JP5170321B2 - 溶接方法および溶接装置 - Google Patents
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Description
本発明は、溶接ワイヤを送給し、短絡とアークとを繰り返して溶接を行う溶接方法および溶接装置に関する。
従来、溶接ワイヤを自動送給し、短絡とアークとを交互に繰り返す溶接を行う溶接装置では、短絡発生時に短絡の開放を促すため、時間の経過に伴って短絡電流を増加させ、短絡が開放してアークが再生するまで大電流を通電する。
特に、アルミニウム等のように、固有抵抗率が小さいため溶融され難い溶接ワイヤを用いた施工においては、短絡が発生し、短絡を開放するために大電流が通電されても、溶接ワイヤの半溶融の状態が継続し、短絡を開放することができず、アークが発生しない状態となる場合がある。
短絡の開放がスムーズに行われなかった場合、溶接ワイヤの座屈が発生して溶接が中断する、あるいは、過電流から溶接装置や周辺のジグ等を保護するための過電流保護機能が作動して溶接装置が停止することにより溶接が中断する、といったことが生じる。
上述した、ワイヤの座屈を防止し、溶接が中断することを回避する方法としては、ワイヤ送給モータのモータ電流を監視し、溶接ワイヤの送給を停止する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、過電流保護機能は、例えばチップ短絡等の溶接出力側が短絡したような異常状態の場合、溶接装置や周辺のジグ等を保護するため、従来から慣用されている。
図7は、従来の溶接装置の概略構成を示す図である。図8は、従来の溶接装置における溶接電流と、アーク状態または短絡状態を示すAS信号との時間変化を示す図である。図7と図8とを用いて、従来から慣用されている過電流保護機能の動作について説明する。図7は、過電流保護機能を有する従来の溶接装置の全体構成を示し、図8は、従来の溶接装置の溶接出力波形と各タイミングの関係を示している。
図7のように構成された溶接装置に関し、図8を用いてその動作について説明する。以下、短絡とアークとを繰り返して溶接を行う消耗電極式アーク溶接装置を用いた例について説明する。
図7に示す溶接装置1において、溶接出力部2は溶接出力を行い、出力制御部3は溶接出力部2を制御する。また、電流検出部4は溶接電流を検出し、電圧検出部5は溶接電圧を検出する。送給モータ6は溶接ワイヤ9を送給し、送給ローラ8は溶接ワイヤ9を送給する。また、溶接トーチ10において、母材12は溶接対象物であり、アーク11は溶接ワイヤ9と母材12との間に発生している。ワイヤ送給制御部13は送給モータ6を制御し、AS判定部14は、電圧検出部5の出力に基づいて、溶接ワイヤ9と母材12との間にアークが発生しているアーク状態であるのか、溶接ワイヤ9と母材12とが短絡している短絡状態であるのかを判定するものである。
図7において、溶接出力部2は、溶接装置1の外部から給電される商用電力を入力とし、インバータ動作により溶接条件に適した溶接電圧や溶接電流を出力する。
CT(Current Transformer)等で構成される電流検出部4は、溶接電流を検出する。溶接装置1の出力端子間電圧を測定する電圧検出部5は、溶接電圧を検出する。
CPU等で構成されるAS判定部14は、電圧検出部5からの電圧検出信号を入力とし、短絡状態を判定中に予め設定される検出レベル(例えば、15V)に達した場合は、AS信号をアーク判定(High:ハイレベル)とする。また、アーク状態を判定中に予め設定される検出レベル(例えば、10V)に達した場合、AS信号を短絡判定(Low:ローレベル)とする。
ワイヤ送給制御部13は、送給モータ6の回転を制御する。送給モータ6に接続する送給ローラ8の回転により溶接ワイヤ9は加圧送給され、溶接条件に応じた、基本送給速度で送給される。
溶接トーチ10により溶接出力部2の出力が溶接ワイヤ9に給電され、溶接ワイヤ9の先端と母材12との間にアーク11を発生させて溶接を行う。
また、図8において、E1は短絡が発生した時点を示し、E2は時点E1の後にアークが発生した時点を示す。E3は時点E2の後に短絡が発生した時点を示し、E7は時点E3で発生した短絡状態において短絡電流が予め設定された過電流保護検出電流値IOCに達した時点を示している。E8は時点E7から過電流保護検出期間TOCが経過して過電流保護機能が作動した時点を示している。
図8に示すように、短絡が発生した時点E3から、短絡を開放するため、短絡電流は適切な増加傾きをもって増大するように制御される。短絡を開放するためには、極力高い溶接電流を出力することが必要である。短絡電流は、溶接装置1の性能で決定する最大出力電流値IMAX(例えば550A)で上限クリップ(上限固定)され、短絡が開放してアークが発生するまで、最大出力電流値IMAXが継続して出力される。
