以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
本発明の一実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置の油圧回路構成を図1に示す。以下、この図を参照して、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置の構成について説明する。
車両用ブレーキ制御装置にはハイドロブースタが用いられている。図1に示されるように、マスタシリンダMC及びレギュレータRGが備えられ、これらがブレーキペダルBPの操作に応じて駆動される。レギュレータRGには補助液圧源ASが接続されており、これらはマスタシリンダMCと共に低圧リザーバRSに接続されている。
補助液圧源ASには、液圧ポンプHP及びアキュムレータAccが備えられている。液圧ポンプHPは、電動モータMによって駆動されるもので、低圧リザーバRSのブレーキ液を吸入吐出する。この液圧ポンプHPが吐出したブレーキ液がアキュムレータAccに供給され、アキュムレータAccによる蓄圧がなされる。これにより、補助液圧源ASでは、液圧ポンプHPおよびアキュムレータAccにより決められた下限圧から上限圧で規定される所定の圧力範囲内のブレーキ液圧が常に生成される。この補助液圧源ASの出力液圧が動圧としてレギュレータRGに入力され、レギュレータRGにてレギュレータ圧が発生させられると共に、マスタシリンダ圧の調圧が行われる。
電動モータMは、アキュムレータAcc内のブレーキ液圧(流体圧力)が所定の下限値を下回ることに応答して駆動されるようになっており、またアキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ることに応答して停止させられる。このようにアキュムレータAccに蓄積されたブレーキ液圧が、出力液圧として、逆止弁CV6を介してレギュレータRGに供給される。
レギュレータRGは、補助液圧源ASの出力液圧を入力し、マスタシリンダMCの出力液圧をパイロット圧として、これに比例したレギュレータ液圧に調圧するものである。このレギュレータ液圧は、例えば後述する液圧監視手段に相当する圧力センサ11によって検出され、常に所定範囲内に保たれる。なお、このレギュレータRGの基本的な構成については周知なものであるため、ここでは説明を省略する。
マスタシリンダMCと前輪FR、FLのホイールシリンダ(第1、第2ホイールシリンダ)Wfr、Wflの各々を接続することによりマスタシリンダ圧を伝える静圧系管路を構成する前輪側の管路(第1管路)MFには、2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁(第1電磁開閉弁)SMCFが備えられている。この電磁開閉弁SMCFにより、管路MFの連通遮断が制御される。
また、電磁開閉弁SMCFよりもホイールシリンダWfl、Wfr側において、管路MFは2つの管路MF1、MF2に分岐しており、各管路MF1、MF2それぞれに増圧制御弁SFRH、SFLHが備えられた構成とされている。そして、各増圧制御弁SFRH、SFLHと前輪FR、FLのホイールシリンダWfr、Wflとの間が管路RC1、RC2および管路RCを通じて低圧リザーバRSに接続されている。各管路RC1、RC2それぞれには、減圧制御弁SFRR、SFLRが備えられており、これら減圧制御弁SFRR、SFLRによって、各管路RC1、RC2の連通遮断が制御される。
そして、電磁開閉弁SMCFのソレノイドに通電が行われていない非作動時には、管路MF、MF1、MF2を通じてマスタシリンダMCが前輪FR、FLのホイールシリンダWfr、Wflの各々と接続され、ソレノイドに通電が行われる作動時には、マスタシリンダMCがホイールシリンダWfr、Wflから遮断される。
また、レギュレータRGと後輪RR、RLのホイールシリンダ(第3、第4ホイールシリンダ)Wrr、Wrl等とを接続することによりレギュレータ圧を伝える動圧系管路を構成する管路(第2管路)MRには2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁(第2電磁開閉弁)SRECが備えられている。この電磁開閉弁SRECにより、管路MRの連通遮断が制御される。そして、電磁開閉弁SRECのソレノイドに通電が行われていない非作動時には、管路MRを通じてレギュレータRGが後輪RR、RLのホイールシリンダWrr、Wrlの各々と接続され、ソレノイドに通電が行われる作動時には、レギュレータRGがホイールシリンダWrr、Wrlから遮断される。
