JP2009241569A - 管状接合複合体 - Google Patents

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Abstract

【課題】金属管状体とCFRP管状体をその端部で相互に接着させ、軽量で強固な管状接合複合体を構成する。
【解決手段】金属管状体30の接合部に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があり、且つその表面は電子顕微鏡観察で、高さ又は深さ及び幅が10〜500nmで長さが10nm以上の仕切り状凸部、又は溝状凹部が10〜数百nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状を形成し、その端部を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層21とする。この金属管状体30の端部に管状の繊維強化プラスチック材32をエポキシ系樹脂接着剤34により接着させ、管状接合複合体を形成する。金属管状体30は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス合金、鉄鋼材等である。
【選択図】 図4

Description

本発明は、運輸機械、電気機器、医療機器、一般機械、その他の機器等に使用される管状接合複合体に関する。特に、自転車、自動車、航空機、移動型ロボット等の移動機械の構造部品、筐体、及び義手義足等に使用される管状接合複合体に関する。
更に詳しくは、管状の基礎的部品に関し、特に圧縮に強い金属と引っ張りに強い繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic:略して以下、「FRP」という。)を端部で接合し完全に一体化した超軽量の管状接合複合体に関する。高強度の管状物の接合複合体であり、特性的には軽量でありながら引っ張り応力に強く、軽量でありながら圧縮応力に強い管状の接合構造物に関する。
航空機は、昨今、エネルギー価格の高騰を受けて更なる技術革新が求められている。即ち、ボーイング社(米国)、エヤバス社(フランス国)から新たに発表される新型機や新型機構想において、機体の軽量化のために従来から使用されている超々ジュラルミン(以下、日本工業規格(JIS)に従い「A7075」)や超ジュラルミン(同「A2024」等のアルミニウム合金の使用率は急速に減少して来ており、その減少分だけFRPのうちの炭素繊維強化プラスチック(Carbon-fiber Reinforced Plastic:略して以下、「CFRP」という。)の使用率が増加している。
アルミニウム合金であるA7075(超々ジュラルミン)の比重は、2.7程度であるが、CFRPは比重が1.6〜1.7であり、その軽量さはA7075と比較にならない。しかしながら、従来CFRPを航空機材料として積極的に使用されてきたのは、戦闘機などの軍事用である。民需用航空機用材料としての使用は、大型部品の製造ノウハウの開発が不十分であったことやコスト面の大きさが障害となって、予期したほどCFRPの使用はなされていない。
CFRPが軽量さと高強度、高耐食性を有するにも拘らず、民需用ではあまり使用されていなかった。しかし、昨今、CFRPが見直され、且つ、前述の有力な2社の研究開発に加え、昨今の原油価格高騰等の要因によって民需用航空機分野においても使用率を更に上げざるを得なくなった。このことは、自動車関係の移動機械分野、医療機器とその補助器具関係等においても同様である。
一方、本発明者等は、接合技術において、金属合金材と接着剤の関係について重要な提案をした。即ち、金属と接着剤間の接合力を高めるのは、その殆どを金属表面の形状と表面物性に依存するという考え方である。別の言い方をすると、接合力は全てアンカー効果による(化学的な要因でなく物理的要因による)という考え方に基づくものであり、多くの実験で実証した。そして具体的にどのような金属基材表面の形状が接着剤接合に適しているかを示した(特許文献1、2、3、4、5、6参照)。
例えば、この技術に従って2枚のA7075アルミニウム合金を処理しこれら同士を市販の汎用エポキシ系接着剤で接合したものは、せん断破断力、及び引っ張り破断力が70MPa以上あり非常に強い接着力を示した。本発明者らの接着剤接合に関する基本的な考え方は、被接着材である金属合金側の表面状態の構成が接合力の過半を決めるという考え方である。同様に、エポキシ系樹脂がマトリックスであるCFRP材とこの金属合金片とは、エポキシ系接着剤を介して極めて強固に接合する。
要するに、CFRP材と金属とは従来なしえなかった強固さで接合した一体化物が、特別な接着技術を使用することなしに製造できるのである。本発明者らは、その接着技術を前述の特許文献1で、ボルト・ナット固定が可能なCFRP板状物やCFRP材を金属合金薄板でサンドイッチした板状構造物について提案した。又、特許文献2〜6において、アルミニウム合金以外にマグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、鋼鉄等の金属においても、その接合技術が前述の特許文献1に記載された発明と同様に強力に接合する技術であることを確認した。
特願2007−62376号 特願2007−106454号 特願2007−100727号 特願2007−106455号 特願2007−114576号 特願2007−140072号
A7075アルミニウム合金材とCFRP材を繋ぎ合わせると、軽量で且つ丈夫な構造の部材が出来ることは従来から公知である。即ち、圧縮力が主にかかる箇所にはA7075製構造部品、引っ張り力が主にかかる箇所はCFRP製構造部品を使う考えである。しかしながら、実際には独立したCFRP部品とA7075部品の双方を十分な強度でボルト結合することすら困難であった。
即ち、この2者にはその材料物性に大きく異なる点がある。金属材は一般に伸び(引っ張り破断伸び:Elongation)が大きい。アルミニウム合金中では高硬度の部類であり、強度的には鋼並みの材料であるA7075でも伸びは10〜16%ある。一方のFRPは一般に伸びが小さく、CFRPでは数%しかない。強い引っ張り力がかかったとき、金属材はある程度の力までは弾性伸縮(ヤング率に従い力に比例した伸び縮みをすること)し、限度を超えた力がかかるとヤング率を超えて伸び切断する。
A7075では元の長さを100%として110〜116%になって引き切れる。一方のCFRPでは、繊維と平行方向に引っ張った場合であるが、炭素繊維自体の伸びが1〜2%しかなく、ヤング率に従う伸び縮みの範囲を超えた大きな力がかかった場合、炭素繊維は突然に切れ、同時にCFRPは引きちぎれる。要するにCFRPの場合は伸びがなく引き切れる。これは引っ張りだけでなく押し潰す力に対しても同様である。
ボルト・ナットで締め付けた場合、圧縮力が限度を超えた場合であっても金属であれば自身が変形して破壊を免れることが出来るが、CFRPに於いてそのような場合、その力はまず硬化エポキシ樹脂が支えることとなり、過度の押し付け力がかかるとエポキシ樹脂が周辺に伸びて変形せんとする。しかし伸びは炭素繊維によって制限されて動けず、変形できぬまま破壊に至る。要するに、CFRPでは穴を開けてボルト・ナットで過度に締め付けた場合に破壊に至る。
これら物性の違いは原子の金属結合によって成る金属部品と、炭素原子の共有結合によって成る炭素繊維の差異のよるものであるから、その物自体を改良するという手段はない。要するに両者をボルト・ナット方式で締め付け固定することは難しい。結論的であるが、CFRP部材は相手部材とのボルト等による固定が難しく、従って、相手部材とは接着によって固定するのが好適である。同様に、他の全てのFRP構造部材もそれ自身組み立て/分解が容易に出来る構造材としては非常に厄介で使い難い部材である。
組み立て構造物用に使用する構造部材として考えた場合、主構造がCFRP材で組み立てに使用するその取り付け端部を、金属部材とした一体化物であれば非常に好適である。本発明者らは、前記したように接着剤接合力を非常に高くすることができる金属表面処理法の基本原理を見出している。この接着技術を利用して、CFRP材と金属部材を最も効率的に互いの特徴を生かしつつ、且つ製造も容易な一体化物が得られると考えた。即ち、本発明は、その考えを基本に、管状組み立て部材に適用し、端部の接合により軽量で強固に構成される管状接合複合体を創案し開示したものである。
次に、管状組み立て部材、即ち管状物に関わる課題について説明する。本発明は管状物を接合した場合も従来にない軽量、且つ高強度の構造部材を提供できるとしての複合体を開示するものである。特に、高い接着強度を生かして、座屈に強い耐圧型の構造材が容易に製作できることにその有用性を見出している。管状物は圧縮と引っ張りに耐える最も好ましい棒状物であるが、その材料として単独では、圧縮には概して金属が強く、引っ張りにはFRP類の含繊維物が強い。それ故、それぞれ単独での特性を生かした使用形態として、管状の金属合金材と管状のCFRP材を接合し、例えば管状部の主体をCFRPとし、且つ端部を金属材とする組み立て構造物にすれば、非常に容易な超軽量で高強度の構造部品にできることは容易に推測できる。しかしながら従来のようにCFRPをベースとする耐圧縮型の棒状構造材料を、従来と同じ発想では得ることができない。
即ち、耐圧縮力に関し金属合金は、耐力があるがFRP類は期待できない。しかし、耐圧縮力を全て金属合金に頼るのであれば従来と変わりがなく、このような観点から引張と圧縮に耐える軽量な材料として、CFRPと金属合金類を高強度で接着する複合技術に注目した。言い換えると、接着での一体化構造は接合部の座屈を防ぐ効果が大きく、実用的な耐圧縮応力を増すことになると考えた。耐座屈構造の獲得に本発明者らの基本発明である高い接着力技術を利用せんとした。そしてこれは可能であり非常に効率的であることが推測できた。
管状の構造部材は使用する適用範囲が広く、単独での強度が確保できる利点がある。その端部が金属であると、ボルト等の締結が可能なので組み立てが容易に出来る。異なる特性の複合体であるにもかかわらず、端部をボルト等での組み立てが容易に出来るということは、異なる性質の対象部材との結合が容易であることを意味し、単独での部品化が容易であり量産化も容易である。即ち、製造に於ける分業や部品在庫が容易になり、部材を廉価に供給ができることである。
金属表面の処理技術を適用して、軽量強固な組み立て構造物ができれば、前述の問題点を解決できる可能性がある。軽量強固な組み立て構造物の用途として移動機械である自転車、自動車、航空機などの構造部材、又、移動機械ではないが軽量であるとエネルギー消費が減らせる各種ロボットの構造部材、移動して使用する簡易家屋の構造部材、即ちキャンプ用テントの柱部材、建設現場用簡易家屋の構造部材、地震その他の天災時での緊急臨時用家屋の構造部材、そして医療補助具としての義手義足の基本構造体等あらゆる分野の有用構造材としてその活用が可能である。
軽量化は単体の軽金属として、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等を使用した場合はそのまま実現できるが、耐食性を兼ねると、ステンレス鋼、チタン合金、銅合金もその使用対象となる。このような金属に対して金属より軽量なCFRPを使用すると、前述のようにあらゆる分野に対して金属とCFRPにより軽量且つ強固な構造体の提供が可能となる。
以上、FRPに関しCFRPを中心に説明したが、この接合技術はFRP全般に亘って適用されることが求められるものである。本発明は上記種々の課題を検討して開発されたもので、以下の目的を達成するものである。本発明の目的は、管状の金属とFRPを端部の接着により一体化し、軽量で強固な管状構造物とした管状接合複合体の提供にある。本発明の他の目的は、管状金属とFRPを端部の接着により低コストで生産性をよくした管状接合複合体の提供にある。
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
即ち、本発明の主とする金属管状体と繊維強化プラスチックが一体化した管状接合複合体の手段の要旨は、化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があり、且つその表面は電子顕微鏡観察で、高さ又は深さ及び幅が10〜500nmで長さが10nm以上の仕切り状凸部又は溝状凹部が10〜数百nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状であり、且つその表面が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層である金属管状体と、前記金属管状体と接合される管状の繊維強化プラスチック材の硬化物と、前記金属管状体と前記管状の繊維強化プラスチック材の硬化物の隙間を埋め前記両者を接合させるエポキシ系樹脂の硬化物と、からなっている。
各金属合金毎に示した本発明の内容は、請求項の各項に従っており、請求項に関わる手段の詳細説明については請求項を参照することとし、その内容の記載は重複するので省略する。以下これらを構成する手段の要素について詳細に説明する。
〔金属合金部品/求められる表面処理〕
本発明に使用する被着物の金属合金の姿は「NAT(Nano Adhesion Technology)」理論仮説に従っている。「NAT」理論は、この固着の現象を合理的に説明するため本発明者の一人である安藤が仮説として、提唱したものである。詳細は前述した特許文献にも記述している。本発明の理解を容易にするため表面処理に関わる「ミクロンオーダーの粗度ある表面」の定義付けを含めて「NAT」理論仮説の骨子を以下に説明する。「NAT」理論仮説は、接着剤接合に関して立てた仮説である。
