JP5426932B2 - 金属合金と熱硬化性樹脂の複合体及びその製造方法 - Google Patents

金属合金と熱硬化性樹脂の複合体及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、移動機械、電気機器、医療機器、一般機械、その他の製造分野全般に関する。本発明は新たな基礎的部品の製造方法に関するものであり、金属合金と熱硬化性樹脂が強固に一体化した複合体の製造技術に関する。
金属合金と樹脂を一体化する技術は、航空機、自動車、家庭電化製品、産業機器等、あらゆる部品部材製造業から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。この中には非常に優れた接着剤がある。例えば常温、又は加熱により機能を発揮する接着剤は、金属合金と合成樹脂を一体化する接合に使用され、この方法は現在では一般的な接着技術である。
一方、接着剤を使用しない接合方法も研究されてきた。マグネシウム、アルミニウムやそれらの合金である軽金属類、またステンレスなどの鉄合金類に対し、接着剤の介在なしで高強度の熱可塑性のエンジニアリング樹脂を射出等によって一体化する方法がその例である。例えば、射出等の方法で樹脂成形と同時に接合を為す方法(以下、「射出接合」という)として、アルミニウム合金に対し熱可塑性樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂(以下「PBT」という)又はポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS」という)を射出接合させる製造技術が開発されている(例えば特許文献1、2参照)。加えて、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼等も同系統の樹脂の使用で射出接合することが可能であることも実証されている(特許文献3、4、5、6参照)。
特許文献1及び2における射出接合の原理を以下に示す。アルミニウム合金を水溶性アミン系化合物の希薄水溶液に浸漬させ、アルミニウム合金を水溶液の弱い塩基性によって微細エッチングする。この浸漬処理では、アルミニウム合金表面に超微細凹凸が形成されると共に、アルミニウム合金表面へのアミン系化合物分子の吸着が同時に起こる。この表面処理がなされたアルミニウム合金を射出成形金型にインサートし、溶融した熱可塑性樹脂を高圧で射出させる。このとき、熱可塑性樹脂と、アルミニウム合金表面に吸着していたアミン系化合物分子が遭遇することで化学反応する。この化学反応は、この熱可塑性樹脂が低温の金型温度に保たれたアルミニウム合金に接して急冷されて結晶化し固化せんとする物理反応を抑制する。その結果、樹脂は、結晶化や固化が遅れ、その間にアルミニウム合金表面の超微細凹凸に浸入する。このことにより、熱可塑性樹脂は外力を受けてもアルミニウム合金表面から剥がれ難くなる。即ち、アルミニウム合金と形成された樹脂成形品は強固に接合する。別の言い方で、化学反応と物理反応が競争反応の関係になり、この場合は化学反応が優先されるため強固な射出接合が生じると言える。実際、アミン系化合物と化学反応できるPBTやPPSがこのアルミニウム合金と射出接合ができることを確認している。この射出接合のメカニズムを発明者らは「NMT(Nano molding technologyの略)」と称した。
また、本発明者らは、特許文献3、4、5、及び6に示すように、アミン系化合物の金属合金表面への化学吸着なしに、要するに特段の発熱反応や何らかの化学反応の助力を得ることなしに、射出接合が可能な条件を発見した。即ち、アルミニウム合金以外の金属合金についても、その金属合金と熱可塑性樹脂を射出接合によって強固に接合することができる条件を発見し、この条件に基づく射出接合のメカニズムを「新NMT」と称した。
これらの発明は全て本発明者らによる。本発明者らは前述の様に、アルミニウム合金に関する接合理論を「NMT」理論と称し、金属合金全般の射出接合に関しては「新NMT」理論と称している。より広く使用できる「新NMT」の理論仮説は本発明に関係があるので以下詳細に述べる。即ち、強烈な接合力ある射出接合を得るために、金属合金側と射出樹脂側の双方に各々条件があり、まず金属合金側については以下に示す3条件が必要である。
[新NMT理論での金属合金側の条件]
第1の条件は、金属合金表面が、化学エッチング手法によって1〜10μm周期の凹凸で、その凹凸高低差がその周期の半分程度まで、即ち0.5〜5μmまでの粗い粗面になっていることである。ただし、実際には、前記粗面で正確に全表面を覆うことはバラツキがあり、一定しない化学反応では難しく、具体的には、粗度計で見た場合に0.2〜20μm範囲の不定期な周期の凹凸で、且つその最大高低差が0.2〜5μmの範囲である粗度曲線が描けることを要する。また、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときには、RSmが0.8〜10μmであり、Rzが0.2〜5μmである粗度面であれば前述した粗度条件を実質的に満たしたものとしている。ここでRSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。本発明者等は、理想とする粗面の凹凸周期が前述したように、ほぼ1〜10μmであるので、分かり易い言葉として「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称した。
第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。言い換えると、ミクロの目で見てザラザラ面であることを要する。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に、微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5〜500nm、好ましくは10〜300nm、より好ましくは30〜100nm(最適値は50〜70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
この超微細凹凸について述べると、その凹凸周期が10nm以下の周期であると樹脂分の進入が明らかに難しくなる。また、この場合には通常、凹凸高低差も小さくなるので、樹脂側から見て円滑面となる。その結果、スパイクの役目を為さなくなる。又、周期が300〜500nm程度又はこれよりよりも大きな周期なら(その場合、ミクロンオーダーの粗度をなす凹部の直径や周期は10μm近くになると推定される)、ミクロンオーダーの凹部内でのスパイクの数が激減するので効果が効き難くなる。よって、原則としては、超微細凹凸の周期が10〜300nmの範囲であることを要する。しかしながら、超微細凹凸の形状によっては、5nm〜10nm周期のものでも、樹脂がその間に侵入する場合がある。例えば、5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜している場合等がこれに該当する。また、300nm〜500nm周期のものでも、超微細凹凸の形状がアンカー効果を生じやすい場合がある。例えば、高さ及び奥行きが数十〜500nmで、幅が数百〜数千nmの階段が無限に連続したパーライト構造のような形状がこれに該当する。このような場合も含め、要求される超微細凹凸の周期を5nm〜500nmと規定した。
ここで、従来は上記第1の条件に関して、RSmの範囲を1〜10μm、Rzの範囲を0.5〜5μmと規定していたが、RSmが0.8〜1μm、Rzが0.2〜0.5μmの範囲であっても、超微細凹凸の凹凸周期が、特に好ましい範囲(概ね30〜100nm)に有れば、接合力が高く維持できる。それ故に、RSmの範囲を小さい方にやや広げることとした。即ち、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmの範囲とした。
さらに、第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。
これらを模式的に図にすると図15のようになる。金属合金40の表面にはミクロンオーダーの粗度を成している凹部(C)が形成され、さらにその凹部内壁には超微細凹凸(A)が形成され、表層はセラミック質層41となっており、この超微細凹凸に樹脂組成物42の一部が浸入している。このようにした金属合金表面に液状の樹脂組成物が侵入し、侵入後に硬化すると、金属合金と硬化した樹脂組成物は非常に強固に接合するという簡潔な考え方である。
[新NMT理論での樹脂側の条件]
次に、樹脂側の条件を説明する。樹脂としては、硬質の高結晶性の熱可塑性樹脂であって、これに適切な別ポリマーをコンパウンドする等して、急冷時での結晶化速度を遅くした物が使用できる。実際には、結晶性の硬質樹脂であるPBTやPPSに適切な別ポリマー及びガラス繊維等をコンパウンドした樹脂組成物が使用できる。
[新NMT理論に基づく射出接合]
上記金属合金及び樹脂を使用して、一般の射出成形機、射出成形金型によって射出接合できるが、この過程を「新NMT」に従って説明する。射出した溶融樹脂は、融点よりも150℃程度温度が低い金型内に導かれるが、この流路で冷やされ、融点以下の温度になっているとみられる。即ち、溶融した結晶性樹脂が急冷された場合、融点以下になったとしてもゼロ時間で結晶が生じ固体に変化することはない。要するに、融点以下ながら溶融している状態、即ち過冷却状態がごく短時間存在する。前述したように、PBTやPPSに特殊なコンパウンドを行うことによって、この過冷却時間を少し長くすることが可能である。これを利用して大量の微結晶が生じることによる粘度の急上昇が起こる前に、ミクロンオーダーの粗度を有する金属表面の凹部にその微結晶が侵入できるようにした。侵入後も冷え続けるので、これに伴い微結晶の数が急激に増えて粘度は急上昇する。しかし、凹部の奥底まで樹脂が到達できるか否かは凹部の大きさや形状にも依存する。
本発明者等の実験結果では、金属合金種を選ばず、上記ミクロンオーダーの粗度に係る1〜10μm径の凹部であって、その深さが周期の半分程度までであれば、凹部の結構奥まで微結晶が侵入すると推測された。さらに、その凹部内壁面が、前述した第2条件のように、ミクロの目で見てザラザラ面であれば、超微細凹凸にも一部樹脂が侵入し、その結果、樹脂側に引き抜き力が付加されても引っかかって抜け難くなると推定される。そしてこのザラザラ面が、第3条件で示したように金属酸化物又は金属リン酸化物で覆われていれば、硬度が高く、樹脂と超微細凹凸に係る凹部との引っ掛かりが、スパイクの如く効果的になる。
具体例を示す。例えば、マグネシウム合金の場合、自然酸化層で覆われたままのマグネシウム合金では耐食性が低いので、これを化成処理して表層を金属酸化物、金属炭酸化物、または金属リン酸化物にすることで、硬度の高いセラミックス質で覆われた表面とすることができる。このように表面処理されたマグネシウム合金を射出成形金型にインサートした場合、金型及びインサートしたマグネシウム合金は射出する樹脂の融点より100℃以上低い温度に保たれているので、射出された樹脂は金型内の流路に入った途端に急冷され、マグネシウム合金に接近した時点で融点以下になっている可能性が高い。
マグネシウム合金表面の凹部の径が1〜10μm程度と比較的大きい場合、過冷却によって微結晶が生じる限られた時間内に樹脂は浸入し得る。また、生じた高分子微結晶群の数密度がまだ小さい場合も上記凹部なら樹脂は浸入し得る。それは微結晶、すなわち不規則に運動していた分子鎖から分子鎖に何らかの整列状態が生じたときの形を有する微結晶の大きさが、分子モデルから推定すると数nm〜10nmの大きさとみられるからである。それゆえ、微結晶は10nm径の超微細凹凸に対し簡単に侵入できるとは言い難いが、数十nm周期の超微細凹凸ならば、若干は樹脂流の先端が浸入する可能性がある。ただし、微結晶は同時発生的に無数に生じるので、射出樹脂の先端や金型金属面に接している箇所では樹脂流の粘度が急上昇する。化成処理をしたマグネシウム合金表面を電子顕微鏡で観察すると10〜50nm周期の超微細凹凸面が観察され、この程度の周期の超微細凹凸であれば、樹脂流の粘度が急上昇する前に頭を突っ込み得る。
また、銅合金、チタン合金や鋼材等の金属合金表面を酸化させ、又は化成処理を施して、その表層を金属酸化物等のセラミック質の微結晶群又はアモルファス層とした場合、改良したPPS(急冷時のPPS分子結晶化速度を低下させたPPSコンパウンド)を射出接合すると、相当強い接合力が生じた。
ここで、接合自体は、樹脂成分と金属合金表面の問題であるが、樹脂組成物に強化繊維や無機フィラーが入っていると、樹脂全体の線膨張率を金属合金に近づけられるので接合後の接合力維持が容易になる。このような仮説に従って、例えばマグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼等に、PBTやPPS系樹脂を射出接合して得た複合体は、せん断破断力で20〜30MPa(約200〜300kgf/cm)となり、強固な複合体であることが確認されている。
[NAT理論(接着剤接合)]
本発明者らは、接着剤接合に関しても「新NMT」が応用できると考え、類似理論による高強度の接着が可能であるかを確認した。そして、市販の汎用の1液性エポキシ接着剤を使用し、金属合金の表面構造を工夫することで、より接着力の高い接合体を得ようと試みた。
接着剤接合の実験手法に関する手順を以下に示す。前記「新NMT」に基づき、射出接合実験で使用したものと同じ表面の金属合金(即ち上記3条件を満たす金属合金)を作成した。そして、液状の1液性エポキシ接着剤をその金属合金の所定範囲に塗布し、デシケータに入れて一旦真空下に置き、その後常圧に戻すなどして金属合金表面の超微細凹凸に接着剤を侵入させる。即ち、金属合金表面に接着剤を充分に染み込ませる。その後、前記所定範囲に被着材を貼り合わせ、加熱して硬化させる方法である。
こうした場合、金属合金表面のミクロンオーダーの粗度に係る凹部(前記第1条件における凹凸の凹部)内に、多少の粘度あるエポキシ接着剤も液体故に侵入可能である。そして侵入したエポキシ接着剤は、その後の加熱でこの凹部内で硬化することになる。実際には、この凹部の内壁面には超微細凹凸がさらに形成されており(前記の第2条件)、且つこの超微細凹凸は、セラミック質の高硬度の薄膜(前記の第3条件)で覆われていることから、凹部内部に侵入して固化したエポキシ樹脂は、スパイクのような超微細凹凸に掴まって抜け難くなる。
本発明者らは、「新NMT」を応用して、1液性エポキシ接着剤によって、金属合金同士及び金属合金とCFRP(carbon fiber reinforced plasticsの略)との高強度の接着が可能であることを実証した。一例として、A7075アルミニウム合金同士を、市販の1液性エポキシ接着剤で接合した結果、70MPaもの強烈なせん断破断力、引っ張り破断力を示す接合体を得ることができた(特許文献7)。
実際、このような高強度の接着剤接合は、本発明者等によって、アルミニウム合金に次いで、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び一般鋼材に於いて実証された(特許文献7、8、9、10、11、及び12参照)。いずれも金属合金表面の状態を制御することによって、各種金属合金を過去に例のない強さで接着することができた。このような接着剤接合に関して「新NMT」を応用した前記技術を、本発明者らは「NAT(Nano adhesion technologyの略)」と称している。
