JP4806869B2 - 高清浄鋼の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、清浄性に優れた鋼の製造方法に関し、詳しくは、取鍋等の溶鋼保持容器に収容された溶鋼の清浄性を高める方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼材料の高機能化及び高品質化への要求の高まりから、鋼中の不純物元素を極限まで低減することが望まれており、溶鋼段階での鋼の高純度化及び高清浄度化のための技術が必要とされている。鋼中の不純物元素の1つである酸素は、鋼中に酸化物として存在した場合、鋼板における欠陥の原因となる。
【0003】
鋼の精錬段階において、鋼中に酸化物を生成させる要因の1つとして、取鍋等の溶鋼保持容器に収容された溶鋼と溶鋼上に浮遊するスラグとの反応、即ち、スラグ中のFeOやMnO等の低級酸化物による溶鋼の再酸化が挙げられており、こうした背景からスラグによる溶鋼の再酸化を防止する対策が実施されている。
【0004】
従来、この対策は溶鋼保持容器内のスラグにAl等の脱酸剤(還元剤とも云う)を添加し、スラグを還元する方法が採られている。例えば、特開平2−30711号公報には、精錬炉から取鍋への出鋼直後、未脱酸状態の溶鋼上で浮遊するスラグ上に脱酸剤を添加してスラグ中のFeOを還元する方法が開示され、特開平2−93017号公報には、RH真空脱ガス装置における真空脱炭処理後に取鍋内スラグにAlを添加してスラグ中のFeOを還元する方法が開示され、又、特開平7−34117号公報には、出鋼中若しくは出鋼直後に取鍋内スラグにスラグ還元に必要な量の一部の脱酸剤を添加し、真空脱ガス精錬中に残りの脱酸剤を取鍋内スラグに添加する方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の3つの公報を始めとして従来のスラグ改質方法では、スラグ還元用の脱酸剤を添加する際に、スラグ中の低級酸化物濃度が不明であるため、添加する脱酸剤が不足する場合には、スラグの還元が十分に行われず、一方、添加する脱酸剤が過剰の場合には、スラグの還元用に添加した脱酸剤が溶鋼中に歩留まり、溶鋼中のAl濃度の調整が困難になるという問題点がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、スラグ改質剤としての過剰のAl添加を防止しつつ、取鍋等の溶鋼保持容器に収容された溶鋼のスラグによる再酸化を防止して、酸化物系介在物が極めて少ない高清浄鋼を安定して製造する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。以下に研究結果を説明する。
【0008】
スラグを還元するために必要なAl量は、スラグ中のFeO濃度に依存しており、従って、Alを過剰に添加すればスラグ還元用に添加したAlが溶鋼中に歩留まり、溶鋼中のAl濃度の調整が困難になり、一方、添加するAlが不足する場合にはスラグの還元が十分に行われない。そこで、溶鋼上に存在するスラグのFeO濃度を測定し、測定したFeO濃度に応じて添加するAl量を決めれば、過不足なくAlを添加することができるとの知見を得た。
【0009】
この場合、Al添加後にスラグを撹拌してスラグとAlとを強制的に混合した場合と、強制的に混合しない場合とで、スラグ還元に必要なAl量に差が生じることも判明した。即ち、強制的に混合した場合には、必要最小限のAl量でスラグの還元が行われるという知見も得た。