JP5040001B2 - 植物系繊維材料の糖化分離方法 - Google Patents
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Description
従来、セルロースやヘミセルロースを分解してグルコース等の糖を生成する種々の方法が提案されており(例えば、特許文献1〜5等)、一般的な方法としては、希硫酸や濃硫酸等の硫酸、塩酸を用いてセルロースを加水分解する方法(特許文献1等)が挙げられる。また、セルラーゼ酵素を用いる方法(特許文献2等)、活性炭やゼオライト等の固体触媒を用いる方法(特許文献3等)、加圧熱水を用いる方法(特許文献4等)もある。さらに、原料である植物性資源に、触媒存在下で連続的に超音波を照射して加水分解する方法も提案されている(特許文献5)。
さらに、硫酸や塩酸等の酸は、分離、回収して再利用することが非常に困難である。そのため、これら酸をグルコース生成の触媒として用いることは、バイオエタノールのコストを引き上げる原因の一つとなっている。
また、本発明者らは、クラスター酸触媒が可溶な有機溶媒を、植物系繊維材料の加水分解反応溶媒として用いることが可能であることを見出し、特許出願している。
しかしながら、植物系繊維材料を粉砕し、その粒径を小さくするには、エネルギーを要する。例えば、おおよそ150μm以下に木材を粉砕するエネルギーは、高位発熱量の5%程度であるが、20μm以下に木材を粉砕するエネルギーは、高位発熱量の200%程度まで跳ね上がる。すなわち、植物系繊維材料の原料によっては、この粉砕に要するエネルギーによってエネルギー収支が悪化する場合がある。
本発明は、加水分解工程において、植物系繊維材料とクラスター酸触媒を含有する反応溶液、具体的には、植物系繊維材料及び擬融解状態のクラスター酸触媒を含む反応溶液、或いは、植物系繊維材料、クラスター酸触媒及び該クラスター酸触媒を可溶な溶媒を含む反応溶液に、該クラスター酸触媒が植物系繊維材料内部の細孔内に浸透するのを促進する、クラスター酸触媒浸透促進処理を施すことによって、植物系繊維材料に含まれるセルロースやヘミセルロースとクラスター酸触媒との接触機会を向上させるものである。クラスター酸触媒は、1nm強とそのサイズが小さいため、結晶化したセルロースの中へもある程度侵入し、反応を大きく促進することができる。植物系繊維材料のセルロースやヘミセルロースと、クラスター酸触媒との接触機会が向上することによって、セルロースやヘミセルロースの加水分解反応を促進し、反応率を向上させることができる。
また、本発明によれば、植物系繊維材料の内部に存在するセルロースやヘミセルロースと、クラスター酸触媒との接触機会が高いことから、従来と比較して径の大きな植物系繊維材料を用いた場合でも、高い反応率を維持することができる。つまり、植物系繊維材料の粉砕に要するエネルギーを削減することが可能であり、植物系繊維材料の糖化分離におけるエネルギー効率の向上も達成することができる。
まず、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程について説明する。
尚、ここでは、主としてセルロースからグルコースを生成させる工程を中心に説明しているが、植物系繊維材料にはセルロース以外にヘミセルロースも含まれ、また、生成物もグルコース以外にキシロース等のその他の単糖もあり、これらの場合も本発明の範囲に含まれる。
これら繊維材料は、反応系における分散性の観点から、通常、粉末状のものを用いる。粉末状にする方法としては、一般的な方法に準じればよい。本発明においては、充填液体により、加水分解工程におけるクラスター酸触媒と植物系繊維材料の反応機会が向上しているため、50μm以上の直径を有する植物系繊維材料であっても、高い反応率を確保することができる。充填液体の充填効率、クラスター酸触媒との混合性、反応機会向上の観点から、特に数μm〜200μm程度の直径を有する粉末状であることが好ましい。
