本発明の実施形態に係る高性能銅管・棒・線材について説明する。本発明では、請求項1乃至請求項4に係る高性能銅管・棒・線材における合金組成の第1発明合金、第2発明合金、第3発明合金を提案する。合金組成を表すのに、本明細書において、[Co]のように括弧付の元素記号は当該元素の含有量値(mass%)を示すものとする。また、第1乃至第3発明合金を総称して発明合金とよぶ。
第1発明合金は、0.13〜0.33mass%(好ましくは0.15〜0.32mass%、より好ましくは0.16〜0.29mass%)のCoと、0.044〜0.097mass%(好ましくは0.048〜0.094mass%、より好ましくは0.051〜0.089mass%)のPと、0.005〜0.80mass%(好ましくは0.005〜0.70mass%、特に大きな強度を必要とせず、高い電気・熱伝導性を必要とする場合は0.005〜0.095mass%がより好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.045mass%である。強度が必要な場合は0.10〜0.70mass%がより好ましく、さらに好ましくは0.12〜0.65mass%、最も好ましくは0.32〜0.65mass%である。)のSnと、0.00005〜0.0050mass%のOと、を含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、
X1=([Co]−0.007)/([P]−0.008)
として、X1が2.9〜6.1、好ましくは、3.1〜5.6、より好ましくは3.3〜5.0、最適には3.5〜4.3の関係を有し、かつ残部がCu及び不可避不純物からなる合金組成である。
第2発明合金は、Co、P、Snの組成範囲が第1発明合金と同一であり、かつ0.01〜0.15mass%(好ましくは0.015〜0.13mass%、より好ましくは0.02〜0.09mass%)のNi、又は0.005〜0.07mass%(好ましくは0.008〜0.05mass%、より好ましくは0.012〜0.035mass%)のFeのいずれか1種以上を含有し、Coの含有量[Co]mass%とNiの含有量[Ni]mass%とFeの含有量[Fe]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、
X2=([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)
として、X2が2.9〜6.1、好ましくは、3.1〜5.6、より好ましくは3.3〜5.0、最適には3.5〜4.3の関係を有し、かつ、
X3=1.5×[Ni]+3×[Fe]
として、X3が0.015〜[Co]、好ましくは、0.025〜(0.85×[Co])、より好ましくは0.04〜(0.7×[Co])の関係を有し、かつ、残部がCu及び不可避不純物からなる合金組成である。
第3発明合金は、第1発明合金、又は第2発明合金の組成に、0.003〜0.5mass%のZn、0.002〜0.2mass%のMg、0.003〜0.5mass%のAg、0.002〜0.3mass%のAl、0.002〜0.2mass%のSi、0.002〜0.3mass%のCr、0.001〜0.1mass%のZrのいずれか1種以上をさらに含有した合金組成である。
次に、高性能銅管・棒・線材の製造工程について説明する。原料を溶解してビレットを鋳造した後、ビレットを加熱して熱間押出を行い、丸棒を始め、パイプ(管)、ブスバーや多角形、又は断面が複雑な形状の棒材が作られる。この棒材、又は管材をさらに抽伸により引き抜いて、棒材、管材を細くし、また、伸線によって線材にする(この棒材を引き抜く抽伸と、線材を引き抜く伸線とを総称して抽伸/伸線と記す)。抽伸/伸線工程を行なわずに、熱間押出だけでもよい。
ビレットの加熱温度は、840〜960℃であり、押出後の840℃又は押出材の温度から500℃までの平均冷却速度を15℃/秒以上にする。熱間押出後に375〜630℃で0.5〜24時間の熱処理TH1を行なってもよい。この熱処理TH1は、主に析出を目的としており、抽伸/伸線工程の間や抽伸/伸線工程後に行なってもよいし、複数回行ってもよい。この熱処理TH1は、棒材のプレス後又は鍛造後に行なってもよい。また、抽伸/伸線工程後に200〜700℃で、0.001秒〜240分の熱処理TH2を行なってもよい。この熱処理TH2は、第1に細線、細棒等の前記TH1に相当する、又は高い冷間加工によって損なわれる延性、耐屈曲性の回復のための熱処理を目的とする。第2に、高い冷間加工によって損なわれる導電性の回復のための熱処理回復を目的としており、複数回行ってもよい。また、この熱処理後に再度、抽伸/伸線工程を行なってもよい。
次に各元素の添加理由について説明する。Coは、0.13〜0.33mass%が良く、好ましくは0.15〜0.32mass%であり、最適には0.16〜0.29mass%である。Coは、単独の添加では高強度・高導電性等は得られないが、P、Snとの共添加により熱・電気伝導性を損なわずに、高強度、高耐熱特性が得られる。Coの単独では、強度が多少向上する程度であり、顕著な効果はない。上限を越えると効果が飽和する。また、導電性が損なわれる。下限より少ないと、Pと共添加しても強度、耐熱特性が高められず、また、熱処理TH1後において、目的とする金属組織が形成されない。
Pは、0.044〜0.097mass%が良く、好ましくは0.048〜0.094mass%であり、最適には0.051〜0.089mass%である。Pは、Co、Snとの共添加で、熱・電気伝導性を損なわずに、高強度、高耐熱特性が得られる。P単独では、湯流れ性、強度を向上させ、結晶粒を微細化させる。上限を越えると、上記効果(高強度、高耐熱特性)が飽和し、熱・電気伝導性が損なわれる。また、鋳造時、押出時に割れが生じ易くなる。また、延性、特に繰返し曲げ加工性が悪くなる。下限より少ないと、強度、耐熱特性が良くならず、また、熱処理TH1後において、目的とする金属組織が形成されない。
Co、Pは、上述した組成範囲での共添加により、強度、耐熱特性、高温強度、耐摩耗性、熱間変形抵抗、変形能、導電性が良くなる。Co、Pの組成が一方でも低い場合、上述したいずれの特性も、顕著な効果を発揮しない。多すぎる場合は、各々の単独添加の場合と同様に、熱間変形能の低下、熱間変形抵抗の増大、熱間加工割れ、曲げ加工割れ等の不具合が生じる。Co、Pの両元素は、本発明の課題を達成するための必須元素であり、適正なCo、P等の配合比率の元で、電気・熱伝導性を損なわずに、強度、耐熱特性、高温強度、耐摩耗性を向上させる。この組成範囲内において、Co、Pの量が増えるに従ってCo、Pの析出物が増え、これら諸特性が向上する。Co:0.13%、P:0.044%は、十分な強度、耐熱特性等を得るのに最低必要な量である。Co、Pの両元素は、熱間押出後の再結晶粒の成長を抑制し、後述するマトリックスに固溶するSnとの相乗効果により、押出の先端から後端にまで高温にも拘らず、細かな結晶粒を維持させる。そして熱処理時、Co、Pの微細析出物の形成が、Snにより耐熱性が高められたマトリックスの再結晶より先行し、強度および導電性の両特性に大きく寄与する。但し、その効果も、Co:0.33%、P:0.097%を超えると、ほとんど特性の向上は認められなくなり、却って前記したような欠点が生じ始める。
CoとPを主体とする析出物だけでは、強度が不足し、マトリックスの耐熱性がまだ不十分で、安定しない。Snはマトリックスに固溶し、0.005mass%以上の少量の添加で、合金を強化する。そして高温で熱間押出される押出材の結晶粒を細かくし、結晶粒成長を抑制するので、押出後強制冷却されるまでの高温状態において、細かな結晶粒を維持する。これらのようにSnの固溶により、導電性を若干犠牲にしながら強度と耐熱性を向上させることができる。そしてSnはCo、P等の溶体化感受性を低くする。押出後から強制冷却されるまでの高温状態において、また、20℃/秒程度の強制冷却の過程において、Co、Pの多くを固溶状態に留める。また熱処理時においても、CoとPを主体とする析出物をさらに微細に均一分散させる効果がある。また、硬さと強度に依存する耐摩耗性にも効果がある。
Snは、上述した組成範囲(0.005〜0.80mass%)が求められる。しかし、特に大きな強度を必要とせずに、高い電気・熱伝導性を必要とする場合は、0.005〜0.095mass%が良く、0.01〜0.045mass%が最適である。特に高い電気伝導性とは、純アルミニウムの電気伝導率65%IACSより高いことを指し、本件の場合、65%IACS以上を指す。一方、強度に重きを置く場合は、0.1〜0.70mass%が良く、0.32〜0.65mass%が更に良い。Snは少量添加で耐熱特性を向上させ、再結晶部の結晶粒を微細化させると同時に、強度の向上、曲げ加工性、耐屈曲性、耐衝撃性を向上させる。
Snが下限(0.005mass%)より少ないと、強度、特にマトリックスの耐熱特性、そして曲げ加工特性も悪くなる。上限(0.80mass%)を越えると、熱・電気伝導性が低下し、熱間変形抵抗が高くなり、押出比の高い熱間押出が困難になる。また、マトリックスの耐熱性が却って損なわれる。なお、耐摩耗性は、硬さ、強度に依存するので、Snを多く含有するのが良い。酸素が0.0050mass%を超えると、P等が酸素と結合し、Co、P等の化合に与れないことと、延性、耐屈曲性が悪くなることと、高温加熱時に水素脆化を起こす危険性とがある。従って、酸素を0.0050mass%以下にしなければならない。
本発明の課題である高強度、高導電を得るには、Co、Ni、Fe、及びPの配合割合と析出物の大きさと分布が、非常に重要になる。析出熱処理により、Co、Ni、Fe及びPの析出物、例えばCoxPy、CoxNiyPz、CoxFeyPz等の球状、又は楕円形の析出物粒径を、数nmから10nm程度、すなわち平面で表される析出物の平均粒径で定義すれば、1.5〜20nm、又は析出物の90%好ましくは95%以上が0.7〜30nm又は2.5〜30nm(30nm以下)であり、それらが均一に析出することにより高強度を得る。なお、0.7及び2.5nmの析出粒子は、一般的な透過型電子顕微鏡:TEMと専用ソフトを用い、75万倍又は15万倍で観察すれば、精度良く寸法を測定できる粒径の下限である。従って、粒径が0.7又は2.5nm未満の析出物を観測することができれば、粒径が0.7〜30nm又は2.5〜30nmの析出物の好ましい割合も変わる。また、Co、P等の析出物は、溶接チップ等で要求される300℃、又は400℃の高温強度を向上させる。また、700℃の高温に曝された場合、Co、P等の析出物によって、又は固溶状態にあったCo、P等の析出によって、再結晶粒の生成が抑制され、高い強度を保持する。さらに析出物の多くが残留し、微細なままであるので、高い導電性と高い強度を保持する。また耐摩耗性は、硬さ、強度に依存するので、Co、P等の析出物は、耐摩耗性にも効果がある。
