以下に本発明の樹脂組成物について具体的に説明する。
本発明で用いる(A)ゴム変性スチレン系樹脂としては、少なくとも1種のスチレン系単量体が重合された樹脂が使用できる。具体的には、以下に述べるゴム変性スチレン系樹脂が挙げられる。
ゴム変性スチレン系樹脂としては、通常ゴム状重合体の存在下に、スチレン、αメチルスチレン等のスチレン系単量体および必要に応じこれと共重合可能なビニル単量体を加えた単量体混合物を、例えば塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合等の方法により重合または共重合(以下「(共)重合」と称する場合もある)することにより得られるものであり、スチレン系単量体を含有する(共)重合体がゴム質重合体にグラフトした構造をとったもの、スチレン系単量体を含有する(共)重合体がゴム質重合体に非グラフトした構造をとったものが使用できる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂の具体例としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)およびAES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)などが挙げられる。
具体的には、ゴム質重合体5〜80重量%に対し、スチレン系単量体、およびその他の共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物95〜20重量%をグラフト重合して得られるグラフト(共)重合体5〜100重量部と、スチレン系単量体、およびその他の共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物を重合して得られるスチレン系(共)重合体0〜95重量部とからなるものが好適である。
上記ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、具体的にはポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、ポリイソプレン、エチレン−オレフィン共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン−脂肪酸ビニル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合体などが挙げられる。なかでもポリブタジエンまたはブタジエン共重合体の使用が好ましい。
スチレン系単量体の具体例としては、スチレンが好ましく使用されるが、溶融混練時の剪断下での自由体積減少による相溶性向上の観点から、炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体の1種以上を好ましく含むことができる。炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレンが好ましく使用される。
スチレン系単量体以外の単量体としては、一層の耐衝撃性、耐薬品性、メッキ性向上を目的とする場合にはシアン化ビニル系単量体が、また靭性および色調の向上を目的とする場合には(メタ)アクリル酸エステル系単量体が、それぞれ好ましく用いられる。
シアン化ビニル系単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の具体例としては、アクリル酸およびメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル化物などが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
また、必要に応じて他のビニル系単量体、例えばビニルトルエンなど、スチレン系単量体以外の芳香族ビニル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、およびN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体などを使用することもできる。
上記のグラフト(共)重合体において用いる単量体または単量体混合物は、樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、スチレン系単量体が5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%である。シアン化ビニル系単量体は、樹脂組成物の成形加工性の観点から、1〜50重量%であり、特に40重量%以下が好ましく用いられる。特にメッキ密着性が必要な場合には、25〜40重量%、さらに好ましくは35〜40重量%の範囲にすることで、メッキ処理時のキャタリスト工程での触媒吸着能力を向上させることができるために、好ましく用いられる。また(メタ)アクリル酸エステル系単量体を混合する場合には、靱性および耐衝撃性の観点から、80重量%以下であることが好ましく、特に75重量%以下が好ましく用いられる。単量体また単量体混合物における芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体の配合量の総和は、95〜20重量%であることが好ましく、さらに好ましくは90〜30重量%である。
グラフト(共)重合体を得る際のゴム質重合体と単量体混合物との配合割合は、樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、全グラフト(共)重合体100重量%中に、ゴム質重合体が5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上である。また、樹脂組成物の耐衝撃性および成形品の外観の観点からは、80重量%以下であり、好ましくは70重量%以下である。また、単量体または単量体混合物の配合割合は、95重量%以下であることが好ましく、より好ましくは90重量%以下、あるいは20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上である。
グラフト(共)重合体は、公知の重合法で得ることができる。例えば、ゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液を連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
グラフト(共)重合体は、ゴム質重合体に単量体または単量体混合物がグラフトした構造をとったグラフト(共)重合体の他に、グラフトしていない(共)重合体を含有したものである。グラフト(共)重合体のグラフト率は特に制限がないが、耐衝撃性および光沢が均衡してすぐれる樹脂組成物を得るためには、20〜80%、特に25〜50%の範囲であることが好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される値である。
グラフト率(%)=[<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>]×100
グラフトしていない(共)重合体の特性は特に制限されないが、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、0.25〜1.00dl/g、特に0.25〜0.80dl/gの範囲であることが、すぐれた耐衝撃性の樹脂組成物を得るために好ましい条件である。
スチレン系(共)重合体はスチレン系単量体を必須とする共重合体である。スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレンおよびo−エチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましく使用される。これらは1種または2種以上を用いることができる。
スチレン系単量体の具体例としては、スチレンが好ましく使用されるが、溶融混練時の剪断下での自由体積減少による相溶性向上の観点から、炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体の1種以上を好ましく含むことができる。炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレンが好ましく使用される。
芳香族ビニル系単量体以外の単量体としては、一層の耐衝撃性、耐薬品性向上を目的とする場合にはシアン化ビニル系単量体が、また靭性および色調の向上を目的とする場合には(メタ)アクリル酸エステル系単量体が好ましく用いられる。