蒸解処理としては、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Na2SO3、NaHCO3、NaHSO3、Mg(HSO3)2、Ca(HSO3)2などのアルカリや塩及びその水溶液、これらにさらにSO2溶液を混合したもの、NH3等のガスと、植物系繊維材料(例えば、数cm〜数mm)を、水蒸気下で接触させる方法が挙げられる。具体的な条件として、反応温度は120〜160℃、反応時間は数十分から1時間程度でよい。
尚、ここでは結晶状態のクラスター酸触媒、及び、数分子のクラスター酸触媒で構成されるクラスター状態のクラスター酸触媒と水和又は配位する水を、一般的に使用される「結晶水」という用語で代用する。この結晶水にはクラスター酸触媒を構成するアニオンと水素結合したアニオン水、カチオンに配位した配位水、カチオン及びアニオンと配位しない格子水の他、OH基の形で含まれているものも含まれる。
また、クラスター状態のクラスター酸触媒とは、1〜数分子程度のクラスター酸から構成される集合体であり、結晶とは異なる。固体状態、擬融解状態、溶媒中に溶解(コロイド状)した状態でもクラスター状態とすることができる。
クラスター酸の擬融解状態は、温度と、クラスター酸触媒が含有する結晶水の量によって変わってくる(図2参照)。具体的には、クラスター酸であるリンタングステン酸は、含有する結晶水が多くなると擬融解状態を発現する温度が低下する。すなわち、結晶水を多く含むクラスター酸触媒は、相対的に結晶水量が少ないクラスター酸触媒よりも低い温度でセルロースの加水分解反応に対する触媒作用を発現する。つまり、加水分解工程の反応系におけるクラスター酸触媒が含有する結晶水の量をコントロールすることで、目的とする加水分解反応温度においてクラスター酸触媒を擬融解状態とすることができる。例えば、リンタグステン酸をクラスター酸触媒として用いる場合は、クラスター酸の結晶水量によって加水分解反応温度を110℃〜40℃の範囲内で制御可能である(図2参照)。
以上のように、クラスター酸の結晶水量は容易にコントロールが可能であり、結晶水量の制御によりセルロースの加水分解反応温度も容易に調整可能である。
擬融解状態のクラスター酸触媒は、反応溶媒としても機能するため、植物系繊維材料の形態(大きさ、繊維の状態等)、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合比及び体積比等にもよるが、加水分解工程において、反応溶媒としての水や有機溶剤等を用いなくてよい。
加水分解工程における反応有機溶媒の蒸発を抑制する観点からは、反応有機溶媒は、加水分解工程における反応温度よりも沸点が高いことが好ましい。具体的には、反応有機溶媒の沸点が、90℃以上、特に125℃以上、さらに150℃以上であることが好ましい。
ここで、糖が難溶な有機溶媒とは、有機溶媒に対する糖の溶解度が、1g/100ml以下である有機溶媒を指し、好ましくは、0.2g/100ml以下、さらに好ましくは0.1g/100ml以下である。最も好ましいのは、糖が反応有機溶媒に不溶(溶解度が0g/100ml)であることである。
上記観点から、第一の有機溶媒としては、加水分解工程における反応温度よりも高い沸点を有し、且つ、糖が難溶である高沸点極性有機溶媒が好適である。具体的には、沸点が90℃以上、且つ、比誘電率が8〜18の高沸点極性有機溶媒が好適である。
さらに、硫酸等の酸を用いる従来のセルロースの加水分解法と異なり、クラスター酸を触媒として用いる本発明の方法は、糖と触媒の分離効率が高く、容易に分離可能である。クラスター酸は温度によっては固形状態となるため、生成物である糖類との分離が可能である。従って、分離したクラスター酸を回収し、再利用することも可能である。すなわち、クラスター酸をセルロースの加水分解触媒として利用する本発明は、植物系繊維材料の糖化分離におけるコスト削減が可能であり、且つ、環境負荷も小さい。
一方、クラスター酸触媒を反応有機溶媒に溶解して用いる場合には、予め、クラスター酸触媒を反応有機溶媒に溶解し、クラスター酸触媒有機溶媒溶液を調製しておくことが好ましい。さらには、クラスター酸触媒有機溶媒溶液を予め、加水分解反応温度まで加熱し、この加熱されたクラスター酸触媒有機溶媒溶液中に、植物系繊維材料を投入し、加水分解工程を実施することが好ましい。
