JP4983728B2 - 植物系繊維材料の糖化分離方法 - Google Patents

植物系繊維材料の糖化分離方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4983728B2
JP4983728B2 JP2008145923A JP2008145923A JP4983728B2 JP 4983728 B2 JP4983728 B2 JP 4983728B2 JP 2008145923 A JP2008145923 A JP 2008145923A JP 2008145923 A JP2008145923 A JP 2008145923A JP 4983728 B2 JP4983728 B2 JP 4983728B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cluster acid
hydrolysis
acid catalyst
reaction mixture
water
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2008145923A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2009291091A (ja
Inventor
伸一 竹島
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Toyota Motor Corp
Original Assignee
Toyota Motor Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Toyota Motor Corp filed Critical Toyota Motor Corp
Priority to JP2008145923A priority Critical patent/JP4983728B2/ja
Publication of JP2009291091A publication Critical patent/JP2009291091A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4983728B2 publication Critical patent/JP4983728B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Catalysts (AREA)

Description

本発明は、植物系繊維材料の糖化によりグルコースを主とする糖を生成し、得られた糖を分離する、植物系繊維材料の糖化分離方法に関する。
バイオマスである植物繊維、例えば、サトウキビの絞りかす(バガス)や木材片等を分解してセルロースやヘミロースからグルコースやキシロースを主とする糖を生成し、得られた糖を食料又は燃料として有効利用することが提案され、実用化されている。特に、植物繊維を分解することにより得られた単糖を発酵させ、燃料となるエタノール等のアルコールを生成させる技術が注目されている。
従来、セルロースやヘミセルロースを分解してグルコース等の糖を生成する種々の方法が提案されており(例えば、特許文献1〜4等)、一般的な方法としては、希硫酸や濃硫酸等の硫酸、塩酸を用いてセルロースを加水分解する方法(特許文献1等)が挙げられる。また、セルラーゼ酵素を用いる方法(特許文献2等)、活性炭やゼオライト等の固体触媒を用いる方法(特許文献3等)、加圧熱水を用いる方法(特許文献4等)もある。
特開平8−299000号公報 特開2006−149343号公報 特開2006−129735号公報 特開2002−59118号公報
しかしながら、硫酸等の酸を用いてセルロースを加水分解する方法は、加水分解によって得られる加水分解反応混合物から、触媒である酸と生成した糖とを分離することが難しいという問題がある。セルロースの加水分解生成物の主成分であるグルコースと加水分解の触媒である酸が共に水溶性であるためである。中和やイオン交換などによる加水分解反応混合物からの酸除去は、手間とコストがかかるだけでなく、完全に酸を除去することが難しく、エタノール発酵工程にも酸が残留してしまうことが多い。その結果、エタノール発酵工程において、酵母の活性に最適なpHに調整しても、塩の濃度が高くなることで酵母の活性が低下し、発酵効率の低下を招いていた。
特に濃硫酸を用いる場合には、エタノール発行工程において酵母を失活させない程度まで硫酸を除去するのが非常に困難であり、多大なエネルギーを要する。これに対して、希硫酸を用いる場合には、比較的容易に硫酸を除去することができるが、高温条件下でセルロースを分解させなければならず、エネルギーを要する。
さらに、硫酸や塩酸等の酸は、分離、回収して再利用することが非常に困難である。そのため、これら酸をグルコース生成の触媒として用いることは、バイオエタノールのコストを引き上げる原因の一つとなっている。
また、加圧熱水を用いた方法では、条件調整が難しく、安定した収率でグルコースを生成することが困難である。グルコースまでも分解し、グルコース収率が低下するだけでなく、分解成分により酵母の働きが低下し、発酵が抑制されることも懸念されている。しかも、反応装置(超臨界装置)が高価であり、且つ、耐久性も低いため、コスト面での問題もある。
本発明者らは、セルロースの糖化分離について鋭意検討した結果、擬融解状態のクラスター酸が、セルロースの加水分解に対して優れた触媒活性を有すると共に、生成した糖との分離が容易であることを見出し、既に特許出願を行っている(特願2007−115407、特願2007−230711)。本方法によれば、従来の濃硫酸法や希硫酸法と異なり、加水分解触媒を回収、再利用することが可能であると共に、セルロースの加水分解から糖水溶液の回収、加水分解触媒の回収に至るプロセスのエネルギー効率を向上させることができる。
また、上記特許出願においては、植物系繊維材料の加水分解により生成した糖と、クラスター酸触媒の分離方法についても提案している。具体的には、加水分解後、生成した糖と、クラスター酸触媒とを含有する加水分解反応混合物に、有機溶媒を添加することで、クラスター酸を溶解する一方、糖は固形分として、残渣と共に該クラスター酸有機溶媒と分離させる方法を提案している。
上記糖化分離方法において、クラスター酸触媒は、反応溶媒としても機能するため、加水分解工程において反応溶媒としての水を使用しないことが可能である。反応溶媒として水を使用しないことによって、生成した糖は通常、加水分解反応混合物中で析出するため、固体分として取り出すことができ、加水分解反応混合物からの糖及びクラスター酸触媒の分離が容易となる。しかしながら、加水分解工程の条件によっては、加水分解反応混合物は水を含有する。例えば、植物系繊維材料とクラスター酸触媒との混合性を確保するために、反応溶媒として水を添加した場合や、使用した植物系繊維材料の含有水分量が多い場合である。また、加水分解工程において、生成した糖の脱水反応が起こる場合には、下記式のように、グルコース1分子から水3分子が生成する。このように加水分解反応混合物中に、余剰の水分が含有されていると、この余剰の水分に糖が溶解し、上記糖分離工程において、クラスター酸有機溶媒溶液側に糖が混入してしまう。つまり、糖の収率が低下してしまう。
Figure 0004983728
また、クラスター酸触媒に配位する結晶水がクラスター酸の標準結晶水量を超える場合には、標準結晶水量からの超過分の水に糖が溶解することもある。
従って、加水分解反応混合物からの糖とクラスター酸触媒の分離回収率を高める観点から、糖分離工程の前に、加水分解反応混合物からできるだけ水を除去しておくことが好ましい。しかしながら、加水分解反応混合物に含有される水分は、上記したように、植物系繊維材料に由来するものやクラスター酸触媒に由来するもの、加水分解工程における副反応に由来するもの等があり、厳密に管理することは難しい。
