JP4875264B2 - 耐熱性・耐候性に優れた絶縁樹脂組成物および絶縁電線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない絶縁樹脂組成物および電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線には、難燃性、引張特性、耐熱性など種々の特性が要求される。このため、これら絶縁電線の被覆材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合した、エチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
【0003】
近年、このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合の種々の問題が提起されている。例えば、埋立により廃棄した場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤の溶出、また焼却した場合には、多量の腐食性ガスの発生、ダイオキシンの発生などという問題が起こる。
このため、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の検討が盛んに行われている。
【0004】
従来のノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させたものであり、このような被覆材料の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が、また、樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスには、安全性の面から高い難燃性が要求されており、非常に厳しい難燃性規格 UL1581(Reference Standard for Electrical Wires, Cables, and Flexible Cords)などに規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)のVW−1規格や水平難燃規格、JIS C3005に規定される60度傾斜難燃特性をクリアするものでなければならない。さらに、難燃性以外の特性についても、ULや電気用品取締規格などで、破断伸び100%、破断抗張力10MPa以上という高い機械特性が要求されている。
【0006】
ノンハロゲン難燃材料は上記のような難燃性を確保するために、上述の樹脂成分に対し、同量程度以上の金属水和物を加えることにより難燃性を保持している。
しかしながらこのような金属水和物を大量に加えた樹脂組成物及びこれを用いた電線は著しく耐候性に乏しく、屋外や照明配線に使用することができない。
これまで屋外でノンハロゲン難燃材料を被覆した電線・ケーブルを使用する際には、カーボンを加えることにより耐候性を高め使用してきたが、照明系配線等の種々の配線を行い場合においては、電線の多色化が不可欠であり、このような領域にノンハロゲン電線が使用できない等の問題があった。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決し、絶縁電線に要求される高度の難燃性と優れた耐熱性、耐侯性、機械特性を有し、任意の色に着色でき、電気絶縁性などの電気特性を保持し、耐油性を維持し、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題のない絶縁樹脂組成物及びこの組成物を被覆材とする絶縁電線を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、金属水和物として架橋性のシラン処理剤で処理なされた金属水和物を使用し、ヒンダートフェノール系抗酸化剤、チオエーテル抗酸化剤、ベンゾフェノン系及び/又は紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤を特定量加えることにより耐候性、耐熱性に優れたノンハロゲン絶縁樹脂組成物及びこの組成物を被覆材とする絶縁電線を得られることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ポリプロピレン樹脂、エチレン−α−オレフィン樹脂、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体及びエチレン−メタクリレート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対して、アミノ基、ビニル基およびエポキシ基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するシランカップリング剤で表面処理された金属水和物60〜300質量部を含有し、さらに、ヒンダートフェノール系抗酸化剤1〜8質量部、下記式(1)の構造で示されるチオエーテル系抗酸化剤0.6〜8質量部、ベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.4〜8質量部、及びヒンダートアミン系光安定剤0.8〜5質量部を含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物、
【0010】
【化2】
【0011】
(式(1)中、R1は、アルキル基を表わす。)
【0012】
(2)(1)項に記載の絶縁樹脂組成物を導体及び/又は光ファイバの周りに被覆したことを特徴とする絶縁電線、及び
(3)(1)項に記載の絶縁樹脂組成物を導体及び/又は光ファイバの周りに被覆しており、該被覆部樹脂組成物が架橋されていることを特徴とする絶縁電線
を提供するものである。
【0013】