Co、P、Fe、Niの含有量は、次の関係を満足しなければならない。Coの含有量[Co]mass%と、Niの含有量[Ni]mass%と、Feの含有量[Fe]mass%と、Pの含有量[P]mass%との間に、
X1=([Co]−0.007)/([P]−0.008)
として、X1が2.9〜6.1、好ましくは、3.1〜5.6、より好ましくは3.3〜5.0、最適には3.5〜4.3でなければならない。また、Ni、Fe添加の場合には、
X2=([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)
として、X2が2.9〜6.1、好ましくは、3.1〜5.6、より好ましくは3.3〜5.0、最適には3.5〜4.3でなければならない。X1、X2が上限を越えると、熱・電気伝導性の低下を招き、耐熱特性、強度が低下し、結晶粒成長を抑制できず、熱間変形抵抗も増す。X1、X2が下限より低いと、熱・電気伝導性の低下を招き、耐熱特性が低下し、熱間・冷間での延性が損なわれる。特に必要な、高度な熱・電気伝導性と強度、さらには延性とのバランスが悪くなる。
また、Co等の各元素の配合比率が、化合物での構成比率と同一であっても全て化合するものではない。上述した式において、([Co]−0.007)は、Coが0.007mass%分、固溶状態で残存することを意味し、([P]−0.008)はPが0.008mass%分、固溶状態でマトリックスに残留することを意味する。すなわち、本発明で工業的に実施できるCoとPの配合、及び析出熱処理条件で析出熱処理すると、Coでは概ね0.007%、Pでは概ね0.008%が、析出物形成にあたらず、マトリックスに固溶状態で存在する。従って、Co、Pの質量濃度から、各々0.007%,0.008%を差引いて、Co、Pの質量比を決定する必要がある。そしてそのCoとPとの析出物は、概ねCo:Pの質量濃度比が4.3:1から3.5:1になる、例えばCo2P、Co2.aP、又はCo1.bP等である。Co2P、Co2.aP、Co1.bP等を中心とする微細析出物が形成されないと本件の主題である高い強度、高い電気伝導性を得られない。
すなわちCo、Pの組成若しくは、単にCoとPとの比率を決定するのでは、不十分であり、([Co]−0.007)/([P]−0.008)=2.9〜6.1(好ましくは、3.1〜5.6、より好ましくは3.3〜5.0、最適には3.5〜4.3)が、必要不可欠な条件となる。([Co]−0.007)と([P]−0.008)が、さらに好ましい又は最適な比率であると、目的とする微細な析出物が形成され、高導電、高強度材になるための大きな条件となる。一方、請求範囲、好ましい範囲又は最適な比率から離れると、Co、Pのどちらかが析出物形成にあたらず、固溶状態になり、高強度材が得られないばかりか、導電性が悪くなる。また、化合比率の目的と異なった析出物が形成され、析出粒子径が大きくなる。また、強度に余り寄与しない析出物であるので、高導電、高強度材になりえない。
Fe、Niの元素の単独での添加は、耐熱特性、強度等の諸特性の向上に余り寄与せず、導電性も低下させる。しかし、Fe、Niは、CoとPとの共添加の基においてCoの機能を一部代替する。上述した数式([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)において、[Ni]の0.85の係数と、[Fe]の0.75の係数は、CoとPとの結合の割合を1とした場合の、NiとFeがPと結合する割合を表したものである。すなわち、数式において、([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)と、([P]−0.008)の「−0.007」、「−0.008」は、Co、NI、FeとPが理想的な配合であっても、また、理想的な条件で析出熱処理しても、すべてのCo、Pの析出物を形成しないことを意味する。本発明で工業的に実施できるCo、Ni、FeとPの配合及び析出熱処理条件で析出熱処理すると、([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe])のうち概ね0.007%、Pは概ね0.008%は、析出物形成にあたらず、マトリックスに固溶状態で存在する。従って、([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe])とPの質量濃度から、各々0.007%、0.008%を差引いて、Co等とPの質量比を決定する必要がある。そしてそのCo等とPとの析出物は、概ねCo:Pの質量濃度比が4.3:1から3.5:1になる、例えばCo2P、Co2.aP、又はCo1.bPを中心に、Coの一部がNi、Feに置き換わったCoxNiyFeZPA、CoxNiyPz、CoxFeyPz等が形成される必要がある。Co2P、又はCo2.xPyを基本とする微細析出物が形成されないと、本件の主題である高い強度、高い電気伝導性を得られない。
すなわちCo、Pの組成若しくは、単にCoとPとの比率を決定するのでは、不十分であり、([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)=2.9〜6.1(好ましくは、3.1〜5.6、より好ましくは3.3〜5.0、最適には3.5〜4.3)が、必要不可欠な条件となる。([Co]−0.007)と([P]−0.008)がさらに好ましい又は最適な比率であると、目的とする微細な析出物が形成され、高導電、高強度材になるための大きな条件となる。一方、請求範囲、好ましい範囲又は最適な比率から離れると、Co等、Pのどちらかが析出物形成にあたらず固溶状態になり、高強度材が得られないばかりか、導電性が悪くなる。また、化合比率の目的と異なった析出物が形成され、析出粒子径が大きくなる。また、強度に余り寄与しない析出物であるので、高導電、高強度材になりえない。
一方、銅に他の元素を添加すると導電性が悪くなる。例えば、純銅にCo、Fe、Pを0.02mass%単独添加しただけで、熱・電気伝導性が約10%低下する。しかし、Niを0.02mass%単独添加すると、約1.5%しか低下しない。発明合金では、析出熱処理条件で析出熱処理すると、Coでは概ね0.007%、Pでは概ね0.008%が、析出物形成にあたらず、マトリックスに固溶状態で存在するので、導電率の上限は89%IACS以下である。添加量や配合比にもよるが、実質的には、導電率は87%IACS以下になる。しかし、例えば導電率80%IACSは、Pを0.03%添加した純銅C1220とほぼ同じであり、純アルミニウムの導電率65%IACSより、15%IACS高いので、高導電と言える。なお、導電性と同様にCo、Pの固溶状態から、発明合金の熱伝導性についても、20℃で、最高で355W/m・Kであり、実質的には349W/m・K以下である。
上述したCoとP等の計算式の値X1、X2が最適範囲から外れていくと、析出物が減少し、析出物の超微細化や均一分散が損なわれる。従って、析出に与らないCo、又はP等が、マトリックスに過分に固溶し、強度や耐熱特性が低下し、熱・電気伝導性が低下する。Co、P等が適正に配合され、微細な析出物が均一分布すれば、Snとの相乗効果により、耐屈曲性等の延性においても著しい効果を発揮する。
Fe、NiはCoの機能を一部代替する。また、CoとPの結合をより効果的に行わせる働きをする。Fe、Niの単独の添加は、導電性を低下させ、耐熱特性、強度等の諸特性向上に余り寄与しない。Niは単独でも、コネクタ等に要求される耐応力緩和特性を向上させる。また、NiはCo、P共添加のもと、Coの代替機能を持つほか、Niによる導電性の低下量が小さい。従って、上述した数式([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)の値が2.9〜6.1の中心値から外れても、導電性の低下を最小限に留める機能を持つ。また、Niは、Snめっきされたコネクタ等で、使用中温度が上がっても、Snの拡散を抑制する効果を持つ。しかし、Niを0.15mass%以上や、数式X3=1.5×[Ni]+3×[Fe]の値が[Co]を越えるように過剰に添加すると、析出物の組成が徐々に変化し、強度向上や耐熱性の向上に寄与しないばかりか、熱間変形抵抗が増大し、導電性が低下する。これらを鑑みれば、Niは、前記のようにNi添加量、又はX3の数式において、好ましい範囲にあるのが良い。
Feは、CoとPとの共添加のもと、微量の添加で、強度の向上、未再結晶組織増大、再結晶部の微細化に繋がる。ただし、Feを0.07mass%以上や、数式X3=1.5×[Ni]+3×[Fe]の値が[Co]を越えるように過剰に添加すると、析出物の組成が徐々に変化し、強度向上や耐熱性の向上に寄与しないばかりか、熱間変形抵抗が増大し、導電性が低下する。これらを鑑みれば、Feは、前記のようにFe添加量、又はX3の数式において、好ましい範囲にあるのが良い。
Zn、Mg、Ag、Al、Zrは、銅のリサイクル過程で混入するSを無害化し、中間温度脆性を低減させ、延性と耐熱特性を向上させる。0.003〜0.5mass%のZn、0.002〜0.2mass%のMg、0.003〜0.5mass%のAg、0.002〜0.3mass%のAl、0.002〜0.2mass%のSi、0.002〜0.3mass%のCr、0.001〜0.1mass%のZrは、これらの範囲内であれば、導電性をほとんど損なわずに合金を強化する。Zn、Mg、Ag、Alは固溶強化によって、Zrは析出硬化によって合金の強度を向上させる。Znは、さらにはんだ濡れ性、ろう付け性を改善する。Zn等は、Co、Pの均一析出を促進させる作用を持つ。そしてAgは、さらに耐熱性を向上させる。Zn、Mg、Ag、Al、Si、Cr、Zrが組成範囲の下限より少ないと、上記した効果が発揮されない。上限を越えると、上記した効果が飽和するばかりか、導電性が低下し始め、熱間変形抵抗が大きくなり、変形能が悪くなる。なおZnは、製造された高性能銅合金棒、線又はそのプレス成形品等が真空溶解炉等でろう付けを行なわれる場合や、真空下で使用される場合、高温下で使用する場合等においては、Znの気化による製品への影響、装置への影響を鑑みれば0.045mass%以下が良い。なお、管・棒を押出する時、押出比が高い場合、Cr、Zr、Agの添加は熱間変形抵抗を高くし、変形能を悪くするので、Crは、0.1mass%以下、Zrは、0.04mass%以下、Agは0.3mass%以下とするのがより好ましい。