また、加水分解反応混合物に含有される水分量を直接測定することは、非常に困難であり、煩雑な手間を要する。
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて植物系繊維材料を加水分解し、糖を生成、分離する糖化分離方法において、生成する糖とクラスター酸触媒の分離性を高め、糖収率の向上を目的とするものである。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、
擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程と、前記加水分解工程にて得られた加水分解反応混合物から、生成した糖及び前記クラスター酸触媒を分離する糖分離工程と、前記糖分離工程前に、前記加水分解反応混合物の水分量を低下させる乾燥工程と、を備え、前記乾燥工程において、前記加水分解反応混合物の水分量の低下を、該乾燥工程の雰囲気の湿度で判定することを特徴とする。
加水分解工程において生成した糖は、加水分解反応混合物中に糖を溶解可能な溶媒が存在しない場合、析出し、固形分として加水分解反応混合物に存在する。そのため、加水分解反応混合物にクラスター酸触媒を溶解可能な溶媒を添加し、クラスター酸触媒を溶解する一方、糖を固体状態に保持することで、糖を含む固体分と、クラスター酸溶液を含む液体分とに分離することができる。このとき、クラスター酸触媒及び糖は共に水溶性を有しているため、加水分解反応混合物の水分量を低下させることで、糖とクラスター酸触媒の分離回収率を高め、糖収率を高めることができる。
本発明においては、加水分解反応混合物の水分量の低下を、雰囲気の湿度で判定することにより、加水分解反応混合物の水分量管理を容易に行うと共に、加水分解反応混合物中の水分を確実に低減することが可能である。
前記乾燥工程においては、前記加水分解反応混合物の水分量を低下させることで、該加水分解反応混合物のクラスター酸触媒の結晶水率を100%以下とすることが好ましい。加水分解反応混合物中のクラスター酸触媒が、標準結晶水を超える結晶水を含む場合(結晶水率が100%を超える場合)、後続の糖分離工程において、加水分解反応混合物に添加するクラスター酸触媒を溶解可能な溶媒に、クラスター酸触媒に配位できない水分子が混入し、この混入した水分に糖が溶解することで、クラスター酸触媒溶液に糖が混入してしまうからである。糖分離工程前に、クラスター酸触媒の結晶水率を100%以下とすることで、糖とクラスター酸触媒の分離、回収率を向上させ、糖の収率を高めることができる。
前記乾燥工程において、加水分解反応混合物の水分量を低下させる方法としては、例えば、前記加水分解反応混合物を加熱する方法が挙げられる。このとき、該加熱は60℃以下にて行うことが好ましい。
前記乾燥工程を連続式反応装置で行う場合、雰囲気の湿度による加水分解反応混合物の水分量判定がより確実に行えるため、加水分解反応混合物の水分量管理をより正確に行うことができる。
一方、前記乾燥工程をバッチ式反応装置で行う場合、該乾燥工程の前工程である前記加水分解工程の反応装置をそのまま使用することができ、反応装置の簡略化が可能である。
前記糖分離工程としては、前記乾燥工程後の加水分解反応混合物に、前記クラスター酸触媒が可溶な有機溶媒を添加し、該クラスター酸触媒及び該有機溶媒を含む液体分と、前記糖を含む固体分と、に固液分離する手順を含むものが挙げられる。
本発明によれば、植物系繊維材料の加水分解により生成した糖と該加水分解反応の触媒であるクラスター酸との分離において、クラスター酸触媒と糖の分離回収率を高め、糖収率を向上させることが可能である。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程と、前記加水分解工程にて得られた加水分解反応混合物から、生成した糖及び前記クラスター酸触媒を分離する糖分離工程と、前記糖分離工程前に、前記加水分解反応混合物の水分量を低下させる乾燥工程と、を備え、前記乾燥工程において、前記加水分解反応混合物の水分量の低下を、該乾燥工程の雰囲気の湿度で判定することを特徴とする。
以下、本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法について説明する。
まず、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程について説明する。
尚、ここでは、主としてセルロースからグルコースを生成させる工程を中心に説明しているが、植物系繊維材料にはセルロース以外にヘミセルロースも含まれ、また、生成物もグルコース以外にキシロース等のその他の単糖もあり、これらの場合も本発明の範囲に含まれる。
植物系繊維材料としては、セルロースやヘミセルロースを含むものであれば特に限定されず、例えば、広葉樹、竹、針葉樹、ケナフ、家具の廃材、稲わら、麦わら、籾殻、バガス、サトウキビの絞りかす等のセルロース系バイオマスが挙げられる。また、上記バイオマスから分離されたセルロースやヘミセルロース或いは人工的に合成されたセルロースやヘミセルロースそのものでもよい。
これら繊維材料は、反応系における分散性の観点から、通常、粉末状のものを用いる。粉末状にする方法としては、一般的な方法に準じればよい。クラスター酸触媒との混合性、反応機会向上の観点から、植物系繊維材料は、数μm〜200μm程度の直径を有する粉末状であることが好ましい。
また、繊維材料は必要に応じて、予め蒸解処理を施すことによって、含有されるリグニンを溶解しておいてもよい。リグニンを溶解除去しておくことによって、加水分解工程におけるクラスター酸触媒とセルロースとの接触機会の向上が可能である同時に、加水分解反応混合物に含まれる残渣量を低減することができ、残渣中に生成した糖やクラスター酸が混入することによる、糖収率低下やクラスター酸回収率低下の抑制が可能である。蒸解処理を施す場合には、植物系繊維材料の粉砕度を比較的小さくする(粉砕が荒い)ことができるため、繊維材料を粉末状にするための手間、コスト、エネルギーを削減できるという効果もある。
蒸解処理としては、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Na2SO3、NaHCO3、NaHSO3、Mg(HSO32、Ca(HSO32などのアルカリや塩及びその水溶液、これらにさらにSO2溶液を混合したもの、NH3等のガスと、植物系繊維材料(例えば、数cm〜数mm)を、水蒸気下で接触させる方法が挙げられる。具体的な条件として、反応温度は120〜160℃、反応時間は数十分から1時間程度でよい。
本発明において、植物系繊維材料の加水分解の触媒として用いられるクラスター酸とは、複数のオキソ酸が縮合したもの、すなわち、いわゆるポリ酸である。ポリ酸の多くは、中心元素が複数の酸素原子が結合しているため最高酸化数まで酸化された状態であることが多く、酸化触媒として優れた特性を示し、また、強酸であることが知られている。例えば、ヘテロポリ酸であるリンタングステン酸の酸強度(pKa=−13.16)は、硫酸の酸強度(pKa=−11.93)より強い。すなわち、例えば、50℃のような温和な条件でも、セルロースやヘミセルロースを、グルコース、キシロースなどの単糖までに分解することができる。
本発明において用いるクラスター酸としては、ホモポリ酸でも、ヘテロポリ酸でもよいが、酸化力及び酸強度が強いことからヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロポリ酸としては特に限定されず、HwAxByOz(A:ヘテロ原子、B:ポリ酸の骨格となるポリ原子、w:水素原子の組成比、x:ヘテロ原子の組成比、y:ポリ原子の組成比、z:酸素原子の組成比)の一般式で表されるものが挙げられる。ポリ原子Bとしては、ポリ酸を形成することができるW、Mo、V、Nb等の原子が挙げられる。ヘテロ原子Aとしては、ヘテロポリ酸を形成することができるP、Si、Ge、As、B等の原子が挙げられる。ヘテロポリ酸一分子内に含有されるポリ原子及びヘテロ原子は1種でもあっても2種以上であってもよい。