一方、クラスター酸触媒を擬融解状態で使用する場合には、反応系内に、クラスター酸触媒が反応温度において擬融解状態となるのに必要な結晶水量分の水分と、仕込まれたセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分の合計量が存在しない場合、クラスター酸触媒の結晶水がセルロースの加水分解に使用され、クラスター酸触媒の結晶水が減少し、クラスター酸が凝固状態となってしまう。すなわち、クラスター酸触媒と植物系繊維材料との接触性が低下するばかりか、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の混合物の粘度が増加し、該混合物を充分に混合するのに時間がかかってしまう。
具体的なクラスター酸触媒浸透促進処理としては、例えば、超音波振動の印加、一時的な加圧等が挙げられる。中でも、コスト、容易性の観点から、超音波振動の印加が好ましい。
尚、植物系繊維材料の投入口2(1)における投入量は、例えば、投入口2(2)よりも上流側に設置された粘度センサ5(1)による反応溶液の粘度をフィードバックすることで、最適な条件に維持することができる。同様に、投入口2(2)における投入量は、反応槽100の下流壁直前に設置された粘度センサ5(2)による反応溶液の粘度をフィードバックすることが好ましい。
従って、加水分解の反応温度は、セルロースの反応率とグルコース生成の選択性を左右する重要な要素であり、エネルギー効率の観点から加水分解反応の温度は低いことが好ましい旨を述べたが、セルロースの反応率やグルコース生成の選択性等も考慮して加水分解反応の温度を決定することが好ましい。
尚、クラスター酸触媒もまた、水溶性を有するため、加水分解工程後の混合物の含水量によってはクラスター酸触媒も水に溶解している。また、加水分解工程の条件や使用する植物系繊維材料によっては、加水分解反応混合物には、残渣(未反応セルロース、リグニンなど)も固体分として含まれる。
加水分解反応混合物と有機溶媒との攪拌は、該有機溶媒の沸点等にもよるが、通常は、室温〜60℃の範囲で行うことが好ましい。また、加水分解反応混合物と有機溶媒との攪拌方法等は特に限定されず、一般的な方法でよい。クラスター酸の回収効率の観点から、攪拌方法としては、ボールミル等による攪拌・粉砕が好適である。
特に好ましくは、加水分解反応混合物中に含まれる全てのクラスター酸触媒の結晶水率が100%未満となるように、加水分解反応混合物の水分量を調節することが好ましい。クラスター酸触媒が多くの結晶水、典型的には、標準結晶水量以上の結晶水を有する場合、過剰な水分に生成物である糖が溶解し、クラスター酸有機溶媒溶液側に糖が混入することによって糖の回収率が低下してしまう。クラスター酸触媒の結晶水率を100%未満とすることで、このようにクラスター酸触媒に糖が混入することを抑制することができる。
反応有機溶媒として、糖を難溶な有機溶媒を用いることによって、生成した糖は加水分解反応混合物中において析出する。一方、クラスター酸触媒は、反応有機溶媒に溶解しているため、加水分解反応混合物を固液分離することによって、生成した糖を含む固体分と、クラスター酸触媒と反応有機溶媒を含有する液体分とに分離することができる。生成した糖を含む固体分には、使用する植物系繊維材料によっては残渣等も含まれる。加水分解反応混合物を固体分と液体分とに分離する方法は、特に限定されず、デカンテーション、濾過等の一般的な固液分離方法を採用することができる。
一方、固液分離により得られる液体分は、クラスター酸触媒が反応有機溶媒に溶解したクラスター酸有機溶媒溶液として、再び、植物系繊維材料の加水分解の触媒及び反応溶媒として利用することができる。
まず、反応有機溶媒と相溶性があると共に、該反応有機溶媒よりもクラスター酸触媒の溶解性が高い、洗浄用有機溶媒を添加することで、より多くのクラスター酸触媒を反応有機溶媒と洗浄用有機溶媒を含む有機相(液相)に溶解させることができる。その結果、クラスター酸触媒の回収率及び糖の純度を向上させることができる。
また、洗浄用有機溶媒の沸点が、反応有機溶媒よりも低いことによって、加水分解反応混合物から分離回収した、クラスター酸触媒及び有機溶媒(反応有機溶媒及び洗浄用有機溶媒)を含有する液体分を蒸留することで、洗浄用有機溶媒と、反応有機溶媒にクラスター酸触媒が溶解したクラスター酸有機溶媒溶液とを分離することができる。このとき、蒸留方法としては、減圧蒸留、凍結乾燥等、一般的な方法を採用することができ、中でも減圧蒸留が好ましい。