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づきなされたもので、第1の発明による高清浄鋼の製造方法は、精錬炉で精錬した溶鋼を溶鋼保持容器に出鋼した後、この溶鋼上に存在するスラグへAlを含有するスラグ改質剤を添加してスラグを改質する際に、スラグ改質剤添加前の前記溶鋼保持容器内のスラグのFeO濃度を分析するとともに、スラグ改質剤添加前の前記溶鋼保持容器内のスラグ量を測定し、前記分析により得たスラグ中FeO濃度と、前記測定により得たスラグ量と、に応じて、スラグ改質剤中のAl添加量が下記の(1)式を満足するようにスラグ改質剤をスラグ上へ添加し、スラグ改質剤の添加後、溶鋼及びスラグを不活性ガスにより撹拌することなくスラグの酸化度を低減させるか、或いは、スラグ改質剤中のAl添加量が下記の(2)式を満足するようにスラグ改質剤をスラグ上へ添加し、スラグ改質剤の添加後、スラグ又は溶鋼を不活性ガスにより撹拌してスラグの酸化度を低減させることを特徴とするものである。但し、(1)式及び(2)式において、(%FeO)はスラグ中のFeO濃度(質量%)、Ws はスラグ量(kg/ton-steel)、QAlはスラグ改質剤中のAl添加量(kg/ton-steel)を表すものである。
【0011】
【数1】
Figure 0004806869
【0013】
【数2】
Figure 0004806869
【0014】
の発明による高清浄鋼の製造方法は、第1の発明において、スラグ中のFeO濃度を、固体電解質を用いた酸素センサーにより測定することを特徴とするものである。
【0015】
の発明による高清浄鋼の製造方法は、第1の発明又は第2の発明において、その最大径が溶鋼上に存在するスラグの厚みより小さいAlを含有するスラグ改質剤を用いることを特徴とするものである。
【0016】
スラグ中の鉄酸化物をAlにより還元する反応は、下記の(3)式に例示するように、鉄酸化物の形態に関わらず、3個のFe原子と2個のAl原子とが反応して還元反応が行われる。
【0017】
【数3】
Figure 0004806869
【0018】
従って、スラグ中の全ての鉄酸化物をAlにより還元する場合には、スラグ中のFeO濃度(質量%)と、溶鋼上に存在するスラグ量Ws (kg/ton-steel)と、スラグ改質剤中のAl添加量QAl(kg/ton-steel)即ちスラグ還元用のAl添加量との間には、Fe及びAlの原子量から化学量論的に下記の(4)式が成立する。(4)式の左辺はスラグ中の酸素量と添加するAl量との比を表している。
【0019】
【数4】
Figure 0004806869
【0020】
それ故、(4)式の左辺に示す[(%FeO)Ws /QAl]の比(以下「酸素/Al比」と記す)が397を越える場合には、添加するAlが不足する状態を表し、一方、酸素/Al比が397よりも小さくなる場合には、添加するAlが過剰である状態を表すことになる。
【0021】
そこで、溶鋼上に存在するスラグのFeO濃度及びスラグの質量を測定すると共に、スラグ還元用のAl添加量を種々変更して酸素/Al比を変更し、薄鋼板における酸化物系介在物による欠陥発生率に及ぼす酸素/Al比の影響を調査した。この場合、Al添加後にスラグに浸漬させたランスからArを吹き込み、スラグを強制的に撹拌した場合と、強制的に撹拌しない場合の2水準について試験した。
【0022】
その結果、以下のことが判明した。スラグの強制撹拌の有無に拘わらず、酸素/Al比が大きくなるほど薄鋼板における欠陥発生率は増加するが、スラグを強制的に撹拌しない場合には、酸素/Al比が300以下であれば、スラグによる溶鋼の再酸化は清浄性への影響がほとんどないレベルまで低減し、欠陥発生率は目標とする範囲に収まることが分かった。このようにAl添加量が(4)式に示した化学量論量以上に必要な理由は、Al添加後にスラグの攪拌を実施しないので、空気との反応によりAlが酸化し、効率が落ちるためである。一方、酸素/Al比が100未満では、溶鋼の清浄性の改善効果は飽和して変わらずに、過剰に添加されるAlが無駄になるために製造コストの上昇を招くと共に、溶鋼のAl濃度が増加して成分規格を越える場合が発生する。