金属合金として、アルミニウム合金の例を中心にその基本構成を以下説明する。「NAT」は、本発明者が過去の熱可塑性樹脂を用いた射出接合技術の発明(特許文献7、8等:「新NMT」理論仮説)の考え方を引き継いでいるので「新NMT」理論仮説についてまず述べる。「新NMT」理論仮説にて被接合材である金属合金に要求した表面状態を言うと、(1)ケミカルエッチングによっての粗度面、即ち1〜10μm周期の凹凸で、その凹凸高低差がその周期の半分程度、即ち0.5〜5μmまでである粗面であることが第一に言えることである。これは、射出操作が数百〜千気圧の高圧の溶融樹脂の押し込みではありながら、この融点より百数十℃低い金型内に流入し急冷されて結晶化固化しつつある樹脂にとって何とか流入できる凹部の直径が1〜10μmであることに拠っている。
ただし、実際にはこの粗面で、完全に金属合金表面を100%覆うことはバラツキある化学反応では難しく、具体的には、表面粗さ測定器で測定した場合に0.2〜20μm範囲の不定期な周期の凹凸で、且つその最大高低差が0.2〜10μm範囲である粗度曲線が描けること、又は、最新の走査型プローブ顕微鏡で自動解析してJIS規格(JISB0601:2001)でいう山谷平均間隔(RSm)が、0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜10μmである粗度面(以下、粗面ともいう。)であれば、前述した粗度条件を満たしたものと考えている。本発明者等は理想とする粗面の凹凸周期が前記したように1〜10μmであるので、分かり易い技術用語として、本発明では「ミクロンオーダーの粗度ある表面」と定義している。
又、更に(2)その表面を電子顕微鏡レベルに拡大して見ると10〜500nm周期の微細凹凸面、最も好ましくは40〜50nm周期の微細凹凸面、を有しており、且つ(3)その表面はその金属合金の通常の自然酸化層より厚いか、又はより丈夫な金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層、即ち、セラミック質の薄層で覆われていることを求めた。この金属合金側に必要な前記3条件を、前述したようにマグネシウム合金、チタン合金、銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の全てについて各々得ることができ、ポリフェニレンサルファイド系樹脂の射出接合にて20〜40MPaと強い金属・硬質樹脂間のせん断破断力と引っ張り破断力を得た。要するに、射出接合に関して前述した3条件が金属側に必要であるとの仮説は正しいことが明らかにできた。その時点で本発明者等は、射出接合以外に当然ながら接着剤の接合(接着)に関しても、この仮説は効果があるはずと予期したのである。
それ故、本発明者の一人である安藤が接着剤接合に関して立てた仮説(「NAT」理論仮説)は以下である。前述した接合技術の実験で使用したものと同様に、表面の金属合金(前述した3条件を満たす金属合金)をまず作成し、液状の1液性エポキシ系接着剤をその金属片に塗布し、これを一旦真空下に置いた後に、常圧に戻すなどして金属合金表面の微細凹凸面に接着剤を侵入させ馴染ませる。そしてその後に加熱硬化させる。こうした場合、金属合金表面の(1)ミクロンオーダーの粗度による凹部内には流入圧は僅か1気圧程度であっても液体であるエポキシ系接着剤は侵入可能と考えたのである。侵入が可能であれば、その後の加熱によってエポキシ系接着剤はこの凹部の中で硬化する。
その場合、この凹部の内壁面は(2)のナノレベルの微細凹凸面となっている。この(2)でいう微細凹凸の為す微細凹部の奥まで、完全にエポキシ系接着剤が侵入することは困難であると推定される。しかしながら、エポキシ接着剤の一部は微細凹部の開口部の内側に若干は頭を出して固化する。その場合、大きな凹部内で固化したエポキシ系接着剤は、無数のスパイクにより凹部内で止められた状態(係合)となり、外力で金属基材から引き剥がすことが困難となるはずである。
硬化したエポキシ樹脂を強引に引き剥がした場合、スパイクに当たる表面の(3)の金属酸化物層は、そのセラミック質の硬度を発揮できる厚さを持っているので金属合金側に変形は少なく、大きな凹部内のエポキシ樹脂は抜け出すことが出来ない。結局は大きな凹部の開口部付近でエポキシ樹脂自体が破断することになる。その場合、破断に要する力は、従来に知られた接着剤による接着力データを遥かに超えることになる。
この仮説の正当性は、最初にアルミニウム合金で確認し、次いで、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼に於いて既に実証した。数多くの実証例から、本発明者等は接着剤接合に関する前記仮説が正しいと考えているが、学問的には多くの科学者、化学者の批判や承認が要る。本発明者等はこの考え方を「NAT(Nano adhesion technology)」仮説と略称した。
「NAT」では前述のように物理的な効果、即ちアンカー効果説、で接合を理解する。この様な理解をしないと、アルミニウム合金だけでなく他の金属合金も含めて共通して、エポキシ係の接着剤を使用したときに、せん断破断力、及び引っ張り破断力で500〜700Kgf/cm(50〜70N/mm=50〜70MPa)もの強烈な接合力を発揮することが説明できないからである。
加えて言えば、前述した(1)の大きな凹凸、即ち1〜10μm周期の凹凸が好ましいと述べたが、これは実施例で示したアルミニウム合金でのNATだけでなく、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、一般鋼材でも実証されている(特許文献1〜6)。前述した以上の大きな凹凸を有する場合、逆にこの凹凸以下の小さ過ぎる凹凸を有する場合でも接着剤による接合の接合力は低くなった。おそらくこの理由は、大き過ぎる凹部であれば凹部が形成される単位面積当たりの密度が低くなり、アンカー効果が低減されるためであり、又、小さ過ぎる凹部であればその内部にエポキシ系接着剤の侵入が十分でないものとみられる。
更に詳細に言えば、「NAT」に於いては、金属表面凹部に関しエポキシ系接着剤を塗布し侵入させる条件(温度)に於ける接着剤粘度と、最高接着効率を得るための最適凹凸周期が存在し、本実施例で示したエポキシ系接着剤「EP106(日本国東京都、セメダイン株式会社製)」(23℃にて粘度は約40Pa秒)の使用に於いて、本発明者らはこれが2〜3μ周期の凹凸であろうとみているが、これは塗布する接着剤の粘度によって異なる。「EP106」の粘度は市販されている1液性エポキシ系接着剤の中では低粘度の物であり、常温粘度が200〜500Pa秒、又はそれ以上の、液状というよりはペースト状や固体状と言ってよい高粘度接着剤も多く市販されている。未硬化状態のエポキシ樹脂を母材とするFRPプリプレグもこれら高粘度エポキシ系接着剤と同様に扱うが、これら高粘度の未硬化エポキシ樹脂材を使用する場合、50〜70℃に昇温することで数十Pa秒の粘度にすることが出来る。それ故、これらに対し、凹凸周期が1〜10μm範囲の前記表面形状の金属合金であれば十分に好ましい結果を与える。
更に付け加えれば、高粘度の接着剤に対応できるようにと前記より大きな凹部表面を有する金属合金、例えば10μm径を超える凹部が、その表面の多勢を占めるような大ぶりな粗度表面の金属合金を使って硬化接着した場合、強い力で硬化エポキシ樹脂部を金属から剥がそうとすると、凹部内壁面上に設けた数nm〜数百nmのセラミック質凹凸によるスパイク効果が減じるのか、凹部の中で硬化したはずの樹脂が壊れながらも引き抜けるようであった。即ち、結果的に言って予期された強烈な接着は得られ難かった。強いアンカー効果の期待はそのアンカー部が抜けないことが前提であるが、大き過ぎるアンカーはアンカー数が少ないことだけが理由ではなく、アンカー自体が抜け易くなり概して良くなかった。
前述した「NAT」による接合の強さを利用すれば、前章で述べた多くの分野での要望を満たすことができる。まずは金属合金同士の接着剤接合であるが、「NAT」仮説に従って表面処理した金属同士であれば、エポキシ系接着剤を使って非常に強い接着力が得られる。要するにアルミニウム合金同士であってもアルミニウム合金とチタン合金であっても同様である。接合力自体は金属間で生じているのではなく各金属とエポキシ樹脂の間で生じているからである。そして、やはりエポキシ樹脂をマトリックスに使用するFRP材は、前記金属合金片と接着剤接合するのに最も障害のない相手である。
FRPプリプレグとエポキシ系接着剤を塗布した前記アルミニウム合金部品を押し付け、昇温して双方のエポキシを同時硬化させれば、接合は金属同士以上に容易に強固に行えることが理解できる。勿論、前記金属合金片に直接FRPプリプレグを接触させ、50〜70℃に昇温した状態で減圧・加圧操作を加えれば、プリプレグ中の未硬化エポキシ樹脂が低粘度化してエポキシ系接着剤を塗布したのと同じ効果が得られる。要するに、温度制御作業を丁寧にする必要はあるが、金属合金とエポキシ系FRPプリプレグを接着する場合には、必ずしもエポキシ系接着剤を前もって前記金属合金片に塗布しておく必要はない。
被着材に求められる条件は理論から言えば金属非金属を選ばぬが、実証したのは金属合金類だけであるので、一応被着材を狭義に金属合金類として説明している。本発明者らが「NAT」に基づき実証した金属合金種は、構造用金属、実用金属としてアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、鉄鋼材の6種である。実証金属は実用上の主要金属であるので、本発明者らは、前述のように仮説は正しいと理解している。
「NAT」理論で被着材に求める条件を再度確認する。即ち、(1)化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があり、且つ(2)その表面は電子顕微鏡観察でみて10nm周期以上の微細凹凸、好ましくは50nm周期程度の微細凹凸があり、且つ(3)その表面がセラミック質、即ち金属酸化物や金属リン酸化物の薄層で覆われていることである。そして、このような被着材に熱硬化性の1液性エポキシ系接着剤を使用して接合系を作ったときに効果が大きいとしており、その理由は前記したように完全なアンカー効果論に因っている。
更に、前記要点を具体論で説明する。まず(1)で言うミクロンオーダーの粗度とは、具体的には1〜10μm周期の非定期的な凹凸で、且つ凹凸の深さや高低差がその半分程度以下、即ち最大で0.5μm〜5μm程度のことである。本発明においてこれを「ミクロンオーダーの粗度ある表面」と定義した。又、この粗度測定は最新の走査型プローブ顕微鏡で行うのが好ましい。昨今の走査型プローブ顕微鏡は、日本工業規格(以下「JIS」という)の(JIS B 0601:'01,ISO 4287:'97/ISO 1302:'02)で言う山谷平均間隔(RSm)、最大粗さ高さ(Rz)等を自動的に計算して粗度を数値化している。
この走査型プローブ顕微鏡使用での数値で好ましい粗度の範囲は、山谷平均間隔(RSm)が0.8〜10μm、最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5.0μmである。但し、走査型プローブ顕微鏡は凹凸周期、即ち山谷間隔は全く異なった数値を示す場合がある。走査型プローブ顕微鏡は計算ソフトで小さすぎる凹凸周期はパスするようにセットされているが、プローブ先端の鋭さが向上するにつけRSmが実情よりも細かい凹凸を拾い過ぎて実情を表していない場合もある。このような場合を見い出すために、計算数値だけを見るのではなく、走査型プローブ顕微鏡が出すこともできる粗度曲線グラフを目視検査してRSm値を再確認する必要がある。
又、走査型プローブ顕微鏡が使用できず、従来型の粗度計で粗度曲線グラフを描いた場合は、グラフを目視検査し、個々の山谷間隔(凹凸周期)の全てが0.2〜20μmの範囲内の不定なものでほぼ占められており、個々の山谷高低差がほぼ全て0.2〜5μm範囲内に含まれる状況にあれば、実際には前記とほぼ同じであった。この目視検査法は走査型プローブ顕微鏡での自動計算が信頼できないと判断した場合にも使用できる。本発明にては、前記の粗度を「ミクロンオーダーの粗度」という技術用語で表した。
前記粗度を得るために行う「化学エッチング」について述べる。化学エッチング以外にも予期する表面形状にする可能性の方法はあるが、本発明は「化学エッチング」を適用することとした。例えば、他の方法として光化学レジストを塗布し可視光線や紫外線を使って行うような高度の超微細加工法を使用すれば、ミクロンオーダーの粗度であれば設計上の凹凸面が実現可能となる。
しかし化学エッチングとは全面腐食性ある酸塩基水溶液に金属合金を浸漬水洗するだけの操作であるから、操作が簡単である上に結果的に接着剤接合が特に好ましい結果をもたらすのである。即ち、化学エッチングを適切な条件で行うと、適当な凹凸周期、適当な凹部の深さが得られるだけでなく、得られる凹部の形は単純形状とならず、凹部の多くでその一部がアンダー構造になる。アンダー構造とは、凹部を開口部と穴側で見た場合に、穴内部が開口部より広くなっている形状である。従って仮にこの穴に固化する液体を封入して固化させた後は、液体の固化により開放口より固化形状は大きくなっているので取り出し不可能となる。アンダー構造が接着剤接合に適している理由である。
次に、(2)で言う微細凹凸面を言葉と数値で表現するのは非常に難しいが、単的に言えば、ミクロの目で見て「ザラザラである」ことであり、最も単純に数値化して述べれば、10nm以下の周期の凹凸であると細か過ぎて、ザラザラではなくむしろ円滑であり、350nm以上であるとザラザラが雑すぎ、凹凸周期数が少なくなるので接合力が低下する。以上のように多数の実験から得た結果から、通常の1液性熱硬化型エポキシ系接着剤の使用に関しては、40〜50nm周期の微細凹凸面が最もアンカー効果が発揮されるようであった。50nm周期の凹凸面とミクロンオーダー粗度との関係を図3に示す。図3は、金属基材部20に金属酸化物薄膜又は金属リン酸化物薄膜21を介してエポキシ系樹脂材22が接着され硬化した状態を部分的に模式的に示した断面図である。
具体的、且つ理想的イメージを敢えて描き図3に示したが、その表面は長さ50nm(A)の周期で山谷があり、高さ20〜50nm(B)程度の壁や突起のあるものが、幅2〜3μmの凹凸(C)で複数群なして全体が繰り返し形成された微細凹凸面である。実際は、図3に示すような理論化した微細凹凸面を電子顕微鏡観察からは見出せない。その形状はランダムで複雑な形状であり多種多彩である。又、金属種、またその合金種で異なり、使用する表面処理工程でも異なる。
