図面を参照して車両制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.装置構成]
図1は、本実施形態の車両制御装置が適用された車両10の概略構成を示すブロック図である。この車両10に搭載されたエンジン11の出力は、変速機12を介して車輪13に伝達される。変速機12は、複数の摩擦係合要素(クラッチ要素,ブレーキ要素)の締結力を制御することによって、車輪13側に伝達される車輪駆動力を変更する機能を持ったトランスミッションである。
遊星歯車機構を備えた変速機12の場合には、動力伝達経路上に位置しない摩擦係合要素を係合させて意図的に二重噛み合い(インターロック)の状態を形成することによって、車輪駆動力の大きさが制御される。あるいは、動力伝達経路上に位置する摩擦係合要素のうち、回転運動を停止させるように作用する要素の締結力を増大させることによって車輪駆動力の大きさを制御することも可能である。変速機12は、エンジン11の出力軸の回転を変速する機能だけでなく、少なくともエンジン11から伝達される駆動力を減少させる機能を持つものであればよい。
以下、変速機12の内部で発生する制動力(変速機保持力)のことを「インターロック保持力」と呼ぶ。具体的な摩擦係合要素の制御手法に関しては、例えば特許文献1に記載されたような公知技術を適用可能である。なお、車両10に電動の変速用オイルポンプが搭載されている場合には、エンジン11の作動状態に関わらず、摩擦係合要素の締結力を制御することができる。一方、エンジン11の駆動力を利用して作動する変速用オイルポンプを備えた車両10の場合には、エンジン11の始動直後における摩擦係合要素の締結力を確保できない場合がある。
そこで、車輪13には、ハイドロリックユニット15に接続されたホイールブレーキ14(ブレーキ装置)が設けられる。このハイドロリックユニット15は、二種類の機能を持つ。第一の機能は、通常のブレーキ操作に応じた制動力をホイールブレーキ14に発生させる機能である。これにより、ブレーキペダル16の踏み込み操作に応じたブレーキ液圧P(油圧)がハイドロリックユニット15の内部で発生し、そのブレーキ液圧Pがホイールブレーキ14に伝達されて、ブレーキ液圧Pの大きさに応じた制動力が車輪13に作用する。
第二の機能は、坂道発進時における車両のずり下がりを抑制するための制動力を自動的に発生させる機能である。これは、例えば車両の停止時の路面勾配が比較的大きい場合に、ブレーキペダル16の踏み込み量の変動に関わらず、ブレーキ液圧Pを所定値以上に維持するとともに、ブレーキペダル16が踏み戻された直後の油圧低下を遅延させて、車輪13に作用する制動力をゆっくりと減少させるものである。このような制御は、ヒルスタートアシストやヒルホールドコントロール等とも呼ばれる。以下、ブレーキ液圧Pに応じてホイールブレーキ14に発生する制動力のことを「ブレーキ力」と呼ぶ。
上記の車両10には、車両制御装置1が設けられる。この車両制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両10に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。車両制御装置1では、エンジン11や変速機12,ホイールブレーキ14の状態が制御される。
図1に示すように、車両制御装置1には、エンジン回転数Neを検出する回転数センサー21,車速V(車輪速)を検出する車輪速センサー22,ハイドロリックユニット15のブレーキ液圧Pを検出するブレーキ液圧センサー23,アクセル開度APSを検出するアクセル開度センサー24,路面勾配θを検出する勾配センサー25,ブレーキ液温T(環境温度)を検出するブレーキ液温センサー26等が接続される。これらの各種センサー21〜26で検出された情報に基づき、車両制御装置1では、アイドルストップ制御,ヒルスタートアシスト制御及び駆動力補正制御が実施される。
[2.制御内容]
アイドルストップ制御とは、車両10の停止,発進に合わせてエンジン11を自動的に一時停止,再始動させる制御である。アイドルストップ制御の開始条件は、例えばブレーキペダル16の踏み込みが検出され、かつ、車速Vがほぼ0であること等である。一方、アイドルストップ制御の終了条件は、ブレーキペダル16の踏み込みが検出されなくなったことや、所定値以上のアクセル開度APS(アクセルペダルの踏み込み操作)が検出されたこと等である。