WO 03/064150 A1(アルミニウム合金) WO 2004/041532 A1(アルミニウム合金) WO 2008/069252 A1(マグネシウム合金) WO 2008/047811 A1(銅合金) WO 2008/078714 A1(チタン合金) WO 2008/081933 A1(ステンレス鋼) WO 2008/114669 A1(アルミニウム合金) WO 2008/133096 A1(マグネシウム合金) WO 2008/126812 A1(銅合金) WO 2008/133030 A1(チタン合金) WO 2008/133296 A1(ステンレス鋼) WO 2008/146833 A1(一般鋼材)
ここで一般に射出成形機というと熱可塑性樹脂組成物を射出成形する機械を指す。しかし熱硬化性樹脂組成物を原料として射出成形する射出成形機もあり、一般の射出成形機と区別するため「熱硬化性樹脂用射出成形機」と呼ばれている。その基本構造は一般の射出成形機と逆の温度設定になっている。すなわち、射出温度は50〜100℃と低い温度域に設定され、金型温度は145〜180℃の高温に設定される。そして射出用の樹脂は熱硬化性樹脂組成物であり、その多くは不飽和ポリエステル樹脂系の熱硬化性樹脂組成物である。その他にフェノール樹脂系やエポキシ樹脂系の熱硬化性樹脂組成物が射出用の樹脂とされる。
更に詳細に「熱硬化性樹脂用射出成形機」を分類すると、樹脂材料供給部がロート型の容器になっていて、原料が自身の重量で自動落下してスクリューに食い込まれるようにした「射出成形機」と、樹脂材料供給部に別のスクリューやピストン装置が付いて材料を自動落下ではなく強制的に射出用スクリューの根元に供給する「BMC成形機」とがある。これは熱硬化性樹脂コンパウンドとして、粉末状の乾式タイプと粘土状の湿式タイプの双方があるためである。前者の乾式タイプを成形する際には「射出成形機」「BMC成形機」の何れもが使えるが、後者の湿式タイプを成形できるのは「BMC成形機」だけである。BMCとは「Bulk molding compound」の略であり、BMCそのものは不飽和ポリエステル樹脂系の射出用の熱硬化性樹脂組成物を指す。そしてこのBMCに乾式BMCと湿式BMCとがある。一方、市販されている射出成形用のフェノール樹脂組成物やエポキシ樹脂組成物には湿式タイプが少ない。
金属合金部品を射出成形金型にインサートし、これに熱硬化性樹脂を射出接合して金属合金部品と熱硬化性樹脂成形品を強固に一体化することができれば、得られる複合体は耐熱性及び耐候性に優れるから広い分野で利用可能である。また、当該複合体の生産において射出成形機又はBMC成形機という量産性に優れた生産機械を使用できるという利点がある。そこで、本発明者らは、新NMTに基づく射出接合を熱硬化性樹脂組成物にも応用すべく、上記「射出成形機」及び「BMC成形機」を使用して多種の試験を行った。しかしながら、熱硬化性樹脂組成物を金属合金表面(新NMTで示す3条件を具備する)に射出しても、両者は全く接合しなかった。
具体的には、本発明者らは、特許文献3〜6に示した方法に従って各種金属合金部品を表面処理し、その金属合金部品を「射出成形機」又は「BMC成形機」に取り付けた金型にインサートし、当該金属合金部品の表面に対して市販のBMC、射出成形用エポキシ樹脂、及び射出成形用フェノール樹脂をそれぞれ射出した。しかしながら、いずれの樹脂を使用した場合にも、金型を開くと樹脂成形品と金属合金部品が分かれて落下した。接合しなかった理由は樹脂成形品の観察から明らかであり、射出樹脂の粘度過多であった。これは3種の樹脂組成物のいずれも同じであった。この結果からも、熱硬化性樹脂組成物を使用した射出接合は極めて困難であるといえる。
本発明はこのような背景のもとになされたものであり、その目的は、金属合金に熱硬化性樹脂組成物を射出接合させることによって、両者が強固に一体化した複合体を得ることにある。
上述したようにして熱硬化性樹脂組成物の射出接合を試みた際、射出筒は原料樹脂を溶融すべくノズル温度を80〜90℃にしていた。この温度域では市販の射出成形用熱硬化性樹脂組成物はペースト状にはなるものの、液状というまでには至らない。射出されたペースト状の樹脂組成物は150℃以上とした金型内に入るが、金型内の高温によって粘度が下がろうとするのと同時にゲル化硬化が進行してしまい、インサートした金属合金表面のミクロンオーダーの粗度に係る凹凸に侵入する程度の粘度にまでは下がらなかったのである。要するに、射出された樹脂組成物の流動性が低く、射出接合に至らなかったのである。
[接着剤を使用した射出接合]
この結果から、本発明者らは、微細で複雑な形状がない金型内に、固化しつつある樹脂組成物を高圧で押し込み、外観の良い表面の成形品を得ることが熱硬化性樹脂の射出成形の本来の目的であると認識していた。即ち、射出成形用の熱硬化性樹脂に、特許文献3〜6に示したような数μm周期の凹凸に対して奥まで完全に侵入しうる程度の流動性は期待できないと考えていた。これらの事情から、金型に予め金属合金部品をインサートしておき、これに熱硬化性樹脂を射出して直接的に接合させるのは不可能との結論に達していたので、インサートする金属合金部品に改良を施すこととした。
具体的には、上述した新NMTの3条件を具備するよう表面処理を施した金属合金部品の表面に接着剤を塗布し、さらにその接着剤を当該表面に染み込ませる処理を行った。このように接着剤を塗布した状態の金属合金部品を射出成形金型にインサートして熱硬化性樹脂を射出することで、金属合金部品と熱硬化性樹脂の成形品とが接着剤を介して強固に一体化した複合体が得られると考えた。
ここで必要となる条件は、熱硬化性樹脂組成物が射出されて金型内で硬化するタイミングと、予め射出成形金型にインサートされた金属合金部品表面の接着剤が硬化するタイミングとが概ね一致することである。これは試行錯誤によって可能となった。射出用樹脂としてエポキシ樹脂を使用したときは、金属合金表面に塗布するエポキシ接着剤に使用する硬化剤として、硬化温度がやや高めになる硬化剤を選択することで良好な結果を得た。また、射出用樹脂としてフェノール樹脂を使用したときは、金属合金表面に塗布する接着剤に、市販の1液性フェノール樹脂系接着剤を使用することで良好な結果を得た。また、射出用樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、即ちBMCを使用したときは、金属合金表面に塗布する接着剤に、本発明者らが開発した不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を使用することで良好な結果を得た。いずれの射出用樹脂を使用した場合であっても、得られた複合体のせん断破断力は40MPa以上であり、極めて高い接合力を発揮した。
[接着剤を使用しない射出接合]
本発明者らは、新NMTを応用した熱硬化性樹脂の射出接合に関する実験において新たな発見をした。即ち、数種のBMCを射出用樹脂として用意し、各BMCを金属合金部品の表面(当該表面は前述した3条件を具備する)に射出接合する実験を行った。その結果、湿式BMCを射出したときに接着剤を使用せずとも金属合金部品の表面に非常に強く接合した。この事実から、本発明者らは、接着剤を使用せずに熱硬化性樹脂を金属合金と射出接合させる可能性を見いだした。
本発明者らは、熱硬化性樹脂を金属合金表面に射出接合させることができた理由について調査を行った結果、以下の結論に達した。この際に使用したBMCは、樹脂の流動性が極めて高く、バリが出易かったという特徴がある。射出されたBMCは金型内で加熱されて昇温し溶融方向に向かい粘度を下げる。しかしながら昇温の過程で有機過酸化物の分解が生じ重合反応が開始されゲル化も始まる。ゲル化、固化への動きは粘度を急速に上昇させるから、金型内に樹脂が射出されてから硬化するまでの粘度の変化状況は、一旦低下した後に上昇するという、所謂V字型又はU字型になる。そしてこの粘度の変化は射出接合の性能に大きく影響する。特に、粘度がV字型又はU字型に変化した際の最低粘度、所謂谷の深さが重要であり、また、その最低粘度付近における滞在時間、所謂谷底部の幅が重要である。これは、数十ナノオーダーの超微細凹凸面を有するように加工した金属合金表面に対してある程度侵入できるようにするためである。言い換えると、樹脂が低粘度の液体になる時間幅が存在することが必要である。従って、粘度変化はU字型であることが好ましい。樹脂が最低粘度付近に滞在する時間(谷底部の幅)は、1秒以上あることが好ましい。
本発明者らは、前述したように不飽和ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、及びフェノール樹脂系の3種類の熱硬化性樹脂を金属合金表面に射出接合するために、各熱硬化性樹脂に適合する接着剤を使用することを要していた。しかし、特定のBMCではその接着剤が不要となったことから、従来の実験に使用していた不飽和ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、及びフェノール樹脂系の3種類の熱硬化性樹脂について、各樹脂の最低粘度が高すぎるという可能性、又は各樹脂がその最低粘度付近に滞在する時間が不足している可能性(粘度変化がV字型である可能性)を見いだした。特に、従来の実験で使用していた不飽和ポリエステル樹脂系の熱硬化性樹脂は乾式BMCであったので、接着剤が不要の射出接合には湿式BMCの方が乾式BMCより有利であると推定した。BMCの構成材料として液状物であるスチレンモノマーの含有量が多いと、ゲル化反応が激しくなる寸前の最も低粘度となっている時の粘度がより低くなり、その最低粘度状態となっている時間はやや長くなる。
これらの事実に基づいて、本発明者らは、射出成形金型に表面処理(新NMTに基づく表面処理)を施した金属合金部品を予めインサートし、その表面に湿式BMC等の特定の熱硬化性樹脂組成物を射出することで金属合金部品と熱硬化性樹脂の樹脂成形品が強固に一体化した複合体を得る技術を開発した。
本発明の概要を示す。まず金属合金に表面処理を施して、「新NMT」に規定する3条件を具備する表面とする。これを金型にインサートし、その表面に熱硬化性樹脂組成物を射出し、その樹脂組成物が金型内で加熱されて粘度を下げるまでの間に、ミクロンオーダーの粗度に係る凹凸の奥まで侵入させ、さらに、その内壁の超微細凹凸にも一部侵入させる。その状態で侵入した樹脂組成物が硬化することによって、金属合金と樹脂成形品が強固に一体化した複合体が得られるというものである。いわば熱可塑性樹脂に関する「新NMT」の技術を熱硬化性樹脂に応用したものである。
射出用の熱硬化性樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂(湿式BMC、改良型BMC)、又はエポキシ樹脂(改良型エポキシ樹脂)を採用することで、接着剤を金属合金表面に塗布することなく、直接的な射出接合が可能となった。接着剤を要した従来型の熱硬化性樹脂の射出接合と比較して、より簡潔な方法で金属合金と熱硬化性樹脂の成形品を接合させることができた。また、粘度条件等の射出接合に必要な条件は把握されているので、フェノール樹脂についても応用することが可能と考えられる。
以下、本発明を構成する各要素について詳細に説明する。
[金属合金]
本発明でいう金属合金、即ち前述の「新NMT」「NAT」に基づく表面構造を具備する金属合金としては、理論上特にその種類に制限はない。しかし、実際に「新NMT」「NAT」を適用できるのは、硬質で実用的な金属合金である。本発明者等は、実質的に「新NMT」「NAT」が適用可能な金属合金種として、アルミニウム、マグネシウム、銅、チタン、及び鉄を主成分とする金属合金種を例示している。以下、これらについて説明する。しかし、「新NMT」「NAT」ではアンカー効果により接着力の向上を図っているので、少なくとも下記した金属合金種に限定されるものではない。特許文献7にアルミニウム合金に関する記載をした。特許文献8にマグネシウム合金に関する記載をした。特許文献9に銅合金に関する記載をした。特許文献10にチタン合金に関する記載をした。特許文献11にステンレス鋼に関する記載をした。特許文献12に一般鋼材に関する記載をした。これら各種金属合金について詳細に説明する。
(アルミニウム合金)
本発明で使用するアルミニウム合金に制限はない。日本工業規格(JIS)に規定されている展伸用アルミニウム合金であるA1000番台〜7000番台(耐食アルミニウム合金、高力アルミニウム合金、耐熱アルミニウム合金等)は全て使用可能であり、鋳造用アルミニウム合金であるADC1〜12種(ダイカスト用アルミニウム合金)も全て使用可能である。
(マグネシウム合金)
例えば、国際標準機構(ISO)、日本工業規格(JIS)、米国材料試験協会(ASTM)等に規定される展伸用マグネシウム合金(例えばA31B)及び鋳物用マグネシウム合金(例えばAZ91D)が使用できる。
(銅合金)
本発明に使用する銅合金とは、銅、黄銅、りん青銅、洋泊、アルミニウム青銅等を指す。日本工業規格(JIS H 3000系)に規定されるC1020、C1100等の純銅系合金、C2600系の黄銅合金、C5600系の銅白系合金、その他のコネクター用の鉄系の銅合金等、全ての銅合金が対象である。
(チタン合金)
本発明に使用するチタン合金は、国際標準化機構(ISO)、日本工業規格(JIS)等で規定される純チタン系合金、α型チタン合金、β型チタン合金、α−β型チタン合金等、全てのチタン合金が対象である。
(ステンレス鋼)
本発明でいうステンレス鋼とは、鉄にクロム(Cr)を加えたCr系ステンレス鋼、又ニッケル(Ni)をクロム(Cr)と組合せて添加した鋼であるCr−Ni系ステンレス鋼、その他のステンレス鋼と呼称される公知の耐食性鉄合金が対象である。国際標準機構(ISO)、日本工業規格(JIS)、米国材料試験協会(ASTM)等で、規格化されているSUS405、SUS429、SUS403等のCr系ステンレス鋼、SUS301、SUS304、SUS305、SUS316等のCr−Ni系ステンレス鋼が含まれる。
(鉄鋼材)
本発明で用いる鉄鋼材は、一般構造用圧延鋼材等の炭素鋼(所謂一般鋼材)、高張力鋼(ハイテンション鋼)、低温用鋼、及び原子炉用鋼板等の鉄鋼材をいう。具体的には、冷間圧延鋼材(以下、「SPCC」という。)、熱間圧延鋼材(以下、「SPHC」という。)、自動車構造用熱間圧延鋼板材(以下、「SAPH」という。)、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材(以下、「SPFH」という。)、主に機械加工に使用される鋼材(以下「SS材」という。)等の構造用鉄鋼材が含まれる。また、本発明でいう鉄鋼材は、上記鉄鋼材に限らず、日本工業規格(JIS)、国際標準化機構(ISO)等で、規格化されたあらゆる鉄鋼材料が含まれる。
[化学エッチング]
本発明における化学エッチングは、金属合金表面にミクロンオーダーの粗度を生じさせることを目的とする。腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが、その金属合金に対して全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、アルミニウム合金は塩基性水溶液、マグネシウム合金は酸性水溶液、ステンレス鋼や一般鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。又、耐食性の強い銅合金は、強酸性とした過酸化水素などの酸化剤によって全面腐食させられるし、チタン合金は蓚酸や弗化水素酸系の特殊な酸で全面腐食させられることが専門書や特許文献から散見される。実際に市場で販売されている金属合金類は、純銅系銅合金や純チタン系チタン合金のように純度が99.9%以上で合金とは言い難い物もあるが、これらも本発明の金属合金に含まれる。実際に使用されている金属合金の殆どは、特徴的な物性を求めて多種多用な元素が混合されて純金属系の物は少なく、実質的にも合金である。