ポリオレフィン樹脂やエチレン系共重合体に水酸化マグネシウム等の金属水和物を60質量部以上加えてゆくと、著しく耐候性が低下する。通常耐候性処方としてはポリマー100質量部に対し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.2〜0.4質量部、ヒンダートアミン系光安定剤0.4質量部程度加えられる。
【0014】
しかしながらこの耐候性処方では上述の金属水和物を60質量部加えた場合においては全く効果が無く、劣化してしまう。これは紫外線等の光によりポリマーや金属水和物の表面処理剤が劣化され、金属水和物とポリマー間に欠陥が生じ、これが伸びの低下やストレスクラックの原因となる。
【0015】
本発明では金属水和物として架橋性のシラン処理剤で処理された金属水和物を使用し、金属水和物とポリマーをシランカップリング剤で結合させたうえで、通常老化防止剤として樹脂成分100質量部に対して0.1質量部程度使用されるヒンダートフェノール系抗酸化剤を少なくとも1質量部以上、(1)式で示されるチオエーテル系抗酸化剤を少なくとも0.6質量部の存在下で、ベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.4質量部以上、ヒンダートアミン系光安定剤0.8質量部以上加えることにより、この結合を紫外線等の光が長期間当たって劣化が生じても修復なされるため、金属水和物とポリマー間の欠陥が最小限に抑えられるため、伸びやストレスクラックが生じない。このようなプロセスでノンハロゲンコンパウンドの耐候性を大幅に向上させた。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の絶縁樹脂組成物に含まれる成分及び機能について説明する。
【0017】
(A)熱可塑性樹脂
本発明の絶縁樹脂組成物で主成分として使用される熱可塑性樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体である。
(A−1)ポリオレフィン樹脂
ポリオレフィン樹脂としてはポリプロピレン樹脂、エチレン−α−オレフィン樹脂、ポリエチレンなどが挙げられる。
本発明に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体等が挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は1種類でも良いし、2種類以上混合して使用することができる。
【0018】
エチレン・α−オレフィン共重合体は、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体であり、α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。
【0019】
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、EPR、EBR、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等がある。このなかでも、シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。
【0020】
本発明におけるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体は、その製法としては、特開平6−306121号公報や特表平7−500622号公報などに記載されている公知の方法を用いることができる。
シングルサイト触媒は、重合活性点が単一であり、高い重合活性を有するものであり、メタロセン触媒、カミンスキー触媒とも呼ばれており、この触媒を用いて合成したエチレン・α−オレフィン共重合体は、分子量分布と組成分布が狭いという特徴がある。
このようなシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が、高い引張強度、引裂強度、衝撃強度などを有することから、金属水和物を高充填する必要があるノンハロゲン難燃材料(配線材の被覆材料)に使用した場合、高充填された金属水和物による機械特性の低下を小さくすることができるという利点がある。
【0021】
本発明において用いられるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体としては、Dow Chemical社から、「AFFINITY」「ENGAGE」(商品名)が、Exxon Chemical社から、「EXACT」(商品名)が、日本ポリケムから「カーネル」(商品名)が上市されている。
【0022】
(A−2)エチレン系共重合体
本発明に用いることのできるエチレン系共重合体として具体的には例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メタクリレート共重合体(EMA)などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。またエチレン系共重合体の中で難燃性や耐候性を向上させる点からは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を使用するのが好ましい。
【0023】
特に酸含有量が20〜45質量%のエチレン系共重合体を使用した際に耐候性の向上が確認された。酸含有量20質量%未満のエチレン共重合体やポリオレフィン樹脂を使用した場合、ストレスの加えられた状態で長期間光にさらされると、材料にクラックが発生しやすくなるが、酸含有量20〜45質量%のエチレン系共重合体を使用した場合このクラックの発生が大幅に抑えられる。好ましくはエチレン系共重合体の酸含有量は22〜42質量%、さらに好ましくは25〜40質量%、さらに好ましくは28〜35質量%である。
【0024】
