JP6081781B2 - 高融点ゼラチン組成物、その製造方法、およびその用途 - Google Patents

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Description

この発明は、高融点ゼラチン組成物、その製造方法、およびその用途に関する。さらに詳しくは、各種細菌、細胞、組織などの培養基材などに利用することができる高融点ゼラチン組成物、その製造方法、およびその用途に関する。
ゼラチンは、種々の細菌や細胞の培養実験の基材として、極めて有用な材料である。例えば、プレート、フラスコ、マイクロビーズまたは他の支持体のコーティングとして、各種細菌、細胞、組織などの接着および増殖のために適切な表面を提供したり、または増殖培地におけるタンパク質供給源を提供したりすることができる。
ゼラチンは、コラーゲンの熱変成物であり、タンパク質の立体構造が分解されているため、低温下ではゲル状を呈し、高温下ではゾル状を呈する熱可逆性を発揮するという特性を有する。しかし、ゼラチンは融点が低く、ゼラチンがゲル状態を維持できるのは30℃未満の温度範囲である。したがって、ゼラチンゲルに細胞や組織を包埋した場合には、低温のために細胞や組織の機能が著しく低下してしまい、各種細菌、細胞、組織などの培養実験の用途には適しない。一方、温度が30〜40℃という細胞などの育成環境下においては、ゼラチンはゲル状態を維持することができない(非特許文献1)。そのため、各種細菌、細胞、組織などを安定的に搬送または培養するための試料包埋ゲルとしてゼラチンを使用することは困難であった。
従来、試料包埋ゲルにはコラーゲンが使用されている。コラーゲンにより作製された試料包埋ゲルは、30〜40℃の温度範囲でゲル状態を維持することができる。しかし、各種細菌、細胞、組織などをコラーゲンゲルに包埋した場合、包埋された試料を回収するためには、タンパク質分解酵素処理によってコラーゲンのゾル化を行う必要がある。この際、タンパク質分解酵素処理は、包埋基材であるコラーゲンのみならず、包埋された試料表面のタンパク質も分解してしまうため、試料に損傷を与えることが問題となっていた。また、コラーゲンを試料包埋ゲルとして使用する際には、架橋剤を加えて硬いコラーゲンとする手法も提案されているが、架橋剤は細菌、細胞、組織などの試料に対する毒性があるという問題があった。
また、近年では、試料本来の増殖能や分化能を得ることを目的として、三次元培養が行われるようになった。三次元培養とは、生体の細胞外マトリックス構造を模した基材中に試料を包埋し、生体内に近い環境において試料を培養する方法である。三次元培養を行うための試料包埋基材に要求される特性は、(1)試料との親和性があること、(2)外来性生体分子を含まないこと、(3)融点が高いこと、(4)基材の硬さを自由に制御できることなどである。これまでのところ、三次元培養に適した基材は提案されていない。
特許第4597454号公報
Altgelt K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1961, Vol. 47, No. 12, pp. 1914-1924
本発明者らは、上記状況に鑑み、従来技術の諸問題を解消し、各種細菌、細胞、組織などの試料の包埋に適した基材技術を提供すべく鋭意検討した結果、本発明を完成したものである。本発明が解決しようとする課題は、次のとおりである。
1.温度が30℃以下のみでなく、一般的な細胞培養に適した30℃より高い組成物の融点までの温度条件において、ゲル状態を維持し、各種細菌、細胞、組織などの試料を安定した状態で培養することができる、高融点ゼラチン組成物を提供すること。
2.試料をゾル状態の基材に混合したあと、基材をゲル化させて試料を基材の中に包埋して培養する三次元培養に活用できる、高融点ゼラチン組成物を提供すること。
3.一般的な細胞培養の温度条件においてゲル状態を維持し、各種細菌、細胞、組織などの試料を包埋した状態で安全に搬送できる、高融点ゼラチン組成物を提供すること。
4.高融点ゼラチン組成物の簡便で有利な製造方法を提供すること。
5.前記高融点ゼラチン組成物を用いた試料包埋ゲル状組成物を提供すること。
上記課題を解決するために、第一発明では、ゼラチン濃度が1.0質量%、pHが7.5の0.01mol/lリン酸緩衝生理食塩水溶液をゲル化させた基材について、動的粘弾性測定法により測定した融点が30〜45℃の範囲にあることを特徴とする、試料を包埋可能な高融点ゼラチン組成物を提供する。
第二発明では、アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、融点以下の温度に冷却することを特徴とする、高融点ゼラチン組成物の製造方法を提供する。
第三発明では、アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、γ鎖を単離し、さらに単離したγ鎖中のプロリン残基をヒドロキシル化することを特徴とする、高融点ゼラチン組成物の製造方法を提供する。
第四発明では、アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、融点以下の温度に冷却して得られたゲル状の高融点ゼラチン組成物に、試料が包埋されてなることを特徴とする、試料包埋ゲル状組成物を提供する。
第五発明では、アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、γ鎖を単離し、さらに単離したγ鎖中のプロリン残基をヒドロキシル化して得られたゲル状の高融点ゼラチン組成物に、試料が包埋されてなることを特徴とする、試料包埋ゲル状組成物を提供する。
