以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された内燃機関のシステム構成を模式的に示した説明図である。
内燃機関1の燃焼室2には、大気開放された吸気取入口3から取り入れられた空気が吸気通路4を介して導入されている。
吸気通路4には、上流側から順に、エアクリーナ5、スロットル弁6、コレクタ7が介装されている。そして、コレクタ7の下流側に位置する各気筒毎の吸気ポート8を介して、燃焼室2に空気が導入されている。
エアクリーナ5には、大気圧を検出する大気圧センサ9が設けられている。エアクリーナ5とスロットル弁6との間には、吸気温度センサ10を内蔵した熱線または熱フィルム式など熱式流量計であるエアフローメータ11が設けられている。コレクタ7には、コレクタ7内の吸気圧(コレクタ圧)を検出する吸気圧センサ12が設けられている。
各気筒の吸気ポート8には、各気筒毎に燃料を噴射供給するように燃料噴射弁13が設けられていると共に、その下流端に吸気弁14が設けられている。また、燃焼室2に接続された排気ポート15の上流端には、排気弁16が設けられている。
ここで、吸気弁14を駆動する吸気弁側の動弁機構は、吸気弁14のバルブタイミングを変更可能な可変動弁機構(図示せず)となっており、吸気弁14の開閉時期を変更(遅進)することで、吸気弁14と排気弁16のバルブオーバーラップ量が制御可能となっている。この可変動弁機構としては、吸気弁14のリフト中心角の位相を遅進させる位相可変機構、吸気弁14のバルブリフト量と作動角を変更するリフト作動角可変機構、あるいは前記位相可変機構と前記リフト作動角可変機構を組み合わせたものであってもよい。
排気弁16を駆動する排気弁側の動弁機構は、一般的な直動式カム(リフト・作動角及びリフト中心角の位相が固定)を用いた動弁機構(図示せず)となっている。尚、排気弁側の動弁機構に、吸気弁側と同様に、可変動弁機構を採用してもよい。
大気圧センサ9、吸気温度センサ10、エアフローメータ11及び吸気圧センサ12で検出されて検出信号は、ECU(エンジンコントロールユニット)17に入力されてる。
ECU17は、マイクロコンピュータを内蔵し、内燃機関1の種々の制御を行うものであって、各種のセンサからの信号を基に処理を行うようになっている。これら各種のセンサとしては、前述の大気圧センサ9、吸気温度センサ10、エアフローメータ11及び吸気圧センサ12のほかに、クランク角度と共に機関回転速度を検出可能なクランク角センサ18、スロットル弁6の開度を検出するスロットルセンサ19、車両速度を検出する車速センサ20等からの信号が入力されている。
そして、ECU17では、これらの検出信号に基づいて、燃料噴射弁13の噴射量や噴射時期、点火プラグ(図示せず)による点火時期、可変動弁機構(図示せず)によるバルブリフト特性、スロットル弁6の開度などを制御する。尚、このECU17によって、エアフローメータ11の検出値を用いずに吸入空気量を推定する演算や、エアフローメータ11の故障診断が実現される。
エアフローメータ11の故障診断では、エアフローメータ11で検出された検出値である実吸入空気量に対するECU17で推定された推定吸入空気量の乖離値が、機関回転速度に応じて予め定められている故障判定基準値よりも大きい場合に、エアフローメータ11を故障と判定する。
本実施形態では、前述の乖離値として実吸入空気量を推定吸入空気量で除した乖離率を使用し、図2に示すように、この乖離率が故障判定基準値である上下限の故障診断クライテリア(図2中の特性線A及びB)で挟まれる領域外となったときに、エアフローメータ11の故障と判定する。図2中の特性線Aは上限側の故障判定基準値である上限側故障診断クライテリアであり、図2中の特性線Bは下限側の故障判定基準値である下限側故障診断クライテリアである。
故障判定基準値である上下限の故障診断クライテリアは、例えば、正常なエアフローメータであっても前記乖離率が取り得る値の上下限値(図2における特性線a、bを参照)に対して、吸気系部品の部品バラツキのマージンを上乗せした値である。
吸入空気量が少ない状況では、吸気脈動等の影響により、エアフローメータ11が故障していない場合であっても、エアフローメータ11で検知される吸入空気量(実吸入空気量)がECU17にて演算される推定吸入空気量に対して大きく乖離してしまう虞があるので、機関回転速度が小さいほど上限側故障診断クライテリアは大きく、下限側故障診断クライテリアは小さくなるよう設定されている。
本実施形態においては、前記乖離率が、上限側故障診断クライテリアよりも大きい場合、あるいは前記乖離率が下限側故障診断クライテリアよりも小さい場合、エアフローメータ11が故障していると判定する。エアフローメータ11が故障していると判定した場合には、運転席から視認できる位置、例えば運転席のインストルメントパネル等に設けた警告灯を点灯させ運転者にエアフローメータ11に異常があることを感知させる。