即ち、金属合金の殆どは、元々の金属物性を低下させることなく耐食性を向上させることを目的として純金属から合金化されたものである。それ故、金属合金によっては、前記酸・塩基類や特定の化学物質を使っても、目標とする化学エッチングができない場合もよくある。実際には使用する酸・塩基水溶液の濃度、液温度、浸漬時間、場合によっては添加物を工夫しつつ試行錯誤して適正な化学エッチングを行うことになる。化学エッチング法については、特許文献7にアルミニウム合金に関する記載、特許文献8にマグネシウム合金に関する記載、特許文献9に銅合金に関する記載、特許文献10にチタン合金に関する記載、特許文献11にステンレス鋼に関する記載、及び特許文献12に一般鋼材に関する記載をした。
実際に行う作業として全般的に共通する点を説明する。金属合金を所定の形状に形状化した後、当該金属合金用の脱脂剤を溶かした水溶液に浸漬して脱脂し、水洗する。この工程は、金属合金を形状化する工程で付着した機械油や指脂の大部分を除くための処理であり、常に行うことが好ましい。次いで、薄く希釈した酸・塩基水溶液に浸漬して水洗するのが好ましい。これは本発明者等が予備酸洗浄や予備塩基洗浄と称している工程である。一般鋼材のように酸で腐食するような金属合金では、塩基性水溶液に浸漬し水洗する。また、アルミニウム合金のように塩基性水溶液で特に腐食が早い金属合金では、希薄酸水溶液に浸漬し水洗する。これらは、化学エッチングに使用する水溶液と逆性のものを前もって金属合金に付着(吸着)させる工程であり、その後の化学エッチングが誘導期間なしに始まることになって処理の再現性が著しく向上する。それ故にこの予備酸洗浄、予備塩基洗浄工程は本質的なものではないが、実務上、採用することが好ましい。これらの工程の後に化学エッチング工程を行う。
[微細エッチング・表面硬化処理]
本発明における微細エッチングは、金属合金表面に超微細凹凸を形成することを目的とする。また本発明における表面硬化処理は、金属合金の表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とすることを目的とする。金属合金種によっては前記化学エッチングを行っただけで同時にナノオーダーの微細エッチングもなされ、超微細凹凸が形成される場合がある。さらに、金属合金種によっては表面の自然酸化層が元よりも厚くなって表面硬化処理も完了している場合もある。例えば、純チタン系のチタン合金は化学エッチングだけを行うことで、表面がミクロンオーダーの粗度を有し、且つ超微細凹凸も形成される。即ち、化学エッチングと併せて微細エッチングもなされる。しかし、多くは化学エッチングによりミクロンオーダーの大きな凹凸面を作った後で微細エッチングや表面硬化処理を行う必要がある。
この時でも予測できない化学現象に見舞われることが多い。即ち、表面硬化処理や表面安定化処理を目的に化学エッチング後の金属合金に酸化剤等を反応させたり化成処理をしたとき、得られる表面に偶然ながら超微細凹凸が形成される場合がある。マグネシウム合金を過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した場合に生じた酸化マンガンとみられる表面層は10万倍電子顕微鏡でようやく判別つく5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜したものである。この試料をXRD(X線回折計)で分析したが、酸化マンガン類由来の回折線は検出できなかったが、表面が酸化マンガンで覆われていることはXPS分析で明らかである。XRDで検出できなかった理由は、結晶が検出限界を超えた薄い層であったからである。要するに、マグネシウム合金では表面硬化処理としての化成処理を施したことで、微細エッチングも併せて完了していたことになった。銅合金でも同様で、塩基性下の酸化で表面を酸化第2銅に変化させる表面硬化処理を行ったところ、純銅系銅合金では、その表面は楕円形の穴開口部で覆われた特有の超微細凹凸面になる。一方、純銅系でない銅合金では凹部型でなく10〜150nm径の粒径物又は不定多角形状物が連なり、一部融け合って積み重なった形の超微細凹凸面になる。この場合でも表面の殆どは酸化第2銅で覆われており、表面の硬化と超微細凹凸の形成が同時に起こる。
一般鋼材に関しては、更なる検証が必要ではあるものの、ミクロンオーダーの粗度を形成するための化学エッチングだけで超微細凹凸も併せて形成されていることが多く、元来表層(自然酸化層)が硬いこともあって、表面硬化処理や微細エッチング処理を改めて行わずとも、「新NMT」及び「NAT」の条件を備える場合があった。その際の問題は、自然酸化層の耐食性が十分でないために接着工程までに腐食が開始してしまうこと、また、接着後の環境如何では短時間で接着力が低下することであった。これらは化成処理によって防ぐことができる。例を挙げると、化成処理をしていない一般鋼材(SPCC:冷間圧延鋼材)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、4週間という短期間で接着力が急激に低下した。一方、化成処理をした一般鋼材(SPCC)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、同じ期間では当初の接着力から低下しなかった。
また、本発明者らは、一般に、化成処理によって金属合金表面に形成された被膜(化成被膜)の膜厚が厚いと、接着力が低下することが多いことを確認している。前記のマグネシウム合金に付着した酸化マンガン薄層のように、XRDで回折線が検出されないような薄層である方が、強い接着力が得られる。化成被膜が厚い金属合金同士をエポキシ接着剤で接着し、破壊試験した場合、破壊面は殆どが化成皮膜と金属合金層との間となる。本発明者らが行った実験では、厚い化成皮膜とエポキシ接着剤硬化物との接合力は、その化成皮膜と金属合金との接合力より常に強かった。即ち、一般鋼材でも、化成処理時間を更に長くして化成処理層を厚くすれば、接着力は長期間低下しないと考えられる。しかしながら化成皮膜を厚くすれば、接着力自体が低下する。従って、どの程度でバランスを取るかは、使用目的、用途等にもよる。以下各種金属合金の表面処理方法について詳述する。
[表面処理の具体例]
(アルミニウム合金の表面処理)
アルミニウム合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。本発明に特有な脱脂処理は必要なく、市販のアルミニウム合金用脱脂材の水溶液を使用する。即ち、アルミニウム合金で常用されている脱脂処理で良い。脱脂材によって異なるが、一般的な市販品では、濃度5〜10%として液温を50〜80℃とし、これにアルミニウム合金を5〜10分間浸漬する。
これ以降の工程は、アルミニウム合金に珪素が比較的多く含まれる合金と、これらの成分が少ない合金とでは処理方法が異なる。ここでは珪素分が少ないアルミニウム合金の処理方法に関して説明する。即ち、A1050、A1100、A2014、A2024、A3003、A5052、A7075等の展伸用アルミニウム合金では、以下のような処理方法が好ましい。即ち、アルミニウム合金を、酸性水溶液に短時間浸漬して水洗し、アルミニウム合金の表層に酸成分を吸着させるのが、次の化学エッチングを再現性良く進める上で好ましい。この処理を予備酸洗工程といい、使用液は、硝酸、塩酸、硫酸等、安価な鉱酸の1%〜数%濃度の希薄水溶液が使用できる。次いで、強塩基性水溶液に浸漬する化学エッチングを行った後、水洗する。この化学エッチングでは、1%〜数%濃度の苛性ソーダ水溶液を30〜40℃にして、これにアルミニウム合金を数分浸漬するのが好ましい。
この化学エッチングにより、アルミニウム合金表面に残っていた油脂や汚れがアルミニウム合金表層と共に剥がされる。この剥がれと同時に、この表面にはミクロンオーダーの粗度を有するようになる。即ち、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5.0μmの凹凸面となる。次に、再度酸性水溶液に浸漬し、水洗することでナトリウムイオンを除くのが好ましい。本発明者等はこれを中和工程と呼んでいる。この酸性水溶液として数%濃度の硝酸水溶液が特に好ましい。
中和工程を経たアルミニウム合金に最終処理である微細エッチングを行う。微細エッチングでは、アルミニウム合金を、水和ヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物のいずれか1つ以上を含む水溶液に浸漬する。その後水洗し、70℃以下で乾燥するのが好ましい。これは、中和工程で行う脱ナトリウムイオン処理によって表面がやや変化し、粗度は保たれるがその表面がやや円滑になったことに対する粗面の復活策でもある。水和ヒドラジン水溶液等の弱塩基性水溶液に、短時間浸漬して微細エッチングする。ミクロンオーダーの粗度に係る凹部内壁面に、40〜50nm周期の超微細凹凸を多数形成させることが特に好ましい。
ここで、水洗後の乾燥温度を例えば100℃以上の高温にすると、仮に乾燥機内が密閉的であると、沸騰水とアルミニウム間で水酸化反応が生じ、表面が変化してベーマイト層が形成される。これは丈夫な表層といえないため好ましくない。表面のベーマイト化を防ぐには、90℃以下、好ましくは70℃以下で温風乾燥するのが好ましい。70℃以下で乾燥した場合、XPSによる表面元素分析でアルミニウムのピークからアルミニウム(3価)しか検出できず、市販のA5052、A7075アルミニウム合金板材等のXPS分析では検出できるアルミニウム(0価)は消える。XPS分析は、金属表面から1〜2nm深さまでに存在する元素が検出できるので、この結果から、水和ヒドラジンやアミン系化合物の水溶液に浸漬し、その後水洗して温風乾燥することで、アルミニウム合金が持っていた本来の自然酸化層(1nm厚さ程度の酸化アルミニウム薄層)が微細エッチングでより厚くなったことが確認された。少なくとも自然酸化層と異なって、2nm以上の厚さであることが確認された。
(マグネシウム合金の表面処理)
マグネシウム合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。具体的には、市販のマグネシウム合金用脱脂材の水溶液を使用する。一般的な市販品では、濃度5〜10%、液温を50〜80℃とし、これにマグネシウム合金を5〜10分浸漬する。
次に、マグネシウム合金を酸性水溶液に短時間浸漬する化学エッチングを行い、水洗する。脱脂工程で除き切れなかった汚れを含めマグネシウム合金表層が剥がされ、同時にミクロンオーダーの粗度が生じる。即ち、走査型プローブ顕微鏡で走査したときに、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmの凹凸が検出される。上記化学エッチング用の水溶液としては、1%〜数%濃度のカルボン酸又は鉱酸の水溶液を使用することができる。特にクエン酸、マロン酸、酢酸、硝酸等の水溶液が好ましい。化学エッチングでは、通常マグネシウム合金に含まれるアルミニウムや亜鉛は、溶解せず黒色のスマットとしてマグネシウム合金表面に付着残存するから、次に弱塩基性水溶液に浸漬してアルミニウムスマットを溶解して除き、次に強塩基水溶液に浸漬して亜鉛スマットを溶解して除くのが好ましい。
このようにしてスマットを溶解排除したマグネシウム合金を化成処理する。即ち、マグネシウムは、イオン化傾向の非常に高い金属であるから空気中の湿気と酸素による酸化速度が他の金属に比べて速い。マグネシウム合金には、自然酸化膜があるが耐食性の点から見て十分強いものではなく、通常の環境下でも容易に酸化腐食が進行する。それ故、一般的には、マグネシウム合金は、クロム酸や重クロム酸カリウム等の水溶液に浸漬して酸化クロムの薄層で全面を覆う(クロメート処理と呼ばれる)か、又はリン酸を含むマンガン塩の水溶液に浸漬して、リン酸マンガン系化合物で全面を覆う処理を行って、腐食防止処置を行う。これらの処置をマグネシウム業界では化成処理と呼んでいる。
要するに、マグネシウム合金に行う化成処理とは、金属塩を含む水溶液にマグネシウム合金を浸漬して、その表面を金属酸化物及び/又は金属リン酸化物の薄層で覆う処置を言う。現在では、6価のクロム化合物を使用するクロメート型の化成処理は環境汚染の観点から忌避されており、ノンクロメート処理と言われるクロム以外の金属塩を使用した化成処理、実際には、前記したリン酸マンガン系化成処理、又は珪素系化成処理が行われる。本発明ではこれらの方法と相違して、弱酸性とした過マンガン酸カリの水溶液を、化成処理用水溶液として使用するのが特に好ましい。この場合、表面を覆う皮膜(化成皮膜という)は、二酸化マンガンとなる。
具体的な処理法としては、上述したようにスマットを除いたマグネシウム合金を非常に希薄な酸性水溶液に短時間浸漬した後、これを水洗し、表層の塩基性成分を除く。その後に化成処理用水溶液に浸漬して水洗し、乾燥する方法が好ましい。前記の希薄な酸性水溶液として、0.1〜0.3%濃度のクエン酸又はマロン酸水溶液を使用する。この水溶液に常温付近で1分程度浸漬するのが好ましい。化成処理用水溶液としては、過マンガン酸カリを1.5〜3%、酢酸を1%前後、及び酢酸ナトリウムを0.5%前後含む水溶液を、温度40〜50℃で使用するのが好ましく、この水溶液では浸漬時間は1分程度が好ましい。これらの操作により、マグネシウム合金はニ酸化マンガンの化成皮膜で覆われたものとなり、その表面は、ミクロンオーダーの粗度を有し、且つナノオーダーの超微細凹凸が形成されたものとなる。
図3(a)及び(b)は、それぞれ上記処理を施したマグネシウム合金表面の10万倍の電子顕微鏡写真である。これらの超微細凹凸形状を、文章で表現するのは困難であるが、敢えて言えば、図3(a)の電子顕微鏡写真からは、5〜20nm径で20〜200nm長さの棒状又は球状物が無数に錯綜した凹凸で表面が覆われている超微細凹凸形状といえる。図3(b)の電子顕微鏡写真からは、この超微細凹凸形状は、5〜20nm径で10〜30nm長さの棒状又は球状突起が無数に生えた直径80〜120nmの球状物が、不規則に積み重なった形状であるといえる。約10nm径の棒状(針状)物質は、電子顕微鏡観察の結果からは、完全に結晶であるといえるものであるが、X線回折装置(XRD)による分析ではマンガン酸化物で見られる回折線は認められなかった。
X線回折装置(XRD)は、結晶の量が少ないと検出できないので、今のところこれらが結晶であるか否かの判断はできない。少なくとも、これらをアモルファス(非結晶)というには形が整い過ぎているため、アモルファスではないと判断される。なお、XPS分析からは、マンガン(イオンであり0価のマンガンではない)と酸素の大きなピークが認められ、表層はマンガン酸化物であることは間違いない。この表面は、色調が暗色であり、二酸化マンガンが主体のマンガン酸化物である。
また、前記と全く異なる超微細凹凸形状として、直径20〜40nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、言わば溶岩台地の斜面にあるようなデコボコ形状の地面のような超微細凹凸形状で、ほぼ全面が覆われている場合もある。要するに、5〜20nm直径の棒状物が認められない場合には、このような溶岩台地の表面のような形状になることが多く、組成的にはアルミニウム含量の多い場合である。この表面の一例の写真を図4に示したが、これは鋳造用マグネシウム合金であるAZ91Dの処理例である。
(銅合金の表面処理)