視覚的に言えば、「ミクロの目で見てザラザラ面」、言葉で言えば、「高さ又は深さ及び幅が10〜500nmで長さが10nm以上の仕切り状凸部又は溝状凹部が10〜数百nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状」、又は「高さ又は深さが10〜500nmで径が10〜500nmの凸部又は凹部が10〜数百nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状」の表現となる。前述したように、10nm以下の凹凸では、粘度あるエポキシ系接着剤ではその隙間に侵入し難く、その意味でザラザラと言うよりは円滑面であり好ましくなく、又、500nm以上の周期の凹凸ではアンカーとして引っかかる箇所の密度が小さいので、接合力が低下する。最も好ましいのは粗度で決まる大きな凹部の直径や周期にもよるが、50nm周期での微細凹凸が最も好ましい結果となるが、30〜350nmでも非常に強い接合力を示すことは可能である。
なお、(1)(2)の表現から外れるものがある。チタン合金の一部であるがこれについてはチタン合金の項で詳細説明する。(3)で言う金属酸化物や金属リン酸化物の薄層とは、多くの金属合金種に於いてはその金属自身の酸化物がなす表面層で良いが、実際に「NAT」理論で求めているのはセラミック質レベルの硬質の表面層である。要するに、(2)のザラザラ面が(3)の硬質物で出来ていれば、ザラザラ面は(1)の大きな凹部(粗面)に侵入して固化したエポキシ系接着剤硬化物をスパイクの突起で繋ぎとめ、エポキシ硬化物に抜け力がかかっても凹部から抜け出せなく出来るのである。
このことが従来にない強固な接着力を生じさせている。金属合金基材が被着材のとき、金属が通常の条件で保有する自然酸化膜よりも厚い金属酸化物層であることが望ましい。又、必要であれば意図的に酸化処理を行い、金属酸化物層を厚くしたものも好ましい。但し、厚さは数十nmまでのナノオーダーの厚さを言っており、アルミニウム合金に為す陽極酸化(アルマイト化)のように十数μm〜数十μmある金属酸化物層のレベルではない。むしろXRD(X線回折分析器)で酸化物結晶が検出されるほど厚くした場合には接合力は反って悪化するようである。
この理由は、厚い金属酸化物層になった場合、基材の金属相との接合力が接着剤接合の接合力よりも劣ることになるからである。又、特にマグネシウム合金や一般鋼材の場合であるが、表面の金属酸化物層は酸化マグネシウムや酸化鉄ではなく酸化マンガン、酸化クロム、リン酸亜鉛、その他の耐食性も備えたセラミック質であるのが好ましい。これはマグネシウムや鋼材の自然酸化膜に強い耐食性がないことに対する防護措置であり、自身の酸化物膜に耐食性があるような金属合金種では他金属の酸化物膜で覆う必要はない。
各金属種によって前記の条件を充たすために行う表面処理方法は異なる。それら表面処理法はいずれも前記NAT条件(1)(2)(3)を満たすためのものである。アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、一般鋼材、等について本発明者らが行った具体的方法は前述の特許文献1〜6に示している。但し、これら特許に開示した表面処理方法以外であっても、前述した「NAT」理論仮説を充たすことは可能である。更に、非金属、及び前記金属種以外で接着剤接合を行うに於いても、前述した「NAT」理論の仮説が示す表面形状にすれば、非常に強固な接合力が得られる。何故なら、仮説とは言いながら、既に多数の実証例があるからである。以下、具体的方法を開発済みの各種金属合金の接合処理形態について述べる。
〔アルミニウム合金部品〕
本発明で使用するアルミニウム合金は、JISに規定される展伸用アルミニウム合金のJISで定めるA1000番台〜7000番台の耐食アルミニウム合金、高力アルミニウム合金、耐熱アルミニウム合金等の全ての合金、及びADC1〜12種(ダイキャスト用アルミニウム合金)等の鋳造用アルミニウム合金が使用できる。形状物としては、鋳造用合金等であれば、ダイキャスト法で形状化された部品、またそれを更に機械加工して形状を整えた部品が使用できる。又、展伸用合金では、中間材である板材その他、又それらをプレス加工などの機械加工を加えて形状化した部品も使用できる。
〔アルミニウム合金部品の表面処理/前処理〕
アルミニウム合金部品は、まず脱脂槽に浸漬して機械加工で付着した油剤や油脂を除去するのが好ましい。具体的には、本発明に特有な脱脂処理は必要ではなく、市販のアルミニウム合金用脱脂材を、薬剤メーカーの指定通りの濃度で湯に投入して得られた水溶液を用意し、これに浸漬し水洗するのが好ましい。要するに、アルミニウム合金で行われている常法の脱脂処理でよい。脱脂材の製品によって異なるが、一般的な市販品では、濃度5〜10%として液温を50〜80℃とし5〜10分間浸漬する。
これ以降の前処理工程は、アルミニウム合金に珪素が比較的多く含まれる合金と、これらの成分の少ない合金とで扱いが異なる。珪素分が少ない合金、即ち、A1050、A1100、A2014、A2024、A3003、A5052、A7075等の展伸用アルミニウム合金では以下のような処理方法が好ましい。即ち、アルミニウム合金部品を酸性水溶液に短時間浸漬して水洗し、アルミニウム合金部品の表層に酸成分を吸着させるのが、次のアルカリエッチングを再現性よく進める上で好ましい。この処理は、予備酸洗工程といってよいが、使用液は、硝酸、塩酸、硫酸等、安価な鉱酸の1%〜数%濃度の希薄水溶液が使用できる。次いで強塩基性水溶液に浸漬して水洗し、エッチングを行う。
このエッチングにより、アルミニウム合金表面に残っていた油脂や汚れがアルミニウム合金表層と共に剥がされる。この剥がれと同時に、この表面にはミクロンレベルの粗度、即ち、JIS規格(JIS B 0601:'01,ISO 4287:'97/ISO 1302:'02)で言えば山谷平均間隔(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5.0μmである。これらの数値は昨今の走査型プローブ顕微鏡にかければ、自動的に計算をして出る形になっている。ただ、細かい凹凸を自動で省く前記の自動計算法は算出RSm値が実情を表さない場合もある。
より正しくは、この凹凸具合を、走査型プローブ顕微鏡が出すこともできる粗度曲線グラフを目視検査してRSm値を再確認する必要がある。又、前記粗度曲線グラフを目視検査して、0.2〜20μm範囲の不定期な周期で、高低差が0.2〜5μm範囲の粗さ状況にあれば、実際は前記とほぼ同じである。この目視検査法は自動計算が信頼できないと判断した場合、目視検査で判断が簡単にできるので好ましい。要するに、本発明で定義した技術用語で言えば「ミクロンオーダーの粗度ある表面」にする。
この表面をミクロンオーダーの粗度にする。使用液は、1%〜数%濃度の苛性ソーダ水溶液を30〜40℃にして数分浸漬するのが好ましい。次いで再度、薄い鉱酸水溶液等の酸性水溶液に浸漬し水洗し、ナトリウムイオンを除き前処理を終えるのが好ましい。本発明者等はこれを中和工程と呼んでいる。この酸性水溶液として数%濃度の硝酸水溶液が特に好ましい。
一方、珪素分の多いADC10、ADC12等の鋳造用アルミニウム合金では以下の工程を経るのが好ましい。即ち、アルミニウム合金の表面から油脂類を除去する脱脂工程の後、前述した工程と同様に予備酸洗し、苛性ソーダ水溶液や1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングするのが好ましい。このエッチングに於いて、銅分や珪素分は溶解せずに微粒子の黒色スマット(以下、汚れ状物を鍍金業界では「スマット」と呼ぶのでこれに倣う。)となりアルミニウム合金表面に付着する。
よって、このスマットを溶かし剥がすべく、次に数%濃度の硝酸水溶液に浸漬するのが好ましい。この浸漬で、銅スマットは溶解されるが珪素スマットは、溶解せずアルミニウム合金表面から僅かに浮く。特に、使用した合金がADC12のように珪素分が多量に含まれた合金であると、硝酸水溶液に浸漬しただけでは珪素スマットがアルミニウム合金基材の表面に付着し続け、これは剥がし切れない。それ故、次いで超音波をかけた水槽内に浸漬して、超音波洗浄し、珪素スマットを物理的に引き剥がすのが好ましい。これで全てのスマットが剥がれ落ちるわけではないが、実用上は十分である。これで前処理を終えても良いが、再度、希薄硝酸水溶液に短時間浸漬し水洗するのが好ましい。これで前処理を終える。
〔アルミニウム合金部品の表面処理/本処理〕
前処理を終えたアルミニウム合金部品は、最終処理である以下のような表面処理、即ち本処理を行う。前処理を終えたアルミニウム合金部品を、水和ヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物のいずれか1つ以上を含む水溶液に浸漬して水洗し70℃以下で乾燥する。これは前処理の最終処理で行う脱ナトリウムイオン処理によって表面がやや変化し、粗度は保たれるがその表面がやや円滑になることに対しての復活策でもある。
即ち、この本処理は、水和ヒドラジン水溶液等の弱塩基性水溶液に、短時間浸漬して超微細エッチングし、表面を10〜100nm径で同等高さ、又は深さの凹部若しくは突起のある超微細凹凸面に覆うようにするものである。言いかえると、ミクロンオーダーの凹凸の凹部内壁面に、40〜50nm周期の微細凹凸が多数を占めるように形成する。形態は電子顕微鏡写真で見た感覚を視覚的に言えば、ザラザラ度の高い面に仕上げるのが好ましい。又、水洗後の乾燥温度を例えば100℃以上の高温にすると、仮に乾燥機内が密閉的であると沸騰水とアルミニウム間で水酸化反応が生じ、表面が変化してベーマイト層が生じる。これは丈夫で好ましい表層ではなく、べーマイト化を防ぐ必要がある。乾燥機内の湿度状況は乾燥機の大きさや換気の様子だけでなく投入するアルミニウム合金の量にも影響される。
その意味で表面のベーマイト化を防ぐには、どのような投入条件であれ、90℃以下、好ましくは70℃以下で温風乾燥するのが良好な結果を再現性よく得る上で好ましい。70℃以下で乾燥した場合、XPSによる表面元素分析でアルミニウムのピークからアルミニウム(3価)しか検出できず、市販のA5052、A7075アルミニウム合金板材等のXPS分析では検出できるアルミニウム(0価)はない。
XPS分析は金属表面から1〜2nm深さまでに存在する元素が検出できるので、この結果から、水和ヒドラジンやアミン系化合物の水溶液に浸漬し水洗して温風乾燥することで、アルミニウム合金が持っていた本来の自然酸化層(1nm厚さ程度の酸化アルミニウム薄層)が本処理でより厚くなったことが確認できた。少なくとも自然酸化層と異なって、2nm以上の厚さのあることが判明した。即ち、アルゴンイオンビーム等でエッチングしてからXPS分析をすれば10〜100nm程度のより深い位置での分析が可能であるが、ビーム自体の影響で深層のアルミニウム原子の価数が変化する可能性もあるとのことで、これ以降の解析は行わなかった。
セラミック質が厚いと、極限状態では物性の差異で破断するおそれがある。そのことから、金属酸化物層は薄い方が好ましく、さらに、その金属酸化物はアモルファスか微結晶状態のセラミック質であると基材との接合が好ましい。即ち、接着物のせん断破断力を50〜100MPaレベルのものにするには、酸化金属層を必要以上に厚くしない方がよく、従って未封孔アルマイトの使用は好ましくない。
−超微細エッチング−
以下、本発明でいう超微細エッチングについて更に詳細に述べる。水和ヒドラジン、アンモニア、又は水溶性アミンの水溶液で、PH9〜10の弱塩基性水溶液に適当な温度、適当な時間だけ浸漬すると、その表面は直径10〜100nmの超微細凹凸形状で全面が覆われたものとなる。数平均の直径で言えば50nm程度である。又、逆の言い方をすれば、表面に直径10〜100nmの超微細凹凸形状を得るためには、最適なPH、温度、時間を選択すると良い。
本発明者等が予想している最も好ましい超微細凹凸の周期又や超微細凹凸部の直径は50nm程度であろうと経験的に考えている。その理由は、10nm周期の凹凸ならザラザラ面というよりも、凹凸具合が微細に過ぎて粘性ある接着剤にとっては円滑面であり、又、100nm以上であればザラザラ面というには大まか過ぎて引っかかるイメージがない。尚、本発明でいう「数平均」とは、統計的に検証できる程度の総和平均という程度ではない、20個以内のサンプルを抽出した程度の平均値をいう。
50nmは、実験結果から得た経験的感覚からの数値である。ただ50nm周期を目指すとしても、化学反応でそのような規律正しいものが出来るはずがなくバラついたものになる。電子顕微鏡観察写真を見て数値化するとすればその結果から、直径10〜100nmで同等の深さ又は高さの凹部、又は凸部でほぼ100%全面が覆われた超微細凹凸形状面ということになる。実際、直径10〜20nmの凹凸が表面の大部分を占める場合、又、逆に直径100nm以上の凹凸が多くを占めるような場合も接合力は劣ったものとなった。
−超微細エッチングの実験例−
即ち、このような大きさの凹部や凸部で、アルミニウム合金を覆うようにするには試行錯誤した実験による浸漬条件を探索する必要がある。一水和ヒドラジンの3.5%濃度の60℃の水溶液で言うと、A5052、A7075材の浸漬では浸漬時間を2分間程度が最適であり、この浸漬時間による表面は10〜100nm直径、数平均では直径40〜50nmの凹部で全面が覆われる。しかしながら、4分間浸漬した場合、凹部の直径が拡大して80〜200nmのものとなり、これらの凹部の直径の数平均値では100nm径を超えるように急拡大し、凹部の底部にも更に凹部が発生してその構造が複雑化する。更に、8分間浸漬すると、横穴状の侵食も進んでややスポンジ状になり、更に深い凹部が繋がって谷や峡谷状に変化する。16分間浸漬すると、目視でもアルミニウム合金が元の金属色からやや褐色かかって可視光線の吸収具合が変化し始めたことが分かる。