ヒルスタートアシスト制御とは、ハイドロリックユニット15の二種類の機能のうちの後者を用いて、坂道発進時の車両のずり下がりを抑制する制御である。ヒルスタートアシスト制御の開始条件は、例えば車速Vがほぼ0(車両10が停止中)であって路面勾配θの絶対値が所定値θ0を超えていること等とされる。これにより、ある程度の上り坂,下り坂で車両10が一時停止すると、ブレーキペダル16を踏み戻してからもしばらくの間はブレーキ液圧Pがホイールブレーキ14に自動的に作用し続けることになり、車両10のずり下がりが抑制される。
駆動力補正制御とは、車両10の発進直後に変速機12から車輪13側に出力される車輪駆動力を補正して、車両発進時の走行安定性やドライブフィーリングを改善する制御である。この制御では、例えば、ヒルスタートアシスト制御による制動力の効き方のばらつきや、エンジン11の始動時におけるエンジン駆動力のばらつき、運転者の発進要求,加速要求に応じて設定される目標駆動力の変動等に応じて、変速機12でのインターロック保持力が調節される。
本実施形態の駆動力補正制御は、アイドルストップ制御からの復帰時における車両10の発進時に実施される。なお、インターロック保持力の大きさは、摩擦係合要素の締結度合いを変更することによって制御可能であり、具体的な締結度合いを変更手法は任意である。以下、駆動力補正制御の内容について詳述する。
[3.車両制御装置]
車両制御装置1には、算出部2及び変速機制御部7が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
算出部2は、駆動力補正制御に関する各種パラメーターを算出するものである。ここには、図1中に示すように、エンジン駆動力算出部3,ブレーキ力算出部4,目標駆動力算出部5及びインターロック保持力算出部6が設けられる。
エンジン駆動力算出部3(エンジン駆動力算出手段)は、エンジン11で発生するエンジン駆動力Aを算出するものである。ここでは、エンジン回転数Neやアクセル開度APSに基づいてエンジン駆動力Aが算出される。なお、エンジンECUを備えた車両10の場合には、そのエンジンECUで演算されたエンジン駆動力Aを読み込むような制御構成としてもよい。ここで取得されたエンジン駆動力Aの情報は、インターロック保持力算出部6に伝達される。
ブレーキ力算出部4(ブレーキ力算出手段)は、ホイールブレーキ14に発生しているブレーキ力Bを算出するものである。ここでは、例えばブレーキ液圧センサー23で検出されたブレーキ液圧P及びブレーキ液温センサー26で検出されたブレーキ液温Tに基づき、ブレーキ力Bが算出される。したがって、ブレーキ力Bには、ヒルスタートアシストによる制動力だけでなく、ブレーキペダル16の踏み込みによって発生する制動力も含まれる。ここで算出されたブレーキ力Bの情報は、インターロック保持力算出部6に伝達される。
ここで演算されるブレーキ力Bには、ブレーキ液温Tの状態が反映される。例えば、ブレーキ液温Tが高温であるほどブレーキ力Bが小さく、あるいはブレーキ力Bの変化勾配が増大するような演算がなされる。反対に、ブレーキ液温Tが低温であるほどブレーキ力Bが大きく、あるいはブレーキ力Bの変化勾配が減少するような演算がなされる。このように、ブレーキ液温Tの情報は、ブレーキ力の抜けやすさに関する特性を把握するために用いられる。
目標駆動力算出部5(目標駆動力算出手段)は、車両10に要求されている駆動力の目標値である目標駆動力Cを算出するものである。目標駆動力Cは、車両10をスムーズに発進,走行させるための駆動力であり、エンジン回転数Ne,アクセル開度APS及び路面勾配θに基づいて算出される。目標駆動力Cの値は、例えば路面勾配θが大きいほど(上り傾斜が大きいほど)大きく、路面勾配θが小さいほど(下り傾斜が大きいほど)小さく算出される。ここで算出された目標駆動力Cの情報は、インターロック保持力算出部6に伝達される。