溶接電流が過電流保護検出電流値IOC(例えば、500A)に達した時点E7から、過電流保護検出期間TOC(例えば、300msec)が経過する時点E8までの間に、短絡が開放せず、過電流保護検出電流値IOC以上の溶接電流が継続した場合を想定する。この場合には、溶接装置1は、過電流から溶接装置1や周辺ジグ等を保護するため、溶接装置1の出力を強制停止する。
過電流保護機能が動作して溶接装置1の出力および溶接ワイヤ9の送給を停止するまでは、過電流保護検出期間TOCに達するまで短絡が長時間開放できない場合であっても、溶接ワイヤ9の母材12への送給は通常通り継続される。このため、溶接ワイヤ9が母材12に形成された溶融プール中にさらに深く押し込まれ、より短絡開放が困難な状況となっていた。
そして、所定の期間に短絡が開放しないことにより過電流保護機能が作動し、溶接装置1が強制停止する。この溶接装置1の強制停止に伴う溶接の中断により、母材12が痛んだり溶接欠陥が生じるといった溶接不良が発生したり、生産効率が悪くなるという課題を有していた。
本発明は、短絡が長時間開放しなかった場合に、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させ、溶接不良の発生を防ぎ、生産性の向上を実現することができる溶接方法および溶接装置を提供する。
上記課題を解決するために、本発明の溶接方法は、溶接ワイヤを送給し、短絡とアークとを交互に繰り返して溶接を行う溶接方法であって、短絡発生中で、溶接電流が短絡発生時の溶接電流よりも大きい予め設定した第1の電流値に達した後に、溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させる方法からなる。
この方法により、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させることができる。これにより、溶接不良の発生を防ぐなどの溶接品質の向上や溶接に要する時間の短縮などの生産性の向上を実現することができる。
また、本発明の溶接装置は、溶接ワイヤを送給し、短絡とアークを交互に繰り返して溶接を行う溶接装置であって、上記溶接ワイヤを送給する送給モータと、溶接電流を検出する電流検出部と、溶接電圧を検出する電圧検出部と、を備えている。さらに、本発明の溶接装置は、上記電圧検出部の出力に基づいて短絡状態またはアーク状態を検出するAS判定部と、上記電流検出部の出力、上記電圧検出部の出力および上記AS判定部の出力に基づいて、溶接出力を制御する出力制御部と、上記出力制御部の出力に基づいて溶接出力を発生する溶接出力部と、溶接電流の閾値となる第1の電流値を設定する電流設定部と、上記電流設定部の出力、上記AS判定部の出力および上記電流検出部の出力に基づいて、上記溶接ワイヤの送給を制御するワイヤ送給制御部とを備え、短絡発生中で、溶接電流が短絡発生時の溶接電流よりも大きい前記第1の電流値に達した後に、上記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送とさせる構成からなる。
この構成により、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させることができる。これにより、溶接不良の発生を防ぐなどの溶接品質の向上や溶接に要する時間の短縮などの生産性の向上を実現することができる。
また、本発明の溶接装置は、溶接ワイヤを送給し、短絡とアークを交互に繰り返して溶接を行う溶接装置であって、溶接ワイヤを送給する送給モータと、溶接電流を検出する電流検出部と、溶接電圧を検出する電圧検出部と、電圧検出部の出力に基づいて、短絡状態またはアーク状態を検出するAS判定部と、電流検出部の出力、電圧検出部の出力およびAS判定部の出力に基づいて、溶接出力を制御する出力制御部と、を備えている。さらに、本発明の溶接装置は、出力制御部の出力に基づいて溶接出力を発生する溶接出力部と、溶接電流の閾値となる第1の電流値を設定する電流設定部と、溶接電流が第1の電流値に達してからの時間を計時する計時部と、第1の電流値に達してからの経過時間の閾値となる第1の所定時間を設定する経過時間設定部と、電流設定部の出力、計時部の出力、経過時間設定部の出力、AS判定部の出力および電流検出部の出力に基づいて、溶接ワイヤの送給を制御するワイヤ送給制御部とを備え、短絡発生中で、溶接電流が短絡発生時の溶接電流よりも大きい第1の電流値に達してから第1の所定時間が経過した後に、溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させる構成からなる。
