以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に、トリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物を含有する感光層を設けたものである。こうした感光層が設けられていれば、その構造は特に制限されないが、電荷発生層と電荷輸送層が積層された積層型の感光体が好ましく、特には電荷輸送層がトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物を含有することが好ましい。以下に、本発明の電子写真感光体の構成について説明する。
<トリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物>
まず、感光層が含有するトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物について説明する。トリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物は、下記一般式[1]及び[2]のいずれかで表される。
一般式[1]中、A1は、置換基を有していてもよいアリール基を示し、Ar1、Ar2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示す。一般式[2]中、A2は、置換基を有していてもよいアリーレン基を示し、Ar3〜Ar5は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、nは2以上の整数を表す。一般式[1]及び[2]中、Qは、左右の向きを変更可能な下記一般式[3]で表される基であり、当該一般式[3]中、Y1、Y2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。
なお、上記一般式[3]は、スチルベン化合物が有するスチリル基の二重結合が、トリアリールアミンの窒素原子に対し、*側(Y1が記載されている側)はパラ位にあり、*’側(Y2が記載されている側)はメタ位にある特徴的な構造形態である。本発明はこうした特徴的な形態を有するスチルベン系化合物を電子写真感光体の感光層に含有させて用い、特に一般式[1]及び[2]中にQで表される上記一般式[3]の構造形態を2つ以上有するので、光感度、残留電位、電荷移動度等の感光体特性を落とさずに、オゾンやNOx等の酸化性ガスに対する耐性の大幅な向上を可能としている。
上記一般式[1]及び[2]について、上記一般式[3]で表される基の向きを左右変更して具体的に表せば、下記一般式[I]〜[IV]で表される。
前記のトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物について更に詳しく説明する。
前記の一般式[1]、[2]及び[I]〜[IV]中、A1、Ar1〜Ar2、及びAr3〜Ar5としては、6以上20以下の炭素原子を有するアリール基が好ましく、それぞれ独立に、同一でも異なっていても良い。具体的には、フェニル基、ナフチル基、フルオレンニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基が挙げられる。製造コストの面からは、フェニル基、ナフチル基のような6以上10以下の炭素原子を有するアリール基が特に好ましい。さらに、A1、Ar1〜Ar2、及びAr3〜Ar5が置換基を有する場合、その置換基としては、1以上10以下の炭素原子を有し、かつHammett則における置換基定数σPが0.20以下である置換基が好ましい。
ここで、Hammett則は、芳香族化合物における置換基が芳香環の電子状態に与える効果を説明するために用いられる経験則であって、置換ベンゼンの置換基定数σPは、置換基の電子供与/吸引の程度を定量化した値といえる。σP値が正であれば置換安息香酸の方が無置換のものより酸性が強い、つまり電子吸引性置換基となる。逆にσP値が負であると電子供与性置換基となる。表1は、代表的な置換基のσP値である(日本化学会編、「化学便覧 基礎編II 改訂4版」、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、p.347〜348)。
そうした置換基としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数2以上4以下のアルキルアミノ基、炭素数6以上10以下のアリール基等が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、フェニル基、4−トリル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。中でも、電気特性の面から、炭素数1以上4以下の炭化水素基が特に好ましい。
前記の一般式[3]中、Y1及びY2としては、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、又は素数1以上4以下のアルコキシ基が好ましく、それぞれ独立に、同一でも異なっていても良い。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、フェニル基、4−トリル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。中でも、製造コストの面から、水素原子が特に好ましい。
前記の一般式[3]中のY1及びY2が水素原子以外のアルキル基又はアルコキシ基である場合、Y1及びY2が配位する部位は特に限定されない。
前記の一般式[2]、[III]及び[IV]中、A2としては、6以上20以下の炭素原子を有するアリーレン基が好ましく、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、ピレニレン基、又はビフェニレン基が挙げられる。電気特性の面では、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基のような6以上12以下の炭素原子を有するアリーレン基が特に好ましい。さらに、A2が置換基を有する場合、その置換基としては、1以上10以下の炭素原子を有し、かつHammett則における置換基定数σPが0.20以下である置換基が好ましい。そうした置換基としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数2以上4以下のアルキルアミノ基、炭素数6以上10以下のアリール基等が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、フェニル基、4−トリル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。中でも、製造コストの面から、水素原子が特に好ましい。
