食品製造における加熱工程は、おいしい、良い製品をつくる上において最も重要なポイントである。通常は、バーナーによる加熱、温水による加熱、油による加熱が主によく使用され、それに比べると、スチーム加熱は、バーナー、温水等の加熱と比べて総熱量が少ないなどの関係から、実際にはあまり利用されていない。本願発明者は、温水等の加熱に変えて、スチーム加熱の可能性を鋭意探究した結果、過熱蒸気(過熱水蒸気)を用いた加熱方法に辿り着き、その開発を進めた。
本願発明者は、微圧蒸気(湯気)を加熱して過熱蒸気として、その過熱蒸気を食品に当てて加熱を行う手法を開発し、そしてそれを特願2007−522303号明細書に開示した。なお、過熱蒸気を用いる加熱調理装置として、特開2004−236991号公報に開示された技術があるが、この技術は、大気圧動作のものではなく、熱交換器内の内部圧力を高圧(5.0〜5.2kgf/cm2)にするものであり、本願発明者が特願2007−522303号明細書に開示した技術とは基本的に技術的思想が異なる。また、特開2003−325340号公報には、常圧の過熱蒸気による焼成装置が開示されている。しかしながら、この焼成装置は、バーナーによって過熱蒸気を生成する方式のため、上述した特許文献2について述べたように、排煙設備を含めて設備がとても大がかりなものとなるとともに、過熱蒸気を発生させる上でのエネルギー効率はそれほど良いものではない。
本願発明者が開発した技術(特願2007−522303号明細書に開示の技術)は素晴らしいものであるが、エネルギー利用効率の改善の点で更なる進歩をすることができる余地があった。すなわち、本願発明者が開発した技術(特願2007−522303号明細書に開示の技術)は、従来のもの(例えば、特許文献2など)と比較すると、エネルギー効率は非常に良いものであるが、更なるエネルギー効率の向上とともに、加熱時の熱の均一性の点において改善する余地があった。
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のために、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を正確に反映していない場合がある。
また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面によって開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。加えて、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
<第1実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る過熱蒸気装置100の構成を示す斜視図である。本実施形態の過熱蒸気装置100は、過熱蒸気を用いて被加熱物を加熱する過熱蒸気装置100であり、特に、被加熱物が食品である場合には、過熱蒸気式の食品加熱装置100である。
図1に示すとおり、本実施形態の過熱蒸気装置100は、湯気を発生させる湯気発生装置(不図示)と、湯気45を加熱して過熱蒸気を生成する加熱装置30と、その過熱蒸気によって被加熱物が焼成される焼成室10とから構成されている。図2は、焼成室10の平面断面構成の一例を示す図である。図3は、焼成室10の周囲の構成の一例を示す図である。また、図4は、焼成室10の内部の構成の一例を示す図である。
本実施形態の焼成室10の内部には、過熱蒸気を噴出する噴出しパイプ(又は、スパージ管)20が配置されている。噴出しパイプ20は、焼成室10の一方の側(10a)から挿入された第1パイプ20Aと、当該一方と反対の側(10b)から挿入された第2パイプ20Bとを含む。そして、焼成室10の内部において、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとは交互に配置されている。本実施形態における加熱装置30は、電熱ヒータ(加熱ヒータ)であり、そして、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bのそれぞれの中に、電熱ヒータ30が配置されている。本実施形態の電熱ヒータ40は、例えば、数キロワット程度の電熱ヒータ(例えば、プラグヒータ、フランジヒータなど)である。
図1及び図2に示した構成において、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bは、それぞれ複数本からなる。具体的には、第1パイプ20Aが4本からなり、第2パイプ20Bが4本からなる。そして、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bは、水平方向に延びて交互に配置されている。すなわち、焼成室10の出口(52)を正面とした場合に、一方側10aを右側とし、他方側を左側としたときに、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bは、右側及び左側から交互に焼成室10の内部に挿入されている。図2に示すように、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bの一端(後端)には、電熱ヒータ30が挿入される開口部22が形成されている。また、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bの他端(先端)は、閉じられており、この例では、当該他端(先端)は、弾丸状(又は、略半球状)の形状を有している。
また、本実施形態の構成では、過熱蒸気装置100は、図3及び図4に示すように、焼成室10の内部を通過するチェーンコンベア50を備えている。焼成室10は、図2に示すように、チェーンコンベア50の入口11と出口12の部分が開口した開放空間になっている。また、噴出しパイプ20の噴き出し口は、チェーンコンベア50の上方に位置している。ここで、チェーンコンベア50は、矢印51のように上流側から移動してきて、焼成室10の中を通過して、矢印52のように下流側に移動する。
図1に示した過熱蒸気装置100では、焼成室10の下流側(出口側)には、風除けフード61が設けられている。また、一方、焼成室10の上流側(入口側)にも、風除けフード62が設けられている。なお、風除けフード61の部分を風除け室61と言い換えると、図1に示した構成では、焼成室10の下流側に、風除け室61が連結されており、焼成室10の上流側に、風除け室62が連結されている。本実施形態の焼成室10は、台部60の上に配置されている。台部60は、接地部(例えば、ゴムストッパ)66を介して地面(例えば、工場の床)の上に設置されている。また、台部60には、噴出しパイプ20内に挿入された電熱ヒータ30から延びた配線31が接続された制御装置65が配置されている。制御装置65には、電熱ヒータ30の加熱を制御することができる制御回路が含まれている。制御回路は、半導体集積回路(IC)を含む電子回路または電気回路によって構築されている。具体的な構成においては、焼成室10内に温度センサを設置して、その温度センサの数値および加熱プログラムに基づいて制御装置65にて電熱ヒータ30を制御して、過熱蒸気装置100を動作させることができる。
本実施形態の噴出しパイプ20には、蒸気供給用の配管42が接続されており、蒸気供給用の配管42内には蒸気(例えば、水蒸気)または過熱蒸気が通過して、噴出しパイプ20に蒸気または過熱蒸気を供給する。図1中の矢印は、蒸気(または過熱蒸気)の流れを模式的に示している。
蒸気供給用の配管42は、蒸気発生装置(不図示)に接続された配管部(蒸気導入配管)42aと、配管部42aに接続された配管部(第1統合配管)42bと、配管部42bに接続された配管部(第2統合配管)42cと、配管部42cから分岐した配管部(分岐配管)42dから構成されている。配管部42bと配管部42cとは、配管部(垂直に延びた連結配管、または、鉛直方向に延びた鉛直配管)42eを介して互いに連結されている。また、配管部42dの一端(出口端)は、噴出しパイプ20に接続されている。図1に示した構成では、蒸気導入配管42aを、配管部42aに接続された配管部(第1統合配管)42bの中央の位置に接続することにより、そこから左右に分かれて流れる蒸気の管内圧力の差がなるべく生じないようにしている。
なお、本実施形態の構成においては、蒸気供給配管42からの蒸気(湯気)を直列して連続して加熱して、噴出しパイプ20へと送り出すために、第1統合配管42bにも加熱装置(電熱ヒータ)30を配置している。加えて、第2統合配管42cにも加熱装置(電熱ヒータ)30を配置している。直列に接続した加熱装置30によって、噴出しパイプ20に導入する蒸気(過熱蒸気の状態のもの)をより高温なものにすることができる。