銅合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。具体的には、市販の銅合金用脱脂材の水溶液を使用する。また、市販の鉄用、ステンレス用、又はアルミニウム合金用の脱脂剤も使用できる。更には工業用又は一般家庭用の中性洗剤を溶解した水溶液も使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%〜5%濃度とし、この水溶液の温度を50〜70℃とし、これに銅合金を5〜10分浸漬し、水洗する。
次に、銅合金を40℃前後に保った数%濃度の苛性ソーダ水溶液に浸漬した後に水洗する予備塩基洗浄をするのが好ましい。更に、銅合金を過酸化水素と硫酸を含む水溶液に浸漬する化学エッチングを行い、水洗する。この化学エッチングは、20℃〜常温付近の、硫酸、過酸化水素の両方を共に数%含む水溶液を使用するのが好ましい。このときの浸漬時間は、合金種によって異なるが、数分〜20分である。この化学エッチング工程で、殆どの銅合金でミクロンオーダーの粗度が獲得される。即ち走査型プローブ顕微鏡で解析して、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmとなる、
次に、上記化学エッチング工程を経た銅合金の表面を酸化させる表面硬化処理を行う。電子部品業界では黒化処理と呼ばれている方法が知られているが、本発明で実施する表面効果処理は、その目的と酸化程度が黒化処理とは異なるものの、処理の内容自体は同じである。化学的に言えば、銅合金の表面層を強塩基性下で酸化剤によって酸化する。銅原子を酸化剤でイオン化した場合に、周りが強塩基性であると水溶液に溶解せず黒色の酸化第2銅になる。銅合金製部品をヒートシンクや発熱材部品として使用する場合、表面を黒色化して輻射熱の放熱や吸熱での効率を向上させている。この処理を、銅を使用する電子部品業界では黒化処理と呼んでいる。本発明の表面硬化処理にもこの黒化処理が利用できる。但し、本発明における表面硬化処理の目的は、一定の粗さを有する銅合金の表面にナノオーダーの超微細凹凸を形成し 且つ表層を硬質とすることにある(即ち微細エッチング及び表面硬化処理を行うこと)であるから、文字通り黒色化することではない。
本発明においても黒化処理と同様に、市販の黒化剤を、市販メーカーの指示する濃度、温度で使用する。但し、本発明における浸漬時間は、上記電子部品業界における黒化処理と比較して極めて短時間である。浸漬時間を異ならせて表面硬化処理を行い、各表面硬化処理後の銅合金表面を電子顕微鏡観察し、適した浸漬時間を特定した。具体的な条件としては、亜塩素酸ナトリウムを5%前後、苛性ソーダを5〜10%含む水溶液を60〜70℃として使用するのが好ましく、その場合の浸漬時間は0.5〜1.0分程度が好ましい。これらの操作により、銅合金は酸化第2銅の薄層で覆われたものとなる。そして表面を電子顕微鏡で観察すると、ミクロンオーダーの粗度を有し、その表面には直径が10〜150nmの円状の穴及び長径又は短径が10〜150nmの楕円状の穴が形成される。そして、この円状の穴及び楕円状の穴が、30〜300nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状となる(この例を図5(b)の写真で示した)。要するに、この表面硬化処理を行うと、超微細凹凸と表面硬化層の双方が同時に得られることになる。なお、表面硬化処理において、処理液への浸漬時間を2〜3分にすると却って被着材との接着力が低下した。このことから、表面硬化処理を長時間行うことは、却って接着力を弱くし、好ましくないことが確認された。
ここで、純銅系の銅合金(例えばC1020)では、前述した化学エッチングの結果で得られる粗面は、RSmが10μmを超えることが多い。また、RSmが10μm以下であっても、当該RSmは純銅系以外の銅合金と比較して明らかに大きかった。そして、そのRSmが大きい割りにはRzが明らかに小さい(例えばRSmが8μmに対してRzが0.4μm等)。特に、銅分が高純度であるC1020(無酸素銅)等の金属結晶粒径の大きいものでは、前述したようにRSmが大きくなることが明らかに多く、凹凸周期と金属結晶粒径の大きさに直接的な相関関係があると推定された。純銅系銅合金の化学エッチングでは、金属結晶粒界から銅の侵食が起こっていることを観察結果から特定することができた。何れにせよ、RSmの範囲が10μmより大きければ本発明の第1の条件を満たさない。また、RSmの範囲が10μm以下であっても、当該RSmとの比較でRzが明らかに小さければアンカー効果が生じにくく、本発明の効果が発揮されにくい。実際に接着実験を行った場合でも、結晶粒径の特に大きいもの、例えば無酸素銅(例えばC1020)では、前述した化学エッチングと表面硬化処理を行っただけでは強い接着力を発揮できなかった。
そこで本発明者らは、一旦表面硬化処理まで終えた純銅系銅合金について、Rzが比較的小さいと判断したものに関しては、再度の化学エッチング及び再度の表面硬化処理を行った。当該再度の化学エッチングは最初の化学エッチングより短時間で良い。その結果、RSmは10μm以下となり、Rzは数μ以上となった。また、電子顕微鏡観察によると、超微細凹凸は繰り返し処理をしない場合と変わらない。
(チタン合金の表面処理)
チタン合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。特殊なものは必要なく、具体的には、市販の鉄用脱脂剤、ステンレス用脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂材、マグネシウム合金用脱脂剤等の一般的な脱脂剤を使用することができる。また、市販されている工業用の中性洗剤を溶解した水溶液も使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%濃度とし、この水溶液の温度を60℃前後とし、これにチタン合金を浸漬した後、水洗する。その後、塩基性水溶液に浸漬して水洗し、予備塩基洗浄することが好ましい。
次に、還元性の酸の水溶液に浸漬して化学エッチングするのが好ましい。具体的には、チタン合金を全面腐食させ得る還元性酸として、蓚酸、硫酸、弗化水素酸等を使用できる。このうちエッチング速度が速いのは弗化水素酸である。故に効率を重視する場合には弗化水素酸を使用する。ただし弗化水素酸は、人間の肌に触れると侵入して骨に至り、痛みが数日続くことがある。要するに塩酸等とは異なる問題があり、労働環境面からは弗化水素酸の使用を避けるほうが好ましい。
好ましいのは、弗化水素酸より遥かに安全な扱いができる弗化水素酸の半中和物の1水素2弗化アンモニウムである。1水素2弗化アンモニウムの1%前後の水溶液を、温度50〜60℃として、これに数分浸漬した後、水洗する処理方法が好ましい。1水素2弗化アンモニウム水溶液による化学エッチングは、ミクロンオーダーの粗度を得るために行ったが、電子顕微鏡観察や最新分析機器による観察では、化学エッチング後の水洗と乾燥により、チタン合金表面は、不思議な形状の超微細凹凸形状となり、且つ、表面は酸化チタン薄層で覆われたものとなることが分かった。要するに、別途の微細エッチング及び表面硬化処理は不要であった。
1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングし、水洗し、更にこれを乾燥したチタン合金の分析例を示す。まず走査型プローブ顕微鏡による走査解析結果を得た。ここでは20μm角の正方形面積内を走査して、RSmが1.8μm、Rzが0.9μという結果だった。又、同じ処理をした物の1万倍、10万倍電子顕微鏡写真の例を図9((a):1万倍,(b):10万倍)に示した。ここでは、高さ及び幅が10〜300nm、長さが10nm以上の山状又は連山(山脈)状凸部が10〜350nm周期で全面に存在する非常にユニークで不思議な超微細凹凸形状が示された。
又、XPS分析によると、大きな酸素、チタンのピークが得られ表面の化合物は明らかに酸化チタンであることが分かった。ただし表面色調は暗褐色であり、チタン(3価)酸化物か、又はチタン(3価)とチタン(4価)の混合酸化物の薄膜とみられた。即ち、エッチング前は金属色であり、この表面はチタンの自然酸化層であるが、1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングした後は、自然酸化層でない暗色の酸化チタン層に変化した。この酸化チタン層をアルゴンイオンビームで十〜数十nmエッチングし、エッチング後の面をXPS分析した。このXPS分析で、チタン酸化物層の厚さが判明したが、この厚さは明らかに自然酸化層の厚さより厚く、1水素2弗化アンモニウム水溶液によって純チタン系チタン合金をエッチングした場合で、50nm以上とみられた。
しかも表面から内部に向かってチタンイオンの価数が減少しており、表面の4価又は3価と4価の混合状態から内部に向かって2価が増え、更に2価が減って0価の金属に至ることが分かった。要するに、チタン酸化物である酸化膜は単純なチタン酸化物層でなく、チタン価数が表面から連続的に減ってゼロ価に達したような連続変化層であり、別の表現では、まるで酸素が表面から染み込んだように、表面は濃く内部に向かって薄くなる連続変化層であった。このような金属酸化膜と金属合金との間には明確な境界がないため、酸化膜層と金属合金層の接合力は極めて強固である。故に両者を引き剥がす力に対して充分な耐性を有しているといえる。
なお、純チタン系チタン合金以外のチタン合金の具体的な処理法は、前述した処理法と同様であるが、還元性の強酸水溶液によるエッチング時に生じる発生期の水素ガスによって、少量添加物として含まれている他金属が還元されて不溶物、いわゆるスマットを生じることがある。スマットの多くは、その後に数%濃度の硝酸水溶液に浸漬することで溶解除去することができる。但し、合金によっては硝酸水溶液に溶解しないスマットも生じるので、その場合は水洗時に超音波をかけて洗浄するのが好ましい。
純チタン系チタン合金以外の合金を、一水素二弗化アンモニウムでエッチングし、スマット除去したものの表面形状は、前述した図9の写真に比較し、その表面形状を言語表現することが難しい表面形状になる。アルミニウムを含有するα−β型チタン合金の例を、図10((a):1万倍,(b):10万倍)の写真に示す。ここにはチタン合金らしい(図9に似た)超微細凹凸がない円滑なドーム状部分が観察されるが、植物の枯葉のような形状の不思議な形状が観察された。この表面全体は、前述した第2の条件として好ましい10〜300nm周期の超微細凹凸で覆われているというものではなく、より周期の大きいもの(「微細凹凸」と呼ぶ)が観察され、この微細凹凸自体が滑らかであった。
しかしながら、この表面中の、円滑なドーム状部分は別として、枯葉形状部は薄くて湾曲しており、これに硬度があれば強力なスパイク形状となる。α−β型チタン合金表面は、前述した新NMTにおける第2の条件(5nm〜500nm周期の超微細凹凸)に合致しない部分が殆どだが、このスパイク形状によって第2の条件で求めている超微細凹凸の役割を果たしうると考えられる。この表面のスパイク形状は大きいため、むしろ新NMTで求めている第1の条件で要求するミクロンオーダーの粗度(表面粗さ)にも関係してくる。このスパイク形状によって、走査型プローブ顕微鏡で見て、第1の条件(RSmが0.8〜10μm,Rzが0.2〜5μm)を満たす粗度面が形成されている。なお、第2の条件からやや外れて凹凸周期が大きいので、10万倍の電子顕微鏡写真では表面の全体像を掴むことができない。表面観察は、1万倍以下の倍率写真を撮って観察した。即ち、図10(a)のように1万倍の電子顕微鏡で見て、少なくとも10μm角以上の面積を見ることである。そうすれば、円滑なドーム形状と湾曲した枯葉形状の双方が存在する微細凹凸形状が観察される。
(ステンレス鋼の表面処理)
ステンレス鋼の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。特殊な脱脂剤は必要なく、市販されている一般的なステンレス鋼用の脱脂剤、鉄用の脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂剤、又は市販の一般向け中性洗剤を使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%濃度とし、この水溶液の温度を40〜70℃とし、これにステンレス鋼を5〜10分浸漬した後、水洗する。次に、このステンレス鋼を数%濃度の苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬した後に、水洗し、この表面に塩基性イオンを吸着させるのが好ましい。この予備塩基洗浄によって、次の化学エッチングの再現性がよくなるからである。
ステンレス鋼は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、ハロゲン化金属塩等の水溶液で全面腐食する。化学エッチングを行う場合、ステンレス鋼の種類によって、その浸漬条件を変化させればよい。ここで、焼き鈍し等で硬度を下げて構造的に金属結晶粒径を大きくした物では、結晶粒界が少なくなっており、全面腐食させてミクロンオーダーの粗度を得るのが困難である。このような場合、単に腐食が進行する浸漬条件にするだけでは、化学エッチングが意図したレベルまで進まず、何らかの添加剤を加えるなどの工夫が必要である。何れにせよ、ミクロンオーダーの粗度を有する部分が大くを占める表面を獲得するように化学エッチングを行う。
SUS304であれば、10%濃度程度の硫酸水溶液を温度60〜70℃として、これに数分間浸漬する方法が好ましく、この処理方法により、本発明で要求するミクロンオーダーの粗度が得られる。また、SUS316では、10%濃度程度の硫酸水溶液を温度60〜70℃として、これに5〜10分間浸漬するのが好ましい。ハロゲン化水素酸、例えば塩酸水溶液も化学エッチングに適しているが、この水溶液を高温化すると酸の一部が揮発し、周囲の鉄製構造物を腐食する恐れがあるほか、局所排気しても排気ガスに何らかの処理が必要になる。その意味で硫酸水溶液の使用がコスト面で好ましい。ただし、鋼材によっては、硫酸単独の水溶液では全面腐食の進行が遅すぎる場合がある。このような場合、硫酸水溶液にハロゲン化水素酸を添加することが効果的である。そしてステンレス鋼では、化学エッチングを行うことで微細エッチングも同時に達成される。
前記の化学エッチングの後に、十分水洗することでステンレス鋼の表面は自然酸化し、腐食に耐える表層に再度戻るため、特に表面硬化処理は行う必要がない。しかし、ステンレス鋼表面の金属酸化物層をより厚く強固なものにするべく、酸化性の酸、例えば硝酸等の酸化剤、即ち、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリ、塩素酸ナトリウム等の水溶液に浸漬した後、これを水洗するのが好ましい。
実際に、ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした例を図11に示す。表面には適切なエッチングによりミクロンオーダーの粗度が形成される。その表面を電子顕微鏡観察すると超微細凹凸で覆われていることが分かる。要するに、ステンレス鋼では、化学エッチングだけで微細エッチングも同時に達成される。図11では、直径20〜70nmの粒径物、不定多角形状物等が積み重なった形状が認められ、この1万倍写真(図11(a))、及び10万倍写真(図11(b))のいずれも、火山周辺で溶岩が流れて形成される溶岩台地の斜面のガラ場に酷似していた。超微細凹凸で覆われたステンレス鋼表面をXPS分析すると、酸素、鉄の大きなピークと、ニッケル、クロム、炭素、モリブデンの小さなピークが認められた。要するに、表面は通常のステンレス鋼と全く同じ組成の金属の酸化物であり、同様の耐食面で覆われている。
(鉄鋼材の表面処理)