前記の一般式[III]及び[IV]中、nは2以上の整数であるが、相溶性や製造コスト等の観点から総合的に考えると、n=2の場合が特に好ましい。
一般式[1]及び[2]、及びその一般式[1]及び[2]を詳しく説明した一般式[I]〜[IV]で表されるトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物の代表例として、以下の例示化合物CT−I−1〜CT−I−12、及びCT−II−1〜CT−II−12、及びCT−III−1〜CT−III−8、及びCT−IV−1〜CT−IV−8が挙げられる。ただし、トリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
これらのスチルベン誘導体は、公知の方法により容易に合成することが出来る。例えば、本発明の例示化合物CT−I−1は、次の反応式に従って製造することができる。
上記の反応式によれば、まず、トリアリールアミンをVilsmeier反応でホルミル化してホルミル体Aを作ると同時に、m−ブロモベンジルブロマイドに亜リン酸トリエチルを加え、リン酸エステルBを作り、次に、ホルミル体Aとリン酸エステルBとを塩基の存在下で縮合すれば、トリアリールアミン骨格を持つスチルベン誘導体Cを得ることができる。スチルベン誘導体Cの分子末端はハロゲンの活性サイトが存在するため、最後に、スチルベン誘導体Cとアニリン誘導体とをカップリングすれば、目的物である電子写真感光体の感光層に含有させて用いるのに好適な、本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物を得ることができる。
<導電性支持体>
次に、導電性支持体について説明する。導電性支持体について特に制限は無いが、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。導電性支持体の形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状等のものが用いられる。更には、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布したものを用いても良い。
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化被膜を施してから用いても良い。陽極酸化被膜を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。また、安価化のためには、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。
<下引き層>
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子等が挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いても良いし、複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコン等の有機物による処理が施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
また、金属酸化物粒子の粒径としては種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上100nm以下が好ましく、特に好ましいのは、10nm以上50nm以下である。この平均一次粒径は、TEM写真で観察される任意の粒子100個の最大径の算術平均により得ることができる。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダ樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダ樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤等の公知のバインダ樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても良く、或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すことから好ましい。
下引き層に用いられるバインダ樹脂に対する無機粒子の使用比率は任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常は10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性を向上させる観点から、通常は0.1μm以上、20μm以下の範囲が好ましい。下引き層には、公知の酸化防止剤等を混合しても良いし、画像欠陥防止等を目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させ用いても良い。
<感光層>
感光層の形式としては、電荷発生材料と電荷輸送材料とが同一層に存在し、バインダ樹脂中に分散された単層型と、電荷発生材料がバインダ樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送材料がバインダ樹脂中に分散された電荷輸送層の二層からなる機能分離型(積層型)とが挙げられるが、何れの形式であってもよい。
積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。以下、本発明の好ましい実施様態として積層型感光層を例としてさらに詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明はこれらの実施様態に制限されるものではない。
<電荷発生層>
積層型感光体(機能分離型感光体)の場合、電荷発生層は、電荷発生材料をバインダ樹脂で結着することにより形成される。電荷発生材料としては、セレニウム及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とが挙げられるが、有機系光導電材料の方が好ましく、特に有機顔料が好ましい。有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。これらの中でも、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。電荷発生材料として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の微粒子を、各種のバインダ樹脂で結着した分散層の形で使用する。