ただし、蒸気供給配管42からの蒸気(湯気)を、噴出しパイプ20内の電熱ヒータ30で加熱することで過熱蒸気にして、その過熱蒸気を被加熱物(例えば、食品)に噴き出すことも可能である。したがって、第1統合配管42bおよび第2統合配管42cの何れか一方に電熱ヒータ30を配置する構成の他、第1統合配管42bおよび第2統合配管42cの何れにも電熱ヒータ30を配置しない構成にすることも可能である。
また、図3に示した例では、配管部(分岐配管)42dは、ソケット44を介して、噴出しパイプ20に接続されている。ソケット44は、3つ又になっており、噴出しパイプ20の開口部22に挿入することができるとともに、ソケット44には、配管部(分岐配管)42dの一端を接続することができる。ソケット44には、電熱ヒータ30を挿入するためのソケット開口部44aが形成されている。ソケット44のソケット開口部44aから挿入された電熱ヒータ30は、噴出しパイプ20の開口部22を通って、噴出しパイプ20の内部に配置される。なお、図3に示した例では、配管部42dおよび配管部42aに、配管を接続するためのフランジを示しているが、図1に示した例のように、フランジを設けずに溶接によって配管を接続してもよい。
図5は、本実施形態の電熱ヒータ30の構成の一例を示している。本実施形態の電熱ヒータ30は、複数本の電熱線33が束ねられてなる発熱部30aを含んでいる。図示した発熱部30aの断面は、円形の形状(または、略円筒形状)を有している。発熱部30aの根本には、噴出しパイプ20に固定するための円盤状部位(ソケット対応部)30bが設けられている。
本実施形態の電熱ヒータ30には、フィン32が設けられている。フィン32は、発熱部30aの外径よりも大きく、かつ、噴出しパイプ20の内径よりも小さい外径を有する円環状部材である。また、本実施形態のフィン32は、発熱部30aの長手方向に沿って間隔をあけて複数配置されている。フィン32は、発熱部分の表面積を増やして加熱効率を向上させる他、噴出しパイプ20内に漂う蒸気(水蒸気、過熱蒸気)の流れをフィン32で止めてその効果で蒸気(水蒸気、過熱蒸気)を加熱する効果も有している。
また、本実施形態の電熱ヒータ30(発熱部30a)は、高温に耐えられるステンレス金属やチタン材料から構成されており、そして、腐食防止のためにはチタン材料から構成されていることが好ましい。フィン32も、高温に耐えられるステンレス金属やチタン材料から構成されており、チタン製であることが好ましい。なお、電熱ヒータ30は、噴出しパイプ20内に導入される蒸気(水蒸気、過熱蒸気)を加熱して、導入された蒸気よりも高温の過熱蒸気にすることができる加熱装置であれば、図5に示したものに限定されるものではない。
次に、図6及び図7を参照しながら、本実施形態の過熱蒸気装置100について更に説明する。図6は、本実施形態の過熱蒸気装置100における焼成室10の平面断面構造を模式的に示しており、図7は、焼成室10の側面断面構造を模式的に示している。
図6に示すように、本実施形態の過熱蒸気装置100は、蒸気を発生させる蒸気発生装置40を備えている。本実施形態の蒸気発生装置40は、湯気を発生させる湯気発生装置であり、湯気発生装置40からは、微圧力(例えば、絶対圧力0.12MPaA程度以下、または、ゲージ圧力0.0187MPaG以下)の飽和水蒸気が生成する。典型的には0.13MPaA以下(一例では0.105〜0.12MPaA)の湯気(微圧蒸気)を用いる。ただし、湯気発生装置40が発生する湯気(蒸気)の圧力は例示であり、実際に使用する条件にあわせて適宜好適なものを採用することができるので、その圧力を上回る場合もあるし、その圧力を下回る場合もあり得る。
湯気発生装置40から発生した湯気は、配管42内を矢印48のように移動して、噴出しパイプ20(20A、20B)の内部に導入される。そして、噴出しパイプ20の中に配置された電熱ヒータ30によって、導入された湯気は加熱されて、過熱蒸気(過熱水蒸気)となる。なお、図5に示した電熱ヒータ30には、電熱面積を大きくするためのフィン32が取り付けられている。図示した例では、それぞれの電熱ヒータ30に、複数のフィン32が取り付けられている。また、電熱ヒータ30は、焼成室10の内部に半分以上の長さで位置していることが好ましく、さらには、大半(例えば、7割又は8割以上)の長さが位置していることがより好ましい。
次いで、図7に示すように、電熱ヒータ30の加熱で生成した過熱蒸気は、矢印54に示すように、噴出しパイプ20の噴き出し口25から噴き出されて、チェーンコンベア(または、耐熱コンベア)50の表面に位置する被加熱物(例えば、食品)55に接触する。すなわち、噴出しパイプ20の中の過熱蒸気は、チェーンコンベア50の上方に位置する噴き出し口25から噴き出されて、被加熱物(例えば、食品)55を加熱する(例えば、加熱調理する)。被加熱物55が冷凍魚(例えば、冷凍サバ)の場合、チェーンコンベア50の上に位置する冷凍魚55は、焼成室10の入口11から矢印51のように導入され、噴き出し口25から吹き付けられた過熱蒸気(54)によって焼成され、焼き魚となる。その後、焼き魚55は、チェーンコンベア50で前方(下流)に進み、焼成室10の出口12から矢印52のように出て行く。ここで、チェーンコンベア50を用いた方式の一例を詳細に述べると、チェーンコンベア50に焼き網(耐熱ステンレス製のもの等)を配置し、その網の上で被加熱物(魚、肉など)を乗せて移動させるものであり、ある例では、焼き網を含めた形態でチェーンコンベア50と称する場合がある。
図8および図9は、噴出しパイプ20の噴き出し口25の形状を模式的に示す斜視図である。図8に示した噴き出し口(貫通孔)25aは、円形(または、楕円形、長円形その他の略円形)の形状を有している。なお、図8に示した噴き出し口25aの形状を、円形または略円形以外の形状(例えば、四角形、六角形など)にすることも可能である。図9に示した噴き出し口25bは、スリット形状を有している。噴出しパイプ20に、細長い短冊状のスリット25bが形成されている。スリット形状の噴き出し口25bは、1つでも複数でも構わない。なお、噴き出し口25(25a、25b)は、典型的には、噴出しパイプ20の直下部位(鉛直方向の下方向部位)に形成されるが、それ以外の部位にさらに噴き出し口25を追加して形成しても構わない。また、噴出しパイプ20の直下部位(鉛直方向の下方向部位)には噴き出し口25は形成せずに、例えば、噴出しパイプ20の下半分の領域に、複数の噴き出し口25を形成することも可能である。
本実施形態の過熱蒸気装置100においては、上述したように、湯気発生装置40で発生させた湯気を加熱して過熱蒸気を生成する加熱装置30と、過熱蒸気(54)によって被加熱物55が焼成される焼成室10とが備えられている。焼成室10の内部には、過熱蒸気(54)を噴出する噴出しパイプ20が配置されている。噴出しパイプ20は、焼成室10の一方の側10aから挿入された第1パイプ20Aと、その反対の側10bから挿入された第2パイプ20Bとを含み、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとは交互に配置されている。そして、本実施形態の加熱装置30は電熱ヒータであり、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bのそれぞれの中に電熱ヒータ30が配置されている。
本実施形態の構成によれば、焼成室10の内部に交互に配置された第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bのそれぞれの中に電熱ヒータ30が配置されていることから、電熱ヒータ30の加熱によって高温になった過熱蒸気をすぐに被加熱物55に接触させることができる。したがって、焼成室10の外で過熱蒸気を発生させ、その過熱蒸気を焼成室10内に導入した場合には、焼成室10内において被加熱物55に過熱蒸気を接触させる際にはその過熱蒸気の温度は低下してしまっているが、一方、本実施形態の場合では、より高温の過熱蒸気(例えば、550℃またはそれ以上の過熱蒸気)を被加熱物55に接触させることができる。それゆえに、被加熱物55に接触させた際の過熱蒸気の温度が同じである場合、焼成室10の外で過熱蒸気を発生させたものと比べて、本実施形態の構成の方が、エネルギー効率が良い。また、電熱ヒータ30は第1パイプ20A及び第2パイプ20Bの中に配置されているので、電熱ヒータ30の熱を、焼成室10の内部を加熱することに利用することができる。したがって、電熱ヒータ30の熱も利用できる分、本実施形態の構成はエネルギー効率を向上させることができる。さらに述べると、同様のスペックの電熱ヒータを用いた構成において、焼成室10の外で過熱蒸気を発生させたものと比べて、本実施形態の構成の過熱蒸気装置100では、エネルギーコストを2/3にすることができることが本願発明者によって確認された。