ちなみに前記の条件で浸漬時間が1分間のときは、電子顕微鏡写真で10〜40nm径の凹部が観察され、これらの数平均直径は25〜30nmの凹部であった。更に、0.5分間の浸漬であると表面を覆う凹部直径は、10〜30nmであり、これらの数平均直径で言えば、25nm程度で浸漬時間1分間の場合と大差ない。そして浸漬時間0.5分間のものと浸漬時間1分間のものの電子顕微鏡写真をよく見比べてみると、凹部の深さは0.5分間浸漬したものが1分間浸漬したものより明らかに浅い様子であった。
要するに、弱塩基性水溶液中のA5052、A7075では何故か20〜25nm周期で侵食が始まり、まずこれが直径20nm程度の凹部を作り、この凹部の深さが直径と同レベルまで深くなったら、その後は凹部の縁が侵食され凹部直径の拡大となり、凹部の内部の不定方向への侵食が始まることが分かった。そのように侵食された場合、最も接着剤接合に適した単純で且つ丈夫な侵食具合は、A7075、A5052の3〜5%一水和ヒドラジン水溶液(60℃)浸漬の場合で、ほぼ2分間であった。
アンモニア水の場合は、ヒドラジン水溶液よりもPHが低く、水溶液を常温より高温にするとアンモニアの揮発が激しくなる。それ故にアンモニア水では高濃度、低温での浸漬処理となり、25%濃度程度の最も濃いアンモニア水を常温で使用する場合も15〜20分の浸漬時間が必要となる。逆に水溶性アミン類の多くはヒドラジン水溶液よりも強い塩基性水溶液となるのでより短時間での処理となる。量産処理では浸漬時間が長過ぎても短きに過ぎても作業の安定性が失われる。その意味で微細エッチング水溶液として、最適浸漬時間を数分にできる水和ヒドラジンが実際の使用には適しているといえる。
何れの場合も、水和ヒドラジン、アンモニア、又は水溶性アミンの水溶液への浸漬の後で、数%濃度の過酸化水素水溶液に浸漬した場合に接合力が向上する合金種があった。表面の酸化金属層の厚さが厚くなっていることが想定されるが、厚さ2nm以上について分析が難しく解明していない。
〔マグネシウム合金部品〕
本発明に使用するマグネシウム合金は、JISに規定される展伸用マグネシウム合金のAZ31B合金等、及びAZ91D等の鋳造用マグネシウム合金が使用できる。鋳造用マグネシウム合金であれば、砂型、金型、ダイカスト法等で形状化した部品、またそれを更に機械加工して形状を整えた部品が使用できる。又、展伸用合金では、中間材である板材その他、又それらを温間プレス加工などの機械加工を加えて形状化した部品、鍛造工程を含めて機械加工した部品、が使用できる。
〔マグネシウム合金部品の表面処理/化学エッチング〕
マグネシウム合金部品は、まず脱脂槽に浸漬して機械加工で付着した油剤や指脂を除くのが好ましい。具体的には、市販のマグネシウム合金用脱脂材を薬剤メーカーの指定通りの濃度で湯に投入して水溶液を用意し、これに浸漬し水洗するのが好ましい。通常の市販品では、濃度5〜10%として液温を50〜80℃とし5〜10分間浸漬する。
次いで酸性水溶液に短時間浸漬して水洗しマグネシウム合金の化学エッチングを行う。脱脂工程で除き切れなかった汚れを含めマグネシウム合金表層が剥がされ、同時にミクロンオーダーの粗度、即ち、走査型プローブ顕微鏡観察測定によるJIS規格(JISB0601:2001)で言えば山谷平均間隔(RSm)が1〜10μm、粗さ曲線要素の最高粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmである凹凸具合、又、従来型の粗度計を使用するコンピュータ計算を挟まない測定法で言えば0.5〜20μm範囲の不定期な周期で高低差が0.2〜5μm範囲の粗度曲線がある粗さ状況にする。
使用液としては、1%〜数%濃度のカルボン酸や鉱酸の水溶液、特にクエン酸、マロン酸、酢酸、硝酸などの水溶液が好ましい。このエッチングでは、通常マグネシウム合金に含まれるアルミニウムや亜鉛は溶解せず黒色のスマットとしてマグネシウム合金表面に付着残存する。従って、弱塩基性水溶液に浸漬してアルミニウムスマットを溶解して除き、次いで強塩基水溶液に浸漬して亜鉛スマットを溶解して除くのが好ましい。これで前処理を終える。
〔マグネシウム合金部品の表面処理/本処理〕
前処理を終えたマグネシウム合金部品を、化成処理する。即ち、マグネシウムはイオン化傾向の非常に高い金属であるので、空気中の湿気と酸素による酸化速度が他の金属に比べて速い。マグネシウム合金には自然酸化膜があるが、耐食性の点から見て十分強いものではない。又、通常の環境下でも自然酸化膜を拡散した水分子や酸素で酸化腐食が進行する。それ故、通常のマグネシウム合金部品はクロム酸や重クロム酸カリ等の水溶液に浸漬して酸化クロムの薄層で全面を覆う(クロメート処理と呼ばれる)か、又はリン酸を含むマンガン塩の水溶液に浸漬してリン酸マンガン系化合物で前面を覆う処理を行って腐食防止処置を行う。これらの処置をマグネシウム業界では化成処理と呼んでいる。
要するに、マグネシウム合金に行う化成処理とは、金属塩を含む水溶液にマグネシウム合金を浸漬してその表面を金属酸化物及び/又は金属リン酸化物の薄層で覆う処置を言う。最近では6価のクロム化合物を使用するクロメート型の化成処理は環境問題での難点があり、この処置は行われていない。ノンクロメート処理と言われるクロム以外の金属塩を使用した化成処理、実際は、前記したリン酸マンガン系化成処理か珪素系化成処理が行われる。本発明ではそれらと異なり、弱酸性とした過マンガン酸カリの水溶液を化成処理用水溶液として使用するのが特に好ましい。この場合、表面を覆う皮膜(化成皮膜という)は二酸化マンガンとなる。
具体的な本処理法としては、前処理を終えたマグネシウム合金部品を非常に希薄な酸性水溶液に短時間浸漬して水洗し、前処理で洗浄し切れず残存しているナトリウムイオンを中和して除き、次いで化成処理用水溶液に浸漬し水洗するのが好ましい。希薄な酸性水溶液としてクエン酸やマロン酸の0.1〜0.3%の水溶液が好ましく、常温付近で1分間程度浸漬するのが好ましい。化成処理用水溶液としては、過マンガン酸カリを1.5〜3%、酢酸を1%前後、酢酸ナトリウムを0.5%前後含む水溶液を40〜50℃で使用するのが好ましく、浸漬時間は1分間程度が好ましい。これらの処理により、マグネシウム合金はニ酸化マンガンの化成皮膜で覆われたものとなり、その表面形状は、ミクロンオーダーの大きな粗度があり、且つ電子顕微鏡で観察するとナノオーダーの超微細凹凸のあるものとなる。
〔銅合金部品〕
本発明に使用する銅合金は、JIS(JIS3000系)に規定されるC1020、C1100等の純銅系合金、C2600系の黄銅合金、C5600系の銅白系合金、その他のコネクター用の鉄系を含む各種用途に開発された銅合金等、全ての銅合金等が対象である。更に、中間材である板材、条、管、棒、線等の塑性加工製品、その他、又それらを切削加工、温間プレス加工などの機械加工を加えて形状化した部品、鍛造工程を含めて機械加工した部品等が対象である。
〔銅合金部品の表面処理/前処理/化学エッチング〕
銅合金部品は、まず脱脂槽に浸漬して機械加工で付着した油剤や指脂を除くのが好ましい。具体的には、市販の銅合金用脱脂材を薬剤メーカーの指定通りの濃度で水に投入して水溶液を用意しこれに浸漬し水洗する方法も使用できるが、市販の銅合金用の脱脂用液の使用よりも、市販の鉄用、ステンレス用、アルミ用等の脱脂剤、更には工業用、一般家庭用の中性洗剤を溶解した水溶液を使用する方が好ましい。具体的には市販脱脂剤や中性洗剤を数%〜5%濃度で水に溶解し、50〜70℃とし5〜10分間浸漬し水洗するのが好ましい。市販の銅合金用脱脂剤を避ける理由は、銅合金用のものには既に銅分を酸化溶解する成分が含まれており、後で行うエッチング工程と重なって反って処理調節が複雑になるからである。
次いで、40℃前後に保った数%濃度の苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬して水洗し、予備塩基洗浄するのが好ましい。次いで室温か25℃程度に保った過酸化水素と硫酸を含む水溶液に、銅合金部品を浸漬し水洗して化学エッチングとするのが好ましい。20℃〜常温付近の、硫酸、過酸化水素共に数%含む水溶液が好ましい。浸漬時間は合金種によって異なるが数分〜20分である。これらの工程で殆どの銅合金で前記したようなミクロンオーダーの粗度、即ち、0.2〜20μmの周期的な凹凸を有し、且つその凹凸の最大高低さが0.2〜10μm程度、又、走査型プローブ顕微鏡で解析してJIS規格(JISB0601:2001)でいう山谷平均間隔(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ粗さ(Rz)が0.2〜10μmである粗度面を有する銅合金になる。
しかしながら、特に純銅系の銅合金を化学エッチングした場合、凹凸周期が一般に大きくて粗面は凹凸周期が10μmを超える場合がある。金属結晶が大きくて結晶粒界から始まるエッチングが大雑把な凹部を作ってしまうためと思われる。このような場合の対策の1つとして、前記の化学エッチングを50℃程度の高温で行うことである。反応速度が急速に上がり、結晶粒界以外の箇所もエッチングされて目的のミクロンオーダー粗度が得られる。
しかし、この方法は反応が激しくて液への銅合金の投入量が多いと発熱が激しくて温度制御が難しくなること、銅分がエッチング液に溶け出して液中に銅イオンが増え出すと銅イオンが触媒になるのか浸漬物を取り除いても過酸化水素の分解が進むという危険性がある。それ故に純銅系については他の方法を後述する。なお、純銅系以外の銅合金では金属結晶粒径が小さく、エッチング液を25℃前後に保つことで安全に処理できる。このことから高温になる夏場のことや浸漬物の量が多くなることを考えると、化学エッチング槽には温度を安定的に保つため冷却ラインを設置しておくことが安全である。
〔銅合金部品の表面処理/表面硬化処理〕
前処理を終えた銅合金部品を酸化する。電子部品業界では黒化処理と呼ばれている方法がある。本発明で実施する酸化は、その目的と酸化程度が異なるものの工程そのものは同じである。化学的に言えば、銅合金の表面層を強塩基性下で酸化剤によって酸化する。銅原子を酸化剤でイオン化した場合に周りが強塩基性であると、水溶液に溶解せず黒色の酸化第2銅になる。銅合金製部品をヒートシンクや発熱材部品として使用する場合、表面を黒色化して輻射熱の放熱や吸熱での効率を上げる操作が為されるが、この処理を、銅を使用する電子部品業界では黒化処理という。本発明も黒化処理法が利用できる。但し、目的は粗度ある銅合金部品に硬質で、且つナノオーダーの超微細凹凸ある表面を形成することにあるので、黒色化することが目的ではない。
市販の黒化剤を市販メーカーの指示する濃度、温度で使用できるが、その場合の浸漬時間は所謂黒化時より短時間である。実際には得られた合金を電子顕微鏡観察して浸漬時間を調整することになる。本発明者等は亜塩素酸ナトリウムを5%前後、苛性ソーダを10%前後含む水溶液を60〜70℃として使用するのを好ましいとした。その場合の浸漬時間は0.5〜1分間程度が好ましい。これらの操作により銅合金は酸化第2銅の薄層で覆われたものとなる。
純銅系の場合、その微細表面形状は、電子顕微鏡観察で言うと、直径又は長径短径の平均値が20〜150nmの孔開口部が100〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状となっている。要するにこの表面硬化処理を行うと、微細凹凸形成と表面硬化の双方が同時に得られる。又、前記の処理液への浸漬時間を2〜3分間にするなど長くすると、表面硬化処理が長くなり返って接合力を弱くし、好ましくない。
一方、純銅系でない銅合金では、直径又は長径短径の平均値が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状や、直径10〜150nmの粒径物又は不定多角形状物が連なり一部融け合って積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われた形状になる。
〔銅合金部品の表面処理/繰り返し処理〕
前記した純銅系銅合金のエッチングでは、金属結晶粒界から銅の侵蝕が起こるのが確実な模様であり、前記したように結晶粒径の特に大きいもの、即ち、無酸素銅(C1020)、タフピッチ銅(C1100)では、前記の化学エッチングと表面硬化処理をしただけでは安定して強い接合力を発揮することができない。要するに、ミクロンオーダーの粗度が予期したように出来難いので、このような場合の処置法を次のように行った。
一旦表面硬化処理(黒化)を終えた後のものを、再度エッチング液に短時間浸漬して再エッチングし、その後に再度の黒化をする方法である。結果的にミクロンオーダーの粗度周期は10μm程度かそれ以下に近づけられてほぼ予期したものとなり、且つ、微細凹凸の様子は電子顕微鏡観察によると繰り返し処理をしない場合と変らないものとなった。
〔チタン合金部品〕
本発明に使用するチタン合金は、JISに規定される純チタン系合金、α型チタン合金、β型チタン合金、α−β型チタン合金等、全てのチタン合金等が対象である。中間材である板材その他、又それらを温間プレス加工などの機械加工を加えて形状化した部品、熱間鍛造工程を含めて機械加工した部品、が使用できる。
〔チタン合金部品の表面処理〕
チタン合金部品は、まず脱脂槽に浸漬して機械加工で付着した油剤や指脂を除くのが好ましい。具体的には、市販の鉄用脱脂剤、ステンレス用脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂材、マグネシウム合金用脱脂剤等を、その薬剤メーカーの指定通りの濃度で湯に投入して水溶液を用意し、これに浸漬し水洗するのが好ましい。更には、市販されている工業用中性洗剤で、数%濃度の水溶液を作成し60℃前後にして浸漬し水洗するのも好ましい。次いで塩基性水溶液に浸漬して水洗し、予備塩基洗浄することが好ましい。
