される2種類以上の窒化物半導体層を繰り返し積層した層構造などを形成する工程を付加するようにしてもよい。さらに、前述の通り、本発明の最も好ましい工程Aの昇温到達温度範囲、第1の窒化物半導体層の成膜温度範囲、第2の窒化物半導体層の成膜温度範囲は、いずれも900℃〜970℃の範囲である。
通常、c面のGaN結晶上ではi−GaNやn−GaNの厚膜成長を行うには、最も好ましい昇温到達温度や成長温度は1000℃を超えた温度であり、それよりも低温で結晶成長した場合には、結晶性が低下する。しかし、本発明者らの実験結果によれば、非極性面の主面を有する基体上に、本発明による方法で結晶成長させる場合には、一般的な条件よりも100℃以上も低い温度でエピタキシャル成長させることで、内部量子効率が大幅に向上する事が確認された。
このために、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、比較的低温で窒化物半導体層を形成することが好ましいため、主に有機金属原料からの炭素の膜中への不純物の混入などを抑制すべく、たとえばGa原料としてはTMGaよりもTEGaを用いる事が好ましい。これは、TMGaよりもTEGaの方が低温で分解するために、膜中への炭素の取り込みが抑制され、たとえば第2の窒化物半導体層においては、Si等をドーピングした際に、炭素による補償が少ない層が形成可能となるため、好ましい。
また、図2(G)や図2(A)に例示したように、第2の窒化物半導体層の上にMQW層を含む積層構造体をさらにエピタキシャル成長させる工程(工程D)や、p型ドーパントを含有する窒化物半導体層を結晶成長させる工程(工程E)、降温工程(F)など含む第3の工程を設けるようにすることもできる。
第2の窒化物半導体層の上にMQW層を含む積層構造体をエピタキシャル成長させる工程(工程D)においては、第2の窒化物半導体層表面を、不活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で当該第2の窒化物半導体層上にMQW層を含む積層構造体をエピタキシャル成長させることが好ましい。
図2(G)の場合にも、図2(A)の場合も、不活性ガスとしてN2を、また、窒素原料としては任意の要件として活性ガスであるNH3ガスを適切な量含んでメインフローを構成した雰囲気中で、第2の窒化物半導体層上にInGaN層とGaN層の積層構造からなる多重量子井戸活性層構造を形成している。
本発明における多重量子井戸活性層構造中の量子井戸層には、適宜発光波長を選択するために、In、Al等を含む事が好ましく、Inを含む事が最も好ましい。InGaNの量子井戸層のIn濃度は、組成比でたとえば、0.04〜0.15で、InGaN/GaN多重量子井戸活性層構造は400±30nm(即ち、370nm以上430nm以下)の中心波長を有する光を発光する事が好ましい。
さらに好ましくはその中心波長は380nm以上420nm以下であって、InGaN量子井戸層のIn組成比では、0.05〜0.10程度に相当する。最も好ましくは、その中心波長は395nm以上415nm以下であって、InGaN量子井戸層のIn組成比では0.06〜0.09程度に相当する。
一般に、c面サファイア基板上に形成されたInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造においては、格子定数の不整合等に起因する多数の転位がサファイア基板とGaN系エピタキシャル層の界面から、多重量子井戸活性層構造を含むエピタキシャル層全体に伝播してしまっているのが普通であり、その転位密度は1×109cm−2程度であることが知られている。また、サファイア基板上に凹凸加工をした基板を用いてエピタキシャル層を形成し、転位の一部を低減したとしても、3×108cm−2程度の転位密度までしか低減しないことも知られている。
ここにおいて、Inは量子井戸層内の電子―成功対の空間的な位置を局在化し、ひいては発光を局在化するので、多数の転位が存在しても、量子井戸層内に注入あるいは生成した電子―正孔対がこれらの転位等に捕獲されて非発光再結合することを抑制していると考えられている。
一方、本発明は非極性面基板上の窒化物を基体とする。即ち、本発明においては、エピタキシャル層内における転位密度は非常に小さくすることができる。本発明者らの実験結果によれば、本発明におけるエピタキシャル層内に存在する転位密度は、好ましくは3×107(cm−2)以下であって、より好ましくは、5.0×106(cm−2)以下にまで低減することができる。このようなInによる電子―正孔対の空間的な局在効果の少ない場合であっても本発明の発光特性は良好である。
具体的には、InGaNの量子井戸層のIn組成比でたとえば、0.04〜0.15であっても、非常に良好な発光特性を示すことが確認されている。このため、本発明における窒化物半導体エピタキシャル層が発光する光は、下限が370nm以上、好ましくは380nm以上であり、上限が430nm以下、好ましくは420nm以上の中心波長を有していることが好ましい。前記下限はGaN層とのバンドオフセットを形成するために必要な最低限度のInGaN層のIn組成で規定されており、一方、前記上限は、本発明で好ましく利用可能な比較的厚膜のInGaN量子井戸層が形成可能な上限のIn組成で規定されている。
量子井戸活性層を形成する際の好ましい基体温度は、InGaN層を安定的に形成する目的で規定される。InGaN層中のInは、その蒸気圧が高いために、量子井戸活性層は、他の層よりも低温で形成されることが好ましい。特に、本発明者らの検討によれば、非極性面上の成長においては、極性面上の成長と異なり、同一条件での成長であってもInの取り込みが少なくなっている。その結果、本発明のような平坦な非極性面上のエピタキシャル層上へInGaN層を含む量子井戸活性層構造を形成する場合には、その温度範囲は600℃〜850℃が好ましい。ここで基体温度が600℃以下の場合には、窒素原料の分解効率が低下し、また、不純物の取り込みが増えるため、結晶性が劣化し好ましくない。
また、850℃より高い場合には、インジウム原子の再蒸発が活発化するために、インジウム組成に依存する発光波長の制御や、面内均一性の確保が困難になる。よって、量子井戸活性層を形成する際の基体温度は、600℃〜850℃に設定されるのが好ましい。より不純物が少なく、より波長再現性が必要とされる場合には、基体温度を700℃〜760℃の間に設定することがより好ましい。
量子井戸活性層を形成する際の、反応炉内の圧力は、第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時の圧力以上とすることが好ましく、120kPa以下とする事が好ましい。
これは以下の理由による。第2の窒化物半導体層上に量子井戸活性層を積層させる工程では、蒸気圧の高い元素であるインジウムの存在下で欠陥の発生を抑制する必要がある。よって、反応炉内の圧力を工程Cよりも高く設定することが好ましい。これによって蒸気圧の高い元素であるInの過剰な再蒸発等を適切に抑制することが可能となる。但し、120キロパスカル以上の圧力では反応炉内の気相反応が増加してしまい、エピタキシャル成長中に窒化物半導体層内に炭素が取り込まれやすくなり、結晶性が低下することとなる。よって、反応炉内の圧力は、第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時の圧力以上とすることが好ましく、120kPa以下とする事が好ましい。
図2(G)や図2(A)に例示したように、メインフローを構成する第1メインフローとしてInGaNとGaNの窒素源となりうるNH3ガスを供給し、メインフローを構成する第2メインフローとしてN2を用い、この一部をキャリアガスとしてTMGa、TMInを供給している。なお、工程Dにおけるメインフローを構成する全ガス中に占める不活性ガス成分比(図2(G)や図2(A)のシーケンス例では、活性層構造に含まれる量子井戸層においては、第1メインフローであるNH3ガスと第2メインフローであるN2ガス、TMIn、TMGaの総和に対する不活性ガス成分比であって、一方、活性層構造に含まれる障壁層においては、第1メインフローであるNH3ガスと第2メインフローである窒素ガス、TMGaの総和に対する不活性ガス成分比)が流量比で0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましい。特に活性層構造に含まれる量子井戸層においては、H2を供給しないことが好ましい。
これは、過剰な活性ガスの導入、特にエッチング効果の大きいH2ガスの導入は、特にInNを含む材料、たとえばInGaN等の平坦度を極端に悪化させる。このため、本発明の第1の成長工程、第2の成長工程を経た、下地の良質な窒化物半導体層であっても、活性層の結晶性の低下につながり易いため、H2を供給することは好ましくないからである。
ただし、活性ガスである窒素原料が過剰に存在する条件下で成長をする場合には窒素脱離が抑制されるため、メインフローを構成する全ガス中に占める不活性ガス成分比は、本発明者らの検討によれば、0.4程度まで下げることが可能である。
第3の工程に含まれる、積層構造体のエピタキシャル成長工程中に作製しうる、活性層構造の厚み、特に量子井戸活性層構造における量子井戸層の厚みは、本発明においては、厚膜化を図る事が好ましい。
具体的には、c面サファイア基板上に形成されたInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造中の量子井戸層においては、その厚みは1nmから2nm程度である場合に、最も発光効率が良い事が知られている。これは極性面上に形成された多重量子井戸活性層構造中において、注入/生成された電子―正孔対が空間的に分離されるために、その分離を抑制するためには極薄の量子井戸層が適切となってしまうことが一因である。
一方、本発明においては、前述の通り、QCSEの原理的に発生しない非極性面を有する基体の上に、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層を高品質に形成する事が可能である。よって、理想的な、適度に厚膜化された量子構造を作製する事が可能である。
さらに本発明においては、適切な凹凸、界面のゆらぎ、厚みのゆらぎが多重量子井戸活性層(MQW)に付加されていてもよい。これは以下の理由により好ましい態様とされる。即ち、MQWを電磁気学的な双極子の集合として捕らえると、MQWに凹凸が付加されることは、内部放射の方向が変わることとなる。これはGaN基板と外側の媒質、例えば空気を仮定すると、GaN/空気で形成される光学界面における、屈折率差できまる臨界角度内に入る放射要素が増えることとなり、表面に凹凸加工をしたのと略等価であって、光取り出し効率が向上することが期待されるため、好ましい。
このようなMQWへの自然発生的な凹凸やゆらぎの付加は、ある程度の厚みのInGaNを形成することによってなされる。薄膜であると凹凸の程度は少なく、また、過剰な厚みを有すると、内部量子効率が下がると想定される。さらに、このようなMQWへの自然発生的な凹凸やゆらぎの付加は、後述する実施例等で示すとおりに、MQW層などを多数化して積層することで、その程度を増加させることができる。
上記の2つの観点から、例えば、発光素子を作製する場合においては、多重量子井戸活性層構造中の量子井戸層は、体積を増加させた方が発光素子の高効率化、高出力化が可能であって、本発明者らの実験によれば、多重量子井戸活性層中の少なくとも任意のひとつの量子井戸層の厚みの下限は10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。さらには、多重量子井戸活性層中のすべての量子井戸層の各々の厚みの下限は10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。これは従来の方法と比較して格段に厚い量子井戸層、多重量子井戸活性層構造を形成可能になるということになる。
一方、量子井戸活性層構造中の量子井戸層は、いわゆる量子サイズ効果による高効率な発光再結合を実現させる観点と、また、下記に示す結晶品質の低減抑制の観点から、過度に厚い量子井戸層は好ましくない。本発明者らの検討によれば、100nm以下が好ましい。また、より好ましくは50nm以下であって、さらに好ましくは30nm以下であって、最も好ましくは20nm以下である。これらの好ましい量子井戸層の厚みの上限も、従来の方法と比較して格段に厚いものとなっている。
さらに、本発明においては、量子井戸層の層数は通常よりも多くすることが好ましい。これは、本発明においては、非極性面上で過度に内部量子効率の低下した層とならないため、井戸層そのものをふやし、適度に成長面内等で膜厚のゆらぎを付加することで、光取り出しの向上が期待される。本発明では実施例等でも示すとおり、量子井戸層を多重に積層すると、そのゆらきを適宜、適切な範囲で付加することが可能である。よって、多重量子井戸活性層構造中の井戸層の数は2層から100層が好ましく、より好ましくは4層から50層が好ましく、6層から25層がさらに好ましく、8層から15層が最も好ましい。
また、本発明の窒化物半導体は、エピタキシャル層内の転位密度は比較的小さく、これによって、Inによる電子―正孔対の空間的な局在効果が少なくなっても、換言すると、前記の通りに、In組成が少ないInGaN層を量子井戸層に採用したとしても、良好な発光特性を実現する事が可能となっている。ここでGaN基板上のホモエピタキシャル成長においては、In濃度の高いInGaN層がGaN層上に形成されると、InGaN層は成長面内方向に圧縮応力を受ける。
特に非極性面、たとえばm面GaN基板上に形成されたInGaN/GaN量子井戸活性層構造中のInGaN量子井戸層においては、成長面内に非等方的な圧縮応力を受けるため、In濃度の高いInGaN層の結晶性を損なわない臨界的な膜厚は、In濃度の低いInGaN層の結晶性を損なわない臨界的な膜厚と比較して、格段に薄い。すなわち、従来のように非極性面上でのモルフォロジが極端に悪い、点欠陥等が多い構造しか形成できない方法で形成されるInGaN/GaN量子井戸活性層構造においては、サファイア基板上などと同様に、In濃度を高め、その結果生じる電子―正孔対の空間的な局在効果によって発光強度を高めることが必要になる。その結果、臨界的な膜厚の制限によりInGaN層の膜厚を厚くすることができない。
一方、本発明において好ましく利用される、InGaNの量子井戸層のIn組成が比較的低い0.04〜0.15の範囲においては、厚膜化が特に好ましく実施可能である。この結果、好ましい量子井戸層の厚みの条件は、その上限も、下限も相対的に従来のものよりも厚くなっている。
以上から第3の工程に含まれる、積層構造体のエピタキシャル成長工程中に作製しうる、活性層構造の厚み、特に量子井戸活性層構造における量子井戸層の厚みは、本発明においては、厚膜化を図る事が好ましい。また、量子井戸数は通常よりも多数化を図ることが好ましい。
図2(G)、図2(A)にそれぞれ示されるように、第2の窒化物半導体層の上であれば、p型ドーパントとなりうる材料を含む層はいずれの位置にあっても適宜選択可能ではあるが、第2の窒化物半導体層の上にMQW層を含む積層構造体を有し、さらにその上にp型ドーパントとなりうる材料を含む層をも有することは好ましい(工程E)。本工程においては、p型ドーパントとしてMgを用いることが好ましく、その濃度は1×1019cm−3以上8×1019cm−3以下の範囲が好ましい。この理由は以下の通りである。
Mgは窒化物結晶中には取り込まれにくく、その濃度は取り込み律速となっている。ところが、その取り込まれ方は、表面の平坦性に大きく依存する。そのため、従来のように、非極性面上のエピタキシャル層の表面平坦性が過度に悪い場合には、基体表面ではMg濃度の制御が困難で、意図せず低濃度となってしまったり、逆に、非常に高い濃度の層が偶発的に形成されることもある。一方、本発明に示す表面状態の適度に良好な構造、適切な凹凸を付与した構造ではMgの濃度を安定的、かつ再現性良く制御することができ、結果として、比較的Mg濃度の目標値を広い範囲で、狙い通りに適宜選択することが可能となる。
すなわち、従来の方法のように、偶発的に高い濃度の層となることをさけるために、Mg濃度の目標値を意図的に下げてエピタキシャル成長し、結果として極端な低濃度になってしまうなどのことがない。このため、表面平坦性に優れた非極性面上に形成されたp型ドーパントとなりうる材料を含む層におけるドーパント濃度は、比較的AlGaN系窒化物半導体層に適切と考えられる範囲に設定することが可能である。その濃度は、通常1×1019cm−3以上、好ましくは2×1019cm−3以上であり、通常8×1019cm−3以下、好ましくは6×1019cm−3以下である。
p型ドーパントとなりうる材料を含む層は、AlxGa1−xNを含む層(0≦x≦1)が用いられることが好ましい。特に本発明で好適に利用される低In組成のInGaN/GaN量子井戸活性層構造によって発光する光の中心波長が370nmから430nmである場合においては、活性層構造から出射される光が、p型ドーパントとなりうる材料を含む層において吸収されるのを抑制するために、特にAlxGa1−xN(x≠0)であることが望ましい。
本発明によって、第1の窒化物半導体層、その上に形成される第2の窒化物半導体層、さらにその上に形成しうる活性層構造が、非極性面上に形成されたエピタキシャル層であっても、適度な平坦度が実現可能である。このために、その上に好ましく形成されるp型ドーパントとなりうる材料を含む層においても、通常よりもAl組成が高く、また、通常よりも層厚が厚い場合においても、良好なAlxGa1−xN(x≠0)層が形成可能である。
一般には、GaN基板上のAlGaN層は、層中に引張応力を受ける。さらにこの応力は、Al組成が高いほど、また膜厚が厚いほど大きくなるために、クラック等が発生し、また、欠陥が導入されやすくなる。しかし、本発明で実現される適度な平坦性を有する欠陥の少ないエピタキシャル層上ではその程度が緩和される。結果として、相対的に高Al組成であって、相対的に膜厚が厚くとも、高品質なAlGaN層が成長可能となる。
本発明者らの検討によれば、好ましく利用可能なAl組成の範囲は、通常0.02以上、好ましくは0.03以上である。また、0.20以下であって、好ましくは0.15以下である。膜厚は、通常0.05μm以上、好ましくは0.10μm以上、さらに好ましくは0.12μm以上であり、通常0.25μm以下、好ましくは0.20μm以下、さらに好ましくは0.18μm以下である。
なお、本発明の半導体発光素子にp側電極を形成する観点では、電極との接触抵抗を下げるために、電極との界面層としてAl組成の小さい、たとえば、Al0.025Ga0.975Nのような低Al組成の薄膜を挿入し、かつ、量子井戸活性層構造側には、前述の通り光吸収抑制との観点で、Al0.10Ga0.90Nを形成して、p型ドーパントとなりうる材料を含む層を2層構造とすることは、光学特性、電気特性の両立をはかるために効果的であって好ましい。
p型ドーパントとなりうる材料を含む層、たとえば、AlxGa1−xN(0≦x≦1)層を形成する際の成長雰囲気は、工程B,Cと同じ理由で、平坦性を重視する場合には、不活性ガスが好ましい。しかし、活性ガスであるH2を主体とする雰囲気であっても問題なく層形成することも可能である。特に、p型ドーパントとなりうる材料を含む層、たとえば、AlxGa1−xN(0≦x≦1)層の膜厚が薄く、その成長時間が短い場合には、活性ガスであるH2を主体とする雰囲気であっても好ましく成長が可能である。よって、p型ドーパントとなりうる材料を含む層、たとえば、AlxGa1−xN(0≦x≦1)層を形成する際の成長雰囲気は適宜選択が可能である。たとえば、炭素等の不純物混入を抑制するとの観点では、活性ガスであるH2を主体とする雰囲気で成長することが好ましく、一方、表面平坦性を重要視する場合には、N2を主体とする雰囲気で成長することが好ましい。
p型ドーパントとなりうる材料を含む層、たとえば、AlxGa1−xN(0≦x≦1)層を形成する際の成長時の基体温度は、他の層と同様に、600℃〜1350℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは650℃〜1200℃の範囲、更に好ましくは800℃〜1100℃の範囲、最も好ましくは900℃〜970℃の範囲である。
さらに、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層を形成する際の好ましい圧力は、Mg導入に伴う欠陥発生を抑制するという観点から、30kPa以上が好ましく、上述してきた気相反応の抑制から120kPa以下が好ましい。
本発明の半導体窒化物半導体層に関する、成長後の降温工程は任意の手順で実施することが可能であるが、降温条件としては以下のようにすることが好ましい。すなわち、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層部分をp型層とするための活性化プロセスを降温時に実施するようにする場合である(降温工程中活性化工程)。
この場合には、本発明者らの検討によれば、非極性面基体上に、p型ドーパントとなりうる材料を含む平坦なエピタキシャル層が形成されている場合には、図2(A)に模式的に示される、以下の降温工程によって、p型ドーパントとなりうる材料の活性化が可能である。