次に、加工工程について説明する。熱間押出でのビレットの加熱温度は、Co、P等を十分固溶させるためには、840℃が必要である。960℃を超えると押出材の結晶粒が粗大化する。押出開始時が960℃超の場合、押出中に温度が低下するので、押出開始部分と押出終了部分の結晶粒度に差が生じ、均一な材料が得られなくなる。840℃未満であれば、Co、Pの溶体化(固溶)が不十分であり、後工程で適切な熱処理をしても析出硬化が不十分になる。ビレット加熱温度は、好ましくは850〜945℃であり、より好ましくは、865〜935℃であり、最適には875〜925℃である。また、Co+Pの量が0.25mass%以下の場合は870〜910℃であり、Co+Pの量が0.25mass%を超えて0.33mass%以下の場合は、880〜920℃であり、0.33mass%を超える場合は890〜930℃である。つまり、Co+Pの量によって僅かな温度差であるが最適温度が移行する。これは、概ねCo、P等が適正範囲内にあり、Co+Pの量が少ないと、前記温度範囲の中で、低温側で十分に固溶するが、Co+Pの量が増すと、Co、P等が固溶するための温度が上昇するためである。960℃を超えると、溶体化が飽和するばかりでなく、発明合金であっても、押出中及び押出直後の棒材の温度が高くなると、結晶成長が著しく促進され、急激に結晶粒が粗大化し、機械的性質が悪くなる。
さらに、押出中のビレットの温度低下を考慮に入れると、押出後半部に相当するビレットの温度を、ビレットヒーターなどの誘導加熱により、先端、中央部より20〜30℃、高くしておくと良い。押出材の押し出される温度の降下を防ぐために、コンテナの温度は高い方が当然好ましく、250℃以上が良く、より好ましくは300℃以上とするのが良い。同様に押出後端側のダミーブロックの温度も250℃以上、好ましくは300℃以上に予め加熱された状態にしておくことが好ましい。
次に、押出後の冷却について説明する。発明合金は、Cr−Zr銅等に比べ遥かに溶体化感受性が低いので、例えば、100℃/秒を超える冷却速度は特に必要としない。しかし、材料が高温状態に長時間放置されると、結晶粒成長が急速に起こることや、そして幾ら溶体化感受性が高くないと言っても、溶体化状態も考慮に入れると、15℃/秒より速い方が良い。熱間押出において、押し出された材料は、強制冷却装置に到達するまでの間は空冷状態になる。当然、この間の時間を短くする方が良い。特に、押出比H(ビレットの断面積/押出材の合計の断面積)が小さいほど、冷却設備に到達するまでの時間を要するので、ラムの移動速度、即ち押出速度を上げることが望ましい。また、ひずみ速度を上げると、押出材の結晶粒が小さくなる。そして、材料径が大きいほど冷却速度は遅くなる。なお、本明細書においては、高温で固溶している原子が、冷却中に冷却速度が遅くても析出し難いことを「溶体化感受性が低い」といい、冷却速度が遅いと析出し易いことを「溶体化感受性が高い」という。
これらの因子を加味して、押出条件として、ラムの移動速度(ビレットが押し出される速度)を押出比Hとの関係から、30×H−1/3mm/秒以上、より好ましくは45×H−1/3mm/秒以上、最適60×H−1/3mm/秒以上にする。また、原子拡散の容易な押出材の冷却速度は、押出直後の材料温度、又は840℃から500℃までの平均冷却速度が15℃/秒以上、好ましくは22℃/秒以上、より好ましくは30℃/秒以上であり、少なくともどちらかの条件を満足することが必要である。
押出速度を早くすることは、再結晶核の生成サイトを増やし、熱間押出上がりでの結晶粒の微細化に繋がる。本明細書において、熱間押出上がりとは、熱間押出後の冷却が終了した状態をいう。また、冷却装置までの空冷状態を短くすることにより、Co、Pを少しでも多く固溶させると共に、結晶粒成長を抑制することができる。従って、押出設備から冷却装置までの距離は短く、冷却方法は水冷等のように冷却速度の速い方法が良い。
上述したように、押出後の冷却速度を早くすることにより、熱間押出上がりでの結晶粒径を細かくすることができる。結晶粒径は5〜75μmが良く、好ましくは、7.5〜65μmで、より好ましくは8〜55μmである。一般的に結晶粒径が小さいほど、常温での機械的性質は良好になるが、小さすぎると耐熱特性や高温特性が低下するので8μm以上が良い。結晶粒径が75μmを超えると、強度が十分得られないばかりか、疲労(繰返し曲げ)強度が低くなり、延性も不十分で、曲げ加工等すると肌荒れ現象が生じる。最適な製造条件は、最適な温度で押し出し、押出速度を上げて(ビレットが押し出される速度を30×H−1/3mm/秒以上とする)鋳物の組織を破壊すると共に再結晶核の生成サイトを増やし、空冷時間を短くして結晶粒の成長を抑制する。冷却は、例えば水冷により、急速冷却にする。結晶粒径は、また、押出比Hに大きな影響を受け、押出比Hが大きいほど結晶粒径は小さくなる。
次に、熱処理TH1について説明する。基本的な熱処理TH1の条件は、375〜630℃で0.5〜24時間である。熱間押出後の冷間加工の加工率が高いほど、Co、P等の化合物の析出サイトが増え、低温で析出し、強度も高い。冷間加工率が0%の場合は、450〜630℃で0.5〜24時間、好ましくは、475〜550℃で2〜12時間である。さらにより高い導電性を得ようとするなら、例えば525℃で2時間と、500℃で2時間の2段階の熱処理が有効である。熱処理前の加工率が増すと析出サイトが増すので、例えば10〜50%の加工率の場合、10〜20℃低温に最適熱処理条件が移行する。より良い条件は、420〜600℃で、1〜16時間であり、好ましくは450〜530℃で2〜12時間である。
さらに、温度、時間、加工率をより明確にする。温度T(℃)、時間t(時間)、加工率RE(%)とし、(T−100×t−1/2−50×Log((100―RE)/100))の値を熱処理指数TIとすると、400≦TI≦540が良く、好ましくは420≦TI≦520であり、最適には430≦TI≦510である。ここで、Logは自然対数である。ここで、例えば熱処理時間が長くなると温度は低温側に移行するが、温度への影響は、概ね時間の平方根の逆数で与えられる。また、加工率が増すにつれて析出サイトが増え、かつ原子の移動が増して析出し易くなるので、最適熱処理温度は低温側へ移行する。なお、ここでの加工率REは、(1−(加工後の管棒線材の断面積)/(加工前の管棒線材の断面積))×100%をいう。冷間加工と熱処理TH1を複数回行なう場合においては、REは押出材からのトータルの冷間加工率を適用する。
なお、抽伸/伸線工程の間で熱処理TH1を施す場合、より高い導電性と延性を持つためには、押出後から熱処理TH1までの加工率が、熱処理TH1後の加工率を上回ることが望ましい。複数回の析出熱処理を行なってもよく、その場合も最終の析出熱処理までのトータルの冷間加工率が、熱処理TH1後の加工率を上回ることが望ましい。押出後の冷間加工は、熱処理TH1において、Co、P等の原子の移動を容易にし、Co、P等の析出を促進する。また、加工率が高いほど、低温の熱処理で析出する。そして、熱処理TH1後の冷間加工では、加工硬化によって強度は向上するが、延性は低下する。また、導電性の低下も著しい。総合的な導電性、延性、強度のバランスを考えると、熱処理TH1後の加工率は、熱処理前の加工率に比して小さい方が良い。さらに、押出後、最終の線までのトータルの冷間加工率が90%を超える強加工を行なうと、延性が乏しくなる。延性を考慮すると次のより好ましい析出熱処理が必要となる。
すなわち、マトリックスの金属組織中に、転位密度の低い微細な結晶粒、又は再結晶粒を生成させ、マトリックスの延性を回復させる。なお、ここで微細な結晶粒と再結晶粒を併せて、再結晶粒という。これらの粒径が大きい場合、又はこれらの占める割合が多い場合、マトリックスが軟らかくなりすぎる。また析出物が成長して析出物の平均粒径が大きくなり、最終の線材の強度が低くなる。従って、析出熱処理時のマトリックスの再結晶粒の占める割合は、45%以下、好ましくは0.3〜30%、より好ましくは0.5〜15%とし(残部は未再結晶組織)、再結晶粒の平均粒径は0.7〜7μm、好ましくは、0.7〜5μm、より好ましくは0.7〜4μmが良い。
上述した微細な結晶粒は、細かすぎて、金属顕微鏡で圧延組織と区別するのが、難しい場合がある。しかし、EBSP(Electron Back Scattering diffraction Pattern)を用いると、主として圧延方向に伸びた元の結晶粒界を中心に、ランダムな方位を持ち、転位密度の低い、ひずみの少ない微細な結晶粒が、観察できる。発明合金で、加工率75%以上の冷間加工と、析出熱処理によって微細な結晶粒又は再結晶粒が生成する。微細な再結晶粒等によって、強度を損なわずに、加工硬化した材料の延性が改善される。さらに、プレス品、冷間鍛造品の場合においても、棒材の段階で、このTH1の熱処理を入れてもよいし、プレス、鍛造成形後にこの熱処理を入れてもよい。また、最終、630℃、または熱処理TH1の温度条件を超える場合、例えばろう付けする場合においては、TH1は不要としてもよい。なお、熱処理条件は、棒材の段階で熱処理する場合も、しない場合も同様で、REは押出材からのトータルの冷間加工率が適用される。
熱処理TH1によって、2次元の観察面において、略円形、又は略楕円形であり、平均粒径で1.5〜20nm、又は析出物の90%以上が0.7〜30nm、又は2.5〜30nm(30nm以下)の微細析出物が均一に分散して得られる。析出物は、均一微細に分布し、大きさも揃い、その粒径が細かいほど、再結晶粒の粒径が小さくなり、強度、耐熱特性が高くなる。析出物の平均粒径は1.5〜20nmが良く、好ましくは1.7〜9.5nmである。さらに、熱処理TH1が1回の場合、またはTH1の前の冷間加工率が0〜50%の低い加工率の場合、特に両方の工程の場合、強度は主として析出硬化に依存するので、析出物は微細でなければならず、最適には2.0〜4.0nmである。
一方、トータルの冷間加工率が50%以上の場合、または75%以上で高い場合、延性が乏しくなり、熱処理TH1時おいて、マトリックスを延性のある状態にしなければならない。結果、析出物は、最適には2.5〜9nmとし、析出硬化を少し犠牲にして、延性、導電性を向上させ、バランスをとることが好ましい。また、30nm以下の析出物は、90%以上が良く、好ましくは95%以上であり、最適には98%以上である。なお、TEM(透過型電子顕微鏡)の観察では、冷間加工した材料では転位が多く存在するため、析出物を正確に寸法測定することが難しい。よって、押出後、冷間加工無しで析出熱処理した材料又は、析出熱処理時に再結晶又は微細粒が生じる試料で調査した。析出物は、基本的に冷間加工しても、その粒径に大きな変化が無く、最終の回復熱処理条件でも、析出物はほとんど成長しない。また、15万倍では、粒径1nmまで認識が可能であるが、1〜2.5nmの微細な粒の寸法精度において問題があると思われるので75万倍でも測定した。
なお、15万倍の測定においては、粒径2.5nm未満のものについては、誤差が大きいと判断して析出粒子から除外し(計算に入れない)、75万倍の測定においても、粒径0.7nm未満のものについては誤差が大きいと判断して、析出粒子から除外した(認識しなかった)。平均粒径が約8nmのものを境にして、約8nm未満のものについては、75万倍での測定が、精度が良いと思われる。従って、30nm以下の析出物の割合は、正確には、0.7〜30nm、又は2.5〜30nmを指す。Co、P等の析出物の大きさは、強度、高温強度、未再結晶組織の形成、再結晶組織の微細化、延性に効いてくる。なお、析出物には、鋳造段階で生じる晶出物は当然含まれない。
