近年、スパッタの発生量やビード外観や溶け込みといった溶接品質のさらなる高品位化が求められている。中でもスパッタの発生を低減することは、溶接品質が向上すると共に治具へのスパッタの付着を防ぐことで保守性が向上し、作業環境の改善を実現できる。従来のスパッタ低減方法としては、短絡終期に消耗電極ワイヤ先端のくびれを検知し、短絡電流を所定の電流まで下げることにより、アーク再発生時に発生するスパッタを低減するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
図8と図9を用いて、上記従来のスパッタの低減方法について説明する。図8は、従来の溶接装置の概略構成を示しており、図9は、くびれ検知によりスパッタ発生を低減している溶接電流波形とタイミングチャートを示している。
図8において、23は溶接装置であり、1は整流部、2は平滑コンデンサ、3はインバータ部、4は変圧器、6は溶接出力検出部、7はくびれ検出部、8はAS判定部、10は計時部、11は出力端子、12は出力端子、13は電流検出部、14aは整流部、15aはリアクタ、17は外部機器、18は制御部、19aは抵抗部、20は母材、21は溶接トーチ、22は溶接ワイヤ、TR5aは第5のスイッチング素子を示している。
図9において、E1はくびれ検知が発生した時点、E5は短絡状態からアークが再発生した時点、E6はアーク状態から短絡が発生した時点、E10はE6発生から第4の所定時間T4が経過した時点、Is5は所定の電流値を示している。
図8において、外部機器17から溶接装置23に給電される電力は、整流部1と平滑コンデンサ2とにより直流電圧に変換され、インバータ部3のインバータ駆動により変圧器4を介して溶接に適した高周波交流に変換され、整流部14aにて整流され、制御部18により制御される第5のスイッチング素子TR5aまたは第5のスイッチング素子TR5aに並列に接続される抵抗部19aを介し、リアクタ15aにより出力平滑化されて出力端子11と出力端子12から出力される。出力端子11と出力端子12からの出力は、トーチ21内部の給電チップから消耗電極である溶接ワイヤ22に給電され、溶接ワイヤ22の先端と母材20との間にアークを発生させる。
また、くびれ検出手段であるくびれ検出部7は、溶接出力検出部6からの電圧検出信号を入力とし、電圧微分値を算出し、予め設定される検出レベル(例えば0.5V/ms)に達した場合にはくびれを検知したとしてくびれ信号を出力する。
図9において、時点E1でくびれ検知が発生し、くびれ検出部7から出力されるくびれ信号がHighレベルとなる。くびれ検出部7からのくびれ信号をうけた制御部18は、第5のスイッチング素子TR5aを遮断(オフ)するよう動作する。その結果、溶接電流は第5のスイッチング素子TR5aには流れずに抵抗部19aを流れることとなり電流が急減する。そして、同時に図示しないインバータ制御部によりインバータ部3を制御することで、溶接電流を第5の所定電流値Is5(例えば50A)まで低減させる。
溶接出力検出部6からの電圧検出信号を入力とし、アーク状態か短絡状態かを判定する
AS判定を行うAS判定部8が、アークを判定する時点E5で、制御部18は、第5のスイッチング素子TR5aを導通(オン)するよう動作し、電流を急峻に上昇させて通常のアーク制御に移る。
このように、アークが再発生する時点E5での電流値を低く保持することで、アーク再発生時のスパッタの発生を抑制することができる。
アーク中、溶接出力検出部6からの電圧検出信号を入力とし、AS判定を行うAS判定部8が短絡を判定する図9の時点E6で、制御部18は、第5のスイッチング素子TR5aを遮断(オフ)するよう動作する。その結果、溶接電流は抵抗部19aを介して流れることになるので、出力電流は急減する。
また、計時部10により、時間がカウントされ、第4の所定時間T4の経過後の時点E10において、制御部18は、第5のスイッチング素子TR5aを導通(オン)するよう動作し、所定の短絡開放制御に移行し、所定の短絡電流を出力して短絡の開放を促進する。
なお、この第4の所定時間T4は、短絡初期制御時間とよばれる数msの制御区間であり、これを設けることで、短絡初期の短絡を確実なものとし、不測な微小短絡を減少させ、溶接ワイヤ22の先端部に形成される溶滴の母材20への移行を確実なものとし、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる。
次に、交流溶接について説明する。近年、薄板溶接の溶接品質の向上を目的として、交流溶接装置が実現されている。交流溶接装置は、出力端子の極性を反転し、出力電流の極性を反転し、逆極性溶接と正極性溶接を交互に繰り返し、母材20への入熱をコントロールすることが可能であり、薄板溶接やギャップ溶接に有効である(例えば、特許文献2参照)。
図10を用いて、従来の交流溶接方法について説明する。図10は、交流溶接が可能な溶接装置24の概略構成を示しており、図8と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図10において、5は制御部、TR1は第1のスイッチング素子、TR2は第2のスイッチング素子、TR3は第3のスイッチング素子、TR4は第4のスイッチング素子を示している。