この構成により、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させることができる。これにより、溶接不良の発生を防ぐなどの溶接品質の向上や溶接に要する時間の短縮などの生産性の向上を実現することができる。
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における溶接装置21の概略構成を示す図である。図2と図3は、本発明の実施の形態1における溶接装置において、溶接電流、アーク状態または短絡状態を示すAS信号およびワイヤ送給状態信号の時間変化を示す図である。
図1は、本発明の実施の形態1における溶接装置21の概略構成を示す図である。図2と図3は、本発明の実施の形態1における溶接装置において、溶接電流、アーク状態または短絡状態を示すAS信号およびワイヤ送給状態信号の時間変化を示す図である。
以下、溶接装置の一例として、短絡とアークを繰り返して溶接を行う消耗電極式アーク溶接装置を例にして説明する。そして、図1に示す溶接装置21の動作について、図2と図3を用いて説明する。
図1の溶接装置21において、溶接出力部22は溶接出力を行い、出力制御部23は溶接出力部22を制御する。電流検出部24は溶接電流を検出し、電圧検出部25は溶接電圧を検出する。送給モータ26は溶接ワイヤ29を送給するために備えられ、電流設定部27は溶接電流の閾値を設定する。送給ローラ28は溶接ワイヤ29を溶接対象物である母材32に溶接トーチ30を介して送給するためのものである。この時に、アーク31は溶接ワイヤ29と母材32との間に発生し、ワイヤ送給制御部33は送給モータを制御する。また、AS判定部34は、電圧検出部25の出力に基づいて、溶接ワイヤ29と母材32との間にアークが発生しているアーク状態であるのか、溶接ワイヤ29と母材32とが短絡している短絡状態であるのかを判定する。
図1において、溶接装置21の溶接出力部22は、溶接装置21の外部から給電される商用電力(例えば、3相200V等)を入力とし、インバータ動作にて溶接条件に適した溶接電圧や溶接電流を出力する。
溶接出力部22に含まれるインバータ部は、通常、PWM(Pulse Width Modulation)動作やフェーズシフト動作により駆動されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal−Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等で構成される。
CT(Current Transformer)等で構成される電流検出部24は、溶接電流を検出する。溶接装置21の出力端子間の電圧を測定する電圧検出部25は、溶接電圧を検出する。
CPU等で構成されるAS判定部34は、電圧検出部25からの電圧検出信号を入力とし、短絡判定中に増加した溶接電圧が予め設定される検出レベル(例えば、15V)に達した場合はAS信号をアーク状態であると判定(以下、「アーク判定」とする。「ハイレベル」に該当する。)する。また、アーク判定中に減少した溶接電圧が予め設定される検出レベル(例えば、10V)に達した場合、AS信号を短絡状態であると判定(以下、「短絡判定」とする。「ローレベル」に該当する。)する。
CPU等で構成される出力制御部23は、電流検出部24の出力、電圧検出部25の出力およびAS判定部34の出力に基づいて、溶接出力部22を制御する。CPU等で構成される電流設定部27は、溶接電流の閾値となる第1の電流値I1を設定する。
ワイヤ送給制御部33は、電流設定部27の出力、AS判定部34の出力および電流検出部24の出力に基づいて、送給モータ26の回転を制御する。送給モータ26に接続する送給ローラ28の回転により、溶接ワイヤ29は加圧送給され、溶接条件に応じた基本送給速度で送給される。そして、溶接トーチ30により溶接出力部22が出力する溶接電流や溶接電圧が溶接ワイヤ29に給電され、溶接ワイヤ29の先端と母材32との間にアーク31が発生して溶接が行われる。
次に、図2を用いて、短絡が長時間開放しなかった場合に、短絡の開放を促す制御について説明する。
図2において、E1は短絡が発生した時点を示し、E2は時点E1の後にアークが発生した時点を示し、E3は時点E2の後に短絡が発生した時点を示す。E4は時点E3で発生した短絡状態において短絡電流が予め設定された溶接電流の閾値となる第1の電流値I1に達した時点を示し、E6は時点E4の後にアークが発生した時点を示している。また、IMAXは溶接装置21の最大出力電流値を示している。
図2に示すように、短絡が発生した時点E1でAS判定部34が出力するAS信号はローレベル(短絡判定)となり、アークが発生した時点E2でAS信号はハイレベル(アーク判定)となる。なお、安定した短絡溶接であれば、例えば通常の短絡時間は10msec以内である。