析出物の均一分散に関して、敢えて定義するとすれば、15万倍又は75万倍のTEMで観察した時、後述する顕微鏡観察位置(極表層等特殊な部分を除いて)の任意の1000nm×1000nm領域において、少なくとも90%以上の析出粒子の最隣接析出粒子間距離が、150nm以下、好ましくは100nm以下、最適には平均粒子径の15倍以内であると定義される。また、後述する顕微鏡観察位置の任意の1000nm×1000nm領域において、析出粒子が少なくとも25個以上、好ましくは50個以上、最適には100個以上存在すること、すなわち標準的な部位において、どのミクロ的な部分をとっても、特性に影響を与える大きな無析出帯がないこと、すなわち、不均一析出帯がないことと定義できる。
次に、熱処理TH2について説明する。細線のように析出熱処理後に高い冷間加工率を付与する場合、発明合金で熱間押出を行なった材料を、伸線加工の途中で、再結晶する温度以下の温度で熱処理TH2を行い、延性を向上させてから伸線加工を行なうと、強度が向上する。さらに伸線加工後に熱処理TH2を行なうと、若干強度が落ちるものの、耐屈曲性等の延性が著しく向上する。TH1の熱処理後、冷間加工率が30%又は50%を超えると、冷間加工による転位密度の増加に加え、Co、P等の析出物が微細なため、電気伝導性を低下する現象が起こり、導電率が2%IACS以上、又は3%IACS以上低下する。加工率が高くなるほど導電率はさらに低下し、冷間加工率が90%以上の場合、導電率は4%IACSから10%IACS低下する。この導電性の低下の度合いは、銅、Cu−Zn合金、Cu−Sn合金等に比べ、2〜5倍大きい。従って、導電性に及ぼすTH2の効果は、高い加工率が付与される場合の方が大きい。なお、さらに高い導電性と高い延性を得るためには、熱処理TH1を行なうのが良い。
線径が細い3mm以下の場合、350〜700℃で0.001秒から数秒の連続焼鈍設備で熱処理する方が、生産性の観点からも、焼鈍時の巻き癖の点から好ましい。最終の冷間加工率が60%以上で、延性、耐屈曲性や導電性を重視する場合、時間を長くする方が良く、200℃から375℃で10分から240分保持するのが好ましい。なお、残留応力が問題になる場合、棒材、冷間鍛造・プレス材においても、線材と同様、最終に、延性・導電率の回復又は応力除去焼鈍として、熱処理TH2を施してもよい。この熱処理TH2により、導電性や延性が向上する。棒材やプレス品等では、短時間で材料温度が上がらないので、250℃から550℃で1分から240分保持すると良い。
本実施形態に係る高性能銅管・棒・線材の特徴について説明する。一般に高性能銅管・棒・線材を得る手段として、時効・析出硬化、固溶硬化、結晶粒微細化を主体とする組織制御があり、この組織制御のために種々の元素が添加される。しかし、導電性に関しては、マトリックスに添加元素が固溶すると、一般に導電性を阻害し、元素によっては著しく導電性を阻害する。発明合金のCo、P、Feは、著しく導電性を阻害する元素である。例えば、純銅にCo、Fe、Pを0.02mass%単独添加しただけで、導電率が約10%損なわれる。さらに、従来の時効析出型合金においても、マトリックスに固溶残存させずに完全に添加元素を効率良く析出させることは不可能であり、固溶した元素により導電率が低下する。発明合金においては、構成元素のCo、P等を上述した数式に従って添加すれば、固溶したCo、P等のほとんどを、後の熱処理において析出させることができることが特長であり、高い導電性を確保することができる。
一方、Cr−Zr銅以外の時効硬化性銅合金として有名なコルソン合金(Ni、Si添加)やチタン銅は、完全溶体化、時効処理を行なっても、発明合金と比してNi、Si、又は、Tiがマトリックスに多く残留する。その結果、強度が高いものの導電性が低下する欠点がある。また、一般に完全溶体化−時効析出のプロセスで必要な高温での溶体化処理(例えば、代表的な溶体化温度800〜950℃で数分以上加熱)を行なうと、結晶粒が粗大化する。結晶粒の粗大化は、様々な機械的性質に悪影響を与える。また、溶体化処理は製造において量的な制約を受けるため、大幅なコスト増に繋がる。
本発明では、発明合金の組成と熱間押出工程との組み合わせにより、熱間押出工程の中で十分に溶体化し、結晶粒微細化の組織制御を同時に行ない、さらにはその後の熱処理工程においてCo、P等を微細析出させることを見出した。
熱間押出には、間接押出(後方押出)と直接押出(前方押出)の2通りがあり、その一般的なビレット(鋳塊)の直径は150〜400mmで、長さが400〜2000mm程度である。押出機のコンテナの中にビレットが装入され、コンテナとビレットは接触し、ビレットの温度が低下する。また、コンテナの前方には、所定の寸法に押し出すためのダイスがあり、後方にはダミーブロックという鋼製の塊があり、それによってビレットの熱は奪われる。ビレットの長さ、押出サイズによって異なるが、押出が完了するまでには、20〜200秒程度の時間が掛かる。その間、ビレットの温度は低下していき、残りのビレット長さが、250mm以下、特に125mm以下、又はビレットの直径、特に半径に相当する長さまで押し出した以降のビレットの温度低下は著しい。
さらに、溶体化するには、押出後、直ちに急冷、例えば水槽への水冷、シャワー水冷、強制空冷することが好ましい。しかし、設備上、多くの場合、押出材をコイルに巻き取る必要があり、押し出された材料は、冷却設備(コイリングと同時に冷却、水冷)に到達するまで、数秒から10数秒の時間を要する。つまり、押し出された材料は、押出直後から冷却されるまでの10秒程度の間、冷却速度の遅い空冷状態にある。このように、温度の低下が少ない状態で押し出され、押出後の冷却が早い方が当然好ましいが、発明合金では、Co、P等の析出速度が遅いので、通常の押出条件の範囲で十分に溶体化ができることが特徴である。但し、押出後から冷却設備までの距離は、例えば約10m、又はそれ以下が好ましい。
本実施形態に係る高性能銅管・棒・線材では、Co、P等の組成と熱間押出工程との組み合わせによって、熱間押出工程の中で、Co、P等が固溶し、微細な再結晶粒が形成される。熱間押出工程の後で熱処理することにより、Co、P等が微細に析出し、高い強度と高い導電性が得られる。そして、熱処理前後で抽伸/伸線を入れると、加工硬化によって、導電性を損なわずに一層高強度が得られる。また、適切な熱処理TH1を施すことにより、高導電と高延性が得られる。さらに、線材の工程では、途中、又は最後に、低温焼鈍(アニーラー焼鈍)を入れると、回復、又は一種の軟化現象により、原子の再配列が生じ、さらに高い導電性、延性が得られる。それでも強度的にまだ不十分な場合には、導電性との兼合いもあるが、Snの増量、もしくはZn、Ag、Al、Si、Cr又はMgの添加(固溶強化)により、強度向上を図ることができる。また、Sn、Zn、Ag、Al、Si、Cr又はMgの少量添加は、導電性に大きな悪影響を与えず、また、Znの少量の添加はSnと同様、延性を高める効果もある。また、SnとAgの添加は、再結晶化を遅らせ、耐熱性を高め、再結晶部分の結晶粒を微細化できる役割を果たす。
一般に、時効析出型銅合金は、完全に溶体化させ、その後に析出という工程を経て高強度・高導電性を得る。溶体化を簡略化した本実施形態のような工程で作られた材料は、一般的にはその性能は劣る。しかし、本実施形態に係る管棒線材は、高コストの掛かる完全溶体化−析出硬化の工程で作られたものと性能が同等以上であり、寧ろ優れた強度、延性、及び導電性が高度なバランス状態で得られることが最大の特徴である。熱間押出によって製造するので低コストになる。
また、実用合金の中で唯一、高強度・高導電銅であって、溶体化−時効・析出型合金であるCr−Zr銅がある。しかし、Cr−Zr銅は、960℃以上の温度で熱間変形能に乏しいので、溶体化の上限温度が大きな制約を受ける。また、Cr、Zrの固溶限が温度の僅かな低下と共に急激に小さくなるので、溶体化の下限温度側も制約を受け、溶体化の温度条件の範囲が狭い。押出初期は溶体化状態にあったとしても、押出中期及び後期では、温度低下により十分な溶体化はできない。そして冷却速度の感受性が高いので通常の押出工程では十分な溶体化ができない。そのため押し出された材料を時効処理しても、目標とする特性は得られない。また、押出材の部位による強度、導電性の特性差が大きく、工業用の材料として使うことができない。かつ、多くの活性なZr、Crを含むので溶解鋳造に制約を受ける。結果的に、本実施形態の製造工程では製造できず、熱間押出法で素材を作り、多くのコストが掛かる高温で温度管理のシビアなバッチの溶体化−時効析出の工程をとらざるを得ない。
本実施形態において、導電率と強度と延性が良く、かつ、それぞれのバランスが高度にとれた高性能銅管・棒・線材を得ることができる。本明細書では、管・棒・線材の強度と伸びと導電率を合わせて評価する指標として、性能指数Iを次のように定める。導電率をR(%IACS)、引張強度をS(N/mm2)、伸びをL(%)、としたとき
I=R1/2×S×(100+L)/100
とする。導電率が45%IACS以上であることを条件として、性能指数Iが4300以上であることが良い。なお、熱伝導性と電気伝導性とは強い相関があるので、性能指数Iは熱伝導性の高低も表している。
また、より好ましい条件として、棒材では前提となる導電率が45%IACS以上で、性能指数Iが4600以上であることが良く、好ましくは4800以上、最適には5000以上である。導電率も好ましくは50%IACS以上、より好ましくは60%IACS以上とするのが良い。高伝導を必要とする場合は、65%IACS以上が良く、好ましくは70%IACS以上、より好ましくは75%IACS以上である。伸びについては、冷間プレス、鍛造、転造やかしめ等が施されることがあるので、10%以上あることが好ましく、20%以上が良い。
また、管・線材では、より好ましい条件として、前提となる導電率が45%IACS以上であることを条件として、性能指数Iが4600以上であることが良く、好ましくは4900以上、さらに好ましくは、5100以上、最適には5400以上である。導電率も好ましくは50%IACS以上より好ましくは、60%IACS以上とするのが良い。高伝導を必要とする場合は、65%IACS以上が好ましく、より好ましくは70%IACS以上、最適には75%IACS以上である。なお、線材について、屈曲性や延性が必要な場合は、性能指数Iが4300以上であって、伸びが5%以上あることが好ましい。そして、本実施形態において、性能指数Iが4300以上であって伸びが10%以上の棒材と、性能指数Iが4600以上の管・線材を得ることができた。管・棒・線材の径を小さくし、低コストにすることができる。特に高導電用として、導電率が65%IACS以上を前提とし、好ましくは、70%IACS以上、最適には75%IACSであり、性能指数Iが4300以上であることが良く、好ましくは4600以上、さらに好ましくは、4900以上である。本実施形態において、後述するように、導電率が65%IACS以上、性能指数Iが4300以上の棒・管・線材を得ることができた。純アルミニウムより高導電性であり、且つ高強度であるので、高電流が流れる部材に管・棒・線材の径を小さくし、低コストにすることができる。
