JP4958299B2 - チーズ類の製造法 - Google Patents

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本発明は、高水分軟質チーズを原料とするチーズ類の製造において、高水分軟質チーズが本来有する風味を損なうことなく、増粘及び油分離などの製造工程での不具合を起こすことなく、カット適性が良好な硬度(110g以上)を有し、耐熱保形性が80%以上であるチーズ類の製造法と、その製造法により得られる新規なチーズ類に関する。
クリームチーズなどの高水分軟質チーズは、軟らかいことから、パンやクラッカーに塗られ、あるいはチーズケーキなどのように生地に混ぜられて使用されることが多い。商品としてもより塗り易くしたペースト状のものでカップに入ったものなどが多く作られている。一方、チェダー、ゴーダなどのハード系チーズでは使い勝手の良い商品形状として、サイノメ、スライス、シュレッドなどの小片カット製品があるが、クリームチーズのような高水分軟質チーズにおいてはその軟らかさ、付着性(べたつき)から、小片同士の結着や包材からの剥離性に問題が生じ、小片カットの製品形状を実現するには無理があった。寒天、ゼラチン、澱粉等のゲル化剤で固めてカットしやすくし、付着性も低減することはできるが、口溶けが悪くなるなどするため、高水分軟質チーズの風味の良さを生かしたまま製品化するには至っていない。もし高水分軟質チーズの風味の良さを生かしたままサイノメ、スライス、シュレッドなどの小片カット製品にすることができれば、またオーブンなどの加熱によるチーズの溶解・変形がある範囲内に抑えられれば使用用途の範囲は非常に拡大することが見込まれる。
剥離を解決する方法として、安定剤やゲル化剤を保形剤として用いることが考えられる。例えば、(1)クリームチーズにローカストビーンガム、カラギナン、グアーガム、キサンタンガム、カードラン、キトサン、ペクチン、アルギン酸塩を添加する方法(特許文献1:特開平4−187047)、(2)水分量が高いチーズに寒天を0.05〜1.5重量%添加する方法(特許文献2:特開平10−28526)等が報告されている。
また、オーブンなどの熱による溶解・変形を抑える方法として、(3)クリームチーズなどのチーズ原料にカードランを安定剤及び/又はガム質と共に添加して耐熱保形性を有するチーズの製造法(特許文献3:特許公報 第2908522号)が報告されている。
しかし、(1)の方法については、製造されるチーズはスライス状にカットできる物性を有しているものの安定剤及びゲル化剤由来の糊感が強く、高水分軟質チーズ本来の風味を損なっており、製造されるチーズ及びスライス状にカットしたチーズについても耐熱保形性に関して言及されていなかった。
また、(2)の方法で製造されるチーズは、カット適性を有しているが、耐熱性の評価は焦げ具合を目視しているだけであり、保形性を評価していなかった。更にゲル特有の食感を有しており、高水分軟質チーズ本来の風味を損なっていた。
そして(3)の方法については、充填に適した組織及び耐熱保形性に関する記述がなされているが、充填したチーズがカット適性を有するという知見は得られていなかった。
特開平4−187047号公報 特開平10−28526号公報 特許第2908522号公報
本発明は、高水分軟質チーズを原料とするチーズ類の製造において、高水分軟質チーズが本来有する風味を損なうことなく、カット適性及び耐熱保形性が良好なチーズ類を製造する方法と、その製造法により得られる新規なチーズ類の提供を課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、最終製品中にゼラチンを1.0〜5.0w/w%および乳タンパク濃縮物を1.4〜5.0w/w%、を添加・混合して製造するチーズ類において、高水分軟質チーズ本来の風味を損なわず、安定的に製造が可能で、かつカット適性及び耐熱保形性が良好なチーズ類の新規の製造法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明はチーズ類の製造法において、ゼラチンおよび乳タンパク濃縮物を一定範囲の添加量で使用することにより、高水分軟質チーズの良好な風味を有し、かつカット適性及び耐熱保形性を有するチーズ類を効率的に得られることができたことを特徴としており、下記の態様が包含される。
すなわち、本発明は、
[1] 高水分軟質チーズを1種類又は2種類以上含有する混合物、ゼラチンを1.0w/w%〜5.0w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜5.0w/w%含有し、かつカット適性および耐熱保形性を有するチーズ類、
[2] 前記ゼラチンの濃度が1.0w/w%〜3.0w/w%であり、かつ前記乳タンパク濃縮物の濃度が1.4w/w%〜4.8w/w%であることを特徴とする、前記[1]に記載のチーズ類、