短絡が発生した時点E3から、短絡を開放するため、短絡電流は適切な増加傾きをもって増大される。短絡を開放するためには、溶接ワイヤ29に極力高い溶接電流を供給することが必要である。増大する短絡電流は、溶接装置21の性能で決定する最大出力電流値IMAX(例えば550A)を上限としており、溶接電流が最大出力電流値IMAXに達した後は、短絡が開放してアークが発生するまで最大出力電流値IMAXが継続される。
なお、最大出力電流値IMAXは、通常、溶接装置21のインバータを構成するIGBTやMOSFET等の半導体素子の最大絶対定格により決定される。
時点E3から発生した短絡中に、溶接電流が電流設定部27で設定される第1の電流値I1(例えば400A)に達した時点E4の後に、ワイヤ送給制御部33は、ワイヤ送給状態信号をオン(ハイレベル)とする。
ワイヤ送給状態信号が、オンになる前のオフ(ローレベル)の間は、溶接ワイヤ29が母材32の方向へ所定の基本送給速度で送給されている。一方、ワイヤ送給状態信号がオンの間は、ワイヤ送給制御部33は、送給モータ26の駆動を停止し、これにより溶接ワイヤ29の送給を停止する。
なお、ワイヤ送給状態信号がオンの間、ワイヤ送給制御部33は送給モータ26の駆動を制御し、停止ではなく、ワイヤ送給速度をワイヤ送給状態信号がオフの場合の基本送給速度よりも減速するようにしてもよい。ワイヤ送給速度の減速時の速度は、例えば、基本送給速度の25%の値でもよく、あるいは、送給可能な最低のワイヤ送給速度としてもよく、あるいは、溶接開始時のワイヤ送給速度(一般的にスローダウン速度と呼び、定常溶接時の速度よりも低い速度)としてもよい。
あるいは、ワイヤ送給状態信号がオンの間、ワイヤ送給制御部33は送給モータ26の駆動を制御し、停止ではなく、ワイヤ送給を逆送するようにしてもよい。ワイヤ送給の逆送時の速度は、基本送給速度の25%の値でもよく、あるいは、送給可能な最低ワイヤ送給速度としてもよい。あるいは、溶接開始時のワイヤ送給速度(一般的にスローダウン速度と呼ぶ)としてもよく、あるいは、逆送開始から一定時間(例えば、200msec)経過後にワイヤ送給速度を0(停止状態)とし、溶接ワイヤ29を戻し過ぎないようにしてもよい。
また、図示しないが、溶接ワイヤ29の送給を停止させるための手段として、送給ローラ28の加圧を制御することが可能な電磁バルブ等で構成される送給ローラ加圧装置を送給ローラ28に設ける。これにより、ワイヤ送給状態信号がオンの間は、送給ローラ加圧装置により送給ローラ28による溶接ワイヤ29への加圧を減圧し、送給ローラ28を空転させて溶接ワイヤ29の送給を停止するようにしてもよい。
あるいは、図示しないが、溶接ワイヤ29の送給を停止させるための手段として、送給ローラ28から溶接トーチ30までのコンジットケーブル等で構成される溶接ワイヤの送給経路の間に、電磁バルブ等で構成される加圧クランプブレーキ装置を設ける。これにより、ワイヤ送給状態信号がオンの間は、加圧クランプブレーキ装置の加圧クランプ力により溶接ワイヤ29の送給に摩擦抵抗を加え、溶接ワイヤ29をクランプし、溶接ワイヤ29の送給を停止するようにしてもよい。
そして、図2に示すように、ワイヤ送給状態信号をオンの状態にして溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送した状態で短絡が開放してアークが再生した時点E6では、ワイヤ送給制御部33は、ワイヤ送給状態信号をオフ(ローレベル)とする。そして、ワイヤ送給制御部33は、送給モータ26を制御してワイヤ送給状態信号をオンする前の元のワイヤ送給速度(基本送給速度)にワイヤ送給速度を戻し、溶接ワイヤ29の送給を継続する。
次に、図3を用いて、本実施の形態1の過電流保護機能について説明する。上記のようにワイヤ送給状態信号をオンの状態にして溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送して短絡開放を促す状態であっても、場合によっては、所定時間最大出力電流値IMAXが継続することもある。その場合には、背景技術において図8で説明したものと同様に、過電流保護機能が動作する。
図3において、E7は短絡電流が予め設定された過電流保護検出電流値IOCに達した時点を示している。E8は時点E7から予め設定された過電流保護検出期間TOCが経過して過電流保護機能が作動し、溶接装置21の溶接出力を停止した時点を示している。
図3において、短絡が発生した時点E3から短絡電流が増大し、最大出力電流値IMAX(例えば550A)にて上限クランプ(固定)される。そして、過電流から溶接装置21やジグ等を保護するために溶接出力を停止するための基準電流値となる過電流保護検出電流値IOCは、最大出力電流値IMAXより低い値(例えば500A)もしくは同じ値に設定される。図3では、最大出力電流値より低い値の例を示している。