管路MRは、電磁開閉弁SRECよりもホイールシリンダWrl、Wrr側において管路MR1、MR2に分岐しており、分岐したそれぞれの管路MR1、MR2には、それぞれ増圧制御弁SRRHが備えられていると共に、増圧制御弁SRLHが備えられている。そして、各増圧制御弁SRRH、SRLHと後輪RR、RLのホイールシリンダWrr、Wrlとの間が管路RC3、RC4および管路RCを通じて低圧リザーバRSに接続されている。これら管路RC3、RC4には、それぞれ、減圧制御弁SRRRおよびおよび減圧制御弁SRLRが備えられており、これら減圧制御弁SRRR、SRLRによって、各管路RC3、RC4の連通遮断が制御される。
さらに、補助液圧源ASは、管路(第3管路)AMを介して管路MRのうちの電磁開閉弁SRECよりも下流側、つまりホイールシリンダWfr、Wfl側に接続されている。管路AMには、2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁(第3電磁開閉弁)STRが備えられている。この電磁開閉弁STRにより、管路AMの連通遮断が制御される。
そして、電磁開閉弁STRのソレノイドに通電が行われていない非作動時には、補助液圧源ASがホイールシリンダWrr、Wrlから遮断され、ソレノイドに通電が行われる作動時には、管路AMを通じて補助液圧源ASが後輪RR、RLのホイールシリンダWrr、Wrlの各々と接続される。
そして、管路MRのうち電磁開閉弁SRECと各増圧制御弁SRRH、SRLHとの間は、管路(第4管路)ACを介して、管路MFにおける電磁開閉弁SMCFと各増圧制御弁SFRH、SFLHとの間に接続されている。この管路ACには、2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁SREAが備えられており、この電磁開閉弁SREAによって管路ACの連通遮断が制御される。
なお、各増圧制御弁SFRH〜SRLHには、逆止弁CV1〜CV4が並列接続されており、各逆止弁CV1〜CV4により、各増圧制御弁SFRH〜SRLHの下流側(ホイールシリンダWfr〜Wfl側)から上流側へのブレーキ液の流動のみが許容されるようになっている。また、電磁開閉弁SRECにも逆止弁CV5が並列接続されている。この逆止弁CV5により、電磁開閉弁SRECが遮断されていても、ドライバのブレーキ操作によって生じる圧力が勝れば、電磁開閉弁SRECの上流側(レギュレータRG側)から下流側へのブレーキ液の流動のみが許容されるようになっている。
さらに、車両用ブレーキ制御装置には、油圧回路内の各部位におけるブレーキ液圧を検出するための圧力センサ11、12が備えられている。圧力センサ11は、アキュムレータAccで蓄積されているブレーキ液圧を検出するためのものである。圧力センサ12は、レギュレータRG内の圧力(レギュレータ圧)を検出することにより、マスタシリンダMCに発生しているマスタシリンダ圧を検出するためのもので、管路MRにおける電磁開閉弁SRECよりも上流側に備えられている。レギュレータ圧は基本的にマスタシリンダMCと同圧となるため、レギュレータ圧を検出することによりマスタシリンダ圧を検出することができる。
このように構成される車両ブレーキ制御装置には、図2に示すようにブレーキECU10が備えられている。このブレーキECU10には、各圧力センサ11、12の検出信号、および、各車輪に対して備えられた車輪速度センサ13a〜13dが入力されている。そして、ブレーキECU10から、各種検出信号および制御信号に基づいて各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、SFRH〜SRLRや電動モータMに対して駆動信号が出力される。これにより、レギュレータ液圧が所定の圧力範囲内に維持されるように制御したり、ホイールシリンダWfl〜Wrrに加えられるブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が制御される。
具体的には、各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、SFRH〜SRLRは、ソレノイドに通電が行われていない非作動時には、弁位置が図示位置に設定されており、ソレノイドに通電が行われた作動時には、弁位置が図示位置とは異なる位置に設定される。そして、ソレノイドへの通電によって各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRの弁位置を調整することにより、通常ブレーキのみでなく、発進補助制御やTCS制御を含めた各種制御(例えば、アンチスキッド制御、横滑り防止制御等)を実行するようになっている。
