JP5237714B2 - 細胞輸送用担体及びそれを使用した細胞の輸送方法 - Google Patents

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Description

本発明は細胞輸送用担体及びそれを使用した細胞の輸送方法に関する。より詳細には、培養細胞、株化細胞、形質転換細胞などの細胞又は組織片を輸送(搬送、運搬)する際に使用される細胞輸送用担体及びそれを使用した細胞の輸送方法に関する。
近年、生命工学の著しい進歩に伴って、内外国の企業や研究者間で細胞の輸送が頻繁に行われるようになった。現在、細胞を他所に輸送する際には細胞を適当な凍結用培地の中で凍結させ、ドライアイスなどを含む超低温条件下で輸送することが通常行われている。しかしながら、この方法はコストが高く、また輸送中にドライアイスが昇華・消失した場合、温度上昇に伴って解凍し凍結培地中に含まれるDMSOなどが細胞毒性を発揮して細胞が死滅するなどの欠点が数多くある。
このような問題から、細胞を常温で安定的に輸送できる方法が望まれており、そのような手段として、細胞をゼラチンゲルに包埋し、輸送中における細胞の傷害を防止して輸送する方法が多数提案されている(例えば、特許文献1、2、3など参照)。
特開平8−23968号公報 特開平8−9966号公報 特表2007−525200号公報
細胞をゼラチンゲルに包埋して輸送する方法はある程度の効果を奏するが、未だ充分ではない。即ち、国内の輸送の場合には3日間程度、外国への輸送の場合には5日間程度の輸送期間を要し、その間細胞を安定に維持する必要があるが、ゼラチンゲルに包埋するだけでは細胞を安定的に輸送することは困難であった。
上記の問題点を解消するため、本願発明者らは鋭意検討したところ、ゼラチン種によって細胞の保存安定性が異なることが判明した。即ち、従来、このような用途には豚や牛の皮や骨に由来するゼラチン(家畜由来ゼラチン)が使用されてきたが、家畜由来ゼラチンに代えて魚由来ゼラチンを使用すると、細胞の保存安定性を著しく高めることが可能となった。また、輸送した細胞を利用する際にはゲル化したゼラチンを完全に取り除く必要があるが、従来の家畜由来ゼラチンではその取り除く作業に時間がかかり、作業能率が悪いのみならず細胞に損傷を与えるおそれがあり、更なる向上が求められていた。魚由来ゼラチンは、ゾルーゲル転移が速やかに進行することから、作業効率が向上し、また細胞損傷も低下させ得ることが判明した。
更に、本発明者らは、輸送中における細胞の損傷の一因は輸送中における培地のpH変化(上昇)にあることを突き止めた。そこで、緩衝液により輸送中における培地のpHの上昇を抑制すると共に魚由来ゼラチンゲルに細胞を包埋すると、両者の相乗効果により細胞を安定的に輸送し得ることを見出した。
本発明の課題は、細胞を常温付近温度で安定的に輸送し、且つ輸送された細胞が使用できる状態になるまでの時間を短縮した作業効率のよい輸送用担体及びそれを使用した細胞の輸送方法を提供するものである。
上記の課題を解決するためになされた本発明は、魚由来ゼラチンを使用した細胞輸送用担体である。また、輸送中の細胞の安定を更に高めるために、当該細胞輸送担体にグッド緩衝液を存在させた細胞輸送担体である。グッド緩衝液としてはHEPES緩衝液又はMOPS緩衝液が好適に使用され、更に当該輸送用担体は細胞培養培地を含有していてもよい。
また、本発明の細胞の輸送方法は、ゲル状態を呈する上記の細胞輸送用担体中に細胞を包埋し、当該担体がゲル状態を維持する温度範囲で輸送を行うことからなる。
後記実施例に示されるように、本発明の細胞輸送用担体の主成分である魚由来ゼラチンは、従来使用されてきた家畜由来ゼラチンに比べて輸送中の細胞損傷を抑制し得る機能を有しており、細胞の安定性を高めることができる。また、細胞とゼラチンを分離し、細胞を輸送用担体から取り出すまでの時間を著しく短縮でき、輸送された貴重な細胞を新鮮な状態で利用することができる。
更に、魚由来ゼラチンをグッド緩衝液と併用すると輸送中の安定性を更に高めることが可能となった。
従って、本発明の細胞輸送用担体及び細胞の輸送方法によれば、常温付近の温度で細胞の輸送を安定的に行うことができ、且つ作業効率が著しく高まり、新鮮な状態で細胞を輸送できるという格別な効果を奏する。
上述のように、本発明の細胞輸送用担体は魚由来ゼラチンからなる。
上記のゼラチンは、既に周知のようにコラーゲンの熱変性物であり、ゾル−ゲル転移点より高い温度ではゾル状態を呈し、当該温度より低い温度ではゲル状態を呈することが知られている。