前記チーズ類が、高水分軟質チーズの良好な風味を有しているものであり、10℃での硬度が110g以上、および耐熱保形性が80%以上であることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載のチーズ類、
前記高水分軟質チーズを原材料中75w/w%以上含有していることを特徴とする、前記[1]〜[]のいずれか1つに記載のチーズ類、
] 前記[1]〜[]のいずれか1つに記載のチーズ類をカットしてなる、スライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状のチーズ類、
] カット適性及び耐熱保形性を有するチーズ類の製造方法であって、高水分軟質チーズを1種類又は2種類以上含有する混合物、ゼラチンを1.0w/w%〜5.0w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜5.0w/w%含有せしめることを特徴とする、チーズ類の製造方法、
[7] 前記ゼラチンを1.0w/w%〜3.0w/w%含有せしめ、かつ前記乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜4.8w/w%含有せしめることを特徴とする、前記[6]に記載のチーズ類の製造方法、
前記チーズ類が、高水分軟質チーズの良好な風味を有しているものであり、10℃での硬度が110g以上、および耐熱保形性が80%以上であることを特徴とする、前記[6]又は[7]に記載のチーズ類の製造方法、
前記高水分軟質チーズを原材料中75w/w%以上使用することを特徴とする、前記[]〜[]のいずれか1つに記載のチーズ類の製造方法、
10] 前記[]〜[]のいずれか1つに記載の製造方法で得られたチーズ類をカットすることを特徴とする、スライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状のチーズ類の製造方法、
からなる。
本発明により、チーズ類において、高水分軟質チーズが本来有する風味を損なうことなく、増粘及び油分離などの製造工程での不具合を起こすことなく、カット適性及び耐熱保形性を有するチーズ類を効率的に得ることを可能とするものである。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。なお、特に明示のない限り添加量は、最終製品であるチーズ類に対するw/w%を示す。
本発明において、チーズ類とは、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、チーズフード、または乳等を主要原料とする食品を指す。
本発明のチーズ類の製造の原料に用いられ、あるいはチーズ類の風味の指標となる高水分軟質チーズとは、水分含量が高いナチュラルチーズ(例えばクリームチーズやクワルク、カッテージ、モッツアレラ、マスカルポーネ、フロマージュフレ、カマンベール、ブリー、ヌーシャテル、リコッタ等を指す)、水分含量の高いナチュラルチーズを原料用チーズ中に60w/w%以上使用するプロセスチーズ、水分含量の高いナチュラルチーズを原料用チーズ中に60w/w%以上使用するチーズフード、または水分含量の高いナチュラルチーズを原料用チーズ中に60w/w%以上使用する乳等を主要原料とする食品を指すことができるが、本発明においてはこれらの例に限定されない。これらは、乳等省令に定めるナチュラルチーズの規格を満たすものを用いることができるが、規格外であっても規格に準じて製造したものを用いてもよい。なお、ここでいう「水分含量が高いナチュラルチーズ」とは、ナチュラルチーズ中の水分含量が45w/w%〜80w/w%であることを指す。
本発明のチーズ類の製造の原料に用いることができる「チーズ」以外の原料として、バター、バターオイル、クリーム、クリームパウダー、バターミルク、牛乳、濃縮乳、脱脂粉乳、ホエイ、乳タンパク濃縮物、ホエイタンパク濃縮物、乳糖などの乳製品、及び溶融塩、安定剤、pH調整剤、調味料等の食品衛生法で認められており、チーズ製造に一般的に用いられる添加物を使用することができるが、本発明においてはこれらの例に限定されない。
また、本発明のチーズ類に香りや味を付与する目的等で乳に由来しないものを添加することもできる。例えば、果実、果汁、ナッツ類(クルミ、アーモンド等)、香草(バジル等)、スパイス(コショウ等)、シロップ(メープルシロップ、ハチミツ等)など又はその加工品(オレンジピール、果物のジャム、果物の乾燥物等)、あるいは香料、甘味料、調味料、矯味料などの食品添加物等を添加したチーズ類を製造することもできるが、本発明においてはこれらの例に限定されない。本発明でいうチーズ類にはこれらの製品も含むことができる。