押出によって製造された管・棒・線材は、同一のビレットから押し出された管・棒・線材の押出の長さ方向での機械的性質、及び導電率のバラツキ(以下、このバラツキを押出製造ロット内バラツキという)が小さいことが望ましい。この押出製造ロット内バラツキで、熱処理後の材料又は最終加工後の棒・線・管の(最小引張強度/最大引張強度)の比が、0.9以上で、かつ導電率において、(最小導電率/最大導電率)の比が、0.9以上であることが良い。(最小引張強度/最大引張強度)の比、及び(最小導電率/最大導電率)の比は、好ましくは、各々0.925以上、さらに好ましくは0.95以上であることが望ましい。本実施形態では、(最小引張強度/最大引張強度)の比、及び(最小導電率/最大導電率)の比を高くすることができ、品質が向上する。溶体化感受性の高いCr−Zr銅は、本実施形態の製造工程で作ると(最小引張強度/最大引張強度)の比が0.7〜0.8であり、バラツキが大きい。なお、一般的に、銅合金の熱間押出で作られる最もポピュラーな銅合金、C3604(60Cu−37Zn−3Pb)では、押出温度差、押出のメタルフロー等により、例えば押出先端部と後端部では、その強度比が0.9程度有るのは、常である。さらに、析出硬化しない純銅:タフピッチC1100も結晶粒径差により0.9に近い値をとる。なお、一般的に押出した直後の先端(頭)部の温度は、後端(尾)部の温度に比べ、30〜180℃高い。
高温用途において、溶接用チップ等は、300℃、又は400℃で高強度が求められる。400℃での強度は、200N/mm2以上あれば、実用上問題はないが、高温強度、又は高寿命を得るためには、好ましくは、220N/mm2以上、さらに好ましくは240N/mm2以上、最適には260N/mm2以上である。本実施形態の高性能銅管・棒・線材は、400℃で200N/mm2以上であるので、高温状態で使用することができる。Co、P等の析出物は、400℃で数時間であれば殆ど再固溶せず、かつ、その粒径も殆ど変化しない。また、マトリックスには、Snが固溶しているので、原子の動きが鈍くなっている。これにより、400℃に加熱しても、原子拡散がまだ不活発な状況にあり、再結晶粒は勿論生じない。また、変形が加えられても、Co、P等の析出物により、変形に対して抵抗を示す。また、結晶粒径が5〜75μmであると良好な延性が得られる。結晶粒径は、好ましくは、7.5〜65μmであり、最適には8〜55μmである。
高温用途において、高強度・高導電を前提に求められる高温強度、耐摩耗性(概ね強度に比例)、導電率のバランスにより、組成とプロセスが決定される。特に強度を得るためには、冷間抽伸を熱処理前、及び/又は熱処理後に入れ、トータルの冷間加工率が高いほど高強度材になるが、延性とのバランスも重視しなければならない。伸びを少なくとも10%以上を確保するためには、トータルの抽伸加工率を60%以下、又は、熱処理後の抽伸加工率を30%以下にするのが良い。トロリ線、溶接チップは消耗品であるが、本発明品の使用により高寿命を図ることができる。本実施形態に係る高性能銅管・棒・線材は、トロリ線、溶接チップ、電極等の用途に好適である。
本実施形態に係る高性能銅管・棒・線材は、高い耐熱特性を有し、700℃で120秒加熱後のビッカース硬度(HV)が90以上、又は加熱前のビッカース硬度の値の80%以上である。さらに加熱後の金属組織中の析出物は、平均粒径で1.5〜20nm、又は全ての析出物の90%以上が30nm以下、又は金属組織中の再結晶化率が45%以下である。より好ましい条件は、平均粒径で3〜15nm、又は全ての析出物の95%以上が30nm以下、又は金属組織中の再結晶化率が30%以下である。700℃の高温に曝されると、約3nmの析出物は大きくなるが、それがほとんど消滅せず、20nm以下の微細なまま存在することにより、再結晶化を防ぎ、高い強度と高い導電性が維持できる。また、TH1の熱処理を経ていない管・棒・線材、および冷間プレス品、鍛造品についても、固溶状態にあったCo、P等は、700℃での加熱中に一旦微細析出し、析出物が時間とともに成長する。しかし、析出物は、ほとんど消滅せず、20nm以下の微細なまま存在するので、TH1の熱処理を経た棒材等と同様の高い強度と高い導電性を有する。このことにより、高温状態に晒される環境に使用することができ、接合に用いられるろう付け後においても高い強度を持つ。ろう材は、例えば、JIS Z 3261に示される銀ろうBAg−7(40〜60%Ag、20〜30%Cu、15〜30%Zn、2〜6%Sn)であり、固相線温度は、600〜650℃、液相線温度は、640〜700℃である。例えば、鉄道用モータには、ろう付けによりローターバーやエンドリングが組み込まれるが、ろう付け後も、これら部材は高い強度と高い導電性を有するので、モータの高速回転に耐えることができる。
本実施形態に係る高性能銅管・棒・線材は、耐屈曲性に優れるので、ワイヤハーネス、コネクタ線、ロボット用配線、及び航空機用配線等に適している。電気的特性と強度と延性のバランスで、導電率50%IACS以上で高強度にするか、或いは、強度を多少落としても、導電率が65%IACS以上、好ましくは、70%IACS以上、又は、最適には、75%IACS以上にするかの2つに分かれる。その用途に応じて組成と工程条件が決められる。
本実施形態に係る高性能銅管・棒・線材は、鍛造やプレス等で作られるリレー、ターミナルや配電部品等電気用途にも最適である。以下、鍛造やプレス等を総称して圧縮加工と称する。また、高い強度と延性を活かして、応力腐食割れの心配がないことから、ナットや給水栓金具等にも利用価値がある。プレス等の能力と製品形状(複雑さ、変形量)によるが、素材の段階で熱処理と冷間抽伸を施した、高強度で高伝導の素材を用いるのが良い。素材の冷間抽伸の加工率は、プレス能力と製品形状によって適宜決定される。プレス能力が小さい、又は、非常に高い加工率の圧縮加工が負荷される場合、熱間押出後の熱処理なしで、例えば20%程度の加工率の抽伸に留める。
この抽伸後の材料は軟らかいので、圧縮加工により、冷間で複雑な形状に成形することができ、成形後に熱処理を行う。パワーの弱い加工設備でも熱処理前の材料強度は低く、成形性が良いので容易に成形できる。冷間鍛造やプレス後に熱処理すると、導電性が高くなるので、パワーの強い設備が要らず低コストになる。なお、鍛造やプレス成形後、TH1の熱処理温度より高い、例えば700℃のろう付けが施される場合、特に素材の棒、管、線でHT1の処理を行う必要はない。溶体化状態にあったCo、Pが析出し、Snの固溶によりマトリックスの耐熱性が高められているので、マトリックスの再結晶粒の生成を遅らせ、導電性が高くなる。
圧縮加工後の熱処理条件は、熱間押出後や、抽伸/伸線加工の前後や間に行なう熱処理条件より低温が良い。何故なら、圧縮加工において、局所的に高い加工率の冷間加工が施されていると、その部分を基準に熱処理を行なうからである。従って、加工率が高いと熱処理条件は低温側に移動する。好ましい条件は、380〜630℃で15〜240分である。TH1の熱処理条件の関係式において、REに熱間押出材から圧縮加工材までのトータルの加工率を適用する。すなわち関係式(T−100×t−1/2−50×Log((100―RE)/100))の値を熱処理指数TIとすると、400≦TI≦540が良く、好ましくは420≦TI≦520であり、最適には430≦TI≦510である。素材の棒材に熱処理が施されている場合は、必ずしも熱処理は必要ではないが、延性の回復、更なる導電性の向上、残留応力除去を主目的として実施する。その場合の好ましい条件は、300〜550℃で5〜180分である。
(実施例)
上述した第1発明合金、第2発明合金、第3発明合金及び比較用の組成の銅合金を用いて、高性能銅管・棒・線材を作成した。表1は、高性能銅管・棒・線材を作成した合金の組成を示す。
合金は、第1発明合金の合金No.11〜13と、第2発明合金の合金No.21〜24と、第3発明合金の合金No.31〜36及び371〜375と、比較用合金として発明合金に近似した組成の合金No.41〜49と、タフピッチ銅であるC1100の合金No.51と、従来のCr−Zr銅の合金No.52とし、任意の合金を複数の工程によって高性能銅管・棒・線材を作成した。
図1乃至図9は、高性能銅管・棒・線材の製造工程のフローを示し、表2及び表3は、製造工程の条件を示す。
図1は、製造工程Kの構成を示し、製造工程Kでは、実操業の電気炉によって原材料を溶解し、組成を調整して、外径240mm、長さ700mmのビレットを製造した。ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径25mmの棒を押し出した。間接押出機の押出能力は2750トンであった(以下の工程の間接押出機において同じ)。押出機のコンテナの温度は、400℃であり、ダミーブロックの温度は350℃に予め加熱されたものを使用した。以後の工程も含めて、本実施形態では、コンテナ温度、ダミーブロックの温度は同じにした。押出速度(ラムの移動速度)は12mm/秒とし、押出ダイスから約10m離れたコイル巻取り装置内で、水冷によって冷却した(溶解からここまでの一連の工程を工程K0とする。以下、同様)。押出ダイスから約3m離れた箇所で、押出材の温度を測定したところ、押出先端(頭)部の材料温度は、870℃であり、押出中央部の温度は、840℃であり、押出後端(尾部)の温度は、780℃であった。先端、後端部とは、最先端、最後端から3mの部位である。このように、押出の先端と後端では、90℃の大きな温度差が生じていた。熱間押出後の、840℃から500℃までの平均冷却速度は、約30℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径22mmに抽伸し(工程K01)、500℃で4時間の熱処理TH1を行い(工程K1)、その後、外径20mmに抽伸した(工程K2)。また、工程K0の後、520℃で4時間の熱処理TH1を行い(工程K3)、その後、外径22mmに抽伸した(工程K4)。また、工程K0の後、500℃で12時間の熱処理TH1を行なった(工程K5)。尚、C1100では、工程K1で、150℃で2時間の熱処理を行なったが、析出する元素が無いので、熱処理TH1は行なっていない(後述する他の製造工程においても同様)。
図2は、製造工程Lの構成を示す。製造工程Lは、製造工程K1とビレットの加熱温度が異なっている。加熱温度は、工程L1が825℃、工程L2が860℃、工程L3が925℃、工程L4が975℃とした。