【0023】
従って、スラグを強制的に撹拌しない場合を前提とした第1の発明では、酸素/Al比が100〜300の範囲となるように、即ち、上記の(1)式を満足する範囲でスラグ還元用のAl添加量を設定することにした。
【0024】
又、スラグを強制的に撹拌した場合には、酸素/Al比が400以下であれば、スラグによる溶鋼の再酸化は清浄性への影響がほとんどないレベルまで低減し、欠陥発生率は目標とする範囲に収まることが分かった。一方、酸素/Al比が300未満では、溶鋼の清浄性の改善効果は飽和して変わらずに、過剰に添加されるAlが無駄になるために製造コストの上昇を招くと共に、溶鋼のAl濃度が増加して成分規格を越える場合が発生する。
【0025】
従って、スラグを強制的に撹拌する場合を前提とした第2の発明では、酸素/Al比が300〜400の範囲となるように、即ち、上記の(2)式を満足する範囲でスラグ還元用のAl添加量を設定することにした。
【0026】
この場合、スラグのFeO濃度の測定は、オンラインでの迅速測定が可能であるので、固体電解質を用いた酸素センサーにより行うことが好ましい。又、様々な大きさのAlを含有するスラグ改質剤を取鍋内スラグへ添加し、スラグ組成及びメタル組成を調査した結果、Alの最大径が取鍋内溶鋼上のスラグ厚みより大きいスラグ改質剤をスラグ上へ添加した場合には、Alがスラグを突き抜けて溶鋼へ到達し、溶鋼組成に影響を及ぼす場合も生じることが判明した。従って、これを防止するためには、その最大径が溶鋼保持容器内溶鋼上のスラグ厚みより小さいAlを含有する改質剤を使用することが好ましい。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。先ず、第1の実施の形態について、図1に基づき説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態を示す図であって、溶鋼保持容器内にスラグ改質剤を投入する様子を示す概略図である。
【0028】
転炉や電気炉等の一次精錬炉にて脱炭精錬を行い、得られた溶鋼1を取鍋等の溶鋼保持容器3に出鋼する。出鋼の際に脱炭精錬により発生した一次精錬炉内のスラグ2もその一部が溶鋼1と共に溶鋼保持容器3内に注入される。出鋼後、溶鋼保持容器3内の溶鋼1を覆っているスラグ2上にAlを含有するスラグ改質剤4を添加する。この場合、出鋼時に溶鋼1をAl等で脱酸しても良く、又、未脱酸のままでも良い。即ち、Alを含有するスラグ改質剤4を添加する際に溶鋼1は脱酸されていても又は未脱酸のままでもどちらでも良い。又、スラグ改質剤4を添加する時期は、連続鋳造工程の前であれば転炉等の一次精錬炉からの出鋼直後でも、RH真空脱ガス装置や取鍋精錬炉等の二次精錬炉での処理中若しくは処理後でも構わない。又、スラグ改質剤4をスラグ2上に分散して添加できる装置であれば、特に専用の添加設備を用いる必要はない。
【0029】
Alを含有するスラグ改質剤4の添加直前にスラグ2中のFeO濃度を測定する。FeO濃度の測定はスラグ2を採取して化学分析により求めることも可能ではあるが、固体電解質を用いた酸素センサー5を用いてFeO濃度を測定することが好ましい。この場合、酸素センサー5によりスラグ2の酸素ポテンシャルを測定し、酸素ポテンシャルとFeO濃度との検量線を予め作成しておくことで、瞬時にスラグ2のFeO濃度を測定することができる。
【0030】
又、溶鋼保持容器3内のスラグ2の質量を測定する。スラグ2の質量は、スラグ2の厚みの測定又は溶鋼1を覆うスラグ2の面積率の目視測定等により測定することができる。溶鋼保持容器3内に収容された溶鋼量から、溶鋼トン当たりのスラグ量(Ws )を求める。スラグ2の質量測定は、スラグ改質剤4の添加前に予め行えば良い。又、溶鋼量は転炉等の一次精錬炉から溶鋼保持容器3への出鋼時に溶鋼保持容器3を秤量することで把握することができる。