電荷発生材料として無金属フタロシアニン化合物、金属含有フタロシアニン化合物を用いた場合は比較的長波長のレーザー光、例えば780nm近辺の波長を有するレーザー光に対して高感度の感光体が得られ、またモノアゾ、ジアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料を用いた場合には、白色光、又は660nm近辺の波長を有するレーザー光、もしくは比較的短波長のレーザー光(例えば380〜500nmの範囲の波長を有するレーザー光)に対して十分な感度を有する感光体を得ることができる。
電荷発生材料として有機顔料を使用する場合、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。フタロシアニン顔料は、比較的長波長のレーザー光に対して高感度の感光体が得られる点で、また、アゾ顔料は、白色光及び比較的短波長のレーザー光(例えば380〜500nmの範囲の波長を有するレーザー光)に対し十分な感度を持つ点で、それぞれ優れている。
電荷発生材料としてフタロシアニン顔料を使用する場合、具体的には無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウム等の金属又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシド等の配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類等が使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のオキシチタニウムフタロシアニン、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。
また、これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)、B型(別称α型)、及び粉末X線回折の回折角2θ(±0.2°)が27.1°、もしくは27.3°に明瞭なピークを示すことを特徴とするD型(Y型)オキシチタニウムフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型及び28.1°にもっとも強いピークを有すること、また26.2°にピークを持たず28.1°に明瞭なピークを有し、かつ25.9°の半値幅Wが0.1°≦W≦0.4°であることを特徴とするヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
フタロシアニン化合物は単一の化合物のものを用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態に置ける混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報に記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
電荷発生材料としてアゾ顔料を使用する場合には、各種ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。好ましいアゾ顔料の例を下記に示す。
電荷発生材料として、上記例示の有機顔料を用いる場合には、1種を単独で用いてもよいが、2種類以上の顔料を混合して用いてもよい。この場合、可視域と近赤域の異なるスペクトル領域で分光感度特性を有する2種類以類以上の電荷発生材料を組み合わせて用いることが好ましく、中でもジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料とフタロシアニン顔料とを組み合わせて用いることがより好ましい。
電荷発生層に用いるバインダ樹脂は特に制限されないが、例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらのバインダ樹脂は、何れか1種を単独で用いても良く、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いても良い。
電荷発生層は、具体的に、上述のバインダ樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、ハロゲン置換インジウムフタロシアニン及び場合によって用いられるその他の電荷発生材料を分散させて塗布液を調整し、これを導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布することにより形成される。
塗布液の作製に用いられる溶剤としては、バインダ樹脂を溶解させるものであれば特に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等の鎖状又は環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状又は環状エーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水等が挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を併用して用いてもよい。なお、上述の下引き層を設ける場合には、この下引き層を溶解しないものが好ましい。
電荷発生層において、バインダ樹脂と電荷発生材料との配合比(重量)は、バインダ樹脂100重量部に対して電荷発生材料が通常10重量部以上、好ましくは30重量部以上、また、通常1000重量部以下、好ましくは500重量部以下の範囲であり、その膜厚は通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲である。電荷発生材料の比率が高過ぎると、電荷発生材料の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある一方、電荷発生材料の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがある。