図10において、外部機器17から溶接装置24に給電される電力は、整流部1と平滑コンデンサ2とにより直流電圧に変換され、インバータ部3のインバータ駆動により変圧器4を介して溶接に適した高周波交流に変換され、整流部14aにて整流され、リアクタ15aにより出力平滑化される。そして、第1のスイッチング素子TR1と第2のスイッチング素子TR2とが出力側に直列接続され、また、第3のスイッチング素子TR3と第4のスイッチング素子TR4とが出力側に直列接続されており、これらのスイッチング素子は、制御部5により制御される。
逆極性溶接を行う場合には、制御部5は、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)する。そして、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電し、溶接トーチ21内部の給電チップから消耗電極である溶接ワイヤ22にはプラスが給電され、溶接ワイヤ22の先端とマイナス給電された母材20との間にアークを発生させる。
また、正極性溶接を行う場合には、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)する。そして、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電し、溶接トーチ21内部の給電チップから消耗電極である溶接ワイヤ22にはマイナスが給電され、溶接ワイヤ22の先端とプラス給電された母材20との間にアークを発生させる。
以上のように、交流溶接は、出力端子の極性を反転して出力電流の極性を反転し、逆極性溶接と正極性溶接を交互に繰り返して溶接を行うものである。
ここで、図8に示す構成の溶接装置23で実現する低スパッタ溶接と、図10に示す構成の溶接装置24で実現する交流溶接を、同一の溶接装置で行うためには、例えば図11に示すように、両者を単純に複合させた構成とすることが考えられる。
図11は、従来の低スパッタ溶接が可能な溶接装置23と従来の交流溶接が可能な溶接装置24を単純に複合した溶接装置25の概略構成を示す図である。図11の溶接装置25は、低スパッタ溶接を実現するための第5のスイッチング素子TR5aの構成と、交流溶接を実現するための第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4の構成を有している。
図11において、制御部5は、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)して逆極性溶接を行う。
そして、低スパッタ溶接を実現するために、くびれ検知が発生した際には、制御部18は、第5のスイッチング素子TR5aを遮断/導通し、出力電流を急減して低スパッタ溶接を実現する。
また、交流溶接を実現するためには、制御部18は、第5のスイッチング素子TR5aを導通(オン)する。そして、制御部5は、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4を交流動作させて交流溶接を実現する。
次に、図12を用いて、低スパッタ溶接と交流溶接を実現する構成にハーフブリッジを採用した場合の溶接装置26の例を示す。図8や図10と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図12において、15bはリアクタ、14a,14b,14c,14dは整流部、19bは抵抗部、TR5bは第6のスイッチング素子を示している。そして、図11の構成と同様に、同一の溶接装置にて低スパッタ溶接と交流溶接を実現できる。
(実施の形態1)
本実施の形態について、図1から図3を用いて説明する。図1と図2は、本実施の形態における溶接装置の概略構成を示す図である。図1はフルブリッジを用いた構成を示しており、図2はハーフブリッジを用いた構成を示している。図1や図2に示す溶接装置の動作を、図3を用いて説明する。図3は、溶接電流と、アーク/短絡信号と、くびれ信号と、スイッチング素子の駆動信号の時間変化を示す図である。
以下、短絡とアークを繰り返して溶接を行う消耗電極式のアーク溶接装置について説明する。
図1や図2に示す溶接装置において、1は整流部、2は平滑コンデンサ、3はインバータ部、4は変圧器、5は制御部、6は溶接出力検出部、7はくびれ検出部、8はAS判定部、10は計時部、11は出力端子、12は出力端子、13は電流検出部、14a,14b,14c,14dは整流部、15a,15bはリアクタ、17は外部機器、20は母材、21は溶接トーチ、22は溶接ワイヤ、TR1は第1のスイッチング素子、TR2は第2のスイッチング素子、TR3は第3のスイッチング素子、TR4は第4のスイッチング素子である。
図3おいて、E1はくびれ検知が発生した時点、E2は時点E1から第1の所定期間T1が経過した時点、E4は出力電流が第1の所定電流値Is1に達した時点、E5は短絡状態からアークが再発生した時点、E6は短絡が発生した時点、E7は時点E6から第2の所定期間T2が経過した時点、E9は出力電流が第2の所定電流値Is2に達した時点、E10は時点E6から第3の所定期間T3が経過した時点を示しており、T1は第1の所定期間、T2は第2の所定期間、T3は第3の所定期間、Is1は第1の所定電流値、
Is2は第2の所定電流値、Is3は第3の所定電流値、Is4は第4の所定電流値を示している。