鉄鋼材の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。SPCC、SPHC、SAPH、SPFH、SS材等のように市販されている鉄鋼材では、これら鉄鋼材用として市販されている脱脂剤、ステンレス鋼用の脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂剤、又は市販の一般向け中性洗剤を使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%濃度とし、この水溶液の温度を40〜70℃とし、これに鉄鋼材を5〜10分浸漬した後、水洗する。次に、希薄な苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬した後、これを水洗するのが好ましい。この予備塩基洗浄によって、次の化学エッチングの再現性がよくなるからである。
鉄鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食する。化学エッチングを行う場合、鉄鋼材の種類によって、その浸漬条件を変化させればよい。SPCCであれば、10%濃度程度の硫酸水溶液を50℃として、これに数分間浸漬することが好ましい。これは、ミクロンオーダーの粗度を得るための化学エッチング工程である。SPHC、SAPH、SPFH、SS材では、前者より硫酸水溶液の温度を10〜20℃上げて化学エッチングするのが好ましい。ハロゲン化水素酸、例えば塩酸水溶液も化学エッチングに適しているが、前述した問題がある。それ故に硫酸水溶液の使用がコスト面で好ましい。
〈表面処理方法I:化学エッチングのみ〉
前述した化学エッチングの後に水洗して乾燥し、電子顕微鏡写真で観察すると、高さ及び奥行きが50〜500nmで、幅が数百〜数千nmの階段が無限段に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが多い。これは鉄鋼材が一般に有するパーライト構造が露出したものとみられる。具体的には、前記の化学エッチング工程で硫酸水溶液を適当な条件で使用したとき、ミクロンオーダーの粗度を成す凹凸面が得られると同時に、階段状の超微細凹凸も同時に形成されることが多い。このようにミクロンオーダーの粗度と超微細凹凸の形成が一挙に為される場合、前記化学エッチング後に十分水洗してから水を切り、温度90〜100℃以上の高温で急速乾燥させたものは、そのまま使用できる。表面に変色した錆は出ず、綺麗な自然酸化層となる。
但し、自然酸化層のみでは一般環境下での耐食性は不十分と考えられる。乾燥状態で保管することが必要である上に、当該鉄鋼材に被着材が接着された接合体も長期間にわたって接着力を維持できない。化学エッチング後の鉄鋼材同士を1液性エポキシ接着剤で接着した接合体を1ヶ月放置した後、破断試験をしたところ、接着当初と比較して接着力が低下していた。このことから、表面安定化処理が必要であることを確認した。
〈表面処理方法II:アミン系分子の吸着〉
前述した化学エッチングの後で水洗し、アンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン系化合物の水溶液に浸漬し、水洗し、乾燥する。そしてアンモニア等の広義のアミン系物質は、鉄鋼材に残存する。乾燥後の鉄鋼材をXPSで分析すると窒素原子が確認される。それ故に、アンモニアやヒドラジンを含む広義のアミン類が鉄鋼材表面に化学吸着していると推定した。10万倍電子顕微鏡での観察結果では、表面に薄い膜状の異物質が付着しているので、鉄のアミン系錯体が生じている可能性がある。
何れにせよ、これらアミン系分子の吸着又は反応は、水分子の吸着や鉄の水酸化物生成反応より優先しているようである。その意味で、少なくともエポキシ接着剤の塗布を行うまでの数日〜数週間は、水分の吸着とその反応による錆の発生を抑えられる。加えて、接着後の接着力の維持に関しても、「表面処理方法I」より優れており、接合体を4週間放置したものでは接合力の低下はなかった。
使用するアンモニア水、ヒドラジン水溶液、又は水溶性アミンの水溶液の濃度や温度は、厳密な条件設定が殆ど必要ない。具体的には、0.5〜数%濃度の水溶液を常温下で用い、0.5〜数分浸漬し、水洗し、乾燥することで効果が得られる。工業的には、若干臭気があるが安価な1%程度濃度のアンモニア水か、又は臭気が小さく効果が安定的な水和ヒドラジンの1%〜数%の水溶液が好ましい。
〈表面処理方法III:化成処理〉
化学エッチングを経た鉄鋼材又は化学エッチング及び上記アミン系分子の吸着を行った鉄鋼材を水洗した後、6価クロム化合物、過マンガン酸塩、又はリン酸亜鉛系化合物等を含む水溶液に浸漬して水洗する。この化成処理により、鉄鋼材表面がクロム酸化物、マンガン酸化物、亜鉛リン酸化物等の金属酸化物や金属リン酸化物で覆われて耐食性が向上する。これは、鉄鋼材の耐食性向上方法としてよく知られている方法である。ただし、本発明における化成処理の目的は、完全な耐食性の確保ではなく、接着剤の塗布までに少なくとも充分な耐食性を有しており、接着後も接着剤塗布部分に経時的な支障が起こりにくくすることである。要するに、化成皮膜を厚くした場合には、耐食性の観点からは好ましいが、接合力という観点からは好ましくないのである。化成皮膜は必要であるが、硬いが脆いという性質があるので、厚過ぎると接合力は逆に弱くなる。
三酸化クロムの希薄水溶液に鉄鋼材を浸漬して水洗し、乾燥した場合、表面は酸化クロム(III)で覆われる。その表面は均一な膜状物で覆われるのではなく、10〜30nm径で同等高さの突起状物もほぼ100nm程度の距離を置いて生じていた。また、弱酸性に調整した数%濃度の過マンガン酸カリの水溶液も好ましく使用できた。鉄鋼材の表面が高い接着力を獲得するには、化成皮膜を薄くすることが必要である。そのための条件を探索した結果、いずれの水溶液を使用する場合であっても、概ね数%濃度の水溶液を温度45〜60℃にして、これに鉄鋼材を0.5〜数分浸漬することであった。
[射出接合用の熱硬化型樹脂組成物]
射出成形用の熱硬化性樹脂組成物として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の系が市販されている。但し、これらが本発明の射出接合に使用できるか否かは、各熱硬化性樹脂組成物の粘度変化の特性による。熱硬化性樹脂組成物は射出成形機又はBMC成形機で射出成形されるが、その射出工程の中での温度変化と粘度変化の関係を考慮する。BMC(射出成形用の不飽和ポリエステル樹脂系樹脂組成物)の射出成形を行う場合、使用原料が乾式BMCであれば射出筒は若干加熱されノズル温度は70℃程度にされることが多いが、原料が湿式BMCであるとノズル温度は40℃程度か温度制御されない場合もある。金型温度は145〜170℃の範囲内のことが多く、金型に押し込まれたBMCは直ぐに100℃以上になって急速に粘度を下げる。これと共にBMCに含まれている有機過酸化物の分解が始まりラジカル重合反応が高速で連鎖してゲル化による粘度上昇が始まる。
金型内に樹脂が射出されてから硬化するまでの粘度の変化状況は、一旦低下した後に上昇するという、所謂V字型又はU字型になる。そしてこの粘度の変化は射出接合の性能に大きく影響する。特に、粘度がV字型又はU字型に変化した際の最低粘度、所謂谷の深さが重要であり、また、その最低粘度付近における滞在時間、所謂谷底部の幅が重要である。樹脂組成物が長時間、最低粘度付近に維持されることで、樹脂組成物がキャビティの端末、金属合金部品の表面まで達する。さらに、その樹脂組成物が金属合金表面のミクロンオーダーの粗度に係る凹凸及び超微細凹凸に侵入し、その後固化する。固化した樹脂組成物は、図15に示すように、スパイクの如く金属合金表面に食い込んだ形状となり、硬化物を金属合金表面から剥がし難い構造となっている。これが、本発明が目的とする射出接合の原理である。本発明者らは、市販材料では湿式BMCが本発明に適した材料と考え、京セラケミカル株式会社製の湿式BMC「AP−603BALH」を採用した。
ここでBMCについて詳述する。BMCは、(1)不飽和ポリエステル樹脂及び/又はビニルエステル樹脂、(2)スチレン系モノマー、(3)無機充填材、(4)ガラス短繊維、及び(5)硬化剤の有機過酸化物等を含んでいる。乾式BMCとは粉末状であり、組成は前記(1)〜(5)を含む。ここで湿式BMCと比較した場合、低粘度液状物である(2)スチレン系モノマーが少なめであって、(4)ガラス短繊維も繊維長が湿式BMCに使用するものより短く、且つ充填量も少ない。その組成の違いによって粉末状になったものである。一方、湿式BMCは粘性があり、その外観はガラス繊維を含んだ粘土状の樹脂である。乾式BMCよりも明らかに(2)スチレン系モノマーの含有量が多く、(4)ガラス短繊維の含有量も20質量%に近い。
これらBMCの射出成形で得られた成形品は原料にガラス繊維が含まれるのでガラス繊維強化プラスチック(以下「GFRP(Glass fiber reinforced plasticsの略)」という)の一種と言える。GFRPの製造方法として、ガラス繊維の束、織物、又は不織布を強化繊維として、これに樹脂をハケやローラー等で含浸させ、脱泡しながら所定の厚さまで積層するハンドレイアップ法があり、ボートや小型漁船等の大型品の製造に用いられている。また、他の製造方法として、比較的長い切断繊維を大量に含むSMC(Sheet molding compoundの略)というシート状原料をSMC金型に入れて圧縮成型するSMCプレス法があり、浴槽や汚水処理槽等の大型の工場製品の製造に用いられている。本発明の射出接合によって得られる製品は一般に小型部品が多く、上述したような大型GFRP製品とはいえないが、ガラス繊維を含むのでGFRP製品である。
射出接合に使用するBMCを調整によって得ることも可能である。仮に射出用樹脂として乾式BMCを使用し、射出接合試験をして良好な結果が得られなかった場合、スチレンモノマーを10〜20質量%加えて混練することで湿式BMCにすることも可能である。また、本発明者らは、射出接合しなかった市販のエポキシ樹脂組成物に対し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型である「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社)」を加えて混練し直し、湿式タイプに変更した結果、射出接合が可能となった。本発明者らがこのような措置を取った根拠は、熱硬化性樹脂中の低粘度モノマーの添加率を増やすことで昇温時の最低粘度を更に低くし、且つ硬化剤に対してのモノマー量が増えることで重合速度が落ちて最低粘度付近に滞在する時間が長くなることにある。
本発明の射出接合を可能とする熱硬化性樹脂として、少なくとも以下のものを使用できることを確認した。
(1)湿式BMC
(2)乾式BMCの粉末に対してスチレンモノマーを10〜20質量%加えて混練した樹脂組成物(所謂自作の湿式BMCであり、後述する実験例では改良型BMCと称している)
(3)エポキシ樹脂の粉末に対してビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型を10〜20質量%加えて混練した樹脂組成物(後述する実験例では改良型エポキシ樹脂と称している)
この他にも、接着剤を使用することなく金属合金表面に対して直接的に射出接合が可能となる熱硬化性樹脂組成物は存在する。しかしながら、射出成形又はトランスファー成形用の熱硬化性樹脂として市販されているもの及びそのグレード数は、熱可塑性樹脂と比較すると極めて少ない。後述する実験例では射出接合に使用できる熱硬化性樹脂組成物を示した。
[射出接合工程]
射出成形機としては、通常の熱硬化性樹脂用の射出成形機、BMC成形機が使用できる。金型について留意すべきは、金属合金部品をインサートする上で生じる特異的な問題である。一つは、金型材の殆どが鋼材であることから、インサートする金属合金部品がアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金等の場合、即ち、線膨張率が鋼材より大きな金属合金種である場合、特別な金型設計が必要なことである。具体的には予めキャビティーを金属合金部品の寸法より大きめに設計することで対応する。
一方、金属合金部品の寸法に合致するキャビティーとなるよう金型設計をした場合、線膨張率の違いが問題となり、金属合金部品が金型に拘束される状態(締め付けられる状態)となる。この際にインサートする金属合金部品が比較的柔らかい金属合金種(アルミニウム合金等)であり、エジェクター構造が丈夫であれば問題が生じない場合もある。しかし、このような状態で射出接合を続けることで、金型の鋼材とインサートした金属合金が高温で擦れ合って低融点の合金が生成し、金属同士の融着やキャビティーの変形が生じることもある。従って金型と金属合金部品の擦れ合う部分を、窒化又はその他の方法でセラミック化して合金生成を前もって防ぐことが必要である。
ここで、チタン合金、ステンレス鋼、一般鋼材をインサートする場合、上記アルミニウム合金等よりは硬質で、且つ迅性も高いので、金属合金部品が金型に拘束された状態で射出接合を良好に行うことは困難である。インサートされた金属合金が熱膨張し、かつ金型による押さえつけでキャビティー内から剥がすことができなくなるという問題があり、金型を成形機から外して機械加工で復帰させる等の措置が必要となる場合もある。故にこれらの金属合金種では、予めキャビティーを金属合金部品の寸法より大きめに設計する必要がある。
いずれの金属合金種であっても、金属合金部品の寸法誤差を勘案して金型設計をすると共に、寸法異常品が金型内にインサートされないように射出接合工程を管理することが必要である。
射出成形の条件について説明する。本発明における熱硬化性樹脂の射出接合は、使用する射出用樹脂の材料の選択が極めて重要である。そして射出用樹脂によって金型温度等の条件設定が異なる。市販されている又は作成した射出用熱硬化性樹脂が、金属合金部品に射出接合させることが可能か否かを判断する必要があるが、そのための試験は以下のようにして行うと良い。金属合金部品を金型内にインサートして射出接合試験を行う。ここで使用するのは新NMTの3条件を具備するよう表面処理を施した金属合金部品である。射出用樹脂としてBMCを使用する場合は、当初の金型温度を145℃程度とし、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂を使用する場合には、当初の金型温度を150℃程度としておくことが好ましい。即ち、最初は比較的低い金型温度としておく。成形サイクルを3分程度として、この条件で金型を開いた時に金属合金部品と樹脂成形品が接合していなければ、この材料は使用できないと判断する。一方、金属合金部品と樹脂成形品とが接合しており、金型から離型すると両者が一体化した複合体が得られるものの、この複合体の両端を強く引っ張ると、金属合金部品と樹脂成形品が剥がれる場合、熱硬化性樹脂が金属合金表面のミクロンオーダーの凹凸に僅かしか侵入していないことになる。このような場合、当初の金型温度を更に5℃ほど下げて、ゲル化前の最低粘度付近における滞在時間を延ばす工夫を行い、射出接合性能を改善できるか否か試験を行うべきである。
上記試験で金属合金部品と樹脂成形品が接合していなかったときでも、射出成形の条件を最適化することによって、射出接合が可能となる場合がある。この場合でも金型温度を更に下げて、成形サイクルを10分以上と長くすれば射出接合が可能になり得る。金型温度を下げて樹脂を溶融状態にすることを優先し、ゲル化硬化速度に拘らないという考え方は「NAT」と同じである。それ故、金型温度を下げ、成形サイクルを長時間とすると広範な範囲の熱硬化性樹脂を使用できる可能性がある。しかしながら成形サイクルが10分を越えるようになっては全く実用的ではないので、実用面を考慮すると使用できるのは特定の熱硬化性樹脂に限られる。
