JP5060397B2 - 植物系繊維材料の糖化分離方法 - Google Patents

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Description

本発明は、植物系繊維材料の糖化によりグルコースを主とする糖を生成し、得られた糖を分離する、植物系繊維材料の糖化分離方法に関する。
バイオマスである植物繊維、例えば、サトウキビの絞りかす(バガス)や木材片等を分解してセルロースやヘミロースからグルコースやキシロースを主とする糖を生成し、得られた糖を食料又は燃料として有効利用することが提案され、実用化されている。特に、植物繊維を分解することにより得られた単糖を発酵させ、燃料となるエタノール等のアルコールを生成させる技術が注目されている。
従来、セルロースやヘミセルロースを分解してグルコース等の糖を生成する種々の方法が提案されており(例えば、特許文献1〜4等)、一般的な方法としては、希硫酸や濃硫酸等の硫酸、塩酸を用いてセルロースを加水分解する方法(特許文献1等)が挙げられる。また、セルラーゼ酵素を用いる方法(特許文献2等)、活性炭やゼオライト等の固体触媒を用いる方法(特許文献3等)、加圧熱水を用いる方法(特許文献4等)もある。
特開平8−299000号公報 特開2006−149343号公報 特開2006−129735号公報 特開2002−59118号公報
しかしながら、硫酸等の酸を用いてセルロースを加水分解する方法は、加水分解によって得られる加水分解反応混合物から、触媒である酸と生成した糖とを分離することが難しいという問題がある。セルロースの加水分解生成物の主成分であるグルコースと加水分解の触媒である酸が共に水溶性であるためである。中和やイオン交換などによる加水分解反応混合物からの酸除去は、手間とコストがかかるだけでなく、完全に酸を除去することが難しく、エタノール発酵工程にも酸が残留してしまうことが多い。その結果、エタノール発酵工程において、酵母の活性に最適なpHに調整しても、塩の濃度が高くなることで酵母の活性が低下し、発酵効率の低下を招いていた。
特に濃硫酸を用いる場合には、エタノール発酵工程において酵母を失活させない程度まで硫酸を除去するのが非常に困難であり、多大なエネルギーを要する。これに対して、希硫酸を用いる場合には、比較的容易に硫酸を除去することができるが、高温条件下でセルロースを分解させなければならず、エネルギーを要する。
また、濃硫酸を用いる場合には、長時間反応させると生成した糖の脱水反応が起こり、糖の収率が低下するという問題がある。そのため、加水分解反応中の反応系に植物系繊維材料を追加し、植物系繊維材料の加水分解処理量を増やそうとしても、植物系繊維材料に対する糖の収率が高まらない。
さらに、硫酸や塩酸等の酸は、分離、回収して再利用することが非常に困難である。そのため、これら酸をグルコース生成の触媒として用いることは、バイオエタノールのコストを引き上げる原因の一つとなっている。
また、加圧熱水を用いた方法では、条件調整が難しく、安定した収率でグルコースを生成することが困難である。グルコースまでも分解し、グルコース収率が低下するだけでなく、分解成分により酵母の働きが低下し、発酵が抑制されることも懸念されている。しかも、反応装置(超臨界装置)が高価であり、且つ、耐久性も低いため、コスト面での問題もある。
本発明者らは、セルロースの糖化について鋭意検討した結果、擬融解状態のクラスター酸が、セルロースの加水分解に対して優れた触媒活性を有すると共に、生成した糖との分離が容易であることを見出し、既に特許出願を行っている(特願2007−115407、特願2007−230711)。本方法によれば、従来の濃硫酸法や希硫酸法と異なり、加水分解触媒を回収、再利用することが可能であると共に、セルロースの加水分解から糖水溶液の回収、加水分解触媒の回収に至るプロセスのエネルギー効率を向上させることができる。
また、上記特許出願において、擬融解状態のクラスター酸は、加水分解触媒として作用すると共に反応溶媒としても作用している。
本発明者らは、さらに上記クラスター酸触媒を用いたセルロースの糖化について研究を進め、クラスター酸触媒の単位重量当りの植物系繊維材料処理量を増大させることに成功した。すなわち、本発明は、上記研究の経緯を経て成し遂げられたものであり、上記擬融解状態のクラスター酸触媒を用いる、植物系繊維材料の糖化分離方法において、該クラスター酸触媒の単位重量あたりの植物系繊維材料の加水分解処理量を増大させ、クラスター酸触媒の使用量の低下、さらには、エネルギー効率の向上を実現させるものである。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程を備えており、
前記加水分解工程において、
前記クラスター酸触媒と、
擬融解状態の該クラスター酸触媒に添加した時該擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度が上昇する量の植物系繊維材料(1)と、
を加熱混合し、
該加熱混合物の粘度の低下が生じた際に、さらに植物系繊維材料(2)を追加添加することを特徴とするものである。
本発明の糖化分離方法は、まず、クラスター酸触媒と、特定量の上記植物系繊維材料(1)とを加熱混合することによって、該植物系繊維材料(1)の加水分解を開始する。次に、該植物系繊維材料(1)の加水分解の進行に伴い、加熱混合物の粘度が低下したところで、さらに、植物系繊維材料(2)を追加添加し、上記植物系繊維材料(1)の加水分解と共に植物系繊維材料(2)の加水分解を行う。
このように、加水分解工程における反応混合物の粘度低下が生じた後に、新たに植物系繊維材料を追加投入することによって、糖の収率を確保しつつ、クラスター酸触媒の単位重量当りの植物系繊維材料の処理量を増加させることができる。その結果、クラスター酸触媒の使用量低減による糖生成のコスト削減、クラスター酸触媒を擬融解状態にするための加熱に要するエネルギーの削減が可能である。
前記植物系繊維材料(2)の追加添加時期の目安としては、例えば、前記加熱混合物の粘度が1500cp以下になった際が挙げられる。
前記植物系繊維材料(1)の量としては、前記クラスター酸触媒に対して、体積比で60%以上とすることができる。また、前記植物系繊維材料(2)の量としては、前記クラスター酸触媒に対して、体積比で60%以上とすることができる。
本発明によれば、擬融解状態のクラスター酸触媒を用いる植物系繊維材料の糖化分離方法において、該クラスター酸触媒の単位重量あたりの植物系繊維材料の加水分解処理量を増大させ、クラスター酸触媒の使用量の低下、さらには、エネルギー効率の向上が可能である。ゆえに、本発明によれば、植物系繊維材料の加水分解による糖生成のコスト削減及びエネルギー削減が可能である。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程を備えており、
前記加水分解工程において、前記クラスター酸触媒と、擬融解状態の該クラスター酸触媒に添加した時に、該擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度が上昇する量(以下、高粘度添加量ということがある)の植物系繊維材料(1)と、を加熱混合し、該加熱混合物の粘度の低下が生じた際に、さらに植物系繊維材料(2)を追加添加することを特徴とするものである。
本発明者らは、上記特許出願(特願2007−115407、特願2007−230711)において、クラスター酸を加熱して擬融解状態とし、植物系繊維材料の加水分解触媒として利用する、植物系繊維材料の糖化分離方法を報告している。この糖化分離方法において、擬融解状態のクラスター酸は、加水分解触媒として作用すると共に、加水分解の反応溶媒としても作用している。ゆえに、加水分解工程におけるクラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合比率は、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合性が確保されるように決定される。つまり、クラスター酸触媒と一度に混合可能な植物系繊維材料の量には限界があり、クラスター酸触媒の単位重量当りの植物系繊維材料の処理量にも限界があった。