フルブリッジを用いた溶接装置27である図1において、配電盤等の外部機器17から給電される商用電源入力(200V)は、ダイオード等で構成される整流部1と電解コンデンサ等で構成される平滑コンデンサ2とにより直流電圧に変換される。そして、PWM(Pulse Wide Modulation)動作やフェーズシフト動作にて駆動されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal−Oxide Semiconductor Field
Effect Transistor)等で構成されるインバータ部3のインバータ駆動により、変圧器4を介して溶接に適した高周波交流に変換される。そして、ダイオード等で構成される整流部14aにて整流され、リアクタ15aにより出力平滑化される。
リアクタ15aで平滑化された出力は、フルブリッジを構成する第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4を介して出力される。なお、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4は、IGBTやMOSFET等で構成される。そして、第1のスイッチング素子TR1と第2のスイッチング素子TR2とが出力側に直列接続され、第3のスイッチング素子TR3と第4のスイッチング素子TR4とが出力側に直列接続されている。第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4は、CPU(Central Processing Unit)およびドライバ等で構成される制御部5により制御される。
制御部5は、逆極性溶接を行う場合には、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)し、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。そして、溶接トーチ21の内部に設けられた図示しない給電チップを介して消耗電極である溶接ワイヤ22にはプラスが給電され、溶接ワイヤ22の先端とマイナス給電された母材20との間でアークを発生させて溶接を行う。
ここで、逆極性溶接とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材20から溶接ワイヤ22への方向であり、溶接ワイヤ22がプラス、母材20がマイナスの場合をいう。また、正極性溶接とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、溶接ワイヤ22から母材20への方向であり、通常は溶接ワイヤ22がマイナスであり、母材20がプラスの場合をいう。
溶接出力検出部6は、出力端子11と出力端子12から出力される溶接出力電圧を検出し、CT(Current Transformer)等で構成される電流検出部13により検出される溶接電流出力を検出する。
そして、くびれ検出手段でありCPU等で構成されるくびれ検出部7は、溶接出力検出部6からの電圧検出信号を入力とし、電圧微分値を算出し、予め設定される検出レベル(例えば0.5V/ms)に達した場合、くびれを検知したとしてくびれ信号を出力する。
AS(Arc/Short:アーク/短絡)判定を行うCPU等で構成されるAS判定部8は、溶接出力検出部6からの電圧検出信号を入力とし、短絡判定中に予め設定される検出レベル(例えば、15V)に達した場合はAS信号をアーク判定(Highレベル)とする。また、アーク判定中にアーク検出レベルよりも低い予め設定される検出レベル(例えば、10V)に達した場合、AS信号を短絡判定(Lowレベル)とする。
図3に示す時点E1においてくびれ検知が発生すると、くびれ検出部7から出力される
くびれ信号がHighレベルとなる。くびれ検出部7からのくびれ信号を受けた制御部5は、溶接出力の極性を反転するため、図1に示す第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4への駆動信号である駆動信号TR1と駆動信号TR2と駆動信号TR3と駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電する。
その結果、溶接電流の極性が反転し、逆極性から正極性へ移行し、逆極性側からみた溶接電流は急減する。同時に、図示しないインバータ制御部によりインバータ部3を制御し、溶接電流を第3の所定電流値Is3(例えば逆極性側から見て−50A)になるように制御する。
なお、図3において、駆動信号TR1から駆動信号TR4が各々Highレベルの場合に、各スイッチング素子TR1からTR4は導通(オン)するものとする。
このように、短絡開放直線のくびれを検出した時点で溶接装置27の出力の極性を反転させて溶接電流を急減することにより、短絡からアークに移行する際のスパッタを低減することができる。
図3に示すように、くびれを検知した時点E1から、タイマー等で構成される計時部10が時間をカウントし、予め設定される第1の所定期間T1が経過する時点E2において、制御部5は、再度極性反転するため、駆動信号TR1と駆動信号TR2と駆動信号TR3と駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)して出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。
その結果、溶接電流は正極性から逆極性に移行する。同時にインバータ部3を制御して溶接電流を第1の所定電流値Is1(例えば逆極性側から見て50A)になるように制御する。