具体的には、III族原料およびドーパント原料の供給を停止した直後に、基板温度の自然放冷、あるいは、温度制御をしながらの除冷、供給ガスによる冷却等による基体温度の下降を開始させる。降温工程においてはN2を継続供給するか或いは不活性ガスを供給するか若しくはN2の継続供給に加えて他の不活性ガスも供給するかする。かつ、成長工程においてH2を供給していた場合には、これを十分に低減、もしくは遮断し、NH3流量を成長時よりは低減させ、その後適切な温度までNH3を供給する。その後は、N2ガスのみ、或いは不活性ガスのみ、或いはN2ガスと不活性ガスの混合ガスのみによって、さらに基板温度を低下させる。本発明者らは、このような手順によって、適切な平坦性を有する表面を有する非極性面上に形成されたp型ドーパントとなりうる材料を含む層の、p型化が可能であることを見出した。
降温工程において、NH3流量を成長時よりは低減させ、その後適切な温度までNH3を供給した後に供給を停止するのは、表面からのエピタキシャル層の構成元素である過度な窒素抜けを抑制するためである。これは、本発明の昇温工程時の技術思想と類似である。
さらに、本発明者らの検討によれば、最適なp型ドーパント活性化シーケンスは、最表面を構成する材料に依存する。
例えば、最表面がGaN層の場合には、結晶成長シーケンス終了後、すなわち、この場合にはTMGaやTEGa等のGa原料とCp2MgなどのMg原料の供給を停止し、降温工程に移行した後は、NH3の流量は、100cc/分(sccm)以上1L/分(slm)以下の範囲にあることが好ましい。一方、最表面がAlGaN層の場合には、表面からのN抜けが生じにくいため、TMGaやTEGa、TMAl等のIII族原料とCp2MgなどのMg原料の供給を停止し、降温工程に移行した後は、NH3の流量は30(sccm)以上100(sccm)以下が好ましい。
さらに、いずれの場合も降温工程においてNH3の導入を継続する温度は、少なくとも965℃までは継続することが好ましく、最長でも450℃までで遮断することが好ましい。降温工程においては、過度に高温でNH3供給をやめると、意図しない程度の過剰な表面荒れの原因になり、一方、過度に低温までNH3供給を継続すると、NH3からのH原子が結晶中に固定されてしまい、Mgの活性化率が低下してしまう。よって、950℃から750℃の間でNH3供給をやめることが最も好ましい。
また、降温工程中の圧力範囲は任意に設定可能であるが、本発明者らの検討では、減圧下で実施することも、常圧下で実施することも、さらには、加圧下で実施することも可能であって、その圧力の好ましい範囲は、13kPaから203kPa程度の範囲で実施することが好ましい。特に、減圧化で実施する際には、H原子の脱離が促進され好ましく、一方、加圧化で実施すると非極性面上のp型ドーパントとなりうる材料を含む層のp型化が容易になり、かつ、表面の適度な平坦性も確保されるために好ましい。なお、積層構造体のエピタキシャル成長時の圧力と類似している場合は、生産性等を考慮すると好ましい。
一方、降温工程の後に、さらに別の装置で、あるいは、結晶成長装置の温度を再度上げて熱的な降温工程後アニールを行う、あるいは、降温工程後に電子線照射等を実施して、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層部分をp型化する工程(降温工程後活性化工程)を別途行うことも可能である。なお、本発明による降温工程中活性化工程を経た、非極性面上に形成されたエピタキシャル層に、さらに降温工程後活性化工程を実施することは任意である。
本発明者らの検討では、第1の窒化物半導体層、その上に形成される第2の窒化物半導体層、さらにその上に形成しうる活性層構造が、非極性面上に形成されたエピタキシャル層であって、さらにこの上に、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層が、適切な平坦度で形成されている場合であっても、c面サファイア基板上に形成された類似の層と比較して、非極性面上に形成されたエピタキシャル層は、降温工程後活性化工程(例えば熱アニール)によっては比較的大きなダメージを受けてしまうことが判明している。場合によっては、Mgの活性化を十分に実現する程度の降温工程後活性化工程を行うと、光学特性が劣化することもある。
しかし、本発明者らによれば、比較的低温で結晶成長をした第1と第2の窒化物半導体層を有し、比較的低温で結晶成長をした量子井戸活性層構造を有する場合には、この問題が克服されることが確認された。このような非極性面上に形成されたエピタキシャル層の成長温度の違いによる、降温工程後活性化工程における劣化の程度の違いは、非極性面上に形成されたエピタキシャル層に特徴的に見られることと考えられる。
ここにおいて、本発明により実現される非極性面上に形成されたエピタキシャル層に対して、降温工程後活性化工程をいわゆる熱アニールで行う場合は、650℃から750℃の間で実施することが好ましく、680℃から720℃の間で実施することが最も好ましい。また、その時間は1分から30分程度で実施することが好ましく、3分から10分の間で実施することが最も好ましい。また、雰囲気は酸素雰囲気、窒素雰囲気、あるいはこの混合雰囲気で実施することが好ましい。また、降温工程後活性化工程は電子線照射工程として実施することも可能である。
本発明における、第1の窒化物半導体層、その上に形成される第2の窒化物半導体層、さらにその上に形成しうる活性層構造が、非極性面上に形成されたエピタキシャル層であって、さらに、その上に好ましく形成されるp型ドーパントとなりうる材料を含む層を有する場合には、総合的に見ると、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層をp型化する工程は、降温工程後活性化工程を別途行うことよりも、簡便であって、かつダメージも導入されにくいため、降温工程中活性化工程を行うことがより好ましい。
本発明の窒化物半導体は、前述の通り、非極性面基板上の窒化物を基体としているが、エピタキシャル層内における転位密度小さくすることができる。即ち、本発明の窒化物半導体は、エピタキシャル層内に存在する転位密度は、好ましくは3×107(cm−2)以下であって、より好ましくは、5.0×106(cm−2)以下である。
図3(A)は、このようにして得られた本発明の窒化物半導体例を説明するための断面概略図で、(1−100)面(m面)を主面とする自立基板であるGaN基板10の主面上に、意図的にはSiをドーピングしていないGaN層11とSiドープされたn型GaN層12が積層されており、このn型GaN層12の上に、InGaNの量子井戸層とGaNの障壁層とが交互に積層されたInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が設けられ、多重量子井戸活性層構造13の上にMgドープのAlGaN層14、および、GaN層15が形成されている。
図3(A)に例示したInGaNの量子井戸層のIn濃度は、組成比でたとえば、0.04〜0.15で、InGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13は400±30nmの波長の光を発光可能である。
図4は、本発明の結晶成長方法により育成されたm面窒化物半導体を用いて図3(A)に図示した構造のLEDとした試料(A)のPL発光特性である。図中にはc面窒化物半導体のLEDのPL特性と比較するために、比較用のc面窒化物半導体LEDである、c面GaN自立基板上に成長させたc面窒化物半導体のLED試料(B)、および、サファイア基板上に成長させたc面窒化物半導体のLED試料(C)の結果も示してある。なお、何れのLED試料も、構造は図3(A)に図示した積層構造の発光素子であって、各試料の結晶成長シーケンスは、それぞれの基板の特性に合わせて最適な方法で行ったものであって、すべての試料の表面モルフォロジは至極良好なものであった。
この図に示した結果から、本発明のLED試料の発光層(MQW層)からのPL発光(A)は、c面窒化物半導体LED試料の発光層(MQW層)からのPL発光(B、C)に比較して、著しく高い強度を示している。このPL強度の違いは各LED試料の発光層の結晶性の違いに起因するが、本発明者らは、その主要因が、QCSE効果が抑制された非極性面(特にm面を最表面に有するGaN自立基板)上に適切に形成された第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層であって、第2の窒化物半導体層の厚みが400nm以上20μm以下の厚みを有しているために、この窒化物半導体結晶層の上に形成した発光層(MQW層)の発光効率が顕著に向上することにあるものと考えている。
本発明者らは、本発明の結晶成長方法によって、はじめて、このような結果が得られたものと考えている。
つまり、本発明において量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、昇温時から第1および第2の窒化物半導体層のエピタキシャル成長工程における、メインフローを構成するガス種を不活性ガスを含むものとし、さらに任意の構成として、非極性面を主面とするエピタキシャル成長面、あるいはエピタキシャル成長中に露出する面が、活性ガスであるH2ガスに過剰に暴露しないようにし、さらに任意の構成として、窒素原料となりうる活性ガスであるNH3や活性ガスのH2の供給があったとしても、昇温時から第1および第2の窒化物半導体層のエピタキシャル成長工程におけるメインフローを構成する全ガス種の中で、不活性ガスが占める割合を流量比で0.5以上1.0以下とすることで、結晶性の高いm面窒化物半導体層が得られ、その上にエピタキシャル成長させた量子井戸活性層構造(MQW層)の結晶性も高くなる。
加えて、非極性であるm面窒化物半導体の表面では、QCSE効果が抑制されることから、適切な量のInを組成として含む発光層(MQW層)からの発光効率が高くなる。
図5(A)乃至図5(C)は、第1および第2の窒化物層のエピタキシャル成長時(工程B、工程C)のメインフロー中の構成ガス依存性(表1参照)を検討した結果を説明するための微分干渉顕微鏡像で、何れの試料も、m面GaN自立基板上に成長させ、その表面が略m面となっている、m面窒化物半導体結晶であり、本発明ではいずれの方法によって形成された窒化物半導体も好ましいものである。
なお、全サンプルにおいて第1の昇温工程はN2ガスをメインフローとして実施し、また、第2の昇温工程はN2とNH3の混合ガス(メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比:Fp=0.75)をメインフローとしてエピタキシャル成長を実施した。
サンプルA(図5(A))は、工程Bにおいては、NH3、H2、TMGaを、また工程Cにおいては、NH3、H2、TMGa、SiH4をメインフローとして供給した結果である。
サンプルB(図5(B))は、工程Bにおいて、NH3、N2、H2、TMGaを、また工程Cにおいては、NH3、N2、H2、TMGa、SiH4をメインフローとして供給した結果である。
さらに、サンプルC(図5(C))は、工程Bにおいて、NH3、N2、TMGaを、また工程Cにおいては、NH3、N2、H2、TMGa、SiH4をメインフローとして供給した結果である。
各工程におけるメインフローを構成する全ガス中の不活性ガスの流量比Fpは表1に示したとおりである。
図5(A)乃至図5(C)に示した結果から、結晶成長工程において、メインフローを構成するガス中における不活性ガスの割合が小さく、特にこの中にH2ガスが適切に含まれる場合には、窒化物半導体層の表面等に、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが可能となる。 (図5(A)、図5(B))。これに対して、メインフローを構成するガス中における不活性ガスの割合が大きく、N2がメインフローの主たる構成ガスである場合には、表面が平坦化している(図5(C))。
なお、本発明者らの検討によれば、第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時(工程B)にSi源を、例えばSiH4やSi2H6等の形態で意図的に供給すると、凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが可能となる。また、工程Aおよび工程Bの反応炉内圧力が過剰な減圧(35キロパスカル未満)状態にあると、第1のGaN層のミクロな意味での結晶性が低下し、この結晶性の低下により発光層の特性が低くなる。
なお、工程A(の期間tA)、工程B、工程Cにおいて、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、メインフローを構成するガス中の不活性ガスの割合は、0.5以上は必要であった。
さらに、第1のGaN層の厚みには適切な範囲があり、表面状態と発光特性に優れた窒化物半導体膜を得るためには、Siを、例えばSiH4やSi2H6等の形態での意図的な過度の供給はしないでエピタキシャル成長させる第1の窒化物半導体層の厚みとして0.1nm〜300nmの範囲の比較的薄い層である事が好ましく、さらに好ましくは、1.0nm〜150nmであって、最も好ましくは、5.0nm〜50nmの範囲である。
これらの結果について、本発明者らは次のように解釈している。先ず、第1の窒化物半導体層を意図的な過度のSiドープの膜とした場合には、Siの供給源であるSiH4やSi2H6がが気相反応して生じる生成物が基体表面および成長開始直後の窒化物半導体層表面に付着し、面内での均一な成長を過度に妨げる。つまり、ミクロ的には、成長初期の第1の窒化物半導体層は、面内で局所的な結晶成長を始めてしまう。そして、このような過度の面内不均一な結晶成長が一旦始まってしまうと、表面モルフォロジが比較的良好な膜とすることができない。
従って、窒化物半導体層のエピタキシャル成長の初期段階では、面内での不均一結晶成長の原因となる生成物を適切量だけ排除することが重要であり、一旦面内で均一な結晶成長が開始してしまえば、例えSiドープの窒化物半導体を結晶成長させたとしても、その表面モルフォロジが顕著に低下することはない。これが、本発明において、第1の窒化物半導体層にSiを意図的に過度にドープせずに成長させる理由である。
勿論、反応炉内の圧力を下げることによっても、SiH4の気相反応を容易に抑制できるから、第1の窒化物半導体層をSiドープの膜とした試料でも表面状態は一応良好なものとなり得る。しかしながら、Siドープ量が過度で、かつ、反応炉内の圧力が過度の減圧状態にあると、表面からの窒素脱離が誘発され、これによって欠陥が導入される結果、ミクロな結晶性は極度に低下してしまう。従って、第1の窒化物半導体層への欠陥導入とSi供給源の気相反応に起因する成長阻害の双方を適度に低減するためには、反応炉内圧力を過度に減圧にしない状態、すなわち35キロパスカル以上とするとともに、過度のSiをドープせずに第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることが望ましい。
なお、このような第1の窒化物半導体層の上に新たに窒化物半導体層を成長させる際には、成長速度の増大などを目的として反応炉内を減圧状態としたり、Siをドーピングしたとしても、当該窒化物半導体層の表面モルフォロジや光学的な特性の劣化は殆ど生じないことも確認された。
よって、本発明における第1の窒化物半導体層は、成長阻害要因となる元素を過度に含まなければよいと考えられる。従って、Siを意図的に過度にドーピングしないGaNで構成する態様には種々のものがあり得ることとなり、Siを意図的に過度にドーピングしなければ、第1の窒化物半導体層を、InN、AlN、BN、GaInN、GaAlN、GaBN、InAlN、InBN、AlBN、GaInAlN、GaInBN、InAlBN、GaInAlBN等のIII−V族窒化物半導体(以下、これらを総称してGaN系半導体ということもある)とすることも可能である。さらに、OやMg或はZn等のSi以外のドーパントとなりうる元素を供給して第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる態様も可能である。
後述する実施例で示すとおり、Mg等を意図的にドープしたとしても、第1の窒化物半導体層の上に新たに窒化物半導体層を成長させる際には、その後形成するエピタキシャル層全体としての表面モルフォロジや光学的な特性の劣化は殆ど生じないことは確認されている。特に、GaN系材料においては、Siドープ層よりも、また、アンドープ層よりもMgドープ層が、下地との密着性に関する耐熱性において優れた効果があることが本発明者らによって確認されている。
よって、Mgドープの層は、Siが共ドープ状態となっていたとしても、第1の窒化物半導体層として、基体表面との密着性に関する耐熱性が求められる場合には好ましく利用可能である。例えば、テンプレート作製、発光素子作製等に用いる事が好ましい。
一方、意図的な過度のSiドープを行わない第1の窒化物半導体層は、発光素子、電子デバイス等の用途には好適に利用可能である。第1の窒化物半導体層が適度なSiドープ層の場合には、適度な凹凸が表面に形成され、結果的に、エピタキシャル層全体を発光素子化した際には、発光効率が上がる。特に、本発明では、内部量子効率も過度に低くならない程度に制御すれば、Raが200nm程度と波長と同程度の荒れが自然に形成されたことになり、光取り出しに効果的に作用するため好ましい。従って、このような態様においては、発光素子等に好ましく利用可能である。
これらの結果として、本発明の方法によって形成される第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層を積層したエピタキシャル層の最表面、さらには、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との積層体上にさらなる積層構造を形成されたエピタキシャル層の最表面は、適度に凹凸のあるモルフォロジを形成することにより、実現可能である。
本発明の窒化物半導体の表面のモルフォロジは、接触式段差計を用いて、凹凸の程度の指標となる平均粗さ、あるいは、中心線平均粗さ(Ra)を求めることにより、測定することができる。凹凸のない平坦な表面モルフォロジを本発明の窒化物半導体に要求する場合、その最表面は、Raが20.0nm以下であることが好ましく、より好ましくはRaが10.0nm以下であり、さらに好ましくはRaが8.0nm以下であって、最も好ましくはRaが6.0nm以下である。
一方、前述のように、適度な凹凸を形成し、光取出しを良好なものとさせて発光素子として発光効率の向上を期待する場合は、本発明の窒化物半導体の最表面のRaは、通常100nm以上、好ましくは150nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは250nm以下である。これは、本発明で好適に利用される波長において、散乱機能が効率的に作用して、好ましい範囲であるからである。
なお、ここで記載したRaは、試料表面を針で直線状にスキャンして得られる粗さ曲線を中心線から折り返し、その折り返した粗さ曲線と中心線によって得られた面積を、スキャンした長さで割った値である。
また、本発明の窒化物半導体は、平坦なモルフォロジを要求する場合、前記活性層が量子井戸構造を有する場合は、量子井戸層の厚さの面内での標準偏差が、通常0.45nm以下であり、好ましくは、0.4nm以下であり更に好ましくは0.35nm以下である。
また、本発明における量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くする場合には、上記の量子井戸層の面内での厚さばらつきの変動係数が、通常0.10以下であり、好ましくは、0.09nm以下である。これら量子井戸層の厚さの面内での標準偏差や、面内の厚さばらつきの変動係数の数値の根拠は、本発明者らの数多の実験データにより経験的に裏付けられるものであり、後述する実施例において詳述する。
さらに、本発明窒化物半導体は、特定の条件にて測定される(i)内部量子効率が、従来知られていた値に比較して極めて高く、(ii)フォトルミネッセンス寿命(τ(PL))が、従来知られていた値に比較して極めて長く、(iii)発光再結合寿命(τ(R))が、従来知られていた値に比較して極めて短いことも大きな特徴である。さらに、内部量子効率を比較的高くする場合には、(iv)発光再結合寿命(τ(R))が、非発光再結合寿命(τ(NR))よりも短くする事も好ましく実施可能である。しかも、これらの極めて優れた値は、本発明で規定される低励起密度条件で測定されることにより初めて確認された。
即ち、本発明の前記窒化物半導体(少なくとも一方の主面が非極性の窒化物である基体の窒化物主面上に、第1の窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層、活性層を含む積層構造体を含むもの)は、活性層の低励起密度条件のCW−PL測定から求められる、内部量子効率が20%以上、好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上である。
また、本発明の前記窒化物半導体は、活性層の、低励起密度条件のパルス光PL測定から求められる、内部量子効率が20%以上、好ましくは25%以上である。
また、本発明の前記窒化物半導体は、活性層の、室温であってかつ低励起密度条件における時間分解PL測定から求められるフォトルミネッセンス寿命(τ(PL))が1ns以上、好ましくは1.5ns以上である。
これら極めて優れた特徴に関する数値の根拠は、本発明者らの数多の実験データにより経験的に裏付けられるものであり、後述する実施例において詳述する。
以下に、実施例と比較例により、本発明をより具体的に説明する。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.1mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.6×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は34.2arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.25°、a方向へのOFF角は0.03°であった。また、転位密度(Dislocation Density)は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