酸強度の強さと、酸化力のバランスから、タングステン酸塩であるリンタングステン酸 H3[PW1240]、珪タングステン酸 H4[SiW1240]が好ましい。次いで、モリブデン酸塩であるリンモリブデン酸 H3[PMo1240]等を好適に用いることができる。
ここで、ケギン型[Xn+1240:X=P、Si、Ge、As等、M=Mo、W等]のヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の構造を図1に示す。八面体MO6単位からなる多面体の中心に四面体XO4が存在し、この構造の周囲に結晶水を多くもつ。尚、クラスター酸の構造は特に限定されず、上記ケギン型の他、例えば、ドーソン型等でもよい。
尚、ここでは結晶状態のクラスター酸触媒、及び、数分子のクラスター酸触媒で構成されるクラスター状態のクラスター酸触媒と水和又は配位する水を、一般的に使用される「結晶水」という用語で代用する。この結晶水にはクラスター酸触媒を構成するアニオンと水素結合したアニオン水、カチオンに配位した配位水、カチオン及びアニオンと配位しない格子水の他、OH基の形で含まれているものも含まれる。
また、クラスター状態のクラスター酸触媒とは、1〜数分子程度のクラスター酸から構成される集合体であり、結晶とは異なる。固体状態、擬融解状態、溶媒中に溶解(コロイド状)した状態でもクラスター状態とすることができる。
上記したようなクラスター酸触媒は、常温では固体状であるが、加熱し、温度が上がると擬融解状態となる。ここで、擬融解状態とは、見かけ上、融解しているようであるが、完全に融解した液体状態ではなく、クラスター酸が液中に分散しているコロイド(ゾル)に近い状態であり、流動性を示している状態である。クラスター酸が擬融解状態であるかどうかは、目視により確認したり、或いは、均一系の場合、DTG(示差走査熱量計)等でも確認することができる。
クラスター酸の擬融解状態は、温度と、クラスター酸触媒が含有する結晶水の量によって変わってくる(図2参照)。具体的には、クラスター酸であるリンタングステン酸は、含有する結晶水が多くなると擬融解状態を発現する温度が低下する。すなわち、結晶水を多く含むクラスター酸触媒は、相対的に結晶水量が少ないクラスター酸触媒よりも低い温度でセルロースの加水分解反応に対する触媒作用を発現する。つまり、加水分解工程の反応系におけるクラスター酸触媒が含有する結晶水の量をコントロールすることで、目的とする加水分解反応温度においてクラスター酸触媒を擬融解状態とすることができる。例えば、リンタグステン酸をクラスター酸触媒として用いる場合は、クラスター酸の結晶水量によって加水分解反応温度を110℃〜40℃の範囲内で制御可能である(図2参照)。
尚、図2は、代表的なクラスター酸触媒であるヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の結晶水率と、擬融解状態を発現し始める温度(見かけ上の融解温度)との関係を示すものであり、クラスター酸触媒は、曲線より下の領域では凝固状態であり、曲線より上の領域では擬融解状態である。また、図2において、結晶水率(%)とは、クラスター酸(リンタングステン酸)の標準結晶水量n(n=30)を100%とした値である。結晶水の量は、クラスター酸触媒が800℃のような高温であっても熱分解して揮発する成分がないため、熱分解法(TG測定)によって特定することができる。
ここで、標準結晶水量とは、室温で固体状態のクラスター酸1分子が含有する結晶水の量(分子数)であり、クラスター酸の種類によって異なる。例えば、リンタングステン酸は約30〔H3[PW1240]・nH2O(n≒30)〕、珪タングステン酸は約24〔H4[SiW1240]・nH2O(n≒24)〕、リンモリブデン酸は約30〔H3[PMo1240]・nH2O(n≒30)〕である。
クラスター酸触媒が含有する結晶水量は、加水分解反応系内に存在する水分量をコントロールすることで調節することができる。具体的には、クラスター酸触媒の結晶水量を多くしたい、つまり、反応温度を低くしたい場合には、例えば、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含む混合物に水を添加したり、反応系の雰囲気の相対湿度を高くする等して、加水分解の反応系に水を追加すればよい。その結果、クラスター酸が結晶水として追加された水を取り込み、クラスター酸触媒の見かけ上の融解温度は低下する。
一方、クラスター酸触媒の結晶水量を少なくしたい場合には、つまり、反応温度を高くしたい場合には、加水分解の反応系から水を除去、例えば、反応系を加熱して水を蒸発させたり、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含む混合物に乾燥剤を添加する等することで、クラスター酸触媒の結晶水を減少させることができる。その結果、クラスター酸触媒の見かけ上の融解温度は高くなる。
以上のように、クラスター酸の結晶水量は容易にコントロールが可能であり、結晶水量の制御によりセルロースの加水分解反応温度も容易に調整可能である。
クラスター酸は、上記したように、その酸強度の強さから低温でもセルロースの加水分解反応に対する高い触媒活性を示す。また、クラスター酸分子の大きさは、径が1〜2nm程度、典型的には1nm強であるため、原料である植物系繊維材料との混合性にも優れ、効率よくセルロースの加水分解を促進することができる。従って、温和な条件でのセルロースの加水分解が可能であり、エネルギー効率が高く、環境負荷が小さい。
さらに、硫酸等の酸を用いる従来のセルロースの加水分解法と異なり、クラスター酸を触媒として用いる本発明の方法は、糖と触媒の分離効率が高く、容易に分離可能である。クラスター酸は温度によっては固形状態となるため、生成物である糖類との分離が可能である。従って、分離したクラスター酸を回収し、再利用することも可能である。また、擬融解状態のクラスター酸触媒は、反応溶媒としても機能するため、従来の方法と比較して、反応溶媒としての溶剤量を大幅に減少させることができる。これは、クラスター酸と生成物である糖との分離、クラスター酸の回収の高効率化が可能であることを意味している。すなわち、クラスター酸をセルロースの加水分解触媒として利用する本発明は、植物系繊維材料の糖化分離におけるコスト削減が可能であり、且つ、環境負荷も小さい。
クラスター酸触媒と植物系繊維材料を反応槽に投入する順序は特に限定されず、例えば、まず、クラスター酸触媒を投入し、加熱して擬融解状態とした後、植物系繊維材料を投入してもよい。或いは、クラスター酸触媒と植物系繊維材料を共に投入した後、これらを加熱してクラスター酸触媒を擬融解状態としてもよい。尚、クラスター酸触媒と植物系繊維材料を投入した後、これらを加熱する場合には、加熱前に、クラスター酸触媒と植物系繊維材料を、予め混合攪拌しておくことが好ましい。クラスター酸触媒が擬融解状態となる前にある程度混合しておくことによってクラスター酸と植物系繊維材料との接触性を高めることができる。
また、植物系繊維材料とクラスター酸触媒との比率は、用いる植物系繊維材料の性状(例えば、サイズ等)や種類、加水分解工程における攪拌方法や混合方法等によって異なる。そのため、加水分解工程の実施条件に応じて、適宜決定すればよいが、クラスター酸触媒:植物系繊維材料(重量比)=1:1〜4:1の範囲内であることが好ましく、通常は、1:1〜2:1程度でよい。