【0031】
このようにして測定したスラグ2のFeO濃度(%FeO)とスラグ量(Ws )とを前述の(1)式に代入し、スラグ2の還元に必要なAl添加量(QAl)の範囲を設定する。そして、スラグ改質剤4のAl含有量に応じて、Al添加量が(1)式の範囲内の任意の量になるように設定し、投入装置6を介してスラグ2上へ添加する。
【0032】
Alを含有するスラグ改質剤4としては、金属Al、Al灰、金属Al又はAl灰とCaOやAl23 等のフラックスとの混合物等を用いることができる。スラグ改質剤4中のAlの大きさは、溶鋼成分へ影響を及ぼさないために最大径がスラグ厚みより小さいことが望ましく、又、小さすぎると飛散して歩留まりが低下するので、歩留まり向上の観点から、添加時に飛散しない程度であることが好ましい。
【0033】
その後、次工程の二次精錬設備や連続鋳造設備や普通造塊設備等の鋳造設備に溶鋼保持容器3を搬出する。
【0034】
このようにしてスラグ2を処理することで、溶鋼1にAlが添加されることなく、スラグ2のFeO濃度を迅速に且つ安定して低くすることができ、その結果、溶鋼1のスラグ2による再酸化が抑制され、酸化物系介在物が極めて少ない高清浄鋼を安定して製造することが可能となる。
【0035】
次に、第2の実施の形態について図2に基づき説明する。図2は、本発明の第2の実施の形態を示す図であって、溶鋼保持容器内にスラグ改質剤を投入する様子を示す概略図である。第2の実施の形態は第1の実施の形態と基本的に同一であり、従って重複する点が多いが、以下に詳細に説明する。
【0036】
転炉や電気炉等の一次精錬炉にて脱炭精錬を行い、得られた溶鋼1を取鍋等の溶鋼保持容器3に出鋼する。出鋼の際に脱炭精錬により発生した一次精錬炉内のスラグ2もその一部が溶鋼1と共に溶鋼保持容器3内に注入される。出鋼後、溶鋼保持容器3内の溶鋼1を覆っているスラグ2上にAlを含有するスラグ改質剤4を添加する。この場合、出鋼時に溶鋼1をAl等で脱酸しても良く、又、未脱酸のままでも良い。即ち、Alを含有するスラグ改質剤4を添加する際に溶鋼1は脱酸されていても又は未脱酸のままでもどちらでも良い。又、スラグ改質剤4を添加する時期は、連続鋳造工程の前であれば転炉等の一次精錬炉からの出鋼直後でも、RH真空脱ガス装置や取鍋精錬炉等の二次精錬炉での処理中若しくは処理後でも構わない。又、スラグ改質剤4をスラグ2上に分散して添加できる装置であれば、特に専用の添加設備を用いる必要はない。
【0037】
Alを含有するスラグ改質剤4の添加直前にスラグ2中のFeO濃度を測定する。FeO濃度の測定はスラグ2を採取して化学分析により求めることも可能ではあるが、固体電解質を用いた酸素センサー5を用いてFeO濃度を測定することが好ましい。この場合、酸素センサー5によりスラグ2の酸素ポテンシャルを測定し、酸素ポテンシャルとFeO濃度との検量線を予め作成しておくことで、瞬時にスラグ2のFeO濃度を測定することができる。
【0038】
又、溶鋼保持容器3内のスラグ2の質量を測定する。スラグ2の質量は、スラグ2の厚みの測定又は溶鋼1を覆うスラグ2の面積率の目視測定等により測定することができる。溶鋼保持容器3内に収容された溶鋼量から、溶鋼トン当たりのスラグ量(Ws )を求める。スラグ2の質量測定は、スラグ改質剤4の添加前に予め行えば良い。又、溶鋼量は転炉等の一次精錬炉から溶鋼保持容器3への出鋼時に溶鋼保持容器3を秤量することで把握することができる。
【0039】
このようにして測定したスラグ2のFeO濃度(%FeO)とスラグ量(Ws )とを前述の(2)式に代入し、スラグ2の還元に必要なAl添加量(QAl)の範囲を設定する。そして、スラグ改質剤4のAl含有量に応じて、Al添加量が(2)式の範囲内の任意の量になるように設定し、投入装置6を介してスラグ2上へ添加する。