インターロック保持力算出部6(インターロック制御手段)は、変速機12で発生させるインターロック保持力Dを算出するものである。インターロック保持力Dは、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差に基づいて算出される。ここでは、インターロック保持力Dの変化勾配を制御する場合の演算手法と、大きさを制御する場合の演算手法とを説明する。
前者の場合、車両10の発進時にインターロック保持力Dが予め設定された初期保持力D0に設定されるとともに、その後のインターロック保持力Dの開放速度ΔD(インターロックの開放速度)がエンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差に基づいて算出される。例えば、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)が目標駆動力Cよりも小さいときには、インターロック保持力Dの単位時間あたりの開放速度ΔDが増加方向に補正される。この補正は、インターロック保持力Dの減少速度を上昇させる操作に相当する。一方、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)が目標駆動力C以上であるときには、開放速度ΔDが減少方向に補正される。この補正は、インターロック保持力Dの減少速度を低下させる操作に相当する。
また、ブレーキ液温Tに基づいて開放速度ΔDを制御してもよい。例えば、ブレーキ液温Tが低温であるほど開放速度ΔDが増加方向に補正され、ブレーキ液温Tが高温であるほど開放速度ΔDが減少方向に補正されるものとする。なお、本実施形態のブレーキ力算出部4で算出されるブレーキ力Bには、ブレーキ液温Tの状態がすでに反映されている。
後者の場合、車両10の発進時におけるインターロック保持力Dが、例えば以下の式1に従って算出される。この場合、目標駆動力Cが一定であるとき、インターロック保持力Dはエンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差に応じて変化する。つまり、インターロック保持力Dは、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差に基づいて算出される。また、目標駆動力Cとの関係に着目すれば、インターロック保持力Dは、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差に基づいて算出されたのちに、目標駆動力Cに基づいて補正された値となる。ここで算出されたインターロック保持力Dの情報は、変速機制御部7に伝達される。
D=A−B−C …(式1)
変速機制御部7(インターロック制御手段)は、インターロック保持力算出部6で算出されたインターロック保持力Dやその開放速度ΔD等に基づいて、変速機12の内部の摩擦係合要素の締結力を制御するものである。つまり変速機制御部7は、変速機12の摩擦係合要素の係合状態を保持して車輪13に制動力を与える制御を実施する。ここでは、インターロック保持力Dについての二種類の演算手法に対応して、二種類の制御を実施することが考えられる。
第一の手法は、車両10の発進時におけるインターロック保持力Dが初期保持力D0に達するまでは、摩擦係合要素の締結圧を上昇させるとともに、インターロック保持力Dが初期保持力D0に達したのちには、インターロック保持力算出部6で算出,補正された開放速度ΔDに基づいて摩擦係合要素の締結圧を減少させるものである。この場合、例えば目標駆動力Cが値(A−B)よりも大きいときにインターロックの締結速度や開放速度を遅くし、目標駆動力Cが値(A−B)よりも小さいときに摩擦係合要素の締結速度や開放速度を速くすることが考えられる。
C>(A−B)が成立する状態とは、エンジン駆動力Aからブレーキ力Bを差し引いた駆動力が目標駆動力Cに対してやや小さいときである。このような場合には、変速機12である程度のインターロック保持力Dを吸収させるべく、摩擦係合要素の締結速度,開放速度を低下させて、インターロック保持力Dの作用時間を延長させる。一方、C<(A−B)が成立する状態とは、エンジン駆動力Aからブレーキ力Bを差し引いた駆動力が目標駆動力Cに対して大きいときである。このような場合には、インターロック保持力Dの作用時間を短縮させるべく、摩擦係合要素の締結速度,開放速度を上昇させる。