図3は、製造工程Mの構成を示す。製造工程Mは、製造工程K1と、熱処理TH1の温度条件が異なる。温度条件は、工程M1が360℃で15時間、工程M2が400℃で4時間、工程M3が475℃で12時間、工程M4が590℃で4時間、工程M5が620℃で0.3時間、工程M6が650℃で0.8時間とした。
図4は、製造工程Nの構成を示す。製造工程Nは、製造工程K1と比べて、熱間押出の条件と、熱処理TH1の条件が異なっている。工程N1は、ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径35mmの棒を押し出した。押出速度は16mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約21℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径31mmに抽伸し、500℃で2時間と、480℃で4時間とを続けて行う熱処理TH1を行なった。また、工程N1での水冷のあと、515℃で2時間と、500℃で6時間とを続けて行なう熱処理TH1を行なった(工程N11)。工程N2は、ビレットを900℃で2分間加熱し、直接押出機で外径35mmの棒を押し出した。直接押出機の押出能力は3000トンであった(以下の工程の直接押出機において同じ)。押出速度は18mm/秒とし、シャワー水冷によって冷却した。冷却速度は約17℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径31mmに抽伸し、500℃で2時間と、480℃で4時間とを続けて行なう熱処理TH1を行なった。また、工程N2での水冷のあと、515℃で2時間と、500℃で6時間とを続けて行なう熱処理TH1を行なった(工程N21)。工程N3は、ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径17mmの棒を押し出した。押出速度は10mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約40℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径14.5mmに抽伸し、500℃で4時間の熱処理TH1を行なった。また、工程N3での水冷のあと、530℃で3時間の熱処理TH1を行なった(工程N31)。
図5は、製造工程Pの構成を示す。製造工程Pは、製造工程K1と比べて、押出後の冷却条件が異なっている。工程P1は、ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径25mmの棒を押し出した。押出速度は20mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約50℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径22mmに抽伸し、500℃で4時間の熱処理TH1を行なった。工程P2乃至P4は、工程P1と押出と冷却の条件を変えた。工程P2は、押出速度は5mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約13℃/秒であった。工程P3は、押出速度は12mm/秒とし、強制空冷によって冷却した。冷却速度は約18℃/秒であった。工程P4は、押出速度は12mm/秒とし、空冷によって冷却した。冷却速度は約10℃/秒であった。
図6は、製造工程Qの構成を示す。製造工程Qは、製造工程K1と比べて、冷間抽伸の条件が異なっている。工程Q1は、ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径25mmの棒を押し出した。押出速度は12mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約30℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径20mmに抽伸し、490℃で4時間の熱処理TH1を行なった。工程Q2は、工程Q1の熱処理TH1の後、冷間抽伸によって外径18.5mmに抽伸した。工程Q3は、工程Q1での水冷の後、冷間抽伸加工によって外径18mmに抽伸し、475℃で4時間の熱処理TH1を行なった。
図7は、製造工程Rの構成を示す。製造工程Rは、管材を製造する。工程R1では、ビレットを900℃で2分間加熱し、3000トンの直接押出機で、外径65mm、肉厚6mmの管を押し出す。押出速度は17mm/秒とし、急水冷によって冷却した。冷却速度は約80℃/秒であった。この後、520℃で4時間の熱処理TH1を行なった。工程R2は、工程R1の急水冷の後、冷間抽伸によって外径50mm、肉厚4mmに抽伸し、その後、460℃で6時間の熱処理TH1を行なった。
図8は、製造工程Sの構成を示す。製造工程Sは、線材を製造する。工程S1は、ビレットを910℃で2分間加熱し、間接押出機で外径11mmの棒を押し出した。押出速度は9mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約30℃/秒であった。この後、冷間抽伸加工によって外径8mmに抽伸し、480℃で4時間の熱処理TH1を行ない、冷間伸線加工によって外径2.8mmに伸線した。工程S1のあと、325℃で20分の熱処理TH2を行なった(工程S2)。但し、C1100の場合は、同じ熱処理TH2を行なうと、再結晶するので150℃で20分の熱処理とした。また、工程S1の後、続いて外径1.2mmまで冷間伸線加工を行なった(工程S3)。また、工程S1の後、350℃で10分の熱処理TH2を行ない、続いて外径1.2mmまで冷間伸線加工を行ない(工程S4)、さらに420℃で0.3分の熱処理TH2を行なった(工程S5)。また、工程S1における水冷の後、520℃で4時間の熱処理TH1を行ない、冷間抽伸/伸線加工によって外径8mm、2.8mmに順に伸線し、375℃で5分の熱処理TH2を行なった(工程S6)。また、工程S1における水冷の後、490℃で4時間の熱処理TH1を行ない、冷間抽伸/伸線加工によって、外径8mm、2.8mm、1.2mmに順に伸線し、425℃で2時間の熱処理TH1を行なった(工程S7)。また、工程S1における水冷の後、冷間抽伸加工によって、外径4mmに伸線し、470℃で4時間の熱処理TH1を行ない、更に外径2.8mm、1.2mmに順に伸線し、425℃で1時間の熱処理TH1を行なった(工程S8)。また、工程S8における外径1.2mmへの伸線の後に、360℃で50分の熱処理TH2を行なった(工程S9)。
図9は、製造工程Tの構成を示す。製造工程Tは、溶体化−析出工程を有する棒材と線材の製造工程であり、本実施形態の製造方法と比較するために行った。棒材の製造では、ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径25mmの棒を押し出した。押出速度は12mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約30℃/秒であった。続いて900℃で10分の加熱をし、冷却速度約120℃/秒で水冷して、溶体化した。その後、520℃で4時間の熱処理TH1を行ない(工程T1)、冷間抽伸加工によって外径22mmに抽伸した(工程T2)。線材の製造では、ビレットを900℃で2分間加熱し、間接押出機で外径11mmの棒を押し出した。押出速度は9mm/秒とし、水冷によって冷却した。冷却速度は約30℃/秒であった。続いて900℃で10分の加熱をし、冷却速度約150℃/秒で水冷して、溶体化した。その後、520℃で4時間の熱処理TH1を行ない、冷間抽伸加工によって外径8mmに抽伸し、冷間伸線加工によって外径2.8mmに伸線し、350℃で10分の熱処理TH2を行なった(工程T3)。
上述した方法により作成した高性能銅管・棒・線材の評価として、引張強度、ビッカース硬度、伸び、ロックウェル硬度、繰返し曲げ回数、導電率、耐熱特性、400℃高温引張強度、冷間圧縮後のロックウェル硬度と導電率を測定した。また、金属組織を観察して結晶粒径、及び析出物の径と30nm以下の大きさの析出物の割合を測定した。
引張強度の測定は、次のように行なった。試験片の形状は、棒材では、JIS Z 2201の標点距離が、(試験片平行部の断面積の平方根)×5.65の14A試験片で実施した。線材では、JIS Z 2201の標点距離が200mmの9B試験片で行った。管材では、JIS Z 2201の標点距離が(試験片平行部の断面積の平方根)×5.65の14C試験片で行った。
繰返し曲げ回数の測定は、次のように行なった。曲げ部分の径RAを2×RB(線材の外径)とし、90度曲げを行い、元の位置まで戻った時を1回とし、さらに反対側に90度曲げ、破断するまで繰り返し行なった。
導電率の測定は、直径8mm以上の棒材の場合、及び冷間圧縮試験片の場合、日本フェルスター株式会社製の導電率測定装置(SIGMATEST D2.068)を用いた。線材および、直径8mm未満棒材の場合、JIS H 0505に従って、測定した。そのとき、電気抵抗の測定には、ダブルブリッジを用いた。尚、本明細書においては、「電気伝導」と「導電」の言葉を同一の意味に使用している。また、熱伝導性と電気伝導性は強い相関があるので、導電率が高い程、熱伝導性が良いことを示す。
耐熱特性は、各工程上がりの棒材を長さ35mm(但し、後述する表10の引張試験用は300mm)に切断した試験片と、各工程上がりの棒材を冷間圧縮した高さ7mmの圧縮試験片を準備し、700℃の塩浴(NaClとCaCl2を約3:2に混合したもの)に120秒浸漬し、冷却(水冷)後にビッカース硬度、再結晶化率、導電率、析出物の平均粒径、粒径が30nm以下の析出物の割合を測定した。圧縮試験片は、棒材を長さ35mmに切断し、アムスラー型万能試験機で7mmに圧縮した(加工率80%)。工程K1、K2、K3、K4においては棒材の試験片により耐熱特性を試験し、工程K0、K01においては圧縮試験片により耐熱特性を試験した。なお、両工程品ともに、圧縮後の熱処理は行なわなかった。
400℃高温引張強度の測定は、次のように行なった。400℃で10分保持後、高温引張試験をした。標点距離は50mmとし、試験部は外径10mmに旋盤で加工した。
冷間圧縮は、次のように行なった。棒材を、長さ35mmに切断し、アムスラー型万能試験機で35mmから7mmに圧縮した(加工率80%)。熱処理TH1を行なっていない工程K0、K01の棒材については、圧縮後に加工後熱処理として450℃で80分の熱処理を行い、ロックウェル硬度と導電率を測定した。工程K0、K01以外の工程の棒材については、圧縮後にそのままロックウェル硬度と導電率を測定した。