本発明において溶融塩を用いることができる。本発明のチーズ類の製造で用いることができる溶融塩は、例えば、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムなど、通常のプロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品、の製造に一般的に用いられる溶融塩を指す。本発明においては特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、等が挙げられる。その添加量は0.1w/w%〜10w/w%が好ましく、0.1w/w%〜3w/w%がより好ましい。
本発明において、製造工程における増粘及び油分離を生じさせずにカット適性及び耐熱保形性を付与するためにゼラチンおよび乳タンパク濃縮物を併用する。ゼラチン、乳タンパク濃縮物は、一般に市販されているものであれば、どの銘柄を使用しても良い。本発明においては、ゼラチンを1.0w/w%〜5.0w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜5.0w/w%含有することが好ましい。より好ましくは、ゼラチンを1.0w/w%〜4.5w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜4.8w/w%含有することが好ましい。
さらに好ましくは、ゼラチンを1.0w/w%〜3.0w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜4.8w/w%含有することが好ましい。また、ローカストビーンガム、グアーガム、寒天、カラギナン、HM−ペクチン、LM−ペクチン、タラガム、ジェランガム、カードラン、澱粉、卵白等、他の安定剤やゲル化剤を高水分軟質チーズの良好な風味を損なわない範囲内で併用してもかまわない。
ゼラチンは、牛、豚、鳥、魚等の動物の骨、軟骨、皮、皮膚、靱帯、腱、白色結合組織、魚鱗、等を処理して得たコラーゲンを熱水抽出し、コラーゲンの三重らせん構造を不可逆的に解いたものである。分子量が約10万〜70万Daの水溶性タンパク質であり、その水溶液は約20〜25℃でゲル化する性質を有する。ゲル化の温度は、ゼラチン濃度、共存する塩の種類・濃度、水溶液のpHによって異なる。また、ゼラチン溶液の粘度はpH、温度、塩類等の影響を受け、等電点付近で最少の粘度を呈する。凝固物の状態は、寒天に比べて柔軟性、弾性に富むため口当たりが軟らかいのが特徴である。また、コラーゲンを酸又はアルカリ処理により抽出したゼラチンをゼラチンタイプA(酸処理して得たゼラチン、等電点は約pH7.0〜9.0)又はゼラチンタイプB(アルカリ処理して得たゼラチン、等電点は約pH4.7〜5.1)ともいう。本発明において、ゼラチンは前述のいずれの種類のゼラチンを使用することもできるが、ゼラチンタイプA又はゼラチンタイプBを好適に使用することができる。
乳タンパク濃縮物は、一般にMPC(Milk Protein Concentrate)又はTMP(Total Milk Protein)と呼ばれており、本発明ではこれらを総称してMPCと記す。MPCはカゼイン、乳清タンパク質等のタンパク質を高度に含有することを特徴とする。通常、MPCはタンパク質を約80w/w%、乳糖を約5w/w%、ミネラルを約7.5w/w%含有している。本発明のチーズ類の製造に用いられる乳タンパク濃縮物はこの例に限定されない。とりわけ、タンパク質を約75w/w%以上含有するものを用いるのが好ましい。
本発明のチーズ類の製造方法においては、少なくとも前記高水分軟質チーズに加えてゼラチンおよび乳タンパク濃縮物を原材料に用いる。必要に応じて、前述の他の原料を添加することもできる。その製造工程は、プロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品、の製造における一般的な方法に従って行う。例えば以下の2通りの工程で行うことができる。
(1)加熱乳化:上記の原材料をプロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品の製造における一般的な条件(温度等)で加熱乳化する。また、加熱乳化は攪拌混合しながら行うことが好ましい。加熱乳化に使用する乳化機としては、特に限定されないが、通常チーズ類の乳化に使用しているクッカー型乳化機、ケトル型乳化機、ステファン型乳化機、表面掻き取り式乳化機等を例示することができる。
(2)原材料混合:安定剤及びゲル化剤、また必要に応じてチーズ以外の原料を水又はバターミルクなどに溶解・分散してミックス液を調製することができる。これを高水分軟質チーズのチーズカードと混合し、プロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品の製造における一般的な条件(温度等)で加熱攪拌する。