そして、本実施形態においては、前記乖離率が、上限側故障診断クライテリア以下で下限側故障診断クライテリア以上の範囲内にあり、さらに機関回転速度が予め設定された所定回転速度(例えば、3000rpm)以上の場合には、エアフローメータ11が正常であると判定する。
吸入空気量が多くなれば、吸気脈動等の影響をうけにくくなるので、エアフローメータ11が故障していなければ、エアフローメータ11で検知される吸入空気量(実吸入空気量)がECU17にて演算される推定吸入空気量に対して大きく乖離してしまう虞はない。すなわち、機関回転速度が所定回転速度より高い場合、エアフローメータが正常であることを精度良く診断することができるので、仮に、エンジン始動から今までに故障と診断された経緯があったとしても、故障の診断が誤りであったとみなして診断結果を正常に切り替える。これにより、故障診断の精度を向上させて、誤診断により必ずしも故障でなかった場合にエアフローメータ11が交換されてしまうことを防ぐことができる。
一方、機関回転速度が所定回転速度より低い場合、エアフローメータの診断は必ずしも精度良く行なえないので、今ある診断結果をそのまま維持することとする。例えば、エンジン始動から今までに故障と診断された経緯があった場合には故障との診断結果を維持し、正常と診断された経緯があった場合には正常との診断結果を維持する。もし、エンジン始動から今まで、乖離率が上限側故障診断クライテリア以下で下限側故障診断クライテリア以上の範囲内にあり続け、さらに機関回転速度が予め設定された所定回転速度(例えば、3000rpm)未満にあり続けた場合には、診断結果が存在しない状態を維持し続けることになる。
このようにして、機関回転速度に応じて正常と診断するか、現状の診断結果を維持するかを切り替えるようにしたので、故障診断の精度を向上させることができるようになり、例えば誤診断により必ずしも故障でなかった場合に、エアフローメータ11が交換されてしまうことを防ぐことができる。
尚、エアフローメータ11が正常であると否かについては、必ずしも直接運転者に知らせる必要性はないので、例えばエアフローメータ11が正常である場合にランプを点灯させて運転者に感知させるようにしなくてもよい。但し、エアフローメータ11が故障していると判定され、整備工場等にて故障と判定されたエアフローメータ11の交換を実施する作業者は、ECU17に所定のサービスツールを接続し、内燃機関1の機関回転速度を予め設定された所定回転速度以上で運転することで、エアフローメータ11が正常であるか否かを確認できる。
そして、本実施形態においては、図2における上下限の故障診断クライテリアのさらに外側に、上下限のフェイルセーフ診断クライテリアが設定されており、前記乖離率が上限側フェイルセーフ診断クライテリア(図2における特性線C)よりも大きい場合、もしくは前記乖離率が下限側フェイルセーフ診断クライテリア(図2における特性線D)よりも小さい場合には、エアフローメータ11で検出した吸入空気量に基づき、燃料噴射弁13の噴射量や噴射時期、点火プラグ(図示せず)による点火時期などの制御値を算出し、算出された値に基づき内燃機関1を制御する通常制御から、内燃機関の回転速度とスロットル開度から演算した吸入空気量を用いて、通常制御と同様の制御値を算出し、算出された値に基づき内燃機関1を制御するフェイルセーフ制御に移行する。
本実施形態においては、上限側フェイルセーフ診断クライテリアは乖離率150%であり、下限側フェイルセーフ診断クライテリアは乖離率50%である。
つまり、本実施形態におけるフェイルセーフ制御は、エアフローメータ11で検出された実吸入空気量と、ECU17で推定された推定吸入空気量とが50%以上ずれた場合に実施されるよう設定されている。
但し、急加速中や、内燃機関1がトルクを発生していない状態(例えば、エンジンブレーキを使用している状態や、惰性で走行している状態)のとき等、エアフローメータ11で検知される吸入空気量(実吸入空気量)がECU17にて演算される推定吸入空気量に対して大きく乖離してしまう虞がある状況では(後述する診断許可条件が成立していないとき)、エアフローメータ11の故障診断を実施しないこととする。
図3は、エアフローメータ11の故障診断方法を示すブロック図である。
S1では、機関回転速度から上限側故障診断クライテリア(THhigh)を算出する。S2では、機関回転速度から下限側故障診断クライテリア(THlow)を算出する。上限側故障診断クライテリア(THhigh)及び下限側故障診断クライテリア(THlow)は、それぞれ予め実験的に作成しておいたテーブル(図示せず)を検索することで算出される。