【0040】
Alを含有するスラグ改質剤4としては、金属Al、Al灰、金属Al又はAl灰とCaOやAl23 等のフラックスとの混合物等を用いることができる。スラグ改質剤4中のAlの大きさは、溶鋼成分へ影響を及ぼさないために最大径がスラグ厚みより小さいことが望ましく、又、小さすぎると飛散して歩留まりが低下するので、歩留まり向上の観点から、添加時に飛散しない程度であることが好ましい。
【0041】
スラグ改質剤4の添加に前後して、スラグ2或いは溶鋼1に浸漬させたバブリングランス7からAr等の不活性ガスを吹き込み、ガス気泡8によりスラグ2を強制的に攪拌する。この攪拌により、添加したAlとスラグ2中の鉄酸化物との反応が迅速に起こり、スラグ2中のFeO濃度は3%以下まで低下し、それ以降のスラグ2による溶鋼1の再酸化を抑制することができる。
【0042】
その後、次工程の二次精錬設備や連続鋳造設備や普通造塊設備等の鋳造設備に溶鋼保持容器3を搬出する。
【0043】
このようにしてスラグ2を処理することで、溶鋼1にAlが添加されることなく、スラグ2のFeO濃度を迅速に且つ安定して低くすることができ、その結果、溶鋼1のスラグ2による再酸化が抑制され、酸化物系介在物が極めて少ない高清浄鋼を安定して製造することが可能となる。
【0044】
【実施例】
[実施例1]
炭素濃度が0.02〜0.06質量%である約250トンの溶鋼を転炉から取鍋に未脱酸状態のまま出鋼し、出鋼後、取鍋内のスラグのFeO濃度を酸素センサーにより測定し、スラグ改質剤として金属Alを用いて、酸素/Al比が50〜400の範囲となるように最大径が1〜10cm程度の金属Alの添加量を調整してスラグ上に添加し、溶鋼の清浄性に及ぼす酸素/Al比の影響を調査した。取鍋内のスラグ量(Ws )はスラグ厚みと取鍋の内径から算出した。取鍋内スラグの組成はCaO−SiO2 −Al23 −MgO系であった。この試験では、Al添加後にスラグ及び溶鋼の強制的な撹拌は行わなかった。
【0045】
その後、取鍋をRH真空脱ガス装置に搬送して必要な精錬を施した後、連続鋳造機にてスラブ鋳片に鋳造し、熱間圧延及び冷間圧延を経て、薄鋼板製品とし、薄鋼板製品における酸化物系介在物による表面欠陥の発生率を調査した。溶鋼の清浄性は、この表面欠陥の発生率を指数化した製品欠陥指数で評価した。製品欠陥指数が低いほど、清浄性が高いことを表しており、本発明では製品欠陥指数が0.5以下を清浄性に優れると評価した。
【0046】
表1に各試験における試験条件及び試験結果を示し、又、図3に酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す。
【0047】
【表1】
Figure 0004806869
【0048】
表1及び図3に示すように、酸素/Al比が300を越えると、製品欠陥指数が0.5を越えて清浄性が劣化することが分かった。又、酸素/Al比が100未満になると、製品欠陥指数は低く、清浄性の点からは全く問題なかったが、過剰にAlが添加されているため、添加後のスラグを採取してみると、未反応のAlが見られ、経済的に問題があることが分かった。
【0049】
又、本実施例ではスラグの厚みは5.1cm以上であり、最大径がそれ以上のAlを添加した場合(試験No.12,13)には、Alが一部溶鋼へ達したため、酸素/Al比がほぼ同一である試験No.3〜5に比較してスラグの還元がやや不足したが、製品欠陥指数は0.5以下を確保できた。このように、酸素/Al比が100〜300の範囲では清浄性の高い薄鋼板製品を得ることができ、特に、Alの最大径が5cm以下の場合では清浄性が高く、又、スラグ中に未反応のAlも残留していなかった。
【0050】