上記したように、加水分解工程において、クラスター酸触媒は擬融解状態となり、反応溶媒としても機能するため、本発明においては、植物系繊維材料の形態(大きさ、繊維の状態等)、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合比及び体積比等にもよるが、加水分解工程において、反応溶媒としての水や有機溶剤等を用いなくてよい。
しかしながら、加水分解工程においては、セルロースが加水分解されるための水が必要である。具体的には、n個のグルコースが重合したセルロースをn個のグルコースに分解するためには、(n−1)個の水分子が必要である。従って、反応系内に、クラスター酸触媒が反応温度において擬融解状態となるのに必要な結晶水量分の水分と、仕込まれたセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分の合計量が存在しない場合、クラスター酸触媒の結晶水がセルロースの加水分解に使用され、クラスター酸触媒の結晶水が減少し、クラスター酸が凝固状態となってしまう。すなわち、クラスター酸触媒と植物系繊維材料との接触性が低下するばかりか、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の混合物の粘度が増加し、該混合物を充分に混合するのに時間がかかってしまう。
従って、加水分解工程において、反応温度におけるクラスター酸触媒の触媒作用や反応溶媒としての機能を確保するため、つまり、クラスター酸触媒が擬融解状態を保持できるようにするためには、反応系内の水分量を下記のようにすることが好ましい。すなわち、(A)反応系内に存在するクラスター酸触媒の全てが加水分解工程における反応温度において擬融解状態になるために必要な結晶水と、(B)反応系内に存在するセルロースの全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分と、の合計量以上とすることが好ましい。特に好ましくは、上記(A)と(B)の合計量を添加する。過度の水分を添加することによって、生成した糖及びクラスター酸が余剰の水分に溶解し、糖分離工程が煩雑となるからである。
尚、加水分解工程において、反応系内の水分が減少し、クラスター酸触媒の結晶水量も減少することによって、クラスター酸触媒が固形状となり植物系繊維材料との接触性や反応系の混合性が低下する場合には、クラスター酸触媒が擬融解状態となるように加水分解温度を上げることによって、上記問題の発生を回避することもできる。
また、加水分解工程において、加熱により反応系の相対湿度が低下しても、クラスター酸触媒の結晶水が所望量確保できるようにしておくことが好ましい。具体的には、予定の反応温度で反応系の雰囲気が飽和蒸気圧となるように、例えば、予め密閉された反応容器内で、加水分解反応温度で飽和蒸気圧状態を作り、密閉状態を保持したまま温度を下げて蒸気を凝縮させ、該凝縮水を植物系繊維材料及びクラスター酸触媒に添加する方法が挙げられる。
加水分解工程における反応温度の低下は、エネルギー効率を向上させることができるという利点がある。また、加水分解工程の温度によって、植物系繊維材料に含まれるセルロースの加水分解のグルコース生成の選択性が変化する。反応温度が高くなると反応率が高くなることは一般的なことであり、例えば、特願2007−115407にて報告したように、結晶水率160%のリンタングステン酸を用いたセルロースの加水分解反応においても、50℃〜90℃における反応率Rは温度が高くになるにつれて上昇し、80℃位ではほぼ全てのセルロースが反応する。一方、グルコースの収率は、50℃〜60℃にかけてはセルロースの反応率と同様の増加傾向を示すが、70℃をピークに減少する。すなわち、50〜60℃において高選択的にグルコースが生成するのに対して、70〜90℃においてグルコース生成以外の反応、例えば、キシロース等のその他の糖生成や分解物生成等が進行する。
従って、加水分解の反応温度は、セルロースの反応率とグルコース生成の選択性を左右する重要な要素であり、エネルギー効率の観点から加水分解反応の温度は低いことが好ましい旨を述べたが、セルロースの反応率やグルコース生成の選択性等も考慮して加水分解反応の温度を決定することが好ましい。
加水分解工程における温度条件は、上記したようにいくつかの要素(例えば、反応選択率、エネルギー効率、セルロースの反応率、等)を考慮して適宜決定すればよいが、エネルギー効率、セルロースの反応率、グルコース収率のバランスから、通常、140℃以下、とすることが好ましく、特に120℃以下とすることが好ましい。植物系繊維材料の形態によっては、100℃以下のような低温でも可能であり、その場合には、特に高エネルギー効率でグルコースを生成させることができる。
また、加水分解工程における圧力は、特に限定されないが、クラスター酸触媒のセルロースの加水分解反応に対する触媒活性が高いことから、常圧(大気圧)〜1MPaのような温和な圧力条件下でも効率よくセルロースの加水分解を進行させることができる。
加水分解工程におけるクラスター酸触媒と植物系繊維材料を含む混合物は粘度が高いため、その攪拌方法は、例えば、加熱ボールミル等が有利であるが、一般的な攪拌器でもよい。
加水分解工程の時間は特に限定されず、用いる植物系繊維材料の形状、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の比率、クラスター酸触媒の触媒能、反応温度、反応圧力等によって、適宜設定すればよい。
加水分解終了後、反応系の温度を下げると、加水分解工程において生成した糖は、加水分解反応混合物中、糖を溶解する水が存在する場合には糖水溶液として、溶解する水がない場合には析出して固体状態で含有される。生成した糖のうち一部は糖水溶液、残りは固体状態で加水分解反応混合物中に含有されることもある。一方、クラスター酸触媒も温度低下により、固体状態となっている。
尚、クラスター酸触媒もまた、水溶性を有するため、加水分解工程後の混合物の含水量によってはクラスター酸触媒も水に溶解している。また、加水分解工程の条件や使用する植物系繊維材料によっては、加水分解反応混合物には、残渣(未反応セルロース、リグニンなど)も固体分として含まれる。
次に、上記加水分解工程において得られた加水分解反応混合物に含有される水分量を低下させる乾燥工程について説明する。
上記したように、加水分解反応混合物には、加水分解工程における反応条件、使用する材料等によって異なるが、植物系繊維材料に由来する水、クラスター酸触媒に由来する水、副反応により生成する水、加水分解工程における攪拌性を確保するために反応溶媒として添加された水、等が含まれる場合がある。糖収率を高めるためには、上記したように、加水分解反応混合物に含有される水分量は少ないほど好ましいが、これら全ての水分量を加水分解工程前に、予め正確に管理、制御するには、多大な手間とエネルギーを要する。そこで、加水分解工程後であって、糖分離工程前に、加水分解反応混合物の水分量を低下させる乾燥工程を設けることで、比較的容易に糖の収率を向上させることができる。
しかしながら、加水分解反応混合物に含有される水は、その含有状態が様々であることから、その量を直接測定することは非常に困難である。そこで、本発明においては、乾燥工程における雰囲気の湿度を加水分解反応混合物の水分量低下の判定基準とすることで、加水分解反応混合物中の水分量を管理する。具体的には、加水分解反応物に含有される水が蒸発すると乾燥工程における雰囲気の湿度が上昇するため、乾燥工程における雰囲気の湿度を測定し、湿度の上昇が観測されたら、加水分解反応物の水分量が低下したと判定することができる。このように、水分解反応混合物に含有される水分量を、湿度により間接的に測定することによって、加水分解反応混合物の水分量の制御と、該水分量の管理の簡便化が可能となる。