さらには、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとを交互に配置していることにより、焼成室10の内部を均一に加熱することが容易となる。その結果、被加熱物(例えば、食品)55の加熱度合いを均一にすることができ、良質な結果物(例えば、加熱した食品)を生産することができる。ここで、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bを共に同じ側から挿入した場合、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bを挿入した側(根本側)と、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bの先端側とで、焼成室10の内部の温度に差がでるため、加熱した結果物(例えば、加熱した食品)の仕上がりにバラツキがでてしまう。一方、本実施形態の構成の場合、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bは交互に配置されているので、そのような温度差によるバラツキが生じることを抑制することが可能となる。
また、焼成室10の外で過熱蒸気を発生させたものと比べても、本実施形態の構成の過熱蒸気装置100では、焼成室10の内部を均一に加熱することができ、それゆえに、被加熱物(例えば、食品)55の焼け具合を良くすることができ、そして、焼きムラを低減することができる。これは、焼成室10の外で発生させた過熱蒸気で焼成する場合と比較すると、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bから被加熱物55へと吹き付けられる過熱蒸気の温度が安定していることがある。それとともに、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bは交互に配置されているので、噴出しパイプ(スパージ管)20における根本部分と先端部分との過熱蒸気(高温蒸気)の温度差が左右でバランスが取れて、焼け具合の左右の違いを均一化することができるからである。さらに、本実施形態の過熱蒸気装置100によれば、連続運転によって結果物(例えば、焼き魚)を大量生産することができるので、一つ一つの焼成のエネルギーコスト低減に加えて、大量生産工程の導入におけるエネルギーコスト低減の効果も得られる。
なお、図6に示した構成においては、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとは、それぞれ、2本ずつ焼成室10の内部に配置されているが、その構成に限定されるものではない。例えば、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bをそれぞれ3本ずつにすることも可能であるし、第1パイプ20Aを2本にして、第2パイプ20Bを1本にすることも可能である。焼成室10の内部において、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとは少なくとも一本ずつ配置することも可能であるが、焼成室10の内部の加熱領域をある程度確保するために、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bをそれぞれ複数本にすることが好ましい。例えば、第1パイプ20Aを8本にして、第2パイプ20Bを8本にしてもよい。さらには、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとを交互に配置した領域以外に、予備加熱して、片側から延びて配置した過熱蒸気噴き出し用のパイプを設けても構わない。加えて、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとを交互に配置する態様としては、1本ずつ交互に配置する構造の他、例えば、2本連続した第1パイプ20Aの後に、2本連続した第2パイプ20Bを配列させるような交互の配置の形態を採用しても構わない。
さらに、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bに導入する蒸気は、微圧の湯気の他、過熱蒸気であってもよい。具体的には、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bのそれぞれの中に配置された電熱ヒータ30に加えて、湯気発生装置40と焼成室10との間に更なる加熱装置を配置することができる。すると、その更なる加熱装置で湯気を過熱蒸気にすることができ、当該過熱蒸気を第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bに供給し、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bの内部に配置された電熱ヒータ30によって、供給された過熱蒸気を、更に高温の過熱蒸気にすることができる。更なる加熱装置が電気ヒータの場合、図1に示した構成において、配管部42bおよび配管部42cの内部の何れか一方または両方に電気ヒータを挿入して、そこで湯気を加熱して過熱蒸気を生成させることが可能である。なお、湯気を電熱ヒータで加熱して生成させた過熱蒸気も微圧の過熱蒸気であり、電気ヒータの動作時の内部圧力(過熱蒸気圧力)は例えば1.2気圧以下である。
図2に示した構成において、各部材の条件を例示的に説明すると次の通りである。第1パイプ20Aとそれに隣接する第1パイプ20Aとのピッチは、例えば、100mm〜200mm(一例では、150mm)であり、同様に、第2パイプ20Bのピッチは、例えば、100mm〜200mm(一例では、150mm)である。焼成室10の幅(第1パイプ20A・第2パイプ20Bの内部長さに実質的に相当する長さ)は、例えば、800mm〜2000mm(一例では、1000mm)である。また、図3及び図4に示した構成において、噴出しパイプ20(20A、20B)の噴き出し口25(または、噴出しパイプ20の最下面)と、チェーンコンベア50との間は、例えば、30mm〜100mm(一例では、50mm)である。また、焼成室10の底面から、噴出しパイプ20(20A、20B)の最下面までの高さは、例えば、100mm〜300mm(一例では、200mm)である。焼成室10の上面(天井)から、噴出しパイプ20(20A、20B)の最上面までの高さは、例えば、50mm〜200mm(一例では、100mm)である。第1パイプ20A及び第2パイプ20Bの直径は、例えば、30mm〜100mm(一例では、50mm)である。第1パイプ20A及び第2パイプ20Bの形状は、経年劣化を考慮した強度などの関係から円筒形状が好ましいが、円筒以外の形状のものを使用しても構わない。また、焼成室10、噴出しパイプ20(20A、20B)、蒸気供給用の配管42は、典型的にはステンレスから構成されている。
<第2実施形態>
図10は、本発明の第2実施形態に係る過熱蒸気装置150の構成を示す斜視図である。本実施形態の過熱蒸気装置150は、過熱蒸気を用いて被加熱物を加熱する処理(特に、食品加熱、または、食品製造)を行うための装置である。また、図11は、本実施形態の過熱蒸気装置150の焼成室10の上方からみた配管構造の様子を示している。さらに、図12は、本実施形態の過熱蒸気装置150の焼成室10の断面構造を模式的に示している。なお、上述した第1実施形態と共通する事項については説明を省略する。
図10に示すとおり、本実施形態の過熱蒸気装置150は、湯気を発生させる湯気発生装置(不図示)と、湯気45を加熱して過熱蒸気を生成する加熱装置30と、その過熱蒸気によって被加熱物が焼成される焼成室10とから構成されている。また、焼成室10の内部には、過熱蒸気を噴出する噴出しパイプ20が複数本配置されている。複数本の噴出しパイプ20は、焼成室10の中に挿入されている。また、噴出しパイプ20の内部には、電熱ヒータ30が配置されている。図10に示した構成においても、噴出しパイプ20は、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとを含んでいる。そして、焼成室10の内部において、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとは交互に配置されている。
本実施形態の構成においては、焼成室10の周囲(特に、上方部)に、湯気発生装置(不図示)から延びた蒸気供給配管41に接続された連結配管部43が配置されている。連結配管部43は、蒸気供給配管41内を通過する湯気を噴出しパイプ20へと供給するための配管構造部である。そして、本実施形態の過熱蒸気装置150では、連結配管部43および噴出しパイプ20における内部圧力差の調整を行うバイパス配管45(45A、45B)が設けられている。本実施形態のバイパス配管45(45A、45B)は、連結配管部43のうちの蒸気供給配管41に近い上流側部位46aと、上流側部位よりも下流に位置する下流側部位46bとを接続している。