また、ブレーキ液温Tを考慮する場合、ブレーキ液温Tが高温であるほどブレーキ液の粘性が低下し、ブレーキ力Bの作用時間が短縮される。したがって、このような場合にはインターロック保持力Dの作用時間を延長させてインターロックの解除タイミングを遅延させるべく、摩擦係合要素の締結速度,開放速度を低下させる。反対に、ブレーキ液温Tが低温であれば、インターロック保持力Dの作用時間を短縮させるべく、摩擦係合要素の締結速度,開放速度を上昇させる。
第二の手法は、インターロック保持力算出部6で算出されたインターロック保持力Dと同一の大きさの制動力が変速機12で発生するように、摩擦係合要素の締結力を制御するものである。この場合、実際のインターロック保持力Dは、エンジン駆動力Aが増大するほど大きくなり、エンジン駆動力Aが減少するほど小さくなる。一方、ブレーキ力B及び目標駆動力Cの変化に対しては逆の挙動をとることになり、例えばブレーキ力Bが増大するほど実際のインターロック保持力Dは小さく、ブレーキ力Bが減少するほど実際のインターロック保持力Dは増大する。
前者の手法を用いた制御は、インターロック保持力Dが作用する時間を増減させる制御とみなすことができる。一方、後者の手法を用いた制御は、インターロック保持力Dの大きさを増減させる制御とみなすことができる。何れの手法を用いた場合であっても、変速機12から車輪13側に出力される車輪駆動力の大きさが適正化され、車両発進時の走行安定性やドライブフィーリングが向上する。
[4.フローチャート]
図2は、車両制御装置1で実施される駆動力補正制御の手順を例示するフローチャートである。ここでは、インターロック保持力Dが作用する時間を増減させる制御を実施する場合のフローを例示する。
ステップA10では、車両制御装置1において、アイドルストップ制御の開始条件が成立するか否かが判定される。ここでアイドルストップ制御の開始条件が成立した場合にはステップA20へ進み、不成立の場合にはその演算周期におけるフローを終了する。
また、ステップA20では、ヒルスタートアシスト制御の開始条件が成立するか否かが判定される。例えば、路面勾配θの絶対値が所定値θ0を超えているか否かが判定される。ここで、ヒルスタートアシスト制御の開始条件が成立していればステップA30に進み、ヒルスタートアシスト制御が開始される。この場合、ブレーキペダル16の踏み込み量に応じて発生するブレーキ液圧Pが保持され、ステップA40に進む。一方、ヒルスタートアシスト制御の開始条件が成立していなければ、そのままステップA40に進む。
ステップA40では、アイドルストップ制御が実施される。このステップではエンジン11への燃料供給が遮断され、エンジン11が停止する。続くステップA50では、アイドルストップ制御の終了条件が成立するか否かが判定される。例えば、ブレーキペダル16の踏み込みが検出されなくなるとアイドルストップ制御の終了条件が成立し、ステップA60に進む。一方、終了条件が不成立の場合には制御がステップA40へ戻り、アイドルストップ制御が継続される。
ステップA60では、エンジン11への燃料供給が再開され、エンジン11が自動的に再始動する。続くステップA70では、目標駆動力算出部5において、エンジン回転数Ne及び路面勾配θに基づいて目標駆動力Cが算出される。また、これに続くステップA80では、インターロック保持力Dが予め設定された初期保持力D0に設定されるとともに、この初期保持力D0に応じた制御信号が車両制御装置1から変速機12に出力される。これにより、変速機12の内部では初期保持力D0が得られる締結力を目標値として摩擦係合要素の締結圧が上昇し、インターロック保持力Dが徐々に増加する。
さらにステップA90では、エンジン回転数Neが所定の始動回転数Ne0を超えたか否かが判定され、ここでNe>Ne0が成立する場合にはステップA100に進む。一方、ステップA90の判定条件が不成立の場合には制御がステップA60へ戻り、エンジン11の始動操作が継続される。