本発明者らの検討の結果、上記クラスター酸触媒を用いた植物系繊維材料の糖化分離方法において、クラスター酸触媒と植物系繊維材料とを加熱攪拌して、該植物系繊維材料の加水分解を行う際に、以下のようにして植物系繊維材料を複数回に分けて投入することによって、クラスター酸触媒単位重量当りの植物系繊維材料の処理量を増加させることに成功した。すなわち、まず、クラスター酸触媒と、高粘度添加量の植物系繊維材料(1)とを加熱混合して、該植物系繊維材料(1)の加水分解を開始する。次に、植物系繊維材料(1)の加水分解が行われている該加熱混合物の粘度が低下したところで、さらに、植物系繊維材料(2)を追加添加する。
擬融解状態のクラスター酸触媒と、植物系繊維材料との加熱混合物は、加水分解反応当初は粘度が高いが、該植物系繊維材料の加水分解の進行に伴い、粘度が低下することがわかった。そして、該加熱混合物の粘度の低下により、該加熱混合物に新たに植物系繊維材料を投入しても、該加熱混合物を混合攪拌することが可能であり、糖収率を確保しながら、初期に投入した植物系繊維材料及び追加分の植物系繊維材料の加水分解が可能であることが見出された。
つまり、本発明によれば、従来と比較して、追加添加する植物系繊維材料分、植物系繊維材料の処理量を増加することができる。その結果、クラスター酸触媒単位重量当りの植物系繊維材料の処理量が増加し、クラスター酸触媒の使用量の削減による糖生成のコスト削減効果が得られる。また、擬融解状態のクラスター酸触媒を含有する加水分解工程中の加熱混合物に、植物系繊維材料を添加追加するため、クラスター酸触媒を擬融解状態とするのに必要な加熱に要するエネルギーを削減することができる。すなわち、エネルギー効率を向上させることができる。
尚、上記加熱混合物の粘度がどの程度が低下したときに追加で植物系繊維材料を添加するかは、追加で添加する植物系繊維材料の量に応じて適宜決めればよい。すなわち、少量の追加であれば粘度が多少低下した時点で追加可能であり、多量に追加するのであれば、充分加水分解反応が進んで粘度が大きく低下するまで添加を控える。いずれにしても最初に繊維材料を添加した際の粘度を越えないように追加添加することが好ましい。
以下、本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法について説明する。
まず、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程について説明する。
尚、ここでは、主としてセルロースからグルコースを生成させる工程を中心に説明しているが、植物系繊維材料にはセルロース以外にヘミセルロースも含まれ、また、生成物もグルコース以外にキシロース等のその他の単糖もあり、これらの場合も本発明の範囲に含まれる。
植物系繊維材料としては、セルロースやヘミセルロースを含むものであれば特に限定されず、例えば、広葉樹、竹、針葉樹、ケナフ、家具の廃材、稲わら、麦わら、籾殻、バガス、サトウキビの絞りかす等のセルロース系バイオマスが挙げられる。また、上記バイオマスから分離されたセルロースやヘミセルロース或いは人工的に合成されたセルロースやヘミセルロースそのものでもよい。
これら繊維材料は、反応系における分散性の観点から、通常、粉末状のものを用いる。粉末状にする方法としては、一般的な方法に準じればよい。クラスター酸触媒との混合性、反応機会向上の観点から、植物系繊維材料は、数μm〜200μm程度の直径を有する粉末状であることが好ましい。
また、繊維材料は必要に応じて、予め蒸解処理を施すことによって、含有されるリグニンを溶解しておいてもよい。リグニンを溶解除去しておくことによって、糖化分離の際の残渣量を低減することができ、残渣中に生成した糖やクラスター酸が混入し、糖収率やクラスター酸回収率の低下を抑制することができる。蒸解処理を施す場合には、植物系繊維材料の粉砕度を比較的小さくする(粉砕が荒い)ことができるため、繊維材料を粉末状にするための手間、コスト、エネルギーを削減できるという効果もある。
蒸解処理としては、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Na2SO3、NaHCO3、NaHSO3、Mg(HSO32、Ca(HSO32などのアルカリや塩及びその水溶液、これらにさらにSO2溶液を混合したもの、NH3等のガスと、植物系繊維材料(例えば、数cm〜数mm)を、水蒸気下で接触させる方法が挙げられる。具体的な条件として、反応温度は120〜160℃、反応時間は数十分から1時間程度でよい。
本発明において、植物系繊維材料の加水分解の触媒として用いられるクラスター酸とは、複数のオキソ酸が縮合したもの、すなわち、いわゆるポリ酸である。ポリ酸の多くは、中心元素が複数の酸素原子が結合しているため最高酸化数まで酸化された状態であることが多く、酸化触媒として優れた特性を示し、また、強酸であることが知られている。例えば、ヘテロポリ酸であるリンタングステン酸の酸強度(pKa=−13.16)は、硫酸の酸強度(pKa=−11.93)より強い。すなわち、例えば、50℃のような温和な条件でも、セルロースやヘミセルロースを、グルコース、キシロースなどの単糖までに分解することができる。
本発明において用いるクラスター酸としては、ホモポリ酸でも、ヘテロポリ酸でもよいが、酸化力及び酸強度が強いことからヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロポリ酸としては特に限定されず、HwAxByOz(A:ヘテロ原子、B:ポリ酸の骨格となるポリ原子、w:水素原子の組成比、x:ヘテロ原子の組成比、y:ポリ原子の組成比、z:酸素原子の組成比)の一般式で表されるものが挙げられる。ポリ原子Bとしては、ポリ酸を形成することができるW、Mo、V、Nb等の原子が挙げられる。ヘテロ原子Aとしては、ヘテロポリ酸を形成することができるP、Si、Ge、As、B等の原子が挙げられる。ヘテロポリ酸一分子内に含有されるポリ原子及びヘテロ原子は1種でもあっても2種以上であってもよい。
酸強度の強さと、酸化力のバランスから、タングステン酸塩であるリンタングステン酸 H3[PW1240]、珪タングステン酸 H4[SiW1240]が好ましい。次いで、モリブデン酸塩であるリンモリブデン酸 H3[PMo1240]等を好適に用いることができる。
ここで、ケギン型[Xn+1240:X=P、Si、Ge、As等、M=Mo、W等]のヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の構造を図1に示す。八面体MO6単位からなる多面体の中心に四面体XO4が存在し、この構造の周囲に結晶水を多くもつ。尚、クラスター酸の構造は特に限定されず、上記ケギン型の他、例えば、ドーソン型等でもよい。
尚、ここでは結晶状態のクラスター酸触媒、および、数分子のクラスター酸触媒で構成されるクラスター状態のクラスター酸触媒と水和又は配位する水を、一般的に使用される「結晶水」という用語で代用する。この結晶水にはクラスター酸触媒を構成するアニオンと水素結合したアニオン水、カチオンに配位した配位水、カチオン及びアニオンと配位しない格子水の他、OH基の形で含まれているものも含まれる。
また、クラスター状態のクラスター酸触媒とは、1〜数分子程度のクラスター酸から構成される集合体であり、結晶とは異なる。固体状態、擬融解状態、溶媒中に溶解(コロイド状)した状態でもクラスター状態とすることができる。