図3において、短絡電流が過電流保護検出電流値IOCを越えた時点E7から過電流保護検出時間TOC(例えば300msec)が経過する時点E8までの間に短絡が開放しない場合、溶接装置21は過電流保護のため強制停止する。
以上のように、溶接電流が第1の電流値I1に達した後に、溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送とすることで、短絡中の溶接ワイヤ29が母材32に形成された溶融プールに深く押されることがなくなる。これにより、短絡の開放が促進され、過電流保護機能が作動して溶接中断が発生する頻度を減少させ、溶接不良の発生を防ぎ、生産性の悪化を防ぐことができる。
なお、図2および図3における、第1の電流値I1は、過電流保護電流値IOCと同じ値としてもよい。これにより、溶接電流が長時間短絡であることを確実に判定でき、誤判定による不要な送給モータ26の停止を防ぎ、送給モータ26の減速ギアや送給ローラ28等の機構部品の消耗を防ぐことができる。したがって、溶接システムの信頼性の向上を図ることができる。図3では、第1の電流値I1は過電流保護電流値IOCとは異なり、過電流保護電流値IOCより小さい場合の例を示している。
すなわち、本発明の溶接方法は、溶接ワイヤ29を送給し、短絡とアークとを交互に繰り返して溶接を行う溶接方法であって、短絡発生中で、溶接電流が予め設定した第1の電流値I1に達した後に、溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送させる方法からなる。
この方法により、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させることができる。これにより、溶接不良の発生を防ぐなどの溶接品質の向上や溶接に要する時間の短縮などの生産性の向上を実現することができる。
また、第1の電流値I1は、過電流から溶接装置21を保護するために溶接出力を停止するための基準電流値となる、予め設定された過電流保護検出電流値IOCと等しい方法としている。
この方法により、溶接電流が長時間短絡であることを確実に判定でき、誤判定による不要な送給モータ26の停止を防ぎ、送給モータ26の減速ギアや送給ローラ28等の機構部品の消耗を防ぐことができる。したがって、溶接システムの信頼性の向上を図ることができる。
また、本発明の溶接装置21は、溶接ワイヤ29を送給し、短絡とアークを交互に繰り返して溶接を行う溶接装置であって、送給モータ26と、電流検出部24と、電圧検出部25と、AS判定部34と、出力制御部23と、溶接出力部22と、電流設定部27と、ワイヤ送給制御部33と、を備えている。ここで、送給モータ26は溶接ワイヤ29を送給し、電流検出部24は溶接電流を検出する。電圧検出部25は溶接電圧を検出し、AS判定部34は電圧検出部25の出力に基づいて短絡状態またはアーク状態を検出する。出力制御部23は、電流検出部24の出力、電圧検出部25の出力およびAS判定部34の出力に基づいて、溶接出力を制御する。溶接出力部22は出力制御部23の出力に基づいて溶接出力を発生し、電流設定部27は溶接電流の閾値となる第1の電流値I1を設定する。ワイヤ送給制御部33は、電流設定部27の出力、AS判定部34の出力および電流検出部24の出力に基づいて、溶接ワイヤ29の送給を制御する。そして、本発明の溶接装置21は、短絡発生中で、溶接電流が第1の電流値I1に達した後に、溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送とさせる構成としている。
この構成により、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させることができる。これにより、溶接不良の発生を防ぐなどの溶接品質の向上や溶接に要する時間の短縮などの生産性の向上を実現することができる。
なお、本実施の形態1では、消耗電極式短絡溶接について説明したが、消耗電極式パルス溶接における短絡発生時の処理に適用しても同様の効果を実現することができる。
(実施の形態2)
図4から図6を用いて、本発明の実施の形態2の溶接装置41とその動作について説明する。図4は、本発明の実施の形態2における溶接装置41の概略構成を示す図である。図5と図6は、本発明の実施の形態2における溶接装置において、溶接電流、アーク状態または短絡状態を示すAS信号およびワイヤ送給状態信号の時間変化を示す図である。
図4から図6を用いて、本発明の実施の形態2の溶接装置41とその動作について説明する。図4は、本発明の実施の形態2における溶接装置41の概略構成を示す図である。図5と図6は、本発明の実施の形態2における溶接装置において、溶接電流、アーク状態または短絡状態を示すAS信号およびワイヤ送給状態信号の時間変化を示す図である。