次いで、還元性の酸の水溶液に浸漬して化学エッチングするのが好ましい。具体的には、蓚酸、硫酸、弗化水素酸等が、チタン合金を全面腐食させ得る還元性酸として使用できる。このうちエッチング速度が速いのは弗化水素酸であるが、弗化水素酸は万が一にも肌に触れると骨に至り、奥深い痛みが数日続きことがある。このような問題点からこの酸は使用しない方が好ましい。好ましいのは安全な扱いができる弗化水素酸の半中和物の1水素2弗化アンモニウムである。1水素2弗化アンモニウムの1%前後の水溶液を、50〜65℃として使用し数分間浸漬し水洗するのが好ましい。更には、1%前後の1水素2弗化アンモニウムと数%〜十数%の硫酸を含む水溶液を、40〜65℃として使用し数分間浸漬し水洗するのが好ましい。
1水素2弗化アンモニウム水溶液による化学エッチングは、ミクロンオーダーの粗度を得るために行ったが、電子顕微鏡観察や最新分析機器による観察では、化学エッチング後の水洗と乾燥によりチタン合金表面は独特な形状の微細凹凸形状となり、且つ、表面は酸化チタン薄層で覆われたものとなることが分かった。要するに、特段の微細エッチング工程や表面酸化工程を不要とすることができる。
次に、1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングし、水洗し、乾燥した純チタン系のチタン合金「KS40(神戸製鋼所社製)」の分析例を示す。走査型プローブ顕微鏡による走査解析結果の例であると、20μm角の正方形面積内を走査して、山谷平均間隔RSm(平均凹凸周期)が1.5〜3μm、最大粗さ高さRzは0.5〜1.5μm程度のものが得られた。
ここでは、高さ及び幅が10〜300nm、長さが10nm以上の山状又は連山状凸部が10〜350nm周期で全面に存在する非常にユニークで独特な超微細凹凸形状が示された。又、XPS分析によると、大きな酸素、チタンのピークが得られ表面の化合物は明らかに酸化チタンであることが分かった。ただ表面色調は暗褐色であり、チタン(3価)酸化物か、又はチタン(3価)とチタン(4価)の混合酸化物の薄膜と判断された。
即ち、エッチング前は金属色であり表面はチタンの自然酸化層であるが、1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングした後は、自然酸化層でない暗色の酸化チタン層に変化した。アルゴンイオンビームで十〜数十nmエッチングし、エッチング後の面をXPS分析することでチタン酸化物層の厚さを確認した。この厚さは明らかに自然酸化層の厚さより厚く、1水素2弗化アンモニウム水溶液による純チタン系のチタン合金エッチング品では50nm以上とみられた。
しかも表面から内部に向かってチタンイオンの価数が減少しており、表面の4価又は3価と4価の混合状態から内部に向かって2価が増え、更に2価が減って0価の金属に至ることが判明した。酸化膜は単純なチタン酸化物層でなく、チタン価数が表面から連続的に減ってゼロ価に達する連続変化層である。別の表現では、酸素が表面から染み込んだように表面は濃く内部に向かって薄くなる連続変化層である。このような金属酸化膜では金属相との間にはっきりした境がないため、酸化膜層と金属基材間の接合力は非常に強力で、その引き剥がし破壊に関しては不安のないことが予期できる。
純チタン系チタン合金以外のチタン合金の具体的な処理法は前記と同様であるが、還元性の強酸水溶液によるエッチング時に生じる発生期の水素ガスによって、少量添加物として含まれている他金属が還元されて不溶物、いわゆるスマット、を生じることがある。スマットの多くはその後に数%濃度の硝酸水溶液に浸漬することで溶解除去することができる。但し、珪素スマットは硝酸水溶液に溶解せず遊離するだけなので、超音波をかけた水中で剥がすのが好ましい。
電子顕微鏡写真によると、ここにはチタン合金らしい微細凹凸がない綺麗な山か丘の斜面状部分も観察されるが、枯葉のような形状の独特な形状が観察された。これら表面の全体像は、前述したNAT仮説で主張する条件(2)の10nm以上の凹凸周期の微細凹凸面、好ましくは50nm周期の凹凸面、というイメージでなく、もっと周期は大きい。ただし、面自体は滑らかである。しかしながら表面円滑なドーム状部は別として、枯葉形状部は薄くて湾曲しており、硬度があれば本発明者等が意図とするスパイク形状そのものとなる。
前述したNAT仮説で、本発明者が主張している条件(2)とはやや異なるが、条件(2)が求めている役割に合致する形状であると言える。ただこのスパイク形状は大きくて、NATで求めている条件(1)のミクロンオーダーの粗度にも関係してくるので、敢えて粗度についても明確に規定しておいた方が判りやすい。即ち、走査型プローブ顕微鏡で見て、山谷平均間隔(RSm)が1〜10μm、最大粗さ高さ(Rz)が1〜5μmである粗度があるものが好ましい。
又、NAT条件(2)からやや外れて微細凹凸周期が大きいので、10万倍の電子顕微鏡写真では表面の全体像を掴むことができない。表面観察は1万倍以下の倍率写真を撮って観察した。即ち、1万倍電子顕微鏡写真でみると、少なくとも10〜20μm角以上の面積を見ることである。それによれば、円滑なドーム状形状と湾曲した枯葉状形状の双方が観察できる。
〔ステンレス合金部品〕
本発明でいうステンレス鋼とは、鉄にクロム(Cr)を加えたCr系ステンレス鋼、又はニッケル(Ni)をクロム(Cr)と組合せて添加した鋼であるCr−Ni系ステンレス鋼、その他のステンレス鋼と呼称される公知の耐食性鉄合金が対象である。日本工業規格(JIS)等で規格化されているSUS405、SUS429、SUS403等のCr系ステンレス鋼、SUS301、SUS304、SUS305、SUS316等のCr−Ni系ステンレス鋼である。
〔ステンレス鋼の化学エッチング〕
各種ステンレス鋼は、耐食性を向上すべく開発されたものであるから耐薬品性は明確に記録されている。腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献の記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、ステンレス鋼全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、ハロゲン化金属塩等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。多くの薬剤に耐食性あるステンレス鋼の残された弱点は、ハロゲン化物に腐食されることであるが、炭素含有量を減らしたステンレス鋼、モリブデンを添加したステンレス鋼等ではその弱点が小さくなっている。
しかし基本的には前述した水溶液で、全面腐食を起こすのでステンレス鋼の種類によってその浸漬条件を変化させればよい。更には、焼き鈍し等で硬度を下げ、構造的に言えば金属結晶粒径を大きくしたものは結晶粒界が少なくなっており、意図的に全面腐食させるのが困難になる。このような場合は、浸漬条件を変えて腐食が進行するような条件にするだけではエッチングが意図したレベルまで中々進まず、何らかの添加剤を加えるなど工夫が必要である。何れにせよ、前処理として前記したように1〜10μmの周期単位の凹凸があり、凹凸高低差が周期の半分程度になった粗度面が大部分を占めるようにすることを目的として化学エッチングする。
具体的に言えば、まず市販の一般的なステンレス鋼用の脱脂剤、鉄用の脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂剤、又は市販の一般向け中性洗剤を入手し、脱脂剤メーカーの説明書に記載された指示通りの水溶液の濃度、又は数%濃度の水溶液にして温度を40〜70℃として5〜10分間浸漬し水洗する。これは言わば脱脂工程である。次いで数%濃度の苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬して水洗し、表面に塩基性イオンを吸着させるのが好ましい。この操作で次の化学エッチングが再現性よく進むからである。これは言わば予備塩基洗浄工程である。
次いでエッチング工程に入る。SUS304であれば、10%濃度程度の硫酸水溶液を60〜70℃として、これに数分間浸漬することが好ましく、これでミクロンオーダーの粗度が得られる。又、SUS316では、10%濃度程度の硫酸水溶液を60〜70℃として5〜10分浸漬するのが好ましい。ハロゲン化水素酸、例えば塩酸水溶液もエッチングに適しているが、この水溶液を高温化すると酸の一部が揮発し周囲の鉄製構造物を腐食する恐れがあるほか、局所排気しても排気ガスに何らかの処理が必要になる。その意味で硫酸水溶液の使用がコスト面で好ましい。ただし鋼材によっては、硫酸単独の水溶液では全面腐食の進行が遅すぎる場合がある。このような場合、硫酸水溶液にハロゲン化水素酸やその誘導体を添加してエッチングすることは効果的である。
〔ステンレス鋼の表面硬化処理〕
前記の化学エッチングの後に、十分水洗することでその表面は自然酸化し腐食に耐える表層に再度戻るため特に硬化処理を行う必要がない。しかし、表面の金属酸化物層を厚くしっかりとしたものにするべく、酸化性の酸、例えば硝酸等の酸化剤、即ち、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリ、塩素酸ナトリウム等の水溶液に浸漬し、水洗するのが好ましい。エポキシ系接着剤接合試験にかけて接合力の高いものを選び、その上で同じものを電子顕微鏡観察し微細凹凸の存在すること、その形状を確認するのが好ましい。
勿論、先に電子顕微鏡観察をしてから接合試験にかけてもよい。何れにせよ、数十nm〜百nm周期の微細凹凸、特に好ましいのは50nm程度の周期の微細凹凸形状がしっかり形成され、存在する微細構造表面を有するステンレス鋼では、高い接合力を有する。実際にSUS304ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした例を示す。適切なエッチングにより前記したような粗度面が得られ、これは粗度計や走査型プローブ顕微鏡での観察で確認できるが、更に表面を電子顕微鏡観察すると非常に独特な超微細凹凸を有した面で覆われていることが分かる。要するに、ステンレス鋼では、上記の様な化学エッチングだけで微細エッチングも同時に為される。
又、この超微細凹凸形状で覆われたステンレス鋼をXPS分析すると、酸素、鉄の大きなピークと、ニッケル、クロム、炭素、モリブデンの小さなピークが認められた。要するに、表面は通常のステンレス鋼と全く同じ組成金属の酸化物であり、同様な耐食面で覆われているとみられた。又、前記還元性酸水溶液によるエッチングの後、硝酸水溶液や過酸化水素水溶液に浸漬して金属酸化物層を強固に形成するべく追加処理も行ったが、電子顕微鏡写真で見た場合も接着剤接合したときの接合力は、この処理の付加によっても明確な差異は認められなかった。
〔一般鋼材部品〕
本発明でいう一般鋼材とは、冷間圧延鋼材(以下、「SPCC」という)、熱間圧延鋼材(以下、「SPHC」という)、自動車構造用熱間圧延鋼板材(以下、「SAPH」という)、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材(以下、「SPFH」という)など、大量に機械部品用に使用されている鋼材が含まれる。これらの多くはプレス加工用鋼板でもある。又、切削加工して構造用部材として使用される一般構造用鋼材も含まれる。JIS「SS400」などがこれに当たる。その他の鋳造用鉄材、一般用軟鉄材等も使用できる。
〔鉄鋼材の化学エッチング〕
腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食などの種類があるが、全面腐食を生じさせる薬品種を選んで腐食の試行錯誤を行い、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献の記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、鉄材、鋼材の全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。炭素、クロム、バナジウム、モリブデン、その他の少量添加物の添加量次第でその腐食速度や腐食形態は変化するが、基本的には前述した水溶液で全面腐食を起こさせることができる。従って、鋼材の種類によってその浸漬条件を変化させればよい。
具体的に言えば、前述のSPCC、SPHC、SAPH、SPFH、SS等は、その各々について、鉄鋼材用の脱脂剤、ステンレス鋼用の脱脂剤、アルミニュウム合金用脱脂剤、更には、市販の一般向け中性洗剤を入手し、脱脂剤メーカーの説明書に記載された指示通りの水溶液の濃度、又は数%濃度の水溶液にして温度を40〜70℃として5〜10分浸漬し水洗する(脱脂工程)。次いでエッチングを再現性よくするために希薄な苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬し水洗するのが好ましい。この工程は言わば予備塩基洗浄工程である。
次いで、SPCCであれば10%濃度程度の硫酸水溶液を50℃としてこれに数分間浸漬してエッチングするのが好ましい。これはミクロンオーダーの粗度を得るためのエッチング工程である。SPHC、SAPH、SPFH、SSでは、前者より硫酸水溶液の温度を上げて実施するのが好ましい。ハロゲン化水素酸、例えば塩酸水溶液もエッチングに適しているが、この水溶液を使用すると、酸の一部が揮発し周囲の鉄製構造物を腐食する恐れがあるほか、局所排気しても排気ガスに何らかの処理が必要になる。その意味で硫酸を主体とした水溶液の使用がコスト面で好ましい。
前記エッチングだけで同時に数十nm〜数百nmの微細凹凸も同時達成される。しかもその表面は自然酸化層だけだが結構硬くそのまま接着剤接合にかけても強力な接合力が得られる。しかしながらこの接着はやはり環境に弱い。おそらく、界面端部から酸素と水蒸気が侵入し鋼材の接合表面を変化させる(錆びさせる)ものとみられる。これに対し、前記エッチングを為して水洗した後で、アンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン類の薄い水溶液に数分浸漬し水洗することが第1の対策である。これら広義のアミン類は前記鋼材表面に化学吸着して鋼材の酸化反応を抑制し接着物の接合力の維持に役立つことが分かった。
〔鉄鋼材の表面処理2:化成処理による方法〕