従来、スラグの酸素濃度を測定しないでスラグ改質を実施した場合にも、酸素/Al比が偶然100〜300の範囲だったものは製品欠陥指数が低くなったが、その割合は70%程度であった。尚、表1の備考欄には、本発明の範囲内で製造した試験は実施例と表示し、金属Alの添加量が本発明の範囲を外れた試験は比較例と表示した。
【0051】
[実施例2]
炭素濃度が0.02〜0.06質量%である約250トンの溶鋼を転炉から取鍋に未脱酸状態のまま出鋼し、RH真空脱ガス装置に搬送して精錬した。RH真空脱ガス装置では、先ず真空脱炭処理し、次いで、溶鋼中の溶解酸素量を酸素センサーで測定して、溶解酸素を脱酸するために必要な金属Al量と製品成分規格(0.02〜0.04質量%)を満足するために必要な金属Al量との合計量を添加した。
【0052】
その後、環流用Ar流量を3000Nl/min、真空槽内の圧力を66.7〜266.6Pa(0.5〜2torr)の状態に維持したまま、スラグ改質剤として直径が1cm程度の金属Alを取鍋内のスラグ上に添加した。その際、取鍋内のスラグのFeO濃度を酸素センサーにより測定し、酸素/Al比が50〜350の範囲となるように金属Al量を調整して添加し、溶鋼の清浄性に及ぼす酸素/Al比の影響を調査した。取鍋内のスラグ量(Ws )はスラグ厚みと取鍋の内径から算出した。取鍋内スラグの組成はCaO−SiO2 −Al23 −MgO系であった。スラグ改質剤添加後、必要に応じて溶鋼を環流させてRH真空脱ガス装置による精錬を終了した。この環流中、溶鋼の成分調整を行った。
【0053】
その後、連続鋳造機にてスラブ鋳片に鋳造し、熱間圧延及び冷間圧延を経て、薄鋼板製品とし、薄鋼板製品における酸化物系介在物による表面欠陥の発生率を調査した。
【0054】
表2に各試験における試験条件及び試験結果を示し、又、図4に酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す。
【0055】
【表2】
Figure 0004806869
【0056】
表2及び図4に示すように、酸素/Al比が300を越えると、製品欠陥指数が0.5を越えて清浄性が劣化することが分かった。又、酸素/Al比が100未満になると、製品欠陥指数は低く、清浄性の点からは全く問題なかったが、過剰にAlが添加されているため、添加後のスラグを採取してみると、未反応のAlが見られ、経済的に問題があることが分かった。一方、酸素/Al比が100〜300の範囲では清浄性が高く、又、スラグ中に未反応のAlも残留していなかった。
【0057】
従来、RH真空脱ガス装置においてスラグの酸素濃度を測定しないで金属Alを添加してスラグ改質を実施した場合にも、酸素/Al比が偶然100〜300の範囲だったものは製品欠陥指数が低くなったが、その割合は75%程度であった。尚、表2の備考欄には、本発明の範囲内で製造した試験は実施例と表示し、金属Alの添加量が本発明の範囲を外れた試験は比較例と表示した。
【0058】
[実施例3]
炭素濃度が0.02〜0.06質量%である約250トンの溶鋼を転炉から取鍋に未脱酸状態のまま出鋼し、出鋼後、取鍋内のスラグのFeO濃度を酸素センサーにより測定し、取鍋の周方向4箇所に設置したランスを取鍋内の溶鋼に浸漬させ、これらのランスからArを吹き込んでスラグを攪拌しつつ、スラグ改質剤として金属Alを用いて、酸素/Al比が250〜450の範囲となるように最大径が1〜10cm程度の金属Alの添加量を調整してスラグ上に添加し、溶鋼の清浄性に及ぼす酸素/Al比の影響を調査した。取鍋内のスラグ量(Ws )はスラグ厚みと取鍋の内径から算出した。取鍋内スラグの組成はCaO−SiO2 −Al23 −MgO系であった。
【0059】
その後、取鍋をRH真空脱ガス装置に搬送して必要な精錬を施した後、連続鋳造機にてスラブ鋳片に鋳造し、熱間圧延及び冷間圧延を経て、薄鋼板製品とし、薄鋼板製品における酸化物系介在物による表面欠陥の発生率を調査した。