その他ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体の他に樹脂成分として強度付与、難燃性付与、柔軟性付与等のため、無水カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂、スチレン系エラストマー、アクリルゴム等の樹脂やゴム成分を加えることができる。
【0025】
(B)金属水和物
本発明においては、樹脂組成物、配線材に難燃性を付与することを目的として、前記熱可塑性樹脂組成物(A)に所定量の金属水和物(B)を配合する。
【0026】
本発明において用いられる金属水和物としては、特に限定はしないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物を単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。金属水和物としては水酸化マグネシウムが好ましく、このようなものとしては、例えば、「キスマ5シリーズ」(商品名、協和化学社製)などの市販品が好ましい。
【0027】
本発明に使用される金属水和物は架橋性のシランカップリング剤で処理なされた金属水和物を使用しなければならない。
ここで、シランカップリング剤が架橋性であるとは、例えばアミノ基、ビニル基、エポキシ基などのシランカップリング剤の末端基が金属水和物と反応し、シランカップリング剤を金属水和物表面に付着結合させうることを意味する。なおここでいうビニル基にはアクリル基やメタクリル基等の反応性二重結合を有するものも含む。
架橋性のシランカップリング剤としてはビニル基やアクリル、メタクリル基等の2重結合を末端に有するシランカップリング剤や、エポキシ基やメルカプト基、アミノ基を末端に有するシランカップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤とその他のシランカップリング剤を併用させても良いし、これらのビニル基、エポキシ基、メルカプト基またはアミノ基を末端に有するシランカップリング剤を2種以上併用しても良い。またこれらのシランカップリング剤とステアリン酸等の脂肪族の表面処理剤を併用しても良い。
【0028】
このビニル基、エポキシ基、メルカプト基またはアミノ基を末端に有するシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0029】
金属水和物をシランカップリング剤で処理する場合には、予めシランカップリング剤を金属水和物に対してブレンドして行うことが必要である。このときシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.2〜2質量%が好ましい。シランカップリング剤は原液でもよいし、溶剤で希釈されたものを使用してもよい。
【0030】
架橋性のシランカップリング剤で処理した金属水和物を難燃剤として使用した場合、たとえばステアリン酸やオレイン酸のみで処理なされた金属水和物を使用した場合と比較して飛躍的に耐候性の向上が確認された。この改良のプロセスについてははっきりしていないが、架橋性のシランカップリング剤を使用した金属水和物は、シランカップリング剤を介してポリマーと結合することができる。シランカップリング剤とポリマーの結合が紫外線等の光によって損傷を受けた場合、ヒンダートフェノール系抗酸化剤やヒンダートアミン光安定剤がそのラジカルをトラップし、さらに式(1)で示されるチオエーテル系抗酸化剤が修復を行うことにより、樹脂成分にストレスがかかった状態においてクラックが発生しにくく、また伸びの低下が生じにくいものと想定される。
【0031】
一方ステアリン酸やオレイン酸や非架橋性の金属水和物で表面処理なされた金属水和物はポリマーとの結合が生じていないため、紫外線等の光でポリマーや表面処理剤が劣化する事により、ポリマーと金属水和物の間に欠陥が発生する。この欠陥はもちろん同様な手法で修復されるもののポリマーと金属水和物の結合が無いため不完全である。従ってストレスが加わった状態で長期間光にさらされた樹脂組成物にクラックが生じたり、伸びの低下が生じたりするものと考えられる。
【0032】
さらに式(1)で示されるチオエーテル系抗酸化剤やベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は金属水和物の塩基性によって分解されたり、金属水和物に吸着がされたりする。架橋性シランカップリング剤で処理された金属水和物を使用することにより、金属水和物がポリマーと結合構造を有することとなるため、上述のような式(1)で示されるチオエーテル系抗酸化剤やベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の吸着や分解を抑えることができるものと考えられる。
【0033】
架橋性シランカップリング剤で処理なされた金属水和物の一部として、たとえば非架橋性のシランカップリング剤で表面処理なされた金属水和物、脂肪酸等で処理なされた金属水和物、無処理の金属水和物を用いることができるが、多くとも金属水和物中の1/3以下に抑えなければならない。
【0034】
金属水和物の量は樹脂100質量部に対し、60質量部〜300質量部、好ましくは70〜250質量部、さらに好ましくは70〜200質量部である。これが60質量部より少ないと難燃性に問題が生じ、また300質量部より多いと力学的強度に乏しくなるだけでなく、耐候性が著しく低下する。したがって耐候性を保持するためには上限は、250質量部以下が好ましく、200質量部以下がさらに好ましい。
【0035】
(C)ヒンダートフェノール抗酸化剤
本発明に使用されるヒンダートフェノール抗酸化剤の具体例としては、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