本発明の糖化分離方法の加水分解工程において、植物系繊維材料は分割して追加添加されるため、加水分解工程初期に投入された植物系繊維材料から生成した単糖は、追加添加された植物系繊維と共に、クラスター酸触媒と加熱混合され続けることになる。従って、単糖の脱水反応(過反応)が生じるのを抑制することによって、単糖の収量を向上させることができる。このような観点から、クラスター酸触媒としては、セルロースの加水分解反応に適した酸強度を有するクラスター状態のものが好ましい。クラスター状態のクラスター酸は単糖の過反応を生じさせにくいため、長時間、単糖と加熱しても単糖の収量を低下させにくい。
クラスター状態のクラスター酸触媒の調製方法は特に限定されない。具体的な方法については後述する。
上記したようなクラスター酸触媒は、常温では固体状であるが、加熱し、温度が上がると擬融解状態となる。ここで、擬融解状態とは、見かけ上、融解しているようであるが、完全に融解した液体状態ではなく、クラスター酸が液中に分散しているコロイド(ゾル)に近い状態であり、流動性を示している状態である。クラスター酸が擬融解状態であるかどうかは、目視により確認したり、或いは、均一系の場合、DTG(示差走査熱量計)等でも確認することができる。
クラスター酸の擬融解状態は、温度と、クラスター酸触媒が含有する結晶水の量によって変わってくる(図2参照)。具体的には、クラスター酸であるリンタングステン酸は、含有する結晶水が多くなると擬融解状態を発現する温度が低下する。すなわち、結晶水を多く含むクラスター酸触媒は、相対的に結晶水量が少ないクラスター酸触媒よりも低い温度でセルロースの加水分解反応に対する触媒作用を発現する。つまり、加水分解工程の反応系におけるクラスター酸触媒が含有する結晶水の量をコントロールすることで、目的とする加水分解反応温度においてクラスター酸触媒を擬融解状態とすることができる。例えば、リンタグステン酸をクラスター酸触媒として用いる場合は、クラスター酸の結晶水量によって加水分解反応温度を110℃〜40℃の範囲内で制御可能である(図2参照)。
尚、図2は、代表的なクラスター酸触媒であるヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の結晶水率と、擬融解状態を発現し始める温度(見かけ上の融解温度)との関係を示すものであり、クラスター酸触媒は、曲線より下の領域では凝固状態であり、曲線より上の領域では擬融解状態である。また、図2において、結晶水率(%)とは、クラスター酸(リンタングステン酸)の標準結晶水量n(n=30)を100%とした値である。結晶水の量は、クラスター酸触媒が800℃のような高温であっても熱分解して揮発する成分がないため、熱分解法(TG測定)によって特定することができる。
ここで、標準結晶水量とは、室温で固体状態のクラスター酸1分子が含有する結晶水の量(分子数)であり、クラスター酸の種類によって異なる。例えば、リンタングステン酸は約30〔H3[PW1240]・nH2O(n≒30)〕、珪タングステン酸は約24〔H4[SiW1240]・nH2O(n≒24)〕、リンモリブデン酸は約30〔H3[PMo1240]・nH2O(n≒30)〕である。
クラスター酸触媒が含有する結晶水量は、加水分解反応系内に存在する水分量をコントロールすることで調節することができる。具体的には、クラスター酸触媒の結晶水量を多くしたい、つまり、反応温度を低くしたい場合には、例えば、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含む混合物に水を添加したり、反応系の雰囲気の相対湿度を高くする等して、加水分解の反応系に水を追加すればよい。その結果、クラスター酸が結晶水として追加された水を取り込み、クラスター酸触媒の見かけ上の融解温度は低下する。
一方、クラスター酸触媒の結晶水量を少なくしたい場合には、つまり、反応温度を高くしたい場合には、加水分解の反応系から水を除去、例えば、反応系を加熱して水を蒸発させたり、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含む混合物に乾燥剤を添加する等することで、クラスター酸触媒の結晶水を減少させることができる。その結果、クラスター酸触媒の見かけ上の融解温度は高くなる。
以上のように、クラスター酸の結晶水量は容易にコントロールが可能であり、結晶水量の制御によりセルロースの加水分解反応温度も容易に調整可能である。
クラスター酸は、上記したように、その酸強度の強さから低温でもセルロースの加水分解反応に対する高い触媒活性を示す。また、クラスター酸分子の大きさは、径が1〜2nm程度、典型的には1nm強であるため、原料である植物系繊維材料との混合性にも優れ、効率よくセルロースの加水分解を促進することができる。従って、温和な条件でのセルロースの加水分解が可能であり、エネルギー効率が高く、環境負荷が小さい。
さらに、硫酸等の酸を用いる従来のセルロースの加水分解法と異なり、クラスター酸を触媒として用いる本発明の方法は、糖と触媒の分離効率が高く、容易に分離可能である。クラスター酸は温度によっては固形状態となるため、生成物である糖類との分離が可能である。従って、分離したクラスター酸を回収し、再利用することも可能である。また、擬融解状態のクラスター酸触媒は、反応溶媒としても機能するため、従来の方法と比較して、反応溶媒としての溶剤量を大幅に減少させることができる。これは、クラスター酸と生成物である糖との分離、クラスター酸の回収の高効率化が可能であることを意味している。すなわち、クラスター酸をセルロースの加水分解触媒として利用する本発明は、低コストが可能であり、且つ、環境負荷も小さい。
本発明は、上記擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料を加水分解し、糖を生成させる加水分解工程において、まず、クラスター酸触媒と、擬融解状態の該クラスター酸触媒に添加した時に、該擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度が上昇する量の植物系繊維材料(1)とを加熱混合することによって、該植物系繊維材料(1)の加水分解を行い、該植物系繊維材料(1)の加水分解の進行に伴い、加熱混合物の粘度が低下したところで、さらに、植物系繊維材料(2)を追加添加する点に大きな特徴を有する。
ここで、植物系繊維材料(1)の量、すなわち、擬融解状態のクラスター酸触媒に添加した時に、該擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度が上昇する量とは、加水分解工程において使用するクラスター酸触媒を擬融解状態とし、該擬融解状態のクラスター酸触媒に植物系繊維材料(1)を添加、混合した時に、植物系繊維材料(1)を添加する前の擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度と比較して、その粘度が上昇する量である。植物系繊維材料(1)の具体的な量は、使用する植物系繊維材料の性状(大きさ、形、細孔構造等)や、擬融解状態のクラスター触媒と植物系繊維材料とを混合する加熱温度、攪拌(練り)形態、温度の分布等によって異なるため、予め、適宜、決定しておけばよい。
通常、加水分解工程において使用するクラスター酸触媒に対する、植物系繊維材料(1)の体積比を60%以上とすると、擬融解状態の該クラスター酸触媒に植物系繊維材料(1)を添加した際に粘度が上昇する。特に、植物系繊維材料の処理効率の観点から、加水分解工程において使用するクラスター酸触媒に対する、植物系繊維材料(1)の体積比は、特に50%以上、さらに65%以上とすることが好ましい。
クラスター酸触媒と植物系繊維材料(1)を反応容器に投入する順序は特に限定されず、例えば、まず、クラスター酸触媒を投入し、加熱して擬融解状態とした後、植物系繊維材料(1)を投入してもよい。或いは、クラスター酸触媒と植物系繊維材料(1)を共に投入した後、これらを加熱してクラスター酸触媒を擬融解状態としてもよい。