また、図3において、出力電流が第1の所定電流値Is1に達した時点E4ではアークが再生しておらず、この場合は、アークが再生するまで溶接出力を第1の所定電流値Is1に制御する。短絡状態からアークが再発生した時点E5において、AS判定部8はアークが発生したことを判定し、AS判定部8からの信号を受けた図示しないインバータ制御部によりインバータ部3を制御することにより所定のアーク制御に移行する。
このように、アーク再発生の時点E5で、第1の所定電流値Is1の絶対値を低く保持することで、アーク再発生時のスパッタの発生を抑制できる。
また、第1の所定期間T1を短くすることで(例えば100us以下)、アークが再生する時点E5までの間に、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4は、十分な時間をもって逆極性側にスイッチングすることができ、スイッチング中にアーク期間となってしまうことを防ぐことができ、時点E5では、安定した逆極性の出力を行うことができ、時点E5でのアーク再生の際のアーク切れを防止することができる。
なお、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4がスイッチングを完全に行うには、数us〜数十usを必要とする場合が一般的である。そして、スイッチングが完全でない場合、インバータ部3の出力を出力端子11や出力端子12に十分
に伝達することができない。従って、スイッチング中に大出力が必要となるような場合には、出力パワーが不足してアーク切れの原因となる場合がある。
上記では、短絡終期のくびれを検出した際に出力端子11と出力端子12の極性を反転して溶接電流を急減してスパッタの抑制を行う例について説明したが、次に、アーク状態から短絡状態になったことを検出した際に出力端子11と出力端子12の極性を反転して短絡初期の溶接電流を急減してアーク状態から短絡状態となる際のスパッタの抑制を行う例について説明する。
図3において、アークから短絡が発生した時点E6において、AS判定部8は短絡判定して短絡であることを示すAS信号を出力する。AS判定部8から短絡を示すAS信号を受けた制御部5は、極性反転するため、駆動信号TR1と駆動信号TR2と駆動信号TR3と駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電する。
その結果、溶接電流は、極性反転し、逆極性から正極性へ移行し、逆極性側からみた溶接電流は、急減する。同時にインバータ部3を制御し、溶接電流を所定の電流値Is4(例えば逆極性側から見て−50A)に制御する。
図3に示すように、短絡判定した時点E6から計時部10が時間をカウントし、予め設定される第2の所定期間T2が経過する時点E7において、制御部5は、極性を反転するため、駆動信号TR1と駆動信号TR2と駆動信号TR3と駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)して、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。
その結果、溶接電流は逆極性に移行する。同時にインバータ部3を制御し、溶接電流を第2の所定電流値Is2(例えば、50A)に制御し、第3の所定期間T3の期間中は、溶接出力を第2の所定電流値Is2に電流制御し、第3の所定期間T3経過後の時点E10において、所定の短絡開放制御に移行し、所定の短絡電流を出力し、短絡の開放を促進する。
時点E6における短絡発生後、溶接電流を急減し、短絡初期制御時間とよばれる第3の所定期間T3の制御区間を設けて電流を低い状態とすることで、短絡初期の短絡を確実なものとし、溶滴の母材への移行を確実なものとし、アークを安定させてスパッタの発生を抑制できる。
なお、上記では、逆極性出力を行う直流溶接の例を示したが、図1の構成において、交流溶接を行う場合には、制御部5が第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4のスイッチング動作を制御して正極性と逆極性を交互に繰り返すよう制御することで、実現可能である。
以上のように、くびれ発生時に出力端子11と出力端子12の極性反転を行うことで、出力電流を急減することができる。そして、アーク再生時の電流値の絶対値を低く保持することで、スパッタの発生を抑えることができる。また、短絡発生時に出力端子11と出力端子12の極性反転を行うことで、出力電流を急減することができる。そして、短絡初期の短絡を確実なものとし、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる。このように、低スパッタの直流溶接と、交流溶接を行うことが可能な溶接装置を実現で
きる。そして、従来のように、電流を急減するために抵抗とこの抵抗に並列に設けられたスイッチング素子を設けることなく、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4のスイッチングを制御することで電流を急減することができ、電流の急減を安価に実現することができる。
なお、本実施の形態では、逆極性を通常として溶接を行う例について説明したが、正極性を通常として溶接を行う場合においても、同様の制御を行い同様の効果を得ることができる。
