JP5041758B2 - 人工地盤を有する免震構造物 - Google Patents
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このような免震構造物における設計方法として、基礎杭の上部に剛体と見なせるような剛性の高い基礎構造物を構築することによって、上部構造物の設計を基礎とは切り離して設計するいわゆる上下部別設計方法がある。このようにすることにより、設計の単純化を図ることができる。
基礎構造の上部に配置される下層構造物と、該下層構造物の上部に配置される上層建築物とからなる建築物の免震構造であって、前記下層構造物の柱頭部には、免震装置が配置されて、上層建築物と下層構造物との間に中間階免震層が形成されるとともに、前記上層建築物が、上弦材、下弦材、斜材及び垂直材よりなる鉄骨トラス造より構築されることを特徴とする建築物の免震構造(特許文献1参照)。
特許文献1のものは、基礎杭の上部に剛性の高い基礎構造物を構築し、この基礎構造物に基礎構造物と同様の剛性の高い下層構造物の柱を構築し、この柱の頭部に免震装置を設置するというものである。
しかしながら、特許文献1のものは基礎杭の上部に剛性の高い基礎構造物を構築する必要があり、そのため施工の手間やコストが過大になるという問題がある。
地盤に打設された基礎杭の頭部における免震装置を介して上部構造が構築され、該上部構造と地盤との間における基礎杭の周囲にのみメンテナンス用空間が形成され、該メンテナンス用空間が連絡用通路で連結されたことを特徴とし、前記メンテナンス用通路は格子状に形成され、またメンテナンス用空間および連絡用通路は地盤を掘り下げて形成され、該地盤の掘り下げによって発生した掘削残土が、連絡用通路で囲まれた地盤の表面に埋め戻された構成を有する免震構造物(特許文献2参照)。
この免震構造物では基礎杭の周囲にのみメンテナンス用空間が形成され、これが連絡用通路で連結することにより、免震装置のメンテナンス用空間を必要最小限の大きさにすることができる。
他方、特許文献2のものでは基礎杭の上部に基礎構造物の構築が必要ないので、その分のコスト低減が期待できる。
しかしながら、特許文献2では、連絡用通路で連結されたメンテナンス用空間を必要としており、基礎構造自体は軽減されるものの低層で床面積の大きな建築物では、建築延べ床面積に対してメンテナンス空間の占める割合が大きくなり、結局大きなコスト低減効果は期待できない。
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、低層で床面積の大きな建築物に対してもコストを安価にでき、耐震性能に優れた免震構造物を提供することを目的とする。
前記人工地盤層は、地盤の上方に延出させた基礎杭である鋼管杭と、該鋼管杭の杭頭部に設けられて杭相互の相対変位を拘束する相対変位拘束部材とを備えてなり、
免震層は、鋼管杭の杭頭部に免震装置を設置して構成され、相対変位拘束部材は鉄骨、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)、プレキャストコンクリート、鉄筋コンクリート(RC)部材からなり鋼管杭の杭頭部側面に接合されていることを特徴とするものである。
人工地盤層は、地盤と同様に上層建築物とは切り離していわゆる上下部別設計を行うことができる一定の剛性を備えている。もっとも、人工地盤層は、一般の地盤とは異なり地盤の上方に基礎杭を延出させて構成されることから、人工地盤層には一定の空間が形成され、例えばトラックバースとしての利用が可能である。
図1は本発明の一実施形態に係る人工地盤を有する免震構造物の骨組構造の説明図であり、人工地盤層をトラックバースとして利用し、上階が4層からなる倉庫の例である。
本実施の形態に係る構造物は、トラックバースとして利用可能な人工地盤層1と人工地盤層1の上方に構築された上層建築物3との間に免震層5が形成されてなる免震構造物である。そして、人工地盤層1は、地盤6の上方に延出させた免震構造物の基礎杭である鋼管杭7と、鋼管杭7の杭頭部に設けられて杭相互の相対変位を拘束する相対変位拘束部材9と、を備えて構成されている。
以下、各構成をさらに詳細に説明する。
人工地盤層1は、基礎杭である鋼管杭7を地盤6の上方に延出させ、これに相対変位拘束部材9を設置して構成されている。基礎杭である鋼管杭7を地盤6の上方に延出させることにより、トラックバースとして利用できる空間を形成している。
また、上層建築物3と切り離して上下部別設計を可能にするため、人工地盤としての剛性を確保するために、鋼管杭7の頭部を相対変位拘束部材9で拘束している。
このように人工地盤層1を構成することで、人工地盤層1に特別の制震装置を設ける必要がなく、建物の構成を単純化できコスト低減を図ることができる。
また、架構の一部に制震ダンパーなどの制震装置を設置してもよい。このようにすれば、杭断面の低減が図れることからコストダウンを実現できる。
本実施の形態の上層建築物3は建物の2階から5階に相当する。そして、図に示されるように、2階〜5階部分は架構部にブレース20を設置したブレース付きラーメン構造になっている。通常、倉庫のような建物の場合には壁部に窓を設ける必要がないので、その場合にはブレース付きラーメン構造とすることで鋼材重量を低減でき、コスト低減を実現できる。