加水分解反応混合物の水分量を低下させる乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、加熱、送風、減圧等が挙げられるが、減圧、送風が好ましい。また、これらの乾燥方法を複数採用してもよい。
加水分解反応混合物の乾燥方法として加熱を採用する場合には、加熱温度は60℃以下、特に50℃以下、さらに45℃以下とすることが好ましい。加熱温度が60℃を超えると、加水分解反応混合物に含有される単糖の脱水反応(過反応)が起こり、本発明による糖収率向上効果が低減するおそれがあるからである。
乾燥工程における加水分解反応混合物の乾燥は、乾燥工程における雰囲気湿度が所定値以下になるまで行えばよい。ここで、乾燥工程における雰囲気湿度の所定値は、加水分解反応混合物に含まれる水分量にはバラツキがあり、また、加水分解混合物に含まれる成分の厚み等も異なるため、適宜設定すればよい。
乾燥工程における加水分解反応混合物の乾燥は、糖収率の向上の観点から、該加水分解反応混合物に含有されるクラスター酸触媒の結晶水率が100%以下となるまで行うことが好ましい。クラスター酸触媒の結晶水率が100%を超える場合、後続の糖分離工程において、クラスター酸触媒を可溶であるが、糖を難溶である有機溶媒を、加水分解反応混合物に添加することで、クラスター酸触媒を溶解含有する液体分と、糖を含有する固体分とに固液分離する際に、標準結晶水量の超過分の結晶水に糖が溶解し、液体分側に糖が混入してしまうからである。
加水分解反応混合物が乾燥したかどうかは、例えば、乾燥工程における雰囲気湿度が一定値に安定した時、判断することができる。具体的には、乾燥工程における流入空気の湿度と流出空気の湿度との差が0.2%以下となった際、加水分解反応混合物中のクラスター酸触媒の乾燥がほぼ完了したとみなすことができる。
乾燥工程における雰囲気の湿度は、一般的な湿度センサにより測定することができる。湿度センサの設置位置、数等は、乾燥工程における反応装置に合わせて適宜決定すればよい。
例えば、バッチ式反応装置を用いる場合、図3(3−A)に示すように、反応槽1を開放した状態で、反応槽1内の加水分解反応混合物2を、攪拌翼3で攪拌しながら、加熱ヒータ4等で加熱することで、温度差による対流が生じ、水蒸気を含んだ反応槽内の空気5は外部に流出し、逆に反応槽外部の空気6が反応槽内に流入する。ゆえに、水蒸気を含んだ反応槽内の空気5が外部に流出する際に接触する位置(図3(3−A)においては、上蓋7a)に湿度センサ8を設置することにより、反応槽内の湿度を測定することができる。乾燥工程をバッチ式反応装置で行う場合には、該乾燥工程の前工程である加水分解工程の反応装置をそのまま使用することができ、反応装置や工程の簡略化が可能という利点がある(図3(3−B)参照)。
図3(3−B)は、(3−A)に示した反応装置の、加水分解工程における使用状態を示すものである。図3(3−B)において、反応槽1は、上蓋7a及び下蓋7bによって、密閉状態が確保されている。加水分解工程における反応混合物の温度は温度センサ9によって、粘度は粘度センサ10によって計測が可能となっている。また、反応混合物の加熱は加熱ヒータ4によって、攪拌は攪拌翼3によって行われる。尚、本発明において使用可能なバッチ式反応装置は図3に示す形態に限定されるものではない。
一方、流通式反応装置を用いる場合には、例えば、図4に示すように、まず、加水分解反応槽100の内部に連続的に、クラスター酸触媒が投入口12から、植物系繊維材料11が投入口11(1)〜11(4)から投入され、植物系繊維材料11の加水分解が行われる。加水分解反応槽100から出た加水分解反応混合物2は、ベルトコンベア13上に落下する。ベルトコンベア13上は、加熱ヒータ14によって加熱されていると共に、その表面に空気が送風15され、ベルトコンベア13上の加水分解反応混合物2は加熱及び送風により乾燥される。
湿度センサ8はベルトコンベア13の下流側領域、且つ、送風8の下流に位置する領域に、ベルトコンベア13の上流側から下流側に向かって複数設置することで、ベルトコンベア13上の加水分解反応混合物2の湿度変化を検知することができる。設置された複数の湿度センサ8のうち、ベルトコンベア13の下流側に位置する湿度センサにおいて、湿度が一定値に安定するように、ベルトコンベアの速度をフィードバックする。送風空気中の湿度は送風の上流側で測定した値を基準値とするか、或いは、送風空気として乾燥空気(湿度0%)を送風することで、乾燥工程における雰囲気湿度の上昇を正確に判定することができる。
乾燥工程を連続式反応装置で行う場合、雰囲気の湿度による加水分解反応混合物の水分量判定の確実性が高いため、加水分解反応混合物の水分量管理をより正確に行うことができるという利点がある。
以上のように、乾燥工程において、加水分解反応混合物の水分量を正確に管理することで、使用する植物系繊維材料の含水量やクラスター酸触媒の結晶水率、反応条件等による加水分解反応混合物に含有される水分量のバラツキを低減し、その結果、糖収率を向上させ、安定化させることができる。
尚、加水分解反応混合物の水分量低下は、加水分解反応混合物に、赤外線を照射することでも判定することもできる。加水分解反応混合物に赤外線を照射すると、近赤外域における特定波長のエネルギーが、加水分解反応混合物中の水分によって吸収され、その吸収率が加水分解反応混合物の水分量に比例するからである。
次に、乾燥工程によって乾燥させた加水分解反応混合物を、加水分解工程において生成した糖(主にグルコース)と、クラスター酸触媒とを分離する糖分離工程について説明する。尚、本発明の糖化分離方法において、糖とクラスター酸を分離する方法は、以下の方法に限定されない。
クラスター酸触媒は、グルコースを主とする糖が難溶乃至不溶である有機溶媒に溶解性を示す。ゆえに、糖にとっては貧溶媒であり、且つ、クラスター酸触媒にとっては良溶媒である有機溶媒を、加水分解反応混合物に添加、攪拌し、クラスター酸触媒を該有機溶媒に選択的に溶解させた後、固液分離することによって、クラスター酸触媒を溶解含有する有機溶媒溶液(液体分)と、糖を含む固体分とに分離することができる。糖を含む固体分には、使用する植物系繊維材料によっては残渣等も含まれる。有機溶媒溶液と固体分とに分離する方法は、特に限定されず、デカンテーション、濾過等の一般的な固液分離方法を採用することができる。
上記有機溶媒としては、クラスター酸触媒にとっては良溶媒であるが、糖にとっては貧溶媒であるという溶解特性を有するものであれば特に限定されないが、糖の有機溶媒への溶解を抑えるためには、該有機溶媒に対する糖の溶解度が0.6g/100ml以下であることが好ましく、特に、0.06g/100ml以下であることが好ましい。このとき、クラスター酸触媒の回収率を高めるためには、該有機溶媒に対するクラスター酸の溶解度が20g/100ml以上、特に、40g/100ml以上であることが好ましい。
上記有機溶媒として、具体的には、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール、オクタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。アルコール類及びエーテル類は好適に用いることができ、中でも、溶解性及び沸点の観点から、エタノール及びジエチルエーテルが好適である。ジエチルエーテルは、グルコース等の糖が不溶であり、且つ、クラスター酸の溶解性が高いため、糖とクラスター酸触媒を分離する溶媒として最適なものの一つである。一方、エタノールもグルコース等の糖が難溶であり、且つ、クラスター酸触媒の溶解性が高いため最適な溶媒の一つである。ジエチルエーテルはエタノールと比較して蒸留において有利であり、エタノールは、ジエチルエーテルよりも入手しやすいという利点を有している。