図示した構成では、連結配管部43は、焼成室10の上方に配置されている。そして、連結配管部43は、蒸気供給配管41に接続された統合配管43aと、統合配管43aから延びた分岐配管43b、43cとから構成されている。蒸気供給配管41は、統合配管43aの接続箇所(連結箇所)47にて統合配管43aに接続されている。また、分岐配管43b、43cは、噴出しパイプ20(20A、20B)に接続する配管である。分岐配管43bは、噴出しパイプ20(20A、20B)と同一方向に延びる水平配管43bである。そして、分岐配管43cは、水平配管43bから鉛直方向に延びて、噴出しパイプ20に接続する鉛直配管43cである。
また、この構成例では、複数の水平配管43bのそれぞれの内部には、第2電気ヒータ30が挿入されている。そして、統合配管43aの内部には、第3電気ヒータ30が挿入されている。なお、第2電気ヒータ30および/または第3電気ヒータ30によって、連結配管部43内を移動する蒸気を直列的に昇温することが可能となる。なお、第2電気ヒータ30、第3電気ヒータ30は、必須の電気ヒータではなく、何れか一方の配置でもよいし、何れも配置しない構成例もあり得る。
さらに、本実施形態の構成では、図10及び図11に示すように、連結配管部43は、複数の連結配管ユニット49A、49Bから構成されている。また、複数の連結配管ユニット49A、49Bのそれぞれには、蒸気供給配管41A、41Bが接続されている。そして、各連結配管ユニット49A、49Bは、統合配管43aおよび分岐配管(43b、43c)を備えている。なお、図示した例では、2つの連結配管ユニット49A、49Bを示しているが、3つ以上の連結配管ユニット(49Aなど)を接続して、連結配管部43を構築することも可能である。また、図示した構成例では、蒸気供給配管41A、41Bを互いに接続するバイパス配管45Cが形成されている。このバイパス配管45Cによって、蒸気供給配管41A、41Bの間の圧力差を調整すること(均一にすること)ができる。
本実施形態の構成においては、バイパス配管45(45A、45B)を設けるようにしているが、これは次のようなことに基づく。本願発明者は、図1に示した過熱蒸気装置100において実験を行っていたところ、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとを交互に配置した構造においても、まだ、焼成室10内での加熱の温度ムラが生じることを見出した。もちろん、過熱蒸気装置100は、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bの内部に電熱ヒータ30が存在しない構成に比べると、焼成室10内での加熱温度の均一性は優れており、そして、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bを交互に配置(千鳥配置)にしなかった場合(片側配置)と比較しても焼成室10内での加熱温度の均一性は優れている。そのような優れた加熱均一性を持っているにもかかわらず、まだ加熱温度の不均一さがあることを深く検討し、各々の噴出しパイプ20(20A、20B)の間における管内の蒸気圧力の差(不均一さ)が、当該加熱温度の不均一さの原因であることを見出した。そして、本実施形態の構成においては、前後縦横に延びる配管構造(連結配管部43)の内部を蒸気(湯気または過熱蒸気)が通過する間に圧力差が生じることを抑制するために、バイパス配管45を設けている。これにより、連結配管部43における圧力差を調整することができ、その結果、各々の噴出しパイプ20の間の圧力を均一にすることができる。またそれによって、噴出しパイプ20から噴き出される過熱蒸気の加熱温度を揃えることができ、焼成室10内での加熱温度の均一性をより優れたものにすることができる。
また、本実施形態の構成においては、連結配管部43は、複数の連結配管ユニット49A、49Bから構成されており、その連結配管ユニット49A、49Bの間の加熱温度の差異を減らすことが好ましい。図示した構成例では、蒸気供給配管41A、41Bを互いに接続するバイパス配管45Cが設けられているので、このバイパス配管45Cによって、蒸気供給配管41A、41Bの間の圧力差を均一にすることができ、その結果、連結配管ユニット49A、49Bの間の加熱温度ムラを抑制することができる。
なお、バイパス配管45を用いた構造の効果は、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bを交互に配置(千鳥配置)にしなかった場合(片側配置にした場合)でも得ることができる。第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bを片側配置にした場合には、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bを千鳥配置にした場合よりも、焼成室10内の温度ムラが大きくなる傾向が強くなるので、バイパス配管45を用いた構造によって、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bの間の圧力差をできるだけ均一にして、温度ムラを抑制することが技術的な意義が大きい。
さらにバイパス配管45に、管内の流量を調整できるバルブ(例えば、比例式弁)を設けて、そのバルブの調整によって、配管構造部内の蒸気圧力をさらに精度よく調整することも可能である。なお、比例式弁(比例制御弁、または、電磁式比例制御弁)とは、オンオフの弁の開閉制御だけでなく、流体を比例的に制御することができるものであり、比例式弁(比例制御弁)への制御信号を変化させることで、流れる流体の流量を、 最大流量に対して0〜100%の範囲で連続的に制御することができるものである。
加えて、バイパス配管45を用いずに、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bを交互に配置(千鳥配置)にしなかった場合(片側配置にした場合)でも、第1パイプ20Aおよび第2パイプ20Bのそれぞれの中に電熱ヒータ30が配置されていることの構造の効果を得ることができる。すなわち、その構造の場合、電熱ヒータ30の加熱によって高温になった過熱蒸気をすぐに被加熱物55に接触させることができる。さらに説明すると、焼成室10の外で過熱蒸気を発生させ、その過熱蒸気を焼成室10内に導入した場合には、焼成室10内において被加熱物55に過熱蒸気を接触させる際にはその過熱蒸気の温度は低下して、その結果、良好な加熱処理の障害となる。一方、電熱ヒータ30が内蔵された噴出しパイプ20(20A、20B)を用いて、そこで加熱した(直近で加熱した)過熱蒸気で加熱を行うと、良好な加熱処理を実行することができる。また、電熱ヒータ30は噴出しパイプ20(20A、20B)の中に配置されているので、電熱ヒータ30の熱を、焼成室10の内部を加熱することに利用することができ、電熱ヒータ30の熱も利用できる分、エネルギー効率を向上させることができる。
さらに、図1および図10において図示したものではないが、噴出しパイプ20(20A、20B)の他に、電熱ヒータ(30)を有する棒状部材を焼成室10内に配置することが可能である。この電熱ヒータ(30)を有する棒状部材は、過熱蒸気を噴出するものではないが、その電熱ヒータ(30)によって、焼成室10内を加熱することができる。そして、当該棒状部材の電熱ヒータ(30)を、被加熱物(55)の直上および直下の一方(または両方)に配置した場合、その被加熱物(例えば、食品)を焼成することができる。そのような棒状部材としては、本実施形態の電熱ヒータ30をパイプに内蔵されたもの(ヒーターパイプ)、または、図6に示したような電熱ヒータ30自体を焼成室10の側面から挿入したものを挙げることができる。
また、図10に示した構成例では、焼成室10の入口側11および出口側12の少なくとも一方(この例では、両方)には、焼成室10の上板部10tよりも高さの高い空洞16を有する風除け部63、64が設けられている。図13は、この風除け部63(64)の断面構造を模式的に示している。
図13に示すように、風除け部63の天板63tが焼成室10の上板部10tよりも高くした空洞16を設けることにより、焼成室10の内部の加熱雰囲気(加熱温度の均一性に優れた雰囲気)を、風除け部63がない場合と比較して、より維持することができる。すなわち、風除け部63が存在した場合には、焼成室10の内部の雰囲気(過熱蒸気で満たされた略無酸素状態の雰囲気)は、焼成室10の出入口(12A)の付近において矢印19のように風除け部63へ流れ込み、風除け部63の内部の空洞16に留まるので、直接、焼成室10の出入口(12A)に出ることを防ぐことができる。そして、図10に示すように、焼成室10の入口と出口の両方に風除け部63を設けることがより好ましい。