しかし、免震装置5のアイソレータのみを考慮した1次固有周期と上階構造物の1次固有周期はできるだけ離したほうが耐震性能が向上するので、上階骨組は、鉄骨構造であれば固有周期が短くなるブレース構造にすることで免震装置との固有周期が離れるため好ましい。また、ブレース構造にするとコストダウンも図れるので、この点でも望ましい。特に、構造物が、物流倉庫や店舗構造物の場合には採光、通風のための窓をとる必要性が一般の建築物よりも低いので、このような構造物の場合にはブレース構造とするのが好ましい。
座屈拘束ブレースに代えることで、上層建築物3に揺れが生じるような場合にもエネルギー吸収が可能となり耐震性の向上を図ることができる。
なお、上層建築物3は耐震性能が満足されれば構造種別は問わず、ブレースを用いないラーメン構造でもよい。
免震層5は、鋼管杭7の杭頭部に免震装置13を設置して構成されている。
免震装置13は、アイソレータとダンパーから構成される。アイソレータとは、ゴムと鋼板を交互に何層にも重ねた積層ゴムもしくは低摩擦スライドシューからなるものである。
図2は図1における丸で囲んだA部を拡大して示す拡大図である。図2に示すように、
免震装置5は、アイソレータ21をベースプレート23の上面に固着すると共に該ベースプレート23の下面に杭径の1.5倍程の長さの鋼管25(蓋26付き)を固着し、該鋼管25を仕切板27を設置した鋼管杭7に挿入し、鋼管杭7内にコンクリート29を注入して固定している。
なお、杭頭部に挿入する鋼管25の長さは、杭径の1〜2倍程度であり、1.5倍程度が好ましい。1倍以下であると耐力的に不十分であり、2倍を超えると不経済となる。
また、鋼管25内に予めコンクリートを充填しておいてもよい。
また、杭打ち位置が設計位置からずれた場合であっても、杭頭部に免震装置13を設置する際に免震装置13を上層構造物との関係で所定の位置に設置することができ、杭打ちの施工誤差を吸収できるので施工上のメリットが大きい。
なお、免震装置13の設置方法として、鋼管25に代えてアンカーボルトを設置して、鋼管杭内にコンクリートを打設することにより一体化してもよい。
相対変位拘束部材9は、鋼管杭7の杭頭部を拘束して水平移動を拘束するものであり、水平力に対して抵抗できる強度があればよい。具体的には、鉄骨、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)、プレキャストコンクリート、鉄筋コンクリート(RC)部材など構造種別は問わない。
相対変位拘束部材9の設置方法としては、例えば相対変位拘束部材9として鉄骨梁を採用した場合には図2に示すように、杭頭部に上下方向に所定間隔を離してダイヤフラム31、33を接合すると共に上下のダイヤフラム間に接合板35を固定する。そして、鉄骨梁9の上下フランジ9a、9bをそれぞれ上下のダイヤフラム31、33に溶接接合し、鉄骨梁9のウェブ9cを接合板35にボルト接合する。
また、相対変位拘束部材9が鋼管杭7の相互の相対変位を拘束することにより、各鋼管杭7の杭頭の水平変形がより拘束されるとともに、杭頭部の回転も相対変位拘束部材9の剛性に応じて拘束されるので、免震装置13に作用する付加的な曲げモーメントを小さくすることができる。
さらに、相対変位拘束部材9は、各鋼管杭7の水平方向の変位を同じにし、人工地盤層の挙動を一定にする効果がある。
さらに、特許文献1に示されたような基礎構造物を構築する必要がないので、この点でもコスト低減と、工期の短縮を実現できる。
図3は本発明の実施の形態2に係る人工地盤を有する構造物の骨組構造の説明図であり、実施の形態1と同様に、人工地盤層がトラックバースとして利用可能で、上階が4層からなる倉庫の例である。図3において、図1と同一部分には同一の符号を付してある。
(a)上層建築物3において、2階及び3階部分を実施の形態1と同様にブレース付きラーメン構造とし、4階及び5階部分をラーメン構造とした点。
(b)鋼管杭7の全長に亘ってコンクリート30を充填している点。
(c)相対変位拘束部材9として鉄骨梁37を用い、鉄骨梁37を、仕口部材39を介して鋼管杭7に接合すると共にアイソレータ21を仕口部材39に設置した点。
挿入支柱の下端にはプレート45cが接合され、挿入支柱41内は空になっている。もっとも、挿入支柱41内に予めコンクリートを充填するようにしてもよい。
そして、鉄骨梁37の端部における上下フランジ37a、37bが接合部材43の上下フランジ部に溶接され、鉄骨梁37のウェブ37cが接合部材43のウェブにボルト接合されている。
また、鉄骨梁37を、仕口部材39を介して鋼管杭7に接合したことにより、鉄骨梁37の設置における施工性がよい。
また、鋼管杭7に代えて、PHC杭(プレテンション方式遠心力プレストレストコンクリートパイル)の上部に鋼管を配して一体化した合成杭を用いてもよい。
このような合成杭を用いることによって、コスト低減を図ることができる。
なお、PHC杭に代えて、鉄筋コンクリート場所打ち杭を用いてもよい。
まず、実施例および比較例の諸元を示す。
1.実施例
(1)実施例1