上記有機溶媒の使用量は、その有機溶媒の糖及びクラスター酸触媒に対する溶解特性や、加水分解反応混合物に含有される水分の量などによって異なってくるため、適宜適当な量を決定すればよい。
加水分解反応混合物と有機溶媒との攪拌は、該有機溶媒の沸点等にもよるが、通常は、室温〜60℃の範囲で行うことが好ましい。また、加水分解反応混合物と有機溶媒との攪拌方法等は特に限定されず、一般的な方法でよい。クラスター酸の回収効率の観点から、攪拌方法としては、ボールミル等による攪拌・粉砕が好適である。
固液分離により得られる固体分は、蒸留水等の水を添加し、攪拌することで、糖が水に溶解するため、さらに固液分離することによって、糖水溶液と、残渣等を含む固体分とを分離することができる。
糖及びクラスター酸の回収率を向上させ、且つ、得られる糖の純度を高めるためには、さらに固体分に、上記有機溶媒(糖にとっては貧溶媒であり、且つ、クラスター酸触媒にとっては良溶媒である有機溶媒)を添加、攪拌し、有機溶媒による洗浄を行うことが好ましい。固体分に混入したクラスター酸触媒を除去、回収することができるためである。固体分に有機溶媒を添加した混合物は、加水分解反応混合物同様、固液分離することにより固体分とクラスター酸有機溶媒溶液とに分離することができる。有機溶媒による固体分の洗浄は、必要に応じて、複数回行うことができる。
一方、上記固液分離により得られる液体分(クラスター酸触媒を溶解含有するクラスター酸有機溶媒溶液)は、有機溶媒を除去することによって、クラスター酸触媒と有機溶媒を分離し、クラスター酸触媒を回収することができる。有機溶媒の除去方法としては、特に限定されず、減圧蒸留、乾燥凍結等が挙げられ、中でも減圧蒸留が好ましい。回収されたクラスター酸触媒は、再び、植物系繊維材料の加水分解触媒として利用することができる。固体分の洗浄後、回収されたクラスター酸有機溶媒溶液は、再び、固体分の洗浄に使用することもできる。
以下、D−(+)−グルコース及びD−(+)−キシロースの定量は、高速液体クロマトグラフ(HPCL)ポストラベル蛍光検出法により行った。また、クラスター酸はICP(Inductively Coupled Plasma)により同定、定量を行った。
[実施例1]
密閉反応槽内(バッチ式)に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、槽内を飽和蒸気圧状態とし、槽内面に水蒸気を付着させた。次に、ヘテロポリ酸(予め結晶水量を測定済み。リンタングステン酸)1kg、ヘテロポリ酸の結晶水量を100%にするために必要な水分とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(35g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(5g)を反応槽に投入し、加熱攪拌し、槽内温度が70℃になってから、さらに5分間攪拌を続けた。その後、槽内に0.5kgのセルロースを投入し、70℃で2時間攪拌を続けた(加水分解工程。図3(3−B)、図5参照)。
続いて、反応槽の蓋を上げ、槽内の温度を50℃に保持しながら、湿度センサにて湿度を計測した。湿度センサによる湿度が安定し、加水分解反応混合物から水蒸気が出なくなったら、加熱を停止し、室温まで冷却した(乾燥工程。図3(3−A)、図5参照)
次に、図6に示すように、槽内の乾燥加水分解反応混合物に500mlの2回洗浄に使用したエタノールを添加して30分間攪拌した後、濾過し、濾液1及び濾過物1を得た。濾液1(ヘテロポリ酸エタノール溶液)は回収した。一方、濾過物1には、さらに、500mlの1回洗浄に使用したエタノールを添加し、30分間攪拌した後、濾過し、濾液2及び濾過物2を得た。濾過物2に、500mlの新品のエタノールを添加し、30分間攪拌した後、濾過し、濾液3及び濾過物3を得た。得られた濾過物3には蒸留水を添加し、10分攪拌した。得られた水溶液中に残渣は確認できなかったが、濾過し、糖水溶液を得た(糖分離工程)。
上記セルロースの糖化分離を、6回(6日間)行い、各回で得られた糖水溶液から単糖(グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースの合計)の収率を算出した。結果を図7に示す。
尚、ここで、単糖の収率は、以下のようにして算出した。
単糖の収率(%) : 仕込んだセルロース全量が単糖化したときに生成する理論単糖生成量に対して、実際に回収された単糖の合計量の割合
[比較例1]
密閉反応槽内(バッチ式)に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、槽内を飽和蒸気圧状態とし、槽内面に水蒸気を付着させた。次に、ヘテロポリ酸(予め結晶水量を測定済み。リンタングステン酸)1kg、ヘテロポリ酸の結晶水量を100%にするために必要な水分とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(35g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(5g)を反応槽に投入し、加熱攪拌し、槽内温度が70℃になってから、さらに5分間攪拌を続けた(加水分解工程。図3(3−B)、図8参照)。
続いて、反応槽内に0.5kgのセルロースを投入し、70℃で2時間攪拌を続けた。その後、反応槽の蓋を上げ、加熱を停止し、室温まで冷却した(乾燥工程。図3(3−B)、図8参照)。
その後、実施例1と同様にして、加水分解反応混合物から糖とヘテロポリ酸を回収した。 上記セルロースの糖化分離を、6回(6日間)行い、各回で得られた糖水溶液から単糖の収率を算出した。結果を図7に示す。
図7より、加水分解反応混合物の乾燥具合の判定を湿度センサで行った実施例1は、糖化分離を行った日に関わらず、安定した単糖収率が得られた。これに対して、比較例1では、極端に単糖収率が低下した日もあり、糖化分離を行った日によって単糖収率にバラツキがみられた。これは、比較例1では、加水分解反応混合物中の水分量を全く考慮せず、加水分解反応混合物を一定時間の加熱によって乾燥したため、加水分解反応混合物中の水分量にバラツキが生じたためと推測される。
[実施例2]
実施例1において、乾燥工程における反応槽内の温度を変更(40℃、50℃、60℃、70℃)した以外は、同様にして、セルロースの糖化分離を行い、単糖収率を求めた。結果を図9に示す。
図9より、加水分解反応混合物を乾燥させるための加熱は、60℃以下が好ましいことがわかる。70℃で加熱した場合、乾燥工程後の加水分解反応混合物は40〜60℃で加熱したものと比較して濃色を示した。乾燥工程の加熱温度のみが異なることから、70℃以上で加熱乾燥させると、生成した糖の反応が起こることが示唆される。
ヘテロポリ酸のケギン構造を示す図である。 クラスター酸触媒の結晶水率と見かけの融解温度の関係を示すグラフである。 本発明の糖化分離方法における加水分解工程(3−B)、乾燥工程(3−A)におけるバッチ式反応装置の一例を示す模式図である。 本発明の糖化分離方法における加水分解工程、乾燥工程における流通式反応装置の一例を示す模式図である。 実施例1における加水分解工程と乾燥工程のフローチャートである。 実施例1における糖分離工程のフローチャートである。 実施例1及び比較例1の糖収率を示すグラフである。 比較例1における加水分解工程と乾燥工程のフローチャートである。 実施例2における糖収率と乾燥温度の関係を示すグラフである。
符号の説明
1…反応槽
2…加水分解反応混合物
3…攪拌翼
4…加熱ヒータ
5…反応槽内の空気
6…反応槽外の空気
7a…上蓋
7b…下蓋
8…湿度センサ
9…温度センサ
10…粘度センサ
11…植物系繊維材料
11(1)、11(2)、11(3)、11(4)…植物系繊維材料投入口
12…擬融解状態クラスター酸触媒の投入口
13…ベルトコンベア
14…加熱ヒータ
15…送風