本発明で使用されるゼラチンは魚の皮、鱗などに由来する魚由来ゼラチンである。魚由来ゼラチンの魚種としては、皮及び鱗中のコラーゲン含量が高い魚種が好ましく、例えばテラピア、タラ、サケ、イズミダイ、コイ、イトヨリなどが例示される。
ゼラチンとしては、コラーゲン(又はコラーゲン原料)からゼラチンを採取する際の前処理条件により所謂酸処理ゼラチン及びアルカリ処理ゼラチンがあるが、それらのいずれも使用することができる。しかし、細胞培養時の培地のpHは通常6〜8の範囲であることから、その範囲と同じような等電点を有するゼラチンを使用するのが好ましく、係る点を考慮すると酸処理ゼラチン、特に等電点が5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.5の酸処理ゼラチンを使用するのが好ましい。
また、ゼラチンのゾル−ゲル転移点は、ゼラチンの原料、製造方法などによって異なり、本発明においてはゾル−ゲル転移点が25〜37℃の範囲にあるものが好適に使用される。
更に、化学的に修飾されたゼラチン(抗プロテアーゼゼラチン)を使用してもよい。
また、本発明の細胞輸送用担体はグッド緩衝液を含有していてもよい。グッド緩衝液は、アミノエタンスルホン酸誘導体又はアミノプロパンスルホン酸を有効成分とする緩衝液であって、種々の緩衝液が知られている。本発明の細胞輸送用担体においては、細胞の安定的な輸送に寄与できるグッド緩衝液であればいずれの緩衝液も使用できるが、輸送中における培地のpH上昇を効果的に抑制し得る点から、pKa(20℃)が7〜8であるグッド緩衝剤(及びそれを含有する緩衝液)が好適に使用される。
係るグッド緩衝剤としては、例えば
BES: N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic
acid (pKa 7.15)
MOPS: 3-Morpholinopropanesulfonic
acid (pKa 7.20)
TES: N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic
acid (pKa 7.50)
HEPES: 2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic
acid (pKa 7.55)
DIPSO: 3-[N,N-Bis(2-hydroxyethyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic
acid (pKa 7.60)
TAPSO: 2-Hydroxy-N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic
acid (pKa 7.70)
POPSO: Piperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic
acid),dehydrate (pKa 7.85)
HEPPSO: 2-Hydroxy-3-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic
acid,monohydrate (pKa 7.90)
EPPS: 3-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic
acid (pKa 8.00)
が例示され、好ましくはHEPES又はMOPSが使用される。
本発明の細胞輸送用担体は、必要に応じて細胞培養培地を含有していてもよい。係る細胞培養培地は、輸送される細胞の種類に応じて適宜選択され、例えば、MEM培地、ダルベッコMEM(DMEM)培地、BME培地、ハム培地などが例示される。更に、細胞の栄養源として血清などを添加することもできる。
本発明の細胞輸送用担体は、用時に水などの溶媒に溶解して使用する粉末状の形態であってもよく、また水などの溶媒に加熱溶解後に冷却した形態(ゲル状態)であってもよい。
当該担体におけるゼラチンの含量としては、所望するゲルの強度により適宜選択することができ、水などに溶解した状態で通常は3〜15%程度(W/V%、以下特に明示のない限り、%はW/V%を示す)、好ましくは5〜10%程度に調整される。3%未満ではゲル強度が不足するおそれがあり、15%を超えるとゲル強度が過大となりゾル状態に戻す際に時間がかかり、その間に細胞を損傷するおそれがある。
また、グッド緩衝液の含量は使用される培地種などに応じて適宜選択することができるが、水などに溶解した状態で緩衝剤として通常は15〜100mM程度、好ましくは20〜80mM程度、より好ましくは25〜50mM程度に調整される。15mM未満では緩衝力が不足するおそれがあり、100mMまでで充分に効果を奏するので、それ以上の添加は必要としない。