本発明は、以下詳細に説明する通りであり、次のような特別に優れた効果を奏し、その産業上の利用価値はきわめて大である。
1.本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、30℃以下のみでなく30℃より高い組成物の融点までの温度範囲でゲル状態を維持することができるので、各種細菌、細胞、組織などの試料を安定した状態で包埋することができる。
2.本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、ゲル状を呈する基材中で培養した各種細菌、細胞、組織などの試料を、基材ごと冷却することにより基材に包埋することができ、包埋した状態で所望の場所に安全に搬送できる。
3.本発明に係る高融点ゼラチン組成物の一つの製造方法は、アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、融点以下の温度に冷却する操作のみであり、化学反応などを必要としないので、簡便かつ有利な製造方法である。
4.本発明に係る高融点ゼラチン組成物の他の製造方法は、アテロコラーゲンを熱変性させた後、または、前記熱変成後の溶液から単離したγ鎖に含まれるアミノ酸配列:Gly−X−Pro(Xは任意のアミノ酸残基を表す)のPro残基をヒドロキシル化した後に冷却する操作のみであり、遺伝子組換え操作を必要としないので、簡便かつ有利な製造方法である。
5.本発明に係る試料包埋ゲル状組成物は、上記第二発明の方法により製造した高融点ゼラチン組成物を用いることにより、各種細菌、細胞、組織などの試料を安定した状態で包埋でき、かつ、包埋された試料は、一般的な細胞培養温度である37℃に加温してゲルを溶解させるのみで単離することができる。このため、試料を単離する際にタンパク質分解酵素処理を行う必要がなく、試料に損傷を与えることがない。
6.本発明に係る試料包埋ゲル状組成物は、上記第三発明の方法により製造した高融点ゼラチン組成物を用いることにより、一般的な細胞培養温度である37℃においても試料を包埋した状態を維持することができる。このため、三次元包埋培養の基材として用いることができる。
7.本発明に係る試料包埋ゲル状組成物は、基材として高融点ゼラチン組成物を使用しているため、1.0〜20.0質量%の広い範囲で基材濃度を調整することができる。このため、コラーゲンゲルと異なり、試料包埋ゲル状組成物の硬さを自在に制御することができる。
アテロコラーゲンを原料とし、高融点ゼラチンを製造する手順の一例を示した模式図である。 市販されているゼラチンの分子鎖の一例の模式図である。 試料包埋ゲル状組成物を調製し、搬送し、試料を分離・単離する手順の一例を示した模式図である。 貯蔵弾性度(G’)の温度による変化を示す図の例であり、実施例1の高融点ゼラチンおよび比較例2の市販ゼラチンの測定図を示した。 試料包埋ゲル状組成物から単離された細胞を、フローサイトメトリーにより解析する図の一例である。(5−1)は、各細胞について前方散乱光(FSC)と側方散乱光(SSC)を測定して得られた二次元分布図(スキャッタグラム)。P1は、(5−2)において解析対象とする細胞に対して設定されたゲートを示す。(5−2)は、ゲート(P1)内の細胞についてのヒストグラムで、横軸がPI染色の強度であり、縦軸が細胞数を示す。
以下、本発明を詳細に説明する。「ゼラチン」とは、ウシ、ブタ、ニワトリ、サメなどの生体から採取されたコラーゲンを熱変性したものである。本発明に係る高融点ゼラチンは、好ましくはアテロコラーゲンを原料として製造される。「アテロコラーゲン」は、コラーゲン分子のN末端およびC末端に存在するテロペプチドと呼ばれる主要抗原部位を、分解・除去したものであり、酵素処理により製造することができる。原料に外来性の生体分子を含まないようにするには、洗浄、脱脂、酸処理、石灰処理などを適宜組合せることによって可能である。
本発明に係る高融点ゼラチン組成物の製造方法の一例を、以下に挙げる。本発明に係る高融点ゼラチン組成物を製造するには、まず、アテロコラーゲンの濃度が1質量%未満の水溶液を調製し、この水溶液を濃縮して1〜2質量%の濃度とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、融点以下の温度に冷却すること方法によって製造することができる。この際使用できる水は超純水であり、少量のリン酸緩衝剤、生理食塩水、およびpHを2.5〜3.5程度に調整する希塩酸などのpH調整剤を添加したものをいう。
第一の例では、まず、アテロコラーゲンの濃度が1質量%未満のアテロコラーゲン水溶液を調製する。アテロコラーゲンの濃度が1質量%以上であると、常温では水溶液の粘度が高くなり、調製が困難である。次いで、アテロコラーゲンの濃度が1質量%未満の水溶液を加温下に濃縮して1〜2質量%とする。濃縮操作は加温下に行うので、アテロコラーゲンの濃度が1質量%を越えても水溶液の粘度が高くならない。アテロコラーゲン水溶液の濃度を1〜2質量%として調製された濃縮液から作製した高融点ゼラチン組成物は、融点以下に冷却することにより、5〜20分で容易にゲル化する。濃度が1質量%未満のアテロコラーゲン濃縮液から作製した高融点ゼラチン組成物は、融点以下に冷却してもゲル化しない。また、濃縮後のアテロコラーゲン水溶液のアテロコラーゲン濃度が2質量%を超えると、濃縮液の粘度が極めて高くなり、濃縮作業中にゲル化してしまうため、それ以上の濃縮は困難である。アテロコラーゲン水溶液は、加温下に遠心分離法によって濃縮することができる。アテロコラーゲン水溶液の濃縮は、35〜55℃の温度範囲で行うことが好ましい。35℃未満の温度では、溶液がゲル化してしまうため濃縮が困難である。また、55℃を超える温度では、コラーゲンが熱変性してしまうため、好ましくない。