シアン化ビニル系単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく使用される。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の具体例としては、アクリル酸およびメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル化物などが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましく使用される。
また、必要に応じて使用されるこれらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、ビニルトルエンなど、スチレン系単量体以外の芳香族ビニル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミドおよびN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体が挙げられる。
本発明において、マレイミド系単量体を共重合したスチレン系共重合体、即ち、マレイミド基変性スチレン系共重合体は、ポリスチレン系樹脂中に含有させて使用することにより、樹脂組成物の耐熱性を向上でき、さらに難燃性も特異的に向上できるため、好ましく使用することができる。
スチレン系(共)重合体の構成成分であるスチレン系単量体の割合は、樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、全単量体に対し5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%の範囲である。シアン化ビニル系単量体は、耐衝撃性、流動性の観点から、1〜50重量%であり、好ましくは40重量%以下の範囲である。特にメッキ密着性が必要な場合には、25〜40重量%、さらに好ましくは35〜40重量%の範囲にすることで、メッキ処理時のキャタリスト工程での触媒吸着能力を向上させることができるために、好ましく用いられる。また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を混合する場合には、靭性、耐衝撃性の観点から、80重量%以下が好ましく、さらに好ましくは75重量%以下の範囲である。更に、これらと共重合可能な他のビニル系単量体を混合する場合には、60重量%以下が好ましく、特に50重量%以下の範囲が好ましい。
スチレン系(共)重合体の特性には制限はないが、メチルエチルケトン溶媒を用いて、30℃で測定した極限粘度[η]が、0.25〜5.00dl/g、特に0.35〜3.00dl/gの範囲のものが、すぐれた耐衝撃性および成形加工性を有する樹脂組成物が得られることから好ましい。
スチレン系(共)重合体の製造法には特に制限がなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状−懸濁重合法および溶液−塊状重合法など通常の方法を用いることができる。
本発明では(B)スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂として、耐衝撃性、耐熱性改良のために、ポリカーボネート樹脂を用いる。
上記ポリカーボネート樹脂としては芳香族ホモポリカーボネートと芳香族コポリカーボネートより選ぶことができる。製造方法としては、2官能フェノール系化合物に苛性アルカリ及び溶剤の存在下でホスゲンを吹き込むホスゲン法、あるいは二官能フェノール系化合物と炭酸ジエチルとを触媒の存在下でエステル交換させるエステル交換法を挙げることができる。該芳香族ポリカーボネートは粘度平均分子量が1万〜10万の範囲が好適である。ここで、上記2官能フェノール系化合物は、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジプロピルフェニル)プロパン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等であるが、溶融混練時の剪断下での自由体積減少による相溶性向上の観点から、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジプロピルフェニル)プロパンを含むことが好ましい。本発明において、2官能フェノール系化合物は、単独で用いてもよいし、あるいはそれらを併用してもよい。
(A)ゴム変性スチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂とのアロイ化においては、両者の溶融粘度差を小さくする、(a2)シアン化ビニル含有量の低減、および上記2官能フェノール系化合物併用による共重合ポリカーボネートの使用などにより、樹脂組成物の相構造の制御が可能である。さらにあらかじめ後述する樹脂組成および温度に対する相図を作成する事で容易に構造制御範囲を知ることが可能となる。
また(A)ゴム変性スチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂とをアロイ化する場合、(b)ポリカーボネート樹脂が20〜70重量%であり、さらには25〜60重量%の範囲がより好ましく、特に30〜50重量%の範囲であれば、両相連続構造が比較的得られやすく、さらに機械特性、流動性、メッキ性を有し、かつ難燃性付与が容易となる。従来ポリカーボネート樹脂がリッチ成分とならなければ、衝撃強度は低いものであったが、本発明よりポリカーボネート樹脂が30重量%でも高衝撃化できるため、ポリカーボネート樹脂がリッチ成分である組成に対して、流動性、耐薬品性、メッキ性が飛躍的に向上させることができる。
本発明のスチレン系樹脂組成物は、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート樹脂セグメントとビニル系重合体セグメントを含むグラフト重合体を併用することが重要である。
(c1)変性スチレン系重合体とは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基およびオキサゾリン基から選ばれた少なくとも一種の官能基を含有するビニル系単量体単位を含んでるスチレン系重合体(以下、(c1)変性スチレン系重合体と略称する。)を用いることができ、(c1)変性スチレン系重合体は、下記する(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体に含まれるポリカーボネート樹脂セグメントは含まないものである。
この(c1)変性スチレン系重合体としては、スチレン系単量体を含む一種または二種以上のビニル系単量体を重合または共重合して得られる構造を有し、かつ分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基およびオキサゾリン基から選ばれた少なくとも一種の官能基を含有する重合体である。これらの官能基を含有する化合物の含有量については制限されないが、特に変性スチレン系重合体100重量部当たり0.01〜20重量%の範囲であることが好ましい。
(c1)変性スチレン系重合体中にカルボキシル基を導入する方法には特に制限はないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体を所定のビニル系単量体と共重合する方法、γ,γ’−アゾビス(γ−シアノバレイン酸)、α,α’−アゾビス(α−シアノエチル)−p−安息香酸および過酸化サクシン酸などのカルボキシル基を有する重合開始剤および/またはチオグリコール酸、α−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプト−イソ酪酸および2,3または4−メルカプト安息香酸などのカルボキシル基を有する重合度調節剤を用いて、所定のビニル系単量体を(共)重合する方法、およびメタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体と所定のビニル系単量体、必要に応じてシアン化ビニル系単量体との共重合体をアルカリによってケン化する方法などを用いることができる。
上記ヒドロキシル基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体を、所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