尚、クラスター酸触媒と植物系繊維材料(1)を投入した後、これらを加熱する場合には、加熱前に、クラスター酸触媒と植物系繊維材料(1)を、予め混合攪拌しておくことが好ましい。クラスター酸触媒が擬融解状態となる前にある程度混合しておくことによってクラスター酸と植物系繊維材料(1)との接触性を高めることができる。
上記したように、加水分解工程において、クラスター酸触媒は擬融解状態となり、反応溶媒としても機能するため、本発明においては、植物系繊維材料の形態(大きさ、繊維の状態等)、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合比及び体積比等にもよるが、加水分解工程において、反応溶媒としての水や有機溶剤等を用いなくてよい。
しかしながら、加水分解工程においては、セルロースが加水分解されるための水が必要である。具体的には、n個のグルコースが重合したセルロースをn個のグルコースに分解するためには、(n−1)個の水分子が必要である。従って、反応系内に、クラスター酸触媒が反応温度において擬融解状態となるのに必要な結晶水量分の水分と、仕込まれたセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分の合計量が存在しない場合、クラスター酸触媒の結晶水がセルロースの加水分解に使用され、クラスター酸触媒の結晶水が減少し、クラスター酸が凝固状態となってしまう。すなわち、クラスター酸触媒と植物系繊維材料との接触性が低下するばかりか、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の混合物の粘度が増加し、該混合物を充分に混合するのに時間がかかってしまう。
従って、加水分解工程において、反応温度におけるクラスター酸触媒の触媒作用や反応溶媒としての機能を確保するため、つまり、クラスター酸触媒が擬融解状態を保持できるようにするためには、反応系内の水分量を下記のようにすることが好ましい。すなわち、(A)反応系内に存在するクラスター酸触媒の全てが加水分解工程における反応温度において擬融解状態になるために必要な結晶水と、(B)反応系内に存在するセルロースの全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分と、の合計量以上とすることが好ましい。特に好ましくは、上記(A)と(B)の合計量を添加する。過度の水分を添加することによって、生成した糖及びクラスター酸が余剰の水分に溶解し、糖とクラスター酸の分離工程が煩雑となるからである。
ここで、(B)の水量は、追加添加する植物系繊維材料(2)の追加添加前であれば、植物系繊維材料(1)に含有されるセルロースの全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分量(B1)であり、植物系繊維材料(2)の追加添加後であれば、植物系繊維材料(1)及び(2)に含有されるセルロースの全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分量(B1+B2)である。(B)の水分は、植物系繊維材料(2)の追加添加前に、全量(B1+B2)を添加してもよいし、植物系繊維材料(2)の追加添加に合わせてB1とB2を分割して添加してもよい。
尚、加水分解工程において、反応系内の水分が減少し、クラスター酸触媒の結晶水量も減少することによって、クラスター酸触媒が固形状となり植物系繊維材料との接触性や反応系の混合性が低下する場合には、クラスター酸触媒が擬融解状態となるように加水分解温度を上げることによって、上記問題の発生を回避することもできる。
また、加水分解工程において、加熱により反応系の相対湿度が低下しても、クラスター酸触媒の結晶水が所望量確保できるようにしておくことが好ましい。具体的には、予定の反応温度で反応系の雰囲気が飽和蒸気圧となるように、例えば、予め密閉された反応容器内で、加水分解反応温度で飽和蒸気圧状態を作り、密閉状態を保持したまま温度を下げて蒸気を凝縮させ、該凝縮水を植物系繊維材料及びクラスター酸触媒に添加する方法が挙げられる。
また、植物系繊維材料として、乾燥状態のものを用いる場合には、特に考慮する必要がないが、水分を含む植物系繊維材料を用いる場合には、反応系内に存在する水分量として、該植物系繊維材料が含有する水分量も考慮することが好ましい。
植物系繊維材料(1)の加水分解反応が進行し、加熱混合物の粘度が低下したら、植物系繊維材料(2)を追加添加する。加熱混合物の粘度は、反応容器内に設置した粘度計(例えば、せん断音波共振器など)で直接測定する他、加熱混合物を混合する攪拌翼のトルク、反応容器内に設置した液面計による液面高さ、攪拌翼の回転とトルクの関係等から間接的に導くことができる。
植物系繊維材料(2)を追加添加する際の加熱混合物の粘度は、加水分解工程の反応初期における擬融解状態のクラスター酸触媒と植物系繊維材料(1)を含む加熱混合物の粘度より低く、該加熱混合物に植物系繊維材料(2)を追加添加しても、該加熱混合物の混合が可能であれば、具体的な値に限定はない。追加で添加する植物系繊維材料の量に応じて適宜決めればよく、すなわち、少量の追加であれば粘度が多少低下した時点で追加可能であり、多量に追加するのであれば、充分加水分解反応が進んで粘度が大きく低下するまで添加を控える。いずれにしても最初に繊維材料を添加した際の反応初期の加熱混合物の粘度を越えないように追加添加することが好ましい。
通常は、加熱混合物の粘度が1500cp以下、特に1200cp以下、さらには1000cp以下になってから、植物系繊維材料(2)を追加添加することが好ましい。
追加添加する植物系繊維材料(2)の量は、該植物系繊維材料(2)を追加添加した後の加熱混合物の混合性が確保される範囲内であれば、特に限定されず、適宜決定することができる。植物系繊維材料の処理効率の観点から、通常は、加水分解工程において使用するクラスター酸触媒に対して、植物系繊維材料(2)の体積比が60%以上となるようにすることが好ましい。
植物系繊維材料(2)の追加添加は、複数行ってもよい。すなわち、第1回目の植物系繊維材料(2)の追加添加後、加熱混合物の粘度が低下したら、さらに植物系繊維材料(2)の追加添加を行うという工程を繰り返してよい。
上記したような粘度計、攪拌翼のトルク、液面計等から計測される加熱混合物の粘度変化を、植物系繊維材料の投入機構へフィードバックし、加熱混合物の粘度が低下した際に、該加熱混合物に植物系繊維材料(2)を添加追加することで、加水分解工程における繊維材料の添加追加の制御が容易となる。
具体的には、例えば、図3に示す固定反応装置(バッチ式)の場合、粘度センサ2及び液面センサ3により、反応槽1内の加熱混合物4の粘度が計測可能となっている。加熱混合物4の粘度を測定する粘度センサ2は、反応槽1の底面又は側面の底面に近い部分に設置することが好ましい。また、液面センサ3を、反応槽1の側面に複数設置することで、反応槽1内の加熱混合物4の液面変化を正確に計測することができる。このとき、液面センサ3と共に、温度センサ5を複数設けることで、攪拌翼の回転数を適切にフィードバック制御することができる(図3参照)。上記したように、粘度センサ2や液面センサ3により計測される加熱混合物4の粘度変化を、植物系繊維材料の投入機構9へフィードバックすることが好ましい。
尚、図3においては、反応槽1の底面に加熱ヒータ7及び温度センサ8が配置されており、反応槽1内の加熱混合物4の温度制御が可能となっている。また、固定反応装置(バッチ式)は、図3の形態に限定されず、例えば、上述したように、加熱混合物4の粘度を、攪拌翼6のトルクから間接的に計測されるようにしてもよい。