S3では、機関回転速度と、吸気弁14と排気弁16のバルブオーバーラップ量とを用いて、予め実験的に作成しておいたテーブル(図示せず)から燃焼効率係数(ITAFV)を算出する。尚、バルブオーバーラップ量は、可変動弁機構に設けられたセンサ(図示せず)により機関弁(吸気弁14または排気弁16)のバルブタイミングを検知することによって算出可能である。
S4では、機関回転速度と、スロットル開口面積とを用いて、予め実験的に作成しておいたテーブル(図示せず)からベース推定吸入空気量(Qesb)を算出する。スロットル開口面積は、スロットルセンサ19の検出信号を用いて算出可能である。
S5では、S3で算出された燃焼効率係数(ITAFV)に、S4で算出されたベース推定吸入空気量(Qesb)を乗じて、推定吸入空気量(Qest)を算出する。尚、推定吸入空気量(Qest)は、吸気圧を用いて推定することも可能であり、吸気圧センサ12で検出した吸気圧に基づいて推定された推定吸入空気量(Qest)を用いることも可能である。
S6では、エアフローメータ11の検出値である実吸入空気量をS5で算出された推定吸入空気量(Qest)で除して、実吸入空気量に対する推定吸入空気量の乖離値である乖離率(AFMDG)を算出する。
S7では、機関回転速度を用いて、予め実験的に作成しておいたテーブル(図示せず)から診断可能下限スロットル開口面積を算出する。
S8では、診断許可条件を算出する。診断許可条件とは、車両の運転状態が、エアフローメータ11の故障診断を実施可能な状態であるか判定する条件であり、成立時においてエアフローメータ11の故障診断が実施される。
本実施形態においては、スロットル開口面積が診断可能下限スロットル開口面積以上で、かつスロットル開口面積の変化量が予め設定された所定値以下の場合に、診断許可条件が成立していると判定する。
つまり、スロットル開口面積が診断可能下限スロットル開口面積よりも小さい場合には、内燃機関1がトルクを発生していない状態であると判定し、診断許可条件が成立していない判定する。また、スロットル開口面積の変化量が予め設定された所定値よりも大きい場合には、車両が急加速中であると判定し、診断許可条件が成立していない判定する。
S9では、診断許可条件が成立し、S1で算出された上限側故障診断クライテリア(THhigh)よりもS6で算出された乖離率(AFMDG)の値が大きい場合、もしくはS2で算出された下限側故障診断クライテリア(THlow)よりもS6で算出された乖離率(AFMDG)の値が小さい場合、エアフローメータ11の故障と判定する。
また、診断許可条件が成立している時に、乖離率(AFMDG)の値が上限側故障診断クライテリア(THhigh)以下で、下限側故障診断クライテリア(THlow)以上であり、さらに内燃機関1の回転速度が所定回転速度以上の場合には、エアフローメータ11が正常であると判定する。
図4は、エアフローメータ11の故障診断方法の制御の流れを示すフローチャートである。
S21では、車両が急加速中であるか否かを判定し、急加速中でなければS22へ進み、急加速中であれば故障診断を実施することなく今回のルーチンを終了する。
S22では、スロットル弁6の開口面積が所定値以上であるか否かを判定し、スロットル弁6の開口面積が所定値以上ある場合にはS23へ進み、スロットル弁6の開口面積が所定値以上ない場合には今回のルーチンを終了する。尚、これらS21、S22は、それぞれ診断許可条件のうちの一つが成立しているかどうかを判定しているものである。
S23では、内燃機関1の回転速度から上限側故障診断クライテリア(THhigh)と下限側故障診断クライテリア(THlow)を算出する。
S24では、乖離率(AFMDG)がS23で算出した上下限の故障診断クライテリアの範囲内であるか、すなわちTHlow≦AFMDG≦THhighであるか否かを判定し、THlow≦AFMDG≦THhighであればS28へ進み、そうでなければS25へ進む。
S25では、エアフローメータ11が故障していると判定し、S26へ進む。尚、S25でエアフローメータ11が故障していると判定されると警告灯が点灯する。
S26では、乖離率(AFMDG)が、フェイルセーフ診断クライテリアの範囲内であるか、すなわち乖離率(AFMDG)が上述した上限側フェイルセーフ診断クライテリアよりも大きいか、あるいは乖離率(AFMDG)が下限側フェイルセーフ診断クライテリアよりも小さいかを判定する。
乖離率(AFMDG)がフェイルセーフ診断クライテリアの範囲内になければS27へ進み、乖離率(AFMDG)がフェイルセーフ診断クライテリアの範囲内にあれば今回のルーチンを終了する。
S27では、エアフローメータ11で検出した吸入空気量に基づく通常制御から、内燃機関1の回転速度とスロットル開度から演算した吸入空気量に基づくフェイルセーフ制御に移行する。