まず、第1の昇温工程tBとして、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を12.5L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ10L/分、30L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.625、成長温度到達時は0.75であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.5L/分、H2を0.5L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.73747であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.24L/分、H2を0.76L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−7L/分)を炉内に供給した。
このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を7μmの厚みで成長させた。このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガス(25.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.73090であった。
次に、基体温度(基板温度)を740℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.07Ga0.93N(目標厚み1.5nm)の量子井戸層とGaN(目標厚み13nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、In0.07Ga0.93Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。
また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(20L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000015L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたトリメチルインジウム(TMIn)(0.00023L/分)を供給した。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(18.5L/分)と、H2(1.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、工程Dでの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.66666、GaN障壁層で0.61667であった。
続いて、基板温度を1000℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を50nm形成した(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。
また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたトリメチルアルミニウム(TMAl)(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)(4×10−6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのGaN層を70nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlとH2(50L/分)の供給を断って実行した。
工程Eの中の、Al0.1Ga0.9N層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのAl0.1Ga0.9N層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、きわめて平坦であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる平均粗さ、あるいは、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。
この結果、本実施例のもののRaは4.9nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は391nm、その積分強度は相対値で96と、高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.8%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.2mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.7×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は32.8arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.29°、a方向へのOFF角は0.05°であった。また、転位密度は5.4×106cm−2であった。このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
まず、第1の昇温工程tBとして、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を12.5L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ10L/分、30L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.625、成長温度到達時は0.75であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を20L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.5L/分、H2を0.5L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.58998であった。
続く工程C、D、Eは実施例1と同じ条件で行った。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。
この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは17.4nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は396nm、その積分強度は相対値で68と、高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.9%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.0mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.4×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は36.7arcsecで、c(+)方向へのOFF角は3.4°、a方向へのOFF角は0.3°であった。また、転位密度は5.1×106cm−2であった。このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
まず、第1の昇温工程tAとして、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を10L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ15L/分、15L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.57143、成長温度到達時は0.50であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.5L/分、H2を0.5L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を120nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.73747であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.294L/分、H2を0.706L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.006L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−8L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を1μmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガス(25.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.78579であった。
次に、基体温度(基板温度)を740℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.07Ga0.93N(目標厚み1.5nm)の量子井戸層とGaN(目標厚み13nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、In0.07Ga0.93Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。
また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(20L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000015L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給した。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(18.5L/分)と、H2(1.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、工程Dでの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.66666、GaN障壁層で0.61667であった。
続いて、基板温度を1000℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を50nm形成した(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMAl(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(4×10−6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのGaN層を70nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlとH2(50L/分)の供給を断って実行した。
工程Eの中の、Al0.1Ga0.9N層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのAl0.1Ga0.9N層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは8.2nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は390nm、その積分強度は相対値で45と、高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.9%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略を、図2(B)を用いて説明する。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に3.8mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.9×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は30.4arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−1.35°、a方向へのOFF角は1.01°であった。また、転位密度は5.6×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
まず、第1の昇温工程tAとして、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を17.5L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ12.5L/分、17.5L/分に増加させながら、基板温度をさらに700℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.50、成長温度到達時は0.58333であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.5L/分、H2を0.5L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を1nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.73747であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を39.24L/分、H2を0.82L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.006L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−8L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を0.5μmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガス(25.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.78377であった。
次に、基体温度(基板温度)を740℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.11Ga0.89N(目標厚み1.5nm)の量子井戸層とGaN(目標厚み13nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。
ここで、In0.11Ga0.89Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(20L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000015L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給した。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(18.5L/分)と、H2(1.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、工程Dでの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.66666、GaN障壁層で0.61667であった。
続いて、基板温度を1000℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を50nm形成した(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMAl(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(4×10−6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのGaN層を70nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlとH2(50L/分)の供給を断って実行した。
工程Eの中の、Al0.1Ga0.9N層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのAl0.1Ga0.9N層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極めて平坦であった。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは5.2nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は412nm、その積分強度は相対値で90と、高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は1.0%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて青色LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に12mm、a軸方向に20mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は1.5×1018cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は48.1arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.85°、a方向へのOFF角は2.64°であった。また、転位密度は4.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
まず、第1の昇温工程tBとして、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を10L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ10L/分、17.5L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.57143、成長温度到達時は0.63636であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を49.5L/分、H2を0.5L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を15nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.82498であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を49.24L/分、H2を0.82L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.006L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−8L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を5μmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガス(25.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.81977であった。
次に、基体温度(基板温度)を700℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.14Ga0.86N(目標厚み1.5nm)の量子井戸層とGaN(目標厚み13nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、In0.14Ga0.86Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。
また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(20L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000008L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給した。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(18.5L/分)と、H2(1.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、工程Dでの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.66666、GaN障壁層で0.61667であった。