上記エポキシ基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルおよびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体を、所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
中でも、メタクリル酸グリシジルを共重合させることによりエポキシ基を導入したエポキシ変性スチレン系重合体は、ポリスチレン系樹脂中に含有させて使用した場合、本発明の樹脂組成物の衝撃強度を向上させ、かつ難燃性付与が容易となるため好ましく用いることができる。
上記アミノ基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレンなどのアミノ基およびその誘導体を有するビニル系単量体を、所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
上記オキサゾリン基を導入する方法についても特に制限はないが、例えば2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体を所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
(c1)変性スチレン系重合体の特性には制限はないが、メチルエチルケトン溶媒を用いて、30℃で測定した極限粘度[η]が、0.25〜5.00dl/g、特に0.35〜3.00dl/gの範囲のものが、すぐれた耐衝撃性および成形加工性を有する樹脂組成物が得られることから好ましい。
(c1)変性スチレン系重合体の製造法には特に制限がなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状−懸濁重合法および溶液−塊状重合法など通常の方法を用いることができる。
さらに本発明で用いる(c2)ポリカーボネート樹脂セグメントとビニル系重合体セグメントを含むグラフト重合体とは、ポリカーボネート樹脂セグメントが連続相を形成し、ビニル系重合体セグメントが分散相となる多層構造を有するグラフト重合体(以下(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体と略す)が好ましい。
この(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体中のポリカーボネート樹脂セグメントを形成するポリカーボネート樹脂とは、前記(B)ポリカーボネート樹脂として例示したポリカーボネート樹脂全てが使用可能である。
また(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体中のビニル系重合体セグメントを形成するビニル系重合体とは、前記(A)ゴム変性スチレン系樹脂、および(c1)変性スチレン系重合体で例示したビニル系単量体全てが使用可能である。
(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体の製造方法は、ポリカーボネート系樹脂の水性懸濁液にビニル系単量体、ラジカル共重合性有機過酸化物およびラジカル重合開始剤を加え、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件下で加熱し、前記ビニル系単量体、ラジカル共重合性有機過酸化物およびラジカル重合開始剤をポリカーボネート系樹脂に含浸せしめ、次いでこの水性懸濁液の温度を上昇させ、ビニル系単量体とラジカル共重合性有機過酸化物とを、ポリカーボネート系樹脂中で共重合して生成したグラフト化前駆体を100〜350℃で溶融混合して(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を得ることができる。
このような(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体としては、例えばポリカーボネート樹脂にスチレンとアクリロニトリルからなる単量体混合物をグラフト重合して得られるPC−g−SAN(ポリカーボネート−グラフト−スチレン/アクリロニトリル共重合体、例えば日本油脂株式会社製「モディパー CH430」)、ポリカーボネート樹脂にスチレン単量体をグラフト重合して得られるPC−g−PS(ポリカーボネート−グラフト−ポリスチレン、例えば日本油脂株式会社製「モディパー CL130D」)、ポリカーボネート樹脂にスチレンとアクリロニトリル、および官能基変性ビニルからなる単量体混合物をグラフト重合して得られるPC−g−mSAN(ポリカーボネート−グラフト−変性スチレン/アクリロニトリル共重合体、例えば日本油脂株式会社製「モディパー CL440G」)などを挙げることができる。
(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を併用添加することにより、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させるため、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にすることができ、樹脂組成物の機械特性などを向上させることができる。
(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体の添加量は(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.2〜40重量部の範囲が好ましい。さらに好ましくは0.5〜35重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜30重量部の範囲にある場合である。添加量を0.2重量部以上使用することで、相溶化剤としての効果を発揮することができ、構造周期や粒子間距離の制御が可能となる。また添加量を40重量部以下とすることで、樹脂組成物の流動性、滞留安定性を維持することができるため好ましい。
また(c1)変性スチレン系重合体、(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体の添加比率は(c1):(c2)=99:1〜1:99(重量比)の範囲で用いられる。好ましくは99:1〜10:90(重量比)の範囲であり、特に好ましい範囲としては99:1〜20:80(重量比)の範囲にある場合である。これらの範囲とすることで、相溶化剤としてのすぐれた効果をえることができ、構造周期や粒子間距離の制御が可能となるため好ましい。
本発明では、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を添加することで、スチレン系樹脂組成物が構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有するものとすることができ、優れた機械特性、流動性、メッキ性を発現する。
かかる構造周期をもつ樹脂組成物を得るためには、(A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、さらには(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体が、一旦相溶解し、後述のスピノーダル分解によって構造形成せしめることにより得られる。さらにこの構造形成の実現のためには、(A)スチレン系樹脂と(B)スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂とが、後述の部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系であることが好ましい。
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、これらの組成に対して、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な全領域において相溶する相溶系や、逆に全領域で非相溶となる非相溶系や、ある領域で相溶し、別の領域で相分離状態となる、部分相溶系があり、さらにこの部分相溶系では、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離する場合と、核生成と成長によって相分離する場合がある。
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶する系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶した相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系などがある。本発明で好ましい3成分以上からなるポリマーアロイは、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系であり、この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる部分相溶系の構造で代替できることから、以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanserPublishers,Munich Viema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行するが、本発明で規定する構造を得るには、この最終的に巨視的な2相に分離する前の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。
また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
本発明でいう、両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
また、本発明にいう分散構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックスの中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
本発明のスチレン系樹脂組成物は、構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造に構造制御されたものを得ることができる。より優れた機械特性を得るためには、構造周期0.01〜0.5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.01〜0.5μmの範囲の分散構造に制御することが好ましく、さらには、構造周期0.01〜0.4μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.01〜0.4μmの範囲の分散構造に制御することがより好ましく、極めて優れた特性を得るためには構造周期0.01〜0.3μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.01〜0.3μmの範囲の分散構造に制御することが最も好ましい。かかる構造周期の範囲、および粒子間距離の範囲に制御することにより本発明効果である優れた機械特性、流動性、メッキ性、および難燃性を有する構造物を効果的に得ることができる。
一方、上述の準安定領域での相分離である核生成と成長では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
またこれらのスピノーダル分解による両相連続構造、もしくは分散構造を確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。これは例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることの確認が必要である。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造を持つ証明であり、その周期Λmは、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θmを用いて次式により計算することができる。
Λm =(λ/2)/sin(θm/2)
上記スピノーダル分解を実現させるためには、ゴム変性スチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂を相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。
まずこの2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。
溶融混練により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。相溶化のための温度は、部分相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
次に上記溶融混練により相溶状態とした樹脂組成物をスピノーダル曲線の内側の不安定状態として、スピノーダル分解せしめるに際し、不安定状態とするための温度、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより設定することができる。
スピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間で相分離相の一方または両方の成分の構造固定や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定や、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定が挙げられる。
本発明において(A)ゴム変性スチレン系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂とを上記スピノーダル分解により相分離させて本発明のスチレン系樹脂組成物とするには、前述したようにスチレン系樹脂と部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系である樹脂を組み合わせることが好ましい。
一般に部分相溶系には、同一組成において低温側で相溶しやすくなる低温相溶型相図を有するものや、逆に高温側で相溶しやすくなる高温相溶型相図を有するものが知られている。この低温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も低い温度を、下限臨界共溶温度(lower critical solution temperature略してLCST)と呼び、高温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も高い温度を、上限臨界共溶温度(upper critical solution temperature略してUCST)と呼ぶ。
部分相溶系を用いて相溶状態となった2成分以上の樹脂は、低温相溶型相図の場合、LCST以上の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることで、また高温相溶型相図の場合、UCST以下の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることでスピノーダル分解を行わせることができる。
またこの部分相溶系によるスピノーダル分解の他に、非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発すること、例えば溶融混練時等の剪断下で一旦相溶し、非剪断下で再度不安定状態となり相分解するいわゆる剪断場依存型相溶解・相分解によってもスピノーダル分解による相分離が可能であり、この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの剪断場依存型相溶解・相分解は、スピノーダル曲線が剪断場により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となるためより好ましく用いられる。かかる溶融混練時の剪断下により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。この場合における相溶化のための温度、初期過程を形成させるための熱処理温度、および初期過程から構造発展させる熱処理温度や、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、種々の剪断条件下での相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより条件を設定することができる。また上記射出成形機の可塑化工程での相溶化を確実に実現させる方法として、予め2軸押出機で溶融混練し相溶化させ、吐出後氷水中などで急冷し相溶化状態で構造を固定させたものを用いて射出成形する方法などが好ましい例として挙げられる。