次いで、得られたアテロコラーゲン濃縮液について熱変性を行い、アテロコラーゲン熱変性物(ゾル状濃縮液)を得る。熱変性は、45〜55℃の温度範囲で、5〜20分間保持することによって行う。温度が45℃未満では、熱変性が起こり難く、温度が55℃を超えると熱変性が進み過ぎるため、いずれも好ましくない。
次いで、得られたアテロコラーゲンゾル状濃縮液を冷却し、ゲル化することにより、高融点ゼラチン組成物を得ることができる。冷却は、好ましくは融点以下の温度で行う。冷却温度が融点を越えると、濃縮液をゲル化することが困難となるので好ましくない。冷却時間は、冷却温度、アテロコラーゲンの濃度、濃縮液のpHなどにより変わり、5〜20分の範囲で選ぶのが好ましい。
本発明において使用されるアテロコラーゲンは、好ましくは酸可溶性アテロコラーゲンである。「酸可溶性アテロコラーゲン」とは、pH4.5以下の酸性溶液により可溶化され、抽出されたアテロコラーゲンである。酸可溶性アテロコラーゲンは、不溶性コラーゲンをその濃度10%以下にして水に分散させ、酸性溶液を加えてpH4.5以下として溶解させた後、緩衝液を加えてpH6.5〜7.5として、ペプシンなどのタンパク質分解酵素を加えてテロペプチドを消化することにより調製する。酸性溶液には、0.001〜0.01N塩酸、0.1〜0.3Mクエン酸、0.5M酢酸(pH3.5〜3.7)などを用いることができる。緩衝液には、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液などを用いることができる。酸可溶性アテロコラーゲンは、中性条件で可溶性としたものに比べ、高分子量の会合体を多く含むため、ゲル基材の融点が高くなるので好ましい。
図1に、高融点ゼラチンを製造する手順の一例を模式図として示した。図1において、矢印は操作手順を示し、1はコラーゲンへリックス分子鎖、2、3はコラーゲンへリックス分子鎖の両端にあるテロペプチドであり、4はアテロコラーゲンの分子構造である。テロペプチド2、3は、蛋白質分解酵素のペプシン、キモシン、カテプシンD、レニンなどによる酵素処理により分解、除去してアテロコラーゲン4とすることができる。アテロコラーゲン4を、45〜55℃の温度範囲の酸性水溶液中で約10分間静置して熱変性することにより、コラーゲンのらせん構造が壊れ、α鎖5、β鎖6、γ鎖7などの高分子量ゼラチン分子の混合物であるアテロコラーゲン熱変性物が得られる。このアテロコラーゲン熱変性物を35℃以下、特に20〜35℃の温度範囲に冷却することにより、図1の8に示したように、分子鎖の一部のらせん構造が巻き戻り、分子量が異なる多数のアテロコラーゲン分子が混合した、高融点ゼラチン組成物が得られる。図2は、市販されているゼラチンの分子構造の一例の模式図である。市販のゼラチンは、生体試料から抽出する際の熱処理等によりゼラチン分子がランダムに切断されるため、低分子量のゼラチン分子を多く含む。
本発明に係る高融点ゼラチン組成物の製造方法の他の例としては、次に記載の方法がある。アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を45〜55℃の温度範囲で熱変性させてアテロコラーゲンゾルを得た後、さらにアテロコラーゲンゾルからγ鎖を単離する。「γ鎖」とは、約100kDaの分子量を持つコラーゲンペプチド鎖(α鎖)の3量体を意味する。3量体のγ鎖を他の成分との混合物から単離するには、濃縮液を60℃に加温してゲルろ過クロマトグラフィーにより分画する方法が挙げられる。γ鎖を単離して用いることにより、ゲル化の際に分子鎖がらせん構造に巻き戻りやすくなり、熱安定性が高く熱分解し難く、低分子量化し難くい高融点ゼラチン組成物を得ることができる。
次いで、単離したγ鎖中のプロリン残基をヒドロキシル化する。γ鎖には、Gly−X−Yのアミノ酸配列が繰り返し連続して含まれており、XおよびYは任意のアミノ酸残基であるが、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン、グルタミン酸などが多く含まれ、疎水的アミノ酸はほとんど含まれない。本発明に係る高融点ゼラチン組成物の製造方法では、Yがプロリン残基であるとき、当該プロリン残基について特異的にヒドロキシル化を行う。γ鎖内の架橋結合にはYに位置するヒドロキシプロリンが必須であり、Yをヒドロキシプロリンとすることにより、分子鎖が三重らせんをきつく巻くことが可能となる。その結果、分子鎖のらせん構造が安定化され、より一層熱安定性に優れた高融点ゼラチン組成物を得ることができる。ヒドロキシプロリンは分子内にOH基を有するので、分子内での水素結合、またはHOを介しての水素結合が形成され易くなり、熱安定性に優れる。したがって、熱分解し難く、低分子量化を避けることができる。プロリン残基のヒドロキシル化は、プロリルヒドロキシラーゼを用いた酵素反応によることができる。
本発明に係る高融点ゼラチン組成物の製造方法では、γ鎖は、熱変成後のアテロコラーゲン濃縮液を60℃に加温してゲルろ過クロマトグラフィーにより分画して単離された分子量280〜320kDaのペプチドであるのが好ましい。分子量280kDa未満の画分には、α鎖やβ鎖が分画され、γ鎖は含まれない。また、分子量320kDaを超える画分には、γ鎖にα鎖やβ鎖の分子が凝集して、γ鎖以外の成分が混在するので、いずれも好ましくない。単離後のペプチドの分子量は、例えばSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定、確認することができる。