【0036】
通常ヒンダートフェノール抗酸化剤の使用量は樹脂成分100質量部に対して0.5質量部以下であるが、本発明の樹脂組成物では樹脂成分100質量部中少なくとも1質量部、好ましくは1.3質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上が好ましい。
【0037】
またヒンダートフェノール抗酸化剤の量は樹脂成分100質量部に対し8質量部以下でなければならない。8質量部より多いと、強度が著しく低下するのみならず、量を加える効果がほとんどなくなるためである。
【0038】
このヒンダートフェノール抗酸化剤は本樹脂組成物の耐熱性を保持するだけでなく、光によって劣化したラジカルをトラップする働きがある。さらにシランカップリング剤によって結合された金属水和物とポリマー間の光による劣化により生じたラジカルをトラップし、これを修復する事により、ポリマーと金属水和物間の欠陥を抑え、紫外線等の光で当たった後の樹脂組成物の伸びの低下やストレスクラックを抑えることができる。
【0039】
(D)チオエーテル系抗酸化剤
本発明に使用されるチオエーテル系抗酸化剤は、下記式(1)で示される。
【0040】
【化3】
【0041】
式(1)中、R1は、アルキル基、好ましくは炭素数1〜30のものを表わす。
【0042】
式(1)で示されるチオエーテル抗酸化剤は通常樹脂組成物に対し0.3質量部程度使用されるが、本発明においては少なくとも0.6〜8質量部、好ましくは1.0〜6質量部、さらに好ましくは1.5〜4質量部使用される。
【0043】
このチオエーテル系抗酸化剤を0.6質量部以上加えることにより耐熱性が飛躍的に向上するのみならず、耐候性も飛躍的に向上する。特にヒンダートアミン光安定剤と併用することにより飛躍的な効果が見られる。
特に酸含有量20質量%以上のエチレン系共重合体を樹脂成分として使用した場合、このチオエーテル系抗酸化剤は耐候性保持に関し、飛躍的な効果が見られる。このプロセスについては明らかでは無いが、エチレン系共重合体の場合エステル部が紫外線等の光により劣化されやすいと考えられるが、この劣化をチオエーテル系抗酸化剤が修復するためであると考えられる。
【0044】
このチオエーテル系抗酸化剤は8質量%以下に限定される。これをあまり多く加えると、ブリードが生じるだけでなく、逆に耐候性が低下する。
【0045】
(E)ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール紫外線吸収剤
本発明に使用されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン等や下記式のものが挙げられる。
【0046】
【化4】
【0047】
式(Ea-1)中、R2はアルキル基、好ましくは炭素数1〜20のものを表わす。式(Ea-1)の化合物の具体例としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0048】
また本発明に使用されるベンゾトリアゾール紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−ブチル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−アミル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールや下記式のものが挙げられる。
【0049】
【化5】
【0050】
これらの紫外線吸収剤は金属水和物の塩基性やヒンダートアミン系光安定剤の塩基性により分解が引き起こされる。特に金属水和物として水酸化マグネシウムを大量に用いた場合、分解が激しくなる。樹脂組成物として酸含有量20質量%以上のエチレン系共重合体を樹脂成分として使用することにより、この塩基性が抑えられ、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール紫外線吸収剤の分解を抑えることができるため、耐候性を大幅に向上することが可能となる。
【0051】
このベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール紫外線吸収剤は0.4〜8質量部、好ましくは0.8〜6質量部、さらに好ましくは1.2〜5質量部、さらに好ましくは1.5〜5質量部である。
0.4質量部より少ないと実質的に効果がほとんどなく、また8質量部より多いと力学的強度が低下するのみならず、耐熱性が低下する。
ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール紫外線吸収剤は金属水和物により分解を想定し、0.8質量部以上加えた方が好ましい。
【0052】
(F)ヒンダートアミン系光安定剤
本発明に使用されるヒンダートアミン光安定剤の具体例としては、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))や下記式のものが挙げられる。
【0053】
【化6】
【0054】
式(F-3)中、xは1以上の整数を表わす。式(F-4)中、nは1以上の整数、好ましくは1〜20を表わす。式(F-4)の化合物の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどが挙げられる。
【0055】
このヒンダートアミン系光安定剤はシランカップリング剤を介しての金属水和物とポリマーの結合が紫外線等の光で切断された際、修復する作用がある。特に樹脂表面近傍におけるこの結合の修復に大きな効果がある。さらにヒンダートアミン系光安定剤は式(1)で示されるチオエーテル系抗酸化剤と併用することにより、飛躍的な耐候性を示すだけでなく、チオエーテル系抗酸化剤によるピンキングを抑えることが可能となる。この量が0.8質量部より少ないと耐侯性が著しく低下し、また5質量部を越えると老化特性が著しく低下する。