また、本発明を構成するスチレン系樹脂組成物に、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどのコポリマーである第3成分を添加することは、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させるため、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましく用いられる。この場合通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
そこで上述特異的な相分離構造を実用的な成形加工条件下で安定して得るために、前記(A)成分、(B)成分、(c1)成分および(c2)成分を溶融混練することにより得られるが、溶融混練を樹脂圧力2.0MPa以上で行うことが好ましい。
本発明の製造方法における樹脂圧力とは、溶融混練装置に取り付けた樹脂圧力計で測定した値であり、ゲージ圧を樹脂圧力とする。
上記溶融混練時の樹脂圧力とは、一貫して2.0MPa以上が必要ではなく、少なくとも1ヵ所以上樹脂圧力が2.0MPa以上となる領域が存在すれば良く、押出機を用いて溶融混練する際には、通常最も樹脂圧力が高くなる箇所、例えば逆フルフライトやニーディングブロックによる樹脂滞留箇所で樹脂圧力が2.0MPa以上となるようにすることが好ましい。
溶融混練時の樹脂圧力は2.0MPa以上であれば機械的性能が許す限り特に制限はないが、好ましくは2.0〜10.0MPaの範囲で用いられ、さらには2.0〜7.0MPaの範囲がより好ましく、特に2.0〜5.0MPaの範囲であれば、両相連続構造がより安定して得られやすく、樹脂の劣化が小さいため好ましく用いられる。
溶融混練時の樹脂圧力を調整する方法としては、特に制限はないが、例えば(イ)溶融混練温度の低下による樹脂粘度の向上、(ロ)目的の樹脂圧力になるような分子量のポリマーを選択する、(ハ)逆フルフライト、ニーディングブロック導入などのスクリューアレンジ変更による樹脂滞留、(ニ)原料供給速度の向上、ダイス部へのメッシュ導入によるバレル内のポリマー充満率を上げる、(ホ)スクリュー回転数を上げる、(ヘ)任意の添加剤を混合することによる樹脂粘度の向上、(ト)炭酸ガス導入などの超臨界状態などが挙げられる。
本発明のスチレン系樹脂組成物は、上述の構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造という特異的な相構造を、実用的な成形によって安定的に得ることができ、スチレン系樹脂の優れた機械特性、成形加工性、外観を損なうことなく、機械特性、流動性、メッキ性、および難燃性(JIS K 7021に準じて測定した限界酸素指数(LOI))付与が容易になるという効果を発現する。
さらに本発明のスチレン系樹脂組成物においては、難燃剤を添加することで、容易に難燃性を付与できる。本発明に用いられる難燃剤は特に制限はなく、いわゆる一般の難燃剤であり、リン系化合物やハロゲン系有機化合物の他、メラミン等の窒素含有有機化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス、また、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物、シリカなどが用いられるが、好ましくはリン系化合物、またはハロゲン系有機化合物および、ハロゲン系有機化合物と酸化アンチモンの併用であるが、特に好ましくはリン系化合物である。
リン系化合物としては、リンを含有する有機または無機化合物であれば特に制限はなく、例えば、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスファゼン、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネートおよびホスフィンオキシドなどが挙げられる。中でも、ポリホスファゼンおよびホスフェートが好ましく、芳香族ホスフェートが特に好ましく使用できる。
リン系化合物の含有量は一般に(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲で用いられる。好ましくは0.5〜25重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜20重量部の範囲にある場合である。0.1重量部未満では必要な難燃効果が発揮されず、30重量部を超えると樹脂の機械的強度、耐熱性を大きく低下させるため好ましくない。
ハロゲン系有機化合物としては、例えば、ヘキサクロロペンタジエン、ヘキサブロモジフェニル、オクタブロモジフェニルオキシド、トリブロモフェノキシメタン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルオキシド、オクタブロモジフェニルオキシド、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモフタルイミド、ヒキサブロモブテン、トリクロロテトラブロモフェニル−トリフォスフェート、ヘキサブロモシクロドデカンやこれらを各種置換基で変性した化合物が挙げられる。
ハロゲン系有機化合物の含有量は一般に(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲で用いられる。好ましくは0.5〜25重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜20重量部の範囲にある場合である。0.1重量部未満では必要な難燃効果が発揮されず、30重量部を超えると樹脂の機械的強度を大きく低下させるため好ましくない。
本発明の樹脂組成物においては、難燃性を高めるためにさらに難燃剤に滴下防止剤を併用すると効果的である。滴下防止剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のパーフルオロアルカンポリマー、シリコンゴム、およびこれらをビニル系化合物でグラフト重合したグラフト重合体、高分子量アクリロニトリル−スチレン、高分子量PMMA等の高分子量ビニル系共重合体、ガラス繊維、カーボン繊維等が挙げられるが、特にポリテトラフルオロエチレンをアクリル変性したものが好ましく用いられる。
滴下防止剤の含有量は一般に(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲で好ましく用いられる。特に好ましい範囲としては0.05〜3重量部の範囲にある場合である。0.01重量部未満では燃焼時の滴下防止効果が不十分であり、高い難燃性が得られず、5重量部を超えると流動性、および剛性等の機械的強度を低下させるため好ましくない。
さらに本発明においては、強度及び寸法安定性等を向上させるため、必要に応じて充填材を用いてもよい。充填材の形状としては繊維状であっても非繊維状であってもよく、繊維状の充填材と非繊維状充填材を組み合わせて用いてもよい。かかる充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状および/または非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
強度及び寸法安定性等を向上させるため、かかる充填材を用いる場合、その配合量は特に制限はないが、通常(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して0.1〜200重量部配合される。
本発明のスチレン系樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、ポリオレフィン系化合物、シリコーン系化合物、長鎖脂肪族エステル系化合物、長鎖脂肪族アミド系化合物、などの離型剤、防食剤、着色防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウムなどの滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
これらの添加剤は、本発明のスチレン系樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、少なくとも2成分の樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め2成分の樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法が挙げられる。
本発明から得られるスチレン系樹脂組成物の成形方法は、任意の方法が可能であり、成形形状は、任意の形状が可能である。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形などを挙げることができるが、中でも射出成形は射出後、金型内で熱処理と構造固定化が同時にできることから好ましく、またフィルムおよび/またはシート押出成形であれば、フィルムおよび/またはシート延伸時に熱処理し、その後の巻き取り前の自然冷却時に構造固定ができることから好ましい。もちろん上記成形品を別途熱処理し構造形成させることも可能である。
本発明におけるスチレン系樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、耐熱性、流動性、メッキ性、および難燃性をいかして、構造材料として有用に用いることができ、例えば電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、雑貨などに好適に使用することができる。
本発明のスチレン系樹脂組成物の成形体は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電機部品キャビネット、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク、DVDなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、携帯電話関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エアフローメーター、エアポンプ、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、サーモスタットハウジング、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブ−スター部品、各種ケース、燃料関係・排気系・吸気系等の各種チューブ、各種タンク、燃料関係・排気系・吸気系等の各種ホース、各種クリップ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、各種パイプ、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、ブレーキパッド摩耗センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスイッチ基板、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、スタータースイッチ、スターターリレー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、デュストリビューター、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、ホーンターミナル、ウィンドウォッシャーノズル、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、ラジエターグリル、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプソケット、ランプハウジング、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車外装材、センターコンソール、インストルメントパネル、インパネコア、インパネパッド、グローブボックス、ハンドルコラム、アームレスト、レバーパーキング、フロントピラートリム、ドアトリム、ピラートリム、コンソールボックスなどの自動車内装材、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクターなどの各種コネクターなどの自動車部品;パソコン、プリンター、ディスプレイ、CRTディスプレイ、ファックス、コピー、ワープロ、ノートパソコン、携帯電話、PHS、DVDドライブ、PDドライブ、フレキシブルディスクドライブなどの記憶装置のハウジング、シャーシ、リレー、スイッチ、ケース部材、トランス部材、コイルボビンなどの電気・電子機器部品、機械部品、その他各種用途に有用である。
さらに本発明のスチレン系樹脂組成物からなる各種成形品は塗装またはメッキ処理に適しており、すぐれた塗装密着性およびメッキ特性を示す。
塗装密着性とは、塗料を塗布、乾燥、放置させた後に、JIS規格に基づくセロハンテープでの碁盤目試験を実施し、塗装の剥離状態から密着性を評価することができる。
本発明に用いる塗料としては、アクリル系塗料およびウレタン系塗料が挙げられる。アクリル系塗料とはアクリル酸およびそのエステル類、ならびにメタクリル酸およびそのエステル類、あるいはその他のビニル系化合物との共重合樹脂を塗膜形成主成分とする塗料のことである。またウレタン系塗料とは樹脂骨格中にウレタン結合を有するか、あるいは塗膜を形成する過程でウレタン結合を生成する塗料のことである。
メッキ特性とは、初期メッキ密着強度およびヒートサイクル後のメッキフクレの有無をいう。メッキ密着強度等の性能はエッチング処理により発生する孔の大きさ、深さ、数、孔の周辺を構成する基材の強度等に起因される。メッキ成分は孔の内部に浸入して基板に根を下ろすアンカー効果により、表層部を形成するメッキ部分の剥離を防止する。しかし、アンカー周辺の基材が脆くては基材もろとも剥離される。そのため、基材は充分な機械的強度を有し、さらにエッチング液による脆性化を防ぐに充分な耐溶剤性を有すること、かつ安定した相構造を有することにより、良好なメッキ特性を発現することができる。
そのメッキ処理方法は特殊なメッキ処理を必要とせず、樹脂メッキとして広く普及しているABS樹脂用メッキ処理方法で充分であり、その代表的なメッキ処理としては、(1)前処理、(2)粗表面化処理(エッチング)(3)感応性付与(センシタイジング)またはキャタリスト処理、(4)活性化処理(アクチベーチング)またはアクセレート処理、(5)無電解メッキおよび(6)電気メッキの各工程を順次経ることにより行われる。中でも上記(2)の粗表面化処理は以降のメッキ工程で付与される金属メッキ膜の密着性を左右する重要な工程で、プラスチックの種類に応じて種々の手段が用いられており、例えばABS樹脂では成形品をクロム酸−硫酸混合液に浸漬することによる化学エッチング法が確立されている。
本発明のスチレン系樹脂組成物においては、(A)ゴム変性スチレン系樹脂および(B)ポリカーボネート樹脂が構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造という特異的な相構造を有することにより、良好な塗膜密着性、およびエッチング処理により発生する孔の大きさ、深さ、数等を均一に制御できるため良好なメッキ特性が得られることを見いだしたものである。
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
[参考例1](A)スチレン系樹脂
<A−1>グラフト(共)重合体
以下にグラフト共重合体の調製方法を示す。なおグラフト率は次の方法で求めたものである。グラフト共重合体の所定量(m)にアセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000G(約100×103 m/s2 ))30分遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。
グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率を意味する。
上記アセトン溶液の濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を得た。この可溶分を、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。また得られたグラフト共重合体中の各単量体単位の含有率について、30μm程度のフィルム状の試料をプレス成形により作成し、FT−IR分析より得られるピーク強度比から測定した。
<A−1−1>
ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.3μm)50部(固形分換算)の存在下でスチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物50部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体は硫酸で凝固した後、洗浄、乾燥してパウダー状として得た。
得られたグラフト共重合体のグラフト率は42%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.37dl/g、各単量体単位の含有率は、ブタジエン単位50重量%、スチレン単位35重量%、アクリロニトリル単位15重量%であった。
<A−1−2>
ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.2μm)50部(固形分換算)の存在下でメタクリル酸メチル70%、スチレン25%、アクリロニトリル5%からなる単量体混合物50部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体は硫酸で凝固した後、洗浄、乾燥してパウダー状として得た。
得られたグラフト共重合体のグラフト率は45%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.30dl/g、各単量体単位の含有率は、ブタジエン単位50重量%、メタクリル酸メチル単位35重量%、スチレン単位12重量%、アクリロニトリル単位3重量%であった。
<A−2>ビニル系共重合体の調製
以下にビニル系共重合体の調製方法を示す。なお得られたポリマーを、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。また得られたビニル系共重合体中の各単量体単位の含有率について、30μm程度のフィルム状の試料をプレス成形により作成し、FT−IR分析より得られるピーク強度比から測定した。
<A−2−1>
スチレン−アクリロニトリル共重合体“トヨラック”1050B(東レ(株)製)を使用した。メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.39dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位76重量%、アクリロニトリル単位24重量%であった。
<A−2−2>
スチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物を懸濁重合してビニル系共重合体を調製した。得られたビニル系共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.53dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位70重量%、アクリロニトリル単位30重量%であった。
<A−2−3>
スチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物を懸濁重合してビニル系共重合体を調製した。得られたビニル系共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.98dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位70重量%、アクリロニトリル単位30重量%であった。
<A−2−4>
スチレン40%、アクリロニトリル30%、α−メチルスチレン30%からなる単量体混合物を懸濁重合してビニル系共重合体を調製した。得られたビニル系共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.52dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位40重量%、アクリロニトリル単位30重量%、α−メチルスチレン単位30重量%であった。
<A2−5>
スチレン65%、アクリロニトリル35%からなる単量体混合物を懸濁重合してビニル系共重合体を調製した。得られたビニル系共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.54dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位65重量%、アクリロニトリル単位35重量%であった。
[参考例2](B)スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂
<B−1>芳香族ポリカーボネート“ユーピロン”S3000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を使用した。
<B−2>芳香族ポリカーボネート“ユーピロン”S2000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を使用した。
<B−3>芳香族ポリカーボネート“ユーピロン”E2000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を使用した。
<B−4>2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン24.3%、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン30.6%、およびジフェニルカーボネート45.1%とを撹拌槽に仕込み窒素置換後150℃で溶融した。ここにテトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよび水酸化ナトリウムを添加し150℃で1時間撹拌により反応を行った。次いで220℃まで昇温した後、27kPa(200mmHg)まで減圧して1時間撹拌、さらに温度を250℃まで昇温した後、2kPa(15mmHg)まで減圧し1時間撹拌により反応を進行させた。得られた反応物を遠心薄膜型蒸発装置に送入し反応を進行させた後、横型撹拌重合装置へ送入し290℃で30分滞留により重合を完結させた。横型撹拌装置よりダイを通してストランド状とし、カッターにてペレット化した共重合芳香族ポリカーボネートを使用した。
[参考例3](c1)変性スチレン系重合体
以下に変性ビニル系重合体の調製方法を示す。なお得られたポリマーを、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。また得られた変性ビニル系重合体中の各単量体単位の含有率について、30μm程度のフィルム状の試料をプレス成形により作成し、FT−IR分析より得られるピーク強度比から測定した。
<c1−1>スチレン69.7%、アクリロニトリル30%、グリシジルメタクリレート0.3%からなる単量体混合物を懸濁重合して変性ビニル系共重合体を調製した。得られた変性ビニル系共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.53dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位69.7重量%、アクリロニトリル単位30重量%、グリシジルメタクリレート単位0.3重量%であった。
<c1−2>スチレン67%、アクリロニトリル30%、無水マレイン酸3%からなる単量体混合物をメチルエチルケトン溶媒中で溶液重合してビニル系共重合体を調製した。得られたビニル系共重合体はメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.53dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位67重量%、アクリロニトリル単位30重量%、無水マレイン酸単位3重量%であった。
(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体
<c2−1>ポリカーボネート−グラフト−スチレン/アクリロニトリル共重合体(PC−g−SAN)“モディパーCH430”(日本油脂(株)製)を使用した。
<c2−2>ポリカーボネート−グラフト−変性スチレン/アクリロニトリル共重合体(PC−g−mSAN)“モディパーCL440G” (日本油脂(株)製)を使用した。
<c2−3>ポリカーボネート−グラフト−ポリスチレン共重合体(PC−g−PS)“モディパー CL130D”(日本油脂(株)製)を使用した。
[参考例4]難燃剤
<FR−1>芳香族ビスホスフェート“PX200”(大八化学工業(株)製)を使用した。
<FR−2>臭素化エポキシ樹脂“SR−T5000”(坂本薬品工業(株)製)を使用した。