続いて、基板温度を1000℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を50nm形成した(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。
また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMAl(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(4×10−6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのGaN層を70nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlとH2(50L/分)の供給を断って実行した。
工程Eの中の、Al0.1Ga0.9N層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのAl0.1Ga0.9N層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極めて平坦であった。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは4.8nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は440nm、その積分強度は相対値で51と、高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は1.1%であった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略を、図2(C)を用いて説明する。また、成長した層構成は図3(B)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に10mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.7×1017cm−3であった。
X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は31.1arcsecで、c(+)方向へのOFF角は4.2°、a方向へのOFF角は0.02°であった。また、転位密度は5.2×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、減圧成長を通常の条件とするSUS製縦型反応炉内のサセプタに載置した。この装置にはサブフローに相当する配管は設置されていない。
まず、反応炉内の圧力は40kPaとし、第1の昇温工程tBとして、炉内にメインフローとしてN2を20L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。
そこでは、第1のメインフローを構成するガスとして不活性ガスである1,1-ジメチルヒドラジン(1,1−DMHy)を、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとして0.003L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を15L/分供給した。
その後、N2を20L/分に増加させながら、基板温度をさらに1040℃まで昇温させた。このとき、パージ用など成長外ガスはN2で合計6.375L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時から成長温度到達時まで、1.0であった。
次の工程Bでは、反応炉内の圧力は40kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとして、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとして1,1−DMHyを0.0229L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を20L/分、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。このとき、パージ用など成長外ガスはN2で6.375L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.99875であった。
次の工程Cでは、反応炉内の圧力は8kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとしてメインフローの一部であるN2(2.27L/分)をキャリアガスとして1,1−DMHyを0.104L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を20L/分、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)、メインフローの一部を構成するN2(0.2L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−8L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を4μmの厚みで成長させた。
このとき、パージ用など成長外ガスはN2で6.375L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.99448であった。
次に、反応炉内の圧力は67kPaとし、基体温度(基板温度)を740℃でIn0.07Ga0.93N(目標厚み1.5nm)の量子井戸層を、基体温度840℃でGaN(目標厚み13nm)の障壁層を交互に5周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、In0.07Ga0.93Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(12L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(10L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000008L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給した。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(12L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(9.5L/分)と、H2(0.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、パージ用など成長外ガスはN2で6.375L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.45452、GaN障壁層で0.43179であった。
続いて、反応炉内の圧力は36kPaとし、基板温度を1000℃としてMgドープのGaN層を120nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスは、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとして1,1−DMHyを0.0229L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスは、N2(14L/分)とH2(1L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(4×10−6L/分)である。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のパージ用など成長外ガスはN2(6.375L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.93180であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは9.1nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は395nm、その積分強度は相対値で109と、高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.9%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略を、図2(D)を用いて説明する。また、成長した層構成は図3(B)に模式的に示した。
基体としては2インチ径サイズの(1−100)面(m面)ZnO基板にm面配向したGaN層を0.5μm成長したものをm面テンプレートとして用いている。
このm面GaNテンプレートを用い、減圧成長を通常の条件とする自公転型SUS製応炉内のサセプタに載置する。
まず、第1の昇温工程tBとして、反応炉内の圧力は40kPaとし、炉内にメインフローとしてN230L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始することができる。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を27.5L/分とArを10L/min供給する。
その後、反応炉内の圧力は40kPaとし、NH3とN2をそれぞれ10L/分、80L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させる。このとき、サブフローはN2ガス30L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計21L/分である。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.83333、成長温度到達時は0.90となる。
次の工程Bでは、反応炉内の圧力は40kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給する。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を50L/分とArを10L/min、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0081L/分)を炉内に供給する。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を10nmの厚みで成長させることができる。
このとき、サブフローはNH3(1L/分)とN2(34L/分)の混合ガス(35L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で21L/分とする。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.85704となる。
次の工程Cでは、反応炉内の圧力は12kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給する。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を70L/分とArを10L/min、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.026L/分)、メインフローの一部を構成するN2(0.2L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として1.8×10−6L/分)を炉内に供給する。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を15μmの厚みで成長することができる。
このとき、サブフローはNH3(1L/分)とN2(34L/分)の混合ガス(35L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で21L/分とする。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.88864となる。
次に、反応炉内の圧力は40kPaとし、基体温度(基板温度)を740℃とし、In0.08Ga0.92N(目標厚み1.5nm)の量子井戸層とGaN(目標厚み13nm)の障壁層を交互に5周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成することができる(工程D)。ここで、In0.08Ga0.92Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いる。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(60L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.00013L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給する。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いる。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(60L/分)と、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.0075L/分)を供給する。
また、工程Dでの、サブフローはNH3(1L/分)とN2(34L/分)の混合ガスで35L/分、パージ用など成長外ガスはN2で21L/分とする。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.85713、GaN障壁層で0.85713となる。
続いて、反応炉内の圧力は40kPaとし、基板温度を1000℃としてMgドープのGaN層を120nm形成することができる(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)とする。また、第2のメインフローを構成するガスは、N2(60L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.0081L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとするCp2Mg(6×10−5L/分)とする。
ここでのサブフローはNH3(1L/分)とN2(34L/分)の混合ガスで35L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(21L/分)とする。このMgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.85704となる。
このようにして、ZnO基板を用いたm面GaNテンプレート(基体)上に近紫外発光LEDが作製可能である。
参考例1
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては極性面であるc面サファイア上にアンドープGaN層を1μmと、n型GaN層(キャリア濃度5×1018cm−3)3.5μmを連続させて積層し、一旦炉内から取り出した基体を用いた。この基体表面のGaNは極性面であって、c(+)配向している。この基体を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。ここでの反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程から終了までの全ての成長条件を実施例1と全く同じとした。
このようにして作製した基板の表面は、表面荒れがひどく、完全に白濁していた。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは376nmであった。325nm波長のレーザ光により励起してPL特性を評価しようとしたところ、全くPL発光を観測することはできなかった。
本実施例では、本発明の結晶成長手法で作製された近紫外発光するLEDの多重量子井戸(MQW)層の平坦性を、透過型電子顕微鏡(TEM)観察の手法により確認した。一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものであり、得られたLEDの層構成は図3(A)に模式的に示したものと同様である。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.0mm、a軸方向に20mmであった。基板はSiドープ(Si濃度6.2×1017cm−3)されており、電気特性はn型でキャリア密度は6.5×1017cm−3であった。
また、X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は36.2arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.145°、a方向へのOFF角は0.05°であった。さらに、転位密度は5.1×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置して、第2の半導体層(Siドープn型GaN層)の膜厚を4.2μmとした以外は、実施例1と同一の条件として、図3(A)の層構成のLEDを作製した。
このようにして得られた基板の表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=4.7nmと、極めて平坦な表面であることが確認できた。また、波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は394nm、その積分強度は相対値で89と、極めて高いPL強度を示した。
このような特性のLED試料を、以下の手順で薄膜化して高角度散乱暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM: high-angle annular dark-field scanning transmission electron microscope)による観察を行った。先ず、平行予備研磨機と回転研磨板とを用い、膜厚50μm以下となるように機械研磨処理を行い、次いで、Gatan社製691型PIPS(登録商標)を用い、加速電圧2kV〜5kV、ミリング角度2〜4°の条件でArイオンミリングを施してHAADF−STEM法(HAADF-STEM: high-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy)に適した厚み(50nm程度)に薄膜化した。このようにして得られた薄膜試料は、Moのメッシュに固定されており、それを観察用試料とした。
HAADF−STEM観察に用いた装置は、電界放射型電子銃(Field Emission Gun: FEG)を搭載したFEI Company社製のTECNAI G2 F20である。この装置には、後述のHAADF−STEM観察を行なうための、環状型暗視野検出器(Fischione社製のModel3000)が搭載されている。
なお、本実施例の観察目的は後述するとおり、InGaN/GaNの境界を明瞭に観察し、界面のゆらぎ、膜厚のゆらぎ、凹凸の程度を明らかにすることなので、In等の重い原子を含む層のコントラストが明瞭になり、かつ試料にダメージを与えることなく観察するために、HAADF−STEMを適用した。電子線の加速電圧は200kVとした。
上述の観察用試料をa軸入射でHAADF−STEM観察を行なった。観察した視野は、HAADF−STEM装置が有する分解能を犠牲にすることなく、各量子井戸層の平均厚みが求められる領域とした。具体的には、量子井戸層の積層方向と垂直な方向に190nmとした。
ここで、HAADF-STEM法を適用した理由について簡単に説明をしておく。量子井戸(QW)の厚み等を正確に観察するためには、観察試料にダメージを与えないことが前提となる。これは、電子線の照射によって試料がダメージを受けてしまうと、得られるTEM像が本来の状態を正確に反映しない像(アーチファクト)となってしまうことが頻繁に起こり得るからである(例えば、非特許文献3: C. J. Humphreys et al., “Applications Environmental Impact and Microstructure of Light-Emitting Diodes” MICROSCOPY AND ANALYSIS, NOVEMBER 2007, pp.5-8を参照)。
この様な事情のため、低ドーズ量(単位時間当たりの電流密度を低くすること)、低電流密度(単位面積当たりの電流密度を低くすること)、そして試料を冷却し、低温で観察することが必須となる。これらの条件を満足する観察方法としては、HAADF-STEM法を利用した低温観察法が最も望ましい。
HAADF-STEM法については、例えば、非特許文献4(K. SAITOH, “High-resolution Z-contrast Imaging by the HAADF-STEM Method”, J. Cryst. Soc. Jpn., 47(1), 9-14 (2005))や非特許文献5(K. WATANABE; ”Imaging in High Resolution HAADF-STEM”, J. Cryst. Soc. Jpn., 47(1), 15-19 (2005))に説明がある。