樹脂組成物が射出接合可能な材料である場合、金型温度を徐々に上げ、それに伴って成形サイクル時間も短くして最適の射出接合条件を探る。射出速度も最適化する。即ち、高過ぎるとノズルや流路でせん断摩擦熱が生じて樹脂温度が早期に上昇してゲル化を速めるので高速硬化になり易く好ましくない。又、射出圧力は保圧も含めて高めにするのが好ましい。
本発明によれば、熱硬化性樹脂の射出成形による形状化と、その樹脂成形品と予め金型内にインサートしておいた金属合金部品との接合を一挙に行うことができるので、複合体の製造工程を合理化することができる。本発明の射出接合に際して、予め金属合金部品に接着剤を塗布しておく必要はなく、より簡易な方法で複合体を製造することが可能となる。また、本発明においては熱硬化性樹脂自体が接着剤の役目を果たすため、接着の耐熱性が高いことも利点である。特に金属合金部品と熱硬化性樹脂の成形品の複合体の用途としては、耐熱性を必要とする電気機器類のカバー等が想定される。このような用途に対して本発明は有効である。本発明は、熱硬化性樹脂成形品を主構造とし、これに部分的に金属部品を埋め込んだ複合体の製造にも適用することができる。さらに本発明に係る複合体は耐候性に優れるので、ステンレス鋼とGFRP、又は亜鉛鍍金鋼板とGFRPとを一体化した水槽や屋根材などの屋外設備部品にも使用できる。
本発明は金属合金と熱硬化性樹脂成形品の複合体に関する全く新たな製造技術といえるものである。熱硬化性樹脂用の射出成形機やBMC成形機を使用した射出成形分野において極めて有用な発明である。本発明に係る複合体は、電気部品、電気機械、家電製品等の耐熱性又は耐候性が要求される部品として役立つ。本発明の射出接合技術によって、熱硬化性樹脂製のケースをアルミニウム合金又は銅合金が貫いた形状の完全封止型の電池蓋を製造することもできる。更には、大型の金型を使用して、太陽電池のカバー材やエクステリア商品等の耐候性が要求される部品を製造することもできる。
図1は、A7075アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図2は、A5052アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図3は、AZ31Bマグネシウム合金をクエン酸水溶液で化学エッチングし、過マンガン酸カリ水溶液で化成処理した表面の10万倍電子顕微鏡写真((a)(b)いずれも10万倍)である。 図4は、AZ91Dマグネシウム合金をマロン酸水溶液で化学エッチングし、過マンガン酸カリ水溶液で化成処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図5は、C1100銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図6は、C5191リン青銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図7は、「KFC(株式会社 神戸製鋼所製)」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図8は、「KLF5(株式会社 神戸製鋼所製)」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図9は、「KS40(株式会社 神戸製鋼所製)」純チタン系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図10は、「KSTi−9(株式会社 神戸製鋼所製)」α−βチタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図11は、SUS304ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図12は、SPCC冷間圧延鋼材を硫酸水溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。 図13は、金属合金片に熱硬化性樹脂組成物を射出して複合体を製造するための射出成形金型の断面図である。 図14は、射出接合により得られた金属合金片と樹脂成形品の複合体の形状を示す図である。 図15は、新NMT及びNATにおける金属合金の表面構造を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[射出接合の方法]
図13及び図14は熱硬化性樹脂の射出接合に関する図であり、図13は、後述する実験例で使用する射出成形金型の断面を模式的に示した断面図である。図13は、金型が閉じ射出成形される状態を示している。図14は、金属合金部品と射出成形金型で成形された樹脂成形品からなる複合体7の外観を示す外観図である。この複合体7は両端を圧縮してせん断破断力を測定するための試験片である。図13の射出成形金型は、可動側型板2と固定側型板3で構成され、固定側型板3側にタブ型ゲート5等からなる樹脂射出部が構成されている。
複合体7の成形は次のように行う。先ず可動側型板2を開いて、固定側型板3との間に形成されるキャビティーに金属合金片1をインサートする。インサートした後、可動側型板2を閉じて図13の射出前の状態にする。次にゲート5を介して樹脂組成物を金属合金片1のインサートされたキャビティーに射出する。
射出されると樹脂組成物は金属合金片1と接合しつつキャビティを埋めて樹脂成形され、金属合金片1と樹脂成形品4が一体となった複合体7が得られる。複合体7は、金属合金片1と樹脂成形品4との接合面6を有しており、この接合面6の面積は5mm×10mmである。即ち、接合面6の面積は0.5cmである。この複合体7の両端を引っ張り試験機にて圧縮せん断破断し、得られた破断力を接着面積で除してせん断破断力(MPa)を測定した。
以下、本発明で使用する装置の概要を示す。
(a)X線光電子分析装置によるXPS観察
試料にX線を照射することによって試料から放出してくる光電子のエネルギーを分析し、 元素の定性分析等を行う光電子分析装置を用いて金属合金表面の分析を行った(XPS観察)。この光電子分析装置は、数μm径の表面を深さ数nmまでの範囲で観察する形式の「AXIS−Nova」(クレイトス/株式会社 島津製作所製)を使用した。
(b)電子線表面観察(EPMA観察)
金属合金表面の構成元素を観察すべく、数μm径の表面を深さ数μmまでの範囲で観察する形式の電子線マイクロアナライザー「EPMA1600(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(c)電子顕微鏡観察
金属合金の表面観察のために電子顕微鏡を用いた。この電子顕微鏡は、走査型(SEM)の電子顕微鏡「JSM−6700F」(日本電子株式会社製)を使用し、1〜2KVにて観察した。
(d)走査型プローブ顕微鏡観察
金属合金の表面観察のために走査型プローブ顕微鏡を用いた。この顕微鏡は、先端を尖らせた探針を用いて、物質の表面をなぞるように動かして表面状態を拡大観察する走査型プローブ顕微鏡「SPM−9600(株式会社 島津製作所製)」である。
(e)複合体の接合強度の測定
引っ張り試験機で複合体を引っ張ってせん断力を付加し、複合体が破断するときの破断力をせん断破断力として測定した。引っ張り試験機として「MODEL−1323(アイコーエンジニアリング株式会社(日本国)製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
以下、実験例1〜12では、各種金属合金の表面処理について例示する。
[実験例1](A7075アルミニウム合金片の表面処理)
市販の厚さ3mmのアルミニウム合金板材「A7075」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のA7075片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス株式会社(日本国東京都)製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A7075片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を4分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A7075片を2分浸漬し、水洗した。次いで5%濃度の過酸化水素水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を5分浸漬し、水洗した。次いで前記A7075片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたA7075片を電子顕微鏡観察したところ、40〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図1に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは3〜4μm、Rzは1〜2μmであった。
[実験例2](A5052アルミニウム合金片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmのアルミニウム合金板材「A5052」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のA5052片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A5052片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を2分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A5052片を2分浸漬し、水洗した。次いで前記A5052片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたA5052片を電子顕微鏡観察したところ、30〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図2に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは1〜2μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。
[実験例3](AZ31Bマグネシウム合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmのマグネシウム合金板材「AZ31B」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のAZ31B片を多数作成した。槽の水に市販のマグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160(メルテックス株式会社製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(65℃)とした。これに前記AZ31B片を5分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ31B片を6分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1%濃度の炭酸ナトリウムと1%濃度の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ31B片を5分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に15%濃度の苛性ソーダ水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ31B片を5分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に0.25%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ31B片を1分浸漬して水洗した。次いで過マンガン酸カリを2%、酢酸を1%、水和酢酸ナトリウムを0.5%含む水溶液(45℃)を用意し、これに前記AZ31B片を1分浸漬し、15秒水洗した。次いで前記AZ31B片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたAZ31B片を電子顕微鏡観察したところ、5〜20nm径の棒状結晶が複雑に絡み合って100nm径程度の塊となり、その塊が面を作っている超微細凹凸形状で覆われている箇所があった。電子顕微鏡を10万倍として観察したときの写真を図3(a)及び(b)に示した。又、走査型プローブ顕微鏡で走査して粗度観測を行ったところRSmが2〜3μm、Rzが1〜1.5μmであった。
[実験例4](AZ91Dマグネシウム合金片の表面処理)
鋳造用マグネシウム合金AZ91Dのダイカスト品から、厚さ1mmで45mm×18mmの長方形のAZ91D片を機械加工で多数削り出した。槽の水に市販のマグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160(メルテックス株式会社製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(65℃)とした。これに前記AZ91D片を5分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度のマロン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ91D片を2.25分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1%濃度の炭酸ナトリウムと1%濃度の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ91D片を5分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に15%濃度の苛性ソーダ水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ91D片を5分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に0.25%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ91D片を1分浸漬して水洗した。次いで過マンガン酸カリを2%、酢酸を1%、水和酢酸ナトリウムを0.5%含む水溶液(45℃)を用意し、これに前記AZ91D片を1分浸漬し、15秒水洗した。次いで前記AZ91D片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたAZ91D片を電子顕微鏡観察したところ、20〜40nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、例えると溶岩台地斜面状の超微細凹凸で表面が覆われていた。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図4に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡で走査して粗度観測を行ったところRSmが3〜5μm、Rzが1.5〜2.5μmであった。