ステップA100では、エンジン回転数Neの単位時間あたりの変化量ΔNeが所定の安定勾配値ΔNe0未満であるか否かが判定され、ここでΔNe<ΔNe0が成立する場合にはステップA110に進む。一方、ステップA100の判定条件が不成立の場合には制御がステップA60へ戻り、エンジン11の始動操作が継続される。
ステップA110では、予め設定された所定開放速度ΔD0でインターロック保持力Dが減少するように、インターロック保持力Dが制御される。このステップでは、所定開放速度ΔD0に対応する制御信号が車両制御装置1から変速機12に出力される。これにより、摩擦係合要素の締結圧が低下し、インターロック保持力Dが徐々に減少する。
ステップA120では、目標駆動力算出部5において目標駆動力Cが算出される。ここでは、エンジン回転数Ne,アクセル開度APS及び路面勾配θに基づいて目標駆動力Cが算出され、ドライバーの発進意図に応じて目標駆動力Cが補正されることになる。
続くステップA130では、エンジン駆動力算出部3において、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APSに基づいてエンジン駆動力Aが算出される。また、ステップA140では、ブレーキ力算出部4において、ブレーキ液圧Pに基づいてブレーキ力Bが算出される。
ステップA150では、目標駆動力Cがエンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)よりも大きいか否かが判定される。この判定条件が成立する場合には、実際に車輪13側に伝達されている駆動力が目標駆動力Cに比して大きい(つまり、ブレーキ力Bが十分に大きい状態である)と判断されてステップA160に進み、インターロック保持力Dの開放速度ΔDが増加方向に補正される。一方、ステップA150の判定条件が不成立の場合には、実際の駆動力が目標駆動力Cに比して小さい(つまり、ブレーキ力Bが不足している)と判断されてステップA170に進み、インターロック保持力Dの開放速度ΔDが減少方向に補正される。
これらのステップA160,A170では、補正された開放速度ΔDに対応する制御信号が車両制御装置1から変速機12に出力される。これにより、インターロック保持力Dの作用時間が適切に調節され、変速機12から車輪13側に出力される車輪駆動力の大きさが適正化される。
またステップA180では、インターロック保持力Dの大きさが0以下になったか否かが判定される。ここでD≦0である場合にはこのフローが終了し、駆動力補正制御が完了する。一方、D>0である場合には制御がステップA110に戻り、インターロック保持力Dが0になるまで開放速度ΔDが制御される。
なお、上記のフローチャートは、インターロック保持力Dの作用時間を制御するものである。これに対し、インターロック保持力Dの大きさを制御する場合には、ステップA80及びステップA150〜A170を変更すればよい。例えば、摩擦係合要素の締結圧を減少させるときのインターロック保持力Dを制御するならば、ステップA150において、式1に基づいてインターロック保持力Dを算出し、これに対応する制御信号を車両制御装置1から変速機12に出力するような制御構成とすることが考えられる。
この場合、ステップA160,A170は省略することができる。同様に、摩擦係合要素の締結圧を増加させるときのインターロック保持力Dを制御するならば、ステップA80でインターロック保持力Dを算出し、これに対応する制御信号を車両制御装置1から変速機12に出力するような制御構成とすればよい。
また、ブレーキ液温Tをインターロック保持力Dの制御に反映させる場合には、上記のフローチャートのステップA170の直前に、ブレーキ液温Tに応じてインターロック保持力Dの開放速度ΔDを増加方向又は減少方向に補正するようなステップを追加すればよい。さらに、摩擦係合要素の締結圧を増加させるときのインターロック保持力Dを制御するならば、ステップA80でブレーキ液温Tに応じて初期保持力D0を補正したり、インターロック保持力Dの締結速度を増加方向又は減少方向に補正すればよい。
[5.作用]
車両10の停止時から発進時にかけての車両制御装置1の制御作用を説明するためのタイムチャートを図3(a)〜(g)に示す。時刻t1は、走行中の車両10のブレーキペダル16が踏み込まれて停止した時刻であり、時刻t2はアイドルストップ制御の開始条件が成立した時刻である。また、図3(e)に示すインターロック保持力Dは、エンジン11の駆動力を利用して作動する変速用オイルポンプを備えた変速機12における保持力の変動を示す。
アイドルストップ制御が開始されると、図3(b)に示すように、エンジン11の停止に伴ってエンジン駆動力Aが減少する。このとき、変速機12に内蔵されたクラッチの状態は、図3(d)に示すように、前進状態からインターロック状態へと切り換えられる。
このような車両10の停止時に、路面勾配θの絶対値が所定値θ0を超えている場合には、ヒルスタートアシスト制御が開始される。これにより、ブレーキ踏力に対応するブレーキ液圧Pがホイールブレーキ14に保持される。その後、時刻t3にブレーキペダル16が踏み戻されると、図3(c)中に一点鎖線で示すように、ブレーキ踏力が減少する。しかし、実線で示すブレーキ力Bは、ブレーキペダル16が踏み戻された時点からしばらくの間は維持されるため、車両10のずり下がりが抑制される。また、ブレーキペダル16の踏み戻しによってアイドルストップ制御の終了条件が成立すると、エンジン11の始動操作が開始されるとともに、駆動力補正制御が開始される。
ヒルスタートアシスト制御は、時刻t3から所定時間が経過した時刻t4に終了し、その後はブレーキ力Bが低下する。ここで、図3(c)中に実線で示すように、ブレーキ液温Tが高温であってブレーキ力Bの減少速度が比較的速ければ、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)が迅速に上昇することになり、すなわち差(A−B)が相対的に目標駆動力Cよりも大きくなりやすくなる。
したがって、インターロック保持力Dの開放速度ΔDが減少方向に補正されやすくなり、図3(e)中に実線で示すように、摩擦係合要素の開放が遅延してインターロック保持力Dの作用時間が延長される。つまり、ブレーキ力Bの消失分がインターロック保持力Dによって補填されることになる。したがって、図3(f)中に実線で示すように、変速機12から車輪13側に伝達される車輪駆動力はなだらかに上昇する。また、車体の加速度についても、図3(g)中に実線で示すように急変することがなく、車両10の飛び出し感が抑制される。
一方、図3(c)中に破線で示すように、ブレーキ液温Tが低温であってブレーキ力Bの減少速度が比較的遅いときには、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)が緩慢に上昇することになり、すなわち差(A−B)が相対的に目標駆動力Cよりも小さくなりやすくなる。したがって、インターロック保持力Dの開放速度ΔDが増加方向に補正されやすくなり、図3(e)中に破線で示すように、摩擦係合要素の開放が促進されてインターロック保持力Dの作用時間が短縮される。つまり、ブレーキ力Bが低下しにくい状態では、インターロック保持力Dが速く減少することになり、車輪13側に伝達される駆動力が過剰に大きくなることがなく、引っ掛かり感が抑制される。車輪駆動力や車体の加速度は、図3(f),(g)中に実線で示すように、ブレーキ力Bの減少速度が比較的速い場合とほぼ同様に変動する。
また、ブレーキ力Bの減少速度が比較的速い場合であっても、アイドルストップ制御の終了直後にアクセルペダルが踏み込まれたときには、その運転者の発進要求が目標駆動力Cに反映され、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)が相対的に目標駆動力Cよりも小さくなりやすくなる。
したがって、インターロック保持力Dの開放速度ΔDが増加方向に補正されやすくなり、図3(e)中に一点鎖線で示すように、実線で示すインターロック保持力Dのグラフよりもインターロック保持力Dの作用時間が短縮される。つまり、変速機12から車輪13側に伝達される駆動力が、早い時刻に増大することになる。したがって、図3(f),(g)中に一点鎖線で示すように、運転者の発進意思に応じて車輪駆動力や車体の加速度が迅速に増大し、車両10の加速応答性が向上する。
[6.効果]
(1)このように、上記の車両制御装置1によれば、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)に基づいてインターロック保持力Dを制御することで、ブレーキ力Bの大きさや作用時間が変化した場合であっても、車輪13側に伝達される駆動力の急変を抑制することができる。したがって、車両の走行安定性を向上させることができる。
(2)また、上記の車両制御装置1では、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)だけでなく、目標駆動力Cにも基づいてインターロック保持力Dが制御される。これにより、路面勾配θや運転者の発進意思に応じて車両10の挙動を制御することができ、車両発進時の走行安定性及び加速応答性を向上させることができる。
(3)特に、上記の車両制御装置1では、エンジン駆動力Aとブレーキ力Bとの差(A−B)と目標駆動力Cとの大小関係に応じてインターロック保持力Dの開放速度ΔDが制御されるため、運転者の発進意思とインターロック保持力D(例えば、駆動力補正制御の実施期間やインターロック保持力Dの作用時間、インターロック保持力Dの大きさ等)とを適切に対応させることができ、車両発進時の走行安定性及び加速応答性を向上させることができる。
(4)さらに、上記の車両制御装置1では、路面勾配θに応じて目標駆動力Cが算出される。例えば、急勾配の坂道発進時には、平坦路の発進時よりも目標駆動力Cの算出値が大きくなり、インターロック保持力Dが素早く減少するように制御されるため、車輪駆動力が早期に上昇する。したがって、車両発進時のずり下がりや飛び出しの抑制効果を高めることができる。
(5)また、上記の車両制御装置1では、アイドルストップ制御からの復帰時におけるインターロック保持力Dが、駆動力補正制御によって制御される。これにより、エンジン11の再始動直後の不安定な回転によって発生しうる駆動力の不安定な変動を適切に抑制することができ、車両の走行安定性を向上させることができる。
(6)また、上記の車両制御装置1では、アイドルストップ制御とヒルスタートアシスト制御とが併用された状況下においても、駆動力補正制御によってインターロック保持力Dが制御される。これにより、エンジン駆動力Aの上昇するタイミングとブレーキ力Bの低下するタイミングとが一致しない場合であっても、適切にインターロック保持力Dを付与することができ、車両の走行安定性を向上させることができる。
(7)また、上記の車両制御装置1では、ブレーキ液温Tに基づいて算出されたブレーキ力Bが用いられてインターロック保持力Dの作用時間が制御される。例えば、ブレーキ液温Tが比較的低温であれば、ブレーキ力Bが大きく、あるいはブレーキ力Bの変化勾配が減少するような演算がなされるため、相対的にインターロック保持力Dが小さくなるように制御され、あるいはインターロック保持力Dの開放速度ΔDが増大方向に補正される。一方、ブレーキ液温Tが高温であれば、ブレーキ力Bが小さく、あるいはブレーキ力Bの変化勾配が増大するような演算がなされるため、相対的にインターロック保持力Dが大きくなるように制御され、あるいはインターロック保持力Dの開放速度ΔDが減少方向に補正される。
このように、ブレーキ液温Tに基づくインターロック保持力Dの制御により、ブレーキ液の粘性を適切に評価することができ、ブレーキ力Bの特性(例えば、ブレーキペダル16が踏み戻された時点からのブレーキ力Bの低下速度)を精度よく把握して、これをインターロック保持力Dの制御に反映させることができる。したがって、ブレーキ力Bの大きさ(効き具合)によらず、車両の走行安定性を向上させることができる。
(8)なお、ブレーキ液温Tが高温であるほどブレーキ液の粘性が低下し、ブレーキ力Bが早期に消失する。これに対し、上記の車両制御装置1では、インターロック保持力Dを開放するタイミングが遅延するように制御されるため、インターロック保持力Dでブレーキ力Bの不足分を補填することができる。したがって、エンジン駆動力Aに対する車両発進時の制動力が過不足なく付与されることになり、車両の走行安定性を向上させることができる。
(9)また、上記の車両制御装置1において、例えばブレーキ液温Tが高温であるほどインターロック保持力Dの開放速度ΔDを減少方向に補正した場合には、インターロック保持力Dの実質的な付与期間が延長されることになる。これにより、ブレーキ力Bが短時間で消失した場合であってもエンジン駆動力Aに対する車両発進時の制動力を確保することができ、車両の走行安定性を向上させることができる。
[7.変形例]
上述の実施形態では、アイドルストップ制御からの復帰時における車両10の発進時に駆動力補正制御を実施するものを例示したが、駆動力補正制御を実施するタイミングはこれに限定されない。例えば、アイドルストップ制御からの復帰時に限らず、車両10の発進時には常に駆動力補正制御を実施することとしてもよいし、あるいは、車両10の微速走行時(例えばクリープ走行時)や通常走行時に駆動力補正制御を実施してもよい。何れの場合であっても、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
また、上述の実施形態では、インターロック保持力D及びその開放速度ΔDを制御対象としたものを例示したが、このような制御構成に加えてあるいは代えて、インターロック保持力Dの締結速度を制御対象としてもよいし、インターロック保持力Dの付与期間を制御対象としてもよい。
例えば、目標駆動力Cが値(A−B)よりも大きいときに、インターロックの締結速度を増加方向に補正し、目標駆動力Cが値(A−B)以下であるときに、締結速度を減少方向に補正することが考えられる。前者の場合にはインターロック保持力Dが迅速に大きくなり、結果的にインターロック保持力Dが強化されることになる。一方、後者の場合にはインターロック保持力Dが緩慢に増大するため、結果的にインターロック保持力Dが弱められる。
また、目標駆動力Cが値(A−B)よりも大きいときに、インターロック保持力Dの付与期間を延長し、目標駆動力Cが値(A−B)以下であるときに、インターロック保持力Dの付与期間を短縮することも考えられる。前者の場合にはインターロック保持力Dが長時間作用することになり、すなわちインターロック保持力Dが強化される。反対に、後者の場合にはインターロック保持力Dが弱められる。
このように、ブレーキ力Bの強弱とインターロック保持力Dの強弱とを相補的に対応させることにより、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
また、上述の実施形態では、エンジン駆動力A及びブレーキ力Bの差(A−B)と目標駆動力Cとの大小関係に基づいてインターロック保持力Dを制御するものを例示したが、具体的な制御手法はこれに限定されない。例えば、上記の式1に従ってインターロック保持力Dを演算し、実際に変速機12で発生する保持力がインターロック保持力Dの演算値に一致する(又は近づく)ように変速機12のインターロック状態を制御してもよい。
あるいは、ブレーキ液温センサー26で検出されたブレーキ液温Tに応じてインターロック保持力Dを制御してもよい。この場合、ブレーキ液温Tが低温であるほどインターロック保持力Dを減少させ、あるいは開放速度ΔDを増加方向に補正することが考えられる。反対に、ブレーキ液温Tが高温であるほどインターロック保持力Dを増加させ、あるいは開放速度ΔDを減少方向に補正することが考えられる。
つまり、ブレーキ液温Tによって変化するブレーキ特性に応じて、ブレーキ力が抜けやすい状態ではそれをインターロック保持力Dで補填し、ブレーキ力が抜けにくい状態ではインターロック保持力Dが過剰とならないように抑制する。例えば、ブレーキ液温Tが高温になるに従って、インターロックを解除するタイミング(インターロック保持力Dを開放し始めるタイミングや、開放し終わるタイミング等)を遅延させる。このような制御においても、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
また、上述の実施形態では、ブレーキ液温Tを用いてブレーキ力Bを算出し、これに基づいてインターロック保持力Dを制御するものを例示したが、ブレーキ液温Tの代わりに外気温や車室内温度等を用いることも可能である。少なくとも、ブレーキ力Bとの相関が認められる環境温度を用いれば、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。