前記の化学エッチングの後で水洗し、引き続いてクロム、マンガン、亜鉛等を含む酸や塩の水溶液に浸漬して水洗すると、鋼材表面がクロム、マンガン等の金属酸化物、又はリン酸亜鉛等の金属リン酸化物で覆われて耐食性を向上させることができる。これは鉄合金、鋼材の耐食性向上の方法としてよく知られている方法であり利用できる。少なくとも前述したアミン吸着法よりは接着の寿命を長く保てるものと判断できる。
なお、化成処理の真の目的は、完全と言えるような耐食性の確保ではなく接合性の強化にあるので既存の方法と若干異なることとなる。即ち、接着工程までの期間に少なくとも支障を生じることがなく、接着後は一体化物に対してそれなりの耐食措置を施すことになる。例えば塗装などをしておいて、接着部分に経時的な支障を生じ難いレベルにすることである。要するに、化成皮膜を厚くした場合には、耐食性の観点からは好ましいが、接合性から好ましくないのである。化成皮膜は必要であるが厚きに過ぎると接合力は反って低下する、というのが本発明者らの見解である。
具体的な実施方法について言えば、化成処理液に数%濃度の三酸化クロムの水溶液、弱酸性に調整した数%濃度の過マンガン酸カリの水溶液、弱リン酸酸性に調整した亜鉛塩の水溶液が好ましく使用できた。水溶液を45〜60℃にして前記鋼材を0.5〜数分浸漬し、水洗し、乾燥するのが好ましい。
〔鉄鋼材の表面処理3:シランカップリング剤〕
耐食性、耐候性を鋼材に与えるために為す処理法として多くの特許が出願されており、その中にシランカップリング剤を吸着させる方法が開示されている。シランカップリング剤は親水性基と撥水性基を分子内に持たせた化合物であり、その希薄な水溶液に鋼材を浸漬し、水洗して乾燥させると、親水性ある鋼材表面にシランカップリング剤の親水性基側が吸着し、その結果として鋼材全体をシランカップリング剤の撥水基側が覆う形となる。
シランカップリング剤が吸着したままエポキシ系接着剤を作用させた場合、硬化した接着剤と鋼材表面が作る数十nmレベルのごく薄い間隙内に水分子が浸入した場合でも、鋼材を覆うシランカップリング剤の撥水基群により水分子が鋼材に近づくことが抑制される可能性がある。接着力が長期に亘って維持されるかどうかは、試験を長期に亘って実施しなければその効果は確認できないが、少なくとも前記の化成処理を実施し、加えて本シランカップリング剤浸漬処理を行っても接着力に悪影響はなかった。従って前記化成処理に追加して本シランカップリング処理を行うことは好ましいことではないかと判断される。
〔エポキシ系樹脂(接着剤)及びその塗布〕
前述の種々の金属管状物と繊維強化プラスチックを接着させる接着剤とその塗布処理について説明する。接着剤は1液性熱硬化型エポキシ系接着剤であり市販接着剤が使用できる。自作する場合であっても原材料は市中から容易に調達できる。即ち、市販の接着剤用エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、多官能ポリフェノール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、等が知られており何れも材料として使用できる。又、これらエポキシ樹脂同士を多官能の第三成分、例えば複数の水酸基を有する多官能オリゴマー等、と反応させて繋ぎ合わせた物も使用できる。これら接着剤用エポキシ樹脂にアミン系化合物、ジシアンジアミド、酸無水物、等を硬化剤として加え、混合して1液性エポキシ系接着剤となすのが好ましい。
レシピーを工夫して希望する硬化物の物性を獲得せんとするが、本発明では接着剤の粘度も重要である。前述の説明で明らかだが液状の未硬化のエポキシ樹脂が金属合金上の微細凹部に侵入してくれなくてはならない。具体的には40〜60Pa秒かそれ以下の粘度が好ましい。ただ常温でこのレベルの粘度を有する1液性エポキシ系接着剤は硬化後の物性で耐熱性の優れたものは通常得がたく、高い接着力と耐熱ある優れた構造用接着剤とするには常温粘度が百〜数百Pa秒の高粘度品になる。
塗布操作を常温でなく50〜70℃にして行うことで粘度を下げ実施できるが、この操作時にゲル化が進むと不都合なことになる。それ故、高粘度エポキシ系接着剤を使用せざるを得ない場合は、更にレシピーを調整し、ゲル化温度が高くなるようにするのが好ましい。市販接着剤を使用する場合であれば、ゲル化温度の記載は通常ないので、150〜180℃かあるいはそれ以上の温度で硬化するのが適当と記載された接着剤の使用が好ましい。
塗布方法として特段のものはない。本発明にて効果的なのは塗布後の後操作であり、接着剤塗布後の金属合金を密閉できる容器やオートクレーブに収納し、真空ポンプ等を使用して数mmHg程度まで減圧し、その後に減圧ラインを止め密閉栓を開けて常圧に戻す操作を1〜数回行う、感覚的には接着剤を金属合金表面に染み込ます操作を行うことである。真空に近づけることで金属表面の凹部中の空気を脱気し、常圧に戻すことでこの凹部に液状接着剤を侵入させ易くする。
常圧戻しではなく数気圧の加圧にすることも好ましいが、その為の設備は大掛かりな物になろう。接着剤を前記の粘度レベルにすることが出来れば、常圧戻しにても十分に性能を発揮できる。高粘度型のエポキシ樹脂であれば、50〜70℃とした環境内で上記の減圧/加圧操作をすれば同じことである。なお、これら減圧/加圧操作を行うことは本発明の必要条件ではないが、実施することで接着力を数%〜数十%大きくできるので実施が好ましい。
繰り返しになるが、この接着剤は最終的にFRPプリプレグ中の未硬化エポキシ樹脂と同時硬化させて一体化するので、本発明の目的物を製造する方法としてFRPプリプレグ中の未硬化エポキシ樹脂を接着剤として代用することができる。即ち、この項で述べる接着剤を使用せず、前述の金属合金にエポキシ系FRPプリプレグを直接重ね付け、50〜70℃に昇温した後に全体を減圧し次いで常圧に戻す操作をすることで、プリプレグ中の未硬化エポキシ樹脂の液状化、粘度低下が生じ、エポキシ接着剤を前もって塗布しておいたのと同じ状況にすることができる。この場合、接着剤塗布工程が省略できるものの、減圧/常圧戻しをする時点での温度制御に気を使うことになり大量の製品を製造する場合に良策か否かは簡単な判断が難しい。
即ち、この操作時の温度が低いとプリプレグの未硬化エポキシ樹脂の粘度が十分に下がらず金属合金上の凹部に十分に侵入し切れない不安が生じるし、逆に温度が高きに過ぎると溶融と共にゲル化も併発するのでミクロンオーダーの凹部への侵入はするだろうが凹部内の微細凹凸の隙間にゲルが入れずスパイクで固定する効果を十分には発揮できなくなる。要するにプリプレグ中のエポキシ樹脂に接着剤としての役目も持たすには、プリプレグに使用するエポキシ樹脂のレシピーを調整し直す必要がある。それ故、市販CFRPプリプレグをそのまま接着剤不使用で接着して最高性能が出せると考えるのは危険である。ゲル化温度も勘案したFRPプリプレグを新たに開発するか、又は、前もって接着剤を塗布し上記の減圧/加圧操作を行った上で現存の市販FRPプリプレグを使用するか、のいずれかの方法を選ぶことになろう。
−エラストマー成分−
充填材成分、エラストマー成分等を前記成分に加えることはその線膨張率を金属合金並み、CFRP材並みにすることや、温度衝撃が加わったときの緩和剤となり得ることからして、好ましい。エラストマー成分として前記樹脂分(エポキシ樹脂成分+硬化剤成分)合計100質量部に対し0〜30質量部含めることは耐衝撃性、耐温度衝撃性を高めるので好ましい。30質量部以上の多きに過ぎると、接合力を低下させるので好ましくない。エラストマー成分の一つは、粒径1〜15μmの加硫ゴム粉体である。数μm径の大きさであると、接着剤塗布に於いてもアルミニウム合金上の超微細凹部には大き過ぎて侵入できず、その意味でアンカー部分には影響せずもっぱら接着剤層に残ってくれる。それ故、接合力を落とさず且つ温度衝撃に耐える役目を持ってくれる。
加硫ゴムとしてあらゆる種類が使用できるが、実際にはゴム種に関らず10μm径程度にまで粉砕するのが困難である。微粒子加硫ゴムの製造法については、本発明者等が調査した範囲では必要がなかったためか現状研究開発があまり為されていない。本発明者等は液体窒素で天然ゴム加硫物やゴム未加硫物、及び熱可塑性樹脂類を冷却した上で機械粉砕し分級する方法を取った。しかし、製造効率やコストは現状では満足すべき段階ではなく商業的ではない。
もう一つは、未加硫や半架橋性のゴム、及び修飾したスーパーエンプラやポリオレフィン系樹脂の使用である。修飾したスーパーエンプラの例として水酸基末端ポリエーテルスルホン「PES100P(三井化学社製)」等がある。又、ポリオレフィン系樹脂にはエポキシ系樹脂に混合しやすい物が既に開発されておりこれらも好ましく使用できる。温度衝撃に対する耐久性は、理論的には粉末加硫ゴムより劣ると本発明者等はみているが実際は未だ明確にしていない。
評価法自体が本発明者等の方法では極限まで行っていない。何れにせよ、これら未加硫型のエラストマーであっても混入させた方が温度衝撃に強いとの結果が得られている。この様なポリオレフィン系樹脂としては、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体、エチレンアルキルアクリレート共重合体等がある。
無水マレイン酸変性エチレン系共重合体としては、例えば無水マレイン酸グラフト変性エチレン重合体、無水マレイン酸−エチレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体等をあげることができ、その中でも特に優れた複合体が得られることからエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることが好ましく、該エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体の具体的例示としては、「ボンダイン(アルケマ社製)」等が挙げられる。
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、グリシジルメタクリレート−エチレン共重合体を挙げることができ、その中でも特に優れた複合体が得られることからグリシジルメタクリレート−エチレン共重合体であることが好ましく、該グリシジルメタクリレート−エチレン共重合体の具体例としては、「ボンドファースト(住友化学社製)」等が挙げられる。グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えばグリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができ、該エチレンアルキルアクリレート共重合体の具体例としては、「ロトリル(アルケマ社製)」等が挙げられる。
−充填材−
次に充填材について説明する。エラストマー成分を含めた樹脂分合計100質量部に対し、さらに充填材0〜100質量部、より好ましくは10〜60質量部を含んでなるエポキシ接着剤組成物が使用に好ましい。使用する充填材として、強化繊維系では炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などが挙げられ、粉末系充填材としては、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及び炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等が挙げられる。
−エポキシ接着剤の調整−
次に具体的なエポキシ接着剤の調整作業について説明する。具体的なエポキシ接着剤の調整は、エポキシ樹脂主材、硬化剤、エラストマー、充填材をよく混合し、粘度によってはエポキシ接着剤用の溶剤(これらも市販されている)を少量混合して接着剤組成物(未硬化エポキシ接着剤)とする。接着剤組成物を前工程で得た金属合金部品の必要箇所に塗布する。人手による筆塗りであれ、コートマ
シンによる塗布であれ、塗布方法に問題はない。
表1は、本発明に適用するプリプレグ用熱硬化性樹脂の成分割合を示した例である。
Figure 2009241569
〔エポキシ系接着剤塗布後の処理工程〕
金属管状物に塗布剤であるエポキシ系接着剤を塗布後、減圧容器又は圧力容器に塗布物を置き、真空近くまで減圧して数分間置いた後で空気を入れて常圧に戻すか数気圧や数十気圧の圧力下にするのが好ましい。更に、減圧と昇圧のサイクルを繰り返すのも好ましい。このことにより塗布材と金属管状物間の空気やガスが抜け塗布材が超微細凹部に侵入し易くなる。実際の量産に当たって上記工程を実施するには、圧力容器を使用して高圧空気を使用するのは設備上も経費上もコストアップに繋がるので、減圧容器を使用しての減圧/常圧戻し、減圧/数気圧の加圧の1回もしくは数回が経済的である。本発明の金属管状物であれば数回の減圧/常圧戻しサイクルで十分安定した接合力を得ることができる。容器より取り出し常温もしくは40℃程度の環境下に30分程度以上置くことが好ましい。即ち、このことで、エポキシ接着剤組成物中に多少の溶剤を添加した物であっても溶剤のかなりの部分を揮発させることができる。
〔FRPプリプレグ〕
次に繊維強化プラスチックについて説明する。対象のプラスチックは市販のFRPプリプレグが使用できるが、ガラス繊維、炭素繊維やそれら繊維製の布地も市販されているので平板型の金型内に繊維束を並べるか繊維布を敷くなどしてから高温硬化型のエポキシ樹脂(一液型エポキシ接着剤)を染み込ませてプレスすることで自前のFRPプリプレグを容易に作成することができる。エポキシ接着剤が粘性液体の場合、出来上がったプリプレグはベタベタしたものになるが、プレス前に両面をポリエチレンフィルムで保護しておくと後の扱いは楽になる。
使用前にポリエチレンフィルムを剥がして使えばよいわけである。一方、常温で液状でなく固体に近いエポキシ接着剤もレシピーを工夫すればできるから、このようなエポキシ接着剤であればロールに通してシート化し、このシートと繊維布を常温プレスすればべた付かないプリプレグが得られる。市販のプリプレグも、ベタツキ型とベタ付かない型の2種類あるが同様に使用できる。本発明はFRP全てに適用可能であるが、このうち本発明の効果が最も出やすいのはCFRPである。次にこのCFRPについて説明する。