本発明において、製造工程における高粘性(増粘ともいう)とは、加熱乳化終了時のチーズ類が400パスカル秒(Pa・s)以上の粘度となる状態を指す。安定剤及びゲル化剤等を使用したチーズ類は、加熱すると餅様の粘りを有して高粘性となりやすいため、著しく流動性を損ないやすい。その結果、ロータリーポンプ等の汎用性の高い装置で後工程にチーズ類を送ることが困難となる。このため、高粘物用の特殊な装置を使用しなければならなくなる。例えば、上記チーズ類の製造における加熱攪拌終了直後、あるいは一般的な安定剤の溶解温度である約83℃においてチーズ類が高粘性の状態とならない事が必要となる。その一方で、充填、冷却、流通の過程においては、チーズ類が固形状である事が重要である。とりわけ、冷蔵温度においてチーズ類が固形状であるのが好ましい。本発明でいう冷蔵温度とは、食品製造において一般的な冷蔵工程で用いられる温度帯をいう。例えば、10℃以下の温度帯を挙げることができる。本発明のチーズ類は、加熱攪拌終了直後(例えば約83℃)における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状であることを特徴とする。また、本発明のチーズ類の製造方法は、加熱攪拌終了直後(例えば約83℃)における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状であることを特徴とするチーズ類を提供することができる。
また、本発明のチーズ類は、カット適性を有する。本発明において「カット適性を有する」とは、製造後10℃に冷却した後のチーズ類をスライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状の各形態にカットした場合、カットでき、目的とする形態(スライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状)が得られることをいう。好ましくは、正常にカットでき、良好な形状(角や縁等の部分の欠損、ひび割れなど形状不良が観察されない状態)および目的とする形態を得られるのがよい。一方、カットできず、カット後のチーズ類が目的とする形態にならない場合は、カット適性を有さないものとする。したがって、本発明のチーズ類をカットして、スライス状、サイノメ状、タンザク状、シュレッド状、フレーク状、球状、輪切り状、千切り状、ブロック状、みじん切り状、すりおろし状、細切り状、くさび状、ささがき状または拍子木状などの各種形態のチーズ類を製造することもできる。
また、本発明のチーズ類は、耐熱保形性を有する。本発明において「耐熱保形性を有する」とは、後述の試験方法にて測定した耐熱保形性が75%以上であることをいう。好ましくは、耐熱保形性が80%以上であるのがよい。
耐熱保形性の測定法は、例えば、実施例1に示すように(1)A.ダイス状のチーズ類:厚さ8mm×長さ8mm×幅8mmに切った試作品をそのまま金属板に乗せ、また、B.スライス状のチーズ類:厚さ2mmにスライスしたチーズ類を4枚重ねにしたのちに厚さ8mm×長さ8mm×幅8mmに切った状態で金属板に乗せた後、(2)オーブンの中で200℃5分間の加熱を行い、(3)加熱後のチーズ類の高さ(mm)を測定し、(4)これを加熱前のチーズ類の高さ(8mm)で除して耐熱保形性(%)算出することができる。
本発明のチーズ類は耐熱保形性を有するので、例えば、製菓や製パン用に使用した場合、オーブンなどの加熱によってもチーズ類が溶解・変形しないため、パンのトッピングや食感のアクセント等として使用することが可能となる。
本発明のチーズ類は、10℃での硬度が110g以上であることを特徴とする。硬度の測定法は、例えば、実施例1に示すように硬度の測定は、レオメーター(不動工業(株)製)を用い、チーズ類を厚さ15mm×長さ50mm×幅40mmに切って試料台に乗せ、直径3mmのプランジャーに向けて試料台を15cm/分で上昇させ、プランジャーがチーズ類の表面に接してから、チーズ類の表面を突き破って突き刺さる時にかかる力(g)を測定して行うことができる。本発明のチーズ類は一定以上の硬度を有するので、薄片状への切断や、成形が容易である。
本発明のチーズ類は、充填適性を有しているものであることを特徴とする。本発明において「充填適性を有する」とは、チーズ類の製造中の加熱攪拌後、ブロック状に成形するためにパラフィルムへの充填を行った際に、チーズ類を充填するノズル先端でのチーズ類の切れが良い〜少し悪いの間で、かつパラフィルム全体にチーズ類が広がる〜パラフィルム全体にチーズ類が広がりにくいが許容範囲内の間であることを指す。好ましくは、ノズル先端でのチーズ類の切れが良く、かつパラフィルム全体にチーズ類が広がるのがよい。ノズル先端でのチーズ類の切れが悪く、またはパラフィルム全体にチーズ類が広がらない状態を、充填適性を有さないものとする。