図4に、流通式反応装置の一形態例を示す。図4に示す攪拌機構(攪拌翼10)を有する管型反応槽100では、擬融解状態のクラスター酸触媒の投入口13よりも下流側に、植物系繊維材料の投入口11(1)〜11(4)及び粘度センサ12(1)〜12(4)が流通方向に複数設置されている。各投入口11が設置された位置よりも下流側に設けられた粘度センサ12により計測される加熱混合物の粘度から、各投入口11からの植物系繊維材料(2)の追加添加時期や追加添加量を、決定することができる。このとき、粘度センサ12から計測される加熱混合物の粘度変化を、投入口11から追加添加される植物系繊維材料(2)の追加添加時期や追加添加量にフィードバックすることで、加水分解工程における反応の制御が容易となる。
粘度センサ12と投入口11の設置位置は特に限定されないが、例えば、投入口11(1)については、下流側に設置された投入口11(2)の、上流側に隣接するように粘度センサ12(1)を設置することができる(図4参照)。投入口11(2)〜投入口11(3)と粘度センサ12(2)〜12(3)についても同様である。また、流通式反応装置の場合、リグニンを含む植物系繊維材料を用いる場合には、各投入口11の直前にヘテロポリ酸や生成した糖は除去しないが、リグニンを除去可能なフィルターを設置することで、上流側の残渣を除去することが好ましい。
加水分解工程における反応温度の低下は、エネルギー効率を向上させることができるという利点がある。また、加水分解工程の温度によって、植物系繊維材料に含まれるセルロースの加水分解のグルコース生成の選択性が変化する。反応温度が高くなると反応率が高くなることは一般的なことであり、例えば、特願2007−115407にて報告したように、結晶水率160%のリンタングステン酸を用いたセルロースの加水分解反応においても、50℃〜90℃における反応率Rは温度が高くになるにつれて上昇し、80℃位ではほぼ全てのセルロースが反応する。一方、グルコースの収率は、50℃〜60℃にかけてはセルロースの反応率と同様の増加傾向を示すが、70℃をピークに減少する。すなわち、50〜60℃において高選択的にグルコースが生成するのに対して、70〜90℃においてグルコース生成以外の反応、例えば、キシロース等のその他の糖生成や分解物生成等が進行する。
従って、加水分解の反応温度は、セルロースの反応率とグルコース生成の選択性を左右する重要な要素であり、エネルギー効率の観点から加水分解反応の温度は低いことが好ましい旨を述べたが、セルロースの反応率やグルコース生成の選択性等も考慮して加水分解反応の温度を決定することが好ましい。
加水分解工程における温度条件は、上記したようにいくつかの要素(例えば、反応選択率、エネルギー効率、セルロースの反応率、等)を考慮して適宜決定すればよいが、エネルギー効率、セルロースの反応率、グルコース収率のバランスから、通常、140℃以下、とすることが好ましく、特に120℃以下とすることが好ましい。植物系繊維材料の形態によっては、100℃以下のような低温でも可能であり、その場合には、特に高エネルギー効率でグルコースを生成させることができる。
また、加水分解工程における圧力は、特に限定されないが、クラスター酸触媒のセルロースの加水分解反応に対する触媒活性が高いことから、常圧(大気圧)〜1MPaのような温和な圧力条件下でも効率よくセルロースの加水分解を進行させることができる。
加水分解工程におけるクラスター酸触媒と植物系繊維材料を含む混合物は粘度が高いため、その攪拌方法は、例えば、加熱ボールミル等が有利であるが、一般的な攪拌器でもよい。
加水分解工程の時間は特に限定されず、用いる植物系繊維材料の形状、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の比率、クラスター酸触媒の触媒能、反応温度、反応圧力等によって、適宜設定すればよい。
加水分解終了後、反応系の温度を下げると、加水分解工程において生成した糖は、クラスター酸触媒を含む加水分解反応混合物中、糖を溶解する水が存在する場合には糖水溶液として、溶解する水がない場合には析出して固体状態で含有される。生成した糖のうち一部は糖水溶液、残りは固体状態で上記混合物中に含有されることもある。尚、クラスター酸触媒もまた、水溶性を有するため、加水分解工程後の混合物の含水量によってはクラスター酸触媒も水に溶解している。
次に、加水分解工程で生成した糖(主にグルコース)と、クラスター酸触媒とを分離する糖分離工程について説明する。尚、本発明の糖化分離方法において、糖とクラスター酸を分離する方法は、以下の方法に限定されない。
加水分解工程後の反応混合物(以下、加水分解反応混合物ということがある)には、クラスター酸触媒、生成した糖が少なくとも含まれている。加水分解工程において、水分量を上記(A)と(B)の合計量とした場合、加水分解反応混合物の糖は析出している。一方、クラスター酸触媒も温度低下により、固体状態となっている。使用する植物系繊維材料によっては、加水分解反応混合物中に残渣(未反応のセルロースや、リグニン等)が固形分として含まれる。
クラスター酸触媒は、グルコースを主とする糖が難溶乃至不溶である有機溶媒に溶解性を示す。ゆえに、糖にとっては貧溶媒であり、且つ、クラスター酸触媒にとっては良溶媒である有機溶媒を、加水分解反応混合物に添加、攪拌し、クラスター酸触媒を該有機溶媒に選択的に溶解させた後、固液分離することによって、クラスター酸触媒を溶解含有する有機溶媒溶液と、糖を含む固形分とに分離することができる。糖を含む固形分には、使用する植物系繊維材料によっては残渣等も含まれる。有機溶媒溶液と固形分とに分離する方法は、特に限定されず、デカンテーション、濾過等の一般的な固液分離方法を採用することができる。
上記有機溶媒としては、クラスター酸触媒にとっては良溶媒であるが、糖にとっては貧溶媒であるという溶解特性を有するものであれば特に限定されないが、糖の有機溶媒への溶解を抑えるためには、該有機溶媒に対する糖の溶解度が0.6g/100ml以下であることが好ましく、特に、0.06g/100ml以下であることが好ましい。このとき、クラスター酸触媒の回収率を高めるためには、該有機溶媒に対するクラスター酸の溶解度が20g/100ml以上、特に、40g/100ml以上であることが好ましい。
上記有機溶媒として、具体的には、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール、オクタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。アルコール類及びエーテル類は好適に用いることができ、中でも、溶解性及び沸点の観点から、エタノール及びジエチルエーテルが好適である。ジエチルエーテルは、グルコース等の糖が不溶であり、且つ、クラスター酸の溶解性が高いため、糖とクラスター酸触媒を分離する溶媒として最適なものの一つである。一方、エタノールもグルコース等の糖が難溶であり、且つ、クラスター酸触媒の溶解性が高いため最適な溶媒の一つである。ジエチルエーテルはエタノールと比較して蒸留において有利であり、エタノールは、ジエチルエーテルよりも入手しやすいという利点を有している。
上記有機溶媒の使用量は、その有機溶媒の糖及びクラスター酸触媒に対する溶解特性や、加水分解反応混合物に含有される水分の量などによって異なってくるため、適宜適当な量を決定すればよい。
加水分解反応混合物と有機溶媒との攪拌は、該有機溶媒の沸点等にもよるが、通常は、室温〜60℃の範囲で行うことが好ましい。また、加水分解反応混合物と有機溶媒との攪拌方法等は特に限定されず、一般的な方法でよい。クラスター酸の回収効率の観点から、攪拌方法としては、ボールミル等による攪拌・粉砕が好適である。