【0056】
本発明の絶縁樹脂組成物には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合することができ、さらに難燃性を向上することができる。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。本発明に用いることができるスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛は、平均粒子径が5μm以下のものが好ましく、3μm以下のものがさらに好ましい。
【0057】
本発明で用いることのできるホウ酸亜鉛の具体例としては、アルカネックスFRC−500(2ZnO/3B2O3・3.5H2O)、FRC−600(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。またスズ酸亜鉛(ZnSnO3)、ヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH)6)の具体例としては、アルカネックスZS、アルカネックスZHS(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。
【0058】
本発明の絶縁樹脂組成物には、電線・ケーブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0059】
金属不活性剤の具体例としては、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2'−オキサミド−ビス(エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
【0060】
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどがあげられる。
【0061】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、ワックスE、ワックスOP(いずれも商品名、Hoechst社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系滑剤が好ましい。
【0062】
本発明の絶縁樹脂組成物は、上記の各成分を、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど、通常用いられる混練装置で溶融混練して得ることができる。
【0063】
次に本発明の絶縁電線について説明する。
本発明の電線、ケーブル、光ケーブル、光コードは、導体及び光ファイバの外側に上記の本発明の絶縁樹脂組成物の架橋体により被覆されたものである、本発明の絶縁樹脂組成物を通常の電線製造用押出成形機を用いて導体や光ファイバ周囲に押出被覆なされる。
【0064】
シランカップリング剤とポリマーを結合させるためその後架橋しても良いし、ニーダーやバンバリーミキサーで樹脂組成物作成時に樹脂の一部分を架橋すると共にポリマーと金属水和物をシランカップ剤を介して結合させても良い。
【0065】
被覆後の架橋の方法は特に制限はなく、電子線架橋法や化学架橋法で行うことができる。
電子線架橋法で行う場合、電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
【0066】
化学架橋法の場合は樹脂組成物に、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシエステル、ケトンペルオキシドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形被覆後に加熱処理により架橋をおこなう。
【0067】
本発明の絶縁電線の導体径や導体の材質などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。導体の周りに形成される絶縁樹脂組成物の被覆層の肉厚も特に制限はないが、0.15〜1mmが好ましい。また、絶縁層が多層構造であってもよく、本発明の絶縁樹脂組成物で形成した被覆層のほかに中間層などを有するものでもよい。
【0068】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
まず、表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各絶縁樹脂組成物を製造した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径1.14mmφの錫メッキ軟銅撚線 構成:30本/0.18mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。外径は2.74mm(被覆層の肉厚0.86mm)とし、被覆後、10Mradで電子線照射して架橋を行った。
【0070】
なお、表1〜3に示す各成分は下記のものを使用した。
(01)エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有量 33質量%
EV−180(商品名、三井デュポンポリケミカル製)
(02)エチレン−エチルアクリレート共重合体
EA含有量 25質量%
A−714(商品名、三井デュポンポリケミカル製)
(03)エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有量 17質量%
V−527−4(商品名、三井デュポンポリケミカル製)
(04)エチレン−αオレフィン共重合体
密度 0.905
ユメリット0540F(商品名、宇部興産製)