本発明のチーズ類は、高水分軟質チーズの良好な風味を有しているものであることを特徴とする。前記風味は官能検査によって、糊感、および高水分軟質チーズ特有の爽やかな風味を基準に判断する。糊感とは、糊様の食感(もちのような粘り、およびべたつき)を指す。本発明においては、糊感がなく、かつ良好な高水分軟質チーズ特有の爽やかな風味を有するものを高水分軟質チーズの良好な風味を有しているチーズ類とする。
本発明のチーズ類は、乳化安定性が良好であることを特徴とする。本発明において、乳化安定性の良否は製造における加熱攪拌直後の溶解物の外観を観察して行う。このとき、加熱によりチーズ類の組織から油脂が遊離し表面に油膜が形成される状態を、乳化安定性が悪い状態(オイルオフ、または油分離ともいう)として評価する。一方、オイルオフのないものを乳化安定性が良好な状態として評価する。本発明においては、加熱攪拌直後のオイルオフのないものを乳化安定性が良好なチーズ類とする。
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
[実施例1](高水分軟質チーズを用いた検討)
高水分軟質チーズとしてクリームチーズを用い、バター等と共にゼラチン、乳タンパク濃縮物を各濃度で添加して製造したチーズ類の比較を行った。
クリームチーズ(水分含量55.5w/w%)80kg、バター(水分含量16.2w/w%)10kg、ポリリン酸ナトリウム0.5kgを混合して原料を調整した。原料に酸処理豚皮ゼラチン「ゼラチンM−200c」(新田ゼラチン社製)、乳タンパク濃縮物「MPC80S」(Murray Goulburn社製)を表1の条件で添加し、各種試作品(1−1〜1−10)を製造した。比較として、ゼラチン、乳タンパク濃縮物(MPC80S)を添加しないものも設けた。調整した原料、ゼラチンおよび乳タンパク濃縮物の混合物に最終製品の水分含量が51w/w%となるように水を添加しながらケトル型乳化釜で83℃以上になるまで加熱攪拌しながら溶解した。加熱攪拌直後の溶解物について、83℃における乳化安定性を評価し、さらに粘度を測定した。そののち、加熱攪拌を終了したチーズ溶解物を2kg用のパラフィルムにブロック状に充填し、冷蔵庫で10℃以下まで冷却した。充填時に充填適性の評価を行った。得られたブロックの状チーズ類について官能評価(糊感の評価:N=5)及び10℃での硬度を測定したのち、A.ダイサーで厚さ8mm×長さ8mm×幅8mmの大きさ、B.スライサーで厚さ2mm、にカットして各々について耐熱保形性の評価を行った。また、チーズ類をスライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状の各形態にカットし、各カットについてカット適性を評価した。
[乳化安定性の評価]
加熱攪拌直後の溶解物の外観を観察した。このとき、加熱によりチーズ類の組織から油脂が遊離し表面に油膜が形成される状態を、乳化安定性が悪い状態(オイルオフ)として評価した。一方、オイルオフのないものを乳化安定性が良好な状態として評価した。
[粘度の測定]
加熱攪拌直後の溶解物の粘度測定は、高粘度用粘度計ビスコテスター VT−04(リオン(RION)社製)を用いて行った。単位はパスカル秒(Pa・s又はPsともいう)である。
[硬度の測定]
硬度の測定は、レオメーター(不動工業(株)製)を用いて行った。測定方法は、実施例1で製造したブロック状のチーズ類のパラフィルムを剥いだ後、厚さ15mm×長さ50mm×幅40mmに切って試料台に乗せ、直径3mmのプランジャーに向けて試料台を15cm/分で上昇させ、プランジャーがチーズ類の表面に接してから、チーズ類の表面を突き破って突き刺さる時にかかる力(g)を測定した。硬度測定時のチーズ類の温度は10℃とした。
[耐熱保形性の測定]
耐熱保形性の測定法は、(1)A.ダイス状のチーズ類:厚さ8mm×長さ8mm×幅8mmに切った試作品をそのまま金属板に乗せ、また、B.スライス状のチーズ類:厚さ2mmにスライスしたチーズ類を4枚重ねにしたのち、厚さ8mm×長さ8mm×幅8mmに切った状態で金属板に乗せた後、(2)オーブンの中で200℃5分間の加熱を行い、(3)加熱後のチーズ類の高さ(mm)を測定し、(4)これを加熱前のチーズ類の高さ(8mm)で除して耐熱保形性(%)算出した。
Figure 0004958299
Figure 0004958299
上記の表1の中の記号(○、△、×)は、試料に対する官能評価、充填適性の評価、およびカット適性の評価の結果を示し、下記の意味をもつ。
[官能評価]
○:糊感がなく、高水分軟質チーズ特有の爽やかな風味を有する
△:少し糊感を有するが、高水分軟質チーズ特有の爽やかな風味は多少感じられる
×:糊感が強く、高水分軟質チーズ特有の爽やかな風味を損なっている
[充填適性の評価]
○:ノズル先端でのチーズ類の切れが良く、パラフィルム全体にチーズ類が広がる