なお、本実施の形態の図3では、出力の極性反転を実現する構成に、図1に示すフルブリッジの構成を用いた例を示したが、図2に示すような交流出力を実現する構成にハーフブリッジの構成を用いても良い。そして、極性反転に関しては、例えば、第1のスイッチング素子TR1をオンとし、第2のスイッチング素子TR2をオフとしていた状態から、第1のスイッチング素子TR1をオフとし、第2のスイッチング素子TR2をオンとすることで極性を反転させることができる。
なお、本実施の形態では、図1に示すように第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4を、単独で配置する構成の例を示したが、電流容量や熱対策として、スイッチング素子を複数個並列に配置した構成としてもよい。
なお、図3に示すくびれ検知が発生した時点E1における短絡電流が、図示しない第3の電流閾値I3(例えば400A)を越えるような場合や、図3に示す短絡が発生した時点E6におけるアーク出力電流が、図示しない第3の電流閾値I3(例えば400A)を越えるような場合には、極性反転動作を無効とするようにしてもよく、インバータ部3の制御により出力電流を低減し、出力電流が第3の電流閾値I3(例えば400A)以下になった時点で、極性反転処理を行うようにしても良い。
このような制御を行うことで、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4の極性反転時に発生するサージ電圧による周辺素子の破損保護が可能となる。
ここで、第3の電流閾値I3は、極性反転時に発生するサージ電圧に影響を与える。そして、第3の電流閾値I3が低いほどサージ電圧は下がる傾向となる。しかし、本実施の形態の効果を得るためには、くびれを検知した時点で極性反転を行う必要があるので、第3の電流閾値I3を極力高い値にする必要がある。なお、許容されるサージ電圧の値は、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4を構成するIGBTやMOSFETの信頼性定格やスイッチング速度や周辺のスナバ回路の構成に影響される。これらを考慮し、第3の電流閾値I3は例えば実験的に求めることができる。
なお、第3の電流閾値I3は、固定値(例えば400A)でもよく、または、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つに基づいて求める関数としてもよい。
なお、本実施の形態では、第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4が同時に反転する例を示したが、極性反転させる前後にて、短い時間(例えば50us)の間、半導体素子のサージ保護やアーク切れ対策を目的として、第1のスイッチング素子TR1と第2のスイッチング素子TR2を同時に導通(オン)もしくは同時に遮断(オフ)したり、第3のスイッチング素子TR3と第4のスイッチング素子TR4を同時に導通(オン)もしくは同時に遮断(オフ)したりしても良い。
また、図3に示す第1の所定期間T1、第2の所定期間T2、第3の所定期間T3、第
1の所定電流値Is1、第2の所定電流値Is2、第3の所定電流値Is3、第4の所定の電流値Is4の最適値は、溶接対象物や溶接条件等に合わせて、実験等により決めることができる。
そして、第1の所定期間T1は、固定値(例えば100us)でもよく、くびれ検出部7がくびれを検出した時点E1における溶接電流の関数(例えば、150Aで検出した場合は、100usに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
また、第2の所定期間T2は、固定値(例えば200us)でもよく、AS判定部8が短絡を検出した時点E6における溶接電流の関数(例えば、200Aで検出した場合は、200usに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガスおよび溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
また、第3の所定期間T3は、固定値(例えば1500us)でもよく、AS判定部8が短絡を検出した時点E6における溶接電流の関数(例えば、200Aで検出した場合は、1500usに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
なお、第1の所定電流値Is1は、固定値(例えば50A)でもよく、くびれ検知部7がくびれを検出した時点E1における溶接電流の関数(例えば、250Aで検出した場合は、50Aに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
また、第2の所定電流値Is2は、固定値(例えば50A)でもよく、AS判定部8が短絡を検出した時点E6での溶接電流の関数(例えば、200Aで検出した場合は、50Aに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
また、第3の所定電流値Is3は、固定値(例えば逆極性側から見た−50A)でもよく、くびれ検知部7がくびれを検出した時点E1における溶接電流の関数(例えば、250Aで検出した場合は、逆極性側から見た−50Aに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
また、第4の所定電流値Is4は、固定値(例えば逆極性側から見た−50A)でもよく、AS判定部8が短絡を検出した時点での溶接電流の関数(例えば、200Aで検出した場合は、逆極性側から見た−50Aに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
なお、所定の電流値Is1と所定の電流値Is3とは、Is3=−Is1の関係を持たせても良い。
また、所定の電流値Is2と所定の電流値Is4とは、Is4=−Is2の関係を持た
せても良い。
(実施の形態2)
本実施の形態において、実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1と異なる主な点は、出力電流判定部9を設けた点であり、極性反転はするが、電流が正極性とならずに逆極性の期間において再度極性反転を行うようにした点である。
本実施の形態の溶接装置について、図4と図5を用いて説明する。図4は本実施の形態の溶接装置29の概略構成を示す図である。図4において、9は溶接出力検出部6が検出した出力電流の大きさを判定する出力電流判定部である。図5は、溶接電流と、アーク/短絡信号と、くびれ信号と、スイッチング素子の駆動信号の時間変化を示す図である。図5において、I1は第1の電流閾値、I2は第2の電流閾値、E3は出力電流が第1の電流閾値I1に達した時点、E8は出力電流が第2の電流閾値I2に達した時点を示している。
図5の時点E1でくびれ検知が発生すると、くびれ検出部7から出力されるくびれ信号がHighレベルとなる。くびれ検出部7からのくびれ信号を受けた制御部5は、極性反転するために、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電する。その結果、溶接電流は極性反転し、逆極性から正極性へ移行しようとして逆極性側からみた溶接電流は急減する。
図5に示すように、くびれを検知した時点E1から溶接電流が急減し、溶接出力検出部6からの電流検出信号を入力するCPU等で構成される出力電流判定部9は、出力電流が予め設定される第1の電流閾値I1(例えば逆極性での75A)に達したことを判定する。出力電流が第1の電流閾値I1に達した時点E3において、制御部5は、出力端子11と出力端子12の極性を反転するため、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)し、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。その結果、溶接電流は逆極性に移行する。
本実施の形態では、くびれを検知した時点E1で出力端子11と出力端子12の極性を反転した後、出力電流が逆極性から正極性に移行する前の第1の電流閾値I1となる時点E3において、再度出力端子の極性反転を行う。この出力端子の極性反転を行った後に出力電流が急減する傾きは、溶接トーチ21や母材20のひきまわし、リアクタ15aといった溶接経路のインピーダンスの状態に影響される。
よって、出力端子の極性反転した後に、実際に出力電流の極性が反転するまでには、ある程度の時間(数百us以下)を要し、出力端子の極性反転から次の極性反転までの時間が短くなるような場合(例えば50us)は、図5に示す本実施の形態のように、溶接電流が0Aまで到達せず、出力電流が極性反転しない場合もありえる。
出力電流が第1の電流閾値I1に達した時点E3において極性反転すると同時に、インバータ部3を制御して溶接電流を第1の所定電流値Is1(例えば、50A)になるように制御する。図5において、出力電流が第1の所定電流値Is1に達した時点E4ではアーク再生しておらず、この場合は、アークが再生するまで溶接出力として第1の所定電流
値Is1に一定となるように電流制御する。
また、短絡状態からアークが再発生した時点E5において、AS判定部8はアーク判定し、所定のアーク制御に移行する。このように、アークが再発生した時点E5での第1の所定電流値Is1の絶対値を低く保持することで、アーク再発生時のスパッタの発生を抑制することができる。
次に、アーク状態から短絡状態となった短絡初期の制御について説明する。
図5において、アーク期間中に短絡が発生した時点E6において、AS判定部8は短絡が発生したことを判定する。AS判定部8から短絡判定であるAS信号をうけた制御部5は、極性を反転するため、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電する。
その結果、溶接電流は、極性反転し、逆極性から正極性へ移行しようとし、逆極性側からみた溶接電流は急減する。
図5に示すように、短絡が発生して電流の急減を開始した時点E6から、出力電流判定部9は、出力電流が予め設定される第2の電流閾値I2(例えば逆極性での75A)に達したことを判定する。
出力電流が第2の電流閾値I2に達した時点E8において、制御部5は、極性を反転するため、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)し、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。
その結果、溶接電流は正極性から逆極性に移行する。同時にインバータ部3を制御し、溶接電流を第2の所定電流値Is2(例えば、50A)となるように制御する。第3の所定期間T3の間は、第2の所定電流値Is2に電流制御し、第3の所定期間T3の経過後の時点E10において、所定の短絡開放制御に移行して所定の短絡電流を出力し、短絡の開放を促進する。時点E6の短絡発生後、溶接電流を急減し、第3の所定期間T3の制御区間を設けることで、短絡初期の短絡を確実なものとし、溶滴の母材20への移行を確実なものとし、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制できる。
また、実施の形態1で図1を用いて説明したのと同様に、交流溶接を行うためには、図5において、制御部5が第1のスイッチング素子TR1から第4のスイッチング素子TR4を、正極性/逆極性を交互に繰り返すよう制御することで、実現可能である。
以上のように、くびれ発生時に出力端子の極性反転をおこなうことで、電流を急減することができ、アーク再生時の電流値の絶対値を低く保持することで、スパッタの発生を抑えることができ、短絡発生時に出力端子の極性反転を行うことで、電流を急減することができ、短絡初期の短絡を確実なものとし、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる低スパッタ溶接と交流溶接が可能な溶接装置を安価に実現できる。
なお、第1の電流閾値I1、第2の電流閾値I2の最適値は、溶接対象物や溶接条件等に合わせて実験などにより決定しても良い。
なお、第1の電流閾値I1は、固定値(例えば75A)でもよく、くびれ検知部7がくびれを検出した時点E1における溶接電流の関数(例えば、250Aで検出した場合は、75Aに設定)としてもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数としてもよい。
なお、第2の電流閾値I2は、固定値(例えば75A)でもよく、AS判定部8が短絡を検出した時点E6における溶接電流の関数(例えば、200Aで検出した場合は、75Aに設定)でもよく、送給する消耗電極ワイヤのワイヤ径、ワイヤ種類、ワイヤ突出長、供給するシールドガス、および溶接電流の設定電流の少なくとも1つから求める関数でもよい。
なお、くびれ検知部7がくびれを検出した時点E1で出力端子の極性反転を行ってから再度出力端子の極性反転を行う時点は、図3に示すように、くびれ検知した時点E1から計時部10が時間をカウントし、予め設定される第1の所定期間T1が経過するE2と、図5に示すように、くびれ検知した時点E1から溶接出力検出部6からの電流検出信号を入力とし、出力電流判定部9が、出力電流が予め設定される第1の電流閾値I1(例えば逆極性での75A)に達したことを判定した時点E3とのどちらか一方が発生した時点でもよく、あるいは、時点E2と時点E3の両方が発生した時点、すなわち、時点E2と時点E3で遅く発生した方の時点としてもよい。
なお、アーク期間中にAS判定部8が短絡を検出した時点で出力端子の極性反転する時点E6から、再度出力端子の極性反転を行う時点は、図3に示すように、短絡判定した時点E6から、計時部10が時間をカウントし、予め設定される第2の所定期間T2が経過する時点E7と、図5に示すように、短絡が発生した時点E6から溶接出力検出部6からの電流検出信号を入力とし、出力電流判定部9が、出力電流が予め設定される第2の電流閾値I2(例えば逆極性での75A)に達したことを判定する時点E8のどちらか一方が発生した時点でもよく、時点E7と時点E8の両方が発生した時点、すなわち、時点E7と時点E8で遅く発生した方の時点としてもよい。
(実施の形態3)
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1と異なる主な点は、くびれ検知して極性を反転した後に、アーク状態から短絡を検出した時点で再度極性を反転するようにした点である。
本実施の形態の溶接装置について、図1と図3と図5と図6を用いて説明する。図6は、溶接電流と、アーク/短絡信号と、くびれ信号と、スイッチング素子の駆動信号の時間変化を示す図である。
図6の時点E1でくびれ検知が発生すると、くびれ検出部7から出力されるくびれ信号がHighレベルとなる。くびれ検出部7からのくびれ信号をうけた制御部5は、極性反転するために、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電する。
その結果、溶接電流は、極性反転し、逆極性から正極性へ移行し、逆極性側からみた溶接電流は、急減する。同時にインバータ部3を制御し、溶接電流を第3の所定電流値Is3(例えば逆極性側から見て−50A)に制御する。
そして、AS判定部8は、アーク判定を判定した時点E5でAS信号を(High)とし、AS信号を受信した制御部5は、極性反転するため、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)して、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。
その結果、溶接電流は逆極性に移行する。同時に、所定のアーク制御に移行する。
以上のように、アークの再発生時点である時点E5における第3の所定電流値Is3の絶対値を低く保持することで、アーク再発生時のスパッタの発生を抑制することができる。
なお、くびれ検知部7がくびれを検出した時点で出力端子の極性反転する時点E1から、再度出力端子の極性反転を行う時点は、図3に示すように、くびれ検知した時点E1から計時部10が時間をカウントし、予め設定される第1の所定期間T1が経過するE2と、図5に示すように、くびれ検知した時点E1から溶接出力検出部6からの電流検出信号を入力とし、出力電流判定部9が出力電流が予め設定される第1の電流閾値I1(例えば逆極性での75A)に達したことを判定した時点E3と、図6に示すように、くびれ検知した時点E1からアーク判定した時点E5のうち、時点E2と時点E5のどちらかが発生した時点でもよく、あるいは、時点E3と時点E5のどちらかが発生した時点でもよい。
以上のように、本実施の形態では、アークの再発生時点である時点E5において必ず極性反転することで、くびれ検知後に瞬時にアークが再生したような場合でも、逆極性の状態を保持でき、施工上の問題が発生しない。すなわち、短絡期間からアーク期間になった場合に、極性を反転しないままアーク状態になることはなく、短絡期間からアーク期間になった場合には必ず極性を反転するものである。
(実施の形態4)
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1と異なる主な点は、短絡中は正極性溶接を行い、短絡中にくびれを検知すると極性反転して逆極性溶接を行い、アーク中も逆極性溶接を行い、アーク期間が終了して短絡を検出すると極性反転して正極性溶接を行うようにした点である。
図1に示す溶接装置の動作について図7を用いて説明する。図7は、溶接電流と、アーク/短絡信号と、くびれ信号と、スイッチング素子の駆動信号の時間変化を示す図である。
図7に示すように、アーク中に短絡が発生した時点E6において、制御部5は、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電し、正極性出力を行う。
図7の時点E1においてくびれ検知が発生すると、くびれ検出部7から出力されるくびれ信号がHighレベルとなる。くびれ検出部7からのくびれ信号をうけた制御部5は、極性反転するため、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を導通(オン)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を遮断(オフ)し、出力端子11にプラスを給電し、出力端子12にマイナスを給電する。
その結果、正極性側からみた溶接電流は急減し、溶接電流は逆極性に移行する。同時にインバータ部3を制御し、溶接電流を第1の所定電流値Is1(例えば逆極性側から見て50A)に制御する。
図7において、出力電流が第1の所定電流値Is1に達した時点E4においてはアークは再生しておらず、この場合は、アークが再生するまで溶接出力を第1の所定電流値Is1に一定に電流制御する。
短絡状態からアークが再発生した時点E5において、AS判定部8はアーク判定し、所定のアーク制御に移行する。このように、アークの再発生時点である時点E5における第1の所定電流値Is1の絶対値を低く保持することで、アーク再発生時のスパッタの発生を抑制できる。
図7において、アーク期間中に短絡が発生した時点E6において、AS判定部8は短絡判定し、AS判定部8からの短絡判定であるAS信号をうけた制御部5は、極性を反転するため、駆動信号TR1、駆動信号TR2、駆動信号TR3、駆動信号TR4を出力し、第1のスイッチング素子TR1と第4のスイッチング素子TR4を遮断(オフ)し、第2のスイッチング素子TR2と第3のスイッチング素子TR3を導通(オン)して、出力端子11にマイナスを給電し、出力端子12にプラスを給電する。
その結果、溶接電流は、極性反転し、逆極性から正極性へ移行し、逆極性側からみた溶接電流は、急減する。同時にインバータ部3を制御し、溶接電流を第4の所定電流値Is4(例えば逆極性側から見て−50A)に制御する。第3の所定期間T3の期間中は、溶接出力を第4の所定電流値Is4に一定電流制御し、第3の所定期間T3の経過後の時点E10において、所定の短絡開放制御に移行し、所定の短絡電流を出力し、短絡の開放を促進する。
時点E6の短絡発生後、溶接電流を急減し、短絡初期制御時間とよばれる第3の所定期間T3の制御区間を、設けることで、短絡初期の短絡を確実なものとし、溶滴の母材への移行を確実なものとし、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制できる。
以上のように、くびれ発生時に出力端子の極性反転を行うことで電流を急減することができ、アーク再生時の電流値の絶対値を低く保持することでスパッタの発生を抑えることができ、短絡発生時に出力端子の極性反転を行うことで電流を急減することができ、短絡初期の短絡を確実なものとし、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる低スパッタ溶接と交流溶接が可能な溶接装置を安価に実現できる。
また、本実施の形態によれば、他の実施の形態に比べて極性反転の回数が低減することになり、スイッチング素子への負担が減る。そして、スイッチング回数が減ることでスイッチングロスが減り、動作温度にマージンをとることができ、信頼性の向上や冷却装置を簡易化することによるコストダウンを図ることができる。
また、極端に短い時間間隔の極性反転の可能性が減るため、常に安定した半導体のオン状態を保つことができ、アーク切れの危険も減り、安定した溶接が実現できる。
なお、本実施の形態では、アーク中は逆極性で溶接を行う例について説明したが、アーク中は正極性で溶接を行う場合についても同様の制御を行うことで同様の効果を得ることができる。