アミノ酸配列Gly−X−Y中、Yに位置するプロリン残基のヒドロキシル化は、プロリル−4−ヒドロキシラーゼを用いた酵素反応により行うのが特に好ましい。プロリル−4−ヒドロキシラーゼを用いることにより、Yに位置するプロリン残基を特異的にヒドロキシル化することができ、分子鎖のらせん構造の安定化が可能となる。
上記製造方法により得られた本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、融点が30〜45℃の温度範囲である高融点ゼラチン組成物である。本発明において「融点」とは、動的粘弾性測定法(Chiou,B.et al., Polymer, 2006, Vol.47,No.18,pp.6379−6386に記載の方法に準拠)により、pH7.5の0.01mol/lリン酸緩衝生理食塩水を用いて調製したゼラチン濃度1.0質量%のゲルについて、貯蔵弾性率G’(Pa)の温度変化を測定した結果から算出した値を意味する。融点が30℃未満であると、細菌、細胞、組織などの試料の生理機能が著しく低下するため、試料を包埋する用途には適しない。また、融点が45℃を超えると、ゲルを溶解させた際に、包埋した試料が熱ショックによる傷害を受けるので、いずれも好ましくない。なお、動的粘弾性測定法の詳細は、後記(b)に記載した。
本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、圧縮試験法により測定したヤング率が1〜50kPaであることが好ましい。本発明において「ヤング率」とは、ゲルの硬さを意味し、機械的性質を測定する圧縮試験法(Yunoki S.et al., Biomacromolecules,2008,Vol.9,pp.879−885に記載の方法に準拠)により、pH7.5の0.01mol/lリン酸緩衝水溶液を用いて調製したゼラチン濃度1.0質量%のゲルについて、温度25℃において測定して得られた値を意味する。ヤング率が1kPa未満であると、ゲルが形状を維持することができない。一方、ヤング率が50kPaを超えると、ゲル中に酸素や栄養素などが行き渡らず、包埋した試料に損傷を与えるので、いずれも好ましくない。また、本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、30℃で5時間静置することにより、ゼラチン分子がらせん構造を回復し、自己組織化することにより、コラーゲン様の線維構造を形成する。らせん構造の回復したゼラチン分子が多ければ、自己組織化の割合も高くなり、ゲルが硬くなる。なお、圧縮試験法の詳細は、後記(c)に記載した。
本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、4〜45℃の温度範囲でゲル状態を維持するのが好ましい。本発明において「ゲル状態を維持する」温度とは、上記の動的粘弾性測定法により求められた融点以下の温度を意味する。4℃未満の温度範囲では、ゲルが凍結してしまうため、ゲル状態を維持できない。一方、ゲル状態を維持する温度が45℃を超えると、ゲルを溶解させた際に包埋した試料に損傷を与えるので、好ましくない。
本発明に係る高融点ゼラチン組成物に、種々の試料を包埋することにより、試料包埋ゲル状組成物を調製することができる。本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、特に細胞や組織などの試料を包埋する用途に極めて有用である。第二発明の方法で製造した高融点ゼラチン組成物は、融点が30〜40℃の温度範囲であるので、これを用いて試料包埋ゲル状組成物を調製した場合には、細菌や細胞を包埋して他所に搬送し、搬送先で一般的な培養温度に加温するだけでゼラチンゲルを溶解させることができ、試料を容易に単離し、回収することができる。従来技術のコラーゲンゲルのように、包埋した試料を単離、回収する際に、タンパク質分解酵素処理をする必要がないので、試料に損傷を与えることがない。また、第三発明の方法で製造した高融点ゼラチン組成物は、第二発明の方法で製造した高融点ゼラチン組成物よりも融点が高いので、これを用いて試料包埋ゲル状組成物を調製した場合には、一般的な細胞培養温度においてもゲル状態が維持されるため、三次元培養の基材として極めて有用である。
また、本発明に係る試料包埋ゲル状組成物は、高融点ゼラチン組成物濃度を1〜20質量%とすることができる。ゼラチン溶液は、コラーゲンと異なり粘性が低いため、限外ろ過によって高濃度に濃縮することが可能である。ゼラチン溶液の濃縮は、分画分子量(MWCO:Molecular Weight Cut Off)50kDa以下の限外ろ過膜を用いて、一般的な限外ろ過法によるタンパク質溶液の濃縮プロトコールにしたがって行うことができる。
本発明に係る試料包埋ゲル状組成物に包埋された試料は、試料包埋ゲル状組成物を、好ましくは緩衝液に浸し回収される。ここでいう「緩衝液」は、通常用いられている緩衝液であってよく、例えば、リン酸水溶液、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)緩衝液、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N−2−エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液などが挙げられる。試料包埋ゲル状組成物を緩衝液に浸し、加温して試料包埋ゲル状組成物をゾル化し、同時にゼラチンを希釈して粘度を低下させ、包埋された試料の回収を容易にすることができる。