HAADF-STEM法は、走査透過電子顕微鏡法(STEM)で観察されるSTEM像のうちの、格子振動による熱散漫散乱によって高角度に非弾性散乱された電子を円環状の検出器で受け、この電子の積分強度を、プローブ位置の関数として測定して、その強度を像として表示するという手法である。当該手法で得られた像の明るさは原子番号の二乗に比例する。GaN/InGaN系などの試料を観察する場合は、In等の重い原子を含む層のコントラストが明瞭になり、かつ試料に対して低ドーズ量での観察が可能になるという利点がある。
本実施例での具体的な観察条件は、電子線の入射角10mrad以下、スポット径0.2nm以下、検出散乱角70mrad以上に制御し、イメージデータの収集条件は、倍率64万倍、画素分解能0.186nm/pix(ピクセル)、スキャン速度64μsec/pix、画素フレーム1024pix平方とした。なお、上記の画素分解能(0.186nm/pix)は本実験で用いた装置のSTEM分解能(0.18nm)とほぼ一致する条件となっている。
このようなイメージデータの収集により、1024×1024pix(約105万pix)のピクセルごとの強度データが得られ、2次元の強度分布が得られることとなる。そして、0.186nm/pix×1024pixは概ね190nmであるから、上述の量子井戸層観察領域(190nm)に一致している。
観察用試料への電子線入射方向は、ウルツ鉱型結晶構造GaNの[11−20]方向と平行にした。なお、[0001]方向に平行な電子線入射条件で観察してもかまわない。さらに、他の電子線入射方向も選択しうる。
試料の冷却には、液体窒素注入型のクライオホルダ(GATAN社製Model 636DHM)を用いている。このクライオホルダを用いた場合の到達最低試料温度は、液体窒素注入後約40分後で、77〜140Kの温度域にあり、観察試料に熱電対をつけて温度測定を行った実験に関する報告もある(非特許文献6)。
視野の確認や電子線の入射方位を決定する際にはTEM観察を行なっているが、このTEM観察は、試料へのダメージを避けるべく、電子線の電流密度を30〜500A/m2に調整して行った。なお、500A/m2の電子線を上記クライオ条件下で10分間照射しても、試料のモルフォロジが変化していないことを確認している。
図6はこのようにして得られたHAADF−STEM像であり、図7は当該HAADF−STEM像から各量子井戸層の平均厚みを算出するために行った画像処理後の結果である。
なお、ここで行なった画像処理とは、(1)HAADF−STEM像に二値化処理を施し、(2)各量子井戸層を楕円体近似して、(3)当該楕円体の長軸と画像の水平方向(X軸方向)とが平行になるように画像を回転させる。(4)各量子井戸層についてX軸方向の全画素に対して、Y軸方向の厚みを全て計測し、(5)「各量子井戸層の平均厚み・標準偏差・変動係数」を求めるという方法で算出したものである。ここで、「変動係数」とは標準偏差値を平均値で割って得られる係数であり、その値を「CV値」という。
表2は、このようにして得られた各量子井戸層(w1〜w8)の平均厚み(nm)を纏めたもので、w1が最も下側(基板側)の量子井戸層の平均厚みで、w8が最も上側(表面側)の量子井戸層の平均厚みである。また、各層において、Y軸方向の厚みの標準偏差(後述する数式1を参照)と変動係数(CV値)も同時に示す。
試料は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて作製したLEDであって、一連の結晶成長プロセスの概略は図2(E)を用いて説明したものであるが、そのMQWの積層構造は、図3(C)に示したような5周期のものである。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.1mm、a軸方向に15mmであった。基板はSiドープされており、そのSi濃度は6.2×1017cm−3であった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.5×1017cm−3であった。
X線回折によると、(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は38.9arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.165°、a方向へのOFF角は0.05°であった。また、転位密度は5.8×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置し、LED構造を作製した。
昇温工程は実施例8と同様に実施した。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH310L/分を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を0L/分、H2(30L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた(工程B)。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.0であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(40L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−7L/分)を供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を1.7μmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.0であった。
続く工程Dは、周期数を5周期とした以外は実施例8と全く同様の条件とした。
工程Eは実施例8と全く同様の条件とした。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、若干の凹凸が確認された。表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=210nmであり、発光波長と相互作用しやすく、散乱機能が発現すると期待される程度の荒れが、自然に形成されていた。また、波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は423nm、その積分強度は相対値で11であった。
図8は、このようにして得たLEDから、実施例8と同様の手順によって得たHAADF−STEM像であり、図9は図8の画像処理後の結果である。
表3は、画像処理の結果得られた本比較試料の各量子井戸層(w1〜w5)の平均厚み(nm)を纏めたもので、w1が最も下側(基板側)の量子井戸層の平均厚み、w5が最も上側(表面側)の量子井戸層の平均厚みである。また、各層において、Y軸方向の厚みの標準偏差(後述する数式1参照)と変動係数も同時に示す。
図10は、上述の実施例8および実施例9で示した量子井戸が基板側から積層されるにつれて、各量子井戸層の平均厚みの標準偏差がどのように変化するかをプロットした図である。ここで、「各量子井戸層の平均厚み」は、既に説明したように、(1)HAADF−STEM像に二値化処理を施し、(2)各量子井戸層を楕円体近似して、(3)当該楕円体の長軸と画像の水平方向(X軸方向)とが平行になるように画像を回転させる。(4)各量子井戸層についてX軸方向の全画素に対して、Y軸方向の厚みを全て計測し、(5)「各量子井戸層の平均厚み・標準偏差・変動係数」を求めるという方法で算出したものである。なお、「変動係数」とは、「標準偏差」を「平均」で除した値(標準偏差/平均)である。
基板側からn周期積層したときの、平均厚みの標準偏差(各量子井戸層の平均厚みの標準偏差)y(n)(nm)は、下に示す(数式1)によって算出した。ここで、wn(nm)は、基板側からn番目の量子井戸層の平均厚みである。
なお、上式は、n>1で計算し、n=1の場合は平均厚みの標準偏差を0とする。
実施例8のものでは、各量子井戸層の平均厚みの標準偏差y(n)(nm)は量子井戸周期数nと概ねy(n)=0.0079(n−1)の関係を示し、各量子井戸層の平均厚みの標準偏差は極めて小さかった。これに対して、実施例9のものでは、概ねy(n)=0.0735(n−1)の関係にあり、量子井戸層を積層させるにつれて各量子井戸層の平均厚みの標準偏差が大きくなる傾向を示した。
実施例8は各量子井戸層の厚みを何れも3.64nmで設計したものであり、実施例9は各量子井戸層の厚みを何れも4.80nmで設計しているが、上記の各量子井戸層の平均厚みの標準偏差y(n)(nm)の顕著な相違は、平均厚みの設計値の違いに起因するものではなく、量子井戸層の平坦性を含む結晶性の違いに起因するものである。
このように、本発明の窒化物半導体は、観察試料へのダメージの小さい条件下におけるHAADF-STEM法による評価で、各量子井戸層の平均厚みの標準偏差y(n)の量子井戸周期数n依存性を確認することができる。ここに示されるとおり、量子井戸層の成長前に形成した第1の半導体層と第2の半導体層の成長条件を変更することによって、本発明における量子井戸活性層構造部の平坦性は、変化させることが可能である。
また、特に、適切なゆらぎを有する場合においても、また、平坦な場合においても、多重に積層化をすることで、その量子井戸層の平均厚みに対する標準偏差は大きくなることが分かるが、本発明において適度なゆらぎを量子井戸層が有することは好ましく、この意味において、量子井戸の総数を適切な範囲で増加させることは好ましい。
本実施例は、実施例8と同様の試料を準備して、超高圧透過型電子顕微鏡(超高圧TEM)で観察した結果を示すものである。汎用的なTEMにおいては、100〜400kV程度の加速電圧を有するが、この程度の加速電圧では電子の有効透過能が高々数百nm程度であり、想定されるGaN基板上のエピタキシャル成長層の結晶欠陥や転位を観察するには十分でない。その理由は以下の通りである。
GaN基板上のGaN系材料のホモエピタキシャル成長においては、サファイア基板上等になされるGaN系材料のヘテロエピタキシャル成長と異なり、十分に検討された良好なエピタキシャル成長を実現すれば、本質的には低転位化が可能と想定される。
よって、結晶欠陥や転位の観察においては、たとえ低転位密度の試料であっても、観察視野内に転位を含み得るように、それなりの「厚み」を有するサンプルを作成する必要がある。このような厚みを有する試料をTEM観察するためには、観察時の電子加速電圧として1000kV以上が必要である。
このような電子加速電圧にすると、観察可能な試料厚みは1〜2μm程度ほどに厚膜化することができ、上述のような低転位密度のサンプルであっても、転位の観察が可能となる。また、このような厚みの試料を観察しても転位線を観察できなかった場合には、相当の低転位密度であることが予想されることになる。換言すると、高々数百nm厚程度のサンプルを観察して転位線が観察されなくとも、十分な低転位密度であると結論付けることはできないのである。
具体的には、高々数百nm程度の厚みを有するサンプルで、1視野分を観察して転位が観察されなければ、それはおおよそ転位密度が108(cm-2)程度以下であることが示されるだけであるが、一方、1〜2μm程度ほどに厚膜化した試料を1視野観察をして転位が観察されない場合には、最大でも、107(cm-2)程度以下の低転位密度であることが示される。
さらに、転位は電子線入射方向によっては観察が不可能になる場合もあるので、入射電子線はc軸方向と平行になるように調整することが好ましい。
このようなことを踏まえて、本実施例におけるTEM観察は、有効透過能が1μmを超える超高圧TEMを用い、電子線の加速電圧を1000kVとして使用した。また、試料厚みは約1.5μm程度とし、かつ、入射電子線はc軸方向と平行とした。なお、用いた超高圧TEM装置は、日本電子社製のJEM-ARM1000であった。
図11は、上記条件下での超高圧TEM観察像である。この写真に示されているように、結晶欠陥や転位等は観察されなかった。
本実施例では、本発明の結晶成長手法で作製された多重量子井戸(MQW)層の発光特性をフォトルミネッセンス(PL)法により評価して、内部量子効率と発光寿命に優れたMQW構造となっていることを確認した。
図3(D)は本実施例で用いた試料の積層構造を示す図、図2(F)はこの試料の結晶成長方法のシーケンスを説明するための図である。この試料では、周期数が5のInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が最上層に設けられている。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.1mm、a軸方向に15mmであった。基板はSiドープされており、そのSi濃度は6.2×1017cm−3であった。基板の電気特性はn型で、キャリア密度は6.5×1017cm−3であった。
X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は35arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.165°、a方向へのOFF角は0.05°であった。また、転位密度は4.9×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置し、量子井戸構造を作製した。第2の半導体層(Siドープn型GaN層)の厚みを2.5μmとした点、工程Dで成長させる量子井戸の周期数を5周期とした点、および、工程Eを行わずに降温した以外は、実施例1と同様の結晶成長条件とした。
このようにして作製した基板の表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=4.8nmであり、極めて平坦な表面となっていた。また、室温で波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は393nm、その積分強度は相対値で196と、極めて高いPL強度を示した。このような試料の内部量子効率およびPL発光寿命を、下記の要領で評価した。
先ず、内部量子効率については、試料への照射光を連続波(Continuous Wave: CW)とした場合のPL(CW−PL)測定と、パルス光を照射した場合の時間分解PL測定を行なって評価した。
図12は、CW−PL測定で用いた光学系のブロック図である。励起光源として波長325nmのHe−Cdレーザ101を用い、レーザ光の強度をNDフィルタ102で調整して、クライオスタット103の内部に納めた試料104に照射する。試料104からのPL光は、λ/4波長板105を通して分光器106で分光された後に光増倍管107で計測されて制御用コンピュータ108でデータ収集がなされる。なお、試料温度は13K〜300Kの範囲とし、試料表面でのレーザパワーは単位面積あたり150W/cm2であった。この条件における光励起された定常的過剰キャリア密度は、1×1016cm−3から1×1017cm−3の範囲にあると推定される。
このCW−PL測定の結果、13Kにおける多重量子井戸からのPL強度を発光エネルギーで積分した積分強度I(13K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(13K)の58%であった。
図13は、時間分解PL測定(偏光フィルタあり)で用いた光学系のブロック図である。この時間分解PL測定では、波長可変パルスレーザ光源109とストリークスコープ(浜松フォトニクス製)112からなる光学系を用いた。波長可変パルスレーザ光源は、モードロックTi:サファイアレーザー、Ti:サファイア再生増幅器、光パラメトリック増幅器および高調波発生結晶により構成された。パルスの繰り返し周波数は1kHz、パルス幅は120fsであった。
活性層構造に内在する単層また複数の層を有する量子井戸層の光学的品質を直接的に評価するのに選択励起によるPL測定が有効である。例えば複数の量子井戸層を選択励起するためには、GaNのバンドギャップよりも小さく且つInGaN量子井戸層のバンドギャップよりも大きなエネルギーをもつ光を選ぶ必要があるため、波長可変パルスレーザの波長は370nmとした。パルスエネルギーを紫外用NDフィルタ102により調整した後、液体Heで冷却可能なクライオスタット103内の試料104に照射される。試料104からのPLは、偏光フィルタ110および偏光解消子111を通って分光器106で分散された後にストリークスコープ112に導かれる。なお、試料温度は、4Kから300Kまで変えて測定を行った。
偏光フィルタ110は集光レンズ(不図示)と分光器106との間に配置され、試料104のc軸に垂直な電場成分をもつ光を選択的に透過させて分光器106に取り込むために用いている。また、偏光解消子111は、分光器106の回折特性の偏光依存性の影響を受けないようにするためのものである。試料104に照射されるパルスエネルギーはパワーメータによりパワー測定し、繰り返し周波数で除算することにより求めた。単位面積当たりのパルスエネルギー密度は1400nJ/cm2であった。
本実験で準備した窒化物半導体層に内在するひとつの量子井戸層の励起波長における正確な吸収係数αの値は不明であるが、1×104cm−1から1×105cm−1の範囲が妥当な値の範囲ではないかと考えられる。ひとつの量子井戸層における吸収係数αを1×104cm−1とすると、窒化物半導体層に内在するすべての量子井戸層に励起される平均的過剰キャリア密度はおおよそ3×1016cm−3と見積もられる。同様に、吸収係数αが5×104cm−1の場合には、励起される平均的過剰キャリア密度はおおよそ1×1017cm−3と見積もられ、吸収係数αが1×105cm−1の場合には、励起される平均的過剰キャリア密度はおおよそ3×1017cm−3と見積もられる。
この時間分解PL測定の結果、4Kにおける多重量子井戸からのPL発光の過渡応答を時間積分しPL強度を求め、さらにこれを発光エネルギーで積分した積分強度I(4K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(4K)の93%であった。
また、300Kにおいて、単位面積当たりのパルスエネルギー密度を1400nJ/cm2とした、時間分解PL測定(偏光フィルタあり)により得られたパルス励起後のPL強度の時間に対する過渡応答(減衰曲線)からPL寿命を求めた。PL強度の減衰曲線において最大強度から最大強度の1/eの強度となるまでの時間をPL寿命と定義すると、当該PL寿命τ(PL)は3.6nsecであった。また、発光再結合寿命τ(R)は4.4ns、非発光再結合寿命τ(NR)は20.6nsであった。なお、発光再結合寿命τ(R)は内部量子効率をηとして式τ(R)=τ(PL)/ηにより、非発光再結合寿命τ(NR)は式τ(NR)=τ(PL)/(1−η)より、それぞれ求められた。この結果、τ(R)<τ(NR)であった。
図14は、時間分解PL測定(偏光フィルタなし)で用いた光学系のブロック図で、図13のものとは偏光フィルタ110を抜いている点でのみ異なる。
パルスの繰り返し周波数は1kHz、パルス幅は120fsであった。波長可変パルスレーザ光源は、モードロックTi:サファイアレーザー、Ti:サファイア再生増幅器、光パラメトリック増幅器および高調波発生結晶により構成された。
活性層構造に内在する単層また複数の層を有する量子井戸層の光学的品質を直接的に評価するのには、選択励起によるPL測定が有効である。例えば、複数の量子井戸層を選択励起するためには、GaNのバンドギャップよりも小さく且つInGaN量子井戸層のバンドギャップよりも大きなエネルギーをもつ光を選ぶ必要があるため、波長可変パルスレーザの波長は370nmとした。
パルスエネルギーを紫外用NDフィルタ102により調整した後、液体Heで冷却可能なクライオスタット103内の試料104に照射される。試料104からのPLは、偏光解消子111を通って分光器106で分散された後にストリークスコープ112に導かれる。なお、試料温度は、4Kから300Kまで変えて測定を行った。試料104に照射されるパルスエネルギーはパワーメータによりパワー測定し、繰り返し周波数で除算することにより求めた。単位面積当たりのパルスエネルギー密度は510nJ/cm2であった。
本実験で準備した窒化物半導体層に内在するひとつの量子井戸層の励起波長における正確な吸収係数αの値は不明であるが、1×104cm−1から1×105cm−1の範囲が妥当な値の範囲ではないかと考えられる。ひとつの量子井戸層における吸収係数αを1×104cm−1とすると、窒化物半導体層に内在するすべての量子井戸層に励起される平均的過剰キャリア密度はおおよそ1×1016cm−3と見積もられる。同様に、吸収係数αが5×104cm−1の場合には、励起される平均的過剰キャリア密度はおおよそ5×1016cm−3と見積もられ、吸収係数αが1×105cm−1の場合には、励起される平均的過剰キャリア密度はおおよそ1×1017cm−3と見積もられる。
この時間分解PL測定の結果、4Kにおける多重量子井戸からのPL発光の過渡応答を時間積分しPL強度を求め、さらにこれを発光エネルギーで積分した積分強度I(4K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(4K)の60%であった。