糖及びクラスター酸の回収率を向上させ、且つ、得られる糖の純度を高めるためには、上記固液分離により得られる固形分に、さらに、上記有機溶媒(糖にとっては貧溶媒であり、且つ、クラスター酸触媒にとっては良溶媒である有機溶媒)を添加、攪拌し、該有機溶媒による洗浄を行うことが好ましい。固形分に混入したクラスター酸触媒を除去、回収することができるためである。固形分に有機溶媒を添加した混合物は、加水分解反応混合物同様、固液分離することにより固形分とクラスター酸有機溶媒溶液とに分離することができる。有機溶媒による固形分の洗浄は、必要に応じて、複数回行うことができる。
固液分離により得られる固形分は、蒸留水等の水を添加し、攪拌することで、糖が水に溶解するため、さらに固液分離することによって、糖水溶液と、残渣等を含む固形分とを分離することができる。
一方、上記固液分離により得られる液体分(クラスター酸触媒を溶解含有するクラスター酸有機溶媒溶液)は、有機溶媒を除去することによって、クラスター酸触媒と有機溶媒を分離し、クラスター酸触媒を回収することができる。有機溶媒の除去方法としては、特に限定されず、減圧蒸留、凍結乾燥、蒸発乾固等が挙げられ、中でも50℃以下での減圧蒸留が好ましい。回収されたクラスター酸触媒は、再び、植物系繊維材料の加水分解触媒として利用することができる。固形分の洗浄後、回収されたクラスター酸有機溶媒溶液は、再び、固形分の洗浄に使用することもできる。
尚、加水分解工程における水分量によっては、加水分解反応混合物中に、糖やクラスター酸を溶解含有する水溶液が含まれる場合がある。この場合、例えば、加水分解反応混合物から水分を除去することで溶解している糖及びクラスター酸を析出させた後、上記有機溶媒を添加、攪拌し、固液分離することで、糖を含む固体分と、クラスター酸触媒を溶解含有する有機溶媒とに分離することができる。
特に好ましくは、加水分解反応混合物中に含まれる全てのクラスター酸触媒の結晶水率が100%未満となるように、加水分解反応混合物の水分量を調節することが好ましい。クラスター酸触媒が多くの結晶水、典型的には、標準結晶水量以上の結晶水を有する場合、過剰な水分に生成物である糖が溶解し、クラスター酸有機溶媒溶液側に糖が混入することによって糖の回収率が低下してしまう。クラスター酸触媒の結晶水率を100%未満とすることで、このようにクラスター酸触媒に糖が混入することを抑制することができる。
加水分解反応混合物に含まれるクラスター酸触媒の結晶水率を低下させる方法としては、加水分解反応混合物の水分量を低下させることが可能な方法であればよく、例えば、反応系の密閉状態を解放し、加熱することで、加水分解混合物中の水分を蒸発させる方法や、加水分解混合物中に、乾燥剤等を添加し、加水分解混合物中の水分を除去する方法等が挙げられる。
次に、クラスター状態のクラスター酸触媒の調製方法について説明する。
クラスター酸触媒のクラスター化は、例えば、クラスター酸を、擬融解状態にして攪拌するか、又は、溶媒に溶解して加熱攪拌するか、又は、植物系繊維材料と加熱攪拌して加水分解触媒として使用することによって、促進される。
具体的なクラスター化促進処理の方法としては、以下の3つを挙げることができる。すなわち、(1)クラスター酸触媒と、該クラスター酸触媒を可溶な有機溶媒とを加熱攪拌する工程を備える方法、(2)植物系繊維材料をクラスター酸触媒を用いて加水分解する加水分解工程において、一回投入可能な量の植物系繊維材料の一部を、擬融解状態のクラスター酸触媒と加熱攪拌し、該植物系繊維材料の加水分解を行う方法、(3)クラスター酸触媒を擬融解状態で加熱攪拌する方法が挙げられる。以下、上記(1)〜(3)の方法について説明する。
(1)クラスター酸触媒と、該クラスター酸触媒を可溶な有機溶媒とを加熱攪拌する工程を備える方法において、加熱温度は、溶媒中でのクラスター酸の形態変化に応じて、適宜設定すればよいが、通常、30℃以上であることが好ましい。一方、クラスター酸触媒の再結晶化防止の観点からは、65℃以下、特に55℃以下であることが好ましい。
クラスター酸触媒を可溶な有機溶媒としては、上記糖分離工程において使用可能な有機溶媒が挙げられる。中でも、クラスター酸の溶解度、沸点の観点から、エタノール、メタノールが好適である。
有機溶媒とクラスター酸触媒の混合割合は、特に限定されず、有機溶媒に対するクラスター酸触媒の溶解度等に応じて適宜選択することができる。また、加熱攪拌時間は、使用する有機溶媒に対するクラスター酸触媒の溶解度、加熱温度等に応じて、適宜決定すればよく、通常は、10分〜60分程度、又は30〜60分程度である。混合方法も特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
このようなクラスター酸触媒と有機溶媒との加熱攪拌により、たとえ、未使用の新品クラスター酸試薬を用いる場合であっても、クラスター酸触媒をクラスター状にし、加水分解工程における糖の脱水反応を抑制することができる。
また、上記糖分離工程において、加水分解反応混合物に有機溶媒を添加、攪拌した後、固液分離により得られるクラスター酸有機溶媒溶液を、加熱攪拌することで、再利用するクラスター酸触媒のクラスター化を促進することもできる。
加熱攪拌後、クラスター酸触媒と上記有機溶媒との混合物から有機溶媒を除去することによって、クラスター化促進処理を施したクラスター酸触媒を分離することができる。このとき、有機溶媒をすばやく除去することによって、クラスター酸触媒のクラスター状態を保持しやすくすることができる。
具体的には、減圧蒸留、凍結乾燥等によって、有機溶媒を除去することが好ましい。加熱により有機溶媒を除去することも可能であるが、クラスター酸のクラスター状態を維持させるという観点からは、低温(具体的には、65℃以下)において、有機溶媒を除去することが好ましく、上記のような減圧蒸留、凍結乾燥等が好適であるといえる。
また、上記糖分離工程において、加水分解反応混合物に有機溶媒を添加、攪拌した後、固液分離により得られるクラスター酸有機溶媒溶液に、結晶状態のクラスター酸触媒(未使用のクラスター酸試薬等)を添加し、加熱攪拌することによっても、該添加クラスター酸触媒及び再利用するクラスター酸触媒のクラスター化を促進することができる。クラスター酸触媒を繰り返し、回収、再利用する上で、クラスター酸の回収量が低減した場合でも、糖分離工程におけるクラスター酸触媒の損失分を補充する、結晶状態のクラスター酸触媒を添加し、糖分離工程を利用して結晶状態のクラスター酸触媒のクラスター化処理を実施することができる。
(2)加水分解工程において、一回投入可能な量の植物系繊維材料の一部を、擬融解状態のクラスター酸触媒と加熱攪拌し、該植物系繊維材料の加水分解を行う方法は、該一回投入可能な量の植物系繊維材料の一部のみを加水分解することにより、加水分解工程の初期においてクラスター酸触媒により脱水される単糖の量を低下させると共に、クラスター酸触媒のクラスター化を促進することができる。クラスター酸触媒がクラスター状態になった後、残りの植物系繊維材料を追加添加することで、この追加添加された植物系繊維材料から生成した糖の過反応を抑制することができる。
ここで、「一回投入可能な量の植物繊維材料」とは、加水分解工程において使用する擬融解状態のクラスター酸触媒(加水分解工程における使用量)に混合したときに、該混合物が全体的に均一な捏和混練状態となる量である。このとき該混合物において該植物系繊維材料は乾燥状態にない。この植物系繊維材料の一回投入可能量は、混練機の種類により変動するため、一概に決定することはできないが、一般的には、一回投入可能な量の植物系繊維と、加水分解工程において使用する擬融解状態のクラスター酸触媒の重量比(植物系繊維:クラスター酸触媒)が1:2〜1:6程度が好ましい。
また、「一回投入可能な量の植物系繊維材料の一部」とは、上記「一回投入可能な量の植物系繊維材料」の一部であり、具体的な量に限定されないが、通常、擬融解状態のクラスター酸触媒に添加、攪拌しても、添加前の擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度が維持される程度の微量である。加水分解工程において使用するクラスター酸触媒に対して、このような微量の植物系繊維材料を最初に添加することは、いわば、捨石による全体の反応効率の向上効果が期待できる。「一回投入可能な量の植物系繊維材料の一部」の具体的な量としては、一回投入可能な量の植物系繊維材料の10重量%以下が好ましく、特に5重量%以下が好ましい。