S28では、内燃機関1の回転速度が所定回転速度(例えば3000rpm)以上であるか否かを判定し、内燃機関1の回転速度が所定回転速度以上の場合には、S29へ進んでエアフローメータ11が正常であると判定し、内燃機関1の回転速度が所定回転速度(例えば3000rpm)未満の場合には、今ある診断結果をそのまま維持するのでそのまま今回のルーチンを終了する。
尚、S27を経ずに図4の制御ルーチンを終了する場合の内燃機関1の制御は、通常制御である。つまり、吸気量制御は、S26からS27へ進んだ場合のみ、フェイルセーフ制御に移行する。
以上説明してきたように、本実施形態においては、吸入空気量が比較的少ない内燃機関1の回転速度が低い領域であっても、エアフローメータ11を故障と判定する領域を狭めることで、エアフローメータ11が正常であってもばらつきのある領域を、エアフローメータ11を故障と診断する領域から外すことが可能となる。すなわち、正常なエアフローメータ11であっても、エアフローメータ11で検知される吸入空気量(実吸入空気量)がECU17にて演算される推定吸入空気量に対して大きく乖離してしまう虞がある吸入空気量が少ない領域では、エアフローメータ11を故障と判定する領域(図2において、上限側故障判定クライテリアよりも上方の領域と、下限側故障判定クライテリアよりも下方の領域)が相対的に狭く設定されるので、誤診断を回避した上で、機関回転速度全域、つまり内燃機関1の全ての運転領域でエアフローメータ11の故障診断を実施することが可能となり、エアフローメータ11の故障による排気性能の悪化をより未然に防止可能となる。
そして、エアフローメータ11を故障と判定した際に警告灯を点灯することによって乗員にエアフローメータ11が異常であることを感知させることができるので、運転者に速やかな車両の点検修理を促すことができ、排気性能悪化の状態で運転を続けることによって大気汚染が進むことを防止することができる。
また、エアフローメータ11で検知される吸入空気量(実吸入空気量)がECU17にて演算される推定吸入空気量に対して著しく大きく乖離するような場合、すなわち乖離値が上下限側のフェイルセーフ診断クライテリアを超えるような場合には、エアフローメータ11で検出した吸入空気量に基づく通常制御から、内燃機関1の回転速度とスロットル開度から演算した吸入空気量に基づくフェイルセーフ制御に移行することで、排気性能が著しく悪化した状態で運転を続けることを防止することができる。
そして、エアフローメータ11が正常であっても、エアフローメータ11以外の吸気系に何らかの不具合があると、前記乖離率が基準値(100%)から大きく乖離してしまう場合がある。例えば、吸気通路から空気が漏れ出ている場合や、エアクリーナ5の詰まりがあるような場合には、エアフローメータ11の検出値が正確であっても、エアフローメータ11で検出された吸入空気量と推定される吸入空気量との乖離値が大きくなってしまう。しかしながら、本実施形態のように、乖離率(乖離値)に対してエアフローメータ11を正常と判定する領域(乖離率が、特性線Aと特性線Bに挟まれた領域内にあり、さらに機関回転速度が所定回転速度以上の領域)が設定されていれば、エアフローメータ11の故障と判定され、当該エアフローメータ11を不具合のない新しいエアフローメータ11に交換した際に、機関回転速度を所定回転速度以上として前記乖離率が特性線Aと特性線Bに挟まれた領域内とならない場合に、交換された新たなエアフローメータ11以外の吸気系に不具合があると判定することが可能となる。
尚、本実施形態においては、エアフローメータ11で検出された検出値である実吸入空気量に対するECU17で推定された推定吸入空気量の乖離値として、実吸入空気量を推定吸入空気量で除した乖離率を用いているが、この乖離値は前述の乖離率に限定されるものではなく、実吸入空気量と推定吸入空気量との差分や、実吸入空気量に対する推定吸入空気量の乖離度合等を乖離値として用いてエアフローメータ11の故障診断を行うことも可能である。
また、本実施形態においては、エアフローメータ11を正常と判定する際の機関回転速度の閾値は実機に応じて、適宜設定されるものである。
そして、本実施形態においては、急加速中でないこと、内燃機関1がトルクを発生している状態であること、をエアフローメータ11の故障診断を実施可能な状態であるか判定する診断許可条件としたが、この診断許可条件に加え、始動後10秒後以上経過していること(エアフローメータ11が活性化していること)、吸気温がマイナス10℃以上であること、大気圧の50kPa以上であること、燃料カット時以外であること等を診断許可条件に加え、これらの診断許可条件の全てが成立した場合にのみエアフローメータ11の故障診断の実施をするようにしてもよい。