電荷発生材料を分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の公知の分散法を用いることができる。この際、粒子を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の範囲の粒子サイズに微細化することが有効である。
<電荷輸送層>
積層型感光体の電荷輸送層は、電荷輸送材料を含有するとともに、通常はバインダ樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分とを含有する。このような電荷輸送層は、具体的には、例えば電荷輸送材料等とバインダ樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布、乾燥して得ることができる。
電荷輸送材料としては、好ましくは上述した本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物を用いる。このスチルベン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、複数種のものを任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
また、本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物に加えて、公知の他の電荷輸送材料を併用してもよい。他の電荷輸送材料を併用する場合、その種類は特に制限されないが、例えばカルバゾール誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、本発明に係るもの以外のスチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましい。更に具体的には、特開平2−230255号、特開昭63−225660号、特開昭58−198043号、特公昭58−32372号、及び特公平7−21646号の各公報に記載の化合物が好ましく使用されると共に、これらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。これらの電荷輸送材料は、何れか1種を単独で用いても良く、複数種のものを任意の組み合わせで併用しても良い。なお、本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物と、公知の他の電荷輸送材料とを併用する場合は、併用する電荷輸送材料の電荷輸送材料全量における含有比率(重量%)は、特に制限されないが、1〜20%の範囲内であることが好ましい。本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物の役割をより著しく果たすためには、前記含有比率(重量%)は、3〜10%の範囲内であることが特に好ましい。
バインダ樹脂は、膜強度確保のために使用される。電荷輸送層のバインダ樹脂としては、例えばブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましい。これらのバインダ樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。これらのバインダ樹脂は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで用いても良い。
バインダ樹脂と電荷輸送材料との割合は、バインダ樹脂100重量部に対して電荷輸送材料を20重量部以上の比率で使用する。中でも、残留電位低減の観点から30重量部以上が好ましく、更には、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から40重量部以上がより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、電荷輸送材料を通常は150重量部以下の比率で使用する。中でも、電荷輸送材料とバインダ樹脂との相溶性の観点から110重量部以下が好ましく、耐刷性の観点から80重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点から70重量部以下が最も好ましい。
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下、更には30μm以下、特には20μm以下の範囲とする。
<単層型感光層>
単層型感光層は、電荷発生材料と本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベンゼン系化合物に加えて、積層型感光体の電荷輸送層と同様に、膜強度確保のためにバインダ樹脂を使用して形成する。具体的には、電荷発生材料と電荷輸送材料と各種バインダ樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、導電性支持体上(下引き層を設ける場合は下引き層上)に塗布、乾燥して得ることができる。
電荷輸送材料及びバインダ樹脂の種類並びにこれらの使用比率は、積層型感光体の電荷輸送層について説明したものと同様である。これらの電荷輸送材料及びバインダ樹脂からなる電荷輸送媒体中に、さらに電荷発生材料が分散される。
電荷発生材料は、積層型感光体の電荷発生層について説明したものと同様のものが使用できる。但し、単層型感光体の感光層の場合、電荷発生材料の粒子径を充分に小さくする必要がある。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。
単層型感光層内に分散される電荷発生材料の量は、少な過ぎると充分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下等の弊害があることから、単層型感光層全体に対して通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。
また、単層型感光層におけるバインダ樹脂と電荷発生材料との使用比率は、バインダ樹脂100重量部に対して電荷発生材料が通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下の範囲とする。
単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
<その他の機能層>
積層型感光体、単層型感光体ともに、感光層又はそれを構成する各層には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤等の添加物を含有させても良い。