反応有機溶媒にクラスター酸触媒を溶解して用いた場合においても、加水分解反応混合物中に含まれる全てのクラスター酸触媒の結晶水率が100%未満となるように、加水分解反応混合物の水分量を調節することが好ましい。具体的な方法は、擬融解状態で用いる場合と同様である。
擬融解状態としたヘテロポリ酸の主流路に対して、加熱ライン(温度一定70℃)中で攪拌が可能な流通式反応装置(図3参照)を使用した。尚、ライン中の攪拌翼3は、反応槽100の内容物の搬送にはほとんど寄与せず、攪拌のみに有効な構造となっている。ゆえに、内容物の速度は、各成分(ヘテロポリ酸、植物系繊維材料)の投入速度の和となる。
反応槽100は、擬融解状態のヘテロポリ酸の投入口1を最も上流側に備えており、該ヘテロポリ酸投入口1よりも下流側に、植物系繊維材料の投入口2を複数(2(1)、2(2)備えている。各植物系繊維材料の投入口2は、下流側(該投入口の下流側に設けられた投入口の直前又は反応器の下流壁直前)に粘度センサ5(5(1)、5(2))が備えられており、該粘度センサ5による反応槽100内の反応溶液の粘度が、各植物系繊維材料の投入口2からの繊維材料の投入量にフィードバックされるようになっている。
擬融解状態のヘテロポリ酸(70℃)を上記反応槽100に投入しながら、各投入口2から植物繊維(150μm以下に粉砕)及び水(投入する植物繊維がグルコースに加水分解されるのに必要な分)を投入した。ヘテロポリ酸と各投入口から投入された植物繊維とのマクロ的な混合が終了する位置に設けられた超音波発生機4により、反応溶液に超音波振動を印加した。加水分解反応時間は3時間、加水分解温度は70℃とした。尚、本実施例において、使用したヘテロポリ酸と植物繊維の重量比は2:1(ヘテロポリ酸:植物繊維)だった。
反応槽の下流から排出された加水分解反応混合物は、余分な水蒸気を除きながら、室温まで冷却した。
まず、ホロセルロース(セルロース+ヘミセルロース)中の炭素含有率が44.5wt%、リグニンその他の炭素含有率が71.0wt%であると想定し、植物系繊維材料(原料)中の炭素含有率から、該植物系繊維材料中のホロセルロースとリグニンその他の比率を求め、該植物系繊維材料(原料)に含まれるホロセルロースとリグニンその他の重量を算出した。尚、原料中の炭素含有率は、上記残渣同様、NDIRを用いて算出した。次に、反応後の残渣の重量及び上記にて求めた炭素量から、残渣中に残っているホロセルロース量を計算し、(残渣中のホロセルロース量)/(原料中のホロセルロース量)×100%(反応率)を求めた。
実施例1において、反応槽内の反応溶液に超音波振動を印加しないこと以外は、同様にして、植物繊維を糖化分離した。反応率は45%であった。
比較例1(反応率45%)と比べて、実施例1(反応率91%)は、反応率が大幅に向上した。これは、加水分解工程において、反応溶液に超音波振動を印加することにより、植物系繊維材料内部へのヘテロポリ酸の浸透が促進され、植物系繊維材料内部のセルロースの加水分解が効率よく進行したためと考えられる。
2…植物系繊維材料の投入口
3…攪拌翼
4…超音波発生機
5…粘度センサ
6…攪拌翼
100…反応槽
Claims (2)
- 植物系繊維材料を加水分解し、グルコースを主とする糖を生成し、分離する植物系繊維材料の糖化分離方法であって、
擬融解状態のクラスター酸触媒を用いて、前記植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを生成させる加水分解工程を備えており、
該加水分解工程において、擬融解状態の前記クラスター酸触媒以外に反応溶媒が含まれなくても反応系が流動状態を呈する量の前記クラスター酸触媒、及び、前記植物系繊維材料を含む反応溶液に、超音波振動を印加することを特徴とする、植物系繊維材料の糖化分離方法。 - 前記加水分解工程において、前記クラスター酸触媒と前記植物系繊維材料の重量比が、1:1〜4:1の範囲である、請求項1に記載の糖化分離方法。
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