また、図13に示した例では、風除け部63(64)の外部へと連結する開口12Aの高さ寸法H1と、焼成室10の上板部10tを基準とした高さ寸法H2は、同じか略同じにしているが、図10に示した構成例(および、図14に示した例)では、高さH1の方を小さくしている。すなわち、焼成室10の出口または入口(12A)を低くすることにより、焼成室10の内部の雰囲気はより外部へと出にくくなり、それによって、良好な加熱雰囲気を維持することができる。
さらに、図14に示した例では、風除け部63(64)には、空洞16を複数の領域16a、16bに区分けする区分け部材17が設けられている。このように区分け部材(区分け板)17を設けると、焼成室10の内部の雰囲気は、矢印19のように風除け部63の内部の空洞16a、16bに留まるので、より効果的に、焼成室10の出入口(12A)に出ることを防ぐことができる。
なお、この風除け部63の構成は、図10に示した過熱蒸気装置150の構造だけでなく、他の構造(特に、図1に示した過熱蒸気装置100)にも好適に適用することができる。
また、図10にて説明したバイパス配管45は、図1に示した構造にも適用することができる。具体的には、図15に示すように、圧力差が生じやすい離れた配管(ここでは、水平配管42d)の箇所(46a、46b)を接続するバイパス配管45(45A、45B)を設けることができる。図15に示した例では、蒸気供給配管42a(42)が配管(統合配管)42bの中央に接続されているが、それが配管42bの中央からずれた位置に接続された場合には、離れた各水平配管42dの箇所(46a、46b)の圧力差が生じやすくなるため、バイパス配管45(45A、45B)による圧力均一効果の技術的意義が大きくなる。
さらに、図16に示したように、全ての水平配管42dを接続するようなバイパス配管45(45A、45B)を設けることも可能である。また、バイパス配管45を設ける箇所は、水平配管42dだけでなく、それぞれの鉛直配管(離れた配管、または、全ての配管)を接続するバイパス配管45を設けることも可能であるし、燃焼室10の一方の側と他方の側との配管を接続するバイパス配管45を設けることも可能である。
<第3実施形態>
次に、図17及び図18を参照しながら、本実施形態の過熱蒸気装置の改変例について説明する。図17及び図18は、本実施形態の過熱蒸気装置100(または150)を含む加熱処理装置200の構成を示している。図17は、加熱処理装置200の側面断面図であり、そして、図18は、加熱処理装置200の平面断面図である。
図17及び図18に示した加熱処理装置200では、焼成室10を含む過熱蒸気装置100の上流に、予備加熱室90が連結されている。予備加熱室90および焼成室10の内部は、チェーンコンベア50が通過できる構造を有している。図18に示した例では、予備加熱室90の内部に、蒸気噴き出し配管26が配置されており、この配管26から蒸気がコンベア50の方に噴き出される。この噴き出された蒸気によって、予備加熱が実行される。
蒸気噴き出し配管26は、蒸気供給配管27に接続されている。蒸気供給配管27は、蒸気導入部27aと、蒸気導入部27aに接続された第1共通配管部27bと、第1共通配管部27bから分岐した第2共通配管部27cとを含む。蒸気導入部27aには、湯気発生装置40からの湯気が導入される場合と、湯気発生装置40からの湯気を加熱装置で加熱して発生させた過熱蒸気が導入される場合があり、いずれを採用してもよい。なお、予備加熱室90は、チェーンコンベア50上の被加熱物に対して予備加熱を行う装置であるので、予備加熱の処理を実行できるのであれば、他の方式で蒸気噴き出し配管26から蒸気を噴射させるようにしても構わない。
図示した例では、予備加熱室90の上流側(入口付近)に風除け室66が設けられている。また、焼成室10の下流側(出口付近)に風除け室67が設けられている。この例において、予備加熱室90の長さを例示的に説明すると、5メートルから10メートルであるが、予備加熱室90の長さは使用条件にあわせて適宜好適なものを採用すればよい。
加熱処理装置200においては、矢印51に示すように、チェーンコンベア50の入口から被加熱物(例えば、食品)が導入され、次いで、予備加熱室90で被加熱物は予備加熱される。その後、焼成室10において、噴出しパイプ20(20A、20B)から噴き出される過熱蒸気によって被加熱物の加熱が実行される。最後は、矢印52に示すように、チェーンコンベア50の出口から、加熱処理された結果物(例えば、加熱された食品)が出てくる。
なお、図17に示した構造では、チェーンコンベア50は入口よりも高くするようにしているが、入口と同じ高さのフラットのまま進行させるようにしてもよい。チェーンコンベア50をアップサイドになるようにした場合には、焼成室10においては噴出しパイプ20(20A、20B)に被加熱物を近づけることができるという効果(より加熱できるという効果)を得ることができ、また、予備加熱室90では、蒸気噴き出し配管26に近づけることができるという効果を得ることができる。
図19は、別の加熱処理装置200の構成を示している。図19に示した加熱処理装置200では、チェーンコンベア50はフラットに移動するが、図17に示すようにアップサイドになるように移動させてもよい。また、図19に示した加熱処理装置200においては、高さの高い風除け室66、67a、67bと、それよりも高さの低い風除け室63、64を設けており、より確実に、加熱処理装置200内の加熱雰囲気の状態を良好に保てるようにしている。
また、図20は、過熱蒸気装置150を用いた場合における焼成室10の断面構造を示しており、焼成室10の横には、湯気発生装置(熱交換器)70が配置されている。そして、湯気発生部70の接続箇所51には、蒸気供給配管が接続されることになる。この湯気発生部(熱交換器)70の詳細は後述する。さらに、図21は、予備加熱室90における断面構造を示しており、予備加熱室90の横には、湯気発生装置(熱交換器)70が配置されている。同様に、湯気発生部70の接続箇所59には、蒸気供給配管58が接続され、この蒸気供給配管58は、予備加熱室90の蒸気導入部27aに接続される。ここで、図20の湯気発生部70と、図21の湯気発生部70とは同じ種類のものを用いているが、異なる種類のものを使用することも可能である。ただし、同じ種類のものを用いると、工場における設備の設置準備が容易になり得る。
図22は、本実施形態の過熱蒸気装置100(150)または加熱処理装置200で加熱処理された食品(ここでは、サバ)を示す図面代用写真である。冷凍状態で過熱蒸気装置100(または、加熱処理装置200)に導入された冷凍サバは、本実施形態の過熱蒸気装置100によって焼成されて、図22に示すように焼きサバとなって出てくる。この焼きサバ(焼き魚、または、焼成された食品)は、過熱蒸気からなる良好な加熱雰囲気下(加熱ムラが少ない雰囲気下)において加熱処理されたので、味も良好であった。
本実施形態の過熱蒸気装置100では、焼成室10の外部に電熱ヒータ30を設置して過熱蒸気を生成させた場合と比較して、焼成室10の内部に位置する噴出しパイプ20内の電熱ヒータ30を用いて加熱処理を行うため、より高温の過熱蒸気を容易に生成することができ、その結果、エネルギー効率を向上させることができる。違う観点から説明すると、焼成室10の外部に電熱ヒータ30を設置する場合よりも、より出力の小さい電熱ヒータ30を用いて過熱蒸気の加熱処理を実行することができる。
<その他の実施形態>
図23は、本実施形態の加熱処理装置200の改変例を示している。図23に示した例では、本実施形態の過熱蒸気装置100を備えた加熱処理装置200を示しており、この例では、湯気発生装置40と焼成室10との間に、更なる加熱装置21が配置されている。図示した構成例では、その更なる加熱装置21は、直列で複数設けられており(21a、21b)、湯気発生装置40から配管42を通じて矢印48のように移動する湯気を多段加熱して、焼成室10の内部に位置する噴出しパイプ20(20A、20B)に送り込む。
より詳細に説明すると、湯気発生装置40からの湯気は、第1加熱装置21a(例えば、電熱ヒータ)で過熱蒸気となり、次いで、第2加熱装置21b(例えば、電熱ヒータ)で更に高温の過熱蒸気となる。続いて、その過熱蒸気は、噴出しパイプ20(20A、20B)内の電熱ヒータ(30)で更に加熱された後、チェーンコンベア50上の被加熱物(例えば、食品)に吹き付けられて、すぐに接触して、被加熱物の加熱が実行される。図12に示した加熱処理装置200によれば、多段階で加熱して高温の過熱蒸気を効率良く生成することができる。