本発明に係る試料包埋ゲル状組成物中に包埋される試料は、好ましくは各種細菌、細胞、組織または食品である。細菌の例としては、例えば、大腸菌、枯草菌、シアノバクテリア、ウェルシュ菌、腸球菌、乳酸菌、酢酸菌、納豆菌、ブドウ球菌、メタン菌、高度好塩菌、高熱好酸菌、超好熱菌などが挙げられる。細胞の例としては、例えば、繊維芽細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨芽細胞、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、人工多能性細胞、胚性幹細胞などが挙げられる。組織としては、例えば、角膜組織、心筋組織、骨組織、軟骨組織、筋組織、血管組織、肝組織、神経、腸管組織、粘膜組織などが挙げられる。食品としては、例えば、即席食品、野菜、果実、消化を活性化する繊維性食品、機能性食品などが挙げられる。試料は、ここに例示したものに限定されるものではない。
試料包埋高融点ゼラチン組成物中に包埋される試料の量は、種々の条件、例えば、包埋の目的、試料の種類などによって変動するが、本発明の目的を効果的に達成できる範囲内の量で、適宜選ぶことができる。例示すれば、高融点ゼラチン1000μl当たり10〜700μlの範囲で選ぶことができる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下記載した例に限定されるものではない。
実施例において調製した高融点ゼラチン組成物と、比較例で使用した以下に記載の市販品3種類につき、以下の(a)に記載した方法で、三次元培養用基材としての適正試験を行い、試験結果を表−1に記載した。比較例で使用した3種類の市販品の詳細は、次のとおりである。
(1)コラーゲン(日本ハム社製、商品名:ブタ皮膚製コラーゲンゲル溶液)
(2)ゼラチン(MPバイオメディカルス社製、商品名:ゼラチンTYPE−A)
(3)ペプチドハイドロゲル(日本BD社製、商品名:BD PuraMatrix(TM)
(a)三次元培養用基材としての適正試験
(a−1)試料との均一な混合の難易性
下記の実施例に記載の方法により得た高融点ゼラチン組成物と、比較例の市販品3種類の基材について、pH7.0の0.01mol/lリン酸緩衝生理食塩水溶液で、温度25℃とした濃度3質量%の基材水溶液と試料との混合を試み、均一な混合の難易性を評価した。試料は、骨芽細胞様細胞株MC3T3−E1(DSファーマバイオメディカル社製)を用い、基材1mlあたり7.1×10個となるように混合した。基材ゲルと試料との混合物を振とうし、振とう後の状態を目視観察し、観察結果を表−1に記載した。基材に試料が均一に混合でたものを○、均一に混合できないものを×として表示した。基材ゲルに試料を均一に混合できるものが、本発明の目的を達成できる。
(a−2)ゲルの硬さ(ヤング率)制御
下記の実施例に記載の方法により得た高融点ゼラチン組成物と、比較例の市販品について、0.01mol/lリン酸緩衝生理食塩水(1×PBS)(pH7.5、シグマアルドリッチ社製)に溶解させた基材濃度は2質量%および10質量%の溶液を調製した。この溶液を、容量が35mmのシャーレに2ml入れて、4℃に冷却してゲル化させて、25℃で1時間静置して得た試料について、後記する圧縮試験法によりヤング率を測定し、ゲルの硬さを評価し、結果を表−1に記載した。測定結果の表示は、基材濃度2質量%のゲルと濃度10質量%のゲルとでヤング率の値が変わったものを○、実験できないもの(濃縮不能で濃度を調製できないもの、測定用試料が作成できなかったもの)を×と表示した。ゲルの硬さを制御できるものが、包埋する試料に適した硬さの基材を提供でき、発明の目的を達成できる。
(a−3)試料包埋工程
図3は、後記する実施例の高融点ゼラチン組成物、および比較例に記載の基材で基材ゾルを調製し、これら基材ゾルに試料としての細胞を注入し、細胞の試料を包埋したゲル状組成物を調製し、これを元の場所とは異なる所望の場所に搬送し、搬送先で細胞の試料を単離する手順の一例を示した模式図である。図3において、9は試験管、10はゾル、11はピペット、12は細胞、13はキャップである。(3−1)は、基体ゾル10に分散させた細胞をピペットで注入する状態であり、(3−2)は、基体ゾル10に分散させた後にキャップを被せた試験管全体を冷却し、基体ゾルをゲル化して細胞の試料をゲルに包埋した状態であり、この状態で元の場所とは異なる所望の場所に搬送することができる。(3−3)は、搬送先で試験管全体を加温して基材のゲルをゾル化し、細胞の試料を基材から分離・単離する状態であり、分離・単離した細胞の試料は、要すればさらに培養に供することができる。
(b)動的粘弾性測定法による融点の測定