[実験例5](C1100銅合金片の表面処理)
市販の厚さ1.4mmの純銅系銅合金であるタフピッチ銅板材「C1100」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のC1100片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記C1100片を5分浸漬して水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記C1100片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB−5002(メック株式会社(日本国兵庫県)製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記C1100片をを10分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記C1100片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記C1100片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬し、よく水洗した。その後、前記C1100片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたC1100片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは3〜7μm、Rzは3〜5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図5に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜150nmの孔開口部又は凹部が30〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。
[実験例6](C5191銅合金片の表面処理)
市販の厚さ0.8mmのリン青銅板材「C5191」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のC5191片を多数作成した。槽に市販のアルミ合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記C5191片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に銅合金用エッチング材「CB−5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記C5191片を15分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記C5191片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記C5191片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬し、水洗した。その後、前記C5191片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたC5191片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.4μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図6に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状であり、純銅系であるタフピッチ銅の微細構造とは全く異なった形状であった。
[実験例7](KFC銅合金片の表面処理)
市販の厚さ0.9mmの鉄含有銅合金板材「KFC(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKFC片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KFC片を5分浸漬し、水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記KFC片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記KFC片を8分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記KFC片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記KFC片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬してよく水洗した。その後、前記KFC片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたKFC片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図7に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状で全面が覆われていた。
[実験例8](KLF5銅合金の表面処理)
市販の厚さ0.5mmの特殊銅合金板材「KLF5(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKLF5片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KLF5片を5分浸漬し、水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記KLF5片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記KLF5片を8分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記KLF5片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記KLF5片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬してよく水洗した。その後、前記KLF5片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたKLF5片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図8に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径10〜20nmの粒径物及び50〜150nm径の不定多角形状物が混ざり合って積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。
[実験例9](KS40チタン合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmの純チタン型チタン合金板材「KS40(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKS40片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記KS40片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に1水素2弗化アンモニウムを40%含む万能エッチング材「KA−3(株式会社 金属化工技術研究所(日本国東京都)製)」を2%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KS40片を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで前記KS40片を3%濃度の硝酸水溶液に1分浸漬し、水洗した。その後、前記KS40片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたKS40片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.8〜1.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図9に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。電子顕微鏡での観察から、幅と高さが10〜数百nmで長さが数百〜数μmの湾曲した連山状突起が間隔周期10〜数百nmで面上に林立している超微細凹凸形状であることが分かった。さらに、XPSによる分析から、表面には酸素とチタンが大量に観察され、少量の炭素が観察された。これらから表層は酸化チタンが主成分であることが分かり、しかも暗色であることから3価のチタンの酸化物と推定された。
[実験例10](KSTi−9チタン合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmのα−β型チタン合金板材「KSTi−9(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKSTi−9片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記KSTi−9片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダ1.5%濃度の水溶液(40℃)を用意し、これに前記KSTi−9片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に、市販汎用エッチング試薬「KA−3」を2重量%溶解した水溶液(60℃)を用意し、これに前記KSTi−9片を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。このKSTi−9片には黒色のスマットが付着していたので、3%濃度の硝酸水溶液(40℃)に3分浸漬し、次いで超音波を効かしたイオン交換水に5分浸漬してスマットを落とし、再び3%硝酸水溶液に0.5分浸漬し、水洗した。次いで前記KSTi−9片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。乾燥後のKSTi−9片に金属光沢はなく暗褐色であった。
前記と同じ処理をしたKSTi−9片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によるとRSmは4〜6μm、Rzは1〜2μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図10に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。その様子は実験例8の図9に酷似した部分に加え、表現が難しい枯葉状の部分が多く見られた。
[実験例11](SUS304ステンレス鋼片の表面処理)
市販の厚さ1mmのステンレス鋼板材「SUS304」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSUS304片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記SUS304片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に98%硫酸を10%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記SUS304片を5分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで、前記SUS304片を、5%濃度の過酸化水素水溶液(40℃)に5分浸漬して水洗した。次いで前記SUS304片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたSUS304片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmは1〜2μmであり、Rzは0.3〜0.4μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図11に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。電子顕微鏡による観察から、表面が直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状で覆われていた。更に別の1個をXPS分析にかけた。このXPS分析から、表面には酸素と鉄が大量に、又、少量のニッケル、クロム、炭素、ごく少量のモリブデン、珪素が観察された。これらから表層は金属酸化物が主成分であることが分かった。この分析パターンはエッチング前のSUS304と殆ど同じであった。
[実験例12](SPCC鋼材片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの冷間圧延鋼板材「SPCC」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSPCC片を多数作成した。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記SPCC片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に1.5%苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記SPCC片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に98%硫酸を10%含む水溶液(50℃)を用意し、これに前記SPCC片を6分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで前記SPCC片を、1%濃度のアンモニア水(25℃)に1分浸漬して水洗した。次いで前記SPCC片を、2%濃度の過マンガン酸カリ、1%濃度の酢酸、及び0.5%濃度の水和酢酸ナトリウムを含む水溶液(45℃)に1分浸漬して十分に水洗した。その後、前記SPCC片を、90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたSPCC片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmが1〜3μm、Rzが0.3〜1.0μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図12に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが50〜500nmで幅が数百〜数千nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが分かる。パーライト構造が剥き出しになった様子であり化成処理層はごく薄いことが分かる。