市販のCFRPプレプリグ等は勿論使用できる。市販品としては、前記エポキシ系接着剤を炭素繊維織物に含浸させた物、又、未硬化の前記エポキシ樹脂からフィルム状物を一旦作成して炭素繊維織物と重ねた形にした物が、プリプレグとして販売されている。又、専門メーカーでなくてもこれらの技術は公知であり、当業者であれば炭素繊維織物と1液性エポキシ系接着剤を使って容易に作成することが出来る。
使用するエポキシ樹脂はジシアンジアミド、アミン、酸無水物を硬化剤とした型の物が多く、常温ではBステージ(固体に近いが未硬化状態)を保っており、百数十℃まで昇温する過程で一旦溶融し、その後に硬化するように仕組んである。その意味で、金属合金部品に塗布するエポキシ系接着剤と、CFRPプリプレグに使用するエポキシ系未硬化樹脂(接着剤)の硬化温度特性が一致していることが好ましい。ただ、本発明者等の実験ではこれらの硬化温度特性を特に調整することなく、加熱硬化させたものでも強い接合力を生じたので詳細な検討を行えば更に優れた一体化物が得られると考えた。
未硬化のプリプレグを必要形状に切断し、必要な形に重ね合わせてプリプレグ部分の準備をする。即ち、単方向プリプレグ(縦糸が多く横糸がごく僅かな織り方の織物からのプリプレグ)を、複数枚重ねる場合はその方向を重ねたり角度を傾けて重ねたりすることで、最終的なCFRP板材としての強度の方向性が制御できるため、その組み付けには多くのノウハウがあるとされる。又、炭素繊維の正織り品では縦糸横糸の数が同じであり、例えば45度づつ角度を変えてプリプレグを重ねると強度的には全方向に対し等しくなると言われている。要するに、必要な枚数、その重ね方を前もって設計し、それに従って各プリプレグを切断し、設計通り重ね合わせて準備を終える。
以上詳記したように、本発明は、金属合金管状体とFRPが強く一体化した軽量且つ丈夫な構造用管状部材、即ち管状接合複合体の製品化を可能としたものである。自動車、自転車、移動型ロボット用の構造部材としては、超々ジュラルミン部材とCFRP部材を強烈な接合力で一体化した軽量で強固な管状物が製造できるので、非常に有用な部品としてあらゆる分野への適用が期待できる。又、海水や潮風への耐食性を考慮した同様な用途であれば例えばチタン合金とCFRP、GFRP部材を使用したものが期待できる。
更に、臨時や緊急用の建物部材に使用する構造用部材としては、耐候性、耐食性も考慮してステンレス鋼、銅合金等とFRP部材を使用したものが期待できる。このように、長尺品の軽量で強固な管状接合構造物としての製品製造が容易であり、且つ端部が金属合金であれば他部品との結合が容易となり、従って、本発明になる管状物自体が単独で組み立て/分解がごく容易にでき作業を早めることとなる。移動機械にしろ、建築構造材にしろ、本発明部材の出現によって新たな分野への製品開拓が可能となった。
以下、本発明の実施の形態を図によって説明する。本発明の対象とする金属とCFRPの複合体は管状体であるが、発明の理解を容易にするため、簡素な例として先ずステンレス鋼平板材の接着構造の実施例について説明する。図1は、金属合金片11とCFRP12の接着のための焼成用のための焼成治具1の断面図である。
図2は、この焼成治具1で金属合金片11とCFRP12を焼成して作成した、金属合金板片11とCFRP12の一体化物である金属合金接合複合体10を示している試験片である。焼成治具1は、金属合金板片11とCFRP12であるプリプレグとを焼成するときの固定治具である。金型本体2は、上面が開放されており長方体状に金型凹部3が形成された接着用のものである。
この底部には金型貫通孔4が形成されている。金型貫通孔4には、金型底板5の底板突起部6が挿入されている。底板突起部6は、金型本体2の金型底面7へ突出するように突き出ている。金型本体2の底面は、金型台座8上に設置されている。焼成治具1は、金型底板5を金型本体2の金型凹部3に挿入して載置した状態で、図2に示すような金属合金板片11とCFRP12を接合した金属合金接合複合体10を焼成して製造する。金属合金板片11の接合部18は前述した化学エッチングにより微細凹凸形状にする表面処理を施し、金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層にする処置をしておく。そしてこの接合部18にエポキシ系接着剤を塗布する。
この金属合金接合複合体10を製造するには、概略すると次のような手順で行う。まず、金型底板5の全上面に離型用フィルム17を敷く。離型用フィルム17の上に金属合金板片11と板状のPTFEスペーサ16を載せる。このPTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)製のPTFEスペーサ16の上と、金属合金板片11の端部の上に、CFRP12である所要のサイズに切断し正織りされた布状の炭素繊維「トレカT−300(東レ社製)」を3枚積層した。
炭素繊維織物には、未硬化のエポキシ系接着剤(EP−106)を、約1ccの容量を注射器から吐出させて含浸させる。これにより、未硬化のCFRPプリプレグを作成した。このプリプレグの積層の後に、離型用のポリエチレンフィルムである離型用フィルム13を金属合金板片11、及びプリプレグの上に更に積層する。この上にウェイトとしてPTFE製のPTFEブロック14、15を載せる。更に、必要に応じて、この上に数百gの錘(図示せず)を載せる。この状態で焼成炉に投入し、プリプレグを硬化させて放冷した後、錘、及び台座8等を外して、底板突起部6の下端を床面に押し付けると離型用フィルム13、17と共に、金属合金板片11とCFRP12を接合した金属合金接合複合体10(図2参照)が取り出せる。
PTFEスペーサ16、離型用フィルム17、13は、接着性のない素材であるからCFRPから容易に剥がすことができる。本例では、0.05mmポリエチレンフィルムを短冊状に切って、前述した離型用フィルム17とした。別途切断しておいた炭素繊維「トレカT−300(東レ社製)」からの正織り布を敷いて、注射器から出すエポキシ系接着剤「EP−106」を塗りながら3枚重ねた。そこで更に押さえとして、PTFEブロック14,15の上に各0.5Kgの鉄の錘をのせて乾燥機に通電し135℃まで昇温した。
135℃で40分間加熱し、更に5分かけて165℃に昇温し、165℃で20分間保持し、通電を止めて扉を閉めたまま放冷した。翌日に乾燥機から出し金型から成形物を離型し、ポリエチレンフィルムを剥ぎ取って図2に示す試験片である金属合金接合複合体の形状物を得た。同じ操作を繰り返し通常は8個以上の一体化物を得た。接合後2〜5日目に少なくとも3個を引っ張り破断試験した。CFRP部分は紙やすりをかけた1mm厚のSUS304ステンレス鋼片2枚で挟み、これをチャック板で挟んで固定する方法を取った。
SUS304ステンレス鋼の場合、4組の平均でせん断破断力は、58MPaあり非常に強かった。但し、接合面積は図2におけるl×mとして計算した。次いで残り4個について、引っ張り試験機に一体化物を前記と同様に挟み込み約30MPaまでかかったところで引っ張り操作を止めて10分放置し、その後チャックを緩めて試験機から取り外し休ませる操作を加えた。翌日、これらについて引っ張り破断試験をしたところ平均で59MPaあり特に接合強度が低下した様子はみられなかった。
このような結果に基づき、以下、本発明に関わる管状接合複合体の実施の形態を、その管状体を端部で接合する形態で図をもとに種々説明する。なお、図4ないし図12は、管状接合複合体の構造の例を示す模式図である。図に示す金属環状体のCFRP接着面には、前述のとおり、化学エッチングにより微細凹凸形状を形成し、金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層を有する表面処理を施しているものとする。尚、図3は前述のとおり、金属基材部20に金属酸化物薄膜又は金属リン酸化物薄膜21を介してエポキシ系樹脂剤22が接着され硬化した状態を部分的に模式的に示した断面図である。
〔実施の形態1〕
図4は、2つの金属管状体30の端部にCFRP管状体32を挟み接合した管状接合複合体の例を示す。金属管状体30は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス合金、一般鋼材のいずれかで、その種類は問わない。図4の金属管状体30は円形中空体を構成し、CFRP管状体32の接合される端部31は化学エッチングにより微細凹凸面を形成し、金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層を有する表面処理が施されている。
2つの金属管状体30の間に支持体33を介してCFRP管状体32を挟み、この各々の2つの金属管状体30とCFRP管状体32の端部との接合部にエポキシ系接着剤34を均等に含浸させる。エポキシ系接着剤34を含浸させた後端部31の接合部を昇温状態にし、高圧で2つの金属管状体30を両サイドから押圧する。所定の接合処理を施した後放冷する。放冷後に支持体33を抜き取れば接合は完了である。支持体33は接合時の安定化を図るために設けたものである。
このようにして、CFRP管状体32との間で、金属管状体30にエポキシ系樹脂接着剤34が塗布、又はCFRP部材から滲出したエポキシ系樹脂剤により、CFRP管状体32と金属管状体30が接合される。強度的には、CFRP管状体32は引っ張り荷重に強く、金属管状体30は曲げ荷重に強い。又、この管状接合複合体の構成は、電気絶縁を必要とする場合に有効である。金属体であっても途中CFRPが介在することで電気的流れがほぼ遮断される。更に、この実施の形態では、金属管状体30にCFRP管状体32を挟む構成で説明したが、逆に2つのCFRP管状体32に金属管状体30を挟む構成であってもよい。又、2つの金属管状体は、各々異なる金属であってもよい。
〔実施の形態2〕
図5は、基本的には図4と同様構成であるが、CFRP管状体35の端部は段差のある構成とし、2つの金属管状体36に挟まれ接合される形態である。この場合、接合部分の接合面積が大きくなるので接合力は増す効果がある。他の構成については前述同様である。この例の場合も支持体37を介して接合するのが好ましい。
〔実施の形態3〕
図6は、中実体の金属部材41を2つのCFRP管状体40に挟み接合される形態である。2つのCFRP管状体40の端部を各々金属部材41の端部段差42に嵌め込み接合する。CFRP管状体40内に液体等を流通させる必要のない場合に適用できる。勿論、材料を逆に使って金属を管材にCFRPを中実材に使用してもよい。図7は、図6の変形例で、4方向に分岐して金属部材43にCFRP管状体40を配設する場合の形態例である。角度の異なる方向への管状接合複合体構成も可能であり、又、四方向のみならず、他の複数の方向にCFRP管状体を接合して構成することも可能であることはいうまでもない。図6、図7の形態は、管状体を金属部材としてその端部を各々金属部材に接合する形態であってもよい。何れにせよ非常に軽量な管状接合複合体が可能である。
〔実施の形態4〕
図8は、曲がり管に適用した形態例である。図4に似た例で、90度の角度の金属エルボ50の端部を2つのCFRP管状体40で挟み接合する形態である。この場合は、端部同志の接合になるので、接合時に支持体を介することは欠かせない。また、CFRP管状体が長い場合は、外形部を治具等で位置合わせを行い接合させる。又、この図の形態はエルボがCFRPで管状体が金属であってもよい。
〔実施の形態5〕
図9は、2つのCFRP管状体40を突合せ、この突合せ部の外形部に跨って金属管状体60を被せ接合させる形態である。この場合の接合部は、2つのCFRP管状体40の端部のつき合わせ面と金属管状体60との接触部である。CFRP管状体40が長い場合に有効で、接合の段取りが簡易である。
〔実施の形態6〕
図10は、図9とは逆に2つのCFRP管状体40に跨る内径部に金属管状体61を挿入し、2つのCFRP管状体40をつき合わせ金属管状体61で接合させる形態である。この場合の接合部も、2つのCFRP管状体40の端部突合せ面と金属管状体61の接触部である。図9、図10はともに2つの管状体を金属として端部をつき合わせ、CFRP管状体で接合する形態であってもよい。
〔実施の形態7〕
図11は、長いCFRP管状体70の端部に金属製のジョイント部材71を接合した形態である。相手部材とねじで固定するような場合に、固定部は金属製であると安定するので、この部分だけ金属にする例である。内径部にねじのあるジョイント段差部72を接合面とし、エポキシ系樹脂剤34を塗布しCFRP管状体70を嵌め込み押圧して接合する。図示していないが、外形部にねじが設けられ内径部でCFRP管状体と接合する場合も同様である。
〔実施の形態8〕
図12は、金属管状体又はCFRP管状体が断面四角形状の場合に適用した形態を示す。この場合、例えば図に示すように金属管状体80の側面にCFRP管状体81の端部を接合している。形状は異なるが接合方法は前述同様である。図は直角方向の接合形態となっているが、角度を任意に変えた接合も可能であり、異種材質による管状体で複雑な形状のフレームを構成することも可能であり、しかも強力接合の構成体を簡易に製作することができる。又、CFRP管状体81の側面に金属管状体80の端部を接合することもできる。この形態においては、従来は突き当て部分を溶接するとか、フランジを介してCFRPをボルト締結にするようなことが難しいことを考慮すると、極めて有用である。
以上のように本発明に関わる実施の形態例を説明したが、図5以下について接合部にエポキシ系接着剤を塗布あるいは含浸させることの説明は省略しているが、全て図4と同様に接合部の隙間にその処置を施し所定温度を維持し押圧力を加えることはいうまでもない。
又、接合の場合に管状接合複合体を熱風乾燥機に設置して昇温処理する場合は、通常、エポキシ系接着剤が溶融し、ゲル化が生じる温度、100〜120℃に数十分〜1時間保ち、その後に昇温して硬化温度、150〜180℃として数十分〜1時間置いて放冷し成形物を得る。即ち、使用されるエポキシ系接着剤はアミンやジシアンジアミドや酸無水物硬化型のものが多く、これらは常温付近でBステージ(未硬化状態)を保っており百数十℃まで昇温する過程で一旦溶融しその後に硬化する。これらの昇温操作により、プリプレグ、塗布したエポキシ系接着剤など全てのエポキシ樹脂未硬化物が硬化する。
以上実施の形態例について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されないことはいうまでもない。例えば、実施の形態においてFRPを主にCFRPとして説明したが、繊維強化プラスチック材として、CFRP以外のFRPに適用できることはいうまでもない。
図1は、金属合金片とCFRPプリプレグを熱風乾燥機内で硬化させる為の焼成治具とそのセット方法を示す模式図である。 図2は、金属合金片とCFRPプリプレグをエポキシ系接着剤で接合した平板複合体を示したもので、引っ張り破断して両者間の接合力を測定する目的のものである。 図3は、本発明の表面処理を金属管状物に施し接着させる理論構成(NAT理論)を示す模式的部分断面図である。 図4は、2つの金属管状体にCFRP管状体を挟み接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図5は、2つの金属管状体の接合部に段差を設けたCFRP管状体を挟み接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図6は、2つのCFRP管状体に中実の金属部材を挟み接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図7は、4つのCFRP管状体に中実の金属部材を挟み接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図8は、2つのCFRP管状体を90度角度の異なる方向に金属エルボを挟み接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図9は、2つのCFRP管状体の外形部を金属管状体で被い接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図10は、2つのCFRP管状体の内径部を金属管状体で支持し接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図11は、CFRP管状体の端部にねじを有する金属ジョイントを接合した管状接合複合体を模式的に示す断面図である。 図12は、断面が四角形状の金属管状体側面に断面が四角形状のCFRP管状体の端部を接合した管状接合複合体を模式的に示す外観図である。
符号の説明
1…焼成治具
2…金型本体
3…金型凹部
4…金型貫通孔
5…金型底板
6…底板突起部
7…金型底面
8…台座
10…ステンレス鋼複合体
11…ステンレス鋼板片
12…CFRP部材
13…離型用フィルム
14…PTFEブロック
15…PTFEブロック
16…PTFEスペーサー
17…離型用フィルム
30…金属管状体
32,40…CFRP管状体
34…エポキシ系樹脂接着剤

Claims (16)

  1. 化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度を有する表面であり、且つ前記表面は、電子顕微鏡観察で、高さ又は深さ、及び幅が10〜500nmで、長さが10nm以上の凸部又は凹部が10〜数百nm周期で、全面に存在する超微細凹凸形状であり、且つ前記表面が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層(21)である金属管状体(30)と、
    前記金属管状体(30)の接合部と端部で接着合体される管状の繊維強化プラスチック材の硬化物(32)と、
    前記金属管状体(30)の接合部の前記表面と前記管状の繊維強化プラスチック材の硬化物(32)の隙間を埋め、且つ前記両者を接着させるエポキシ系樹脂の硬化物(34)と
    からなる金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  2. 化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度を有する表面であり、且つ前記表面は電子顕微鏡観察で、高さ又は深さが10〜500nmで、長さが10〜350nmの凸部又は凹部が10〜500nm周期で、全面に存在する超微細凹凸形状であり、且つ前記表面が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層(21)である金属管状体(30)と、
    前記金属管状体(30)と端部で接合される管状の繊維強化プラスチック材の硬化物(32)と、
    前記金属管状体(30)の接合部の前記表面と前記管状の繊維強化プラスチック材の硬化物(32)の隙間を埋め、且つ前記両者を接着させるエポキシ系樹脂の硬化物(34)と
    からなる金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  3. 化学エッチングにより形成され、走査型プローブ顕微鏡で見て、山谷平均間隔(RSm)が0.8〜10μm、最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmである粗度を有する表面であり、且つ
    前記表面は、1万倍電子顕微鏡で見て、10μm角の面積内に円滑なドーム状形状と枯葉状複雑形状の双方が観察される微細凹凸形状であり、且つ
    前記表面が主としてチタンとアルミニウムを含む金属酸化物薄層(21)であるα−β型チタン合金製の金属管状体(30)と、
    前記金属管状体(30)と端部で接合される管状の繊維強化プラスチック材の硬化物(32)と、
    前記金属管状体(30)の接合部の前記表面と前記管状の繊維強化プラスチック材の硬化物(32)の隙間を埋め、且つ前記両者を接着させるエポキシ系樹脂の硬化物(34)と
    からなる金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  4. 請求項1又は2に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、アルミニウム合金製の管状押し出し品であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    前記化学エッチングが強塩基性水溶液に浸漬することにより形成されたものであり、且つ
    前記強塩基性水溶液に浸漬後のヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上を含む水溶液への浸漬処理によって厚さ2nm以上の酸化アルミニウム薄層を有したものであり、且つ
    10〜100nm径の凹部で全面が覆われているものである
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  5. 請求項1ないし2に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、マグネシウム合金製であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    前記化学エッチングが酸性水溶液に浸漬することにより形成されたものであり、且つ
    前記酸性水溶液に浸漬後の過マンガン酸アルカリ金属塩水溶液への浸漬処理によって形成されたマンガン酸化物の薄層表面を有したものであり、且つ
    5〜20nm径で20〜200nm長さの棒状物が無数に錯綜した形で覆われているものである
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  6. 請求項2に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、銅又は銅合金製であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    前記化学エッチングが酸化剤を含む強酸性水溶液に浸漬処理することによって為され、且つ
    前記強塩基性水溶液に浸漬後の酸化剤を含む強塩基性水溶液への浸漬処理によって形成された主として酸化第2銅の薄層であり、且つ
    直径又は長径短径の平均が20〜150nmの孔開口部が100〜300nm周期で全面に存在するものである
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  7. 請求項1又は2に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、銅又は銅合金製であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    前記化学エッチングが酸化剤を含む強酸性水溶液に浸漬することによって為され、且つ
    前記強塩基性水溶液に浸漬後の酸化剤を含む強塩基性水溶液への浸漬処理によって形成された主として酸化第2銅の薄層であり、且つ
    直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在するものである
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  8. 請求項1に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、チタン合金部品であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    弗化水素系化合物を含む強酸性水溶液に浸漬することにより、酸化チタンの薄層で覆われたものであり、且つ
    高さ及び幅が10〜350nm、長さが10nm以上の山状又は連山状凸部が10〜350nm周期で全面に存在するものであるし、且つ前記表面が主としてチタン酸化物の薄層である管状のチタン合金部品である
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  9. 請求項1又は2に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、ステンレス鋼であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    還元性強酸水溶液に浸漬することにより形成された薄層のステンレス鋼酸化物であり、
    直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状である溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われている
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  10. 請求項1又は2に記載の管状接合複合体において、
    前記金属管状体(30)は、鋼材製であり、
    前記超微細凹凸形状は、
    還元性強酸水溶液に浸漬することによる前記化学エッチング後に形成された薄層の自然鋼材酸化物であり、
    前記電子顕微鏡による観察で、高さ50〜150nm、奥行き80〜500nmで幅が数百〜数千nmの階段が無限段に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われている表面である
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  11. 請求項10に記載の管状接合複合体において、
    前記自然酸化膜薄層(21)は、
    前記表面がアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミンから選択される1種以上が吸着した鉄の自然酸化膜薄層である
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  12. 請求項10に記載の管状接合複合体において、
    前記鉄の自然酸化膜薄層(21)は、
    前記表面がクロム、マンガン、及び亜鉛から選択される1種の酸化物、又はリン酸化物の薄層である
    ことを特徴とする金属管状体と繊維強化プラスチック材の硬化物が接合により一体化した管状接合複合体。
  13. 請求項1ないし12から選択される1項に記載の管状接合複合体において、
    前記エポキシ系樹脂の硬化物(34)は、
    このエポキシ系樹脂硬化物の樹脂分中に、樹脂分合計100質量部に対してエラストマー成分が0〜30質量部含まれている硬化物であることを特徴とする管状接合複合体。
  14. 請求項1ないし13に記載の管状接合複合体において、
    前記エポキシ系樹脂の硬化物(34)は、
    樹脂分合計100質量部に対し充填剤が合計50質量部以下が配合されている硬化物であることを特徴とする管状接合複合体。
  15. 請求項14に記載の管状接合複合体において、
    前記充填剤は、
    ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維から選択される1種以上からなる強化繊維、並びに
    炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及びガラスの粉末フィラーから選ばれる1種以上であることを特徴とする管状接合複合体。
  16. 請求項13に記載の管状接合複合体において、
    前記エラストマー成分は、
    粒径1〜30μmの加硫ゴム粉体、半架橋ゴム、未加硫ゴム、水酸基末端ポリエーテルスルホンの融点軟化点が300℃以上ある末端修飾型の熱可塑性樹脂、及びポリオレフィン系樹脂から選ばれた1種以上であることを特徴とする管状接合複合体。
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