結晶粒径の測定は、金属顕微鏡写真より、JIS H 0501における伸銅品結晶粒度試験方法の比較法に準じて測定した。平均再結晶粒径と再結晶率の測定は、500倍、200倍、100倍及び75倍の金属顕微鏡写真で、結晶粒の大きさに応じ、適宜倍率を選定して行なった。平均再結晶粒径の測定は、基本的に比較法で行なった。再結晶率の測定は、未再結晶粒と再結晶粒(微細な結晶粒を含む)を区分し、再結晶部を画像処理ソフト「WinROOF」により2値化し、その面積率を再結晶率とした。金属顕微鏡から判断が困難なものは、FE−SEM−EBSP法によって求めた。そして、解析倍率2000倍又は5000倍の結晶粒界マップから、15°以上の方位差を有する結晶粒界から成る結晶粒を、マジックで塗り潰し、画像解析ソフト『WinROOF』により2値化し再結晶率を算出した。測定限界は、概ね0.2μmであり、0.2μm以下の再結晶粒が存在しても、計測値には入れていない。
析出物の粒径は、15万倍及び75万倍のTEM(透過電子顕微鏡)の透過電子像を、画像処理ソフト「WinROOF」によって2値化して析出物を抽出し、各析出物の面積の平均値を算出して、平均粒子径を測定した。測定位置は、棒線材では半径をrとすると、棒線材の中心から1r/2と、6r/7の位置の2点とし、その平均値を採った。管材では、肉厚をhとすると、管材の内面から1h/2と、6h/7の位置の2点とし、その平均値を採った。析出物の大きさは、金属組織中に転位があると測定が難しいので、押出材に熱処理TH1を施した棒線材、例えば工程K3上がりの棒線材で測定した。700℃で、120秒の耐熱試験したものについては、再結晶化した部分で測定した。また、それぞれの析出物の粒径から、30nm以下の析出物の個数の割合を測定したが、15万倍のTEMの透過電子像では、粒径2.5nm未満のものについては、誤差が大きいと判断し、析出粒子から除外した(計算に入れない)。75万倍の測定においても、粒径0.7nm未満のものについては、誤差が大きいと判断し、析出粒子から除外した(認識しなかった)。平均粒径が約8nmを境にして、約8nm未満のものについては、75万倍での測定が、精度が良いと思われる。従って、30nm以下の析出物の割合は、正確には、0.7〜30nm、又は2.5〜30nmを指す。
耐摩耗性の測定は、次のように行なった。外径20mmの棒材を、切削加工及び穴明け加工等を施すことにより、外径19.5mm、厚さ(軸線方向長さ)10mmのリング状試験片を得た。次に、試験片を回転軸に嵌合固定すると共に、リング状試験片の外周面に、18mass%Cr、8mass%Ni、残Feから成るSUS304製ロール(外径60.5mm)を、5kgの荷重をかけた状態で転接させた上、試験片の外周面にマルチオイルを滴下しつつ(試験当初は、過剰に試験面が濡れるようにしその後、1日あたり10mLを補給滴下)、回転軸を209rpmで回転させた。そして、試験片の回転数が10万回に達した時点で、試験片の回転を停止して、試験片の回転前後における重量差、つまり摩耗減量(mg)を測定した。摩耗減量が少ない程、耐摩耗性に優れた銅合金ということができる。
上述した各試験の結果について説明する。表4、5は、工程K0での結果を示す。
発明合金は、比較用合金やCr−Zr銅よりも、平均結晶粒径が小さい。また、比較用合金よりも引張強度や硬度が僅かに高い程度であるが、伸び値は明らかに高く、導電率は低い。管・棒・線材は、押出上がりの状態のままで使用することは少なく、種々の加工を行なってから使用するので、押出上がりの状態では軟らかい方が良く、また導電率は低くてもよい。そして、冷間圧縮後、熱処理を施すと、硬度は比較合金より高くなり、Sn濃度の高いNo.22合金を除き、導電率は70%IACS以上になる。熱処理を施していない圧縮試験片を用いた700℃の高温試験では、導電率が65%IACS以上になり、加熱前に比べ、約25%IACS向上している。また、ビッカース硬度も110以上あり、再結晶化率も約20%で低く、比較合金より優れている。これらは、固溶状態にあったCo、P等の多くが析出したので、導電率が高くなり、析出物の平均粒径が、約5nmで細かいので、再結晶化を防いだと考えられる。
表6、7は工程K01での結果を示す。
C1100は、押出上がりで平均結晶粒径が大きく、またCu
2Oの晶出物が発生している。発明合金は、比較用合金やC1100よりも、引張強度や硬度等が少し高く、工程K0に比べ少し差が拡がる程度である。工程K0と同様この段階では、性能指数Iに大きな差は無い。ところが、工程K0と同様、冷間圧縮後、熱処理を施すと、硬度は比較合金より高くなり、導電率は70%IACS以上になる。熱処理を施していない圧縮試験片を用いた700℃の高温試験では、導電率が65%IACS以上になり、加熱前に比べ、約25%IACSも向上している。また、ビッカース硬度も120位あり、再結晶化率も約20%で低い。析出により、導電率が向上し、析出物の平均粒径が、約5nmで細かいので、再結晶化を防いだと考えられる。
表8、9は、工程K1での結果を示す。
発明合金は、比較用合金やC1100よりも、押出上がりでの平均結晶粒径が小さく、引張強度、ビッカース硬度、ロックウェル硬度において良好な結果となっている。また、伸びもC1100よりも高い。導電率も、殆どの発明合金は、C1100の70%以上の高い値になっている。また、発明合金は、700℃加熱後のビッカース硬度や、400℃での高温引張強度でも、比較用合金やC1100よりも非常に高い値を示している。また、発明合金は、冷間圧縮後のロックウェル硬度においても、比較用合金やC1100よりも高い値を示す。摩耗減量において、比較用合金やC1100よりも非常に低い値を示し、その中でもSn、Ag添加量の多い発明合金が良い。これらの様に、発明合金は、高強度・高導電銅合金であり、数式、X1、X2、X3の範囲、及び組成範囲で、できるだけ範囲の中央にある方が良い。
表10は、工程K1と工程K01後に700℃で120秒加熱した後の棒材の、引張強度、伸び、ビッカース硬度、導電率を示す。
熱処理TH1を行なっていない工程K01は、熱処理TH1を行なっている工程K1と引張強度、伸び、ビッカース硬度、導電率が同等である。工程K01は、700℃に加熱しても再結晶化率が低い。これは、Co、P等の析出が起こり、再結晶化を阻止したためと考えられる。また、この結果から、析出処理をしていない発明合金の材料で、ろう付け等により700℃で120秒程の加熱を行なう場合は、敢えて析出処理を行なう必要がない。
表11、12は、工程K2、K3、K4、及びK5での結果を、工程K1の結果と共に示す。
発明合金は、押出後に熱処理TH1のみを行なった工程K3、K5においても、引張強度やビッカース硬度等で良好な結果となっている。発明合金は、熱処理TH1の後に抽伸加工を行なっている工程K2、K4では、伸びは低くなっているが、引張強度やビッカース硬度がさらに高くなっている。発明合金は、比較用合金と比べて、工程K3での析出物の平均粒径が小さく、析出物の30nm以下の割合も小さい。また、発明合金は、工程K2、K3、及びK4で、比較用合金やC1100よりも、引張強度やビッカース硬度等の各機械的性質において、良好な結果となっている。図10は、合金No.11の工程K3の透過電子像である。析出粒子は平均粒径が3nmで細かく、均一に分布している。この合金No.11の工程K3の試料だけでなく、発明合金を本実施形態の製造工程で製造した管・棒・線材において、表11や後述する表21、24、25、31にて析出物の粒径のデータを記載している試料は、全て、任意の1000nm×1000nmの領域において、90%以上の析出粒子の最隣接析出粒子間距離が、150nm以下であり、また、任意の1000nm×1000nm領域において、析出粒子が25個以上存在していた。すなわち、析出物が均一に分布しているといえる。
発明合金は、熱処理TH1の有無に関わらず、また、棒材、圧縮加工材に関わらず、700℃120秒の加熱後の析出粒子の平均径は、約5nmで微細であるので、析出粒子によって再結晶化を防いでいると考えられる。図11は、合金No.11の工程K0における圧縮加工材に700℃120秒の加熱後の透過電子像である。析出粒子は平均粒径が4.6nmで細かく、30nm以上の粗大な析出粒子もほとんどなく、均一に分布している。また、熱処理TH1の後に700℃120秒の加熱をしたものは、析出粒子が微細なままで析出粒子の多くが再固溶せずに存在しているので、熱処理TH1の後の状態に較べて導電率の低下は10%IACS以下に留まっている(表11、12の試験No.1、32等参照)。
表13、14は、工程L1乃至L4での結果を、工程K1の結果と共に示す。
工程L1乃至工程L4は、工程K1とビレットの加熱温度が異なっている。加熱温度が適正な範囲(840〜960℃)に入っている工程L2、及び工程L3では、工程K1と同様に、引張強度やビッカース硬度等が高くなっている。一方、適正温度より低い工程L1では、押出上がりで未再結晶部分が存在し、最終加工後の引張強度、及びビッカース硬度が低くなっている。また、加熱温度が適正温度よりも高い工程L4では、押出上がりでの平均結晶粒径が大きくなっており、最終加工後の引張強度、ビッカース硬度、伸び、及び導電率が低くなっている。また、加熱温度が高いほうが、Co、P等がより多く固溶するので強度が高くなると思われる。
表15、16は、工程P1乃至P4での結果を工程K1の結果と共に示す。
工程P1、乃至工程P4では、押出速度や押出後の冷却速度が工程K1と異なっている。冷却速度が工程K1より速い工程P1では、工程K1での結果と比べて、押出上がりでの平均結晶粒径が小さくなり、最終加工後の引張強度やビッカース硬度等が向上している。冷却速度が適正な冷却速度の15℃/秒よりも遅い工程P2及び工程P4では、工程K1での結果と比べて、押出上がりでの平均結晶粒径が大きくなり、最終加工後の引張強度やビッカース硬度等が低下している。冷却を空冷で行なっている工程P3は、冷却速度が適正な速度よりも早いので、最終加工後の引張強度やビッカース硬度等において、良好な結果となっている。この結果から、最終の棒材において、高い強度を得るためには、冷却速度が速いほうが良い。冷却速度が速いほうが、Co、P等がより多く固溶するので強度が高くなると思われる。また、耐熱性においても冷却速度が速いほうが良い。冷却方法が水冷であり、工程K、L、M、N、Q、Rは、押出速度(ラムの移動速度、ビレットが押し出される速度)と押出比Hとの関係において、押出速度が、45×H
−1/3mm/秒から60×H
−1/3mm/秒の間にあるのに対し、P2は、押出速度が、30×H
−1/3mm/秒の値より小さく、一方、P1は、押出速度が、60×H
−1/3mm/秒の値より大きい。P1、P2、K1を比較すると、P2の引張強さが低い。
表17、18は、工程M1乃至M6での結果を工程K1の結果と共に示す。