なお、この例では、焼成室10の上流には、予備加熱ライン90が配置されている。したがって、チェーンコンベア50上の被加熱物55は、予備加熱ライン90において予備加熱された後に、焼成室10で加熱される。予備加熱ライン90では、矢印48に示すように蒸気(例えば、湯気、または、過熱蒸気)が導入され、そして、蒸気噴き出し配管26から噴き出された蒸気(矢印56参照)によって被加熱物55の予備加熱が実行される。
本実施形態の湯気発生装置40で発生させた湯気は、ボイラー蒸気のような高圧蒸気ではなく、微圧蒸気のことを意味する。換言すると、本実施形態の「湯気」は、高温高圧のスチーム蒸気と異なり、微圧力の蒸気(例えば、絶対圧力0.12MPaA以下の蒸気)である。なお、ここでの「湯気」は微圧力の蒸気であることを特徴としており、湯から立ち上る蒸気(水蒸気)であればよく、その蒸気が小さな水滴となって白く煙になるような状態であることまで限定されるものではない。すなわち、湯気は、白い煙のような状態であってもよいし、透明の状態であってもよい
湯気発生装置40は、一定の量の水(または液体)を加熱装置(例えば、ボイラー、電熱ヒータ、高周波加熱装置など)で加熱して、そこで湯気を発生させる方式を採用することができる。さらに好ましい形態としては、次のようなものがある。湯気発生装置40において安定して湯気(微圧蒸気)を発生させるには、湯気発生装置40内の水位(液面)を一定に揃えておくことが、制御し易くて好ましい。そのような湯気発生装置40を図24に示す。
図24に示した湯気発生装置40は、液体77が蓄えられる貯水タンク76と、貯水タンク76から供給される液体77を加熱することによって湯気73を発生させる湯気発生部70とから構成されている。貯水タンク76と湯気発生部70とは連通管75を通して接続されている。ここで、連通管75を通して接続されていることにより、大気圧を利用して(パスカルの原理により)、貯水タンク76における液体77の水位WL1と、湯気発生部70における液体77の水位WL2とは互いに一致する。
さらに説明すると、図示した湯気発生部70は、熱交換器であり、互いに独立する液体経路71および蒸気経路72を有している。この熱交換器(湯気発生部)70では、液体経路71を流動する液体と蒸気経路72を流動する加熱用蒸気との間で熱交換が行われる。熱交換器70の蒸気経路72には、ボイラー74からの高圧蒸気(ボイラー蒸気)が導入される。一方、熱交換器70の液体経路71は、連通管75を通して開放貯水タンク76に接続されている。開放貯水タンク76は、水位を示す水位表示器(例えば、浮き球)76aが設けられている。また、開放貯水タンク76には、液体(水)を供給するための配管(例えば、水道管)78が接続されている。上述したように、貯水タンク76と液体経路71とは連通管75によって接続されているので、貯水タンク76の水位(WL1)と液体経路71の水位(WL2)が一致している。したがって、本実施形態の構成によれば、大気圧を利用して簡便に水位(液面レベル)WL2の制御を行うことが可能となる。
また、湯気発生装置40は、図25に示すようなものを採用することも可能である。図25に示した湯気発生装置40は、湯気発生部80を備えている。湯気発生部80は、液体77を加熱する電熱ヒータ82と、電熱ヒータ82を収納し、液体77を保持するハウジング81とから構成されている。そして、ハウジング81と貯水タンク76とは連通管75で互いに接続されている。また、ハウジング81と、貯水タンク76とは連通管75で互いに接続されていることから、上述した図13に示した装置と同様に、大気圧によって、ハウジング81内の液体の水位(WL2)と、貯水タンク76内の液体77の水位(WL1)は一致した状態となっている。したがって、図14に示した構成によっても、大気圧を利用して簡便に水位(液面レベル)WL2の制御を行うことが可能となる。
さらに説明すると、貯水タンク76には、液体77を補給する補給タンク79が配管78を介して接続されている。貯水タンク76の液体77が消費されると、適宜、補給タンク79から液体77が補給される。この例では、貯水タンク76には、液体77の水位(WL1)を示す水位表示器(例えば、浮き球)76aが設けられている。したがって、この水位表示器76aを利用して、水位表示器76aで示された水位(WL1)に応じて、補給タンク79から液体77を補給することができる構成にすることが可能である。また、補給タンク79に水道口(不図示)を接続して、補給タンク79に水道水を導入することも可能である。なお、補給タンク79を用いずに、貯水タンク76に水道口を接続して、水道口から液体77を補給することも可能である。
また、図25に示した例では、連通管75は、貯水タンク76側に少なくとも2つの接続端を有している。この例の連通管75(75a、75b)は、2本の構成からなっている。あるいは、言い換えると、連通管75は、二股の構成となっており、連通管75a、75bのそれぞれの一端は、貯水タンク76に接続されており、連通管75の共通した他端はハウジング81に接続されている。水位(WL1、WL2)と一致させて制御するのであれば、連通管75は一本だけで十分であるが、連通管75を複数本または分岐した構成にすると、ハウジング81内の液体77の液面が一時的に揺れてしまうことを抑制することができる。
詳述すると、連通管75が一本のときは、連通管75が分岐している場合(75a、75b)と比較すると、間欠な流入になりやすく、そのときは、ハウジング81内の液体77の液面が一時的に揺れてしまうことが発生する。一方、連通管75a及び75bのように分岐させると、間欠な流入を抑えることができ、その結果、連通管75からハウジング81内への液体77のスムーズな流入を達成することができる。したがって、ハウジング81内の液体77の液面が揺れることを抑えることができるので、湯気発生部80内の液面を安定させることが容易となる。すなわち、この構成においては、連通管75bを間欠防止用の配管として使用している。
湯気発生部80のハウジング81には、電熱ヒータ82(例えば、プラグヒータ、フランジヒータなど)が挿入されており、電熱ヒータ82が液体77を加熱することによって、液体77から湯気85が生成される。湯気発生部80では、動作時に実質的に大気圧と同じ内部圧力(例えば、1.2気圧以下の内部圧力)で加熱が実行される。ハウジング81は、金属(例えば、ステンレスなど)から構成されており、ハウジング81の後方部から電熱ヒータ82は差し込まれている。電熱ヒータ82には、電熱面積を大きくするためのフィン83が取り付けられており、本実施形態では、電熱ヒータ82に複数のフィン83が取り付けられている。
湯気発生部80で発生した湯気は、ハウジング81から配管84に進み(矢印85参照)、その後、過熱蒸気装置100の配管42に導入される。湯気は、微圧力の蒸気であるので、高温高圧のスチーム蒸気と異なり、配管42内をゆっくりと進んで、過熱蒸気装置100の噴出しパイプ20(20A、20B)に到達する。
本実施形態の湯気発生装置40で発生した湯気は、上述したように、噴出しパイプ20(20A、20B)に導入されることになる。そして、噴出しパイプ20内の電熱ヒータ30によって加熱されて、過熱蒸気(過熱水蒸気)になる。湯気発生装置40で発生した湯気の温度が例えば95℃〜110℃程度とすると、電熱ヒータ30で加熱されて、150℃以上、好ましくは180℃以上(あるいは、300℃〜600℃またはそれ以上)の過熱蒸気(スーパーヒートベイパー)が発生する。本実施形態の電熱ヒータ30は、上述した通り、例えば、数キロワット程度の電熱ヒータ(例えば、プラグヒータ、フランジヒータなど)である。
電熱ヒータ30には、上述したように、図5または図6に示したような電熱面積を大きくするためのフィン32を取り付けることができる。フィン32は、電熱面積の拡大の機能の他に、噴出しパイプ20内に存在する湯気および過熱蒸気を対流させることによって、電熱ヒータ30の加熱効率を高める機能も有している。すなわち、フィン32が存在しない場合には、微圧蒸気である湯気およびその湯気から生じた過熱蒸気は噴出しパイプ20内をゆっくりと移動するのであるが、電熱ヒータ30にフィン32を設けて、湯気および過熱蒸気の流れの障害を作ると、フィン32の効果によって噴出しパイプ20内で対流が生じる。そのフィン32によって生じた対流で、加熱の度合いが小さい湯気・過熱蒸気が電熱ヒータ30及びフィン32に接触しやすくなり、それによって、過熱蒸気生成のための加熱効率が向上することになる。
また、過熱蒸気装置100に導入される湯気は、飽和蒸気(飽和水蒸気)であるので、焼成室10に導入される過熱蒸気は、高温でありながらも、水分を多く含む気体である。したがって、湯気(飽和蒸気)を加熱して生成された過熱蒸気で食品を加熱すると、食品から必要以上に水分が取り出されてしまってパサパサになることを抑制することができる。この点、湯気を加熱して高温にした過熱蒸気と、高温高圧のスチーム蒸気を加熱して高温にした過熱蒸気(スチーム蒸からの過熱蒸気)とは異なる。
さらに、過熱蒸気は、次のような利点を有している。まず、過熱蒸気の伝熱は、対流伝熱の他に、放射伝熱が加わるため、熱効率が非常に高いという特長を有している。魚や肉の焼き上がりは、直火・ガスと同様以上であり、さらに、水蒸気なので対流伝達も早く、空気に比べて約10倍以上も対流伝達が早い。また、過熱蒸気は低温の物質に触れると凝縮し、その時に物質に熱を与えて温度(芯温)を上げるという水蒸気本来の性質と、加熱空気のように物質を加熱する性質を持っているので、短時間で焼成ができる。
加えて、製品の芯温を短時間で上昇させるので、冷凍魚・肉・パンなどの冷凍食品で解凍と焼きの2工程を一度に短時間で実行することができる。さらに、ある一定の温度以上になると、乾燥空気中よりも水蒸気中の方が乾燥が早くなることが知られているので、蒸しと乾燥とを同時に行うことができる。また、ポーラス状態に仕上げることもできるので、インスタントラーメンや、製茶にも好適に用いることができる。
さらには、過熱蒸気中は無酸素状態(あるいは、大気圧の酸素濃度よりも低い状態)なので、油脂の酸化・ビタミンの破壊などを抑制することができ、製品の保存を向上させることもできる。また、食品の退色防止にも役に立つ。そして、水は蒸発する時に油分を抱え込む性質があり、この性質は、脱油効果として利用することができる。
このような特性を有する過熱蒸気による調理は、食材の水分を取り過ぎず表面の硬化を防ぎ(例えば、歩留まり85%以上)、素材の旨味を引き出すことができる可能性を持っている。
本実施形態の過熱蒸気装置100は、例えば300℃〜400℃またはそれ以上(例えば、550℃)の過熱蒸気を発生させることができるのにもかかわらず、実質的に1気圧の内部圧力で動作を行っている。具体的には、せいぜい1.2気圧またはそれ以下の内部圧力で動作をしている。なお、ボイラー蒸気を用いて、300℃〜400℃またはそれ以上の高温加熱を行おうとすれば、当然、数気圧以上の動作圧力が要求されることになる。
過熱蒸気装置100が実質的に1気圧での動作を行うことができるのは、微圧蒸気である湯気を加熱して、高温の過熱蒸気を発生することができるからによる。技術常識に従えば、高温の気体を発生させるには高圧が必須となるが、例えば高温高圧のボイラー蒸気を加熱する場合、ボイラー蒸気の流速が速いために実際には上手く加熱することが難しいか、加熱することができるとしても膨大なエネルギーを要し非効率となる。一方、本実施形態の構成では、微圧蒸気である湯気は、噴出しパイプ20内をゆっくり漂うので、その間、電熱ヒータ30で加熱することができ、大気圧で高温(例えば300℃以上)の過熱蒸気を生成させることができる。そして、その高温の過熱蒸気を、高温のまま直下のチェーンコンベア50上の被加熱物55に吹き付けることができる。
なお、加えて、ボイラー蒸気(高温高圧の蒸気)を導入して、そのボイラー蒸気をさらに加熱して過熱蒸気を食品に吹き付ける場合、流速の速いボイラー蒸気から生じた過熱蒸気が良くあたる部分とそうでない部分との差が激しく、美味しい加熱食品とはなりにくい。また、その流速の速い過熱蒸気の場合、加熱制御が非常に困難を極め、食品の加熱という非常に繊細な温度管理(加熱温度制御)に向いていない(例えば、焦げを生じやすかったり、部分焼けや未焼成部分の発生が生じる)。さらには、ボイラー蒸気は不純物(例えば、強アルカリ成分)を含むので、ボイラー蒸気由来の過熱蒸気が食品にそれがあたると、味に影響を与えてしまう。また、ボイラー蒸気には空気が含まれているので、その空気が断熱材として機能し、過熱蒸気の中に空気が混じることでの加熱ムラも生じる。さらに説明すると、ボイラー蒸気由来の過熱蒸気を用いた加熱では、ボイラー蒸気が配管内を移動する間に条件(温度、熱量、体積など)の変動が激しいために、精密な温度制御を行うことは至難の業であり、温度ムラが生じてしまう。そもそも、火炎式の装置でボイラー蒸気を加熱する場合には、過熱蒸気を決められた設定温度にしかできず、広範囲な温度設定も無理であるし、そして、繊細な温度調整も無理である。そのような過熱蒸気を用いた加熱では、食品の部分的な焦げや焼けが生じてしまい、それがタンパク質の変性の増進となり、味や臭いの悪さにつながってしまう。
一方、本実施形態の構成では、熱交換器90(言い換えると、蒸気間接加熱方式の湯気発生装置10)にて、0.12MPaA(104℃)の湯気(クリーンスチーム)15を発生させて、上述したような機構によって過熱蒸気を発生させるので、不純物を含まない過熱蒸気を生成することができるとともに、流速が遅いので温度の制御コントロールがし易い。その結果、緻密に温度制御できる過熱蒸気の加熱によって、タンパク質の変性を抑えた美味しい食品を製造することができる。加えて、本実施形態の構成では、実質的に大気圧の動作であるので、安全面での利点が大きい。また、開放型の焼成室10として連続運転(コンベア式の運転)ができる利点も大きい。
開放型の焼成室10であっても、過熱蒸気の温度を300℃〜400℃(典型的な一例は、400℃±10℃)に設定すれば、例えば、未解凍の冷凍魚(冷凍サバなど)を数分で、解凍だけでなく焼き工程も完了させることができる。通例、加熱調理器で未解凍の冷凍魚を加熱する場合には、解凍だけでかなりの時間(数十分以上)がかかるとともに、解凍時に冷凍魚からエキスがドリップした後に、解凍された魚を焼くことになる。本実施形態の構成では、焼成室10の内部は実質的に大気圧で動作し、そして、チェーンコンベア50によって連続して焼成を実行することができるので、非常に効率良く加熱処理の工程を実行することができる。
なお、噴出しパイプ20から噴出させる過熱蒸気の温度は、180℃以上であることが好ましい。これは、湯気(飽和蒸気)を加熱してなる過熱蒸気は、180℃前後でその性質が変化し、食材などの加熱処理に適したものになるからである。さらに説明すると、飽和蒸気を加熱した過熱蒸気は、非常に軽く、囲われた空間内の隅々まで充満しやすく、その体積膨張率が高く、含有酸素量も少なく、熱伝達速度も速くなるという特長を有しており、このような過熱蒸気を用いて食材を加熱した場合には、食材の表層部を焦がすことができ、外層部に浸透して、食材の内部温度を上げ、表層部の水分のみを最も多く蒸発させることができるので、表面がこんがりとして内部がジューシーな焼き上がりを実現することができる。過熱蒸気は、わずかな熱量の変化で急速に温度変化するという性質を持っているので、120℃程度の比較的不安定な過熱蒸気よりも、180℃以上の過熱蒸気を発生させて、焼成室10の内部に導入することが、食品の加熱処理においては好ましい。
上述した実施形態では、コンベア50を用いた過熱蒸気装置100または加熱処理装置200について説明したが、それに限らない。本実施形態の過熱蒸気装置100は、バッチ式の焼成装置にも好適に適用することができる。
図26は、バッチ式の過熱蒸気装置100の構成を示す図である。図26(a)および(b)は、バッチ式の過熱蒸気装置100の側面図および正面図である。図26に示した過熱蒸気装置100では、焼成室(又は、加熱室)10は、内部を密閉可能な構造を有している。焼成室10の内部に、電熱ヒータ30が挿入された噴出しパイプ20(20A、20B)が配置されている点は、上述した構成と同様であるので説明を省略する。また、図26に示した構成において、バイパス配管45を設けることも可能である。また、千鳥配置でなくバイパス配管45を設けた構成にしても構わないが、千鳥配置にした方がより好適な加熱雰囲気にすることができるので上述した通りである。
焼成室10の中には、被加熱物(55)が配置され、そして、焼成室10の入口13は扉部15で塞ぐことが可能である。また、噴出しパイプ20の噴き出し口(25)は、焼成室10内に配置される被加熱物(例えば、食品)の上方に位置するようにセットされる。この例の過熱蒸気装置100の台部60の下には、車輪67が設けられており、過熱蒸気装置100を例えば工場内で移動させることができるように構成されている。
図26に示した過熱蒸気装置100では、焼成室10の扉部15を開けて、焼成室10の内部に食品を置き、その後で、扉部15を閉めて、焼成室10を密閉状態にする。ただし、焼成室10を密閉にしても、焼成室10の内部は実質的に大気圧であるので、過熱蒸気で食品を加熱した後、過熱蒸気装置100を動作させたまま、加熱後の食品の取り出しを行うことができるし、次いで、次の食品を導入することもできる。したがって、密閉型の焼成室10であっても、焼成室10を大気圧に戻してそこから食品の出し入れをするものに比較して、作業効率を顕著に高めることができる。
上述した実施形態では、例えば図7に示すように、チェーンコンベア50の上方側に噴出しパイプ20(20A、20B)を配置して、被加熱物(例えば、食品)55の片面焼きを実行する構成を示したが、本発明に係る実施形態の過熱蒸気装置100はこれに限らない。例えば、図27に示すように、チェーンコンベア50の下方側にも、噴出しパイプ20(20C、20D)を配置して、被加熱物(例えば、食品)55の両面焼きを実行する構成にすることも可能である。
図27に示した構成では、噴出しパイプ20は、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bに加えて、第3パイプ20C及び第4パイプ20Dを備えている。第3パイプ20C及び第4パイプ20Dは、蒸気供給用の配管42を介して湯気発生装置40に接続されている。この例では、図28に示すように、第3パイプ20Cは、第1パイプ20Aと同じく、一方の側(10a)から挿入されている。また、第4パイプ20Dは、第2パイプ20Bと同じく、他方の側(10b)から挿入されている。そして、第3パイプ20Cと第4パイプ20Dとは、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bと同様に、交互に配置されている。
また、この例においては、図27に示すように、第1パイプ20Aと第3パイプ20Cとは、チェーンコンベア50を挟んで対称形に配置されている。加えて、第2パイプ20Bと第4パイプ20Dとは、チェーンコンベア50を挟んで対称形に配置されている。なお、図28では、第3パイプ20Cと第4パイプ20Dとが図面において見えやすいように、少しずらして表記している。
この構成においては、第1パイプ20A及び第2パイプ20Bに加えて、第3パイプ20C及び第4パイプ20Dを備えていることによって、エネルギー効率良く、被加熱物55の表面だけでなく、被加熱物55の裏面の焼け具合も良好なものにすることができる。そして、被加熱物55の裏面の焼きムラも軽減することができる。第1パイプ20Aと第3パイプ20C、および、第2パイプ20Bと第4パイプ20Dを対称形に配置すると、被加熱物55の表面と裏面との焼け具合を調整することが便利となる。
なお、図27に示した構成では、第1パイプ20Aと第3パイプ20C、および、第2パイプ20Bと第4パイプ20Dを対称形に配置したが、その構成に限定しなくもよい。例えば、図29に示すように、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとの間に第3パイプ20Cを配置して、第2パイプ20Bと第1パイプ20Aとの間に第4パイプ20Dを配置しても構わない。このようにすると、第1パイプ20Aと第2パイプ20Bとの間(あるいは、第2パイプ20Bと第1パイプ20Aとの間)の領域に、過熱蒸気を吹き付けることができ、噴出しパイプ20が位置する領域(チェーンコンベア50の進行方向にわたった領域)の温度の均一性を向上させることができる。
また、図30に示した構成のように、第1パイプ20Aと第4パイプ20D、および、第2パイプ20Bと第3パイプ20Cが対となるような構成にすることも可能である。図30に示した例では、第1パイプ20Aと第4パイプ20D、および、第2パイプ20Bと第3パイプ20Cは、チェーンコンベア50を基準にして対称形になるように配置されている。第1パイプ20Aから第4パイプ20Dの両面焼きの構成は、チェーンコンベア50を用いた連続式の過熱蒸気装置100だけでなく、図26に示したバッチ式の過熱蒸気装置100に適用することも可能である。バッチ式の過熱蒸気装置100の場合には、チェーンコンベア50でなく、被加熱物55を配置する配置部材(例えば、金網、または、耐熱部材)を焼成室10の内部に配置して、その配置部材を挟んで、第1パイプ20A・第2パイプ20Bと、第3パイプ20C・第4パイプ20Dとを配置すればよい。
さらには、図31に示すように、コンベア50の下側に位置する噴出しパイプ20と、コンベア50の上側に位置する噴出しパイプ20とを並べるようにしても構わない。この他にも適宜好適な配置を採用することが可能である。例えば、噴出しパイプ20の配列の中に、電熱ヒータ(30)を有する棒状部材(ヒートパイプ、または、電熱ヒータ30単独のもの)を配置することも可能である。
さらに、本実施形態の過熱蒸気装置100では、加熱装置(昇温装置)として、電熱ヒータ30を用いているが、他の加熱装置についても電熱ヒータを使用した場合には、バーナ(ガスバーナ)を使用しなくてもよい。したがって、過熱蒸気装置100は、電源さえあれば(例えば、200V電源など)動作させることができ、非常に便利であるとともに、火を使用しないので安全である。また、過熱蒸気装置100は大気圧動作をしているので、安全の観点からはその点でも利点がある。
本実施形態の過熱蒸気装置100に配置される被加熱物55は、典型的には、食品であり、例えば、水産物(魚類、甲殻類、軟体動物、貝類、海草類など)や、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉、ハム、ベーコンなど)、野菜、果物、お茶、コーヒー豆、米などである。被加熱物として、パンを挙げることもできる。また、過熱蒸気装置100における過熱蒸気で炊飯を行うこともできる。本願発明者の検討ないし実験結果により、通常の炊飯方法(例えば、はじめ弱火で、次に、強火で蓋を取らない炊飯方法)にとらわれず、過熱蒸気によりたっぷりの水分を米に吸わして加熱すれば、短時間で、しかも美味しいご飯が炊けることが実証された。さらに説明すると、120℃〜400℃程度の過熱蒸気で炊き上げると米や水が早く沸点に到達し(これは、無酸素状態や、周囲全てが高温状態によることに基づく)、水分をたっぷり吸った米が炊き上がる。また、激しい水の対流で米が立った状態で炊飯をすることができる。通常の炊飯では釜の底面(又は側面も含む場合あり)だけにある電熱によって加熱するため熱伝導が遅くなり、早くしようとすれば高温を使わざるを得ず、そうすると焦げ付いてしまう。
図32は、焼成室10(10A〜10C)と予備加熱室90とを備えた加熱処理装置200を示している。ここで、炊飯方法の場合には、矢印210に示すように、最初に、焼成室10での過熱蒸気の加熱処理(典型的には、300℃以上)を実行した後に、予備加熱室90での加熱(典型的には、最大100℃)を行うことができる。また、水産物、肉類(ハム、ベーコンの材料となるものを含む)、そして、特に冷凍食品(冷凍魚、冷凍肉類など)は、矢印220に示すように、先に、予備加熱室90での加熱(典型的には、最大100℃)を行った後に、焼成室10での過熱蒸気の加熱処理を実行する。さらに、コーヒー豆の焙煎、茶葉の処理などは、矢印230のように進めて、焼成室10での過熱蒸気の加熱処理(典型的には、200℃〜300℃)を行うことができる。
過熱蒸気による加熱処理は、例えば、食材が魚の場合、乾燥させずに焼き上がるのでジューシーで美味であり、また殺菌も施される。肉の場合は、柔らかく仕上がり、旨味が増すとともに、脂っこさもとれる。天ぷらを調理する場合、衣に粉末油脂またはごく少量の油脂を加えるだけで、油低含有天ぷらができる。パンの場合、表面は薄くパリッと、中はもちっとした食感のものを得ることができる。野菜、卵でも、過熱蒸気の特性を利用して美味しいものを調理することができる。なお、過熱蒸気の加熱は、コーヒーや茶葉の焙煎に用いることもできる。
なお、本実施形態の技術で炊飯を行うには、約150℃前後の過熱蒸気のものを用いるのが良い。加水率を従来の120%から150%に高めることが可能であり、炊飯時間を半分近く短縮できるとともに、美味しさを向上させることができる。また、本実施形態の技術は、水産物の蒸し工程や焼き工程に好適に使用できるだけでなく、パン、お茶、餅米を利用する菓子類、あるいは、洋菓子、肉類の加熱調理、野菜や芋類の蒸し料理などに積極的に使用することができる。さらに、過熱蒸気の特性を利用して、骨まで食せる魚の加工にも、適用することができる。加えて、過熱蒸気は、親子丼などの丼ものの加熱調理にも適している。
また、例えば、過熱蒸気の元となる液体としては、水だけでなく、他のものを用いることもでき、調味料を添加した液体の蒸気(過熱蒸気)を用いて、それにて食材を調理することも可能である。ただし、過熱蒸気は、循環して使用されるので、その点で問題が生じないように対応すること(例えば、不純物の除去工程)が望ましい。
さらに、油調加熱に替わるスチームフライを過熱蒸気装置100(150)内において実現することができる。具体的には、高温(超高温)の過熱蒸気を用いて、フライを作ることにより、油の無い(又は少ない)ヘルシーなフライを実現することができる。また、これにより、油調に伴う工場環境の悪化や廃油の環境問題を解決することができる。