【0060】
表3に各試験における試験条件及び試験結果を示し、又、図5に酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す。
【0061】
【表3】
Figure 0004806869
【0062】
表3及び図5に示すように、酸素/Al比が400を越えると、製品欠陥指数が0.5を越えて清浄性が劣化することが分かった。又、酸素/Al比が300未満でも、製品欠陥指数は低く、清浄性の点からは全く問題なかったが、溶鋼のAl濃度が増加するので成分調整に配慮する必要があり、過剰にAlが添加されているため、経済的にも問題があることが分かった。
【0063】
又、本実施例ではスラグの厚みは5.1cm以上であり、最大径がそれ以上のAlを添加した場合(試験No.11,12)には、Alが一部溶鋼へ達したため、酸素/Al比がほぼ同一である試験No.3〜5に比較してスラグの還元がやや不足したが、製品欠陥指数は0.5以下を確保できた。このように、酸素/Al比が300〜400の範囲では清浄性の高い薄鋼板製品を得ることができ、特に、Alの最大径が5cm以下の場合では清浄性が高く、又、スラグ中に未反応のAlも残留していなかった。
【0064】
従来、スラグの酸素濃度を測定しないでスラグ改質を実施した場合にも、酸素/Al比が偶然300〜400の範囲だったものは製品欠陥指数が低くなったが、その割合は70%程度であった。尚、表3の備考欄には、本発明の範囲内で製造した試験は実施例と表示し、金属Alの添加量が本発明の範囲を外れた試験は比較例と表示した。
【0065】
[実施例4]
炭素濃度が0.02〜0.06質量%である約250トンの溶鋼を転炉から取鍋に未脱酸状態のまま出鋼し、RH真空脱ガス装置に搬送して精錬した。RH真空脱ガス装置では、先ず真空脱炭処理し、次いで、溶鋼中の溶解酸素量を酸素センサーで測定して、溶解酸素を脱酸するために必要な金属Al量と製品成分規格(0.02〜0.04質量%)を満足するために必要な金属Al量との合計量を添加した。
【0066】
その後、環流用Ar流量を3000Nl/min、真空槽内の圧力を66.7〜266.6Pa(0.5〜2torr)の状態に維持したまま、取鍋の周方向4箇所に設置したランスを取鍋内の溶鋼に浸漬させ、これらのランスからArを吹き込んでスラグを攪拌しつつ、スラグ改質剤として直径が1cm程度の金属Alを取鍋内のスラグ上に添加した。その際、取鍋内のスラグのFeO濃度を酸素センサーにより測定し、酸素/Al比が250〜450の範囲となるように金属Al量を調整して添加し、溶鋼の清浄性に及ぼす酸素/Al比の影響を調査した。取鍋内のスラグ量(Ws )はスラグ厚みと取鍋の内径から算出した。取鍋内スラグの組成はCaO−SiO2 −Al23 −MgO系であった。スラグ改質剤添加後、必要に応じて溶鋼を環流させてRH真空脱ガス装置による精錬を終了した。この環流中、溶鋼の成分調整を行った。
【0067】
その後、連続鋳造機にてスラブ鋳片に鋳造し、熱間圧延及び冷間圧延を経て、薄鋼板製品とし、薄鋼板製品における酸化物系介在物による表面欠陥の発生率を調査した。
【0068】
表4に各試験における試験条件及び試験結果を示し、又、図6に酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す。
【0069】
【表4】
Figure 0004806869
【0070】
表4及び図6に示すように、酸素/Al比が400を越えると、製品欠陥指数が0.5を越えて清浄性が劣化することが分かった。又、酸素/Al比が300未満になると、製品欠陥指数は低く、清浄性の点からは全く問題なかったが、過剰にAlが添加されているため、経済的に問題があることが分かった。酸素/Al比が300〜400の範囲では清浄性が高く、又、スラグ中に未反応のAlも残留していなかった。