工程M1、乃至工程M6は、工程K1と熱処理TH1の条件が異なっている。熱処理指数TIが適正条件より小さい工程M1、M2や、適正条件より大きい工程M4、M6や、熱処理の保持時間が適正な時間よりも短い工程M5では、適正条件内の工程M3、K1よりも、最終加工後の引張強度やビッカース硬度等が低下している。また、引張強度、導電性、伸びのバランス(これらの積、性能指数I)が悪い。また、耐熱性も適正条件から外れると悪くなる。
表19、20は、工程Q1、Q2、及びQ3での結果を、工程K1の結果と共に示す。
工程Q1、Q3は、工程K1と押出後の抽伸加工率が異なっている。工程Q2は、工程Q1の後にさらに抽伸加工を行なっている。また、工程Q1乃至工程Q3では、熱処理TH1の温度を抽伸加工率に応じて低くしている。押出後の抽伸加工率が大きい程、最終加工後の引張強度やビッカース硬度が向上し、伸びが低下している。また、熱処理TH1後に抽伸加工を追加することにより、伸びが低下するが、引張強度やビッカース硬度が向上している。
表21、22は、工程N1、N11、N2、N21、N3、及びN31での結果を示す。
工程N1は、熱処理TH1を2段階で行なっており、工程N11はその熱処理TH1を押出後に行なっている。工程N1、N11のいずれにおいても、工程K1、K3と同様に良好な結果を示している。工程N2、N21は、押出が直接押出であり、工程N1、N11と同様に2段階の熱処理TH1を行なっている。直接押出であっても、工程K1、K3と同様に良好な結果を示している。なお、寸法等が異なるが、工程N1の棒材は、工程K1の棒材より、導電性が良くなっている。工程N3、N31は、工程K1、K3と同様の工程であり、押出後の冷却速度が速い。押出後の平均結晶粒径が小さく、最終加工後の引張強度やビッカース硬度が良好である。一方、工程N2、N21は、冷却速度が少し遅いので、析出物の平均粒径が大きくなり、最終加工後の引張強度やビッカース硬度が少し低い。
表23、24は、工程S1乃至S9での結果を示す。
工程S1乃至S9は線材の製造工程であり、発明合金は、工程S1乃至S2において、比較合金やC1100よりも押出上がりでの平均結晶粒径が小さく、引張強度、ビッカース硬度において良好な結果となっている。また、熱処理TH2を行なっている工程S2では、工程S1よりも繰返し曲げ回数が向上しており、熱処理TH2を行なっている工程S4、S5、S6、S9においても、繰返し曲げ回数が向上している。特に、熱処理TH2の保持時間が長いS9は、強度は少し低いが、繰返し曲げ回数が多くなっている。また、発明合金は、熱処理TH1、TH2、及び伸線工程を種々に組み合わせた工程S3乃至工程S6においても、良好な引張強度やビッカース硬度を示している。最後の工程を熱処理TH1上がり又は、最終に近い工程で熱処理TH1を施すと、強度は低いが、特に耐屈曲性に優れたものが得られた。また、熱処理TH1を2回行っている工程S7、S8においては、繰返し曲げ回数が特に向上している。熱処理TH1前のトータルの伸線加工率が75%以上で高い場合、熱処理TH1を施すと、約15%再結晶するが、その再結晶粒の大きさが約3μmで小さい。このため、強度は少し低下するが、耐屈曲性が向上する。
表25、26は、工程R1、及びR2での結果を示す。
工程R1及びR2は管材の製造工程であり、発明合金は、工程R1、R2において、押出後の冷却速度が速いので、析出物の大きさが小さく、良好な引張強度やビッカース硬度等を示している。
表27、28は、工程T1、及びT2での結果を工程K3、K4の結果と共に示す。
工程T1、T2は溶体化−時効・析出を行なっている。工程T1、T2では、押出上がりでの、平均結晶粒径が、工程K1、K2と比べて、非常に大きくなっている。そして、引張強度、ロックウェル硬度、導電率は、工程T1、T2と工程K3、K4とで同等になっている。また、Cr−Zr銅で工程T1、T2を行なったものは、発明合金で工程K3、K4を行なったものと比べて、押出上がりでの、平均結晶粒径が非常に大きく、引張強度、ロックウェル硬度が少し低く、導電率が少し高くなっている。一般的な溶体化−時効・析出材では、溶体化において高温で長時間加熱する為に、結晶粒は粗大化する。一方でCo、P等は、十分に溶体化すなわち固溶しているので、その後の熱処理、時効析出により、本実施形態より微細なCo、P等の析出物が得られる。ところが、その後の抽伸、冷間伸線後の強度を比較すると、発明合金と同等か少し低くなっている。これは、発明合金に比べ、析出硬化自体は溶体化−時効・析出材が上回るが、結晶粒が粗大化した分がマイナスとして相殺され、同等の強度になったと考える。
表29、30は、工程T3での結果を工程S6の結果と共に示す。
工程T3は、溶体化−時効・析出を行なっている線材の製造工程である。工程T3では、押出上がりでの、平均結晶粒径が工程S6と比べて、非常に大きくなっている。そして、引張強度、ビッカース硬度、導電率は、工程T3と工程S6とで同等になっているが、伸び、繰り返し曲げは工程S6が上回る。これは上述した工程T1、T2と同様で、工程T3は、析出効果自体は工程S6を上回るが、結晶粒が粗大化している分がマイナスになり相殺され、同等の強度となった。しかし、伸びや繰り返し曲げは結晶粒が粗大になっているので悪い。
表31、32は、発明合金とCr−Zr銅の工程K1、K3における、同一押出での頭部、中央部、尾部でのデータを示す。
Cr−Zr銅は、工程K1、K3のいずれにおいても、頭部と尾部とで、押出上がりで平均結晶粒径に差があり、引張強度等の機械的性質も大きな差があった。発明合金は、工程K1、K3のいずれにおいても、頭部と中央部と尾部とで、押出上がりで平均結晶粒径に差が少なく、引張強度等の機械的性質も均一であった。発明合金は、機械的性質の押出製造ロット内バラツキが小さい。
上述した各実施例において、略円形、又は略楕円形の微細な析出物が均一に分散しており、析出物の平均粒径が、1.5〜20nmであるか、又は全ての析出物の90%以上が30nm以下の大きさである管・棒・線材であり、ほとんどの析出物が、好ましい範囲である平均粒径が1.5〜20nmであり、かつ、全ての析出物の90%以上が30nm以下の大きさの管・棒・線材が得られた(表11、12の試験No.32、34等、及び図10の透過電子顕微鏡像参照)。
熱間押出上がりでの平均結晶粒径が5〜75μmである管・棒・線材が得られた(表8、9の試験No.1、2、3等参照)。
熱間押出後から熱処理TH1までの、トータルの冷間抽伸/伸線加工の加工率が75%を超えており、熱処理TH1後の金属組織において、マトリックスの再結晶率が45%以下であって、再結晶部の平均結晶粒径が、0.7〜7μmである管・棒・線材が得られた(表23、24の試験No.321、322等参照)。
押出製造ロット内の引張強度のバラツキでの(最小引張強度/最大引張強度)の比が0.9以上であり、かつ、導電率のバラツキでの(最小導電率/最大導電率)の比が0.9以上である管・棒・線材が得られた(表31、32の試験No.231、1、232等参照)。
導電率が45(%IACS)以上で、性能指数Iの値が4300以上の管・棒・線材が得られた(表8、9の試験No.1乃至3、表23、24の試験No.171乃至188、及び試験No.321乃至337、表25、26の試験No.201乃至206及び313等参照)。さらに、導電率が65(%IACS)以上で、性能指数Iの値が4300以上の管・棒・線材が得られた(表8、9の試験No.1及び2、表23、24の試験No.171乃至188、及び試験No.321乃至337、表25、26の試験No.201乃至206及び313等参照)。
400℃での引張強度が200(N/mm2)以上の管・棒・線材が得られた(表8、9の試験No.1等参照)。
700℃で120秒加熱後のビッカース硬度(HV)が90以上、又は加熱前のビッカース硬度の値の80%以上である管・棒・線材が得られた(表11、12の試験No.1、31、32等参照)。さらに加熱後の金属組織中の析出物は、加熱前に比べ大きくなるが、平均粒径で1.5〜20nm、又は全ての析出物の90%以上が30nm以下であり、そして金属組織中の再結晶化率は45%以下であり、優れた耐熱性を示した。
冷間伸線加工の間、及び/又は後に、200〜700℃で0.001秒〜240分の熱処理を施され、耐屈曲性に優れた線材が得られた(表23、24の試験No.172、174、175、176等参照)。
外径3mm以下で、かつ耐屈曲性に優れた線材が得られた(表23、24参照)。
また、上述した実施例から次のことが言える。C1100は、Cu2Oの晶出粒子が存在するが、その粒径が約2μmと大きいために強度に寄与せず、金属組織への影響も少ない。そのために、高温強度も低く、粒径が大きいので、繰返し曲げ加工性が決して良いとは言えない(表6、7の試験No.G15、及び表8、9の試験No.23等参照)。
比較用合金の合金No.41乃至49は、Co、P等が適正範囲を満足しておらず、また、配合量のバランスが悪いために、Co、P等の析出物の粒径が大きく、その量も少ない。そのために、再結晶粒の粒径が大きいので、強度、耐熱特性、高温強度が低く、摩耗減量が多い(表8、9の試験No.14乃至22、及び表11、12の試験No.48乃至57等参照)。
また、比較用合金は、冷間圧縮を行なっても硬度が低い(表8、9の試験No.14乃至18参照)。発明合金は、再結晶粒径が小さい。本実施形態の製造工程程度の溶体化で、その後に時効処理を行なうと、固溶していたCo、P等が微細に析出し、高い強度を得られ、また、殆どが析出しているので高い導電性を得る。また析出物が小さいので、繰返し曲げ性にも優れる(表8、9の試験No.1乃至13、表11、12の試験No.31乃至47、及び表23、24の試験No.171乃至188等参照)。
発明合金は、Co、P等が微細に析出しているので、原子の移動を妨げ、またマトリックスもSnにより耐熱性が向上していることも相俟って、400℃の高温でも、組織的変化が少なく、高い強度を得る(表8、9の試験No.1、4等参照)。
発明合金は、引張強度、硬度が高いので、耐摩耗性が高く、摩耗減量が小さい(表8、9の試験No.1乃至6等参照)。
発明合金は、工程中において、低温で熱処理を施すことにより、最終材の強度は向上する。これは、高度の塑性加工後に行なわれたため、原子レベルの原子の再配列が生じたことによるものと思われる。最終に低温で熱処理を施すと、強度は少し低下するが、優れた耐屈曲性を示す。従来のC1100では見られない現象である。耐屈曲性が要求される分野では、非常に有益である。
Cr−Zr銅を本実施形態の製造工程で製作した場合、押出頭部と尾部の時効後の強度は著しい差が生じ、尾部の強度はすこぶる低く、その強度比は約0.8である。また、尾部の耐熱特性他の特性も非常に低い。これに対し、発明合金は、約0.98であり均一特性を示す(表31、32参照)。
なお、本発明は、上記各種実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で、種々の変形が可能である。例えば、工程中の任意のところで洗浄を行なってもよい。