動的粘弾性測定装置(Thermofisher Scientific社製、型式:MARS III)を使用して測定した。実施例の高融点ゼラチン組成物および比較例の基材について、pH7.5の0.01mmol/lリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチ社製)により基材濃度が1.0質量%のゾルを調製し、このゾルを60℃に加温した状態でサンプルステージに3.5ml充填し、10分かけて4℃にするという速度で冷却してゲル化させ、そのままの状態で10分間静置した。その後、1℃/分の昇温速度で50℃まで昇温した。この際、縦軸に貯蔵弾性率G’(Pa)を、横軸に温度(℃)として両者の関係の変化状況を図面にプロットし、4℃から昇温したとき、4℃から貯蔵弾性率が1Pa以下になるまでの温度のうち、線形領域で近似曲線を求めて、その近似曲線の貯蔵弾性率が0Paとなるときの温度を融点とした。図4に、後記する方法で調製した実施例1の高融点ゼラチン組成物および比較例2のゼラチンの測定図を示した。測定値を、表−2に記載した。
融点を測定する際の上記動的粘弾性測定装置の操作条件の詳細は、次のとおりである。
・センサー:内径60mmのダブルコーン型
・計測モード:Controlled Deformation、Oscillation
・変型量(回転量):0.01
・剪断速度:1Hz
(c)圧縮試験法によるヤング率(ゲルの硬さ)の測定
圧縮試験装置(Stable Micro Systems Ltd.製、TA.XT−Plus Texture Analyser)を使用してヤング率を測定し、ゲルの硬さを評価した。後記する実施例1で得られた高融点ゼラチン組成物、前記した比較例2の基材を、pH7.5の0.01mol/lリン酸緩衝水溶液(1×PBS)(シグマアルドリッチ社製)に溶解させた基材濃度が1.0質量%の水溶液を、容量が35mmのシャーレに2ml入れ、4℃に5分間冷却し、さらに30℃で5時間静置し、25℃で1時間静置して得られた試験試料について、圧縮試験法によりヤング率を測定した。ヤング率は、ひずみ0〜5%まで試験試料を圧縮したときの応力−ひずみ曲線の傾きから求めた(kPa)。縦軸に応力を、横軸にひずみをプロットし、線形領域で近似曲線を求めて、その傾きをヤング率とし、表−2にその値を示記載した。実験できないもの(水溶液がゲル化しなかったもの)を×と表示した。
圧縮試験装置の操作条件の詳細は、次のとおりである。
・Probe:5mm Cyl.Stainless
・Pre-Test Speed:0.20mm/sec
・TestSpeed:0.20mm/sec
・Post-Test Speed:1.00mm/sec
・Target Mode:Strain
・Strain:5%
・Triger Type:Auto(Force)
・Triger Force:0.5g
(d)ゲル状態維持温度
ゲルが凍結しない4℃から、上記(b)に記載の方法で測定した融点未満の温度を、ゲル状態維持温度とした。結果を、表−2に記載した。
(e)試料包埋ゲル状組成物から単離された細胞の蛍光顕微鏡による観察
後記する実施例1、比較例1および比較例2の基材を、細胞培養液(10%ウシ血清/αMEM(シグマアルドリッチ社製、商品名:イーグル最小必須培地Alpha Modification)、緩衝液(水酸化ナトリウム(和光純薬社製)50mM、炭酸水素ナトリウム(和光純薬社製)260mM、HEPES200mM(同仁化学研究所社製))と混合して、基材濃度が3質量%になるように調製し、温度を30℃として基材ゾルを調製した。容量が5mlのチューブに基材ゾル0.5mlを秤量し、図3に示した手順で、試料の骨芽細胞様細胞MC3T3−E1(DSファーマバイオメディカル株社製)を3×10個注入混合し、8℃に冷却して基体をゲル化し、試料包埋ゲル状組成物を得た。国内における他所への搬送を想定して、この試料包埋ゲル状組成物をCOインキュベーター(5%CO、30℃)中に24時間静置した後、基体ゲルの10倍量の細胞培養液(上に同じ)を加え、容量が50mlチューブに移した。そのチューブを37℃の恒温槽において1時間振とうし、試料包埋ゲル状組成物をゾル化させた後、遠心分離機(日立工機社製、型式:himacCR−GIII)により1000rpmで3分間遠心し、試料の細胞を回収した。
回収した3×10個の細胞を、0.5mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))(和光純薬工業社製、商品名:ダルベッコりん酸緩衝生理食塩末(Ca,Mg不含))に再懸濁した。得られた細胞懸濁液200μlに対し、2μmol/lのプロピジウムアイオダイド(PI)(同仁化学研究所社製、Cellstain(R)− PI)/PBS溶液を100μl加え、37℃で15分静置してPI染色を行った。また、試料包埋ゲル状組成物をゾル化させ、細胞を顕微鏡観察できたものを○、試料包埋ゲル状組成物をゾル化できないために細胞を顕微鏡観察できなかったものを×として表−3に記載した。
(f)試料包埋高融点ゼラチン状組成物から単離された細胞のフローサイトメトリーによる細胞生存率の評価
細胞の生存率を定量的に評価するために、フローサイトメトリーによる測定を行った。包埋された細胞の単離は、上記(e)に記載の方法で行った。細胞を包埋した高融点ゲル状組成物を、COインキュベーター(5%CO、30℃)中に24時間静置した。その後、1%コラゲナーゼ(和光純薬社製)および0.2%トリプシンインヒビター(和光純薬社製)を含むPBS(−)を10ml加えた。コラゲナーゼの最終濃度が0.02%になるようにPBS(−)で希釈して調整後、37℃の恒温槽で30分間振とうして細胞塊を分散させた。その後、上記(e)と同様の手順によってPI染色を行った。
染色後の細胞は、1×10個/mlの濃度になるようにPBS(−)に懸濁し、この懸濁液について、フローサイトメトリーによる解析を行った。側方散乱(SSC)と前方散乱(FSC)によるドットプロットを表示して、中央の密な集団についてゲーティングした(後記図5の(5−1)、P1参照)。この際、細胞の大きさを示すFSCを、中央の集団のFSCの上限120の1.5倍である150〜180になるようにゲーティングし、2個以上の細胞が付いている細胞塊を除外した。次いで、ゲートP1に含まれる細胞について、PI染色強度に基づくヒストグラムを取得し、PI染色陰性の細胞についてゲーティングし(後記図5の(5−2)、P2参照)、生細胞数をカウントした。細胞の生存率は、次式に従って計算した。細胞の生存率は、値が高いほど好ましく、75%以上が好ましい。
{細胞生存率(%)}={1−(死細胞数)/(全細胞数)}×100
図5は、試料包埋ゲル状組成物から単離された細胞を、フローサイトメトリーにより解析する図の一例である。(5−1)は各細胞について前方散乱光(FSC)と側方散乱光(SSC)を測定して得られた二次元分布図(スキャッタグラム)であり、P1は、(5−2)において解析対象とする細胞に対して設定されたゲートを示す。(5−1)において横軸がPI染色の強度であり、縦軸が細胞数を示す。細胞が多く分布する領域に対してゲート(P1)を設定し、ゲート内の細胞についてフローサイトメトリー解析を行った結果を(5−2)に示した。(5−2)において、横軸が励起波長536nm、蛍光波長617nmにより測定したPI染色の強度であり、縦軸が細胞数を示す。他の実施例、比較例の試料包埋ゲル状組成物についても同様の試験を行い、細胞生存率(%)を表−3に記載した。実験しなかったものを、×として記載した。
(g)ゼラチン包埋された細胞の組織学的評価
上記(e)に記載の方法で調製した細胞包埋ゲル状組成物を、COインキュベーター(5%CO、30℃)中に24時間静置した。その後、4%パラホルムアルデヒド/PBSに浸し、4℃で18時間静置した。4%パラホルムアルデヒド/PBSを取り除いた後、細胞包埋ゼラチン状組成物をPBS(−)により洗浄し、エタノールにより脱水し、レモゾール(和光純薬製)により透徹し、パラフィン包埋した。パラフィン包埋された細胞包埋ゼラチン状組成物を、ミクロトームにより、厚さ8μmに薄切し、スライドガラス上にマウントした。レモゾールによりパラフィンを除去した後、エタノールにより段階的に洗浄してレモゾールを除去し、その後水洗した。得られたスライド標本を、ヘマトキシリン・エオジン染色後、光学顕微鏡(オリンパス社製、型式:BX51)により観察し、結果を表−3に記載した。すべてのスライド標本について細胞が均一に分散していたものを○、全標本について細胞が均一に分散できない、ゾル化のために評価できなかった、実験しなかったものを×として記載した。
[実施例1]
<高融点ゼラチン(融点:33℃の調製>
酸可溶性アテロコラーゲン(日本ハム社製、ブタ皮膚由来コラーゲン)を分子量分画フィルター(ミリポア社製、アミコンウルトラ−15、分子量50kDa以上用)に入れて遠心分離機(日立工機社製、型式:himac CRG III)で濃縮し、1質量%の濃度になるように調製した。アテロコラーゲン濃度が1.0質量%の水溶液を60℃で10分間加熱し、アテロコラーゲンを熱変性させて、1.0質量%アテロコラーゲンゾルを得た。得られたゾルを、8℃で10分間冷却してゲル化させ、高融点ゼラチン組成物を得た。得られた高融点ゼラチン組成物につき、上記(b)〜(g)の特性を評価し、結果を表−2および表−3に記載した。
[比較例1〜比較例3]
比較例の基材は、前記した(1)〜(3)の市販品である。実施例1に記載の例において、高融点ゼラチンを(1)コラーゲン(比較例1)、(2)ゼラチン(比較例2)、または、(3)ペプチドハイドロゲル(比較例3)に変えた他は、実施例1におけると同様の手順で、特性評価用試料を調製した。得られた特性評価用試料につき、上記(b)〜(g)の特性を評価し、結果を表−2および表−3に記載した。
<三次元培養用基材としての適正試験>
上記実施例1、比較例1〜比較例3の基材につき、上記(a−1)「試料との均一な混合の難易性」および(a−2)「ゲルの硬さ(ヤング率)制御」を、上に記載の手順で試験し、その結果を、表−1に記載した。
上記表−1より、次のことが明らかとなる。
1.本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、試料との均一な混合が容易であり、かつ、ゲルの硬さ制御も容易であることから、試料包埋用の基材として適している可能性がある。
2.一方、比較例1のコラーゲンおよび比較例3のペプチドハイドロゲルは、試料との均一な混合が困難であり、ゲルの硬さも制御できないため、試料包埋用の基材には適さない。
3.比較例2のゼラチンは、試料との均一な混合が容易であり、ゲルの硬さ制御も容易であるため、試料包埋用の基材として適している可能性がある。
上記表−1の試験結果から、試料包埋用の基材として適している可能性があることが明らかとなった実施例1および比較例2の基材につき、(b)融点および(d)ゲル状態維持温度を測定した。また、実施例1および比較例2の基材につき、ゼラチン濃度を変えた基材ゲルを調整し、この基材ゲルにつき(c)ゲルの硬さ(ヤング率)した。測定結果を表−2に記載した。
表−2から、次のことが分かる。
1.本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、試料を安定して包埋維持できる30〜45℃の温度範囲の融点を有し、この温度でゲル状態を維持する。
2.本発明に係る高融点ゼラチン組成物は、1.0〜10.0%の濃度範囲でゲルを調製でき、基材の硬さを制御することができるため、試料包埋用の基材として適している。
3.一方、比較例2のゼラチンは、融点が低く、一般的な細胞が安定して生育可能な30℃以上の温度ではゲル状態を維持できず、基材の硬さの制御もできないため、試料包埋用の基材には適さない。
実施例1、比較例1、および比較例2の試料につき、上に記載した(e)ゼラチン包埋された細胞の蛍光顕微鏡による観察評価、(f)ゼラチン包埋された細胞のフローサイトメトリー解析による細胞生存率(%)、および(g)ゼラチン包埋された細胞の組織学的評価試験を行った。測定結果を、表−3に記載した。
表−3より、次のことが明らかになる。
1.本発明の細胞包埋ゼラチン組成物は、包埋された細胞が搬送工程において偏ることなく、均一に分布した状態で細胞を維持することができる。
2.本発明の細胞包埋ゼラチン組成物によって所望の場所に搬送された後に単離された細胞は、高い生存率を示す。
本発明に係る高融点ゼラチンは、種々の細胞の培養実験の基材として使用できる。また、試料包埋ゼラチン組成物は、試料の細胞や組織を安定した状態で、所望の場所に極めて容易に搬送できる。
1:コラーゲンへリックス分子鎖
2、3:テロペプチド
4:アテロコラーゲンの分子構造
5:α鎖
6:β鎖
7:γ鎖
8:分子鎖が螺旋状になりゲル化した状態の模式図
9:試験管
10:基体
11:ピペット
12:試料
13:キャップ
14:実施例1の高融点ゼラチンの融点測定曲線
15:比較例2のゼラチンの融点測定曲線

Claims (16)

  1. ゼラチン濃度が1.0質量%、pHが7.5の0.01mol/lリン酸緩衝生理食塩水溶液をゲル化させた基材について、動的粘弾性測定法により測定した融点が30〜45℃の範囲にあることを特徴とする、試料を包埋可能な高融点ゼラチン組成物。
  2. ゼラチン濃度が1.0質量%、pHが7.5の0.01mol/lリン酸緩衝生理食塩水溶液をゲル化させた基材について、温度25℃において圧縮試験法により測定したヤング率が1〜50kPaである、請求項1に記載の高融点ゼラチン組成物。
  3. 温度が4〜45℃の範囲で基材がゲル状態を維持するものである、請求項1または請求項2に記載の高融点ゼラチン組成物。
  4. アテロコラーゲンを原料として製造されたものである、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の高融点ゼラチン組成物。
  5. アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を、5〜20分間、45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、融点以下の温度に冷却することを特徴とする、高融点ゼラチン組成物の製造方法。
  6. アテロコラーゲンが酸可溶性アテロコラーゲンであり、前記アテロコラーゲン水溶液がpH2.5〜3.5である、請求項5に記載の高融点ゼラチン組成物の製造方法。
  7. アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を、5〜20分間、45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、γ鎖を単離し、さらに単離したγ鎖中のプロリン残基をヒドロキシル化することを特徴とする、高融点ゼラチン組成物の製造方法。
  8. γ鎖が、前記熱変成後の濃縮液を40〜50℃に加温してゲルろ過クロマトグラフィーにより分画して得られた分子量280〜320kDaのペプチドである、請求項7に記載の高融点ゼラチン組成物の製造方法。
  9. ヒドロキシル化が、プロリル−4−ヒドロキシラーゼにより、γ鎖に含まれるアミノ酸配列:Gly−X−Y(ここで、XおよびYは任意のアミノ酸残基を表す)のYがプロリン残基であるとき、当該プロリン残基を特異的にヒドロキシル化するものである、請求項7または請求項8に記載の高融点ゼラチン組成物の製造方法。
  10. アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を、5〜20分間、45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、融点以下の温度に冷却して得られたゲル状の高融点ゼラチン組成物に、試料包埋することを特徴とする、試料包埋ゲル状組成物の製造方法
  11. アテロコラーゲン濃度が1質量%未満の水溶液を濃縮して1〜2質量%とし、この濃縮液を、5〜20分間、45〜55℃の温度範囲で熱変性させた後、γ鎖を単離し、さらに単離したγ鎖中のプロリン残基をヒドロキシル化して、得られたゲル状の高融点ゼラチン組成物に、試料包埋することを特徴とする、試料包埋ゲル状組成物の製造方法
  12. 請求項1ないし請求項4に記載の高融点ゼラチン組成物に、試料が包埋されてなることを特徴とする、試料包埋ゲル状組成物。
  13. 高融点ゼラチン組成物濃度が1〜20質量%である、請求項12に記載の試料包埋ゲル状組成物。
  14. 試料が、緩衝液と混合されたものである、請求項12または請求項13に記載の試料包埋ゲル状組成物。
  15. 試料が、細菌、細胞、組織または食品である、請求項12ないし請求項14のいずれか一項に記載の試料包埋ゲル状組成物。
  16. 試料包埋ゲル状組成物を、水または水と緩衝液の混合液に浸し、試料包埋ゲル状組成物がゾル化するまで加温し、試料を試料包埋ゲル状組成物から分離・回収可能とされてなる、請求項12ないし請求項15のいずれか一項に記載の試料包埋ゲル状組成物。
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