また、300Kにおいて、単位面積当たりのパルスエネルギー密度を510nJ/cm2とした時間分解PL測定(偏光フィルタなし)により得られたパルス励起後のPL強度の時間に対する過渡応答(減衰曲線)からPL寿命を求めた。PL強度の減衰曲線において最大強度から最大強度の1/eの強度となるまでの時間をPL寿命と定義すると、当該PL寿命τ(PL)は2.5nsecであった。また、発光再結合寿命τ(R)は4.1ns、非発光再結合寿命τ(NR)は6.3nsであった。なお、発光再結合寿命τ(R)は内部量子効率をηとして式τ(R)=τ(PL)/ηにより、非発光再結合寿命τ(NR)は式τ(NR)=τ(PL)/(1−η)より、それぞれ求められた。
本実施例で得られた上述の内部量子効率は、従来知られていた値に比較して顕著に高い値であり、非発光再結合寿命τ(NR)とPL寿命τ(PL)も顕著に長い値となっている。これらは本発明の手法で作製された窒化物半導体結晶の高品質性を裏付けるものであるが、これを明らかにするために、以下に、PL原理と内部量子効率の励起光強度依存性についての説明を加える。
図15は、半導体結晶中で生じる発光再結合および非発光再結合を説明するためのバンドダイアグラムである。この図に示すように、エネルギーhνの光で励起されて生成される電子−正孔対は、伝導帯下端と価電子帯上端の間で直接再結合してエネルギーを光として放出する発光再結合をするか、あるいは、禁制帯中に形成された欠陥レベル等を介して再結合し、エネルギーを光以外として(主に熱として)放出する非発光再結合をして、消滅する。
このようなプロセスにおける「発光再結合寿命τ(R)」は、励起光により生成されたキャリアが発光再結合する際に生成キャリアの総数が初期の1/eに減少するまでの時間で定義され、同様に、非発光再結合により生成キャリアの総数が初期の1/eに減少するまでの時間が「非発光再結合寿命τ(NR)」とされる。
内部量子効率ηはη=1/(1+τ(R)/τ(NR))で表され、τ(R)が短くτ(NR)が長ければ、内部量子効率ηは高くなる。
上述の時間分解PL法は、光パルス励起により生成された電子−正孔対の発光の過渡応答を観測可能な手法である。PL発光が減衰して、最大強度の1/eになるまでの時間をτ(PL)とすると、τ(PL)は発光再結合と非発光再結合の競合で決まり、1/τ(PL)=1/τ(R)+1/τ(NR)で与えられる。
試料の結晶性が悪く結晶欠陥の量が多い場合には、上記再結合のうちの非発光再結合が起こりやすくなる。このため、τ(NR)が短くなり、結果的にτ(PL)が短くなる。
一方、試料の結晶性が良く、非発光再結合の寄与が小さい場合であっても、τ(R)が短い場合にはτ(PL)は短くなる。試料の結晶性が良く結晶欠陥の量が小さい場合には、τ(NR)が長くなり、結果的にτ(PL)が長くなる。
ここで、非発光再結合過程は熱励起型であるため、温度が高いほど非発光再結合過程の寄与は大きくなる。従って、試料温度を極低温として測定した場合には、非発光再結合過程の寄与(影響)はほとんど無視できることとなる。このような理由から、内部量子効率ηを実験的に求める際には、極低温における発光強度を1としたときの、室温での発光強度の相対値を用いることが多い。さらに、非発光再結合過程は、生成されたキャリア密度が低いほど、その寄与は大きくなる。換言すると、非発光再結合過程はキャリア密度が高くなると飽和し、相対的に発光再結合過程の寄与が増大するため、内部量子効率ηは見かけ上、大きくなる傾向にある。
図16は、光パルスで励起した場合の多重量子井戸構造の内部量子効率の励起エネルギー密度依存性を実験的に調べた結果を示す図である。この図に示した結果から、励起エネルギー密度が500nJ/cm2程度と低い場合には、内部量子効率は数%程度と非常に小さい。しかし、同じ試料であっても、300000nJ/cm2を超えるような高い励起エネルギー密度の場合には、内部量子効率は90%以上にも達する。
この結果は、試料間の結晶性の優劣をPL法で正しく評価するためには、非発光再結合過程の影響が強く反映される低励起エネルギー密度条件で行なう必要があることを意味している。つまり、PL法で評価する際の励起エネルギー密度は、2000nJ/cm2以下程度の低い励起エネルギー密度とし、光によって生成される過剰キャリア密度を1016(cm−3)の後半から1017(cm−3)の前半程度にすることが必要である。従来の報告の中には、このような基礎的検討に基づかずに、高励起エネルギー密度条件下で、すなわち、本質的には活性層構造内に生成する光励起過剰キャリア密度が過度に高密度な条件下で、PL評価を行なっていた例が少なくない。しかし、かかる条件下で内部量子効率を求めても、結晶品質を反映しない「見かけ上」の高い値が得られるだけであって、正しい結晶性評価とはなっていない。
よって、本明細書中でいう低励起密度条件のPL測定とは、非極性の窒化物である基体の窒化物主面上に形成された窒化物半導体が、少なくとも光学的な活性層構造とみなしうる層を含み、この活性層構造内において、光によって生成される過剰キャリア密度を1016(cm−3)の後半から1017(cm−3)の前半程度にして、PL測定を行うことを指すものである。さらには、活性層構造が多重量子井戸活性層である場合には、全量子井戸層における平均的な、光励起過剰キャリア密度を1016(cm−3)の後半から1017(cm−3)の前半程度にして、PL測定を行うことを指すものである。
よって、測定する対象物の構造が変化した際には、適切に、その光励起エネルギー密度や光励起パワー密度を変化させて、活性層構造内、あるいは量子井戸活性層構造の場合には量子井戸層における光励起過剰キャリア密度を低密度にする事が、正しい結晶性評価に必要である。
本実施例では、低励起エネルギー密度条件でPL測定が行なわれており、cw−PL測定では励起パワー密度150W/cm2で58%(I(300K)/I(13K)=58%)や、時間分解PL測定においては励起エネルギー密度1400nJ/cm2で93%(I(300K)/I(4K)=93%)、励起エネルギー密度510nJ/cm2で60%(I(300K)/I(4K)=60%)が得られているという事実は、従来の窒化物半導体結晶に比較して格段に高い結晶性を有していることを意味している。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略を図2(G)に示す。また、成長した層構成は図3(E)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.0mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は7.0×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は37.5arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.28°、a方向へのOFF角は0.03°であった。また、転位密度は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)は、まず、第1の昇温工程tBとして、炉内にメインフローとしてH2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が400℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてH2を12.5L/分供給した。
その後、NH3とH2をそれぞれ10L/分、30L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、昇温工程全体にわたって0であった。
第1の成長工程(工程B)では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(40L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−7L/分)を供給した。このときFpは0.0であった。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。
第2の成長工程(工程C)は、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(40L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−7L/分)を供給した。このときFpは0.0であった。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を3.96μmの厚みで成長させた。
第3の工程中の工程Dは、MQWの周期数を8とした以外は実施例9と全く同様の条件とした。
第3の工程中の工程Eは、実施例9と全く同様の条件とした。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、若干の凹凸が確認された。表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=244nmであり、発光波長と相互作用がしやすく散乱機能が発現すると期待される程度の荒れが、自然に形成されていた。また、波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は422nm、その積分強度は相対値で10であった。
表4は、上記の試料を実施例8および実施例9と同様の手順によってHAADF−STEM像を観察し、その結果得られた本比較試料の各量子井戸層(w1〜w8)の平均厚み(nm)を纏めたもので、w1が最も下側(基板側)の量子井戸層の平均厚み、w8が最も上側(表面側)の量子井戸層の平均厚みである。また、各層のピクセル間の標準偏差と変動係数も同時に示す。
比較例1
本比較例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略を図2(H)に示す。また、成長した層構成は図3(E)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に3.9mm、a軸方向に15mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は7.4×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は36.5arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.31°、a方向へのOFF角は0.02°であった。また、転位密度は5.2×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)は実施例12と同様に行った。
ついで、基板温度が1000℃に達してから、NH3とH2をそれぞれ10L/分、30L/分、供給を継続し、その状態で15分間待機し、基板表面のクリーニングをおこなった。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。
このとき、Fp=0であった。
第1の成長工程(工程B)では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(40L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−7L/分)を供給した。このときFpは0.0であった。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を5nmの厚みで成長させた。
第2の成長工程(工程C)は、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(40L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10−7L/分)を供給した。このときFpは0.0であった。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を45nmの厚みで成長させた。
第3の工程中の工程Dは、実施例12と同様に行った。
第3の工程中の工程Eは、実施例12と同様に行った。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
この結果、本実施例のもののRaは85nmと、形成された凹凸は小さく、一般的な近紫外、可視域までの光と相互作用をしにくく、LEDとした際の光取り出し効果もあまり期待できないものであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は400nmであった。また、PL積分強度は1と、極めて低かった。
表5は、上記の試料を実施例8、実施例9、実施例12と同様の手順によってHAADF−STEM像を観察し、その結果得られた本比較試料の各量子井戸層(w1〜w8)の平均厚み(nm)を纏めたもので、w1が最も下側(基板側)の量子井戸層の平均厚み、w8が最も上側(表面側)の量子井戸層の平均厚みである。また、各層の厚みの標準偏差と変動係数も同時に示す。
実施例8、実施例9、実施例12、および比較例1の量子井戸層の厚みの標準偏差とCV値から、工程B,CでFpが小さい場合には、Y軸方向の厚みの標準偏差、及び変動係数が大きくすることができることは明らかである。各例のY軸方向厚みの標準偏差と変動係数の平均値を、以下の表6に纏めた。
表6から、実施例8の試料では、平均値を見ると、厚みの標準偏差が0.28、変動係数が0.076であり、実施例9、実施例12、および比較例1の試料に比べて膜厚揺らぎが顕著に小さい。このように厚みの標準偏差、及び変動係数が小さい場合は、内部量子効率の観点からは好ましい。後述する表7を見てもこれは明らかである。よって、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くするためには、標準偏差として0.45nm以下、変動係数として0.1以下が好ましい。
本実施例では、種々の結晶成長手法で作製された多重量子井戸(MQW)層の発光特性をフォトルミネッセンス(PL)法により評価した。
図3(D)は本実施例で用いた試料の積層構造を示す図、図2(I)はこの試料の結晶成長方法のシーケンスを説明するための図である。この試料では、周期数が5のInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が最上層に設けられている。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.1mm、a軸方向に18mmであった。基板はSiドープされており、そのSi濃度は6.2×1017cm−3であった。基板の電気特性はn型で、キャリア密度は6.5×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は32.2arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.125°、a方向へのOFF角は0.02°であった。また、転位密度は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置し、量子井戸構造を作製した。
反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)、は実施例9と同様とした。
第1の成長工程(工程B)は、実施例9と同様に実施した。
第2の成長工程(工程C)は、第2の半導体層(Siドープn型GaN層)の厚みを2.5μmとした点を除けば実施例9と同様に実施した。
第3の工程中の工程Dは、実施例9と同様に実施した。
第3の工程中の工程Eは、実施しなかった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=185nmであり、発光波長と相互作用がしやすく散乱機能が発現すると期待される程度の荒れが、自然に形成されていた。また、室温で波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は397nm、その積分強度は相対値で37であった。このような試料の内部量子効率およびPL発光寿命を、下記の要領で評価した。
上述の構造のもののPL特性を評価した。なお、当該評価で用いた光学系のセットアップは、実施例17で述べたものと同様である。先ず、内部量子効率については、CW−PL測定と、パルス光を照射した場合の時間分解PL測定を行なって評価した。
光学系は図12に示したとおりである。実施例17と同様、試料温度は13K〜300Kの範囲とし、試料表面でのレーザパワーは単位面積あたり150W/cm2で あった。この条件における光励起された定常的過剰キャリア密度は、1×1016cm−3から1×1017cm−3の範囲にあると推定される。
このCW−PL測定の結果、13Kにおける多重量子井戸からのPL強度を発光エネルギーで積分した積分強度I(13K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(13K)の39%であった。
次に、図14に示したセットアップで、時間分解PL測定(偏光フィルタなし)を行った。
パルスの繰り返し周波数は1kHz、パルス幅は120fsであった。ここでの波長可変パルスレーザの波長は370nmであり、単位面積当たりのパルスエネルギー密度は510nJ/cm2であった。
この時間分解PL測定の結果、4Kにおける多重量子井戸からのPL発光の過渡応答を時間積分しPL強度を求め、さらにこれを発光エネルギーで積分した積分強度I(4K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(4K)の27%であった。
また、300Kにおいて、単位面積当たりのパルスエネルギー密度を510nJ/cm2とした時間分解PL測定(偏光フィルタなし)により得られたパルス励起後のPL強度の時間に対する過渡応答(減衰曲線)からPL寿命を求めると、当該PL寿命τ(PL)は1.8nsecであった。また、発光再結合寿命τ(R)は6.7ns、非発光再結合寿命τ(NR)は2.4nsであった。この結果、τ(R)>τ(NR)であった。
本実施例では、種々の結晶成長手法で作製された多重量子井戸(MQW)層の発光特性をフォトルミネッセンス(PL)法により評価した。
図3(F)は、本実施例で用いた試料の積層構造を示す図、図2(J)はこの試料の結晶成長方法のシーケンスを説明するための図である。この試料では、周期数が5のInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が最上層に設けられている。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.5mm、a軸方向に20mmであった。基板はSiドープされており、そのSi濃度は6.2×1017cm−3であった。基板の電気特性はn型で、キャリア密度は6.5×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は35arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.095°、a方向へのOFF角は0.03°であった。また、転位密度は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置し、量子井戸構造を作製した。
反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)は実施例12と同様に実施した。
第1の成長工程(工程B)は、実施例12と同様に実施した。
第2の成長工程(工程C)は、第2の半導体層(Siドープn型GaN層)の厚みを2.46μmとした点以外は実施例12と同様に実施した。
第3の工程中の工程Dは、MQW層の周期を5周期とした点以外は実施例12と同様に実施した。
第3の工程中の工程Eは、実施しなかった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=230nmであり、発光波長と相互作用がしやすく散乱機能が発現すると期待される程度の荒れが、自然に形成されていた。また、室温で波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は455nm、その積分強度は相対値で6であった。
上述の構造のもののPL特性を評価した。なお、当該評価で用いた光学系のセットアップは、実施例17で述べたものと同様である。先ず、内部量子効率については、CW−PL測定と、パルス光を照射した場合の時間分解PL測定を行なって評価した。
光学系は図12で示したものを用いた。実施例16と同様、試料温度は13K〜300Kの範囲とし、試料表面でのレーザパワーは単位面積あたり150W/cm2であった。この条件における光励起された定常的過剰キャリア密度は、1×1016cm−3から1×1017cm−3の範囲にあると推定される。
このCW−PL測定の結果、13Kにおける多重量子井戸からのPL強度を発光エネルギーで積分した積分強度I(13K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(13K)の46%であった。
次に、図14に示すセットアップで、時間分解PL測定(偏光フィルタなし)を行った。
パルスの繰り返し周波数は1kHz、パルス幅は120fsであった。ここでの波長可変パルスレーザの波長は370nmであり、単位面積当たりのパルスエネルギー密度は510nJ/cm2であった。
この時間分解PL測定の結果、4Kにおける多重量子井戸からのPL発光の過渡応答を時間積分しPL強度を求め、さらにこれを発光エネルギーで積分した積分強度I(4K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(4K)の36%であった。