次に、本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置が行う発進補助制御の詳細を説明する。図3は、発進補助制御処理の全体を示したフローチャートであり、図4〜図6は、発進補助制御処理の各処理の詳細を示したフローチャートである。また、図7は、発進補助制御およびTCS制御による各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRの制御モード設定処理のフローチャートであり、図8は、各制御モードに対応する各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRの作動状態を示した図表である。以下、これらの図を参照して、発進補助制御の詳細および発進補助制御とTCS制御による各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRの作動について説明する。
最初に、発進補助制御処理の詳細について説明する。発進補助制御処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンされると所定の制御周期毎にブレーキECU10にて実行される。
まず、図3のステップ100において、車両が停止したか否かを判定する。この処理は、車輪速度センサ13a〜13dの検出信号から求められる各車輪速度がすべて0になっているか、もしくは、これら各車輪速度に基づいて周知の手法にて演算される推定車体速度が0になっているか否かを判定することにより行われる。ここで、肯定判定されれば、ステップ110に進む。
ステップ110では、マスタシリンダ圧記憶判定処理を行う。図4は、マスタシリンダ圧記憶判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
マスタシリンダ圧判定処理が実行されると、ステップ200においてマスタシリンダ圧が既に記憶されているか否かが判定される。この処理では、後述するステップ220においてマスタシリンダ圧を記憶したことを示す記憶値有りフラグがセットされていれば肯定判定され、リセットされていれば否定判定される。そして、ステップ200で否定判定されると、ステップ210に進み、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧を記憶値として記憶する。その後、ステップ220に進み、記憶値の記憶が行われたことを示す記憶値有りフラグをセットして処理を終了する。一方、ステップ200において否定判定された場合には、そのまま処理を終了する。これにより、マスタシリンダ圧記憶判定処理が終了する。
続いて、図3のステップ120に進み、トリガー入力判定処理を実行する。図5は、トリガー入力判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
トリガー入力判定処理が実行されると、ステップ300において今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧が上述した図4のステップ210で記憶した記憶値に対して閾値1を加算した値を超えているか否かを判定する。
閾値1とは、ドライバによる発進補助制御の実行の意思を確認するために設けた判定値である。つまり、ドライバが車両が停止したときに対して更にブレーキペダルBPを踏み込んだことを発進補助制御の実行の意思表示としている。このため、車両が停止したときのマスタシリンダ圧を記憶値として記憶しておき、車両停止後にマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値(記憶値+閾値1)を超えていれば、ドライバが発進補助制御を実行すべくブレーキペダルBPを踏み込んだと判定する。
そして、ステップ300で肯定判定されればステップ310に進み、発進補助制御の実行許可のトリガーが入力されたことを示すトリガ入力フラグをセットして処理を終了し、否定判定されれば、そのまま処理を終了する。これにより、トリガー入力判定処理が終了する。
続いて、図3のステップ130に進み、発進補助制御の解除条件が成立したか否かを判定する。発進補助制御の解除条件は、発進補助制御を実行する必要が無くなったときに成立し、例えば、アクセル開度もしくはエンジン回転数が解除閾値を超えた場合、ブレーキペダルを所定時間離した場合などが該当する。ここで否定判定されればステップ140に進む。
ステップ140では、バルブON判定処理を実行する。図6は、バルブON判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
バルブON判定処理が実行されると、ステップ400において、トリガー入力ありか否かを判定する。この判定は、上述した図5のステップ310においてトリガ入力フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。そして、トリガー入力があった場合には、ステップ410に進み、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧が上述した図4のステップ210で記憶した記憶値に対して閾値2を加算した値を下回ったか否かを判定する。