【0071】
従来、RH真空脱ガス装置においてスラグの酸素濃度を測定しないで金属Alを添加してスラグ改質を実施した場合にも、酸素/Al比が偶然300〜400の範囲だったものは製品欠陥指数が低くなったが、その割合は75%程度であった。尚、表4の備考欄には、本発明の範囲内で製造した試験は実施例と表示し、金属Alの添加量が本発明の範囲を外れた試験は比較例と表示した。
【0072】
【発明の効果】
本発明によれば、スラグ還元用Alをスラグ中のFeO濃度に応じて添加するので、過剰なAlを添加することなく、スラグのFeO濃度を安定して低くすることができ、その結果、溶鋼のスラグによる再酸化が抑制され、酸化物系介在物が極めて少ない高清浄鋼を安定して製造することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるスラグ改質の実施の形態の例を示す模式図である。
【図2】本発明によるスラグ改質の実施の形態の例を示す模式図である。
【図3】実施例1における酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す図である。
【図4】実施例2における酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す図である。
【図5】実施例3における酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す図である。
【図6】実施例4における酸素/Al比と製品欠陥指数との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 溶鋼
2 スラグ
3 溶鋼保持容器
4 スラグ改質剤
5 酸素センサー
6 投入装置
7 バブリングランス
8 ガス気泡

Claims (3)

  1. 精錬炉で精錬した溶鋼を溶鋼保持容器に出鋼した後、この溶鋼上に存在するスラグへAlを含有するスラグ改質剤を添加してスラグを改質する際に、スラグ改質剤添加前の前記溶鋼保持容器内のスラグのFeO濃度を分析するとともに、スラグ改質剤添加前の前記溶鋼保持容器内のスラグ量を測定し、前記分析により得たスラグ中FeO濃度と、前記測定により得たスラグ量と、に応じて、スラグ改質剤中のAl添加量が下記の(1)式を満足するようにスラグ改質剤をスラグ上へ添加し、スラグ改質剤の添加後、溶鋼及びスラグを不活性ガスにより撹拌することなくスラグの酸化度を低減させるか、或いは、スラグ改質剤中のAl添加量が下記の(2)式を満足するようにスラグ改質剤をスラグ上へ添加し、スラグ改質剤の添加後、スラグ又は溶鋼を不活性ガスにより撹拌してスラグの酸化度を低減させることを特徴とする高清浄鋼の製造方法。
    (%FeO)Ws/300≦QAl≦(%FeO)Ws/100…(1)
    (%FeO)Ws/400≦Q Al ≦(%FeO)Ws/300…(2)
    但し、(1)式及び(2)式において各符号は以下を表すものである。
    (%FeO):スラグ中のFeO濃度(質量%)
    Ws :スラグ量(kg/ton-steel)
    Al:スラグ改質剤中のAl添加量(kg/ton-steel)
  2. スラグ中のFeO濃度を、固体電解質を用いた酸素センサーにより測定することを特徴とする請求項1に記載の高清浄鋼の製造方法。
  3. その最大径が溶鋼上に存在するスラグの厚みより小さいAlを含有するスラグ改質剤を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高清浄鋼の製造方法。
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