Claims (7)

  1. 植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、
    擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程と、
    前記加水分解工程にて得られた加水分解反応混合物から、生成した糖及び前記クラスター酸触媒を分離する糖分離工程と、
    前記糖分離工程前に前記加水分解反応混合物の水分量を低下させる乾燥工程と、を備え、
    前記乾燥工程において、前記加水分解反応混合物の水分量の低下を、該乾燥工程の雰囲気の湿度で判定することを特徴とする、植物系繊維材料の糖化分離方法。
  2. 前記乾燥工程において、前記加水分解反応混合物の水分量を低下させて、該加水分解反応混合物のクラスター酸触媒の結晶水率を100%以下とする、請求項1に記載の糖化分離方法。
  3. 前記乾燥工程において、前記加水分解反応混合物を加熱し、前記水分量を低下させる、請求項1又は2に記載の糖化分離方法。
  4. 前記加熱を60℃以下にて行う、請求項3に記載の糖化分離方法。
  5. 前記乾燥工程を連続式反応装置で行う、請求項1乃至4のいずれかに記載の糖化分離方法。
  6. 前記乾燥工程をバッチ式反応装置で行う、請求項1乃至4のいずれかに記載の糖化分離方法。
  7. 前記糖分離工程において、前記乾燥工程後の加水分解反応混合物に、前記クラスター酸触媒が可溶な有機溶媒を添加し、該クラスター酸触媒及び該有機溶媒を含む液体分と、前記糖を含む固体分と、に固液分離する、請求項1乃至6のいずれかに記載の糖化分離方法。
JP2008145923A 2008-06-03 2008-06-03 植物系繊維材料の糖化分離方法 Expired - Fee Related JP4983728B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2008145923A JP4983728B2 (ja) 2008-06-03 2008-06-03 植物系繊維材料の糖化分離方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2008145923A JP4983728B2 (ja) 2008-06-03 2008-06-03 植物系繊維材料の糖化分離方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2009291091A JP2009291091A (ja) 2009-12-17
JP4983728B2 true JP4983728B2 (ja) 2012-07-25