閾値2とは、ドライバによる発進保持制御の意思を確認したあとにブレーキペダルBPの踏み込みを緩められたこと、つまりブレーキペダルBPが戻される状態であることを確認するための判定値である。トリガ入力が為された後にブレーキペダルBPがまだ踏み込まれている状態であれば、マスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値から更に増えていると考えられるが、ブレーキペダルBPが戻されれば徐々にマスタシリンダ圧が低下し、記憶値に対して閾値1を加算した値よりも小さくなる。このため、トリガ入力が為された後にブレーキペダルBPがまだ踏み込まれている状態であるか、ブレーキペダルBPが戻されている状態であるかを確実に判定できるように、閾値2を上述した閾値1よりも小さい値に設定してある。
そして、ステップ410で肯定判定されればステップ420に進み、バルブONを指示する。バルブONの指示とは、発進補助制御を実行すべく、各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRのうち対象となるもののソレノイドに対して通電を行わせるための指示である。そして、このバルブONの指示が出されると、それに伴って、発進補助制御中であることを示す発進補助制御中フラグがセットされ、処理が完了となる。
また、図3のステップ130において肯定判定された場合には、ステップ150に進み、減圧指示を出す。減圧指示とは、発進補助制御により保持されていたホイールシリンダ圧を減圧させる指示で、この減圧指示が出されると、発進補助制御中ではあるがホイールシリンダ圧の保持を行う保持制御中ではないとして、保持制御中ではないことを示す非保持制御中フラグがセットされる。
なお、図4のステップ100において否定判定されれば、発進補助制御を実行する必要が無いもしくは無くなったとして、ステップ160に進んでマスタシリンダ圧の記憶値をリセットすると共に記憶値有りフラグをリセットし、さらにステップ170に進んでトリガ入力フラグをリセットすると共に、発進補助制御中フラグおよび非保持制御中フラグをリセットして処理を終了する。このようにして、発進補助制御処理が完了する。
続いて、図7および図8を参照して発進補助制御およびTCS制御による各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRの制御モード設定処理の詳細について説明する。本処理は、発進補助制御とTCS制御の双方を考慮に入れた制御モード設定を行うものであり、上述した発進補助制御処理の結果に加えて、TCS制御処理の結果に基づいて予め決められた制御周期毎に実行される。
なお、TCS制御処理は、駆動輪の加速スリップを抑制すべく加速スリップが発生する車輪に対して制動力を付与するという処理である。例えば、車輪速度センサ13a〜13dの検出信号から得られる各車輪速度に基づいて推定車体速度を演算したのち、推定車体速度と各車輪速度との偏差として表されるスリップ率がTCS制御開始閾値を超えていればTCS制御中であることを示すフラグをセットすると共に、スリップ率の大きさに応じた制動力を対象車輪に対して付与する。この処理に関しては、従来より周知となっているため、詳細については省略するが、本処理の結果も以下に説明する制御モード設定処理において用いている。
まず、図7に示すようにステップ500では、発進補助制御中であるか否かを判定する。ここでいう発進補助制御中とは、上述した発進補助制御処理における図6のステップ420でバルブONの指示が出されてから図3のステップ140、150で記憶値リセットやトリガ入力リセットがされた状態のことをいう。つまり、図6のステップ310において発進補助制御の実行許可が出されたとき(トリガー入力フラグがセットされたとき)ではなく、実際に発進補助制御の実行開始が行われるときを意味する。ここで否定判定された場合には、ステップ505に進み、TCS制御中であるか否かを判定する。TCS制御中であるか否かは、加速時のスリップ率がTCS制御開始閾値を超えている際にセットされるTCS制御中であることを示すフラグに基づいて判定される。
そして、TCS制御中でなければ、発進補助制御中でもなくTCS制御中でもない通常ブレーキ時であるため、ステップ510に進んでモード0を設定する。このモード0が設定された場合には、図8に示すように、電磁開閉弁SMCF、SREA、STR、SRECへの通電はすべてOFFにされ、また、増圧制御弁SFRH〜SRLHおよび減圧制御弁SFRR〜SRLRへの通電もOFFにされる。つまり、電磁開閉弁STRは遮断状態、電磁開閉弁SRECは連通状態、電磁開閉弁SMCFは連通状態、電磁開閉弁SREAは遮断状態とされる。また、増圧制御弁SFRH〜SRLHは連通状態、減圧制御弁SFRR〜SRLRは遮断状態とされる。
このように、電磁開閉弁STRが遮断状態とされることから、アキュムレータAccに蓄積されたブレーキ液圧は各ホイールシリンダWfl〜Wrrに伝達されない。そして、電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECが連通状態とされていることから、マスタシリンダMCに発生させられたマスタシリンダ圧は、電磁開閉弁SMCFを通じてホイールシリンダWfr、Wflに伝達される。また、レギュレータRGに発生させられたブレーキ液圧が電磁開閉弁SRECを通じて、各ホイールシリンダWrr、Wrlに伝達される。これにより、ドライバによるブレーキペダルBPの踏み込みに応じた制動力が発生さえられる。
一方、ステップ505で肯定判定された場合、つまり発進補助制御中ではなくTCS制御中の際には、ステップ515に進んでモード4を設定する。このモード4が設定された場合には、図8に示すように、電磁開閉弁SMCF、SREA、STR、SRECへの通電はすべてONにされ、また、増圧制御弁SFRH〜SRLHおよび減圧制御弁SFRR〜SRLRへの通電は、TCS制御の対象車輪に対応する弁についてはTCS制御に従ってON、OFFが制御される。そして、非対象車輪に対応する弁については、増圧制御弁SFRH〜SRLHへの通電がON、減圧制御弁SFRR〜SRLRへの通電がOFFにされる。つまり、電磁開閉弁STRは連通状態、電磁開閉弁SRECは遮断状態、電磁開閉弁SMCFは遮断状態、電磁開閉弁SREAは連通状態とされる。また、TCS制御の対象車輪については増圧制御弁SFRH〜SRLHが適宜連通状態とされる。
このように、電磁開閉弁STRが連通状態とされることによりアキュムレータAccに蓄積されたブレーキ液圧がTCS制御の対象車輪の各ホイールシリンダWfl〜Wrrに伝達される。これにより、ドライバによるブレーキペダルBPの踏み込みが行われていなくても、TCS制御の対象車輪に対して制動力を付与でき、加速スリップを抑制できる。
また、ステップ500において肯定判定されると、ステップ520に進み、発進補助制御の保持制御中であるか否かを判定する。保持制御中であるか否かは、上述した図3のステップ150においてセットされる非保持制御中フラグに基づいて判定される。そして、非保持制御中フラグがセットされていなければ肯定判定され、ステップ525に進む。非保持制御中フラグがセットされていれば否定判定され、ステップ540に進む。
ステップ525では、ステップ505と同様、TCS制御中であるか否かを判定する。ここで否定判定された場合には、発進補助制御の保持制御中でTCS制御は実行されていない状況であるため、発進補助制御の保持制御を行うために、ステップ530に進んでモード1を設定する。
モード1が設定された場合には、図8に示すように、電磁開閉弁SMCF、SRECへの通電はONにされ、また、電磁開閉弁SREA、STRや増圧制御弁SFRH〜SRLHおよび減圧制御弁SFRR〜SRLRへの通電はOFFとされる。つまり、電磁開閉弁SMCF、SREA、STR、SRECはすべて遮断状態とされる。また、増圧制御弁SFRH〜SRLHは連通状態、減圧制御弁SFRR〜SRLRは遮断状態とされる。
このように、電磁開閉弁SMCF、SREA、STR、SRECが遮断状態とされることにより、各ホイールシリンダWfl〜Wrrに発生させられたホイールシリンダ圧が保持される。これにより、車両の停止状態を維持することができる。そして、このような制動力の保持状態が車両停止中、つまりドライバがアクセルペダルを踏み込んで車両が発進するまで続けられるため、坂路に車両が停車しているような状況でも車両がずり落ちないようにしながら車両を発進させることが可能となる。
一方、ステップ525において否定判定された場合には、発進補助制御の保持制御中にTCS制御が実行された状況であるため、発進補助制御からTCS制御に移行するために、ステップ535に進んでモード3を設定する。
モード3が設定された場合には、図8に示すように、電磁開閉弁SMCF、SREA、STRへの通電はONにされ、また、電磁開閉弁SRECへの通電はOFFにされる。そして、前輪FL、FRと対応する増圧制御弁SFRH、SFLHおよび減圧制御弁SFRR、SFLRへの通電をONにする。つまり、前輪FL、FRに関しては減圧パターンを出力し、ホイールシリンダWfl、Wfrを減圧させる。これにより、ホイールシリンダWfl、Wfrに関してはホイールシリンダ圧が一旦零まで低下させられる。減圧パターンの出力は、前輪FL、FRのホイールシリンダ圧が零になるまで継続されるが、ここではホイールシリンダ圧が零になると想定される時間を予め実験などにより求めておき、その時間以上の所定時間が経過するまで減圧パターンを出力するようにしている。
また、後輪RL、RRと対応する増圧制御弁SRRH、SRLHおよび減圧制御弁SRRR、SRLRへの通電は、TCS制御に従って制御される。つまり、増圧制御弁SRRH、SRLHおよび減圧制御弁SRRR、SRLRのうちTCS制御の対象車輪に対応する弁についてはTCS制御に従ってON、OFFが制御される。このとき、TCS制御に移行する際の後輪RL、RRのホイールシリンダ圧の推定値は、例えば、保持制御中に発生させられているホイールシリンダ圧の保持圧、つまりマスタシリンダ圧の記憶値に対して閾値2を加算したホイールシリンダ圧とされ、この推定値に基づいてTCS制御の対象車輪に対応する弁のON、OFFが制御される。そして、非対象車輪に対応する弁については、増圧制御弁SRRH、SRLHへの通電がON、減圧制御弁SRRR、SRLRへの通電がOFFにされる。つまり、TCS制御の対象車輪については増圧制御弁SFRH〜SRLHが適宜連通状態とされる。これにより、連通状態とされた電磁開閉弁STRを通じてアキュムレータAccに蓄積されたブレーキ液圧がTCS制御の対象車輪の各ホイールシリンダWfl〜Wrrに伝達される。
したがって、前輪FL、FRに関しては、発進補助制御からTCS制御に移行する際に一旦ホイールシリンダWfl、Wfrに発生させられていたホイールシリンダ圧が解消される。そして、後輪RL、RRに関しては、発進補助制御からTCS制御に移行する際に、ホイールシリンダWrl、Wrrに発生させられていたホイールシリンダ圧の残圧が解消されることなく引き継がれてTCS制御が実行される。
さらに、ステップ540では、ステップ505、525と同様に、TCS制御中であるか否かを判定する。ここで肯定判定されれば、発進補助制御の減圧指示が出されているときにTCS制御がが実行された状況であるため、発進補助制御からTCS制御に移行するために、ステップ545に進んでモード3を設定する。これにより、ステップ535と同様の処理が実行される。そして、ここで否定判定されれば、発進補助制御の減圧指示が出されたのちTCS制御に移行することなく発進補助制御を終了する状況であるため、ステップ550に進んでモード2を設定する。
モード2が設定された場合には、図8に示すように、電磁開閉弁SMCF、SREAへの通電はONにされ、また、電磁開閉弁SREC、STRへの通電はOFFにされる。そして、増圧制御弁SFRH〜SRLHおよび減圧制御弁SFRR〜SRLRへの通電はOFFとされる。つまり、電磁開閉弁SMCF、STRは遮断状態、電磁開閉弁SREA、SRECが連通状態とされる。これにより、各ホイールシリンダWfl〜Wrrに伝えられていたブレーキ液がレギュレータRG側に返流され、各ホイールシリンダ圧が減圧される。
以上のようにして発進補助制御およびTCS制御が行われる。図9は、上記のような発進補助制御を行ったときのタイミングチャートである。
まず、図9に示すように、ブレーキペダルの踏み込みに基づいてマスタシリンダ圧が発生し、それに伴って各ホイールシリンダWfl〜Wrrにブレーキ液圧が伝えられると、各車輪FL〜RRに制動力が発生させられ車速が低下していく。次に、時点T1において、車速が0km/hとなり、車両が停止したことが確認されると、そのときのマスタシリンダ圧が記憶値として記憶される。このとき、ドライバが発進補助制御を実行すべくブレーキペダルBPを更に踏み込み、時点T2においてマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値を超えると、トリガ入力フラグがセットされる。この後、ブレーキペダルBPが戻され、時点T3においてマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値2を加算した値を下回ると、バルブONとされる。そして、時点T4において、アクセルペダルが踏み込まれて車両が発進すると、トリガ入力フラグがリセットされると共にバルブONが解除され、保持されていた制動力が解除される。
このように、本実施形態では、発進補助制御処理において、発進補助制御の開始条件を2つに分け、車両停止時よりもブレーキペダルBPが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇したときに発進補助制御の実行許可を出し、その後、ブレーキペダルBPが戻されたことが確認されると発進補助制御の実行開始するようにしている。
そして、ブレーキペダルBPが戻されたときに初めて発進補助制御の実行開始としているため、発進補助制御の実行により電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECが遮断状態にされたとしても、その後にブレーキペダルBPが踏み込まれることがない。このため、ブレーキペダルBPを踏み込んだときに発進補助制御を実行する際のような板感をドライバに与えないようにすることができる。したがって、ブレーキペダルBPの操作によって発生させられた制動力を車両停止後にも保持する発進補助制御を行う際に、ドライバに板感を与えることを防止でき、ブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。
図10は、発進補助制御からTCS制御に移行する際のタイミングチャートである。発進補助制御からTCS制御に移行する際には、時点T11に示すように、バルブONの指示が出されたときに発進補助制御中フラグがセットされる。また、これと同時に前輪FL、FRおよび後輪RL、RRのホイールシリンダ圧が保持される。
そして、時点T12に示すように、発進補助制御中にアクセルペダルが踏み込まれると、発進補助制御の減圧指示が出される。また、アクセルペダルの踏み込みにより加速スリップが発生してTCS制御が実行されると、TCS制御中フラグがセットされる。これにより、前輪FL、FRに関しては、減圧パターンが出力されることによりホイールシリンダWfl、Wfrに発生させられたホイールシリンダ圧が一旦零まで低下させられる。また、後輪RL、RRに関しては、発進補助制御時にホイールシリンダWrl、Wrrに発生させられていたホイールシリンダ圧の残圧が解消されることなく引き継がれてTCS制御が実行される。
以上説明したように、本実施形態では、発進補助制御からTCS制御に移行するときに、前輪FL、FRに関しては発進補助制御時に発生させられていたホイールシリンダ圧を一旦零まで低下させるようにしている。このため、TCS制御によってホイールシリンダ圧が増圧されたとしても、過大なホイールシリンダ圧を発生させないようにすることができる。特に、前輪系のディファレンシャルは後輪系のディファレンシャルと比較して剛性が低く、前輪系のディファレンシャルの剛性を考慮した許容限界のホイールシリンダ圧を超えることが懸念されるため、過大なホイールシリンダ圧の発生は好ましくない。したがって、前輪FL、FRのホイールシリンダ圧を一旦零まで低下させることで、前輪FL、FRのホイールシリンダ圧が過大になることを抑制できる。
また、後輪RL、RRに関しては発進補助制御時に発生させられていたホイールシリンダ圧の残圧を引き継いだままTCS制御を実行する。このため、すべての車輪FL〜RRのホイールシリンダ圧を解消することによって車両のずり落ちが発生することを防止しつつ、かつ、TCS制御によって早く後輪RL、RRの加速スリップを抑制することが可能となる。なお、後輪RL、RRについては、ホイールシリンダ圧が過大になり得るが、上述したように後輪系のディファレンシャルの剛性は前輪系と比べて高いため、多少ホイールシリンダ圧が過大になっても問題ない。
したがって、発進補助制御からTCS制御に移行する際に過大なホイールシリンダ圧を発生させないようにしつつ、早期にTCS制御を実行できる車両用ブレーキ制御装置とすることができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、TCS制御に移行する際のホイールシリンダ圧の推定値を発進保持制御による保持圧としたが、単なる一例を示しているに過ぎず、他の手法によってホイールシリンダ圧の推定値を演算しても良い。例えば、ブレーキ液の粘性抵抗が極低温時のように高い場合に発進補助制御を実行したときに封じ込めにより発生させられる最大ホイールシリンダ圧(例えば11.1MPa)と、発進補助制御の保持制御による保持圧と、TCS制御に移行したときのマスタシリンダ圧のうちの最も高い値をホイールシリンダ圧の推定値とすることができる。
マスタシリンダ圧に基づいてブレーキペダルBPが戻されるときを検出して発進補助制御を実行する場合、ブレーキペダルBPの戻す速さにより、マスタシリンダ圧の変化に対してホイールシリンダ圧の変化が追従できない可能性がある。このような状況になると、所望のホイールシリンダ圧になったと想定して発進補助制御を実行したとしても、実際のホイールシリンダ圧が所望のホイールシリンダ圧からずれて高い値になる可能性がある。つまり、ホイールシリンダ圧が必要以上に残るような圧力の封じ込めを起こすことがある。特に、低温時にはブレーキ液の粘性抵抗が大きいため、マスタシリンダ圧の変化に対してホイールシリンダ圧の変化が追従できなくなる可能性が高い。このため、封じ込めにより発生させられる最大ホイールシリンダ圧と保持圧およびTCS制御に移行したときのマスタシリンダ圧の最大値(MAX(11.1MPa,保持圧,マスタシリンダ圧))をホイールシリンダ圧の推定値とすれば、封じ込めを考慮した推定値を演算できる。