図4の溶接装置41において、図1に示す溶接装置21の構成と異なる主な点は、後述する経過時間設定部35と計時部36を設けた点である。
図4において、CPU等で構成される経過時間設定部35は、溶接電流が第1の電流値I1に達してからの経過時間の閾値となる第1の所定時間T1を設定するためのものである。また、CPU等で構成される計時部36は、溶接電流が第1の電流値I1に達してからの時間を計時するものである。
ワイヤ送給制御部33は、電流設定部27の出力、計時部36の出力、経過時間設定部35の出力、AS判定部34の出力および電流検出部24の出力に基づいて、送給モータ26の回転を制御する。
送給モータ26に接続する送給ローラ28の回転により溶接ワイヤ29は加圧送給され、溶接ワイヤ29は溶接条件に応じた基本送給速度で送給される。溶接トーチ30により溶接出力部22が出力した溶接電流や溶接電圧が溶接ワイヤ29に給電され、溶接ワイヤ29の先端と母材32の間にアーク31が発生して溶接が行われる。
次に、図5を用いて、短絡が長時間開放しなかった場合に、短絡の開放を促す制御について説明する。
図5において、E5は、時点E4から経過時間設定部35で設定された第1の所定時間T1が経過した時点を示している。
図5において、短絡を開放するため、短絡が発生した時点E3から、短絡電流は適切な増加傾きをもって増大する。短絡を開放するためには、溶接ワイヤ29に極力高い溶接電流を供給することが必要である。増大する短絡電流は、溶接装置41の性能で決定する最大出力電流値IMAX(例えば550A)で上限が制限され、最大出力電流値IMAXに達した後は短絡が開放してアークが発生するまで最大出力電流値IMAXを継続する。
時点E3で発生した短絡中に、溶接電流が電流設定部27で設定される第1の電流値I1(例えば400A)に達した時点E4から計時部36により計時される第1の所定の時間T1が経過した時点E5において、ワイヤ送給制御部33は、ワイヤ送給状態信号をオン(ハイレベル)とする。ワイヤ送給状態信号がオンの間、ワイヤ送給制御部33は送給モータ26の駆動を停止して溶接ワイヤ29の送給を停止する。なお、実施の形態1と同様に、溶接ワイヤ29の送給の停止ではなく、送給の減速や逆送を行うようにしてもよい。
そして、短絡が開放してアークが再生した時点E6において、ワイヤ送給制御部33は、ワイヤ送給状態信号をオフ(ローレベル)する。ワイヤ送給制御部33は、送給モータ26を制御してワイヤ送給状態信号がオンする前の元のワイヤ送給速度(以下、「基本送給速度」とする。)にワイヤ送給速度を戻す。
次に、図6を用いて、本実施の形態の過電流保護機能について説明する。上述のようにワイヤ送給状態信号をオンの状態にして溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送して短絡開放を促進する状態であっても、場合によっては所定時間の間、最大出力電流値IMAXが継続することもある。その場合には、背景技術において図8で説明したものと同様に、過電流保護機能が動作する。
図6において、短絡が発生した時点E3から短絡電流が増大し、最大出力電流値IMAX(例えば550A)にて上限クランプ(固定)される。過電流から溶接装置41やジグ等を保護するために溶接出力を停止するための基準電流値となる過電流保護検出電流値IOCは、最大出力電流値より低い値(例えば500A)もしくは同じ値に設定される。図6では、最大出力電流値より低い値の例を示している。
図6において、短絡電流が過電流保護検出電流値IOCを越えた時点E7から過電流保護検出時間TOC(例えば300msec)が経過する時点E8までの間に短絡が開放しない場合、溶接装置41は過電流保護のため強制停止する。
なお、図5における、第1の所定時間T1は、過電流保護検出時間TOCよりも短く設定し、例えば過電流保護検出時間TOCよりも100msec短くしてもよい。例えば、第1の所定時間T1は200msec程度である。
なお、溶接ワイヤ29が送給される送給経路には遊びがあり、また、送給モータ26や送給ローラ28の停止には一定の時間を要する。そのため、図5に示す時点E5から送給される溶接ワイヤ29の先端が停止、減速または逆送する状態に至るまでには、一定の時間を要する。通常では例えば100msec程度を要するため、過電流保護検出時間TOCより、第1の所定時間T1を100msec以上短く設定することで、より確実に短絡開放を促進する効果が期待できる。
以上のように、本発明の溶接方法は、溶接電流が第1の電流値I1に達した時点から第1の所定の時間T1が経過した後に、溶接ワイヤ29の送給を停止、減速または逆送させる方法としている。