この植物系繊維材料の一部の加水分解の時間は、特に限定されず、加水分解混合物の粘度の低下を目安に設定することができる。通常、10〜300分程度、または60分〜300分程度でよい。
その他、反応温度、圧力などは、上記加水分解工程と同様にすることができる。
このような一部の植物系繊維材料をクラスター酸触媒で加水分解することによって、未使用のクラスター酸試薬を用いる場合であっても、クラスター酸触媒により脱水される単糖の量を最低限に抑えつつ、クラスター酸触媒をクラスター状にし、加水分解工程における糖の脱水反応を抑制することができる。また、加水分解工程を利用してクラスター酸のクラスター化処理を実施することができるため、製造工程の煩雑化を抑えることができる
(3)クラスター酸触媒を擬融解状態で加熱攪拌する方法は、典型的には、加水分解工程において、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を混合する前に、予め、クラスター酸触媒を加熱し、擬融解状態とした上で加熱攪拌を行う方法である。典型的には、加水分解工程に使用する反応容器内で、まず、クラスター酸触媒を擬融解状態として加熱攪拌し、クラスター化処理を実施した後、植物系繊維材料を添加して加水分解工程に入ることになる。
加熱温度は、クラスター酸が擬融解状態を維持することができる温度であれば特に限定されず、クラスター酸の種類、結晶水率等に応じて適宜設定することができる。クラスター酸触媒のクラスター化を効率よく行うためには、クラスター酸触媒が擬融解状態となり始める温度よりも10〜30℃以上高い温度、特に10〜20℃以上高い温度、さらに5〜10℃以上高い温度に加熱することが好ましい。
クラスター酸触媒は、該クラスター酸触媒の結晶水率が100%以上となる量の水と共に、加熱攪拌することが好ましい。特に、該クラスター酸触媒の結晶水率が100%以上となる量の水と、後続の加水分解工程における植物系繊維材料の加水分解に必要な水と、反応器のデッドボリュームに対する飽和水蒸気分の水と共に、加熱攪拌することが好ましい。水存在下、加熱攪拌することで、クラスター酸触媒の擬融解化が促進され、その結果、クラスター化も促進されるからである。
加熱攪拌時間は、加水分解混合物の粘度の低下を目安に設定することができる。通常、60〜300分程度でよい。
このようなクラスター酸を擬融解状態で加熱攪拌する方法は、擬融解状態のクラスター酸を加水分解触媒として使用する加水分解工程の前準備工程として、既存の工程に容易に組み込むことができる。また、未使用のクラスター酸試薬を用いる場合であっても、加水分解工程における単糖の脱水反応を抑制することができる。
クラスター酸触媒のクラスター化が促進されたかどうかの判断は、例えば、IR測定、ラマン分光測定、NMR等によって可能である。
例えば、IR測定においては、クラスター酸に配位した水(上記結晶水)のスペクトルを観察し、結晶に規制されたH2O分子に由来する吸収ピーク(3200cm-1付近)の強度と、強酸性の担体に結合したOH基に由来する吸収ピーク(3500cm-1付近)の強度とを、比較評価することによって判断することができる。具体的には、クラスター化促進処理前のクラスター酸触媒のIRスペクトルと、クラスター化促進処理後のクラスター酸触媒のIRスペクトルとを対比したときに、クラスター化促進処理後のクラスター酸触媒が、クラスター化促進処理前のクラスター酸触媒と比較して、結晶に規制されたH2O分子に由来する3200cm-1付近のピーク強度が小さく、且つ、強酸性の担体に結合したOH基に由来する3500cm-1付近のピーク強度が大きい場合、クラスター化が促進されたと判断することができる。
尚、IR測定において、上記H2O分子に由来する吸収ピークは、強酸性の担体に結合したOH基に由来する吸収ピークの吸収に限らず、ブロードなピークとして観察されるのが一般的である。
また、ラマン分光測定では、例えば、リンタングステン酸のWO6八面体の対称伸縮振動に着目すると、クラスター化処理前の結晶状態のクラスター酸触媒では、985cm-1付近に鋭い大きな散乱ピークが観察される(図4の比較例1参照)が、クラスター化処理後のクラスター状になったクラスター酸触媒では、1558cm-1付近に大きな高波数へのシフトが起こり、且つ、ピーク強度が大幅に低下、すなわち、低感度化する(図4の実施例2参照)。
このような高波数シフトと低感度化は、クラスター酸触媒のクラスター化による以下の構造変化から起こる。WO6八面体はWのイオン半径が0.074nmと小さいため、図1のようにWOは非常にタイトになっている。クラスター化による表面エネルギー安定化が起こり、さらに球に近い形に歪むと、WO6の対称性は下がり、さらにWO6距離が短くなる。このため、感度低下と結合強度アップにより、散乱と高波数シフトが同時に起こることになる。この現象はリンタングステン酸だけでなく、他のクラスター酸でも同様に生じるため、ラマン分光測定によりクラスター酸触媒の構造変化を観察することで、クラスター酸触媒のクラスター状態を確認することができる。
以下、D−(+)−グルコース及びD−(+)−キシロースの定量は、高速液体クロマトグラフ(HPCL)ポストラベル蛍光検出法により行った。また、クラスター酸はICP(Inductively Coupled Plasma)により同定、定量を行った。
[実施例1]
密閉反応容器(バッチ式。図3参照)に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、容器内を飽和蒸気圧状態とし、容器内面に水蒸気を付着させた。
次に、繰り返し使用しているクラスター状態のヘテロポリ酸(予め結晶水量を測定済み。リンタングステン酸)1kg、ヘテロポリ酸の結晶水量を100%にするために必要な水分とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(35g)を容器に投入して加熱攪拌し、容器内温度が70℃になってから、さらに10分間攪拌を続けた。その後、セルロース0.5kgを投入し、70℃で加熱混合した。加熱混合を開始して10分後、加熱混合物の粘度は3000cpであった。
1時間後、加熱混合物の粘度が700cpまで低下したため、さらに、セルロース0.5kgと、セルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)を投入し、70℃で加熱混合を2時間続けた。
その後、加熱を停止し、容器の密閉を開放し余分な水蒸気を排出させながら、室温まで冷却した。
次に、容器内の加水分解反応混合物に500mlの2回洗浄に使用したエタノールを添加して30分間攪拌した後、濾過し、濾液1及び濾過物1を得た。濾液1(ヘテロポリ酸エタノール溶液)は回収した。一方、濾過物1には、さらに、500mlの1回洗浄に使用したエタノールを添加し、30分間攪拌した後、濾過し、濾液2及び濾過物2を得た。濾過物2に、500mlの新品エタノールを添加し、30分間攪拌した後、濾過し、濾液3及び濾過物3を得た。得られた濾過物3には蒸留水を添加し、10分攪拌した。得られた水溶液中に残渣は確認できなかったが、濾過し、糖水溶液を得た。得られた糖水溶液から単糖(グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースの合計)の収率を算出したところ、85.3%だった。
尚、ここで、単糖の収率は、以下のようにして算出した。
単糖の収率(%) : 仕込んだセルロース全量が単糖化したときに生成する理論単糖生成量に対して、実際に回収された単糖の合計量の割合(重量比)