【0071】
(05)スチレン系エラストマー
SEPS4077(商品名、クラレ製)
(06)ゴム系軟化剤
ダイアナプロセスオイルPW−90(商品名、シェル製)
(07)マレイン酸変性PE
アドマーXE070(商品名、三井化学製)
(08)無処理水酸化マグネシウム
キスマ5(商品名、協和化学社製)
(09)末端にビニル基を有するシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウム
キスマ5LH(商品名、協和化学社製)
(10)ステアリン酸処理水酸化マグネシウム
キスマ5A(商品名、協和化学社製)
【0072】
(11)末端にビニル基(アクリル基)を有するシランカップリング剤
TSL8370(商品名、東芝シリコーン社製)
(12)末端にエポキシ基を有するシランカップリング剤
TSL8350(商品名、東芝シリコーン社製)
(13)ヒンダートフェノール系抗酸化剤
イルガノックス1010(商品名、チバガイギー社製)
(14)チオエーテル系抗酸化剤
アデカスタブAO−412S(商品名、旭電化製)
【0073】
(15)ベンゾフェノン系紫外線吸収剤
アデカスタブ1413(商品名、旭電化製)
(16)ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤
アデカスタブLA−36(商品名、旭電化製)
(17)ヒンダートアミン光安定剤
アデカスタブLA52(商品名、旭電化製)
(18)TMPTM(トリメチロールプロパントリメタクリレート)
オグモントT−200(商品名、新中村化学社製)
(19)ステアリン酸カルシウム
(日本油脂製)
【0074】
得られた各絶縁電線について、以下の試験を行った。結果を表1〜3に示した。
1)伸び、抗張力
各絶縁電線の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定した。伸びおよび抗張力の要求特性はそれぞれ、各々100%以上、10MPa以上である。
2)耐熱性
160℃30日間加熱処理を行った後、各絶縁電線の被覆層の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定した。伸び残率65%以上、抗張力残率70%以上が合格である。
【0075】
3)耐候性
耐候性はSUV−1(大日本プラスチック製)スーパーUVテスターを用い、300hrの照射を行った。伸び残率45%以上、抗張力残率50%以上が合格である。
また自己径に巻き付けたサンプルを作成し、照射後に亀裂が無いかを測定した。クラックが生じていないものを○、生じたものを×とした。
4)ブリード
30℃下に10日間放置し、ブリードを確認した。ブリードが無いものや問題が無いものを○、ブリードが激しく使用ができないものを×とした。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表1〜3に示した結果から明らかなように、比較例1及び2では、金属水和物がシランカップリング処理されていないために伸びの低下やクラックの発生が認められた。比較例3では、チオエーテル系抗酸化剤の量が少なすぎるため、伸びが低下した。比較例4では、ヒンダート系抗酸化剤の量が少なすぎるため、伸びが低下した。比較例5では、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の量及びヒンダートアミン系光安定剤の量が少なすぎるため、光照射により伸びが低下した。比較例6では、チオエーテル系酸化防止剤の量が多すぎるため、ブリードが生じ耐侯性も低下した。
これに対し、本発明の実施例1〜14では、すべての試験評価において良好であり、目的の要求性能を有する絶縁樹脂組成物および絶縁電線が得られた。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、絶縁電線に要求される高度の難燃性と優れた耐熱性、耐侯性、機械特性を有し、任意の色に着色でき、電気絶縁性などの電気特性を保持し、耐油性を維持した絶縁樹脂組成物を提供することができる。
また、この組成物を被覆材とすることにより、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題のない優れた耐熱性、耐侯性を有する絶縁電線を提供することができる。
Claims (3)
- ポリプロピレン樹脂、エチレン−α−オレフィン樹脂、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体及びエチレン−メタクリレート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対して、アミノ基、ビニル基およびエポキシ基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するシランカップリング剤で表面処理された金属水和物60〜300質量部を含有し、さらに、ヒンダートフェノール系抗酸化剤1〜8質量部、下記式(1)の構造で示されるチオエーテル系抗酸化剤0.6〜8質量部、ベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.4〜8質量部、及びヒンダートアミン系光安定剤0.8〜5質量部を含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物。
- 請求項1記載の絶縁樹脂組成物を導体及び/又は光ファイバの周りに被覆したことを特徴とする絶縁電線。
- 請求項1記載の絶縁樹脂組成物を導体及び/又は光ファイバの周りに被覆しており、該被覆部樹脂組成物が架橋されていることを特徴とする絶縁電線。
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