実施例1は1F〜7Fからなる7層の物流倉庫であり、その架構図を図5に示す。杭は円形鋼管杭7、円形鋼管杭7の水平移動を拘束する相対変位拘束部材9はH形鋼を用いている。円形鋼管杭7とH形鋼は杭頭部に溶接接合されたシアキーとH形鋼のウェブがボルト接合されている。
上層建築物は、柱が角形鋼管、梁がH形鋼よりなる架構に座屈拘束ブレース50を設置したブレース付きラーメン骨組より構成されている。
人工地盤層の階高は6M、上層建築物の階高は5Mである。
また、円形鋼管杭7における相対変位拘束部材9を接合した部位及び土間コンクリート打設部には、杭径と同じ長さ分だけコンクリートを充填した。
免震装置13は、上層建築物の最下層柱と同じ角形鋼管の上下にベースプレートを溶接して挿入支柱を構成し、ベースプレートの上部に鉛ダンパー入り免震ゴムを高力ボルトで接合している。また、人工地盤床面は地ならしをした後、土間コンクリートを打設した。
この実施例1の諸元は以下の表1に示す通りである。
図6に実施例2の架構図を示す。実施例2では、杭をコンクリート充填鋼管杭とし、地盤面付近の相対変位拘束部材9としてH形鋼梁を用いている。また、杭とH形鋼梁との接合は、実施の形態2で示した仕口部材39を用いて剛接合されている。
また、人工地盤層の一部の構面(図中の左右両端の構面)には座屈拘束ブレース51が設置されている。座屈拘束ブレース51は、地盤面上と相対変位拘束部材9としてH形鋼梁との間に設置されている。
さらに、図6の第3層(上層建物第1層)の柱脚部に接合される梁を、各柱脚部の相対変位を拘束する部材とし、柱とピン接合した。
その他の点は実施例1と同様である。
実施例1の杭を耐震場所打ち杭(現場打ちRC杭の杭頭部付近に内面リブ付き鋼管を設置する合成杭)に換え、上層建物をRC構造物とした。他は実施例1と同じとする。
(1)比較例1
比較例1は実施例1における免震層をなくし、人工地盤層の上に上層建物がある構造としたものであり、その他の構成は実施例1と同じである。
(2)比較例2
実施例1における相対変位拘束部材9をなくしたものであり、その他の構成は実施例1と同様である。
地震応答解析結果を図7に示す。また、図7において横軸は層間変位角(rad)の最大値を示しており、縦軸は各層(各階)を示している。
3つの実施例の中では、杭頭拘束効果が最も大きい実施例2が最も層間変位角が小さくなっている。また、実施例1も層間変位角は1/200を大幅に下回っており、大地震時にも無損傷とすることができる。
比較例1は杭頭部の相対変位を拘束する部材のないものであるが、このため第1層に大きな層間変位角が生じ、免震効果も実施例に比較して小さくなっている。このことから、相対変位拘束部材が免震効果に必須の部材であることが分かる。
Claims (7)
- 人工地盤層と該人工地盤層の上方に構築された上層建築物との間に免震層が形成されてなる免震構造物であって、
前記人工地盤層は、地盤の上方に延出させた基礎杭である鋼管杭と、該鋼管杭の杭頭部に設けられて杭相互の相対変位を拘束する相対変位拘束部材とを備えてなり、
免震層は、鋼管杭の杭頭部に免震装置を設置して構成され、相対変位拘束部材は鉄骨、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)、プレキャストコンクリート、鉄筋コンクリート(RC)部材からなり鋼管杭の杭頭部側面に接合されていることを特徴とする免震構造物。 - 免震装置はアイソレータを備えてなり、該免震装置は、前記アイソレータをベースプレートの上面に固着して、該ベースプレートの下面に鋼管を固着し、該鋼管を鋼管杭に挿入してコンクリートによって定着することによって設置されていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造物。
- 相対変位拘束部材は、鋼管杭の杭頭部に挿入した挿入支柱を備えてなる仕口部材を介して設置され、免震層は、該仕口部材に免震装置を設置して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造物。
- 鋼管杭における相対変位拘束部材が設置される部位および人工地盤層の床面である土間コンクリートが打設される部位において、少なくとも杭径と同じ高さの範囲にコンクリートを充填したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の免震構造物。
- 鋼管杭に代えて鉄筋コンクリート場所打ち杭またはPHC杭の上部に鋼管を配して一体化した合成杭を用いたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の免震構造物。
- 上層建築物の骨組がブレース付きラーメン構造であって、ラーメン構造が、鉄骨構造、または鉄骨鉄筋コンクリート構造、または柱がコンクリート充填鋼管で梁が鉄骨鉄筋コンクリート構造、または柱がコンクリート充填鋼管で梁が鉄骨構造であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の免震構造物。
- ブレースが座屈拘束ブレースであることを特徴とする請求項6に記載の免震構造物。
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