ただし、この場合でも実際に発生しているホイールシリンダ圧との間に誤差があるため、上記実施形態で示したように、前輪FL、FRのホイールシリンダ圧を一旦零に低下させることが有効である。また、ホイールシリンダ圧の推定値では実際に発生しているホイールシリンダ圧との間の誤差がなくならないため、ホイールシリンダ圧を取得するホイールシリンダ圧取得手段(例えば直接圧力検出できる圧力センサ)を設置し、実際に発生しているホイールシリンダ圧に基づいてTCS制御を行うことも可能である。さらに、前輪FL、FRに実際に発生しているホイールシリンダ圧も直接取得できるようにしておけば、前輪FL、FRのホイールシリンダ圧が零になったことを正確に検出できるため、それに基づいて減圧パターンの出力を終了することもできる。これにより、より早くからTCS制御に移行させることができる。
また、上記実施形態で説明したように、発進補助制御からTCS制御に移行する際に所定時間が経過するまで減圧パターンを出力するようにしているが、ここで減圧パターンを出力する所定時間をブレーキ液の温度に応じて可変にすることもできる。具体的には、ブレーキ液の温度は、基本的には使用環境、つまり外気温と等しくなる。このため、車両の空調制御において用いられている外気温センサの検出信号もしくはそれに基づいて演算した外気温自体を車内LANなどを通じてブレーキECU10に入力し、外気温に対応する時間を関数式もしくはマップなどから求めることで、減圧パターンを出力する時間を適宜設定することができる。このように、ブレーキ液の温度に応じて所定時間を可変にすれば、減圧パターンが出力される所定時間をブレーキ液の粘性抵抗を考慮に入れた長い時間に設定する必要がなくなり、より早くからTCS制御に移行させることができる。
上記実施形態では、ハイドロブースタを備えた車両用ブレーキ制御装置の配管構造の一例を示したが、ここに示したものに限らず、周知となっている他の配管構造の車両用ブレーキ制御装置に対して本発明を適用しても構わない。
さらに、上記実施形態では、発進補助制御の開始条件を2つに分け、車両停止時よりもブレーキペダルBPが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇したときに発進補助制御の実行許可を出し、その後、ブレーキペダルBPが戻されたことが確認されると発進補助制御の実行開始するようにしている。これに対して、従来のように、車両停止時よりもブレーキペダルBPが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇したときに発進補助制御の実行許可を出すことにより同時に実行を開始するような形態においても、上記各実施形態と同様にTCS制御に移行する際に、前輪系と後輪系の一方のみについてホイールシリンダ圧を一旦零に低下させる処理を行うことができる。
また、上記実施形態では、ハイドロブースタが用いられる車両用ブレーキ制御装置により車両発進補助装置を構成する場合について説明したが、バキュームブースタなどが用いられる他の形態の車両用ブレーキ制御装置により車両発進補助装置を構成する場合であっても、本発明を適用することができる。
また、上記実施形態では、自動的に車輪に対して制動力を発生させる自動ブレーキ制御の一例として発進補助制御を挙げたが、ACC制御などに関しても、TCS制御に移行する際に本発明を適用することができる。
また、上記実施形態では、一般的に、前輪系のディファレンシャルは後輪系のディファレンシャルと比較して剛性が低いため、発進補助制御からTCS制御に移行する際に前輪FL、FRのホイールシリンダ圧を一旦零まで低下させた。しかしながら、これも単なる一例であり、前輪系と後輪系のうちディファレンシャルの剛性の低い方のホイールシリンダ圧を低下させるようにすれば良い。
また、発進補助制御からTCS制御に移行する際に、前輪系と後輪系のいずれか一方についてホイールシリンダ圧を零まで低下させるようにしたが、少なくともそのとき発生しているホイールシリンダ圧を低下させればホイールシリンダ圧が過度に高くなることを抑制できるため、ホイールシリンダ圧を所定圧に低下させれば良い。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。具体的には、ブレーキECU10のうちステップ100〜170を実行する部分が自動ブレーキ制御手段、ステップ500〜550を実行する部分が自動ブレーキ制御からTCS制御に移行させる手段に対応している。
10…ブレーキECU、11、12…圧力センサ、13a〜13d…車輪速度センサ、AC、AM、MF、MR、RC1〜RC4…管路、AS…補助液圧源、Acc…アキュムレータ、BP…ブレーキペダル、CV1〜CV6…各逆止弁、FL〜RR…各車輪、HP…液圧ポンプ、M…電動モータ、MC…マスタシリンダ、RG…レギュレータ、RS…低圧リザーバ、SFRH、SFLH、SRRH、SRLH…増圧制御弁、SFRR、SFLR、SRRR、SRLR…減圧制御弁、SMCF、SREA、SREC、STR…電磁開閉弁、Wfl〜Wrr…ホイールシリンダ