[実施例2]
密閉反応容器(バッチ式。図3参照)に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、容器内を飽和蒸気圧状態とし、容器内面に水蒸気を付着させた。
次に、クラスター状態の繰り返し使用しているヘテロポリ酸(予め結晶水量を測定済み。リンタングステン酸)1.15kg、ヘテロポリ酸の結晶水量を100%にするために必要な水分とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(35g)を投入して加熱攪拌し、70℃になってから、さらに10分間加熱混合を続けた。その後、リグニンを含む木材粉0.5kgを投入し、70℃で加熱混合した。加熱混合を開始して10分後、加熱混合物の粘度は3000cpであった。
3時間後、得られた加熱混合物から、焼結フィルタを用いてリグニンを取り除いた。リグニンを取り除いた加熱混合物の粘度は700cpまで低下したため、さらに、リグニンを含む木材粉0.5kgと、木材粉に含まれるセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(35g)を投入し、70℃で加熱混合を3時間続けた。
その後、加熱を停止し、容器の密閉を開放し余分な水蒸気を排出させながら、室温まで冷却し、実施例1と同様にして、単糖とヘテロポリ酸の分離を行った。得られた濾過物3には蒸留水を添加し、10分攪拌した。得られた水溶液中にリグニンを含む残渣が確認され、濾過することにより糖水溶液を得た。得られた糖水溶液から単糖の収率を算出したところ、80.2%だった。このとき、上記焼結フィルタにより除去したリグニン分及び上記水溶液から濾過により除去したリグニンは、使用した木材分の30wt%(すなわち、300g)として単糖収率を算出した。
尚、本実施例においては、上記焼結フィルタによるリグニン除去の際に、リグニンと共にリグニンに吸着したヘテロポリ酸が除去されるため、実施例1の1.15倍のヘテロポリ酸を使用した。
[実施例3]
擬融解状態としたヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の主流路に対して、加熱ライン(温度一定70℃)中で攪拌が可能な流通式反応装置(図4参照)を使用した。尚、ライン中の攪拌翼10は、反応槽100の内容物の搬送にはほとんど寄与せず、攪拌のみに有効な構造となっている。ゆえに、内容物の速度は、各成分(ヘテロポリ酸、植物系繊維材料)の投入速度の和となる。反応槽100は、擬融解状態のヘテロポリ酸の投入口13を最も上流側に備えており、該ヘテロポリ酸投入口13よりも下流側に、植物系繊維材料の投入口11を複数(第1〜第4の投入口)備えている。各植物系繊維材料の投入口11は、下流側(該投入口の下流側に設けられた投入口の直前又は反応器の下流壁直前)に粘度センサ12(第1〜第4の粘度センサ)が備えられており、該粘度センサ12による反応槽100内の内容物の粘度が、各植物系繊維材料の投入口11からの繊維材料の投入量にフィードバックされるようになっている。
あらかじめ加水分解用の水を加えた擬融解状態のヘテロポリ酸(繰り返し使用しクラスター状態となったもの)を上記反応槽100に投入しながら、第1の投入口11(1)から木材粉(リグニン含有)を投入した。このとき、木材粉の投入速度は、ヘテロポリ酸の投入速度の半分とした。第1の粘度センサ12(1)における粘度が700cpとなるように、ヘテロポリ酸の投入速度及び第1の投入口11(1)からの木材粉の投入速度を調節した。第2〜第4の投入口11(2)〜11(4)からの投入速度もまた、第2〜第4の粘度センサ12(2)〜12(4)における粘度が700cpとなるように調整した。
反応器の下流から排出された反応混合物は、余分な水蒸気を除きながら、室温まで冷却した。尚、本実施例において、使用したヘテロポリ酸と木材粉の重量比は1:1.2(ヘテロポリ酸:木材粉)だった。
次に、実施例1と同様にして、加水分解反応混合物から糖とヘテロポリ酸を回収した。単糖収率は82.1%だった。このとき、除去したリグニンは、使用した木材分の30wt%として単糖収率を算出した。
[比較例1]
密閉容器内(バッチ式)に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、容器内を飽和蒸気圧状態とし、容器内面に水蒸気を付着させた。次に、クラスター状態の繰り返し使用しているヘテロポリ酸(予め結晶水量を測定済み。リンタングステン酸)1kg、ヘテロポリ酸の結晶水量を100%にするために必要な水分とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(35g)を容器に投入して加熱攪拌し、容器内温度が70℃になってから、さらに5分間攪拌を続けた。
続いて、容器内に0.5kgのセルロースを投入し、70℃で2時間攪拌を続けた。その後、加熱を停止し、容器の密閉を開放し余分な水蒸気を排出させながら、室温まで冷却した。
その後、実施例1と同様にして、加水分解反応混合物から糖とヘテロポリ酸を回収した。
単糖の収率は85.3%だった。
[結果]
実施例1〜3及び比較例1について、単糖の収率及びヘテロポリ酸と繊維材料の重量比を表1に示す。
Figure 0005060397
表1に示すように、比較例1と比べて、実施例1〜3は、単糖収率を保持しつつ、繊維材料の単位重量当りのヘテロポリ酸使用量を大幅に低減することができた。また、実施例1と比較例1との対比(共にバッチ式)においては、実施例1では、ヘテロポリ酸の単位重量当りの繊維材料処理量が2倍になったため、ヘテロポリ酸を擬融解状態にするために加熱に要するエネルギー低減も達成した。また、実施例3においては、連続式反応装置を用い、ヘテロポリ酸使用量の低減及び加熱エネルギーの低減を達成した。
尚、工業的な反応装置では、反応系へ水の添加は、蒸気により導入することで、加熱と加水が同時に行うことができ、蒸留水による導入と比較してエネルギー的に有利である。
ヘテロポリ酸のケギン構造を示す図である。 クラスター酸触媒の結晶水率と見かけの融解温度の関係を示すグラフである。 加水分解工程において使用可能なバッチ式反応装置の形態例を示す概略図である。 実施例3の加水分解工程において使用した流通式反応装置の概略図である。
符号の説明
1…反応槽
2…粘度センサ
3…液面センサ(温度センサ5付き)
4…加熱混合物
5…温度センサ
6…攪拌翼
7…加熱ヒータ
8…温度センサ
9…植物系繊維材料投入機構
10…攪拌翼
11(1)、11(2)、11(3)、11(4)…植物系繊維材料投入口
12(1)、12(2)、12(3)、12(4)…粘度センサ
13…擬融解状態クラスター酸触媒の投入口

Claims (3)

  1. 植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、
    擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程を備えており、
    前記加水分解工程において、
    前記クラスター酸触媒と、
    擬融解状態の該クラスター酸触媒に添加した時該擬融解状態のクラスター酸触媒の粘度が上昇する量の植物系繊維材料(1)と、
    を加熱混合し、
    該加熱混合物の粘度の低下が生じた際に、さらに植物系繊維材料(2)を追加添加することを特徴とする、糖化分離方法。
  2. 前記植物系繊維材料(1)が、前記クラスター酸触媒に対して、体積比で60%以上である、請求項1に記載の糖化分離方法。
  3. 前記植物系繊維材料(2)が、前記クラスター酸触媒に対して、体積比で60%以上である、請求項1又は2に記載の糖化分離方法。
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