また、300Kにおいて、単位面積当たりのパルスエネルギー密度を510nJ/cm2とした時間分解PL測定(偏光フィルタなし)により得られたパルス励起後のPL強度の時間に対する過渡応答(減衰曲線)からPL寿命を求めると、当該PL寿命τ(PL)は1.7nsecであった。また、発光再結合寿命τ(R)は4.8ns、非発光再結合寿命τ(NR)は2.7nsであった。この結果、τ(R)>τ(NR)であった。
比較例2
本比較例では、種々の結晶成長手法で作製された多重量子井戸(MQW)層の発光特性をフォトルミネッセンス(PL)法により評価した。
図3(F)は本比較例で用いた試料の積層構造を示す図、図2(K)はこの試料の結晶成長方法のシーケンスを説明するための図である。この試料では、MQW構造の上にはMgドープ層が設けられておらず、周期数が5のInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が最上層に設けられている。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.0mm、a軸方向に19mmであった。基板はSiドープされており、そのSi濃度は6.2×1017cm−3であった。基板の電気特性はn型で、キャリア密度は6.5×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は31arcsecで、c(+)方向へのOFF角は−0.085°、a方向へのOFF角は0.05°であった。また、転位密度は4.9×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置し、量子井戸構造を作製した。なお、反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。また、昇温工程(工程A)は比較例1と同様に実施した。
クリーニング工程は比較例1と同様、基板温度が1000℃に達してから、NH3とH2をそれぞれ10L/分、30L/分、供給を継続し、その状態で15分間待機し、基板表面のクリーニングをおこなった。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。このとき、Fp=0.0であった。
第1の成長工程(工程B)は、比較例1と同様に実施した。
第2の成長工程(工程C)は、比較例1と同様に実施した。
第3の工程中の工程Dは、MQWの周期を5周期をした点以外は比較例1と同様に実施した。
第3の工程中の工程Eは、実施しなかった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=78nmと、形成された凹凸は小さく、一般的な近紫外、可視域までの光と相互作用をしにくく、LEDとした際の光取り出し効果もあまり期待できないものであった。またこの基板を室温で波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は433nm、その積分強度は相対値で3と、きわめて低いPL強度を示した。
上述の構造のもののPL特性を評価した。なお、当該評価で用いた光学系のセットアップは、実施例16で述べたものと同様である。先ず、内部量子効率については、CW−PL測定と、パルス光を照射した場合の時間分解PL測定を行なって評価した。
光学系は図12で示したものを用いた。実施例11と同様、試料温度は13K〜300Kの範囲とし、試料表面でのレーザパワーは単位面積あたり150W/cm2であった。この条件における光励起された定常的過剰キャリア密度は、1×1016cm−3から1×1017cm−3の範囲にあると推定される。
このCW−PL測定の結果、13Kにおける多重量子井戸からのPL強度を発光エネルギーで積分した積分強度I(13K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(13K)の10%であった。
次に、図14に示すセットアップで時間分解PL測定(偏光フィルタなし)を行った。
パルスの繰り返し周波数は1kHz、パルス幅は120fsであった。ここでの波長可変パルスレーザの波長は370nmであり、単位面積当たりのパルスエネルギー密度は510nJ/cm2であった。
この時間分解PL測定の結果、4Kにおける多重量子井戸からのPL発光の過渡応答を時間積分しPL強度を求め、さらにこれを発光エネルギーで積分した積分強度I(4K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(4K)の16%であった。
また、300Kにおいて、単位面積当たりのパルスエネルギ密度を510nJ/cm2とした時間分解PL測定(偏光フィルタなし)により得られたパルス励起後のPL強度の時間に対する過渡応答(減衰曲線)からPL寿命を求めると、当該PL寿命τ(PL)は0.66nsecであった。また、発光再結合寿命τ(R)は4.1ns、非発光再結合寿命τ(NR)は0.78nsであった。この結果、τ(R)>τ(NR)であった。
参考例2
本参考例2では、従来より用いられているc面上に作製された多重量子井戸(MQW)層の発光特性をフォトルミネッセンス(PL)法により評価した。
図3(D)は本参考例で用いた試料の積層構造を示す図、図2(L)はこの試料の結晶成長方法のシーケンスを説明するための図である。この試料では、MQW構造の上にはMgドープ層が設けられておらず、周期数が5のInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が最上層に設けられている。なお、図3(D)に図示した積層構造で用いた基板にも、m面を主面とするGaN基板と同様に、符号10を付した。
基体としては(0001)面(c面)配向したGaN自立基板10を用いた。基板サイズは直径48mmであった。基板はSiドープされており、そのSi濃度は1.5×1017cm−3であった。基板の電気特性はn型で、キャリア密度は1.5×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は45arcsecで、m方向へのOFF角は0.205°、a方向へのOFF角は0.310°であった。また、転位密度は7.0×106cm−2であった。
このc面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置し、量子井戸構造を作製した。
昇温工程(工程A)は、実施例13と同様とした。
第1の成長工程(工程B)は、実施例13と同様に実施した。
第2の成長工程(工程C)は、第2の半導体層(Siドープn型GaN層)の厚みを4μmとした点以外は実施例13と同様に実施した。
第3の工程中の工程Dは、基板の温度を780℃とした点以外は実施例13と同様に実施した。
第3の工程中の工程Eは実施しなかった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。なお、本発明者らの検討では、このようなシーケンスによる成長がc面GaN基板上の成長におけるもっとも良好な特性を示す結晶成長方法である。
このようにして作製した基板の表面を接触式段差計で測定したところ、Ra=12nmであり、極めて平坦な表面となっていた。また、室温で波長325nmのレーザ光励起により評価したPL特性では、ピーク波長は405nm、その積分強度は相対値で16と、低いPL強度を示した。
上述の構造のもののPL特性を評価した。なお、当該評価で用いた光学系のセットアップは、実施例11で述べたものと同様である。先ず、内部量子効率については、CW−PL測定と、パルス光を照射した場合の時間分解PL測定を行なって評価した。
光学系は図12で示したものを用いた。実施例16と同様、試料温度は13K〜300Kの範囲とし、試料表面でのレーザパワーは単位面積あたり150W/cm2であった。この条件における光励起された定常的過剰キャリア密度は、1×1016cm−3から1×1017cm−3の範囲にあると推定される。
このCW−PL測定の結果、13Kにおける多重量子井戸からのPL強度を発光エネルギーで積分した積分強度I(13K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(13K)の9%であった。
次に、図14に示すセットアップで時間分解PL測定(偏光フィルタなし)を行った。
パルスの繰り返し周波数は1kHz、パルス幅は120fsであった。ここでの波長可変パルスレーザの波長は370nmであり、単位面積当たりのパルスエネルギー密度は510nJ/cm2であった。
この時間分解PL測定の結果、4Kにおける多重量子井戸からのPL発光の過渡応答を時間積分しPL強度を求め、さらにこれを発光エネルギーで積分した積分強度I(4K)を1とすると、300Kにおける同様の積分強度I(300K)は、I(4K)の5%であった。
また、300Kにおいて、単位面積当たりのパルスエネルギー密度を510nJ/cm 2とした時間分解PL測定(偏光フィルタなし)により得られたパルス励起後のPL強度の時間に対する過渡応答(減衰曲線)からPL寿命を求めると、当該PL寿命τ(PL)は1.2nsecであった。また、発光再結合寿命τ(R)は21.9ns、非発光再結合寿命τ(NR)は1.3nsであった。この結果、τ(R)>τ(NR)であった。
以上、実施例11、実施例13、実施例14、比較例2、及び参考例2のPL試料(MQW)の測定結果を、下記の表7に纏めた。なお、実施例11と実施例8、また、実施例13と実施例9、また、実施例14と実施例12、さらに、比較例2と比較例1は、前者が量子井戸活性層構造部までを作製したサンプルに関するもので、後者が他方導電型の層、すなわちMgをドープして成長した層までを含んでLED構造を作製したサンプルに関するものである。ここにおいて、量子井戸活性層構造部までを作製したサンプルと、LED構造を作製したサンプルで、上記記載で対にしたものは、量子井戸層の総数などで異なる部分はあるものの、基本的に類似の成長条件で作製されたサンプルである。
表7に示した結果から、実施例11、13、14では内部量子効率がCW測定で、それぞれ58%、39%、46%、パルス測定で、それぞれ60%、27%、36%であったのに対し、比較例2および参考例2は、それぞれ10%、9%と低かった。これらは、本発明の結晶成長シーケンスの中で、成長開始時に関する部分が、その後形成される活性層の特性にまで、大きく影響していることを示している。LEDの特性向上のためには、内部量子効率が高ければ高いほどよく、20%以上であれば、良好な特性のLEDが実現可能である。また同様に、PL寿命(τ(PL))も実施例11、13、14は、比較例2、参考例2と比較して極めて長い。これも良好な光学品質を反映した結果であり、PL寿命は1.5ナノ秒(ns)以上であることが望ましい。
また、m面の実施例および比較例の中で実施例13を除いてτ(R)は概ね4ns程度で大きな差が無いが、c面のτ(R)はきわめて長い。これは、QCSE効果により、発光に寄与する電子とホールが空間的に分離されているためであり、発光効率としては不利である。即ち、これらは、非極性であるm面を基板に用いることで、輻射が効率的に実現されていることを示す結果である。つまり、発光素子とした場合に高い発光効率を得るためには、非極性の窒化物主面上に、窒化物半導体を結晶成長させることが有効であることを意味している。
さらに、m面の実施例および比較例のなかでは、実施例11のτ(NR)が極めて長い。これは即ち、発光に寄与せずに消滅するキャリアが少ないことを示している。また、各実施例および比較例のτ(R)とτ(NR)の大小関係を見ると、実施例16のみが、τ(R)<τ(NR)となっていることがわかる。これは、生成されたキャリアが、有効に発光に寄与していることを示している。即ち、内部量子効率の高い量子井戸活性層構造部を実現するためには、τ(R)<τ(NR)であることが望ましい。
さらにここで、これまで述べてきた、実施例、比較例、参考例等のサンプルの表面粗さを接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた結果と、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性の積分強度の相対値をまとめる。
ここで示す、実施例8と実施例11、また、実施例9と実施例13、また、実施例12と実施例14、さらに、比較例1と比較例2は、前者が他方導電型の層、すなわちMgをドープして成長した層までを含んでLED構造を作製したサンプルに関するものであって、後者が量子井戸活性層構造部までを作製したサンプルに関するものである。ここにおいて、LED構造を作製したサンプルと、量子井戸活性層構造部までを作製したサンプルとは、上記記載で「対」にしたものは、量子井戸層の総数などで異なる部分はあるものの、基本的に類似の成長条件で作製されたサンプルである。また、一部に参考例の結果も同時に示す。
表9はLED構造をエピタキシャル成長した結果をまとめたもので、表10は量子井戸活性層構造部までを成長した結果のまとめである。
ここで、表9と表10の結果の中で、それぞれの結果はいかのように解釈される。
実施例8と実施例11に示される結果は、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を比較的高くする場合には、そのエピタキシャル層の表面平坦性が優れているために、窒素化物半導体層の表面等に、適度な凹凸を自己形成的に、かつ、意図的に形成させることが難しく、その結果としてRaが相対的には小さな値となっていると解される。
一般に、図16に示したように、量子井戸構造における内部量子効率は、励起密度が高いほど、すなわち、量子井戸内に生成あるいは注入される過剰キャリア密度が高いほど向上し、発光再結合効率が向上する。内部量子効率が弱励起状態で高いことは結晶品質が格段に優れていること示すものの、LEDが実際に駆動される電流注入時の環境が、1×1020(cm−3)をはるかに越える非常に高い注入キャリア密度であることを想定すると、低励起密度条件における内部量子効率が格段に優れていることは、LEDの発光効率向上に与える影響は中程度であると言える。よって、量子井戸構造やエピタキシャル層が有すべき必要な特性は、最低限以上の結晶品質が確保されることと考えられる。
よって、たとえば、このエピタキシャル層表面に反射型のp側電極を形成し、フリップチップ型LED等を作製する場合や、窒化物非極性面基体のエピタキシャル層を有さない側に一方の電極を、非極性面基体のエピタキシャル層を有する側に他方の電極を有し、活性層構造部の積層面内に対して、電流注入が略垂直に行われる部分を有する上下導通型のLED等を作製する場合においては、内部量子効率あるいはPL強度は高いので、その効果は、はっきり認められる。しかし、内部量子効率が格段に優れていることは、このエピタキシャル層をLED化した際の発光効率向上に与える影響は中程度であって、LEDの発光効率に対する影響の程度は限定的であると考えられる。
一方、光取り出しとの観点では、以下の通りである。周辺媒質と発光部分を含む媒質との屈折率差で決まる光の臨界角度内に含まれる光は取り出すことが可能であるが、平坦な表面においては散乱等の効果が少ないため、光取り出し効率も中程度であると考えられる。
よって、このような窒化物半導体をLED化した際の、総合的な発光効率は中程度であると考えられる。
実施例9と実施例13に示される結果や、実施例12と実施例14に示される結果は、量子井戸活性層構造部の内部量子効率を適切な範囲に保ちつつ、窒化物半導体層表面に適度な凹凸が、自己形成的に、かつ、意図的に形成させることができた結果であると解釈される。
表7、表9、表10を総合的に見ると、実施例9、実施例12、実施例13、実施例14の結果は、内部量子効率あるいはPL強度との観点で、非極性面上に形成された比較例1、比較例2と比較して、十分に良好な値を示している。また、参考例2で示した極性面上の結果と比較しても良好である。よって、LEDを作製する際に求められる、最低限以上のエピタキシャル層の結晶品質が、十分に確保されているものと解される。例えば表7における内部量子効率を見ると、実施例14のそれは、比較例2や参考例2よりも大きくなっている。
よって、たとえば、このエピタキシャル層表面に反射型のp側電極を形成し、フリップチップ型LED等を作製する場合や、窒化物非極性面基体のエピタキシャル層を有さない側に一方の電極を、非極性面基体のエピタキシャル層を有する側に他方の電極を有し、活性層構造部の積層面内に対して、電流注入が略垂直に行われる部分を有する上下導通型のLED等を作製する場合において、このような量子井戸層は十分な品質が確保されていると言える。
一方、光取り出しとの観点では、以下の通りである。実施例9、実施例12、実施例13、実施例14の窒素化物半導体層表面には、その凹凸の程度が約常150nm以上で250nm以下の範囲にあり、一般的な近紫外、可視域までの光の波長とよく相互作用をし、散乱機能を発現できる凹凸となっている。特に、本発明で好ましく利用可能な波長域である近紫外、具体的には370nm近傍から430nm程度までの波長の光とはその物理的なサイズが近接しているため、高い散乱効果を発現する事が期待され、好ましい。
よって、このような窒化物半導体をLEDとした際の、総合的な発光効率は高いと考えられる。
最後に、比較例1と比較例2に示される結果は、第2の窒化物半導体層の厚みが45nmと薄いために、凹凸形成も十分にされず、かつ、内部量子効率やPL強度も低い結果であると解釈される。
このような窒化物半導体を用いて、たとえば、このエピタキシャル層表面に反射型のp側電極を形成し、フリップチップ型LED等を作製する場合や、透過型のp側電極を形成し、上下導通型のLED等を作製する場合においては、量子井戸内に生成あるいは注入される過剰キャリア密度が高くとも、その品質は十分でないと解される。また、形成される凹凸は小さく、一般的な紫外、近紫外、可視域までの光と相互作用しにくく、LEDとした際の光取り出し効果もあまり期待できない。
よって、このような窒化物半導体をLEDとした際の、総合的な発光効率は低いと考えられる。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は図2(M)のとおりである。また、成長した層構成は図3(G)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に3.8mm、a軸方向に22mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.5×1017cm−3であった。
X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は34.2arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.25°、a方向へのOFF角は0.03°であった。また、転位密度(Dislocation Density)は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)は、実施例1と同様とした。
第1の成長工程(工程B)では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を29.0L/分、H2を1.0L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。さらに、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてCp2Mg(濃度100%として7×10−6L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、ドーピング濃度が2×1019cm−3であるMgドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.72500であった。
第2の成長工程(工程C)、第3の工程中の工程D、及び、第3の工程中の工程Eは、実施例1と同じ条件で行った。
このようにして作製した基板の表面は、きわめて平坦であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる平均粗さ、あるいは、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは4.9nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は391nm、その積分強度は相対値で86と、極めて高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.8%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は図2(N)のとおりである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示したとおりである。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.0mm、a軸方向に21mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.4×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は41.0arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.09°、a方向へのOFF角は0.02°であった。また、貫通転位密度(Dislocation Density)は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)は、実施例4と同様とした。