Family

ID=41539889

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2008145923A Expired - Fee Related JP4983728B2 (ja) 2008-06-03 2008-06-03 植物系繊維材料の糖化分離方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4983728B2 (ja)

Families Citing this family (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN102575301B (zh) * 2010-01-27 2016-03-16 科学与工业研究委员会 将木质纤维素转化为增值化学品的一锅单步水解方法
JP2012005382A (ja) * 2010-06-23 2012-01-12 Equos Research Co Ltd バイオマス加水分解反応装置
JP2012044880A (ja) * 2010-07-29 2012-03-08 Sekisui Chem Co Ltd セルロース糖化方法

Family Cites Families (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP1860201A1 (en) * 2006-05-25 2007-11-28 BP p.l.c. Conversion method

Also Published As

Publication number Publication date
JP2009291091A (ja) 2009-12-17

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4877045B2 (ja) 植物系繊維材料の分解方法
JP4240138B1 (ja) 植物系繊維材料の糖化分離方法
JP5060397B2 (ja) 植物系繊維材料の糖化分離方法
JP4766130B2 (ja) 植物系繊維材料の糖化方法
JP4983728B2 (ja) 植物系繊維材料の糖化分離方法
US8409356B2 (en) Method for glycosylating and separating plant fiber material
JP5114298B2 (ja) 植物系繊維材料の糖化分離方法
JP5040001B2 (ja) 植物系繊維材料の糖化分離方法
JP5463627B2 (ja) 植物系繊維材料の糖化分離方法
BRPI0913405B1 (pt) Method for glycosylating and separating plant fiber material

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20101104

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20120319

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20120327

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20120409

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 4983728

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20150511

Year of fee payment: 3

RD04 Notification of resignation of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424

Effective date: 20120703

A072 Dismissal of procedure [no reply to invitation to correct request for examination]

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A072

Effective date: 20121030

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees