JP5138263B2 - メタクリル系樹脂成形物の製造方法 - Google Patents

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本発明は、メタクリル系樹脂成形物の製造方法に関する。
メタクリル系樹脂は、透明性、耐候性、機械的性質等に優れた性質を有するため、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築材料等の多くの分野に使用されている。
メタクリル系樹脂成形物を板状物として得る手段として、注型重合による方法が行われている。注型重合では一般にメタクリル系単量体中にメタクリル系樹脂が溶解した状態のシラップを注型用の型に注ぎ重合させる。特許文献1には、注型重合による生産性を向上させる目的で、重合率の高いシラップを用いる技術が紹介されている。
特開平4−236207号公報
しかしながら特許文献1の方法ではシラップの粘度が高く、シラップ内の泡や溶存ガスを除去したり、注型用の型に注入充填するのに時間を要する課題があった。
本発明は、メタクリル系単量体、またはメタクリル系単量体およびこれと共重合可能な単量体との混合物を、重合開始剤と多官能メルカプタンの存在下でその一部を重合させシラップとし、該シラップにホスフィン化合物を混合し、さらに重合開始剤を追加添加した後、それを鋳型に注入して硬化させるメタクリル系樹脂成形物の製造方法である。
本発明によれば、重合率の高いシラップを低い粘度で扱うことが可能となると同時に、得られるメタクリル系樹脂成形物の分子量を高くすることが可能となり、機械物性等の低下も防止することができる。
本発明は、メタクリル系単量体、またはメタクリル系単量体およびこれと共重合可能な単量体との混合物(以下、「メタクリル系単量体」、または「メタクリル系単量体およびこれと共重合可能な単量体との混合物」を「単量体成分」という。)を、重合開始剤と多官能メルカプタンの存在下でその一部を重合させシラップとし、該シラップにホスフィン化合物を混合し、さらに重合開始剤を追加添加した後、それを鋳型に注入して硬化させるメタクリル系樹脂成形物の製造方法である。
メタクリル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも透明性、機械的特性の観点からメタクリル酸メチルの含有量としては、単量体成分全体の50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。メタクリル系単量体は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
メタクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸ブチル,アクリル酸2−エチルヘキシルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルやスチレン,α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルなどが挙げられる。これらの単量体は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。これらの中ではアクリル酸アルキルエステルの使用が好ましい。
シラップの粘度を下げるため、分子量調整剤として前記単量体成分に多官能メルカプタンを添加する。多官能メルカプタンとは、分子内に1個の−SH基と、−SH基、−OH基および−COOH基から選ばれる官能基の少なくとも1個とを有するものである。例としては、1,2−エタンジチオール,1,10−ジメチルカプトデカンなどの繰り返し単位が2〜10のポリメチレン両末端に2個以上の−SH基を有する化合物;トリエチレングリコールジメルカプタン,1,4−ジメルカプト−2,3−ブタンジオール,2,3−ジメルカプト−1−プロパノールなどの多価アルコールの−OH基を−SH基で2個以上置換した構造の化合物;チオグリコール酸,2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセロール,チオグリコールなどの分子内に1個の−SH基と、−OH基および−COOH基の少なくとも1個を有する化合物;エチレングリコールジチオグリコレート,トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート),トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート),ペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート),ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのチオグリコール酸,2−メルカプトプロピオン酸,3−メルカプトプロピオン酸等と多価アルコールとのエステル化合物;1,5−ジメルカプト−3−チアペンタンなどが挙げられる。これらの多官能メルカプタンは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。多官能メルカプタンの添加量としては、得られたシラップの取扱い性の観点から、前記単量体成分100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましく、樹脂成形物の機械的強度の観点から、0.5質量部以下が好ましい。
重合開始剤としては、アゾ系開始剤や過酸化物系開始剤を用いることができる。アゾ系開始剤の例としては、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられ、過酸化物系開始剤の例としてはジラウロイルパーオキサイド、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレートなどが挙げられる。
これらの重合開始剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これら重合開始剤の添加量としては、前記単量体成分100質量部に対し、0.1〜0.5質量部添加することが好ましい。
単量体成分は、容器内で攪拌すれば良い。窒素などの不活性ガスを容器内に取り込み、混合液中の酸素濃度を低下させることが好ましい。この混合液すなわち単量体成分に、前記重合開始剤と多官能メルカプタンを適量混合し、外部から熱を加えることで重合が開始する。重合開始剤や多官能メルカプタンの種類や濃度、外部からの熱量や時間を調整することで、単量体成分の一部が重合したシラップを得ることができる。単量体成分の一部を重合する際、生成する重合体を多官能メルカプタンによって低分子量化することで、生成する重合体の重合率を高くしてもシラップ自体を低粘度に保持することができる。
シラップの粘度は、取り扱い性の観点から50mPa・s〜6000mPa・sであることが好ましく、50mPa・s〜3000mPa・sであることがより好ましい。重合率は通常20質量%から50質量%である。
樹脂成形物の機械的強度向上を阻害する前記シラップ中の余剰の多官能メルカプタンを失活させるために、ホスフィン化合物を使用する。ホスフィン化合物としては、例えばトリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ−p−トリルホスフィンが挙げられる。これらは単独での使用、あるいは2種以上の併用が可能である。ホスフィン化合物の添加量は、添加する多官能メルカプタン量や重合時間等に応じて適宜調整すればよい。多官能メルカプタンの失活性の観点から、前記シラップ100質量部に対し、0.001質量部以上が好ましく、樹脂成形物の光学的および機械的性質を保持する観点から、2質量部以下が好ましい。
このシラップにホスフィン化合物を混合する際の混合時間、混合温度は、使用する単量体やホスフィン化合物の種類や量に応じて適宜調整することができる。
シラップにホスフィン化合物を混合する際、アクリル酸アルキルエステルを同時に添加すると、該ホスフィン化合物を単独で添加する場合に比べ、該ホスフィン化合物の添加量を減らすことができ、製造コストの点で好ましい。
ホスフィン化合物の混合後のシラップにさらに重合開始剤を追加添加し、それを注型用の鋳型に注ぎ、熱を加えて重合硬化させる。重合開始剤の追加添加量としては、シラップ100質量部に対し、0.01〜0.5質量部とすることが好ましい。
シラップを鋳型へ注入する前に重合開始剤以外に、必要に応じて、離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤などの添加剤を加えることもできる。またメタクリル系樹脂単量体やこれと共重合可能な単量体を加えることもできる。この場合には、ジビニルベンゼン等の反応性二重結合を2つ以上持つ単量体も使用可能である。
注型用の鋳型内で前記シラップを重合硬化させた後、該鋳型から取り出すことにより当該樹脂成形物が得られる。注型用の鋳型としては特に限定されず、所望の形状の樹脂成形物を得るために公知のものが使用できる。例えば無機ガラス、クロムメッキ金属板、ステンレス板等の板状体と軟質ガスケットで構成した鋳型や、同一方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトの相対する面とその両側辺部においてエンドレスベルトと同一速度で走行するガスケットで構成される鋳型が挙げられ、これらを使用すると板状の樹脂成形物が得られる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。各種物性は下記方法で評価した。
(1)重合率:
メタクリルシラップをアセトンに溶解させて、大量のメタノール中に投入し、生じた沈殿物を濾過し、残渣を減圧乾燥して質量を測り、元の試料との割合を算出し、その値を重合率とした。
(2)粘度:
B型粘度計を用い、20℃での粘度を求めた。
(3)重量平均分子量:
メタクリル樹脂注型板0.06gをテトラヒドロフラン25mlに3日間溶解させて、得られた試料を島津製LC−6A systemを用いて、重量平均分子量を測定した。
[実施例1]
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)に、メタクリル酸メチル3920gとアクリル酸ブチル80gを供給し、さらに連鎖移動剤としてチオグリセロールを12.82g添加し、撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。内温が80℃になった時点で、ラジカル重合開始剤である2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)8gを添加し、更に内温100℃まで加熱して13分間保持した。
その後、反応器を70℃まで冷却し、重合禁止剤である2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノールを0.102g添加して、更に室温まで冷却して、メタクリルシラップを得た。このメタクリルシラップの重合率は約35質量%、粘度は2250mPa・sであった。
このメタクリルシラップ1000gを反応器に供給して、攪拌しながらトリフェニルホスフィン11.78gを添加して、24時間攪拌した。
前記トリフェニルホスフィンを添加したメタクリルシラップ400gにラジカル重合開始剤であるt−ヘキシルパーオキシピバレート1.4g、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.0157gを添加し、撹拌し、−75kPaで5分間減圧脱気した。このメタクリルシラップを、ポリ塩化ビニル製ガスケットを介して4.2mmの間隔で積層された大きさ300×300×1.5mmの2枚のSUS板であって、クランプで固定された鋳型に注入した。
次いで、このシラップが注入された鋳型を80℃の温水シャワーを19分間浴びせてシラップを重合硬化させ、さらに146℃の空気加熱炉中で7分間熱処理し、90℃まで冷却した。その後、この鋳型中の硬化物を剥離し、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れもなく外観が良好なものであった。
このメタクリル樹脂注型板の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)が15.3万であった。
[実施例2]
実施例1のメタクリルシラップ1000gを反応器に供給して、攪拌しながらトリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン1.0gを添加して、24時間攪拌した。
その後、実施例1と同様にこのメタクリルシラップを重合硬化して、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。
このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れはなかったが、板が黄帯していた。この板の重量平均分子量(Mw)は24.9万であった。
[実施例3]
実施例1のメタクリルシラップ1000gを反応器に供給して、攪拌しながらトリ−p−トリルホスフィン0.8gを添加して、24時間攪拌した。
その後、実施例1と同様にこのメタクリルシラップを重合硬化して、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。
このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れもなく外観が良好なものであり、重量平均分子量(Mw)は15.5万であった。
[実施例4]
実施例1のメタクリルシラップ1000gを反応器に供給して、攪拌しながらトリ−n−オクチルホスフィン0.1gを添加して、24時間攪拌した。
その後、実施例1と同様にこのメタクリルシラップを重合硬化して、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。
このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れはなかったが、板が黄帯していた。この板の重量平均分子量(Mw)は18.4万であった。
[実施例5]
反応容器中のメタクリル酸メチルを4000gに変更し、アクリル酸ブチルを添加なしにした以外は、実施例1と同様の方法でメタクリルシラップを調製した。このメタクリルシラップの重合率は約35質量%、粘度は2550mPa・sであった。このシラップ980gを反応器に供給して、攪拌しながらトリ−p−トリルフェニルホスフィン0.5g及びブチルアクリレート20gを添加して、24時間攪拌した。
その後、実施例1と同様にこのメタクリルシラップを重合硬化して、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。
このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れもなく外観が良好なものであり、重量平均分子量(Mw)は15.8万であった。
[実施例6]
実施例5のメタクリルシラップ960gを反応器に供給して、攪拌しながらトリ−p−トリルフェニルホスフィン0.5g及びブチルアクリレート40gを添加して、24時間攪拌した。
その後、実施例1と同様にこのメタクリルシラップを重合硬化して、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。
このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れもなく外観が良好なものであり、重量平均分子量(Mw)は18.5万であった。
[実施例7]
実施例5のメタクリルシラップ960gを反応器に供給して、攪拌しながらトリ−p−トリルフェニルホスフィン0.5g及びメチルアクリレート40gを添加して、24時間攪拌した。
その後、実施例1と同様にこのメタクリルシラップを重合硬化して、板厚が3mmのメタクリル樹脂注型板を得た。
このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れもなく外観が良好なものであり、重量平均分子量(Mw)は22.9万であった。
[実施例8]
トリ−p−トリルホスフィンの添加量を30gに変更した以外は、実施例7と同様の方法でメタクリルシラップを調製し、このメタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板はヒビ割れはなかったが、板が黄帯していた。
このメタクリル樹脂注型板の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は22.6万であった。
[比較例1]
トリフェニルホスフィンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でメタクリルシラップを調製し、このメタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板は型から離型する際に、板に多数のひび割れが生じた。
このメタクリル樹脂注型板の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)が5.1万であった。
実施例1〜8、比較例1の評価結果を表1に示す。
Figure 0005138263
表1中に記載の略号
MMA; メタクリル酸メチル
BA; アクリル酸ブチル
MA; アクリル酸メチル
本発明によれば、重合率の高いシラップを低い粘度で扱うことが可能となると同時に、得られるメタクリル系樹脂組成物の分子量を高くすることが可能となり、機械物性等の低下も防止することができるため、機械物性等に優れたメタクリル系樹脂成形物を高い生産性で得ることができる。

Claims (3)

  1. メタクリル系単量体、またはメタクリル系単量体およびこれと共重合可能な単量体との混合物を、重合開始剤並びに分子内に1個の−SH基と、−SH基、−OH基および−COOH基から選ばれる官能基の少なくとも1個とを有する多官能メルカプタンの存在下でその一部を重合させシラップとし、該シラップにホスフィン化合物を混合し、さらに重合開始剤を追加添加した後、それを鋳型に注入して硬化させるメタクリル系樹脂成形物の製造方法。
  2. メタクリル酸メチルを、メタクリル系単量体全体、またはメタクリル系単量体およびこれと共重合可能な単量体との混合物全体の50質量%以上含有する請求項1に記載のメタクリル系樹脂成形物の製造方法。
  3. メタクリル系単量体、またはメタクリル系単量体およびアクリル酸アルキルエステルとの混合物を、重合開始剤並びに分子内に1個の−SH基と、−SH基、−OH基および−COOH基から選ばれる官能基の少なくとも1個とを有する多官能メルカプタンの存在下でその一部を重合させシラップとし、該シラップにホスフィン化合物、またはホスフィン化合物とアクリル酸アルキルエステルを添加し、さらに重合開始剤を追加添加した後、それを鋳型に注入して硬化させるメタクリル系樹脂成形物の製造方法。
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