[参考例5]添加剤
<TZ−1>アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン“メタブレン”A3000(三菱レイヨン(株)製)を使用した。
[実施例1〜28、比較例1〜13]
表1〜4記載の実施例および比較例の組成からなる原料を、押出温度250℃に設定した2軸スクリュー押出機(池貝工業社製PCM−30)に供給し、ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中にて急冷し、構造を固定したのちペレット状のポリマーを製造した。
得られたペレット状のポリマーを用い、射出成形機(住友重機社製、プロマット40/25)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、次の条件で物性を測定した。
[耐衝撃性]:ASTM D256−56Aに従い耐衝撃性を評価した。6本測定した平均の値とする。
[曲げ強さ]:ASTM D790に従い曲げ強度を評価した。
[曲げ弾性率]:ASTM D790に従い曲げ弾性率を評価した。
[引張強さ]:ASTM D638に従い引張強さを評価した。
[引張伸び]:ASTM D638に従い引張伸びを評価した。
[耐熱性]:ASTM D648(荷重:1.82MPa)に従い耐熱性を評価した。
[流動性]:スパイラルフロー(断面形状:幅10mm×厚み2mm)の流動長(スパイラルフロー長)を、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出圧力50MPaで測定した。
[限界酸素指数]:JIS K7021に従い限界酸素指数を評価した。
[メッキ膜の密着強度]:下記15)電気メッキ(光沢銅メッキ)まで施した角板を80℃で2時間ベーキング後、1時間放冷した後、メッキ膜を10mm巾で長さ20mmにわたってT剥離する際の力量(Kg)を測定することによって評価した。
[メッキのサーマルサイクル性テスト]:下記19)電気メッキ(クロムメッキ)まで施した角板を90℃(1hr)→室温(15min)→−35℃(1hr)→室温(15min)を1サイクルとして3サイクル実施し、メッキ表面に異常(フクレ、ハガレ、クラック)の有無を観察して評価した。
(メッキ条件)
金型温度60℃で成形した80mm×80mm×3mm厚の角板成形品を下記条件でメッキ処理を行った。
1)脱脂試験片を“エースクリーンA−220”(奥野製薬工業(株)製)を用い55℃×4分間浸漬。
2)水洗
3)エッチング98重量%硫酸を用い60℃×10分間浸漬。
4)水洗
5)酸処理5重量%塩酸を用い30℃×2分間浸漬。
6)水洗
7)キャタリスト濃塩酸150ml、キャタリストC50ml(奥野製薬工業(株)製)および水1000mlからなる溶液に20℃×2分間浸漬。
8)水洗
9)アクセレーター10重量%硫酸を用い40℃×3分間浸漬。
10)水洗
11)無電解銅メッキOPC−750(奥野製薬工業(株)製)を用い30℃×8分間浸漬。
12)水洗
13)活性化5重量%の硫酸を用い30秒間浸漬。
14)水洗
15)電気メッキ(光沢銅メッキ)テストピースを濃硫酸50g、硫酸銅(5水和物)200g、SCB−MU10ml、SCB−I1ml(奥野製薬工業(株)製)および水1000mlからなる酸性銅メッキ浴中におき、温度20〜25℃、電流密度4A/dm2の条件下で、厚み約30μmの銅メッキ膜を形成。
16)水洗
17)電気メッキ(光沢ニッケルメッキ)ホウ酸40g、塩化ニッケル・(6水和物)50g、硫酸ニッケル(7水和物)300g、モノライト1ml(奥野製薬工業(株)製)、アクナB−I20ml(奥野製薬工業(株)製)および水1000mlからなるメッキ浴中で、温度50℃、電流密度5A/dm2 の条件下で、厚み約15μmのニッケルメッキ膜を形成。
18)水洗
19)電気メッキ(クロムメッキ)濃硫酸5g、酸化クロム250gおよび水1000mlからなるメッキ浴中で温度45℃、電流密度20A/dm2 の条件下で、厚み約0、2μmのクロムメッキ膜を形成。
さらに上記射出成形により得られた成形品から厚み100μmの切片を切り出したサンプルについて、ヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて5万倍に拡大して観察を行った。
また上記射出成形により得られた成形品から厚み100μmの切片を切り出したサンプルについて、両相連続構造の場合の構造周期または分散構造の場合の粒子間距離を小角X線散乱(0.4μ未満の構造周期または粒子間距離の場合)もしくは光散乱(0.4μ以上の構造周期または粒子間距離の場合)にて測定した。いずれのサンプルもピークが観察され、該ピーク位置(θm)から下式で計算した、構造周期または粒子間距離(Λm)を求めた。
Λm =(λ/2)/sin(θm/2)
各サンプルの透過型電子顕微鏡写真から構造の状態、小角X線散乱もしくは光散乱から構造周期または粒子間距離、さらには耐衝撃性、曲げ特性、引張特性、耐熱性、流動性、メッキ性および限界酸素指数の測定結果を表1〜4に示す。
実施例1〜16より、本発明のとおり(A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)ポリカーボネート系樹脂に、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を併用する事により、1μm以下の両相連続構造および分散構造である微細な相構造を実用的な射出成形において安定して得ることができ、機械特性、耐熱性、流動性、メッキ性、さらには難燃性を飛躍的に改良する事ができた。特に実施例5、10に記載の<A−2−4>α−メチルスチレン単位を有するスチレン系樹脂、および実施例9、10に記載の<B−4>共重合芳香族ポリカーボネートを使用した場合には、溶融混練時の剪断下での自由体積減少による相溶性が向上し、所望の相構造が得られやすく、顕著な特性向上がみられた。さらに実施例6に記載の<A2−5>アクリロニトリル含有量の高いビニル系共重合体を用いた場合、および実施例15、16に記載の<A−1−1>グラフト重合体を増量した場合には、機械特性を維持したまま、メッキ性を向上させることができた。
また実施例17〜21より、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体の種類、および添加比率を変更した場合でも、上記同様に優れた特性を発現する事ができた。
対して比較例1〜8のように、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体未添加、または(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を単独で添加した場合、汎用可能な射出成形では所望の相構造が得られず、機械特性、流動性、メッキ性は低いものとなった。
実施例12と比較例7の比較から、高衝撃化のために必要なポリカーボネート樹脂が30重量部と少ない場合、比較例7のように耐衝撃性は大きく低下するのに対し、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を併用添加する事により、両相連続構造の微細な構造が得られ、ポリカーボネート樹脂50重量部添加している比較例1〜6と同等の耐衝撃性を発現しながら、流動性、耐薬品性、メッキ性を飛躍的に向上できる。
実施例22〜28より、スチレン系樹脂組成物に難燃剤および添加剤を添加しても、本発明のとおり1μm以下の両相連続構造である微細な相構造を有することにより、機械特性、耐熱性、流動性、メッキ性を維持したまま、難燃性を飛躍的に改良する事ができた。特に実施例23に記載の<FR−1>難燃剤を増量した場合、および実施例28に記載の<B−3>ポリカーボネート樹脂を増量した場合には、限界酸素指数(LOI)が30%程度となり、一般的な難燃指標であるUL規格の垂直燃焼試験においてV−0を発現できるレベルとなる。
一方比較例9〜13のように、(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体未添加、または(c1)変性スチレン系重合体および(c2)ポリカーボネート系グラフト重合体を単独で添加した組成物に難燃剤および添加剤を添加した場合、所望の相構造が得られず、機械特性は低く、さらに難燃性は本発明品と比べ顕著に低下するため、同等の難燃性を発現させるためには大量の難燃剤の添加や(b)ポリカーボネート樹脂の増量が必要となる。