細胞培養培地、細胞の栄養源などは、細胞種、輸送期間などに応じて適宜の量を使用することができる。
本発明の細胞輸送用担体の好ましい態様としては、水などに溶解した状態で、魚由来ゼラチンを5〜10%、好ましくは6〜8%、HEPES緩衝剤又はMOPS緩衝剤を20〜60mM,好ましくは25〜50mM含有する担体が例示される。
本発明の細胞の輸送方法は、上記の細胞輸送用担体を使用した細胞の輸送方法であって、ゲル状態を呈する上記の細胞輸送用担体中に細胞を包埋し、当該担体がゲル状態を維持する温度範囲で輸送を行うことからなる。
より具体的には、輸送される細胞が浮遊細胞の場合には、本発明の輸送用担体に水を加え、更に必要に応じて細胞培養培地及び栄養源を添加し、ゾル−ゲル転移点以上に加温してゾル状態とした後、細胞を加えて分散させる。次いで、当該細胞を含むゾルを適当な輸送用容器に充填し、密封した後、ゾル−ゲル転移点以下に冷却してゲル状態とする。これにより、細胞は、本発明の輸送用担体のゲルに包埋された状態で容器に収納されることになる。
また、輸送される細胞が接着細胞の場合には、適当な輸送用容器内に細胞を予め付着させておく。一方で、本発明の輸送用担体に水を加え、更に必要に応じて細胞培養培地及び栄養源を添加し、ゾル−ゲル転移点以上に加温してゾル状態とし、そのゾルを当該容器に充填し、密封した後、ゾル−ゲル転移点以下に冷却してゲル状態とする。これにより、細胞は、本発明の輸送用担体のゲルに包埋された状態で容器に収納されることになる。
かくして、本発明の輸送用担体のゲル中に包埋され且つ容器に収容された細胞は、ゲル状態を維持し得る温度範囲にて輸送される。具体的には、当該容器を保冷剤のような冷却剤で冷却すると共に断熱性容器に収容することによりゲル状態を維持し、輸送される。ゲル状態を維持し得る温度範囲は、ゾル−ゲル転移点以下の温度を意味するが、極めて低い温度では細胞を損傷するおそれがあるので、5〜30℃程度、好ましくは10〜25℃程度の温度で輸送される。
輸送された容器は、ゾル−ゲル転移点以上に加温してゲル状態をゾル状態として流動性を持たせた後、細胞を分離し、必要に応じて洗浄することにより、細胞の輸送が完了する。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
通常のDMEM培地 (Sigma D5796, 10%血清添加)へ魚由来ゼラチン(商品名イクオス、新田ゼラチン社製、魚の鱗・皮由来ゼラチン)を8重量%になるように添加した培地に、DT40細胞(ニワトリB細胞株)をおき、5日間の室温放置後の細胞数を調べた。
この際、比較のために、魚由来ゼラチンに代えて豚由来ゼラチンを添加した培地を使用した以外は同じ条件での比較実験をした。
Figure 0005237714
上記のデータから本発明の魚由来ゼラチンは、5日放置後も生きている細胞の数はほとんど減少していなかった。一方豚由来ゼラチンでは60%しか生き残っていなかった。このように、豚由来ゼラチンに比べ、魚由来ゼラチンが保存性に対して顕著な効果を発揮していることが明らかとなった。
実施例2
実施例1の培地の中にある細胞を取り出すため、ゲル化している状態の細胞含有培地をゾル化するに際して、ゾル化して細胞を取り出せるまでの時間を比較した。その結果を表2に示す。表2に示されるように、取り出して使用できるまでの時間が55%まで短縮されることが判明した。
Figure 0005237714
実施例3
実施例1で用いた培地にHEPESを終濃度25mMになるように加えた条件下で、細胞の安定性を測定した。その結果を表3に示す。表3に示されるように、HEPESを共存させることで細胞生存率は100%を越すことができ、細胞の保存状態が改良されていることが判明した。
なお、実施例1〜3では、魚由来ゼラチンとしてイクオスを使用して実験を行なったが、その他の魚由来ゼラチン(例えばサケ由来ゼラチン)についても同様の効果が得られる。
Figure 0005237714

Claims (3)

  1. 3〜15(w/v)%の魚由来ゼラチン、15〜100mMのグッド緩衝液及び血清添加細胞培養培地からなる細胞輸送用担体。
  2. グッド緩衝液が、HEPES緩衝液又はMOPS緩衝液である請求項1記載の細胞輸送用担体。
  3. ゲル状態を呈する請求項1又は2記載の細胞輸送用担体中に細胞を包埋し、当該担体がゲル状態を維持する温度範囲で輸送を行うことを特徴とする細胞の輸送方法。
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