[実験例13](射出接合:A7075と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例1の表面処理を施したA7075片に対して不飽和ポリエステル樹脂として市販の湿式BMCを射出する射出接合実験を行った。BMC成形機「75F−36K(株式会社 松田製作所(日本国埼玉県)製)」と、図1で示した射出成形用金型を使用して、A7075片に湿式BMC「AP−603BALH(京セラケミカル株式会社製)」を射出接合した。この際、金型温度は145℃、ノズル温度は50℃、射出速度は中速、射出圧は中圧、成形サイクル時間は3分であった。その後、金型から離型されたA7075片及び熱硬化性樹脂成形品は一体化しており、複合体となっていた。離型後の複合体を180℃とした熱風乾燥機に入れて1時間加熱した後、放冷した。その1週間後に引っ張り試験機で圧縮せん断破断試験をした結果、せん断破断力は3個の平均で27.6MPaであり、十分に強い接合強度であった。結果を表1に示す。
[実験例14](射出接合:A7075と不飽和ポリエステル樹脂(改良型BMC))
実験例1の表面処理を施したA7075片に対して不飽和ポリエステル樹脂として改良型BMCを射出する射出接合実験を行った。熱硬化性樹脂用の射出成形機「PN40−2AK(日精樹脂工業株式会社製)」と、図1で示した射出成形用金型を使用して、A7075片に改良型BMCを射出接合した。ここでいう改良型BMCとは、乾式BMC「AP−700(京セラケミカル株式会社製)」にスチレンモノマーを混合したものである。即ち、本発明者らが以前行った実験において、乾式BMC自体は射出接合し難いことが確認されている。故に、粉末の「AP−700」1.8kgを容器に取り、これにスチレンモノマーを0.2kg加えてしばらく掻き混ぜた後、これを捏ねて十分に混練することで粘土状となった混合物、即ち自作の湿式BMCを、改良型BMCとして使用した。このようにして得た改良型BMCは射出成形機のホッパー部を外して棒で押し込むようにして金型内に供給し、成形できるようにした。この改良型BMCを使用して射出接合実験を行った結果、A7075片と熱硬化性樹脂成形品が強固に接合した複合体が得ることができた。この射出接合における金型温度は140℃、ノズル温度は50℃、射出速度は中速、射出圧は中圧、成形サイクル時間は5分とした。離型後の複合体を180℃とした熱風乾燥機に入れて1時間加熱した後、放冷した。その1週間後に引っ張り試験機で圧縮せん断破断試験をした結果、せん断破断力は3個の平均で23.5MPaであり、十分に強い接合強度だった。
[実験例15](射出接合:A7075とエポキシ樹脂(改良型エポキシ樹脂))
実験例1の表面処理を施したA7075片に対してエポキシ樹脂を射出する射出接合実験を行った。射出成形機「PN40−2AK」と、図1で示した射出成形金型を使用して、A7075片に改良型エポキシ樹脂を射出接合した。ここでいう改良型エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂系の射出用熱硬化型樹脂組成物「KE−4200(京セラケミカル株式会社製)」にビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型を混合したものである。即ち、本発明者らが以前行った実験において、粉末のエポキシ樹脂をそのまま射出しても射出接合しないことが確認されている。故に、粉末の「KE−4200」1.7kgを容器に取り、これにビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型である「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」を0.3kg加えてしばらく掻き混ぜた後、これを捏ねて十分に混練することで粘土状となった混合物を改良型エポキシ樹脂として使用した。このようにして得た改良型エポキシ樹脂は射出成形機のホッパー部を外して棒で押し込むようにして金型内に供給し、成形できるようにした。この改良型エポキシ樹脂を使用して射出接合実験を行った結果、A7075片と熱硬化性樹脂成形品が強固に接合した複合体が得ることができた。この射出接合における金型温度は140℃、ノズル温度は80℃、射出速度は中速、射出圧は中圧、成形サイクル時間は10分とした。離型後の複合体を180℃とした熱風乾燥機に入れて1時間加熱した後、放冷した。その1週間後に引っ張り試験機で圧縮せん断破断試験をした結果、せん断破断力は3個の平均で27.9MPaであり、十分に強い接合強度だった。但し、成形サイクルが長いのが問題である。
以下に示す実験例16〜26では、実験例2〜12の表面処理を施した各種金属合金片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。各種金属合金の厚さが異なるため、金型内にスペーサを入れることで調整した。
[実験例16](射出接合:A5052と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例2の表面処理を施したA5052片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で25.6MPaであった(表1)。
[実験例17](射出接合:AZ31Bと不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例3の表面処理を施したAZ31B片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で23.5MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例18](射出接合:AZ91Dと不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例4の表面処理を施したAZ91D片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で20.3MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例19](射出接合:C1100と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例5の表面処理を施したC1100片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で28.2MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例20](射出接合:C5191と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例6の表面処理を施したC5191片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で25.1MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例21](射出接合:KFCと不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例7の表面処理を施したKFC片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で27.1MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例22](射出接合:KLF5と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例8の表面処理を施したKLF5片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で16.9MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例23](射出接合:KS40と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例9の表面処理を施したKS40片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で21.9MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例24](射出接合:KSTi−9と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例10の表面処理を施したKSTi−9片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で17.8MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例25](射出接合:SUS304と不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例11の表面処理を施したSUS304片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で30.2MPaであった。結果を表1に示す。
[実験例26](射出接合:SPCCと不飽和ポリエステル樹脂(市販の湿式BMC))
実験例12の表面処理を施したSPCC片に対して市販の湿式BMC「AP−603BALH」を射出する射出接合実験を行った。この射出接合実験は実験例13と同じ条件で行った。得られた複合体3個のせん断破断力は平均で28.3MPaであった。結果を表1に示す。
表1に示すように、殆どの金属合金種において、20〜30MPaのせん断破断力を示した。これは接着剤を塗布していない金属合金と熱硬化性樹脂の樹脂成形品の接合力としては極めて高く、従来技術では達成できない程度の接合力であるといえる。KLF5銅合金、及びKSTi−9チタン合金に関しては比較的低いせん断破断力となっている。これは、前者は厚さが0.5mmと他の金属合金と比較して薄いものであったこと、又後者は新NMTにおける理想的な表面構造ではないことが理由として考えられる。しかし、これらの事情を考慮すれば良好な数値であるといえる。
1…金属合金片
2…可動側型板
3…固定側型板
4…樹脂成形品
5…タブゲート
6…接合面
7…複合体
40…金属合金
41…セラミック質層
42…樹脂組成物

Claims (8)

  1. 金属合金と熱硬化性樹脂組成物の射出成形品の複合体であって、
    前記金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
    前記熱硬化性樹脂組成物は、湿式のBMC(Bulk molding compound)を主として含むものであり、
    前記金属合金表面に射出された熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した状態で硬化していることにより、前記金属合金と前記射出成形品とが接着剤を介在することなく接合されていることを特徴とする前記複合体。
  2. 金属合金と熱硬化性樹脂組成物の射出成形品の複合体であって、
    前記金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
    前記熱硬化性樹脂組成物は、BMC(Bulk molding compound)の粉末に対してスチレンモノマーを10〜20質量%加えた樹脂組成物を主として含むものであり、
    前記金属合金表面に射出された熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した状態で硬化していることにより、前記金属合金と前記射出成形品とが接着剤を介在することなく接合されていることを特徴とする前記複合体。
  3. 金属合金と熱硬化性樹脂組成物の射出成形品の複合体であって、
    前記金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
    前記熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂の粉末に対してビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型を10〜20質量%加えた樹脂組成物を主として含むものであり、
    前記金属合金表面に射出された熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した状態で硬化していることにより、前記金属合金と前記射出成形品とが接着剤を介在することなく接合されていることを特徴とする前記複合体。
  4. 請求項1ないし3から選択される1項に記載した金属合金と熱硬化性樹脂組成物の成形品の複合体であって、
    前記金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種であることを特徴とする前記複合体。
  5. 金属合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経た金属合金を射出成形金型にインサートするインサート工程と、
    インサートされた前記金属合金の表面に、湿式のBMC(Bulk molding compound)を主として含む熱硬化性樹脂組成物を射出し、当該射出された熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した後に硬化することによって前記金属合金と当該熱硬化性樹脂組成物の成形品が接着剤を介在することなく接合される接合工程と、
    を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂組成物の射出成形品の複合体の製造方法。
  6. 金属合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経た金属合金を射出成形金型にインサートするインサート工程と、
    インサートされた前記金属合金の表面に、BMC(Bulk molding compound)の粉末に対してスチレンモノマーを10〜20質量%加えた樹脂組成物を主として含む熱硬化性樹脂組成物を射出し、当該射出された熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した後に硬化することによって前記金属合金と当該熱硬化性樹脂組成物の成形品が接着剤を介在することなく接合される接合工程と、
    を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂組成物の射出成形品の複合体の製造方法。
  7. 金属合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経た金属合金を射出成形金型にインサートするインサート工程と、
    インサートされた前記金属合金の表面に、エポキシ樹脂の粉末に対してビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型を10〜20質量%加えた樹脂組成物を主として含む熱硬化性樹脂組成物を射出し、当該射出された熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した後に硬化することによって前記金属合金と当該熱硬化性樹脂組成物の成形品が接着剤を介在することなく接合される接合工程と、
    を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂組成物の射出成形品の複合体の製造方法。
  8. 請求項5ないし7から選択される1項に記載した金属合金と熱硬化性樹脂組成物の成形品の複合体の製造方法であって、
    前記金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種であることを特徴とする前記製造方法。
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