また、積層型感光体、単層型感光体ともに、上記手順により形成された感光層を最上層、即ち表面層としてもよいが、その上に更に別の層を設け、これを表面層としてもよい。例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減したりする目的で、保護層を設けても良い。
保護層は、導電性材料を適当なバインダ樹脂中に含有させて形成するか、特開平9−190004号公報や特開平10−252377号公報に記載のトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることができる。
保護層に用いる導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物等を用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。
保護層に用いるバインダ樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報に記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることもできる。
保護層の電気抵抗は、通常109Ω・cm以上、1014Ω・cm以下の範囲とする。電気抵抗が前記範囲より高くなると、残留電位が上昇しカブリの多い画像となってしまう一方、前記範囲より低くなると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう。また、保護層は像露光の際に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、表面層にフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂等、又はこれらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を、表面層に含有させても良い。或いは、これらの樹脂や粒子を含む層を新たに表面層として形成しても良い。
<各層の形成方法>
これらの感光体を構成する各層は、含有させる材料を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成される。
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒に特に制限は無いが、具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
例えば、単層型感光体、及び機能分離型感光体の電荷輸送層層の場合には、塗布液の固形分濃度を通常5重量%以上、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度を通常10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、また、通常500mPa・s以下、好ましくは400mPa・s以下の範囲とする。
また、積層型感光体の電荷発生層の場合には、塗布液の固形分濃度は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度は、通常0.01mPa・s以上、好ましくは0.1mPa・s以上、また、通常20mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以下の範囲とする。
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
塗布液の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行なっても良い。
[画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に必要に応じて、転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電装置(接触型帯電装置)等がよく用いられる。直接帯電装置の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等の接触帯電器等が挙げられる。なお、図1では、帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。直接帯電手段として、気中放電を伴う帯電、あるいは気中放電を伴わない注入帯電いずれも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED等が挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光等で露光を行なえばよい。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像等の乾式現像方式や、湿式現像方式等の任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジ等の容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル等の金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を被覆した樹脂ロール等からなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅等の金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6については特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、殆ど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
定着装置7は、上部定着部材(加圧ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス、アルミニウム等の金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シート等が公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着等、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
なお、電子写真感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(以下適宜「電子写真感光体カートリッジ」という)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。この場合、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
特許文献1に記載の従来公知のトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物は、比較的感度が高く、露光時の残留電位が低く、かつ電荷移動度も比較的速いといった特徴があるとされているものの、非常に酸化し易く、繰り返し使用時の電気的安定性の悪化や、それに伴う画像不良が起きるという問題があったが、本発明に係るトリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物を電子写真感光体の感光層に含有させて用いれば、帯電装置等から発生する強酸化性のオゾンやNOxに曝されたとしても、繰り返し使用時の電気的安定性に優れ(残留電位の上昇が小さい、帯電電位の低下が小さい、等)、良好な画像を得ることができるという格別の効果がある。
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
<トリアリールアミン骨格を有するスチルベン系化合物の製造>
(製造例1:例示化合物CT−I−1の製造)
窒素雰囲気下、N,N−ジ(p−トリル)アニリン 10.94g(40mmol)を、機械攪拌をしながら、ジメチルホルムアミド(以下、DMFという。)50mlに溶解した。その後、65〜70℃を維持しながら、オキシ塩化リン(POCl3) 7.97g(52mmol)をゆっくり滴下し、さらに同温度で6時間攪拌し、室温まで冷却した。反応液とトルエン/脱塩水(v/v=1:1)を1〜2時間混合攪拌し、分液した。得られた水層をさらにトルエンにより抽出し、得られた有機層と、先に分液して得られた有機層とを混合した。1N−NaOHの水溶液で得られた有機層を洗浄、分液し、さらに有機層を脱塩水2〜3回で洗浄、分液した。得られた有機層の溶媒を減圧留去し、さらに60℃下で減圧乾燥し、ホルミル体A 10.55g(35mmol、収率87%)を得た。
窒素雰囲気下、m−ブロモベンジルブロマイド 49.99g(0.2mol)に亜リン酸トリエチル 39.88g(0.24mol)を加え、90℃下で1時間攪拌した。その後、減圧蒸留によって余分の亜リン酸トリエチルを留去し、室温まで冷却し、リン酸エステル体B 61.55g(197mmol、収率98.5%)を得た。
窒素雰囲気下、ホルミル体A 10.55g(35mmol)、リン酸エステル体B 11.83g(38.5mmol)、をDMF100mlに溶解し、室温下で、攪拌をしながら、カリウムtert−ブトキシド 4.71g(42mmol)をゆっくり添加し(必要に応じて冷却)、さらに1時間攪拌した。この溶液を、メタノール300mlに滴下し、結晶化した。固体を濾別し、50℃下で減圧乾燥し、スチルベン誘導体C 14.31g(31.5mmol、収率90%)を黄色い粉末として得た。
室温下において、攪拌装置、温度計、還流管を装着した300mlの四つ口フラスコに、スチルベン誘導体C 14.31g(31.5mmol)、p−トルイジン 1.69g(15.8mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 3.34g(34.8mmol)、充分に脱酸素したキシレン100mlを順次に加え、系内を窒素により置換した後、酢酸パラジウム5.6mg、トリシクロヘキシルホスフィンの15%トルエン溶液234mgを加え、140℃まで加熱し、その温度に保ちながら加熱還流を続け、反応を実施した。反応の間、反応系溶液を高速液体クロマトグラフィー(カラム:ジーエルサイエンス(株)社製のイナートシルODS−3V、溶媒:アセトニトリル)で一定時間毎に分析することにより反応を追跡し、反応系溶液中のスチルベン誘導体Cがなくなるまで(約3時間)反応を行なった。反応終了後、室温まで冷却し、固体を濾別し、濾液を減圧濃縮した。得られたオイルを、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル300g、展開溶媒:トルエン/ヘキサン=1/2)に通し、さらにメタノールによる再沈で精製した。真空乾燥した後、上記の例示化合物CT−I−1を黄色い粉末として得た(収量11.34g、収率84%、純度99.5%)。なお、純度は、高速液体クロマトグラフィーのチャートの単純面積比率値から算出した。この化合物のIRスペクトル(JASCO FT/IR-350 spectrophotometer) を図2に示す。
(製造例2:例示化合物CT−II−1の製造)
室温下において、攪拌装置、温度計、還流管を装着した500mlの四つ口フラスコに、2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン 45.81g(0.2mol)、p−ジトリルアミン 40.44g(0.205mol)、ナトリウムtert−ブトキシド 23.06g(0.24mol)、充分に脱酸素したキシレン250mlを順次に加え、系内を窒素により置換した後、酢酸パラジウム12mg、トリシクロヘキシルホスフィンの15%トルエン溶液470mgを加え、140℃まで加熱し、その温度に保ちながら加熱還流を続け、約3時間で反応を行なった。反応終了後、室温まで冷却し、固体を濾別し、濾液を減圧濃縮した。得られたオイルを、テトラヒドロフラン250mlに溶解し、10%希塩酸10mlを加え、さらに1時間程加熱環流した。室温まで冷却後、テトラヒドロフランを減圧留去し、固体をメタノールによる再沈で精製した。真空乾燥した後、下記のホルミル体49.43g(164mmol、収率82%)を得た。
窒素雰囲気下、p−ブロモベンジルブロマイド 49.99g(0.2mol)に亜リン酸トリエチル 39.88g(0.24mol)を加え、90℃下で1時間攪拌した。その後、減圧蒸留によって余分の亜リン酸トリエチルを留去し、室温まで冷却し、下記のリン酸エステル体 61.24g(196mmol、収率98%)を得た。
窒素雰囲気下、上記のホルミル体 10.55g(35mmol)、リン酸エステル体 11.83g(38.5mmol)、をDMF100mlに溶解し、製造例1と同様な操作で、下記のスチルベン誘導体 14.63g(32.2mmol、収率92%)を黄色い粉末として得た。
室温下において、攪拌装置、温度計、還流管を装着した300mlの四つ口フラスコに、上記のスチルベン誘導体 14.63g(32.2mmol)、p−トルイジン 1.73g(16.1mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 3.40g(35.4mmol)、充分に脱酸素したキシレン100mlを順次に仕込み、製造例1と同様に反応及び後処理を行い、例示化合物CT−II−1を黄色い粉末として得た(収量11.61g、収率86%、純度99.7%)。なお、純度は、高速液体クロマトグラフィーのチャートの単純面積比率値から算出した。この化合物のIRスペクトル(JASCO FT/IR-350 spectrophotometer)を図3に示す。
(製造例3:例示化合物CT−III−1の製造)
室温下において、攪拌装置、温度計、還流管を装着した100mlの四つ口フラスコに、製造例1に用いられたスチルベン誘導体C 6.37g(15.5mmol)、N,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ベンジジン 3.05g(7.77mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 1.64g(17.1mmol)、充分に脱酸素したキシレン50mlを順次に仕込み、製造例1と同様に反応及び後処理を行い、例示化合物CT−III−1を黄色い粉末として得た(収量7.88g、収率89%、純度99.5%)。なお、純度は、高速液体クロマトグラフィーのチャートの単純面積比率値から算出した。この化合物のIRスペクトル(JASCO FT/IR-350 spectrophotometer)を図4に示す。
(製造例4:例示化合物CT−IV−1の製造)
室温下において、攪拌装置、温度計、還流管を装着した100mlの四つ口フラスコに、製造例2に用いられたスチルベン誘導体 7.27g(16mmol)、N,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ベンジジン 3.14g(8mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 1.69g(17.6mmol)、充分に脱酸素したキシレン50mlを順次に仕込み、製造例1と同様に反応及び後処理を行い、例示化合物CT−IV−1を黄色い粉末として得た(収量8.20g、収率90%、純度99.4%)。なお、純度は、高速液体クロマトグラフィーのチャートの単純面積比率値から算出した。この化合物のIRスペクトル(JASCO FT/IR-350 spectrophotometer)を図5に示す。
<電子写真感光体の作製>
(実施例1:電子写真感光体A1)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚さ75μm)の表面にアルミニウム蒸着層(厚さ70nm)を形成した導電性支持体を用い、その導電性支持体のアルミニウム蒸着層上に、以下の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
下引き層用分散液は、次のようにして製造した。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、前記酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とをボールミルにて混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥後、更にメタノールで洗浄、乾燥し、得られた疎水性処理酸化チタンをメタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させ、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエン(重量比7/1/2)の混合溶媒と、ε−カプロラクタム/ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン/ヘキサメチレンジアミン/デカメチレンジカルボン酸/オクタデカメチレンジカルボン酸(各組成のモル%:75/9.5/3/9.5/3)からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なった。これにより、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0重量%の下引き層用分散液を作製した。
別に、A型オキシチタニウムフタロシアニン(CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)に9.3°,10.6°,26.3°に回折ピークを示す)10重量部を、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン150重量部に加え、サンドグラインドミルにて1時間粉砕分散処理を行なった。その後、バインダ樹脂としてのポリビニルブチラール(電気化学工業社製「デンカブチラール #6000C」)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部、及び、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製「PKHH」)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部を加えて、電荷発生層用塗布液を調整した。この電荷発生層用塗布液を、上記の導電性支持体の下引き層上に、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにバーコーターにより塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
また、別に、電荷輸送材料として上記製造例1にて得られた例示化合物CT−I−1を50重量部、バインダ樹脂100重量部、及び、レベリング剤としてシリコーンオイル0.03重量部をテトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液を調整した。なお、バインダ樹脂としては、以下に示す2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする下記の繰り返し単位A 51モル%と、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする下記の繰り返し単位B 49モル%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量30000)を用いた。
得られた電荷輸送層用塗布液を、前記電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにフィルムアプリケーターにより塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成して、積層型感光層を有する電子写真感光体A1を製造した。
(実施例2:電子写真感光体A2)
製造例1で得られた例示化合物CT−I−1に代え、製造例2で得られた例示化合物CT−II−1を電荷輸送材料として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2としての電子写真感光体A2を得た。
(実施例3:電子写真感光体A3)
製造例1で得られた例示化合物CT−I−1に代え、製造例3で得られた例示化合物CT−III−1を電荷輸送材料として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例3としての電子写真感光体A3を得た。
(実施例4:電子写真感光体A4)
製造例1で得られた例示化合物CT−I−1に代え、製造例4で得られた例示化合物CT−IV−1を電荷輸送材料として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例4としての電子写真感光体A4を得た。
(比較例1:電子写真感光体P1)
製造例1で得られた例示化合物CT−I−1に代えて、特許文献1に例示された下記の電荷輸送材料aを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例1としての電子写真感光体P1を得た。
(比較例2:電子写真感光体P2)
製造例1で得られた例示化合物CT−I−1に代えて、下記の電荷輸送材料bを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例2としての電子写真感光体P2を得た。
(比較例3:電子写真感光体P3)
製造例1で得られた例示化合物CT−I−1に代えて、下記の電荷輸送材料cを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3としての電子写真感光体P3を得た。
<電子写真感光体の電気特性評価>
得られた電子写真感光体A1〜A4、P1〜P3の電子写真特性を、感光体評価装置(シンシア−55、ジェンテック社製)を用いて、スタティック方式でそれぞれ以下のようにして測定した。
まず、暗所でスコロトロン帯電器により、電子写真感光体を表面電位が、約マイナス700Vになるよう放電を行い、一定速度(125mm/秒)で電子写真感光体を通過させて帯電させ、その帯電圧を測定し、初期帯電圧(V0)を求めた。その後、2.5秒間放置したときの電位低下(DDR)を測定した。次に、強度1.0μW/cm2の780nm単色光を照射し、感光体表面電位が、マイナス550Vからマイナス275Vになるまでに要した半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm2)と、照射10秒後の残留電位(Vr)を求めた。各電子写真感光体A1〜A4、P1〜P3の評価結果を表2に示す。
表2に示すように、本発明の電子写真感光体A1〜A4は、従来技術に係る電子写真感光体P1〜P3に比べても、半減露光エネルギー、又は照射10秒後の残留電圧Vrにおいては、いずれも劣ることなく良好な特性を確保できた。したがって、本発明に係る新規のスチルベン系化合物である例示化合物CT−I−1,CT−II−1,CT−III−1,CT−IV−1を電荷輸送材料として用いた本発明の電子写真感光体A1〜A4は、類縁体又は位置異性体である電荷輸送材料a,b,cを用いた電子写真感光体と同様に、電気特性の面で、電子写真機器として好適に用いることができる。
<耐オゾン特性の評価>
オゾン曝露試験の方法を以下に記す。川口電気社製EPA8200を使用し、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた感光体A1〜A4,P1〜P3をコロトロン帯電器に25μAの電流を印加して帯電させ、その帯電値をV1とした。その後、これらの感光体に濃度150ppmのオゾンを1日の曝露上限時間を5時間として、総曝露量750ppm・時間となるよう2日間に分けて曝露し、曝露後に同様に帯電値を測定し、この値をV2とした。表3にオゾン曝露前後の帯電保持率[(V2/V1)*100](%)を示した。また、前記の電気特性評価法と同様に、露光10秒後、オゾン曝露前後の残留電位(それぞれVr1、Vr2とする)を測定し、その差ΔVr(Vr2−Vr1)を求め、表3にまとめた。
表3に示すように、本発明の電子写真感光体A1〜A4は、電子写真感光体P1〜P3よりもオゾン曝露前後の帯電保持率が高く、露光10秒後の残留電位の差が小さい。したがって、本発明に係る新規のスチルベン系化合物である例示化合物CT−I−1,CT−II−1,CT−III−1,CT−IV−1を電荷輸送材料として用いた本発明の電子写真感光体A1〜A4は、類縁体又は位置異性体である電荷輸送材料a,b,cを用いた電子写真感光体より、良好な耐オゾン性を有し、電気的安定性が良いことが確認された。
<応答性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた感光体A1〜A4,P1〜P3についての、電荷輸送層の電界強度E=2.0×105(V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度を、TOF法により測定した。各電子写真感光体A1〜A4,P1〜P3のホールドリフト移動度を表4に示す。
表4に示すように、本発明の電子写真感光体A1〜A4は、電子写真感光体P1〜P3と同等のホールドリフト移動度を示す。したがって、本発明に係る新規のスチルベン系化合物である例示化合物CT−I−1,CT−II−1,CT−III−1,CT−IV−1を電荷輸送材料として用いた本発明の電子写真感光体A1〜A4は、類縁体又は位置異性体である電荷輸送材料a,b,cを用いた電子写真感光体と同様に、応答性の面で、電子写真機器として好適に用いることができる。