△:ノズル先端でのチーズ類の切れが少し悪く、パラフィルム全体にチーズ類が広がりにくいが許容範囲内である
×:ノズル先端でのチーズ類の切れが悪く、パラフィルム全体にチーズ類が広がらない
[カット適性の評価]
○:正常にカットでき、良好な形状および目的とする形態が得られる
△:カットはでき目的とする形態が得られるが、角の部分が欠けるなど良好な形状を得られない
× :カットできず、カット後のチーズ類が目的とする形態になっていない
(ゼラチン、乳タンパク濃縮物をそれぞれ単独で使用した場合)
結果を表1に示す。ゼラチン、乳タンパク濃縮物をそれぞれ単独で使用した場合(試作品1−1〜1−6)、良好な形状が得られないまでもカットできた時のゼラチン含量は少なくとも3.1w/w%(試作品1−2)、乳タンパク濃縮物含量は少なくとも4.9w/w%(試作品1−5)となった。しかし、これらの試作品の耐熱保形性は80%未満であり、単独のままゼラチン、乳タンパク濃縮物の含量を増加させても、目標とする物性は得られなかった(試作品1−3、1−6)。また、乳タンパク濃縮物含量を6w/w%とする試作品(1−6)は粘度が460パスカル秒(ps)となり、著しく流動性を損ねていた。また、充填適性も不良であった。
(ゼラチン、乳タンパク濃縮物を併用した場合)
次に、ゼラチンと乳タンパク濃縮物を併用する組み合わせ(試作品1−7〜1−10)では、ゼラチン含量が1.1w/w%、乳タンパク濃縮物が1.5w/w%とした場合に、硬度が114gとなり、各種形状に正常にカットすることができた(試作品1−8)。また、このときの耐熱保形性も80%以上であり、風味についても糊感のない良好な高水分軟質チーズの風味を有していた。また、ゼラチン含量が4.6w/w%、乳タンパク濃縮物が4.6w/w%とした場合、良好な形状は得られないまでもカットはできており、目的とする形態が得られた。耐熱保形性も80%以上を有していた(試作品1−10)。
本発明のチーズ類の製造法は、高水分軟質チーズが本来有する風味を損なうことなく、カット適性及び耐熱保形性を有するチーズ類を得ることを可能とするものである。

Claims (10)

  1. 高水分軟質チーズを1種類又は2種類以上含有する混合物、ゼラチンを1.0w/w%〜5.0w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜5.0w/w%含有し、かつカット適性および耐熱保形性を有するチーズ類。
  2. 前記ゼラチンの濃度が1.0w/w%〜3.0w/w%であり、かつ前記乳タンパク濃縮物の濃度が1.4w/w%〜4.8w/w%であることを特徴とする、請求項1に記載のチーズ類。
  3. 前記チーズ類が、高水分軟質チーズの良好な風味を有しているものであり、10℃での硬度が110g以上、および耐熱保形性が80%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のチーズ類。
  4. 前記高水分軟質チーズを原材料中75w/w%以上含有していることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のチーズ類。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載のチーズ類をカットしてなる、スライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状のチーズ類。
  6. カット適性及び耐熱保形性を有するチーズ類の製造方法であって、高水分軟質チーズを1種類又は2種類以上含有する混合物、ゼラチンを1.0w/w%〜5.0w/w%、および乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜5.0w/w%含有せしめることを特徴とする、チーズ類の製造方法。
  7. 前記ゼラチンを1.0w/w%〜3.0w/w%含有せしめ、かつ前記乳タンパク濃縮物を1.4w/w%〜4.8w/w%含有せしめることを特徴とする、請求項6に記載のチーズ類の製造方法。
  8. 前記チーズ類が、高水分軟質チーズの良好な風味を有しているものであり、10℃での硬度が110g以上、および耐熱保形性が80%以上であることを特徴とする、請求項6又は7に記載のチーズ類の製造方法。
  9. 前記高水分軟質チーズを原材料中75w/w%以上使用することを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載のチーズ類の製造方法。
  10. 請求項6〜9のいずれか1項に記載の製造方法で得られたチーズ類をカットすることを特徴とする、スライス状、サイノメ状、タンザク状またはシュレッド状のチーズ類の製造方法。
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