続く第1の成長工程(工程B)、第2の成長工程(工程C)、第3の工程中の工程D、および、第3の工程中の工程Eは、TMGaを同流量のTEGaに変更した以外は実施例4とすべて同様とした。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、きわめて平坦であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる平均粗さ、あるいは、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。
この結果、本実施例のもののRaは3.0nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は391nm、その積分強度は相対値で95と、極めて高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.4%と小さかった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を単層のみ成長させた例で、エピタキシャル層の平坦性の成長温度依存性を正確に評価するためのものである。一連の結晶成長プロセスの概略は図2(O)のとおりである。また、成長した層構成は図3(H)に模式的に示した。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を2枚用いた。それらを試料X、試料Yとする。
試料Xの作製に用いた基板サイズはc軸方向に4.1mm、a軸方向に12mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.6×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は34.2arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.25°、a方向へのOFF角は0.03°であった。また、転位密度(Dislocation Density)は5.0×106cm−2であった。
試料Yの作製に用いた基板サイズはc軸方向に4.1mm、a軸方向に12mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は6.6×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は34.2arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.25°、a方向へのOFF角は0.03°であった。また、転位密度(Dislocation Density)は5.0×106cm−2であった。
これらのm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
試料Xについては、第1の成長工程における、第1の窒化物半導体層の厚さを0.25μmとした点、及び、第1の成長工程のみでエピタキシャル成長を終了させた点以外は、実施例1と同様とした。また、試料Yについては、昇温工程における到達温度を920℃とした点、及び、第1の成長工程における、第1の窒化物半導体層の厚さを0.25μmとした点、並びに、第1の成長工程のみでエピタキシャル成長を終了させた点以外は、実施例1と同様とした。
このようにして作製した試料X、試料Yの表面を光学顕微鏡で観察したところ、双方ともきわめて平坦であった。両試料の表面平坦性を詳細に調べるためにAFM(原子間力顕微鏡)で表面モルフォロジを評価した。その結果を図17(A)及び図17(B)に示した。図17(A)は試料XのAFM像であり、図17(B)は試料YのAFM像である。これらのAFM像から明らかなとおり、試料Yの方が表面平坦性に優る。AFMで求められる、凹凸の程度の指標となるRa(中心線平均粗さ)の値は、試料Xが1.303と中程度であるのに対し、試料Yでは0.093nmときわめて小さい。また、Rmax(最大高さ)の値は、試料Xが7.469nmと中程度であるのに対し、試料Yでは0.851nmときわめて小さかった。
本実施例では、本発明の結晶成長手法で作製された近紫外発光するLED構造について、降温工程後活性化工程を熱アニールで行う前後の、エピタキシャル層中の多重量子井戸活性層構造の発光をPL測定によって比較した。具体的には、第3の工程が終了した直後のPLを測定し、その後、ドーピングされたMg原子の一部をアクセプタとして作用させるべく、非極性面上に形成されたエピタキシャルウエハの降温工程後活性化工程を熱アニールをによって実施し、その後にPL測定を実施した。ここでのアニール条件はN2雰囲気中、700℃で5分とした。
ここで用いた試料は3点で、成長条件は、工程Aでの昇温到達温度、工程B、工程Cの温度とInGaN量子井戸の厚さ以外は実施例1の通りとした。これら試料の表面モルフォロジは全て極めて平坦であった。各試料の工程Aでの昇温到達温度、工程B及び工程Cの成長温度、InGaN量子井戸の厚さは下記の表8のとおりである。
これらの試料X,Y,Zの降温工程後活性化工程を熱アニールで行った後のPLスペクトルを、図18に示す。なお、試料X,Y,ZともアニールによりPL強度は低下している。熱的なアニール化処理によって誘発されるPL強度の低下は、Mgが活性化されることで起こる活性層構造近傍のバンド構造の変化と結晶性の劣化のいずれの効果も含んでいるものと考えられる。この場合、前者の効果は同程度であるので、本PL強度の低下の度合いは、後者の効果をより強く反映しているものと考えられる。ここで、その程度はZ,Y,Xの順に小さい。特に、試料Xでは、アニール後には量子井戸活性層からのPL発光は極めて減少し、そのかわりに365nm付近におけるGaNバルク層のバンドエッジ発光が目立っているのに対し、試料Y,ZではPLスペクトルの良好な形状が保たれている。
通常、c面のGaN結晶上ではi−GaNやn−GaNの厚膜成長を行うには最適な成長温度は1000℃付近であり、それよりも低温で結晶成長した場合には、結晶性が低下して、さらにはその上に形成される活性層構造における発光強度も落ちる。しかし、上述したように、非極性面の主面を有する基体上に結晶成長させる場合には、一般的な条件よりも100℃以上も低い温度(920℃)で厚膜結晶を成長させることで、発光強度が大幅に向上したのみならず、アニールによるPL強度の低下も抑制することが可能になった。加えて、本発明の方法によって、非極性面上へ、至極平坦な、第1の窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層、さらには量子井戸活性層構造、p型化が可能なドーパントを含む窒化物半導体層を形成し、量子井戸層を厚膜化することが可能となり、アニールとの相乗効果によって、優れた光学特性を有するエピタキシャル層を形成できるようになった。
そこで、これらの非極性面上に形成したアニール後のエピタキシャル成長構造を素子化プロセスを行って、発光波長が410nm程度のLEDに加工した。その結果を表11にまとめた。
表11に示されるとおり、同じ電流値を導入して比較した、相対的な全放射束の比は、資料Xを1とすると、資料Yが1.4、資料Zは2であった。c面のGaN結晶上ではi−GaNやn−GaNの厚膜成長を行うには最適な成長温度は1000℃付近であり、それよりも低温で結晶成長した場合には、結晶性が低下して、さらにはその上に形成される活性層構造における発光強度も落ちる。
しかし、上述したように、非極性面の主面を有する基体上に結晶成長させる場合には、一般的な条件よりも100℃以上も低い温度(920℃)で厚膜結晶を成長させることで、発光強度が大幅に向上したのみならず、アニールによるPL強度の低下も抑制でき、LEDの素子特性も大幅に向上した。さらに、本発明によって、非極性面を主面を有する基体上に結晶成長させる場合には、エピタキシャル層の貫通転位密度が他の方法と比較して圧倒的に低い事によって、In濃度が比較的低いInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造においても、良好な光学特性が実現可能である。
さらに、非極性面上であって、かつ、In濃度が比較的低い領域であるが故に、InGaN量子井戸層の厚膜化も可能であって、10nmを超える膜厚を有するLEDの特性が際立って良好であったと考えられる。さらに、このような方法で作製したエピタキシャル層であるが故に、他の構造では劣化が目立ったアニール条件においても、Mgの良好な活性化が実現したと考えられる。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は図2(A)の通りであり、成長した層構成は図3(A)の通りとなっている。
基体としては(1−100)面(m面)配向したGaN自立基板を用いた。基板サイズはc軸方向に4.4mm、a軸方向に23mmであった。基板の電気特性はn型でキャリア密度は4.5×1017cm−3であった。X線回折によると(10−12)反射におけるロッキングカーブの半値幅は43.3arcsecで、c(+)方向へのOFF角は0.04°、a方向へのOFF角は0.02°であった。また、貫通転位密度(Dislocation Density)は5.0×106cm−2であった。
このm面GaN自立基板を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程(工程A)、第1の成長工程(工程B)、第2の成長工程(工程C)、および、第3の工程中の工程Dは、実施例18の試料Zと同様に行った。
続く第3の工程中の工程Eは、まず、基板温度を980℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を100nm形成した。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。
また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたトリメチルアルミニウム(TMAl)(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)(4×10−6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのAl0.03Ga0.97N層を15nmの厚みでエピタキシャル成長させた。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlを0.00003L/分に減らして実行した。
工程Eの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。また、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.0であった。
このような成長工程が終了した際、TMGa,TMAl、Cp2Mg及びメインフロー中のH2を遮断し、N2を20L/分 導入した。同時にNH3の流量を10L/分から50cc/分に低減させた。また、サブフロー中のNH3を遮断し、N2流量を10L/分とした。成長外フローは変化していない。
これらのガスの切り替えを実施すると同時に、基板加熱ヒータ電源を遮断し、基体を導入するガスにより、強制的に冷却した。基体の温度が930℃にまで下がったときにメインフロー中のNH3を遮断し、引き続き100℃以下になるまでN2雰囲気中で基体を冷却した。十分基体が冷えた後、基体を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極わずかな凹凸はあるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは8.8nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は410nm、その積分強度は相対値で93と、極めて高い強度が得られ、面内の波長分布の標準偏差は0.7%と小さかった。
その後このような方法で準備した非極性面上のエピタキシャル成長層をプロセスしてLEDを作製した。その発光特性、電流電圧特性とも良好で、降温工程中活性化工程によって、良好な光学特性と十分なMg活性化が実現したことが確認された。
本実施例では、実施例10で観察した、本発明の結晶成長手法で作製された近紫外発光するLED構造について、多数回の超高圧透過型電子顕微鏡観察を実施し、非極性GaN基板上に形成されたエピタキシャル層と活性層構造内の貫通転位密度を求めた。この際にサンプルは8視野分を観測できるように準備をした。観察する際には基板面に沿って12.6μmの領域を、また、観察視野の薄片の厚みは1.0μm程度とした以外は、観察したサンプル/観察条件とも実施例9と同様に準備した。1000KVの電子線透過により観察を行った。
この結果、m軸方向に伝播する転位が、活性層部分を含むエピタキシャル成長部分にのべ5本観察された。この結果、本発明による平均的な貫通転位密度は、5÷(12.6μm×1.0μm×8)=4.96×106(cm−2)と見積もられた。
なお、1視野においては、まったく転位が観察されないサンプルと、最大では3本の転位が観察されたサンプルが混在した。よって、本発明においてエピタキシャル層内に実現される転位密度は、最も多い貫通転位密度を想定しても、3÷(12.6μm×1.0μm)=2.42×107(cm−2)であると見積もられた。よって、本発明におけるエピタキシャル層内に存在する貫通転位密度は、好ましくは3×107(cm−2)以下であって、より好ましくは、5.0×106(cm−2)以下であるといえる。
以上、実施例により本発明について説明したが、上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例ではGaNとされているものを、AlNやInNあるいはBNとしたり、これらの混晶とすることもできる。また、成長温度や各原料の供給量あるいは各層の膜厚などは目的に応じて変更可能である。
また、上述の実施例には、結晶成長させて得られた窒化物半導体層の表面に凹凸が認められ、表面モルフォロジそのものとしては必ずしも良好とはいえない試料も含まれているが、これらの表面凹凸の程度は、発光デバイスとして素子化した場合の光取り出し効率を向上させ、発光効率を向上させうるものと考えられる。すなわち、許容範囲から逸脱させる程度のものではない。この点に関し本発明者は、前述の通り、発光効率が内部量子効率のみならず光取り出し効率にも依存することによるものと理解している。すなわち、一般に、表面凹凸を有する窒化物半導体層の結晶性は中程度で内部量子効率が低減する傾向を示す一方、当該表面凹凸は活性層領域からの光を効果的に散乱させ、結果的に発光効率を高める効果を奏するのではないかと考えている。
なお、上述した活性層を含む積層構造体をエピタキシャル成長させる工程において、その一部にp型化可能なドーパントを導入する場合、その導入箇所は適宜に設定可能であり、当該積層構造体の全体であってもよく、上部、下部、或いは中央部のみ等としてもよい。このようなp型化可能なドーパントは、例えば、マグネシウム、亜鉛、炭素、ベリリウムなどである。
さらに、活性層を含む積層構造体のエピタキシャル成長工程を、上記p型化可能なドーパントが活性化する条件で実行することとしたり、或いは、当該活性層を含む積層構造体のエピタキシャル成長工程に続き、上記p型化可能なドーパントを活性化させるための熱アニールまたは電子線照射の少なくとも一方の処理工程を更に実行するようにしてもよい。
本発明で用いる基体としては、サファイア基板、ZnO基板、Si基板、SiC基板、GaAs基板、GaP基板、Ga2O3基板、Ge基板、MgO基板などの上に非極性面を主面とする窒化物結晶を成膜したものでも良い。
これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内にあり、更に本発明の範囲内において他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
本発明により、光学特性が良好で、発光素子とした場合の発光効率が高い、高品質の窒化物半導体の結晶成長方法が提供される。
横型のMOCVD反応炉中でのメインフローの流れを概念的に例示するための図である。
縦型のMOCVD反応炉中でのメインフローの流れを概念的に例示するための図である。
本発明の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例4の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例6の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例7の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例9の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例11の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
本発明の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
比較例1の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例13の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例14の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
比較例2の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
参考例2の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例15の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例16の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例17の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
本発明の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例6、実施例7の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例9の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例11、実施例13、参考例2の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例12、比較例1の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例14、比較例2における窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例15における窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例17における窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
本発明の結晶成長方法により育成されたm面窒化物半導体を用いて図3(A)に示した構造のLEDとした試料のPL発光特性を説明するための図である。
第1および第2の窒化物層のエピタキシャル成長時におけるメインフローの構成ガス種依存性を見当した結果を説明するための、サンプルAの微分干渉顕微鏡像である。
第1および第2の窒化物層のエピタキシャル成長時におけるメインフローの構成ガス種依存性を見当した結果を説明するための、サンプルBの微分干渉顕微鏡像である。
第1および第2の窒化物層のエピタキシャル成長時におけるメインフローの構成ガス種依存性を見当した結果を説明するための、サンプルCの微分干渉顕微鏡像である。
実施例8で得られたSTEM像である。
図6のSTEM像から各量子井戸層の平均厚み等を算出するために行った画像処理の結果である。
実施例9のLEDから得たSTEM像である。
図8のSTEM像から各量子井戸層の平均厚み等を算出するために行った画像処理の結果である。
実施例8および実施例9の各量子井戸の平均厚み均一性(量子井戸層の厚みの標準偏差)を比較した図である。
実施例10で作成した試料を超高圧TEMで観察した像である。
CW−PL測定で用いた光学系のブロック図である。
時間分解PL測定(偏光フィルタあり)で用いた光学系のブロック図である。
時間分解PL測定(偏光フィルタなし)で用いた光学系のブロック図である。
半導体結晶中で生じる発光再結合および非発光再結合を説明するためのバンドダイアグラムである。
光パルスで励起した場合の多重量子井戸構造の内部量子効率の励起エネルギー密度依存性を実験的に調べた結果を示す図である。
実施例17における窒化物半導体試料Xの表面AFM(原子間力顕微鏡)像である。
実施例17における窒化物半導体試料Yの表面AFM(原子間力顕微鏡)像である。
実施例18のPL測定結果である。
符号の説明
1 石英反応管
2 サセプタ
3 基体
4 ステンレス製チャンバ
10 GaN基板
11 第1の窒化物半導体層(GaN層)
12 第2の窒化物半導体層(Siドープn型GaN層)
13 InGaN/GaN多重量子井戸活性層構造
14 MgドープAlGaN層
15 MgドープGaN層
101 He−Cdレーザ
102 NDフィルタ
103 クライオスタット
104 試料
105 λ/4波長板
106 分光器
107 光増倍管
108 制御用コンピュータ
109 パルスレーザ光源
110 偏光フィルタ
111 偏光解消子
112 ストリークスコープ