この方法により、短絡中の溶接ワイヤ29が母材32に形成される溶融プールに深く押されることがなくなり、短絡の開放が促進され、過電流保護機能が作動して溶接中断が発生する頻度を減少させる。その結果、溶接不良の発生を防ぎ、生産性の悪化を防ぐことができる。
また、溶接電流が第1の電流値I1に達した時点から第1の所定時間T1の経過を待って溶接ワイヤ29の停止、減速または逆送を行う方法としている。
この方法により、不要な送給モータ26の停止を防ぎ、送給モータ26の減速ギアや送給ローラ28等の機構部品の消耗を防ぐことができ、システムの信頼性の向上を図ることができる。
また、第1の所定時間T1は、過電流から溶接装置41を保護するために溶接出力を停止するための基準時間となる、予め設定された過電流保護検出時間TOCよりも短い方法としている。すなわち、第1の所定時間T1を、過電流保護検出時間TOCよりも100msec程度短くすることで、過電流保護機能の作動よりも確実に早く溶接ワイヤ29の停止の効果を得ることができ、より確実に短絡の開放を促進することができる。
また、溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させた後に、短絡が開放してアーク状態となった場合には、溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させる前の送給状態とする方法としている。この方法により、継続して良好な溶接作業を行うことができる。
また、本発明の溶接装置41は、溶接ワイヤ29を送給し、短絡とアークを交互に繰り返して溶接を行う溶接装置であって、送給モータ26と、電流検出部24と、電圧検出部25と、AS判定部34と、出力制御部23と、溶接出力部22と、電流設定部27と、ワイヤ送給制御部33と、を備えている。ここで、送給モータ26は、溶接ワイヤを送給し、電流検出部24は、溶接電流を検出する。電圧検出部25は、溶接電圧を検出し、AS判定部34は、電圧検出部25の出力に基づいて、短絡状態またはアーク状態を検出する。出力制御部23は、電流検出部24の出力、電圧検出部25の出力およびAS判定部34の出力に基づいて、溶接出力を制御する。溶接出力部22は、出力制御部23の出力に基づいて溶接出力を発生し、電流設定部27は、溶接電流の閾値となる第1の電流値I1を設定する。計時部36は、溶接電流が第1の電流値I1に達してからの時間を計時し、経過時間設定部35は、第1の電流値I1に達してからの経過時間の閾値となる第1の所定時間T1を設定する。ワイヤ送給制御部33は、電流設定部27の出力、計時部36の出力、経過時間設定部35の出力、AS判定部34の出力および電流検出部24の出力に基づいて、溶接ワイヤ29の送給を制御する。そして、本発明の溶接装置41は、溶接電流が第1の電流値I1に達してから第1の所定時間T1が経過した後に、溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させる構成からなる。
この構成により、短絡の開放を促し、過電流保護機能の作動による不要な溶接の中断の発生頻度を減少させることができる。これにより、溶接不良の発生を防ぐなどの溶接品質の向上や溶接に要する時間の短縮などの生産性の向上を実現することができる。
なお、本実施の形態では、消耗電極式短絡溶接について説明したが、消耗電極式パルス溶接における短絡発生時の処理に適用しても同様の効果を実現することができる。
以上のように、本願発明は、短絡開放を促進することで、溶接不良の発生を防ぎ、生産性が向上することができる。したがって、消耗電極式アーク溶接施工を行う、例えばLNGタンクや造船や橋梁といった、特に厚板での溶接性を重視している業界における溶接装置や溶接方法として産業上有用である。
21,41 溶接装置
22 溶接出力部
23 出力制御部
24 電流検出部
25 電圧検出部
26 送給モータ
27 電流設定部
28 送給ローラ
29 溶接ワイヤ
30 溶接トーチ
31 アーク
32 母材
33 ワイヤ送給制御部
34 AS判定部
35 経過時間設定部
36 計時部
22 溶接出力部
23 出力制御部
24 電流検出部
25 電圧検出部
26 送給モータ
27 電流設定部
28 送給ローラ
29 溶接ワイヤ
30 溶接トーチ
31 アーク
32 母材
33 ワイヤ送給制御部
34 AS判定部
35 経過時間設定部
36 計時部
Claims (9)
- 溶接ワイヤを送給し、短絡とアークとを交互に繰り返して溶接を行う溶接方法であって、短絡発生中で、溶接電流が短絡発生時の溶接電流よりも大きい予め設定した第1の電流値に達した後に、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させ、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送を開始した時点から前記アークが発生するまでは、前記溶接電流を低減せず、前記第1の電流値以上の溶接電流を継続する溶接方法。
- 前記溶接電流が前記第1の電流値に達してから第1の所定時間が経過した後に、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させる請求項1に記載の溶接方法。
- 前記第1の電流値は、過電流から溶接装置を保護するために溶接出力を停止するための基準電流値となる、予め設定された過電流保護検出電流値と等しい請求項1に記載の溶接方法。
- 前記第1の所定時間は、過電流から溶接装置を保護するために溶接出力を停止するための基準時間となる、予め設定された過電流保護検出時間よりも短い請求項2に記載の溶接方法。
- 前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させた後に、短絡が開放してアーク状態となった場合には、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させる前の送給状態とする請求項1に記載の溶接方法。
- 溶接ワイヤを送給し、短絡とアークとを交互に繰り返して溶接を行う溶接装置であって、前記溶接ワイヤを送給する送給モータと、
溶接電流を検出する電流検出部と、
溶接電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部の出力に基づいて、短絡状態またはアーク状態を検出するAS判定部と、
前記電流検出部の出力、前記電圧検出部の出力および前記AS判定部の出力に基づいて、溶接出力を制御する出力制御部と、
前記出力制御部の出力に基づいて、溶接出力を発生する溶接出力部と、
溶接電流の閾値となる第1の電流値を設定する電流設定部と、
前記電流設定部の出力、前記AS判定部の出力および前記電流検出部の出力に基づいて、前記溶接ワイヤの送給を制御するワイヤ送給制御部とを備え、
短絡発生中で、溶接電流が短絡発生時の溶接電流よりも大きい前記第1の電流値に達した後に、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させ、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送を開始した時点から前記アークが発生するまでは、前記溶接電流を低減せず、前記第1の電流値以上の溶接電流を継続する溶接装置。 - 溶接ワイヤを送給し、短絡とアークとを交互に繰り返して溶接を行う溶接装置であって、
前記溶接ワイヤを送給する送給モータと、
溶接電流を検出する電流検出部と、
溶接電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部の出力に基づいて、短絡状態またはアーク状態を検出するAS判定部と、前記電流検出部の出力、前記電圧検出部の出力および前記AS判定部の出力に基づいて、溶接出力を制御する出力制御部と、
前記出力制御部の出力に基づいて、溶接出力を発生する溶接出力部と、
溶接電流の閾値となる第1の電流値を設定する電流設定部と、
溶接電流が前記第1の電流値に達してからの時間を計時する計時部と、
前記第1の電流値に達してからの経過時間の閾値となる第1の所定時間を設定する経過時間設定部と、
前記電流設定部の出力、前記計時部の出力、前記経過時間設定部の出力、前記AS判定部の出力および前記電流検出部の出力に基づいて、
前記溶接ワイヤの送給を制御するワイヤ送給制御部とを備え、
短絡発生中で、溶接電流が短絡発生時の溶接電流よりも大きい前記第1の電流値に達してから前記第1の所定時間が経過した後に、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させ、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送を開始した時点から前記アークが発生するまでは、前記溶接電流を低減せず、前記第1の電流値以上の溶接電流を継続する溶接装置。 - 前記第1の電流値は、過電流から溶接装置を保護するために溶接出力を停止するための基準電流値となる、予め設定された過電流保護検出電流値と等しい請求項6に記載の溶接装置。
- 前記溶接電流が前記第1の電流値に達してから第1の所定時間が経過した後に、前記溶接ワイヤの送給を停止、減速または逆送させ、前記第1の所定時間は、過電流から溶接装置を保護するために溶接出力を停止するための基準時間となる、予め設定された過電流保護検出時間よりも短い請求項7に記載の溶接装置。
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